IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アグフア−ゲヴエルト,ナームローゼ・フエンノートシヤツプの特許一覧

<>
  • 特許-アルカリ水電解用セパレータ 図1
  • 特許-アルカリ水電解用セパレータ 図2a-2b
  • 特許-アルカリ水電解用セパレータ 図3
  • 特許-アルカリ水電解用セパレータ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】アルカリ水電解用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/08 20060101AFI20230510BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20230510BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20230510BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230510BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230510BHJP
【FI】
C25B13/08 301
C25B13/04 301
C25B9/19
C25B9/00 A
C25B1/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022500578
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2020067996
(87)【国際公開番号】W WO2021004811
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-01-05
(31)【優先権主張番号】19184571.8
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】593194476
【氏名又は名称】アグフア-ゲヴエルト,ナームローゼ・フエンノートシヤツプ
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムース,ヴィレム
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-513927(JP,A)
【文献】国際公開第2019/011844(WO,A1)
【文献】特表2015-520294(JP,A)
【文献】U. F. Vogt et al.,Membranes Development for Alkaline Water Electrolysis,4th European PEFC & H2 Forum,スイス,2013年07月02日,pp.1-21,http://www.elygrid.com/wp-content/uploads/2015/09/EFCF-2013_A0704_GorbarVogt_presentation-final.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 13/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質親水性ポリマー層(20)を含んでなり、さらに多孔質支持体(10)を含んでなる、アルカリ水電解用のセパレータ(1)であって、前記多孔質親水性ポリマー層はポリマー樹脂および親水性無機粒子を含んでなり、前記無機粒子が0.3μm以下の粒子サイズD50を有する硫酸バリウム粒子であることを特徴とする、前記セパレータ。
【請求項2】
硫酸バリウム粒子の量が、ポリマー樹脂の総量に対して少なくとも50重量%である請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
多孔質支持体(10)の両側に隣接する2つの多孔質親水性ポリマー層(30,40)を含んでなる請求項に記載のセパレータであって、多孔質親水性ポリマー層がポリマー樹脂および0.3μm以下の粒子サイズD50を有する硫酸バリウム粒子を含んでなる、セパレータ。
【請求項4】
ポリマー樹脂がポリスルホン、ポリエーテルスルホンおよびポリフェニルスルホンからなる群から選択される請求項1に記載のセパレータ。
【請求項5】
多孔質親水性層が0.05から2μmの間の最大孔径を有する請求項1に記載のセパレータ。
【請求項6】
-ポリマー樹脂、0.3μm以下の粒子サイズD50を有する硫酸バリウム粒子および溶媒を含んでなるドープ液を基材に適用し、
-適用したドープ液を転相させる
工程を含んでなり、前記基材が多孔質支持体である、請求項1に定めるアルカリ水電解用のセパレータの調製法。
