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特許7275441周産期組織由来間葉系幹細胞:その作製方法および使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】周産期組織由来間葉系幹細胞:その作製方法および使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20230511BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20230511BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20230511BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230511BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20230511BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230511BHJP
   A61L 15/00 20060101ALI20230511BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/50
A61K35/51
A61P3/10
A61P7/06
A61P9/10
A61P9/04
A61P11/00
A61P13/12
A61P1/16
A61P21/00
A61P19/02
A61P15/00
A61P37/06
A61K8/98
A61Q19/00
A61L15/00
A61L31/16
【請求項の数】 35
(21)【出願番号】P 2019551740
(86)(22)【出願日】2017-12-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 EP2017082316
(87)【国際公開番号】W WO2018108859
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/001936
(32)【優先日】2016-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】522450510
【氏名又は名称】ベイジン、ヘルス、アンド、バイオテック、ステム、セル、テクノロジカル、コーポレーション、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】ゾンチャオ、ハン
(72)【発明者】
【氏名】ジーボー、ハン
(72)【発明者】
【氏名】タオ、ワン
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-504324(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0259648(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0312091(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102703380(CN,A)
【文献】特表2011-525355(JP,A)
【文献】 A M Savilova, et al., Comparison of the expression of immunomodulatory factors in cultures of mesenchymal stromal cells from human extraembryonic tissues. Bull Exp Biol Med.(2015 Feb), Vol.158(4), pp.555-60
【文献】 Hongye Fan, et al., Pre-treatment with IL-1β enhances the efficacy of MSC transplantation in DSS-induced colitis. Cellular & Molecular Immunology (2012), Vol.9, pp.473-481
【文献】F. M. Abomaray, et al.,Phenotypic and Functional Characterization of Mesenchymal Stem/Multipotent Stromal Cells from Decidua Basalis of Human Term Placenta.,Stem Cells International,2016年01月,Volume 2016,pp.1-18
【文献】LI Dong, et al., Biological characteristics of human placental mesenchymal stem cells and their proliferative response to various cytokines. Cells Tissues Organs (2007), Vol.186(3), pp.169-79
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD106highCD151ネスチン間葉系幹細胞(MSC)を作製する方法であって、IL1とIL4の混合物を含んでなる培養培地で未分化MSCの集団を培養することを含んでなり、かつ、前記CD106highCD151ネスチンMSCは
60%を超える、検出可能なレベルでCD106を発現する細胞、
98%を超える、検出可能なレベルでCD151を発現する細胞、
98%を超える、検出可能なレベルでネスチンを発現する細胞、
95%を超える、検出可能なレベルでマーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現する細胞、ならびに
2%未満の、検出可能なレベルでマーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞
を含有する、方法。
【請求項2】
前記培養培地がIL1βとIL4の混合物を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養培地が1~100ng/mlのIL1を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記未分化MSCが、胎盤、臍帯または胎盤膜(絨毛膜、羊膜)もしくはそれらの成分から選択される生体組織、または臍帯血、胎盤血もしくは羊水などの体液から誘導される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記未分化MSCが外植片組織からの細胞単離によって得られる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記未分化MSCが臍帯から誘導される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記未分化MSCが胎盤から誘導される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記培養培地が1~100ng/mlのインターロイキン1βを含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記培養培地が1~100ng/mlのインターロイキン4を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
未分化MSCのCD106発現レベルを高める方法であって、IL1およびIL4の混合物を含んでなる培養培地で未分化MSCの集団を培養することを含んでなる、方法。
【請求項11】
前記培養培地がIL1βとIL4の混合物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記培養培地が1~100ng/mlのインターロイキン1を含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記未分化MSCが胎盤、臍帯または胎盤膜(絨毛膜、羊膜)もしくはそれらの成分からから選択される生体組織、または臍帯血、胎盤血もしくは羊水などの体液から誘導される、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記未分化MSCが外植片組織からの細胞単離によって得られる、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記未分化MSCが臍帯から誘導される、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記未分化MSCが胎盤から誘導される、請求項10~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記培養培地が1~100ng/mlのインターロイキン1βを含有する、請求項10~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記培養培地が1~100ng/mlのインターロイキン4を含有する、請求項10~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
CD106highCD151ネスチン間葉系幹細胞(MSC)を含有する細胞培養物であって、前記CD106highCD151ネスチンMSCは
60%を超える、検出可能なレベルでCD106を発現する細胞、
98%を超える、検出可能なレベルでCD151を発現する細胞、
98%を超える、検出可能なレベルでネスチンを発現する細胞、
95%を超える、検出可能なレベルでマーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現する細胞、ならびに
2%未満の、検出可能なレベルでマーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞を含有する、細胞培養物。
【請求項20】
98%を超える、検出可能なレベルでマーカーCD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104およびCD133を発現しないMSCを含有することを特徴とする、請求項19に記載の細胞培養物。
【請求項21】
虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、臓器損傷もしくは障害または臓器機能不全に罹患している対象の治療に使用するための、請求項19または20に定義される細胞培養物。
【請求項22】
前記疾患または障害が、1型真性糖尿病、II型糖尿病、GVHD、再生不良性貧血、多発性硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、関節リウマチ、脳卒中、特発性肺線維症、拡張型心筋症、骨関節炎、硬変、肝不全、腎不全、末梢動脈閉塞性疾患、重症下肢虚血、末梢血管疾患、心不全、糖尿病性潰瘍、線維性疾患、癒着および子宮内膜障害からなる群から選択される、請求項21に記載の使用のための細胞培養物。
【請求項23】
前記疾患または障害が皮膚または粘膜の疾患または障害である、請求項21に記載の使用のための細胞培養物。
【請求項24】
請求項19または20に定義される細胞培養物を含有する医薬または獣医学組成物。
【請求項25】
ヒドロゲルまたはその他の生体適合性材料をさらに含有する、請求項24に記載の医薬または獣医学組成物。
【請求項26】
