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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】音響装置、及び車両
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/12 20060101AFI20230511BHJP
   H04R 3/02 20060101ALI20230511BHJP
   G10K 15/04 20060101ALI20230511BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
H04R3/12
H04R3/02
G10K15/04 302D
B60R11/02 S
B60R11/02 M
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019123794
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2021010135
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【弁理士】
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100128598
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 聖一
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】土屋 豪
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-145659(JP,A)
【文献】特開2009-046034(JP,A)
【文献】特開平03-191605(JP,A)
【文献】特開2005-037728(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0264946(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/12
H04R 3/02
G10K 15/04
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の音信号に、音響効果を付与する信号処理を施して第2の音信号を生成する効果付与部と、
車室に設けられる第1のスピーカに与える第3の音信号を前記第1の音信号と前記第2の音信号とを第1の比率でミキシングして生成するとともに、前記車室に設けられる第2のスピーカに与える第4の音信号を前記第1の音信号と前記第2の音信号とを第2の比率でミキシングして生成するミキサと、
前記第1の比率と前記第2の比率とを車両の走行状態に応じて調整する調整部と、
を有する、音響装置。
【請求項2】
前記第1の比率と第2の比率とは逆数の関係である、請求項1に記載の音響装置。
【請求項3】
前記調整部は、前記第1の比率と前記第2の比率とを前記車両の速度に応じて調整する、
請求項1又は請求項2に記載の音響装置。
【請求項4】
前記第1のスピーカは前記第2のスピーカよりも前記車室の前方に設けられる、
請求項3に記載の音響装置。
【請求項5】
前記調整部は、
前記車両の速度が高速の場合の前記第1の比率を、前記車両の速度が低速の場合の前記第1の比率と比較して、大きくし、
前記車両の速度が高速の場合の前記第2の比率を、前記車両の速度が低速の場合の前記第2の比率と比較して、小さくする、
請求項3又は請求項4に記載の音響装置。
【請求項6】
前記調整部は、前記車両の走行方向の変化に応じて前記第1の比率と前記第2の比率とを調整する、
請求項1又は請求項2に記載の音響装置。
【請求項7】
前記第1のスピーカは前記車室の左側と右側のうちの一方に設けられ、前記第2のスピーカは他方に設けられる、
請求項6に記載の音響装置。
【請求項8】
前記調整部は、
前記車両の走行方向が左回りに変化した場合、前記第1の比率を変化前の前記第1の比率と比較して大きくするとともに前記第2の比率を変化前の前記第2の比率と比較して小さくし、
前記車両の走行方向が右回りに変化した場合、前記第1の比率を変化前の前記第1の比率と比較して小さくとともに前記第2の比率を変化前の前記第2の比率と比較して大きくする、
請求項6又は請求項7に記載の音響装置。
【請求項9】
前記車室に配置されるマイクの出力信号から低域のノイズを除去した信号を出力するノイズ除去部と、
前記ノイズ除去部からの出力信号にハウリング抑制処理を施して前記第1の音信号を生成するハウリング抑制部と、
を有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の音響装置。
【請求項10】
前記ミキサは、
前記第1の音信号と前記第2の音信号を前記第1の比率でミキシングし、さらにカラオケの伴奏音を表す第5の音信号をミキシングして前記第3の音信号を生成するとともに、前記第1の音信号と前記第2の音信号を前記第2の比率でミキシングし、さらに前記第5の音信号をミキシングして前記第4の音信号を生成し、
前記ノイズ除去部は、
前記ノイズに加えて前記第5の音信号の信号成分を前記マイクの出力信号から除去する、
請求項9に記載の音響装置。
【請求項11】
請求項1から10までの何れか1項に記載の音響装置と、
前記第1のスピーカと、
前記第2のスピーカと、
