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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】長尺平板状材料
(51)【国際特許分類】
   B29B 11/16 20060101AFI20230511BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20230511BHJP
   D04H 3/14 20120101ALI20230511BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
B29B11/16
D02G3/04
D04H3/14
B29K105:08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019136655
(22)【出願日】2019-07-25
(65)【公開番号】P2021020331
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/129541(WO,A1)
【文献】特開2017-014653(JP,A)
【文献】特開2003-165851(JP,A)
【文献】特開2020-063342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16、15/08-15/14、C08J5/04-5/10、5/24、
B29C41/00-41/36、41/46-41/52、70/00-70/88、
D04H1/00-18/04、
D02G1/00-3/48、D02J1/00-13/00、
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続強化繊維と、連続熱可塑性樹脂繊維を含む、長尺平板状材料であって、
前記長尺平板状材料の長手方向は、端からそれぞれ0.25~30mmの領域であって、連続強化繊維を含まず、連続熱可塑性樹脂繊維を含む末端領域(A)を含み、
前記長尺平板状材料の長手方向の前記末端領域(A)より内側の中央領域(B)における連続強化繊維の割合が、前記中央領域(B)の25~75体積%であり、
前記長尺平板状材料の全領域における連続強化繊維の割合が20~60体積%であり、
前記連続熱可塑性樹脂繊維の前記連続強化繊維への含浸率が30%以下である、長尺平板状材料。
【請求項2】
前記連続熱可塑性樹脂繊維が、ポリアミド樹脂を含む、請求項1に記載の長尺平板状材料。
【請求項3】
前記連続熱可塑性樹脂繊維が、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂を含む、請求項1に記載の長尺平板状材料。
【請求項4】
前記連続熱可塑性樹脂繊維のJIS L 1096に従って測定した水分率が4%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の長尺平板状材料。
【請求項5】
前記連続熱可塑性樹脂繊維が、融点が240℃以下の熱可塑性樹脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の長尺平板状材料。
【請求項6】
前記連続強化繊維が、炭素繊維およびガラス繊維から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の長尺平板状材料。
【請求項7】
前記中央領域(B)における連続強化繊維の分散度が、60%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の長尺平板状材料。
【請求項8】
前記中央領域(B)における連続熱可塑性樹脂繊維の含浸率が、10%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の長尺平板状材料。
【請求項9】
前記長尺平板状材料の幅が、5~100mmである、請求項1~8のいずれか1項に記載の長尺平板状材料。
【請求項10】
前記長尺平板状材料の厚みが、0.1~0.5mmである、請求項1~9のいずれか1項に記載の長尺平板状材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺平板状材料に関する。特に、繊維強化樹脂材料として用いられる長尺平板状材料に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、各種成形材料として、広く用いられている。近年、繊維状にした熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂繊維)を種々の成形材料として用いることも検討されている。特に、成形品の強度向上のため、連続熱可塑性樹脂繊維に、連続強化繊維を配合した混繊糸やその他の繊維強化樹脂材料も知られている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-173196号公報
【文献】特開2018-154126号公報
【文献】特開2017-128072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような連続強化繊維と連続熱可塑性樹脂繊維を含む材料は、いわゆる含浸タイプのプリプレグと比較して、しなやかであり、種々の形状に対応しやすいというメリットがある。一方で、連続強化繊維と連続熱可塑性樹脂繊維を含む材料は、加熱時に連続熱可塑性樹脂繊維の連続強化繊維への含浸を進行させるため、加熱および加圧条件、並びに、求める成形品の形状によっては、端部まで十分に圧力がかかりにくく、加熱および加圧後に、連続熱可塑性樹脂繊維の含浸が十分に進行していない部分ができてしまう場合があることが分かった。十分に含浸が進行しないと、得られる成形品に毛羽立ちが認められる場合がある。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、しなやかであり、かつ、加熱加工後に毛羽立ちが少ない成形品が得られる長尺平板状材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、連続強化繊維と連続熱可塑性樹脂繊維を含む長尺平板状材料であって、長手方向の端部に、連続強化繊維を含まず、連続熱可塑性樹脂繊維を含む末端領域を設けることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>連続強化繊維と、連続熱可塑性樹脂繊維を含む、長尺平板状材料であって、前記長尺平板状材料の長手方向は、端からそれぞれ0.25~30mmの領域であって、連続強化繊維を含まず、連続熱可塑性樹脂繊維を含む末端領域(A)を含み、前記長尺平板状材料の長手方向の前記末端領域(A)より内側の中央領域(B)における連続強化繊維の割合が、前記中央領域(B)の25~75体積%であり、前記長尺平板状材料の全領域における連続強化繊維の割合が20~60体積%であり、前記連続熱可塑性樹脂繊維の前記連続強化繊維への含浸率が30%以下である、長尺平板状材料。
