(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】重金属含有ダストの処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/80 20220101AFI20230511BHJP
C02F 1/62 20230101ALI20230511BHJP
C02F 1/70 20230101ALI20230511BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20230511BHJP
B09B 101/30 20220101ALN20230511BHJP
【FI】
B09B3/80
C02F1/62
C02F1/62 Z
C02F1/70 A
B09B3/70
B09B101:30
(21)【出願番号】P 2019118147
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2018122685
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】原口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
(72)【発明者】
【氏名】高馬 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】柴原 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】矢島 達哉
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-237010(JP,A)
【文献】国際公開第2010/055703(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0305905(US,A1)
【文献】特開2011-050809(JP,A)
【文献】特開2009-101359(JP,A)
【文献】特開2010-227826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/70
B09B 3/80
C02F 1/62
C02F 1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属含有ダストを洗浄スラリーにして脱塩する脱塩洗浄工程、脱塩後の洗浄スラリーを固液分離して回収した洗浄濾液に硫化剤を添加して生成した硫化物沈澱を固液分離する硫化工程、該硫化物沈澱を固液分離した硫化濾液に鉄還元剤を添加して生成したセレン澱物を固液分離する鉄還元工程を有する処理方法であって、上記脱塩洗浄工程において、上記洗浄濾液の電気伝導度が5.5S/m以下になるように脱塩洗浄を行い、
上記硫化工程において、硫化物イオン濃度が0.5~2.0mmol/Lになる量の硫化剤を添加し、上記鉄還元工程において、
硫化濾液中の第一鉄イオン濃度が100~600mg/Lになる量の鉄還元剤を添加して、非酸化性雰囲気下、pH9.5以上~11.0の液性下でセレンの鉄還元を行うことを特徴とする重金属含有ダストの処理方法。
【請求項2】
上記脱塩洗浄工程において、上記洗浄濾液の電気伝導度が3.0S/m以上~5.0S/m以下になるように洗浄を行う請求項1に記載する重金属含有ダストの処理方法。
【請求項3】
上記脱塩洗浄工程の後に、上記洗浄濾液のpHを10.0~11.5に調整するpH調整工程を有し、このpH調整した洗浄濾液を上記硫化工程に導く請求項1または請求項2に記載する重金属含有ダストの処理方法。
【請求項4】
上記硫化工程において、上記洗浄濾液に硫化剤を添加して硫化物を沈澱させ、さらに第一鉄化合物を添加して硫化鉄を沈澱させた後に、pH10.0~11.5に調整して水酸化鉄を沈澱させ、これらの沈澱を固液分離した硫化濾液に鉄還元剤を添加する請求項1~請求項3の何れかに記載する重金属含有ダストの処理方法。
【請求項5】
上記鉄還元工程において、鉄還元剤として硫酸第一鉄を
