(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】成形用組成物、並びにそれを用いた成形体及び積層物
(51)【国際特許分類】
C08L 71/02 20060101AFI20230511BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230511BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20230511BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20230511BHJP
C08L 29/14 20060101ALI20230511BHJP
C08G 63/183 20060101ALI20230511BHJP
C08G 65/32 20060101ALN20230511BHJP
C08G 63/08 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
C08L71/02
C08K3/22
C08L67/04
C08K5/09
C08L29/14
C08G63/183
C08G65/32
C08G63/08
(21)【出願番号】P 2019099145
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2018102297
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権藤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】酒井 隆行
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/020819(WO,A1)
【文献】特開2003-257314(JP,A)
【文献】特開2011-128469(JP,A)
【文献】特開2005-187580(JP,A)
【文献】特開2012-254924(JP,A)
【文献】特開2007-262379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08G65/00- 67/04
C08G63/00- 64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物粒子と、分散剤と、可塑剤とを含有する無機酸化物粒子分散体
、および成型用樹脂を含む成形用組成物であって、
前記無機酸化物粒子は、錫ドープ酸化インジウム粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子、及びセシウム酸化タングステン粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記分散剤
は、下記一般式Bで表される分散剤
Bと、下記一般式Cで表される分散剤Cとを含
み、
前記可塑剤は、プロピレングリコール、プロピレングリコール系エステル、エチレングリコール、及びエチレングリコール系エステル、からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記成型用樹脂は、ポリエチレンテレフタレート及びポリビニルアセタールの少なくともいずれかを含む、
成形用組成物。
一般式B
【化B】
(X
1は、水素原子もしくはY
1を表す。R
2は、分岐構造もしくは直鎖構造からなるアルキル基であって、主鎖が炭素数12~13からなるアルキル基を表す。n
2は、1~10の整数である。R
3は、分岐構造もしくは直鎖構造からなるアルキル基であって、主鎖が炭素数12~13からなるアルキル基を表す。n
3は、1~10の整数である。)
一般式C
【化C】
(Z
1は、ポリプロピレングリコールとポリエチレングリコールの重合体を含有する構造を表す。Z
2及びZ
3は、それぞれ独立に、アルキル基、もしくは、ポリプロピレングリコールとポリエチレングリコールの重合体を含有する構造を表す。)
【請求項2】
前記可塑剤の沸点が200℃以上である請求項1記載の
成形用組成物。
【請求項3】
前記可塑剤がポリエチレングリコール系エステル、ポリプロピレングリコール、及びポリプロピレングリコール系エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1または2記載の
成形用組成物。
【請求項4】
無機酸化物粒子分散体中の前記分散剤の含有率が、無機酸化物粒子100質量%に対して、10~30質量%である、請求項1~3いずれか記載の成形用組成物。
【請求項5】
分散剤Bと分散剤Cとの合計質量中、分散剤B:分散剤Cが40:60~90:10である請求項1~
4いずれか記載の
成形用組成物。
【請求項6】
前記無機酸化物粒子が、錫ドープ酸化インジウム粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子、及びセシウム酸化タングステン粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種と、酸化亜鉛粒子及び酸化チタン粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む請求項1~
5いずれか記載の
成形用組成物。
【請求項7】
無機酸化物粒子分散体中の前記無機酸化物粒子の含有率が、10~40質量%である、請求項1~6いずれか記載の成形用組成物。
【請求項8】
請求項1~7いずれか記載の
成形用組成物を用いた成型体。
【請求項9】