【請求項7】
ドープ液が多孔質支持体の両側に適用される請求項に記載の方法。
【請求項8】
ドープ液の溶媒がN-メチル-2-ピロリドン(NMP),N-エチル-ピロリドン(NEP),N-ブチル-ピロリドン(NBP),N,N-ジメチルホルムアミド(DMF),ホルムアミド,ジメチルスルホキシド(DMSO),N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、アセトニトリル、およびそれらの混合物から選択される請求項に記載の方法。
【請求項9】
ドープ液がさらにポリビニルピロリドンまたはグリセロールを含んでなる請求項に記載の方法。
【請求項10】
転相工程が、蒸気誘起相分離(VIPS)工程および液体誘起転相(LIPS)工程を含む請求項に記載の方法。
【請求項11】
LIPS工程が水を含んでなる凝固浴中で行われる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
多孔質支持体が、適用工程および転相工程で垂直位置で輸送される請求項に記載の方法。
【請求項13】
カソードとアノードの間に位置する請求項1に定めるセパレータを含んでなるアルカリ水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解用のセパレータおよびそのようなセパレータの生産法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、水素は幾つかの工業的プロセスに使用されている。例えば化学工業におけるその原料としての、および冶金工業における還元剤としての使用である。水素はアンモニア、したがって肥料の、および多くのポリマーの製造で使用されるメタノールの製造用の基本的構成要素である。水素が中間石油生成物の加工に使用される製油所は、別の使用分野である。
【0003】
水素はまた、重要な将来のエネルギーキャリアと考えられており、これはエネルギーを使用できる形で貯蔵し、そして送達できることを意味する。エネルギーは酸素との発熱燃焼反応により放出され、これにより水を形成する。そのような燃焼反応中、炭素を含む温室効果ガスは排出されない。
【0004】
再生可能エネルギーからの電気の生産が増加すると、エネルギーの貯蔵および輸送の必要も増加する。多くのこのような供給源、特に太陽光および風力は人口の中心地から離れ、そして電気を一部の時間で生産するだけである。水素はこのエネルギーの完全なキャリアとなり得る。水素はエネルギーを貯蔵し、そして必要な所にどこへでも分配できる。
【0005】
アルカリ水電解は、水素の重要な製造プロセスである。
【0006】
アルカリ水電解電池では、所謂セパレータまたはダイアフラムが使用されて異なる極性の電極を分離し、これら電子導電部(電極)間の短絡を防ぎ、そしてH2(カソードで形成された)とO2(アノードで形成された)との再結合をガスのクロスオーバーを回避することにより防ぐ。これらの機能全てを提供すると同時に、セパレータはカソードからアノードへOH-を輸送する高度なイオン伝導体でもあるべきである。
【0007】
特許文献1(ハオドローゲン システムズ:Hydrogen Systems)は、有機布をドープ液に浸漬することにより調製されたイオン透過性ダイアフラムを開示し、これがガラスシートに適用される。転相(phase inversion)後、ダイアフラムは次いでガラスシートから取り出される。しかし特許文献1で開示された方法に従い調製されたセパレータの両側の最大孔径間には大きな差が存在する。
【0008】
特許文献2(VITO)は、イオン透過性ウェッブ強化セパレータ膜の調製法を開示する。この方法は対称的な特性を持つ膜を導く。方法にはウェッブおよび適切なドープ液を準備し、ウェッブを垂直位置で誘導し、ウェッブの両側をドープ液で等しく
コーティングしてドープコーティングウェッブを生成し、そして対称的な表面孔形成工程および対称的な凝固工程をドープコーティングウェッブに適用して、ウェッブ強化膜を生成する工程を含む。
【0009】
特許文献3および4(アグファ ゲバートおよびVITO)は、特許文献2に記載された対称的特徴を持つ膜を生成する製造法を開示する。
【0010】
アルカリ水電解用のセパレータを製造するために使用される典型的なドープ液は、親水性無機粒子を含んでなる。最も一般的に使用される親水性無機粒子は、酸化ジルコニウム
粒子である。
【0011】
しかし酸化ジルコニウムに基づくセパレータの欠点は、それらの高い経費である。
【0012】
このようにアルカリ水電解を介する水素生産の費用対効果をより高くする、高品質であるが廉価なセパレータの必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許出願公開第0232923(A)号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1776490(A)号明細書
