IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイホル・コーポレーションの特許一覧

特許7275320ヒアルロナンコンジュゲートおよびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】ヒアルロナンコンジュゲートおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/61 20170101AFI20230510BHJP
   A61K 31/565 20060101ALI20230510BHJP
   A61K 31/566 20060101ALI20230510BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20230510BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
A61K47/61
A61K31/565
A61K31/566
A61K47/54
A61P21/02
A61P25/00
A61P25/04
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021568410
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-13
(86)【国際出願番号】 US2020035780
(87)【国際公開番号】W WO2020247407
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】62/856,714
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521497774
【氏名又は名称】アイホル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】AIHOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】6481 ORANGETHORPE AVENUE STE 2, BUENA PARK, CALIFORNIA 90620, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】リ,スー‐ユアン
(72)【発明者】
【氏名】ライ,ピン‐シャン
(72)【発明者】
【氏名】リン,チー‐アン
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0279108(US,A1)
【文献】特表2016-510753(JP,A)
【文献】特表2007-535607(JP,A)
【文献】Self-assembled hyaluronic acid-testosterone nanocarriers for delivery of anticancer drugs,European Polymer Journal,2018年,99,pp.384-393,https://doi.org/10.1016/j.eurpolymj.2017.12.043
【文献】Diagram of the pathways of human steroidogenesis,WikiJournal of Medicine,2014年,1(1),doi: 10.15347/wjm/2014.005
【文献】Design, synthesis, and biological evaluation of novel estradiol-bisphosphonate conjugates as bone-specific estrogens,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2010年,18,pp.1143-1148,doi:10.1016/j.bmc.2009.12.041
【文献】A New Organotypic Culture Method to Study the Actions of Steroid Hormones on the Nervous System,Journal of Neuroscience Research,43,1996年,pp.719-725,doi: 10.1002/(SICI)1097-4547(19960315)43:6<719::AID-JNR8>3.0.CO;2-H.
【文献】CD44-mediated uptake and degradation of hyaluronan,Matrix Biology,Volume 21, Issue 1,2002年,pp.15-23,https://doi.org/10.1016/S0945-053X(01)00186-X
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00-31/80
A61P 21/00-21/06
A61P 25/00-25/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸(HA)またはその塩;
エストロン、エストラジオール、および、エストリオールからなる群から選択される性ホルモン;および
前記性ホルモンを、前記HAまたはその塩の二糖単位の1つに共有結合させるリンカー、を含有し、ここで、前記リンカーが、β-アラニン(β-ALA)、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)-スクシナート、または、コハク酸である、神経変性疾患の治療または予防において使用するためのヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項2】
前記ヒアルロナンコンジュゲートが、0.1%~60%の性ホルモンでの置換度を有する、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項3】
前記HAまたはその塩が、約5~500キロダルトン(kDa)の重量平均分子量(Mw)を有する、請求項1に記載のヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項4】
前記リンカーが、前記性ホルモンのヒドロキシル基(-OH)に共有結合される、請求項に記載のヒアルロナンコンジュゲート。
【請求項5】
神経変性疾患の治療または予防において使用するための医薬組成物であって、有効量の、請求項1~のいずれか一項に記載のヒアルロナンコンジュゲート、および薬学的に許容される賦形剤を含有する、医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物が、経口、経鼻、頭蓋内、脊髄内、包膜内、髄内、脳内、脳室内、静脈内、動脈内、心臓内、皮内、皮下、経皮、腹腔内、または筋肉内投与によって対象に投与される、神経変性疾患の治療または予防において使用するための請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、ハンチントン病(HD)、前頭側頭型認知症、てんかん、神経因性疼痛、または運動失調である、神経変性疾患の治療または予防において使用するための請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、ヒアルロン酸(HA)-性ホルモンコンジュゲート、および神経変性疾患の治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系(CNS)の神経変性疾患は、ニューロンの死を含む、ニューロンの構造および機能の進行性の喪失を特徴とし、主に認知症または困難を伴う動作(安静時の振戦、硬直、腰痛など)によって症状が現れる。神経変性疾患の中でも、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、およびハンチントン病(HD)は、神経科のクリニックで非常に一般的である。神経変性疾患は、中高年層に多い疾患であり、患者やその家族にとって非常に深刻なものである。このような疾患は、患者の生活の質に悪影響を及ぼすと同時に、医療システムにとっても大きな負担となる。しかし、高齢化社会の到来に伴い、神経変性疾患の罹患率は増加の一途をたどっている。
【0003】
現在のところ、神経変性疾患の治療法は、症状を緩和させるため、または疾患の進行の遅らせるだけのものである。例えば、ドネペジル、ガランタミンなどの薬物は、神経伝導活動を改善するために、シナプス間隙に放出されるアセチルコリンの異化作用を遅らせることによって、認知、機能、行動などの症状を緩和するために使用される。また、レボドパ、エルドパ(elldopa)、アマンタジンなどの薬物は、病気の進行を遅らせ、患者の生存率を高めるために使用される。しかし、これらの薬物にはそれぞれ限界があり、中には重篤な副作用を伴うものもあるため、患者の生活の質は依然として思わしくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の観点から、関連技術において、神経変性疾患のための効果的な治療の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(概要)
以下では、読み手に基本的な理解を提供するために、本開示の簡略化した概要が示される。この概要は、本開示の広範な概要ではなく、本発明の肝要な/重要な要素を特定するものでも、本発明の範囲を明確にするものでもない。その唯一の目的は、後述するより詳細な説明の前段階として、本明細書に開示されているいくつかの概念を簡略化して提示することである。
【0006】
一つの態様では、本開示は、ヒアルロナンコンジュゲート(hyaluronan conjugate)に関する。
【0007】
本開示の様々な実施形態によれば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、ヒアルロン酸(HA)またはその誘導体もしくはその塩と、性ホルモンと、前記性ホルモンを前記HAまたはHA誘導体もしくはHA塩の二糖単位の1つに共有結合させるリンカーとを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、前記性ホルモンは、エストロン、エストラジオール、エストリオール、テストステロン、または11-デオキシコルチコステロンであり得る。
【0009】
本開示の任意の実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートのリンカーは、1つ以上のアミノ酸、脂質、ジヒドラジド-C~C20ジカルボン酸、およびC~C20ジカルボン酸のうちのいずれかである。
