(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】表面改質方法及び表面改質弾性体
(51)【国際特許分類】
C08J 7/12 20060101AFI20230511BHJP
B32B 25/00 20060101ALI20230511BHJP
C08F 291/02 20060101ALI20230511BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C08J7/12 A CEQ
B32B25/00
C08F291/02
A61M5/315 512
C08J7/12 C
(21)【出願番号】P 2018194294
(22)【出願日】2018-10-15
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2018077832
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】皆川 康久
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/042912(WO,A1)
【文献】特開2001-259032(JP,A)
【文献】特開2016-209081(JP,A)
【文献】特開2014-132059(JP,A)
【文献】特開2013-049236(JP,A)
【文献】特開2015-195813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00-7/18
B32B 1/00-43/00
C08F 291/00-297-08
A61M 3/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴムを改質対象物とする表面改質方法であって、
前記改質対象物の表面に重合開始点Aを形成する工程1と、
前記重合開始点Aを起点にしてモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させる工程2と、
前記ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させ、更に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物
及びパーフルオロエーテル基含有シラン化合物を反応させて、改質ポリマー鎖を形成する工程3とを含み、
前記フルオロアルキル基含有シラン化合物及び前記パーフルオロエーテル基含有シラン化合物の混合比率は、50:50~100:0(ただし、100:0を除く)であり、
前記フルオロアルキル基は、下記式で表される基である表面改質方法。
F
3C-(CF
2)
n-(CH
2)
m-
(式中、nは1~5、mは1~8の整数である。)
【請求項2】
加硫ゴムを改質対象物とする表面改質方法であって、
前記改質対象物の表面に光重合開始剤Aの存在下でモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させる工程Iと、
前記ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させ、更に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物
及びパーフルオロエーテル基含有シラン化合物を反応させて、改質ポリマー鎖を形成する工程IIとを含み、
前記フルオロアルキル基含有シラン化合物及び前記パーフルオロエーテル基含有シラン化合物の混合比率は、50:50~100:0(ただし、100:0を除く)であり、
前記フルオロアルキル基は、下記式で表される基である表面改質方法。
F
3C-(CF
2)
n-(CH
2)
m-
(式中、nは1~5、mは1~8の整数である。)
【請求項3】
前記加硫ゴムは、ショアA硬度が50~70である請求項1
又は2記載の表面改質方法。
【請求項4】
前記加硫ゴムは、ショアA硬度が53~65である請求項1
又は2記載の表面改質方法。
【請求項5】
前記モノマーは、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アルカリ金属塩、アクリル酸アミン塩、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メトキシメチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アルカリ金属塩、メタクリル酸アミン塩、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、メトキシメチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、及びアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~
4のいずれかに記載の表面改質方法。
【請求項6】
前記フルオロアルキル基含有シラン化合物は、下記式(1)で表される化合物である請求項1~
5のいずれかに記載の表面改質方法。
F
3C-(CF
2)
n-(CH
2)
m-Si(OR
1)
3 (1)
(式中、nは1~5、mは1~8である。R
1はアルキル基を表し、同一の基でも異なる基でもよい。)
【請求項7】
前記パーフルオロエーテル基含有シラン化合物は、下記式(2)又は(3)で表される化合物である請求項
1~6のいずれかに記載の表面改質方法。
【化1】
(式(2)中、Rf
1は、パーフルオロアルキル基を表す。Zは、フッ素又はトリフルオロメチル基を表す。a、b、c、d、eは、同一若しくは異なって、0又は1以上の整数を表し、a+b+c+d+eは、1以上であり、a、b、c、d、eで括られた各繰り返し単位の存在順序は、式中で限定されない。Yは、水素又は炭素数1~4のアルキル基を表す。X
1は、水素、臭素又はヨウ素を表す。R
1は、水酸基又は加水分解可能な置換基を表す。R
2は、水素又は1価の炭化水素基を表す。lは、0、1又は2を表す。mは1、2又は3を表す。nは、1以上の整数を表す。なお、2つの*は、当該箇所同士で直接結合していることを表している。)
【化2】
(式(3)中、Rf
2は、-(C
kF
2k)O-(kは1~6の整数)で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。R
3は、同一若しくは異なって炭素原子数1~8の1価炭化水素基を表す。X
2は、同一若しくは異なって加水分解性基又はハロゲン原子を表す。sは、同一若しくは異なって0~2の整数を表す。tは、同一若しくは異なって1~5の整数を表す。h、iは、同一若しくは異なって1、2又は3を表す。)
【請求項8】
形成される改質ポリマー鎖の長さが200~7000nmである請求項1~
7のいずれかに記載の表面改質方法。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載の表面改質方法により三次元形状の固体表面の少なくとも一部が改質された表面改質弾性体。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれかに記載の表面改質方法により改質された表面を少なくとも一部に有する注射器用ガスケット。
【請求項11】
基材ガスケット表面の少なくとも一部に前記ポリマー鎖が固定化され、摺動面に複数の環状突出部を有する請求項
10記載の注射器用ガスケットであって、
前記環状突出部のうち、天面に最も近い第1突出部の表面粗さRaが1.0以下である注射器用ガスケット。
【請求項12】
前記表面粗さRaが0.8以下である請求項
11記載の注射器用ガスケット。
【請求項13】
前記表面粗さRaが0.6以下である請求項
11記載の注射器用ガスケット。
【請求項14】
前記基材ガスケットの表面粗さRaが1.0以下である請求項
11~
13のいずれかに記載の注射器用ガスケット。
【請求項15】
前記基材ガスケットの表面粗さRaが0.8以下である請求項
11~
13のいずれかに記載の注射器用ガスケット。
【請求項16】
前記基材ガスケットの表面粗さRaが0.6以下である請求項
11~
13のいずれかに記載の注射器用ガスケット。
【請求項17】
基材ガスケット表面の少なくとも一部に前記ポリマー鎖が固定化され、摺動面に複数の環状突出部を有する請求項
10記載の注射器用ガスケットであって、
前記環状突出部のうち、天面に最も近い第1突出部の表面粗さRzが25.0以下である注射器用ガスケット。
【請求項18】
基材ガスケット表面の少なくとも一部に前記ポリマー鎖が固定化され、摺動面に複数の環状突出部を有する請求項
10記載の注射器用ガスケットであって、
