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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】導電性金属樹脂積層体及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20230511BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230511BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20230511BHJP
   B29C 43/20 20060101ALI20230511BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20230511BHJP
   B29C 70/12 20060101ALI20230511BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20230511BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20230511BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20230511BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20230511BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20230511BHJP
   H01M 8/0223 20160101ALI20230511BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20230511BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20230511BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20230511BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
B32B15/08 M
B32B27/20 Z
B32B27/04 Z
B29C43/20
B29C43/34
B29C70/12
B29C70/42
B29C70/68
H01M8/0206
H01M8/0213
H01M8/0221
H01M8/0223
H01M8/0228
B29K101:10
B29L9:00
B29K105:12
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018215469
(22)【出願日】2018-11-16
(65)【公開番号】P2020082388
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 光介
(72)【発明者】
【氏名】大慶 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】芦崎 翔也
(72)【発明者】
【氏名】大八木 伶穏
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/085849(WO,A1)
【文献】特開2009-286964(JP,A)
【文献】国際公開第2005/027248(WO,A1)
【文献】特開2000-169126(JP,A)
【文献】特開2003-297383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29B 11/16
C08J 5/04-5/10;5/24
H01M 8/00-8/2495
C23C 24/00-30/00
B29C 43/20
B29C 43/34
B29C 70/12
B29C 70/42
B29C 70/68
B29K 101/10
B29K 105/12
B29L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔と、その少なくとも一方の面上に、非金属材料からなる導電性フィラー及び有機繊維(ただし、セルロース質繊維を除く。)を含む非金属導電シート、並びに樹脂を含む樹脂層とを備える導電性金属樹脂積層体。
【請求項2】
前記樹脂層が、更に導電助剤を含む請求項1記載の導電性金属樹脂積層体。
【請求項3】
前記有機繊維が、その融点が導電性金属樹脂積層体を加熱して加工する際の加熱温度よりも高いものであり、かつ加工後も繊維状で存在するものである請求項1又は2記載の導電性金属樹脂積層体。
【請求項4】
前記樹脂が、熱硬化性樹脂である請求項1~3のいずれか1項記載の導電性金属樹脂積層体。
【請求項5】
前記導電性フィラーが、炭素材料からなるものである請求項1~4のいずれか1項記載の導電性金属樹脂積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の導電性金属樹脂積層体を成形して得られる成形体。
【請求項7】
