(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 8/02 20060101AFI20230510BHJP
B43K 1/12 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
B43K8/02 150
B43K1/12 B
(21)【出願番号】P 2022084207
(22)【出願日】2022-05-24
(62)【分割の表示】P 2018050176の分割
【原出願日】2018-03-16
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】早川 尚利
(72)【発明者】
【氏名】飯島 達也
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-024691(JP,A)
【文献】実開平06-032083(JP,U)
【文献】登録実用新案第3131838(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 8/02
B43K 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともペン先と、前記ペン先を保持する保持部材と、を備えた筆記具であって、前記ペン先の前部が、横断面略長方形状を有するとともに先端部に紙面に接触する筆記部を備え、前記保持部材の先端部が、前記ペン先の前部を包囲する横断面略長方形状の保持部を備え、前記筆記部が前記保持部材の先端部から前方に突出され、
前記保持部材は、前記ペン先の横断面略長方形状の短辺側の前記保持部の両側壁の先端部に、筆記時に紙面に接触する一対の支持片を備え、前記ペン先の横断面略長方形状の長辺側の前記保持部の側壁に、前端が前方に開放され且つ後端が閉鎖された切り欠き状の開口部を備え、前記開口部により、筆記時にペン先が長辺側に撓み変形可能なことを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記開口部の幅が、前記ペン先の横断面略長方形状の長辺側の幅より大きい請求項1記載の筆記具。
【請求項3】
前記保持部材と接続される軸筒を備え、前記保持部材の後部は前記軸筒の前部に取り付けられ、前記保持部材の内面に第1の当接壁部が形成され、前記軸筒の内面に第2の当接壁部が形成され、前記第1の当接壁部と前記第2の当接壁部とにより、前記ペン先の外面が前後方向に挟持されてなる請求項1
又は2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記開口部の後端縁部は略直線状に形成され、前記筆記部の頂部は略直線状に形成され、前記後端縁部の軸線に対する角度は、前記筆記部の頂部の軸線に対する角度と略同一である請求項1乃至
3のいずれかに記載の筆記具。
【請求項5】
ペン先と、前記ペン先を保持する保持部材とを備えた筆記具であって、前記保持部材の先端より前記ペン先が前方に突出され、前記保持部材の先端部の側壁に、切り欠き状の開口部が形成され、前記開口部を介して、前記保持部材の先端より後方に位置する前記ペン先の一定の長手寸法部分の全幅方向が露出されてな
り、前記保持部材は、前記ペン先の全幅方向側の前記保持部の両側壁の先端部に、筆記時に紙面に接触する一対の支持片を備えることを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。詳細には、少なくともペン先と、前記ペン先を保持する保持部材とを備えたマーキングペン等の筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の筆記具において、例えば、特許文献1には、筆記部を形成したペン体を、軸筒の先端部に配している筆記具において、前記ペン体は、筆記に伴い軸筒に加えられる力により、その筆記部全体が筆記面に接触するように傾動自在に支持されている筆記具が記載されている。
