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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】ランスパイプ
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/072 20060101AFI20230511BHJP
   C21C 1/02 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C21C7/072 A
C21C1/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019041560
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2020143349
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】柳 憲治
(72)【発明者】
【氏名】古澤 栄二
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-018950(JP,U)
【文献】特開昭61-238909(JP,A)
【文献】特開2014-218712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/072
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスと粉体の少なくとも一方の溶湯処理剤を金属溶湯に供給する通路を形成する芯金と、
前記芯金に連通して設けられ、前記芯金を搬送された前記溶湯処理剤を前記金属溶湯に吐出する吐出孔を形成する筒状の吐出孔パイプと、
前記芯金及び前記吐出孔パイプの外周面を被覆する耐火物と、
を有するランスパイプであって、
前記吐出孔パイプは、その内部に前記溶湯処理剤が流れるセラミックスパイプを有し、
前記セラミックスパイプは、その全体が金属パイプの内部に嵌装されていることを特徴とするランスパイプ。
【請求項2】
前記セラミックスパイプは、耐火物レンガに覆われている請求項1記載のランスパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑や溶鋼等の金属溶湯の処理を行うため、ガスや粉体等の溶湯処理剤を金属溶湯に吹き込むことに用いられるランスパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
ランスパイプは、製銑・製鋼工程などにおいて、金属溶湯に含まれる非金属成分の除去処理、成分調整、攪拌等を目的として、ガスや粉体等の溶湯処理剤を金属溶湯に吹き込むために用いられる。
ランスパイプは、例えば、特許文献1~3に記載されている。
【0003】
特許文献1には、長手方向に延びる芯体、芯体を被覆する耐火物層、芯体及び耐火物層のうちの少なくとも一方に設けられた第1ガスを金属溶湯に向けて吹き出す第1ガス吹出孔をもつ第1ガス通路を具備するランスにおいて、耐火物層の先端部がアルミナ-マグネシア-カーボン系の耐火物で形成されているガス吹き込みランスが記載されている。
【0004】
特許文献2には、溶湯処理剤を搬送する搬送通路を有する芯金部、芯金部の外周面を覆う不定形耐火物、溶湯処理剤を溶融金属に吐出する吐出通路を有する吐出部パイプ、吐出部パイプの外周面を覆うように配置された耐火物ブロック、芯金部又は吐出部パイプに耐火物ブロックを締結して固定する固定具、を備えたランスパイプが記載されている。
【0005】
特許文献3には、内面に雌ねじを設けた金属製パイプを金属管の先端附近に取り付け、外面に雄ねじを設けた耐火セラミックノズルを金属製パイプに嵌合・固定し、更に外周を不定形耐火物でライニングしてなる溶銑流脱珪用ランスパイプが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-144407号公報
【文献】特開2014-218712号公報
【文献】実開昭58-18950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のランスパイプでは、耐溶損性を向上するために吐出孔の周辺をアルミナ-マグネシア-カーボン系の耐火物(レンガ)で形成しているが、吐出孔パイプ自体は金属製であり、溶湯処理剤の粉体を吹き込むときに、粉体によって吐出孔パイプの内側(すなわち、内周面)に摩耗が生じるおそれがあった。
