(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】焼結部材
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230511BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230511BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C22C38/00 304
C22C38/00 301Z
B22F1/00 V
B22F3/10 E
(21)【出願番号】P 2021550615
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2020035338
(87)【国際公開番号】W WO2021065552
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2019182667
(32)【優先日】2019-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】竹中 千尋
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-121367(JP,A)
【文献】特開2004-323939(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021935(WO,A1)
【文献】特開2006-274359(JP,A)
【文献】特開2015-148249(JP,A)
【文献】特開2005-336608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
B22F 1/00
B22F 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを主成分とする焼結部材であって、
Ni、Cr、Mo、及びCを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成と、
マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織とを備え、
前記焼結部材に含まれる元素の合計含有量を100質量%とするとき、前記焼結部材に占めるNiの含有量が2質量%超6質量%以下であり、
Crの含有量が2質量%以上4質量%以下であり、Moの含有量が0.2質量%以上0.9質量%以下であり、Cの含有量が0.2質量%以上1.0質量%以下であり、
前記焼結部材の任意の断面における前記残留オーステナイト相の面積割合が5%以上50%以下であり、
回転曲げ疲労試験において10
7
回繰り返し曲げ試験に耐える応力振幅が420MPa以上であり、
前記焼結部材の表面から
5.0mmまでにおけるビッカース硬さの変動幅が100HV以下である、
焼結部材。
【請求項2】
前記焼結部材の表面から5.0mmまでにおけるビッカース硬さの平均値が615HV以上である、請求項1に記載の焼結部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結部材、及び焼結部材の製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2019年10月3日出願の日本出願2019-182667号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
特許文献1は、Fe-Ni-Cr-Mo-C系焼結材料を開示している。この焼結部材におけるNiの含有量は、0.5質量%~2.0質量%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示に係る焼結部材は、
Feを主成分とする焼結部材であって、
Ni、Cr、Mo、及びCを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成と、
マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織とを備え、
前記焼結部材に含まれる元素の合計含有量を100質量%とするとき、前記焼結部材に占めるNiの含有量が2質量%超6質量%以下であり、
前記焼結部材の表面から所定の深さまでにおけるビッカース硬さの変動幅が100HV以下である。
【0006】
本開示に係る焼結部材の製造方法は、
鉄基合金粉末とNi粉末とC粉末とを含む原料粉末を準備する工程と、
前記原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記準備する工程における前記鉄基合金粉末は、Cr、及びMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記原料粉末の全体を100質量%とするとき、前記原料粉末に占める前記Ni粉末の含有量が2質量%超6質量%以下であり、
