(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】ソフトビスケット用油脂組成物及びソフトビスケット
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20230511BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20230511BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20230511BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A23D7/005
A23D7/00 500
A21D13/80
(21)【出願番号】P 2018174030
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】田島幸子
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-107098(JP,A)
【文献】特開2013-183652(JP,A)
【文献】特開2018-057280(JP,A)
【文献】特開2016-005446(JP,A)
【文献】特表2015-502982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
CAplus/FSTA/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂100質量部に対して、
(A)構成脂肪酸が飽和脂肪酸であり炭素数が14~22であるモノグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.3~
2.5質量部、
(B)構成脂肪酸が飽和脂肪酸であり炭素数が14~18であるジグリセリンモノ脂肪酸エステルを
0.3~
1.5質量部
を含み、
前記油脂は、融点が50~70℃である極度硬化油を
0.5~2.0質量%含有するソフトビスケット用油脂組成物。
【請求項2】
ソフトビスケット用油脂組成物は、ショートニング又はマーガリンである、請求項1に記載のソフトビスケット用油脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のソフトビスケット用油脂組成物、及び、小麦粉を含有するソフトビスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤を含有するソフトビスケット用油脂組成物に関する。より詳しくは、ソフトビスケットにザクザクとした食感を付与し、かつ口どけのよい食感にすることができるソフトビスケット用油脂組成物に関する。さらには、該油脂組成物を含有するソフトビスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
ソフトビスケットは焼き菓子であるビスケット類の一種であり、一般的には小麦粉(薄力粉)、砂糖、油脂を主原料とした生地を焼成することで作られる。サクサクとした食感でありながら油分のコクをしっかり感じることができ、口溶けのよい特徴を有する。
ハードビスケットは小麦粉(中力粉)、少量の砂糖・油脂を主原料とし、時間をかけて練られた腰の強い生地を焼成することにより作られる。歯ごたえのあるザクザクとした食感であり、ソフトビスケットと比較して、油分が少ないためコク味が弱く、粉っぽい食感で口どけもよくない。ハードビスケットの製造において原料油分を増やすと、コク味は強化され、口どけも良好になるが、生地の腰が弱くなりハードビスケット特有のザクザクとした食感が失われてしまう。
【0003】
近年では、消費者の嗜好は多様化しており、サクサクとした食感よりも、ハードビスケットのように硬く、噛み応えのあるザクザクとした食感でありながら、ソフトビスケット本来のコク味と良好な口溶けを有するソフトビスケットが求められている。なお、ここでいう、ザクザクとした食感(ザクザク感)とは、咀嚼したときに適度な硬さがあり、歯切れのよい食感で、完全に噛み砕くまで、口の中に荒い粒子が残る食感のことをいう。
【0004】
ソフトビスケットのような焼き菓子の食感を改良させるために、これまでに、特定の脂肪酸残基を有するトリグリセリドから成る粉末状の油脂組成物を使用し、焼き菓子にザクザクとした食感を付与し、粉感のない食感に改良する方法が報告されている(特許文献1)。また、トリグリセリドの組成を規定した油脂組成物を使用することで、ザクザクした食感で、かつウェットな食感を有する焼き菓子を提供する方法が報告されている(特許文献2)。しかし、これらの油脂による改良では、ザクザク感の改良効果は小さく、満足いくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-163566号公報
【文献】特開2008-278833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ザクザクとした食感を有し、かつ口溶けのよいソフトビスケットとすることができるソフトビスケット用油脂組成物、及び、該油脂組成物を用いて製造したソフトビスケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定の2種の乳化剤を特定量組み合わせて用いたソフトビスケット用油脂組成物を用いることにより、上記の課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の〔1〕~〔3〕である。
【0008】
〔1〕油脂100質量部に対して、
(A)構成脂肪酸が飽和脂肪酸であり炭素数が14~22であるモノグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.3~6質量部、