を有する車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音響装置、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内にマイクユニットとスピーカとを設置し、車室内でカラオケを楽しめるようにする車載カラオケに関する技術が種々提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-216399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の車載カラオケでは、スピーカから出力される音に車両の走行感が反映されず、面白みに欠けるという問題がった。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車室内に設置されるスピーカから出力される音に車両の走行感を反映させる技術を提供することを解決課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る音響装置の一態様は、第1の音信号に、音響効果を付与する信号処理を施して第2の音信号を生成する効果付与部と、車室に設けられる第1のスピーカに与える第3の音信号を前記第1の音信号と前記第2の音信号とを第1の比率でミキシングして生成するとともに、前記車室に設けられる第2のスピーカに与える第4の音信号を前記第1の音信号と前記第2の音信号とを第2の比率でミキシングして生成するミキサと、前記第1の比率と前記第2の比率とを車両の走行状態に応じて調整する調整部と、を有する。
【0007】
本開示に係る車両の一態様は、前記音響装置と、前記第1のスピーカと、前記第2のスピーカと、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る音響装置10Aを含む車載カラオケシステム1Aの構成例を示す図である。
図2】音響装置10Aを搭載した車両C1の平面図である。
図3】音響装置10Aにおける特性管理テーブルの格納内容の一例を示す図である。
図4】第2実施形態に係る音響装置10Bを含む車載カラオケシステム1Bの構成例を示す図である。
図5】音響装置10Bを搭載した車両C2の平面図である。
図6】音響装置10Bにおける特性管理テーブルの格納内容の一例を示す図である。
図7】第3実施形態に係る音響装置10Cを含む車載カラオケシステム1Cの構成例を示す図である。
図8】音響装置10Cを搭載した車両C3の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本開示に係る実施の形態を説明する。なお、図面において各部の寸法及び縮尺は実際のものと適宜異なる。また、以下に記載する実施の形態は、本開示の好適な具体例である。このため、本実施形態には、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかしながら、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0010】
<1.第1実施形態>
図1は、本開示の第1実施形態に係る音響装置10Aを含む車載カラオケシステム1Aの構成例を示す図である。図1に示すように、車載カラオケシステム1Aには、音響装置10Aの他に、マイク20と、A/D変換器30と、アンプ40-1及びアンプ40-2と、スピーカ50-1及びスピーカ50-2と、走行状態検出器60Aと、が含まれる。マイク20は信号線を介してA/D変換器30に接続される。A/D変換器30は信号線を介して音響装置10Aに接続される。スピーカ50-1はアンプ40-1に接続される。スピーカ50-2はアンプ40-2に接続される。アンプ40-1及びアンプ40-2は、各々信号線を介して音響装置10Aに接続される。走行状態検出器60Aは信号線を介して音響装置10Aに接続される。
【0011】
マイク20は、例えば無指向性マイクユニットである。車両C1の搭乗者がカラオケ曲を歌唱すると、その歌唱音声はマイク20によって収音され、その歌唱音声の音波形を表す音信号がマイク20からA/D変換器30に出力される。A/D変換器30は、マイク20の出力信号にA/D変換を施し、その変換結果である音信号SAを音響装置10Aに出力する。
【0012】
音響装置10Aには、図示せぬ音源からカラオケの伴奏音の波形を表す伴奏音信号S5が与えられる。音響装置10Aは、音信号SAに対して信号処理を施して得た信号と伴奏音信号S5と加算し、加算された信号を基にスピーカ50-1に与える音信号S3とスピーカ50-2に与える音信号S4とを生成する。アンプ40-1は、音響装置10Aから出力される音信号S3の信号レベルをスピーカの駆動に適した信号レベルに増幅し、増幅された信号をスピーカ50-1に出力する。アンプ40-2は、音響装置10Aから出力される音信号S4の信号レベルをスピーカの駆動に適した信号レベルに増幅し、増幅された信号をスピーカ50-2に出力する。これにより車載カラオケが実現される。
【0013】
音響装置10Aにより実行される信号処理には、歌唱音声に音響効果を付与する処理が含まれる。歌唱音声に音響効果を付与する処理には、歌唱音声の残響を調整する処理、すなわち遅延を付与する処理が少なくとも含まれる。好ましくは、音響効果を付与する処理には、遅延を付与する処理と周波数特性を調整する処理の両方が含まれる。以下では、音響効果を付与していない歌唱音声の音信号を「付与前信号」と呼び、音響効果を付与済みの音信号を「付与済み信号」と呼ぶ。
【0014】
走行状態検出器60Aは、車両C1の走行状態を検出するセンサである。車両C1の走行状態を示す指標としては、車両C1の走行速度、或いは車両C1の走行方向が挙げられるが、本実施形態では走行状態を示す指標として車両C1の走行速度が採用される。本実施形態における走行状態検出器60Aは、例えば、速度センサ又は加速度センサである。走行状態検出器60Aは、車両C1の走行速度を検出し、検出した走行速度を表す速度データCVを音響装置10Aに出力する。なお、走行状態検出器60Aとして加速度センサを用いる場合には時々刻々検出した加速度を積算して車両C1の走行速度を算出すればよい。
【0015】
図2は、車載カラオケシステム1Aを搭載した車両C1の平面図である。音響装置10Aは車両C1の運転席側のコンソールに配置される。なお、図2では、A/D変換器30、アンプ40-1、アンプ40-2、及び走行状態検出器60Aの図示は省略されており、各信号線の図示も省略されている。図2では詳細な図示を省略したが、A/D変換器30、アンプ40-1、アンプ40-2、及び走行状態検出器60Aも車両C1の運転席側のコンソールに配置される。
【0016】
