(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】容器入り有機ナノファイバー分散体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 15/04 20060101AFI20230511BHJP
C08B 1/00 20060101ALI20230511BHJP
A61L 2/04 20060101ALI20230511BHJP
A61L 2/07 20060101ALI20230511BHJP
A61L 2/08 20060101ALI20230511BHJP
A61L 2/10 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C08B15/04
C08B1/00
A61L2/04
A61L2/07
A61L2/08 100
A61L2/08 108
A61L2/10
(21)【出願番号】P 2018040709
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】長▲浜▼ 英昭
(72)【発明者】
【氏名】古川 聡史
(72)【発明者】
【氏名】木下 友貴
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊樹
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-065116(JP,A)
【文献】特開2015-157796(JP,A)
【文献】特開2007-082415(JP,A)
【文献】特開2017-086071(JP,A)
【文献】特開2009-065923(JP,A)
【文献】特表2002-529113(JP,A)
【文献】特開2017-157414(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106854287(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105622766(CN,A)
【文献】特開2018-199755(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087705(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/111686(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
A61L
C08L
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ナノファイバー分散体を容器に充填・密封した後、殺菌処理を行う有機ナノファイバー分散体の製造方法であって、前記有機ナノファイバーがセルロースナノクリスタルであり、前記殺菌処理が
0.019~0.212MPa、105~135℃及び5~60分の殺菌条件で行われる熱殺菌処理であ
り、熱殺菌処理前後の有機ナノファイバーの平均粒径の低減率が60%以上であることを特徴とする容器入り有機ナノファイバー分散体の製造方法。
【請求項2】
前記熱殺菌処理が、オートクレーブ殺菌処理又はレトルト殺菌処理である請求項1記載の容器入り有機ナノファイバー分散体の製造方法。
【請求項3】
熱殺菌処理前の前記有機ナノファイバー分散体の固形分が、0.001~95重量%である請求項1
又は2記載の容器入り有機ナノファイバー分散体の製造方法。
【請求項4】
前記有機ナノファイバーが、超高圧ホモジナイザー、超音波、グラインダー、ブレンダー、ビーズミルの何れかにより解繊されたものである請求項1~
3の何れかに記載の容器入り有機ナノファイバー分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器入り有機ナノファイバー分散体及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、防腐剤を配合することなく品質劣化を抑制可能な容器入り有機ナノファイバー分散体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーに代表される有機ナノファイバーは、高度バイオマス原料として、機能性添加剤、フィルム複合材料等として、種々の用途に使用することが提案されている。特に、セルロースナノファイバーは、分散体の形態、パウダー又はフィルム等の固形形態のものが知られており、取扱い性の点から分散体(スラリー)の形態のものが一般に提供されている。
【0003】
このような有機ナノファイバー分散体は、その製造工程で混入するおそれがある、木材腐朽菌の分解代謝、真菌やバクテリア等の代謝、に起因して、カビ、腐敗、異臭、変色等の品質劣化を生じやすい。このため製造環境を清浄に保つことが必要であり、生産性及び経済性よく製造することは困難である。また製造された製品についても、冷蔵保管等が必要であり、取扱い性の点でも充分満足するものではない。
