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特許7275926ブローバイガスの凍結抑制方法及び制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】ブローバイガスの凍結抑制方法及び制御システム
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
F01M13/00 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019122181
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021008838
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】君谷 司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大雄
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-151176(JP,A)
【文献】特開2008-144640(JP,A)
【文献】特開2018-173010(JP,A)
【文献】特開2009-138559(JP,A)
【文献】実開平03-041212(JP,U)
【文献】特開2019-007472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械におけるエンジンのブローバイガスの凍結抑制方法であって、
コンピュータが、
上記ブローバイガスの昇温の要否を判定する工程と、
上記昇温要否判定工程で上記ブローバイガスの昇温が必要と判定された場合に上記エンジンに負荷を掛ける工程と
を備え
上記昇温要否判定工程における判定基準として、上記エンジンの吸気温度と、上記エンジンの燃料噴射量、回転数、及び同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間の少なくとも1つとを含むブローバイガスの凍結抑制方法。
【請求項2】
上記負荷掛け工程で、上記エンジンの駆動によって流れる作動油を昇圧する請求項1に記載のブローバイガスの凍結抑制方法。
【請求項3】
コンピュータが、
上記負荷掛け工程による上記エンジンへの負荷掛けの継続の要否を判定する工程と、
上記継続要否判定工程で上記エンジンへの負荷掛けの継続が不要と判定された場合に上記エンジンへの負荷掛けを停止する工程と
をさらに備える請求項に記載のブローバイガスの凍結抑制方法。
【請求項4】
上記継続要否判定工程における判定基準として、上記作動油の温度を含む請求項に記載のブローバイガスの凍結抑制方法。
【請求項5】
建設機械におけるエンジンのブローバイガスの凍結を抑制可能な制御システムであって、
上記エンジンに負荷掛け可能な負荷掛け部と、
上記負荷掛け部の負荷掛け動作を制御可能な制御部と
を備え
上記制御部が、
ブローバイガスの昇温の要否を判定する昇温要否判定部と、
上記昇温要否判定部でブローバイガスの昇温が必要と判断された場合に上記エンジンに負荷掛けするように上記負荷掛け部を制御する負荷掛け制御部と
を有し、
上記昇温要否判定部における判定基準として、上記エンジンの吸気温度と、上記エンジンの燃料噴射量、回転数、及び同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間の少なくとも1つとを含む制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブローバイガスの凍結抑制方法及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械では、エンジンの燃焼室内で発生した燃焼ガスがピストンリングからクランクケース内に吹き漏れ、ブローバイガスが発生する。そのため、建設機械には、ブローバイガスを排出するための排出機構が装備されている。一般にオフロードエンジンを搭載した建設機械では、排ガス測定モードがオンロードと相違しているため、比較的シンプルな構造でブローバイガスを排出できるよう、ブローバイガスを大気に開放する構成が採用されている。この排出機構は、オープンブリーザと呼ばれるオイルミストを分離可能なCCVバルブセパレータと、オイルミスト分離後のブローバイガスを大気解放させる排出ラインとを有する。
【0003】
このブローバイガスは、水蒸気を含んでおり、過剰に冷やされると凍結する場合がある。ブローバイガスの凍結のしやすさは、排出機構の冷却状態や、外気温度、建設機械の運転条件等によって左右される。例えば、寒冷地等の低外気温度下での低負荷運転が続くと、ブローバイガスの低温化及び水蒸気の増加に伴ってエンジンルームが低温化し、ブローバイガスの凍結のおそれが高くなる。