【文献】国際公開第2009/147084号パンフレット
【文献】国際公開第2009/147086号パンフレット
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、より費用効果のある水素生産をもたらすアルカリ水電解用のセパレータを提供することである。
【0015】
この目的は、請求項1に定めるセパレータで実現される。
【0016】
本発明のさらなる目的は、以下記載から明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明によるセパレータの態様を概略的に示す。
図2】本発明によるセパレータの別の態様を概略的に示す。
図3】本発明によるセパレータの製造法の態様を概略的に示す。
図4】本発明によるセパレータの製造法の別の態様を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
アルカリ水電解用のセパレータ
本発明によるアルカリ水電解用のセパレータ(1)は、多孔質親水性層(20)を含んでなり、多孔質親水性層はポリマー樹脂および親水性無機粒子を含んでなり、無機粒子が0.7μm以下の粒子サイズD50を有する硫酸バリウム粒子であることを特徴とする。
【0019】
好適なセパレータは、さらに多孔質支持体(10)を含んでなる。そのようなセパレータは強化セパレータと呼ばれることが多い。
【0020】
好適なセパレータは、多孔質支持体(10)の両側に隣接する2つの多孔質親水性層(30b、40b)を含んでなる。2つの層は同じでも異なってもよい。好ましくは両層が同じである。
【0021】
以下により詳細に記載する好適なセパレータは、多孔質支持体の少なくとも1つの表面に、ポリマー樹脂、硫酸バリウム粒子および溶媒を含んでなる一般にはドープ液と呼ばれるコーティング溶液を適用することにより調製される。次いで多孔質親水性層が転相工程後に得られ、ここでポリマー樹脂は三次元の多孔質ポリマーネットワークを形成する。
【0022】
ドープ液の多孔質支持体表面への適用で、ドープ液が多孔質支持体に含浸する。多孔質支持体はドープ液で完全に含浸されることが好ましい。
【0023】
2つのドープ液が多孔質支持体の両面に適用される場合、両ドープ液が支持体に含浸する。またこの態様では、完全に含浸した多孔質支持体が好ましい。
【0024】
転相後、多孔質支持体の含浸は三次元の多孔質ポリマーネットワークが多孔質基材中にも広がることが確実になる。これにより多孔質親水性層の多孔質支持体への良好な接着をもたらす。
【0025】
好適なセパレータ(1)は、図2に概略的に示される。
【0026】
図2aでは、ドープ液が多孔質支持体(10)の両側に適用され、そして多孔質支持体は適用されたドープ液に完全に含浸されている。ドープ液は好ましくは同じである。適用されたドープ層は30aおよび40aと呼ばれる。
【0027】
転相工程(50)後、図2bで示すようにセパレータが得られ、多孔質支持体(10)、および支持体の両側に多孔質親水性層(30b、40b)を含んでなる。
【0028】
セパレータの孔径は、ガスのクロスオーバーを回避することによりH2とO2の再結合を防止するために十分に小さくなければならない。一方、カソードからアノードへのOH-イオンの効率的輸送を確実とするために、より大きい孔径が好ましい。OH-イオンの効率的輸送には、電解質のセパレータへの効率的浸透が必要となる。
【0029】
セパレータの最大孔径(PDmax)は、好ましくは0.05から2μmの間、より好ましくは0.10から1μmの間、最も好ましくは0.15から0.5μmの間である。
【0030】
セパレータの両側は、同一または異なる最大孔径を有することができる。
【0031】
両側が同一の孔径を有する好適なセパレータは、欧州特許出願公開第1776480(A)号明細書および国際公開第2009/147084号パンフレットに開示されている。
【0032】
両側が異なる孔径を有する好適なセパレータは、国際特許出願(PCT)/欧州特許2018/068515号明細書(2018年9月7日出願)に開示されている。
【0033】
言及される孔径は、以下に記載するバブルポイント試験法を使用して測定されることが好ましい。その試験法は米国試験材料協会規格(ASMT)方法F316に記載されている。
【0034】
セパレータの孔性は、好ましくは30から70%の間、より好ましくは40から60%の間である。
【0035】
セパレータの厚さは、好ましくは100から1000μmの間、より好ましくは200から750μmの間である。セパレータの厚さが100μm未満ならば、その物理的強度が不十分となる可能性があり、厚さが1000μmより高い場合、電解効率が下がる可能性がある。