前記成形体が、燃料電池セパレータ、電池用集積体、電極又は放熱板である請求項6記載の成形体。
【請求項8】
金属箔と、その少なくとも一方の面上に、非金属材料からなる導電性フィラー、有機繊維(ただし、セルロース質繊維を除く。)及び樹脂を含む樹脂層とを備え、片面又は両面に溝を有する燃料電池セパレータ。
【請求項9】
前記樹脂層が、更に導電助剤を含む請求項8記載の燃料電池セパレータ。
【請求項10】
金属箔と、その少なくとも一方の面上に、非金属材料からなる導電性フィラー、有機繊維(ただし、セルロース質繊維を除く。)及び樹脂を含む樹脂層とを備える導電性金属樹脂積層体、を製造するためのシートの製造方法であって、
非金属材料からなる導電性フィラー及び有機繊維を含む非金属導電シートに、樹脂を含む樹脂組成物を含浸してなるものである導電性金属樹脂積層体製造用シートの製造方法。
【請求項11】
前記非金属導電シートが、非金属材料からなる導電性フィラー及び有機繊維を含む抄造シートからなるものである請求項10記載の導電性金属樹脂積層体製造用シートの製造方法。
【請求項12】
前記非金属導電シートが、更に導電助剤を含むものである請求項10又は11記載の導電性金属樹脂積層体製造用シートの製造方法。
【請求項13】
前記樹脂が、熱硬化性樹脂である請求項10~12のいずれか1項記載の導電性金属樹脂積層体製造用シートの製造方法。
【請求項14】
前記導電性フィラーが、炭素材料からなるものである請求項10~13のいずれか1項記載の導電性金属樹脂積層体製造用シートの製造方法。
【請求項15】
請求項10~14のいずれか1項記載の製造方法で得られた導電性金属樹脂積層体製造用シートを金属箔の少なくとも一方の面に載せ、加圧する工程を含む導電性金属樹脂積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性金属樹脂積層体及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池セパレータは、各単位セルに導電性を持たせる役割、並びに単位セルに供給される燃料及び空気(酸素)の通路を確保するとともに、それらの分離境界壁としての役割を果たすものである。このため、セパレータには高導電性、高ガス不浸透性、化学的安定性、耐熱性、親水性等の諸特性が要求される。
【0003】
燃料電池セパレータは、主に炭素系材料からなるカーボンセパレータと金属材料からなる金属セパレータとに大別される。このうち、金属セパレータは、高電導性、高熱伝導性、機械強度、及びガス不透過性を有している。しかし、金属セパレータは、燃料電池中の環境による腐食を受けやすいという欠点を有していた。
【0004】
金属セパレータにおいて、腐食対策として金属材料を適切な被覆層で被覆する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、金属基板の少なくとも片面に樹脂と導電性充填剤を混合した樹脂導電層を設け、プレス加工によりガス流路が成形された燃料電池用セパレータが開示されている。しかし、このような従来の技術では、加工負荷が高く集中荷重が生じる箇所において、加工時に非金属の導電層が押し出され、金属が露出する等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/027248号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであり、金属箔と樹脂層とを備える導電性金属樹脂積層体であって、成形性や加工性に優れる、導電性金属樹脂積層体及びその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、金属箔と、その少なくとも一方の面上に、非金属材料からなる導電性フィラー、有機繊維及び樹脂を含む樹脂層とを備える導電性金属樹脂積層体によって、成形性や加工性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、下記導電性金属樹脂積層体及びその成形体を提供する。
1.金属箔と、その少なくとも一方の面上に、非金属材料からなる導電性フィラー、有機繊維及び樹脂を含む樹脂層とを備える導電性金属樹脂積層体。
2.前記樹脂層が、非金属材料からなる導電性フィラー及び有機繊維を含む非金属導電シートに樹脂を含浸させたものである1の導電性金属樹脂積層体。
3.前記有機繊維が、その融点が導電性金属樹脂積層体を加熱して加工する際の加熱温度よりも高いものであり、かつ加工後も繊維状で存在するものである1又は2の導電性金属樹脂積層体。
4.前記樹脂が、熱硬化性樹脂である1~3のいずれかの導電性金属樹脂積層体。
5.前記導電性フィラーが、炭素材料からなるものである1~4のいずれかの導電性金属樹脂積層体。
6.1~5のいずれかの導電性金属樹脂積層体を成形して得られる成形体。
7.前記成形体が、燃料電池セパレータ、電池用集積体、電極又は放熱板である6の成形体。
8.金属箔と、その少なくとも一方の面上に、非金属材料からなる導電性フィラー、有機繊維及び樹脂を含む樹脂層とを備え、片面又は両面に溝を有する燃料電池セパレータ。
9.金属箔と、その少なくとも一方の面上に、非金属材料からなる導電性フィラー、有機繊維及び樹脂を含む樹脂層とを備える導電性金属樹脂積層体、を製造するためのシートであって、