【0004】
このような問題を解決するために、下記特許文献1には、セルロースナノファイバー分散体の製造方法において、アニオン性官能基変性セルロースを用い、解繊処理工程を経た後、特定の昇温速度で処理する殺菌処理工程に賦することが提案されている。
また下記特許文献2には、防腐、殺菌、抗菌、静菌作用に優れる特定の非イオン界面活性剤と、腐敗抑制作用を有する特定のカチオン界面活性剤との少なくとも一方を含有して成るセルロースナノファイバー水分散体組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5727657号公報
【文献】特開2016-65116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された製造方法により製造されたセルロースナノファイバー分散体においては、殺菌されたセルロースナノファイバー分散体を製造し得るものであるが、原料が限定的であると共に、製造されたセルロースナノファイバーの殺菌状態を維持しながら保存や輸送等を行うことが容易でなく、取扱い性の点で未だ十分満足するものではない。
また上記特許文献2に記載されたセルロースナノファイバー水分散体は、例えばガスバリア材等の形成のためのコーティング剤として使用する場合には、防腐剤として使用する界面活性剤の存在により酸素バリア性が低下したり、或いは経時により粘度が上昇しゲル化しやすいことから、塗工性に劣るという問題がある。
【0007】
従って本発明の目的は、容器に収納された状態で殺菌されているため取扱い性に優れていると共に、原料セルロースの種類や解繊方法等にかかわらず殺菌が可能であり、粘度等の性状が変化することなく、塗工性等にも優れた容器入り有機ナノファイバー分散体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、有機ナノファイバー分散体を容器に充填・密封した後、殺菌処理を行う有機ナノファイバー分散体の製造方法であって、前記有機ナノファイバーがセルロースナノクリスタルであり、前記殺菌処理が0.019~0.212MPa、105~135℃及び5~60分の殺菌条件で行われる熱殺菌処理であり、熱殺菌処理前後の有機ナノファイバーの平均粒径の低減率が60%以上であることを特徴とする容器入り有機ナノファイバー分散体の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の容器入り有機ナノファイバー分散体においては、
1.前記熱殺菌処理が、オートクレーブ殺菌処理又はレトルト殺菌処理であること、
2.熱殺菌処理前の前記有機ナノファイバー分散体の固形分が、0.001~95重量%であること、
3.前記有機ナノファイバーが、超高圧ホモジナイザー、超音波、グラインダー、ブレンダー、ビーズミルの何れかにより解繊されたものであること、
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の容器入り有機ナノファイバー分散体においては、容器に収納された状態で殺菌されていることから、取扱いが容易であると共に、カビの発生や腐敗等の品質劣化が有効に防止されている。
また本発明の容器入り有機ナノファイバー分散体においては、防腐剤を含有していないことから、防腐剤を含有することによる塗工性の低下や粘度の増加等を生じることがなく、コーティング剤として好適に使用することができる。
本発明の容器入り有機ナノファイバー分散体の製造方法においては、容器に収納された状態で殺菌することから、有機ナノファイバーの種類や解繊方法にかかわらず、有機ナノファイバーの殺菌を行うことができると共に、有機ナノファイバー分散体の殺菌と同時に容器の殺菌も行うことができることから、容易に殺菌済みの容器入り有機ナノファイバー分散体を製造することができる。
また容器に有機ナノファイバー分散体を充填・密封した後、殺菌することから、充填環境としてクリーンルーム等を要しないため、生産性及び経済性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(容器入り有機ナノファイバー分散体の製造方法)
本発明の容器入り有機ナノファイバー分散体の製造方法においては、有機ナノファイバー分散体を容器に封入・密封した後、殺菌処理を行うことが重要な特徴であり、これにより有機ナノファイバーの殺菌と容器の殺菌を同時に行うことができ、保存や輸送等の取扱い性に優れた殺菌済みの有機ナノファイバー分散体を提供できる。
【0013】
[有機ナノファイバー分散体]