<2>前記連続熱可塑性樹脂繊維が、ポリアミド樹脂を含む、<1>に記載の長尺平板状材料。
<3>前記連続熱可塑性樹脂繊維が、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂を含む、<1>に記載の長尺平板状材料。
<4>前記連続熱可塑性樹脂繊維のJIS L 1096に従って測定した水分率が4%以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の長尺平板状材料。
<5>前記連続熱可塑性樹脂繊維が、融点が240℃以下の熱可塑性樹脂を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の長尺平板状材料。
<6>前記連続強化繊維が、炭素繊維およびガラス繊維から選択される少なくとも1種を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の長尺平板状材料。
<7>前記中央領域(B)における連続強化繊維の分散度が、60%以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の長尺平板状材料。
<8>前記中央領域(B)における連続熱可塑性樹脂繊維の含浸率が、10%以下である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の長尺平板状材料。
<9>前記長尺平板状材料の幅が、5~100mmである、<1>~<8>のいずれか1つに記載の長尺平板状材料。
<10>前記長尺平板状材料の厚みが、0.1~0.5mmである、<1>~<9>のいずれか1つに記載の長尺平板状材料。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、しなやかであり、かつ、加熱加工後に毛羽立ちが少ない成形品が得られる長尺平板状材料を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の長尺平板状材料の一例を示す模式図である。
図2】長尺平板状材料の断面図を顕微鏡観察した画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0009】
本発明の長尺平板状材料は、連続強化繊維と、連続熱可塑性樹脂繊維を含む、長尺平板状材料であって、前記長尺平板状材料の長手方向は、端からそれぞれ0.25~30mmの領域であって、連続強化繊維を含まず、連続熱可塑性樹脂繊維を含む末端領域(A)を含み、前記長尺平板状材料の長手方向の前記末端領域(A)より内側の中央領域(B)における連続強化繊維の割合が、前記中央領域(B)の25~75体積%であり、前記長尺平板状材料の全領域における連続強化繊維の割合が20~60体積%であり、前記連続熱可塑性樹脂繊維の前記連続強化繊維への含浸率が30%以下であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、しなやかであり、かつ、加熱および加圧後に毛羽立ちが少ない成形品が得られる長尺平板状材料を提供可能になる。より具体的には、本発明では、末端領域(A)を有することにより、優れた効果を奏する。すなわち、本発明の長尺平板状材料は、通常、加熱加工時に連続熱可塑性樹脂繊維の含浸を進行させるが、本発明の長尺平板状材料は、例えば、熱プレスなどしたときに、端部まで圧力が十分に付与されなくても、プレス後も含浸しない領域をできにくくすることができる。さらに、長尺平板状材料の加熱加工する際に、連続強化繊維をはみ出しにくくすることができる。そのため、得られる成形品の毛羽立ちを生じにくくすることができる。
【0010】
<長尺平板状材料>
本発明は、長尺平板状材料に関する。図1は、長尺平板状材料の一例を示す模式図であって、1は長尺平板状材料を、2は中央領域(B)を、3は末端領域(A)をそれぞれ示している。
本発明の長尺平板状材料は、幅方向に対して、長手方向が十分に長く、例えば、前記長手方向が、前記幅方向の3倍以上であることが好ましく、さらには、5倍以上、10倍以上であってもよい。長尺平板状材料の形態には、テープ状、リボン状と呼ばれるものが含まれる。
【0011】
本発明では、連続強化繊維の繊維長方向および連続熱可塑性樹脂繊維の繊維長方向が、それぞれ、長尺平板状材料の長手方向となる。ただし、連続強化繊維および/または連続熱可塑性樹脂繊維に撚りがかかっている場合は、撚りの中心軸となる方向を繊維長方向とする。また、連続強化繊維および/または連続熱可塑性樹脂繊維にうねりがある場合等も同様に考える。本発明では、連続強化繊維および連続熱可塑性樹脂繊維は、直線状であることが好ましい。ここでの直線状とは、幾何学的な意味での直線の他、本発明の技術分野において当業者が通常直線状と認められる範囲も含む趣旨である。
【0012】
長尺平板状材料の長手方向の長さは、通常、10cm以上であり、好ましくは1m以上であり、より好ましくは100m以上、さらに好ましくは1,000m以上である。また、長尺平板状材料の長手方向の長さは、20,000m以下であることが好ましく、より好ましくは10,000m以下、さらに好ましくは7,000m以下である。
【0013】
長尺平板状材料の幅(長手方向に垂直な方向)は、5mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましく、10mm以上であることがさらに好ましく、12mm以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、成形品の毛羽立ちをより効果的に抑制できる。また、長尺平板状材料の幅は、100mm以下であることが好ましく、65mm以下であることがより好ましく、35mm以下であることがさらに好ましく、33mm以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、長尺平板状材料がよりしなやかになる。
【0014】