非金属材料からなる導電性フィラー及び有機繊維を含む非金属導電シートに、樹脂を含む樹脂組成物を含浸してなるものである導電性金属樹脂積層体製造用シート。
10.前記非金属導電シートが、非金属材料からなる導電性フィラー及び有機繊維を含む抄造シートからなるものである9の導電性金属樹脂積層体製造用シート。
11.前記樹脂が、熱硬化性樹脂である9又は10の導電性金属樹脂積層体製造用シート。
12.前記導電性フィラーが、炭素材料からなるものである9~11のいずれかの導電性金属樹脂積層体製造用シート。
13.9~12のいずれかの導電性金属樹脂積層体製造用シートを金属箔の少なくとも一方の面に載せ、加圧する工程を含む導電性金属樹脂積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層体は、樹脂層に繊維質を含む非金属導電シートを用いることで、成形性が向上する。特に、集中荷重がかかるような加工負荷が高い部分でも、繊維質で拘束されていることから材料が逃げず、金属箔の露出がない。
【0010】
また、前記非金属導電シートには導電フィラーを高充填率に含ませることが可能でありながらも、薄肉のシート化が可能でありハンドリング性に優れる。本特性により、加工時工程負荷が低減される。前記非金属導電シートはフィラーを高充填できることから、導電性のコントロールも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2で作製した積層体Aのデジタルマイクロスコープ像である。
図2】比較例2で作製した積層体Bのデジタルマイクロスコープ像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[導電性金属樹脂積層体]
本発明の導電性金属樹脂積層体は、金属箔と、その少なくとも一方の面上に、非金属材料からなる導電性フィラー、有機繊維及び樹脂を含む樹脂層とを備えるものである。
【0013】
[金属箔]
前記金属箔の材質としては、特に限定されないが、耐食性に優れたものであることが好ましく、ステンレス鋼、チタン及びチタン合金、アルミニウム及びアルミニウム合金、銅及び銅合金、ニッケル及びニッケル合金、銅及び銅合金等が挙げられる。
【0014】
前記金属箔は、耐食性を有するメッキや、ダイヤモンドライクカーボン等のコーティングを始めとして、硬さや耐摩耗性、潤滑性、耐食性、耐酸化性、耐熱性、断熱性、絶縁性、密着性、装飾性や美観等、これらの性質のいくつかを向上させることを主要な目的として表面処理が施されていてもよい。
【0015】
前記金属箔の厚さは、金属箔ハンドリング時の強度と加工性の観点から、10~300μmが好ましく、10~200μmがより好ましい。
【0016】
[樹脂層]
前記樹脂層は、非金属材料からなる導電性フィラー、有機繊維及び樹脂を含む。前記導電性フィラーとしては、非金属材料であれば特に限定されず、例えば、炭素材料、無機粉末、導電性セラミックス等が挙げられるが、炭素材料が好ましい。前記炭素材料としては、天然黒鉛、針状コークスを焼成した人造黒鉛、塊状コークスを焼成した人造黒鉛、天然黒鉛を化学処理して得られる膨張黒鉛等の黒鉛、炭素電極を粉砕したもの、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、コークス、活性炭、ガラス状カーボン、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらのうち、導電性フィラーとしては、導電性の観点から、黒鉛が好ましい。前記導電性フィラーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
前記導電性フィラーの形状は、特に限定されず、球状、鱗片状、塊状、箔状、板状、針状、無定形のいずれでもよいが、燃料電池セパレータとした際の導電性の観点から、球状あるいは塊状の低アスペクト比形状が好ましい。
【0018】
前記導電性フィラーの平均粒径は、1~200μmが好ましく、1~100μmがより好ましい。導電性フィラーの平均粒径が前記範囲であれば、ガスバリア性を確保しながら必要な導電性を得ることができる。なお、本発明において平均粒径とは、レーザー回折法による粒度分布測定におけるメジアン径(d50)である。
【0019】
前記導電性フィラーの含有量は、前記樹脂層中、30~96質量%が好ましく、30~85質量%がより好ましい。導電性フィラーの含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわない範囲で、必要な導電性を得ることができる。
【0020】
前記有機繊維は、その融点が本発明の積層体を加熱して加工する際の加熱温度よりも高いものであることが好ましい。具体的には、前記有機繊維の融点は、成形加工時の加工負荷に耐えるため、繊維形態で確実に保持させる観点から、前記加熱温度よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましく、30℃以上高いことが更に好ましい。このような有機繊維を用いることで、積層体及びこれから得られる成形品の強度を向上させることができる。
【0021】