前記環状突出部のうち、天面に最も近い第1突出部の表面粗さRvが21.0以下である注射器用ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質方法、並びに、該改質方法により得られる改質された表面を少なくとも一部に有する注射器用ガスケットなどの表面改質弾性体に関する。
【背景技術】
【0002】
シール状態を維持しながら摺動する部分、例えば、注射器のプランジャーに一体化されてプランジャーとシリンジのシールを行うガスケットには、シール性(耐液漏れ性)を重視し、ゴム等の弾性体が使用されているが、摺動性に若干問題がある(特許文献1参照)。そのため、摺動面にシリコーンオイルなどの摺動性改良剤を塗布しているが、最近上市されているバイオ製剤にシリコーンオイルが悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。一方、摺動性改良剤を塗布していないガスケットは摺動性に劣るため、投与の際にプランジャーを円滑に押せずに脈動し、注入量が不正確になる、患者に苦痛を与えるなどの問題が生じる。
【0003】
このような、シール性と摺動性の相反する要求を満たすため、自己潤滑性を有するPTFEフィルムを被覆する技術が提案されているが(特許文献2参照)、一般に高価なため、加工製品の製造コストが上昇し、応用範囲が限定されてしまう。また、PTFEフィルムを被覆した製品を、摺動などが繰り返され耐久性が要求される用途に適用することについて、信頼性の不安もある。更に、PTFEは放射線に弱いため、照射線による滅菌ができないという問題もある。
【0004】
また、水存在下での摺動性が要求される他の用途への応用も考えられる。すなわち、プレフィルドシリンジのシリンジ内面や水を送るための管又はチューブの内面の流体抵抗を下げることや、水との接触角を上げる、又は目覚しく下げることでロスなく水を送れる。カテーテルのチューブの内外表面の表面抵抗を下げることで、体内への挿入をしやすくすることや、カテーテル内にガイドワイヤーを通しやすくすることができる。医療機器などの表面の水との接触角を上げることで、血液及び体液中の特定の細胞(血球細胞)やたんぱく質の付着を抑制できる。タイヤの溝表面の流体抵抗を下げることや、水との接触角を上げる、又は目覚しく下げることでウエットや雪上路面での水や雪のはけが良くなり、結果としてグリップ性、ハイドロプレーニング性が向上し安全性が改善される。タイヤのサイドウォール面や建物の壁の摺動抵抗を減少させることや、水との接触角を上げることでゴミや粉塵が付着しにくくなることも期待できる。
【0005】
更に、ダイヤフラムポンプ、ダイヤフラム弁などのダイヤフラムで水又は水溶液等を送る時の圧損が少なくなる。スキー板やスノーボード板の滑走面の摺動性を高めることで滑りやすくなる。道路標識や看板の摺動性を高めて雪が滑りやすくすることで標識が見やすくなる。船の外周面の摺動抵抗を低下させることや、水との接触角を上げることで水の抵抗が減少するとともに外周面に菌が付着しにくくなる。水着の糸表面の摺動性を改良することで水の抵抗が減る、などの有利な効果も期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-298220号公報
【文献】特開2010-142573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、摺動性、耐液漏れ性、タンパク質吸着抑制性などの様々な機能性を経済的に有利に付与できる加硫ゴムの表面改質方法、及び表面改質弾性体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、加硫ゴムを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に重合開始点Aを形成する工程1と、前記重合開始点Aを起点にしてモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させる工程2と、前記ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させ、更に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物を反応させて、改質ポリマー鎖を形成する工程3とを含む表面改質方法に関する。
【0009】
前記工程3は、前記ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させ、更に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物及びパーフルオロエーテル基含有シラン化合物を反応させて、改質ポリマー鎖を形成することが好ましい。
【0010】
本発明は、加硫ゴムを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に光重合開始剤Aの存在下でモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させる工程Iと、前記ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させ、更に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物を反応させて、改質ポリマー鎖を形成する工程IIとを含む表面改質方法に関する。
【0011】
前記工程IIは、前記ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させ、更に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物及びパーフルオロエーテル基含有シラン化合物を反応させて、改質ポリマー鎖を形成することが好ましい。
【0012】
前記フルオロアルキル基含有シラン化合物及び前記パーフルオロエーテル基含有シラン化合物の混合比率は、50:50~100:0であることが好ましい。
前記フルオロアルキル基は、下記式で表される基であることが好ましい。
【化1】
前記加硫ゴムは、ショアA硬度が50~70であることが好ましく、53~65であることがより好ましい。
【0013】
前記モノマーは、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アルカリ金属塩、アクリル酸アミン塩、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メトキシメチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アルカリ金属塩、メタクリル酸アミン塩、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、メトキシメチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、及びアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
前記フルオロアルキル基含有シラン化合物は、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】
【0015】
前記パーフルオロエーテル基含有シラン化合物は、下記式(2)又は(3)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】
(式(2)中、Rf
1は、パーフルオロアルキル基を表す。Zは、フッ素又はトリフルオロメチル基を表す。a、b、c、d、eは、同一若しくは異なって、0又は1以上の整数を表し、a+b+c+d+eは、1以上であり、a、b、c、d、eで括られた各繰り返し単位の存在順序は、式中で限定されない。Yは、水素又は炭素数1~4のアルキル基を表す。X
1は、水素、臭素又はヨウ素を表す。R
1は、水酸基又は加水分解可能な置換基を表す。R
2は、水素又は1価の炭化水素基を表す。lは、0、1又は2を表す。mは1、2又は3を表す。nは、1以上の整数を表す。なお、2つの*は、当該箇所同士で直接結合していることを表している。)
【化4】
(式(3)中、Rf
2は、-(C
kF
2k)O-(kは1~6の整数)で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。R
3は、同一若しくは異なって炭素原子数1~8の1価炭化水素基を表す。X
2は、同一若しくは異なって加水分解性基又はハロゲン原子を表す。sは、同一若しくは異なって0~2の整数を表す。tは、同一若しくは異なって1~5の整数を表す。h、iは、同一若しくは異なって1、2又は3を表す。)
【0016】
前記表面改質方法において、形成される改質ポリマー鎖の長さは、200~7000nmであることが好ましい。
