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特許7275427フォトルミネッセント鉄ドープスズ酸バリウム材料、セキュリティインク組成物及びそれらのセキュリティ特徴
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】フォトルミネッセント鉄ドープスズ酸バリウム材料、セキュリティインク組成物及びそれらのセキュリティ特徴
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/66 20060101AFI20230511BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20230511BHJP
   C01G 19/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C09K11/66
C09K11/08 A
C01G19/00 A
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021198438
(22)【出願日】2021-12-07
(62)【分割の表示】P 2019546815の分割
【原出願日】2018-03-20
(65)【公開番号】P2022043125
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】62/473,737
(32)【優先日】2017-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17169120.7
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】311007051
【氏名又は名称】シクパ ホルディング ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
【住所又は居所原語表記】Avenue de Florissant 41,CH-1008 Prilly, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ハウブリック, スコット
(72)【発明者】
【氏名】ピンセラウプ, パスカル
(72)【発明者】
【氏名】グリーン, エデン ミシェル アンサネーシー
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン, デービッド
(72)【発明者】
【氏名】スタージェオン, マシュー
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121792(WO,A1)
【文献】特開2015-168728(JP,A)
【文献】特開平05-232065(JP,A)
【文献】国際公開第2010/137247(WO,A1)
【文献】特開昭59-174528(JP,A)
【文献】特開昭63-292055(JP,A)
【文献】特開昭63-083653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
C09D 11/037
G07D 7/12,7/1205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10~500重量ppmの第二鉄(Fe3+)カチオン濃度を有する鉄ドープスズ酸バリウム材料を製造するプロセスであって、
d)Ba2+及びSn4+を含む予め撹拌された水溶液に、適当な体積のFe3+水溶液を添加するステップと、
e)ステップd)の水溶液をNaOH水溶液に添加し、それにより鉄ドープBaSn(OH)の沈殿の形成を生じさせるステップと、
f)ステップe)の懸濁液のpHを11に調節するステップと、
g)前記鉄ドープBaSn(OH)の沈殿を分離するステップと、
h)前記鉄ドープBaSn(OH)の沈殿を焼成するステップと
を含むプロセス。
【請求項2】
前記懸濁液のpHが、NaOH又はHCl水溶液の添加により調節される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ステップh)の後で実施されるステップl):
l)ステップh)で得られた焼成された沈殿を篩うステップ
をさらに含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記鉄ドープスズ酸バリウム材料の前記第二鉄カチオン濃度が、10~300ppmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記鉄ドープスズ酸バリウム材料の前記第二鉄カチオン濃度が、20~100ppmである、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記鉄ドープスズ酸バリウム材料が、光散乱により測定される3~10μmのd(0.9)により定義される粒径分布を有する粒子状材料である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記鉄ドープスズ酸バリウム材料が、光散乱により測定される4~7μmのd(0.9)により定義される粒径分布を有する粒子状材料である、請求項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、セキュリティ特徴の分野並びに偽造及び不法な複製に対する文書及び物品の保護のためのそれらの使用に関する。特に、本発明は、紫外(UV)光を吸収して、強い近赤外(NIR)ルミネッセンスを示すフォトルミネッセントスズ酸バリウム材料の分野に関する。そのような材料は、セキュリティインク組成物及び偽造防止が改善された潜在的セキュリティ特徴を製造するのに特に有用である。
【0002】
[発明の背景]
カラー写真の複写及び印刷の品質の不断の改善に加えて、並びに偽造、変造又は不法な複製に対して、再現可能な効果のない紙幣、有価の文書若しくはカード、輸送機関の切符若しくはカード、税のロール紙、及び製品ラベルなどのセキュリティ文書を保護するための試みで、これらの文書に種々のセキュリティ手段を組み込むことが従来の慣行であった。セキュリティ手段の典型的な例には、セキュリティ繊条、ウィンドウ、繊維、プランシェット、フォイル、ステッカー、ホログラム、透かし、光学的に可変の顔料を含むセキュリティインク、磁性又は磁性化され得る薄膜干渉型顔料、干渉型被覆粒子、サーモクロミズム顔料、フォトクロミズム顔料、発光性、赤外吸収、紫外吸収又は磁性化合物が含まれる。
【0003】
セキュリティ文書印刷の分野におけるフォトルミネッセント材料の使用は、当技術分野において既知である:例えば、R.L:van Renesse、第3版、2005年,98~102頁からOptical Document Securityを参照されたい。フォトルミネッセント材料は、外的電磁放射線により励起されると、赤外(IR)、可視(VIS)及び/又は紫外(UV)スペクトルに検出可能な量の放射線を発光することができる材料である。
【0004】
典型的には、有価の又はセキュリティ文書の分野でセキュリティ特徴(security features)を製造するために使用されるフォトルミネッセント材料は、UVスペクトルの範囲で吸収しVISスペクトルの範囲で発光する。このタイプの挙動は、一度UV放射線に曝露されて、VISスペクトルの範囲で発光する無機及び有機両方の材料により示される。したがって、セキュリティ特徴は、UVランプを使用して、裸眼でルミネッセンスを観察することにより検出可能である。
【0005】
UVスペクトルの範囲で吸収するが、VISスペクトルの範囲では吸収せず、NIR-又はIRスペクトルの範囲で発光し、それにより、それらのルミネッセンスを誘発して検出するために特別の設備を必要とするストークス偏移の大きい材料は、潜在的セキュリティ特徴即ち肉眼で認証することができないが、認証のために、電子的認証設備などの検出又は読み取りデバイスに依存するセキュリティ特徴の製造のために特に有用であることが見出されている。
【0006】
ストークス偏移の大きいNIR発光性スズ酸バリウムが、Mizoguchiら(J.Am.Chem.Soc.2004年、126巻、9796頁)により記載された。Mizoguchiらにより記載されたスズ酸バリウム(BaSnO)は、380nmで励起されたとき905nmに中心がある広いルミネッセンスを示すが、VISスペクトルの範囲にはルミネッセンスを示さない。ルミネッセンス発光は、Ba1-xSrSnOシリーズについても記載された。NIR発光ピークの強度は、ストロンチウム含有率の増大と共に低下すること、したがって、BaSnOが最強の発光強度を示すことが観察された。