前記有機繊維の材質としては、ポリp-フェニレンテレフタルアミド(分解温度500℃)、ポリm-フェニレンイソフタルアミド(分解温度500℃)等のアラミド、ポリアクリロニトリル(融点317℃)、セルロース(融点260℃)、アセテート(融点260℃)、ナイロンポリエステル(融点260℃)ポリフェニレンサルファイド(PPS)(融点280℃)、ポリエチレン(PE)(融点120~140℃(HDPE)、95~130℃(LDPE)、ポリプロピレン(PP)(融点160℃)等が挙げられる。
【0022】
前記有機繊維の平均繊維長は、抄造時の坪量の安定化と積層体の強度確保の観点から、0.1~10mmが好ましく、0.1~6mmが好ましく、0.5~6mmが好ましい。また、前記有機繊維の平均繊維径は、成形性の観点から、0.1~100μmが好ましく、0.1~50μmがより好ましく、1~50μmが更に好ましい。なお、本発明において平均繊維長及び平均繊維径は、光学顕微鏡ないし電子顕微鏡を用いて、任意の100本の繊維について測定した繊維長及び繊維径の算術平均値である。
【0023】
前記有機繊維の含有量は、樹脂層中、1~20質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましい。有機繊維の含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわない。前記有機繊維は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
前記樹脂としては、特に限定されないが、耐熱性の点から、融点又はガラス転移点が100℃以上の樹脂が好ましい。このような樹脂であれば、熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でもよいが、耐熱性や耐クリープ性の点から熱硬化性樹脂が好ましい。
【0025】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、レゾールタイプのフェノール樹脂、ノボラックタイプのフェノール樹脂に代表されるフェノール系樹脂、フルフリルアルコール樹脂、フルフリルアルコールフルフラール樹脂、フルフリルアルコールフェノール樹脂等のフラン系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ピレン-フェナントレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。前記熱硬化性樹脂としては、加工性と成形体の物性の点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が好ましい。
【0026】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリシクロオレフィン及びポリエーテルスルホン並びにこれらの誘導体のうち融点が100℃以上であるものや、ポリカーボネート、ポリスチレン及びポリフェニレンオキシド並びにこれらの誘導体のうちガラス転移点が100℃以上であるもの等が挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、コストや耐熱性、耐クリープ性の点から、ポリプロピレンが好ましい。
【0027】
前記樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合は、主剤のほか、硬化剤及び硬化促進剤を併せて含浸させるとよい。このようにすることで、各成分が相溶した状態で硬化が開始されるため、硬化速度の向上と成形体の物性の均一性が向上する。
【0028】
エポキシ樹脂としては、エポキシ基を有するものであれば、特にされず、例えば、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
前記硬化剤としては、フェノール樹脂が好ましく、その具体例としては、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾール型フェノール樹脂、アルキル変性フェノール樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
前記硬化促進剤としては、エポキシ基と硬化剤との反応を促進するものであれば特に限定されない。硬化促進剤の具体例としては、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスフィン、ジアザビシクロウンデセン、ジメチルベンジルアミン、2-メチルイミダゾール、2-メチル-4-イミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
前記樹脂の融点又はガラス転移点の上限は、特に限定されないが、積層体及びこれから得られる成形品の生産性の点から、300℃以下であることが好ましい。
【0032】
前記樹脂の一部は、加工温度に対しその融点が低ければ繊維形態であってもよく、融点は、加工温度よりも10℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことがより好ましく、30℃以上低いことが更に好ましい。
【0033】
