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特許7275809エマルション型アニオン電着塗料、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】エマルション型アニオン電着塗料、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/08 20060101AFI20230511BHJP
   C09D 133/26 20060101ALI20230511BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230511BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C09D133/08
C09D133/26
C09D5/02
C09D5/44 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019081659
(22)【出願日】2019-04-23
(65)【公開番号】P2020180168
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】尾田 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔矢
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-179175(JP,A)
【文献】特開昭54-123141(JP,A)
【文献】特開2015-183105(JP,A)
【文献】特開昭49-013234(JP,A)
【文献】特開平03-139574(JP,A)
【文献】米国特許第04605476(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/08
C09D 133/26
C09D 5/02
C09D 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有するアクリル系モノマー(a1)を必須とするモノマー成分(a)を重合しアクリル系重合体(A)を得、
前記カルボキシル基を有するアクリル系重合体(A)の存在下に、アミド基を有するアクリル系モノマー(b1)を含み、カルボキシル基を有するアクリル系モノマーは含まないモノマー成分(b)を、前記モノマー成分(a)と前記モノマー成分(b)との質量比が(a):(b)=10~60:90~40の範囲で、水性媒体中で重合し、アクリル系エマルションを得、
次いで、前記モノマー成分(a)と前記モノマー成分(b)との合計100質量部に対して、硬化剤(C)を0~20質量部配合する、
エマルション型アニオン電着塗料の製造方法。
【請求項2】
前記モノマー成分(a)100質量%中に含まれるカルボキシル基を有するアクリル系モノマー成分(a1)の量が15~80質量%であり、前記モノマー成分(b)100質量%中に含まれるアミド基を有するアクリル系モノマー(b1)の量が0.1~20質量%である、請求項1記載のエマルション型アニオン電着塗料の製造方法。
【請求項3】
前記重合体(A)の重合に供された前記モノマー成分(a)と前記モノマー成分(b)との合計100質量部に対して、硬化剤(C)を0.5~10質量部配合する、請求項1または2記載のエマルション型アニオン電着塗料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン電着塗装において塗膜形成に使用できるエマルション型アニオン電着塗料と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、電着塗料中に金属等の被塗物と前記被塗物にとって対となる電極を浸漬して電圧を印加し、塗料中の電荷を帯びた塗膜形成用成分を電気泳動させて被塗物上に析出させ、塗膜を形成する塗装方法である。電着塗装は被塗物が複雑な形状であっても、均一な膜厚の塗膜形成が可能であり、更にはエッジカバー性にも優れ、スプレー塗装やディッピング塗装等と比較してムラのない塗膜形成ができることから被塗物の耐食性、耐水性、耐久性等を向上させる目的で自動車部品、建材、電子材料部品等の様々な分野において使用されている。
塗膜形成用成分の電荷によって、電着塗装はアニオン電着塗装とカチオン電着塗装とに分けられ、アニオン電着塗装はアニオン電荷を帯びた塗膜形成用成分を陽極である被塗物に電着させる塗装方法である。アルミニウム等の電着塗装においてはアニオン電着塗装が多く採用されている。
【0003】
アニオン電着塗装用塗料としては、古くは溶液重合で得られる熱硬化性のアクリル樹脂とメラミン樹脂とを含むものが知られていた。しかし、安全性やVOC排出量低減の観点から、有機溶剤の使用量が少ない電着塗料が検討されてきた。
【0004】
特許文献1には、乳化重合により調整されたアニオン性アクリル樹脂エマルションに、特定の造膜助剤を添加してなるアクリル樹脂エマルションが開示されている。具体的には、界面活性剤としてポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸ナトリウムを用い、水中でアクリル系モノマーを乳化重合した後、さらにコア用のアクリル系モノマーを乳化重合してアクリル樹脂系エマルションを得る旨記載されている(実施例6~7)。
【0005】
特許文献2には、アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミドと、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系モノマーとを有機溶剤中で重合し樹脂溶液を得、前記樹脂溶液中のカルボキシル基を中和し水溶性とした後、メラミン樹脂を加えて電着塗装用の塗料をえる旨記載されている(請求項1、段落0020、実施例等)。
【0006】