長尺平板状材料の厚みは、0.1mm以上であることが好ましく、0.15mm以上であることがより好ましく、0.2mm以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、長尺平板状材料を芯材に巻き取った時の巻取体が安定する傾向にある。また、長尺平板状材料の厚みは、0.5mm以下であることが好ましく、0.45mm以下であることがより好ましく、0.4mm以下であることがさらに好ましく、0.3mm以下、0.25mm以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、よりしなやかになる。
【0015】
長尺平板状材料の幅と厚みの比(幅/厚み)は、30以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、50以上であることがさらに好ましく、さらには、60以上、70以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、成形品の毛羽立ちをより効果的に抑制できる。また、長尺平板状材料の幅と厚みの比(幅/厚み)は、600以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、250以下であることがさらに好ましく、200以下であることが一層好ましく、さらには、180以下、160以下、140以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、末端領域の幅がより安定する傾向にある。
【0016】
本発明の長尺平板状材料は、長手方向に、端からそれぞれ0.25~30mmの領域であって、連続強化繊維を含まず、連続熱可塑性樹脂繊維を含む末端領域(A)(図1の3)を含む。末端領域(A)の幅(図1の3の一方の長さ)は、0.25mm以上であり、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがさらに好ましく、2mm以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の毛羽立ちをより効果的に抑制できる。また、末端領域(A)は、20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましく、12mm以下であることがさらに好ましく、10mm以下であることが一層好ましく、7mm以下であることがより一層好ましく、5mm以下であることが特に好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の物性がより安定する。
本発明の長尺平板状材料においては、末端領域(A)は2つあるが、2つの末端領域の幅は、同じであってもよいし、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0017】
末端領域(A)は上述の通り、連続強化繊維を含まない。このように末端領域(A)が連続強化繊維を含まないことにより、成形品の毛羽立ちをより効果的に抑制できる。ただし、連続強化繊維を含まないとは、幾何学的な意味における「含有量がゼロ」の場合の他、製造工程において意図せずに含まれてしまう微量の連続強化繊維が含まれていてもよい趣旨である。
また、本発明の長尺平板状材料の末端領域(A)は、連続熱可塑性樹脂繊維が、全体の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、98質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0018】
本発明の長尺平板状材料は、長手方向に、前記末端領域(A)より内側の中央領域(B)(図1の2)を有する。中央領域(B)は、連続強化繊維と連続熱可塑性樹脂繊維を含む。中央領域(B)の幅(図1の2)は、4mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、6mm以上であることがさらに好ましく、7mm以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、生産性が向上する傾向にある。また、中央領域(B)の幅は、34mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましく、28mm以下であることがさらに好ましく、25mm以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、しなやかさをより効果的に維持することができる。本発明では、中央領域(B)は、末端領域(A)の少なくとも一方の幅(好ましくは両方の幅のそれぞれ)以上の長さであることが好ましく、中央領域(B)は、末端領域(A)の少なくとも一方の幅(好ましくは両方の幅)よりも3mm以上大きいことがより好ましい。また、中央領域(B)と末端領域(A)の少なくとも一方の幅(好ましくは両方の幅)の差の上限値は、25mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましい。
【0019】
さらに、本発明の長尺平板状材料においては、末端領域(A)と中央領域(B)の幅方向の長さの比率(図1における3の一方の長さ:2の長さ)の比率は、1:1~10であることが好ましく、1:1~7であることがより好ましく、1:1~5であることがさらに好ましく、1:1.5~3.5であることが一層好ましい。このような範囲とすることにより、成形品の毛羽立ちの抑制と得られる成形品の物性について、バランスよく優れる傾向にある。2つの末端領域(A)の幅が互いに異なる場合、長い方と短い方のいずれか一方について、上記範囲を満たしていることが好ましく、両方が上記範囲を満たしていることがより好ましい。
【0020】
本発明の長尺平板状材料において、中央領域(B)における連続強化繊維の割合は、前記中央領域(B)の25体積%以上であり、30体積%以上であることが好ましく、32体積%以上であることがさらに好ましく、32体積%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、機械物性により優れた成形品が得られる。また、中央領域(B)における連続強化繊維の割合は、75体積%以下であり、65体積%以下であることが好ましく、55体積%以下であることがさらに好ましく、52体積%以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、成形品の毛羽立ちをより効果的に抑制できる。
【0021】