【0003】
なお、
図11及び
図12は、従来の筆記具によって紙面に筆記する際の状態1を示し、
図13及び
図14は従来の筆記具によって紙面に筆記する際の状態2を示している。前記状態1とは、筆記部が紙面に接触する長辺の延長線に沿う方向から筆記具全体を見たときに、筆記角度θ(すなわち、筆記具の軸線と紙面との角度)が略90度となっている状態を指し、前記状態2とは、筆記部が紙面に接触する長辺の延長線に沿う方向から筆記具全体を見たときに、紙面に対して筆記具の軸線が傾いている(例えば、筆記角度θが略30度から略60度となっている)状態を指す。実際に筆記する際には、状態1及び状態2のどちらの状態にもなり得る。
【0004】
なお、
図11乃至
図14は、筆記時における筆記具の姿勢(すなわち、筆記角度θや筆記時に筆記具が移動する進行方向Dなど)を示しているのみで、特許文献1に記載されている構造等は省略してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1において、前記状態1の場合は、筆記に伴い軸筒に加えられる紙面に対する垂直方向の力Fが、ペン体が傾動する仮想平面P内に存在する。すなわち、筆記に伴い軸筒に加えられる紙面に対する垂直方向の力Fが、そのままペン体が傾動するための力として作用する。これにより、筆記部全体が筆記面に接触するようにペン体が傾動するので、一定幅の描線を容易に描くことができる。
【0007】
しかしながら、前記状態2の場合は、筆記に伴い軸筒に加えられる紙面に対する垂直方向の力Fが、ペン体が傾動する仮想平面P内に存在しない。すなわち、筆記に伴い軸筒に加えられる紙面に対する垂直方向の力Fのうち、一部しかペン体が傾動するための力として作用しない。これにより、ペン体が適正に傾動することが困難となり、筆記部の全体ではなく筆記部の一部のみが筆記面に接触した状態で筆記することになるおそれがある。
【0008】
さらに、状態2で進行方向Dに筆記具を移動させる場合は、ペン体に対して軸筒とは反対方向の力(すなわち、ペン体が引っ張られる方向の力)が加わる。ペン体が傾動するために必要な力と、ペン体が引っ張られる方向の力とは力の向きが逆である。これにより、ペン体が適正に傾動することが困難となり、筆記部の一部のみが筆記面に接触した状態(筆記部全体が紙面に接触しない状態)で筆記することになるおそれがある。
【0009】
以上の様に、状態2の場合は、傾動機構が適切に作動せず、筆記部全体が筆記面に接触するようにペン体が傾動できないため、一定幅の描線を描くことが困難となるおそれがある。
【0010】
また、インキ吸蔵体に、これに挿入されたペン体のインキ誘導部の傾動を許容する傾動許容溝を形成しているので、ペン体のインキ誘導部とインキ吸蔵体の接触状態が、筆記をする度に変化し接触状態が不安定となるため、ペン体からの安定したインキ吐出が得られないおそれがある。
【0011】
本発明は、前記従来の問題点を解決するものであって、ペン先の紙面に対する角度によらず、筆記部全体が紙面に接触し、一定の線幅が確実に得られる筆記具を提供しようとするものである。なお、本発明において、「前」とは、ペン先側を指し、「後」とは、その反対側を指す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の第1の発明は、少なくともペン先と、前記ペン先を保持する保持部材と、を備えた筆記具であって、前記ペン先の前部が、横断面略長方形状を有するとともに先端部に紙面に接触する筆記部を備え、前記保持部材の先端部が、前記ペン先の前部を包囲する横断面略長方形状の保持部を備え、前記筆記部が前記保持部材の先端部から前方に突出され、前記ペン先の横断面略長方形状の長辺側の前記保持部の側壁に、前端が前方に開放され且つ後端が閉鎖された切り欠き状の開口部を備え、前記開口部により、筆記時にペン先が長辺側に撓み変形可能なことを要件とする。
【0013】