用いる請求項1~請求項4の何れかに記載する重金属含有ダストの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン、鉛、および亜鉛などの重金属を含有する焼却灰やダストなどの脱塩洗浄処理において、該脱塩洗浄によって生じる洗浄廃液に含まれるセレン、鉛、亜鉛などの重金属を定常的に除去することができる重金属含有ダストの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミや産業廃棄物などの焼却施設から発生する焼却灰について、脱塩洗浄処理してセメント原料として再利用することが知られている。これらの焼却灰には塩素と共に鉛、亜鉛、カドミウム、ヒ素、セレン、水銀などの重金属が含まれており、脱塩処理した洗浄廃水にはこれらの重金属が多く含まれているので、該洗浄廃水からこれらの重金属を除去して排水規制に適合するように処理する必要がある。
【0003】
また、セメント製造工程から排出される焼却灰や、セメントキルンから排出される燃焼ガスに含まれるダストなどにも塩素と共に重金属が多く含まれており、これらの焼却灰やダストを脱塩洗浄処理した廃水についても排水規制に適合するようにこれらの重金属を除去する必要がある。
【0004】
これらの焼却灰やダストの湿式処理方法として以下の方法が知られている。
(イ) セメント製造設備などから排出されるダストを水洗し、その洗浄廃水に硫黄化合物を添加して該廃水に溶存している重金属を硫化沈澱にし、これを固液分離して重金属澱物を除去し、次いで、上記澱物を分離した液分に第一鉄イオン源を添加して該液分に溶存しているセレン等を還元して沈澱させ、これを固液分離してセレン澱物を除去するダストの洗浄処理方法(特許文献1:特許第6205111号公報)。
【0005】
(ロ)セメント製造設備から排出される焼却灰と、セメントキルンの燃焼ガスに含まれるダストとを回収して上記焼却灰と共に水洗し、この洗浄廃水に硫化剤を添加して重金属の硫化物を沈澱させ、さらに第一鉄化合物を添加して溶存するセレンを還元して沈澱させ、これらを固液分離して、鉛やセレン等の重金属を除去する排水処理方法(特許文献2:特許第4958171号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6205111号公報
【文献】特許第4958171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の上記処理方法は、焼却灰やダストの洗浄廃水に硫黄化合物(硫化剤)を添加して廃水中の重金属を硫化物沈澱にし、さらに該洗浄廃水に残留するセレン等を鉄還元して沈澱化することによって除去する方法であり、脱塩洗浄廃水中の重金属を効率よく十分に沈澱化して除去するには、該洗浄廃水に含まれる重金属量に対して硫化剤や第一鉄化合物(鉄還元剤)の添加量や処理時間などが適確であることが必要になる。
【0008】
一方、脱塩洗浄廃水に含まれるセレン等の重金属量は焼却灰やダストの性状によって大きく影響される。例えば、脱塩洗浄廃水に含まれるセレンの濃度は、一般に1~15mg/Lの範囲で大きく変動している。このため、硫化剤や鉄還元剤の添加が過剰量や過少量にならないように、該洗浄廃水の重金属量に応じて硫化剤や鉄還元剤の添加量をその都度、調整する必要がある。
【0009】
硫化剤や鉄還元剤の添加量を調整せずに一律に固定的な条件で洗浄廃水の定常処理を行うと、セレン等の重金属濃度が高い洗浄廃水に対しては、セレン等を十分に除去できず、一方、重金属濃度の低い洗浄廃水に対しては、硫化剤や鉄還元剤の過剰添加になり、処理コストの増大や処理効率の低下を招く問題があった。
【0010】
本発明の処理方法は、従来の処理方法における上記問題を解消したものであり、セレン等の重金属濃度が大きく変動する焼却灰やダストなどの脱塩洗浄処理において、該脱塩洗浄濾液に含まれるセレン等の重金属を定常的に効率よく除去することができる処理方法を提供する。なお、本発明の処理方法において、セレン、鉛、亜鉛などの重金属を含有する焼却灰ないしダストについて、これらの焼却灰およびダストを含めて重金属含有ダストと云う。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成からなる重金属含有ダストの処理方法に関する。
