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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】生体試料凍結保存用チューブ
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230511BHJP
   C12N 1/04 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N1/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019049572
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020150797
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田中 速雄
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 幸太
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-503654(JP,A)
【文献】特表2019-500592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
A01N 1/00-65/48
B01L 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料を封入して凍結保存するためのチューブであって、
上端部に開口部を有し、下端部に閉鎖底部を有するチューブ本体と、前記開口部を閉鎖するキャップとを備え、
前記閉鎖底部の頂部に、前記チューブ本体の側壁よりも肉薄構造であり且つ凹形状である凹状嵌合部が形成されている
生体試料凍結保存用チューブ。
【請求項2】
前記閉鎖底部の前記頂部に、前記チューブ本体の前記側壁よりも肉薄構造である平坦部を有し、前記平坦部の厚みが均一である、請求項1に記載の生体試料凍結保存用チューブ。
【請求項3】
生体試料を封入して凍結保存するためのチューブであって、
上端部に開口部を有し、下端部に閉鎖底部を有するチューブ本体と、前記開口部を閉鎖するキャップとを備え、
前記閉鎖底部の頂部に、前記チューブ本体の側壁よりも肉薄構造である平坦部を有し、前記平坦部の厚みが均一である
生体試料凍結保存用チューブ。
【請求項4】
前記閉鎖底部の全体が、前記チューブ本体の前記側壁よりも肉薄構造である、請求項1~3のいずれか1項に記載の生体試料凍結保存用チューブ。
【請求項5】
前記チューブ本体の前記閉鎖底部を有する前記下端部に、前記チューブ本体の前記側壁が延在して前記閉鎖底部を覆うように形成されたスカート部を有し、前記スカート部が前記閉鎖底部の前記肉薄構造よりも肉厚である、請求項1~4のいずれか1項に記載の生体試料凍結保存用チューブ。
【請求項6】
前記チューブ本体がポリプロピレン樹脂を用いて作製されたものであり、前記閉鎖底部の前記肉薄構造が0.5mm以上1.0mm以下の厚さである、請求項1~5のいずれか1項に記載の生体試料凍結保存用チューブ。
【請求項7】
上端部に開口部を有し、下端部に閉鎖底部を有するチューブ本体と、前記開口部を閉鎖するキャップと、を備え、前記閉鎖底部の頂部に、前記チューブ本体の側壁よりも肉薄構造であり且つ凹形状である凹状嵌合部が形成されている生体試料凍結保存用チューブと、
温度を一定に保つことができる恒温部を有し、前記恒温部に、前記生体試料凍結保存用チューブの前記凹状嵌合部と嵌合する凸形状である凸状嵌合部が形成されている恒温装置と、
を備える生体試料の凍結保存および解凍セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学試験などにおいて生体試料の凍結保存用容器として用いられる生体試料凍結保存用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
凍結保存用チューブは、従来から生化学試験などにおいて、細胞や受精卵などの生体試料等を冷媒中において凍結保存するための保存容器として広く利用されている。その基本的な構造としては、開口部および閉鎖底部を有し、生体試料等を内部に収容するチューブ本体と、このチューブ本体の開口部を閉鎖して内容物の漏れなどを防止するキャップとを備える。
【0003】
例えば特許文献1には、一端に開口部を有した容器(チューブ)本体と、この開口部を閉鎖する蓋(キャップ)とを備え、蓋と容器本体とは、ねじ蓋機構により、互いに脱着可能であり、蓋には、ねじ蓋機構の回転の中心軸方向から見た際に回転の中心から蓋の外周までの距離が長い部位と、距離が短い部位とを有し、距離が短い部位と距離が長い部位とを連なる面を備える指掛け部が設けられている試験容器が開示され、この試験容器が凍結保存チューブとして使用されることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-029945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のチューブなどにおいては、チューブ本体内部に封入された受精卵などの生体試料の生存率が低下することを抑制するために、その急速凍結が求められる。また、同様の理由から、凍結保存された生体試料を解凍する場合、恒温水槽にチューブを浸漬したり、チューブの底面に嵌合する金属製の恒温ブロック等を使用したりして効率よく解凍を行うことが求められる。