【0008】
特許文献2のランスでは、吐出部パイプ全体をセラミックスで形成することが可能となっている。セラミックスパイプは、金属製パイプと比較して耐摩耗性を向上できる。しかし、セラミックスパイプは、細い形状(すなわち、肉厚が薄い形状)の場合、外的な要因(例えば、製造時の振動や衝突)によって吐出部パイプ(セラミックスパイプ)が損傷するおそれがある。吐出部パイプが損傷して脱落した場合には、溶湯処理剤が吐出する吐出孔の孔径が一気に拡大し、不定形耐火物が吐出孔の周辺ですり鉢状に溶損するおそれがあった。さらに、不定形耐火物の吐出孔の孔径が変化し、ガスの流速低下による詰まりが生じる可能性があった。
特許文献3のランスパイプでは、振動などによって金属パイプとの接続部にて、吐出孔パイプが折損する可能性があった。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、溶湯処理剤が吐出する吐出孔の近傍での損傷が抑えられたランスパイプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明のランスパイプは、ガスと粉体の少なくとも一方の溶湯処理剤を金属溶湯に供給する通路を形成する芯金と、前記芯金に連通して設けられ、前記芯金を搬送された前記溶湯処理剤を前記金属溶湯に吐出する吐出孔を形成する筒状の吐出孔パイプと、前記芯金及び前記吐出孔パイプの外周面を被覆する耐火物と、を有するランスパイプであって、前記吐出孔パイプは、その内部に前記溶湯処理剤が流れるセラミックスパイプを有し、前記セラミックスパイプは、その全体が金属パイプの内部に嵌装されていることを特徴とする。
【0010】
本発明のランスパイプは、溶湯処理剤が金属溶湯に吹き出す吐出孔パイプがセラミックスパイプで形成されている。このため、溶湯処理剤として粉体を用いた場合でも、吐出孔の損傷が抑えられる。この結果、吐出孔近傍の損傷によるランスパイプの損傷も抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1形態のランスパイプの構成を示す軸方向断面図である。
図2】第1形態のランスパイプの吐出孔パイプの構成を示す軸方向断面の拡大図である。
図3】第2形態のランスパイプの吐出孔パイプの構成を示す軸方向断面の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に実施する形態について、図面に基づいて説明する。なお、各図は、本発明を説明するために必要な要素を図示し、実際の全要素を図示しているとは限らない。上下左右等の方向を言う場合には、図面の記載を基準とする。周方向、径方向等の方向については、特に言及しない場合、ランスパイプ1(の芯金2)の周方向、径方向を示す。
実施形態のランスパイプ1は、先端(図の下方側の端部)を金属溶湯に浸漬して、溶湯処理剤を吹き込むことに用いられる。本形態のランスパイプ1は、例えば、溶銑予備処理に用いられる。
【0013】
[第1形態]
本形態のランスパイプ1は、図1図2に示す構成を有する。図1は、第1形態のランスパイプ1の構成を示す軸方向断面図である。図2は、吐出孔パイプ3の構成を示す軸方向断面図である。本形態のランスパイプ1は、芯金2、吐出孔パイプ3、耐火物4を有する。
【0014】
芯金2は、軸方向(図の上下方向)に沿って伸びる金属管から形成される。芯金2は、溶湯処理剤が流れる処理剤流路20を、金属管の内部に形成する。本形態において、芯金2の先端(下端)は、閉じている。芯金2の基端(上端)は、溶銑処理剤を供給する供給装置(図示せず)に固定・保持される。
金属管は、その材質が限定されないが、耐熱性金属(例えば、ステンレス鋼などの耐熱鋼)を用いることが好ましい。また、金属管の外径,内径(及び金属管の厚さ)は任意に設定できる。
【0015】
吐出孔パイプ3は、芯金2の処理剤流路20に連通して設けられ、芯金2を搬送された溶湯処理剤を金属溶湯に吐出する吐出孔30を形成する筒状の部材である。吐出孔パイプ3は、基端が内径側の芯金2に、先端が外径側でランスパイプ1の外周面に、径方向に沿って伸びて設けられている。吐出孔パイプ3は、芯金2の外周面の先端側の所定の位置に設けられる。
【0016】
吐出孔パイプ3は、その数が限定されない。本形態では、周方向で等間隔となる位置に4本が設けられている。
また、芯金2に接続する軸方向での位置についても限定されず、軸方向での位置が同じであっても、異なっていても、いずれでもよい。本形態では、周方向で隣接する吐出孔パイプ3は、軸方向での位置が同じ位置で設けられている。