〔1〕重金属含有ダストを洗浄スラリーにして脱塩する脱塩洗浄工程、脱塩後の洗浄スラリーを固液分離して回収した洗浄濾液に硫化剤を添加して生成した硫化物沈澱を固液分離する硫化工程、該硫化物沈澱を固液分離した硫化濾液に鉄還元剤を添加して生成したセレン澱物を固液分離する鉄還元工程を有する処理方法であって、上記脱塩洗浄工程において、上記洗浄濾液の電気伝導度が5.5S/m以下になるように脱塩洗浄を行い、上記硫化工程において、硫化物イオン濃度が0.5~2.0mmol/Lになる量の硫化剤を添加し、上記鉄還元工程において、硫化濾液中の第一鉄イオン濃度が100~600mg/Lになる量の鉄還元剤を添加して、非酸化性雰囲気下、pH9.5以上~11.0の液性下でセレンの鉄還元を行うことを特徴とする重金属含有ダストの処理方法。
〔2〕上記脱塩洗浄工程において、上記洗浄濾液の電気伝導度が3.0S/m以上~5.0S/m以下になるように洗浄を行う上記[1]に記載する重金属含有ダストの処理方法。
〔3〕上記脱塩洗浄工程の後に、上記洗浄濾液のpHを10.0~11.5に調整するpH調整工程を有し、このpH調整した洗浄濾液を上記硫化工程に導く上記[1]または上記[2]に記載する重金属含有ダストの処理方法。
〔4〕上記硫化工程において、上記洗浄濾液に硫化剤を添加して硫化物を沈澱させ、さらに第一鉄化合物を添加して硫化鉄を沈澱させた後に、pH10.0~11.5に調整して水酸化鉄を沈澱させ、これらの沈澱を固液分離した硫化濾液に鉄還元剤を添加する上記[1]~上記[3]の何れかに記載する重金属含有ダストの処理方法。
〔5〕上記鉄還元工程において、鉄還元剤として硫酸第一鉄を用いる上記[1]~上記[4]の何れかに記載する重金属含有ダストの処理方法。
【0012】
本発明の処理方法は、重金属を含有するダストの洗浄濾液の電気伝導度が5.5S/m以下になるように、好ましくは3.0S/m以上~5.0S/m以下になるように、脱塩洗浄を行うことによって、洗浄濾液に含まれるセレン等の重金属濃度を一定範囲に制御し、次工程の硫化処理および鉄還元処理において定常的な処理を行えるようにした。
また、本発明の処理方法は、硫化濾液に鉄還元剤を添加する鉄還元処理において、硫化濾液のpHをセレンの鉄還元に最適な液性に整えることによって、セレンの除去効率を高めた。
【0013】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の処理方法は、重金属含有ダストを洗浄スラリーにして脱塩する脱塩洗浄工程、脱塩後の洗浄スラリーを固液分離して回収した洗浄濾液に硫化剤を添加して生成した硫化物沈澱を固液分離する硫化工程、該硫化物沈澱を固液分離した硫化濾液に鉄還元剤を添加して生成したセレン澱物を固液分離する鉄還元工程を有する処理方法であって、上記脱塩洗浄工程において、上記洗浄濾液の電気伝導度が5.5S/m以下になるように脱塩洗浄を行い、
上記硫化工程において、硫化物イオン濃度が0.5~2.0mmol/Lになる量の硫化剤を添加し、上記鉄還元工程において、
硫化濾液中の第一鉄イオン濃度が100~600mg/Lになる量の鉄還元剤を添加して、非酸化性雰囲気下、pH9.5以上~11.0の液性下でセレンの鉄還元を行うことを特徴とする重金属含有ダストの処理方法である。
本発明の処理方法の概略を
図1に示す。
【0014】
脱塩洗浄工程
本発明の処理方法は、重金属含有ダストを洗浄スラリーにして脱塩する脱塩洗浄工程を有する。各種の焼却施設から発生する焼却灰やセメント製造工程などから発生するダストなどには、鉛、亜鉛、カドミウム、ヒ素、セレン、水銀などの重金属が含まれており、さらに多量の塩素が含まれている。塩素はセメント原料において有害であるので、これらの焼却灰やダストをセメント原料に利用するためには脱塩洗浄処理が行われる。脱塩洗浄処理は、例えば、焼却灰やダストに洗浄水を加えて洗浄スラリーにし、この洗浄スラリーを撹拌して塩素を洗い出す。この洗浄処理によって塩素と共にセレンや鉛、亜鉛などの重金属も洗い出される。
【0015】
洗浄スラリーは固液分離され、脱塩された洗浄固形分は回収されて、セメント原料やその他の用途に利用することができる。一方、洗浄固形分を固液分離した洗浄濾液には脱塩洗浄によって洗い出されたセレンや鉛、亜鉛などが含まれているので、次工程の硫化処理および鉄還元処理においてこれらのセレンや鉛、亜鉛などを除去する。
【0016】