【0004】
ブローバイガスが凍結すると、クランクケース内の圧力が上昇することで、オイルゲージやクランクシャフト等のシール部からオイル漏れが生じるおそれがある。このオイル漏れが発生すると、一旦エンジンを取り外してシール部の交換を行うこと等が必要となり、メンテナンスにコスト及び手間がかかる。
【0005】
そのため、排出機構に断熱材や防風板等を設け、ブローバイガスの温度の低下を抑制することが行われている。また、今日では、排出機構を加熱すべくヒーターを設けることが提案されている(特開2016-61273号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-61273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の断熱材や防風板はブローバイガスの温度を上昇することはできないため、外気温度や運転条件等によってはブローバイガスの凍結を十分に防止することはできない。また、上記公報に記載されているようにヒーターを用いると、設置コストや運転コストが高くなる。さらに、断熱材や防風板を用いる場合、及びヒーターを用いる場合のいずれにおいても、建設機械全体のレイアウトが制限され、建設機械を構成する各種部材の配置の自由度が低下する。
【0008】
上記不都合に鑑みて、本発明は、建設機械全体のレイアウトの自由度の低下を抑えつつブローバイガスの凍結を容易に抑えることが可能なブローバイガスの凍結抑制方法及び制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係るブローバイガスの凍結抑制方法は、建設機械におけるエンジンのブローバイガスの凍結抑制方法であって、上記ブローバイガスの昇温の要否を判定する工程と、上記昇温要否判定工程で上記ブローバイガスの昇温が必要と判定された場合に上記エンジンに負荷を掛ける工程とを備える。
【0010】
本発明の他の一態様に係る制御システムは、建設機械におけるエンジンのブローバイガスの凍結を抑制可能な制御システムであって、上記エンジンに負荷掛け可能な負荷掛け部と、上記負荷掛け部の負荷掛け動作を制御可能な制御部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るブローバイガスの凍結抑制方法及び制御システムは、建設機械全体のレイアウトの自由度の低下を抑えつつブローバイガスの凍結を容易に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るブローバイガスの凍結抑制方法を示すフロー図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る制御システムを示すブロック図である。
図3図3は、図1のブローバイガスの凍結抑制方法とは異なる実施形態に係るブローバイガスの凍結抑制方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係るブローバイガスの凍結抑制方法は、建設機械におけるエンジンのブローバイガスの凍結抑制方法であって、上記ブローバイガスの昇温の要否を判定する工程と、上記昇温要否判定工程で上記ブローバイガスの昇温が必要と判定された場合に上記エンジンに負荷を掛ける工程とを備える。
【0014】
当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、昇温要否判定工程でブローバイガスの昇温の要否を判定し、この昇温要否判定工程でブローバイガスの昇温が必要と判定された場合に、負荷掛け工程でエンジンに負荷を掛けることでブローバイガスの凍結を容易に抑えることができる。当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記エンジンへの負荷掛けによってブローバイガスの凍結を抑制できるので、建設機械全体のレイアウトの自由度の低下を抑えることができる。
【0015】
上記昇温要否判定工程における判定基準として、上記エンジンの吸気温度を含むとよい。このように、上記昇温要否判定工程における判定基準として、上記エンジンの吸気温度を含むことによって、例えばエンジン始動直後におけるブローバイガスの凍結を容易かつ確実に抑えることができる。
【0016】