吐出孔パイプ3は、吐出孔30、パイプ接続部31、金属パイプ部32、金属パイプ基部33、金属パイプ先端部34、セラミックスパイプ35、耐火物レンガ36を有する。
吐出孔パイプ3の吐出孔30は、ランスパイプ1の外周面に開口する。吐出孔30は、セラミックスパイプ35の先端により形成される。
【0017】
パイプ接続部31は、芯金2の処理剤流路20に連通して設けられた、略直管状のパイプにより形成される。パイプ接続部31は、その軸方向が、ランスパイプ1の径方向にそって伸びている。パイプ接続部31は、基端側が大径であり、外径側に位置する先端側が小径となる略漏斗状の形状(すなわち、内周形状及び外周形状が円錐台形状)を有している。
【0018】
パイプ接続部31は、基端が芯金2の外周面に一体に固定され、パイプ接続部31の軸方向が、ランスパイプ1の径方向に沿って伸びた状態で設けられている。パイプ接続部31は、先端に金属パイプ部32が一体に接続される。パイプ接続部31を形成する直管状のパイプは、所定の溶湯処理剤をその内部に流すことができる内径を有していればよく、基端側の内径が芯金2の内径より細い径のパイプとすることができる。
パイプ接続部31は、その材質が限定されないが、芯金2の金属管と同じ材質で形成することができる。すなわち、耐熱性金属(例えば、ステンレス鋼などの耐熱鋼)を用いることができる。
【0019】
金属パイプ部32は、パイプ接続部31の先端部に、同軸状態(軸方向が一致する状態)で設けられているパイプ状の部材である。金属パイプ部32は、パイプ接続部31の先端部に一体に接続する金属パイプ基部33と、金属パイプ基部33の先端側に位置する金属パイプ先端部34と、を有する。
金属パイプ基部33は、パイプ接続部31の先端部に、同軸状態(軸方向が一致する状態)で一体に設けられている、内径が一定のパイプ状の部材である。金属パイプ基部33は、その内径が、パイプ接続部31の先端部と同じ径となっている。
金属パイプ先端部34は、金属パイプ基部33の先端部に、同軸状態(軸方向が一致する状態)で一体に設けられている、内径が一定のパイプ状の部材である。金属パイプ先端部34は、その内径が、金属パイプ基部33の内径よりも大きな径となっている。
金属パイプ先端部34は、その内部に、セラミックスパイプ35を嵌装する。金属パイプ先端部34は、その内部にセラミックスパイプ35を嵌装可能な内周形状を有する。すなわち、金属パイプ基部33と金属パイプ先端部34の内径は、図2に示すように、階段状に変化するように形成されている。本形態では、金属パイプ先端部34の内周面と、セラミックスパイプ35の外周面との間に、無機接着剤よりなる接着剤層(図示せず)が形成され、セラミックスパイプ35が金属パイプ先端部34に固定されている。なお、金属パイプ先端部34の内径は、セラミックスパイプ35をその内部に固定できる径であればよい。
金属パイプ先端部34は、その長さが、セラミックスパイプ35と同じ長さとなっている。すなわち、金属パイプ部32の金属パイプ先端部34の先端は、セラミックスパイプ35の先端と一致し、先端面が同一平面上に位置している。
【0020】
金属パイプ部32は、その材質が限定されない。さらに、金属パイプ部32を形成する金属パイプ基部33と金属パイプ先端部34のそれぞれの材質についても、同じであっても異なっていてもいずれでもよい。金属パイプ部32(金属パイプ基部33と金属パイプ先端部34)は、パイプ接続部31と同じ材質で形成することができる。すなわち、耐熱性金属(例えば、ステンレス鋼などの耐熱鋼)を用いることができる。
金属パイプ部32(金属パイプ基部33と金属パイプ先端部34のそれぞれ)の外径は、限定されない。本形態では、金属パイプ部32(金属パイプ基部33と金属パイプ先端部34のそれぞれ)の外径は、パイプ接続部31の先端部と同じ外径となっている。すなわち、金属パイプ先端部34は、金属パイプ基部33よりも薄肉で形成されている。
セラミックスパイプ35及び金属パイプ部32(金属パイプ基部33と金属パイプ先端部34)のパイプの厚さ(内径と外径の差)は限定されない。
【0021】
セラミックスパイプ35は、金属パイプ先端部34の内部に、同軸状態(軸方向が一致する状態)で設けられているパイプ状の部材である。本形態のセラミックスパイプ35は、その内径が、金属パイプ基部33の先端部と同じ内径となっている。セラミックスパイプ35の先端部は、吐出孔30を形成する。
【0022】