(B)構成脂肪酸が飽和脂肪酸であり炭素数が14~18であるジグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.1~4質量部、
を含有するソフトビスケット用油脂組成物。
〔2〕ソフトビスケット用油脂組成物は、ショートニング又はマーガリンである、前記の〔1〕に記載のソフトビスケット用油脂組成物。
〔3〕前記の〔1〕又は〔2〕に記載のソフトビスケット用油脂組成物、及び、小麦粉を含有するソフトビスケット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ザクザクとした食感を有し、かつ口溶けのよいソフトビスケットとすることができるソフトビスケット用油脂組成物、及び、該油脂組成物を用いて製造したソフトビスケットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
[ソフトビスケット用油脂組成物]
本発明のソフトビスケット用油脂組成物は、油脂100質量部に対して、(A)構成脂肪酸が飽和脂肪酸であり、炭素数が14~22であるモノグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.3~6質量部、(B)構成脂肪酸が飽和脂肪酸であり炭素数が14~18であるジグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.1~4質量部、を含有することを特徴とするものである。以下に、各成分について詳細に説明する。
【0011】
<(A)モノグリセリンモノ脂肪酸エステル>
本発明の使用するA成分であるモノグリセリンモノ脂肪酸エステルは、構成脂肪酸が飽和脂肪酸であり、炭素数が14~22であり、好ましくは16~20である。油脂100質量部に対するA成分の含有量は0.3~6質量部であり、好ましくは0.3~2.0質量部である。モノグリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量が0.3質量部に満たない場合、ザクザクとした食感への改良効果が小さくなる。また、6質量部を超える場合にも、ザクザクとした食感への改良効果が小さくなる。
【0012】
<(B)ジグリセリンモノ脂肪酸エステル>
B成分のジグリセリンモノ脂肪酸エステルは、構成脂肪酸が飽和脂肪酸であり、炭素数が14~18であり、好ましくは14~16である。油脂100質量部に対するB成分の含有量は0.1~4質量部であり、好ましくは0.3~2.0質量部である。ジグリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量が0.1質量部に満たない場合、ソフトビスケットの口どけ改良効果が十分に得られなくなる。また、4質量部を超える場合には口どけの改良効果が低下する。
【0013】
<その他乳化剤>
本発明におけるソフトビスケット用油脂組成物には上記(A)モノグリセリンモノ脂肪酸エステル、(B)ジグリセリンモノ脂肪酸エステル以外の乳化剤を添加してもよい。その他の乳化剤としては、例えば、レシチン、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、有機酸モノグリセライド、ショ糖脂肪酸エステルなどがあり、好ましくはポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルである。
【0014】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、縮合度が4~8のものが好ましい。また、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は、油脂100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であり、より好ましくは0.3~1.5質量部である。
【0015】
<油脂>
本発明で用いる油脂は、食用に用いられる油脂であれば特に限定されない。具体的には、パーム油、パーム核油、菜種油、大豆油等の植物油脂、牛脂、豚脂、魚油等の動物油脂が挙げられ、さらに、これらの硬化油、極度硬化油、分別油、エステル交換油も使用できる。本発明において、これらは適宜混合して用いることができるが、極度硬化油を配合することが好ましい。
【0016】
極度硬化油は融点が50℃~70℃であるものが好ましく、油脂100質量%中の含有量は0.3~4質量%であり、より好ましくは、0.5~2.0質量%である。極度硬化油を所定量含有することにより、ソフトビスケットの口溶けを悪くすることなく、ザクザク感をより向上させることができる。
【0017】
本発明のソフトビスケット用油脂組成物は、油脂として該油脂組成物のみを用いて製造したショートニング、マーガリンの形態にすることもできる。本発明においてショートニング及びマーガリンは、JAS規格(日本農林規格)に準じて規定され、ショートニングは、油脂100質量部に対して水分の含有量が0.5質量部以下である油脂組成物であり、マーガリンは、油脂100質量部に対して水分の含有量が20質量部以下である油脂組成物である。
【0018】
本発明におけるソフトビスケット用油脂組成物の製造方法には、下記に示す方法が挙げられるが、特にこの製造方法に限定されるものではない。
まず、油脂及び乳化剤を所定の温度で加熱し、均一溶解、混合攪拌する。その後、ショートニングの場合は窒素を混合しながら試作機にて急速冷却、可塑化することでソフトビスケット用油脂組成物を得ることができる。マーガリンの場合は、同じく所定の温度で加熱、溶解混合した油脂と乳化剤に、所定の温度に加熱した水を加え、試作機にて急速冷却、可塑化することにより得ることができる。
【0019】
[ソフトビスケット]