前記焼結する工程の冷却過程における冷却速度が1℃/sec以上である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係る焼結部材を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る焼結部材及び試料No.2の焼結部材のビッカース硬さと、試料No.101の焼結部材のビッカース硬さと、試料No.110の焼結部材のビッカース硬さとを示すグラフである。
【
図3A】
図3Aは、実施形態に係る焼結部材及び試料No.1の焼結部材の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図3B】
図3Bは、実施形態に係る焼結部材及び試料No.1の焼結部材の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図4A】
図4Aは、実施形態に係る焼結部材及び試料No.2の焼結部材の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図4B】
図4Bは、実施形態に係る焼結部材及び試料No.2の焼結部材の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、試料No.101の焼結部材の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、試料No.102の焼結部材の断面を示す顕微鏡写真である。[本開示が解決しようとする課題] 更に高硬度かつ高靭性な焼結部材の開発が望まれている。
【0008】
そこで、本開示は、高硬度と高靭性とを兼ね備える焼結部材を提供することを目的の一つとする。
【0009】
また、本開示は、高硬度と高靭性とを兼ね備える焼結部材を製造できる焼結部材の製造方法を提供することを別の目的の一つとする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示に係る焼結部材は、高硬度と高靭性とを兼ね備える。
【0011】
本開示に係る焼結部材の製造方法は、高硬度と高靭性とを兼ね備える焼結部材を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者は、更なる高硬度かつ高靭性な焼結部材の製造方法を鋭意検討した。その結果、以下の(a)及び(b)の両方を満たすことで、高硬度かつ高靭性な焼結部材が得られるとの知見を得た。
【0013】
(a)原料粉末として、鉄基合金粉末の合金成分として多くのNiを含むものを準備するのではなく、鉄基合金粉末と鉄基合金粉末とは独立する多くのNi粉末とを含むものを準備する。
【0014】
(b)焼結する工程の冷却過程で急冷する。
【0015】
本開示は、上記知見に基づくものである。最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0016】
(1)本開示の一態様に係る焼結部材は、
Feを主成分とする焼結部材であって、
Ni、Cr、Mo、及びCを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成と、
マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織とを備え、
前記焼結部材に含まれる元素の合計含有量を100質量%とするとき、前記焼結部材に占めるNiの含有量が2質量%超6質量%以下であり、
前記焼結部材の表面から所定の深さまでにおけるビッカース硬さの変動幅が100HV以下である。
【0017】
上記焼結部材は、高硬度と高靭性とを兼ね備える。高硬度な理由としては、上記組成を有することと、Niの含有量が過度に多すぎないことと、高硬度なマルテンサイト相を有することとが挙げられる。高靭性な理由としては、Niの含有量が多いことと、高靭性な残留オーステナイト相を有することとが挙げられる。また、上記焼結部材は、焼結部材の表面から所定の深さまで均一的な硬さを有する。その理由は、上記ビッカース硬さの変動幅が小さいからである。
【0018】
(2)上記焼結部材の一形態として、
Crの含有量が、2質量%以上4質量%以下であり、
Moの含有量が、0.2質量%以上0.9質量%以下であり、
Cの含有量が、0.2質量%以上1.0質量%以下であることが挙げられる。
【0019】
上記焼結部材は、高硬度である。その理由は、詳しくは後述するものの、上記各元素の含有量が上記範囲を満たすからである。
【0020】
(3)上記焼結部材の一形態として、
前記焼結部材の任意の断面における前記残留オーステナイト相の面積割合が5%以上であることが挙げられる。
【0021】
上記焼結部材は、靭性に優れる。その理由は、高靭性な残留オーステナイト相の面積割合が高いからである。
【0022】
(4)上記焼結部材の一形態として、
回転曲げ疲労試験において107回繰り返し曲げ試験に耐える応力振幅が420MPa以上であることが挙げられる。
【0023】
上記焼結部材は、靭性に優れる。その理由は、上記応力振幅が高いため、曲げ疲労強度に優れるからである。
【0024】
(5)本開示の一態様に係る焼結部材の製造方法は、
鉄基合金粉末とNi粉末とC粉末とを含む原料粉末を準備する工程と、