セラミックスパイプ35は、セラミックス(焼結体)であれば、その材質が限定されない。セラミックスパイプ35を形成するセラミックスは、例えば、アルミナ、ムライト、炭化珪素(SiC)、ジルコニア、マグネシア等のセラミックスを挙げることができる。
【0023】
セラミックスパイプ35を形成するセラミックスの特性についても限定されない。高い耐摩耗性を発揮できることから、緻密なセラミックスであることが好ましい。すなわち、気孔率が小さなセラミックスであることが好ましい。
【0024】
耐火物レンガ36は、金属パイプ部32の金属パイプ先端部34を少なくとも覆うように、金属パイプ先端部34をその内部に嵌装した状態で設けられている。耐火物レンガ36は、外径側が縮径した円錐台形状の外形を有し、その中心軸の部分が空間となっているパイプ状を有する。パイプ状の内部に金属パイプ部32の金属パイプ先端部34が嵌装されている。耐火物レンガ36は、その内径が金属パイプ先端部34(及び金属パイプ基部33)の外径と略一致する。本形態では、耐火物レンガ36の内周面と、金属パイプ先端部34(及び金属パイプ基部33)の外周面との間に、無機接着剤よりなる接着剤層(図示せず)が形成されている。接着剤層は、耐火物レンガ36を金属パイプ部32に固定するとともに、界面でのすき間の発生を防止する。なお、耐火物レンガ36の内径は、金属パイプ部32(金属パイプ先端部34及び金属パイプ基部33)をその内部に固定できる径であればよい。
【0025】
耐火物レンガ36は、その長さが、金属パイプ先端部34及びセラミックスパイプ35より長く、金属パイプ部32の長さより短く形成されている。図2に示すように、耐火物レンガ36の先端は、金属パイプ先端部34及びセラミックスパイプ35の先端と一致する。耐火物レンガ36の基端は、金属パイプ基部33の外周に位置する。耐火物レンガ36の先端の端面は、ランスパイプ1の外周面であり、平面であっても、周方向に湾曲した湾曲面であってもよい。
耐火物レンガ36は、外径側が縮径した円錐台形状の外形を有しているが、基端側及び先端側での厚さは限定されない。従来のランスパイプで用いられているものと同等の外周形状とすることができる。
【0026】
耐火物レンガ36は、耐火物4よりも高い強度を有する材質であれば、その材質が限定されない。例えば、マグネシア-カーボン、アルミナ-カーボン、ハイアルミナ、ムライト、SiC、アルミナ、マグネシア等の不焼成レンガや焼成レンガを挙げることができる。
【0027】
耐火物4は、芯金2及び吐出孔パイプ3の外周面を被覆する。耐火物4は、ランスパイプ1の外周面を形成する。すなわち、全体として略柱状のランスパイプ1の外周面を形成するように、耐火物4の外周面が形成される。
【0028】
耐火物4は、その材質が限定されるものではなく、従来のランスパイプの耐火物を用いることできる。耐火物4は、不定形耐火物(キャスタブル)を用いることができる。キャスタブルとしては、例えば、アルミナ-カーボン質、アルミナ-シリカ質、アルミナ質、アルミナ-マグネシア質、アルミナ-マグネシア-カーボン質、アルミナ-スピネル質、アルミナ-スピネル-カーボン質、アルミナ-炭化珪素-カーボン質、アルミナ-シリカ-ジルコニア質等のキャスタブルを挙げることができる。
【0029】
耐火物4は、キャスタブル等の粉末を、粉末の状態又は溶媒(水等の溶媒)に分散したスラリーの状態(流動性を持つ状態)とし、芯金2及び吐出孔パイプ3を配した状態のキャビティに流し込んで、固化したものを用いて形成される。耐火物4は、必要に応じて、加熱・焼成していてもよい。
【0030】
本形態のランスパイプ1は、その先端(少なくとも吐出孔30)を溶銑(金属溶湯)に浸漬した状態で、供給装置が供給する溶銑処理剤(溶湯処理剤)を吐出孔30から吐出する。ランスパイプ1が吐出する溶銑処理剤(溶湯処理剤)は、限定されず、従来のランスパイプにおいて溶銑(金属溶湯)に供給される処理剤を用いることができる。処理剤としては、例えば、酸素ガス(O)等のガス、CaO、Fe、FeO、CaC等よりなる粉体、の少なくとも一方を挙げることができる。なお、処理剤に粉体を用いる場合には、アルゴン(Ar)や窒素(N)等の不活性ガスとともに吐出孔30から吐出させる。
【0031】
(本形態の作用効果)
本形態のランスパイプ1は、溶湯処理剤を金属溶湯に供給する処理剤流路20を形成する芯金2と、芯金2に連通して設けられ、芯金2を搬送された溶湯処理剤を金属溶湯に吐出する吐出孔30を形成する筒状の吐出孔パイプ3と、芯金2及び吐出孔パイプ3の外周面を被覆する耐火物4と、を有する。そして、吐出孔パイプ3は、その内部に溶湯処理剤が流れるセラミックスパイプ35を有する。