本発明において、容器に収納する有機ナノファイバー分散体は特に限定されず、従来公知の有機ナノファイバーすべてを収納し得る。具体的には、従来よりセルロースナノファイバーの原料として使用されていたセルロース系原料や多糖類を、少なくとも解繊処理することによって得られる有機ナノファイバー分散体であり、後述する製造方法によって調製される分散液(スラリー)又はウェットパウダーであり、これに限定されないが、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、カルボキシル基等の化学変性基を含有するセルロースナノファイバー、キチンナノファイバー等の多糖類系ナノファイバー等から成る分散体を例示できる。
【0014】
<原料セルロースまたは多糖>
有機ナノファイバーの原料となるセルロースとしては、これに限定されないが、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース、製紙等の栽ち落ちを例示できる。好適には木材パルプを使用することが望ましい。また木材パルプは漂白されたもの又は無漂白のものの何れであってもよい。
またセルロース以外にもキチンやキトサン等の多糖が有機ナノファイバーの原料となる。
【0015】
<微細化処理>
原料セルロースは、後述するセルロースの化学変性処理(酸化処理)に先立って微細化処理することもできる。これにより、セルロースナノファイバーの形状や大きさの範囲を大きくすることが可能になる。この結果、得られるセルロースナノファイバーは、セルロース原料が単離されただけの状態のものも含んでおり、粒径分布の大きいセルロース繊維を得ることができる。また微細化セルロースは、表面積が大きいことから、酸化処理において微細化セルロースの分解を促進し、酸化処理後の反応液を低粘度化することが可能である。これにより、酸化処理後に行う機械的な解繊処理における剪断力を低下させることが可能になって、セルロース繊維の粒径分布を大きくすることができると考えられる。
微細化処理は、従来公知の方法によって行うことができ、具体的には、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー、高速ブレンダ―、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、離解機、叩解機、二軸押出機等を使用して微細化することができる。
微細化処理は、乾式又は湿式の何れで行うこともできるが、次いで行う酸化処理は、微細化セルロースのスラリー状態で行うことが好ましいことから、水等を分散媒として超高圧ホモジナイザー等により微細化することが好適である。
【0016】
<化学変性処理>
原料セルロース又は上記微細化されたセルロースは、内部に結晶構造を残しながら、表面だけ化学変性することによって、親水基変性セルロース又は疎水基変性セルロースに調整することもできる。
すなわち、親水基変性処理として、原料セルロース又は上記微細化されたセルロースに、TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)を介した水系、常温、常圧の条件下で、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基をカルボキシル基に酸化する酸化反応を生じさせる酸化処理を施すことが好適である。
触媒としては、4-アセトアミドーTEMPO、4-カルボキシーTEMPO、4-フォスフォノキシーTEMPO等のTEMPOの誘導体を用いることもできる。
TEMPO触媒の使用量は、原料セルロース又は微細化セルロース(乾燥基準)1gに対して0.01~100mmol、好ましくは0.01~5mmolの量である。
また酸化処理時には、TEMPO触媒と共に、酸化剤、臭化物又はヨウ化物等の共酸化剤を併用することが好適である。
酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物等公知の酸化剤を例示することができ、特に次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムを好適に使用できる。酸化剤は、原料セルロース又は微細化セルロース(乾燥基準)1gに対して0.5~500mmol、好ましくは5~50mmolの量である。
また共酸化剤としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属、ヨウ化ナトリウム等のヨウ化物アルカリ金属を好適に使用できる。共酸化剤は、微細化セルロース(乾燥基準)1gに対して0.1~100mmol、好ましくは0.5~5mmolの量である。
また反応液は、水を反応媒体とすることが好ましい。
【0017】
酸化処理の反応温度(スラリー温度)は1~50℃、特に10~50℃の範囲であり、室温であってもよい。また反応時間は1~240分、特に60~240分であることが好ましい。