特許文献3には、カルボキシ基含有樹脂乳化剤(A)と硬化剤(B)を含む水系溶媒中で重合性単量体(C)を、(A):(B):(C)=20~50質量%:20~50質量%:20~40質量%の質量比率で乳化重合して得られるアニオン電着塗料組成物が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、アンモニウム基を有するアクリル樹脂を乳化剤としてモノマー混合物を乳化重合して得られた架橋樹脂粒子を、塗料樹脂固形分の3~20重量%含有するカチオン電着塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平4-55479号公報
【文献】特開平10-7739号公報
【文献】特開2015-183105号公報
【文献】特開2002-212488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されるアニオン電着塗装用塗料は、乳化重合の際使用する界面活性剤が硫酸ナトリウム系であり、ナトリウムイオンが塗膜中に残るため、塗膜の耐水性が不十分であるという問題があった。
特許文献2に記載されるアニオン電着塗装用塗料は、溶液重合からなる水溶性アクリル樹脂を塗膜樹脂の主成分として用いるため、形成される硬化塗膜が脆くなり易く、基材密着性や耐久性が不十分であるという問題があった。
【0010】
特許文献3に記載されるアニオン電着塗装用塗料組成物は、硬化剤(B)であるメラミン樹脂やブロックイソシアネートを20~50質量%含むものである。また、特許文献4に記載されるカチオン電着塗料組成物も、硬化剤としてブロックイソシアネートを10~50質量%含むことが好ましく、20~40質量%含むことが好ましいものである。
特許文献3、4に記載される従来の電着塗料のように、メラミン樹脂やブロックイソシアネート等の低分子硬化剤を多く含む塗料から形成される硬化塗膜は、硬度の点で良好である。
しかし、硬化剤の多さに起因し硬化歪みが大きくなり硬化塗膜の密着性が低下し易く、また、耐久性においてクラック等が生じ易い問題があった。
さらに、硬化塗膜形成時の焼付(以下、加熱硬化ともいう)工程においては、高温に設定されたオーブン内で塗料中の低分子硬化剤成分が架橋反応(硬化剤自体の自己架橋および/または硬化剤とアクリル系樹脂との架橋)を生じる前にヒューム状に揮発してオーブン内に堆積し易く、定期的に塗装ラインを止めてオーブン内を清掃する必要があり、生産性に問題があった。
【0011】
本発明は、焼付工程時にヒュームが発生し難く、焼付(硬化)により、硬度、基材密着性、耐水性、耐久性等に優れる硬化塗膜を形成できるエマルション型アニオン電着塗料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のエマルション型アニオン電着塗料(以下、単に電着塗料と省略する場合がある)は、カルボキシル基を有するアクリル系モノマー(a1)を必須として含むモノマー成分(a)を重合してなるアクリル系重合体(A)の存在下に、アミド基を有するアクリル系モノマー(b1)を含み、カルボキシル基を有するアクリル系モノマーは含まないモノマー成分(b)を、水性媒体中で重合してなるアクリル系エマルションを含有するエマルション型アニオン電着塗料であって、前記重合体(A)の重合に供された前記モノマー成分(a)と前記モノマー成分(b)との質量比が(a):(b)=10~60:90~40であり、前記モノマー成分(a)と前記モノマー成分(b)との合計100質量部に対して、硬化剤(C)を0~20質量部含有する、エマルション型アニオン電着塗料である。
【発明の効果】
【0013】
上記の本発明によれば、焼付工程時にヒュームが発生し難く、焼付(硬化)により、硬度、基材密着性、耐水性、耐久性等に優れる硬化塗膜を形成できるエマルション型アニオン電着塗料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のエマルション型アニオン電着塗料は、カウンターイオンに金属を有する所謂一般的な低分子界面活性剤を用いる代わりに、カルボキシル基を有するアクリル系重合体(A)を高分子乳化剤として用い、アミド基を有するアクリル系モノマー(b1)を含み、カルボキシル基を有するアクリル系モノマーは含まないモノマー成分(b)を水性媒体中で乳化重合してなるアクリル系エマルションを含有するものである。一般に、乳化重合は他の重合方法に比べて、重合反応物が高分子量化し易い特徴を有しており、本発明の電着塗料もまた高分子量化したアクリル系エマルションを含むため、得られる硬化塗膜の密着性、耐久性が優れる。また、電着塗料を被塗物上に電着し、形成した未硬化の塗膜を加熱硬化する際、アミド基を有するアクリル系モノマー(b1)由来のアミド基は、エマルションを構成していた粒子内を自己架橋させる。そのため、ヒュームの原因となる低分子硬化剤を多く使用しなくとも、硬化塗膜に効率的に緻密な架橋構造を構築することができ、その結果、形成される塗膜は、硬度、金属密着性、耐久性等の塗膜性能に優れるものとなる。
【0015】
また、本発明の電着塗料は、アクリル系重合体(A)の重合に供された前記モノマー成分(a)と水性媒体中で乳化重合に供された前記モノマー成分(b)との質量比を(a):(b)=10~60:90~40とすることが重要である。(a)の質量比が10以上となると乳化重合が安定に進行し、且つ得られるエマルションの保存安定性も良好となる。また、(a)の質量比が60以下となると当該電着塗料から形成される塗膜の硬度、基材密着性、耐久性等の物性がバランス良く向上する。
【0016】
本発明の電着塗料は、金属部材を被覆する塗膜を形成する目的で使用する。本発明の電着塗料を用いることにより塗膜を形成する対象は、例えば、鉄材、アルミニウム材、銅材、ニッケル材、ステンレス材、マグネシウム材等が好ましく、その用途として、電子部品、自動車部品、建材等に用いることもできる。
【0017】
<アクリル系重合体(A)>
アクリル系重合体(A)は後述する被乳化成分であるモノマー成分(b)に対し、乳化剤成分として機能するものである。アクリル系重合体(A)は、モノマー成分(b)を乳化重合する際に、モノマー成分(b)を液滴としたモノマー滴を形成したり、アクリル系重合体(A)からなるミセル内にモノマー成分(b)を可溶化したりし、ラジカル重合開始剤から発生するラジカルをミセル内に取り込んだ状態で乳化重合を開始させる。つまり、アクリル系重合体(A)は、水に不溶もしくは難溶性のモノマー成分(b)に、水中での重合の場を提供するものである。
【0018】