前記原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記準備する工程における前記鉄基合金粉末は、Cr、及びMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記原料粉末の全体を100質量%とするとき、前記原料粉末に占める前記Ni粉末の含有量が2質量%超6質量%以下であり、
前記焼結する工程の冷却過程における冷却速度が1℃/sec以上である。
【0025】
上記焼結部材の製造方法は、高硬度と高靭性とを兼ね備える焼結部材を製造できる。上記焼結部材の製造方法は、以下の(a)及び(b)の両方を満たすことで、高硬度なマルテンサイト相と高靭性な残留オーステナイト相との混相組織を形成できるからである。
【0026】
(a)原料粉末として、鉄基合金粉末と鉄基合金粉末とは独立する多くのNi粉末とC粉末とを含むものを準備すること。
【0027】
(b)焼結する工程の冷却過程で急冷すること。
【0028】
また、上記(b)を満たすことで、焼結部材の表面から所定の深さまでにおけるビッカース硬さの変動幅を小さくすることができる。そのため、焼結部材の表面から所定の深さまでの硬さを均一的にすることができる。
【0029】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。
【0030】
《実施形態》
〔焼結部材〕
図1、
図2、
図3A、
図3B、
図4A、
図4Bを参照して、実施形態に係る焼結部材1を説明する。焼結部材1は、Fe(鉄)を主成分とする。焼結部材1は、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、及びC(炭素)を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する。焼結部材1の特徴の一つは、以下の要件(a)から要件(c)の点にある。
【0031】
(a)Niの含有量が多い。
【0032】
(b)特定の組織を有する。
【0033】
(c)シンターハードニング処理されたものである。
【0034】
以下、詳細に説明する。
【0035】
[組成]
(Ni)
Niは、焼結部材1の靭性を高める。Niは、焼結部材1の製造過程で焼入れ性を向上できるため、焼結部材1の硬度を高めることにも寄与する。以下、焼結部材1の製造過程を単に製造過程ということがある。Niの含有量は、2質量%超6質量%以下である。Niの含有量が2質量%超であることで、焼結部材1は靭性に優れる。その理由は、Niの含有量が多いからである。Niの含有量が多いことで、Niの一部はFeと合金化していて、Niの残部は合金化せず純Niとして存在する。この純Niとして存在する部分が靭性の向上に寄与する。Niの含有量が6質量%以下であることで、焼結部材1は硬度に優れる。その理由は、Niが過度に多すぎるため、硬度の低下を抑制できるからである。そのため、Niの含有量が上記範囲を満たすことで、焼結部材1は高硬度と高靭性とを兼ね備えることができる。Niの含有量は、更に2.5質量%以上5.5質量%以下が好ましく、特に3質量%以上5質量%以下が好ましい。Niの含有量とは、焼結部材1に含まれる元素の合計含有量を100質量%とするとき、焼結部材1に占めるNiの含有量を言う。この点は、後述するCr、Mo、Cでも同様である。
【0036】
(Cr)
Crは、焼結部材1の硬度を高める。Crは、製造過程で焼入れ性を高められるからである。Crの含有量は、例えば、2質量%以上4質量%以下が好ましい。Crの含有量が2質量%以上であれば、焼結部材1は硬度に優れる。Crの含有量が4質量%以下であれば、焼結部材1の靭性の低下を抑制できる。Crの含有量は、更に2.2質量%以上3.8質量%以下が好ましく、特に2.5質量%以上3.5質量%以下が好ましい。
【0037】
(Mo)
Moは、焼結部材1の硬度を高める。Moは、製造過程で焼入れ性を高められるからである。Moの含有量は、例えば、0.2質量%以上0.9質量%以下が好ましい。Moの含有量が0.2質量%以上であれば、焼結部材1は硬度に優れる。Moの含有量が0.9質量%以下であれば、焼結部材1の靭性の低下を抑制できる。Moの含有量は、更に0.3質量%以上0.8質量%以下が好ましく、特に0.4質量%以上0.7質量%以下が好ましい。
【0038】
(C)
Cは、焼結部材1の硬度を向上させる。Cは、製造過程でFe-Cの液相を出現させ易い。このFe-Cの液相は、空孔の角を丸くし易い。そのため、焼結部材1は、硬度の低下の原因となる空孔の鋭角部が少ない。よって、焼結部材1の硬度が大きくなり易い。Cの含有量は、例えば、0.2質量%以上1.0質量%以下が好ましい。Cの含有量が0.2質量%以上であれば、焼結部材1は高硬度である。製造過程で、Fe-Cの液相が十分に出現して、空孔の角部を効果的に丸くし易いからである。Cの含有量が1.0質量%以下であれば、焼結部材1は寸法精度に優れる。製造過程で、Fe-Cの液相が過度に生成されることを抑制し易いからである。Cの含有量は、更に0.3質量%以上0.95質量%以下が好ましく、特に0.4質量%以上0.9質量%以下が好ましい。