【0007】
UV光で照射されるとNIR又はIRスペクトルの範囲に発光するフォトルミネッセント材料を含有する潜在的セキュリティ特徴の認証技法は、比較的精巧でない捏造及び偽造製品を検出することに高度に効果的である。それにもかかわらず、適当な資源及び設備を有する個人は、幾種類かのフォトルミネッセント材料の構成要素を決定するために、認証システムのリバースエンジニアリング及び/又は分光法の技法を使用することができることもある。フォトルミネッセント材料は、後で複製され、出所不明の文書又は物品に適用され、それにより特定のフォトルミネッセント材料により提供され得る認証の利益を損なうおそれがある。それ故、UVスペクトルの範囲で吸収しIRスペクトルの範囲で発光するフォトルミネッセント材料が、高いセキュリティの潜在的セキュリティ特徴を製造するために開発されたにもかかわらず、贋作及び偽造活動をより困難にすることができる及び/又は特定の関心の物品及び文書を認証するために有益であることを証明することができるさらなるフォトルミネッセント材料を開発することが望ましい。
【0008】
鉄ドープスズ酸バリウムBaSn1-xFe(xは0.02、0.03、0.05、0.10及び0.15である)も記載された(Adakら、International Journal of Current Engineering and Technology、2015年、3829頁;Jamesら、Applied Surface Science 2013年、121頁)。それにもかかわらず、表3により示されるように、第二鉄カチオン濃度が、上記文献に記載されたBaSn1-xFe材料、並びに既知の非ドープBaSnO材料と同程度の鉄ドープスズ酸バリウム材料(表3の試料E17、E18及びE19)は、NIRスペクトルの範囲に弱い発光シグナルを示し、それ故、それらのスズ酸バリウム材料は容易に検出可能ではなく、その結果、潜在的セキュリティ特徴を製造するために有効に使用することができない。
【0009】
したがって、UVスペクトルの範囲で吸収するが、VISスペクトルの範囲では吸収せず、強い発光のルミネッセンスをNIRスペクトルの範囲に示す代替的フォトルミネッセント材料に対する必要性が依然存在する。そのようなフォトルミネッセント材料は、それらのフォトルミネッセンスを誘発して検出するための特別の設備の使用を必要とし、それ故、それらのフォトルミネッセント材料は、潜在的セキュリティ特徴を低下したコストで製造するのに、及び/又は改善された及びより効率的な潜在的セキュリティ特徴を製造するのに特に有用である。
【0010】
[発明の概要]
したがって、UVスペクトルの範囲で吸収するが、VISスペクトルの範囲では吸収せず、NIRスペクトルの範囲で、従来技術のBaSnO及び鉄ドープBaSnO試料よりも大幅に強いフォトルミネッセンス強度を示すフォトルミネッセント鉄ドープスズ酸バリウム材料を提供することが本発明の目的である。これは、約10~約500重量ppmの第二鉄カチオン(Fe3+)濃度を有する、本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム材料により達成される。
【0011】
本明細書に記載されるNIRスペクトルの範囲で強いフォトルミネッセンス強度を示す鉄ドープスズ酸バリウム材料を含むフォトルミネッセントセキュリティインク組成物が、本明細書でさらに特許請求され記載される。特に、該フォトルミネッセントセキュリティインク組成物は、UVスペクトルの範囲で吸収しVISスペクトルの範囲で発光する1種又は複数のフォトルミネッセント物質をさらに含むことができる。
【0012】
本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物で作製されたセキュリティ特徴、並びにセキュリティ特徴を製造するプロセスであって、好ましくはコーティング又は印刷プロセスにより、該フォトルミネッセントセキュリティインク組成物を基材に適用して、フォトルミネッセントセキュリティ層を形成するステップと、該フォトルミネッセントセキュリティ層を硬化させるステップとを含むプロセスも、本明細書で特許請求され記載される。
【0013】
本明細書に記載されるセキュリティ特徴のうち1種又は複数を含むセキュリティ文書又は物品、並びに前記セキュリティ文書又は物品を認証する方法であって、
a)セキュリティ文書又は物品の本明細書に記載される1種又は複数のセキュリティ特徴に紫外光を照射するステップと;
b)紫外光を用いる照射に応答して1種又は複数のセキュリティ特徴により発光される放射線のスペクトルのパラメーターを測定するステップと;
c)セキュリティ文書又は物品の認証を決定するステップと
を含む方法も、本明細書で特許請求され記載される。
【0014】
ステップb)の認証方法は、セキュリティ特徴により1種又は複数の所定の近赤外波長で発光される放射線の強度、及び/又は2種の所定の近赤外波長の間でセキュリティ特徴により発光される放射線のスペクトル強度の積分を測定すること及び/又は発光される放射線の減衰特性を測定することを含むことが好ましい。
【0015】
約10~約500重量ppmの第二鉄カチオン(Fe3+)濃度を有する鉄ドープスズ酸バリウム材料を製造するプロセスが、本明細書でさらに特許請求され開示される。
【0016】
製造プロセスの1つは、
d)Ba2+及びSn4+を含む予め撹拌された水溶液に、適当な体積のFe3+水溶液を添加するステップと;
e)ステップd)の水溶液をNaOH水溶液に添加し、それにより鉄ドープBaSn(OH)の沈殿の形成を生じさせるステップと;
f)ステップe)の懸濁液のpHを、好ましくはNaOH又はHCl水溶液の添加により約11に調節するステップと;
g)鉄ドープBaSn(OH)の沈殿を分離するステップと;
h)鉄ドープBaSn(OH)の沈殿を焼成するステップと
を含む。
【0017】
本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム材料のさらなる製造プロセスは、
i)BaCO及びSnOの混合物に、適当な体積のFe3+溶液を添加するステップと;
j)ステップi)の混合物を粉砕するステップと;
k)ステップj)で得られた混合物を焼成するステップと
を含む。
【0018】
ステップl)は、上記のプロセスのステップh)又はk)の後で実施されることが好ましい:
l)ステップh)又はk)で得られた焼成された沈殿を篩うステップ。
【0019】
本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム材料は、Mizoguchiらにより記載されたBaSnO並びにAdakら及びJamesらにより記載されたxが0.02、0.03、0.05、0.10及び0.15である一般式BaSn1-xFeの鉄ドープスズ酸バリウム材料よりも強いフォトルミネッセンス強度の積分を、上記NIRスペクトルの範囲に示す。セキュリティインク組成物中のBaSnO及びxが0.02、0.03、0.05、0.10及び0.15であるBaSn1-xFeを、本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウムにより置き換えることにより、ルミネッセンス特性が改善されたセキュリティ特徴の製造及び同様なルミネッセンス特性を有するセキュリティ特徴のコストが低下した製造の両方が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】BaSnO及びSnO粉末の混合物を含有する試料C1のXRD回折パターンを示す図である。
図2】比較例として使用した「非ドープ」BaSnO試料(C3)のXRD回折パターンを示す図である。
図3】本発明によるFe3+ドープBaSnO粉末(45ppmのFe3+濃度を有する試料E2)のXRD回折パターンを示す図である。
図4】本発明によるFe3+ドープBaSnO粉末(45ppmのFe3+濃度を有する試料E2)の粒径分布を示す図である。
図5】本発明によるFe3+ドープBaSnO粉末(45ppmのFe3+濃度を有する試料E2)の粒子のSEM顕微鏡写真を示す図である。
図6】BaSnO試料中のFe3+濃度の関数で、本明細書で特許請求された濃度範囲外にFe3+濃度を有するBaSnO粉末(4ppmのFe3+濃度を有する「非ドープ」BaSnO粉末(試料C3)、及び851ppmのFe3+濃度を有するFe3+ドープBaSnO粉末(試料E8))と比較して、本発明によるFe3+ドープBaSnO粉末(試料E1~E7)のフォトルミネッセンス発光スペクトル強度の積分のダイアグラムを示す図である。
