(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】レーダシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/292 20060101AFI20230511BHJP
G01S 13/26 20060101ALI20230511BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
G01S7/292
G01S13/26
G01S13/34
(21)【出願番号】P 2019115478
(22)【出願日】2019-06-21
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】安藤 生真
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-052952(JP,A)
【文献】特開2016-050778(JP,A)
【文献】Christian Sturm et al.,"Automotive Fast-Chirp MIMO Radar with Simultaneous Transmission in a Doppler-Multiplex",The 19th International Radar Symposium (IRS 2018),2018年06月,pp.1-6,DOI: 10.23919/IRS.2018.8447895
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
G08G 1/16
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FCM(Fast Charp Modulation)変調方式により周波数変調されたレーダ波をターゲット(2)に照射し当該ターゲットに反射した反射波を受信した信号に基づいて測定対象を測定するレーダシステム(1)であって、
少なくとも3以上のNチャンネル分備えられ、各送信チャンネルの送信信号により前記レーダ波を前記ターゲットに照射するように構成された複数の送信機(31…3N)と、
複数のMチャンネル分備えられ前記Nチャンネル分の送信信号に対応した複数の受信信号をそれぞれ受信する複数の受信機(41…4M)と、
複数の受信信号を信号処理する信号処理部(9)と、を備え、
前記複数の送信機は、それぞれ、前記FCM変調方式のチャープ周期単位で0又はπの移相値(φ1…φN)に移相させる二値移相器(11)を備えると共に、
前記複数の送信機のうち少なくとも一つ以上の前記送信機(33;43、44)は、前記チャープ周期単位で送信電力を調整可能にする送信電力調整部(10)を備え、前記二値移相器の位相ステップπよりも高解像度の位相ステップにて生成される送信信号により前記レーダ波を前記ターゲットに照射するように構成され、
前記信号処理部は、
前記ターゲットに反射した前記反射波を前記複数の送信機に対応した複数の受信信号として取得するとチャープ周期(T1)の繰り返し間隔(T2)の解像度により前記複数の受信信号をサンプリング処理して高速フーリエ変換する第1FFT(61)を備え、前記第1FFTにより変換した変換結果に基づいて前記Nチャンネル分の送信信号に対応した前記複数の受信信号を互いに分離
する構成であり、
前記複数の送信機は、第1送信機(31)、第2送信機(32)、及び第3送信機(33)を含む3チャンネル分だけ備えられ、
前記第1送信機は、前記二値移相器の移相値(φ1)を0としながら所定の送信電力にて生成される送信信号によりレーダ波を前記ターゲットに照射し、
前記第2送信機は、前記チャープ周期単位で前記二値移相器の移相値(φ2)を0、πの2回を一周期として変更を繰り返すと共に前記所定の送信電力にて生成される送信信号によりレーダ波を前記ターゲットに照射し、
前記第3送信機は、前記チャープ周期単位で基準位相値(θ3)を0から位相ステップπ/2ずつ遷移させながら当該0、π/2、π、3π/2の4回を一周期として変更を繰り返したときに、前記二値移相器の移相値(φ3)をそれぞれ0、0又はπ、π、0又はπとし、前記基準位相値がπ/2、3π/2のときには送信電力をゼロにしつつ前記基準位相値が0、πのときには前記所定の送信電力とする送信信号によりレーダ波を前記ターゲットに照射し、
前記信号処理部は、前記チャープ周期(T1)の繰り返し間隔(T2)の解像度により前記複数の受信信号をサンプリング処理して高速フーリエ変換することで、前記第1送信機、前記第2送信機、及び前記第3送信機の前記チャープ周期単位の各位相差に対応した0、π、π/2又は3π/2をそれぞれ角速度として検出し、前記角速度の検出結果により前記複数の受信信号を互いに分離するレーダシステム。
【請求項2】
前記複数の送信機は、前記第1送信機、前記第2送信機、前記第3送信機と共に第4送信機(34)を含む4チャンネル分だけ備えられ、
前記第4送信機は、前記チャープ周期単位で基準位相値(θ4)を0から位相ステップπ/4ずつ遷移させながら当該0、π/4、π/2、3π/4、π、5π/4、3π/2、7π/4の8回を一周期として変更を繰り返したときに、前記二値移相器の移相値をそれぞれ0、0、0又はπ、π、π、π、0又はπ、0とし、前記基準位相値が0又はπのときには前記所定の送信電力、前記基準位相値がπ/2、又は3π/2のときには送信電力をゼロ、前記基準位相値がπ/4、3π/4、5π/4、又は7π/4のときには前記所定の半分の送信電力とするように生成される前記送信信号により前記レーダ波をターゲットに照射し、