請求項1~7いずれか記載の
成形用組成物を用いた積層物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い経時安定性を有する高透明性無機酸化物粒子分散体、及び前記分散体を含む成形用組成物、成型体、並びに積層物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの成型体、フィルム、又はフィルムの積層物では、樹脂単独では達成し難い機械・光学特性を達成する為に、目的とする物性値を有する有機化合物、無機酸化物を種々の方法にて複合化する手法が古くから試みられてきた。光学特性を主軸とした用途として、UV、もしくは、熱線遮蔽又は屈折率調整などの物性付与が挙げられるが、多くの場合、樹脂の透明性を維持する必要性があることから、無機酸化物をナノレベルまで分散する必要がある。
【0003】
無機酸化物をナノレベルまで微細分散する為には、微細なメディアを用いて分散する必要があり、メディアの流動性の観点から、分散体の粘度が比較的低粘度である必要がある。その為、低粘度化することが容易な低分子量の溶媒を使用して無機酸化物をナノレベルまで分散した塗料を、プラスチックの成型体、フィルム、又はフィルムの積層物上に塗布することで目的とする光学特性を付与することが一般的に行われてきた(特許文献1)。本手法では、プラチックの種類によって溶剤系が限定されること、及び、塗料を作製、塗布することが別途必要な為、コストが高いことが課題として挙げられる。
【0004】
その他にプラスチックを成型する際に用いる可塑剤に無機酸化物を分散する手法を用いることも可能であり、例えば、ガラスの飛散防止を目的としてガラスとガラスの間にポリビニルブチラールのフィルムを積層する用途では、フィルム成型時に用いる可塑剤中に赤外遮蔽剤であるインジウム錫酸化物をナノレベルまで分散する手法が行われてきた(特許文献2)。本手法では、インジウム錫酸化物分散体の濃度を向上させることが難しく、かつ、UV遮蔽剤である酸化亜鉛、又は酸化チタンなどを分散体中に共存させると分散レベルが著しく低下する課題があった。
【0005】
このような可塑剤中に無機酸化物をナノレベルまで分散する手法は、塗料を用いる手法と違い工程面、コスト面で有用である為、可塑剤中に多様な無機酸化物を良好に分散し、かつ、種々のプラスチックに対して良好な相溶性を有する分散体ならびに分散体を用いた成型体が望まれてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2007/138946号
【文献】特開2012-254924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、分散安定性に優れ、高い透明(高透明)性を有し、種々のプラスチック材に適応可能で成型用樹脂の黄変ならびにブリードアウトを抑制可能な無機酸化物粒子分散体、及び前記無機酸化物分散体を含む成形用組成物、成型体、並びに積層物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、無機酸化物粒子と、分散剤と、可塑剤とを含有する無機酸化物粒子分散体であって、特定の分散剤を組合せた無機酸化物粒子分散体によって上記課題が解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の一実施形態は、無機酸化物粒子と、分散剤と、可塑剤とを含有する無機酸化物粒子分散体であって、前記分散剤が、下記一般式Aで表される分散剤A、及び下記一般式Bで表される分散剤Bからなる群より選ばれる少なくとも1種と、下記一般式Cで表される分散剤Cとを含む無機酸化物粒子分散体に関する。
一般式A
【化A】
(R
1は、分岐構造もしくは直鎖構造からなるアルキル基であって、主鎖が炭素数12~13からなるアルキル基を表す。n
1は、4~10の整数である。)
一般式B
【化B】
(X
1は、水素原子もしくはY
1を表す。R
2は、分岐構造もしくは直鎖構造からなるアルキル基であって、主鎖が炭素数12~13からなるアルキル基を表す。n
2は、1~10の整数である。R
3は、分岐構造もしくは直鎖構造からなるアルキル基であって、主鎖が炭素数12~13からなるアルキル基を表す。n
3は、1~10の整数である。)
一般式C
【化C】
(Z
1は、ポリプロピレングリコールとポリエチレングリコールの重合体を含有する構造を表す。Z
2及びZ
3は、それぞれ独立に、アルキル基、もしくは、ポリプロピレングリコールとポリエチレングリコールの重合体を含有する構造を表す。)
【0010】
また、本発明の他の一実施形態は、前記可塑剤の沸点が200℃以上である前記無機酸化物粒子分散体に関する。
【0011】
また、本発明の他の一実施形態は、前記可塑剤がポリエチレングリコール系エステル、ポリプロピレングリコール、及びポリプロピレングリコール系エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む前記無機酸化物粒子分散体に関する。
【0012】
また、本発明の他の一実施形態は、前記分散剤が分散剤Aと分散剤Cとを含み、分散剤Aと分散剤Cとの合計質量中、分散剤A:分散剤Cが40:60~80:20である前記無機酸化物粒子分散体に関する。
【0013】
また、本発明の他の一実施形態は、前記分散剤が分散剤Bと分散剤Cとを含み、分散剤Bと分散剤Cとの合計質量中、分散剤B:分散剤Cが40:60~90:10である前記無機酸化物粒子分散体に関する。
【0014】