本発明の処理方法は、この脱塩洗浄工程において、洗浄濾液の電気伝導度(EC)が5.5S/m以下になるように、好ましくは3.0S/m以上~5.0S/m以下になるように、脱塩洗浄を行う。一般に電気伝導度(EC)は液中の重金属濃度と相関しているが、焼却灰やダストの性状はその産状などによって大きく異なるので、これらの脱塩効果は必ずしも同様ではない。
【0017】
具体的には、後述の実施例に示すように、焼却灰やダストを一定固液比の洗浄スラリーにして脱塩洗浄(電気伝導度を制御しない脱塩洗浄;ECフリーの脱塩洗浄)したとき、洗浄濾液の電気伝導度はダストの種類によってかなり異なる。例えば、実施例1の表1に示すダストAとダストCは、洗浄濾液の電気伝導度は互いに近似しているが、洗浄濾液に含まれている金属合計濃度は2倍程度も異なる。一方、ダストAとダストDは、洗浄濾液に含まれている金属合計濃度は互いに近似しているが、洗浄濾液の電気伝導度は大幅に異なる。
【0018】
このように洗浄濾液に含まれるセレンや鉛、亜鉛などの濃度変動が大きいと、次の硫化工程や鉄還元工程において定常的な処理を行うことが難しくなり、薬剤の過剰添加や過少添加を招く原因になる。
【0019】
一方、洗浄濾液の電気伝導度(EC)が5.5S/m以下になるように、好ましくは3.0S/m以上~5.0S/m以下になるように、脱塩洗浄を行うと、焼却灰やダストの種類が異なっても、洗浄濾液に含まれるセレンや鉛、亜鉛などの合計濃度を類似した範囲に制御することができる。具体的には、例えば、洗浄濾液の電気伝導度(EC)が5.5S/m以下になるように脱塩洗浄すると、焼却灰やダストの種類が異なっても、洗浄濾液に含まれるセレンや鉛、亜鉛などの合計濃度を概ね1.0mol/L未満の範囲にすることができ、洗浄濾液の電気伝導度(EC)が3.0S/m以上~5.0S/m以下になるように脱塩洗浄を行うと、洗浄濾液に含まれるセレンや鉛、亜鉛などの合計濃度を概ね1.0mol/L未満~0.4mol/L以上の範囲にすることができる。
【0020】
本発明の処理方法は、洗浄濾液の電気伝導度(EC)を指標にして脱塩洗浄処理を行うことによって、洗浄濾液に含まれるセレンや鉛、亜鉛などの大幅な濃度変動を抑制した。具体的には、本発明の処理方法は、洗浄濾液の電気伝導度(EC)が5.5S/m以下になるように、好ましくは3.0S/m以上~5.0S/m以下になるように脱塩洗浄を行うことによって、洗浄濾液に含まれるセレンや鉛、亜鉛などの合計濃度を概ね1.0mol/L未満の範囲にし、好ましくは洗浄濾液に含まれるセレンや鉛、亜鉛などの合計濃度を概ね1.0mol/L未満~0.4mol/L以上の範囲にし、洗浄濾液に含まれるセレンや鉛、亜鉛などの大幅な濃度変動を抑制して、次の硫化工程や鉄還元工程において効率よく定常的な処理を行うことができるようにした。
【0021】
洗浄濾液の電気伝導度(EC)が5.5S/m以下、好ましくは3.0S/m以上~5.0S/m以下の範囲になるように、脱塩洗浄を行うには、焼却灰やダストに洗浄水を加えながら、洗浄スラリーの電気伝導度(EC)を監視して洗浄を行えば良い。例えば、塩素や重金属の含有量が多い焼却灰やダストについては洗浄水量を多くし、一方、塩素や重金属の含有量が少ない焼却灰やダストについては洗浄水量を少なくするなど、固液比を調整すればよい。
【0022】
pH調整
洗浄スラリーを固液分離して回収した洗浄濾液は、セレンや鉛、亜鉛などを含む高アルカリの濾液であり、次工程の硫化処理および鉄還元処理に適するように、pHを10.0~11.5の範囲に調整するのが好ましい。例えば、洗浄濾液のpHが12程度より高いと、次工程で生成した硫化鉛などが不安定化して溶解するようになり、一方、洗浄濾液のpHが10.0未満であると水酸化鉛が生成し、この水酸化鉛は硫化鉛よりも不安定であるため再溶出しやすいので好ましくない。pH12程度より高い洗浄濾液には塩酸などを添加し、一方、pH10.0未満の洗浄濾液には水酸化ナトリウムなどを添加して、廃水のpHを10.0~11.5の範囲に調整するのが好ましい。
【0023】
硫化工程