前記信号処理部は、前記チャープ周期の繰り返し間隔の解像度により前記複数の受信信号をサンプリング処理して高速フーリエ変換することで、前記第1送信機、前記第2送信機、前記第3送信機、及び前記第4送信機における前記チャープ周期単位の各位相差に対応したπ、0、π/2又は3π/2、若しくはπ/4又は7π/4をそれぞれ角速度として検出し、前記角速度の検出結果により前記複数の受信信号を互いに分離する
請求項1記載のレーダシステム。
【請求項3】
FCM(Fast Charp Modulation)変調方式により周波数変調されたレーダ波をターゲット(2)に照射し当該ターゲットに反射した反射波を受信した信号に基づいて測定対象を測定するレーダシステム(1)であって、
少なくとも3以上のNチャンネル分備えられ、各送信チャンネルの送信信号により前記レーダ波を前記ターゲットに照射するように構成された複数の送信機(31…3N)と、
複数のMチャンネル分備えられ前記Nチャンネル分の送信信号に対応した複数の受信信号をそれぞれ受信する複数の受信機(41…4M)と、
複数の受信信号を信号処理する信号処理部(9)と、を備え、
前記複数の送信機は、それぞれ、前記FCM変調方式のチャープ周期単位で0又はπの移相値(φ1…φN)に移相させる二値移相器(11)を備えると共に、
前記複数の送信機のうち少なくとも一つ以上の前記送信機(33;43、44)は、前記チャープ周期単位で送信電力を調整可能にする送信電力調整部(10)を備え、前記二値移相器の位相ステップπよりも高解像度の位相ステップにて生成される送信信号により前記レーダ波を前記ターゲットに照射するように構成され、
前記信号処理部は、
前記ターゲットに反射した前記反射波を前記複数の送信機に対応した複数の受信信号として取得するとチャープ周期(T1)の繰り返し間隔(T2)の解像度により前記複数の受信信号をサンプリング処理して高速フーリエ変換する第1FFT(61)を備え、前記第1FFTにより変換した変換結果に基づいて前記Nチャンネル分の送信信号に対応した前記複数の受信信号を互いに分離する構成であり、
前記複数の送信機は、前記Nチャンネルの1…Nまでのチャンネル変数をnとした第1…第N送信機(31…3N)により構成され、
第n送信機(3n)は、前記チャープ周期単位で基準位相値(θn)を位相ステップ2π/{2^(n-1)}ずつ変化させながら繰り返し回数Kn=2^(n-1)を一周期として繰り返したときに、前記第n送信機の送信信号
の送信電力の平均出力電力PTとすると共に電圧振幅値An[θn]としたときに、前記電圧振幅値An[θn]を下記の(1)式に基づく送信信号としてレーダ波を前記ターゲットに照射し、
前記信号処理部は、前記レーダ波が前記ターゲットに反射して受信した複数の受信信号について、前記チャープ周期の繰り返し間隔の解像度により前記複数の受信信号をサンプリング処理して高速フーリエ変換することで、前記第n送信機の前記チャープ周期単位の各位相差に対応した2π/{2^(n-1)}をそれぞれ角速度として検出し、前記角速度の検出結果に基づいて前記複数の受信信号を互いに分離す
るレーダシステム。
【数1】
【請求項4】
一の前記チャープ周期の中でサンプリング処理して高速フーリエ変換する第2FFT(62)をさらに備え、
前記信号処理部は、前記第2FFTを用いて算出される前記ターゲットまでの距離が同一と見做される一群の信号をペアマッチングし、当該ペアマッチングされた前記一群の信号を選定し前記第1FFTにより変換した前記変換結果に基づいて前記受信信号を分離する
請求項1から3の何れか一項に記載のレーダシステム。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記受信信号を分離した後、分離した前記受信信号の基準位相に対する位相を取得し、前記取得された位相が前記Nを超えるときに、前記受信信号の位相が等間隔と見做される前記Nの信号を抽出し、当該抽出された前記Nの信号に基づいて前記ターゲットが存在する方位角を推定する
請求項1から4の何れか一項に記載のレーダシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーダシステムは、MIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)の技術を用いることが検討されている。MIMO技術を用いたレーダシステムは、フェーズドアレイを構成するアンテナの数を仮想的に増やすことができるため、ターゲットの存在する方位角の分解能を高めることができる。
【0003】
レーダシステムの送信チャンネル分離方式は、各チャンネル毎に送信機をオン・オフするTDM-MIMO方式と、各チャンネル毎に送信信号の位相を回転させるDDM-MIMO方式とに分けられる。TDM-MIMO方式は、ある期間において、1つの送信チャンネルだけを動作させるため、チャンネルの分離性能を良好にできる。しかし、TDM-MIMO方式は、各チャンネルの受信信号をサンプリングする時間間隔を長くする必要があるため、観測可能な受信信号の周波数が低くなり、計測可能な速度の上限が低下する。
【0004】
他方、DDM-MIMO方式では、各チャンネルの送信機を同時に動作させるため、チャンネル分離性能が低くなるが、各チャンネルの受信信号をサンプリングする時間間隔を短くできるようになり、速度検出範囲を広くできる。このため、特に車載用のレーダシステムにはDDM-MIMO方式を用いることが望ましい。
【0005】
