(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】火花養生材及び火花養生方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/32 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
B23K9/32 E
(21)【出願番号】P 2019097470
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】阿部 伸
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-239369(JP,A)
【文献】実開昭57-191422(JP,U)
【文献】特開2016-016430(JP,A)
【文献】特開2011-194449(JP,A)
【文献】実開昭51-103016(JP,U)
【文献】特開2016-159396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接作業又は溶断作業に用いる火花養生材であって、
金属繊維からなる金属繊維集合体を備え、前記金属繊維集合体の内部で火花を前記金属繊維に衝突させて前記火花の軌道を変化させることにより前記火花を冷却又は消失させ
、
前記金属繊維集合体は、複数の金属繊維圧縮体からなり、
前記溶接作業で生じた煙や熱を、前記金属繊維圧縮体の空隙を介して、当該金属繊維集合体の裏面から放出させる
火花養生材。
【請求項2】
前記金属繊維集合体は、複数の可撓性を有するブロック体から構成され、隣り合う前記ブロック体が連結されたものである
請求項1に記載の火花養生材。
【請求項3】
可撓性を有し、前記金属繊維集合体を覆う金網をさらに備える
請求項1又は2に記載の火花養生材。
【請求項4】
可撓性を有し、前記金属繊維集合体に貫通された複数の金属線材をさらに備える
請求項1又は2に記載の火花養生材。
【請求項5】
前記金属繊維集合体の厚さは、3cm以上10cm以下であり、空隙率は95%以上100%未満である
請求項1~4のいずれか1項に記載の火花養生材。
【請求項6】
溶接作業又は溶断作業の際に発生する火花の飛散を抑制する火花養生方法であって、
溶接作業又は溶断作業が行われる作業位置の周りに、金属繊維からなる金属繊維集合体を配置し、前記金属繊維集合体の内部で火花を前記金属繊維に衝突させて前記火花の軌道を変化させることにより前記火花を冷却又は消失させ
、
前記金属繊維集合体は、複数の金属繊維圧縮体からなり、
前記溶接作業で生じた煙や熱を、前記金属繊維圧縮体の空隙を介して、前記金属繊維集合体の裏面から放出させる
火花養生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は火花養生材及び火花養生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接作業が行われるにあたり、作業中に発生する火花に対する養生として耐火シートや防火シートで作業位置の周囲を覆う方法等が行われている。この従来の方法に加え、火花の飛散を防止する養生装置を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この養生装置は、傘状の火花受け部と、火花受け部を支持する棒状本体部と、棒状本体部の先端に設けられたフック部を備える。火花受け部の骨格となるリブは伸縮可能であり、リブには耐火シートが番線等で取り付けられている。溶接作業を行う際は、配管等にフック部を引っ掛けて、作業位置の下方に火花受け部を配置することにより、落下する火花を受け止める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記養生装置は、火花受け部のリブ等にコストがかかる。このため、より安価に火花に対する養生を行うことのできる方法が求められている。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、溶接作業等で発生する火花に対する養生を安価に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する火花養生材は、溶接作業又は溶断作業に用いる火花養生材であって、金属繊維からなる金属繊維集合体を備え、前記金属繊維集合体の内部で火花を前記金属繊維に衝突させて前記火花の軌道を変化させることにより前記火花を冷却又は消失させる。
【0006】
上記課題を解決する火花養生方法は、溶接作業又は溶断作業の際に発生する火花の飛散を抑制する火花養生方法であって、溶接作業又は溶断作業が行われる作業位置の周りに、金属繊維からなる金属繊維集合体を配置し、前記金属繊維集合体の内部で火花を前記金属繊維に衝突させて前記火花の軌道を変化させることにより前記火花を冷却又は消失させる。
【0007】
上記構成によれば、火花養生材は、金属繊維集合体を備えるシンプルな構成であるため、安価に製造することができる。また、火花養生材は、内部に侵入した火花を、金属繊維に衝突させながらその軌道を変化させることによって冷却又は消失させるため、火花の跳ね返りを抑制することができる。
【0008】
上記火花養生材は、前記金属繊維集合体は、複数の可撓性を有するブロック体から構成され、隣り合う前記ブロック体が連結されたものであることが好ましい。
上記構成によれば、取り扱い易いブロック体を用いるため、所望の大きさ及び形状にすることができる。
【0009】
上記火花養生材は、可撓性を有し、前記金属繊維集合体を覆う金網をさらに備えることが好ましい。