【0039】
焼結部材1の組成は、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometry:ICP-OES)などによって成分分析を行うことで確認できる。
【0040】
[組織]
焼結部材1の組織は、マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織を有する(
図3A、
図3B、
図4A、
図4B)。
図3A、
図3B、
図4A、
図4Bは、詳しくは後述するように、焼結部材1の断面の顕微鏡写真である。各図の矢印の先の白色の部分が残留オーステナイト相であり、その残留オーステナイト相の周囲の部分がマルテンサイト相である。焼結部材1は、マルテンサイト相を有することで、高硬度である。焼結部材1は、残留オーステナイト相を有することで、高靭性である。
【0041】
残留オーステナイト相の面積割合は、例えば、5%以上が好ましい。そうすれば、高靭性な残留オーステナイト相の面積割合が高いため、焼結部材1は靭性に優れる。残留オーステナイト相の面積割合は、例えば、50%以下が好ましい。そうすれば、残留オーステナイト相の面積割合が大きくなりすぎない。即ち、マルテンサイト相の面積割合が大きくなり易い。よって、焼結部材1は、高硬度かつ高靭性である。残留オーステナイト相の面積割合は、更に10%以上45%以下が好ましく、特に15%以上40%以下が好ましい。残留オーステナイト相の面積割合は、詳しくは後述するように、焼結部材1の断面における顕微鏡写真の全面積に対する残留オーステナイト相の合計面積の割合をいう。
【0042】
[特性]
(硬度)
焼結部材1は、高硬度である。焼結部材1は、ビッカース硬さが大きく、ビッカース硬さの変動幅が小さいからである(
図2のグラフに示す丸印)。
図2のグラフの詳細は後述する。焼結部材1のビッカース硬さは、615HV以上である。焼結部材1のビッカース硬さの変動幅は、100HV以下である。そのため、焼結部材1は、表面から上記所定の深さまで高硬度であり均一的な硬度を有する。この焼結部材1は、ビッカース硬さの変動幅が小さいため、焼結過程の冷却過程で急冷するシンターハードニング処理されたものである。この焼結部材1は、シンターハードニング処理されているため焼結後の焼入れ焼戻しがされていない。シンターハードニング処理されず、焼結後に焼入れ焼戻しをした焼結部材1のビッカース硬さの変動幅は、例えば、100HV超である。
【0043】
焼結部材1のビッカース硬さは、更に620HV以上が好ましく、特に625HV以上が好ましい。上記ビッカース硬さの変動幅は、更に75HV以下が好ましく、特に50HV以下が好ましい。焼結部材1のビッカース硬さは、詳しくは後述するように、焼結部材1の断面において、焼結部材1の表面から所定の深さまでの間で複数箇所測定したビッカース硬さの平均とする。焼結部材1のビッカース硬さの変動幅は、詳しくは後述するように、焼結部材1の断面において、表面から所定の深さまでの間で測定したビッカース硬さのうち最大値と最小値との差をいう。
【0044】
(靭性)
焼結部材1は、高靭性である。その理由は、詳しくは後述する小野式回転曲げ疲労試験において107回繰り返し曲げ試験に耐える応力振幅が大きく、曲げ疲労強度に優れるからである。107回繰り返し曲げ試験に耐える応力振幅は、420MPa以上であることが好ましい。107回繰り返し曲げ試験に耐える応力振幅は、更に423MPa以上であることが好ましく、特に425MPa以上であることが好ましい。
【0045】
[用途]
実施形態に係る焼結部材1は、各種の一般構造用部品に好適に利用できる。一般構造用部品としては、例えば、機械部品などが挙げられる。機械部品としては、例えば、電磁カップリングのカム部品、プラネタリキャリア、スプロケット、ローター、ギア、リング、フランジ、プーリー、軸受けなどが挙げられる。
【0046】
〔作用効果〕
本形態に係る焼結部材1は、高硬度と高靭性とを兼ね備えることができる。焼結部材1は、Niの含有量が多いことで靭性に優れる上に、Niの含有量が過度に多すぎないことで硬度の低下を抑制できるからである。その上、焼結部材1は、高硬度なマルテンサイト相と高靭性な残留オーステナイト相との混相組織を有するからである。また、焼結部材1は、表面から所定の深さまで均一的な硬さを有する。焼結部材1は、上記ビッカース硬さの変動幅が小さいからである。
【0047】
〔焼結部材の製造方法〕
本形態に係る焼結部材の製造方法は、原料粉末を準備する工程と、圧粉成形体を作製する工程と、圧粉成形体を焼結する工程とを備える。焼結部材の製造方法における特徴の一つは、以下の要件(a)及び要件(b)の両方を満たすことをある。
【0048】
(a)準備する工程では、原料粉末として、鉄基合金粉末と鉄基合金粉末とは独立する多くのNi粉末とC粉末とを含むものを準備する。
【0049】
(b)焼結する工程では、冷却過程で急冷する。
【0050】
以下、各工程を順に説明する。
【0051】
[準備する工程]
この工程は、鉄基合金粉末とNi粉末とC粉末とを含む原料粉末を準備する。
【0052】
(鉄基合金粉末)