車両C1の車室CRには、矩形に配置された4つの座席51~54と、天井6と、フロントライトドア71と、フロントレフトドア72と、リアライトドア73と、リアレフトドア74と、が配置される。車両C1の座席51は運転席であり、座席52は助手席である。座席51と座席52のいずれが運転席であってもよいが、以下の説明では座席51を運転席、座席52を助手席として説明する。座席53は後部右座席であり、座席54は後部左座席である。座席51~54の各々は、布又は革を素材とする材質であり吸音性を有する。座席51~54は、共通の方向を向いている。
【0017】
マイク20は天井6の中央付近、具体的にはルームライト(図2では図示略)の近傍等に設置される。スピーカ50-1は車室CRに配置される第1のスピーカの一例であり、スピーカ50-2は車室CRに配置される第2のスピーカの一例である。スピーカ50-1及びスピーカ50-2は、各々の放音面が互いに向き合うように、車両C1の中心線であるXX´線上に配置される。例えば、スピーカ50-1は車両C1のコンソールに配置され、スピーカ50-2は座席53と座席54の間に配置される。本実施形態では、スピーカ50-2が座席53と座席54の間に配置されるが、スピーカ50-2は座席51と座席52の間に配置されてもよい。また、スピーカ50-1は座席51と座席52の間に配置され、スピーカ50-2が座席53と座席54の間に配置されてもよい。要は、スピーカ50-1がスピーカ50-2よりも車室CRの前方に配置されればよい。
【0018】
詳細については後述するが、音響装置10Aは、音信号SAから付与前信号を生成し、付与前信号から付与済み信号を生成する。付与前信号は本開示における第1の音信号の一例であり、付与済み信号は本開示における第2の音信号の一例である。そして、音響装置10Aは、付与前信号と付与済み信号と伴奏音信号S5とをミキシングして音信号S3を生成し、付与前信号と付与済み信号と伴奏音信号S5とをミキシングして音信号S4を生成する。音信号S3は本開示における第3の音信号の一例であり、音信号S4は本開示における第4の音信号の一例である。伴奏音信号S5は本開示における第5の音信号の一例である。本実施形態では、音響装置10Aは、音信号S3における付与前信号と付与済み信号の比率、及び音信号S4における付与前信号と付与済み信号の比率とを速度データCVの表す速度に応じて調整する。これにより、車両C1の走行速度の変化に応じて、スピーカ50-1及びスピーカ50-2の各々から出力される音の特性が変化し、走行感が演出される。以下、本実施形態の特徴を顕著に示す音響装置10Aを中心に説明する。
【0019】
音響装置10Aは、例えばDSP(Digital Signal Processor)である。図1に示すように、音響装置10Aは、ノイズ除去部100、ハウリング抑制部110、効果付与部120、ミキサ130A、及び調整部140A、を有する。図1に示すノイズ除去部100、ハウリング抑制部110、効果付与部120、ミキサ130A、及び調整部140Aの各々はソフトウェアにしたがってDSPを作動させることにより実現されるソフトウェアモジュールである。
【0020】
ノイズ除去部100には、音信号SAと伴奏音信号S5とが与えられる。ノイズ除去部100は、音信号SAからロードノイズ等の低域のノイズ成分を除去し、さらに
入力された伴奏音信号S5を参照し、音信号SAに含まれる伴奏音信号S5の信号成分を除去して出力信号SBを生成する。音信号SAから伴奏音信号S5及びノイズ成分を除去するのは、車両C1の搭乗者の歌唱音声に対応する信号成分を抽出するためである。また、音信号SAから伴奏音信号S5を除去することでハウリングの抑制効果も期待される。
【0021】
ハウリング抑制部110は、ノイズ除去部100の出力信号SBにハウリング抑制処理を施して出力信号SCを生成する。より詳細に説明すると、ハウリング抑制部110は、ノイズ除去部100の出力信号SBを一定時間長のフレームに区切り、フレーム毎に逆フーリエ変換を施して当該フレームにおける複数の周波数帯域の各々の信号強度を算出する。そして、ハウリング抑制部110は、周波数帯域毎に信号強度の時間変化を追跡し、信号強度が所定の閾値を上回る状態が所定時間以上継続する周波数帯域の有無を監視する。信号強度が所定の閾値を上回る状態が所定時間以上継続する周波数帯域が無い場合には、ハウリング抑制部110は、ノイズ除去部100の出力信号SBを、そのまま出力信号SCとして出力する。これに対して、信号強度が所定の閾値を上回る状態が所定時間以上継続する周波数帯域が有った場合には、ハウリング抑制部110は、出力信号SBに対して当該周波数帯域の信号強度を引き下げる信号処理を施して出力信号SCを生成する。
【0022】
効果付与部120は、ハウリング抑制部110の出力信号SCをそのまま付与前信号S1として出力する。また、効果付与部120は、付与前信号S1に対して音響効果を付与する信号処理を施して付与済み信号S2を生成して出力する。
【0023】
効果付与部120から出力される付与前信号S1及び付与済み信号S2は調整部140Aによる係数の乗算を経てミキサ130Aに与えられる。調整部140Aについては後に詳細に説明するが、調整部140Aは、乗算部146-1、乗算部146-2、乗算部146-3、及び乗算部146-4を有する。乗算部146-1は、付与前信号S1に係数a(0.5≦a≦1)を乗算してミキサ130Aに出力する。乗算部146-2は、付与前信号S1に係数(1-a)を乗算してミキサ130Aに出力する。乗算部146-3は、付与済み信号S2に係数aを乗算してミキサ130Aに出力する。乗算部146-4は、付与済み信号S2に係数(1-a)を乗算してミキサ130Aに出力する。
【0024】
図1に示すように、ミキサ130Aには、乗算部146-1~146-4の各々の出力信号と伴奏音信号S5とが与えられる。図1に示すように、ミキサ130Aは、乗算部146-1の出力信号と乗算部146-4の出力信号とをミキシングし、さらに伴奏音信号S5をミキシングして音信号S3を生成する。前述したように、乗算部146-1の出力信号は付与前信号S1に係数aを乗算した信号であり、乗算部146-2の出力信号は付与済み信号S2に係数(1-a)を乗算した信号である。したがって、音信号S3における付与前信号S1と付与済み信号S2の比率はa:1-aである。換言すればミキサ130Aは、付与前信号S1と付与済み信号S2とをa:1-aの比率でミキシングし、さらに伴奏音信号S5をミキシングして音信号S3を生成する。なお、a=1の場合、ミキサ130Aは、付与前信号S1と伴奏音信号S5とをミキシングして音信号S3を生成する。また、0.5≦a<1の範囲では、音信号S3における付与済み信号S2に対する付与前信号S1の比率R1はa/(1-a)と表される。比率R1は本開示における第1の比率の一例である。