【0010】
1つの実施形態では、前記リンカーは、β-アラニン(β-ALA)などのアミノ酸である。別の実施形態では、前記リンカーは、ジヒドラジド-C~C20ジカルボン酸であり、例えば、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)-スクシナートである。さらに別の実施形態では、前記リンカーは、C~C20ジカルボン酸、例えば、コハク酸である。
【0011】
本開示の他の実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートのHAは、0.1%~60%の置換度を有する。
【0012】
本開示のある実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートのHAは、約5~500キロダルトン(kDa)の重量平均分子量(Mw)を有する。本開示の様々な実施形態によれば、前記リンカーは、性ホルモンのヒドロキシル基(-OH)に結合される。
【0013】
本開示の別の態様は、それを必要とする対象における神経変性疾患を治療する方法に関する。
【0014】
本開示のいくつかの実施形態によれば、前記方法は、有効量の本発明のヒアルロナンコンジュゲートを対象に投与するステップを含む。
【0015】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、経口、経鼻、頭蓋内、脊髄内、包膜内(intrathecal)、髄内(intramedullary)、脳内、脳室内、静脈内、動脈内、心臓内、皮内、皮下、経皮、腹腔内、または筋肉内投与によって対象に投与される。
【0016】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートを用いて治療することができる神経変性疾患は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、ハンチントン病(HD)、前頭側頭型認知症、てんかん、神経因性疼痛、または運動失調である。
【0017】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートによって治療可能な対象は、哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0018】
本開示の他の態様にも含まれる主題は、神経変性疾患の治療に治療するための医薬品の製造におけるヒアルロン酸のコンジュゲート(hyaluronic conjugate)の使用、ならびに神経変性疾患の治療に使用するためのヒアルロン酸のコンジュゲートまたはこれを含有する医薬組成物を含む。
【0019】
本開示の特徴および利点の多くは、添付の図面に関連して考慮される以下の詳細な説明を参照することにより、よりよく理解されるであろう。
【0020】
本発明のこれらおよびその他の特徴、態様および利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲および添付の図面を参照することにより、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の1つの実施例による、HA-βALA-C3/C17エストラジオール(HA-E2)ヒアルロナンコンジュゲートを合成するためのスキームを示す。
図2A図2Aおよび図2Bは、本開示の1つの実施例による、エストラジオール(E2)およびHA-E2のそれぞれのUPLC分析結果を示す。
図2B図2Aおよび図2Bは、本開示の1つの実施例による、エストラジオール(E2)およびHA-E2のそれぞれのUPLC分析結果を示す。
図3】本開示の1つの実施例による、in vitroのミトコンドリア膜電位(MMP)レベルに対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートの効果を示す。
図4A】本開示の1つの実施例による、APP/PS1トランスジェニックマウスのin vivo血清および海馬のAβ42レベル変化に対するHA-E2ヒアルロナンコンジュゲートの効果をそれぞれ示す。
図4B】本開示の1つの実施例による、APP/PS1トランスジェニックマウスのin vivo血清および海馬のAβ42レベル変化に対するHA-E2ヒアルロナンコンジュゲートの効果をそれぞれ示す。
図5】本開示の1つの実施例による、HA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートを合成するためのスキームである。
図6A】本開示の1つの実施例による、OHEラットにおける遊泳距離および遊泳時間に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す。
図6B】本開示の1つの実施例による、OHEラットにおける遊泳距離および遊泳時間に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す。
図7A】本開示の1つの実施例による、標的象限におけるOHEラットの遊泳距離および遊泳時間に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す。
図7B】本開示の1つの実施例による、標的象限におけるOHEラットの遊泳距離および遊泳時間に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す。
図8A】本開示の1つの実施例による、OHEラットの遊泳距離および遊泳時間に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す。
図8B】本開示の1つの実施例による、OHEラットの遊泳距離および遊泳時間に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す。
図9A】本開示の1つの実施例による、標的象限におけるOHEラットの遊泳距離および遊泳時間に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す。
図9B】本開示の1つの実施例による、標的象限におけるOHEラットの遊泳距離および遊泳時間に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す。
図10A】本開示の1つの実施例による、海馬CA1の錐体ニューロンの遠位尖端樹状突起および遠位基底樹状突起に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す代表的な顕微鏡写真である。
図10B】本開示の1つの実施例による、海馬CA1の錐体ニューロンの遠位尖端樹状突起および遠位基底樹状突起に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す代表的な顕微鏡写真である。
図11A】本開示の1つの実施例による、OHEラットにおける海馬CA1錐体ニューロンの尖端および基底樹状突起のスパイン密度に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す。
図11B】本開示の1つの実施例による、OHEラットにおける海馬CA1錐体ニューロンの尖端および基底樹状突起のスパイン密度に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果をそれぞれ示す。
図12】本開示の1つの実施例による、MPTP治療マウスの学習能力に対するHA-C17-E2ヒアルロナンコンジュゲートのin vivo効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(説明)
添付の図面に関連して以下に提供される詳細な説明は、本実施例の説明を意図したものであり、本実施例が構築または利用され得る唯一の形態を表すことを意図したものではない。本説明では、本実施例の役割と、本実施例を構築して実行させるためのステップの順序とを示している。しかし、同じまたは同等の役割および順序が、異なる実施例によって達成され得る。
【0023】
便宜上、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で採用されている特定の用語がここに集められている。本明細書で特に定義されていない限り、本開示で採用されている科学的および技術的な用語は、当業者が一般的に理解し、使用する意味を有するものとする。
【0024】
文脈上特に要求されない限り、単数形には同じものの複数形が含まれ、複数形には単数形が含まれることが理解される。また、本明細書および特許請求の範囲で使用されている「少なくとも1つ」および「1つ以上」という用語は、同じ意味を有し、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上を含む。さらに、本明細書および添付の特許請求の範囲を通して使用される、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」、「A、B、またはCのうちの少なくとも1つ」、および「A、Bおよび/またはCのうちの少なくとも1つ」という表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBを一緒に、BとCを一緒に、AとCを一緒に、ならびにA、B、およびCを一緒にカバーすることを意図している。
【0025】
本発明の広範な範囲を示す数値範囲やパラメータは近似値であるにもかかわらず、具体的な実施例に記載された数値は、可能な限り正確に報告される。しかし、いずれかの数値にも、それぞれの試験測定で見出される標準偏差に起因する一定の誤差が含まれている。また、本明細書では、「約」という用語は、一般に、所定の値または範囲の10%、5%、1%、または0.5%以内を意味する。また、「約」という用語は、当業者が考える場合の平均値の許容可能な標準誤差の範囲内を意味する。実行/実施例以外では、または別途明示して示されない限り、本明細書で開示されている材料の量、時間の長さ、温度、作動条件、量の割合などのためのすべての数値範囲、量、値、およびパーセントは、すべての例で「約」という用語によって変更されていると理解されるものとする。したがって、特にそれとは反対の指示がない限り、本開示および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、所望に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、各数値パラメータは、少なくとも、報告される有効桁数の数を踏まえて、および通常の丸め技法を適用することによって、少なくとも解釈されるものとする。範囲は、1つの終点からもう1つの終点までまたは2つの終点間として本明細書で示され得る。本明細書で開示される全ての範囲は、別途指定しない限り終点を含む。