【0036】
多孔質支持体
多孔質支持体は、セパレータの機械的強度を確実にするためにセパレータを強化するた
めに使用される。
【0037】
多孔質支持体は、多孔質の布、多孔質金属板および多孔質セラミック板からなる群から選択されることができる。
【0038】
多孔質支持体は、好ましくは多孔質の布、より好ましくは多孔質ポリマーの布である。
【0039】
適切な多孔質ポリマーの布は、ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE),ポリスルホン(PS),ポリフェニレンスルフィド(PPS),ポリアミド/ナイロン(PA),ポリエーテルスルホン(PES),ポリフェニルスルホン(PPS),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエーテル-エーテルケトン(PEEK),スルホン化ポリエーテル-エーテルケトン(s-PEEK),モノクロロトリフルオロエチレン(CTFE),エチレンとテトラフルオロエチレン(ETFE)またはクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)とのコポリマー,ポリアミド,ポリエーテルイミドおよびm-アラミドから調製される。
【0040】
好適な多孔質支持体は、ポリプロピレン(PP)またはポリフェニレンスルフィド(PPS)から、より好ましくはポリフェニレンスルフィド(PPS)から調製される。ポリフェニレンスルフィドの使用により、多孔質支持体は高温、高濃度アルカリ溶液に対する高い耐性を現わし、そして水の電解プロセス中にアノードから発生する活性酸素に対する高い化学的安定性を現わすことができるようになる。さらにポリフェニレンスルフィドの使用で、多孔質支持体は製織布または不織布のような様々な形態に容易に加工でき、すなわち意図する適用または意図する使用環境に従い適切に改良できる。
【0041】
多孔質ポリマーの布は、製織または不織であることができる。
【0042】
多孔質支持体の開放面積(open area)は、電解質の支持体への良好な浸透を確実にするために、好ましくは20から80%の間、より好ましくは40から70%の間である。
【0043】
多孔質支持体は、好ましくは100から1000μmの間、より好ましくは300から700μmの間の平均直径を有する孔またはメッシュ開口を有する。
【0044】
多孔質支持体の密度は、好ましくは0.1から0.7g/cm3の間である。
【0045】
支持体は好ましくは100から750μm、より好ましくは125から300μmの間の厚さを有する。
【0046】
多孔質支持体は、好ましくは連続ウェッブであり、欧州特許出願公開第1776490(A)号明細書および国際公開第2009/147084号パンフレットに開示されているような製造法を可能にする。
【0047】
多孔質親水性層
多孔質親水性層は、ポリマー樹脂および親水性粒子を含んでなる。親水性粒子は0.7μm以下の粒子サイズD50を有する硫酸バリウム粒子である。
【0048】
D50は粒子サイズの分布を特徴づけるために良く知られた値である。また直径の中央値または粒子サイズ分布の中央値としても知られている。これは累積分布の50%での粒径の値である。例えばD50=70μmならば、サンプル中の50%の粒子が0.7μmよりも大きい直径を有し、そして50%が0.7μmよりも小さい直径を有する。
【0049】
ポリマー樹脂は、セパレータの調製の転相工程の結果、以下に記載するように三次元の多孔性ネットワークを形成する。
【0050】
ポリマー樹脂は、好ましくはポリスルホン(PSU),ポリエーテルスルホン(PES),ポリフェニニレンスルホン(PPS),ポリビニリデンフルオリド(PVDF),ポリアクリロニトリル(PAN),ポリエチレンオキシド(PEO),ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびそれらのコポリマーからなる群から選択される。
【0051】
PVDFおよびビニリデンフルオリド(VDF)-コポリマーがそれらの酸化/還元耐性、およびフィルム形成特性から好適である。これらの中で、VDF,ヘキサンフルオロプロピレン(HFP)およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のターポリマーが、それらの優れた膨潤特性、耐熱性および電極への接着から好適である。
【0052】
特に好適なポリマー樹脂は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンおよびポリフェニルスルホンから選択される。
【0053】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホンおよびポリフェノールスルホンの分子量(Mw)は、好ましくは10000から500000の間、より好ましくは25000から250000の間である。Mwが低すぎると、多孔質親水性層の物理的強度が不十分になる。Mwが高すぎると、ドープ液の粘度が高くなりすぎるかもしれない。
【0054】
特に好適なポリマー樹脂は、例えば欧州特許出願公開第3085815(A)号明細書の段落[0027]から[0032]に開示されているポリスルホンである。
【0055】
別の好適なポリマー樹脂は、欧州特許出願公開第3085815(A)号明細書の段落[0021]から[0026]に開示されているポリエーテルスルホン(PES)である。ポリエーテルスルホンは、これもまた欧州特許出願公開第3085815(A)号明細書に開示されているポリスルホンと混合することができる。
【0056】
また親水性層は親水性粒子を含んでなり、ここで親水性粒子は0.7μm以下の、好ましくは0.50μmの以下の、より好ましくは0.35μm以下の、最も好ましくは0.30μm以下の粒子サイズD50を有する硫酸バリウム粒子である。
【0057】
0.7μmより高い粒子サイズD50を有する硫酸バリウム粒子を使用することは、アルカリ電解電池のイオン耐性の上昇により効率的な水素生産の低下をもたらすことが分かった。
【0058】
多孔質親水性層の総乾燥重量に対する硫酸バリウムの量は、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも75重量%である。
【0059】
多孔質親水性層は、硫酸バリウム粒子に加えて、他の親水性粒子を含んでなることができる。そのような他の親水性粒子は好ましくは金属酸化物または水酸化物である。好適な他の親水性粒子はZrO2,Ti02,Al23,およびMgOHである。
【0060】
特に好適な態様によれば、多孔質親水性層はBaSO4粒子に加えて、他の親水性粒子を含まない。
【0061】
0.7μm以下のD50粒子サイズを有するBaSO4粒子を使用する場合、酸化ジルコニウムを使用した従来のセパレータに比べて、より経費効果のあるセパレータが実現さ
れる。
【0062】
ポリマー樹脂に対する親水性粒子の重量比は、好ましくは60/40より高く、より好ましくは70/30より高く、そして最も好ましくは75/25より高い。特に好適であるのは、ポリマー樹脂に対して親水性粒子、好ましくは前述のBaS04の重量比は80/20以上である。
【0063】
アルカリ水電解用セパレータの製造
アルカリ水電解用のセパレータの製造法は:
-以下に記載のようなドープ液を基材に適用し:そして
-適用したドープ液を転相させる
工程を含んでなる。
【0064】
好適な方法では、基材は前記のような多孔質支持体であり、そしてドープ液が多孔質基材に適用される。
【0065】
そのような多孔質支持体を含んでなるセパレータは、強化セパレータと呼ばれる。
【0066】
特に好適な方法では、ドープ液が多孔質支持体の両側に適用される。
【0067】
強化セパレータの好適な製造法は、対称的セパレータに関しては欧州特許出願公開第1776490(A)号明細書および国際公開第2009/147084号パンフレットに開示され、そして非対称的セパレータに関しては国際特許出願(PCT)/欧州特許2018/068515号明細書(2018年9月7日出願)に開示されている。これらの方法はウェッブ強化セパレータをもたらし、ここでウェッブ、すなわち多孔質支持体はセパレータにうまく埋め込まれ、セパレータの表面にはウエッブの外観が存在しない。
【0068】
使用できる他の製造法は、欧州特許出願公開第3272908(A)号明細書に記載されている。
【0069】
ドープ液
ドープ液は前記のポリマー樹脂、前記の硫酸バリウム粒子および溶媒を含んでなる。
【0070】
ドープ液の溶媒は、ポリマー樹脂が溶解できる有機溶媒が好ましい。さらに有機溶媒は水に混和性であることが好ましい。
【0071】
溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP),N-エチル-ピロリドン(NEP),N-ブチル-ピロリドン(NBP),N,N-ジメチルホルムアミド(DMF),ホルムアミド,ジメチルスルホキシド(DMSO),N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、アセトニトリル、およびそれらの混合物から選択されることが好ましい。
【0072】
特に健康および安全性の理由から高度に好ましい溶媒は、MBPである。
【0073】
ドープ液は得られるポリマー層の特性、例えばそれらの孔性およびそれらの外面での最大孔径を至適化するために、さらに他の材料を含んでなることができる。
【0074】