【0025】
また、ミキサ130Aは、乗算部146-2の出力信号と乗算部146-3の出力信号とをミキシングし、さらに伴奏音信号S5をミキシングして音信号S4を生成する。前述したように、乗算部146-2の出力信号は付与前信号S1に係数(1-a)を乗算した信号であり、乗算部146-3の出力信号は付与済み信号S2に係数aを乗算した信号である。したがって、音信号S4における付与前信号S1と付与済み信号S2の比率は1-a:aである。換言すればミキサ130Aは、付与前信号S1と付与済み信号S2とを1-a:aの比率でミキシングし、さらに伴奏音信号S5をミキシングして音信号S4を生成する。a=1の場合、ミキサ130Aは、付与済み信号S2と伴奏音信号S5とをミキシングして音信号S4を生成する。また、0.5≦a<1の範囲では、音信号S4における付与済み信号S2に対する付与前信号S1の比率R2は(1-a)/aと表される。比率R1と比率R2とは逆数の関係である。比率R2は本開示における第2の比率の一例である。なお、比率R1と比率R2とは必ずしも逆数の関係になくてもよい。
【0026】
調整部140Aには、速度データCVが与えられる。調整部140Aは、比率R1と比率R2とを規定する係数aを速度データCVの表す走行速度に応じて調整する。図1に示すように、調整部140Aは、乗算部146-1~146-4の他に、平滑化部142Aと、規格化部144Aとを有する。平滑化部142Aは、走行状態検出器60Aから与えられる速度データCVの移動平均を算出することにより、速度データCVから高周波成分を除去して規格化部144に与える。
【0027】
規格化部144Aは、図3に示す特性テーブルを有する。規格化部144Aは、図3に示す特性テーブルの格納内容と、平滑化部142Aにより平滑化済みの速度データCVの表す速度とに応じて係数aを決定する。図3に示すように特性テーブルの格納内容は、走行速度が50km/h以下のときは係数aを0.5とすることを、走行速度が50km/hより速く100km/h未満であるときは走行速度の増加に応じて係数aを1まで増加させることを、走行速度が100km/h以上である場合には係数aを1とすることを、表している。
【0028】
図3に示すように係数aと走行速度との関係が定められているため、本実施形態では、50km/hから100km/hの範囲では、車両C1の走行速度が高速の場合の比率R1は、低速の場合の比率R1と比較して大きくなる。また、車両C1の走行速度が高速の場合の比率R2は、低速の場合の比率R2と比較して小さくなる。換言すれば、調整部140Aは、車両C1の走行速度が速くなると比率R1を大きくし比率R2を小さくする。
【0029】
以上に説明した構成としたため、車載カラオケシステム1Aでは、車両C1が50km/h以下の速度で走行している場合には、係数aは0.5に設定され、スピーカ50-1とスピーカ50-2とに対して付与前信号S1と付与済み信号S2とが均等に振り分けられる。車両C1の速度が50km/hから100km/hに加速する過程では係数aは0.5から1.0に増加し、スピーカ50-1については付与前信号S1の振り分け量が増加するとともに付与済み信号S2の振り分け量が減少する一方、スピーカ50-2については付与済み信号S2の振り分け量が増加するとともに付与前信号S1の振り分け量が減少する。このため、50km/hから100km/hの速度の範囲では、車両C1の速度が速いほど、車室CRの前方に配置されるスピーカから出力される音の残響が少なくなる一方、車室CRの後方に配置されるスピーカから出力される音の残響が多くなり、音が前方から後方へ流れるような聴感が得られる。
【0030】
以上説明したように本実施形態の音響装置10Aによれば、車室CRに設置されるスピーカ50-1及びスピーカ50-2から出力される歌声の特性が車両C1の速度に応じて変化する。これにより、車両C1の走行感が演出され、面白みを向上させることが可能になる。加えて、本実施形態の音響装置10Aによれば、車両C1の走行速度の変化に応じて、スピーカ50-1及びスピーカ50-2の各々から車室CRに放射される音の特性が時々刻々と変化する。このため、スピーカ50-1(或いはスピーカ50-2)→マイク20→音響装置10A→スピーカ50-1(或いはスピーカ50-2)・・・といったループが発生したとしても、上記のように特性が変化しない場合に比較してハウリングが発生し難くなる、といった効果も奏される。
【0031】
<2.第2実施形態>
図4は、本開示の第2実施形態に係る音響装置10Bを含む車載カラオケシステム1Bの構成例を示す図である。図4では、図1におけるものと同一の構成要素には、同一の符号が付されている。図4図1とを比較すれば明らかなように、車載カラオケシステム1Bは、以下の2つの点において車載カラオケシステム1Aと異なる。第1に、音響装置10Aに代えて音響装置10Bを設けた点である。第2に、走行状態検出器60Aに代えて走行状態検出器60Bを設けた点である。
【0032】
図5は、車載カラオケシステム1Bを搭載した車両C2の平面図である。図5においても、図2におけるものと同一の構成要素には、同一の符号が付されている。なお、図5においてもA/D変換器30、アンプ40-1、アンプ40-2及び走行状態検出器60Bの図示は省略されている。
【0033】
走行状態検出器60Bは、車両C2の走行方向を検出し、検出した走行方向を示す走行方向データCAを音響装置10Bへ出力する。走行方向データCAは、車両C2が図5におけるXX´線の方向に直進している時の走行方向を0°の方向とし、右回りの走行方向の変化を正の角度で表し、左回りの走行方向の変化を負の角度で表すデータである。走行状態検出器60Bの具体例としては、図5におけるx軸方向及びy軸方向の各加速度を検出する二軸の加速度センサ、車両C2の左右の後輪(図5では図示略)の各々の回転数を検出する回転数センサが挙げられる。走行状態検出器60Bとして回転数センサを用いる場合には、車両C2の左右の後輪の回転数の差分を上記角度に換算すればよい。