本明細書でアクリル系重合体(A)は、カルボキシル基を有するアクリル系モノマー(a1)を必須として含むモノマー成分(a)の共重合物である。アクリル系重合体(A)は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の方法で合成できるところ、本発明では、反応制御が容易な溶液重合が好ましく、この際には水も使用できる。アクリル系重合体(A)を溶液重合で合成する場合、例えば、得られたアクリル系重合体(A)のカルボキシル基の全部、または一部を中和し、水を添加することで水分散体ないし水溶液を得ることができ、これにより、モノマー成分(b)を乳化し、その乳化重合を可能にする。
【0019】
また、モノマー成分(b)の乳化重合の際に非水溶性の有機溶媒が存在すると塗膜の物性が低下する傾向にある。そこで溶液重合でアクリル系重合体(A)を得た場合は、減圧法等により脱溶剤を行い、有機溶剤を留去してからモノマー成分(b)の乳化重合に使用することが好ましい。
【0020】
アクリル系重合体(A)の数平均分子量は、5000~10万であることが好ましく、7000~9万であることがより好ましく、1万~7万であることがさらにより好ましい。数平均分子量が5000以上になると乳化重合で得られるアクリル系エマルションの溶液安定性がより向上し、凝集物の生成をより低減できる。また、数平均分子量が10万以下になることで、乳化重合時の反応性が良好となり、凝集物もより低減できる。
【0021】
アクリル系重合体(A)の酸価は100~500mgKOH/gであることが好ましい。より好ましくは200~400mgKOH/gである。酸価が100mgKOH/g以上になると、乳化力が向上し、乳化重合が安定に進行する。酸価が500mgKOH/g以下になると得られる硬化塗膜の耐水性がより向上する。なお、本発明において、アクリル系重合体(A)は、後述するように塩基性化合物、水を用いて水に溶解もしくは分散した状態にしておくことが好ましい。
【0022】
<モノマー成分(a)>
モノマー成分(a)は、カルボキシル基を有するアクリル系モノマー(a1)を必須とするエチレン性不飽和基含有化合物を主たる成分とするものである。カルボキシル基を有するアクリル系モノマー(a1)は、アクリル系重合体(A)に適度な親水性を付与し、塩基性物質で中和することでアクリル樹脂(A)を水溶液ないし水分散体にできる。
【0023】
アクリル系モノマー(a1)は、例えば、(メタ)アクリル酸、(無水)イタコン酸、(無水)マレイン酸等が挙げられる。2つのカルボキシル基から脱水されて生成する酸無水物基含有モノマーも、本発明におけるカルボキシル基含有モノマーに含む。これらの中でもアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。なお、本明細書でモノマーは、エチレン性不飽和基含有化合物であり、(メタ)アクリルは、アクリルおよびメタアクリル(メタクリルとも言う)を含む。
【0024】
カルボキシル基を含有するアクリル系モノマー(a1)は、モノマー成分(a)100質量%中、15~80質量%含むことがより好ましく、20~60質量%含むことがさらにより好ましい。15質量%以上使用するとアクリル系重合体(A)に適度な親水性と乳化力を付与し、乳化重合時に重合反応が安定に進行し、得られる電着塗料の保存安定性がより向上する。また、80質量%以下使用すると電着塗料から形成される硬化塗膜の耐水性がより向上する。
【0025】
アクリル系モノマー(a1)以外のモノマーで、モノマー成分(a)としては、例えば、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルモノマーが挙げられる。
(メタ)アクリレートは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
(メタ)アクリルアミドは、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、イソブチル(メタ)アクリルアミド、t-ブチル(メタ)アクリルアミド、t-オクチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ペンチルオキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシルオキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘプチルオキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-オクチルオキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-2-エチルヘキシルオキシメチル(メタ)アクリルアミド、等が挙げられる。
ビニルモノマーは、例えば、スチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0027】
<モノマー成分(b)>
モノマー成分(b)とは、アミド基を有するアクリル系モノマー(b1)を必須成分とし、カルボキシル基を有するアクリル系モノマーは含まないものであって、その多くは水に不溶もしくは難溶性で、通常、有機溶剤を用いた溶液重合や、界面活性剤を用いた乳化重合に供される。本発明は、かかる水に不溶もしくは難溶性のモノマー成分(b)を、所謂一般的な低分子量の界面活性剤を用いることなく、アクリル系重合体(A)を高分子乳化剤として用いて、乳化重合せしめることに特徴がある。また、モノマー成分(b)は、例えばポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコールないしその誘導体等をエチレン性不飽和基含有化合物と混合した状態で、被乳化成分としてラジカル重合に供することも出来る。
【0028】
アミド基を有するアクリル系モノマー(b1)としては、上述した(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマーを用いることができ、
特に、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドや、