本発明のソフトビスケットは、上記のソフトビスケット用油脂組成物、及び、小麦粉を含有することを特徴とするものである。本発明のソフトビスケットとは、穀粉、砂糖、油脂などを主原料とした生地を焼成することで作られる焼き菓子のことであり、例えば、ビスケット、クッキー、サブレー、スコーンなどが挙げられる。
【0020】
ソフトビスケット中におけるソフトビスケット用油脂組成物の含有量は、小麦粉100質量部に対するソフトビスケット用油脂組成物中の油脂の含有量として、好ましくは5~70質量部であり、より好ましくは30~60質量部である。ソフトビスケット用油脂組成物の含有量がこの範囲内であると、本発明の効果をより効果的に発揮される。
【0021】
本発明におけるソフトビスケットの原料としては、小麦粉の他に、卵、糖類、油脂類(バター、マーガリン、ショートニング、液状油等)、加工デンプン、乳製品、食塩、膨張剤、フレーバー、ココアパウダー、チョコチップ等を使用することができる。
【実施例】
【0022】
次に実施例をあげて本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
表1に記載の組成で、以下の方法によりソフトビスケット用油脂組成物(マーガリン)を製造した。すなわちパーム油、エステル交換パーム油、菜種油、ハイエルシン菜種極度硬化油、菜種極度硬化油を配合した油相部に、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、モノグリセリンモノ脂肪酸エステル及び、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを配合し、70℃に加熱し溶解した。油相部に別途70℃に加熱した水相部を加え、攪拌して予備乳化物とした。香料を加えた後、マーガリン製造機を用いて予備乳化物を急冷してソフトビスケット用油脂組成物(マーガリン)を製造した。
【0023】
(実施例2~8及び比較例1~7)
表1、表2に示した組成で、実施例1に準じてソフトビスケット用油脂組成物(マーガリン)を製造した。
【0024】
(実施例9)
表1に示した組成で、油脂及び乳化剤を70℃で加熱し、均一溶解した。その後、窒素を混合しながらマーガリン製造機を用いて加熱溶解した油脂組成物を急冷してソフトビスケット用油脂組成物(ショートニング)を製造した。
【0025】
実施例及び比較例に記したソフトビスケット用油脂組成物を使用して、以下の製造方法でソフトビスケットを製造し、評価を行った。
ソフトビスケット用油脂組成物150g、上白糖160gをミキサーボウルに投入し、低速3分混合した。全卵45gを数回に分けて加えながらさらに2分間低速で混合した。ここに、あらかじめ一緒に篩っておいた薄力粉300gとベーキングパウダー3gを加え、低速で1分混合して生地とした。生地は冷蔵庫で1晩保管した後、4mm厚に生地を伸ばし、直径35mmの丸型で型抜きし上火175℃、下火150℃のオーブンで12分間焼成した。
【0026】
実施例及び比較例の各ソフトビスケット用油脂組成物を使用して焼成したソフトビスケットについて、以下の評価方法に従い評価した。なお、評価は、ソフトビスケットを焼成後、20℃で20時間保管した後に実施した。評価結果は、表1、表2の下段に示した。
【0027】
<ソフトビスケットの食感評価方法>
よく訓練されたパネラー5名によりソフトビスケットを食し、その食感について官能評価により評価する。評価項目は、「ザクザク感」、「口どけ」とし、その評価基準を以下に示す。評価結果については、5名の平均点を算出し、平均点が2.5以上3.0以下を「◎」、2.0以上2.5未満を「○」、1.5以上2.0未満を「△」、1.5未満を「×」とした。
【0028】
(ザクザク感の評価基準)
3点:咀嚼したときに適度な硬さがあり、歯切れの良い食感で、完全に噛み砕くまで、口の中に荒い粒子が残る。
2点:咀嚼したときに適度な硬さがあり、歯切れの良い食感で、口の中に荒い粒子を感じる。
1点:咀嚼したときに適度な硬さがあり、歯切れの良い食感であるが、咀嚼すると口の中で粉々になる。
0点:咀嚼したときに硬さがなく、歯切れが悪い。
【0029】
(口どけの評価基準)
3点:咀嚼時に粉っぽさ、べたつきがなく、飲み込んだ後に舌の上に粉っぽさ、べたつきが残らない。
2点:咀嚼時に粉っぽさ、べたつきを感じるが、飲み込んだ後に舌の上に粉っぽさ、べたつきが残らない。
1点:咀嚼時に粉っぽさ、べたつきを感じるが、飲み込んだ後に舌の上に粉っぽさ、べたつきがある。
0点:咀嚼時に粉っぽさ、べたつきがあり、飲み込んだ後に舌の上に粉っぽさ、べたつきが口の中全体に残る。
【0030】
【0031】
【0032】
表1の結果より、本発明のソフトビスケット用油脂組成物を使用したソフトビスケット生地はソフトビスケットをザクザクとした食感で、口どけ良い食感に改良することが可能であった。表2の比較例1のようにA成分を含まない場合には、ザクザクとした食感を得ることができなかった。また、表2の比較例2のようにB成分を含まない場合、あるいは比較例7のように油脂100質量部に対するB成分の含有量が4質量部を超える場合には、口どけの評価が低下した。
また、比較例3のように、油脂100質量部に対するA成分の含有量が0.3質量部未満の場合、あるいは比較例6のように油脂100質量部に対するA成分の含有量が6質量部を超える場合には、ザクザクとした食感が劣る結果となった。
比較例4に示すように、A成分の構成脂肪酸の炭素数が12の場合には、ザクザクとした食感が十分に得られなかった。
比較例5に示すように、B成分の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である場合には、口どけの評価が低下した。
以上のように、A成分とB成分を特定量で配合することにより、ザクザク感と口どけの両方の効果を得ることが可能となる。