前記第1の発明の筆記具は、前記ペン先の前部が、横断面略長方形状を有するとともに先端部に紙面に接触する筆記部を備え、前記保持部材の先端部が、前記ペン先の前部を包囲する横断面略長方形状の保持部を備え、前記筆記部が前記保持部材の先端部から前方に突出され、前記ペン先の横断面略長方形状の長辺側の前記保持部の側壁に、前端が前方に開放され且つ後端が閉鎖された切り欠き状の開口部を備え、前記開口部により、筆記時にペン先が長辺側に撓み変形可能なことより、ペン先の紙面に対する角度によらず、筆記部全体が紙面に接触し、一定の線幅が確実に得られる。
【0014】
本願の第2の発明は、前記第1の発明の筆記具において、前記開口部の幅が、前記ペン先の横断面略長方形状の長辺側の幅より大きいことを要件とする。
【0015】
前記第2の発明の筆記具は、前記開口部の幅が、前記ペン先の横断面略長方形状の長辺側の幅より大きいことより、筆記時にペン先が、より確実に長辺側に撓み変形可能となり、ペン先の紙面に対する角度によらず、筆記部全体が紙面に接触し、一定の線幅が確実に得られる。
【0016】
本願の第3の発明は、前記第1又は第2の発明の筆記具において、前記保持部材は、前記ペン先の横断面略長方形状の短辺側の前記保持部の両側壁の先端部に、筆記時に紙面に接触する一対の支持片を備えることを要件とする。
【0017】
前記第3の発明の筆記具は、
前記保持部材は、前記ペン先の横断面略長方形状の短辺側の前記保持部の両側壁の先端部に、筆記時に紙面に接触する一対の支持片を備えることより、一対の支持片が紙面に接触することで撓み過ぎによるペン先の損傷を防ぎ、また、一対の支持片が紙面に接触することで筆記部全体が紙面に接触している筆圧の目安とすることができる。
【0018】
また、一対の支持片が紙面に接触することで、定規等を使用して紙面に線を引く場合に、支持片が定規等に当たり、定規等にペン先が接触しないためインキによる定規汚れを防ぐことができ、また定規に付着していた汚れがペン先に移ることによる筆記時の筆跡汚れを防ぐことができる。
【0019】
本願の第4の発明は、前記第1乃至3のいずれかの発明の筆記具において、前記保持部材と接続される軸筒を備え、前記保持部材の後部は前記軸筒の前部に取り付けられ、前記保持部材の内面に第1の当接壁部が形成され、前記軸筒の内面に第2の当接壁部が形成され、前記第1の当接壁部と前記第2の当接壁部とにより、前記ペン先の外面が前後方向に挟持されてなることを要件とする。
【0020】
前記第4の発明の筆記具は、前記保持部材と接続される軸筒を備え、前記保持部材の後部は前記軸筒の前部に取り付けられ、前記保持部材の内面に第1の当接壁部が形成され、前記軸筒の内面に第2の当接壁部が形成され、前記第1の当接壁部と前記第2の当接壁部とにより、前記ペン先の外面が前後方向に挟持されてなることより、保持部材からのペン先の抜け落ち又は保持部材(前軸)への埋没を防止できるとともに、ペン先の保持部材からの突出量を正確に維持することができる。
【0021】
本願の第5の発明は、前記第1乃至4のいずれかの発明の筆記具において、前記開口部の後端縁部は略直線状に形成され、前記筆記部の頂部は略直線状に形成され、前記後端縁部の軸線に対する角度は、前記筆記部の頂部の軸線に対する角度と略同一である
ことを要件とする。
【0022】
前記第5の発明の筆記具は、
前記開口部の後端縁部は略直線状に形成され、前記筆記部の頂部は略直線状に形成され、前記後端縁部の軸線に対する角度は、前記筆記部の頂部の軸線に対する角度と略同一であることより、ペン先が撓むことによるペン先への負荷がペン先の前部に均一に掛かり、ペン先の損傷をより防ぐことができる。
【0023】
前記後端縁部の軸線に対する角度とは、後端縁部と軸線とが成す角度のうち、90度以下を示す部分の角度を指し、前記筆記部の頂部の軸線に対する角度とは、頂部と軸線とが成す角度のうち、90度以下を示す部分の角度を指す。また、これら両角度が略同一であることは、言い換えれば、後端縁部と頂部とが略平行であることを表している。また、これら角度は30度以上90度以下で設定され、好ましくは45度以上90度以下で設定される。