【0026】
本明細書で使用される「治療」および「治療する」という用語は、予防に寄与する(例えば、予防的)、治癒的または緩和的な措置を指してもよい。特に、本明細書で使用される「治療する」という用語は、本発明のヒアルロナンコンジュゲートまたはこれを含む医薬組成物を、医学的状態(例えば、神経変性疾患)、医学的状態に関連する症状、医学的状態に続発する疾患または障害、または医学的状態に対する素因、を有する対象に適用または投与することを指し、その目的は、前記特定の疾患、障害および/または状態の1つ以上の症状または特徴を部分的にまたは完全に緩和する、改善する、軽減する、発症を遅延させる、進行を阻害する、重症度を低減する、および/または発生率を減らすことである。治療を、疾患、障害および/または状態の兆候を示さない対象、および/または、疾患、障害および/または状態の早期の兆候のみを示す対象に施してもよく、その目的は、疾患、障害および/または状態に関連する病変を発症するリスクを減らすことである。
【0027】
用語「対象」および「患者」は、本明細書では互いに互換可能に使用され、本明細書に記載されたヒアルロナンコンジュゲート、これを含有する医薬組成物、および/または本発明の方法により治療可能なヒト種を含む動物を意味することを意図する。用語「対象」または「患者」は、本開示から恩恵を受ける可能性のある任意の哺乳類を含む。本明細書で使用される「哺乳類」は、ヒト、霊長類、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシなどの家畜および農場動物、ならびに動物園動物、スポーツ動物、またはペット動物、ならびにマウス、およびラットなどのげっ歯類を含む哺乳綱の全てのメンバーを指す。用語「非ヒト動物」は、ヒトを除く哺乳綱の全てのメンバーを指す。1つの例示的な実施形態において、患者はヒトである。用語「対象」または「患者」は、1つの性別を具体的に示さない限り、男性および女性の両方を指すことを意図する。
【0028】
本明細書で使用される用語「有効量」は、所望の治療効果を生じるのに十分な本発明のヒアルロナンコンジュゲートの量を指す。治療目的のために、有効量の薬物は、疾患または状態を治癒する(cure)のには要求されないが、疾患もしくは状態の発症を遅延する、妨げる、もしくは予防する、または疾患もしくは状態の症状を改善するなど、疾患または状態のための治療を提供する。有効量を、指定された期間を通して1回、2回、またはそれ以上の回数で、投与するのに適した形態で1回量、2回量またはそれ以上の用量に分割してもよい。具体的な有効量または十分量は、治療する特定の状態、患者の身体状態(例えば、患者の体重、年齢もしくは性別)、治療する哺乳類または動物の種類、治療の期間、併用療法(もしあれば)の特性、ならびに、使用する特定の剤形および化合物またはその誘導体の構造などの要因によって異なる。有効量は、例えば、ヒアルロナンコンジュゲートの総質量またはヒアルロナンコンジュゲートにおける性ホルモンの等価質量(例えば、グラム、ミリグラムもしくはマイクログラム単位)、またはヒアルロナンコンジュゲートの質量またはヒアルロナンコンジュゲートにおける性ホルモンの等価質量の、体重に対する比、例えば、ミリグラム/キログラム(mg/kg)として表示してもよい。
【0029】
用語「適用」および「投与」は、本明細書では互いに互換可能に使用され、本発明のヒアルロナンコンジュゲートまたは医薬組成物を、治療を必要とする対象に適用することを意味する。
【0030】
本開示のいくつかの例によれば、試験期間中、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、週2回投与される。理解できるように、有効量は、投与の間隔および期間に応じて適宜調整することができる。ある実施形態では、複数回の投与が対象に行われる場合、対象への複数回の投与の頻度は、1日3回、1日2回、1日1回、2日ごとに1回、3日ごとに1回、4日ごとに1回、5日ごとに1回、6日ごとに1回、毎週1回、隔週1回、毎月1回、または隔月に1回である。ある実施形態では、対象に複数回の投与を行う頻度は、1日1回である。ある実施形態では、複数の用量を対象に投与する頻度は、1日あたり2回である。ある実施形態では、複数の用量が対象に投与される場合、複数回の投与の最初の投与と最後の投与との間の期間は、1日、2日、4日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、1年、2年、3年、4年、5年、7年、10年、15年、20年、または対象の生涯である。ある実施形態では、複数回の投与のうち最初の投与から最後の投与までの期間は、3ヶ月、6ヶ月、または1年である。ある実施形態では、複数回の投与のうち最初の投与と最後の投与との間の期間は、対象の生涯である。特定の実施形態では、複数回の投与を対象に行う頻度は、1週間に3回である。
【0031】
また、以下に提供される実施例によれば、ヒアルロナンコンジュゲートは静脈内注射によって投与されるが、これは本発明がどのように実施され得るかについての例示に過ぎず、本開示はこれに限定されない。
【0032】
例えば、前記ヒアルロナンコンジュゲートは、薬学的に許容される賦形剤と共に、所望の投与様式に適した医薬組成物に処方され得る。ここに開示され、特許請求されている発明の概念に従って調製された特定の医薬組成物は、患者への経口、非経口(皮下、静脈内、ボーラス注射、筋肉内、動脈内)、硝子体内、または経皮投与に適した単一単位剤形である。剤形の例としては、錠剤;カプレット;軟ゼラチンカプセルのようなカプセル;カシェ剤;トローチ;ロゼンジ;分散剤;坐剤;軟膏;パップ剤(湿布);ペースト;粉末;ドレッシング;クリーム;プラスター;溶液;パッチ;エアロゾル(例:鼻腔スプレーまたは吸入器);ゲル;懸濁液(例:水性または非水性液体懸濁液、水中油型エマルジョン、または油中水型液体エマルジョン)、溶液、エリキシル剤などの患者への経口投与に適した液体剤形;および患者への非経口投与に適した液体剤形を提供するために再構成することができる無菌固体(例えば、結晶性または非晶質固体)が挙げられるが、これらに限定されない。理解され得るように、これらの医薬組成物も本開示の範囲内である。
【0033】
本明細書で使用される「薬学的に許容可能な賦形剤」という用語は、1つの臓器または体の一部から別の臓器または体の一部へなどの、対象薬剤の運搬または輸送に関与する、液体または固体の充填剤、希釈剤、担体、溶媒、カプセル化材料などの薬学的に許容される材料、組成物、またはビヒクルを意味する。各賦形剤は、製剤の他の成分と適合性があるという意味で「許容可能」でなければならない。医薬製剤は、本発明の化合物を、1つ以上の薬学的に許容される成分と組み合わせて含む。前記賦形剤は、固体、半固体または液体の希釈剤、クリームまたはカプセルの形態であり得る。これらの医薬製剤は、本発明のさらなる目的である。通常、活性化合物の量は、調製物の0.1~95重量%、非経口用調製物ではこのましくは0.2~20重量%、経口投与用調製物では好ましくは1~50重量%である。本発明の方法の臨床使用のために、本発明の医薬組成物は、意図された投与経路に適した製剤に処方される。
【0034】
本明細書で使用されるHAコンジュゲートの「置換度(DS)」という用語は、前記HAの二糖単位あたりに結合した置換基(すなわち、性ホルモン)の平均比率である。
【0035】
本明細書で使用する「ヒアルロン酸」(HA)(ヒアルロネートまたはヒアルロナンとも呼ばれる)という用語は、二糖単位の繰り返し配列、具体的にはD-グルクロン酸とN-アセチル-D-グルコサミン(-4GlcUAβ1-3GlcNAcβ1-)、からなるアニオン性の非硫酸化グリコサミノグリカンであり、ある。その分子量は379ダルトン(Da)(単一の二糖単位)から数百万ダルトンを超える範囲に及ぶ可能性がある。HAは、細胞表面のヒアルロナン媒介運動性のための受容体(RHAMM)およびCD44との相互作用により、細胞の運動性や免疫細胞の接着に関与している。「HA誘導体」という用語は、HAの1つ以上の二糖単位のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミド基、またはアセチルアミノ基に任意の修飾を有するHAを指す。
【0036】
本明細書では、「塩」という用語は、あらゆる塩を意味し、薬学的に許容される塩を包含する。「薬学的に許容される塩」という用語は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などを伴わずに、ヒトおよび下等動物の組織と接触して使用するのに適しており、合理的な利益/リスク比に見合った塩を意味する。薬学的に許容される塩は、当技術分野で周知である。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「リンカー」は、コンジュゲートの2つの部分を接続する化学的部分(例えば、2つの官能基間の化学結合形態)を意味する。本開示では、前記リンカーは、前記性ホルモンと前記HAとの間に存在する任意の化学的部分であってよい。本開示のいくつかの実施形態では、前記リンカーは、化学的または酵素的に消化されてもよく、あるいは、自然に分解されてもよい。
【0038】
本開示の好ましい実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、徐放性(ER)、制御放出(CR)、持続放出(SR)、長期放出(PR)、長時間作用型放出(LAR)および遅延放出(DR)医薬品などの「改変放出(MR)」製剤に処方される。従来の剤形では、製剤原料が速やかに放出されるため、体内の薬物濃度が変動し、製剤原料の治療レベルを維持するために複数回の投与が必要になるのと対照的に、改変放出型剤形では、製剤原料の放出時間および/または放出位置などの放出特性を選択することで、従来の剤形では得られなかった望ましい治療目的を達成することができる。剤形に関する用語は、当業者が認識して使用する通常の意味を有するものとする。例えば、「徐放性」という用語は、即時放出型(従来型)の投与形態として提示された薬物と比較して、投与頻度の少なくとも2分の1の減少を可能にする投与形態である。「制御放出」とは、注射剤の場合、日単位から月単位までの長期間にわたって製剤原料を放出することができる剤形のことである。「持続放出」という用語は、製剤原料が所定の速度で放出され、一定の期間、血漿中の濃度が一定になることをいう。