また、本発明の長尺平板状材料の全領域における連続強化繊維の割合は、20体積%以上であり、25体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、機械物性により優れた成形品が得られる。また、全領域における連続強化繊維の割合は、60体積%以下であり、55体積%以下であることが好ましく、以下であることがより好ましく、45体積%以下であることがさらに好ましく、40体積%以下であることが一層好ましく、35体積%以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、成形品の毛羽立ちをより効果的に抑制できる。
【0022】
本発明の長尺平板状材料は、連続熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維とで、全体の90体積%以上を占めることが好ましく、95体積%以上を占めることがより好ましく、98体積%以上を占めることがさらに好ましい。また、本発明の長尺平板状材料は、連続熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維とで、全体の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、98質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0023】
本発明の長尺平板状材料は、中央領域(B)における連続熱可塑性樹脂繊維の連続強化繊維への含浸率が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが一層好ましく、3%以下であることがより一層好ましく、1%以下であってもよい。含浸率は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。このような含浸率とすることにより、しなやかさが達成される。
【0024】
本発明の長尺平板状材料は、中央領域(B)における連続強化繊維の分散度が、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、85%以上であることが一層好ましく、90%超であることがより一層好ましい。分散度は後述する実施例に記載の方法に従って測定される。このような分散度とすることにより、含浸が早く、生産性により優れる傾向にある。
【0025】
本発明の長尺平板状材料では、中央領域(B)のすべての領域において、含浸率、分散度、連続強化樹脂繊維の割合などがほぼ均一であってもよいし、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、これらの値が異なる複数の領域から構成されていてよい。
また、図1に示す長尺平板状材料では、2つの末端領域(A)と前記末端領域(A)に連続している中央領域(B)とから構成されているが、末端領域(A)と中央領域(B)の間に、あるいは、中央領域(B)の中に、第三の領域を有していてもよい。
【0026】
<連続強化繊維>
本発明の長尺平板状材料は、連続強化繊維を含む。
連続繊維とは、50mmを超える繊維をいい、1mを超えるものが実際的である。本発明における強化繊維の断面は、円形であってもよいし、扁平であってもよい。連続強化繊維は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。本発明で使用する連続強化繊維の平均繊維長に特に制限はないが、成形加工性を良好にする観点から、1~100,000mの範囲であることが好ましく、より好ましくは100~10,000m、さらに好ましくは1,000~5,000mである。
【0027】
本発明で用いる連続強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、金属繊維(スチール繊維等)等の無機繊維、および、植物繊維(ケナフ(Kenaf)、竹繊維等を含む)、アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の有機繊維などが挙げられる。なかでも、炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維の少なくとも1種を含むことが好ましく、炭素繊維およびガラス繊維から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、炭素繊維の少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0028】
本発明の好ましい実施形態で用いる連続強化繊維は、処理剤で処理されたものを用いることが好ましい。このような処理剤としては、集束剤や表面処理剤が例示され、特許第4894982号公報の段落番号0093および0094に記載のものが好ましく採用され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0029】
表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物からなるものが挙げられ、例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等であり、シラン系カップリング剤が好ましい。
【0030】
また、収束剤としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シラン系化合物、イソシアネート系化合物、チタネート系化合物、ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることが好ましく、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シラン系カップリング剤、水不溶性ポリアミド樹脂および水溶性ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることがより好ましく、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、水不溶性ポリアミド樹脂および水溶性ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることがさらに好ましく、水溶性ポリアミド樹脂であることが一層好ましい。
【0031】
前記処理剤の量は、連続強化繊維の0.001~1.5質量%であることが好ましく、0.1~1.2質量%であることがより好ましく、0.3~1.1質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