上記判定基準として、上記エンジンの燃料噴射量、回転数、及び同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間の少なくとも1つをさらに含むとよい。このように、上記判定基準として、上記エンジンの燃料噴射量、回転数、及び同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間の少なくとも1つをさらに含むことによって、ブローバイガスの凍結をより容易かつ確実に抑えることができる。
【0017】
上記負荷掛け工程で、上記エンジンの駆動によって流れる作動油を昇圧するとよい。この構成によると、建設機械に一般的に備えられる作動油の循環ラインを用いてブローバイガスを容易に昇温することができる。これにより、建設機械全体のレイアウトの低下を容易に抑えることができる。
【0018】
当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記負荷掛け工程による上記エンジンへの負荷掛けの継続の要否を判定する工程と、上記継続要否判定工程で上記エンジンへの負荷掛けの継続が不要と判定された場合に上記エンジンへの負荷掛けを停止する工程とをさらに備えるとよい。このように、上記負荷掛け工程による上記エンジンへの負荷掛けの継続の要否を判定する工程と、上記継続要否判定工程で上記エンジンへの負荷掛けの継続が不要と判定された場合に上記エンジンへの負荷掛けを停止する工程とをさらに備えることによって、ブローバイガスの凍結を抑えつつ、建設機械のエンジンルームの高温化を抑制することができる。
【0019】
上記継続要否判定工程における判定基準として、上記作動油の温度を含むとよい。このように、上記継続要否判定工程における判定基準として、上記作動油の温度を含むことによって、ブローバイガスの凍結を抑えつつ、作動油の異常加熱を防止することができる。
【0020】
本発明の他の一態様に係る制御システムは、建設機械におけるエンジンのブローバイガスの凍結を抑制可能な制御システムであって、上記エンジンに負荷掛け可能な負荷掛け部と、上記負荷掛け部の負荷掛け動作を制御可能な制御部とを備える。
【0021】
当該制御システムは、制御部による制御に従って負荷掛け部がエンジンに負荷を掛けることでブローバイガスの凍結を容易に抑えることができる。当該制御システムは、上記エンジンへの負荷掛けによってブローバイガスの凍結を抑制できるので、建設機械全体のレイアウトの自由度の低下を抑えることができる。
【0022】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0023】
[第一実施形態]
<ブローバイガスの凍結抑制方法>
図1のブローバイガスの凍結抑制方法は、建設機械におけるエンジンのブローバイガスの凍結を抑制する。当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、例えばクローラクレーン等のオフロードエンジンを搭載した建設機械に好適に用いられる。当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記ブローバイガスの昇温の要否を判定する工程(昇温要否判定工程)と、上記昇温要否判定工程で上記ブローバイガスの昇温が必要と判定された場合に上記エンジンに負荷を掛ける工程(負荷掛け工程)とを備える。また、当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記負荷掛け工程による上記エンジンへの負荷掛けの継続の要否を判定する工程(継続要否判定工程)と、上記継続要否判定工程で上記エンジンへの負荷掛けの継続が不要と判定された場合に上記エンジンへの負荷掛けを停止する工程(負荷掛け停止工程)とを備える。
【0024】
(昇温要否判定工程)
上記昇温要否判定工程では、ブローバイガスの凍結のおそれが予見される場合に、ブローバイガスの昇温が必要であると判定する。上記昇温要否判定工程における判定基準としては、上記エンジンの吸気温度を含むことが好ましい。この吸気温度は、上記エンジンがエアクリーナから吸気する空気の温度であり、エアクリーナの吸気口、エアクリーナとターボとを接続する吸気管等に配置される温度センサによって測定でき、CAN通信などによって送信され得る。上記昇温要否判定工程では、上記エンジンの吸気温度が予め設定した閾値以下(又は閾値未満)である場合にブローバイガスの昇温が必要であると判定することが好ましい。上記昇温要否判定工程では、上記エンジンの吸気温度について例えば上記エンジンの始動直後に判定する。一般にブローバイガスは、エンジンを始動した直後に最も凍結しやすい。そのため、上記エンジンの始動直後にこのエンジンの吸気温度を判定することで、外気温度等に起因するブローバイガスの凍結のおそれを予測し、ブローバイガスの凍結を容易かつ確実に抑えることができる。上記吸気温度の閾値は、例えば-30℃以上0℃以下の範囲から設定することが可能であり、例えば-10℃とすることができる。