前記樹脂の含有量は、前記樹脂層中、1~50質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましい。含有量が前記範囲であれば、成形後の導電性を損なわない。
【0034】
前記樹脂層は、導電性を向上させるために、更に導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらのうち、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素材料の繊維状のものが耐食性の観点から好ましい。
【0035】
前記炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油ピッチ等のピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、フェノール樹脂を原料とするフェノール系炭素繊維等が挙げられるが、PAN系炭素繊維がコストの観点から好ましい。
【0036】
前記繊維状の導電助剤の平均繊維長は、成形性と導電性を両立する観点から、0.1~10mmが好ましく、0.1~7mmが好ましく、0.1~5mmが好ましい。また、その平均繊維径は、成形性の観点から、3~50μmが好ましく、3~30μmが好ましく、3~15μmが好ましい。
【0037】
前記導電助剤を含む場合、その含有量は、前記樹脂層中、1~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。導電助剤の含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわずに必要な導電性を確保できる。前記導電助剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
前記樹脂層は、前述した成分以外に、その他の成分を含んでもよい。前記その他の成分としては、ステアリン酸系ワックス、アマイド系ワックス、モンタン酸系ワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス等の内部離型剤、アニオン系、カチオン系、又はノニオン系の界面活性剤、強酸、強電解質、塩基、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系、ポリメタクリル酸エステル系等の界面活性剤に合わせた公知の凝集剤、カルボキシメチルセルロース、デンプン、酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレンオキシド等の増粘剤等が挙げられる。これらの成分の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、任意とすることができる。
【0039】
[導電性金属樹脂積層体の製造方法]
本発明の導電性金属樹脂積層体は、例えば、前記樹脂層を形成するための積層体製造用シートを金属箔上に載せ、加圧する工程を含む製造方法によって製造することができる。このとき、積層体製造用シートとしては、非金属材料からなる導電性フィラー及び有機繊維を含む非金属導電シートに、樹脂を含む樹脂組成物を含浸することで得られるものが好ましい。
【0040】
前記非金属導電シートは、導電性フィラー及び有機繊維を含む抄造シートが好ましい。前記導電性フィラー及び有機繊維は、前述したとおりである。前記導電性フィラーの含有量は、前記抄造シート中、50~96質量%が好ましく、60~96質量%がより好ましい。導電性フィラーの含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわない範囲で、必要な導電性を得ることができる。
【0041】
前記有機繊維の含有量は、前記抄造シート中、1~20質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましい。有機繊維の含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわずに、成形後の損害許容性を付与できる。前記有機繊維は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
また、前述した導電助剤やその他の成分を含んでもよい。前記導電助剤の含有量は、前記抄造シート中、1~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。導電助剤の含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわずに必要な導電性を確保できる。前記導電助剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。その他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、任意とすることができる。
【0043】
前記抄造シートは、前述した各成分を含む組成物を抄造することで製造することができる。抄造方法は、特に限定されず、従来公知の方法でよい。例えば、前述した各成分を含む組成物をこれらの成分を溶解しない溶媒中に分散させ、得られた分散液中の各成分を基材上に堆積させ、得られた堆積物を乾燥させることで、本発明の前記抄造シートを製造することができる。抄造法によってシートを作製することで、シート中に繊維を均一に分散させることができ、十分な強度を有するシートとなるまで繊維を含有させることができる。