連続強化繊維の処理剤による処理方法は、公知の方法を採用できる。例えば、連続強化繊維を、処理剤を溶液に溶解させたものに浸漬し、連続強化繊維の表面に処理剤を付着させることが挙げられる。また、処理剤を連続強化繊維の表面にエアブローすることもできる。さらに、既に、表面処理剤や処理剤で処理されている連続強化繊維を用いてもよいし、市販品の表面処理剤や処理剤を洗い落してから、再度、所望の処理剤量となるように、表面処理しなおしてもよい。
【0033】
<連続熱可塑性樹脂繊維>
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維は、熱可塑性樹脂を含む連続繊維であり、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物(該熱可塑性樹脂組成物は熱可塑性樹脂のみからなっていてもよい)から構成される連続繊維である。ここで、連続繊維とは、50mmを超える繊維をいい、1mを超えるものが実際的である。本発明で使用する連続熱可塑性樹脂繊維の平均繊維長に特に制限はないが、成形加工性を良好にする観点から、1~100,000mの範囲であることが好ましく、より好ましくは100~10,000m、さらに好ましくは1,000~5,000mである。
本発明における連続熱可塑性樹脂繊維の断面は、円形であってもよいし、扁平であってもよい。
連続熱可塑性樹脂繊維は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0034】
本発明で用いる連続熱可塑性樹脂繊維は、通常、連続熱可塑性樹脂繊維が束状になった連続熱可塑性樹脂繊維束を用いて製造するが、かかる連続熱可塑性樹脂繊維束1本の当たりの合計繊度が、40~600dtexであることが好ましく、50~500dtexであることがより好ましく、100~400dtexであることがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、得られる中央領域(B)中での連続熱可塑性樹脂繊維の分散状態がより良好となる。かかる連続熱可塑性樹脂繊維束を構成する繊維数は、1~200fであることが好ましく、5~100fであることがより好ましく、10~80fであることがさらに好ましく、20~50fであることが特に好ましい。特に、詳細を後述するとおり、長尺平板状材料を用いて本発明の材料を形成する場合、連続熱可塑性樹脂繊維の分散状態がより良好となる。
本発明で用いる連続熱可塑性樹脂繊維は熱可塑性樹脂組成物から形成することができる。熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の1種または2種以上のみからなってもよく、その他の成分を含んでいてもよい。
【0035】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂類、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂類、ポリカーボネート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂(ポリアセタール樹脂)、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン等のポリエーテルケトン樹脂類、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルサルファイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、全芳香族ポリイミド、半芳香族ポリイミド等の熱可塑性ポリイミド樹脂類等を用いることができ、ポリアミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、およびポリフェニレンサルファイド樹脂の少なくとも1種であることが好ましく、少なくともポリアミド樹脂を含むことがより好ましい。
【0036】
本発明で用いるポリアミド樹脂としては、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリアミド66/6T、ポリキシリレンアジパミド、ポリキシリレンセバカミド、ポリキシリレンドデカミド、ポリアミド9T、ポリアミド9MT、ポリアミド6I/6T等が挙げられる。
【0037】
上述のようなポリアミド樹脂の中でも、成形性、耐熱性の観点から、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂(以下、「XD系ポリアミド」ということがある)であることが好ましい。
【0038】
また、ポリアミド樹脂が混合物である場合は、ポリアミド樹脂中のXD系ポリアミドの比率が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、さらには90質量%以上、特には95質量%以上であってもよい。
【0039】
XD系ポリアミドは、ジアミン由来の構成単位の、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、一層好ましくは95モル%以上が、キシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素原子数が好ましくは4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
上記キシリレンジアミンは、少なくともメタキシリレンジアミンを含むことが好ましく、30~100モル%のメタキシリレンジアミンと、70~0モル%のパラキシリレンジアミンからなることがより好ましく、50~100モル%のメタキシリレンジアミンと、50~0モル%のパラキシリレンジアミンからなることがさらに好ましい。
【0040】
XD系ポリアミドの原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
ジアミン成分として、キシリレンジアミン以外のジアミンを用いる場合は、ジアミン由来の構成単位の50モル%未満であり、30モル%以下であることが好ましく、より好ましくは1~25モル%、特に好ましくは5~20モル%の割合で用いる。
【0041】
ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸および/またはセバシン酸が好ましく、セバシン酸がより好ましい。
【0042】
上記炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0043】