【0025】
上記判定基準としては、上記エンジンの燃料噴射量、回転数、及び同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間の少なくとも1つをさらに含むことが好ましい。
【0026】
上記エンジンの燃料噴射量は、上記エンジンが低負荷運転中であるか否かの判定基準として用いられる。上記エンジンの燃料噴射量は、燃料サクション、リターンホース等に配置される燃費計によって測定でき、CAN通信などによって送信され得る。上記エンジンの低負荷運転が続くと、エンジンルームの温度が低くなり、ブローバイガスの凍結のおそれが高くなる。そのため、上記昇温要否判定工程では、上記エンジンの燃料噴射量(例えば予め設定した時間(一例として5秒間)の平均燃料噴射量)が予め設定した閾値以下(又は閾値未満)である場合にブローバイガスの昇温が必要と判定することが好ましい。上記判定基準として上記エンジンの燃料噴射量を含むことで、ブローバイガスの凍結のおそれを抑制できる。上記燃料噴射量の閾値は、例えば14cc/sec以上50cc/esc以下の範囲から設定することが可能であり、例えば40cc/secとすることができる。
【0027】
上記エンジンの回転数は、建設機械の運転開始時期を予測する判定基準として用いられる。上記エンジンの回転数は、フライホイールハウジングに配置されるリングギヤの歯数検知用ギャップセンサによって測定でき、CAN通信などによって送信され得る。建設機械の運転開始前及び運転開始時は、エンジンルームの温度が低くなっており、ブローバイガスの凍結のおそれが高くなる。そのため、上記昇温要否判定工程では、上記エンジンの回転数が予め設定した閾値以下(又は閾値未満)である場合にブローバイガスの昇温が必要と判定することが好ましい。上記判定基準として上記エンジンの回転数を含むことで、ブローバイガスの凍結のおそれを抑制できる。上記回転数の閾値は、例えば700rpm以上1500rpm以下の範囲から設定することが可能であり、例えば1000rpmとすることができる。
【0028】
上記エンジンの同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間は、ブローバイガスの昇温制御を効率的に行うための判定基準として用いられる。上記昇温要否判定工程では、上記エンジンの同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間が予め設定した閾値以上(又は閾値超)である場合にブローバイガスの昇温が必要と判定することが好ましい。上記判定基準として上記エンジンの同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間を含むことで、ブローバイガスの凍結が見込まれる場合に効果的にブローバイガスを昇温することができる。上記連続運転時間の閾値は、例えば60秒以上600秒以下の範囲から設定することが可能である。
【0029】
当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記判定基準として、上記エンジンの燃料噴射量、回転数、及び同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間の少なくとも1つを含むことによって、ブローバイガスの凍結をより容易かつ確実に抑えることができる。
【0030】
当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記判定基準として、上記エンジンの吸気温度に加え、上記エンジンの燃料噴射量、回転数、及び同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間の全てを含むことが特に好ましい。この場合、上記昇温要否判定工程では、例えば上記エンジンの吸気温度、燃料噴射量、回転数、及び同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間をこの順で判定していき、全ての判定基準に照らしてブローバイガスの昇温が必要となった場合に、ブローバイガスの昇温が必要と判定することが好ましい。なお、上記昇温要否判定工程では、上記エンジンの吸気温度、燃料噴射量、回転数、及び同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間を必ずしもこの順で判定しなくてもよい。
【0031】
また、当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記昇温要否判定工程でブローバイガスの昇温が不要と判断された場合、所定時間をおいて上記昇温要否判定工程を再度行うことが好ましい。