【0032】
本形態のランスパイプ1は、吐出孔30がセラミックスパイプ35により形成されており、耐摩耗性が高くなっている。このため、溶湯処理剤として粉体を用いた場合でも、吐出孔30の損傷が抑えられる。詳しくは、溶湯処理剤として粉体を用いた場合、粉体の粒子が吐出孔30から吹き出すときに、その粒子が吐出孔30(を形成するセラミックスパイプ35)の内周面と摺接する。本形態のランスパイプ1は、高い強度を持つセラミックスよりなるため、粉体の粒子が摺接しても、セラミックスパイプ35の内周面の摩耗がほとんど生じない。この結果、吐出孔30近傍の損傷が抑えられる。仮に、吐出孔30がセラミックスよりも硬度が低い材質で形成されている場合、粉体の粒子が摺接すると吐出孔30の近傍の内周面が摩耗を生じ、吐出孔30が損傷する。
【0033】
また、この構成によると、セラミックスパイプ35が金属パイプ部32の金属パイプ先端部34の内部に嵌装されており、ランスパイプ1が外部からの衝撃を受けたとしても(例えば、組み付け時や運搬時に外部へ衝突したとしても)、セラミックスパイプ35の折損による損傷が抑えられる。この結果、吐出孔パイプ3(及びランスパイプ1)が損傷することが抑えられる。
また、吐出孔30がセラミックスパイプ35により形成されていることで、高い耐熱性を発揮する。つまり、ランスパイプ1を、より高温の金属溶湯に浸漬しても、吐出孔30近傍の損傷が抑えられる。
【0034】
本形態のランスパイプ1は、セラミックスパイプ35が金属パイプ先端部34の内部に、無機接着剤よりなる接着剤層で固定される。この構成によると、セラミックスパイプ35が金属パイプ先端部34(金属パイプ部32)のパイプの内部に確実に固定できる。さらに、セラミックスパイプ35と金属パイプ先端部34(金属パイプ部32)の界面に接着剤層が形成されることで、界面の間に金属溶湯が侵入することが抑えられる。すなわち、本形態のランスパイプ1は、金属溶湯が界面から軸心方向に侵入して芯金2等を溶損・損傷することが抑えられる。
【0035】
本形態のランスパイプ1は、セラミックスパイプ35が、耐火物レンガ36に覆われている。耐火物レンガ36の強度が耐火物4の強度より大きいため、吐出孔30から溶湯処理剤を吹き出すことにより生じる金属溶湯の流れに起因する摩耗を抑えることができる。詳しくは、耐火物レンガ36を有していない構成では、吐出孔30のまわりが耐火物4で形成される。この構成では、金属溶湯の流れにより金属パイプ部32(金属パイプ先端部34)の周りの耐火物4が損傷する。耐火物4が損傷すると、金属パイプ部32(金属パイプ先端部34)に溶損が発生しやすくなる。これに対し、本形態では、耐火物レンガ36を有することで、耐火物4の損傷が抑えられ、金属パイプ部32(金属パイプ先端部34)の溶損が抑えられる。
さらに、耐火物レンガ36を有することで、吐出孔パイプ3の剛性がより向上し、吐出孔パイプ3が損傷することが抑えられている。この結果、吐出孔パイプ3(及びランスパイプ1)が損傷することが抑えられる。
【0036】
[第2形態]
本形態は、吐出孔パイプ3の構成が異なること以外は、第1形態と同様な構成のランスパイプ1である。本形態において、特に言及しない構成は、第1形態と同様である。本形態のランスパイプ1の吐出孔パイプ3の構成を、図3に示す。
吐出孔パイプ3は、吐出孔30、パイプ接続部31、セラミックスパイプ35、金属パイプ部32、耐火物レンガ36を有する。
【0037】
セラミックスパイプ35は、外径側が縮径した円錐台形状の外形を有し、その中心軸の部分が空間となっているパイプ状を有する。パイプ状のセラミックスパイプ35の内径は、第1形態と同様に一定であり、かつ金属パイプ基部33の先端部と同じく一定の内径となっている。
セラミックスパイプ35は、その軸方向の長さが、金属パイプ部32(金属パイプ基部33及び金属パイプ先端部34)の全長と同じ長さで形成されている。
金属パイプ部32(金属パイプ基部33及び金属パイプ先端部34)は、その内周面が、セラミックスパイプ35の外周面に対応した形状、すなわち、金属パイプ部32(金属パイプ基部33及び金属パイプ先端部34)の基端側から先端側にかけて、徐々に縮径する内周面を有している。
【0038】
(本形態の作用効果)
本形態のランスパイプ1は、吐出孔パイプ3の構成が異なること以外は、第1形態と同様な構成であり、同様な効果を発揮する。