【0034】
図5に示すように、車載カラオケシステム1Bに含まれるスピーカ50-1及びスピーカ50-2は所謂ドアスピーカであり、車室CRにおいて互いに向き合うように配置される。より詳細に説明すると、スピーカ50-1はその放音面を座席51に向けた姿勢でフロントライトドア71に配置される。スピーカ50-2はその放音面を座席52に向けた姿勢でフロントレフトドア72に配置される。つまり、本実施形態では、スピーカ50-1は車両C2の車室CRの右側に配置され、スピーカ50-2は車室CRの左側に配置される。
【0035】
図4図1とを比較すれば明らかように、音響装置10Bと音響装置10Aの相違点は、調整部140Aに代えて調整部140Bを設けた点である。調整部140Bと調整部140Aの相違点は、平滑化部142Aに代えて平滑化部142Bを設けた点と、規格化部144Aに代えて規格化部144Bを設けた点である。平滑化部142Bは、走行方向検出器60Bから与えられる走行方向データCAの移動平均を算出することにより、走行方向データCAから高周波成分を除去して規格化部144Bに与える。規格化部144Bは、図6に示す特性テーブルを有する。規格化部144Bは、図6に示す特性テーブルの格納内容と、平滑化部142Bにより平滑化済みの走行方向データCAの示す走行方向とに応じて、乗算部146-1~146-4により乗算する係数bを決定する。本実施形態における係数bは第1実施形態における係数aに対応する。本実施形態における係数bは車両C2の走行方向に応じて0から1まで変化し、0<b<1の範囲では、本実施形態における比率R1はb/(1-b)と表され、比率R2は(1-b)/bと表される。本実施形態においても、比率R1と比率R2とは逆数の関係である。なお、比率R1と比率R2とは必ずしも逆数の関係になくてもよい。
【0036】
図6は特性テーブルの格納内容の一例を示す図である。図6に示すように本実施形態の特性テーブルの格納内容は、走行方向が0°のときは係数bを0.5とすること、走行方向が右回りに0°から35°の範囲であるときは変化の度合いが大きい程、係数bを1に近づけること、走行方向が左回りに0°から35°の範囲であるときは変化の度合いが大きい程、係数bを0に近づけること、を表している。
【0037】
図6に示すように係数bと走行方向との関係が定められているため、本実施形態では、車両C2が直進している場合、すなわち車両C2の走行方向が0°の方向である場合には、係数bは0.5に設定される。係数bが0.5であると、比率R1と比率R2は共に1になり、スピーカ50-1とスピーカ50-2の各々に対して、付与前信号S1と付与済み信号S2とが均等に振り分けられる。
【0038】
車両C2の走行方向が右回りに変化する場合には、その変化の度合いに応じて係数bは0.5から1に向けて増加する。その結果、比率R1は走行方向変化前の比率R1に比較して大きくなり、比率R2は走行方向変化前の比率R2に比較して小さくなる。換言すれば、車両C2の走行方向が右回りに変化する場合、比率R1が大きくなる一方、比率R2は小さくなる。車両C2の走行方向が右回りに変化すると、比率R1及びR2が上記のように変化するため、車室CRの右側に配置されるスピーカ50-1については付与前信号S1の振り分け量が増加するとともに付与済み信号S2の振り分け量が減少する。一方、車室CRの左側に配置されるスピーカ50-2については付与前信号S1の振り分け量が減少するとともに付与済み信号S2の振り分け量が増加する。このため、音が右から左へ流れるような聴感が得られる。
【0039】
逆に、車両C2の走行方向が左回りに変化する場合には、その変化の度合いに応じて係数bは0.5から0に向けて減少する。その結果、比率R1は走行方向変化前の比率R1に比較して小さくなり、比率R2は走行方向変化前の比率R2に比較して大きくなる。換言すれば、車両C2の走行方向が左回りに変化する場合、比率R1が小さくなる一方、比率R2は大きくなる。車両C2の走行方向が左回りに変化すると、比率R1及びR2が上記のように変化するため、車室CRの右側に配置されるスピーカ50-1については付与前信号S1の振り分け量が減少するとともに付与済み信号S2の振り分け量が増加する。一方、車室CRの左側に配置されるスピーカ50-2については付与前信号S1の振り分け量が増加するとともに付与済み信号S2の振り分け量が減少する。このため、音が左から右へ流れるような聴感が得られる。
【0040】
以上説明したように本実施形態の音響装置10Bによれば、車両C2の車室CRに設置されるスピーカ50-1及びスピーカ50-2から出力される音の特性が車両C2の走行方向に応じて変化する。これにより、走行感が演出され、面白みを向上させることが可能になる。また、本実施形態の音響装置10Bによっても、ハウリングが発生し難くなる、といった効果が奏される。
【0041】
<3.第3実施形態>
図7は、本開示の第3実施形態に係る音響装置10Cを含む車載カラオケシステム1Cの構成例を示す図である。図7では、図1及び図4におけるものと同一の構成要素には、同一の符号が付されている。図1図7とを比較すれば明らかなように、車載カラオケシステム1Cは、以下の3つの点において車載カラオケシステム1Aと異なる。第1に、音響装置10Aに代えて音響装置10Cを設けた点である。第2に、走行状態検出器60Aに加えて走行状態検出器60Bを設けた点である。第3に、アンプ40-3及びアンプ40-4とスピーカ50-3及びスピーカ50-4とを有する点である。
【0042】
