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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】車両用フード
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/10 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
B62D25/10 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019037322
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2020138682
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】堀内 正直
(72)【発明者】
【氏名】川野 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 賢治
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-151092(JP,A)
【文献】特開2008-132900(JP,A)
【文献】特開2010-000902(JP,A)
【文献】国際公開第2012/032814(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開された車両用フードであって、
前記補強部材の前部をなす面状の前方面部と、
前記前方面部の左右両端部のそれぞれから車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長された面状の後方面部と、
前記前方面部及び前記後方面部の後端辺に沿って板面を屈曲させてなり、左右の前記後方面部の間に連設される補強部とを備え、
前記補強部が、
前記前方面部または前記後方面部に対して傾斜した向きで接続される第一面部と、
前記第一面部に対して傾斜した向きで接続され、前記第一面部との間に谷折りの溝を形成する第二面部と、
前記第二面部に対して傾斜した向きで接続され、前記第二面部との間に山折りの稜線を形成する第三面部とを有する
を備えることを特徴とする、車両用フード。
【請求項2】
アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開された車両用フードであって、
前記補強部材の前部をなす面状の前方面部と、
前記前方面部の左右両端部のそれぞれから車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長された面状の後方面部と、
前記前方面部及び前記後方面部の後端辺に沿って板面を屈曲させてなり、左右の前記後方面部の間に連設される補強部とを備え、
前記補強部の先端が、前記インナーパネルに対して所定の間隔をあけて下向きに設けられる
を備えることを特徴とする、車両用フード。
【請求項3】
アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開された車両用フードであって、
前記補強部材の前部をなす面状の前方面部と、
前記前方面部の左右両端部のそれぞれから車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長された面状の後方面部と、
前記前方面部及び前記後方面部の後端辺に沿って板面を屈曲させてなり、左右の前記後方面部の間に連設される補強部とを備え、
前記インナーパネルが、前記補強部の先端に対向する稜線よりも車両後方において面状に形成され、前記先端の接触時に前記先端を滑動させる滑り面を有する
を備えることを特徴とする、車両用フード。
【請求項4】
アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開された車両用フードであって、
前記補強部材の前部をなす面状の前方面部と、
前記前方面部の左右両端部のそれぞれから車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長された面状の後方面部と、
前記前方面部及び前記後方面部の後端辺に沿って板面を屈曲させてなり、左右の前記後方面部の間に連設される補強部とを備え、
前記前方面部が、前記補強部の前方かつ車幅方向の中央部にて車幅方向に間隔をあけて並設された一対の開口部を有する
を備えることを特徴とする、車両用フード。
【請求項5】
前記第一面部及び前記第三面部が、車両後方に向かう下り勾配で傾斜した姿勢で配置される
ことを特徴とする、請求項記載の車両用フード。
【請求項6】
前記一対の開口部が、車幅方向の間隔が前後方向に一定になるように配置される
ことを特徴とする、請求項記載の車両用フード。
【請求項7】
前記後方面部の車両内側端辺から車両後方に向かって延設され、前記インナーパネルに固定される脚部を備え、
前記補強部が、左右の前記脚部の間に連設される
ことを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載の車両用フード。
【請求項8】
前記補強部が、車両後方側に下る階段状に形成される