【0017】
本発明は、前記表面改質方法により三次元形状の固体表面の少なくとも一部が改質された表面改質弾性体に関する。
本発明は、前記表面改質方法により改質された表面を少なくとも一部に有する注射器用ガスケットに関する。
【0018】
前記注射器用ガスケットは、基材ガスケット表面の少なくとも一部に前記ポリマー鎖が固定化され、摺動面に複数の環状突出部を有する前記注射器用ガスケットであって、前記環状突出部のうち、天面に最も近い第1突出部の表面粗さRaが1.0以下であることが好ましい。
【0019】
前記表面粗さRaは、0.8以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましい。
前記基材ガスケットの表面粗さRaは、1.0以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.6以下であることが更に好ましい。
【0020】
前記注射器用ガスケットは、基材ガスケット表面の少なくとも一部に前記ポリマー鎖が固定化され、摺動面に複数の環状突出部を有する前記注射器用ガスケットであって、前記環状突出部のうち、天面に最も近い第1突出部の表面粗さRzが25.0以下であることが好ましい。
【0021】
前記注射器用ガスケットは、基材ガスケット表面の少なくとも一部に前記ポリマー鎖が固定化され、摺動面に複数の環状突出部を有する前記注射器用ガスケットであって、前記環状突出部のうち、天面に最も近い第1突出部の表面粗さRvが21.0以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、前記工程1~3又は前記工程I~IIを含む表面改質方法であるため、摺動性、耐液漏れ性、タンパク質吸着抑制性などの様々な機能性を経済的に有利に付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】改質ポリマー鎖を固定化する基材ガスケットを示す縦断面図の一例である。
【
図2】基材ガスケットの表面に改質ポリマー鎖を固定化した注射器用ガスケットを示す縦断面図の一例である。
【
図3】
図2の注射器用ガスケットの第1突出部における部分拡大図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1の本発明は、加硫ゴムを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に重合開始点Aを形成する工程1と、前記重合開始点Aを起点にしてモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させる工程2と、前記ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させ、更に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物を反応させて、改質ポリマー鎖を形成する工程3とを含むものである。
【0025】
一般に凹凸の大きい加硫ゴムの表面にポリマー鎖を形成して機能性を付与するためには、該表面からある程度の高さ(長さ)のポリマー鎖を形成し、機能性ポリマー鎖を表面に出すことが必要になるが、機能性モノマーは通常非常に高価なので、それによるポリマー鎖の量を機能性が発揮される必要最小限にとどめないと経済的に不利になってしまう。これに対して本発明は、先ず改質対象物表面に比較的安価なモノマーによるポリマー鎖を形成してある程度の足場を築き、その上に、シラン化合物を付加させ、次いで、該シラン化合物に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物を更に反応(付加等)させて改質ポリマー鎖を形成することにより、最表面にフルオロアルキル基含有機能性シラン化合物を形成する表面改質方法である。従って、非常に経済的に所望の機能性を付与できる。なお、比較的安価なポリマー鎖を形成せずに、フルオロアルキル基含有機能性シラン化合物を形成するだけでは、十分な摺動性等の所望の性能が得られない。
【0026】
更に、表面自由エネルギーが低いフルオロアルキル基含有シラン化合物が最表面に形成された改質ポリマー鎖とすることで、改質対象物に、優れた摺動性、耐液漏れ性、生体適合性、タンパク質吸着抑制性等の性能を付与できる。なお、パーフロオロエーテル基も表面自由エネルギーが低いものの、エーテル酸素が存在する一方で、本発明では、酸素を有さないフロオロアルキル基を支配的に表面に付与することで、より優れた耐液漏れ性、生体適合性、タンパク質吸着抑制性等の性能を付与することが可能になる。
【0027】
工程1では、加硫成形後のゴム(改質対象物)の表面に重合開始点Aを形成する。上記加硫ゴムとしては、二重結合に隣接する炭素原子(アリル位の炭素原子)を有するものが好適に使用される。
【0028】
改質対象物としてのゴムとしては、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、脱タンパク天然ゴムなどのジエン系ゴム、及びイソプレンユニットを不飽和度として数パーセント含むブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどが挙げられる。ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムの場合、加硫ゴムからの抽出物が少なくなる点から、トリアジンによる架橋ゴムが好ましい。この場合、受酸剤を含んでもよく、好適な受酸剤としては、ハイドロタルサイト、炭酸マグネシウムが挙げられる。
【0029】
他のゴムの場合は、硫黄加硫が好ましい。その場合、硫黄加硫で一般に使用されている加硫促進剤、酸化亜鉛、フィラー、シランカップリング剤などの配合剤を添加してもよい。フィラーとしては、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどを好適に使用できる。
【0030】
なお、ゴムの加硫条件は適宜設定すれば良く、ゴムの加硫温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは175℃以上である。
【0031】
前記加硫ゴムのショアA硬度は、摺動性、耐液漏れ性、タンパク質吸着抑制性などの観点から、50~70が好ましく、53~65がより好ましい。
なお、加硫ゴムの硬度は、JIS K 6253に準拠し、タイプAデュロメーター(ショアA)、温度23℃の条件下で、測定される値である。
【0032】
重合開始点Aは、例えば、改質対象物の表面に光重合開始剤Aを吸着させることで形成される。光重合開始剤Aとしては、例えば、カルボニル化合物、テトラエチルチウラムジスルフィドなどの有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられ、なかでも、カルボニル化合物が好ましい。
【0033】
光重合開始剤Aとしてのカルボニル化合物としては、ベンゾフェノン及びその誘導体(ベンゾフェノン系化合物)が好ましい。また、光重合開始剤Aとしては、重合速度が速い点、及びゴムなどに吸着及び/又は反応し易い点から、チオキサントン系化合物も好適に使用可能である。なかでも、少なくとも1種のベンゾフェノン系化合物を用いることが好ましい。なお、ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物としては、国際公開2016/042912号に記載されている化合物が挙げられる。
【0034】
ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などの光重合開始剤Aの改質対象物表面への吸着方法は、国際公開2016/042912号に記載されている方法等を使用できる。
【0035】
なかでも、改質対象物の表面を光重合開始剤Aで処理することで該光重合開始剤Aを表面に吸着させる、または更に処理後の表面に300~400nmのLED光を照射することにより、重合開始点Aを形成することもできる。特に、改質対象物の表面にベンゾフェノン系化合物溶液、チオキサントン系化合物溶液による表面処理を施して光重合開始剤Aを吸着させる、または更に処理後の表面に300~400nmのLED光を照射することで、吸着させた光重合開始剤Aを表面に化学結合させることもできる。波長が300nm未満では、改質対象物の分子を切断させて、ダメージを与える可能性があるため、300nm以上の光が好ましく、改質対象物のダメージが非常に少ないという観点から、355nm以上の光が更に好ましい。一方、400nmを超える光では、重合開始剤が活性されにくく、重合反応が進みにくいため、400nm以下の光が好ましい。LED光の波長は、355~390nmが特に好適である。なお、LED光は波長が狭く、中心波長以外の波長が出ない点で好適であるが、水銀ランプ等でもフィルターを用いて、300nm未満の光をカットすれば、LED光と同様の効果を得ることも可能である。