請求項19または20に定義される細胞培養物を含有する局所用製剤。
【請求項27】
虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、線維性疾患、臓器損傷または臓器機能不全に罹患している対象の治療に使用するための、請求項24もしくは25に記載の医薬組成物または請求項26に記載の局所用製剤。
【請求項28】
1型真性糖尿病、II型糖尿病、GVHD、再生不良性貧血、多発性硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、関節リウマチ、脳卒中、特発性肺線維症、拡張型心筋症、骨関節炎、硬変、肝不全、腎不全、末梢動脈閉塞性疾患、重症下肢虚血、末梢血管疾患、心不全、糖尿病性潰瘍、線維性疾患、癒着および子宮内膜障害からなる群から選択される疾患または障害に罹患している対象の治療に使用するための、請求項24もしくは25に記載の医薬組成物または請求項26に記載の局所用製剤。
【請求項29】
請求項19または20に定義される細胞培養物を含有する外皮用または化粧用組成物。
【請求項30】
皮膚もしくは粘膜細胞の再生、皮膚もしくは粘膜外観の改善、または肝斑、しみ、座瘡、しわ、乾燥などの皮膚もしくは粘膜の欠陥の修復に使用するための、請求項29に記載の外皮用または化粧用組成物。
【請求項31】
火傷、瘢痕、血管腫、ほくろ、または疣贅などの皮膚損傷または障害治癒に使用するための、請求項29に記載の外皮用または化粧用組成物。
【請求項32】
請求項19または20に定義される細胞培養物を含有する医療器具。
【請求項33】
包帯、パッチ、ステント、内視鏡、またはシリンジである、請求項32に記載の医療器具。
【請求項34】
請求項19または20に定義される細胞培養物を含有する送達系。
【請求項35】
生体高分子、脂質、またはナノ粒子のマイクロ小胞またはナノ小胞である、請求項34に記載の送達系。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
間葉系幹細胞(MSC)は、再生医療および組織工学において有用であることが知られている。成人では、骨髄、脂肪組織、歯髄、および月経血がMSCの主な供給源である。MSCは、胎盤細胞または臍帯細胞を3~4週間、FCS添加DMEM中で培養することにより得ることもできる([12]、[13]、[14])。
【0002】
MSCは、中胚葉、外胚葉および内胚葉分化能を有する。また、MSCは免疫抑制特性も有する。MSCは、樹状細胞の成熟ならびにT細胞、B細胞およびNK細胞の増殖を阻害または停止させる。それらの免疫調節作用は、それらが分泌するサイトカインおよびケモカインにより媒介される。数グループがインビトロ(in vitro)およびインビボ(in vivo)において胎盤組織のMSCが複数の系統の発達の可塑性を示すことを実証している。胎盤組織(臍帯、臍帯血、胎盤、絨毛膜、羊膜および羊水を含む)由来MSCは、CD29、CD44、CD73、CD90およびCD105の陽性発現、造血細胞表面マーカーであるCD11b、CD19、CD34およびCD45の陰性発現、および内皮細胞表面マーカーであるCD31の陰性発現を示す。さらに、胎盤組織由来MSCは、適当な条件下で(例えば、完全培地)3種類総ての胚葉細胞に分化転換することができる。
【0003】
周産期組織由来MSCはまた、幅広い免疫調節能を有することが示されており、適応免疫応答および自然免疫応答の両方に影響を及ぼし得る。これらのMSCは、インビトロおよびインビボ両方においてMHC非拘束的に、免疫細胞の増殖および成熟を阻害し、免疫反応を抑制する。従って、これらのMSCは低免疫原性であり、HLAクラスIの発現レベルは低く、HLAクラスIIを発現せず、CD40、CD80、およびCD86を含む共刺激分子を発現しないと考えられる。本来、これらのMSCは自然免疫系および適応免疫系両方の細胞に対して広範囲にわたる免疫調節作用を示し得る。エクスビボ(Ex-vivo)で拡大培養された胎盤MSCもまた、T細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、樹状細胞(DC)、B細胞、好中球、単球、マクロファージなどを含む広範囲にわたる免疫細胞の活性抑制を示した。
【0004】
ヒト周産期組織由来MSCはまた、多数の臨床試験報告書において安全とされている。B型肝炎ウイルス(HBV)感染と関連する慢性肝不全の急性増悪(ACLF)患者を対象として臍帯由来MSC(UC-MSC)輸血の安全性および初回投与有効性を評価した。これらの結果から、診療所におけるMSC輸血は安全であり、HBV関連ACLF患者のための新規治療アプローチとして役立ち得ることが示唆された[1]。関節リウマチ(RA)の処置におけるヒトUC-MSCの安全性および有効性も評価された。これらの結果から、注入中または注入後に深刻な有害作用は観察されなかったことが示された。さらに、MSC処置は28関節疾患活動性スコアによる疾患の有意な寛解を誘導した[2]。科学者らは急性心筋梗塞(AMI)直後の9名の患者に心筋内MSC注射を実施し、その安全性および実現可能性を短期および5年間追跡調査で評価した[3]。これらの結果から、AMI直後の患者におけるMSCの心筋内注射は実現可能であり、最大5年間の追跡調査では安全であることが示唆された。重度の下肢虚血患者を対象としてMSCの安全性を判定する前向き二重盲検無作為化プラセボ比較対照多施設共同試験では、MSCは200万細胞/kg体重の用量を筋肉内に注射した場合においても安全であることが示された[4]。いずれのMSC移植部位においても腫瘍性の合併症は検出されなかった。Hongye Fanら([15])は、IL1βプライムMSCの移植はDSS誘発性ネズミ大腸炎において治療効率を高め、それはそれらの免疫抑制能の増大および遊走能の増大によるものであることを示した。また、国際出願公開第2014/093948号は、精製MSCの治療的価値を開示している。
【0005】
しかしながら、MSCを明確に同定する特異的または固有の細胞表面マーカーがないため、その定義は常に議論の的となっている。現在まで、MSCは細胞表面表現型タンパク質マーカー、プラスチック付着性線維芽細胞様増殖特性と機能特性の組合せを用いて定義されている。さらに、これらの細胞表面マーカーに従っていくつかの異なる部分集団が存在し、これらの異なる部分集団は、異なる生物学的特徴、生物学的機能を示すが、処置プロトコールにおいて総てが効率的であるわけではない。例えば、一部のMSC集団はIL1βにより刺激されるが([12])、他の集団は刺激されない([15]に記載のCD106陽性MSC)。加えて、一部のMSC集団の増殖はIL4により阻害されるが([12])、他の集団はこのサイトカインが存在下で増殖が誘発される([13])。このため、臨床的効率性を有する機能的MSC集団の同定およびそれらの作製工程の標準化を緊急に行う必要がある。また、あらゆる胎盤組織および胚体外組織に互換的に使用可能なプロトコールの設定も重要である。より正確には、胎盤組織または臍帯片から治療上効率的なMSC集団を得る作製工程を特定することが重要である。
【0006】
一方、現在、ヒトMSCは多数の治療的適用の高い需要があるが、市場においては不足しており入手困難である。従って、機能的MSCを高収率で得られる工業規模の工程が必要とされている。また、手頃なコストで最適な収量が得られ、胎盤組織および胚体外組織から得られたMSCに関する需要と供給のギャップを軽減する効率的な培養系も必要とされている。
【0007】
本願は、起源が異なるMSC部分集団(胎盤組織または臍帯のいずれかに由来)の作出および精製、最終的には可能な限り最少の継代数、最小限の集団倍加時間で前記部分集団を拡大培養するための最適な方法を提案することにより、これら総ての必要性およびそれ以外の必要性を満たす。この方法により、多系列分化能を有する非常に強力なMSCが胎盤および臍帯組織から回収される。この方法は、臨床的適用のために好適な相当数のMSC細胞を再現性良く提供する。
【発明の具体的な説明】
【0008】
実施例1(以下参照)では、少なくとも1×10細胞/cm MSCの収量を得ることが可能であり、GMP準拠施設において作製され、同種間の使用に好適な、ヒト胎盤組織由来CD106highCD151ネスチン間葉系幹細胞(MSC)を工業規模で作出するための作製方法を開示する。前記胎盤組織由来CD106highCD151ネスチン間葉系幹細胞(MSC)は、95%を超える、陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現する細胞、ならびに2%未満の、陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞を含んでなる。
【0009】
この方法は、ヒト対象または動物の移植試験において使用し得る細胞を作出するために有用である。
【0010】
その方法は、下記の2つの一般的工程:
(i)培養された未分化間葉系幹細胞集団を作出するために、生体組織または体液から得られた間葉系幹細胞を、増殖因子を含まない初代培養培地中で培養する工程、および
(ii)前記培養された未分化間葉系幹細胞集団を炎症誘発性増殖因子または炎症性メディエーターを含有する二次培養培地と接触させ、それによりそれを必要とする対象に移植するために有用なCD106highCD151ネスチン間葉系幹細胞を作出する工程
を含んでなる。
【0011】
第1の態様において、本発明は、CD106highCD151ネスチン間葉系幹細胞(MSC)を工業規模で作製するためのインビトロ法に関し、前記方法は未分化MSCの集団を炎症誘発性増殖因子または炎症性メディエーターを含んでなる培養培地中で培養することを含んでなる。
【0012】
前記「未分化MSCの集団」は、生体組織または体液中に存在する単核細胞を収集し、それらを初代培養培地中で増殖させることにより得られる。これらの単核細胞は、従来の任意の手段、例えば周産期組織片の酵素学的消化もしくは外植片培養[10]、または体液からの単離[11]により得ることができる。
【0013】
外植片培養は、下記の実施例3に示すように、臍帯からMSCを誘導するために特に好ましい工程である。
【0014】
一般に、この工程は、サンプルを輸送溶液から取り出し、切断して断片とし(およそ2~3cm長)、抗生物質および抗真菌薬で殺菌した後に洗浄し、上皮膜を回収し、前記膜片をフラスコに付着するように配置し(好ましくは培地無しで室温で)、付着した外植片に注意深く完全培地を加え、37℃にて数日間インキュベートを継続することが必要である。遊走した細胞を最後に適当なツールを用いて収集し、適当な初代培地中で(以下参照)、目標とするコンフルエントに達するまで培養を維持する。
【0015】
前記「初代培養培地」は、生存初代細胞の成長に有利で慣用されるいずれの古典的培地であってもよい。好ましくは、いずれの増殖因子または分化因子も含まない。
【0016】
当業者には、どの種類の培養培地が「初代培養培地」として使用できるかは周知である。例えば、DMEM、DMEM/F12、MEM、アルファ-MEM(α-MEM)、IMDM、またはRPMIである。好ましくは、前記初代培養培地はDMEM(ダルベッコの改変イーグル培地)またはDMEM/F12(ダルベッコの改変イーグル培地:F-12栄養素混合)である。
【0017】
より好ましくは、前記初代培養培地は2~20%または2~10%ウシ胎仔血清を含有する。あるいは、前記初代培養培地は1~5%血小板溶解液を含有してもよい。最も好ましい培地は、2~20%または2~10%ウシ胎仔血清および1~5%血小板溶解液を含有する。
【0018】
また、血清または血小板溶解液を含まない培地、例えば初代生存細胞の成長に有利な他の適当な薬剤を含有する培地を初代培養培地として使用することも可能である。