図7】BaSnO試料中のFe3+濃度の関数で、本明細書で特許請求された濃度範囲外にFe3+濃度を有するBaSnO粉末(5ppmのFe3+濃度を有する「非ドープ」BaSnO粉末(試料C7)、750ppmのFe3+濃度を有するFe3+ドープBaSnO粉末(試料E16)、1000ppmのFe3+濃度を有するFe3+ドープBaSnO粉末(試料E17))と比較して、本発明によるFe3+ドープBaSnO粉末(試料E10~E15)のフォトルミネッセンス発光スペクトル強度の積分のダイアグラムを示す図である。
図8】本発明によるFe3+ドープBaSnO粉末(100ppmのFe3+濃度を有する試料E13)のフォトルミネッセンス発光スペクトルを示す図である。
図9】BaSnO試料中のFe3+濃度の関数で、本明細書で特許請求された濃度範囲外にFe3+濃度を有するBaSnO粉末を含有するインクで調製されたセキュリティ特徴(「非ドープ」BaSnO粉末C3を含有するインクで調製された試料C3a、及びFe3+ドープBaSnO粉末E8を含有するインクで調製された試料E8a)と比較して、本発明によるセキュリティ特徴(本発明のFe3+ドープBaSnO試料E1~E7を含有するインクで調製された試料E1a~E7a)のフォトルミネッセンス発光スペクトル強度の積分のダイアグラムを示す図である。
【0021】
[詳細な説明]
定義
詳細な説明で論じられた、及び請求項で再び引用される用語の意味を解釈するために、以下の定義が使用されるべきである。
【0022】
本明細書において使用される、冠詞「a/an」は、1つ並びに2つ以上を示すものであり、指示対象の名詞を単数に限定するとは限らない。
【0023】
本明細書において使用される用語「少なくとも」は、1つ又は2つ以上、例えば1つ又は2つ又は3つを規定することを意味する。
【0024】
本明細書において使用される用語「約」は、問題とされる量又は値が、明示された特定の値又はその近傍の幾つかの他の値であってもよいことを意味する。一般的に、ある値に対する用語「約」は、その値の±5%以内の範囲を指定することを意図されている。一例として、フレーズ「約100」は、100±5の範囲、即ち95~105の範囲を指定する。用語「約」により指定される範囲は、その値の±3%、より好ましくは±1%以内の範囲を指定することが好ましい。一般的に、用語「約」が使用される場合、示された値の±5%の範囲内で、本発明により同様な結果又は効果を得ることができることが期待され得る。
【0025】
本明細書において使用される用語「及び/又は」は、前記群の全ての又は唯一のいずれかの要素が存在し得ることを意味する。例えば、「A及び/又はB」は、「Aのみ、又はBのみ、又はA及びBの両方」を意味することになる。「Aのみ」の場合に、該用語はBが存在しない可能性、即ち「Aのみで、Bはない」も範囲に含む。
【0026】
本明細書において使用される用語「を含む」は、非排除的及び開放型であることを意図される。したがって、例えば、化合物Aを含む溶液は、Aに加えて他の化合物を含むこともできる。しかしながら、用語「を含む」は、それらの特定の実施形態として、「から本質的になる」及び「からなる」のより限定的意味も範囲に含み、したがって、例えば「A、B及び任意選択でCを含む溶液」は、(本質的に)A及びBからなることもでき、又は(本質的に)A、B及びCからなることもできる。
【0027】
本明細書において使用される用語「液体担体」は、固体状態で分布する及び/又は液体中に溶解された材料のための担体として機能する任意の液体を包含する。
【0028】
本明細書において使用される用語「層」とは、少なくとも1種のフィルムを形成するポリマー樹脂及び液体担体を含有する組成物から生じた実質的に乾燥したフィルムを指す。
【0029】
用語「セキュリティインク組成物」とは、固体基材に層を形成することができ、印刷方法により優先的に、但し排除的にではなく適用され得る任意の組成物を指す。
【0030】
用語「セキュリティ特徴」とは、文書又は物品の認証を決定してそれを偽造及び不法な複製に対して保護することを目的とする、セキュリティ文書又は物品の要素又は特徴を明示する。用語「セキュリティ特徴」は、認証目的のために使用され得る証印、像、パターン又はグラフの要素を指定するために使用される。
【0031】
用語「セキュリティ文書」及び「セキュリティ物品」は、例えば、それを、偽造又は不法な複製を潜在的に試みさせやすくする、及び偽造又は詐欺に対して少なくとも1種のセキュリティ特徴により通常保護されている有価を有する文書又は物品を指す。本明細書において使用される用語「セキュリティ物品」は、偽造及び/又は不法な複製に対して、それらの内容を保証するために、保護されるべき全ての物品を包含する。
【0032】
本記載が「好ましい」実施形態/特徴を指す場合、これらの「好ましい」実施形態/特徴の組合せも、「好ましい」実施形態/特徴のこの組合せが技術的に意味のあるものである限り、開示されたと考えられるであろう。
【0033】
驚くべきことに、約10~約500重量ppmの第二鉄カチオン(Fe3+)濃度を有する鉄ドープスズ酸バリウム材料は、UVスペクトルの範囲で吸収するが、VISスペクトルの範囲では吸収せず、NIRスペクトルの範囲で、既知のスズ酸バリウム及び既知の鉄ドープスズ酸バリウムよりも強いフォトルミネッセンス強度の積分を示すことが見出された。第二鉄カチオン(Fe3+)濃度は、任意の以下の方法:誘導結合プラズマ光学発光分光法(ICP-OES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、及び原子吸収分光法(AAS)により決定される。第二鉄カチオン(Fe3+)濃度は、誘導結合プラズマ光学発光分光法(ICP-OES)により決定されることが好ましい。HORIBA Jobin-Yvon ULTIMA分光計などのICP-OES分光計が、第二鉄カチオン(Fe3+)濃度を決定するために使用され得る。図6及び図7並びに表2及び表3により証明されるように、約10~約500重量ppmの第二鉄カチオン(Fe3+)濃度を有する鉄ドープスズ酸バリウム材料は、BaSnO(試料C3及びC7)と比較して、NIRフォトルミネッセンス強度の積分において少なくとも50%増大を示す。その上、約10~約500重量ppmの第二鉄カチオン(Fe3+)濃度を有する鉄ドープスズ酸バリウム材料は、500ppmを超えるFe3+濃度を有する鉄ドープスズ酸バリウム材料(試料E8、E16、E17、E18及びE19)と比較して、大幅に高いNIRフォトルミネッセンス強度の積分を示す。
【0034】
本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム材料中における第二鉄カチオン(Fe3+)濃度は、約10~約300重量ppmであることが好ましい。図6及び図7により証明されるように、約10~約300重量ppmの第二鉄カチオン(Fe3+)濃度を有する鉄ドープスズ酸バリウム材料は、BaSnOと比較してNIRフォトルミネッセンス強度の積分において少なくとも100%増大を示す。
【0035】
本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム材料中における第二鉄カチオン(Fe3+)濃度は、約20~約100重量ppmであることがより好ましい。約20~約100ppmの第二鉄カチオン(Fe3+)濃度を有する鉄ドープスズ酸バリウム材料は、BaSnOと比較して、NIRフォトルミネッセンス強度の積分において少なくとも200%増大を示す(例えば図6を参照されたい)ことに加えて、該材料はまた、NIRスペクトルの範囲における任意の波長でも、BaSnOと比較してより高いフォトルミネッセンス強度を示す。
【0036】
本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム材料は、
i)BaCO及びSnOの混合物に、適当な体積のFe3+溶液を添加するステップと;
j)ステップi)の混合物を粉砕するステップと;
k)ステップj)で得られた混合物を焼成するステップと
を含む固体プロセスにより得られることが好ましい。
【0037】
本明細書において使用される「Fe3+溶液」は、1種又は複数のFe3+前駆体の溶媒中の溶液を指す。該Fe3+前駆体は、第二鉄塩及びその水和物、第一鉄塩及びその水和物、酸化第二鉄及び酸化第一鉄を含む群から選択されることが好ましい。第一鉄カチオンは、焼成ステップk)中に酸化されて対応する第二鉄カチオンを生成する。適当な第二鉄塩は、Fe(NO、FeCl、Fe(OAc)、[FeO(OAc)(HO)]OAc及びそれらの水和物を含むが、これらに限定されない。Fe3+溶液を製造するために使用される溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール、水及びそれらの混合物から選択されることが好ましい。