【0032】
(負荷掛け工程)
上記負荷掛け工程では、上記エンジンに負荷を掛け、上記エンジンの燃焼室内の温度を高めることで、ブローバイガスを昇温する。上記負荷掛け工程では、上記エンジンの燃焼室内の温度を高めることで、エンジン冷機時の未燃ガスを減少することができる。
【0033】
上記負荷掛け工程では、上記エンジンに直接負荷を掛けてもよく、他の部材を介して間接的に負荷を掛けてもよい。中でも、上記負荷掛け工程では、上記エンジンの駆動によって流れる作動油を昇温することが好ましい。上記負荷掛け工程では、この作動油の昇圧によって上記エンジンに間接的に負荷を掛けることができる。この構成によると、当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、建設機械に一般的に備えられる作動油の循環ラインを用いてブローバイガスを容易に昇温することができる。これにより、当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、建設機械全体のレイアウトの低下を容易に抑えることができる。
【0034】
上記負荷掛け工程では、建設機械に標準的に装備される部材を用いて上記エンジンに間接的に負荷を掛けることが好ましい。このように、建設機械に標準的に装備される部材を用いることで、ブローバイガスを昇温するために新たな部材を装備することを要しないので、ブローバイガスの凍結を抑制するためのコストを抑えることができると共に、建設機械全体のレイアウトの自由度を高めやすい。このような部材としては、例えば負荷掛けバルブ、リリーフバルブ、ウインチの湿式クラッチ、エアコンプレッサ、油圧ポンプの傾転角を変更する傾転比例弁等が挙げられ、電力の消費を抑え、当該ブローバイガスの凍結抑制方法の運転コストを容易に抑制できる観点から、負荷掛けバルブ及び傾転比例弁が好ましい。例えば上記部材が負荷掛けバルブである場合、上記負荷掛け工程では、上記負荷掛けバルブの油路を閉じ又は絞ることで作動油を昇圧する。上記部材が傾転比例弁である場合、上記負荷掛け工程では、傾転比例弁を大容量化し、油機圧損を大きくして上記エンジンに負荷を掛ける。
【0035】
(継続要否判定工程)
上記継続要否判定工程では、例えば上記作動油の温度を判定基準として、上記エンジンへの負荷掛け継続の要否を判定する。この作動油の温度は、例えば作動油の循環ラインにおいて作動油タンク、ポンプサクション配管、リターン配管等に配置される温度センサによって測定される。上記継続要否判定工程では、上記作動油の温度が予め設定した閾値以上(又は閾値超)となった場合にブローバイガスの昇温が不要と判定することが好ましい。上記判定基準として上記作動油の温度を含むことで、ブローバイガスの凍結を抑えつつ、作動油の異常加熱を防止することができる。上記作動油の温度の閾値は、例えば70℃以上100℃以下の範囲から設定することが可能であり、例えば80℃とすることができる。なお、当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記継続要否判定工程で上記作動油の温度が予め設定した閾値未満(又は閾値以下)となった場合、上述の昇温要否判定工程に戻り、ブローバイガスの昇温の要否を再度判定することが好ましい。
【0036】
(負荷掛け停止工程)
上記負荷掛け停止工程では、上記負荷掛け工程で実施した負荷掛けを停止する。例えば上記負荷掛け工程で上記負荷掛けバルブの油路を閉じ又は絞った場合、上記負荷掛け停止工程では、上記負荷掛けバルブの油路を負荷掛け前の状態に開く。なお、当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記負荷掛け停止工程で負荷掛けを停止した場合、所定時間をおいて上記昇温要否判定工程を再度行うことが好ましい。
【0037】
<利点>
当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記昇温要否判定工程でブローバイガスの昇温の要否を判定し、この昇温要否判定工程でブローバイガスの昇温が必要と判定された場合に、上記負荷掛け工程で上記エンジンに負荷を掛けることでブローバイガスの凍結を容易に抑えることができる。当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記エンジンへの負荷掛けによってブローバイガスの凍結を抑制できるので、建設機械全体のレイアウトの自由度の低下を抑えることができる。
【0038】