MIMOレーダでは、複数の送信ブランチが送信するレーダ波がターゲットに反射した信号を受信するときに各送信ブランチのレーダ波を弁別する。特許文献1記載の技術では、到来したP個(=M×N)のパルス波に、N個のアンテナ毎に対応した復調処理を施して、P個の復調信号を生成し、既知の離散値の列に基づいてP個の復調信号の位相の相違を揃え、P個の同相信号を生成して位相を調整している。これは、各送信チャンネルに対応した符号変調を行うことで、受信側で対応するコードと相関ピーク値を取得することで信号を分離する方法となるが、受信側における相関処理を追加しなければならず、またメモリを増加させることによる回路規模が増大してしまう。
【0006】
またレーダシステムが、通常のQPSKのような多値位相偏移変調によるDDM-MIMO方式を用いた場合、送信機の位相や振幅が製造プロセスや環境温度の変化の影響を受けてばらつきやすくなり、このばらつきがBPSK変調を適用した場合に比較して大きくなりやすい。このため、複数の送信機の送信信号に対応した受信信号の分離性能に劣化を生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、製造プロセスの変化や環境温度の変化を生じたとしても受信信号の分離性能を極力劣化させることなく構成できるようにしたレーダシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、FCM(Fast Charp Modulation)変調方式により周波数変調されたレーダ波をターゲットに照射し当該ターゲットに反射した反射波を受信した信号に基づいて測定対象を測定するレーダシステム(1)を対象としている。複数の送信機(31…3N)は、少なくとも3以上のNチャンネル分備えられ、Nチャンネル分の送信チャンネルの送信信号によりレーダ波をターゲット2に照射するように構成される。複数の受信機(41…4M)は、複数のMチャンネル分備えられ複数の送信信号に対応した複数の受信信号をそれぞれ受信する。信号処理部(9)は複数の受信信号を信号処理する。
【0010】
複数の送信機は、それぞれ、FCM変調方式のチャープ周期単位で0又はπの移相値(φ1…φN)に移相させる二値移相器(11)を備えると共に、複数のうち少なくとも一つ以上の送信機(33;33、34)は、チャープ周期単位で送信電力を調整可能にする送信電力調整部(10)を備える。複数の送信機は、二値移相器の位相ステップπよりも高解像度の位相ステップにて生成される送信信号によりレーダ波をターゲットに照射するように構成される。
【0011】
信号処理部は、ターゲットに反射した反射波を複数の送信機に対応した複数の受信信号を取得するとチャープ周期(T1)の繰り返し間隔(T2)により複数の受信信号をサンプリング処理して第1FFTにより高速フーリエ変換し、第1FFTにより変換した変換結果に基づいて複数の送信信号に対応した受信信号を互いに分離する。複数の送信機は、第1送信機(31)、第2送信機(32)、及び第3送信機(33)を含む3チャンネル分だけ備えられる。第1送信機は、二値移相器の移相値(φ1)を0としながら所定の送信電力にて生成される送信信号によりレーダ波を前記ターゲットに照射する。第2送信機は、チャープ周期単位で二値移相器の移相値(φ2)を0、πの2回を一周期として変更を繰り返すと共に所定の送信電力にて生成される送信信号によりレーダ波をターゲットに照射する。第3送信機は、チャープ周期単位で基準位相値(θ3)を0から位相ステップπ/2ずつ遷移させながら当該0、π/2、π、3π/2の4回を一周期として変更を繰り返したときに、二値移相器の移相値(φ3)をそれぞれ0、0又はπ、π、0又はπとし、基準位相値がπ/2、3π/2のときには送信電力をゼロにしつつ基準位相値が0、πのときには所定の送信電力とする送信信号によりレーダ波を前記ターゲットに照射する。信号処理部は、チャープ周期(T1)の繰り返し間隔(T2)の解像度により複数の受信信号をサンプリング処理して高速フーリエ変換することで、第1送信機、第2送信機、及び第3送信機のチャープ周期単位の各位相差に対応した0、π、π/2又は3π/2をそれぞれ角速度として検出し、角速度の検出結果により複数の受信信号を互いに分離する。
【0012】
請求項1記載の発明によれば、複数の送信機が、送信チャンネル毎にチャープ周期単位で位相偏移変調方式を変更しながら送信電力を調整することで、高解像度の位相ステップでレーダ波を出力できる。このため、送信信号の位相を比較的高い分解能にて制御する必要を生じるQPSK変調によるDDM-MIMO方式を適用する場合に比較して、送信信号の位相や振幅が製造プロセスや温度変化によりばらつくことを抑制できる。受信部側では、全送信チャンネルの受信信号の分離性能を極力劣化させることがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係るレーダシステムの電気的構成図
【
図2】送信電力調整部、二値移相器に対する制御方法の説明図
【
図3】送信機を3チャンネル備えた場合のレーダシステムの電気的構成図
【
図4】基準位相値、繰り返し回数、移相器の移相値、電圧振幅値の関係性と送信信号の周波数変化を表す説明図
【
図6】送信信号と受信信号の時間に対する周波数遷移図
【
図8】FFTを用いてピークを検出した結果をマトリクス状にプロットした結果
【
図9】受信信号の基準位相に対する位相変化を表す説明図
【
図10】送信機を4チャンネル備えた場合のレーダシステムの電気的構成図
【
図11】基準位相値、繰り返し回数、移相器の移相値、電圧振幅値の関係性と送信信号の周波数変化を表す説明図