【0019】
好ましい実施形態では、前記「生体組織」は胎盤組織、または臍帯の任意の部分である。特に、胎盤絨毛叢、羊膜または胎盤の絨毛膜を含み得るか、またはそこに存在し得る。また、臍帯にみられるワルトン膠質であり得る。生体組織は、静脈および/もしくは動脈を含むか、またはそれらが取り除かれたものであり得る。
【0020】
別の実施形態では、前記「体液」は一般に女性または哺乳動物から無害な方法で収集された臍帯血、胎盤血または羊水のサンプルである。例えば、これらの組織および体液は、出生時または仔動物の出産後に非侵襲性の処置により得ることができる。
【0021】
前記未分化MSCの集団は、優先的にはプラスチック表面上に播種された間葉系幹細胞の集団であり、増殖因子を含まない前記初代培養培地中で細胞が85~90%コンフルエントに達するまで培養されたものである。
【0022】
細胞は定期的に、表面マーカーCD73、CD90、CD105、CD166、CD45、CD34およびHLA-DRのレベルを検出するためのFACSまたは任意の従来の手段により表現型を確認する。
【0023】
95%の細胞が陽性表面マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現し、ならびに2%未満の細胞が、陰性表面マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する場合、細胞をトリプシン処理し、低密度、例えば1000~5000MSC細胞/cmで二次培養培地に再度播種する。
【0024】
好ましくは、前記「二次培養培地」は生存初代細胞の成長に有利で慣用される任意の古典的培地である。二次培養培地は「初代培養培地」と同じ培地であってよく、または例えば、DMEM、DMEM/F12、MEM、アルファ-MEM(α-MEM)、IMDM、もしくはRPMIから選択される別の培地であってもよい。より好ましくは、前記二次培養培地はDMEM(ダルベッコの改変イーグル培地)またはDMEM/F12(ダルベッコの改変イーグル培地:F-12栄養素混合)である。
【0025】
さらにより好ましくは、前記二次培養培地は血清または血小板溶解液、例えば、2~20%ウシ胎仔血清および/または1~5%血小板溶解液を含有する。最も好ましい二次培養培地は、2~20%ウシ胎仔血清および1~5%血小板溶解液を含有するDMEMである。また、血清または血小板溶解液を含まない、例えば初代生存細胞の成長に有利な他の適当な薬剤を含有する培地を二次培養培地として使用することも可能である。
【0026】
細胞が40~50%コンフルエントに達した際に炎症誘発性増殖因子または炎症性メディエーターを二次培養培地に添加し、前記培地中で90~95%コンフルエントに達するまで細胞を培養する。
【0027】
前記「炎症誘発性増殖因子」は一般に、炎症誘発性作用を有することが知られているインターロイキンまたはケモカインである。二次培養培地に添加できるインターロイキンの例には、TNFα、IL1、IL4、IL12、IL18、およびIFNγが含まれる。二次培養培地に添加できるケモカインの例にはCXCL8、CXCL10、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CCL2、およびCCL5が含まれる。他の炎症性メディエーター(例えば抗炎症薬など)も使用することができる。
【0028】
好ましい実施形態では、少なくとも2種類の炎症誘発性増殖因子が上記で定義された二次培養培地に添加される。これらの少なくとも2種類の炎症誘発性増殖因子は以下に示す群から選択される:TNFα、IL1、IL4、IL12、IL18、およびIFNγ。より好ましい実施形態では、前記炎症誘発性増殖因子はIL1、IL4、IL12、IL18から選択される。さらにより好ましくは、それらはIL1およびIL4である。
【0029】
MSCに添加し得る増殖因子の一般的な濃度は、1~200ng/mL、好ましくは1~100ng/mL、より好ましくは10~80ng/mLを含んでなる。好ましくは、MSCと増殖因子との培養工程は少なくとも1日、より好ましくは2日間続く。
【0030】
本明細書において用語「IL1」は、いずれのインターロイキン1のアイソフォーム、特に、IL1αおよびIL1βも示す。IL1アイソフォームは、意図される適用によって様々な起源であってよい。例えば、動物IL1を獣医学適用のために使用してよい。好ましくは、IL1βのみを本発明の二次培養培地に添加する。この特定の実施形態では、添加されるインターロイキン1βの濃度は1~100ng/mL、好ましくは1~50ng/mL、より好ましくは10~40ng/mLの濃度を含んでなり得る。
【0031】
ヒトIL1ベータ(IL1β)は、受託番号NP_000567.1(配列番号6、269アミノ酸)として参照される。組換えタンパク質はGMP運用下で市販されている(RnD systems、Thermofisher、Cellgenix、Peprotech)。
【0032】
本明細書において用語「IL4」は、いずれのインターロイキン4のアイソフォームも示す。IL4は意図される適用によって様々な起源であってよい。例えば、動物IL4を獣医学適用のために使用してよい。
【0033】
ヒトIL4は、受託番号AAA59149(配列番号7、153アミノ酸)として参照される。組換えタンパク質はGMP運用下で市販されている(RnD systems、Thermofisher、Cellgenix、Peprotech)。
【0034】
本発明の二次培養培地において、様々な炎症誘発性増殖因子のいかなる混合物も使用し得る。特に、下記の実験の部に開示されるように、好ましい実施形態ではIL1およびIL4の混合物、より正確には、IL1βおよびIL4の混合物を使用する。
【0035】
この特定の実施形態では、添加されるインターロイキン1βは二次培養培地中の濃度1~100ng/mL、好ましくは1~50ng/mL、より好ましくは10~40ng/mLの濃度を含んでなる。また、添加されるIL4は二次培養培地中の濃度1~100ng/mL、好ましくは1~50ng/mL、より好ましくは10~40ng/mLの濃度を含んでなる。好ましくは、インターロイキン1βおよびIL4との培養工程は少なくとも1日、より好ましくは2日間続く。
【0036】
最終工程において、表面マーカーCD73、CD90、CD105、CD166、CD45、CD34およびHLA-DRのレベルを検出するために、任意の従来の手段により、細胞の表現型を確認する。これらのマーカーは当技術分野で周知である。これらのマーカーの発現レベルの検出に有用な抗体は総て市販されている。
【0037】
これらの細胞表面マーカーの発現は特に、周知の技術、例えばビオチン化を用いる細胞膜染色または特異的抗体を用いる免疫沈降、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、ELISAもしくはELISPOT、抗体マイクロアレイ、もしくは免疫組織化学と併用した組織マイクロアレイといった他の同等の技術を用いて評価してよい。他の好適な技術には、FRETもしくはBRET、1以上の励起波長および適当な光学法、例えば電気化学的方法(ボルタンメトリーおよびアンペロメトリー技術)を用いる単細胞顕微鏡的もしくは組織化学的方法、原子間力顕微鏡法、ならびに高周波法、例えば多重極共鳴分光法、共焦点および非共焦点、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射率、透過率、および複屈折もしくは屈折率の検出(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共鳴鏡法、回折格子結合器導波管法または干渉法)、細胞ELISA、放射性同位元素、磁気共鳴画像法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE);HPLC-質量分析法;液体クロマトグラフィー/質量分析/質量分析法(LC-MS/MS)による分析が含まれる。
【0038】
好ましくは、細胞表面マーカーレベルはFACSにより評価される。言い換えれば、本発明の方法は一般に下記の工程:
a)周産期生体組織または体液に含有される単核細胞を収集する工程、
b)前記単核細胞を初代培養培地中で85~90%コンフルエントに達するまで、好ましくはプラスチック表面上で増殖させる工程、
c)95%の細胞が陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現し、ならびに2%未満の細胞が陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現したところで、1000~5000MSC/cmの密度で二次培養培地に細胞を播種する工程、
d)細胞が40~50%コンフルエントに達したところで、1~100ng/mLの濃度で炎症性メディエーターまたは炎症誘発性増殖因子を添加する工程、
e)90~95%コンフルエントに達したところで細胞を収集する工程
を必要とする。
【0039】
次に収集された細胞は、表面マーカーCD73、CD90、CD105、CD166、CD45、CD34およびHLA-DRのレベルを検出するために、FACSまたは任意の従来の手段により、表現型を確認してよい。前記初代培養培地および二次培養培地については上記に記載している。
【0040】
前記方法の工程d)において、添加される増殖因子の一般的な濃度は、1~200ng/mL、好ましくは1~100ng/mL、より好ましくは10~80ng/mLの間に含まれ得る。好ましくは、増殖因子との培養工程は少なくとも1日、より好ましくは2日間続く。
【0041】
本発明の特定の実施形態では、添加されるインターロイキン1βまたはIL4の濃度は1~100ng/mL、好ましくは1~50ng/mL、より好ましくは10~40ng/mLの間に含まれ得る。好ましくは、インターロイキン1βおよびIL4との培養工程は少なくとも1日、より好ましくは2日間続く。
【0042】
最終的に収集された細胞は「本発明の細胞培養物」、または「本発明のCD106highCD151ネスチンMSC」または「本発明のMSC」となる。この細胞培養物は一般に、60%を超える、好ましくは60~70%、好ましくは70%を超える、好ましくは80%を超える、より好ましくは90%を超える、さらにより好ましくは95%を超える、CD106を発現する細胞を含んでなる。さらに、この細胞培養物は、98%を超える、好ましくは99%を超える、CD151を発現する細胞を含んでなる。さらに、この細胞培養物は、98%を超える、好ましくは99%を超える、ネスチンを発現する細胞を含んでなる。最終的に、この細胞培養物は、95%を超える、好ましくは96%を超える、好ましくは97%を超える、好ましくは98%を超える、陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現する細胞、ならびに2%未満の、陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞を含んでなる。
【0043】
CD106(「血管細胞接着タンパク質1」VCAM-1としても知られる)は、3つのアイソフォームを有することが知られている。NP_001069.1(本明細書では配列番号1、739アミノ酸として示される)、NP_542413.1(本明細書では配列番号2、647アミノ酸として示される)およびNP_001186763.1(本明細書では配列番号3、677アミノ酸として示される)は、それぞれアイソフォームa、bおよびcの配列である。この特別なバイオマーカーの発現レベルを検出する抗体は市販されている(例えば、Thermofisher、Abcam、OriGenなど)。本発明の細胞表面におけるこのマーカーの発現は、本発明の細胞の治療的使用に必要不可欠な血管形成促進作用を引き起こすため、極めて重要である。