ジカルボン酸成分として、炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸を用いる場合は、成形加工性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸を用いることが挙げられる。これらを用いる場合、テレフタル酸、イソフタル酸の割合は、好ましくはジカルボン酸由来の構成単位の30モル%以下であり、より好ましくは1~30モル%、特に好ましくは5~20モル%の範囲である。
【0044】
本明細書において、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位とから構成されるとは、これらの成分を主成分とするが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよい。本発明では、ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。
【0045】
本発明で用いるポリアミド樹脂の第一の実施形態は、ジアミン由来の構成単位の80モル%以上がメタキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上がアジピン酸に由来する態様である。
本発明で用いるポリアミド樹脂の第二の実施形態は、ジアミン由来の構成単位の10~90モル%がメタキシリレンジアミンに由来し、90~10モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上がセバシン酸に由来する態様である。
【0046】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)が6,000~30,000であることが好ましく、より好ましくは8,000~28,000であり、さらに好ましくは9,000~26,000であり、一層好ましくは10,000~24,000であり、より一層好ましくは11,000~22,000である。このような範囲であると、得られる成形品の耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0047】
なお、ここでいう数平均分子量(Mn)とは、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度[NH2](μ当量/g)と末端カルボキシル基濃度[COOH](μ当量/g)から、次式で算出される。
数平均分子量(Mn)=2,000,000/([COOH]+[NH2])
【0048】
ポリアミド樹脂の製造方法は、特開2014-173196号公報の段落0052~0053の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0049】
本発明では、連続熱可塑性樹脂が、融点が240℃以下の熱可塑性樹脂(好ましくは、ポリアミド樹脂)を含むことが好ましく、融点が219℃以下の熱可塑性樹脂を含むことがより好ましく、融点が215℃以下の熱可塑性樹脂を含むことがより好ましい。上記下限値以下とすることにより、成形時の水分による影響を低減することができる。前記熱可塑性樹脂の融点の下限値は、例えば、170℃以上であり、190℃以上が好ましい。このような範囲とすることにより、耐熱性により優れる傾向にある。
また、連続熱可塑性樹脂繊維に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移点(好ましくは、ポリアミド樹脂)は、50~100℃が好ましく、55~100℃がより好ましく、特に好ましくは60~100℃である。この範囲であると、得られる成形品の耐熱性がより良好となる傾向にある。
ガラス転移点とは、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温して測定されるガラス転移点をいう。
融点およびガラス転移点の測定には、示差走査熱量計(DSC)を用い、試料量は約1mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させた際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めることができる。次いで、溶融した熱可塑性樹脂を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温し、ガラス転移点、融点を求めることができる。
示差走査熱量計(DSC)は、例えば、島津製作所(SHIMADZU CORPORATION)製、DSC-60を用いることができる。
【0050】
さらに、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、本発明で用いる連続熱可塑性樹脂繊維またはその原料となる熱可塑性樹脂組成物には、各種の含有成分を含めてもよい。例えば、エラストマー、連続強化繊維以外のフィラー、酸化防止剤、熱安定剤等の安定剤、耐加水分解性改良剤、耐候安定剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤、滑剤等の添加剤等を加えることができる。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落番号0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
また、連続強化繊維の表面処理剤が有する官能基(例えば、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基)を有する溶融成形可能なフッ素樹脂を含んでいてもよい。前記フッ素樹脂の詳細は、特開2019-099955号公報の段落0023~0053の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0051】
本発明では、連続熱可塑性樹脂繊維の80質量%以上(好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上)が、熱可塑性樹脂(好ましくは、ポリアミド樹脂)である形態が例示される。
【0052】
本発明における連続熱可塑性樹脂繊維は、連続熱可塑性樹脂繊維の処理剤を表面に有する連続熱可塑性樹脂繊維であることが好ましい。これらの詳細は、国際公開第2016/159340号の段落0064~0065の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
連続熱可塑性樹脂繊維が表面処理剤を有することにより、長尺平板状材料の製造工程やその後の加工工程で、連続熱可塑性樹脂繊維の切れを抑制することができる。