ドープ液はポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセテート(PVAc)、メチルセルロースおよびポリエチレンオキシドのような孔形成促進剤(pore forming promoting agent)を含んでなることが好ましい。これらの化合物は多孔質ポリマー層の最大孔径および/または孔性
に影響を有する可能性がある。
【0075】
ドープ液中のこれらの孔形成促進剤の濃度は、ドープ液の総重量に対して好ましくは0.1から15重量%の間、より好ましくは0.5から10重量%の間である。
【0076】
ドープ液は、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、多価アルコール、ジブチルフタレート(DBP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジウンデシルフタレート(DUP)、イソノナン酸またはネオデカン酸からなる群から選択される親水化および安定化剤を含んでなることが好ましい。
【0077】
特に好適な態様では、ドープ液はグリセロールを含んでなる。またグリセロールは、多孔質ポリマー層中の孔形成に影響を有する。
【0078】
グリセロールの濃度はドープ液の総重量に対して、好ましくは0.1から15重量%の間、より好ましくは0.5から5重量%の間である。
【0079】
2つのポリマー層が多孔質支持体上に適用される場合、両層に使用されるドープ液は、互いに同一かまたは異なってもよい。
【0080】
ドープ液の適用
ドープ液は基材、好ましくは多孔質支持体の表面にコーティングまたはキャスティング技法により適用することができる。
【0081】
好適なコーティング技法は例えば押出コーティングである。
【0082】
高度に好適な態様では、ドープ液はスロットダイコーティング技法により適用され、ここで2つのスロットコーティングダイ(図3および4,200および300)が多孔質支持体の両側に位置している。
【0083】
スロットコーティングダイは、ドープ液を予め定めた温度に保持し、ドープ液を支持体上に均一に分配し、そして適用したドープ液のコーティング厚を調整することができる。
【0084】
ドープ液の粘度は、スロットダイコーティング技法を使用した場合に、コーティング温度および1s-1の剪断速度で好ましくは1から500Pa.sの間、より好ましくは10から100Pa.sの間である。
【0085】
ドープ液は剪断減粘性であることが好ましい。100-1の剪断速度での粘度に対する1-1の剪断速度での粘度の比は、好ましくは少なくとも2,より好ましくは少なくとも2.5、最も好ましくは少なくとも5である。
【0086】
多孔質支持体は好ましくは連続的ウエッブであり、これは図3および4で示すようにスロットコーティングダイ(200,300)の間を下に輸送される。
【0087】
適用後すぐに、多孔質支持体はドープ液に含浸されることになる。
【0088】
好ましくは、多孔質支持体は適用されたドープ液で完全に含浸されることになる。
【0089】
しかしたとえ多孔質支持体がドープ液で完全に含浸されても、セパレータの厚さは多孔質支持体の厚さよりも大きい。これは図2に示すように含浸された多孔質支持体の両側に
、「純粋」なドープ層が存在することを意味している。
【0090】
転相工程
ドープ液を基材に適用した後、適用したドープ液は転相にかけられる。転相工程では、適用したドープ液が多孔質親水性層に変換(transform)される。
【0091】
しかし多孔質支持体が使用される場合、多孔質支持体はセパレータの一部である。多孔質支持体はセパレータにより高い物理的強度を与える。そのようなセパレータは一般に強化セパレータと呼ばれる。
【0092】
好適な態様では、多孔質支持体に適用される両ドープ液が転相にかけられる。
【0093】
転相工程は好ましくは所謂、液体誘起相分離(LIPS)工程を含んでなり、そして好ましくは蒸気誘起相分離(VIPS)工程およびLIPS工程の組み合わせを含んでなる。
【0094】
両LIPSおよびVIPSは、非溶媒誘起型相転換プロセスである。
【0095】
LIPS工程では、ドープ液で両側をコーティングされた多孔質支持体が、ドープ液の溶媒と混和性の非溶媒でコーティングされる。
【0096】
一般に、これはドープ液で両側をコーティングされた多孔質支持体を非溶媒浴(凝固浴とも呼ばれる)に浸漬することにより行われる。
【0097】
非溶媒は好ましくは水、水とN-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルスルホキシド(DMSO),およびジメチルアセトアミド(DMAC)からなる群から選択される非プロトン性溶媒との混合物、PVPまたはPVAのような水溶性ポリマーの水溶液、または水とアルコール、例えばエタノール、プロパノールまたはイソプロパノールとの混合物である。