【0039】
本開示は、少なくとも部分的には、HA-性ホルモンコンジュゲートが様々な神経変性疾患の治療に望ましい治療効果を示すと同時に、胸や心臓などの他の器官に作用する性ホルモンに起因する望ましくない副作用を軽減するという予想外の発見に基づくものである。
【0040】
したがって、本開示の第1の態様は、ヒアルロン酸(HA)またはその誘導体もしくはその塩と、性ホルモンと、性ホルモンをHAまたはHA誘導体もしくはHA塩の二糖単位の1つに結合させるためのリンカーとを含むヒアルロナンコンジュゲートを対象とする。
【0041】
例えば、前記性ホルモンは、エストロン(El)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)、テストステロン(T)、および11-デオキシコルチコステロン(11-DOC)のいずれかであり得る。
【0042】
様々な実施形態によれば、前記リンカーは、1つ以上のアミノ酸残基、脂質、ジヒドラジド-C~C20ジカルボン酸、またはC~C20ジカルボン酸であってもよい。本開示では、前記リンカーは、HAと性ホルモンとを接続するためのアームまたはスペーサーとして機能する。前記リンカーは、一方ではヒドロキシル基、カルボキシル基、アミド基、またはアセチルアミノ基の結合を介してHAと結合し、他方では、任意の、あり得る共有結合を介して性ホルモンと結合する。
【0043】
いくつかの実施形態では、前記リンカーは、単一のアミノ酸残基であり、例えば、アラニン(Ala;好ましくは、β-アラニン)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(lu)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)、γ-abu(4-アミノブタン酸)、δ-アミノ吉草酸(5-アミノペンタン酸)、ε-アミノカプロン酸(6-アミノヘキサン酸)、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、および11-アミノウンデカン酸などが挙げられる。いくつかの実施形態では、前記リンカーは、2~100個のアミノ酸残基を有する短いペプチドであってもよい。例えば、前記リンカーは、(GS)の配列を有する柔軟なペプチドであってもよく、ここで、nおよびmは、独立して、1~4の数である。
【0044】
いくつかの実施形態では、脂質リンカーが好ましい。このような脂質リンカーは、親水性の極性頭部基と疎水性の鎖を有する。
【0045】
いくつかの実施形態では、前記リンカーは、直鎖状または分枝状の、脂肪族、芳香族または芳香脂肪族(araliphatic)のC~C20ジカルボン酸であり、これは、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、タプシン酸(thapsic acid)、ジアボリック酸(diabolic acid)、クロセチン、マレイン酸、フマル酸、グルタコン酸、2-デセン二酸、トラウマチン酸、ムコン酸、グルチン酸(glutinic acid)、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、タルトロン酸、メソシュウ酸(mesoxalic acid)、リンゴ酸、酒石酸、オキサロ酢酸、アスパラギン酸、α-ヒドロキシグルタル酸、アラビナル酸(arabinaric acid)、アセトンジカルボン酸、α-ケトグルタル酸、グルタミン酸、ジアミノピメリン酸、サッカリン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸の誘導体であってもよい。
【0046】
ジヒドラジド-C~C20ジカルボン酸ベースのリンカーは、一般的に2つの部分、すなわちジヒドラジドおよびC~C20ジカルボン酸を有し、C~C20ジカルボン酸の1つのカルボキシレート基がジヒドラジドの1つのヒドラジド基と共有結合しているものである。ジヒドラジド部分の例としては、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)、セバシン酸ジヒドラジド(SDH)、バリンジヒドラジド(VDH)、イソフタル酸ジヒドラジド(IDH)、カルボジヒドラジド(CDH)、イコサン二酸(icosanedioic acid)ジヒドラジド(LDH)、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ジヒドラジドスルホキシド、シュウ酸ジヒドラジド、およびピメリン酸ジヒドラジドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。C~C20ジカルボン酸リンカーに関連して上記した例示的な例は、ジヒドラジド-C~C20ジカルボン酸ベースのリンカーに対するジカルボン酸部分としての使用にも適している。
【0047】
本発明のリンカーは、2つの部分、すなわち、1つ以上のアミノ酸とC~C20ジカルボン酸とを有する、アミノ-C~C20ジカルボン酸ベースのリンカーも包含する。アミノ酸残基およびC~C20ジカルボン酸リンカーに関連して上記した例示的な例は、そのようなtアミノ-C~C20ジカルボン酸ベースのリンカーを形成するための使用にも適している。限定ではなく一例として、アミノ-C~C20ジカルボン酸ベースのリンカーは、ALA-スクシナートリンカーであり得る。
【0048】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートのHAは、約5kDa~約500kDa、例えば、約5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、または500kDaの範囲の重量平均分子量(Mw)を有している。
【0049】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートのHAは、未置換(すなわち、HAそのもの)もしくは置換されている(すなわち、HA誘導体)形態であってもよく、またはその塩であってもよい。上記したように、HAは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミド基、アセチルアミノ基などの官能基で修飾され得る。HAは、一連の化学剤との反応により、上記のようにその官能基(すなわち、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミド基またはアセチルアミノ基)上で、エステル化、グラフト化および/または疎水化により修飾され得る。例示的なHA誘導体は、エチルスルホン化されたHA、脱アセチル化されたHA、またはヒドラジド修飾されたHAである。本開示の1つの例では、本発明のヒアルロナンコンジュゲートのHAは、非置換の形態である。本開示の別の例では、本発明のヒアルロナンコンジュゲートのHAは、置換された形態である。
【0050】
本開示の様々な実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、0.1~60%の性ホルモンとの置換度を有する。例えば、前記DSは、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、または60%であってもよい。
【0051】
本発明のいくつかの代表的なヒアルロン酸のコンジュゲートの共役二糖単位は、表1および以下の段落に要約されているが、本発明はこれに限定されるものではない。理解できるように、表1に示した例示的な性ホルモンの立体異性体も本発明者らは想定している。
【0052】
【表1】
【0053】
【化1】
【0054】
【化2】
【0055】
【化3】
【0056】
【化4】
【0057】
【化5】
【0058】
【化6】
【0059】
【化7】
【0060】
【化8】
【0061】
【化9】
【0062】
【化10】
【0063】
【化11】
【0064】
【化12】
【化13】
【0065】
【化14】
【0066】
【化15】
【0067】
【化16】
【0068】
【化17】
【0069】
【化18】
【0070】
【化19】
【0071】
【化20】
【0072】
【化21】
【0073】
【化22】
【化23】
【0074】
【化24】
【0075】
【化25】
【0076】
【化26】
【0077】
【化27】
【0078】
【化28】
【0079】
【化29】
【0080】
【化30】
【0081】
【化31】
【0082】
【化32】
【0083】
本開示の様々な実施形態によれば、前記リンカーは、前記性ホルモンのヒドロキシル基と反応可能な1つの官能基と、前記HAの1つの二糖単位のカルボキシレート基またはヒドロキシル基と反応可能な別の官能基とを有し、それによって性ホルモンとHAとをコンジュゲートする。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。他の実施形態では、前記性ホルモンは、前記リンカーと反応可能な化学的部分で最初に修飾され得る。
【0084】
また、本開示には、上記の本発明のヒアルロナンコンジュゲートと、薬学的に許容される賦形剤とを含有する組成物が、含まれる。
【0085】
許容される担体は、使用される用量および濃度において、レシピエントに対して非毒性である。本開示のいくつかの実施形態によれば、薬学的に許容可能な賦形剤は、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;安息香酸塩、ソルビン酸塩、m-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、セリン、アラニン、またはリジンなどのアミノ酸類;グルコース、マンノース、デキストランなどの単糖類、二糖類、およびその他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、またはソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン、金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはTween(登録商標)、プルロニック(登録商標)、またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤(Remington.The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.(2000) Lippincott Williams and Wilkins,Ed.K.E.Hooverを参照)を含んでもよい。