また、本発明の他の一実施形態は、無機酸化物粒子が、錫ドープ酸化インジウム粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子、及びセシウム酸化タングステン粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む前記無機酸化物粒子分散体に関する。
【0015】
また、本発明の他の一実施形態は、無機酸化物粒子が、錫ドープ酸化インジウム粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子、及びセシウム酸化タングステン粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種と、酸化亜鉛粒子及び酸化チタン粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む前記無機酸化物粒子分散体に関する。
【0016】
また、本発明の他の一実施形態は、前記無機酸化物粒子分散体と、成型用樹脂とを含む成型用組成物に関する。
【0017】
また、本発明の他の一実施形態は、前記無機酸化物粒子分散体を用いた成型体に関する。
【0018】
また、本発明の他の一実施形態は、前記無機酸化物粒子分散体を用いた積層物に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態によって、分散安定性に優れ、高い透明性を有し、種々のプラスチック材に適応可能で成型用樹脂の黄変ならびにブリードアウトを抑制可能な無機酸化物粒子分散体、及び前記無機酸化物分散体を含む成形用組成物、成型体、並びに積層物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<無機酸化物粒子分散体>
無機酸化物粒子と、分散剤と、可塑剤とを含有する分散体であって、前記分散剤は、下記一般式Aで表される分散剤A、及び、下記一般式Bで表される分散剤Bから選ばれる少なくとも1種と、下記一般式Cで表される分散剤Cとからなる無機酸化物粒子分散体である。以下、本発明に使用する材料等に関して説明する。
【0021】
<無機酸化物粒子>
無機酸化物粒子分散体に用いる無機酸化物粒子は、金属及びSiからなる群より選ばれる少なくともいずれか一つの元素の酸化物を用いることができる。成型体、積層物等に必要とされる物性値によって無機酸化物を選定することが可能であり、例えば、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、イットリア(Y2O3)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化モリブデン(MoO3)、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化タングステン(WO3)、酸化鉛(PbO)、酸化ビスマス(Bi2O3)、セリア(CeO2)、酸化アンチモン(Sb2O5、Sb2O3)等が挙げられる。上記無機酸化物は、1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
無機酸化物粒子の粒子径は、透明性の観点から平均粒子径が15~50nmの範囲であることが好ましい。ここで平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した粒子径の算術平均値である。詳細には、塗料用粒子の粉末を倍率20000倍で観察し、任意の100個の粒子を選択し、各々の粒子径を平均して求めた値である。粒子形状が長軸、短軸を有する場合には、長軸と短軸の長さの平均値を、その粒子の粒子径とする。
【0023】
無機酸化物粒子は目的とする物性値に応じて、適宜選択することが可能であるが、例えば、熱線遮蔽用途であれば、錫ドープ酸化インジウム(インジウムドープ錫酸化物)粒子、アンチモンドープ酸化錫(アンチモンドープ錫酸化物)粒子、セシウム酸化タングステン(セシウム-タングステン酸化物)粒子から選ばれる無機酸化物粒子を用いることが好ましく、より広い領域の赤外線を遮蔽できることから複数の無機酸化物粒子を併用することが好ましい。UV遮蔽用途であれば、酸化亜鉛粒子、酸化チタン粒子、及び酸化セリウム粒子からなる群より選ばれる無機酸化物粒子を用いることが好ましい。帯電防止用途であれば、インジウムドープ錫酸化物粒子、アンチモンドープ錫酸化物粒子、リンドープ錫酸化物粒子、フッ素ドープ錫酸化物粒子、及び錫酸化物粒子からなる群より選ばれる無機酸化物粒子を用いることが好ましい。熱膨張性の制御であれば、シリカ、又はアルミナなどの無機酸化物粒子を用いることが好ましい。複数の物性を成型体に所望する場合には、プロセスの簡素化の観点から、複数の無機酸化物粒子を一つの分散体中に含有させることが好ましい。
【0024】
無機酸化物粒子分散体中の無機酸化物粒子は、1~40質量%であることが、分散性の経時安定性、ならびに、ハンドリング性の観点から好ましく、10~40質量%であることが好ましく、20~30質量%の高濃度であるとより好ましい。
【0025】
<分散剤A>
無機酸化物粒子分散体には下記一般式Aで表される分散剤Aを用いることができる。
【0026】
一般式A:
【0027】
【0028】
R1は、分岐構造もしくは直鎖構造からなるアルキル基であって、主鎖が炭素数12~13のアルキル基を表す。n1は、4~10の整数である。なお、当該アルキル基全体の炭素数が12~19である。
【0029】
<分散剤B>
無機酸化物粒子分散体には下記一般式Bで表される分散剤Bを用いることができる。
【0030】
一般式B:
【0031】
【0032】