詳細については後述するが、音響装置10Cは、スピーカ50-1に与える音信号SFRと、スピーカ50-2に与える音信号SFLと、スピーカ50-3に与える音信号SRRと、スピーカ50-4に与える音信号SRLと、を音信号SAと伴奏音信号S5とから生成して出力する。スピーカ50-3はアンプ40-3に接続されており、アンプ40-3は音響装置10Cに接続されている。スピーカ50-4はアンプ40-4に接続されており、アンプ40-4は音響装置10Cに接続されている。アンプ40-1は、音響装置10Cから出力される音信号SFRの信号レベルをスピーカの駆動に適した信号レベルに増幅し、増幅された信号をスピーカ50-1に出力する。アンプ40-2は、音響装置10Cから出力される音信号SFLの信号レベルをスピーカの駆動に適した信号レベルに増幅し、増幅された信号をスピーカ50-2に出力する。アンプ40-3は、音響装置10Cから出力される音信号SRRの信号レベルをスピーカの駆動に適した信号レベルに増幅し、増幅された信号をスピーカ50-3に出力する。アンプ40-4は、音響装置10Cから出力される音信号SRLの信号レベルをスピーカの駆動に適した信号レベルに増幅し、増幅された信号をスピーカ50-4に出力する。
【0043】
図8は、車載カラオケシステム1Cを搭載した車両C3の平面図である。図8においても、図2及び図5におけるものと同一の構成要素には、同一の符号が付されている。なお、図8においてもA/D変換器30、アンプ40-1~40-4、走行状態検出器60A及び走行状態検出器60Bの図示は省略されている。
【0044】
図8に示すように、車載カラオケシステム1Cに含まれるスピーカ50-1~50-4は所謂ドアスピーカである。スピーカ50-1~50-4は、スピーカ50-1とスピーカ50-2とが互いに向き合い、スピーカ50-3とスピーカ50-4とが互いに向き合うように車両C3の車室CRに配置される。具体的には、スピーカ50-1はその放音面を座席51に向けた姿勢でフロントライトドア71に配置される。スピーカ50-2はその放音面を座席52に向けた姿勢でフロントレフトドア72に配置される。スピーカ50-3はその放音面を座席53に向けた姿勢でリアライトドア73に配置される。スピーカ50-4はその放音面を座席54に向けた姿勢でリアレフトドア74に配置される。つまり、本実施形態では、スピーカ50-1及びスピーカ50-3は車両C3の車室CRの右側に配置され、スピーカ50-2及びスピーカ50-4は車室CRの左側に配置される。また、スピーカ50-1及びスピーカ50-2は、スピーカ50-3及びスピーカ50-4よりも車室CRの前方に配置される。
【0045】
図7図1とを比較すれば明らかように、音響装置10Cと音響装置10Aの相違点は、調整部140Aに代えて調整部140Cを設けた点とミキサ130Aに代えてミキサ130Bを設けた点である。調整部140Cと調整部140Aの相違点は、以下の2つの点である。第1の相違点は、平滑化部142B及び規格化部144Bを設けた点である。第2の相違点は、アンプ146-5~アンプ146-8を設けた点ある。アンプ146-5~アンプ146-8は、第2実施形態における調整部140Bのアンプ146-1~146-4に対応する。図7に示すように、アンプ146-5とアンプ146-6とには付与前信号S1が与えられ、アンプ146-7とアンプ146-8とは付与済み信号S2が与えられる。アンプ146-5は、与えられた付与前信号S1に係数bを乗算してミキサ130Bに出力する。アンプ146-6は、与えられた付与前信号S1に係数(1-b)を乗算してミキサ130Bに出力する。アンプ146-7は、与えられた付与済み信号S2に係数bを乗算してミキサ130Bに出力する。アンプ146-8は、与えられた付与済み信号S2に係数(1-b)を乗算してミキサ130Bに出力する。
【0046】
ミキサ130Bには、伴奏音信号S5の他に、アンプ146-1~146-8の各々の出力信号が与えられ、ミキサ130Bはこれらの信号に基づいて、スピーカ50-1~50-4の各々に与える音信号SFR、SFL、SRR及びSRLを生成する。より詳細に説明すると、ミキサ130Bは、アンプ146-1の出力信号(a×付与前信号S1)とアンプ146-4の出力信号((1-a)×付与済み信号S2)とアンプ146-5の出力信号(b×付与前信号S1)とアンプ146-8の出力信号((1-b)×付与済み信号S2)と伴奏音信号S5とをミキシングして音信号SFRを生成する。ミキサ130Bは、アンプ146-1の出力信号(a×付与前信号S1)とアンプ146-4の出力信号((1-a)×付与済み信号S2)とアンプ146-6の出力信号((1-b)×付与前信号S1)とアンプ146-7の出力信号(b×付与済み信号S2)と伴奏音信号S5とをミキシングして音信号SFLを生成する。ミキサ130Bは、アンプ146-2の出力信号((1-a)×付与前信号S1)とアンプ146-3の出力信号(a×付与済み信号S2)とアンプ146-5の出力信号(b×付与前信号S1)とアンプ146-8の出力信号((1-b)×付与済み信号S2)と伴奏音信号S5とをミキシングして音信号SRRを生成する。
ミキサ130Bは、アンプ146-2の出力信号((1-a)×付与前信号S1)とアンプ146-3の出力信号(a×付与済み信号S2)とアンプ146-6の出力信号((1-b)×付与前信号S1)とアンプ146-7の出力信号(b×付与済み信号S2)と伴奏音信号S5とをミキシングして音信号SRLを生成する。
【0047】
本実施形態では、図3に示すように係数aと走行速度との関係が定められているとともに、図6に示すように係数bと走行方向との関係が定められている。このため、本実施形態では、車両C3が50km/hの速度で直進している場合、a=0.5、かつb=0.5となる。この場合、音信号SFR、SFL、SRR、及びSRLの各々は、付与前信号S1+付与済み信号S2+伴奏音信号S5、となり、スピーカ50-1~スピーカ50-4の各々に対して、付与前信号S1と付与済み信号S2とが均等に振り分けられる。
【0048】
車両C3が直進しつつ0km/hから100km/hに加速する過程では係数aは0.5から1.0に増加する一方、係数bは0.5に維持される。この場合、第1実施形態における場合と同様に、音信号SFR及び音信号SFLについては付与前信号S1の振り分け量が増加するとともに付与済み信号S2の振り分け量が減少し、音信号SRR及び音信号SRLについては付与済み信号S2の振り分け量が増加するとともに付与前信号S1の振り分け量が減少する。そして、直進している車両C3の走行速度が100km/hに達すると、音信号SFR及び音信号SFLの各々は、1.5×付与前信号S1+0.5×付与済み信号S2+伴奏音信号S5、となり、音信号SRR及び音信号SRLの各々は、0.5×付与前信号S1+1.5×付与済み信号S2+伴奏音信号S5、となる。このように車両C3が直進している場合、50km/hから100km/hの速度の範囲では車両C3の速度が速いほど、車室CRの前方に配置されるスピーカから出力される音の残響が少なくなる一方、車室CRの後方に配置されるスピーカから出力される音の残響が多くなり、音が前方から後方へ流れるような聴感が得られる。