【0038】
本明細書において使用される当業者には自明の用語「適当な体積のFe3+溶液」は、鉄ドープスズ酸バリウム試料が調製されるために望まれる第二鉄カチオン(Fe3+)の量に対応する量の第二鉄(Fe3+)又は第一鉄(Fe2+)カチオンを含有するFe3+溶液の体積を指す。
【0039】
ステップk)の焼成は、約1000℃~約1600℃の間の温度で約1~約48時間(h)の間、好ましくは約1100℃~約1400℃の間で約2~約30hの間、及びさらにより好ましくは約1150℃~約1350℃の間の温度で約10~約20hの間で行われることも好ましい。
【0040】
ステップi)、j)及びk)を含むプロセスは、少なくとも2回、好ましくは3回繰り返されることがさらに好ましい。
【0041】
より好ましい実施形態では、本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム材料が、
d)Ba2+及びSn4+を含む予め撹拌された水溶液に、適当な体積のFe3+水溶液を添加するステップと;
e)ステップd)の水溶液をNaOH水溶液に添加し、それにより鉄ドープBaSn(OH)の沈殿の形成を生じさせるステップと;
f)ステップe)の懸濁液のpHを約11に調節するステップと;
g)鉄ドープBaSn(OH)の沈殿を分離するステップと;
h)鉄ドープBaSn(OH)の沈殿を焼成するステップと
を含む湿式プロセスにより得られる。
【0042】
本明細書において使用される「Fe3+溶液」は、1種又は複数のFe3+前駆体の溶媒中の溶液を指す。該Fe3+前駆体は、第二鉄塩及びその水和物、第一鉄塩及びその水和物、酸化第二鉄及び酸化第一鉄を含む群から選択されることが好ましい。第一鉄カチオンは、焼成ステップh)中に酸化されて対応する第二鉄カチオンを生成する。適当な第二鉄塩は、Fe(NO、FeCl、Fe(OAc)、[FeO(OAc)(HO)]OAc及びそれらの水和物を含むが、これらに限定されない。Fe3+溶液を製造するために使用される溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール、水及びそれらの混合物から選択されることが好ましい。
【0043】
本明細書において使用される用語「Fe3+水溶液の適当な体積」は、鉄ドープスズ酸バリウム試料が調製されるために望まれる第二鉄カチオン(Fe3+)の量に対応する量の少なくとも第二鉄(Fe3+)又は第一鉄(Fe3+)カチオンを含有するFe3+水溶液、但し好ましくは、鉄ドープスズ酸バリウム試料が調製されるために望まれる第二鉄カチオン(Fe3+)の量より少なくとも10%低く最大で20%高い第二鉄(Fe3+)又は第一鉄(Fe2+)カチオンの量の体積を指す。
【0044】
Ba2+及びSn4+を含む予め撹拌された水溶液は、SnCl又はその水和物などのSn4+塩を酸水溶液に溶解することにより得られたSn4+の予め撹拌されている酸溶液に、Ba2+塩を添加することにより得られることが好ましい。
【0045】
該Ba2+塩は、BaCl及びその水和物、Ba(NO及びその水和物、Ba(OAc)及びその水和物、BaCO、及びBa(OH)及びその水和物を含む群から選択されることが好ましい。
【0046】
ステップe)の懸濁液のpHは、ステップf)で約11に、NaOH又はHCl水溶液の添加により調節されることがさらに好ましい。ステップe)の懸濁液のpHを約11に調節することにより、SnOの副生物の形成が回避されて、その結果、鉄ドープスズ酸バリウム材料の収率が増大することが確実にされる(表1を参照されたい)。
【0047】
鉄ドープBaSn(OH)の沈殿の分離が、遠心分離により行われることも好ましい。本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウムを製造するプロセスは、ステップg)の後で且つステップh)の前に実施されるステップg1):
g1)ステップg)で分離された鉄ドープBaSn(OH)の沈殿を、脱イオン水で上清のpHが約7~10になるまで洗浄するステップ
をさらに含むことが好都合である。
【0048】
該製造プロセスは、ステップg)又はステップg1)の後で且つステップh)の前に実施されるステップg2):
g2)該鉄ドープBaSn(OH)の沈殿を、約80℃~250℃の間の温度で約10~14hの間、好ましくは90℃~200℃の間で11~13hの間乾燥するステップ
をさらに含むことがより好ましい。
【0049】
ステップh)の焼成は、約1000℃~約1600℃の間の温度で約1~約48時間(h)の間、好ましくは約1100℃~約1400℃の間で約2~約30hの間、及びさらにより好ましくは約1150℃~約1350℃の間の温度で約10~約20hの間行われることがさらに好ましい。
【0050】
図6及び図7により示されるように、上記の湿式プロセスにより得られた鉄ドープスズ酸バリウム材料は、固体プロセスにより得られた鉄ドープスズ酸バリウム材料と比較して、大幅に増大したフォトルミネッセンス強度の積分を示す。
【0051】
本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム材料は粒子状材料であることが好ましく、粒子は小さい平均サイズを有し、約0.3μm~約10μm、好ましくは約0.5μm~約5μmであることが便利である。粒径分布は、Microtrac S3500 Bluewave粒径アナライザー及び試料送達コントローラーを使用して、試料から回折して光学検出器アレイに投射されるレーザー散乱光の分析により測定することができる。この分析のために、試料は、例えばBranson Sonifier 450を使用して水懸濁液として調製される。平均粒径が5μm未満の粒子が、最初の一瞥で見分けることができない透明なセキュリティ特徴を製造するのに特に有用である。そのような材料を得るために、上に記載された製造プロセスは、好ましくは、ステップh)又はk)それぞれの後で実施されるステップl):
l)ステップh)又はk)で得られた焼成された沈殿を篩うステップ
を含む。
【0052】
本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム粒子状材料は、好ましくは、大部分の粒子が、実質的に同じサイズを有するような狭い粒径分布を有する。好ましい実施形態では、該粒子は、約3~約15μm、好ましくは約3~約10μm、より好ましくは約4~約7μmのd(0.9)により定義される粒径分布を有する。
【0053】
本発明による別の態様は、本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム材料を含むフォトルミネッセントセキュリティインク組成物を対象とする。そのようなフォトルミネッセントインク組成物は、該組成物のフォトルミネッセンスを誘発して検出するために特別の設備の使用を必要とする高いセキュリティの潜在的セキュリティ特徴を製造するのに特に有用である。
【0054】
上記フォトルミネッセントセキュリティインク組成物は、1種又は複数の着色剤、例えば、染料、有機顔料、無機顔料及びそれらの混合物をさらに含むこともできる。フォトルミネッセントセキュリティインクに任意選択で含有される1種又は複数の着色剤は、鉄ドープスズ酸バリウム材料のフォトルミネッセンスに干渉しない、即ち、NIRスペクトルの範囲の1種又は複数の所定の波長におけるフォトルミネッセンス強度及び/又は本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウムのNIRフォトルミネッセンス強度の積分を低下させないことが有利である。
【0055】
インクに適当な染料は、当技術分野において既知であり、反応性染料、直接染料、アニオン染料、カチオン染料、酸性染料、塩基性染料、食品用色素、金属錯体染料、溶媒染料及びそれらの混合物を含む群から好ましくは選択される。染料の典型的な例には、クマリン、シアニン、オキサジン、ウラニン、フタロシアニン、インドリノシアニン、トリフェニルメタン、ナフタロシアニン、インドナナフタロ金属染料、アントラキノン、アントラピリドン、アゾ染料、ローダミン、スクアリリウム染料、及びクロコリウム染料が含まれるが、これらに限定されない。選択される染料は、約800nm~約1050nmの範囲で吸収せず、鉄ドープスズ酸バリウム材料のフォトルミネッセンスに干渉せず、即ち、例えば、前記フォトルミネッセンスを消光するか又は前記材料と化学的に反応することにより、NIRスペクトルの範囲の1種又は複数の所定の波長におけるフォトルミネッセンス強度及び/又は本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウムのNIRフォトルミネッセンス強度の積分を低下させないことが好都合である。