鉄基合金粉末は、Cr、及びMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する。鉄基合金におけるCr及びMoの含有量は、後述する焼結する工程後も維持される。即ち、鉄基合金におけるCr及びMoの含有量は、上述の焼結部材1に維持される。鉄基合金におけるCrの含有量は、上述のように、例えば、2質量%以上4質量%以下が好ましく、更に2.2質量%以上3.8質量%以下が好ましく、特に2.5質量%以上3.5質量%以下が好ましい。また、鉄基合金におけるMoの含有量は、上述のように、例えば、0.2質量%以上0.9質量%以下が好ましく、更に0.3質量%以上0.8質量%以下が好ましく、特に0.4質量%以上0.7質量%以下が好ましい。Cr及びMoの含有量を上記範囲とする理由は、上述の通りである。Cr及びMoの含有量は、鉄基合金に含まれる元素の合計含有量を100質量%とするとき、鉄基合金に占めるCr及びMoの含有量をいう。
【0053】
鉄基合金粉末の平均粒径は、例えば、50μm以上150μm以下が挙げられる。平均粒径が上記範囲内の鉄基合金粉末は、取り扱い易く、加圧成形し易い。平均粒径が50μm以上の鉄基合金粉末は、流動性を確保し易い。平均粒径が150μm以下の鉄基合金粉末は、緻密な組織の焼結部材1を得易い。鉄基合金粉末の平均粒径は、更に55μm以上100μm以下が挙げられる。「平均粒径」は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)のことである。この点は、後述のNi粉末及びC粉末の平均粒径でも同様である。
【0054】
(Ni粉末)
Ni粉末は、純Ni粉末が挙げられる。Ni粉末の含有量は、後述する焼結する工程後も維持される。即ち、Ni粉末の含有量は、上述の焼結部材1に維持される。Ni粉末の含有量は、上述のように、2質量%超6質量%以下が挙げられ、更に2.5質量%以上5.5質量%以下が好ましく、特に3質量%以上5質量%以下が好ましい。Ni粉末の含有量が多いことで、焼結する工程によってNiの一部をFeと合金化させ、Niの残部を合金化させず純Niとして存在させることができる。その上、マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織を形成させられる。そのため、靭性に優れる焼結部材1を製造し易い。また、Ni粉末の含有量が過度に多すぎないことで、硬度の低下を抑制し易い。よって、Ni粉末の含有量が上記範囲を満たすことで、高強度と高靭性とを兼ね備える焼結部材1を製造できる。Ni粉末の含有量は、原料粉末の全体を100質量%とするとき、原料粉末に占めるNi粉末の含有量をいう。
【0055】
Ni粉末の平均粒径は、残留オーステナイト相の分布状態に影響する。Ni粉末の平均粒径は、例えば、1μm以上40μm以下が挙げられる。平均粒径が40μm以下のNi粉末は、残留オーステナイト相を均等に分布させ易い。平均粒径が1μm以上のNi粉末は、取り扱い易いため、製造作業性を向上できる。Ni粉末の平均粒径は、更に1μm以上30μm以下が挙げられ、特に1μm以上20μm以下が挙げられる。
【0056】
(C粉末)
C粉末は、焼結する工程の昇温過程でFe-Cの液相となり、焼結部材1中の空孔の角を丸くして焼結部材1の硬度を向上させる。C粉末の含有量は、Ni粉末などと同様、後述する焼結する工程後も維持される。即ち、原料粉末におけるC粉末の含有量は、上述の焼結部材1に維持される。C粉末の含有量は、上述のように、例えば、0.2質量%以上1.0質量%以下が好ましく、更に0.3質量%以上0.95質量%以下が好ましく、特に0.4質量%以上0.9質量%以下が好ましい。
【0057】
C粉末の平均粒径は、鉄基合金粉末の平均粒径よりも小さくすることが好ましい。鉄基合金粉末よりも小さなC粉末は、鉄基合金粉末に均一に分散し易いため、合金化を進行し易い。C粉末の平均粒径は、例えば、1μm以上30μm以下が挙げられ、更に10μm以上25μm以下が挙げられる。Fe-Cの液相を生成させるという観点ではC粉末の平均粒径は大きい方が好ましいが、大きすぎると液相の出現する時間が長くなることで空孔が大きくなりすぎて欠陥となる。
【0058】
(その他)
原料粉末は、潤滑剤を含有していてもよい。潤滑剤は、原料粉末の成形時の潤滑性が高められ、成形性を向上させる。潤滑剤の種類は、例えば、高級脂肪酸、金属石鹸、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。これらの潤滑剤としては、公知のものが利用できる。潤滑剤の存在形態は、固体状や粉末状、液体状など形態を問わない。潤滑剤には、これらの少なくとも1種を単独で又は組み合わせて用いることができる。原料粉末における潤滑剤の含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば、0.1質量%以上2.0質量%以下が挙げられ、更に0.3質量%以上1.5質量%以下が挙げられ、特に0.5質量%以上1.0質量%以下が挙げられる。
【0059】