【0024】
本願の第6の発明は、前記第1乃至5のいずれかの発明の筆記具において、前記ペン先は、繊維ペン先、フェルトペン先、連続気泡を有する多孔質体からなるペン先、軸方向の毛細管通路を有するプラスチックペン先のいずれかであることを要件とする。
【0025】
前記第6の発明の筆記具は、前記ペン先は、繊維ペン先、フェルトペン先、連続気泡を有する多孔質体からなるペン先、軸方向の毛細管通路を有するプラスチックペン先のいずれかであることより、ペン先が柔軟性を有しており、より確実に長辺側に撓み変形可能となり、ペン先の紙面に対する角度によらず、筆記部全体が紙面に接触し、一定の線幅が確実に得られる。
【0026】
本願の第7の発明は、前記第1乃至6のいずれかの発明の筆記具において、前記軸筒の外面に、前記ペン先の向きを識別する方向識別部を備えることを要件とする。
【0027】
前記第7の発明の筆記具は、前記軸筒の外面に、前記ペン先の向きを識別する方向識別部を備えることより、筆記する直前にペン先の向きを目視により確認する必要がなく、ペン先を露出させた後、即座に筆記使用することができる。
【0028】
本願の第8の発明は、ペン先と、前記ペン先を保持する保持部材とを備えた筆記具であって、前記保持部材の先端より前記ペン先が前方に突出され、前記保持部材の先端部の側壁に、切り欠き状の開口部が形成され、前記開口部を介して、前記保持部材の先端より後方に位置する前記ペン先の一定の長手寸法部分の全幅方向が露出されてなることを要件とする。
【0029】
前記第8の発明の筆記具は、前記保持部材の先端より前記ペン先が前方に突出され、前記保持部材の先端部の側壁に、切り欠き状の開口部が形成され、前記開口部を介して、前記保持部材の先端より後方に位置する前記ペン先の一定の長手寸法部分の全幅方向が露出されてなることより、ペン先の紙面に対する角度によらず、筆記部全体が紙面に接触し、一定の線幅が確実に得られる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の筆記具によれば、ペン先の紙面に対する角度によらず、筆記部全体が紙面に接触し、一定の線幅を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図5】
図5(a)は、本発明の実施の形態の保持部材の縦断面図である。
図5(b)は、
図5(a)のB-B線断面図である。
図5(c)は、
図5(a)のC-C線断面図である。
【
図6】
図6(a)は、本発明の実施の形態のペン先の正面図である。
図6(b)は、ペン先の斜視図である。
【
図8】
図1の筆記具が非筆記時において、筆記部が紙面に接触する長辺の延長線に沿う方向から筆記具全体を見たときの要部拡大図である。
【
図9】
図1の筆記具が筆記時において、筆記部が紙面に接触する長辺の延長線に沿う方向から筆記具全体を見たときの要部拡大図である。
【
図10】
図1の筆記具が筆記時において、筆記部が紙面に接触する短辺の延長線に沿う方向から筆記具全体を見たときの要部拡大図である。
【
図11】従来の筆記具によって紙面に筆記する際の状態1を、筆記部が紙面に接触する長辺の延長線に沿う方向から筆記具全体を見た正面図である。
【
図13】従来の筆記具によって紙面に筆記する際の状態2を、筆記部が紙面に接触する長辺の延長線に沿う方向から筆記具全体を見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施の形態について図面に従って説明する。
【0033】
図1乃至
図10に本発明・筆記具1の実施の形態を示す。
【0034】
筆記具1は、主に、ペン先2と、ペン先2を保持した保持部材3と、インキ吸蔵体6と、インキ吸蔵体6を内部に収容した前軸4及び後軸5とからなる。そして、保持部材3が、前軸4の保持部材嵌合部44に圧入嵌合される。
【0035】