反応の進行に伴い、セルロース中にカルボキシル基が生成するため、スラリーのpHの低下が認められるが、酸化反応を効率よく進行させるため、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いてpH9~12の範囲に維持することが望ましい。酸化処理後に、使用した触媒等を水洗などにより除去する。
このような親水基変性セルロースとしては、カルボキシル基含有セルロースナノファイバー、スルホ基含有セルロースナノファイバー、リン酸エステル基含有セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のアニオン性官能基変性セルロースを好適に使用できる。
【0018】
また疎水基変性処理としては、鎖状脂肪族カルボン酸や環状脂肪族カルボン酸を用いたエステル化によって原料セルロースの疎水基変性処理を行うことができる。このような疎水基変性セルロースとしては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等を例示できる。
【0019】
<解繊処理>
原料セルロースや原料多糖や上記化学変性処理されたセルロース等を解繊処理することによって、前述したセルロースナノファイバー等の有機ナノファイバーが調製される。
解繊処理は、前述した微細化処理と同様の方法によって行うことができるが、セルロースナノファイバー分散体は、分散液の状態で使用することが好適であることから、水中に分散させて解繊処理を行うことが望ましい。前述した機械的微細化処理装置の中でも、超高圧ホモジナイザー、ミキサー、グラインダー等を好適に使用することができる。
解繊処理においては、平均繊維径が2nm以上、平均繊維長が100nm以上の範囲の有機ナノファイバーとすることが好適である。
【0020】
<セルロースナノクリスタル>
原料セルロースに濃硫酸や濃塩酸による酸加水分解処理を施すことによってロッド状のセルロース結晶繊維であるセルロースナノクリスタルを得る。このセルロースナノクリスタルは、平均繊維径が2~50nmで平均繊維長が100nm~500nm、好ましくは平均繊維径が2~15nmで平均繊維長が100~200nmである。また、比表面積は90~900m2/g程度で、200~300m2/g程度が好ましい。また結晶化度は70%以上であり、好ましくは80%以上である。
【0021】
またセルロースナノクリスタルをセルロースナノファイバーと混合して使用することもでき、セルロースナノファイバーに対し、セルロースナノクリスタルを、99.99:0.01~50:50、好ましくは99.99:0.01~90:10、更に好ましくは99.99:0.01~95:5の範囲の重量比となるように添加し、分散処理することにより調製できる。
【0022】
<分散処理>
前述したセルロースナノファイバーやセルロースナノクリスタル等の有機ナノファイバーの分散体は、再分散性に優れた分散液(スラリー)或いはウェットパウダー(固形分20質量%以上の分散体)の形態、或いは樹脂分散体の形態をとることができるが、本願発明においては分散液又はウェットパウダーの形態をとることが特に好適であり、解繊処理後、分散媒として水や有機溶媒を用いた分散処理に賦される。
分散処理は超音波分散機、ホモジナイザー、ミキサー等の分散機を好適に使用することができ、また、攪拌棒、攪拌石等による攪拌方法を用いても良い。
上記有機ナノファイバーを含有する分散体は、固形分が0.001~95質量%の範囲にあることが好ましい。
【0023】
[充填・密封]
本発明においては、上述した製法により調製された有機ナノファイバー分散体を、容器に充填・密封した後、殺菌処理に賦する。
有機ナノファイバー分散体を収納する容器としては、内容物を充填・密封後に殺菌可能な容器であれば、ガラス製容器、金属製容器及び樹脂製容器の何れも制限なく使用することができる。
金属製容器としては、各種表面処理鋼板、アルミニウム等の軽金属板等、従来公知の金属板から成る容器を使用することができる。表面処理鋼板としては、これに限定されないが、錫めっき鋼板、亜鉛めっき鋼板、テインフリースチール等を例示することができ、また軽金属板としては、純アルミニウム板、アルミニウム合金板等を例示できる。また、これらの金属板にポリエステル樹脂被覆や保護塗膜を施した有機樹脂被覆金属板であってもよい。
樹脂製容器としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂を用い、押出成形、射出成形、圧縮成形、圧空成形、二軸延伸ブロー成形等、従来公知の成形方法により成形された、ボトル、カップ、パウチ等の容器を例示することができる。また、樹脂製容器においては、酸素バリア性や酸素吸収性等を有する層を備えた多層容器であることが特に好ましく、また後述する殺菌処理に合わせて、耐熱性や耐圧性を具備した物を使用することが好ましい。
【0024】
[殺菌処理]