原料粉末は、有機バインダーを含有してもよい。有機バインダーは公知のものが利用できる。有機バインダーの含有量は、原料粉末を100質量%としたとき、0.1質量%以下が挙げられる。有機バインダーの含有量が0.1質量%以下であれば、成形体に含まれる金属粉末の割合を多くできるため、緻密な圧粉成形体を得易い。有機バインダーを含有しない場合、圧粉成形体を後工程で脱脂する必要がない。
【0060】
[圧粉成形体を作製する工程]
この工程は、原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する。作製する圧粉成形体の形状は、適宜選択でき、例えば柱状や筒状などが挙げられる。圧粉成形体の作製には、例えば、一軸加圧が可能な金型が利用できる。一軸加圧とは、柱状や筒状の軸方向に沿ってプレス成形することをいう。
【0061】
成形圧力は、高いほど、圧粉成形体を高密度化できるため、焼結部材1を高密度化及び高硬度化できる。成形圧力は、例えば、400MPa以上が挙げられ、更に500MPa以上が挙げられ、特に600MPa以上が挙げられる。成形圧力の上限は、特に限定されないものの、例えば、2000MPaが挙げられ、更に1000MPaが挙げられ、特に900MPaが挙げられる。
【0062】
この圧粉成形体には、適宜、切削加工が施されていてもよい。切削加工は、公知の加工が利用できる。
【0063】
[焼結する工程]
この工程は、圧粉成形体を焼結する。圧粉成形体の焼結により、原料粉末の粒子同士が結合された焼結部材1が得られる。圧粉成形体の焼結には、連続焼結炉が利用できる。連続焼結炉は、焼結炉と、焼結炉の下流に連続する急冷室とを有する。
【0064】
焼結条件は、原料粉末の組成に応じて適宜選択できる。焼結温度は、例えば、1050℃以上1400℃以下が挙げられ、更に1100℃以上1300℃以下が挙げられる。焼結時間は、例えば、10分以上150分以下が挙げられ、更に15分以上60分以下が挙げられる。焼結条件は、公知の条件を適用できる。
【0065】
焼結工程の冷却過程における冷却速度は、1℃/sec以上が挙げられる。冷却速度が1℃/sec以上であることで、焼結部材1が急冷される。そのため、マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織が形成され易い。よって、硬度及び靭性に優れる焼結部材1が製造される。特に、C含有量が多いほど、マルテンサイト相が形成され易いため、高硬度な焼結部材1が製造される。また、Ni粉末が多いほど、残留オーステナイト相が形成され易いため、高靭性な焼結部材1が製造され易い。また、焼結部材1が急冷されることで、表面から所定の深さまでにおけるビッカース硬さの変動幅が小さい焼結部材1が製造され易い。具体的には、上記ビッカース硬さの変動幅が100HV以下の焼結部材1が製造される。冷却速度は、更に、2℃/sec以上が好ましく、特に、5℃/sec以上が好ましい。冷却速度の上限は、例えば、1000℃/secが挙げられ、更に、500℃/secが挙げられ、特に、200℃/secが挙げられる。
【0066】
冷却方法は、冷却ガスを焼結部材1に吹き付けることが挙げられる。冷却ガスの種類は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスが挙げられる。
【0067】
[その他の工程]
焼結部材の製造方法は、その他、仕上げ加工を行う工程を備えることができる。
【0068】
(仕上げ加工を行う工程)
この工程は、焼結部材1の寸法を設計寸法に合わせる。仕上げ加工としては、例えば、サイジングや焼結部材1の表面への研磨加工などが挙げられる。特に、研磨加工は、焼結部材1の表面粗さを小さくし易い。
【0069】
[用途]
実施形態に係る焼結部材の製造方法は、上述した各種の一般構造用部品の製造に好適に利用できる。
【0070】
〔作用効果〕
本形態の焼結部材の製造方法は、高硬度と高靭性とを兼ね備える焼結部材1を製造できる。焼結部材の製造方法は、準備する工程でNi粉末の含有量の多い原料粉末を準備し、焼結する工程の冷却過程で急冷する。そのため、焼結部材の製造方法は、合金化しておらず靭性に優れる純Niを存在させられる。その上、焼結部材の製造方法は、高硬度なマルテンサイト相と高靭性な残留オーステナイト相との混相組織を形成できる。焼結部材の製造方法は、準備する工程でNi粉末の含有量が過度に多すぎない原料粉末を準備し、焼結する工程の冷却過程で急冷する。そのため、焼結部材の製造方法は、高靭性な残留オーステナイト相の過度な形成を抑制できる。また、この焼結部材の製造方法は、表面から所定の深さまでにおけるビッカース硬さの変動幅が小さい焼結部材1を製造できる。
【0071】
《試験例》
この試験例では、焼結部材の硬度と靭性とを評価した。
【0072】
〔試料No.1、試料No.2〕
試料No.1、試料No.2の焼結部材は、上述の焼結部材の製造方法と同様にして、原料粉末を準備する工程と、圧粉成形体を作製する工程と、圧粉成形体を焼結する工程とを経て作製した。
【0073】
[準備する工程]
原料粉末として、鉄基合金粉末とNi粉末とC粉末とを含む混合粉末を準備した。
【0074】