N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ペンチルオキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシルオキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘプチルオキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-オクチルオキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-2-エチルヘキシルオキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種のアミド系モノマーを含有することが好ましい。
【0029】
N-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドやN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミドは、いずれも架橋性モノマーであり、加熱や、酸性条件下で容易に自己縮合したり、カルボキシル基や水酸基の存在下では、それらの官能基とも反応したりすることが知られている。即ち、これらのアミド基を有するアクリル系モノマー(b1)を含有するモノマー成分(b)を乳化重合してなるアクリル系エマルションは、その粒子内に自己架橋性を有することが可能となる。また、その架橋反応は、ラジカル重合時、及び塗装時の焼付工程において進行する。ラジカル重合時の架橋反応は、エマルジョン粒子内の高分子量化、三次元構造化に寄与し、得られる塗膜の硬度、基材密着性、耐久性を向上させる。また、焼付工程においてはエマルション粒子間の架橋に寄与し、造膜性を向上させて強固な塗膜を形成することができる。
【0030】
アミド基を有するアクリル系モノマー(b1)は、モノマー(b)100質量%中、0.1~20重量%含むことが好ましく、0.5~15質量%含むことがより好ましい。アクリル系モノマー(b1)を0.1質量%以上含むことで架橋密度がより向上するため、塗膜の硬度、基材密着性、耐久性がより向上する。アクリル系モノマー(b1)を20質量%以下含むことで乳化重合時の残留モノマーをより抑制できるため、焼付け工程時のヒューム発生が抑制される。
【0031】
モノマー成分(b)のうち、アミド基を有するアクリル系モノマー(b1)以外のエチレン性不飽和基含有化合物については、カルボキシル基を有するアクリル系モノマーを含まないものであれば特に制限されず、前述に挙げた(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルモノマー等を使用することができる。
【0032】
本発明の電着塗料は、塩基性化合物を含むことが好ましい。塩基性化合物は、本発明において、アクリル系重合体(A)中のカルボキシル基の一部ないし全部を中和するために使用する。塩基性化合物は、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等が好ましい。
有機アミン化合物としては、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチル-エタノールアミン、N,N-ジエチル-エタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
塩基性化合物は、電着塗料のpHを5~9程度に調整できれば良いため使用量は限定されないところ、アクリル系重合体(A)中のカルボキシル基の100質量%に対して、30~100重量%程度の割合で使用することが好ましい。塩基性化合物は、単独で使用するかまたは2種類以上併用することができる
【0033】
<アクリル系エマルション>
本願請求項1に係る発明は、所謂PBP(プロダクト・バイ・プロセス)型のクレームであり、本願請求項1に係る発明におけるアクリル系エマルションは、モノマー成分(b)の重合体をコア部、アクリル系重合体(A)をシェル部としたコア/シェル型ポリマーと、水性媒体等の液状分散媒とで構成されている。
得られたエマルション中ではアクリル系重合体(A)とモノマー成分(b)由来の重合体部分とは渾然一体化し、重合体粒子を形成し、両者を分離することは不可能に近い。一方、モノマー成分(a)とモノマー成分(b)との混合物を単に水性媒体中で重合してアクリル系エマルションを得たとしても、被乳化成分であるモノマー成分(b)に対し、アクリル系重合体(A)を乳化剤成分として用いてモノマー成分(b)を水性媒体中で重合して得られたアクリル系エマルションと同じものはできない。
【0034】
アクリル系エマルションの合成は、カルボキシル基を有するアクリル系モノマー(a1)を必須として含むモノマー成分(a)を重合してなるアクリル系重合体(A)を高分子乳化剤として、アミド基を有するアクリル系モノマー(b1)を含み、カルボキシル基を有するアクリル系モノマーは含まないモノマー成分(b)を、水性媒体中で乳化重合して行う。乳化重合は、公知の重合方法を使用できるが、以下に挙げる(ア)~(ウ)の3つの方法のいずれかにより得ることが好ましい。
【0035】
(ア)反応槽に水性媒体、およびアクリル系重合体(A)を仕込み、次いで、モノマー成分(b)を反応槽に供給しながら乳化重合をしてなる方法。
(イ)反応槽に水性媒体を仕込み、次いで、モノマー成分(b)を、アクリル系重合体(A)で乳化して予めモノマーエマルション(プレ乳化と言う)を形成してから、反応槽へ供給して乳化重合をしてなる方法。
(ウ)反応槽に水性媒体、およびアクリル系重合体(A)の一部を仕込み、次いで、モノマー成分(b)を残りのアクリル系重合体(A)で乳化して予めモノマーエマルションを形成してから、反応槽へ供給して乳化重合してなる方法。
なお、上述いずれの方法においてもアクリル系重合体(A)は高分子乳化剤として機能するものであり、水溶性ないし水分散性樹脂をさらに使用することもでき、一例として、カルボキシル基を含有するポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、およびポリビニルアルコール、ならびにその誘導体等が挙げられる。
【0036】