本発明においては、有機ナノファイバー分散体が充填・密封された容器を、殺菌処理に賦することにより、容器に収納され密封状態にある有機ナノファイバー分散体の殺菌と共に、容器の殺菌を同時に行うことができる。このため、本発明の容器入り有機ナノファイバー分散体は、経時による、カビや異臭の発生や、腐敗、変色等の品質劣化を生じることが有効に防止されている。しかも有機ナノファイバーが充填された容器は密封されていることから、実際の使用の際まで容易に保管や輸送等をすることができ、取扱い性に優れている。
殺菌方法は、オートクレーブ殺菌,レトルト殺菌、ホットパック、ボイル殺菌等の熱殺菌処理、電子線殺菌,ガンマ線殺菌,紫外線殺菌,高圧処理殺菌等の物理殺菌処理から、有機ナノファイバー分散体を充填する容器の種類によって適宜選択することができる。
【0025】
<熱殺菌処理>
容器入り有機ナノファイバー分散体を熱処理殺菌により殺菌する場合には、有機ナノファイバー分散体を、耐熱性ガラス製容器、金属製容器や耐熱性樹脂製容器に充填することが好ましい。
オートクレーブ殺菌又はレトルト殺菌による熱殺菌処理は、0.019~0.212MPa、105~135℃及び5~60分の殺菌条件で行われることが好適である。
特にオートクレーブ殺菌では、有機ナノファイバーの解繊の効果も得られ、殺菌の前後で有機ナノファイバーの平均粒径が、低減率({[熱殺菌前の平均粒径-熱殺菌後の平均粒径]/熱殺菌前の平均粒径]}×100)として60%以上小さくなっている。このように平均粒径の小さい有機ナノファイバーは、増粘性が高いと共に、透明性及びバリア性に優れていることから、特にガスバリア材への使用に好適である。
【0026】
尚、有機ナノファイバーの平均粒径は、分散状態にある1重量%の有機ナノファイバーを動的光散乱測定によって求めたものである。動的光散乱測定は粒子運動の揺らぎから散乱光の減衰の自己相関関数(下記式(1))を求め、これを以下の通り解析することにより平均粒径を求めることができる。
すなわち、動的光散乱測定によって、粒子サイズと分布に応じた散乱光の減衰の自己相関関数(下記式(1))が得られる。
g(2)(T)=1+α┃g(1)(T)┃2 ・・・(1)
式中、α:定数、T:相関時間(μsec)、g(1)(T):一次の自己相関関数であり、下記式(2)のように表される。
g(1)(T)=exp(-Γt) ・・・(2)
式中、Γ:減衰定数であり、自己相関関数の初期勾配から求められ、下記式(3)のように表される。
Γ=q2D ・・・(3)
q=4Πn0/λ0sin(θ/2) ・・・(4)
式中、θ:角度、λ0:レーザ光の波長、n0:溶媒の屈折率、D:拡散係数
上記式(3)から求められた拡散係数D(cm2/sec)を用い、アインシュタイン-ストークスの式(5)から平均粒径(流体力学的径nm)を求める。
d=kT/(3Πη0D) ・・・(5)
式中、d:流体力学径(nm)、η0:溶媒の粘度(Pa・sec)、T:絶対温度(k)、k:ボルツマン定数
【0027】
また、有機ナノファイバー分散体のpHが低い場合には、有機ナノファイバー分散体自体が静菌性を有することから低温殺菌が可能であり、80~100℃の温度でのホットパック、ボイル殺菌によっても、他の熱殺菌処理と同等の殺菌効果を得ることができる。
【0028】
<物理殺菌処理>
容器入り有機ナノファイバー分散体を、電子線、紫外線、ガンマ線、パルス光等のエネルギー線を用いて殺菌する場合には、有機ナノファイバーは、用いるエネルギー線を透過可能なガラス製容器或いは樹脂製容器に充填・密封する。
エネルギー線を用いた物理殺菌処理における殺菌条件としては、従来公知の殺菌条件に従って行うことができ、例えば電子線殺菌の場合には、80KeV~10MeVに加速された電子線を、数秒~数100秒程度、有機ナノファイバー分散体が充填・密封された容器に照射すればよい。
また容器入り有機ナノファイバー分散体を、高圧殺菌処理で殺菌する場合には、有機ナノファイバーは耐圧性樹脂製容器に充填・密封する。
高圧処理による物理殺菌処理における殺菌条件としては、従来公知の殺菌条件に従って行うことができ、有機ナノファイバー分散体が充填・密封されている容器を、低温条件に維持した状態で水(処理水)を加圧媒体として、100~1000MPaの圧力で、1~30分程度加圧することにより行われる。
物理的殺菌処理の場合においても、容器に充填されている有機ナノファイバー分散体のpHによって圧力や処理時間を調整することができ、pHが低いほど処理圧力は低く且つ処理時間も短時間でよく、pHが高いほど処理圧力は高く且つ処理時間も長時間に調整することが好ましい。
【0029】
(容器入り有機ナノファイバー分散体)
本発明の容器入り有機ナノファイバー分散体は、上述したように、有機ナノファイバー分散体を容器に充填・密封した後、殺菌処理に賦されており、容器及び有機ナノファイバーの両方が殺菌されている。従って、有機ナノファイバー分散体の性能に影響を与えるおそれのある防腐剤を配合しなくても、カビの発生や腐敗等の品質劣化が有効に防止されている。