X1は、水素原子もしくはY1を表す。R2は、分岐構造もしくは直鎖構造からなるアルキル基であって、主鎖が炭素数12~13からなるアルキル基を表す。n2は、1~10の整数である。R3は、分岐構造もしくは直鎖構造からなるアルキル基であって、主鎖が炭素数12~13からなるアルキル基を表す。n3は、1~10の整数である。なお、R2における当該アルキル基全体の炭素数が12~13であり、R3における当該アルキル基全体の炭素数12~19である。
【0033】
<分散剤C>
無機酸化物粒子分散体には下記一般式Cで表される分散剤Cを用いる。
【0034】
一般式C:
【0035】
【0036】
Z1は、ポリプロピレングリコールとポリエチレングリコールのブロック重合体を含有する構造を表す。Z2及びZ3は、それぞれ独立に、分岐構造もしくは直鎖構造からなり、かつ、全体の炭素数が2~4であるアルキル基、もしくは、ポリプロピレングリコールとポリエチレングリコールのブロック重合体を含有する構造を表す。Z2及びZ3は、アルキル基の場合、無機酸化物粒子分散体がより微細に分散されることからより好ましい。
【0037】
分散剤A及びCとしては、市販品を用いてもよく、分散剤Aの市販品として、例えば、花王株式会社製の「カオーアキポRLM-100」、「カオーアキポRLM-45」、日光ケミカルズ株式会社製「NIKKOL AKYPO RLM 100」、「NIKKOL AKYPO RLM 45」、「NIKKOL ECT-7」、三洋化成株式会社製「ビューライトLCA-H」などが挙げられる。分散剤Cの市販品として、例えば、株式会社ADEKA製「アデカプルロニックTR701」、「アデカプルロニックTR702」、「アデカプルロニックTR704」、「アデカプルロニックTR913R」,日本ルブリゾール社製「SOLSPERSE20000」、日油株式会社製「フィラノール085C」、「フィラノール075F」などが挙げられる。
【0038】
<分散剤の組合せ>
無機酸化物分散体に用いる分散剤は、分散剤A、及び分散剤Bから選ばれる少なくとも1種と、分散剤Cとを併用することを特徴とする。このような組み合わせで用いることにより、可塑剤中に種々の無機酸化物粒子を良好に分散させることが可能であり、多様な成型用樹脂と混練して、成型することにより、高透明性を有する成型体を得ることが可能である。
【0039】
前述の通り組合せた分散剤の添加量は、特に限定はされないが、無機酸化物粒子100質量%に対して、10~30質量%で使用することが好ましい。本範囲で使用することにより、種々の無機酸化物粒子を可塑剤中で高濃度で分散させることも可能であり、成型用樹脂との混練時にも無機酸化物粒子の分散性が低下することがない。
【0040】
分散剤Aと分散剤Cの混合比率は、分散剤Aと分散剤Cの合計質量中、分散剤Aが10~90%、分散剤Cが10~90%で用いることが好ましい。さらに透明性の観点から、分散剤Aが40~80%、分散剤Cが20~60%で用いることがより好ましい。
【0041】
分散剤Bと分散剤Cの混合比率は、分散剤Bと分散剤Cの合計質量中、分散剤Bが5~95%、分散剤Cが5~95%で用いることが好ましい。さらに透明性の観点から、分散剤Bが40~90%、分散剤Cが10~60%で用いることがより好ましい。
【0042】
<成型用樹脂>
成型用樹脂は、加温することにより、樹脂が軟化し、押出、又はプレス等で所定の形状に成型できる樹脂であれば、任意に使用することができる。例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレンの共重合体、アクリロニトリル・スチレンの共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられ、目的とする物性に応じて1種又は2種以上を選択することができる。ガラスとガラスの間に飛散防止を目的として成型体を貼りあわせる合わせガラスでは、成型体として、ポリビニルブチラール、又はポリビニルアセタールが、ガラスとの密着性、ならびに、加工性の観点から好ましい。
【0043】
<成型用組成物>
成型用組成物は、前述した無機酸化物粒子分散体と、前述した成型用樹脂とを含有する。成型用組成物を用いることによって、分散安定性に優れ、高い透明性を有し、黄変ならびにブリードアウトを抑制可能な成形体を容易に成形することができる。
【0044】
<可塑剤>
成型用樹脂の製造プロセス中で、成型用樹脂を軟化、もしくは、成型用樹脂の一部を溶解するような溶剤を可塑剤として使用することができる。可塑剤として、例えば、フタル酸エステル系、アジピン酸エステル系、リン酸エステル系、トリメリット酸エステル系、プロピレングリコール、プロピレングリコール系エステル、エチレングリコール、エチレングリコール系エステル、植物油、エポキシ化植物油、パラフィンなどの脂肪族炭化水素、並びにバレロラクトン、カプロラクトン等の高沸点の環状化合物等が挙げられる。これらの可塑剤を単独、もしくは、複数種混合して用いてもよい。
【0045】
可塑剤は、一般的な成型用樹脂が100℃以上の高温で軟化し、成型することから、沸点が100℃以上であることが好ましく、沸点が200℃以上であることがより好ましい。沸点が200℃以上の可塑剤を用いることにより、成型用樹脂と混練する際に、無機酸化物粒子分散体の分散性が保持され、良好な透明性を発現することができ、成型体内に気泡等が発生しないことから機械物性値も向上させることができる。沸点が200℃未満の可塑剤に関しては、無機酸化物粒子分散体中で、10質量%以下であることが成型用樹脂と混練する際に、無機酸化物粒子分散体の分散性が保持され、良好な透明性を発現する観点から好ましい。
【0046】