【0006】
しかしながら、一般的な樹脂製の凍結保存用チューブは、その射出成形時において、チューブ本体における閉鎖底部の頂部(例えば、円錐台形状の頂面部分近傍など)に射出成型用のゲート(樹脂が流れ込む入口)があるため、射出成型時の樹脂流れなどから閉鎖底部の頂部が他の部位よりも肉厚になってしまったり、ここにゲート残り(ゲート跡)が発生したりしてしまう場合がある。そして、このような凍結保存用チューブでは、封入された生体試料が存在するチューブ本体の閉鎖底部付近における熱伝導性が他の部位よりも劣るため、封入された生体試料の急速凍結がし難く、また、凍結保存された生体試料を恒温水槽や恒温ブロックなどを使用して解凍を行っても、迅速な解凍がし難いという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、封入された生体試料の急速凍結が可能であり、且つ、内部の凍結された生体試料の解凍も効率良く行うことが可能である生体試料凍結保存用チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る生体試料凍結保存用チューブは、生体試料を封入して凍結保存するためのチューブであって、上端部に開口部を有し、下端部に閉鎖底部を有するチューブ本体と、この開口部を閉鎖するキャップとを備え、閉鎖底部の少なくとも一部が、チューブ本体の側壁よりも肉薄構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る生体試料凍結保存用チューブは、封入された生体試料の急速凍結が可能であり、且つ、内部の凍結された生体試料の解凍も効率良く行うことが可能であり、凍結保存用チューブでの生体試料の凍結時および解凍時における生存率低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブの全体(チューブ本体およびキャップ)を示す正面図/断面図である。
図2】本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブの、全体が肉薄構造である閉鎖底部、およびスカート部を含む下端部を示した拡大断面図である。
図3】本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブの、凹状嵌合部を備える閉鎖底部、およびスカート部を含む下端部を示した拡大断面図である。
図4図3に示す閉鎖底部の凹状嵌合部と、恒温部に備わる凸状嵌合部とが嵌合した状態を示した拡大断面図である。
図5】本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブの、凹状嵌合部を備える閉鎖底部を含む下端部を示した拡大断面図である。
図6】従来の生体試料凍結保存用チューブの一例について、閉鎖底部付近を示した拡大断面図である。
図7】従来の生体試料凍結保存用チューブの別の例について、閉鎖底部付近を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る生体試料凍結保存用チューブの実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。なお、いずれの図面についても、便宜上、符号を付していない(省略している)箇所がある。
【0012】
<概要>
まず、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブの概要について、図1から図5の符号を参照して説明する。
なお、図1は、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブ(チューブ本体がキャップにより閉鎖されていない状態)を示す模式的な正面図/断面図(上側が正面図、下側が断面図)である。また、図2から図5は、それぞれ本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブの、チューブ本体における下端部(閉鎖底部、スカート部および側壁本体部の一部)を示した模式的な拡大断面図である。
【0013】
本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブは、生体試料を封入して(生体試料を内容物として収容してから開口部をキャップにより閉鎖して)冷媒中などにおいて急速凍結および凍結保存するための、ならびに恒温装置などにより凍結された生体試料を解凍するためのチューブ容器である。
そして、上端部に開口部3を有し、下端部に閉鎖底部5を有するチューブ本体1と、開口部3を閉鎖するキャップ11とを備え、閉鎖底部5の少なくとも一部が、チューブ本体1の側壁7よりも肉薄構造である。
【0014】
ここで、本実施形態において「冷媒」とは、氷点下以下の温度であり、且つ被冷却物から熱を吸収して被冷却物を凍結させる働きを有する物質を意味し、例えば、液体窒素、液化アルゴン、液化ヘリウム、ドライアイスなどが示される。そして、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブは、生体試料を封入した後、液体冷媒液相に浸漬したり、固体冷媒によってその周りを囲んだりして生体試料の凍結保存を行う。