上記構成によれば、作業に応じて金網を曲げることができるため、火花養生材が火花を受け止めやすくなる。また、火花は金網を通過するため、金属繊維集合体によって火花を受け止めることができる。
【0010】
上記火花養生材は、可撓性を有し、前記金属繊維集合体に貫通された複数の金属線材をさらに備えることが好ましい。
上記構成によれば、金属線材で金属繊維集合体を支持しつつ、金属線材を曲げることによって金属繊維集合体も変形させることができる。このため、火花養生材を、溶接作業又は溶断作業の際に生じる火花を受け止めやすく変形させることができる。
【0011】
上記火花養生材について、前記金属繊維集合体の厚さは、3cm以上10cm以下であり、空隙率は95%以上100%未満であることが好ましい。
上記構成によれば、金属繊維集合体が、上記の厚さ及び空隙率であることにより、火花を、金属繊維に衝突させながらその軌道を変化させることによって冷却又は消失させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶接作業等で発生する火花に対する養生を安価に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】火花養生材及び火花養生方法の第1実施形態であって火花養生材の正面図。
【
図3】同実施形態の火花養生方法を示す模式図であって、火花が金属繊維に衝突することにより軌道を変化させながら冷却又は消失する状態を示す図。
【
図4】火花養生材及び火花養生方法の第2実施形態であって火花養生材の正面図。
【
図5】同実施形態の火花養生方法を示す模式図であって、火花が金属繊維に衝突することにより軌道を変化させながら冷却又は消失する状態を示す図。
【
図6】火花養生材及び火花養生方法の他の実施形態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、火花養生材及び火花養生方法の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、火花養生材11は、支持体12と、複数の金属繊維圧縮体13からなる金属繊維集合体15とを備える。支持体12は、金属線材を用いた金網からなる。金網は、線材から形成されたもののほか、金属板を加工したものでもよく、例えば網目の大きい織金網、亀甲金網等を用いることができる。支持体12は、直方体又は立方体の形状に形成され、その内側に金属繊維集合体15を収容している。
【0015】
金属繊維圧縮体13は、金属繊維を圧縮したものであって、例えばタワシとして用いられる市販のスチールウールを使用することができる。金属繊維は、繊維状であって押圧力を加えることにより圧縮できるものであればよいが、繊維径(断面直径)が0.13mm以上0.18mm以下であるものが好ましい。また、金属繊維圧縮体13は空隙を有していることが必須条件であるが、その条件を満たした上で、密度が0.05g/cm3以上0.5g/cm3以下であり、空隙率が95%以上100%未満であることが好ましい。なお、空隙率は、金属繊維圧縮体13の構成材料(ステンレス鋼)の密度に対する金属繊維圧縮体13の密度の百分率を求め、「100%」からこの百分率を減算して求めた。また、金属繊維は、主成分がステンレスであり、クロム、ニッケル等の他の金属元素を含んでいてもよい。又は、金属繊維の主成分は鉄等の他の金属であってもよい。また、金属繊維圧縮体13の1つあたりの重量は、特に限定されないが、10g以上100g以下であると、火花養生材11の作製が容易である。
【0016】
金属繊維圧縮体13の例の各々は以下の通りである。但し、金属繊維圧縮体13はこれらの例に限定されない。
【0017】
【表1】
複数の金属繊維圧縮体13は、支持体12の内部の空間を埋めるように縦方向及び横方向に面状に並べられている。金属繊維圧縮体13は、支持体12に収容された後、隣接する金属繊維圧縮体13との間に生じる隙間や、金属繊維圧縮体13自体に火花が通過する孔が形成されないように、金属繊維圧縮体13を押し広げたり、隙間に金属繊維圧縮体13が充填されたりする等の調整が施される。このとき、火花養生材11を正面からみて、正面から背面に貫通する孔が形成されないことが好ましい。
【0018】
図2に示すように、金属繊維圧縮体13は、支持体12の厚み方向に1層分設けられている。火花養生材11の厚みDは、3cm以上10cm以下であることが好ましい。厚みDが3cm未満となると、火花が火花養生材11を通り抜ける可能性がある。また、厚みDが10cmを超えると、火花養生材11が重くなり、持ち運びや作業位置への設置のしやすさの点で劣ってしまう。
【0019】
(作用)
次に
図3を参照して、火花養生材11の作用について、火花養生方法の手順とともに説明する。溶接作業(又は溶断作業)を行う場合、溶接対象物101の溶接位置の周囲に火花養生材11を設置する。火花養生材11は、面積が広い正面を溶接位置100に向け、溶接位置100の周囲を囲むように、支持体12を曲げる。これに伴い、支持体12に収容された金属繊維集合体15も支持体12の形状に合わせて変形する。
【0020】
図3に示した火花は、火花養生材11に受け止められる直前から、火花養生材11内でその軌道を変化させながら冷却又は消失するまでの過程を示している。溶接により発生した火花は、放射状に飛散し、火花養生材11に受け止められる。火花養生材11に侵入した火花は、金属繊維と衝突しながら軌道を変化させるうちに、冷却又は消失する。このため、火花の跳ね返りを抑制することができる。さらに、溶接作業で生じた煙や熱は、金属繊維圧縮体13の空隙を介して、火花養生材11の裏面から放出される。
【0021】
次に、第1実施形態の効果について説明する。