・ペン先
ペン先2は、連続気泡を有する多孔質体からなり、その一端部が、筆記部21として保持部材3の先端部から前方に突出されるとともに、その他端部(後部25)が、インキ吸蔵体6の一端部と突き刺し状に接続される。なお、筆記部21は、チゼル形状に研削加工される。また、筆記部21は、チゼル形状に限らず、砲弾形状、長方形状、四角柱形状、板状形状等の目的に応じた形状に研削加工してもよい。なお、本発明の筆記具1の形態は、図示例に限らず、インキ吸蔵体6の両端に相異なる形態のペン体を装着させた両頭式筆記具であってもよい。
【0036】
また、
図8及び
図9に示すように、筆記部21が紙面7に接触する長辺の延長線に沿う方向から筆記具1全体を見たとき、ペン先2の筆記部21は、頂部22に凸曲面状のR形状を備える事が好ましい。本発明は、ペン先2が撓むことにより、ペン先の紙面7に対する角度によらず、筆記部全体が紙面7に接触し、一定の線幅を確実に得ることができるため、頂部22が確実に紙面7に接触するために頂部22はR形状が好ましい。
【0037】
ペン先2は、
図4及び
図6に示すように、先端に筆記部21を有する前部23と、保持部材3と前軸4により外面を前後方向に挟持される円筒状の中央部24と、インキ吸蔵体6の一端部と突き刺し状に接続される円筒状の
後部25と、を備える。ペン先2の前部23は、横断面略長方形状を有するとともに、筆記時にペン先2の前部23は、横断面略長方形状の長辺側に撓み変形可能な可撓性を有する。
【0038】
ペン先2は、連続気泡を有する合成樹脂の多孔質体からなる。前記ペン先2は、これ以外にもインキが流通可能で可撓性を有するものであればよく、具体的には、繊維ペン先、フェルトペン先、毛筆ペン先、軸方向の毛細管通路を有するプラスチックペン先等が挙げられる。
【0039】
・インキ吸蔵体
インキ吸蔵体6は、インキを含浸可能な連続気孔を有する部材からなるものであればよく、例えば、繊維束の熱融着加工体、繊維束の樹脂加工体、フェルトの樹脂加工体、フェルトのニードルパンチ加工体、多孔質体(例えば、スポンジ等の合成樹脂の連続気泡体)等が挙げられる。また、インキ吸蔵体6は、その外周面に合成樹脂フィルム等よりなる外皮を備える構成でもよい。
【0040】
・前軸
前軸4は、両端部が開口された、合成樹脂の射出成形または押出成形により得られる筒状体である。
図4に示すように、前軸4の前端部内面には、保持部材3の後端部外面(第4のリブ37d)が圧入嵌合される保持部材嵌合部44が形成される。また、前軸4の保持部材嵌合部44の後方内周面には、軸方向に延びる複数本(ここでは8本)の縦リブ43が等間隔に一体に形成される。保持部材3の第1の当接壁部36と、前記縦リブ43の前端の第2の当接壁部41とにより、ペン
先2の中央部24を前後方向に挟持する。これにより、保持部材3からのペン先2の抜け落ち又は保持部材3(前軸4)への埋没を防止できるとともに、ペン先2の保持部材3からの突出量を正確に規制することができる。また、縦リブ43の後端の第3の当接壁部42は、インキ吸蔵体6の前端部を前後方向に挟持する。
【0041】
前軸4の後端部に連結される後軸5は、前端が開口され且つ後端が閉塞された、底壁と周壁とからなる円筒状の有底筒体であり、合成樹脂(例えば、ポリプロピレン等)の射出成形により得られる。前記前軸4は、前記後軸5と螺合又は圧入により気密嵌合される。
【0042】
前軸4は、外面にペン先2の向きを識別する軸方向に延びる突起よりなる方向識別部45を備える。これにより、筆記する直前にペン先2の向きを目視により確認する必要がなく、ペン先2を露出させた後、即座に筆記使用することができる。
【0043】
・保持部材
保持部材3は、両端部が開口された、合成樹脂の射出成形により得られる筒状体である。
図5に示すように、保持部材3の長辺側の両側壁内面には、ペン先2の前部23が圧入嵌合される、軸方向に延びる複数本(ここでは2本)の一対の第1のリブ37aが形成される。保持部材3の短辺側の両側壁内面には、後述する支持片35を補強する、軸方向に延びる複数本(ここでは2本)の一対の第2のリブ37bが形成される。