上記洗浄濾液、好ましくは上記pH調整を行った洗浄濾液に、硫化剤を添加して該洗浄濾液に含まれる鉛および亜鉛などの硫化物沈澱を生成させる。硫化剤としては水硫化ソーダ(NaHS)、硫化ソーダ(Na2S)などを用いることができる。洗浄濾液に含まれているセレン以外の鉛、亜鉛、銅、ヒ素、カドミウム、水銀、タリウムなどの重金属は、次式のように、硫化剤の硫化物イオン(S2-)と反応して硫化物沈澱を生じる。この硫化物沈澱を固液分離して洗浄濾液から除去する。
Pb2+(aq)+S2- → PbS(s)↓
Zn2+(aq)+S2- → ZnS(s)↓
【0024】
硫化剤の添加量は、例えば、電気伝導度が3.0S/m以上~5.0S/m以下の洗浄濾液において、硫化物イオン濃度が0.5~2.0mmol/Lの範囲になる量が好ましい。洗浄濾液中の硫化物イオン濃度が0.5mmol/L未満では、該濾液中の鉛や亜鉛などを十分に硫化できない。一方、洗浄濾液中の硫化物イオン濃度が2.0mmol/Lを超えると、該濾液中の鉛や亜鉛に対して硫化物イオン量が過剰になり、残留する硫化物イオンが多くなる。
【0025】
鉄共沈処理
上記硫化処理の後に、さらに硫酸第一鉄などの第一鉄化合物を添加して洗浄濾液中に残留する余剰の硫化物イオンを硫化鉄にして沈澱させると良い。第一鉄化合物の添加量は、第一鉄イオン濃度が50~200mg/Lの範囲になる量が好ましい。次に該洗浄濾液のpHを10.0~11.5の範囲に調整して残留する余剰の第一鉄イオンを水酸化鉄にして沈澱させ、これらの沈澱を固液分離して除去する。固液分離は、例えば、アニオン系高分子凝集剤(製品名ダイヤフロックAP825Bなど)を添加して、上記澱物を凝集して沈澱させた後に沈降分離や濾過などの分離操作を行うとよい。
上記洗浄濾液から上記硫化物沈澱および上記硫化鉄沈澱や上記水酸化鉄沈澱を固液分離して硫化濾液を回収し、該硫化濾液について次工程で鉄還元処理を行う。
【0026】
鉄還元工程
セレン以外の鉛、亜鉛、銅、ヒ素、カドミウム、水銀、タリウムなどの重金属は上記硫化処理によって硫化澱物を生じ、これを固液分離して除去されるが、セレンは上記硫化処理では殆ど除去されず、亜セレン酸イオン(SeO3
2-)などの状態で硫化濾液中に残留している。このセレンを鉄還元処理によって沈澱化し除去する。具体的には、液中の亜セレン酸イオン(SeO3
2-)を次式に示すように還元して金属セレン沈澱(セレン澱物)にし、これを固液分離して除去する。
SeO3
2-(aq) + 6H++ 4e-→ Se(s)↓ + 3H2O
【0027】
該鉄還元処理は非酸化性雰囲気が好ましい。具体的には、例えば、鉄還元処理に先立ち、該濾液に窒素ガスを曝気し、さらに窒素ガス雰囲気にして鉄還元剤を添加すると良い。
【0028】
鉄還元剤としては、第一鉄化合物、または第一鉄化合物を含有する還元性水酸化鉄化合物などを用いることができる。これらを併用してもよい。第一鉄化合物としては硫酸第一鉄などを用いることができる。還元性水酸化鉄化合物としては水酸化第一鉄あるいはグリーンラストなどを用いることができる。グリーンラストは第一鉄と第二鉄の水酸化物が層状をなす還元性鉄化合物である。
【0029】
鉄還元剤の添加量は、上記硫化濾液に含まれるセレンを十分に還元する量であればよく、例えば、該硫化濾液中の第一鉄イオン濃度が100~600mg/Lになる量であればよい。第一鉄イオン濃度が100mg/L未満では液中のセレンを十分に還元することができない。一方、第一鉄イオン濃度が600mg/Lを超えると、液中に残留する鉄イオンが多くなる。
【0030】
鉄還元処理はアルカリ液性下で行うのが好ましい。具体的には、硫化濾液のpHが9.5~11.0の範囲にpH調整して鉄還元処理するのが好ましい。液中のセレンはpH9.5未満でも還元されるが、pH9.0では、添加した第一鉄化合物の一部が液中に残留し、この第一鉄は水酸化第二鉄沈殿を生じて排水を赤茶色に変色する原因になるので好ましくない。pH9.5以上であれば、液中の第一鉄は還元性水酸化鉄化合物になり、セレンの鉄還元処理に利用することができる。一方、硫化濾液のpHが11.0を超えると、pH調整のために添加するアルカリの添加量が多くなり、また反応後の排水処理において中和処理に用いる酸の添加量が増大し、コスト高になるので好ましくない。
【0031】