(1)火花養生材11は、金属繊維集合体15を備えるシンプルな構成であるため、安価に製造することができる。また、火花養生材11は、内部に侵入した火花を、金属繊維に衝突させながらその軌道を変化させることによって冷却又は消失させるため、火花の跳ね返りを抑制することができる。また、火花養生材11は軽量であるため、持ち運びしやすく、溶接作業等が行いやすい。
【0022】
(2)複数の金属繊維圧縮体13を金網からなる支持体12で支持したため、溶接作業又は溶断作業に応じて、支持体12を曲げることによって金属繊維集合体15も変形させることができる。このため、火花養生材11を、溶接作業又は溶断作業の際に生じる火花を受け止めやすく変形させることができる。
【0023】
(3)金属繊維集合体15の厚さは、3cm以上10cm以下であり、空隙率は95%以上100%未満であるため、溶接作業等で発生したほとんどの火花を、金属繊維に衝突させながらその軌道を変化させることによって冷却又は消失させることができる。
【0024】
(第2実施形態)
次に、火花養生材及び火花養生方法の第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態では、支持体の構成が第1実施形態と異なる。以下、第1実施形態と同様の部分については同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0025】
図4に示すように、火花養生材11は、複数の金属繊維圧縮体13に、金属の線材14からなる支持体12を貫通させて金属繊維圧縮体13を支持するものである。複数の線材14は、互いに交差するように設けられ、線材14の交差部分には、金属繊維圧縮体13が配置されている。また、金属繊維圧縮体13は、隣接する金属繊維圧縮体13との間に生じる隙間を埋めるように押し広げられることが好ましい。
【0026】
図5に示すように、溶接作業(又は溶断作業)を行う場合には、作業位置を囲むように、支持体12を曲げる。このとき、支持体12を構成する線材14は1本ずつ曲げることが可能であり、金属繊維圧縮体13自体も1つずつその形状を変形させることができる。
図5に示した火花は、火花養生材11に受け止められる直前から、火花養生材11内で冷却又は消失するまでの過程を示している。この火花養生材11においても第1実施形態と同様に、金属繊維と衝突しながら軌道を変化させるうちに、冷却又は消失する。
【0027】
以上説明したように、第2実施形態によれば、第1実施形態の(1),(3)に記載の効果に加えて以下の効果が得られる。
(4)複数の金属繊維圧縮体13を線材14で支持したため、線材14を曲げることによって金属繊維圧縮体13も変形させることができる。このため、火花養生材11を、溶接作業又は溶断作業の際に生じる火花を受け止めやすく変形させることができる。
【0028】
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記各実施形態では、火花養生材11の正面側及び背面側を同じ構成とした。これに代えて、火花養生材11の正面側及び背面側の構成を異なる構成としてもよい。
【0029】
例えば、
図6に示すように、火花養生材11の背面側に金属板20を設けてもよい。このように金属板20を設けることによって、火花養生材11の剛性を高めることができる。なお、火花養生材11の背面に金属板20を設ける場合には煙や熱の放出を妨げないようにすることが好ましい。その態様として、例えば、火花養生材11と金属板20との間に隙間を設ける、又は火花養生材11の一部のみを金属板20で覆うようにする態様等がある。また、火花養生材11の両端部を作業位置側に曲げることによって、床面に安定した姿勢で設置することができる。また、この態様において、複数の火花養生材11を、作業位置を囲むように連結させてもよい。
【0030】
・上記各実施形態の火花養生材11に、火花養生材11を手で持つための把手を設けるようにしてもよい。また、火花養生材11に、作業位置において火花養生材11を立てる台座や、火花養生材11の背面側から支持する支持部を設けるようにしてもよい。
【0031】
・第1実施形態では、支持体12を、直方体又は立方体の形状とし、その内側に形成される空間に金属繊維圧縮体13を収容した。これに代えて、2枚の支持体12の間に金属繊維圧縮体13を挟み、支持体12の端を互いに固定するようにしてもよい。
【0032】
・第1実施形態では、金属繊維集合体15の全体を、金網からなる支持体12で覆ったが、少なくとも溶接位置側となる正面側を金網で覆うようにすればよい。例えば、正面側に金網を配置し、その他の面は線材、金属板20若しくはそれらの組み合わせで支持体12を構成してもよい。
【0033】
・上記実施形態では、金属繊維集合体15を、複数のブロック体である金属繊維圧縮体13によって構成した。これに代えて、1枚の金属繊維のブロック体によって金属繊維集合体15を構成してもよい。
【0034】
・上記各実施形態では、支持体12に、1層分の金属繊維圧縮体13を設けた。これに代えて、金属繊維圧縮体13を複数層設けてもよい。また、その態様において、各層を、異なる種類の金属繊維圧縮体13によって構成してもよい。例えば、各層において、層に応じて、金属繊維の直径を変更したり、空隙率を変更したり、材料を変更したりしてもよい。例えば、表面層の空隙率を、内部層の空隙率を高くすることにより、火花が入り込みやすく、離脱し難くすることができる。
【符号の説明】
【0035】
11…火花養生材、12…支持体、13…金属繊維圧縮体、14…線材、15…金属繊維集合体、20…金属板、100…溶接位置、101…溶接対象物。