可塑剤は、ポリエチレングリコール系エステル、ポリプロピレングリコール、及びポリプロピレングリコールエステル系を用いることが無機酸化物粒子分散体の分散性向上ならびに、種々の樹脂に適応可能なことから好ましい。特に合わせガラス用として用いる場合には、トリエチレングリコール-ジ-エチルヘキサノエート(沸点:219℃)、トリエチレングリコール ビス(2-エチルヘキサノエート)(沸点:344℃)、トリエチレングリコール-ジ-エチルヘキサノエートジ(2-ブトキシエトキシエチル)アジペート(沸点:230℃)、及びテトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(沸点:499℃)等のポリエチレングリコール系エステルが好ましい。
【0047】
<分散方法>
無機酸化物粒子分散体を作製するに当たり、高い透明性を達成する目的で一般的に用いられる分散機を用いることができ、例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー、ボールミル、サンドミル、アトライター、パールミル、湿式ジェットミル、ロールミル等の分散機が挙げられる。分散機は、一種類のみ単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0048】
<混練方法>
成型体を作製するに当たり、無機酸化物粒子を成型用樹脂中に均一に分散する目的で無機酸化物粒子分散体と成型用樹脂を混練することができ、一般的な混練機を使用することができる。例えば、2本ロール、3本ロール等のロールミル、加圧ニーダー、バンバリミキサー、2軸押出機、単軸押出機等の混練機が挙げられる。混練機は、一種類のみ単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0049】
<成型方法>
無機酸化物粒子分散体と成型用樹脂の混練物を目的とする形に成型するために、一般的な成型機を使用することができる。鋳型等を用いて所望の形状へ押出成型、ブロー成型、プレス成型をすることができる。成型時には、目的に応じて、加温、冷却、圧力を調整することができる。
【0050】
<積層物>
無機酸化物粒子分散体と成型用樹脂からなる成型体を基材、もしくは、貼りあわせの媒体として使用することで、様々な種類の積層物を得ることができる。複数種の層を重ねることで、積層物として多様な機能を一元化することが可能である。積層方法に関しては一般的に使用される方法を用いることができる。例えば、成型体を基材として塗料を塗布する方法、成型体を媒体として、種々の材料を熱プレス等により貼りあわせる方法、成型体を媒体として、粘着剤、接着剤等を用いて、他の材料を貼りあわせる方法が挙げられる。
【0051】
<合わせガラス>
自動車等では、ガラスの飛散防止を目的として、ガラスとガラスとの間に中間膜と呼ばれる成型体を挟んでプレス成型し、積層した合わせガラスを使用することが一般的である。本実施形態の成形体は、中間膜として使用することが好ましい。自動車では、近年、電気自動車が急速に普及し始めていることから燃費に多大な影響のある自動車内の温度上昇抑制の対策としてガラスへの熱線遮蔽性付与が実施されており、熱線遮蔽性のある無機酸化物粒子を含有することが好ましい。その他にも搭乗者の身体ケア、ならびに、内装物の耐光性維持の観点からUV遮蔽性のある材料を含有することが好ましく、更なる長期の耐光性の維持の観点から中間膜は無機酸化物粒子を含有することがより好ましい。したがって、中間膜として用いるためにはプロセスの簡素化の観点から熱線遮蔽性のある無機酸化物粒子とUV遮蔽性のある無機酸化物粒子とを両方含有した無機酸化物粒子分散体を用いることが好ましい。
【0052】
中間膜として用いる成型体には、必要に応じて、ガラスとの密着性調整剤として有機酸、又は、無機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、シリコンオイル、酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、チオール系酸化防止剤、リン酸系酸化防止剤、紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系吸収剤、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機酸化物系吸収剤、可塑剤、耐湿向上剤等を添加することができる。
【0053】
<分散粒子径>
無機酸化物粒子分散体の分散粒子径は、成型体ならびに積層物の透明性の観点から分散粒子径は小さい程、可視光領域における光散乱が低減される為好ましく、1~150nmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、1~90nmの範囲であることが好ましい。尚、分散粒子径とは、動的光散乱方式の粒度分布計を用いて、体積粒度分布において、粒子径の小さいものからその粒子の体積割合を積算した際に、50%となる粒子径である。
【0054】
<透明性>
透明性は、高いほど好ましく、無機酸化物粒子分散体を含有した成型体の全光線透過率を、使用した成型用樹脂と可塑剤のみからなる同膜厚の成型体を基準として算出した際に、90~100%であることが好ましく、95~100%であることがより好ましい。
【0055】
<黄変性>
一般に、UV遮蔽を目的として酸化亜鉛粒子、酸化チタン粒子、又は酸化セリウム粒子を無機酸化物粒子として用いる際に、分散剤の選択により、成型加工時の加温に伴って無機酸化物粒子の触媒活性が原因で黄変することがある。または、分散剤として、一級、二級のアミンを使用するとアミンの酸化が原因で黄変することがある。これに対し、分散剤A、及び分散剤Bから選ばれる少なくとも1種と、分散剤Cを併用することにより、成型加工時の加温による黄変を抑制でき、透明性の維持ができることから好ましい。
