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特許7275965エレベータロープ劣化診断装置及びエレベータロープ劣化診断方法
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  • 特許-エレベータロープ劣化診断装置及びエレベータロープ劣化診断方法 図1
  • 特許-エレベータロープ劣化診断装置及びエレベータロープ劣化診断方法 図2
  • 特許-エレベータロープ劣化診断装置及びエレベータロープ劣化診断方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】エレベータロープ劣化診断装置及びエレベータロープ劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 7/12 20060101AFI20230511BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20230511BHJP
   B66B 5/02 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B66B7/12 Z
B66B3/00 R
B66B5/02 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019139285
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021020790
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】野田 祥希
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0119256(US,A1)
【文献】特開2014-213973(JP,A)
【文献】特開2018-118810(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145823(WO,A1)
【文献】特開2011-105495(JP,A)
【文献】特開2018-76151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-31/02
G01N 21/892;21/952
G01N 27/72-27/9093
G01B 11/08-11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影装置から供されたエレベータロープの画像信号を当該エレベータロープの位置信号と関連付けて逐次的に記憶装置に保存する画像収録部と、
前記位置信号に関連付けられた画像信号に基づき前記エレベータロープの計測位置毎の過去と現在の状態をグラフ形式で比較表示した画像を作成する画像処理部と
を備えたことを特徴とするエレベータロープ劣化診断装置。
【請求項2】
前記画像処理部は、前記状態に基づく前記エレベータロープの交換の推奨または指示を表示した画像を作成することを特徴とする請求項1に記載のエレベータロープ劣化診断装置。
【請求項3】
前記記憶装置に保存された前記エレベータロープの現在と過去の状態に基づき当該エレベータロープの状態を予測する予兆診断部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のエレベータロープ劣化診断装置。
【請求項4】
前記画像処理部は、前記予測に基づく前記エレベータロープの交換推奨時期及び交換時期を表示した画像を作成することを特徴とする請求項3に記載のエレベータロープ劣化診断装置。
【請求項5】
前記エレベータロープの状態は、摩耗状態、ロープ素線状態またはロープ伸び状態のいずれかであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のエレベータロープ劣化診断装置。
【請求項6】
エレベータロープ劣化診断装置が実行するエレベータロープ劣化診断方法であって、
撮影装置から供されたエレベータロープの画像信号を当該エレベータロープの位置信号と関連付けて逐次的に記憶装置に保存するステップと、
前記位置信号に関連付けられた画像信号に基づき前記エレベータロープの計測位置毎の過去と現在の状態をグラフ形式で比較表示した画像を作成するステップと
を有することを特徴とするエレベータロープ劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベータロープの状態を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの異常を診断する技術としては例えば特許文献1、2に開示された診断技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、エレベータの異常を診断する態様として、例えば、巻上機のモータのトルク値に基づく巻上機の異常診断、ドアの加速度信号や音響信号に基づくドアの異常診断が挙げられている。
【0004】
特許文献2には、エレベータの異常を診断の態様として、綱車と主ロープとの間で生じる滑りに基づきエレベータのトラクション能力を診断する機能が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-114111号公報
【文献】特許6304443号公報
【文献】特開2018-87063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の診断装置は、エレベータのドアや巻上げ機の異常を診断ためのものであり、エレベータロープの状態や予兆を診断する装置ではない。