また、本実施形態において「恒温装置」とは、一定の温度(温度範囲)を保持するように制御することができる金属製などの恒温部を備え、生体試料が凍結保存されたチューブ容器にその外側から熱を伝導することが可能な装置を意味し、例えば、恒温水槽や恒温ブロックなどの装置が例示される。
【0015】
また、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブに封入する生体試料としては、受精卵、未受精卵、細胞、血清、微生物、ウイルスなどが例示される。なお、急速凍結による凍結保存や急速解凍が特に求められる(チューブの各部位における熱伝導性の違いによる影響を受けやすい)受精卵を生体試料とした場合において、本発明の効果がより発揮される傾向にある。
【0016】
<全体構成について>
本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブの全体構成について、図1を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブ全体を示す模式的な正面図/断面図であり、上端部に開口部3を有し、一方の下端部には閉鎖底部5を有するチューブ本体1(図1の下図)と、このチューブ本体1に螺合や嵌合などによって装着され、開口部3を閉鎖することができるキャップ11(図1の上図)とが示される。なお、チューブ本体1は、キャップ11が装着される側の外周面にキャップ11と螺合あるいは嵌合するための部位(螺合部、あるいは嵌合部)を備えていても良く、キャップ11の内周面にも同様に、このチューブ本体1と螺合あるいは嵌合するための部位を備えていても良い。そして、このチューブ本体1の開口部3から生体試料を内部に収容した後、キャップ11を螺合や嵌合などによって装着し、チューブ本体1の開口部3を閉鎖する。さらに、このチューブ本体1は、閉鎖底部5の少なくとも一部が側壁7よりも肉薄構造となっている。例えば、図1の実施形態においては、閉鎖底部5における頂部6(円錐台形状の頂面)が側壁7よりも肉薄構造となっている。
【0018】
ここで、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブにおける「上端部」および「下端部」とは、チューブ本体1におけるキャップ11を装着する側を上側、その反対側を下側とした場合において、チューブ本体1の長手方向の長さ(開口部3の上側末端からスカート部4または閉鎖底部5の下側末端までの長さ)の上側1/3の領域が「上端部」であり、下側1/3の領域が「下端部」である。例えば、図1の実施形態においては、チューブ本体1における螺合部を含む上側から1/3の長さまでの領域が上端部であり、下側から1/3の長さまでの主に断面が示されている領域が下端部である。なお、この上端部と下端部の間にある領域は中央部である。
また、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブにおける「閉鎖底部5」とは、チューブ本体1の下端部において、チューブ本体1の内径が下側に向かって縮径がはじまる位置から閉鎖された部分までの一連の縮径している壁部分である。例えば、チューブ本体1が円筒状である場合、下端部においてこの円筒の内径よりも縮径した壁部分が閉鎖底部5である。図1から図5に示す実施形態においては、チューブ本体1の下端部において、側壁7と垂直に示された直線より下側の、縮径している壁部分が閉鎖底部5である。なお、下端部外(チューブ本体1の下側1/3を超える位置)から内径の縮径がはじまっているチューブ本体1においては、後述するスカート部4を除く下端部全体の壁部分が閉鎖底部5となる。さらに、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブにおける「側壁7」とは、チューブ本体1における閉鎖底部5を除く壁部分であり、後述するスカート部4も、この側壁7の一部である。なお、本実施形態においては、このスカート部4が縮径したものは包含されない。
さらに、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブの閉鎖底部5における「肉薄構造」とは、比較対象部分である側壁7の肉厚よりも1/2未満の肉厚である構造を意味する。なお、側壁7の肉厚とは、チューブ本体1の中央部あるいは下端部近傍における側壁7の肉厚であり、局所的に肉薄となっている部分の肉厚は除外される。
【0019】
なお、このチューブ本体1およびキャップ11を形成する材料としては、限定されるものではないが、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルテルペン(TPX)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などの熱可塑性樹脂を使用するのが好ましい。チューブ本体1およびキャップ11の強度や成形性などが優れ、チューブ本体1の内部の視認性も高まるからである。