【0056】
インクに適当な顔料は当技術分野において既知であり、無機顔料、有機顔料及びそれらの混合物を含む群から好ましくは選択される。顔料の典型的な例には、金属酸化物、金属酸化物の混合物、アゾ顔料、アゾメチン、メチン、アントラキノン、フタロシアニン、ペリノン、ペリレン、ジケトピロールピロール、チオインジゴ顔料、チアゾインジゴ顔料、ジオキサジン、イミノイソインドリン、イミノイソインドリノン、キナクリドン、フラバントロン、インダントロン、アントラピリミジン及びキノフタロン顔料及びそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。該選択される顔料は、約800nm~約1050nmの範囲で電磁放射線を吸収せず、鉄ドープスズ酸バリウム材料のフォトルミネッセンスに干渉せず、即ち、例えば、前記フォトルミネッセンスを消光するか又は前記材料と化学的に反応することにより、NIRスペクトルの範囲の1種又は複数の所定の波長におけるフォトルミネッセンス強度及び/又は本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウムのNIRフォトルミネッセンス強度の積分を低下させないことが好都合である。
【0057】
本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物は、UVスペクトルの範囲で吸収しVISスペクトルの範囲で発光する1種又は複数のフォトルミネッセント物質をさらに含むことができる。本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウムを含むフォトルミネッセントセキュリティインク組成物及び該UVスペクトルの範囲で吸収しVISスペクトルの範囲で発光する1種又は複数のフォトルミネッセント物質で作製されたセキュリティ特徴は、偽造に対する耐性を増加させる。そのようなセキュリティ特徴は、同時に半潜在的であり、UV光を用いる前記セキュリティ特徴の照射下でヒトの眼により認証することができ、潜在的であり、UV光を用いる前記セキュリティ特徴の照射下で検出又は読み取りデバイス、及びセキュリティ特徴により発光される放射線のスペクトルのパラメーターの測定を用いてのみ認証することができる。
【0058】
紫外スペクトルの範囲で吸収し可視スペクトルの範囲で発光する1種又は複数のフォトルミネッセント物質は、蛍光性染料、例えば、「Organic Luminescent Materials」、B.M.Krasovitskii及びB.M.Bolotin、1988年、VCH Verlagsgesellschaft及び米国特許第5135569号により記載された蛍光性染料、蛍光性顔料、例えば、米国特許第8123848B2号及び米国特許第5470502号により記載されたもの、非ドープ又はドープ希土類酸化物、酸硫化物又は硫化物、例えば欧州特許第0985007B1号、米国特許第6180029B1号及び米国特許第7922936B2号により記載されたもの、ランタニド有機錯体、例えば、Coord.Chem.Rev.2015年、293~94巻、19~47頁により記載されたもの、量子ドット、例えば、米国特許出願第20070225402A1号により記載されたもの、蛍光性ナノシステム、例えば、国際公開第2012172018A1号により記載されたもの、蛍光性増白剤、例えば、国際公開第02055646A1号及び米国特許第4153593号により記載されたものを含む群から選択されることが好ましい。
【0059】
紫外スペクトルの範囲で吸収し可視スペクトルの範囲で発光する1種又は複数のフォトルミネッセント物質は、約800nm~約1050nmの範囲で電磁放射線を吸収せず、鉄ドープスズ酸バリウム材料のフォトルミネッセンスに干渉せず、即ち、例えば、前記フォトルミネッセンスを消光するか又は前記材料と化学的に反応することにより、NIRスペクトルの範囲の1種又は複数の所定の波長におけるフォトルミネッセンス強度及び/又は本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウムのNIRフォトルミネッセンス強度の積分を低下させないことが好都合である。
【0060】
本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物は、磁性材料、導電性材料、赤外吸収材料及びそれらの組合せ又は混合物からなる群から選択される1種又は複数の機械読み取り可能な材料をさらに含むことができる。本明細書において使用される用語「機械読み取り可能な材料」は、デバイス又は機械により検出可能な少なくとも1つの独特の特性を示し、認証するための特定の設備を使用することにより、層又は前記層を含む物品を認証する方法を与えるように、前記層に含まれ得る、材料を指す。
【0061】
本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物は、1種若しくは複数の法医学マーカー及び/又は1種若しくは複数のタガントをさらに含むことができる。
【0062】
本明細書に記載されるフォトルミネッセントインク組成物は、インク組成物、及び液体担体から発出するNIR発光強度を減少又は低下させない1種又は複数の添加剤(例えば結合剤、分散剤、湿潤剤、レオロジー改変剤、光安定剤等)をさらに含むことができる。
【0063】
活性放射線又は発光放射線に干渉しないこれらの添加剤、特に結合剤のみを選択することが重要である。選択された添加剤、特に結合剤は、発光強度に対して最小の影響を有することも望ましく、即ち、添加剤はフォトルミネッセンスに如何なる有意の消光も示すべきではない。結合剤樹脂は、VISスペクトルの範囲で透明であり、それによりヒトの眼により気づかれ得ない透明な潜在的セキュリティ特徴の製造を確実にすることが好ましい。
【0064】
本明細書に記載されるフォトルミネッセントインク組成物を適用するために使用されるプロセス及び本明細書に記載される前記フォトルミネッセントインク組成物で作製された層を硬化させるプロセスに依存して、前記フォトルミネッセントインク組成物は、酸化乾燥型インク組成物、放射線硬化性インク組成物(UV-VIS硬化性インク組成物を含む)、熱的乾燥インク組成物、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0065】
本明細書に記載されるフォトルミネッセントインク組成物を適用するために使用されるプロセスに依存して、前記フォトルミネッセントインク組成物は、1種又は複数の添加剤をさらに含むことができ、前記1種又は複数の添加剤は、放射線硬化性コーティング組成物の物理的、レオロジー及び化学的パラメーター、例えば、粘度(例えば溶媒、増粘剤及び界面活性剤)、粘稠度(例えば抗沈降剤、充填剤及び可塑剤)、発泡性(例えば発泡防止剤)、潤滑性(ワックス、油)、UV安定性(光安定剤)、接着性、静電性、貯蔵安定性(重合阻害剤)等を調節するために使用される化合物及び材料を含むが、これらに限定されない。本明細書に記載される添加剤は、本明細書に記載されるフォトルミネッセントインク組成物中に、当技術分野において既知である量及び形態で存在することができ、添加剤の寸法の少なくとも1つは1~1000nmの範囲である所謂ナノ材料を含む。
【0066】
本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物は、液体又はペースト状のインクを形成する全ての成分を、分散、混合及び/又は粉砕することにより調製することができる。
【0067】
フォトルミネッセントセキュリティインク組成物中における鉄ドープスズ酸バリウム材料の濃度は、約1~約25wt%の間、好ましくは約2~約20wt%の間、さらにより好ましくは約5~約17wt%の間であることが好ましく、該重量パーセントは、フォトルミネッセントセキュリティインク組成物の合計量に基づくことが好ましい。
【0068】