【0044】
ネスチンバイオマーカー(本明細書では配列番号4、1621アミノ酸として示される)は、ヒトでは受託番号NP_006608.1として参照される。この特別なバイオマーカーの発現レベルを検出する抗体は市販されている(例えば、Thermofisher、Abcamなど)。
【0045】
CD151バイオマーカー(本明細書では配列番号5、253アミノ酸として示される)は、ヒトでは受託番号NP_620599として参照される。この特別なバイオマーカーの発現レベルを検出する抗体は市販されている(例えば、Invitrogen、Sigma-Aldrich、Abcamなど)。
【0046】
好ましい実施形態では、培養工程(または成長工程)は、プラスチック表面上で行われる。
【0047】
より具体的には、本発明の方法は、
a)所望により、複数のドナーから胎盤組織を個別に収集する工程;
b)所望により、胎盤組織を1×PBSを用いて3回洗浄し、1mmの立方体に切断し、その立方体組織を再度洗浄して組織から血液の大半を除去する工程;
c)所望により、各ドナーの胎盤組織を個別にコラゲナーゼで消化し、消化した組織を遠心分離し、単核細胞を収集する工程;
d)収集した単核細胞を培養培地中に播種する工程;
e)細胞をトリプシン処理し、85~90%コンフルエントに達したところで細胞を継代培養する工程;
f)陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166、ならびに陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞の割合に基づいて細胞の特性決定を行う工程;
g)細胞が少なくとも95%の陽性マーカーおよび最大で2%の陰性マーカーを含んでなる場合、その細胞を90%ダルベッコの改変イーグル培地/F12-ノックアウト(DMEM/F12-KO)および10%FBSおよび増殖因子を含有する培養培地に、1000~5000MSC/cmの密度で播種する工程、
h)40~50%コンフルエントである際に1~100ng/mLの濃度のインターロイキン1βおよび所望により1~100ng/mLの濃度のIL4を添加する工程;
i)90~95%コンフルエントに達したところで細胞をトリプシン処理し、収集する工程;および
j)所望により、陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166、ならびに陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞の割合に基づいて細胞の特性決定を行う工程
を含んでなり得る。
【0048】
下記に開示する結果は、本発明の方法により臍帯または胎盤のいずれかから得られたMSCの表面において、CD106の発現が大幅に促進されていることを示す。このようにして作出された細胞の治療的使用にとって、この発現は極めて重要である(下記参照)。
【0049】
従って本願は、未分化MSCのCD106発現レベルを増大させる方法にも関し、前記方法は上記に詳細に記載した特別な条件下で未分化MSCの集団を培養することを含んでなり、詳細に記載された実施形態は総て必要な変更を加えて適用する。
【0050】
もう一つの態様において、本発明は前述の方法により得られた細胞培養物に関する。この細胞培養物は一般に、作製時にいかなる増殖因子とも接触させていない成人の骨髄、脂肪組織、臍帯または胎盤に由来する間葉系幹細胞よりも、血管細胞接着分子1(VCAM-1)マーカーを検出可能な高いレベルで発現する、単離されたCD106highCD151ネスチンMSCを含有する。
【0051】
好ましい実施形態では、本発明の細胞培養物は下記の特徴を有する:
(i)60%を超える、好ましくは70%を超える、より好ましくは80%を超える、さらにより好ましくは90%を超える細胞が検出可能なレベルでCD106を発現し、および
(ii)98%を超える、好ましくは99%を超える細胞が検出可能なレベルでCD151を発現し、および
(iii)90%を超える、好ましくは92%を超える、より好ましくは95%を超える細胞が検出可能なレベルでネスチンを発現し、および
(iv)95%を超える、好ましくは96%を超える、好ましくは97%を超える、好ましくは98%を超える細胞が検出可能なレベルで陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現する。
【0052】
より好ましい実施形態において、前記細胞培養物は、98%を超える、検出可能なレベルでマーカーCD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104およびCD133を発現しないMSCを含有することを特徴とする。これらのマーカーは当技術分野で周知であり、これらを検出する抗体は市販されている。
【0053】
好ましい実施形態では、本発明の細胞培養物は、
60%を超える、好ましくは70%を超える、より好ましくは80%を超える、およびさらにより好ましくは90%を超える、検出可能なレベルでCD106を発現する細胞、および、
98%を超える、好ましくは99%を超える、検出可能なレベルでCD151を発現する細胞、および
98%を超える、好ましくは99%を超える、検出可能なレベルでネスチンを発現する細胞、および
95%を超える、好ましくは96%を超える、好ましくは97%を超える、好ましくは98%を超える、検出可能なレベルでマーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現する細胞、ならびに
2%未満の、検出可能なレベルで細胞マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞
を含有する。
【0054】
本発明によれば、細胞が「検出可能なレベルでマーカーを発現する」とは、前記マーカーがその表面に有意なレベルで存在する、すなわち前記細胞に関して測定される前記表面マーカーの染色に関連するシグナル(一般に前記マーカーを認識する抗体を用いて得られ、前記抗体は例えば、蛍光色素と結合している)が、前記マーカーを発現しないことが知られている細胞の染色に相当するシグナルを上回ることをいう。当業者は前記細胞/マーカーの同定方法を十分認識しており、本明細書にこれらのプロトコールの詳細を記載する必要はない。
【0055】
本願の実験の部において開示される結果は、本発明の方法により得られた細胞培養物はインビトロおよびインビボで血管新生を誘導する能力を有することを示す。さらにこれらの結果は、虚血性疾患または循環系の障害に罹患している個体(ヒトまたは動物対象)への前記細胞の投与が、前記疾患または障害の1以上の症状の検出可能な改善をもたらすことを示す。
【0056】
下記に開示する結果はまた、本発明の方法が高レベルのCD106/VCAM1膜タンパク質を発現する細胞の作出を可能にすることを示す。重要なのは、このタンパク質が最近、血管形成促進サイトカインの発現と関連づけられたことである。このため、CD106+MSCがそれらの血管形成促進有効性のために選択され、後肢虚血のための処置として提案された([16]、[17])。
【0057】
従って、第3の態様において、本発明は虚血性疾患または循環系の障害に罹患している個体を治療する薬剤としての、前記細胞の使用に関する。言い換えれば、本発明は、虚血性疾患または循環系の障害に罹患している対象の治療のための使用を目的とする薬剤の製造のための、前記細胞の使用に関する。本発明の薬剤はまた、皮膚の血管毛細血管網への適用が可能であり、外皮用および化粧用適用も含まれてよい。
【0058】
本発明の細胞により、いずれの哺乳動物も治療され得る。前記哺乳動物は、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウマなど)または家畜動物(ヒツジ、ヤギ、ウシなど)であり得る。動物が本発明の方法で治療される場合、初代未分化MSCは同じ動物種(同種移植片)または類似種(異種移植片)の生物学的サンプルから採取し、二次培養培地で使用される増殖因子は同じ動物種のものであることは、当業者に明らかである。例えば、ネコを治療する場合、初代MSCはネコの周産期組織または体液から得られ、ネコIL1β(組換えまたは非組換え)が、所望により、ネコIL4とともに二次培養培地に添加される。
【0059】
好ましい実施形態では、前記哺乳動物はヒトである。この場合、初代MSCは女性から得られた周産期組織または体液から得られ、ヒトIL1β(組換えまたは非組換え、例えば配列番号6)が所望によりヒトIL4(例えば配列番号7)とともに二次培養培地に添加される。
【0060】
この目的において、本発明の細胞培養物は任意の従来の手段により前記対象に移植または局所適用されてよい。この場合、本発明は虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、臓器損傷または臓器機能不全に罹患している対象を治療する方法に関し、前記方法は上記細胞培養物を前記対象に移植する工程を含んでなる。この移植は、体内に埋め込まれたリザーバーを使用することにより、またはインサイチュ(in situ)で細胞を筋肉内注射することにより、または静脈内注射により、または任意の適当な送達系により行われてよい。また、適用は、皮膚もしくは粘膜に細胞を直接接触させることにより、またはデバイスを用いて細胞を皮膚もしくは任意の粘膜上に適用することにより、または細胞を任意の適当な送達系によって皮膚もしくは粘膜に送達することにより局所的に行われてよい。
【0061】
好ましくは、前記疾患または障害は、1型真性糖尿病、II型糖尿病、GVHD、再生不良性貧血、多発性硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、関節リウマチ、脳卒中、特発性肺線維症、拡張型心筋症、骨関節炎、硬変、肝不全、腎不全、末梢動脈閉塞性疾患、重症下肢虚血、末梢血管疾患、心不全、糖尿病性潰瘍または任意の変性疾患、癒着、子宮内膜障害または痔瘻などの胃腸管の線維性疾患からなる群から選択される。より好ましくは、前記疾患または障害は、末梢動脈閉塞性疾患、重症下肢虚血、末梢血管疾患、または糖尿病性潰瘍である。特定の実施形態では、前記疾患または障害は、(限定されるものではないが)糖尿病性潰瘍、潰瘍、外傷、火傷、熱傷、創傷または創傷治癒問題、褥瘡性潰瘍、疣贅などを含む皮膚または粘膜疾患である。
【0062】
本発明の細胞培養物は、より正確には、皮膚病変、例えば火傷、創傷、潰瘍、瘢痕、疣贅、または他の疾患、例えば癒着もしくは胃腸管の線維性疾患(例えば、痔瘻)の治療を目的とする外皮用製剤に使用されてよい。
【0063】
もう一つの特定の実施形態では、前記疾患または障害は、痔瘻または子宮内膜損傷である。
【0064】
他の適用も本出願に包含される。特に、本発明のMSCを外皮用または化粧用目的に使用することが可能であり、例えば、皮膚もしくは粘膜細胞の再生、皮膚もしくは粘膜外観の改善、皮膚もしくは粘膜の欠陥の修復、または皮膚もしくは粘膜の火傷領域の治癒のために使用することが可能である。
【0065】
本発明の薬剤の効率性を高め、投与を容易にするために、本発明の細胞培養物を任意の薬剤、薬剤組成物または他の生体適合性材料もしくはデバイスと混合してもよい。本発明の細胞培養物はまた、適当な送達系または生体適合性材料中にカプセル化されるか、または包含されてもよい。細胞または細胞を含有する製剤は、医療器具、例えば内視鏡、ステント、またはシリンジに塗布されてもよい。また、細胞を皮膚または粘膜に接触させることにより局所的に適用することもできる。
【0066】