【0056】
<パンメル値>
パンメル値とは合わせガラスの評価の一種であり、中間膜としての成型体とガラスの接着性を測る尺度として一般的に用いられる。パンメル値が大きい程、成型体とガラスの密着力が高く、パンメル値が小さい程、成型体とガラスの密着力が低いことを表す。パンメル値が2以下だとガラスから剥離しやすく、パンメル値が8以上だと耐貫通性が小さい為、3~7の範囲である事が好ましく、本範囲であれば、合わせガラスとして使用することが可能である。
【0057】
<ブリードアウト性>
一般に、成型体中に液状の分散剤、ならびに、可塑剤を含有する場合、種々の環境に長時間静置すると成型体中の表面に分散剤、ならびに、可塑剤が移動し、外観不良、密着性の低下、ならびに、帯電防止性能の変化などが起こる場合がある。これに対し、分散剤A、及び分散剤Bから選ばれる少なくとも1種と、分散剤Cを併用することにより、ブリードアウトを抑制することができ、成型体としての経時安定性が保持できる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例により本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明の実施形態は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中、特に断りのない限り、「部」、「%」とは、それぞれ質量部、質量%を意味する。
【0059】
<無機酸化物>
実施例及び比較例で使用した無機酸化物を以下に列挙する。
E-ITO(錫ドープ酸化インジウム、三菱マテリアル電子化成株式会社製)
T-1(アンチモンドープ酸化錫、三菱マテリアル電子化成株式会社製)
STR-100A-LP(酸化チタン、堺化学工業株式会社製)
Finex 50S-LP2(酸化亜鉛、堺化学工業株式会社製)
【0060】
<無機酸化物粒子1の作製方法>
メタタングステン酸アンモニウム水溶液と塩化セシウムの水溶液とを、WとCsとのモル比が1対0.33となるように所定量秤量し、両液を混合し、混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。その後、一度室温に戻した後、800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、セシウム酸化タングステン粒子として無機酸化物粒子1を作製した。
【0061】
<分散剤>
実施例及び比較例で使用した分散剤を以下に列挙する。
NIKKOL AKYPO RLM 100
(ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、一般式Aのn1=10、分散剤A、日光ケミカルズ株式会社製)
NIKKOL AKYPO RLM 45
(ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、一般式Aのn1=4~5、分散剤A、日光ケミカルズ株式会社製)
NIKKOL ECT-7
(ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸、一般式Aのn1=7、分散剤A、日光ケミカルズ株式会社製)
ビューライト LCA-25NH
(ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、一般式Aのn1=3、三洋化成株式会社製)
プライサーフA219B
(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、第一工業株式会社製)
プライサーフAL
(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、第一工業株式会社製)
ハイテノールLA-10
(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム、第一工業株式会社製)
SOLSPERSE20000
(モノアミンのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、一般式CのZ2及びZ3がアルキル基からなる構造、分散剤C、日本ルブリゾール社製)
アデカプルロニックTR-701
(エチレンジアミンのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、分散剤C、株式会社ADEKA製)
アミート102
(ポリオキシエチレンラウリルアミン、花王株式会社製)
【0062】
<分散剤1の作製方法>
ガス導入管、温度計、コンデンサ、攪拌機を備えた反応容器に、1-ドデカノール62.6部、ε-カプロラクトン287.4部、触媒としてモノブチルスズ(IV)オキシド0.1部を仕込み、窒素ガスで置換した後、120℃で4時間加熱、撹拌した。固形分測定により98%が反応した事を確認した後、ここに無水ピロメリット酸36.6部を加え、120℃で2時間反応させ、分散剤Bの構造である分散剤1を得た。なお、分散剤1は、一般式Bにおいて、X1はY1であり、R2は直鎖構造からなるアルキル基であって、主鎖が炭素数12であり、n2は7であり、R3は直鎖構造からなるアルキル基であって、主鎖が炭素数12であり、n3は7である。
【0063】
<分散剤2の作製方法>