【0049】
車両C3が50km/hで走行している状況下で車両C3の走行方向が右回りに変化すると、その変化の度合いに応じて係数bは0.5から1に向けて増加する一方、係数aは0.5に維持される。この場合、音信号SFR及び音信号SRRについては付与前信号S1の振り分け量が増加するとともに付与済み信号S2の振り分け量が減少し、音信号SFL及び音信号SRLについては付与前信号S1の振り分け量が減少するとともに付与済み信号S2の振り分け量が増加する。例えば、50km/hで走行している車両C3の走行方向が35°変化すると、音信号SFR及び音信号SRRの各々は、1.5×付与前信号S1+0.5×付与済み信号S2+伴奏音信号S5、となり、音信号SFL及び音信号SRLの各々は、0.5×付与前信号S1+1.5×付与済み信号S2+伴奏音信号S5、となる。このため、車室CRの右側に配置されるスピーカから出力される音の残響が少なくなる一方、車室CRの左側に配置されるスピーカから出力される音の残響が多くなり、音が右から左へ流れるような聴感が得られる。
【0050】
逆に、車両C3の走行方向が左回りに変化する場合には、その変化の度合いに応じて係数bは0.5から0に向けて減少する。その結果、音信号SFR及び音信号SRRについては付与前信号S1の振り分け量が減少するとともに付与済み信号S2の振り分け量が増加し、音信号SFL及び音信号SRLについては付与前信号S1の振り分け量が増加するとともに付与済み信号S2の振り分け量が減少する。例えば、50km/hで走行している車両C3の走行方向が-35°変化すると、音信号SFL及び音信号SRLの各々は、1.5×付与前信号S1+0.5×付与済み信号S2+伴奏音信号S5、となり、音信号SFR及び音信号SRRの各々は、0.5×付与前信号S1+1.5×付与済み信号S2+伴奏音信号S5、となる。このため、車室CRの左側に配置されるスピーカから出力される音の残響が少なくなる一方、車室CRの右側に配置されるスピーカから出力される音の残響が多くなり、音が左から右へ流れるような聴感が得られる。
【0051】
以上説明したように本実施形態の音響装置10Cによれば、車両C3の車室CRに設置されるスピーカ50-1~50-4の各々から出力される音の特性が車両C3の走行速度及び走行方向に応じて変化する。これにより、走行感が演出され、面白みを向上させることが可能になる。また、本実施形態の音響装置10Cによっても、ハウリングが発生し難くなる、といった効果が奏される。
【0052】
<4.変形例>
以上の実施態様は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は相矛盾しない限り適宜に併合され得る。
【0053】
<4-1.変形例1>
上記各実施形態では車両の走行速度又は走行方向といった車両の走行状態の変化に応じて比率R1と比率R2とを調整した。しかしながら、車両の走行状態を変化させるための操作に応じて比率R1と比率R2を調整してもよい。車両の走行状態を変化させるための操作の具体例としては、車両を加速させるための操作であるアクセルペダルの踏み込み、車両の走行方向を変化させるための操作であるハンドル操作が挙げられる。
また、車両が停止している場合に、操作状態に応じて比率R1と比率R2とを調整してもよい。例えば、アクセルペタルの踏み込み量及びハンドの操作量の少なくとも一方に基づいて、比率R1と比率R2とを調整してもよい。
【0054】
例えば、第1実施形態の車載カラオケシステム1A或いは第3実施形態の車載カラオケシステム1Cであれば、走行状態検出器60Aとして、車両内に敷設されたCAN(Controller Area Network)と通信する通信装置を用い、走行状態検出器60AにはCAN経由でアクセルペダルの踏み込み量を表すアクセル開度を取得させる。そして、調整部140Aには、アクセル開度が大きいときの比率R1をアクセル開度が小さいときの比率R1よりも大きくするとともに、アクセル開度が大きいときの比率R2をアクセル開度が小さいときの比率R2よりも小さくする処理を実行させる。
【0055】
また、第2実施形態の車載カラオケシステム1B或いは第3実施形態の車載カラオケシステム1Cであれば、走行状態検出器60BとしてCANと通信する通信装置を用い、走行状態検出器60Bには、ハンドルの操作量を表すステアリング角度をCAN経由で取得させる。そして、調整部140Bには、右回りのステアリング角度が大きいときの比率R1を同角度が小さいときの比率R1よりも大きくするとともに、同角度が大きいときの比率R2を同角度が小さいときの比率R2よりも小さくする処理を実行させ、左回りのステアリング角度が大きいときの比率R1を同角度が小さいときの比率R1よりも小さくするとともに、同角度が大きいときの比率R2を同角度が小さいときの比率R2よりも大きくする処理を実行させる。
【0056】
<4-2.変形例2>
上述の各実施形態では車載カラオケシステムへの本開示の適用例を説明したが、音響装置10A、音響装置10B及び音響装置10Cを車載ハンズフリー電話に適用してもよい。音響装置10A、音響装置10B及び音響装置10Cを車載ハンズフリー電話に適用する場合には、ノイズ除去部100に伴奏音信号S5を与える必要はなく、ノイズ除去部100は車室に配置されるマイク20の出力信号SAから低域のノイズを除去して出力信号SBを生成する処理を実行すればよい。また、マイク20として超指向性マイクを用い、ノイズの発生源がマイク20の収音範囲外に位置するようにマイク20を設ける態様であれば、音響装置10A、音響装置10B及び音響装置10Cの構成からノイズ除去部100を省略してもよい。さらに、スピーカ50-1及びスピーカ50-2の各々をマイク20の収音範囲外に設置する態様であれば、音響装置10A、音響装置10B及び音響装置10Cの構成からハウリング抑制部110を省略してもよい。