【0036】
工程2では、前記重合開始点Aを起点にしてモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させる。
【0037】
工程2のモノマーとは、用途などに応じて適宜設定した機能を有さないポリマー鎖を作製するモノマーである。例えば、改質対象物に摺動性、生体適合性、抗菌性などの機能を付与する場合は、これらの機能を付与しないモノマーが該当し、経済性などの観点から適宜選択すればよい。
【0038】
モノマーは、前記の観点で適宜選択すればよく、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなど)、アクリル酸アルカリ金属塩(アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウムなど)、アクリル酸アミン塩、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メトキシメチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなど)、メタクリル酸アルカリ金属塩(メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウムなど)、メタクリル酸アミン塩、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、メトキシメチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリロニトリルなどを使用できる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。なかでも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミドが好ましく、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミドとを併用することがより好ましい。
【0039】
工程2のモノマーのラジカル重合の方法、モノマーの使用量、塗工(噴霧)溶媒、塗工(噴霧)方法、浸漬方法、照射条件などは、国際公開2016/042912号に記載されている方法等を使用できる。なお、モノマー(液体)、その溶液として、4-メチルフェノールなどの公知の重合禁止剤を含むものも使用できる。
【0040】
本発明では、モノマー(液体)若しくはその溶液の塗布後、又はモノマー若しくはその溶液への浸漬後、更に必要に応じて引き上げて乾燥後、光照射することでモノマーのラジカル重合が進行するが、主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LEDランプなどのUV照射光源を好適に利用できる。照射光量は、重合時間や反応の進行の均一性を考慮して適宜設定すればよい。また、反応容器内における酸素などの活性ガスによる重合阻害を防ぐために、光照射時又は光照射前において、反応容器内や反応液中の酸素を除くことが好ましい。そのため、反応容器内や反応液中に窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを導入して酸素などの活性ガスを反応系外に排出し、反応系内を不活性ガス雰囲気に置換すること、反応容器内を真空引きし、酸素を脱気すること、などが適宜行われている。更に、酸素などの反応阻害を防ぐために、UV照射光源をガラスやプラスチックなどの反応容器と反応液や改質対象物の間に空気層(酸素含有量が15%以上)が入らない位置に設置する、などの工夫も適宜行われる。
【0041】
紫外線を照射する場合、その波長は、好ましくは300~400nmである。これにより、改質対象物の表面に良好にポリマー鎖を形成できる。光源としては高圧水銀ランプや、365nmの中心波長を持つLED、375nmの中心波長を持つLEDなどを使用することが出来る。なかでも、355~390nmのLED光を照射することが好ましい。特に、ベンゾフェノンの励起波長366nmに近い365nmの中心波長を持つLEDなどが効率の点から好ましい。
【0042】
工程3では、前記ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させ、更にフルオロアルキル基含有シラン化合物を反応させて、改質ポリマー鎖が形成(作製)される。これにより、ポリマー鎖表面にフルオロアルキル基含有機能性シラン化合物が付加された改質ポリマー鎖が形成され、所望の性能が付与される。
【0043】
シラン化合物としては、特に限定されないが、フルオロアルキル基を有さないシラン化合物等を使用できる。なかでも、本発明の効果がより良好に得られるという点から、アルコキシシラン、変性アルコキシシランが好ましく、アルコキシシランがより好ましい。シラン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
アルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリプロピルプロポキシシラン、トリブチルブトキシシラン等のモノアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジプロポキシシラン、ジブチルジブトキシシラン等のジアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシラン、ブチルトリブトキシシラン等のトリアルコキシシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジブトキシジエトキシシラン、ブトキシトリエトキシシラン、エトキシトリエトキシシラン等のテトラアルコキシシランが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより良好に得られるという点から、テトラアルコキシシランが好ましく、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、ジブトキシジエトキシシラン、ブトキシトリエトキシシラン、エトキシトリブトキシシランがより好ましい。
【0045】
変性アルコキシシランは、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基等の置換基を有するアルコキシシランであり、アルキル基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種を有することが好ましい。
【0046】
アルコキシシラン、変性アルコキシシランの炭素数は、本発明の効果がより良好に得られるという点から、好ましくは4~22、より好ましくは4~16である。
【0047】
テトラアルコキシシラン、変性アルコキシシランは、本発明の効果がより良好に得られるという点から、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基及びブトキシ基からなる群より選択される少なくとも1種を有することが好ましく、エトキシ基及び/又はブトキシ基を有することがより好ましく、エトキシ基及びブトキシ基を有することが更に好ましい。
【0048】
シラン化合物の市販品としては、プライマーコートPC-3B((株)フロロテクノロジー製、下記式で表されるブトキシ/エトキシ系テトラアルコキシシラン)等が利用できる。
【化5】
(式中、平均値として、m+n=4、n>m>0である。)
【0049】
工程3で、前記ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させる方法は、特に限定されず、例えば、該ポリマー鎖を形成させた改質対象物を、上記シラン化合物に接触させる方法等、従来公知の方法を適宜採用できる。
【0050】
工程3では、ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させた後、次いで、少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物を反応させ、改質ポリマー鎖が形成される。
【0051】
フルオロアルキル基含有シラン化合物におけるフルオロアルキル基としては、例えば、下記式で表される基等が挙げられる。
【化6】
【0052】
前記式において、nは、1~5が好ましく、3~5がより好ましい。mは、1~6が好ましく、2~6がより好ましい。また、0≦m+n≦10が好ましく、0≦m+n≦7がより好ましい。
【0053】