鉄基合金粉末は、Cr、及びMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる複数の鉄合金粒子を有する。鉄基合金に占めるCrの含有量とMoの含有量を表1に示す。即ち、鉄基合金におけるCrの含有量が3.0質量%であり、鉄基合金におけるMoの含有量が0.5質量%である。表1に示す「-」は、該当する元素を含んでいないことを示す。
【0075】
原料粉末に占めるNi粉末とC粉末の含有量を表1に示す。試料No.1では、Ni粉末の含有量が3質量%であり、C粉末の含有量が0.65質量%であり、Fe粉末の含有量が残部である。試料No.2では、Ni粉末の含有量が4質量%であり、C粉末の含有量が0.75質量%であり、Fe粉末の含有量が残部である。
【0076】
[圧粉成形体を作製する工程]
原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製した。成形圧力は、700MPaとした。
【0077】
[焼結する工程]
圧粉成形体を焼結して焼結部材を作製した。圧粉成形体を焼結には、焼結炉と、焼結炉の下流に連続する急冷室とを有する連続焼結炉を用いた。焼結条件としては、焼結温度を1300℃とし、焼結時間を15分とした。
【0078】
(冷却過程)
焼結する工程の冷却過程では、焼結部材を急冷するシンターハードニング処理を行った。具体的には、雰囲気温度が冷却開始時から300℃まで、冷却速度が3℃/secとなるようにした。この冷却は、冷却ガスとして窒素ガスを焼結部材に吹き付けることで行った。
【0079】
〔試料No.101、試料No.102〕
試料No.101、試料No.102の焼結部材は、準備した原料粉末に占めるNi粉末の含有量とC粉末の含有量とが異なる点を除き、試料No.1の焼結部材と同様にして作製した。具体的には、試料No.101では、原料粉末に占めるNi粉末の含有量を1質量%とし、原料粉末に占めるC粉末の含有量を0.7質量%とした。試料No.102では、原料粉末に占めるNi粉末の含有量を2質量%とし、原料粉末に占めるC粉末の含有量を0.7質量%とした。
【0080】
〔試料No.110〕
試料No.110の焼結部材は、以下の(a)から(e)の点を除き、試料No.2と同様にして作製した。
【0081】
(a)準備した鉄基合金粉末の組成がCrを含まずNiとCuを含む。
【0082】
(b)原料粉末にNi粉末を含まない。
【0083】
(c)原料粉末に占めるCの粉末の含有量が異なる。
【0084】
(d)焼結する工程の冷却過程で急冷せず徐冷した。
【0085】
(e)焼結する工程の後、焼入れ焼戻しをした。
【0086】
鉄基合金粉末は、Cu、Mo、及びNiを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる複数の鉄合金粒子を有する。鉄基合金におけるCuの含有量は、1.5質量%である。鉄基合金におけるMoの含有量は、0.5質量%である。鉄基合金におけるNiの含有量は、4質量%である。試料No.110において、原料粉末に占めるC粉末の含有量が0.5質量%であり、Fe粉末の含有量が残部である。
【0087】
焼結する工程の冷却過程では、焼結部材を急冷せず徐冷した。冷却速度は、0.5℃/sec程度である。
【0088】
〔見掛け密度の測定〕
各試料の焼結部材における見掛け密度(g/cm
3
)をアルキメデス法で測定した。見掛け密度は、「(焼結部材の乾燥重量)/{(焼結部材の乾燥重量)-(焼結部材の油浸材の水中重量)}×水の密度」によって求めた。焼結部材の油浸材の水中重量は、油中に浸漬して含油させた焼結部材を水中に浸漬させた部材の重量である。N数は3個とした。3つの焼結部材の測定結果の平均を各試料の焼結部材における見掛け密度とした。その結果を表1に示す。
【0089】
〔硬度の評価〕
焼結部材の硬度の評価は、焼結部材のビッカース硬さと、焼結部材の表面から所定の深さまでにおけるビッカース硬さの変動幅とを求めることで行った。
【0090】
ビッカース硬さの測定は、JIS Z 2244(2009)に準拠して行った。試験片を焼結部材から切り出した。試験片の形状は矩形状とした。試験片のサイズは、55mm×10mm×厚み10mmとした。試験片の切り出しは、試験片の厚み方向の一方の面が焼結部材の表面で構成されるように行った。
【0091】
試験片の断面における試験片の表面から所定の深さまでの間において、11箇所のビッカース硬さを測定した。試験片の表面とは、上述の試験片の厚み方向の一方の面とした。所定の深さは、試験片の表面に対して直交する方向に沿って5.0mmとした。測定箇所の内訳は、表面から0.1mmの地点と、表面から0.5mmピッチで間隔を開けた10箇所の地点とである。N数は3個とした。
【0092】
3つの試験片の全測定地点におけるビッカース硬さの平均を焼結部材のビッカース硬さとした。3つの試験片の各測定地点におけるビッカース硬さの平均のうち最大値と最小値との差を、焼結部材のビッカース硬さの変動幅とした。それらの結果を表1に示す。
【0093】
代表して、試料No.2、試料No.101、試料No.110の焼結部材において、3つの試験片の各測定地点におけるビッカース硬さの平均を
図2に丸印、ばつ印、黒塗りの菱形印で示す。