【0086】
本明細書に記載の医薬組成物は、経口または非経口投与のために、錠剤、ピル、カプセル、粉末、顆粒、ゲル、または溶液もしくは懸濁液などの単位投与形態であり得る。
【0087】
本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、前記医薬組成物の総重量に基づいて、約0.1~99重量%のレベルで医薬組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、前記医薬組成物の総重量を基準にして、少なくとも1重量%のレベルで存在する。ある実施形態では、本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、前記医薬組成物の総重量を基準にして、少なくとも5重量%のレベルで存在する。他の実施形態では、本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、前記医薬組成物の総重量を基準にして、少なくとも10重量%のレベルで存在する。さらに他の実施形態では、本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、前記医薬組成物の総重量を基準にして、少なくとも25重量%のレベルで存在する。
【0088】
本明細書に記載の医薬組成物は、薬理学の分野で公知の任意の方法で調製され得る。一般的に、そのような調製方法は、本明細書に記載の本発明のヒアルロナンコンジュゲート(すなわち、「活性成分」)を、担体または賦形剤、および/または1つ以上の他の付属成分と組み合わせ、次いで、必要および/または望ましい場合には、製品を所望の単回投与または複数回投与単位に成形、および/または包装することを含む。「単位用量」とは、所定の量の活性成分を含有する医薬組成物の個別の量である。前記活性成分の量は、一般的に、対象に投与される活性成分の量、および/またはそのような量の都合の良い端数(convenient fraction)、例えば、そのような量の2分の1または3分の1に等しい。
【0089】
本明細書で提供される本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、典型的には、投与を容易にし、投与量を均一にするために、投与単位の形態で処方される。しかし、本明細書に記載された組成物の1日の総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で医師によって決定されることが理解されるであろう。特定の対象または生物に対する特定の治療上有効な用量レベルは、治療対象の疾患および障害の重症度;使用される特定の活性成分の活性;使用される特定の組成物;対象の種、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食生活;副作用または障害の重症度;使用した特定の有効成分の投与時間、投与経路、排泄率、治療期間、使用した特定の活性成分と組み合わせてまたは同時に使用した特定の本発明のヒアルロナンコンジュゲートの薬物の同一性(identity)、および医療技術で周知の同様の要因など、さまざまな要因に依存する。
【0090】
このように、本開示の範囲内に包含されるのは、医薬組成物の製造における本アルロナンコンジュゲートの使用であり、前記医薬組成物は、必要とする対象における神経変性疾患の治療に使用される。
【0091】
本開示の別の態様は、有効量の上記のヒアルロナンコンジュゲートまたはこれを含む医薬組成物を、対象に投与するステップを含む、対象における神経変性疾患の治療またはリスクの低減のための方法を提供することである。
【0092】
本明細書に記載の本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、対象(例えば、神経変性疾患を有する、有する疑いがある、または神経変性疾患のリスクがあるヒト患者)における神経変性疾患の治療またはリスクの低減に有用である。いくつかの実施形態では、神経変性疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、てんかん、神経因性疼痛、または運動失調が含まれるが、これらに限定されない。
【0093】
本明細書で提供される本発明のヒアルロナンコンジュゲート、またはこれを含む組成物は、当業者に公知の適切な経路で投与され得、経口、経鼻、頭蓋内、脊髄内、包膜内、髄内、脳内、脳室内、静脈内、動脈内、心臓内、皮内、皮下、経皮、腹腔内、または筋肉内投与が含まれる。具体的には、経口投与、静脈内投与(例:全身への静脈内注射)、血液および/またはリンパ液を介した局所投与、および/または患部への直接投与などが含まれる。一般に、最も適切な投与経路は、薬物の性質(例えば、消化管の環境における安定性)、および対象の状態(例えば、対象が経口投与に耐えられるかどうか)を含む様々な要因に依存する。
【0094】
有効量を得るために必要な本発明のヒアルロナンコンジュゲートまたはこれを含む医薬組成物の正確な量は、例えば、上記のような要因に応じて、対象によって異なる。有効量は、単回用量(例えば、単回経口用量)または複数回用量(例えば、複数回経口用量)で含まれてもよい。ある実施形態では、複数回用量を対象に投与する場合、複数回用量を対象に投与する頻度は、1日3回、1日2回、1日1回、2日ごとに1回、3日ごとに1回、毎週1回、隔週1回、毎月1回または隔月に1回である。ある実施形態では、複数回用量を対象に投与する頻度は、1日に1回である。ある実施形態では、複数回用量を対象に投与する頻度は、1日あたり2回である。ある実施形態では、複数回用量が対象に投与される場合、複数回の投与の最初の投与と最後の投与との間の期間は、1日、2日、4日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、1年、2年、3年、4年、5年、7年、10年、15年、20年、または対象の生涯である。ある実施形態では、複数回の投与のうち最初の投与から最後の投与までの期間は、3ヶ月、6ヶ月、または1年である。ある実施形態では、複数回の投与のうち最初の投与と最後の投与との間の期間は、対象の生涯である。特定の実施形態では、複数回の投与を対象に行う頻度は、1週間に3回である。
【0095】
例えば、本開示のいくつかの実施例によれば、ラット(約150グラム)における様々な神経変性疾患を治療するための、ヒアルロナンコンジュゲート中の性ホルモンの等価質量で表される有効量は、約100ng/kg体重~10μg/kg体重である。したがって、前記ヒアルロナンコンジュゲートにおける性ホルモンの観点からラットを治療するための有効量は、約100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、もしくは990ng/kg体重/用量、または1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、もしくは10μg/kg体重/用量である。
【0096】
また、マウス(約20g)を治療するための、ヒアルロナンコンジュゲート中の性ホルモンの等価質量で表される有効量は、約150ng/kg体重~15μg/kgであり、例えば、約150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、もしくは990ng/kg体重/用量、または1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、もしくは15μg/kg体重/用量である。
【0097】
体重約60kgの成人ヒトの場合、上記のラットの投与量(換算係数:0.16)から得られるヒト等価投与量(HED)は、前記ヒアルロナンコンジュゲートにおける性ホルモンの等価質量に換算して、約16ng/kg体重~1.6μg/kg体重/用量となる。一方、マウスの投与量(換算係数0.08)に基づくHEDは、約12ng/kg体重~1.2μg/kg体重/用量である。つまり、HEDは、前記ヒアルロナンコンジュゲートに含まれる性ホルモンの等価質量で、約12ng/kg体重~1.6μg/kg体重/用量である。
【0098】
理解できるように、上記の投与量の範囲は、提供された医薬組成物を成人に投与するための指針として提供される。例えば、子供または青年に投与する量は、医師または当業者によって決定され得、成人に投与する量よりも低いまたは同じであり得る。患者の年齢、体重、健康状態などを考慮すると、ヒト対象に対する有効量は、前記ヒアルロナンコンジュゲート中の性ホルモンの等価質量に換算して、約6ng/kg体重/用量~3μg/kg体重/用量であってもよい。具体的には、本発明のヒアルロナンコンジュゲートにおける性ホルモンの等価質量の有効量は、ヒト対象に対して、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、もしくは990ng/kgの体重/用量、または1、1.5、2、2.5、または3μg/kg体重/用量であってもよい。
【0099】
当業者であれば理解できるように、様々な神経変性を治療するための本発明のヒアルロナンコンジュゲートの有効量は、ヒアルロナンコンジュゲートの薬物負荷(または置換度)と関連して、ヒアルロナンコンジュゲートにおける性ホルモンの上記の等価質量から決定することができる。そして、このようにして決定された本発明のヒアルロナンコンジュゲートの有効量のそれぞれは、本開示の一部とみなされる。
【0100】
例えば、本開示のいくつかの実施例によれば、様々な神経変性疾患を治療するためのヒアルロナンコンジュゲートの有効量は、ラット(約150グラム)では約25~2,500μg/kg体重、マウス(約20グラム)では約1~100μg/kgである。したがって、ラットの神経変性疾患を治療するための本発明のヒアルロナンコンジュゲートの有効量は、約25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、 67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、または2500μg/kg体重/用量である。また、マウスを治療するための本発明のヒアルロナンコンジュゲートの有効量は、約1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100μg/kg体重/用量である。
【0101】