【
図12】角速度に対するパワー分布を模式的に表す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、レーダシステム1、201、301の実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すレーダシステム1は、FCM(Fast Charp Modulation)変調方式により周波数変調されたレーダ波をターゲット2に照射し当該ターゲット2に反射した反射波を受信した信号に基づいて測定対象を測定するシステムである。測定対象は、レーダシステム1からターゲット2までの距離、ターゲット2の移動速度、ターゲット2が存在する方位角などである。FCM変調方式は、周波数を所定の初期周波数から最終周波数まで漸増又は漸減させた後に瞬時に初期周波数に戻すように変化させ、この周期T1(以下、チャープ周期T1と称す)毎にレスト期間を挟んで周波数変化を繰り返す方式である(
図6参照)。
【0015】
レーダシステム1は、少なくとも3以上のNチャンネル分備えられた複数の送信機31…3Nによる送信部3と、2以上のMチャンネル分備えられた複数の受信機41…4Mによる受信部4と、局部発振信号生成器5と、制御レジスタ6と、ロジック回路7とを備えた集積回路8と、信号処理部9と、を接続して構成される。
信号処理部9は、集積回路8に内蔵された制御レジスタ6に制御指令を記憶させることで、集積回路8のロジック回路7がこの制御指令を実行する。なお、集積回路8と信号処理部9とを分離して構成した形態を示すが、これに限定されるものではなく一体化して構成しても良く、一方の回路(例えば集積回路8)に搭載されている機能を他方の回路(例えば信号処理部9)に組み込んでも良い。
【0016】
以下、送信機31…3Nのチャンネル変数をnとし、送信機31…3Nのうちの一つをそれぞれ必要に応じて「第n送信機3n」と称する。また、受信機41…4Mのチャンネル変数をmとし、受信機41…4Mのうちの一つをそれぞれ必要に応じて「第m受信機4m」と称する。送信機31…3Nは、それぞれ生成したミリ波帯の送信信号TXによりレーダ波をターゲット2に照射する。受信機41…4Mは、複数の送信信号TXに対応した複数の受信信号RXをそれぞれ受信し、信号処理部9は受信機41…4Mによる受信信号RXを信号処理する。
【0017】
局部発振信号生成器5は、所謂PLL回路により構成され、ロジック回路7から入力される制御信号に基づいて局部発振信号を生成することでFCM変調方式による変調信号を生成し、送信部3及び受信部4にそれぞれ出力する。局部発振信号生成器5と送信部3、受信部4との間に周波数ダブラや周波数トリプラを必要に応じて設けても良い。
【0018】
送信機31…3Nは、それぞれ、送信電力調整部10、二値移相器11、パワーアンプ12、及びアンテナ素子13を接続して構成される。送信電力調整部10は、各チャープ周期T1ごとに送信電力を調整可能にする。送信電力調整部10は、送信機31…3Nのうち一つ以上に設ければ良く、特に送信チャンネル数Nが3の場合、送信電力調整部10は第3送信機33にだけ設けられても良い。また後述するが、送信チャンネル数Nが4の場合には、送信電力調整部10は第3送信機33、第4送信機34に設けられても良い。
【0019】
二値移相器11は、各送信チャンネルCH1…CHNにおいてFCM変調方式のチャープ周期T1の送信信号TXごとに0又はπの移相値φ1…φNで移相することで正相又は逆相の信号にしてパワーアンプ12に出力する。パワーアンプ12は、二値移相器11により移相される信号を電力増幅してアンテナ素子13にそれぞれ出力する。
【0020】
図2に模式的に示すように、送信電力調整部10は、入力段、電力出力段などを備えており、入力段にはNチャネル型のMOSFET20が構成されている。送信電力調整部10は入力段により送信信号TXの送信電力を調整して出力する。また、二値移相器11の入力段にもNチャネル型のMOSFET21が構成され、位相を正相のまま又は反転して逆相に調整することで移相可能になっている。
【0021】
他方、ロジック回路7は、可変電流源22、ドレインゲート間が接続されたMOSFET23及びアナログスイッチ24を備える。ロジック回路7は、バイアス制御信号を可変電流源22に出力することで、可変電流源22は出力定電流を変更可能に構成される。
アナログスイッチ24は、MOSFET20及び23のゲート間に接続されており、ロジック回路7がイネーブル信号を入力させることで当該ゲート間の導通、遮断を切替えることができる。ロジック回路7が、イネーブル信号を有効(イネーブル)にすると、アナログスイッチ24は導通し、MOSFET20及び23のゲート間が導通される。すると、送信電力調整部10の入力にはカレントミラー回路が構成される。ロジック回路7が、バイアス制御信号を可変電流源22に出力することで、MOSFET20の入力バイアスを変化させることができる。これによりロジック回路7は、送信電力調整部10の電力増幅度を調整できる。
【0022】
ロジック回路7がイネーブル信号を無効(ディスイネーブル)にすると、アナログスイッチ24はMOSFET20及び23のゲート間を遮断し、送信電力調整部10の入力段のMOSFET20の入力バイアスをグランド(図示せず)に保持する。これにより、送信電力調整部10は電力増幅度を0にできる。各送信機31…3Nの送信電力調整部10の入力回路が、このように構成されているため、ロジック回路7は、各送信機31…3Nの送信信号出力を個別に停止又は稼働できる。