本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物は、コーティング又は印刷プロセスにより適用される。本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物は、インクジェット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、(輪転)グラビア印刷、凹版印刷(当技術分野において銅板鋼鋳型印刷としても既知である)及びオフセット印刷からなる群から選択される印刷プロセスにより適用されることが好ましい。本明細書に記載されるインク組成物は、インクジェット印刷、スクリーン印刷、凹版印刷又はオフセット印刷により適用されることが、より好ましく、インクジェット印刷又はオフセット印刷により適用されることが、さらにより好ましい。
【0069】
本発明によるさらなる態様は、潜在的セキュリティインクを製造するための本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物の使用に、並びに本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物で作製されたセキュリティ特徴に関する。
【0070】
本明細書に記載されるセキュリティ特徴は、VIS透明であり、即ち少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、及びさらにより好ましくは少なくとも90%の全光透過率を有し、それ故、裸眼によっては気づかれず、その認証は、UV光を用いるセキュリティ特徴の照射下で検出又は読み取りデバイスを用いて、及び該セキュリティ特徴により発光される放射線のスペクトルのパラメーターの測定を用いてのみ可能であることが好ましい。
【0071】
本明細書に記載されるセキュリティ特徴は、VIS光に透明であり、それ故、裸眼によっては検出可能でないが、その認証は、UV光を用いるセキュリティ特徴の照射下でヒトの眼により、及びUV光を用いるセキュリティ特徴の照射下でIR検出又はIR読み取りデバイスを用いて、及びセキュリティ特徴により発光される放射線のスペクトルのパラメーターの測定により可能であることがより好ましい。
【0072】
本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム材料の改善された光学特性のおかげで、非常に低い重量濃度の鉄ドープスズ酸バリウム材料を示すセキュリティ特徴を製造することができる。
【0073】
好ましい実施形態において、本明細書に記載されるセキュリティ特徴は、本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物を、本明細書に記載される基材に本明細書に記載されるように適用して、フォトルミネッセントセキュリティインク層を形成し、該フォトルミネッセントセキュリティインク層を硬化させることにより得られる。
【0074】
本発明のために適当な基材は、紙又は他の繊維状の材料、例えば、セルロース、紙を含有する材料、プラスチック又はポリマー基材、複合体材料、金属又は金属で覆われた材料、ガラス、セラミックス及びそれらの組合せを含むが、これらに限定されない。プラスチック又はポリマー基材の典型的な例は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリエチレンテレフタレート(PET)で作製された基材である。複合体材料の典型的な例は、紙及び少なくとも1種のプラスチック又はポリマー材料の多層構造又はラミネート、例えば、上で記載されたもの並びに紙様の又は繊維状の材料、例えば上で記載されたものなどに組み込まれたプラスチック及び/又はポリマーの繊維を含むが、これらに限定されない。セキュリティ文書の偽造の及び不法な複製に対するセキュリティレベル及び耐性をさらに強化する狙いで、該基材は、透かし、セキュリティ繊条、繊維、プランシェット、発光性化合物、ウィンドウ、フォイル、ステッカー、コーティング及びそれらの組合せを含有することができるが、但し、前記追加のセキュリティ特徴が、本明細書に記載される鉄ドープスズ酸バリウム材料から発出するNIR発光強度を減少させないことが条件である。
【0075】
本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物が適用される、本明細書に記載される基材は、セキュリティ文書又はセキュリティ物品の独特の部分に存することができるか、或いは、本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物は、補助基材、例えば、セキュリティ繊条、セキュリティストライプ、フォイル、ステッカー又はラベルなどに適用されて、その後、セキュリティ文書又は物品に別のステップで移される。
【0076】
本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク層は、当業者に周知の硬化方法により硬化され得る。硬化ステップは、一般的に、上記基材に接着する実質的に固体の材料が形成されるように、インク組成物の粘度を増大させる任意のステップであることができる。硬化ステップは、溶媒などの揮発性構成要素の蒸発、及び/又は水の蒸発(即ち物理的乾燥)に基づく物理的プロセスを包含することができる。ここで、熱風、赤外線又は熱風と赤外線の組合せを使用することができる。或いは、硬化プロセスは、セキュリティインク中に含まれる結合剤及び任意選択の開始剤化合物及び/又は任意選択の架橋化合物の硬化、重合又は架橋のなどの化学反応を含むことができる。そのような化学反応は、上で概説したように物理的硬化プロセスのための熱又はIR照射により開始され得るが、好ましくは、紫外-可視光放射線硬化及び電子ビーム放射線硬化、好ましくは紫外-可視光放射線硬化を含む放射線硬化を含むが、これらに限定されない放射線機構;酸化重合(酸化的網状化、典型的には、酸素及び1種又は複数の触媒、例えば、コバルト含有、マンガン含有及びバナジウム含有触媒の共同作用により誘発される);架橋反応又は任意のそれらの組合せによる化学反応の開始を含むことができる。その結果、及び本明細書に記載されるように、本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物は、放射線硬化性インク組成物、熱的乾燥インク組成物、酸化的に乾燥する凹版インク組成物及びそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0077】
好ましい実施形態において、本明細書に記載されるセキュリティ特徴は、認証目的のための、証印、像、パターン又はグラフの要素である。証印は、記号、文様、文字、単語、数、ロゴ及び図面を含むが、これらに限定されない。
【0078】
本発明によるさらなる実施形態は、本明細書に記載されるセキュリティ特徴を製造するプロセスであって、
本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク組成物を、本明細書に記載される基材に本明細書に記載されるように適用して、フォトルミネッセントセキュリティインク層を形成するステップと、
該フォトルミネッセントセキュリティインク層を本明細書に記載されるように硬化させるステップと
を含むプロセスを対象とする。
【0079】
本発明によるさらなる態様は、1種又は複数のセキュリティ特徴、例えば、本明細書に記載されるものなどを含むセキュリティ文書又は物品を対象とする。上記のように、セキュリティ文書及びセキュリティ物品は、例えば、それらを、偽造又は不法な複製を潜在的に試みさせやすくする、及び偽造又は詐欺に対して少なくとも1種のセキュリティ特徴により通常保護されている有価を有する文書及び物品である。
【0080】
セキュリティ文書の例は、有価の文書及び有価の市販の商品を含むが、これらに限定されない。有価の文書の典型的な例は、紙幣、証書、切符、小切手、金券、収入印紙、タックスラベル、契約書等、身分証明文書、例えばパスポート、身分証明カード、ビザ、キャッシュカード、クレジットカード、取引きカード、アクセス文書、入場券等を含むが、これらに限定されない。有価の市販の商品は、特に、化粧物品、栄養補助食品、薬学的物品、アルコール、タバコ物品、飲料又は食材、電気/電子工学物品、布帛又は宝石類のための包装材料、即ち例えば真の薬剤のような包装の内容を保証するために、偽造及び/又は不法な複製に対して保護されるべき物品を包含する。包装材料の例は、認証ブランドラベル、タンパーエビデンス(tamper evidence)ラベル及びシールなどのラベルを含むが、これらに限定されない。
【0081】
したがって、好ましい実施形態は、本明細書に記載される1種又は複数のセキュリティ特徴を含む、紙幣、捺印証書、切符、小切手、金券、収入印紙、タックスラベル、契約書、身分証明文書、アクセス文書、又は化粧物品、栄養補助食品、薬学的物品、アルコール、タバコ物品、飲料、食材、電気/電子工学物品、布帛若しくは宝石類のための包装材料に関する。