ことを特徴とする、請求項1~7の何れか一項に記載の車両用フード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開された車両用フードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のコンパートメント(エンジンルームやモータールームなど)の上面を覆う車両用フードにおいて、アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材を挿入した構造が知られている。例えば、インナーパネルにアーチ状のブラケットを固定し、ブラケットの板面をアウターパネルの裏面に沿って展開させた構造が提案されている(特許文献1参照)。また、アウターパネルの裏面に板状の補強部材を取り付けて剛性を高めた構造も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-306237号公報
【文献】特開2016-010995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用フードに外力が作用したときのエネルギーは、アウターパネルや補強部材の変形によって吸収される。したがって、その変形形状を制御することができれば、緩衝性能が向上しうる。一方、既存の車両用フードはこのような点が十分に考慮されたものとはいえず、改良の余地がある。例えば、補強部材をインナーパネルに固定するための構造に工夫を施すことで、さらなる緩衝性能の改善が期待される。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、車両用フードの補強部材の変形形状を制御して緩衝性能を向上させることである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の車両用フードは、アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開される車両用フードである。この車両用フードは、前記補強部材の前部をなす面状の前方面部と、前記前方面部の左右両端部のそれぞれから車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長された面状の後方面部とを備える。また、前記前方面部及び前記後方面部の後端辺に沿って板面を屈曲させてなり、左右の前記後方面部の間に連設される補強部を備える。また、以下の(1)~(4)の何れかの構成を備える。
(1)前記補強部が、前記前方面部または前記後方面部に対して傾斜した向きで接続される第一面部と、前記第一面部に対して傾斜した向きで接続され、前記第一面部との間に谷折りの溝を形成する第二面部と、前記第二面部に対して傾斜した向きで接続され、前記第二面部との間に山折りの稜線を形成する第三面部とを有する。
(2)前記補強部の先端が、前記インナーパネルに対して所定の間隔をあけて下向きに設けられる。
(3)前記インナーパネルが、前記補強部の先端に対向する稜線よりも車両後方において面状に形成され、前記先端の接触時に前記先端を滑動させる滑り面を有する。
(4)前記前方面部が、前記補強部の前方かつ車幅方向の中央部にて車幅方向に間隔をあけて並設された一対の開口部を有する。
【発明の効果】
【0007】
補強部材の前方面部及び後方面部の後端辺に沿って補強部を連設することで、後端辺近傍の剛性を高めることができ、後端辺とインナーパネルとを接合するためのブラケットや脚部を省略することができる。これにより、外力作用時における補強部材の変形量を増大させることができ、車両用フードの緩衝性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例としての車両用フードの分解斜視図である。
図2】補強部材の上面図である。
図3】補強部材の階段フランジを示す斜視図である。
図4】(A),(B)は補強部材の断面図である。
図5】外力による階段フランジの変形を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.構成]
[1-1.車両用フード]
図1図5を参照して、実施例としての車両用フード10を説明する。この車両用フード10は、車両の前部に設けられるコンパートメント(エンジンルームやモータールームなどの車載品収容室)の上面を被覆する部材である。コンパートメントの後端部近傍には、車体に対して車両用フード10を開閉可能に枢支するヒンジや、車両用フード10を開放方向に付勢するスプリングが設けられる。また、コンパートメントの前端部近傍には、車両用フード10の閉鎖状態を維持するためのフードロック装置や、開放状態を保持させるのに用いられるサポートロッドなどが設けられる。
【0010】
図1に示すように、車両用フード10は、アウターパネル1(フードアウターパネル)とインナーパネル2(フードインナーパネル)との間に補強部材3(フードロックリンフォースアッパー)が展開された構造を持つ。アウターパネル1は車両用フード10の外表面をなす部材であり、表側の板面には意匠的な塗装や凹凸加工が施される。また、アウターパネル1の前部には、コンパートメント内に導入される冷却風が通過する開口部が形成されたグリル補強部11が設けられる。グリル補強部11には、車両のグリル12が取り付けられる。車両のヘッドランプ13は、コンパートメントよりも前方において、車体に取り付けられる。ヘッドランプ13の位置は、車両用フード10の閉鎖状態において、グリル12の左右側方となる位置に設定される。
【0011】