【0023】
またロジック回路7は、例えばラダー抵抗による分圧回路25を備えており、分圧回路25の出力を二値移相器11の入力段のMOSFET21のゲートに切替入力させることで、二値移相器11の入力段のMOSFET21のゲートバイアスを調整できる。このためロジック回路7は、入力信号振幅の正相、逆相を切替可能になっており、二値移相器11は、各入力信号を0又はπだけ移相させることができ、位相変調を実現できる。
【0024】
参照図面を
図1に戻して引き続き説明する。送信機31…3Nのアンテナ素子13は、所定の配列に整列されており、フェーズドアレイアンテナ方式によりレーダ波の送信エリアを切替可能になっている。ロジック回路7は、タイミング制御することで、局部発振信号生成器5により変調信号を出力させつつ、バイアス制御信号、イネーブル信号及び位相制御信号を調整出力する。このとき、各第n送信機3nは、FCM変調方式のチャープ周期T1の一周期毎に基準位相値θnを変化させながら、下記の(1)式に基づいて電圧振幅値An[θn]を変化させるようにレーダ波を出力する。
【数1】
【0025】
(1)式の基準位相値θnは、FCM変調のチャープ周期T1が繰り返されるたびに変化する位相値であり、初期値0から位相ステップ2π/{2^(n-1)}ずつ変化する位相値を示す。この基準位相値θnは、当該位相ステップ2π/{2^(n-1)}毎に変化し、繰り返し回数Kn=2^(n-1)を一周期として2πに達すると0に戻る位相値である。また(1)式のPTは、送信信号TXの平均出力電力を示している。各第n送信機3nが、このルールに基づいてレーダ波を出力することで、送信部3が、各二値移相器11の位相ステップπよりも高解像度の位相ステップとなる送信信号TXによりレーダ波をターゲット2に照射可能になっている。
【0026】
他方、受信機41…4Mは、アンテナ素子26、LNA27、ミキサ28、及び中間周波数増幅器29を備える。受信機41…4Mのアンテナ素子26は、所定の配列に整列されており、フェーズドアレイアンテナ方式によりレーダ波の受信走査エリアを切替可能になっている。各受信機41…4Mのアンテナ素子26は、ターゲット2に反射したレーダ波を受信する。LNA27は、アンテナ素子26による受信信号RXを低雑音増幅してミキサ28に出力する。ミキサ28は、LNA27の増幅信号と局部発振信号生成器5が出力する変調信号とを混合し、中間周波数増幅器29に出力する。中間周波数増幅器29は、ミキサ28から入力された混合信号を増幅し信号処理部9に出力する。
【0027】
信号処理部9は、A/D変換器51…5M、データ記憶部60、及びFFT処理部61、62などの機能を備えたマイクロコンピュータ等により構成される。信号処理部9は、各受信機41…4Mの中間周波数増幅器29の増幅信号をA/D変換器51…5MによりA/D変換しデータ記憶部60に記憶させる。信号処理部9のFFT処理部61、62は、データ記憶部60に記憶されたA/D変換データを予め定められた低解像度、高解像度でサンプリングして高速フーリエ変換する機能を備える。信号処理部9は、データ記憶部60に記憶されたA/D変換データを用いて測定対象(ターゲット2までの距離、ターゲット2の移動速度、及び、ターゲット2が存在する方位角等)を算出する。なお、信号処理部9が実行する詳細な処理内容は、下記の具体的な実施例1、実施例2にて説明する。
【0028】
(実施例1)
ここまで、送信チャンネル数をN、受信チャンネル数をMに一般化した構成を例示して説明したが、以下、N=3チャンネル分の送信機31…33を設けたレーダシステム201の実施例について、
図3…
図9を参照しながら説明する。なお、
図3には
図1の構成に付した符号と同一符号を付して説明する。
図3に示すように、送信部3は、その中央に第1送信機31のアンテナ素子13を設置し、その両脇に第2送信機32及び第3送信機33の各アンテナ素子13を設置している。各アンテナ素子13は、一直線上に等間隔で設置されていることが望ましい。
【0029】
第n送信機3nは、前述のように(1)式に基づく電圧振幅値Avの送信信号TXを生成する。
図4には、送信チャンネルCH1…CH3の各第n送信機3nに対応して、時間経過に伴い変化する基準位相値θn、繰り返し回数kn、移相器の移相値φn、電圧振幅値Avの対応関係を示している。
前述の(1)式において、n=1に対応した繰り返し回数K1は1であり、k1={0}、θ1={0}となるため、ロジック回路7は、第1送信機31の二値移相器11の移相値φ1を{0}とする。また、ロジック回路7は、電圧振幅値A1[θ1]を所定の基準値SQRT(2PT)(
図4には相対値0[dB]と記載)にする。SQRTは平方根を示す。ロジック回路7がこのように設定することで、第1送信機31は、所定の送信電力のレーダ波をターゲット2に照射する。
【0030】
また前述の(1)式において、n=2に対応した繰り返し回数K2は2となり、k2={0、1}、θ2={0、π}となる。ロジック回路7は、第2送信機32の二値移相器11の移相値φ2を{0、π}の2回を一周期として繰り返し変更する。これにより第2送信機32は、チャープ周期T1単位で二値移相器11の移相値φ2を0、πの2回を一周期として変更を繰り返す。
このときもロジック回路7は、各チャープ波の電圧振幅値A2(θ2)を所定の基準値SQRT(2PT)(相対値0[dB])にする。ロジック回路7がこのように設定することで、第2送信機32はチャープ周期T1単位でBPSK変調しつつ所定の送信電力のレーダ波をターゲット2に照射する。