ガス導入管、温度計、コンデンサ、攪拌機を備えた反応容器に、1-ドデカノール31.3部、ε-カプロラクトン143.7部、触媒としてモノブチルスズ(IV)オキシド0.1部を仕込み、窒素ガスで置換した後、120℃で4時間加熱、撹拌した。固形分測定により98%が反応した事を確認した後、ここに無水トリメリット酸32.2部を加え、130℃で4時間反応させ、分散剤Bの構造である分散剤2を得た。なお、分散剤2は、一般式Bにおいて、X1は水素原子であり、R3は直鎖構造からなるアルキル基であって、主鎖が炭素数12であり、n3は7である。
【0064】
<分散剤3の作製方法>
ガス導入管、温度計、コンデンサ、攪拌機を備えた反応容器に、1-ドデカノール31.3部、ε-カプロラクトン143.7部、触媒としてモノブチルスズ(IV)オキシド0.1部を仕込み、窒素ガスで置換した後、120℃で4時間加熱、撹拌した。固形分測定により98%が反応した事を確認した後、ここに無水マレイン酸16.4部を加え、130℃で4時間反応させ、分散剤3を得た。
【0065】
<可塑剤>
実施例及び比較例で使用した可塑剤を以下に列挙する。
PEG#200(ポリエチレングリコール、沸点:250℃、日油株式会社製)
トリプロピレングリコール(沸点:273℃以上、旭硝子株式会社製)
Proviplast 1783(トリエチレングリコール ビス(2-エチルヘキサノエート)、沸点:344℃、Proviron社製)
ノニオンL-2(モノラウリン酸ポリエチレングリコール、沸点:300℃以上、日油株式会社製)
ビニサイザー90(フタル酸ジ2-エチルヘキシル、沸点:403℃、花王株式会社製)
エキセパール M-OL(オレイン酸メチル、沸点:218℃、花王株式会社製)
MFG(プロピレングリコールモノメチルエーテル、沸点:120℃、日本乳化剤株式会社製)
γ―ブチロラクトン(沸点:204℃、三菱ケミカル株式会社製)
【0066】
<成型用樹脂>
実施例及び比較例で使用した成型用樹脂を以下に列挙する。
SA-863JP(ポリエチレンテレフタレート樹脂、ユニチカ株式会社製)
エスレックBL-1H(ポリビニルブチラール樹脂、積水化学工業株式会社製)
【0067】
<無機酸化粒子分散体の調製>(実施例1~29、比較例1~14)
表1に示す配合組成に従い、均一になるように撹拌混合した後、さらに直径0.1mmのジルコニアビーズを用いてサンドミルで5時間分散した後、孔径1μmのフィルタで濾過して無機酸化物分散体をそれぞれ得た。尚、表1中、単位表記のない数字は部を表し、空欄は配合していないことを表す。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
[評価]
得られた無機酸化物粒子分散体に関して、分散粒子径、経時安定性を下記の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0074】
(分散粒子径)
無機酸化物粒子分散体の分散粒子径については、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製、マイクロトラックUPA)を用いて、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算した際に、50%となる粒子径を測定した。尚、測定に用いた試料は、実施例1~16、比較例1~9は分散体を分散体作製時に用いた可塑剤に測定可能な任意の量を添加し、バス型超音波装置にて分散し、調整した。実施例15~16に関しては、分散体をProviplast 1783に測定可能な任意の量を添加し、バス型超音波装置にて分散し、調整した。分散粒子径は透明性の観点から小さい程好ましく、下記の基準に従って評価した。なお、実施例17~29、比較例10~14に関しては、複数の無機酸化物粒子を分散体中に含有している為、動的光散乱方式の粒度分布では正確に判断し難いことから、測定値を記載していない。
A:90nm以下(極めて良好)
B:90nm超過、150nm以下(良好)
C:150nm超過(不良)
【0075】
(経時安定性)
無機酸化物粒子分散体の経時安定性は、無機酸化物粒子分散体を50℃ 7日間静置した試料の分散粒子径を測定し、静置前の分散粒子径の値から静置後の分散粒子径の値を引いた値の絶対値を分散粒子径の変化率として評価した。分散粒子径の変化率は、小さい程、好ましく、下記の基準に従って評価した。
A:20nm以下(極めて良好)
B:20nm超過、50nm以下(良好)
C:50nm超過(不良)
【0076】
【0077】
該無機酸化物粒子分散体を用いて調整した成型体の、透明性、ブリードアウト性に関して下記の方法で評価した。評価結果を表4及び5に示す。尚、表4及び5中、単位表記のない数字は部を表し、空欄は配合していないことを表す。
【0078】
(透明性1)
表4に示す配合組成に従いエスレックBL-1Hと、Proviplast 1783と、無機酸化物粒子分散体とを2本ロールを用いて混練した。混練して得られた混練物を、プレス成型機にて150℃にて30分間プレス成型し、厚さ0.8mmの成型体を得た。別に、成型用樹脂70質量部とProviplast 1783 30質量部を混練し、同様の方法でプレス成型することで成型用樹脂と可塑剤のみからなる参照用の成型体を作製した。ヘーズメーター(日本電色工業社製、NDH-2000)を用いて、バインダーと可塑剤のみからなる参照用の成型体を基準として、無機酸化物粒子分散体を混練した成型体の全光線透過率の値を測定した。全光線透過率の値は、100に近い程好ましく、下記の基準に従って評価した。結果を表4に示す。尚、実施例1~9、15、17~29の無機酸化物粒子分散体を50℃ 7日間静置した試料を用いて同様に全光線透過率を測定したところ、無機酸化物粒子分散体を静置前後で成型物の全光線透過率に変化はなかった。したがって、実施例17~29に示す複数の無機酸化物粒子を単一の分散体中に含有した際でも分散粒子径が経時安定していることが推測できる。