インナーパネル2は、アウターパネル1に対して所定の間隔をあけて、その下方に配置され、アウターパネル1の外縁部に対して接合される。インナーパネル2の板面には、強度や剛性を高めるための凹凸が設けられる。本実施形態のインナーパネル2には、縁部14と梁部15とが設けられる。縁部14は、インナーパネル2の左右両端の縁に沿って形成されたほぼ水平な部位であり、補強用のフランジとして機能する。また梁部15は、板面を下方にへこませるとともに、そのへこみを縁部14の内側に沿って車両前後方向に連ねた部位であり、インナーパネル2の曲げ剛性を高める構造断面として機能する。
【0012】
補強部材3は、アウターパネル1とインナーパネル2とで囲まれた空間内において、アウターパネル1の板面に沿って面状に配置される。補強部材3の材質は、アルミ合金(例えば、Al-Mg系合金やAl-Mg-Si系合金など)であり、圧延板を加工して形成される。補強部材3は、アウターパネル1やインナーパネル2に対して固定される。例えば、本実施形態の補強部材3は、アウターパネル1に対してマスチック接着剤で固定されるとともに、インナーパネル2に対して溶接固定される。
【0013】
車両の上面視における補強部材3の全体形状は、弓なりに湾曲したブーメラン形状に準えられ、車幅方向の中央部付近が車両前方に飛び出すようなレイアウトで配置される。また、補強部材3の形状は、車両の上面視で左右対称(鏡面対称)である。図2に示すように、本実施形態の補強部材3は、前方面部4と一対の後方面部5とを有する。前方面部4とは、補強部材3の前部をなす面状の部位である。図2に示す前方面部4は半月状に形成されている。
【0014】
後方面部5とは、前方面部4の左右両端部のそれぞれから、車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長された面状の部位である。前方面部4と後方面部5との境界線を、図2中に一点鎖線で例示する。ただし、前方面部4及び後方面部5は一体に形成されており、これらの境界は便宜的に定めたものに過ぎない。前方面部4及び後方面部5には複数の開口部9が設けられて軽量化される。また、前方面部4における車幅方向の中央付近には、へこみ部19が設けられる。へこみ部19は、板面全体が周囲の板面よりも下方に沈下した形状に形成される。
【0015】
補強部材3には、インナーパネル2に固定される三対の脚部6,7,8が設けられる。これらの脚部6,7,8は、補強部材3からその外側かつ下方に向かって斜めに延設される。以下、前方面部4に設けられる脚部を前脚部6と呼ぶ。また、後方面部5に設けられる脚部のうち、車両外側に位置するものを後脚部7と呼び、車両内側に位置するものを第二後脚部8と呼ぶ。
【0016】
前脚部6は、前方面部4の前端部であって、グリル補強部11の左右両側方(グリル12を避けた位置)に配置される。車両の上面視における前脚部6の位置は、図2に示すように、ヘッドランプ13の裏側に相当する位置である。前脚部6の先端は、インナーパネル2の縁部14に対して面接触した状態で固定され、例えばスポット溶接で固定される。車両の上面視で前方面部4から前脚部6が伸びる方向は、斜め前方(車両外側かつ前方へ向かう方向)とされる。
【0017】
前方面部4の前端辺のうち左右の前脚部6によって挟まれた部分には、下方に向かって折り曲げられたフランジ16が形成される。ただし、フランジ16の左右両端部は、前脚部6に達する手前で途切れている。前方面部4の前端辺のうち、前脚部6に隣接する車両中央側の部位には、フランジ16が形成されない。一方、前脚部6に隣接する車両外側の部位には、第二フランジ17が形成される。第二フランジ17は、前方面部4の左右側端辺を下方に向かって折り曲げて形成された部位であり、前脚部6の板面につながるように設けられる。第二フランジ17の後端部は、後方面部5に達する手前で途切れている。
【0018】
後脚部7及び第二後脚部8は、後方面部5から延設される。後脚部7は、後方面部5の車両外側端辺のうち、車両後方寄り(端部寄り)の位置に配置される。これに対し、第二後脚部8は、後方面部5の車両内側端辺のうち、車両後方寄り(端部寄り)の位置に配置される。大まかにいえば、後脚部7及び第二後脚部8の位置は、ブーメラン形状における左右両端部(二つの先端)に相当する位置に設定される。また、ブーメラン形状の外側に配置されるのが後脚部7であり、ブーメラン形状の内側に配置されるのが第二後脚部8である。
【0019】
車両の上面視で後方面部5から第二後脚部8が伸びる方向は、前脚部6とは正反対の方向であって、斜め後方(車両内側かつ後方へ向かう方向)とされる。また、後方面部5から後脚部7が伸びる方向は、車両前方とされる。これにより、後脚部7の基端から先端までの距離が長くなり、外力作用時における変形のストロークが大きくなる。また、後脚部7を車幅方向外側に伸ばした場合と比較して、後脚部7の車幅方向への突出が抑制される。
【0020】
後脚部7の先端は、インナーパネル2の縁部14に対して面接触した状態で固定(例えばスポット溶接)される。一方、第二後脚部8の先端は、インナーパネル2の板面に対して面接触した状態で固定され、例えばスポット溶接で固定される。また、図2に示すように、後方面部5の車両外側端辺には、第二フランジ17が形成されない。つまり、後方面部5と後脚部7との境界付近には断面二次モーメントを増加させるための補強構造をあえて適用しないことで、曲げ変形を許容している。
【0021】
[1-2.階段フランジ]