【0031】
前述の(1)式において、n=3に対応した繰り返し回数K3は4となり、k3={0、1、2、3}、θ3={0、π/2、π、3π/2}となる。このとき第3送信機33は、チャープ周期T1単位で基準位相値θ3を0から位相ステップπ/2ずつ遷移させながら当該0、π/2、π、3π/2の4回を一周期として変更を繰り返す。
基準位相値θ3=π/2、3π/2のとき(1)式の電圧振幅値A3(θ3)は0となる。このためロジック回路7が、第3送信機33の電圧振幅値A3(θ3)を0に設定し送信信号TXを出力しない場合には、二値移相器11の移相値φnを0に設定してもπに設定しても良い。このときロジック回路7は、二値移相器11の移相値φ3を{0、0orπ、π、0orπ}の4回を一周期として繰り返し変更する。ロジック回路7が、このように設定することで、第3送信機33はチャープ周期T1単位で疑似QPSK変調しつつ、基準位相値θ3がπ/2、3π/2のときには送信電力をゼロにしつつ、基準位相値θ3が0、πのときには所定の送信電力としたレーダ波をターゲット2に照射する。
【0032】
各送信機31…33は、このようなルールに基づいて、基準位相値θn、移相器の移相値φn、繰り返し回数knを変化させながらレーダ波をターゲット2に出力する。
【0033】
送信部3のレーダ波がターゲット2に反射すると、レーダシステム1の受信部4に入力される。各受信機41…4Mがターゲット2に反射したレーダ波を受信すると、各受信機41…4Mは、受信信号RXをそれぞれ前述のように処理し、信号処理部9に処理結果を出力する。
【0034】
図5に示すように、信号処理部9は、受信部4の受信信号RXを入力するとA/D変換器51…5MによりA/D変換処理し、S1においてAD変換データをデータ記憶部60に取得する。信号処理部9は、送信機31…3Nの送信信号TXに対応した受信信号RXのAD変換データを取得した後、S2においてデータ記憶部60に記憶されたAD変換データを用いてFFT処理部61により速度FFT(第1FFT相当)を実行することで、隣接するチャープ周期T1の繰り返し間隔T2の低解像度で受信信号RXをサンプリング処理して高速フーリエ変換する。繰り返し間隔T2単位の基準位相値θ1…θ3の位相回転速度が、送信チャンネルCH1…CH3毎に0、π、π/2にそれぞれ固定されているため、信号処理部9がFFT処理部61により速度FFTすることで基準位相値θ1…θ3の位相回転速度に対応した角速度を検出できる。この結果、第1送信機31、第2送信機32、第3送信機33のチャープ周期T1単位の各位相差に対応した0、π、π/2又は3π/2をそれぞれ角速度として検出できる。
【0035】
また信号処理部9は、S3において
図6に示す一回のチャープ周期T1中の受信信号RXを用いてFFT処理部62により高解像度の距離FFT(第2FFT相当)を実行する。信号処理部9のFFT処理部62が距離FFTを実行することで、レーダ波を出力してからターゲット2に反射して信号受信するまでの遅れ時間を検出でき、これらの遅延時間に基づいてターゲット2までの距離を求めることができる。また信号処理部9は、送信信号TXの周波数と受信信号RXの周波数の差をビート周波数として検出することに基づいて距離を求めることもできる。
そして信号処理部9は、S4においてCFAR(Constant False Alarm Rate)によりピーク検出することで、
図7に模式的に示すように角速度軸でパワー分布を得ることができる。
【0036】
例えば、ある第m受信機4mが、距離が互いに異なる2つのターゲット2に反射したレーダ波を受信したときの距離FFT、速度FFTを用いたピーク検出結果をそれぞれマトリクス状にプロットすると、
図8に示すようにパワースペクトル分布が得られる。
図8には、ある第m受信機4mが受信した各送信チャンネルCH1…CHNの送信信号Tx1…Tx3の符号を付している。信号処理部9は、S5においてターゲット2までの距離が同一と見做される一群の信号Z1のパワースペクトルをペアマッチングすることで、当該ペアマッチングされたパワースペクトルの一群の信号Z1を選定できる。
【0037】
次に信号処理部9は、全ての送信機31…3Nの送信信号Tx1…Tx3を受信した第m受信機4mの受信信号RXを等位相面上で検出することで受信信号RXの基準位相に対する位相を取得する。このとき、信号処理部9により取得された位相が、送信チャンネル数Nを超える場合、ミキサ28にてイメージ成分が検出されていると見做す。この場合、信号処理部9はS6においてイメージ成分を除去する。このとき信号処理部9は、S6において信号の位相が等間隔と見做されるN個の信号を抽出して分離する。
【0038】
例えば、信号処理部9が
図9に示すように位相を検出すると等間隔と見做すことが可能なN個の一群の信号Zxを抽出、分離できる。他の信号Tx3(Image)は見做し除去、破棄すれば良い。各送信チャンネルCH1…CH3のアンテナ素子13の設置位置とターゲット2の方位角との関係に基づいて受信部4が受信する信号の位相も変化する。例えば、
図3に模式的に示すように、第2送信機32のアンテナ素子13がターゲット2に比較的近接しており、第3送信機33のアンテナ素子13がターゲット2から比較的遠く設置されている場合には、第2送信機32、第1送信機31、第3送信機33の送信信号Tx2、Tx1、Tx3に対応した受信信号RXの順に基準位相に対する位相が大きくなる。このため、信号処理部9は、概ね等間隔で検出される位相の検出値に基づいてS7においてターゲット2が存在する方位角を推定できる。