同様に、体重約60kgの成人ヒトの場合、上記のマウスの用量(換算係数:0.08)から得られる本発明のヒアルロナンコンジュゲートのHEDは、約80ng/kg体重/用量~8μg/kg体重/用量であり、ラットの用量(換算係数:0.16)は、4~400μg/kg体重/用量である。以上のことから、本発明のヒアルロナンコンジュゲートのHEDは、約80ng/kg体重~400μg/kg体重/用量となる。患者の年齢、体重、健康状態を考慮すると、ヒト対象に対する有効量は、約40ng/kg体重/用量~700μg/kg体重/用量であり得る。
【0102】
具体的には、ヒト対象の有効量は、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、もしくは990ng/kg体重/用量、または1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、または700μg/kg体重/用量である。
【0103】
本明細書に記載されている用量範囲は、提供される医薬組成物を成人に投与する際の指針となるものである。例えば、子供または青年に投与される量は、医療従事者または当業者によって決定され得、成人に投与する量よりも少ないかまたは同じであり得る。
【0104】
本明細書に記載の本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、神経変性疾患の治療および/またはリスクの低減に有用な1つ以上の追加の医薬品(例えば、治療的に活性な薬剤)と組み合わせて投与され得る。ある実施形態では、本明細書に記載された本発明のヒアルロナンコンジュゲートおよび追加の医薬品は、神経変性疾患の治療に相乗効果を示す。本発明のヒアルロナンコンジュゲートは、対象における神経変性疾患の治療および/またはリスクの低減において、例えば併用療法として有用であり得る1つ以上の追加の医薬品と、併用して、先立って、同時に、または後に投与され得る。
【0105】
医薬品には、治療的に活性な薬剤が含まれる。各追加の医薬品は、その医薬品について決められた用量および/またはタイムスケジュールで投与され得る。また、前記追加の医薬品は、互いに一緒に、および/または本明細書に記載の本発明のヒアルロナンコンジュゲートを含む組成物と一緒に、単回投与で投与してもよいし、異なる用量で別々に投与してもよい。ある実施形態では、前記追加の医薬品は、神経変性疾患の治療および/またはリスクの低減のための薬剤であり、アルツハイマー病(AD)を治療するための薬剤であってもよく、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン、セルフォテル(selfotel)、ミダフォテル(midafotel)、タクリン、セレギリン、およびビタミンEが含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本発明のヒアルロナンコンジュゲートによって治療可能な対象は、哺乳類である。いくつかの例では、前記対象は、マウスまたはラットである。他の例では、前記対象は、ヒトである。
【0107】
また、本開示には、本明細書に記載された対象となる神経変性疾患のいずれかの治療に使用するためのキットも含まれる。本明細書で提供されるキットは、本明細書に記載された本発明のヒアルロナンコンジュゲート、またはこれを含む医薬組成物を含んでもよい。任意に、前記キットは、本明細書に記載の1つ以上の追加の医薬品をさらに含んでもよい。
【0108】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明するため、および本発明を実施する当業者に役立つように提供される。これらの実施例は、いかなる方法であっても本発明の範囲を限定するとは決して見なされない。更なる詳細無しで、当業者は、本明細書の記載に基づき最大限に本発明を利用できるとされる。本明細書で引用されるあらゆる公開物は、これらの内容全体を参照することによって本願に組み込まれる。
【実施例
【0109】
実施例1
【0110】
HA-βALA-エストラジオールの合成および特性評価
【0111】
本実施例では、HA-βALA-C17エストラジオール(A形態)およびHA-βALA-C3エストラジオール(B形態)の両方を含む混合物を、スキームIに記載されているステップに従って合成した(図1)。
【0112】
簡単に説明すると、Boc-β-アラニン(2.92ミリモル、552mg)、DCC(3.40ミリモル、702mg)、および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(3.04ミリモル、372mg)を、ジクロロメタン(DCM)(250mL)中のエストラジオール(2.75ミリモル、750mg)の溶液に加え、混合物を室温(RT)で一晩撹拌した。溶媒を真空下で除去し、次に沈殿物をメタノールで溶解した。得られた混合物に10%KCO溶液(メタノール:10%KCO=1:1)を加え、室温で一晩攪拌した。その後、混合物を濃縮し、DCMおよび水で抽出した。混合物中のほとんどのDCMを真空下で除去し、混合物中の沈殿物を濾過した。濾液をDCMで洗浄し、真空下で濃縮した。残留物をアセトンで洗浄し、沈殿物を濾過した。その後、濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:アセトン:ヘキサン=1:1)で精製して、生成物であるBoc-β-アラニン-エストラジオールを得た。
【0113】
HA-βALA-エストラジオールの合成のための段階的な手順は、以下の通りである。ボトル:Boc-β-アラニン-エストラジオール(0.19ミリモル、83mg)をDCM(1mL)に溶解し、溶液を室温で撹拌した。この溶液にトリフルオロ酢酸(TFA)(0.2mL、2ミリモル)を加え、4時間反応を続けた後、氷浴中の溶液にNaCO溶液(55mg/mL)を、溶液から泡が出なくなるまで滴下して加えた。その後、真空下で溶液からDCMを除去した。続いて、残渣にシアノヒドロキシイミノ酢酸エチル(オキシマ)(1.39ミリモル、250mg)とジメチルスルホキシド(DMSO)(20mL)を加え、溶液を室温で撹拌した。Bボトル:HA溶液(500mg/25mL)をDMSO(20mL)と混合し、温度が室温に戻るまで混合物を撹拌した。Bボトルの溶液をAボトルに注ぎ、混合物を十分に混合した。N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(2.58ミリモル、326mg)を水平下で(under the level)混合物に加え、24時間反応を続けた。その後、反応混合物を透析(分子量カットオフ(MWCO)が3500の透析バッグ、10Lの水で12時間、1Lの0.3M NaClで12時間、2回、10Lの水で12時間、5回)により精製し、透析バッグ内の画分を回収し、凍結乾燥した。
【0114】
このように合成されたHA-βALA-C3/C17エストラジオール(HA-E2)を、UPLC(Acquity UPLCおよびPDA検出器(Waters))、カラム:ACQUITY UPLC BEH200 SECカラム(1.7μm、ID 4.6mm×150mm);流速:0.3mL/分;注入量:50μl;検出器:UV280nm;温度:カラムに対して25℃、オートサンプラーに対して20℃;実行時間:18分;相対保持時間:HA-E2(HA-βALA-C3/C17エストラジオール)に対して2.7、E2(エストラジオール)に対して10.1、によって確認した。計算のために、線形回帰を適用して標準曲線y=mx+bを生成した。式中、xはμg/ml単位のE2濃度である。yはすべてのスタンダードのピーク面積である。mは標準曲線の傾きである。bは標準曲線の切片である。また、標準曲線の許容相関係数(r2)は、0.9950以上である。
【0115】
図2Aおよび図2Bはそれぞれ、エストラジオール(E2)とHA-βALA-C3/C17エストラジオール(HA-E2)のUPLCプロファイルを示している。
【0116】
実施例2
【0117】
神経細胞の取り込みに対するヒアルロナンコンジュゲートの効果
【0118】
本実施例では、神経細胞(ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞)が本発明のヒアルロナンコンジュゲートを取り込むかどうかを調べるために、一対の実験を行った。その結果(データは示していない)、神経細胞はエストロン単独よりもHA-E1コンジュゲートをより多く取り込むことが示された。同様のことが、HA-E2コンジュゲート対エストラジオール単独、HA-E3コンジュゲート対エストリオール単独、HA-テストステロンコンジュゲート対テストステロン単独、およびHA-デオキシコルチコステロン対11-デオキシコルチコステロン単独を含む他のペアセットにも当てはまる。
【0119】
上記のペアセット実験の予備結果に基づいて、HA-E2とE2をさらに分析した。
【0120】
エストロゲンが神経細胞の生存率を維持する働きがあることが知られているが、この現象の一つの兆候が細胞におけるATPレベルのアップレギュレーションである。ミトコンドリア膜電位は、ミトコンドリアのATP合成の原動力であるため、神経細胞をHA-C17-E2とE2でそれぞれ処理し、その後、細胞のミトコンドリア膜電位レベルを測定した。
【0121】
簡潔に説明すると、ヒト神経芽細胞腫のSH-SY5Y細胞を、10%の熱不活化ウシ胎児血清(FBS)、100ユニット/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを補充したイーグル最小必須培地(EMEM)を用いて、5%CO加湿インキュベーターで、37℃で培養した。ミトコンドリア膜電位の測定には、SH-SY5Y細胞を、E2(0.14、0.34、0.68、および1.36μg/mL)、HA(6.48、16.19、32.38、64.76μg/mL)、またはHA-C17-E2(6.48、16.19、32.38、および64.76μg/mL、それぞれE2濃度と同等)と共に18時間インキュベートした。
【0122】
テトラメチルローダミン・メチルエステル(TMRM)は、細胞透過性のあるカチオン性の赤橙色の蛍光色素で、活動性のミトコンドリアに容易に蓄積する。細胞をトリプシン処理し、100nMのTMRM(Molecular Probes, Eugene, OR)を含む0.5mLのPBSに再懸濁した。37℃の暗所で30分間インキュベートした後、細胞を直ちに氷上のチューブに移し、FL2検出器を用いてフローサイトメトリーにより蛍光強度を測定した。
【0123】