本発明の水性媒体には、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、アセテート類の各種親水性溶剤等や水が挙げられ、これらを単独で用いても良いし、それぞれを混合して使用しても良い。水性媒体は、乳化重合時に必須とするが、塗装造膜性を向上させる目的で重合反応後の塗料化工程において配合することもできる。
親水性有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル等の各種エーテルアルコール類ないしはエーテル類、
メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、フルフリルアルコール等のアルコ―ル類、
メチルエチルケトン、ジメチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン類、
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルコキシエステル類等が挙げられる。なお、(イソ)アルキルエーテルは、ノルマルアルキルエーテル(n-アルキルエーテル)、及びイソアルキルエーテルの各々を含む。ここでいうアルキルとは、例えばプロピル、ブチル等アルキル基の意である。
【0037】
本発明におけるアクリル系エマルションを乳化重合して得るにあたり用いる重合開始剤は、大きく分けて非水溶性開始剤と水溶性開始剤とに分けられ、非水溶性開始剤としては、例えば、
シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド、
1,1ビス(tert-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(tert-ブチルパーオキシ)オクタン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール、
ジ-tert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α, α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ-i-プロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド、
アセチルパーオキサイド、i-ブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、琥珀酸パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、
ジ-i-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ビス-(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシ-i-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート、
tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシ-i-ブチレート、tert-ブチルパーオキシピバレート、クミルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシラウエート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、クミルパーオキシオクテート、tert-ヘキシルパーオキシピバレート、クミルパーオキシネオヘキサノエート等のパーオキシエステル等の各種過酸化物系開始剤、
さらには、アゾビス-i-ブチロニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル、アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル等の各種アゾ系開始剤等が用いられ、過酸化物系開始剤が好ましい。
【0038】
水溶性開始剤としては、例えば、
過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類、
アゾビスイソブチロニトリルの塩酸塩、2,2′-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4′-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2′-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2′-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2′-アゾビス[2-(4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-1、3-ジアゼピン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2′-アゾビス[2-(3、4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2′-アゾビス[2-(5-ヒドロキシ-3、4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2′-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}二塩酸塩、2,2′-アゾビス{2-メチル-N-[1、1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2′-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等のアゾ系開始剤、
過酸化水素、tert-ブチルハイドロパーオキサド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、p-メンタンヒドロパーオキサイド等の過酸化物系開始剤等が挙げられる。
【0039】
また、これら重合開始剤と還元剤とを併用し、レドックス系重合とすることが好ましい。これにより、重合速度を促進したり、低温におけるラジカル重合をしたりすることが容易になる。レドックス系重合の際に使用される還元剤としては、例えば、
アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等の還元性有機化合物、
チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物、
硫酸第一鉄、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。
酸化剤、及び還元剤は、モノマー成分(b)100質量%に対して、それぞれ0.001~1質量%、及び0.001~2質量%程度の量を用いるのが好ましい。
【0040】
本発明の電着塗料に含まれるアクリル系エマルションは前述のように、モノマー成分(b)の重合体をコア部、アクリル系重合体(A)をシェル部としたコア/シェル型ポリマーエマルションである。シェル部にあたるアクリル系重合体(A)のTgは、0℃~130℃が好ましく、10℃~100℃がより好ましい。また、コア部にあたるモノマー成分(b)の重合体部分のTgは-20℃~100℃が好ましく、-15℃~70℃がより好ましい。これらのTgを適切な範囲に調整すると塗膜を適度な硬さに調整し易くなり、硬度及び密着性がより向上する。また、焼付時における造膜性が良好となり、塗膜の耐久性がより向上する。
なお、Tgは、ポリマーハンドブック等に記載されたモノマーのホモポリマーのTgを使用し、下記数式(1)で示すFoxの式で算出できる。
例えば、M1、M2、M3、M4、・・・・MNのモノマーを使用する場合、それぞれの質量%を、W1、W2、W3、W4、・・・・WN(W1、W2、W3、W4、・・・・WNの合計を100質量%とする。)とし、それぞれのモノマーの単独重合体のガラス転移温度(K)を、Tg1、Tg2、Tg3、Tg4、・・・・TgNとした時に、共重合して得られる共重合体のTg(K)は、下記数式(I)のFoxの式で求める。
1/Tg(K)=[(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+(W3/Tg3)+(W4/Tg4)・・・・(WN/TgN)]/100・・・・数式(1)
なお、モノマーのホモポリマーのTgが既知でない場合、TgはDSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)で測定する。DSCでの昇温は、10℃/minである。
【0041】
<硬化剤(C)>
本発明の電着塗料は、硬化剤(C)を含むことができる。硬化剤(C)を含むことにより、硬化性が良好となり、塗膜の硬度や耐久性がより向上する。但し、硬化剤(C)を含む場合、その含有量は、アクリル系重合体(A)の重合に供されたモノマー成分(a)と乳化重合に供されたモノマー成分(b)との合計100質量部に対して20質量部以下であることが重要であり、0~15質量部であることが好ましく、0.5~10質量部であることがより好ましく、1~5質量部であることがさらに好ましい。硬化剤(C)の含有量を20質量部以下とすることにより、硬化時のヒューム発生を効果的に抑制しつつ、硬化塗膜に適度な基材密着性を付与できる。
【0042】
硬化剤(C)の一例としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリイソシアネートが挙げられる。
フェノール樹脂は、ビスフェノールA、ビスフェノールF等の4官能フェノール化合物や、石炭酸、m-クレゾール、3,5-キシレノール等の3官能フェノール化合物、o-クレゾール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール等の2官能フェノール化合物とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させたもの等を挙げることができる。
アミノ樹脂としては、尿素やメラミン、ベンゾグアナミン等のアミノ化合物とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させたもの等を挙げることができる。
ポリイソシアネートは、例えば、活性メチレン、MEKオキシム、ε-カプロラクタムをブロック剤とするブロック化イソシアネート;MEKオキシム型水性イソシアネートが挙げられる。
なお、フェノール樹脂やアミノ樹脂を使用する場合には、ホルムアルデヒドの付加により生成したメチロール基の一部ないし全部を、炭素数が1~12なるアルコール類によってエーテル化を行い使用することがより好ましい。これにより塗膜の基材密着性をより向上させることができる。
【0043】
本発明の水性塗料には、必要に応じ塗膜の傷付きを防止する目的で、ワックス等の滑剤を添加することもできる。ワックスとしては、カルナバワックス、ラノリンワックス、パーム油、キャンデリラワックス、ライスワックス等の動植物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス、ポリオレフィンワックス、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)ワックス等の合成ワックス等が好適に用いられる。
【0044】
本発明の電着塗料には、塗装性や形成される塗膜物性を向上させる目的で、レベリング剤、消泡剤、界面活性剤、防腐剤、防カビ剤、防錆剤、pH調整剤等を、それぞれの目的や用途に応じて配合することができる。
【0045】
本発明の電着塗料は、顔料や染料等の着色剤を配合することもできる。顔料は、有彩色顔料(例えば、キナクリドン系、フタロシアニン系、アゾ系等)、無彩色顔料(例えば、酸化チタン、酸化鉄、アルミニウム、カーボンブラック等)が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0046】
本発明の電着塗料を用い、一般的なアニオン電着の手法にて被塗物である金属上に未硬化の塗膜を形成した後、加熱硬化することによって金属上に電着塗料の硬化物である硬化塗膜を形成することができる。
アニオン電着の手法としては、例えば、当該電着塗料を満たした電着浴槽に、被塗物である金属と対電極を浸漬し、これらの間に電圧を印加して電着塗装を行う。次いで、電着塗料とその樹脂成分とが付着した被塗物を引き上げて水浴中で余分な塗料を水洗し、その後、乾燥硬化させてアニオン電着塗装金属を得る。