具体的なフルオロアルキル基としては、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-ウンデカフルオロヘプチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル基等が挙げられる。
【0054】
フルオロアルキル基含有シラン化合物は特に限定されないが、摺動性、耐液漏れ性、タンパク質吸着抑制性などの様々な機能を経済的に付与できるという観点から、下記式(1)で表される化合物を好適に使用できる。
【化7】
【0055】
式(1)において、nは、1~5が好ましく、3~5がより好ましい。mは、1~6が好ましく、2~6がより好ましい。また、0≦m+n≦10が好ましく、0≦m+n≦7がより好ましい。R1(アルキル基)は、直鎖状、分岐状、環状、又はこれらの内2以上の構造を合わせ持ったものでもよい。R1の炭素数は、1~10が好ましく、1~5が好ましく、1~3がより好ましい。R1のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0056】
前記式(1)で表されるフルオロアルキル基含有シラン化合物の具体例としては、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0057】
工程3で、シラン化合物を付加したポリマー鎖と、フルオロアルキル基含有シラン化合物とを反応(付加)させる方法は、特に限定されず、例えば、フルオロアルキル基含有シラン化合物の溶液を、ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させた改質対象物に接触させる方法等、従来公知の方法を適宜採用できる。なお、フルオロアルキル基含有シラン化合物の溶液は、水、パーフルオロヘキサン、酸性水、メタノール、エタノール、水とメタノールやエタノールとの混合液など、該化合物を溶解可能な公知溶媒を用い、適宜濃度を調整して作製できる。前記接触の方法は、塗布、噴霧(吹き付け)、浸漬等、接触可能な任意の方法を採用できる。
【0058】
シラン化合物を付加したポリマー鎖と、フルオロアルキル基含有シラン化合物との反応は、上記の浸漬等の接触後、更に湿度50%以上の条件下に保持することが好ましい。これにより、反応がより進行し、本発明の効果が良好に得られる。上記湿度は、60%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、例えば、100%以下が好ましい。また、保持時間、温度は、適宜設定すればよく、例えば、0.5~60時間、20~120℃が好ましい。
【0059】
工程3では、本発明の効果が良好に得られるという点から、ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させた後、次いで、前記フルオロアルキル基含有シラン化合物の他、更にパーフルオロエーテル基含有シラン化合物も反応(付加)させて、改質ポリマー鎖を形成することが好適である。
【0060】
パーフルオロエーテル基含有シラン化合物としては、パーフルオロエーテル基を持つシラン化合物であれば特に限定されず、例えば、下記式(2)又は(3)で表される化合物を好適に使用できる。
【0061】
【化8】
(式(2)中、Rf
1は、パーフルオロアルキル基を表す。Zは、フッ素又はトリフルオロメチル基を表す。a、b、c、d、eは、同一若しくは異なって、0又は1以上の整数を表し、a+b+c+d+eは、1以上であり、a、b、c、d、eで括られた各繰り返し単位の存在順序は、式中で限定されない。Yは、水素又は炭素数1~4のアルキル基を表す。X
1は、水素、臭素又はヨウ素を表す。R
1は、水酸基又は炭素数1~4のアルコキシ基等の加水分解可能な置換基を表す。R
2は、水素又は1価の炭化水素基を表す。lは、0、1又は2を表す。mは1、2又は3を表す。nは、1以上の整数を表す。なお、2つの*は、当該箇所同士で直接結合していることを表している。)
【0062】
【化9】
(式(3)中、Rf
2は、-(C
kF
2k)O-(kは1~6の整数)で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。R
3は、同一若しくは異なって炭素原子数1~8の1価炭化水素基を表す。X
2は、同一若しくは異なって炭素数1~4のアルコキシ基等の加水分解性基又はハロゲン原子を表す。sは、同一若しくは異なって0~2の整数を表す。tは、同一若しくは異なって1~5の整数を表す。h、iは、同一若しくは異なって1、2又は3を表す。)
【0063】
ここで、式(2)のRf1としては、一般的な有機含有フッ素ポリマーを構成するパーフルオロアルキル基であれば特に限定されず、例えば、炭素数1~16の直鎖状又は分岐状のものが挙げられる。なかでも、CF3-、C2F5-、C3F7-が好ましい。
【0064】
式(2)のa、b、c、d、eは、前記フッ素含有シラン化合物の主骨格を構成するパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位数を表し、それぞれ独立して0~200が好ましく、0~50がより好ましい。また、a+b+c+d+e(a~eの合計)は、好ましくは、1~100である。なお、a、b、c、d、eで括られた各繰り返し単位の存在順序については、式(2)にはこの順で記載されているが、これらの各繰り返し単位の結合順序はこの順に限定されず、任意の順序で構わない。
【0065】
式(2)のYで示される炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられ、直鎖状でも分岐状でもよい。X1が臭素又はヨウ素である場合、前記フッ素含有シラン化合物は、化学結合が生成され易い。
【0066】
式(2)のR1で示される加水分解可能な置換基は特に限定されないが、ハロゲン、-OR4、-OCOR4、-OC(R4)=C(R5)2、-ON=C(R4)2、-ON=CR6等が好ましい。ここで、R4は脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基、R5は水素又は炭素数1~4の脂肪族炭化水素基、R6は炭素数3~6の2価の脂肪族炭化水素基を表す。より好ましくは、塩素、-OCH3、-OC2H5である。また、R2で示される1価の炭化水素基は特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。
【0067】
式(2)のlは、パーフルオロポリエーテル鎖を構成する炭素とこれに結合するケイ素との間に存在するアルキレン基の炭素数を表し、好ましくは0である。mは、ケイ素に結合する置換基R1の結合数を表し、該R1が結合していない部分の該ケイ素にはR2が結合する。nの上限は特に限定されないが、好ましくは1~10の整数である。
【0068】
一方、式(3)のRf2で示される基は特に限定されないが、sが各々0である場合、式(3)中の酸素原子に結合するRf2基の末端は、酸素原子でないことが好ましい。また、Rf2におけるkとしては、1~4の整数が好ましい。このRf2で示される基としては、具体的には、-CF2CF2O(CF2CF2CF2O)jCF2CF2-(式中、jは1以上、好ましくは1~50、より好ましくは10~40の整数である)、-CF2(OC2F4)p-(OCF2)q-(式中、p及びqは、それぞれ、1以上、好ましくは1~50、より好ましくは10~40の整数で、かつp+qの和は、10~100、好ましくは20~90、より好ましくは40~80の整数であり、式中の繰り返し単位の(OC2F4)及び(OCF2)の配列はランダムである)などが挙げられる。
【0069】
式(3)のR3は、好ましくは炭素原子数1~8の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;ビニル基、アリール基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基などが挙げられる。なかでも、メチル基が好ましい。
【0070】
式(3)のX2で示される加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基等のアルコキシアルコキシ基;アリロキシ基、イソプロペノキシ基等のアルケニルオキシ基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基;ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、シクロペンノキシム基、シクロヘキサノキシム基等のケトオキシム基;N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N-プロピルアミノ基、N-ブチルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N-シクロヘキシルアミノ基等のアミノ基;N-メチルアセトアミド基、N-エチルアセトアミド基、N-メチルベンズアミド基等のアミド基;N,N-ジメチルアミノオキシ基、N,N-ジエチルアミノオキシ基等のアミノオキシ基などが挙げられる。また、X2で示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。なかでも、メトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、塩素原子が好ましい。