フローサイトメトリー解析には、488nmのアルゴンレーザーを備えたFACS Caliburフローサイトメーター(Becton Dickinson,Bedford,MA)を用いた。前方散乱および側方散乱を用いてサイズゲートを設定し、分析から細胞残屑を除外した。励起波長を488nmに設定した。各測定では、最低20,000個の細胞を分析した。データを、Cell Questソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて取得および解析した。平均蛍光強度の相対的変化は、処理細胞のチャネルにおける平均蛍光強度と対照細胞のチャネルにおける平均蛍光強度との比として算出した。
【0124】
図3に示すように、HA-C17-E2(32.38μg/mL、0.68μg/mLのE2に相当)またはHA-C17-E2(64.76μg/mL、1.36μg/mLのE2に相当)の処理は、対照群およびHAのみまたはE2のみの処理と比較して、細胞におけるミトコンドリア膜電位レベルを上昇させることが可能である。
【0125】
実施例3
【0126】
アミロイドベータ発現に対するヒアルロナンコンジュゲートの効果
【0127】
本実施例では、APP/PS1トランスジェニックマウスにおけるアルツハイマー病のいくつかの指標(アミロイドプラーク形成、Aβ42の分布と発現レベルなど)に対する本発明のヒアルロナンコンジュゲートの効果を調べた。APP/PS1トランスジェニックマウスは、アミロイドベータ(Aβ)を過剰に産生することから、アルツハイマー病の動物モデルとして広く用いられている。
【0128】
APPswe/PSldE9(APP/PS1)トランスジェニックマウスを、Jackson lab.より入手した。すべての手順は、Animal Experimental Center of the National Research Institution of Chinese Medicineの仕様(IACUC No.106-417-4)に従って行われた。
【0129】
8週齢のAPP/PS1マウスに、0.206mg/kgのE2もしくは12.5mg/kgのHA-E2(0.206mg/kgのE2に相当)、または対照のビヒクルを週3回、合計8週間静脈内投与した。7週目に50mg/Kg/日の5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)を毎日腹腔内に7日間投与した。その後、Zoletil/Xylazine(20mg/Kg:5mg/Kg)を腹腔内投与して麻酔をかけ、動物を屠殺した。深い麻酔の後、心臓から血液を採取し、13,000rpmで遠心分離して血清を分離した。pH7.4の生理食塩水で灌流した後、脳の半球の皮質と海馬を外科的に摘出し、ホモジナイズして-30℃で保存した。残りの半分の脳を、4%ホルムアルデヒドに3~7日間浸漬して固定し、その後、20%および30%スクロースで3~7日間脱水した。さらなる切片化のために脳組織を凍結した。
【0130】
2%SDSおよび70%ギ酸(FA)(Sigma)を用いた脳のAβの2段階連続抽出を行った。簡単に説明すると、皮質ホモジネートを、プロテアーゼ阻害剤を含むHバッファー中の同量の4%SDSと混合した。その後、サンプルを超音波処理し、100,000×g、4℃で60分間遠心分離した。サンプルの上澄み液は、SDS可溶性画分であった。SDS不溶性画分については、サンプルのペレットをさらに70%FAに再懸濁し、100,000×g、4℃で60分間遠心分離した。その後、上清を回収し、1M Tris(pH11)で中和した。SDS可溶性画分とSDS不溶性画分の両方を、サンドイッチELISA分析まで-80℃で保存した。Aβレベルは、製造者のプロトコルに従って、ヒトAβ40およびAβ42ELISAキット(Invitrogen)により測定した。
【0131】
このようにして決定された血清および海馬におけるAβ42の発現レベルを、それぞれ図4Aおよび図4Bにまとめた。HA-E2で治療したマウスの血清と海馬の両方におけるAβ42の発現レベルは、E2単独またはビヒクル単独で治療したマウスの発現レベルよりも低い。
【0132】
実施例4
【0133】
HA-βALA-C17エストラジオール(HA-C17-E2)の合成
【0134】
本実施例では、スキームIIIに従って、HA-βALA-C17エストラジオール(HA-C17-E2)を合成した(図5)。
【0135】
まず、エストラジオール(1.84ミリモル、500mg)をDCM(40mL)に溶解し、15分間撹拌した。次に、255μLの2.02ミリモルの塩化ベンゾイルおよび5滴のトリエチルアミンを反応混合物に加え、窒素下、20℃で24時間撹拌した。反応混合物を真空下で濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出:EA/DCM=3/97)を用いて精製し、安息香酸エストラジオール(Bz-エストラジオール)を得た。
【0136】
次に、Bz-エストラジオール(0.23ミリモル、85mg)を乾燥DCM(20mL)に溶解し、10分間撹拌した。N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(0.45ミリモル、94mg)および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.23ミリモル、27mg)を反応混合物に加え、30分間撹拌した。その後、Boc-β-アラニン(0.45ミリモル、87mg)を加え、窒素下、25℃で24時間撹拌した。反応混合物を濾過し、濾液を、DDWを用いて抽出した。有機層を回収し、真空下で溶媒を除去して粗生成物を得た後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出:EA/DCM=3/97)を用いて精製し、エストラジオール-安息香酸-Ala-Boc(Bz-エストラジオール-β-ALA-boc)を得た。
【0137】
次に、Bz-エストラジオール-β-ALA-boc(0.18ミリモル、100mg)をMeOH(5mL)に溶解し、5M NaOHを用いてpHを9~10に調整した。この反応混合物を室温下で撹拌した。24時間後、50%AcOHを用いて反応混合物のpHを6に調整し、これを濃縮して油状の液体を得た。この油性液体を、EAとブラインを用いて3回抽出した。有機層中の水を、MgSO4を用いて除去し、その後、溶媒を真空下で除去して粗生成物を得、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出:EA/DCM=5/95)を用いて精製し、E2-Ala-Bocを得た。
【0138】
HA-C17-E2を合成するための段階的な手順は以下の通りである。ボトルA:HA(0.49ミリモル、200mg)をDDW(20mL)に2時間撹拌しながら溶解し、温度が室温に戻るまでDMSO(25mL)を撹拌下で反応混合物に注ぎ込んだ。ボトルB:E2-Ala-Boc(0.10ミリモル、44.1mg)をDCM(2mL)に溶解し、トリフルオロ酢酸(TFA)(1.31ミリモル、0.1mL)を加えた。この溶液を室温で2時間撹拌した。その後、DCMとTFAの大部分を濃縮除去した後、DDW(2mL)を反応混合物に注ぎ、0.5M NaHC0を用いてpHを7に調整した。沈殿物が溶解するまで反応混合物にDMSOを加えた。Oxyma(0.55ミリモル、77mg)をDMSO(4mL)に溶解し、その溶液をボトルAに注ぎ、その後10分間撹拌した。ボトルBの溶液をピペットでボトルAにゆっくりと加え、15分かけて十分に混合した。DIC(2.58ミリモル、326mg)をピペットで水平下の混合物に加え、反応を24時間持続させた。その後、反応混合物を透析(MWCOが3,500の透析バッグ、5Lの0.3M NaCIを12時間、6回;5Lの水を12時間、6回)して精製し、透析バッグ内の画分を回収して凍結乾燥した。
【0139】
このようにして合成したHA-C17-E2をUPLCで確認し(データは示していない)、280nmのUV-Vis分光器を用いて薬物負荷を測定した。ある実施例では、HA-C17-E2のDSは約0.54%であり、別の実施例では、HA-C17-E2のDSは約13.55%である。
【0140】
実施例5
【0141】
認知機能に対するヒアルロナンコンジュゲートの効果
【0142】
先行研究では、卵巣摘出術(OVX)または子宮卵巣摘出術(OHE)を受けた雌ラットでは、感覚運動皮質および海馬CA1領域における錐体ニューロンの樹状突起スパインが有意に減少し、認知障害が見られたことから、エストロゲンがラットの学習および記憶機能に何らかの役割を果たしていることが示唆されている。
【0143】
本実施例では、子宮卵巣摘出術(OHE)を受けた雌ラットに本発明のヒアルロナンコンジュゲートを投与した後、ラットの認知機能(学習や記憶など)を評価するために修正Morrison水迷路課題を行った。
【0144】
この実施例では、8週齢の雌のSprague-Dawley(SD)ラットを用いた。すべての動物を個別にケージに入れ、温度(24±1℃)、湿度(60%~65%)、光を制御した部屋(12/12時間の明暗サイクル)で、自由に餌と水を与えた。すべての実験手順は、National Science Council of Taiwanのガイドラインに基づき、National Chung-Hsing Universityの動物管理使用委員会(Animal Care and Use Committee)によって承認された。
【0145】
OHE手術では、ラットを7%抱水クロラールと2%キシラジン(0.45mL/100g体重)で深く麻酔し、OHE手術を行った。手術の2週間後に、ラットに試験薬を週2回、2週間投与し、手術の4週間後にラットを屠殺した。
【0146】
屠殺する5日前に、修正Morrison水迷路課題を開始した。迷路は、直径145cm、深さ22cmの黒い円形のプールで構成されていた。プールの縁には視覚的手がかり(星のカードボード)を1つ設置した。水面下3cmのところに丸い透明な台を置いた。動物の行動を、ビデオカメラで記録し、SMARTビデオ追跡システム(SMART 3.0V,Panlab,Havard Apparatus,Cambridge,UK)で分析した。
【0147】
逃避潜時(escape latency)を評価するために、ラットは1日2回の試行を3日連続で行った。ラットを、プールの壁に面した異なる象限にランダムに配置した。ラットは、180秒以内に脱出した場合は60秒間プラットフォーム上にそのまま留まらせ、180秒以内に水中プラットフォームを見つけられなかった場合は60秒間プラットフォーム上に置いた。1日2回の実験の間には、10分間の回復時間を設けた。その後の分析のために、1日2回の実験の逃避潜時を平均化した。