アニオン電着塗装の塗装条件としては、電着塗料の液温は10~50℃、印加電圧は1~400V、電着時間は10秒~5分が例示でき、用途や目的に応じて適宜調節する。
また、塗装後の乾燥硬化条件は、140~240℃で30秒~60分間程度が好ましい。
形成される硬化塗膜の厚みは、1μm~50μm程度である。
【0047】
被塗物に用いる金属は、鉄材、アルミニウム材(陽極酸化させたものを含む)、銅材、ニッケル材、ステンレス材、マグネシウム材等の金属素材、及びこれらに電気メッキ処理もしくは化成処理した各種メッキ処理金属素材が挙げられる。
【実施例
【0048】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されない。実施例で「部」は「質量部」であり、「%」は「質量%」である。
【0049】
[製造例1]
<アクリル系重合体(A-1)の合成>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル75部、イオン交換水75部を仕込んで、加熱を開始し100℃程度で還流した。還流状態を維持したままメタクリル酸17部、スチレン58部、エチルアクリレート25部、および過酸化ベンゾイル1.3部の混合物を滴下槽から4時間にわたって連続滴下し重合した。滴下終了から1時間後、及び2時間後に過酸化ベンゾイル0.02部をそれぞれ添加し、滴下終了から3時間反応を継続した。次いで冷却することで数平均分子量28,000、ガラス転移温度64℃のアクリル系重合体の溶液(不揮発分率40%)を得た。
次に、ジメチルエタノールアミン23.3部を添加して、10分間撹拌した後、イオン交換水225部を加えアクリル系重合体を水に溶解させた。その結果、不揮発分率20%の、アクリル系重合体(A-1)水溶液を得た。
なお、数平均分子量は東ソー株式会社製GPC装置8020シリーズ(THF溶媒、カラム温度40℃、ポリスチレン標準)を用い、カラムは東ソー株式会社製G1000HXL、G2000HXL、G3000HXL、G4000HXLの4本を直列に連結したものを使用し、流量1.0ml/minにて測定した。
また、ガラス転移温度は、Foxの式で算出した。計算に使った各ホモポリマーのガラス転移温度は、メタクリル酸:130℃、スチレン:100℃、エチルアクリレート:-22℃である。
【0050】
[製造例2、3]
<アクリル系重合体(A-2)、(A-3)の合成>
製造例1の原料および配合量を表1に示した原料および配合量に変更した以外は、製造例1の合成方法と同様にして行い、それぞれアクリル系重合体(A-2)、(A-3)溶液を得た。
【0051】
[製造例101]
<アクリル系重合体(A-101)の合成>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、イソプロピルアルコール74部、ブチルセロソルブ26部を仕込み80℃に加熱し、アクリル酸8部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート24部、メチルメタクリレート36部、エチルアクリレート12部、N-ブトキシメチルアクリルアミド20部、アゾビスイソブチロニトリル1.5部を3時間かけて滴下した。滴下終了後さらに4時間反応させて、数平均分子量15,500のアクリル系重合体の溶液(不揮発分率50%)を得た。
次に、ジメチルエタノールアミン13.9部を添加して、10分間撹拌した後、イオン交換水284部を加えアクリル系重合体を水に溶解させた。その結果、不揮発分率20%の、アクリル系重合体(A-101)水溶液を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却管、3つの滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、アクリル系重合体(A-2)水溶液150部(不揮発分30部を含む)、イオン交換水113部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、モノマー成分(b)として、スチレン25部、エチルアクリレート38部、N-ブトキシメチルアクリルアミド7部の混合物を滴下槽1に仕込んだ。
また滴下槽2に1%過酸化水素水2.8部(モノマー成分(b)100部に対して0.04部の過酸化水素を含む)を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液2.8部(モノマー成分(b)100部に対して0.04部のエリソルビン酸ナトリウムを含む)を仕込んだ。
攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことでポリマーエマルションを得た。その後、イオン交換水117部、n-ブタノール25部、エチレングリコールモノブチルエーテル25部を添加し、ろ過することで不揮発分が20%のアクリル系エマルションを得、エマルション型アニオン電着塗料とした。
なお、アクリル系重合体(A-2)の重合に供されたモノマー成分(a)とモノマー成分(b)との質量比は30:70である。
【0054】
[実施例2]
実施例1と同様にしてアクリル系エマルションを得、該アクリル系エマルションの不揮発分100部に対し、硬化剤(C)としてPHENODUR PR285(オルネクス社製フェノール樹脂、不揮発分率55%)を1.82部加え、表2に示すエマルション型アニオン電着塗料とした。
【0055】
[実施例3]
撹拌機、温度計、還流冷却管、3つの滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、イオン交換水47部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、モノマー成分(b)であるスチレン25部、エチルアクリレート38部、N-ブトキシメチルアクリルアミド7部の混合物を、アクリル系重合体(A-2)水溶液150部(不揮発分30部を含む)と水66部によって乳化液とし、該乳化液を滴下槽1に仕込んだ以外は実施例1と同様にしてアクリル系エマルションを得、該アクリル系エマルションの不揮発分100部に対し、硬化剤(C)としてPHENODUR PR285(オルネクス社製フェノール樹脂、不揮発分率55%)を1.82部加え、エマルション型アニオン電着塗料とした。