本発明はまた、本発明の細胞培養物を含有する医療器具も対象とする。「医療器具」は、本明細書において治療用組成物を投与するためのいずれの器具、器械、道具、機械、設備、移植片、試薬も包含する。本発明に関して、前記医療器具は、例えば、パッチ、ステント、内視鏡、またはシリンジである。
【0067】
本発明はまた、本発明の細胞培養物を含有する送達系も対象とする。「送達系」は、本明細書において医薬製剤を患者に投与するためのいずれの系(媒体または担体)も包含する。それは経口送達系または制御放出系であり得る。本発明に関して、前記送達系は例えば、リポソーム、プロリポソーム、ミクロスフェア、生体高分子のマイクロ小胞もしくはナノ小胞、脂質またはナノ粒子である。
【0068】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の細胞は、ヒドロゲルまたは別の生体適合性材料または賦形剤中に含められる。前記ヒドロゲルには、特にアルギン酸ナトリウムヒドロゲル、ヒアルロン酸ヒドロゲル、キトサンヒドロゲル、コラーゲンヒドロゲル、HPMCヒドロゲル、ポリ-L-リシンヒドロゲル、ポリ-L-グルタミン酸ヒドロゲル、ポリビニルアルコール(PVA)ヒドロゲル、ポリアクリル酸ヒドロゲル、ポリメチルアクリル酸ヒドロゲル、ポリアクリルアミド(PAM)ヒドロゲル、およびポリNアクリルアミド(PNAM)ヒドロゲルが含まれ得る。
【0069】
本発明はまた、本発明のMSCおよびもう一つの生体適合性材料または賦形剤を含有するヒドロゲルにも関する。本明細書においてアルギン酸ヒドロゲルが好ましく、例えばアルギン酸ヒドロゲルに関してはCN106538515に記載されている。
【0070】
本発明に関して、「生体適合性材料」とは、生物医学的応用において古典的に使用されているものである。それらは、例えば、金属(例えばステンレス鋼、コバルト合金、チタン合金)、セラミックス(酸化アルミニウム、ジルコニア、リン酸カルシウム)、ポリマー(シリコーン、ポリ(エチレン)、ポリ(塩化ビニル)、ポリウレタン、ポリラクチド)または天然ポリマー(アルギン酸、コラーゲン、ゼラチン、エラスチンなど)である。これらの材料は、合成または天然物であってよい。生体適合性賦形剤は当技術分野で周知であり、従って、詳細を記載する必要はない。
【0071】
このヒドロゲルは、化粧用または治療用目的のために使用し得る。
【0072】
本発明はまた、本発明の細胞培養物を含有する医薬または獣医学組成物、ならびに上記疾患および障害の治療のためのその使用にも関する。本発明はまた、本発明の細胞培養物を含有する外皮用または化粧用組成物にも関する。
【0073】
この医薬、獣医学または化粧用組成物はさらに、上記のように他の生体適合性薬剤(例えばヒドロゲル)を含んでよい。
【0074】
前記組成物は、好ましくは、少なくとも約1~5×10細胞を含有する。
【0075】
本開示の理解を容易にするため、および実用的効果を示すために、ここで例示的実施形態および図面を参照する。下記の図面は詳細な説明とともに実施形態をさらに説明し、本開示の様々な原理および利点を明確にするために役立つ。
本発明は以下の通りである。
[1]CD106 high CD151 ネスチン 間葉系幹細胞(MSC)を作製する方法であって、少なくとも2種類の炎症誘発性増殖因子を含んでなる培養培地で未分化MSCの集団を培養することを含んでなる、方法。
[2]前記炎症誘発性増殖因子がTNFα、IL1、IL4、IL12、IL18、およびIFNγの中から選択される、好ましくは、IL1、IL4、IL12、およびIL18から選択される、上記[1]に記載の方法。
[3]前記炎症誘発性増殖因子がIL1とIL4、好ましくは、IL1βとIL4の混合物である、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記未分化MSCが、胎盤、臍帯または胎盤膜(絨毛膜、羊膜)もしくはそれらの成分から選択される生体組織、または臍帯血、胎盤血もしくは羊水などの体液から誘導される、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記未分化MSCが外植片組織からの細胞単離によって得られる、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記未分化MSCが臍帯から、好ましくは、臍帯片の外植片からの細胞単離によって誘導される、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記未分化MSCが胎盤から、好ましくは、胎盤組織片からの細胞単離によって誘導される、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記培養培地が1~100ng/mlのインターロイキン1、好ましくは、インターロイキン1βを含有する、上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記培養培地が1~100ng/mlのインターロイキン4を含有する、上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]未分化MSCのCD106発現レベルを高める方法であって、少なくとも2種類の炎症誘発性増殖因子を含んでなる培養培地で未分化MSCの集団を培養することを含んでなる、方法。
[11]前記炎症誘発性増殖因子がTNFα、IL1、IL4、IL12、IL18、およびIFNγの中から選択される、好ましくは、IL1、IL4、IL12、およびIL18から選択される、上記[10]に記載の方法。
[12]前記炎症誘発性増殖因子がIL1とIL4、好ましくは、IL1βとIL4の混合物である、上記[10]または[11]に記載の方法。
[13]前記未分化MSCが胎盤、臍帯または胎盤膜(絨毛膜、羊膜)もしくはそれらの成分からから選択される生体組織、または臍帯血、胎盤血もしくは羊水などの体液から誘導される、上記[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]前記未分化MSCが外植片組織からの細胞単離によって得られる、上記[10]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]前記未分化MSCが臍帯から、好ましくは、臍帯片の外植片からの細胞単離によって誘導される、上記[10]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]前記未分化MSCが胎盤から、好ましくは、胎盤組織片からの細胞単離によって誘導される、上記[10]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17]前記培養培地が1~100ng/mlのインターロイキン1、好ましくは、インターロイキン1βを含有する、上記[10]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18]前記培養培地が1~100ng/mlのインターロイキン4を含有する、上記[10]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19]上記[1]~[18]に記載の方法によって得られたCD106 high CD151 ネスチン 間葉系幹細胞(MSC)を含有する細胞培養物。
[20]60%を超える、検出可能なレベルでCD106を発現する細胞、
98%を超える、検出可能なレベルでCD151を発現する細胞、
98%を超える、検出可能なレベルでネスチンを発現する細胞、
95%を超える、検出可能なレベルでマーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現する細胞、ならびに
2%未満の、検出可能なレベルでマーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞
を含有する、上記[19]に記載の細胞培養物。
[21]98%を超える、検出可能なレベルでマーカーCD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104およびCD133を発現しないMSCを含有することを特徴とする、上記[19]または[20]に記載の細胞培養物。
[22]虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、臓器損傷もしくは障害または臓器機能不全に罹患している対象の治療に使用するための、上記[19]~[21]のいずれかに定義される細胞培養物。
[23]前記疾患または障害が、1型真性糖尿病、II型糖尿病、GVHD、再生不良性貧血、多発性硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、関節リウマチ、脳卒中、特発性肺線維症、拡張型心筋症、骨関節炎、硬変、肝不全、腎不全、末梢動脈閉塞性疾患、重症下肢虚血、末梢血管疾患、心不全、糖尿病性潰瘍、線維性疾患、癒着および子宮内膜障害からなる群から選択される、上記[22]に記載の使用のための細胞培養物。
[24]前記疾患または障害が皮膚または粘膜の疾患または障害、好ましくは、糖尿病性潰瘍、潰瘍、外傷、火傷、熱傷、創傷または創傷治癒問題、褥瘡性潰瘍、疣贅、癒着、子宮内膜障害または痔瘻などの胃腸管の線維性疾患である、上記[22]に記載の使用のための細胞培養物。
[25]上記[19]~[21]のいずれかに定義される細胞培養物を含有する医薬または獣医学組成物。
[26]ヒドロゲルまたはその他の生体適合性材料をさらに含有する、上記[25]に記載の医薬または獣医学組成物。
[27]上記[19]~[21]のいずれかに定義される細胞培養物を含有する局所用製剤。
[28]虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、線維性疾患、臓器損傷または臓器機能不全に罹患している対象の治療に使用するための、上記[25]もしくは[26]に記載の医薬組成物または上記[27]に記載の局所用製剤。
[29]1型真性糖尿病、II型糖尿病、GVHD、再生不良性貧血、多発性硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、関節リウマチ、脳卒中、特発性肺線維症、拡張型心筋症、骨関節炎、硬変、肝不全、腎不全、末梢動脈閉塞性疾患、重症下肢虚血、末梢血管疾患、心不全、糖尿病性潰瘍、線維性疾患、癒着および子宮内膜障害からなる群から選択される疾患または障害に罹患している対象の治療に使用するための、上記[25]もしくは[26]に記載の医薬組成物または上記[27]に記載の局所用製剤。
[30]上記[19]~[21]のいずれかに定義される細胞培養物を含有する外皮用または化粧用組成物。
[31]皮膚もしくは粘膜細胞の再生、皮膚もしくは粘膜外観の改善、または肝斑、しみ、座瘡、しわ、乾燥などの皮膚もしくは粘膜の欠陥の修復のための、上記[30]に記載の外皮用または化粧用組成物の使用。
[32]火傷、瘢痕、血管腫、ほくろ、または疣贅などの皮膚損傷または障害を治癒させるための、上記[30]に記載の外皮用または化粧用組成物の使用。
[33]上記[19]~[21]のいずれかに定義される細胞培養物を含有する医療器具。
[34]包帯、パッチ、ステント、内視鏡、またはシリンジである、上記[33]に記載の医療器具。
[35]上記[19]~[21]のいずれかに定義される細胞培養物を含有する送達系。
[36]生体高分子、脂質、またはナノ粒子のマイクロ小胞またはナノ小胞である、上記[35]に記載の送達系。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1図1は、本発明のCD106highCD151ネスチンMSC部分集団の作製方法を示す略図を開示する。