【0071】
式(3)のsは1が好ましく、tは3が好ましい。h、iは、加水分解性の観点から、3が好ましい。
【0072】
パーフルオロエーテル基含有シラン化合物としては、下記式(4)で表される化合物も挙げられる。
【0073】
【化10】
(式(4)中、Rf
3は、-(C
kF
2k)O-(kは1~6の整数)で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する1価の基を表す。R
3は、同一若しくは異なって炭素原子数1~8の1価炭化水素基を表す。X
2は、同一若しくは異なって炭素数1~4のアルコキシ基等の加水分解性基又はハロゲン原子を表す。sは、同一若しくは異なって0~2の整数を表す。tは、同一若しくは異なって1~5の整数を表す。iは、同一若しくは異なって1、2又は3を表す。)
【0074】
式(4)のRf3で示される基は特に限定されないが、sが0である場合、式(4)中の酸素原子に結合するRf3基の末端は、酸素原子でないことが好ましい。また、Rf3におけるkとしては、1~4の整数が好ましい。このRf3で示される基としては、具体的には、CF3CF2O(CF2CF2CF2O)jCF2CF2-(式中、jは1以上、好ましくは1~50、より好ましくは10~40の整数である)、CF3(OC2F4)p-(OCF2)q-(式中、p及びqは、それぞれ、1以上、好ましくは1~50、より好ましくは10~40の整数で、かつp+qの和は、10~100、好ましくは20~90、より好ましくは40~80の整数であり、式中の繰り返し単位の(OC2F4)及び(OCF2)の配列はランダムである)などが挙げられる。
【0075】
式(4)のR3としては、式(3)のR3と同様のものが挙げられる。式(4)のX2としては、式(3)のX2と同様のものが挙げられる。式(4)のsは1が好ましく、tは3が好ましい。式(4)のiは、加水分解性の観点から、3が好ましい。
【0076】
パーフルオロエーテル基含有シラン化合物の平均分子量は、離型作用の持続性の点から、1000~10000の範囲が好ましい。なお、平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、標準ポリスチレン換算により測定できる。
【0077】
パーフルオロエーテル基含有シラン化合物の市販品としては、オプツールDSX(ダイキン工業(株)製)、KY-108、KY-164(信越化学工業(株)製)、フルオロリンクS10(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン(株)製)、Novec2702、Novec1720(3Mジャパン(株)製)、フロロサーフFG-5080SH等のフロロサーフシリーズ((株)フロロテクノロジー製)、SIP6720.72(Gelest社製、[Perfluoro(polypropyleneoxy)]methoxypropyltrimethoxysilane、CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)nCH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3))などが挙げられる。
【0078】
工程3で、更にパーフルオロエーテル基含有シラン化合物も反応(付加)させる方法は、特に限定されず、例えば、前述のフルオロアルキル基含有シラン化合物の溶液に代えて、フルオロアルキル基含有シラン化合物の他、更にパーフルオロエーテル基含有シラン化合物も含む溶液を使用し、同様の方法により実施可能である。
【0079】
工程3において、フルオロアルキル基含有シラン化合物及びパーフルオロエーテル基含有シラン化合物の混合比率(フルオロアルキル基含有シラン化合物:パーフルオロエーテル基含有シラン化合物(質量比率))は、摺動性、耐液漏れ性、タンパク質吸着抑制性などの様々な機能性の付与という観点から、50:50~100:0が好ましく、60:40~90:10がより好ましく、65:35~85:15が更に好ましい。
【0080】
第2の本発明は、加硫ゴムを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に光重合開始剤Aの存在下でモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させる工程Iと、前記ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させ、更に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物を反応させて、改質ポリマー鎖を形成する工程IIとを含むものである。
【0081】
具体的には、光重合開始剤Aを開始剤としてモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を作製し、次いで、得られた該ポリマー鎖にシラン化合物を付加させ、更に該シラン化合物表面に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物を反応(付加等)させて改質ポリマー鎖を形成することにより、最表面にフルオロアルキル基含有機能性シラン化合物を形成する表面改質方法である。従って、非常に経済的に所望の機能性を付与でき、また、最表面に少なくともフルオロアルキル基含有機能性シラン化合物が結合し、優れた摺動性、耐液漏れ性、生体適合性、タンパク質吸着抑制性等の所望の性能を付与できる。
【0082】
工程Iは、改質対象物の表面で光重合開始剤Aから形成される重合開始点Aを起点としてモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させ、工程IIは、該ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させ、更に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物を反応させて機能性シラン化合物を付加させ、改質ポリマー鎖を作製することが好ましい。例えば、工程Iは、改質対象物の表面に光重合開始剤A及びモノマーを接触させた後、300~400nmのLED光を照射することで、該光重合開始剤Aから重合開始点Aを生じさせるとともに、該重合開始点Aを起点としてモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させ、工程IIは、該ポリマー鎖の表面にシラン化合物を接触させ、更に該シラン化合物表面に少なくともフルオロアルキル基含有シラン化合物を反応(付加等)させることで、最表面にフルオロアルキル基含有機能性シラン化合物を形成させることにより実施できる。
【0083】
工程Iのモノマーのそれぞれのラジカル重合の方法、塗工(噴霧)溶媒、塗工(噴霧)方法、浸漬方法、照射条件などは、国際公開2016/042912号に記載されている方法等を使用できる。
【0084】
工程IIのシラン化合物、フルオロアルキル基含有シラン化合物の反応(付加等)の方法としては、前記工程3と同様の方法を適用できる。
【0085】
工程IIでは、本発明の効果が良好に得られるという点から、ポリマー鎖の表面にシラン化合物を付加させた後、次いで、前記フルオロアルキル基含有シラン化合物の他、更に前記パーフルオロエーテル基含有シラン化合物も反応(付加)させて改質ポリマー鎖を形成することが好適である。なお、反応(付加)させる方法は、前記と同様の方法により実施できる。また、工程Iにいて、好適なフルオロアルキル基含有シラン化合物及びパーフルオロエーテル基含有シラン化合物の混合比率は、前記と同様である。
【0086】
形成された改質ポリマー鎖(全体の厚み(グラフト鎖+シラン化合物+フルオロアルキル基含有シラン化合物))の長さは、好ましくは200~7000nm、より好ましくは500~3000nmである。200nm未満であると、良好な摺動性が得られない傾向がある。7000nmを超えると、摺動性の更なる向上が期待できず、高価なモノマーを使用するために原料コストが上昇する傾向があり、また、表面処理による表面模様が肉眼で見えるようになり、美観を損ねたり、シール性が低下する傾向がある。