【0044】
前記抄造シートは、その坪量が50~1,500g/m2程度の低坪量であっても、十分な強度を有する。また、前記抄造シートは、その厚さが、0.2~1.0mm程度であることが好ましい。
【0045】
前記非金属導電シートに含浸させる樹脂組成物は、必要に応じて非金属材料からなる導電性フィラーを含んでもよい。前記導電性フィラーを含む樹脂組成物を含浸させることで、前記シートの表面に導電性フィラー層が形成される(すなわち、前記シートの表面に導電性フィラーが局在する)ため、本発明の積層体から得られる成形品は、抵抗の低下が抑制され、表面導電性が改善されたものとなる。前記樹脂及び導電性フィラーは、前述したとおりである。
【0046】
前記樹脂組成物中、樹脂の含有量は、20~100質量%が好ましく、60~100質量%がより好ましい。前記導電性フィラーを含む場合、その含有量は、0.1~80質量%が好ましく、0.1~40質量%がより好ましい。導電性フィラーの含有量が前記範囲であれば、樹脂との分散性に優れており、含浸させる際の偏析が防止できる。
【0047】
前記樹脂組成物は、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。前記その他の成分としては、ステアリン酸系ワックス、アマイド系ワックス、モンタン酸系ワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス等の内部離型剤、アニオン系、カチオン系、又はノニオン系の界面活性剤、強酸、強電解質、塩基、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系、ポリメタクリル酸エステル系等の界面活性剤に合わせた公知の凝集剤、カルボキシメチルセルロース、デンプン、酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレンオキシド等の増粘剤等や酸化防止剤、熱安定剤、ハロゲン捕捉剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、無機充填材、滑剤、可塑剤、難燃剤、界面活性剤、親水性付与剤、撥水性付与剤、摺動性付与剤等が挙げられる。これらの成分の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、任意とすることができる。
【0048】
前記樹脂組成物は、生産性の観点から、スラリー状を含む液状、又はフィルム状であることが好ましい。前記樹脂組成物が液状である場合、例えば、前述した成分を溶媒に溶解ないしは懸濁し、懸濁液としたものを使用することができる。前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水系溶媒、有機系溶媒が挙げられる。前記水系溶媒としては、例えば、水、アルコール等が挙げられる。前記有機系溶媒としては、例えば、アセトン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。前記溶媒の含有量は、前記樹脂組成物を全量溶解せしめる量であれば、特に限定されない。
【0049】
前記樹脂組成物がフィルム状である場合、樹脂及び必要に応じて前述した成分を、前記樹脂の融点よりも高い温度に加熱して混錬し、フィルム状に成形したもの(以下、単に樹脂フィルムともいう。)を使用することができる。このとき、成形方法としては、ロールプレス、平板プレス、ベルトプレス等の方法が挙げられる。前記フィルムの厚さは、前記非金属導電シートに含浸させる樹脂や導電性フィラーの量に応じて、適宜設定される。
【0050】
本発明の積層体は、その厚さが、150~1,000μm程度であることが好ましい。
【0051】
前記非金属導電シートに前記樹脂組成物を含浸させることで、前記積層体製造用シートを製造することができる。含浸方法としては、前記樹脂組成物がスラリー状ないしは液状である場合は、該組成物に前記非金属導電シートを浸漬する方法や、該組成物を前記非金属導電シートに滴下・噴霧して含浸させる方法が挙げられる。前記樹脂組成物がフィルム状である場合は、該樹脂フィルムを加熱し溶融させて含浸させる方法が挙げられる。
【0052】
本発明の導電性金属樹脂積層体は、燃料電池用セパレータ、電池用集積体、電極、放熱板、電磁波シールド、電子回路基板、抵抗器、ヒーター、集塵フィルタエレメント、面状発熱体、電磁波材料等の成形体の前駆体として使用できる。
【0053】
[成形体]
本発明の導電性金属樹脂積層体を、必要に応じて切断面や打ち抜きを行って所望の大きさとし、得られたシートを加熱し、成形することで、成形体を製造することができる。なお、端部、切断面及び打ち抜き箇所は、金属箔より積層体製造用シートを大きくすることで、成形後、樹脂層で覆う方法、切断や打ち抜きを行った導電性樹脂積層体を外形寸法が当該導電性樹脂積層体よりやや大きい金型に投入後圧縮成形により樹脂を流動化させて端部、切断面及び打ち抜き箇所を覆うことができる。