図2のグラフの横軸は、表面からの深さ(mm)を示し、縦軸は、ビッカース硬さ(HV)を示す。
【0094】
〔靭性の評価〕
焼結部材の靭性の評価は、小野式回転曲げ疲労試験によって応力振幅を測定することで行った。
【0095】
小野式回転曲げ疲労試験は、試験機として東京試験機社製FTO-100を用い、JIS Z 2274(1978)に準拠して行った。試験片は、焼結部材から切り出した。試験片は、JIS Z 2274(1978)の1号試験片に準拠した試験片とした。具体的には、試験片の形状はダンベル状である。この試験片は一対の太径部と細径部とを有する。各太径部は、試験片の軸方向の両端に設けられる。各太径部の形状は円柱状である。各太径部の径は、太径部の軸方向に一様である。細径部は、両太径部同士の間に設けられる。両太径部と細径部とは連続している。細径部の形状は、円柱状である。細径部は、平行部と一対の湾曲部とを有する。平行部は、細径部の軸方向の中央にその軸方向に沿って径が一様な部分である。各湾曲部は、平行部と太径部とを繋ぐ部分で、平行部側から太径部側に向かって径が大きくなる部分である。試験片の軸方向の長さは、90.18mmとした。各太径部の軸方向の長さは、27.5mmとし、細径部の軸方向の長さは、35.18mmとした。太径部の径は、12mmとした。平行部の直径は、8mmとした。平行部の長さは、16mmである。
【0096】
測定条件としては、回転数を3400rpmとした。107回繰り返し曲げを行ったときに試験片が破断しない最大の応力振幅を測定した。N数は3個とした。3つの試験片における応力振幅の平均を焼結部材の応力振幅とした。その結果を表1に示す。
【0097】
〔断面観察〕
試料No.1、試料No.2、試料No.101、試料No.102の焼結部材の断面を観察した。
【0098】
焼結部材の断面は任意の断面とした。断面は、次のようにして露出させた。焼結部材の一部を切断した試料片をエポキシ樹脂で埋設した樹脂成形体を作製した。樹脂成形体に対して研磨加工を施した。研磨加工は、二段階に分けて行った。一段階目の加工として、焼結部材の切断面が露出されるまで樹脂成形体の樹脂を研磨する。二段階目の加工として、露出した切断面を研磨する。研磨は、鏡面研磨である。即ち、観察する断面は、鏡面研磨面である。
【0099】
断面の観察には、オリンパス社製GX51の光学顕微鏡を用いた。
図3A及び
図3B、
図4A及び
図4B、
図5,
図6に、試料No.1、試料No.2、試料No.101、試料No.102の焼結部材の断面における顕微鏡写真を示す。
図3A、
図4A、
図5、
図6の顕微鏡写真のサイズは、2.82mm×2.09mm程度である。
図3B,
図4Bの顕微鏡写真のサイズは、1.38mm×1.02mm程度である。
【0100】
各顕微鏡写真から、上記4つの試料における残留オーステナイト相の有無を確認した。各顕微鏡写真には、説明の便宜上、残留オーステナイト相を矢印で示している。この矢印の先の白い部分が残留オーステナイト相である。白い部分の周囲の部分がマルテンサイト相である。なお、
図5は、残留オーステナイト相が見られないため矢印を付していない。
【0101】
上記5つの試料における残留オーステナイト相の面積割合を求めた。ここでは、パルステック工業社製ポータブル型X線残留応力測定装置μ-X360を用い、測定視野の全面積に対する残留オーステナイト相の合計面積の割合を求めた。測定視野の数は、2個とした。測定視野のサイズは直径2mmとした。各測定視野における残留オーステナイト相の合計面積の割合の平均を残留オーステナイト相の面積割合とした。その結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
表1に示すように、試料No.1、試料No.2の焼結部材は、焼結部材のビッカース硬さが高く、かつビッカース硬さの変動幅が小さい上に、応力振幅が大きかった。一方、試料No.101の焼結部材は、ビッカース硬さの変動幅が小さいものの、ビッカース硬さが低い上に応力振幅が小さかった。試料No.102の焼結部材は、ビッカース硬さが高く、かつビッカース硬さの変動幅が小さいものの、応力振幅が小さかった。試料No.110の焼結部材は、ビッカース硬さが低く、かつビッカース硬さの変動幅が大きい上に、応力振幅が小さかった。
【0103】
図3A、
図3B、
図4A、
図4Bに示すように、試料No.1、試料No.2の焼結部材は、マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織を有することがわかった。一方、
図5、
図6に示すように、試料No.101、試料No.102の焼結部材は、残留オーステナイト相が殆ど見られず、或いは全く見られず、実質的にマルテンサイト相で構成されていることがわかった。試料No.1、試料No.2の焼結部材における残留オーステナイト相の面積割合は、試料No.101、試料No.102の焼結部材における残留オーステナイト相の面積割合に比較して高かった。
【0104】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0105】
1 焼結部材