ここで、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブにおいては、閉鎖底部5における肉薄構造の成形性などを考慮して、チューブ本体1とキャップ11がそれぞれ異なる種類の材料により構成されていても良い。例えば、チューブ本体1がPP樹脂により形成されており、キャップ11はPE樹脂により形成されている構成などであっても良い。また、チューブ本体1の閉鎖底部5だけが他の部位とは異なる種類の材料により構成されていても良い。
【0020】
そして、チューブ本体1の形状は、閉鎖底部5以外は筒状(好ましくは円筒状)であるのが好適であり、また、閉鎖底部5の形状は、円錐台形状(コニカル底)あるいは半球形状(丸底)であるのが好適である。さらに、この閉鎖底部5において、その一部に、肉薄構造としてその厚み(肉厚)が均一な平坦部(平坦面)を有していても良い。また、チューブ本体1には、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブを自立可能とするための手段を有していても良い。この自立可能とするための手段としては、例えば図1に示すような、チューブ本体1の側壁7が延在してチューブ本体1の閉鎖底部5を覆うように形成された、閉鎖底部5の肉薄構造よりも肉厚である略円筒形状のスカート部4などが例示される。
また、キャップ11は、チューブ本体1に装着して開口部3を閉鎖するために、チューブ本体1の開口部3と装着できる形状および大きさを有する必要がある。さらに、このキャップ11は、図1に示すような、チューブ本体1と分離できる構成であっても良く、あるいは、ヒンジ部などの接続部材によってチューブ本体1と接続されて一体となった構成であっても良い。
ここで、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブは、生体試料を封入することから、チューブ本体1およびキャップ11がγ線や電子線などにより滅菌された滅菌チューブであるのが好ましい。なお、チューブ本体1の容量は使用目的などに応じて任意に選択が可能であり、特段限定されるものではない。
【0021】
<閉鎖底部の構成について>
本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブの閉鎖底部5の構成について、図1から図5を参照して詳細に説明する。
【0022】
本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブは、閉鎖底部5の少なくとも一部が、チューブ本体1の側壁7よりも肉薄構造であるが、例えば、図1に示すように、コニカル底である閉鎖底部5において、その一部である頂部6が肉薄構造領域である構成が実施形態のひとつとして示される。
【0023】
ここで、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブにおける閉鎖底部5の「頂部6」とは、閉鎖底部5における一連の縮径している壁の縮径頂面あるいは頂点近傍であり、且つ生体試料凍結保存用チューブにおける外面側を意味する。例えば、コニカル底や丸底の閉鎖底部5であれば、頂部6とは円錐台形状や半球形状の頂面あるいは頂点近傍の外面側である。
【0024】
そして、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブにおいては、上記したような閉鎖底部5の一部が肉薄構造である構成であっても良いが、図2に示すような、閉鎖底部5の全体が、チューブ本体1の側壁7よりも肉薄構造である構成とするのがより好ましい。閉鎖底部5の全体が側壁7よりも熱伝導性が高いため、生体試料の急速凍結および急速解凍をより効率良く行うことが可能であり、この生体試料の凍結および解凍時における生存率低下をより抑制できるからである。なお、ここで閉鎖底部5の「全体」とは、閉鎖底部5を構成している全ての壁を意味している。
【0025】
さらに、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブにおいては、図3および図4に示すような、閉鎖底部5の頂部6に、チューブ本体1の側壁7よりも肉薄構造であり且つ凹形状である凹状嵌合部9が形成されている構成とするのがより好ましい。このような構成とすることにより、図4に示すような、この凹状嵌合部9と嵌合する凸状嵌合部23を有する恒温部21を備える恒温装置を使用して解凍を行うことで、凍結された生体試料へのより効率的な熱伝導を達成することができ、凍結保存された生体試料のより迅速な解凍が可能となるからである。
【0026】
なお、図3および図4においては、コニカル底である閉鎖底部5の頂部6がチューブ本体1の内部側に窪んで形成された凹状嵌合部9である実施形態を示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、丸底である閉鎖底部5の頂部6がチューブ本体1の内部側に窪んで形成された凹状嵌合部9を備える構成であっても良い。あるいは、例えば図5に示すような、コニカル底や丸底である閉鎖底部5の肉薄構造領域末端を取り囲むようにしてチューブ本体1の外側に向かって突起状の部材である突起部10が形成され、この突起部10と肉薄構造領域(図5に示す実施形態においては頂部6)とによって凹状嵌合部9が形成された構成であっても良い。