図2図2は、実施例1の培養フラスコに付着している胎盤のMSCの形態を示す。
図3図3は、CD106highCD151ネスチンMSCの脂肪生成細胞および骨原性細胞への分化を示す。結果は、CD106highCD151ネスチンMSC部分集団は適当な培地中で脂肪生成細胞および骨原性細胞への分化能を有することを示す。白矢印は脂質滴および石灰化が顕著な領域を強調する。
図4図4は、血管造影法による病理学的検査を示す:術後21日に得られた代表的な血管造影像。
図5図5は、LDPIによる病理学的検査を示す:術後0日および21日に撮影された代表的なLDPI画像。上部パネルでは白矢印で示されるように移植後3週間においてもまだ領域に病変が認められる。下部パネルでは、黒矢印が移植後3週間における灌流領域を強調している。
図6図6は、糖尿病患者に胎盤由来MSCを注入した結果を示す。計15名の糖尿病患者(男性11名、女性4名)を本臨床試験に含めた。(A)は15名の患者群における周産期組織由来CD106highCD151ネスチンMSCを用いる3回の処置後の平均インスリン必要量の減少を示し、統計的有意性が認められた(P<0.001)。(B)は周産期組織由来CD106highCD151ネスチンMSCを用いる処置が糖尿病患者のグリコシル化ヘモグロビンレベルを有意に改善したことを示す(P<0.001)。これらの結果は、周産期組織由来CD106highCD151ネスチンMSCが糖尿病患者に対して良好な選択であり得ることを示す。
図7図7の(A)は、非代償性肝硬変に罹患している患者のCD106highCD151ネスチンMSC注入前の超音波検査による腹水レベルを示す。図7の(B)は、CD106highCD151ネスチンMSC投与後1ヵ月の超音波検査による腹水レベルを示す。(C)は前記患者の有意に改善した肝臓機能を示す。CA125発現は正常レベルにまで減少した。さらに、血清中の総タンパク質、アルブミン、グロブリンも有意に増加した。
図8図8は、NOD/SCIDマウス後肢虚血モデルにおける動脈結紮および様々な用量の本発明の臍帯MSCまたは生理食塩水またはVEGF注射後の灌流速度の評価を示す。
【実施例
【0077】
簡略化また例示の目的で、その例示的実施形態を参照することにより本発明を説明する。しかしながら、当業者には、本発明はこれらの詳細に限定されることなく実施し得ることは明らかである。他の例では、本発明を不必要に不明瞭にしないために、周知の方法は詳細に記載されていない。
【0078】
1.胎盤組織から本発明のMSCを得る方法
本発明の方法は、下記により実現された:
a)複数の母親ドナーからヒト胎盤組織を個別に収集すること;
b)1×PBSを用いて胎盤組織を3回洗浄し、1mmの立方体に切断し、その立方体組織を再度洗浄して組織から血液の大半を除去すること;
c)各ドナーの胎盤組織を個別にコラゲナーゼで消化し、消化した組織を遠心分離し、単核細胞を収集すること;
d)単核細胞を培養培地に播種すること;
e)85~90%コンフルエントに達したところで細胞をトリプシン処理し、継代培養すること;
f)陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166、ならびに陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞の割合に基づいて細胞の特性決定を行うこと;
g)細胞が少なくとも95%の陽性マーカーおよび最大で2%の陰性マーカーを含んでなる場合、その細胞を90%ダルベッコの改変イーグル培地/F12-ノックアウト(DMEM/F12-KO)および10%FBSおよび増殖因子を含有する培養培地に、1000~5000MSC/cmの密度で播種すること;
h)80%を超えるCD106を発現する細胞、98%を超えるCD151を発現する細胞、98%を超えるネスチンを発現する細胞、および95%を超える陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現する細胞、ならびに2%未満の陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞を含んでなるCD106highCD151ネスチンMSCを得ること(移植用)、ならびにそれらが40~50%コンフルエントに達した時に20ng/mLのIL1β(供給元Peprotech)および20ng/mLのIL4(供給元Peprotech)を添加すること;
i)90~95%コンフルエントに達したところで細胞をトリプシン処理し、収集すること;
j)陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166、ならびに陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞の割合に基づいて細胞の特性決定を行うこと。
【0079】
この方法により、少なくとも1×10細胞/cmMSC(90%コンフルエント時に5×10MSC/T75cmフラスコ)の収量で、胎盤由来MSC部分集団の作出が可能となり、これは同種間投与に使用することができる。これらの細胞培養物は、95%を超える、陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現する細胞、ならびに2%未満の、陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞を含んでなる。
【0080】
ヒト周産期組織由来CD106highCD151ネスチンMSCは、線維芽細胞様であり、プラスチック製フラスコ上で極めて良く増殖する(図2参照)。
【0081】
3つの独立した実験を実施した(実験1、実験2および実験3)。細胞が40~50%コンフルエントに達した際に20ng/mLのインターロイキン1(β)およびインターロイキン4をともに添加した(図1参照)。その時点で、MSCは、95%を超える、陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現する細胞、ならびに2%未満の、陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞を含んでなる。この後、MSCは実際には、約2日間、90%細胞コンフルエントに達するまで増殖を続ける(以下の表1および2参照)、
【0082】
MSC細胞表面タンパク質CD106、CD151およびネスチンの発現は、インターロイキン1およびインターロイキン4を添加した後、有意に増加したことは注目に値する。
【0083】
表1に、実験1、2、および3の胎盤において得られた、インターロイキン1およびインターロイキン4添加前の、胎盤組織由来MSC上のCD11b、CD19、CD29、CD31、CD34、CD45、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、ネスチンおよびHLA-DRの発現を示す。これらの結果は、胎盤由来MSCは骨髄および脂肪組織由来MSCと同様の古典的な細胞表面マーカーを有することを示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表2に、実験1、2および3においてインターロイキン1およびインターロイキン4添加後の、胎盤組織由来MSC上のCD11b、CD19、CD29、CD31、CD34、CD45、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、ネスチンおよびHLA-DRの発現を示す。結果は、完全培地にIL-1およびIL-4を添加後48時間のCD106およびネスチンタンパク質マーカーの有意な増加を示す。一方、CD106highCD151ネスチン細胞は依然として古典的MSC細胞表面表現型マーカーを有していた。
【0086】
【表2】
【0087】
これらの部分集団は、より多くの細胞増殖因子、サイトカイン、免疫調節因子および炎症因子を分泌することができる(表3参照)。従って、これらのCD106highCD151ネスチンMSCはより良い免疫調節能および血管新生能を有する。
【0088】
表3に、q-PCRによる、使用済み培地中に分泌された増殖因子の関連する発現レベルを示す。結果は、完全培地にIL-1およびIL-4を添加後48時間において、胎盤組織由来MSCにより多くのタンパク質発現またはIL-6、IL-8、IL-10、HGF、ANG、MMP2、VEGF-AおよびTGF-βの分泌が認められたことを示す。
【0089】
【表3】
【0090】
2.本発明のMSCを臍帯組織から得る方法
下記の試薬を本実施例のサンプルに使用した。
【0091】
【表4】
【0092】
2.1.外植片法による細胞の単離
臍帯を輸送溶液から取り出し、2~3cm長の断片に切断した。付着性血液細胞の混入を回避するため、除去できない血餅を含有する各臍帯部分は廃棄した。断片は、αMEM+バンコマイシン1g/L+アモキシシリン1g/L+アミカシン500mg/L+アムホテリシンB50mg/Lから構成される抗生物質および抗真菌薬の水槽中で30分間室温(RT)にて殺菌した。抗生物質は滅菌注射水を用いて要時溶解した。
【0093】
臍帯の断片を水槽から取り出し、室温にて1×PBS中で素早く洗浄した。血管には触れずに上皮膜をわずかに切り取った。次に各断片を0.5cm厚スライスに細かく切断し、蓋つきの150cm&sup2;のプラスチック製フラスコの底部に配置した。フラスコ当たり6~10枚のスライスを、各スライス周囲に少なくとも半径1cmの空き領域を残して配置し、室温にて培地無しで15分間放置して付着させた。
【0094】
付着後、完全培地(αMEM+5%CPL+2U/mLヘパリン)を注意深く添加し、外植片のフラスコ底部への付着性を維持した。次にフラスコを37℃、湿度90%および5%CO2下でインキュベートした。
【0095】
5~7日後に培養培地を交換した。
【0096】
単離後10日目に、倒立顕微鏡により外植片の外への細胞の移動を制御した。大半の外植片の周囲に付着細胞の円が明らかに認められる場合は、滅菌ディスポーザブル単回使用ピンセットを用いて、蓋を通してフラスコ外へ取り出すことにより、それらを注意深く取り除いた。
【0097】
この工程から、細胞のコンフルエントを1日おきに肉眼で確認し、必要に応じて17日目に培地交換を行った。
【0098】
細胞が70~90%コンフルエントまたは20日目に達した際、培地を除去してフラスコ当たり30mLの1×PBSで細胞を洗浄した。次にTrypzean(登録商標)を用いて細胞をフラスコから除去し、古い培地とともに収集して2500rpmで10分間遠心分離した。上清を廃棄し、次いで細胞をαMEM+100mg/mL HSA+10%DMSOからなる凍結保存溶液中に懸濁し、凍結保存した。
【0099】
2.2.酵素学的方法による細胞の単離
臍帯を輸送溶液から取り出し、2~3cm長の断片に切断した。付着性血液細胞の混入を回避するため、除去できない血餅を含有する各臍帯部分は廃棄した。断片は、αDMEM+バンコマイシン1g/L+アモキシシリン1g/L+アミカシン500mg/L+アムホテリシンB50mg/Lから構成される抗生物質および抗真菌薬の水槽中で30分間室温(RT)にて殺菌した。抗生物質は滅菌注射水を用いて即時溶解した。
【0100】
次に臍帯を細片に切断して、I型コラゲナーゼ2.7mg/mLおよびヒアルロニダーゼ0.7mg/mLを含んでなる酵素カクテルに浸漬し、37℃にて3時間、穏やかに攪拌しながらインキュベートした後、2.5%トリプシンを添加してさらに30分間インキュベーションした。
【0101】
消化された浮遊液は培地を用いて1:2に希釈し、浮遊液の粘度を下げてナイロンメッシュを通過させ、単細胞浮遊液を得た。細胞を300×gで20分間遠心分離し、10,000細胞/cm&sup2;で新鮮培地に播種した。