A:95%以上、100%以下(極めて良好)
B:90%以上、95%未満(良好)
C:90%未満(不良)
【0079】
(黄変性1)
透明性1の評価に用いた方法で成型体を作製した。また、成型用樹脂70質量部とProviplast 1783 30質量部を混練し、同様の方法でプレス成型することで成型用樹脂と可塑剤のみからなる参照用の成型体を作製した。無機酸化物粒子分散体を非含有の参照用の成型体を基準として成型体の黄変の有無を目視で判断した。結果を表4に示す。
【0080】
(合わせガラスとしての評価)
透明性1の評価に用いた方法で成型体を作製し、この成型体を2枚の対向する2.4mm厚の無機ガラスで挟み込み、ロール法で予備接着した。次いで、140℃のオートクレーブで、圧力1.2MPaにて圧着し、成型体をガラスと積層した合わせガラスを得た。得られた合わせガラスを、-18℃±0.6℃の温度に16時間静置した後、0.45Kgのハンマーで打って、ガラスの粒径が6mm以下になるまで粉砕した。ガラスが部分剥離した後の膜の露出度を、あらかじめグレード付けした限度見本に従い、判定し、表3に示すようなパンメル値として表した。尚、パンメル値が大きい程、成型体とガラスの密着力が高く、パンメル値が小さい程、成型体とガラスの密着力が低いことを表す。パンメル値が2以下だとガラスから剥離しやすく、パンメル値が8以上だと耐貫通性が小さい為、3~7の範囲である事が好ましく下記の基準に従って判断した。結果を表4に示す。
A:3~7(良好)
C:1~2、8以上(不良)
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
(透明性2)
表5に示す配合組成に従い、140℃にて12時間静置したSA-863JPと、無機酸化物粒子分散体とを2本ロールを用いて混練した。混練して得られた混練物を、プレス成型機にて260℃にて3分間プレス成型し、厚さ0.1mmの成型体を得た。別に、SA-863JPを、プレス成型機にて260℃にて3分間プレス成型し、厚さ1.0mmの参照用の成型体を作製した。ヘーズメーター(日本電色工業社製、NDH-2000)を用いて、成型用樹脂からなる参照用の成型体を基準として、無機酸化物粒子分散体を混練した成型体の全光線透過率の値を測定した。全光線透過率の値は、100に近い程好ましく、下記の基準に従って評価した。尚、実施例1~9、15~25の無機酸化物粒子分散体を50℃ 7日間静置した試料を用いて同様に全光線透過率を測定したところ、無機酸化物粒子分散体を静置前後で成型物の全光線透過率に変化はなかった。したがって、実施例17~25に示す複数の無機酸化物粒子を単一の分散体中に含有した際でも分散粒子径が経時安定していることが推測できる。
A:95%以上、100%以下(極めて良好)
B:90%以上、95%未満(良好)
C:90%未満(不良)
【0085】
(黄変性2)
透明性2の評価に用いた方法で成型体を作製した。また、成型用樹脂のみを、同様の方法でプレス成型することで参照用の成型体を作製した。無機酸化物粒子分散体を非含有の参照用の成型体を基準として成型体の黄変の有無を目視で判断した。結果を表5に示す。
【0086】
(ブリードアウト性)
表5に示す配合組成に従い、140℃にて12時間静置したSA-863JPと、無機酸化物粒子分散体とを2本ロールを用いて混練した。混練して得られた混練物を、プレス成型機にて260℃にて3分間プレス成型し、厚さ0.1mmの成型体を得た。得られた成型体を80℃ 12時間静置し、表面の外観からブリードアウト性を評価した。可塑剤ならびに分散剤等が成型体表面に浮き出ることにより、例えば、斑模様、波模様等の外観異常が発生する場合は、外観だけでなく、成型体を積層して使用する際に他層との接着性が劣化するなどを引き起こす為、好ましくない。
A:外観異常なし(良好)
C:外観異常あり(不良)
【0087】
【0088】
【0089】
表2に示すように、分散体として、実施例1~16は、分散粒子径、経時安定性共に良好であった。特に実施例1~9、11~12、15~16に関しては、分散粒子径、経時安定性共が極めて良好であった。また、表4に示すように、ポリビニルブチラール(エスレックBL-1H)を用いた成型体を中間膜として用いた合わせガラスとして、実施例30~52に関しては、透明性、ガラスと成型体の密着性から評価した合わせガラスとしての特性が良好であり、特に実施例30~37、39~44、49~52に関しては透明性の観点からさらに良好であった。さらに実施例30~52は、酸化亜鉛の触媒活性等に伴う黄変も観察されず、UVならびに熱線の遮蔽性が両立することから合わせガラスとして用いる場合には、より好ましい。表5に示すように、実施例53~71は、透明性、ならびに、ブリードアウト性の観点から好ましく、53~60、62~63、67~71は透明性の観点からより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の実施形態の無機酸化物粒子分散体は、特定の分散剤を使用することにより、UV遮蔽、熱線遮蔽等の機能を付与できる無機酸化物粒子を高透明化が可能な分散レベルまで分散することができる。さらには多様な成型用樹脂と相溶性が高く、成型体としての透明性を維持できることから、UV遮蔽、赤外遮蔽、屈折率調整、帯電防止性調整、耐熱性の付与などを容易に塗布工程、積層工程を用いない簡素な工程で達成できることから、合わせガラス用中間膜を含めた幅広い用途に利用可能である。