連続熱可塑性樹脂繊維の表面処理剤の量は、例えば、熱可塑性樹脂繊維の0.1~2.0質量%である。下限値は、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましい。上限値としては、1.8質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。このような範囲とすることにより、連続熱可塑性樹脂繊維の分散が良好となり、より均質な中央領域(B)を得られやすい。また、長尺平板状材料を製造する際には連続熱可塑性樹脂繊維には機械との摩擦力や繊維同士の摩擦力が生じ、その際に連続熱可塑性樹脂繊維が切れることがあるが、上記の範囲とすることによって繊維の切断をより効果的に防ぐことができる。また、均質な長尺平板状材料を得るために機械的な応力を連続熱可塑性樹脂繊維に加えるが、その際の応力により連続熱可塑性樹脂繊維が切断することをより効果的に防ぐことができる。
表面処理剤は、連続熱可塑性樹脂繊維や連続強化繊維を収束する機能を有するものであれば、その種類は特に定めるものではない。処理剤としては、エステル系化合物、アルキレングリコール系化合物、ポリオレフィン系化合物、フェニルエーテル系化合物、ポリエーテル系化合物、シリコーン系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、アミド系化合物、スルホネート系化合物、ホスフェート系化合物、カルボキシレート系化合物およびこれらを2種以上組み合わせたものが好ましく、エステル系化合物がより好ましい。
【0053】
連続熱可塑性樹脂繊維は、また、JIS L 1096に従って測定した水分率が5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、2%以下であることが一層好ましい。下限値は0%であってもよいが、0.001%以上が実際的である。
【0054】
連続熱可塑性樹脂繊維の表面処理剤による処理方法は、所期の目的を達成できる限り特に定めるものではない。例えば、連続熱可塑性樹脂繊維に、表面処理剤を溶液に溶解させたものを付加し、連続熱可塑性樹脂繊維の表面に処理剤を付着させることが挙げられる。あるいは処理剤を連続熱可塑性樹脂繊維の表面に対してエアブローすることによってもできる。
【0055】
<長尺平板状材料の製造方法>
長尺平板状材料は、公知の方法によって製造できる。
例えば、熱可塑性樹脂組成物を押出機にて溶融押出しし、ストランド状に押出し、ロールにて巻き取りながら延伸し、巻取体に巻き取った連続熱可塑性樹脂繊維束を得る。
上記で得た連続熱可塑性樹脂繊維の巻取体、および、あらかじめ準備された連続強化繊維の巻取体からそれぞれの繊維を引き出し、複数のガイドを通しながらエアブローにより開繊する。開繊しながら、連続熱可塑性樹脂繊維および連続強化繊維を一束とする。このとき、複数のガイドを通しながらエアブローを与え、平板状に調製しながら均一化と幅寸法の制御を進めることが好ましい。このエアブローの際に連続強化繊維および連続熱可塑性樹脂繊維を上記の処理剤で表面処理してもよいし、あらかじめ表面処理した繊維束の繊維を巻取体から繰り出して用いてもよい。
【0056】
本発明の好ましい実施形態に係る長尺平板状材料は、連続熱可塑性樹脂繊維束と連続強化繊維束を用いて製造することが好ましい。一本の長尺平板状材料の製造に用いられる繊維の合計繊度(一本の長尺平板状材料の製造に用いられる連続熱可塑性樹脂繊維の繊度の合計および連続強化繊維の繊度の合計を足し合わせた値)は、1000~100000dtexであることが好ましく、1500~50000dtexであることがより好ましく、2000~50000dtexであることがさらに好ましく、3000~30000dtexであることが特に好ましい。
【0057】
一本の長尺平板状材料の製造に用いる繊維数の合計(連続熱可塑性樹脂繊維の繊維数の合計と連続強化繊維の繊維数の合計を合計した繊維数)は、繊維数の合計は、100~100000fであることが好ましく、1000~100000fであることがより好ましく、1500~70000fであることがさらに好ましく、2000~20000fであることが一層好ましい。このような範囲とすることにより、長尺平板状材料中の連続熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維の混繊性が向上し、物性と質感により優れた成形品が得られる。また、いずれかの繊維が偏る領域が少なく互いの繊維がより均一に分散し易い。
【0058】
本発明では、例えば、連続熱可塑性樹脂繊維ないし連続強化繊維の繊維材料を開繊して、繊維が互いに並列した状態でテープ状あるいはリボン状にした形態であることが好ましい。
【0059】
<長尺平板状材料の用途>
本発明の好ましい実施形態に係る長尺平板状材料は、その状態のまま、芯材(ロール)に巻き取って巻取体とすることができる。
長尺平板状材料は、各種成形材料として用いることができ、織物、組物、編物等へ加工することもできる。
本発明の長尺平板状材料は、熱プレス、引抜成形、超音波成形、レーザー成形、3Dプリンタによる造形、金型成形、内圧成形等によって成形できる。特に、本発明の長尺平板状材料は、しなやかであることから、凹部や凸部を有する成形品の製造に適している。
本発明の長尺平板状材料は、例えば、パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話などの電気・電子機器、光学機器、精密機器、玩具、家庭・事務電気製品などの部品やハウジング、さらには自動車、航空機、船舶などの部品に好適に利用することができる。
【実施例
【0060】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0061】
<熱可塑性樹脂>
MPXD10:下記合成例により合成したキシリレンセバカミド樹脂、融点213℃、数平均分子量15400
MXD6:メタキシリレンアジパミド樹脂(三菱ガス化学(株)製、グレードS6001)、融点237℃、数平均分子量16800
PA6:ポリアミド樹脂6、宇部興産社製、1022B、融点220℃
【0062】
<<MPXD10の合成例>>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、セバシン酸(伊藤製油(株)製TAグレード)10kg(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)とパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)のモル比が70/30である混合キシリレンジアミン6.647kg(メタキシリレンジアミン34.16mol、パラキシリレンジアミン14.64mol)を溶融したセバシン酸に撹拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて240℃まで昇温した。