【0056】
[実施例4]
アクリル系重合体(A-2)水溶液の代わりにアクリル系重合体(A-1)水溶液を用いた以外は実施例2と同様にして、表2に示すエマルション型アニオン電着塗料を得た。
【0057】
[実施例5]
アクリル系重合体(A-1)水溶液の代わりにアクリル系重合体(A-3)水溶液を用いた以外は実施例2と同様にして、表2に示すエマルション型アニオン電着塗料を得た。
【0058】
[実施例6~16]、[比較例1~7]
実施例1の材料および配合量を表2、3に示した材料および配合量に従って配合した以外は実施例1と同様に行い、それぞれ実施例6~16、および比較例1~7エマルション型アニオン電着塗料を得た。なお、表2、3で使用した材料を以下に示す。
フェノール樹脂:PHENODUR PR285(オルネクス社製、不揮発分率55%)。
アミノ樹脂:CYMEL304: メトキシメチルエーテル化メラミン樹脂(オルネクス社製、不揮発分率98%)。
【0059】
[比較例8]
アクリル系重合体(A-2)水溶液の代わりにアクリル系重合体(A-101)水溶液150部(不揮発分30部を含む)を用い、モノマー成分(b)としてスチレン3.5部、メチルメタクリレート14部、n-ブチルアクリレート3.2部、n-ブチルメタクリレート5.6部、2-エチルヘキシルメタクリレート2.4部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート5.6部、およびアクリル酸0.7部の混合物35部を用いた以外は実施例2と同様にしてアクリル系エマルションを得、硬化剤(C)としてサイメル304を36部配合し、エマルション型アニオン電着塗料を得た。
なお、特許文献3(特開2015-183105号公報)は、アミド基を有するモノマーを用いてなる乳化剤成分を用い、大量の硬化剤の存在下に、アミド基を有するモノマーを含有しない被乳化剤成分を乳化重合し、エマルション型アニオン電着塗料を開示する。比較例8は、アミド基を有するモノマーを用いてなる乳化剤成分を用い、アミド基を有するモノマーを含有しない被乳化剤成分を乳化重合してなるアクリル系エマルションに、大量の硬化剤を配合したものである。
【0060】
[アニオン電着塗装]
得られたエマルション型アニオン電着塗料を電着浴とし、被塗物としてアルミニウム材(10cm×10cm×厚さ0.28mm)を浸漬し、硬化塗膜の膜厚が15μmになるようにアニオン電着塗装し、その後、水浴にて余分な塗料を水洗して未硬化のアニオン電着塗装板を作製した。
【0061】
<ヒューム発生量>
上記で得られた未硬化のアニオン電着塗装板を、210℃にセットしたホットプレート上に乗せた。さらにこの上側に縦10cm×横10cmのアルミニウム板を、両者の間隔が1cmとなるように対面させて2分間保持し、焼付け工程で塗膜から発生するヒュームを付着させた。前記同様の試験を50回繰り返した(ただしヒュームを付着させるアルミニウム板は、交換せず同じ板を使用した)。試験終了後、ヒュームを付着させたアルミニウム板を120℃で10分間加熱して、付着物の不揮発分重量を測定し、ヒューム発生量として評価した。評価基準は下記の通りである。
◎:5mg未満。良好。
○:5mg以上~10mg未満。実用上問題なし
△:10mg以上~15mg未満。使用できない。
×:15mg以上。使用できない。
【0062】
[塗膜物性評価]
上記で得られた未硬化のアニオン電着塗装板を、温度200℃のガスオーブンで2分間焼付け硬化し、評価用の硬化塗装板を作製し、硬化塗膜の物性の試験を行った。
【0063】
<塗膜の硬化性>
得られた硬化塗装板を80℃にて還流させたメチルエチルケトン(MEK)中に60分間浸漬し、浸漬前後の塗装板の重量変化からゲル分率を算出した。
◎:95%以上。良好。
○:80%以上95%未満。実用上問題なし。
△:70%以上80%未満。使用できない。
×:70%未満。使用できない。
【0064】
<鉛筆硬度>
JIS K5600に準拠し、三菱鉛筆「ユニ(登録商標)」を使用して室温25℃の環境下、得られた硬化塗装板の塗膜面の鉛筆硬度を測定した。評価基準は下記の通りである。
◎:3H以上。良好。
○:H~2H。実用上問題なし。
△:B~F。使用できない。
×:2B以下。使用できない。
【0065】
<基材密着性>
得られた硬化塗装板に対してデュポン衝撃試験機を用いて衝撃加工試験を行った。試験後、凸加工部の塗膜に市販セロハンテープを貼着して強く剥離した後の塗膜面の剥離状態を目視で評価した。なお、衝撃加工は、直径1/2インチの撃芯を使用し、荷重300gの重りを高さ50cmから落下させて行った。評価基準は下記の通りである。
◎:加工部に剥離なし。良好。
○:加工部に5%未満の剥離あり。実用上問題なし。
△:加工部に5%以上20%未満の剥離あり。使用できない。
×:加工部に20%以上の剥離あり。使用できない。
【0066】
<耐水性>
硬化塗装板を水に浸漬したまま、100℃で30分間のボイル処理を行い、処理後の塗膜の表面状態を目視で評価した。
◎:未処理の塗膜と変化なし。良好。
○:やや白化が見られるが、実用上問題なし。
△:白化やブリスターが見られ、使用できない。
×:著しく白化やブリスターが見られ、使用できない。
【0067】
<耐久性>
Espec社製冷熱衝撃試験機TSA-101Lを使用し、硬化塗装板を-30℃で15分間冷却保持後、直ちに150℃に加熱し20分間保持し、これを1サイクルとして連続350サイクルの冷熱衝撃耐久試験を行った。試験後の塗装板の表面状態を目視で評価した。
◎:未処理の塗膜と変化なし。良好。
○:ごく僅かな塗膜の発泡が見られるが、実用上問題なし。
△:塗膜の発泡やワレが見られ、使用できない。
×:著しく塗膜の発泡やワレ、変色が見られ、使用できない。
【0068】
表2、3に実施例1~16、比較例1~8で得られたエマルション型アニオン電着塗料、およびこれらエマルション型アニオン電着塗料から得られた塗膜の物性評価結果を示す。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
表2、3に示すように、実施例1~16のエマルション型アニオン電着塗料は、全ての物性が良好であったのに対し、比較例1~8のエマルション型アニオン電着塗料では物性のいずれかが不良であり、全てが良好となるものは得られなかった。