【0102】
培養培地は、5~7日後、以降7日毎に交換した。
【0103】
細胞が70~90%コンフルエントまたは20日目に達した際、培地を除去してフラスコ当たり30mLの1×PBSで細胞を洗浄した。次にTrypzean(登録商標)を用いて細胞をフラスコから除去し、古い培地とともに収集して2500rpmで10分間遠心分離した。上清を廃棄し、次いで細胞をαMEM+100mg/mL HSA+10%DMSOからなる凍結保存溶液中に懸濁し、凍結保存した。
【0104】
2.3.細胞の解凍および培養
古典的プロトコールに従って細胞を解凍した。簡単に述べれば、凍結保存用試験管を液体窒素から取り出し、素早く37℃の水浴中に入れる。試験管中の氷がなくなったらすぐに、細胞を予熱しておいた(37℃)完全培地(αMEM+0.5%(v/v)シプロフロキサシン+2U/mLヘパリン+5%(v/v)LP)で希釈し、素早く遠心分離した(300g、室温、5分)。
【0105】
遠心分離後、細胞を予熱しておいた完全培地中に懸濁し、その数および生存率を評価した(トリパンブルー/Mallassez血球計数器)。
【0106】
細胞を2個の75cm&sup2;プラスチック製培養フラスコ中の完全培地に播種し、インキュベートした(90%湿度、5%CO、37℃)。
【0107】
2.4.細胞の刺激
拡大培養の数日後、細胞のコンフルエントを確認した。30~50%コンフルエントに達した際に、古い培地を廃棄し、非刺激条件下で新鮮な完全培地、または10ng/mLのIL-1βおよび10ng/mLのIL&#8209;4を添加した新鮮培地のいずれかと交換した。
【0108】
次いで細胞を、フローサイトメトリー実験前に2日以上インキュベートした。
【0109】
2.5.細胞の採取およびフローサイトメトリー分析
拡大培養/刺激から2~3日後、細胞のコンフルエントを確認した。コンフルエントが80%までの場合、細胞を採取した。簡単に述べれば、古い培地を廃棄し、細胞を1×DPBSで洗浄した。トリプシンEDTAを添加して細胞を37℃にて5分間インキュベートした。トリプシンを少なくとも2倍容量の培地で中和し、細胞浮遊液を採取してその数および生存率を評価した。
【0110】
フローサイトメトリー実験には、1×10細胞が必要であり、それを遠心分離し、1×DPBS+0.4%HSA中に再懸濁した。
【0111】
下記プロトコールに従って細胞をCD73、CD90 CD105、CD106、CD151およびCD31、CD34、CD45、HLA-DRに対して標識した:
1.細胞の生存率および数を評価した。
2.20000細胞/標識試験管を得るために必要な浮遊液の容量を、15mLのプロピレンプラスチック製試験管に入れた。
3.試験管を4℃にて300gで5分間遠心分離した。
4.細胞を1×DPBS+0.4%HSAに再懸濁した(1×DPBS中、4mg/mL HSAを10倍希釈)。必要な容量は標識試験管当たり500μLであった。
【0112】
FACSの製造業者および抗体の供給業者の推奨する方法で、CD106およびCD151マーカーの細胞外染色を実施した。細胞内染色はネスチンについて実施した。細胞内染色には、「BD Cytofix/Cytopermキット」と呼ばれる固定/膜透過処理溶液を使用した。
【0113】
染色後直ちに細胞を分析することはせず、細胞を1×DPBS 0.5%ホルムアルデヒド溶液と接触させて固定工程を実施した。
【0114】
標識後、細胞を1×DPBS+0.4%HSAで洗浄し、ネスチン標識のために透過処理を施した。
【0115】
標識された細胞をAccuri C6+ BD Biosciencesサイトメーターで分析し、結果をBD Accuri C6 Plusソフトウエアを用いて解析した。
【0116】
2.6.結果
上記に開示された外植片法(2.1.)によって単離された臍帯-MSCを上記2.4.に記載した条件下で培養することにより、臍帯由来MSC(HB-COR001~COR005-MSC)のいくつかのバッチが得られた。臍帯3および5(COR003およびCOR005)については、本発明の工程を別々に繰り返すことにより2つのMSC集団(MSC1およびMSC2)が同時に得られた。
【0117】
前記細胞表面におけるCD106の発現はフローサイトメトリーにより測定した。
【0118】
試験された総てのMSCバッチは、CD106発現レベルの著しい増加(>60%)を示した(表4参照)。
【0119】
【表5】
【0120】
3.臍帯由来MSCのCD106発現に及ぼす単離プロトコールの影響
上述の2つの異なる方法(2.1.および2.2.参照):外植片単離法および酵素消化法を用いて、臍帯から間葉系幹細胞を単離した。
【0121】
総ての細胞を同じ培養培地(αMEM+5%血小板溶解液(LP))中で培養し、第3継代細胞を本発明の方法により刺激して、刺激後2日に細胞を収集した。細胞の生存率を測定し、細胞を計数した。
【0122】
CD106を含むいくつかの表現型マーカーの発現をフローサイトメトリーにより測定した。
【0123】
単離方法または刺激条件にかかわらず、総てのMSCが古典的な様式で表現型マーカーを発現した:CD73、CD90、CD105は95%を超える細胞で陽性であり、一方、CD31、CD34、CD45およびHLA-DRは陰性であった。
【0124】
CD151+およびネスチンもまた、刺激または単離方法とは関係なく、ともに95%を超える細胞で陽性であった。
【0125】
刺激が無ければ、酵素消化により単離されたMSCは、刺激前、外植片法により単離されたMSCよりも高いレベルでCD106を発現した(酵素消化法:53%、外植片法:20%)。しかしながら、炎症性カクテルを用いる刺激に対するそれらの感受性は低かった:CD106においてより小さな増加が観察された(酵素消化法の+4%増加に対して外植片法は+60%増加)。
【0126】
従って、臍帯由来MSCに関して、外植片法が本発明の好ましい方法である。
【0127】
【表6】
【0128】
【表7】
【0129】
4.臍帯間葉系幹細胞のCD106レベルに及ぼすIL1-IL4の組合せによる刺激とIL1またはIL4の単独刺激の効果
間葉系幹細胞を2つの臍帯から外植片単離法により単離した(2.1.参照)。
【0130】
総ての細胞を同じ培養培地中(αMEM+5%血小板溶解液(LP))で培養して、第4継代細胞を本発明の方法により、10ng/mLのIL-1bおよび10ng/mLのIL-4の混合物を用いて、または各インターロイキンで別々に(それぞれ10ng/mL)刺激して、刺激後2日に細胞を収集した。細胞の生存率を測定し、細胞を計数した。
【0131】
次に、CD106を含むいくつかの表現型マーカーの発現をフローサイトメトリーで測定した。
【0132】
刺激条件にかかわらず、総てのMSCが古典的な様式で表現型マーカーを発現した:CD73、CD90、CD105は95%を超える細胞で陽性であり、一方、CD31、CD34、CD45およびHLA-DRは陰性であった。CD151+も刺激条件にかかわらず95%を超える細胞で陽性であった。
【0133】
CD106マーカーに関しては、IL1およびIL4の組合せを用いた刺激により観察された発現の増加は、単独のインターロイキン刺激により観察された発現の増加の3~5倍であった(表7参照)。
【0134】
【表8】
【0135】
5.糖尿病ラットにおける胎盤由来CD106 high CD151 ネスチン MSCの血管新生作用
本実施例は、胎盤由来CD106highCD151ネスチンMSCの治療上の血管新生作用に注目する。それは、糖尿病における重症下肢虚血に対してインスリン注射と細胞を用いる治療法の組合せとしての臨床使用の可能性の見通しをもたらす。本発明者らの結果は、胎盤由来CD106highCD151ネスチンMSCが、血管細胞に直接に分化することにより、虚血を改善し、血流灌流を回復させるために、血管新生および治療的血管新生に関与することを示す。さらに、胎盤由来CD106highCD151ネスチンMSCは糖尿病ラットにおいて虚血による損傷および機能回復を改善させた。
【0136】
6週齢の免疫不全の雄ヌードラットをVital River Laboratories(Charles River Laboratoriesの供給業者(suppler)、中国)から購入した。一晩絶食後にストレプトゾトシン(クエン酸バッファー溶液中70mg/kg、注射直前に即時調製)の単回腹腔内注射により糖尿病を誘発した。絶食血漿中のグルコースレベルを毎週測定し、血漿グルコースが11mM~15mMのラットを糖尿病とみなした。クエン酸バッファーの腹腔内注射を受けた週齢と体重がマッチするヌードラットを非糖尿病の対照として用いた(血糖は5.5~8mM)。
【0137】
2週間後、糖尿病ヌードラットを麻酔し(60mg/kgペントバルビタールの腹腔内注射)、3-0絹糸で結紮することにより左大腿動脈を閉塞させた。伏在静脈および膝窩動脈分岐部の近位0.5cmの位置を結紮した。血管内塞栓症を誘発するためにリピオドール(1.5ml/kg)を使用した。偽結紮は、左後肢に虚血を起こさずに左大腿動脈に施した。
【0138】
虚血モデルの確立後、肢は体重を支えられず、足蹠は腫脹し赤くなり、外科的後肢欠損症は明らかであった。虚血による損傷は、程度は異なるが総ての群で経時的に改善した。肢の機能の回復は、CD106highCD151ネスチンMSC部分集団において有意に増大した(図4)。
【0139】
より正確には、図4の組織学的データは、PBS群と比較して細胞移植群において毛細血管密度が増加したことを示す。さらに、糖尿病ラットおよび非糖尿病ラットにおいて、PBS群と比較してCD106highCD151ネスチンMSC部分集団細胞移植群において、観察された毛細血管数が多かった。
【0140】
図5に、血管新生LDPIを用いて虚血により誘発された変化の機能的証拠を示した。画像は、外科手術日に左後肢の血流が完全に遮断されたことを示す;これは濃暗色により示される。3週間後、総ての群において血流灌流はある程度回復していたが、虚血/非虚血灌流比がわずか52%の達成であったPBS群においては、正常にまで回復していなかった。細胞移植群における灌流の回復率は有意に高かった。従来技術のP-MSC群における回復率は81%(P<0.05 PBS群に対して)、CD106highCD151ネスチンMSC部分集団群では86%(P<0.01 PBS群に対して)であった。
【0141】
両方のMSC部分集団における灌流の回復率は有意に高かった。従って、結果からMSCは血流灌流を改善し、本発明のMSCはこのことにおいてより効果的であることが明らかとなった。事実、本発明のMSCは、糖尿病および非糖尿病ラットいずれにおいても血流の回復の有意な改善を示した。
【0142】
結果から、従来技術のMSCと比較して本発明のMSCが血流灌流をより効率的に改善することが明らかとなった。本実施例は、本発明のMSCの投与が糖尿病性の重度の下肢虚血のための有望な新規アプローチであることを示す。
【0143】
6.糖尿病患者に対する本発明の胎盤由来CD106 high CD151 ネスチン MSCの治療効果
本実施例は、糖尿病に罹患している患者に対する、本発明の胎盤由来CD106highCD151ネスチンMSCの治療効果に注目する。それは、糖尿病ための細胞を用いる治療法としての臨床使用の可能性の見通しをもたらす。
【0144】
計15名の糖尿病患者(男性11名、女性4名)を本臨床試験に含めた。
【0145】