また容器中に密封充填されていることから、長期の保管や輸送等取扱い性にも優れており、開封するまで、上述した特性が維持される。
容器中に収納された有機ナノファイバーを含有する分散液(スラリー)は、有機ナノファイバー1重量%の動的光散乱による平均粒径が670nm未満にあることが好ましく、これにより透明性やガスバリア性に優れた有機ナノファイバー分散体とすることができる。
また有機ナノファイバー分散液(スラリー)は、固形分が0.001~10質量%の範囲にあることが好ましく、これにより粘度が200000mPa・s以下(レオメーター、温度30℃)の範囲にあることから、取扱い性、塗工性に優れている。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。
各項目の測定方法は、次の通りである。
【0031】
<平均粒径>
粒径測定システム(ELSZ-2000、大塚電子)を用い、有機ナノファイバー分散体を1重量%にしたときの動的光散乱法測定を行った。測定条件は25℃、ダストカット5%、積算回数25回、水溶媒の屈折率を1.3328に設定し、平均粒子径解析(キュムラント法解析)を行って平均粒径(nm)を求めた。
【0032】
<一般細菌数測定>
一般細菌数については以下の方法に従って測定した。
1.一般細菌数測定用寒天培地の調製
(1)標準寒天培地(日水製薬)23.5gに純水1000mLを加えて加温撹拌溶解させた後、121℃で15分間オートクレーブした。
(2)滅菌済み培地は50℃の湯煎で使用まで保温した。
2.試料液の調製
(1)有機ナノファイバー分散体25gを無菌的にストマッカー用滅菌ポリ袋に量り取った。
(2)秤量した有機ナノファイバー分散体に滅菌リン酸緩衝希釈水225mLを加え、30秒間ストマッカーで均質化処理したものを試料液とした。
(3)試料液1mLを滅菌リン酸緩衝希釈水9mLに加えて10倍希釈し、さらに必要に応じて同様の操作により希釈を繰り返して10倍段階希釈した試料液を調製した。
3.培養及び菌数測定
(1)各希釈段階について2枚のシャーレを用いてそれぞれの希釈試料液を1mLずつ分注し、50℃で保温した標準寒天培地約20mLを無菌的に各シャーレに注ぎ、直ちに試料と培地がよく混ざるように静かに混合した。
(2)寒天培地が凝固するまで静置した。
(3)35℃に設定した孵卵器中にシャーレを倒置して48 ±3時間培養した。
(4)培養終了後、コロニーをカウントし菌数を算出した。全シャーレのコロニー数が30個未満の場合は、300CFU/g以下とした。
【0033】
<実施例1>
<セルロースナノファイバー>
パルプ10g(固形量)に対しTEMPO触媒(Sigma Aldrich社)0.8mmolと臭化ナトリウム12.1mmolを添加し、イオン交換水を加えて1Lにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。反応系にセルロース1g当たり15mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。反応中は0.5N水酸化ナトリム水溶液でpH10.0から10.5に系内のpHを保持し、30℃で4時間酸化反応を行った。酸化したパルプはイオン交換水にて中性になるまで十分洗浄を行った。洗浄したパルプに水を加えて1質量%に調製し、ミキサー(7011JBB,大阪ケミカル株式会社)で解繊処理してカルボキシル基を2.0mmol/g含有するセルロースナノファイバーの分散体を得た。
【0034】
<充填・密封>
上述の製法により調製された1重量%のセルロースナノファイバー分散体をガラス製容器に充填密封した。
【0035】
<殺菌>
ガラス製容器入り1重量%のセルロースナノファイバー分散体を0.2MPa、121℃、20分の条件でオートクレーブ殺菌を行い、熱殺菌された容器入りセルロースナノファイバー分散体を得た。
【0036】
<実施例2>
1重量%のセルロースナノクリスタルを分散体とした以外は、上記実施例1と同様の操作にて熱殺菌された容器入りセルロースナノクリスタル分散体を得た。
【0037】
<比較例1>
オートクレーブ殺菌を行っていない以外は実施例1と同様の操作にて容器入りセルロースナノファイバー分散体を得た。
【0038】
<比較例2>
オートクレーブ殺菌を行っていない以外は実施例2と同様の操作にて容器入りセルロースナノクリスタル分散体を得た。
【0039】
上記で作製された容器入り分散体について、前述した方法で各種特性を測定し、その結果を、表1に示した。
【0040】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の容器入り有機ナノファイバー分散体の製造方法は、従来公知の有機ナノファイバーの種類にかかわらず、殺菌済みの容器入り有機ナノファイバー分散体を調製することができる。