当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記負荷掛け工程後に上記エンジンへの負荷掛け継続の要否を判定する工程と、上記継続要否判定工程で上記エンジンへの負荷掛けの継続が不要と判定された場合に上記エンジンへの負荷掛けを停止する工程とを備えることによって、ブローバイガスの凍結を抑えつつ、建設機械のエンジンルームの高温化を抑制することができる。
【0039】
当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、上記エンジンの稼働中に上記エンジンの燃焼室内の温度を高めることでブローバイガスを昇温させるので、上記エンジンの停止と同時にブローバイガスの排出機構に備わるオイルセパレータ内のオイルミスト等を上記エンジン(より詳しくは上記エンジンのオイルパン)に十分に還流させることができる。そのため、当該ブローバイガスの凍結抑制方法によると、上記エンジンの停止後に、再度上記エンジンを稼働させた際に上記エンジンの始動直後からブローバイガスを十分に排出することができる。
【0040】
<制御システム>
図2の制御システムは、建設機械におけるエンジン1のブローバイガスの凍結を抑制可能であり、図1のブローバイガスの凍結抑制方法を実施可能である。上記建設機械は、建設作業を行う機械であり、例えばクローラクレーンである。上記建設機械は、エンジン1と、エンジン1に駆動され、作動油を吐出する油圧ポンプ2と、油圧ポンプ2から供給される作動油によって駆動される油圧アクチュエータ3と、油圧ポンプ2から油圧アクチュエータ3に至る油路に設けられ、油圧アクチュエータ3の駆動を制御するコントロールバルブ4と、エンジン1の排気中のスス等の粒子状物質を捕捉可能な浄化装置5と、浄化装置5に捕捉された粒子状物質の堆積量を検出可能な堆積量検出部6とを備える。また、上記建設機械は、エンジン1に負荷掛け可能な負荷掛け部7と、負荷掛け部7の負荷掛け動作を制御可能な制御部8とを備える。エンジン1、油圧ポンプ2、浄化装置5及び堆積量検出部6は建設機械のエンジンルームに配置される。負荷掛け部7及び制御部8は、当該制御システムの一部を構成する。
【0041】
エンジン1としては、典型的にはオフロードエンジンが挙げられる。油圧ポンプ2は、上述のようにエンジン1に駆動され、作動油を吐出する。油圧ポンプ2から吐出された作動油は、負荷掛け部7及びコントロールバルブ4を介して油圧アクチュエータ3に供給される。油圧アクチュエータ3に供給された作動油は、コントロールバルブ4を介して油圧ポンプ2に還流される。つまり、油圧ポンプ2から吐出された作動油は、循環ラインXを通って油圧ポンプ2に還流される。
【0042】
浄化装置5は、典型的にはDPF(Diesel particulate filter)装置である。浄化装置5は、粒子状物質を捕捉するフィルタ本体と、酸化触媒とを有する。浄化装置5は、エンジン1の排気温度の上昇によって活性温度まで高められた酸化触媒に、エンジン1のポスト噴射によって未燃焼状態の燃料(未燃燃料)が供給されることで、この未燃燃料を酸化させる。浄化装置5は、この酸化反応熱で上記フィルタ本体に捕捉された粒子状物質を燃やし、DPF再生を行う。
【0043】
堆積量検出部6は、例えば上記フィルタ本体の上流側と下流側との差圧により上記フィルタ本体に捕捉された粒子状物質の堆積量を検出する。
【0044】
(負荷掛け部)
負荷掛け部7は、油圧ポンプ2から油圧アクチュエータ3に至る油路に設けられている。負荷掛け部7は、油圧ポンプ2の吐出圧を上げることで油圧ポンプ2に負荷掛けを行う負荷掛けバルブである。負荷掛け部7は、油圧ポンプ2の吐出圧を上げることで作動油を昇圧する。負荷掛け部7は、油圧ポンプ2への負荷掛けによって、間接的にエンジン1に負荷掛けを行う。負荷掛け部7は、エンジン1の排気温度を上げ、浄化装置5の酸化触媒の温度を活性温度まで高めるために設けられた電磁弁である。つまり、負荷掛け部7は、建設機械に標準的に装備される油圧システムの一部材である。負荷掛け部7は、例えば弁体を有するバルブ本体と、バルブ本体に取り付けられるコイル(ソレノイド)と、バルブ本体とコイルとを固定するキャップと、コイルの励磁により動くことで弁体を開閉させる鉄心とを有する。
【0045】
(制御部)
制御部8は、例えばCPU、ROM、RAM、大容量記憶装置等を有するコンピュータである。
【0046】
制御部8は、ブローバイガスの昇温の要否を判定する昇温要否判定部と、この昇温要否判定部でブローバイガスの昇温が必要と判定された場合にエンジン1に負荷掛けするよう負荷掛け部7を制御する負荷掛け制御部とを有する。また、制御部8は、上記負荷掛け制御部による負荷掛け制御後にエンジン1への負荷掛け継続の要否を判定する継続要否判定部と、上記継続要否判定部でエンジン1への負荷掛けの継続が不要と判定された場合にエンジン1への負荷掛けを停止するよう負荷掛け部7を制御する負荷掛け停止制御部とを有する。