【0039】
各送信機31…3Nのアンテナ素子13の配置等を設計したときに、ターゲット2が存在する方位角との関係性が決定される。このため、このターゲット2の方位角に対応してイメージ成分の位相も決定される。例えば、製造会社が多数のレーダシステム1を量産し検査するときに、コーナリフレクタを疑似的なターゲット2と見做してレーダシステム1に対して所定の角度に設置しイメージ成分を検出する。すると、製造された個々のレーダシステム1に対してターゲット2が存在する方位角とイメージ成分の位相との対応関係を求めることができる。
【0040】
製造会社は、信号処理部9に搭載される不揮発性メモリ(図示せず)にこの対応関係を当該信号処理部9の出荷前に記憶させることで、信号処理部9は、前述したCFARによりピーク検出した後に、不揮発性メモリに記憶された対応関係に基づいて受信信号RXを選定することでイメージ成分を容易に除去できる。この結果、必要な信号を容易に分離して取得できる。
【0041】
(実施例2)
以下、4チャンネル分の送信機31…34を設けたレーダシステム301の具体例について、
図10…
図12を参照しながら説明する。
図10に示すように、送信部3は、その中央に第1送信機31及び第2送信機32を設置し、その両脇に第3送信機33及び第4送信機34を設置している。これらの送信機31…34のアンテナ素子13は一直線上に等間隔で設置されていることが望ましい。その他の構成は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0042】
実施例1にも示したように、第n送信機3nは(1)式に示される電圧振幅値An(θn)に基づく送信信号TXを生成する。
図11には、各送信チャンネルCH1…CH4の送信機31…34が出力する送信信号TXに基づくレーダ波において、時間経過に伴い変化する基準位相値θn、繰り返し回数kn、二値移相器11の移相値φn、電圧振幅値Avの対応関係を示している。第1送信機31、第2送信機32、第3送信機33の基準位相値θn、繰り返し回数kn、移相器の移相値φn、電圧振幅値Avは実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0043】
(1)式においては、n=4に対応した繰り返し回数K4が8となり、k4={0、1、2、3、4、5、6、7}、θ4={0、π/4、π/2、3π/4、π、5π/4、3π/2、7π/4}となる。第4送信機34は、チャープ周期T1単位で基準位相値θ4を0から位相ステップπ/4ずつ遷移させながら当該0、π/4、π/2、3π/4、π、5π/4、3π/2、7π/4の8回を一周期として変更を繰り返す。
基準位相値θ4=π/2、3π/2のとき(1)式の電圧振幅値A4(θ4)は0となる。このため、ロジック回路7が、第4送信機34の電圧振幅値A4(θ4)を0に設定することで送信信号TXを出力しない場合には、二値移相器11の移相値φnを0に設定してもπに設定しても良い。また、基準位相値θ4=π/4、3π/4、5π/4、7π/4のとき(1)式に基づいて電圧振幅値A4(θ4)をSQRT(PT)とし相対値-3[dB]に設定する。
【0044】
ロジック回路7は、第4送信機34の二値移相器11の移相値φ4を{0、0、0orπ、π、π、π、0orπ、0}の8回を一周期として繰り返し変更する。ロジック回路7が、このように設定することで、第4送信機34は、基準位相値θ4が0又はπのときには所定の送信電力、基準位相値θ4がπ/2、又は3π/2のときには送信電力をゼロ、基準位相値θ4がπ/4、3π/4、5π/4、又は7π/4のときには所定の半分の送信電力とするように生成される送信信号TXによりレーダ波をターゲット2に照射する。
【0045】
送信機31…34の送信信号に基づくレーダ波がターゲット2に反射すると、レーダシステム1の受信部4に入力される。各受信機41…4Mがターゲット2に反射したレーダ波を受信すると、各受信機41…4Mは、受信信号RXをそれぞれ前述のように処理し、信号処理部9に処理結果を出力する。
【0046】
図5に示すように、信号処理部9は、受信機41…4Mの受信信号RXを入力するとA/D変換器51…5MによりA/D変換処理し、S1においてAD変換データをデータ記憶部60に取得する。信号処理部9は、受信信号RXのAD変換データを取得した後、S2においてAD変換データを用いてFFT処理部61により速度FFT(第1FFT相当)を実行することで、隣接するチャープ周期T1の繰り返し間隔T2の低解像度により受信信号RXをサンプリング処理し高速フーリエ変換する。このとき、基準位相値θ1…θ4の繰り返し間隔T2毎の位相回転速度が送信チャンネルCH1…CH4毎に0、π、π/2、π/4にそれぞれ固定されているため、信号処理部9が、前述のようにサンプリングし速度FFTすることで位相回転速度に対応した角速度を検出できる。これにより、信号処理部9は、第1送信機31、第2送信機32、第3送信機33、及び前記第4送信機34におけるチャープ周期T1単位の各位相差に対応したπ、0、π/2又は3π/2、若しくはπ/4又は7π/4をそれぞれ角速度として検出できる。
【0047】
また信号処理部9は、S3において一回のチャープ周期T1中の受信信号RXを用いてFFT処理部62により高解像度で距離FFT(第2FFT相当)を実行することで、前述同様にターゲット2までの距離を求めることができる。
信号処理部9は、S4において受信信号RXについてCFARによりピーク検出することで、
図12に示すようにターゲット2の移動速度に対応した角速度に対するパワー分布を得ることができる。