【0098】
非溶媒は最も好ましくは水である。
【0099】
水浴の温度は好ましくは20から90℃の間、より好ましくは40から70℃の間である。
【0100】
コーティングしたポリマー層から非溶媒浴への、そして非溶媒のポリマー層への変換は転相および三次元多孔質ポリマーネットワークの形成を導く。適用したドープ液の多孔質支持体への含浸で、得られる親水性層の多孔質支持体への十分な接着が生じる。
【0101】
好適な態様では、図3および4に示すように、ドープ液で両側をコーティングされた連続ウェッブ(100)は垂直位置で凝固浴(800)に向かって下に輸送される。
【0102】
VISP工程では、ドープ液でコーティングされた多孔質支持体は、非溶媒蒸気、好ましくは湿り空気に暴露される。
【0103】
好ましくは、凝固工程はVISPおよびLIPS工程の両方を含んだ。好ましくは、ドープ液でコーティングされた多孔質支持体は、最初に湿り空気に暴露され(VISP工程)、その後、凝固浴に浸漬される(LIPS工程)。
【0104】
図3に示す製造法では、VISPはスロットコーティングダイ(200,300)と凝
固浴(800)の非溶媒の表面との間の領域400で行われ、この領域は例えば熱隔離(thermal isolated)金属板(500)で環境から遮蔽されている。
【0105】
VISP工程での水の輸送の程度および速度は、気流速度、空気の相対湿度および温度、ならびに暴露時間を調整することにより制御できる。
【0106】
暴露時間は、スロットコーティングダイ(200,300)と凝固浴(800)の非溶媒の表面との間の距離、および/または細長いウェッブ100がスロットコーティングダイから凝固浴に向かって輸送される速度を変えることにより調整することができる。
【0107】
VISP領域(400)の相対湿度は、凝固浴の温度、および環境および凝固浴からVISP領域(400)を遮蔽することにより調整することができる。
【0108】
気流速度は、VISP領域(400)のベンチレータ(420)の回転速度により調整することができる。
【0109】
セパレータの片側、および第2の多孔質ポリマー層をもたらすセパレータの他の側で行われるVISP工程は、互いに同一(図3)か、または異なって(図4)もよい。
【0110】
転相工程後、好ましくは凝固浴中でのLIPS工程後、洗浄工程を行うことができる。
【0111】
転相工程、または任意の洗浄工程後、乾燥工程が行われることが好ましい。
【0112】
図3および4は、本発明によりセパレータを製造するための好適な態様を概略的に説明する。
【0113】
多孔質支持体は連続ウェッブ(100)であることが好ましい。
【0114】
ウェッブは供給ローラー(600)から解かれ、そして垂直位置でコーティングユニット(200)と(300)との間を下方に導かれる。
【0115】
これらのコーティングユニットで、ドープ液がウェッブの両側にコーティングされる。ウェッブの両側のコーティング厚は、ドープ液の粘度およびコーティングユニットとウェッブの表面との間の距離を至適化することにより調整することができる。好適なコーティングユニットは、欧州特許出願公開第2296825(A)号明細書の段落[0043],[0047],[0048],[0060],[0063]、および図1に記載されている。
【0116】
ドープ液で両側をコーティングされたウェッブは、次いで凝固浴(800)に向かって下方に距離dを輸送される。
【0117】
凝固浴では、LIPS工程が行われる。
【0118】
VISP工程は、VIPS領域で凝固浴に入る前に行われる。図3ではVIPS領域(400)がコーティングされたウェッブの両側で同一であるが、図4では、コーティングされたウェッブの両側のVIPS領域(400(1))および(400(2))は異なる。
【0119】
VIPS領域の相対湿度(RH)、および空気温度は、熱隔離金属板を使用して至適化することができる。図3では、VIPS領域(400)がそのような金属板(500)に
より環境から完全に遮蔽されている。次いでRHおよび空気の温度は、主に凝固浴の温度により定められる。VIPS領域の気流速度は、ベンチレータ(420)により調整することができる。
【0120】
図4では、VIPS領域(400(1))および(400(2))は互いに異なる。コーティングしたウェッブの片側のVIPS領域(400(1))は、図3のVIPS領域(400)と同一である。コーティングしたウェッブの他の側のVIPS領域(400(2))は、VIPS領域(400(1))とは異なる。VIPS領域(400(2))を環境から遮蔽する金属板はない。しかしVIPS領域(400(2))は今、熱隔離金属板(500(2))により凝固浴から遮蔽されている。加えて、VIPS領域400(2)にはベンチレータが存在しない。これにより他方のVIPS領域(400(2))のRHおよび空気温度よりも高いRHおよび空気温度を有するVIPS領域(400(1))をもたらす。