【0082】
上記のように、セキュリティ物品は、偽造及び/又は不法な複製に対して、それらの内容を保証するために、保護されるべき全ての物品を包含する。
【0083】
セキュリティ物品は、瓶などのガラスで作製された物品、缶などの金属で作製された物品、瓶のキャップ、宝石類、セラミックで作製された物品等を含むが、これらに限定されない。
【0084】
本発明によるさらなる態様は、本明細書に記載されるセキュリティ文書又は物品を製造するプロセスであって、記載されたフォトルミネッセントセキュリティインク組成物を、本明細書に記載されるセキュリティ文書又は物品に、本明細書に記載されるように適用して、本明細書に記載されるフォトルミネッセントセキュリティインク層を形成するステップと、前記フォトルミネッセントセキュリティインク層を本明細書に記載されるように硬化させるステップとを含むプロセスを対象とする。
【0085】
本発明によるさらなる実施形態は、本明細書に記載される1種又は複数のセキュリティ特徴を含むセキュリティ文書又はセキュリティ物品を認証する方法であって、
a)本明細書に記載されるセキュリティ文書又はセキュリティ物品の1種又は複数のセキュリティ特徴に、紫外光、即ち約10nm~約400nmの間の1種又は複数の波長を有する電磁放射線を照射するステップと;
b)紫外光を用いる照射に応答して1種又は複数のセキュリティ特徴により発光される放射線のスペクトルのパラメーターを測定するステップと;
c)セキュリティ文書又は物品の認証を決定するステップと
を含む方法を対象とする。
【0086】
ステップa)で使用される紫外光は、約300nm~約390nmの間、より好ましくは330nm~約390nm、さらにより好ましくは約360nm~約390nmの間の1種又は複数の波長を有することが好ましい。
【0087】
認証方法のステップb)、即ち、上記紫外光を用いる照射に応答して1種又は複数のセキュリティ特徴により発光される放射線のスペクトルのパラメーターを測定するステップは、
1種又は複数のセキュリティ特徴により1種又は複数の所定の近赤外波長で発光される放射線の強度、及び/又は
2種の所定の近赤外波長の間で1種又は複数のセキュリティ特徴により発光される放射線のスペクトル強度の積分、及び/又は
発光される放射線の減衰特性
を測定することを好ましくは含む。
【0088】
それ故、検出ステップb)の間に、紫外光を用いる照射に応答して1種又は複数のセキュリティ特徴により発光される放射線の少なくとも1つ、少なくとも2つ又は少なくとも3つのスペクトルのパラメーターが測定される。
【0089】
したがって、セキュリティ特徴により発光される放射線の測定されたスペクトルのパラメーターは、紫外光を用いる照射下で、セキュリティ特徴により発光される、近赤外スペクトルの範囲の1種又は複数の所定の波長における放射線の強度であってもよい。1種又は複数の所定の波長は、800~1100nmの間、好ましくは800~1000nmの間、さらにより好ましくは850~950nmの間に含まれる。
【0090】
或いは、セキュリティ特徴により発光される放射線の測定されたスペクトルのパラメーターは、セキュリティ特徴により発光される、2種の所定の近赤外波長の間、好ましくは700~1100nmの間の放射線のスペクトル強度の積分であってもよい。
【0091】
さらに、セキュリティ特徴により発光される放射線の測定されたスペクトルのパラメーターは、発光される放射線の減衰特性であってもよい。発光される放射線の減衰特性を測定するためには、最少の1種又は複数の近赤外波長で発光される放射線の強度を時間の関数でモニターすることで十分である。認証方法のステップb)で測定される減衰特性は、紫外光を用いる照射に応答してセキュリティ特徴により発光される放射線が、前記発光される放射線の初期強度値に対する所定のパーセンテージまで減衰するのに要する時間の長さ、紫外光を用いる照射に応答してセキュリティ特徴により発光される放射線が、前記発光される放射線の初期強度値の第1の所定のパーセンテージから前記初期強度値の第2の所定のパーセンテージまで減衰するのにかかる時間の長さ、及び紫外光を用いる照射に応答してセキュリティ特徴により発光される放射線が、前記発光される放射線の第1の強度値から前記発光される放射線の初期強度値の所定のパーセンテージまで減衰するのにかかる時間の長さから選択されることが好ましい。励起光を用いる照射に応答してフォトルミネッセント材料により発光され、該励起光源が除去されたときの放射線は、通常、以下の方程式にしたがって指数関数的に減衰するので:
I=Ae-time/τ+B
(Iは発光される放射線の強度であり、τは減衰定数であり、A及びBは定数である)、認証方法のステップb)で測定される減衰特性は、減衰定数τであることがさらに好ましい。
【0092】
セキュリティ文書又はセキュリティ物品の認証及び真正性は、本発明によるセキュリティ特徴を認証するスペクトルのパラメーターの範囲で、ステップb)で測定された(1つ又は複数の)スペクトルのパラメーターを比較することにより簡単に決定される。検出された(1つ又は複数の)スペクトルのパラメーターが、認証するスペクトルのパラメーターの範囲内である場合には、該セキュリティ文書又は該セキュリティ物品は、確実及び真正であると考えられる。逆に、検出された(1つ又は複数の)スペクトルのパラメーターが、認証するスペクトルのパラメーターの範囲内に入りそこねた場合、該文書又は該物品は、出所不明である(即ち捏造されたか又は偽造された)と考えられる。
【0093】
本明細書に記載される1種又は複数のセキュリティ特徴を含むセキュリティ文書又はセキュリティ物品を認証する方法は、
a)本明細書に記載されるセキュリティ文書又はセキュリティ物品の1種若しくは複数のセキュリティ特徴に、約300nm~約390nmの間、より好ましくは330nm~約390nm、さらにより好ましくは約360nm~約390nmの間の1種又は複数の波長を有する紫外光を照射するステップと;
b)2種の所定の近赤外波長の間で、好ましくは700~1100nmの間で、1種又は複数のセキュリティ特徴により発光される放射線のスペクトル強度の積分を測定するステップと;
c)セキュリティ文書又は物品の認証を決定するステップと
を含むことが特に好ましい。
【0094】
本明細書に記載される1種又は複数のセキュリティ特徴を含むセキュリティ文書又はセキュリティ物品を認証するさらなる好ましい方法は、
a)本明細書に記載されるセキュリティ文書又はセキュリティ物品の1種又は複数のセキュリティ特徴に、約300nm~約390nmの間、より好ましくは330nm~約390nm、さらにより好ましくは約360nm~約390nmの間の1種又は複数の波長を有する紫外光を照射するステップと;
b)発光される放射線の減衰特性を測定するステップと;
c)セキュリティ文書又は物品の認証を決定するステップと
を含む。
【実施例
【0095】
ここで、本発明は、非限定的な例に関してさらに詳細に記載される。
試薬は、以下の供給業者から得た:
SnCl・5HO 98% Alfa Aesarから;
BaCl・2HO 99+% AlfaAesarから;
BaCO≧99% Sigma-Aldrichから;
SnO97% Sigma-Aldrichから;
Fe(NO・HO ACS規格 Prochemから;
NaOH 10N溶液 JTBakerから。
【0096】
粉末は、Bruker D8 Advance instrumentをCuKα線で使用して、X線回折(XRD)により特性決定した。
【0097】
Fe3+濃度は、Horiba Jobin-Yvon Ultimaを使用して、ICP-OESにより測定した。
【0098】
フォトルミネッセンス(PL)スペクトルは、キセノンアークランプ及び冷却されたNIR PMT検出器(Hamamatsu R5108 400~1200nm)を備えたPTI蛍光分光光度計QuantaMaster QM-400を用いて測定した。フォトルミネッセンスの積分値は、700nm~1100nmの範囲でフォトルミネッセンス発光スペクトルを積分することにより得た。
【0099】
粒径分布は、Microtrac S3500 Bluewave粒径アナライザー及び試料送達コントローラーを使用して測定した。試料は、水懸濁液として調製して、試料から回折して光学検出器アレイに投射されるレーザー散乱光の分析により測定した。試料懸濁液は、Branson Sonifier 450を使用して調製した(0.25gの粉末試料、約0.1gのDarvan C分散剤、及び合計が50gに達する脱イオン水、50%の動作周期及び60%の振幅で合計3分の経過時間、超音波処理した)。
【0100】
I.鉄ドープスズ酸バリウム材料の合成