組入れ基準は、2013年11月~2014年11月の間にTianjin General Hospitalにおいて2型糖尿病と診断された患者であった。患者の年齢は30~85歳、糖尿病罹患期間は3年以上、1.5年以上にわたり最適な血糖管理のために必要なインスリン用量が0.7U/kg/日以上であり、インスリン機能障害のためインスリンを用いる処置では血糖変動の管理が不十分であり、本臨床試験に参加する意思を有していた。これらの15名の患者の年齢は42~67歳であり、年齢の中央値は59歳;糖尿病罹患期間は3~17年間、中央値は8年間;毎日のインスリン必要量38単位~90単位、平均58.7単位であった。糖負荷試験、インスリン分泌試験、Cペプチド刺激試験およびグリコシル化ヘモグロビン定量を、3ヵ月毎に同時に実施した。心臓、肝臓および腎臓機能検査を実施した。有害事象および副作用が処置期間中に観察された。処置後、毎日のインスリン必要量が50%以上減少し、3ヵ月以上継続すれば有効性ありとみなした。
【0146】
患者は、本発明の胎盤由来MSC(P-MSC)の3回の静脈内注入を受け、注入は1ヵ月の間隔をあけて行った。各患者に投与されたP-MSCの総数は(1.0~1.5)×10/kg、平均で1.25×10/kgであった。同時に、患者にはインスリン投与を継続し、血糖レベルに応じてインスリン用量を調整した。合併症のための、本来の一般的な処置は継続した。総ての患者について治療後少なくとも6ヵ月の追跡調査を行った。
【0147】
本臨床試験では、15名の患者群において本発明の胎盤由来MSCを3回投与後、平均インスリン必要量の統計的に有意な減少が認められた(P<0.001)。本発明の胎盤由来MSC投与後、糖尿病患者のインスリン注射用量はほぼ半量に減量された(MSC投与前6ヵ月間に投与された平均インスリン用量と比較)(図6A)。
【0148】
本臨床試験では、本発明の胎盤由来MSCを用いる処置により、糖尿病患者のグリコシル化ヘモグロビンレベルの有意な低下が示された(P<0.001)(図6B)。
【0149】
これらのデータから、本発明のMSCが糖尿病患者の処置に使用可能であることが確認された。
【0150】
7.再生不良性貧血患者に対する本発明の胎盤由来MSCの治療効果
本実施例は、再生不良性貧血に罹患している患者に対する、本発明の胎盤由来MSCの治療効果に注目し、再生不良性貧血のための細胞を用いる治療法としての臨床使用の可能性の見通しをもたらす。
【0151】
再生不良性貧血は、脂肪BMおよび血管新生減少を伴う発育不全および汎血球減少症を特徴とする免疫介在性の骨髄(BM)不全症候群として概ね考えられている。従前の研究では、後天性再生不良性貧血はHSC/HPCおよび造血微小環境の異常として発現することが示された。多数の証拠が、再生不良性貧血はおそらくHSC/HPCおよびMSCを含む幹細胞/前駆細胞の障害により特徴づけられる症候群であることを暗示している。MSCは造血を支援し、ほぼ総ての免疫細胞機能を調節して、造血および免疫ホメオスタシスを維持している。MSCは、T細胞、B細胞、単球、DC、NKTおよび好中球を含む主要な免疫細胞の機能を調節することができる[5]。MSCはTh1、Th17およびCTLに対して顕著な免疫抑制特性を有している。MSCは、Th1細胞によりT細胞の増殖、IFN-γおよびTNF-αの分泌を阻害する一方で、Th2細胞によるIL-10の生成およびTreg細胞の増殖を促進する。しかしながら最近の研究は、再生不良性貧血患者のMSCは増殖が不十分であり、MLR、PHA-誘発T細胞活性化およびIFN-γ分泌の免疫抑制が欠損していることを示している[6,7]。本発明者らの最近の研究では、再生不良性貧血患者のMSCは、CD4+T細胞の増殖能およびクローン原性の抑制が低下している一方で、Treg細胞の増殖を促進することが示された。MSCはまた、CD4+細胞によるTNF-αおよびIFN-γ生成の抑制において不完全であることが見出されている。しかしながら、IL-4、IL-10およびIL-17生成の制御において有意差は認められなかった[8]。さらに、本発明者らの研究ではまた、健常対照者のBM-MSCと比較して、再生不良性貧血患者のMSCは、形態異常、増殖能およびクローン原性の低下、ならびにアポトーシスの増加も示されている。再生不良性貧血患者のMSCは、脂肪細胞への分化は誘導されやすいが、骨芽細胞への分化がより困難であった。異常な生物学的特徴と一致して、これらの再生不良性貧血患者由来のMSCにおいて、細胞周期、細胞分裂、増殖、走化性および造血細胞系統に関与する多数の遺伝子の発現の著しい低下が示された。これとは逆に、再生不良性貧血患者のMSCにおいてアポトーシス、脂肪形成及び免疫応答に関連するより多くの遺伝子の発現が増加していることが示された。MSCの遺伝子発現プロフィールについては、さらに異常な生物学的特性が確認され、再生不良性貧血におけるBM微小環境の破壊の潜在的作用機序に関する重要な証拠がもたらされた[9]。
【0152】
MSCは、下記の重要な2つの事実から、再生不良性貧血治療のための有望な候補治療薬である:
i)MSCの一般的な造血を支援する能力および強力な免疫抑制能および
ii)再生不良性貧血患者由来のMSCにおいて観察された生物学的特徴の差異および機能障害
【0153】
臨床試験において、1ヵ月を超えて間欠熱が続く6歳の女児に対し、MSCを用いる処置を行った。2回の骨髄生検で細胞減少が認められ、再生不良性貧血との診断がなされた。およそ6ヵ月にわたるシクロスポリンおよびスタノゾロールによる処置後の末梢血表現型に改善は認められなかった。造血幹細胞移植は、適合ドナーを見つけることが非常に困難なため、よい選択ではなかった。このため患者は、本発明の胎盤由来MSC1×10の静脈内注入による投与を受けた。末梢血表現型は1回目のMSC移植後に有意に改善した。しかしながら、患者には依然として赤血球および血小板輸血を含む血液製剤輸血が必要であった。6ヵ月後、患者は2回目の本発明のMSC1×10の静脈内注射を受けた。末梢血表現型は有意に改善し、2回目の注射後12ヵ月にほぼ正常レベルに達した。さらに、2回目の注射後12ヵ月において患者は完全に血液製剤輸血を必要としなくなった。(表8)。これらのデータから、本発明の胎盤由来MSCは再生不良性貧血患者の臨床的処置に使用可能であることが確認された。
【0154】
【表9】
【0155】
8.肝臓疾患患者に対する本発明の胎盤由来MSCの治療効果
本実施例は、肝臓疾患に罹患している患者に投与された、本発明の方法に従って得られた(すなわちIL1およびIL4処理)胎盤由来MSCの治療効果に注目する。それは、肝臓疾患のための細胞を用いる治療法としての臨床使用の可能性の見通しをもたらす。
【0156】
本臨床試験では、40歳男性がアルコール性肝炎に10年以上罹患していることが確認された。患者は従来の処置を受けていたにもかかわらず、2年前に非代償性肝硬変であることが確認された。非代償性肝硬変の治療法に良い選択肢がなかったため、患者は自発的に本発明の4×10MSCの静脈内注射を受けた。
【0157】
本臨床試験において、超音波検査結果、MSC投与前の腹水レベルは9.7cmであった(図7A参照)。しかしながら、MSC投与後1ヵ月に腹水レベルは3.6cmにまで減少した(図7B)。さらに、結果は、非代償性肝硬変患者の肝機能はMSC投与後に有意に改善したことを示した。さらに、臨床参考値によれば、血清中のCA125の発現は正常レベルまで減少した。
【0158】
これらの結果は、本発明のMSCを用いる治療を受けた非代償性肝硬変患者における良好な臨床的応答を実証する。
【0159】
加えて、血清中の総タンパク質、アルブミン、グロブリンも有意に増加し、臨床参考値によれば正常レベルに到達した(図7C)。これらの結果は、患者の肝臓合成機能および代謝機能がMSC静脈内注射後1ヵ月に改善していたことを示した。
【0160】
従って、本発明の胎盤由来MSCは、肝臓疾患のための極めて良好な細胞治療法の選択肢である。
【0161】
9.本発明の臍帯由来細胞の血管新生能
本発明のMSCの血管形成促進能を、ネズミ後肢虚血モデルにおいてさらに試験した。
【0162】
材料および方法
12匹の8週齢NOD/SCIDマウス(Laboratoire Janvier)をケタミンおよびキシラジンの混合物を用いて麻酔した。次に左肢の大腿動脈の左近位および遠位部分を結紮し(6.0絹製縫合糸、Ethicon、Issy-Les-Moulineaux、France)、結紮部の間の部分を摘出した。手術後、80%を超える虚血を呈したマウスの虚血肢の腓腹筋に、上記2.4.に記載のプロトコールに従って誘導された本発明のMSCを2用量、筋肉内注射した(群2:0.5×10細胞/動物、群3:0.05×10細胞/動物)。対照群1においては生理食塩水注射液を使用した。対照群4においては、マウス当たり20ng/mLの用量のVEGFも注射した。
【0163】
注射計画ならびに用量は、細胞の意図される臨床使用から決定し、動物に投与した用量は、ヒトにおける第I相/II相臨床試験で提示された用量の10倍超であった(約25×10細胞/kgであり、それは約0.5×10細胞/マウスを意味する(マウス平均体重=20グラム))。
【0164】
後肢の血流は、スキャナー-レーザードップラー(レーザードップラー灌流システム、Perimed PeriScan PIM III)を用いて測定した。虚血肢および非虚血肢の平均灌流は、虚血前および虚血後、ならびに7日毎に虚血後21日目までで決定した。レーザー周波数の血流依存性変化は、様々な着色画素を用いて画像化した。画像は、血液灌流解析ソフトウエア(LPDIwin)を用いて血流を数値化して解析した。灌流率は、虚血/非虚血後肢の比として表した。
【0165】
後肢筋肉切片のヘマトキシリン-エオジン染色
マウスは実験終了時に安楽死させた(21日目)。後肢腓腹筋を摘出し、筋線維中の細胞核の分布を可視化するために染色した。虚血後肢から単離された筋肉をパラフィン固定し、ヘマトキシリン/エオジン染色した。
【0166】
結果
図8に、後肢虚血後、異なる注射で処置されたマウスの平均再潅流率を示す:NaCl 0,9%(陰性対照-n=8)、VEGF 20ng/mL(陽性対照-n=6)、50×10MS細胞(n=9)および500×10MS細胞(n=7)。
【0167】
これらの結果は、大腿動脈結紮後のマウスに対する本発明のMSCの高用量の投与は、VEGFのビヒクル(NaCl)を単独投与した場合と比較して、高い灌流率をもたらしたことを示す。細胞注射後早くも7日目に、最高用量の細胞を投与されたマウスに100%灌流率が観察された(0.5×10細胞)。他の群とは統計的有意差が認められた。
【0168】
また、この予備実験において細胞の最高用量(0.5×10細胞)は1/10の低い用量よりも良好な灌流率を達成したように思われるため、おそらく用量応答効果がある。
【0169】
これらの結果から、このマウスCLIモデルにおいて、血液灌流を改善する本発明のMSCの実際の血管新生効力が確認される。
【0170】
ヘマトキシリン-エオジン染色において観察された結果(データは示されていない):
正常な、非虚血筋肉において、細胞核は筋線維の周辺部に分布している。
【0171】
群1(NaCl 0,9%)および群4(VEGF 20ng/mL)のマウスの虚血筋肉において、虚血誘発後21日に、筋線維の周辺に認められる細胞の核は極めて少数であった。これは、筋肉がまだ再生しているためである。
【0172】
群3のマウスの虚血筋肉において(0.05×10MSC細胞または50k)、虚血誘発後21日に、50%の筋線維が再生されており、線維周辺に核が認められた。再生は、群1および群4よりも早く起こった。
【0173】
群2のマウスの虚血筋肉において(0.5×10MSC細胞または500k)、虚血誘発後21日に、100%の筋線維が再生されており、線維周辺に核が認められた。筋肉の染色プロフィールは正常な非虚血筋肉と同じであった。本実験において、500k細胞の用量で筋肉の完全な再生が可能であった。
【0174】
参考文献
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8