【0007】
特許文献2の診断装置も、ロープの繰り出し量の差に基づき綱車のトラクション能力を判定するものであるので、エレベータロープの状態や予兆を診断できない。
【0008】
以上のように従来のエレベータの異常診断技術は、エレベータロープ全体の摩耗、素線切れ等の状態を一目で確認できないので、エレベータロープの状態を容易に把握できない。
【0009】
本発明は、上記の事情を鑑み、エレベータの点検にあたりエレベータロープの状態や予兆を容易に直感的に把握することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明の一態様は、エレベータロープ劣化診断装置であって、撮影装置から供されたエレベータロープの画像信号を当該エレベータロープの位置信号と関連付けて逐次的に記憶装置に保存する画像収録部と、前記位置信号に関連付けられた画像信号に基づき前記エレベータロープの過去と現在の状態を比較表示した画像を作成する画像処理部を備える。
【0011】
本発明の一態様は、前記エレベータロープ劣化診断装置において、前記画像処理部は、前記状態に基づく前記エレベータロープの交換の推奨または指示を表示した画像を作成する。
【0012】
本発明の一態様は、前記エレベータロープ劣化診断装置において、前記記憶装置に保存された前記エレベータロープの現在と過去の状態に基づき当該エレベータロープの状態を予測する予兆診断部をさらに備える。
【0013】
本発明の一態様は、前記エレベータロープ劣化診断装置において、前記画像処理部は、前記予測に基づく前記エレベータロープの交換推奨時期及び交換時期を表示した画像を作成する。
【0014】
本発明の一態様は、前記エレベータロープ劣化診断装置において、前記エレベータロープの状態は、摩耗状態、ロープ素線状態またはロープ伸び状態のいずれかである。
【0015】
本発明の一態様は、エレベータロープ劣化診断装置が実行するエレベータロープ劣化診断方法であって、撮影装置から供されたエレベータロープの画像信号を当該エレベータロープの位置信号と関連付けて逐次的に記憶装置に保存するステップと、前記位置信号に関連付けられた画像信号に基づき前記エレベータロープの過去と現在の状態を比較表示した画像を作成するステップとを有する。
【発明の効果】
【0016】
以上の本発明によればエレベータの点検にあたりエレベータロープの状態や予兆を容易に直感的に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一態様であるエレベータロープ劣化診断装置の概略構成図。
図2】現在と過去のエレベータロープの摩耗及び素線破断の状態を表示した画像の一例。
図3】エレベータロープの診断結果を表示した画像の一例。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0019】
[実施形態1]
図1に示された本発明の一態様であるエレベータロープ劣化診断装置1はエレベータロープ10の現在と過去の状態の比較によりエレベータロープ10の状態(例えば、ロープ径、ロープ伸び、素線破断)を診断する。
【0020】
エレベータロープ劣化診断装置1は、ラインセンサカメラ2a,2b、照明装置3a,3b、解析部4及び記憶装置5を備える。
【0021】
ラインセンサカメラ2a,2bは、本発明に供される撮影装置の一態様である。特に、ラインセンサカメラ2aは、同期信号S1によりラインセンサカメラ2bと同期して例えばエレベータロープ10の正面からの撮影範囲R1を撮影する。一方、ラインセンサカメラ2bは、同期信号S1によりラインセンサカメラ2aと同期して例えばエレベータロープ10の背面からの撮影範囲R2を撮影する。
【0022】
また、ラインセンサカメラ2a,2bは、スキャン方向がエレベータロープ10の走行方向に直交し且つ撮影ラインがエレベータロープ10の走行方向に対して同一位置となると共にエレベータロープ10の周方向全周を撮影する。さらに、ラインセンサカメラ2a,2bは、エレベータのコントローラ7から供されたエレベータロープ10の走行速度に基づく位置信号S3に応じてサンプリング周波数を自動的に変更しながら撮影する(特許文献3)。
【0023】
照明装置3aは、ラインセンサカメラ2aの近傍に配置され、エレベータロープ10の撮影範囲R1を照明する。一方、照明装置3bは、ラインセンサカメラ2bの近傍に配置され、エレベータロープ10の撮影範囲R2を照明する。
【0024】
以上のラインセンサカメラ2a,2b及び照明装置3a,3bは、エレベータロープ10の巻き上げ機の周辺に配置される。
【0025】
解析部4は、コンピュータのハードウェア資源とソフトウェア資源との協働により、画像収録部41及び画像処理部42を実装する。
【0026】
画像収録部41は、ラインセンサカメラ2a,2bから供された画像信号S2をコントローラ7からのエレベータロープ10の位置信号S3と関連付けて逐次的に記憶装置5に保存する。この保存のステップに供される記憶装置5としてはコンピュータが読取り可能な周知の記憶装置が適用される。
【0027】
画像処理部42は、記憶装置5から引き出した位置信号S3に関連付けられた画像信号S2に基づきエレベータロープ10の状態を表示した図2に例示の画像11を作成する。この作成のステップで得られるエレベータロープ10の状態の指標としては、例えば摩耗及び素線破断が挙げられ、エレベータロープ10の判断指標になる。
【0028】
画像11は、記憶装置5に時系列的に逐次保存され、さらに、エレベータロープ劣化診断装置1のモニタ部またはユーザ(例えば、点検業者)の端末に適宜に出力表示される。
【0029】