本形態のランスパイプ1によると、セラミックスパイプ35の外周形状及び金属パイプ部32(金属パイプ基部33及び金属パイプ先端部34)の内周形状が、吐出孔パイプ3の基端側から先端側にかけて、徐々に縮径する形状に形成されている。この構成によると、セラミックスパイプ35が金属パイプ部32(金属パイプ先端部34)から外径側に抜けることが抑えられる。
【0039】
[その他の形態]
上記の各形態では、芯金2が金属管(単管)により形成されているが、この形態に限定されるものではない。二重管等の複数の管から形成されていてもよい。
【0040】
また、金属管や吐出孔パイプ3のパイプ接続部31は、その外周面に、耐火物4に囲包されるスタッドを設けてもよい。スタッドの形状についても限定されず、従来のランスパイプにおいて用いられている形状のスタッドとすることができる。スタッドの数についても限定されず、周方向及び軸方向に配列した複数のスタッドとすることができる。
金属管や吐出孔パイプ3のパイプ接続部31の接続・固定は、その方法が限定されない。例えば、溶着や溶接等の金属の溶融を伴う方法、ネジ止めやリベット止め、カシメ等の方法、を挙げることができる。
【0041】
セラミックスパイプ35と金属パイプ部32(金属パイプ先端部34)との接合に接着剤層を用いているが、この接合方法についても限定されない。例えば、対向面に雄ねじと雌ねじを形成し螺号固定する方法、金属パイプ部32(金属パイプ先端部34の先端部)に溶接ビードを設けてセラミックスパイプ35の位置ズレを抑えて固定する方法、等の方法を挙げることができる。
これらの形態においても、上記の各形態と同様な効果を発揮できる。
【0042】
さらに、上記の各形態は、吐出孔パイプ3が、ランスパイプ1の径方向(軸方向に垂直な方向)に沿って設けられているが、この形態に限定されない。例えば、芯金2の先端面から、軸方向に形成してもよい。さらに、第1形態で径方向外方に進むにつれて、軸方向の上方又は下方に傾斜して伸びて形成してもよい。
【実施例
【0043】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
実施例として、上記の第1形態のランスパイプ1を製造した。実施例のランスパイプ1は、セラミックスパイプ35が99%アルミナセラミックス、金属パイプ部32が耐熱ステンレス鋼、耐火物レンガ36がマグネシア-カーボン質レンガ、耐火物4がアルミナ-カーボン質キャスタブル、よりなる。吐出孔30の内径が21.4mmで形成されている。
【0044】
比較例として、セラミックスパイプ35を持たないランスパイプ1を製造した。比較例のランスパイプ1は、セラミックスパイプ35及び接着剤層に代えて、金属管が位置していること以外は、実施例と同様な構成である。本比較例は、金属パイプ部が肉厚:6.4mmの金属パイプにより形成されている。すなわち、本比較例は、実施例の金属パイプ基部33の金属管が延長して形成された吐出孔30の内径が21.4mmである。
【0045】
(評価)
実施例及び比較例のランスパイプの評価として、金属溶湯(溶銑)に粉体(平均粒径が約1mmの酸化鉄粉末)の溶湯処理剤を20分間吹き出す処理を、30回繰り返した。
評価試験後の、吐出孔30の内径を測定したところ、実施例では21.4mmであり、比較例では最大24.2mmであった。
すなわち、実施例では、吐出孔30の損傷が生じていなかった。これに対し、比較例では2.8mmと大きな量の摩耗が確認できた。この比較例の摩耗は、内周面の全面に均一に起こっていると仮定すると、{金属パイプの厚み(6.4mm)}-{金属パイプの摩耗量(1.4=2.8/2mm)}=4.8mm(金属パイプの残存厚さ)となります。金属パイプは、およそ、25%の摩耗を生じています。
【0046】
以上に示すように、実施例のランスパイプ1は、吐出孔30がセラミックスパイプ35により形成されており、耐摩耗性が高くなっている。このため、本例のように溶湯処理剤として粉体を用いた場合でも、吐出孔30の損傷が抑えられる。この結果、吐出孔30近傍の損傷が抑えられる。対して、比較例のランスパイプでは、吐出孔30がセラミックスよりも硬度が低い耐熱ステンレス鋼で形成されており、粉体の粒子が摺接すると吐出孔30の近傍の内周面が摩耗を生じる。摩耗量が大きくなると、吐出孔30が損傷し、ランスパイプ1の損傷を生じる。
【符号の説明】
【0047】
1:ランスパイプ、2:芯金、3:吐出孔パイプ、30:吐出孔、31:パイプ接続部、32:金属パイプ部、33:金属パイプ基部、34:金属パイプ先端部、35:セラミックスパイプ、36:耐火物レンガ、4:耐火物
図1
図2
図3