図7に示すように、第2のリブ37bはペン先2の前部23に非接触であることが好ましいが、接触しても構わない。なお、第2のリブ37bがペン先2の前部23に非接触である場合は、支持片35を補強するだけでなく、よりペン先2の筆記部21の可撓性を高めることができる。
【0044】
筆記時、ペン先2が撓んだ際に、後端縁部34に接触する前にペン先2の前部23側面は、第1のリブ37aの前端に支持される。第1のリブ37a及び第2のリブ37bの前端は面取り又は凸曲面状のR形状が設けられる。これにより、ペン先2が撓んだ際に、第1のリブ37a及び第2のリブ37bの前端によって、ペン先2の前部23に過度な負荷が掛かる事を防ぐことができる。また、これにより、ペン先2が撓んだ際に、ペン先2の前部23と後述の後端縁部34とが接触することを防ぎ、ペン先2の折れや損傷を確実に防ぐことができる。
【0045】
保持部材3の後端部の横断面円形状の内面には、ペン先2の中央部24が圧入嵌合される軸方向に延びる複数本(ここでは4本)の第3のリブ37cが等間隔に形成される。保持部材3の後端部の横断面円形状の外面には、前軸4の保持部材嵌合部44に圧入嵌合される軸方向に延びる複数本(ここでは6本)の第4のリブ37dが等間隔に形成される。なお、第4のリブ37dと前軸4の保持部材嵌合部44によって形成される連通孔は、空気流通孔として機能し、ペン先2からの円滑なインキ吐出を可能とする。
【0046】
図2又は
図3に示すように、保持部材3は、先端部にペン先2の前部23を包囲する横断面略長方形状の保持部31を備え、筆記部21が保持部材3の先端部から前方に突出する。また、保持部材3は、ペン先2の横断面略長方形状の長辺側の保持部31の両方の側壁32に、前端が前方に開放され且つ後端が閉鎖され、幅がペン先2の横断面略長方形状の長辺側の幅より大きい切り欠き状の開口部33を備える。これにより、ペン先2の前部23が筆記時に長辺側に撓み変形可能となり、ペン先2の紙面7に対する角度によらず、筆記部全体が紙面7に接触し、一定の線幅が確実に得られる。
【0047】
前記開口部33は保持部31の片方の側壁32のみに設けても構わないが、両方の側壁32に設けることにより、使用者が左利き又は右利きに関わらず、適切な方向に撓むことが可能となり、より利便性が高まる。
【0048】
また、使用者が右利きの場合でも、筆記部21の長辺側を使って横方向に左から右に向かって線を引く場合だけでなく、横方向に右から左に向かって線を引く場合も想定される。その場合は、開口部33を保持部31の両方の側面32に設けることにより、適切な方向に撓むことが可能となり、より利便性を高めることができる。
【0049】
保持部材3は、ペン先2の横断面略長方形状の短辺側の保持部31の両側壁の先端部に、筆記時に紙面7に接触する、開口部33の後端縁部34より前方に突出した一対の支持片35を備える。
図10に示すように、一対の支持片35が紙面7に接触することにより、ペン先2の撓み過ぎによる折れや損傷を防ぎ、また、筆記部全体を紙面に接触させることができる。なお、支持片35は、前方に向かうに従って先細状となり、その前端に凸曲面が形成されている。
【0050】
また、一対の支持片35が紙面7に接触することで、定規等を使用して紙面7に線を引く場合に、支持片35が定規等に当たり、定規等にペン先2が接触しないためインキによる定規汚れを防ぐことができ、また定規に付着していた汚れが筆記部21に移ることによる筆記時の筆跡汚れを防ぐことができる。
【0051】
また、保持部材3が一対の支持片35を有する事で、ペン先2を筆記具1のキャップ等に挿入する際に、ペン先2がキャップ内面に接触することによるキャップ内面へのインキ付着を防ぐことができる。なお、キャップ内面へインキが付着すると、筆記具1にキャップを嵌合させた際に、キャップ内面に付着したインキが前軸4の外面に転写付着される。それにより、使用者が再度キャップを外して筆記具1の前軸4を把持した際にインキで手を汚す恐れがある。