I.A 湿式プロセスによる鉄ドープスズ酸バリウム材料の合成
I.A.1 湿式製造プロセス条件の最適化。BaSnO試料C1~C6の合成。
SnCl・5HO(29.01g、82.2mmol)を、125mlの水中で12mlの濃HClの溶液に添加し、透明なSn(IV)溶液を得て、その溶液を1時間室温で撹拌した。BaCl・2HO(22.14g、90.4mmol)を添加し該溶液を15分間撹拌した。得られた溶液を、NaOH溶液(204ml;NaOH濃度:表1を参照されたい)に室温で激しく撹拌しながら滴下添加すると、BaSn(OH)の沈殿が生じた。該溶液のpHを、NaOH溶液又はHCl溶液で表1に記載された値に調節した。該懸濁液を、緩やかに撹拌しながら1.5時間熟成させた。沈殿を1250rpmで30分間遠心分離して、脱イオン水で上清のpHが約7~8になるまで洗浄した。遠心分離は、6×500mlのジャーを備えたThermoforma GP8Rで行なった。
【0101】
洗浄されたBaSn(OH)の沈殿を、オーブン中95℃で終夜乾燥した。生成物を1350℃で20時間空気下、アルミナ坩堝中で焼成して、その後、325メッシュで篩い、目標のBaSnO(試料C1~C6)を得た。
【0102】
SnOに対するBaSnOの反応収率を%で1/(1+R)として計算した。ここで、Rは、焼成された粉末中におけるBaSnOに対するSnOの比であり;Rは、XRD回折パターンの中でSnOの最も強いピークの強度(a1、図1)(2θ=26.6°で)を、BaSnOの最も強いピーク(b1、図1)の強度(2θ=30.7°で)により除することにより計算した。
【0103】
【表1】
【0104】
I.A.2 異なる濃度の第二鉄カチオンを有する鉄ドープスズ酸バリウム試料(E1~E9)の合成
200重量ppmのFe3+貯蔵溶液は、Fe(NO・9HO(0.7246g、1.8mmol)を水(500ml)に溶解することにより調製した。
【0105】
SnCl・5HO(29.01g、82.2mmol)を、125mlの水中12mlの濃HClの溶液に添加し、透明なSn(IV)溶液を得て、その溶液を1時間室温で撹拌した。BaCl・2HO(22.14g、90.4mmol)を添加し該溶液を15分間撹拌した。得られた溶液を撹拌しながら可変体積のFe3+貯蔵溶液で処理して、その結果、表2にまとめた理論的濃度のFe3+を得た(BaSnOの100%の収率として計算した)。
【0106】
得られた溶液を、4NのNaOH溶液(204ml)に室温で激しく撹拌しながら滴下添加すると、鉄ドープBaSn(OH)の沈殿が生じた。該溶液のpHをNaOH溶液又はHCl溶液で約11に調節した。該懸濁液を、緩やかに撹拌しながら1.5時間熟成させた。沈殿を1250rmpで30分間遠心分離して、脱イオン水で上清のpHが約7~8になるまで洗浄した。
【0107】
洗浄された鉄ドープBaSn(OH)の沈殿を、オーブン中95℃で終夜乾燥した。生成物を1350℃で20時間空気下、アルミナ坩堝中で焼成して、325メッシュで篩い、目標の鉄ドープBaSnO(試料E1~E9)を得た。鉄ドープBaSnO試料E1~E9中における、並びにBaSnO試料C3中におけるFe3+の濃度を、ICP-OESにより測定した。添加されたFe3+の理論値並びにICP-OESにより測定された試料E1~E9及びC3中のFe3+の濃度を、表2でリストにする。リストにしたFe3+濃度の測定値は、3回の測定の平均を表す。
【0108】
表2に例示したように、ドーパントのFe3+濃度は、1000ppm以上が合成中に添加された場合、約840ppmの最大平均値に達した(表2、試料E8及びE9を参照されたい)。
【0109】
鉄ドープBaSnO試料(E1~E9)の発光スペクトルを測定した(例えば、鉄ドープBaSnO試料(E2)は最大で約890nmを示す)。図3は、鉄ドープBaSnO試料(E2)のXRD回折パターンを示す。該鉄ドープBaSnO試料(E2)の粒径及びサイズ分布を測定した(図4を参照されたい、d(0.5)=3.44μm及びd(0.9)=7.26μm)。図5は鉄ドープBaSnO試料(E2)の粒子のSEM顕微鏡写真を示す。
【0110】
図6は、鉄ドープBaSnO試料E1~E8と湿式プロセスにより調製されたBaSnO試料C3についてのフォトルミネッセンス強度の積分間の比較を示す。BaSnO試料C3のフォトルミネッセンス強度の積分を100%に設定して、鉄ドープBaSnO試料E1~E8のフォトルミネッセンス強度の積分のための規格化参照として使用した。
【0111】
表2に、365nmで励起されたときの試料C3及びE1~E8のNIRフォトルミネッセンス強度の積分値をさらにリストにする。
【0112】
【表2】
【0113】
I.B 固体プロセスによる鉄ドープスズ酸バリウム材料(試料E10~E19)の合成
500ppmのFe3+貯蔵溶液は、Fe(NO・9HO(0.362g、0.896mmol)をエタノール(100ml)に溶解することにより調製した。
【0114】
BaCO(3.25g、16.4mmol)及びSnO(2.22g、16.4mmol)をアルミナ坩堝中で混合した。可変体積の500ppmFe3+貯蔵溶液を添加した(鉄ドープBaSnO試料E10~E19中のFe3+濃度については表3を参照されたい)。生じた混合物をアルミナ坩堝中で手を使用して粉砕し、1150℃で20時間焼成した;このプロセスを3回繰り返して、鉄ドープBaSnO(試料E10~E19)を得た。該鉄ドープBaSnO試料E10~E19をXRDにより特性決定した(相純度)。
【0115】
BaSnO試料C7は、Fe3+貯蔵溶液を該混合物に添加しなかったことを除いて、鉄ドープBaSnO試料E10~E19と同様な方法で調製した。
【0116】
表3に、添加されたFe3+の理論値及びICP-OESにより測定された試料C7中におけるFe3+の濃度をリストにする。リストにしたFe3+濃度の測定値は、3回の測定の平均を表す。
【0117】
鉄ドープBaSnO試料(E10~E19)の発光スペクトルを測定した。図8は、鉄ドープBaSnO試料(E13)のフォトルミネッセンス発光スペクトルを示す。
【0118】
表3に、365nmで励起されたときの試料C7及びE10~E19のNIRフォトルミネッセンス強度の積分値をさらにリストにする。BaSnO試料C7のフォトルミネッセンス強度の積分を100%に設定して、鉄ドープBaSnO試料E10~E19のフォトルミネッセンス強度の積分のための規格化参照として使用した。図7は、鉄ドープBaSnOの試料E10~E17と固体プロセスにより調製されたBaSnO試料C7についてのフォトルミネッセンス強度の積分間の比較を示す。
【0119】
【表3】
【0120】
II.鉄ドープスズ酸バリウムを含有するフォトルミネッセントインク及びそれらのセキュリティ特徴の調製
II.A フォトルミネッセントインクE1b~E8b及びC3bの調製
表4に記載された組成を有するフォトルミネッセントインク(E1b~E8b、C3b)を、以下のように調製した:鉄ドープスズ酸バリウム(試料E1~E8)又はBaSnO(試料C3)、VINNOL E22/48、DOWANOL DPM及びUCARエステルEEPの混合物を、室温でスピードミキサー(Flacktek Inc.からのDAC 150 FVZ-K)及び3種のジルコニアビーズ(5mm)を用いて3200rpmで6分間混合した。
【0121】
【表4】
【0122】
II.B フォトルミネッセントインクE1b~E8b及びC3bで、それぞれ作製されたセキュリティ特徴E1a~E8a及びC3aの調製
セキュリティ特徴E1a~E8a及びC3aは、上記II.A項で得られたフォトルミネッセントインクを、ポリマー基材(二配向ポリプロピレン、BOPP)にドローダウンバーを使用して80□mで適用することにより、フォトルミネッセントインク層を得て、前記層を室温で約4時間乾燥することにより調製した。セキュリティ特徴E1a~E8a及びC3のフォトルミネッセンスを蛍光分光光度計を用いて測定した。
【0123】
表5に、365nmで励起されたときのセキュリティ特徴E1a~E8a及びC3aのNIRフォトルミネッセンス強度の積分値をリストにする。セキュリティ特徴C3aから得られたフォトルミネッセンス強度の積分を100%に設定して、鉄ドープBaSnO試料E1a~E8aのフォトルミネッセンス強度の積分のための規格化参照として使用した。
【0124】
図9は、365nmで励起されたときのセキュリティ特徴E1a~E8a及びC3aについてのフォトルミネッセンス強度の積分間の比較を示す。
【0125】
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9