【0054】
前記成形方法としては、特に限定されないが、圧縮成形が好ましい。圧縮成形を行う際の金型としては、例えば、成形体の表面の一方の面又は両面に溝を形成できるものが挙げられる。このような型を用いることで、表面の一方の面又は両面に溝を有する成形体が得られる。前記溝は、例えば、燃料電池セパレータであればガス流路となる。
【0055】
圧縮成形を行う際の温度(金型温度)は前記樹脂種として熱硬化性樹脂を使用した場合は、硬化促進剤の活性温度、熱可塑性樹脂を使用した場合は樹脂の融点よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましい。また、成形圧力は、1~100MPaが好ましく、1~60MPaがより好ましい。
【0056】
前記方法によって、厚さが100~600μm程度と薄肉化され、導電性や放熱性に優れた成形体を製造することができる。前記成形体は、燃料電池セパレータ、電池用集積体、電極、放熱板等として好適に使用することができる。
【実施例
【0057】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、下記実施例で使用した材料は、以下のとおりである。
・天然黒鉛:平均粒径25μm
・PAN系炭素繊維:平均繊維長3.0mm、平均繊維径7μm
・ポリp-フェニレンテレフタルアミド繊維:平均繊維長0.9mm、平均繊維径10μm、分解温度500℃
【0058】
[1]導電性シートの作製
[製造例1]
天然黒鉛87質量部、PAN系炭素繊維3質量部及びアラミド繊維10質量部を水中に入れ、攪拌し、繊維質スラリーを得た。このスラリーを抄造し、導電性シートAを作製した。導電性シートAの坪量は、78g/m2であった。
【0059】
[2]樹脂溶液の調製
[製造例2]
エポキシ樹脂としてNC-3000(日本化薬(株))71.8質量部、硬化剤としてフェノライト(登録商標)TD2090(DIC(株))27.9質量部、及び硬化促進剤としてキュアゾール(登録商標)2PZ(四国化成工業(株))0.3質量部を、アセトン100質量部に溶解して、50質量%の樹脂溶液Aを調製した。
【0060】
[3]塗工用スラリーの作製
[製造例3]
樹脂溶液Aに、天然黒鉛を樹脂質量の3.16倍、炭素繊維を黒鉛に対して4質量%添加し、塗工に適切な濃度になるよう、アセトンで黒鉛濃度が50質量%になるように希釈し、塗工用スラリーを得た。
【0061】
[4]導電性金属樹脂積層体の作製及びその評価
[実施例1]
導電性シートAに、樹脂溶液Aを滴下して含浸させ、アセトンを揮発させ、導電性シートと樹脂との複合体である積層体製造用シートを作製した。樹脂溶液の含浸量は、アセトン揮発後の複合体坪量が92g/m2となるように行った。
作製した積層体製造用シートを厚さ50μmのステンレス鋼(SUS)箔としてSUS304Hの上下面に配置し、離型シートであるポリテトラフルオロエチレンシートで挟んだ後、圧縮成形機にて金型温度90℃、圧力1MPaにて30秒加圧し、SUS箔に複合体を溶着した積層体Aを作製した。
【0062】
[比較例1]
製造例3のスラリーを乾燥後に101g/m2/片面となるようにバーコーターを用いて、SUS箔の両面に塗工し、乾燥させ、積層体Bを得た。
【0063】
積層体A及びBについて、以下の評価を行った。
【0064】
[表面観察]
積層体A及びBをそれぞれ流路となる溝が付いた金型に投入し、圧縮成形機で、金型温度185℃、圧力60MPaにて5分間加熱成形し、流路付き積層体A及びBを得た。
流路付き積層体A及びBそれぞれの表面をデジタルマイクロスコープで観察した。結果を表1に示す。また、流路付き積層体Aの観察画像を図1に、流路付き積層体Bの観察画像を図2に示す。なお、図1及び2中、1は流路の凸部を、2は流路の側面を、3は流路の底部を示す。
【0065】
[貫通抵抗]
積層体A及びBをそれぞれ平板の金型に投入し圧縮成形機で、金型温度185℃、圧力60MPaにて5分間加熱成形し、平板積層成形体A及びBを得た。これら積層成形体から切り出した15mm×15mm×0.15mmの試験片の上下に金メッキを施した銅電極を配置して上下方向に1MPaの面圧をかけながら電流密度1A/cm2となるように電流を流し、その際の電圧降下を4端子法により測定し、下記式に従って貫通抵抗を求めた。結果を表1に示す。
貫通抵抗(mΩ・cm2)=電圧降下÷電流密度
【0066】
[曲げ強度]
積層体A及びBをそれぞれ平板の金型に投入し、圧縮成形機で、金型温度185℃、圧力60MPaにて5分間加熱成形し、平板積層成形体A及びBを得た。これら積層成形体から切り出した60mm×10mm×0.15mmの試験片を用い、JIS K 7171に基づき、曲げ強度を求めた。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
図1より、流路付き積層体Aは金属箔が露出せずに成形できたのに対し、図2より、流路付き積層体Bは流路の凸部1及び側面2において金属箔が露出した。表1に示した結果より、本発明の導電性金属樹脂積層体を圧縮成形して得られた成形体は、金属箔の露出がなく、導電性や強度に優れていた。
【符号の説明】
【0069】
1 流路の凸部
2 流路の側面
3 流路の底部
図1
図2