【0047】
上記昇温要否判定部がブローバイガスの昇温の要否を判定するための判定基準としては、例えばエンジン1の吸気温度、燃料噴射量、回転数、同一燃料噴射量及び同一回転数での連続運転時間等が挙げられる。上記吸気温度は、エンジン1がエアクリーナ(不図示)から吸気する空気の温度であり、エアクリーナの吸気口、エアクリーナとターボとを接続する吸気管等に配置される温度センサによって測定でき、CAN通信などによって制御部8に送信され得る。上記燃料噴射量は、燃料サクション、リターンホース等に配置される燃費計によって測定でき、CAN通信などによって制御部8に送信され得る。上記回転数は、フライホイールハウジングに配置されるリングギヤの歯数検知用ギャップセンサによって測定でき、CAN通信などによって制御部8に送信され得る。
【0048】
上記負荷掛け制御部は、上記昇温要否判定部でブローバイガスの昇温が必要と判定された場合、負荷掛け部7のコイルを励磁状態とし、作動油の油路を閉じ又は絞ることで油圧ポンプ2の吐出圧を上げる。これにより、上記負荷掛け制御部は、負荷掛け部7を介してエンジン1に間接的に負荷掛けを行う。
【0049】
上記継続要否判定部は、例えば上記作動油の温度を判定基準として、エンジン1への負荷掛け継続の要否を判定する。この作動油の温度は、例えば作動油タンク、ポンプサクション配管、リターン配管等に配置される温度センサ9によって測定される。
【0050】
上記負荷掛け停止制御部は、上記負荷掛け制御部で実施した負荷掛け制御を停止する。上記負荷掛け停止制御部は、上記作動油の油路を負荷掛け前の状態に開くことで負荷掛け制御を停止する。
【0051】
<利点>
当該制御システムは、制御部8による制御に従って負荷掛け部7がエンジン1に負荷を掛けることでブローバイガスの凍結を容易に抑えることができる。当該制御システムは、エンジン1への負荷掛けによってブローバイガスの凍結を抑制できるので、建設機械全体のレイアウトの自由度を低下を抑えることができる。特に、当該制御システムは、負荷掛け部7として上述の負荷掛けバルブを用いることで、既存の油圧システムを用いることができ、ブローバイガスの凍結抑制に特化した負荷掛け部を別途設けることを要しないので、建設機械全体のレイアウトの自由度の低下を容易かつ確実に抑えることができる。
【0052】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0053】
例えば当該制御システムは、上述の負荷掛け部として、リリーフバルブ、ウインチの湿式クラッチ、エアコンプレッサ等を用いることも可能である。当該制御システムは、これらの構成によっても、ブローバイガスの凍結抑制に特化した負荷掛け部を別途設けることを要しないので、建設機械全体のレイアウトの自由度の低下を容易かつ確実に抑えることができる。
【0054】
当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、必ずしも上述の継続要否判定工程及び負荷掛け停止工程を備えていなくてもよい。図3に、上記継続要否判定工程及び負荷掛け停止工程を備えない場合のフロー図の一例を示す。なお、図3のブローバイガスの凍結抑制方法は、図1のブローバイガスの凍結抑制方法と同様の昇温要否判定工程及び負荷掛け工程を備える。図3のブローバイガスの凍結抑制方法は、負荷掛け工程後に再度昇温要否判定工程を行い、エンジンの吸気温度、燃料噴射量、回転数、及び同一燃料噴射量かつ同一回転数での連続運転時間の1つ以上を上述の閾値と比較して上記エンジンへの負荷掛け継続の要否を判定するよう構成されている。当該ブローバイガスの凍結抑制方法は、このような手順によってもブローバイガスの凍結を適切に抑制することが可能である。
【0055】
上記昇温要否判定工程における判定基準としては、必ずしも上述の基準を用いなくてもよい。上記判定基準としては、例えばエンジン水温を用いることも可能である。
【0056】
上記実施形態では建設機械がクローラクレーンである場合について説明した。しかしながら、上記建設機械は、クローラクレーン以外の建設作業用の機械として構成することも可能であり、例えば油圧ショベル、掘削機等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るブローバイガスの凍結抑制方法は、建設機械におけるエンジンのブローバイガスの凍結防止に適している。
【符号の説明】
【0058】
1 エンジン
2 油圧ポンプ
3 油圧アクチュエータ
4 コントロールバルブ
5 浄化装置
6 堆積量検出部
7 負荷掛け部
8 制御部
9 温度センサ
X 循環ライン
図1
図2
図3