鉄還元処理によって生じたセレン澱物を固液分離して除去する。このセレン澱物からセレンを回収することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の処理方法では、洗浄濾液の電気伝導度が5.5S/m以下、好ましくは3.0S/m以上~5.0S/m以下になるように、脱塩洗浄を行うので、洗浄濾液に含まれるセレンおよび鉛、亜鉛の合計濃度を概ね1.0mol/L未満、好ましくは概ね1.0mol/L未満~0.4mol/L以上の範囲にすることができる。これにより、洗浄濾液の重金属濃度の大幅な変動を避けることができるので、硫化工程および鉄還元工程において、一定条件下の定常的な処理を安定に行うことができる。
【0033】
本発明の処理方法によれば、硫化工程および鉄還元工程において、一定条件下の定常的な処理を行うことができるので、過剰な薬剤添加を招かず、また過剰に反応時間を費やすことも無いので、薬剤コストの低減や処理時間の効率化を図ることができる。さらに、処理量を安定化することができるので、処理効率を高めることができる。
【0034】
このように、本発明の処理方法によれば、洗浄濾液中のセレンや鉛、亜鉛などの濃度が極端に高くなることが無いので、定常的な硫化処理および鉄還元処理を行っても、鉛や亜鉛、およびセレンなどの除去効果が優れており、セレンなどの残留によるトラブルを生じない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施例および比較例を以下に示す。
液中のセレン、鉛、および亜鉛の濃度は規格(JIS K 0102 工場排水試験方法)に従って測定した。電気伝導度(EC)は市販の防水形汎用電気伝導率用セル(堀場製作所製:9382-10D)を用いて測定した。
【0037】
〔実施例1〕
重金属含有ダストとしてセメントキルンから回収した5種のセメントキルンダスト(ダストA~D、ダストK)を用いた。上記ダストをおのおの100.0g分取し、これらにイオン交換水(洗浄水)を添加して洗浄スラリーにした。この洗浄スラリーを撹拌翼によって500rpmの回転数で1時間撹拌して脱塩洗浄処理を行った。この脱塩洗浄において、該洗浄スラリーの電気伝導度(EC)を測定し、各ダストについて表1に示す電気伝導度になるよう洗浄水を添加して固液比を調整した(脱塩洗浄工程)。洗浄後、洗浄スラリーを濾過により固液分離して洗浄濾液を回収した。該洗浄濾液に含まれるセレン、鉛、および亜鉛の濃度を測定した。この結果を表1に示す。また、電気伝導度(EC)を制御せずに脱塩洗浄した結果を併せて表1に示す。
【0038】
表1に示すように、洗浄濾液(洗浄スラリー)の電気伝導度(EC)が5.5S/m以下になるように洗浄スラリーの固液比を調整して脱塩洗浄することによって、種類が異なるダストA~D、Kについても、洗浄濾液に含まれるセレン、鉛、および亜鉛の合計濃度を1.0mol/L未満にすることができる。また、上記電気伝導度(EC)が3.0S/m以上~5.0S/m以下になるように、洗浄スラリーの固液比を調整して脱塩洗浄することによって、種類が異なるダストA~D、Kについても、洗浄濾液に含まれるセレン、鉛、および亜鉛の合計濃度を1.0mol/L未満~0.4mol/L以上の範囲にすることができる。一方、電気伝導度(EC)を制御せずに脱塩洗浄したものは、セレン、鉛、および亜鉛の合計濃度が大幅に変動し、しかもこれらの合計濃度が何れも1.0mol/L未満にならない。
【0039】
【0040】
〔実施例2〕
ダストKを100.0g分取し、これにイオン交換水(洗浄水)を添加して洗浄スラリーにした。洗浄スラリーの電気伝導度(EC)を測定し、おのおの3.0S/m、4.0S/m、5.0S/mの電気伝導度になるように洗浄水を添加し、回転数500rpmで1時間撹拌しながら洗浄を行った(EC制御の脱塩洗浄工程)。洗浄後、洗浄スラリーを濾過し、洗浄濾液を回収した。この洗浄濾液について、10%塩酸を添加してpH11.0に調整した後、硫化剤として水流化ナトリウム溶液を用い、これを液中の硫化物イオン濃度が1mmol/Lになるように添加して硫化鉛や硫化亜鉛などの硫化物を沈澱させた。さらに硫酸第一鉄を液中のFe濃度が100mg/Lになる量を添加して硫化鉄を沈澱させた。次いで、4%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH11.0に調整して水酸化鉄を沈澱させた。これらの沈澱化処理の後に、アニオン系高分子凝集剤(製品名:ダイヤフロックAP825B)を2mg/L添加して、上記硫化物沈澱や硫化鉄および水酸化鉄などを凝集させた後に、固液分離して硫化濾液を得た(硫化工程)。