前方面部4の後端辺や後方面部5の後端辺(車両内側端辺)には、板面を屈曲させてなる階段フランジ18(補強部)が設けられる。図2図3に示すように、階段フランジ18は、前方面部4及び後方面部5の後端辺に沿って、左右の後方面部5の間に連設される。階段フランジ18は、第二後脚部8の板面に対して滑らかにつながるように形成される。これにより、ブーメラン形状の補強部材3の内側に相当する全範囲が補強され、インナーパネル2に固定されるブラケットや脚部の数を削減することが容易となる。
【0022】
図3に示すように、本実施形態の階段フランジ18は、車両後方側に下る階段状に形成される。すなわち、板面を三回屈曲させることで、断面形状を階段状にしている。このような階段フランジ18の形状は、前方面部4及び後方面部5の後端辺を下方及び車両後方に向かって交互に屈曲させることによって形成される。また、図4(A)に示すように、階段フランジ18には第一面部61,第二面部62,第三面部63が設けられる。
【0023】
第一面部61は、前方面部4,後方面部5に対して傾斜した向きで接続される面状の部位である。第一面部61の屈曲方向は下方向である。第二面部62は、第一面部61に対して傾斜した向きで接続され、第一面部61との間に谷折りの溝を形成する面状の部位である。第二面部62の屈曲方向は上方向である。少なくともへこみ部19の直後方に位置する第二面部62は、へこみ部19とほぼ平行に設けられ、その板面がほぼ水平とされる。
【0024】
第三面部63は、第二面部62に対して傾斜した向きで接続され、第二面部62との間に山折りの稜線を形成する面状の部位である。第三面部63の屈曲方向は、第一面部61と同様に下方向であり、好ましくは第一面部61と同一の屈曲角度で形成される。これにより、第三面部63は第一面部61に対してほぼ平行となる。また、第三面部63の先端68(下端)は、インナーパネル2に対して所定の間隔をあけて下向きに設けられる。
【0025】
本実施形態では、たとえ第三面部63の先端68がインナーパネル2に接触したとしても、その先端68が車両後方に向かって滑りやすくなる構造となっている。図4(A)に示すように、第三面部63の先端68は、インナーパネル2の稜線67に対向するように設けられる。インナーパネル2の上面視における稜線67の配置形状は、図1に示すようにU字型とされる。これに対応するように、第三面部63の先端68もU字型に配置される。
【0026】
稜線67よりも車両後方側の部位は平面状に形成され、第三面部63の先端68が接触したときにその先端68を滑動させる滑り面66として機能する。稜線67からの距離が遠い位置には、第三面部63の先端68が接触しえないため、稜線67よりも車両後方側の全体を平面状に形成する必要はない。稜線67の近傍(稜線67までの距離が所定距離以下となる範囲)を平面状に形成しておけばよい。なお、滑り面66は厳密に平面にする必要はなく、例えば第三面部63の先端68が滑動しうる程度に滑らかな曲面として形成してもよい。
【0027】
前方面部4のへこみ部19には、一対の中央開口部64が設けられる。中央開口部64は、階段フランジ18の前方であって車幅方向の中央部に配置される。図3図4(B)に示すように、二つの中央開口部64は、車幅方向に間隔をあけて並設される。中央開口部64の形状は、車両前後方向に細長い形状(例えば四角形や台形)とされる。本実施形態では、車幅方向の間隔が前後方向に一定になるように、二つの中央開口部64が配置される。以下、二つの中央開口部64に挟まれた部位のことを梁部65と呼ぶ。梁部65は、車両前後方向に延在する一定幅の梁として機能し、階段フランジ18の上下方向の弾性変形を安定させる部位となる。
【0028】
[2.作用,効果]
図5は、車両用フード10の上方からアウターパネル1に外力が作用したときの階段フランジ18の変形状態を例示する図である。上記の車両用フード10の前方面部4には、インナーパネル2に固定されるブラケットや脚部が設けられていない。したがって、前方面部4の変形量が増大し、階段フランジ18が下方に向かって移動するように変形しやすくなる。
【0029】
階段フランジ18の先端68がインナーパネル2の滑り面66に接触すると、その先端68が滑り面66の表面に沿って滑動する。先端68の移動方向は、図5中に黒矢印で示すように、車両後方へ向かう方向となる。このとき、第一面部61,第二面部62,第三面部63の屈曲角度が浅くなるように階段フランジ18が変形する。また、階段フランジ18の先端68は、インナーパネル2の滑り面66以外の部位には接触しない。このように階段フランジ18は、外力作用時に十分な変形ストロークで変形し、外力のエネルギーを吸収する。
【0030】
(1)上記の車両用フード10の補強部材3には、前方面部4と後方面部5とが設けられ、これらの後端辺に沿って板面を屈曲させた補強部としての階段フランジ18が連設される。このような構造により、補強部材3の後端辺近傍の剛性を高めることができ、後端辺とインナーパネル2とを接合するためのブラケットや脚部を省略することができる。また、外力作用時には階段フランジ18がインナーパネル2に接触するまで補強部材3を自由に変形させることができ、補強部材3の変形量を増大させることができる。したがって、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。なお、ブラケットや脚部を省略することで、インナーパネル2との固定箇所の破断による意図しない変形を防止することができる。これに加えて、インナーパネル2と補強部材3との固定手法がスポット溶接である場合には、溶接箇所数を減少させることができ、溶接作業時間やコストを削減することができる。