【0052】
図8に示すように、筆記具1が非筆記時においては、筆記部21及び支持片35は筆記具1の略軸線上に位置している。一方、
図9に示すように、筆記具1が筆記時において、紙面7に接触する長辺の延長線に沿う方向から筆記具全体を見た場合、筆記部21(頂部22)が筆記具1の軸線上から外れている。すなわち、ペン先2の筆記部21が長辺側に撓み変形している。これにより、ペン先2の紙面7に対する角度によらず、筆記部21全体が紙面7に接触し、一定の線幅が確実に得られる。
【0053】
また、
図8に示すように、ペン先2の頂部22は、支持片35の先端部から前方に突出し、その突出量は、0.2mmより大きく5.0mmより小さいこと、好ましくは、0.5mmより大きく2.0mmより小さいことが有効である。好ましい範囲内で突出量が小さいほど剛性感のあるしっかりとした筆感が得られ、好ましい範囲で突出量が大きいほど柔らかな筆感が得られる。
【0054】
後端縁部34には、面取り又はRが設けられる。特に少なくともペン先2が接触する可能性があるペン先2側の縁に、面取り又Rが設けられることが好ましい。これにより、ペン先2が過度に撓んだ場合は、後端縁部34に接触する可能性があるが、その際でもペン先2の前部23に掛かる負荷を最小限に抑えることができ、ペン先2の折れや損傷をより確実に防ぐことができる。
【0055】
図2に示すように、開口部33の後端縁部34は略直線状に形成され、筆記部21の頂部22は略直線状に形成され、後端縁部34の軸線に対する角度は、筆記部21の頂部22の軸線に対する角度と略同一であることより、ペン先2が過度に撓むことによる後端縁部34のペン先2への負荷が、ペン先2の前部23に均一に掛かり、ペン先2の折れや損傷を確実に防ぐことができる。
【0056】
前記後端縁部34の軸線に対する角度とは、後端縁部34と軸線とが成す角度のうち、90度以下を示す部分の角度を指し、前記筆記部21の頂部22の軸線に対する角度とは、頂部22と軸線とが成す角度のうち、90度以下を示す部分の角度を指す。また、これら両角度が略同一であることは、言い換えれば、後端縁部34と頂部22とが略平行であることを表している。また、これら角度は30度以上90度以下で設定され、好ましくは45度以上90度以下で設定される。
【0057】
図2に示すように、筆記部21が紙面に接触する短辺の延長線に沿う方向から筆記具全体を見たときに、保持部材3から露出したペン先2の形状は、略平行四辺形若しくは長方形である。これにより、筆記部21の研削方向(すなわちペン先の形状)が後端縁部34の形状で把握できるため、筆記する直前にペン先2の向きのみで方向を確認する必要がなく、ペン先2を露出させた後、即座に筆記使用することができる。
【0058】
また、保持部材3の色は、ペン先2の色(すなわちインキ色)と異なることがより好ましい。これにより、後端縁部34の向きがより際立ち、筆記部21の研削方向(すなわちペン先の形状)をより確認しやすくなる。なお、ペン先2自体を黒等の暗い色で着色し、保持部材3をペン先2とは異なる明るい色で着色した場合は、より一層後端縁部34の向きが際立ち、筆記部21の研削方向(すなわちペン先の形状)をより確認しやすくなる。
【符号の説明】
【0059】
1 筆記具
2 ペン先
21 筆記部
22 頂部
23 前部
24 中央部
25 後部
3 保持部材
31 保持部
32 側壁
33 開口部
34 後端縁部
35 支持片
36 第1の当接壁部
37a 第1のリブ
37b 第2のリブ
37c 第3のリブ
37d 第4のリブ
4 前軸
41 第2の当接壁部
42 第3の当接壁部
43 縦リブ
44 保持部材嵌合部
45 方向識別部
5 後軸
6 インキ吸蔵体
7 紙面
D 進行方向
F 筆記に伴い軸筒に加えられる紙面に対する垂直方向の力
P ペン体が傾動する仮想平面
θ 筆記角度