【0057】
また、音響装置10A、音響装置10B及び音響装置10Cの適用対象は、車載ハンズフリー電話或いは車載カラオケシステムのようにマイクを含む車載音響システムには限定されず、音響装置10A、音響装置10B及び音響装置10Cは、カーステレオのようにマイクを含まない車載音響システムにも適用可能である。具体的には、音楽CD等の再生装置を音信号SAの信号源として用いるようにすればよい。
【0058】
<4-3.変形例3>
上記第1実施形態におけるノイズ除去部100、ハウリング抑制部110、効果付与部120、ミキサ130A及び調整部140Aはソフトウェアモジュールであったが、これら各部を電子回路により実現してもよい。上記第2実施形態におけるノイズ除去部100、ハウリング抑制部110、効果付与部120、ミキサ130A及び調整部140Bについても同様に電子回路により実現してもよく、上記第3実施形態におけるノイズ除去部100、ハウリング抑制部110、効果付与部120、ミキサ130B及び調整部140Cについても同様に電子回路により実現してもよい。
【0059】
<5.実施形態及び各変形例の少なくとも1つから把握される態様>
上述した実施形態及び各変形例の少なくとも1つから以下の態様が把握される。
音響装置の一態様は、第1の音信号に、音響効果を付与する信号処理を施して第2の音信号を生成する効果付与部と、車室に設けられる第1のスピーカに与える第3の音信号を前記第1の音信号と前記第2の音信号とを第1の比率でミキシングして生成するとともに、前記車室に設けられる第2のスピーカに与える第4の音信号を前記第1の音信号と前記第2の音信号とを第2の比率でミキシングして生成するミキサと、前記第1の比率と前記第2の比率とを車両の走行状態に応じて調整する調整部と、を有する。この態様によれば、車両の走行状態の変化に応じて、第1のスピーカ及び第2のスピーカから出力される音の特性が変化する。第1のスピーカ及び第2のスピーカから出力される音の特性の変化により走行感が演出される結果、車両を操作する面白みが向上する。
【0060】
上述した音響装置の一態様として、前記第1の比率と前記第2の比率とは逆数の関係であってもよい。
【0061】
上述した音響装置の一態様として、前記調整部は、前記第1の比率と前記第2の比率とを前記車両の速度に応じて調整してもよい。この態様によれば、車両の速度に応じて、第1のスピーカから出力される音と、第2のスピーカから出力される音を調整することができる。
【0062】
上述した音響装置の一態様として、前記第1のスピーカは前記第2のスピーカよりも前記車室の前方に設けられてもよい。この態様によれば、第1のスピーカは第2のスピーカより車両が前進する方向に設けられるので、車室の前方から出力される音と車室の後方から出力される音を調整することができる。
【0063】
上述した音響装置の一態様として、前記調整部は、前記車両の速度が高速の場合の前記第1の比率を、前記車両の速度が低速の場合の前記第1の比率と比較して、大きくし、前記車両の速度が高速の場合の前記第2の比率を、前記車両の速度が低速の場合の前記第2の比率と比較して、小さくしてもよい。
【0064】
上述した音響装置の一態様として、前記調整部は、前記車両の走行方向の変化に応じて前記第1の比率と前記第2の比率とを調整してもよい。
【0065】
上述した音響装置の一態様として、前記第1のスピーカは前記車室の左側と右側のうちの一方に設けられ、前記第2のスピーカは他方に設けてもよい。この態様によれば、車室の右側から放音される音と車室の左側から放音される音を調整することができる。
【0066】
上述した音響装置の一態様として、前記調整部は、前記車両の走行方向が左回りに変化した場合、前記第1の比率を変化前の前記第1の比率と比較して大きくするとともに前記第2の比率を変化前の前記第2の比率と比較して小さくし、前記車両の走行方向が右回りに変化した場合、前記第1の比率を変化前の前記第1の比率と比較して小さくとともに前記第2の比率を変化前の前記第2の比率と比較して大きくしてもよい。この態様によれば、走行方向と連動して第1のスピーカから出力される音と第2のスピーカから出力される音とを調整できる。
【0067】
上述した音響装置の一態様として、前記車室に配置されるマイクの出力信号から低域のノイズを除去した信号を出力するノイズ除去部と、前記ノイズ除去部からの出力信号にハウリング抑制処理を施して前記第1の音信号を生成するハウリング抑制部と、を有してもよい。この態様によれば、ロードノイズなどを除去し、且つハウリングを抑制できる。
【0068】
上述した音響装置の一態様として、前記ミキサは、前記第1の音信号と前記第2の音信号を前記第1の比率でミキシングし、さらにカラオケの伴奏音を表す第5の音信号をミキシングして前記第3の音信号を生成するとともに、前記第1の音信号と前記第2の音信号を前記第2の比率でミキシングし、さらに前記第5の音信号をミキシングして前記第4の音信号を生成し、前記ノイズ除去部は、前記ノイズに加えて前記第5の音信号の信号成分を前記マイクの出力信号から除去してもよい。この態様によれば、車室でカラオケを利用して歌唱する場合に、走行感を演出できる。
【0069】
車両の一態様は、上述の何れか一の態様の音響装置と、前記第1のスピーカと、前記第2のスピーカと、を有する。
【符号の説明】
【0070】
1A、1B,1C…車載カラオケシステム、10A,10B,10C…音響装置、20…マイク、30…A/D変換器、40-1,40-2,40-3,40-4…アンプ、50-1,50-2,50-3,50-4…スピーカ、60A,60B…走行状態検出器、100…ノイズ除去部、110…ハウリング抑制部、120…効果付与部、130A,130B…ミキサ、140A、140B,140C…調整部、142A、142B…平滑化部、144A,144B…規格化部、146-1,146-2、146-3、146-4,146-5,146-6,146-7,146-8…乗算部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8