【0031】
(2)図2に示すように、階段フランジ18は、左右の第二後脚部8の間に連設される。これにより、補強部材3の後端辺近傍の剛性を高めることができ、ブラケットや脚部を省略することをより容易にすることができる。また、第二後脚部8の近傍での後方面部5の座屈変形を抑制することができ、外力作用時に補強部材3を意図した通りに変形させることが容易となる。したがって、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0032】
(3)図3に示すように、階段フランジ18は、補強部材3の後端辺を下方及び車両後方に向かって交互に屈曲させることによって、車両後方側に下る階段状に形成されている。このような構造により、補強部材3の後端辺近傍の剛性を高めることができる。また、階段フランジ18の先端68の位置を容易に車両後方かつ下方へ移動させることができる。これにより、例えば補強部材3の後端部とインナーパネル2との距離が離れている場合に、先端68の位置を適切に設定することができる。
【0033】
(4)図4(A)に示すように、階段フランジ18には、三つの面部(第一面部61,第二面部62,第三面部63)が設けられる。第一面部61と第二面部62との間には谷折りの溝が形成され、第二面部62と第三面部63との間には山折りの稜線が形成される。このような構造により、先端68がインナーパネル2に接触したときに、屈曲角度が浅くなるように階段フランジ18を変形させることが容易となる。つまり、階段フランジ18の変形によって外力のエネルギーを吸収させることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0034】
(5)図4(A)に示すように、第一面部61,第三面部63は、車両後方に向かう下り勾配で傾斜した姿勢で配置される。これらの面部61,63を斜めにすることで、面部61,63が垂直である場合と比較して、先端68を車両後方に向かって滑りやすくすることができ、補強部材3の変形量を大きくすることができる。したがって、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0035】
(6)図4(A)に示すように、階段フランジ18の先端68は、インナーパネル2に対して所定の間隔をあけて下向きに設けられる。これにより、外力作用時に少なくとも先端68がインナーパネル2に接触するまでは、補強部材3を自由に変形させることができ、変形ストロークを確保することができる。したがって、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0036】
(7)図4(A)に示すように、インナーパネル2には滑り面66が設けられる。滑り面66は、階段フランジ18の先端68に対向する稜線67よりも車両後方において、面状に形成されている。このように、階段フランジ18の先端68を車両後方に向かって滑りやすくすることで、先端68がインナーパネル2に接触した後にも補強部材3を変形させることができ、変形ストロークを確保することができる。したがって、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0037】
(8)図3に示すように、階段フランジ18の前方には一対の中央開口部64が設けられる。中央開口部64を設けることで、へこみ部19を上下方向に変形しやすくすることができる。これにより、へこみ部19の変形ストロークを増大させることができ、ひいては階段フランジ18の変形ストロークを増大させることができる。したがって、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0038】
(9)図3に示すように、一対の中央開口部64の間には梁部65が設けられる。梁部65は、へこみ部19のねじれ変形を抑制しつつ、上下方向の弾性変形を安定させるように機能する。梁部65を設けることで、へこみ部19や階段フランジ18を意図した通りに変形させることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0039】
[3.変形例]
上記の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、本実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0040】
上述の実施形態では、前方面部4及び後方面部5の板面を三回屈曲させることによって階段フランジ18を形成しているが、屈曲回数はこれに限定されない。例えば、板面を一回屈曲させてもよいし、板面をクランク状に二回屈曲させてもよい。少なくとも、前方面部4及び後方面部5の後端辺に沿って板面を屈曲させて補強部を形成するとともに、その補強部を左右の後方面部5の間に連設することで、上述の実施形態と同様の作用,効果を奏するものとなる。
【符号の説明】
【0041】
1 アウターパネル
2 インナーパネル
3 補強部材
4 前方面部
5 後方面部
6 前脚部
7 後脚部
8 第二後脚部(脚部)
9 開口部
10 車両用フード
18 階段フランジ(補強部)
19 へこみ部
61 第一面部
62 第二面部
63 第三面部
64 中央開口部
65 梁部
66 滑り面
67 稜線
68 先端
図1
図2
図3
図4
図5