【0121】
VISP領域での高いRHおよび/または高い気流速度は、一般により大きい最大孔径を生じる。
【0122】
1つのVIPS領域のRHは好ましくは85%より高く、より好ましくは90%より高く、最も好ましくは95%より高いが、別のVIPS領域ではRHが好ましくは80%未満、より好ましくは75%未満、最も好ましくは70%未満である。
【0123】
相分離工程後、強化セパレータは次いで巻き上げシステム(700)に輸送される。
【0124】
セパレータの片側にライナーを提供することができ、その後、セパレータおよび提供したライナーが巻き上げられる。
【実施例
【0125】
材料
以下で使用するすべての材料は、別段の定めがある場合を除きアルドリッチケミカル社(ALDRICH CHEMICAL Co.)(ベルギー)およびアクロス(ACROS)(ベルギー)のような標準的な供給元から容易に入手できる。使用した水は脱イオン水である。
【0126】
PPS-fabric、エヌビーシー社(NBC Inc.)から市販されているポリフェニレンスルフィド多孔質支持体(製織、厚さ=350μm、開放面積=60%)。
【0127】
Zr02(1)、エムイーエル-ケミカルズ(MEL-Chemicals)から入手可能なE101型、0.3μmの粒子サイズD50を有する。
【0128】
Zr02(1)、ディケイケイケイ(DKKK)から入手可能なSRP-2型、1.2μmの粒子サイズD50を有する。
【0129】
BaSO4(1)、ザクトレーベン(Sachtleben)から入手可能なBlanc Fixe N型、3μmの粒子サイズD50を有する。
【0130】
BaSO4(2)、ザクトレーベンから入手可能なBlanc Fixe F型、1μmの粒子サイズD50を有する。
【0131】
BaSO4(3)、ザクトレーベンから入手可能なBlanc Fixe Micro
Plus型、0.7μmの粒子サイズD50を有する。
【0132】
BaSO4(4)、サカイケミカル社(Sakai Chemical Ind.)から入手可能なBariace B-34型、0.3μmの粒子サイズD50を有する。
【0133】
Polysulfone、Udel P1700 NT LCD、ソルベイ(SOLVAY)から入手可能なポリスルホン樹脂。
【0134】
グリセロール,モーゼルマン(MOSSELMAN)から市販されている孔拡大剤(a
pore widening agent)。
【0135】
NEP,ビーエイエスエフ(BASF)から市販されているN-エチル-ピロリドン。
【0136】
測定
特異的イオン抵抗性(Specific Ionic Resistance (ohm.cm))は、アバンター(Avantor)の部門であるヴィダブリューアール(VWR)から入手可能なInolab(商標)Multi 9310 IDS装置で測定する。
【実施例1】
【0137】
セパレータS-1からS-7の調製
ドープ液は表1の材料を混合することにより調製した。
【表1】
【0138】
セパレータS-1からS-7は、図2に概略的に表すように調製した。
【0139】
ドープ液は、1m/分の速度でスロットダイコーティング技法を使用して1.7m幅のPPS-布の両側にコーティングした。
【0140】
次いでコーティングした支持体を、65℃に維持した水浴(凝固浴、800)に向けて
輸送した。
【0141】
VISP工程は、閉鎖領域の水浴に入る前に行われた(400,d=7cm,RH=98%,換気なし)。
【0142】
次いでコーティングした支持体を5分間、水浴に入れ、その間、液体誘起相分離(HIPS)が起こった。
【0143】
水中で15分の間に、70℃でのインライン洗浄工程の後、得られたセパレータは乾燥せずに巻き上げられ、その後に所定の形態に裁断された。
【0144】
得られたセパレータS-1からS-7は、全て500μmの全厚を有した。
【0145】
前記のように測定したセパレータS-1からS-6の特異的イオン抵抗性(RIS)を表2に示す。
【表2】
【0146】
表2の結果から、親水性無機粒子として0.7μmの粒子サイズD50を有するBaS04を含むセパレータの特異的イオン抵抗性は、親水性無機粒子としてZr02を含むセパレータの特異的イオン抵抗性に匹敵することが明らかである。Zr02を用いると特異的イオン抵抗性が粒子サイズに依存することが低いことも観察される。また0.3μmの粒子サイズD50を有するBaS04粒子を含むセパレータの特異的イオン抵抗性がさらに低下したことも観察された。またポリマー樹脂に対するBaSO4粒子の重量比を上げると、特異的イオン抵抗性のさらなる低下がもたらされる。
図1
図2a-2b】
図3
図4