【0148】
空間プローブテストを実行するために、プール内のプラットフォームを取り除き、以前のプラットフォームの位置に応じて、仮想ターゲット象限と仮想プラットフォームを用いて、プールを設計した。最終的な逃避潜時課題および1日の休息の後、ラットをプールの壁に面した標的象限の対角線上の領域に入れた。ラットを30秒間泳がせ、遊泳経路を分析した。
【0149】
すべての実験データを、平均±SEMで表した。統計的有意性は、一元配置分散分析(ANOVA)とStudent-Newman-Keuls(SNK)の事後検定で検証した。差は、p値<0.05で統計的に有意であるとみなされた。
【0150】
1ラウンドのテストでは、OHEラットは、2×E2(280ng/kg体重;n=6)、1×HA-C17-E2(35μg/kg体重;DS:0.54%;140ng/kg E2に相当;n=5)、または1.5×HA-C17-E2(5.25μg/100g体重;DS:0.54%;210ng/kg E2に相当;n=5)で治療された。陽性および陰性対照として、OHEラット(n=6)、およびOHE手術を受けていない正常ラット(n=4)を用いた。
【0151】
図6A(遊泳距離)と図6B(遊泳時間)に要約された潜時テストの結果は、OHE手術がラットの学習機能に悪影響を及ぼすが、1×HA-C17-E2、1.5×HA-C17-E2、および2×E2の投与は、OHE群に関して統計的に有意にOHEラットの学習能力を改善する可能性があることを示している。
【0152】
空間プローブテストについて、図7A(標的象限での距離)および図7B(標的象限での時間)に提供されたデータは、1.5×HA-C17-E2の投与が、OHE治療群(#,p<0.05)、1×HA-C17-E2群(@,p<0.05)および2×E2群($,p<0.05)と比較してラットの記憶機能を有意に改善したことを示している。本実施例の予備データでは、2×E2は、2×E2に対して同等のE2が75%しかない1.5×HA-C17-E2と比較して、OHEラットの学習・記憶機能を促進する効果が低いことが示されているため、その後のテストでは、OHEラットに投与するE2の量をさらに増加させた。
【0153】
別のテストでは、OHEラットを2.5×E2(350ng/kg体重;n=16)または1.5×HA-C17-E2(52.5μg/kg体重;210ng/kg体重相当;n=16)で治療した。OHEラット(n=8)、およびOHE手術を受けていない正常ラット(n=8)を、陽性および陰性対照として使用した。
【0154】
図8A(遊泳距離)および図8B(遊泳時間)に要約された潜時テストは、OHE手術がラットの学習機能に悪影響を及ぼすが、1.5×HA-C17-E2および2.5×E2の投与は、3日目にOHE群に対して統計的に有意にOHEラットの学習能力を改善する可能性があることを示している(♯、p<0.05)。
【0155】
空間プローブテストについては、図9A(標的象限における距離)および図9B(標的象限における時間)に提供されたデータは、1.5×HA-C17-E2および2.5×E2の投与が、OHE治療群に対してラットの記憶機能を有意に改善したことを示している(♯,p<0.05)。
【0156】
2回目の実験では、1.5×HA-C17-E2または2.5×E2で治療したラットは、いずれも認知機能の有意な改善を示しているが、1.5×HA-C17-E2治療時の等価E2の量は、2.5×E2治療における60%に過ぎないことに留意すべきである。
【0157】
実施例6
【0158】
樹状突起の数とスパイン密度に対するヒアルロナンコンジュゲートの影響
【0159】
ラットを、7%の抱水クロラールと2%のキシラジン(5mL/kg体重)で深い麻酔をかけ、解剖台に固定した。細胞内色素注入および免疫組織化学的染色のための組織調製を、以下のように行った。簡単に説明すると、ラットを、0.1Mリン酸緩衝液(PB)中の2%パラホルムアルデヒド(pH7.3)で30分間、経心的に灌流した。脳を注意深く摘出し、ビブラトーム(Technical Products International,St.Louis,MO)を用いて、以下の2つの部分に切片化した:(1)細胞内色素注入用に海馬を含む350μm厚の冠状切片2枚;(2)免疫組織化学染色用に内側中隔(MS)核を含む10000μm厚の冠状切片と海馬を含む2000μm厚の冠状切片。免疫組織化学的染色のための厚い切片は、0.1MのPB中の4%パラホルムアルデヒドで1日間後固定した。細胞内色素注入用の切片を、0.1MPB中の10-7M4´,6-ジアミノ-2-フェニル-インドール(DAPI;Sigma-Aldrich,St.Louis,MO)に浸し、その後の処理に用いた。前脳基底核、大脳皮質、および海馬を含む新鮮な脳組織を、断頭により採取した。脳組織を、その後のタンパク質の定量のために、-70℃の冷蔵庫に保存した。
【0160】
図10Aおよび図10Bは、それぞれ、ラットにおける遠位尖端樹状突起および基底尖端樹状突起の写真を示す。図面に見られるように、OHE手術を受けていない対照ラットと比較して、OHEラットは樹状突起が少ない。一方、E2を2.5×HA-C17-Eおよび1.5×HA-C17-Eで治療したラットは、OHE治療ラットに比べて、樹状突起が多い。
【0161】
図11A(尖端部分)および図11B(基底部分)の定量的な結果は、OHE手術が対照ラットと比較してスパイン密度の低下に関連していることを示している(,p<0.05)。一方、1.5×HA-C17-E2と2.5×E2を投与すると、OHEラットと比較して、スパイン密度が有意に改善するが(♯,p<0.05)、1.5×HA-C17-E2で治療したラットは、2.5×E2で治療したラットに対して、スパイン密度がわずかに高いことがわかった。1.5×HA-C17-E2治療群に与えられたエストラジオールの量が、2.5×E2治療群に与えられた量のわずか60%であるという事実を考えると、このような結果が得られたことは予想外である。
【0162】
背側海馬を、各ラットの3つのセクションでランダムに選択した。海馬における樹状突起のスパイン密度を決定するために、CA1錐体細胞の遠位尖端および遠位基底樹状突起を分析した。海馬CA1領域の独立した5つの細胞と、各樹状突起からの3つのセグメントを10μmごとにランダムにカウントした。すべてのデータは、平均±SEMで表した。統計的有意性は、一元配置分散分析(ANOVA)に続き、スパイン密度についてはStudent-Newman-Keuls(SNK)事後(post-hoc)検定を用いて検定した。p<0.05で統計的に有意な差とした。
【0163】
実施例7
【0164】
感覚運動機能に対するヒアルロナンコンジュゲートの影響
【0165】
この実施例では、マウスの感覚運動機能に対する本発明のヒアルロナンコンジュゲートの効果を評価するために、ポールおよびビームトラバーサルテスト(ポールテスト)を実施した。
【0166】
BioLASCO Taiwan Co.Ltdから購入した8週齢の雄のC57BL/6マウス(1群あたりn=4~5)を、本テストに使用した。すべての動物を個別にケージに入れ、温度(24±1℃)、湿度(60%~65%)、光を制御した部屋(12/12時間の明暗サイクル)で、自由に餌と水を与えた。すべての実験手順は、National Science Council of Taiwanのガイドラインに基づき、National Chung-Hsing Universityの動物管理使用委員会(Animal Care and Use Committee)によって承認された。
【0167】
MPTP導入群において、メチル-4-フェニル-l,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP;20mg/kg)を1日目および5日目に1日4回、2時間間隔でマウスの腹腔内(i.p.)に投与した。5×E2(342ng/kg)および2.5×または5×HA-C17-E2コンジュゲート(1.96または3.92μg/kg体重;DS:13.55%;171または342ng/kg E2に相当)を、2日目および6日目に実験動物に静脈内投与した。偽群(Sham group)には、生理食塩水の腹腔内注射またはPBS緩衝液の静脈内注射を同様に行った。
【0168】
マウスは、MPTP導入の2日前に予備テストを行い、2日目と6日目に、薬物投与の4時間後にポールテストを行った。簡単に説明すると、長さ50cm、直径1cmのチューブを用い、チューブの上部にポールを取り付けた。動物は多くの場合、自然に下向きになり、ホームケージに戻るためにポールの長さを下ってくる。登って元のケージに戻ったマウスには「0」のスコアを付けた。一方、向きを変えずにポールと水平な姿勢を保ち、コークスクリューのようにはい降りた(Climbed down)マウスには「1」のスコアを付けた。結果は、IBM SPSS Statistical 20.0ソフトウェアの独立性のカイ二乗検定を用いて分析し、有意性はp<0.05に設定した。
【0169】
図12に要約した結果から、MPTP誘導はマウスの運動協調機能に悪影響を及ぼし(*、p<0.05)、5×E2の投与はMPTP治療マウスの運動協調機能を効果的に改善しないことがわかった。一方、2.5×または5×HA-C17-E2の投与は、MPTP治療マウスの運動協調機能を有意に改善した(*,p<0.05)。
【0170】
上記の実施例は、本発明のヒアルロナンコンジュゲートが樹状突起のスパイン密度を促進し、認知機能(学習や記憶など)を改善し、感覚運動機能を高めることができることを立証するいくつかのin vitroおよびin vivoの試験結果を提供する。これらの実験データは、本発明のヒアルロナンコンジュゲートが、マウスおよびラットにおける神経変性の発現を実際に防ぐことができることを示しており、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、てんかん、神経因性疼痛、または運動失調などの神経変性疾患を治療するための医薬品を開発するための有力な候補となり得る。
【0171】
上記した実施形態の記載は例示としてのみ行われ、様々な改変が当業者により行われ得ることが理解されるであろう。上記した明細書、実施例およびデータは、本発明の例示的実施形態の構造および使用の完全な説明を提供する。本発明の様々な実施形態を、ある程度の特殊性によりまたは1つ以上の個別の実施形態に関して記載したが、本発明の精神または範囲から逸脱することなく、当業者は、開示された実施形態に対して多数の変更を行うことができる。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12