この硫化濾液について、窒素ガスを曝気して窒素ガス雰囲気(非酸化性雰囲気)にし、鉄還元剤として硫酸第一鉄を用い、Fe濃度として100mg/Lになるように該硫酸第一鉄を該硫化濾液に添加し、さらに4%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH9.5とpH10.0に調整し、還元性水酸化鉄化合物を生成させた。これを1時間撹拌してセレンの鉄還元処理を行った。この鉄還元処理の後にセレン澱物を固液分離して鉄還元濾液を得た(鉄還元工程)。この鉄還元濾液に含まれるセレン、鉛、亜鉛、および鉄の濃度を測定した結果を表2に示す。
【0041】
〔比較例1〕
実施例2と同様の洗浄スラリーについて、脱塩洗浄処理および硫化処理を行い、これを濾過して得た硫化濾液に硫酸第一鉄を添加する処理工程を実施例2と同様に行った。さらに、次の鉄還元工程において、上記硫化濾液に4%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH9.0に調整した後にセレンの鉄還元処理を行った。この鉄還元処理の後にセレン澱物を濾過して鉄還元濾液を得た。この鉄還元濾液に含まれるセレン、鉛、亜鉛、および鉄の濃度を測定した結果を表2に示す。
【0042】
〔比較例2、3〕
ダストKを100.0g分取し、これにイオン交換水(洗浄水)を添加して洗浄スラリーにした。洗浄スラリーの電気伝導度を測定し、6.0S/mの電気伝導度(EC)になるように洗浄水を添加し、回転数500rpmで1時間撹拌しながら脱塩洗浄を行った。洗浄後、洗浄スラリーを濾過して洗浄濾液を回収した(比較例2)。
ダストKを100.0g分取し、これにイオン交換水(洗浄水)を添加して洗浄スラリーについて、該洗浄スラリーの固液比を10に固定し(ダスト100.0gに対して洗浄水1000.0g)、洗浄スラリーの電気伝導度を制御せずに、回転数500rpmで1時間撹拌しながら脱塩洗浄を行った。洗浄終了時の電気伝導度は9.8S/mであった。この洗浄スラリーを濾過して洗浄濾液を回収した(比較例3)。
これらの洗浄濾液について、実施例2と同様の硫化処理を行い、生成した硫化物沈澱を濾過分離して硫化濾液を得た。この硫化濾液について、窒素ガスを曝気した後に窒素ガス雰囲気にし、硫酸第一鉄をFe濃度として100mg/L添加し、さらに4%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH9.0、pH9.5、pH10.0に調整し、還元性水酸化鉄化合物を生成させた。これを1時間撹拌してセレンの鉄還元処理を行った。この鉄還元処理の後にセレン澱物を濾過して鉄還元濾液を得た。この鉄還元濾液に含まれるセレン、鉛、亜鉛、および鉄の濃度を測定した。この結果を表2に示す。
【0043】
表2の実施例2に示すように、洗浄濾液(洗浄スラリー)の電気伝導度を3.0~5.0S/mに制御して脱塩洗浄を行い、さらに上記硫化処理の後に、pH9.5以上で鉄還元処理を行う本発明の処理方法によれば、洗浄濾液のセレン、鉛、亜鉛を何れも0.1mg/L未満に低減することができる。また鉄還元工程で添加した鉄の濃度も0.1mg/L未満に低減される。
【0044】
一方、表2の比較例1に示すように、洗浄濾液(洗浄スラリー)の電気伝導度を3.0~5.0S/mに制御して脱塩洗浄を行っても、pH9.0の液性下で鉄還元処理すると、セレン、鉛、および亜鉛の濃度は低減するが、鉄が残留し、鉄濃度が高くなる。
さらに、表2の比較例2に示すように、洗浄濾液(洗浄スラリー)の電気伝導度を6.0S/mに制御し、または比較例3に示すように、洗浄濾液(洗浄スラリー)の電気伝導度を制御せずに脱塩洗浄すると、何れの場合も硫化処理および鉄還元処理を実施例2と同様に行っても、鉄還元濾液のセレン濃度を0.1mg/L未満に低減することはできない。さらに比較例2、3では、pH9.0で鉄還元処理したものは鉄の残留濃度が格段に高くなり、pH9.5またはpH10.0で鉄還元処理しても鉄の残留濃度を0.1mg/L未満に低減することはできない。
【0045】