滴下終了後、内温を上昇させ、250℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて255℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、これをペレット化することにより、ポリアミド樹脂MPXD10を得た。
得られたポリアミド樹脂の融点は、213℃、数平均分子量は、15400であった。
【0063】
<連続強化繊維>
<<連続炭素繊維(CF)>>
三菱レイヨン社製、Pyrofil-TR-50S-12000-AD、8000dtex、繊維数12000f。エポキシ樹脂で表面処理されている。
<<連続ガラス繊維(GF)>>
日東紡績社製、ECG 75 1/0 0.7Z、繊度687dtex、繊維数400f、集束剤で表面処理されている。
【0064】
実施例1~7および比較例1、2
<連続熱可塑性樹脂繊維の製造>
表1に示す熱可塑性樹脂を直径30mmのスクリューを有する単軸押出機にて溶融押出しし、60穴のダイからストランド状に押出し、ロールにて巻き取りながら延伸し、連続熱可塑性樹脂の繊維束を巻取体に800m巻き取った。溶融温度は、連続熱可塑性樹脂の融点+15℃とした。
【0065】
<熱可塑性樹脂繊維の表面処理>
油剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(花王製、エマノーン 1112))を深型のバットに満たし、表面をゴム処理したローラーをローラーの下部分が油剤に接するように設置してローラーを回転させることで、常に油剤がローラー表面に付着している状態にした。上記連続熱可塑性樹脂繊維をこのローラーに接触させることで連続熱可塑性樹脂繊維の表面に油剤を塗布した。
【0066】
<連続熱可塑性樹脂繊維の水分率の測定方法>
表面処理された連続熱可塑性樹脂繊維を、JIS L 1096に従って測定し、水分率を測定した。
【0067】
<長尺平板状材料の製造>
長尺平板状材料は、以下の方法に従って製造した。
1m以上の長さを有する連続熱可塑性樹脂繊維の巻取体、および、1m以上の長さを有する連続強化繊維の巻取体からそれぞれの繊維を引き出し、複数のガイドを通しながらエアブローにより開繊を行った。開繊しながら、連続熱可塑性樹脂繊維および連続強化繊維を一束とし、さらに、複数のガイドを通しながらエアブローを与え、均一化を進めた。
得られた長尺平板状材料は、炭素繊維を用いたものが繊度約13000dtex、繊維数約13500f、ガラス繊維を用いたものが繊度約15000dtex、繊維数約10000fであった。得られた長尺平板状材料は、直径5cmの芯材に巻き取った。
実施例4は、実施例1に記載の上記長尺平板状材料について、芯材に巻き取る前に、加熱ロールを用いて両面加熱することで、表1に示す通り微含浸させた。
得られた材料は、いずれもしなやかであった。
【0068】
<長尺平板状材料の寸法測定>
長尺平板状材料の末端領域(A)の幅、ならびに、中央領域(B)の幅は、芯材に巻き取った巻取体の状態で、それぞれノギスを用いて測定した。測定は、任意の10か所について行い、数平均値として算出した。表中の末端領域の幅は、両末端の合計である。また、末端領域(A)の幅は、ほぼ同じであった。
長尺平板状材料の厚みは巻取体から振動やねじりを加えずに直線状に1m巻き出し、マイクロメーターで任意の10カ所について測定し、数平均値として算出した。
【0069】
<含浸率の測定方法>
長尺平板状材料の中央領域(B)の含浸率は以下の通り測定した。
長尺平板状材料を適当な長さに切り取り、末端領域(A)を除去した後、エポキシ樹脂で包埋し、長尺平板状材料の断面部にあたる面を研磨し、断面図を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡を使用して撮影した。得られた断面写真に対し、連続強化繊維の熱可塑性樹脂が含浸した領域を画像解析ソフトImageJを用いて選択し、その面積を測定した。含浸率は、連続強化繊維の熱可塑性樹脂が含浸した領域/断面積(単位%)として示した。
超深度カラー3D形状測定顕微鏡は、VK-9500(コントローラー部)/VK-9510(測定部)(キーエンス製)を使用した。
【0070】
<分散度の測定方法>
長尺平板状材料の中央領域(B)の分散度は以下の通り測定した。
長尺平板状材料を適当な長さに切り取り、末端領域(A)を除去した後、エポキシ樹脂で包埋し、長尺平板状材料の長手方向に垂直な断面を研磨し、断面図を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡を使用して撮影した。図2に示すように、撮影画像において、放射状に補助線を等間隔に6本ひき、各補助線上にある連続強化繊維領域の長さをa1, a2, a3・・・ai(i=n)と測量した。また、各補助線上にある連続熱可塑性樹脂繊維の領域の長さをb1, b2, b3・・・bi(i=m)と測量した。その結果に基づき、次式により分散度を算出した。
【数1】
超深度カラー3D形状測定顕微鏡は、VK-9500(コントローラー部)/VK-9510(測定部)(キーエンス製)を使用した。
【0071】
<成形性(毛羽立ち)>
長尺平板状材料を150mmに切り取り、平滑なアルミ板の上に20層、同方向に積層した。1mm厚のアルミ製のスペーサーを周囲に、長尺平板状材料に接触しないように配置し、上から平滑なアルミ板を当てて、融点+15℃で0.3MPaで1分間プレス成形した。得られた成形品の成形性(毛羽立ち)を以下の通り、目視で評価した。実施例1つ当たり10回試験を行い、平均値を算出した。
A:毛羽立ちが全くなかった
B:毛羽立ちが1~2ヵ所あった
C:毛羽立ちが3~5ヵ所あった
D:毛羽立ちが6ヵ所以上あった
【0072】
<成形性(発泡)>
上記成形品から、成形性(発泡)を以下の通り、目視で評価した。
A:目立つ発泡がなかった。
B:両脇が発泡した成形品があった。
C:全面が発泡した成形品があった。
【0073】
【表1】
【0074】
上記表1において、Vfは、各領域における連続強化繊維の体積割合(体積%)を示している。
上記結果から明らかなとおり、本発明の長尺平板状材料では、毛羽立ちが効果的に抑制された。
【符号の説明】
【0075】
1 長尺平板状材料
2 中央領域(B)
3 末端領域(A)
図1
図2