【0087】
上記工程2、工程Iでは、重合開始点Aを起点にして2種以上のモノマーを同時にラジカル重合させてもよい。上記工程3、工程IIでは、2種以上のシラン化合物を同時に付加させてもよく、得られたシラン化合物表面に2種以上のフルオロアルキル基含有シラン化合物及びパーフルオロエーテル基含有シラン化合物を同時に反応させてもよい。更に、ポリマー鎖、シラン化合物等は、それぞれ2層以上積層されたものでもよい。更に、改質対象物の表面に複数のポリマー鎖を成長させてもよい。本発明の表面改質方法は、ポリマー鎖間を架橋してもよい。この場合、ポリマー鎖間には、イオン架橋、酸素原子を有する親水性基による架橋、ヨウ素などのハロゲン基による架橋、UV、電子線、γ線等による架橋が形成されてもよい。
【0088】
加硫ゴムに前記表面改質方法を適用することで、表面改質弾性体が得られる。例えば、水存在下又は乾燥状態での摺動性に優れた表面改質弾性体が得られ、これは低摩擦で、水の抵抗が少ないという点にも優れている。また、三次元形状の固体(弾性体など)の少なくとも一部に前記方法を適用することで、改質された表面改質弾性体が得られる。更に、該表面改質弾性体の好ましい例としては、ポリマーブラシ(高分子ブラシ)が挙げられる。ここで、ポリマーブラシとは、表面開始リビングラジカル重合によるgrafting fromのグラフトポリマーを意味する。また、グラフト鎖は、改質対象物の表面から略垂直方向に配向しているものがエントロピーが小さくなり、グラフト鎖の分子運動が低くなることにより、摺動性が得られて好ましい。更に、ブラシ密度として、0.01chains/nm2以上である準濃度及び濃度ブラシが好ましい。
【0089】
また、加硫ゴムに前記表面改質方法を適用することで、改質された表面を少なくとも一部に有する注射器用ガスケットを製造できる。改質は、少なくともガスケット表面の摺動部に施されていることが好ましく、表面全体に施されていてもよい。
【0090】
前記注射器用ガスケットとしては、基材ガスケット表面の少なくとも一部に前記ポリマー鎖が固定化され、摺動面に複数の環状突出部を有する注射器用ガスケットであって、前記環状突出部のうち、天面に最も近い第1突出部の表面粗さRaが1.0以下である注射器用ガスケットが好適である。基材表面に改質ポリマー鎖を固定化するとともに、少なくとも天面に最も近い第1突出部の表面粗さRaを1.0以下に調整することで、摺動性及び耐液漏れ性を高次元に両立できる。
【0091】
図1は改質ポリマー鎖を固定化する基材1(基材ガスケット1)を示す縦断面図(摺動方向の断面図(縦断図))の一例である。
図2は、
図1の基材ガスケット1の表面に改質ポリマー鎖21を固定化した注射器用ガスケット2の縦断面図の一例である。
図3は、
図2の注射器用ガスケット2の第1突出部14aの部分拡大図(円で囲まれた部位)の一例である。
【0092】
注射器用ガスケット2は、液体を注入するバレルと、バレル内に注入された液体を押し出すプランジャーと、プランジャーの先端部に取り付けられるガスケットとを備えるシリンジ、等に用いられるものである。
【0093】
図2の注射器用ガスケット2は、
図1の基材ガスケット1の摺動面の少なくとも一部に改質ポリマー鎖が固定化されたものである。直胴状の基材ガスケット1及びそれに改質ポリマー鎖21が固定された注射器用ガスケット2は、接液側の天面部12、プランジャーの先端部に接合される底面部13の周縁が、高さ方向(摺動方向)に延びる摺動部14(胴部)と一体に形成されている。
【0094】
基材ガスケット1及び注射器用ガスケット2の摺動部14の外周面に、バレルの周胴部の内周面と摺接する3個の環状突出部、すなわち、天面部12から最も近い位置に配される第1突出部14a(最も天面側の第1突出部14a)、天面部12から最も遠い位置に配される底面側突出部14c(最も底面側の底面側突出部14c)、14aと14cの間に配される中間突出部14bが設けられている。なお、
図1の基材ガスケットは、天面部12と第1突出部14aが一体に形成されたものである。
【0095】
図1、2では、3個の環状突起部を有する形態が示されているが、2個以上であれば特に限定されない。また、1個の中間突出部14bを有する形態が示されているが、第1突出部、底面側突出部の間に位置する突出部はすべて中間突出部に該当し、複数の中間突出部を有するものでもよい。
【0096】
注射器用ガスケット2の環状突出部は、摺動性及び耐液漏れ性の両立という観点から、3個以上が好ましい。直胴状の基材ガスケット1及び注射器用ガスケット2において、接液側の天面部12、プランジャーの先端部に接合される底面部13、第1突出部14a、中間突出部14b、底面側突出部14c、摺動部14の形状は、特に限定されない。
【0097】
図2、
図3(第1突出部14aの部分拡大図)の注射器用ガスケット2は、基材ガスケット1の表面の少なくとも一部に改質ポリマー鎖21が固定化されたもので、ここでは、天面部12、環状突出部(第1突出部14a、中間突出部14b、底面側突出部14c)を含む摺動部14(胴部)全体に改質ポリマー鎖21を固定化した例が示されている。
【0098】
注射器用ガスケット2(改質ポリマー鎖固定化後)は、摺動性、耐液漏れ性の両立という点から、改質ポリマー鎖21が形成された第1突出部14aの表面粗さRaが1.0以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.6以下が更に好ましい。下限は特に限定されず、小さいほど良好である。
なお、本明細書において、表面粗さRaは、JIS B 0601-2001、ISO 4287-1997で規定される算術平均高さRaである。
【0099】
基材ガスケット1(改質ポリマー鎖固定化前)における第1突出部14aの表面粗さRaは、摺動性、耐液漏れ性の両立という点から、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.6以下である。下限は特に限定されず、小さいほど良好である。
【0100】
注射器用ガスケット2(改質ポリマー鎖固定化後)は、摺動性、耐液漏れ性の両立という点から、改質ポリマー鎖21が形成された第1突出部14aの表面粗さRzが25.0以下が好ましく、22.0以下がより好ましく、20.0以下が更に好ましい。下限は特に限定されず、小さいほど良好である。
なお、本明細書において、表面粗さRzは、JIS B 0601-2001、ISO 4287-1997で規定される最大高さRzである。
【0101】
注射器用ガスケット2(改質ポリマー鎖固定化後)は、摺動性、耐液漏れ性の両立という点から、改質ポリマー鎖21が形成された第1突出部14aの表面粗さRvが21.0以下が好ましく、18.0以下がより好ましく、16.5以下が更に好ましい。下限は特に限定されず、小さいほど良好である。
なお、本明細書において、表面粗さRvは、JIS B 0601-2001、ISO 4287-1997で規定される最大谷深さRvである。
【0102】
基材ガスケット1やそれに改質ポリマー鎖21が固定化された注射器用ガスケット2の表面粗さRaは、成形用金型の表面粗さを変化させる方法、等により、調整できる。具体的には、金型作製時の最終磨き工程で使用する研磨剤の粒径の変更により調整可能である。研磨剤としては、ダイヤモンド、アルミナ、炭化珪素、立法晶チッ化ホウ素、炭化ホウ素、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、コロイダルシリカ等の砥粒、等が挙げられ、JIS R6001-1998で規定される♯46~100等を好適に使用できる。
【0103】
成型用金型の材料としては、公知材料が使用可能であり、炭素鋼、析出系ステンレス鋼等が挙げられる。成型用金型は、超硬工具、コーテッド超硬合金、cBN焼結体等により切削加工した後、研磨、磨き加工を行う方法、などの切削加工方法を用いて製造できる。
【0104】
改質ポリマー鎖21が固定化された注射器用ガスケット2の表面粗さRz、Rvは、フルオロアルキル基含有シラン化合物を反応させた後、次いで、アセトン等の溶剤で洗浄した後における乾燥の方法により調整できる。具体的には、改質ポリマー鎖のみを洗浄後に急激に乾燥すると、表面に割れが生じ、Rz、Rvが大きくなる傾向があるので、急激に乾燥せずに常圧で乾燥後、真空乾燥等を用いて徐々に乾燥することで、Rz、Rvが小さくなり、前記Rz、Rvを実現できる。
【実施例】
【0105】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0106】
以下の実施例、比較例で用いた加硫ゴム(基材ガスケット:
図1の形態)は、イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1~2%)をトリアジンで架橋して作製した(180℃で10分加硫)。その際、充填材量とトリアジン量を調整して、ゴムの硬度をシェアA硬度で47、50.5、54、57、63、72のガスケットを作製した(硬度測定法は以下のとおり)。
なお、加硫ゴム(基材ガスケット)は、硬度の測定が困難であったため、配合・加硫条件を同じにしたシート加硫ゴムを作製し、その硬度を測定し、基材ガスケットの硬度とした(基材ガスケットの硬度も同一と考えることができる)。
【0107】
〔加硫ゴム(基材ガスケット)の硬度〕
JIS K6253「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方」に準じて、タイプAデュロメーターにより、23℃における加硫ゴム(基材ガスケット)の硬度(ショアA)を測定した。
【0108】
(実施例1)
加硫ゴム(基材ガスケット)をベンゾフェノンの1wt%アセトン溶液に浸漬して、加硫ゴム表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。乾燥した加硫ゴム(基材ガスケット)をアクリル酸とアクリルアミドの25:75の混合水溶液(2.5M:4.5gのアクリル酸と13.4gのアクリルアミドを100mLの水に溶解)の入ったガラス反応容器に浸漬し、365nmの波長を持つLED-UVライトを50分間照射してラジカル重合を行ってゴム表面にポリマー鎖を成長させた。その後、表面を水洗し、乾燥させた。
その後、シラン化合物(プライマーコートPC-3B(上記式で表されるブトキシ/エトキシ系テトラアルコキシシラン、(株)フロロテクノロジー製))の1wt%ブタノール溶液に浸漬して、引き上げた。その後、湿度90%下で、100℃、2時間放置して反応させた。表面をアセトン洗浄および水洗し、乾燥させた。
そして、乾燥した加硫ゴム(基材ガスケット)を、下記式で示されるフルオロアルキル基含有シラン化合物(トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン:東京化成製T1770、フルオロアルキル基:CF
3(CF
2)
5(CH
2)
2-)と、パーフルオロエーテル基含有シラン化合物(ダイキン工業(株)製、オプツールDSX-E、上記式(2)の化合物)との75:25(質量比率)のパーフルオロヘキサン2%溶液に浸漬して、引き上げた。その後、湿度90%下で、70℃、8時間放置して反応させた。その後、アセトン洗浄を行い、乾燥させた。これにより表面改質弾性体を得た。
【化11】
【0109】
(実施例2~17及び比較例2)
加硫ゴム(基材ガスケット)の硬度、アクリル酸とアクリルアミドの混合比率、フルオロアルキル基含有シラン化合物とパーフルオロエーテル基含有シラン化合物の混合比率を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして表面改質弾性体を得た。
【0110】
(実施例18)
フルオロアルキル基含有シラン化合物をCF3(CF2)3CH2CH2Si(OCH2CH3)3に変更した以外は、実施例15と同様にして表面改質弾性体を得た。
【0111】
(比較例1)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1~2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴム(180℃で10分加硫(基材ガスケット))そのものを用いた(ショアA硬度:50.5)。
【0112】
なお、表2の実施例4、17では、フルオロアルキル基含有シラン化合物を反応(付加)し、アセトン洗浄を行った後の乾燥工程において、2時間以上常圧自然乾燥した後、オーブンに入れて2時間以上かけて120℃まで昇温した後、真空引きを開始して、1時間保持して乾燥した。
【0113】
実施例、比較例で作製した表面改質弾性体を以下の方法で評価した。
【0114】
〔表面粗さRa、Rz、Rv〕
JIS B 0601-2001(ISO 4287-1997)に準じて、加硫ゴム(基材ガスケット)、表面改質弾性体(改質ポリマー鎖固定化後)のRa(算術平均高さ)、Rz(最大高さ)、Rv(最大谷深さ)を測定した。
【0115】
〔改質ポリマー鎖(全ポリマー鎖)の長さ〕
加硫ゴム表面に形成された改質ポリマー鎖の長さは、改質ポリマー鎖が形成された改質ゴム断面を、SEMを使用し、加速電圧15kV、1000倍で測定した。撮影されたポリマー層の厚みを改質ポリマー鎖の長さとした。
【0116】
〔摺動性(摩擦抵抗力)〕
表面改質弾性体の表面の摩擦抵抗力を測定するために、実施例、比較例で作製した加硫ゴム(基材ガスケット)を注射器のCOP樹脂シリンジにセットし、引張試験機を用いて押し込んでいき、そのときの摩擦抵抗力を測定した(押し込み速度:30mm/min)。比較例1の摩擦抵抗指数を100として、下記式を用い、各実施例について摩擦抵抗指数で示した。指数が小さい方が、摩擦抵抗力が低く、摺動性が良好であることを示す。
(摩擦抵抗指数)=各実施例の摩擦抵抗力/比較例1の摩擦抵抗力×100
【0117】
〔耐液漏れ性〕
実施例、比較例で作製した加硫ゴムガスケットを注射器のCOP樹脂シリンジにセットし、食紅水溶液を入れ、キャップをして、40℃で2週間保管して、液漏れの状態を目視で確認し、4段階で評価した。
◎:天面に最も近い第1突出部において、突出部に食紅の赤(ピンク)のシミなし。
○:天面に最も近い第1突出部において、突出部の半分より上で、食紅の赤(ピンク)のシミがわずかに見られた。
△:天面に最も近い第1突出部において、突出部の下まで食紅の赤(ピンク)のシミが見られた。
×:天面に最も近い第1突出部を超えて食紅の赤(ピンク)のシミが見られた。
【0118】
〔タンパク質吸着量〕
得られた試料(表面改質弾性体)の表面を1mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)溶液に接触させ、37℃で3時間静置した。試料表面をリン酸緩衝生理食塩水で軽く洗浄し、タンパク質吸着試料とした。タンパク質吸着試料全量を50ml用遠沈管に入れ、JIS T9010:1999「ゴム製品の生物学的安全性に関する試験方法」の3.6項水溶性タンパク質に記載の方法に従って、試料表面に吸着したタンパク質を抽出した。得られたタンパク質に0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液0.5mlを正確に加えて溶解し、試料溶液とした。また、試料を入れずに同じ操作を行ったものを操作ブランクとした。
試料溶液及び標準溶液(BSA溶液(5~100μg/ml))0.2mlを正確にとり、Lowry法によりタンパク量を定量した。標準溶液のBSA濃度(μg/ml)と吸光度から検量線を作成し、それを用いて試料溶液1mlあたりのタンパク濃度(μg/ml)を算出し、その値を表面改質弾性体の面積当たりの値に換算した。
【0119】
【0120】
【0121】
表1~2より、実施例の表面改質弾性体表面は、摩擦抵抗力が大きく下がり、摺動性が良好であった。また、良好な耐液濡れ性、タンパク質吸着抑制性も得られた。特に、表面にフルオロアルキル基含有シラン化合物を50質量%以上含むシラン化合物を反応(付加)させた場合、非常に優れた耐液漏れ性が得られた。タンパク質吸着抑制性に関しては、たんぱく質吸着量1.0μg/cm2を超えるものは、たんぱく質が多層状態に進んでいることを示し、吸着が支配的となっている状態と考えられるが、たんぱく質吸着量は、0.7μg/cm2以下で、このことは、たんぱく質がおおよそ単層状態で、吸着と脱着が同時に起こり、吸着が支配的でない良好な状態(これ以上吸着が増えない)であることが分かった。また、パーフルオロエーテル基含有シラン化合物のみを用いた比較例2は、たんぱく質吸着量1.41μg/cm2と多く、吸着が支配的になっていると考えられた。
【0122】
従って、注射器のプランジャーのガスケットに使用した場合、十分な耐液漏れ性とともにプランジャーのシリンジに対する摩擦力が軽減され、注射器による処置を容易にかつ正確に行うことができる。また、タンパク質の吸着も十分に抑制できる。
【0123】
更に、乗用車などに使用されるタイヤのトレッドに形成された溝、サイドウォール、ダイヤフラム、スキーやスノーボード板の滑走面、水泳水着、道路標識、看板などの表面に改質ポリマー鎖を形成することで、前述の効果も期待できる。
【符号の説明】
【0124】
1 基材ガスケット(改質ポリマー鎖固定化前)
2 注射器用ガスケット(改質ポリマー鎖固定化後)
12 天面部
13 底面部
14 摺動部(胴部)
14a 第1突出部
14b 中間突出部
14c 底面側突出部
21 改質ポリマー鎖