【0048】
この後、信号処理部9は、実施例1と同様の信号処理を行うことで受信信号RXを分離でき、ターゲット2の移動速度やターゲット2が存在する方位角を推定できる。なお、実施例1ではN=3チャンネル、実施例2ではN=4チャンネルの例を示したが、これに限定されるものではなく、N=5チャンネル以上に一般化できる。
【0049】
以下、本実施形態の構成を概念的にまとめ、その効果を説明する。
本実施形態によれば、送信機31…3Mは、それぞれ、FCM変調方式のチャープ周期T1単位で0又はπの移相値φ1…φNに移相させる二値移相器11を備えると共に、チャープ周期T1単位で送信電力を調整可能にする送信電力調整部10を備える。送信部3は、二値移相器11の単独の位相ステップπよりも高解像度の位相ステップにて生成される送信信号TXによりレーダ波をターゲット2に照射するように構成される。
【0050】
信号処理部9は、ターゲット2に反射した反射波を複数の送信機31…3Nに対応した複数の受信信号RXを取得するとチャープ周期T1の繰り返し間隔T2により複数の受信信号RXをサンプリング処理して高速フーリエ変換(速度FFT)し、この変換結果に基づいて複数の送信信号TXに対応した受信信号RXを互いに分離している。
【0051】
本実施形態では、製造プロセスや温度変化によるばらつきが比較的少ないBPSK変調方式、及び、TDM-MIMO方式による高い受信信号RXの分離性能に着目し、各送信機31…3Nが、送信チャンネルCH1…CHN毎にチャープ周期T1単位の位相偏移変調方式を変更しながら段階的に送信信号TXの振幅を変更することで、高解像度の位相ステップによりレーダ波を出力している。このため、送信信号TXの位相を比較的高い分解能で制御する必要を生じるQPSK変調によるDDM-MIMO方式を適用する場合に比較して、送信信号TXの位相や振幅が製造プロセスの変化や温度変化によりばらつくことを抑制できる。この結果、受信部4側では、全ての送信チャンネルCH1…CHNの受信信号RXの分離性能を極力劣化させることがなくなり、ターゲット2が存在する方位角の検出精度を良好にできる。
【0052】
また信号処理部9は、一回のチャープ周期T1の中で高解像度でサンプリング処理してFFT処理部62により高速フーリエ変換(距離FFT)し、FFT処理部62を用いて算出されるターゲット2までの距離が同一と見做される一群の信号Z1、Z2をペアマッチングし、当該ペアマッチングされた一群の信号Z1、Z2を選定した上でFFT処理部61を用いて速度FFTにより変換した変換結果に基づいて信号を分離している。このため、信号処理部9は、ターゲット2までの距離に応じて信号を分離した後、全ての送信チャンネルCH1…CHNを受信した信号の角速度に基づいて信号を分離、弁別でき、当該信号を段階的に弁別できる。これにより、容易に弁別できる。
【0053】
また信号処理部9は、分離した受信信号RXの基準位相に対する位相を取得し、取得した位相が送信チャンネル数Nを超えるときには、信号の位相が等間隔と見做されるN個の信号を抽出し、抽出されたNの受信信号RXに基づいてターゲット2が存在する方位角を推定している。このため、ハードウェア構成上、ミキサ28において発生するイメージ成分を除去でき、ターゲット2の存在する方位角を精度良く求めることができる。
【0054】
(他の実施形態)
前述実施形態に限られるものではなく、例えば、以下に示す変形又は拡張が可能である。
前述実施形態では、送信チャンネル数を3又は4とした実施例を説明したが、Nチャンネルに一般化できる。このとき第n送信機3nは、チャープ周期T1単位で基準位相値θnを位相ステップ2π/{2^(n-1)}ずつ変化させながら繰り返し回数Kn=2^(n-1)を一周期として繰り返すことになり、第n送信機3nの送信信号TXの電圧振幅値Avを(1)式に基づく送信信号TXとしてレーダ波をターゲット2に照射する。
【0055】
そして、信号処理部9は、ターゲット2に反射して受信した複数の受信信号RXについて、チャープ周期T1の繰り返し間隔T2の低解像度により複数の受信信号RXをサンプリング処理して高速フーリエ変換する。これにより第n送信機3nのチャープ周期T1単位の各位相差に対応した2π/{2^(n-1)}をそれぞれ角速度として検出できるようになり、角速度の検出結果に基づいて複数の受信信号RXを互いに分離できることになる。したがって、Nチャンネルに一般化しても同様に複数の受信信号RXを互いに分離できるようになり、前述実施形態と同様の作用効果を得られる。
【0056】
前述実施形態では、全ての送信チャンネルCH1…CHNの送信機31…3Nに送信電力調整部10を備える形態を示したが、これに限定されるものではない。送信電力の調整を必要な少なくとも一つ以上の送信機(例えば33;33及び34)に送信電力調整部10を設ければ良い。チャープ周期T1の単位で位相を変調する方式として、BPSKや疑似QPSKを用いた形態を用いたが、チャープ周期単位で位相を0又はπに変更しつつ振幅を4段階に変更する疑似8PSKなどの方式を適用しても良い。
【0057】
本開示は、前述した実施形態に準拠して記述したが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0058】
図面中、1はレーダシステム、2はターゲット、3は送信部、31…3Nは送信機、4は受信部、41…4Mは受信機、9は信号処理部、10は送信電力調整部、11は二値移相器、61、62はFFT処理部(第1FFT、第2FFT)を示す。