【0027】
そして、この凹状嵌合部9と嵌合する、恒温装置の恒温部21に備わる凸状嵌合部23については、凹状嵌合部9と嵌合できる形状であり且つ一定の温度(温度範囲)を保持するように制御することができるものであれば特段限定されないが、例えば、恒温ブロックに備わるアルミ製の凸状部材や、恒温水槽中に備わるステンレス製の凸状部材などが例示される。
【0028】
また、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブにおいては、図1から図4に示すように、チューブ本体1の閉鎖底部5を有する下端部に、チューブ本体1の側壁7が延在して(つまり連続形成されて)閉鎖底部5を覆うように形成されたスカート部4を有し、このスカート部4が閉鎖底部5の肉薄構造よりも肉厚である構成(例えば、側壁7のうちスカート部4を除く部分である側壁本体部と同じ厚さ)とするのがより好ましい。この肉厚なスカート部4により閉鎖底部5が囲まれた構成となることから、閉鎖底部5の肉薄構造領域からチューブ本体1内部へのより効率的な熱伝導を達成することができ、特に受精卵の解凍がより効率的となるからである。
【0029】
ここで、側壁7の一部であり且つ縮径していないこのスカート部4は、前述したように、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブを自立可能とするための手段ともなり得る。このチューブを自立可能とするための手段としてスカート部4を用いる場合には、チューブ本体1の長手方向において、スカート部4のチューブ下側の末端が、閉鎖底部5の頂部6と同じ位置、あるいはこの頂部6よりも下側の位置(図1から図3)となる構成とする。
【0030】
さらに、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブにおいては、図1から図5に示すように、閉鎖底部5の頂部6に、チューブ本体1の側壁7よりも肉薄構造である平坦部を有し、この平坦部の厚み(肉厚)が均一である構成とするのがより好ましい。このような平坦部(平坦面)では冷媒や恒温装置の恒温部などとの当接がよりし易く、その肉厚も均一であるため、より効率的な熱伝導を達成することができるからである。
【0031】
また、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブにおいては、チューブ本体1がポリプロピレン(PP)樹脂を用いて作製されたものであり、且つ閉鎖底部5の肉薄構造が0.5mm以上1.0mm以下の厚さである構成とするのがより好ましい。この構成では、閉鎖底部5の肉薄構造における強度が他の樹脂材料を使用して作製されたチューブと比較してより高くなり、生化学試験などにおいて頻繁に利用される遠心分離操作(遠心分離機による遠心分離処理)に耐え得る強度を有し且つ熱伝導性は優れる構成となるからである。なお、この構成においては、側壁7(とくに側壁本体部)の肉厚は少なくとも1.0mm超となる。
【0032】
本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブは、上記したような構成が例示されるが、さらに、本実施形態においては、このような生体試料凍結保存用チューブと、この生体試料凍結保存用チューブを加温するための恒温装置とを備える生体試料の凍結保存および解凍セットとして流通、販売されていても良い。
例えば、上端部に開口部3を有し、下端部に閉鎖底部5を有するチューブ本体1と、開口部3を閉鎖するキャップ11とを備え、閉鎖底部5の頂部6に、チューブ本体1の側壁7よりも肉薄構造であり且つ凹形状である凹状嵌合部9が形成されている生体試料凍結保存用チューブと、温度を一定に保つことができる恒温部21を有し、この恒温部21に、生体試料凍結保存用チューブの凹状嵌合部9と嵌合する凸形状である凸状嵌合部23が形成されている恒温装置と、を備えるセットであっても良い。
このような生体試料の凍結保存および解凍セットは、生体試料凍結保存用チューブと恒温部との嵌合が予め定められた形状により極めて容易となるため、恒温装置による生体試料凍結保存用チューブへの効率的な熱伝導を容易に達成することができ、凍結保存された生体試料の迅速な解凍が可能となる。
【0033】
なお、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブの容量は特段限定されないが、生体試料を凍結保存するという用途から、1mL以上100mL以下の容量であるのが好ましい。また、側壁7の肉厚は、1.0mm超3.0mm未満であるのが好ましく、閉鎖底部5の肉薄構造の肉厚は、0.1mm以上1.0mm以下であるのが好ましい。
【0034】
<変形例について>
本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブのさらなる変形例について説明する。
【0035】
本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブは、上端部に開口部3を有し、下端部に閉鎖底部5を有するチューブ本体1と、開口部3を閉鎖するキャップ11とを備え、閉鎖底部5の少なくとも一部が、チューブ本体1の側壁7よりも肉薄構造であるが、この肉薄構造領域は、閉鎖底部5の頂部6以外の領域であっても良い。