特に、図2に示された画像11は、エレベータロープ10の過去と現在の摩耗状態及び素線破断状態を比較したグラフを表示する。このグラフにおいて、横軸はエレベータロープ10の計測位置を示し、縦軸はエレベータロープ10の摩耗量を示す。
【0030】
前記横軸には、コントローラ7にて取得されたエレベータの位置信号S3が適用されることにより、計測日時が異なるデータの計測位置の表示が行えるので、計測位置毎の時期的な比較が容易となる。
【0031】
例えば、図2のグラフには、測定位置毎のエレベータロープ10の摩耗量の現在の計測データDcと過去の計測データDpが表示される。さらに、測定位置に対応した位置信号3に関連付けられた画像信号S2から検出された素線破断箇所が表示される。
【0032】
また、前記グラフにおいては、後述の図3の画像12のように、エレベータロープ10の交換の推奨ラインL1または指示ラインL2のいずれか若しくは組み合わせて任意に表示される。推奨ラインL1はエレベータロープ10の交換が推奨されるエレベータロープの摩耗状態及び素線破断状態を示す。指示ラインL2はエレベータロープ10の交換が必要なエレベータロープの摩耗状態及び素線破断状態を示す。このような推奨ラインL1及び指示ラインL2が表示されることにより、視覚的にもロープ摩耗の全体状態を把握できると共にエレベータロープ10の交換の見極めも可能となる。
【0033】
以上のエレベータロープ劣化診断装置1により実行されるエレベータロープ劣化診断方法によれば、画像11においてエレベータロープ10の摩耗及び素線破断状態の計測結果がグラフ形式により一度に表示される。
【0034】
したがって、エレベータロープ10の状態を一目で把握できる。よって、エレベータの点検にあたりエレベータロープ10の状態や予兆を容易に直感的に把握できる。
【0035】
特に、図2の画像12のグラフにおいては、現在と過去のエレベータロープ10の摩耗及び素線破断の状態が比較表示されるので、エレベータロープ10の劣化の進捗具合を容易に把握できる。
【0036】
[実施形態2]
また、本実施形態のエレベータロープ劣化診断装置1は、図1に示されたように、実施形態1の態様において、コンピュータのハードウェア資源とソフトウェア資源との協働により、予兆診断部6をさらに実装する。
【0037】
予兆診断部6は、記憶装置5に保存された図2のグラフに基づくエレベータロープ10の計測位置と摩耗量のデータに基づきエレベータロープ10の交換時期を予測する。この交換時期は画像処理部42により作成される図3に例示の画像12に表示される。
【0038】
摩耗の進行予測は過去に計測した複数の摩耗量のデータに基づき予測される。予測法としては、例えば、周知の線形近似法、多項式近似法、機械学習法が適用される。
【0039】
図3に示された画像12は、図2のグラフに基づくエレベータロープ10の計測位置と摩耗量のデータに基づき予測されるエレベータロープ10の将来の摩耗進行量を示したグラフを表示する。前記グラフには、前記予測のステップで得られたエレベータロープ10の交換推奨時期(時期D1)及び交換時期(時期D2)が表示される。
【0040】
すなわち、前記グラフにおいて、横軸は計測日時を示し、縦軸は摩耗量を示す。点線で示した直線Lは、エレベータロープ10の摩耗の進行量の予測を示す。前記縦軸には、エレベータロープ10の交換を推奨する推奨ラインL1に対応する磨耗量が任意に設定される。前記縦軸には、エレベータロープ10の交換を指示する指示ラインL2に対応する摩耗量が任意に設定される。これにより、推奨ラインL1に対応した時期D1がエレベータロープ10の交換推奨時期として任意に表示される。また、指示ラインL2に対応した時期D2がエレベータロープ10の交換時期として任意に表示される。
【0041】
従来はエレベータロープの劣化を予測することは困難であるため、ロープの保守計画を立てることが困難であった。これに対して、本実施形態のエレベータロープ劣化診断装置1により実行されるエレベータロープ診断方法によれば、エレベータロープ10の状態に基づき交換時期の予測が可能となり、エレベータの保守計画の立案が容易となる。
【0042】
[実施形態3]
実施形態2は、エレベータロープ10の撮影画像から得られるエレベータロープ10の状態として摩耗状態に基づきエレベータロープ10に起こる事象を予測するが、摩耗状態の代わりにロープ素線状態及びロープ伸び状態を適用できる。
【0043】
したがって、本実施形態のエレベータロープ劣化診断装置1とこれにより実行されるエレベータ劣化診断方法によれば、ロープの素線状態や伸び状態に基づきエレベータロープ10の劣化を予測できる。したがって、エレベータロープ10の正確な交換時期の予測が行える。
【0044】
尚、実施形態1においても、摩耗状態に代えてロープ素線状態及びロープ伸び状態を適用すれば、エレベータロープ10のロープ素線状態またはロープ伸び状態の計測結果がグラフ形式により一度に表示されるのでエレベータロープ10の状態を一目で把握できる。特に、画像12のグラフにおいて、現在と過去のエレベータロープ10のロープ素線状態及びロープ伸び状態の状態を比較表示させることにより、エレベータロープ10の劣化の進捗具合を容易に把握できる。
【符号の説明】
【0045】
1…エレベータロープ劣化診断装置
2a,2b…ラインセンサカメラ(撮影装置)
3a,3b…照明装置
4…解析部、41…画像収録部、42…画像処理部
5…記憶装置
6…予兆診断部
7…コントローラ
10…エレベータロープ、R1,R2…撮影範囲
11,12…画像
S1…同期信号、S2…画像信号、S3…位置信号
L1…推奨ライン、L2…指示ライン、L…直線
Dp…過去の計測データ、Dc…現在の計測データ
図1
図2
図3