例えば、閉鎖底部5の頂部6は側壁7(スカート部4を含む)と同じ肉厚であり、閉鎖底部5における頂部6以外の領域が全て側壁7よりも肉薄構造である構成などが例示される。
【0036】
以上のような実施形態を含む本発明に係る生体試料凍結保存用チューブは、肉薄構造領域の熱伝導効率が側壁よりも高いため、生体試料の急速凍結が可能であり、且つ、この凍結した生体試料の解凍も効率良く行うことができるため急速解凍も可能であり、生体試料、特に受精卵などの凍結時および解凍時における生存率低下を抑制することができる。これによって、生体試料の凍結保存ロスを低減することができ、コストの低減を図ることができる。
【0037】
一般的な凍結保存チューブにおいては、閉鎖底部5の強度維持などの観点から、閉鎖底部5近傍を側壁7と同等以上の肉厚とするのが通常であるが、このような冷凍保存チューブを作製する場合において、例えば図6および図7に示すように、その射出成形時において、樹脂流れにより射出成形用ゲートがある閉鎖底部5の頂部6が他の部位よりも肉厚になってしまったり(図6)、射出成形機から金型を離すときにゲート残り(ゲート跡)が発生してしまったりする(図7における閉鎖底部5の頂部6に発生している跡など)場合がある。そして、このような部位は、チューブ外部からの熱伝導が他の部位よりも劣るため、この付近に存在するチューブ内部に封入された生体試料の急速凍結がし難く、また、凍結保存された生体試料を恒温水槽や恒温ブロックなどを使用して解凍を行っても、迅速な解凍がし難い。
しかしながら、本発明に係る生体試料凍結保存用チューブは、閉鎖底部5において肉薄構造領域を有しているため、仮に、この肉薄構造領域に射出成形のゲートがあって、樹脂流れやゲート残りが発生したとしても、側壁7よりも肉薄構造である肉薄構造領域では外部から生体試料への効率的な熱伝導が可能であるため、上記したような問題は発生し難い。
【0038】
そして、本発明に係る生体試料凍結保存用チューブは、例えば熱可塑性樹脂などを材料として用いる場合には、射出成形や真空成形など公知の成形方法によって成形して作製することができる。なお、射出成形を行う場合には、射出成形用のゲートを閉鎖底部5の頂部6にゲートがあっても良いが、閉鎖底部5の頂部6以外の領域(側壁7など)にゲートを配置して射出成形を行うのがより好ましい。
また、本実施形態に係る生体試料凍結保存用チューブは、チューブ本体1やキャップ11を、同じ材料を用いて一括して成形する場合には、金型を用いた射出成形などにより成形を行うことができるが、一方で、例えばチューブ本体1の一部(例えば閉鎖底部5など)を異なる材料を用いて形成する場合には、別途形成した閉鎖底部5とチューブ本体1の一部とを熱融着等により接合させる方法などにより成形を行うこともできる。
【0039】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)生体試料を封入して凍結保存するためのチューブであって、上端部に開口部を有し、下端部に閉鎖底部を有するチューブ本体と、前記開口部を閉鎖するキャップとを備え、前記閉鎖底部の少なくとも一部が、前記チューブ本体の側壁よりも肉薄構造である、生体試料凍結保存用チューブ。
(2)前記閉鎖底部の全体が、前記チューブ本体の前記側壁よりも肉薄構造である、(1)に記載の生体試料凍結保存用チューブ。
(3)前記閉鎖底部の頂部に、前記チューブ本体の前記側壁よりも肉薄構造であり且つ凹形状である凹状嵌合部が形成されている、(1)または(2)に記載の生体試料凍結保存用チューブ。
(4)前記チューブ本体の前記閉鎖底部を有する前記下端部に、前記チューブ本体の前記側壁が延在して前記閉鎖底部を覆うように形成されたスカート部を有し、前記スカート部が前記閉鎖底部の前記肉薄構造よりも肉厚である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の生体試料凍結保存用チューブ。
(5)前記閉鎖底部の頂部に、前記チューブ本体の前記側壁よりも肉薄構造である平坦部を有し、前記平坦部の厚みが均一である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の生体試料凍結保存用チューブ。
(6)前記チューブ本体がポリプロピレン樹脂を用いて作製されたものであり、前記閉鎖底部の前記肉薄構造が0.5mm以上1.0mm以下の厚さである、(1)~(5)のいずれか1つに記載の生体試料凍結保存用チューブ。
(7)上端部に開口部を有し、下端部に閉鎖底部を有するチューブ本体と、前記開口部を閉鎖するキャップとを備え、前記閉鎖底部の頂部に、前記チューブ本体の側壁よりも肉薄構造であり且つ凹形状である凹状嵌合部が形成されている生体試料凍結保存用チューブと、温度を一定に保つことができる恒温部を有し、前記恒温部に、前記生体試料凍結保存用チューブの前記凹状嵌合部と嵌合する凸形状である凸状嵌合部が形成されている恒温装置と、を備える生体試料の凍結保存および解凍セット。
【符号の説明】
【0040】
1 チューブ本体
3 開口部
4 スカート部
5 閉鎖底部
6 頂部
7 側壁
9 凹状嵌合部
10 突起部
11 キャップ
21 恒温部
23 凸状嵌合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7