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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】インク乾燥用光源装置
(51)【国際特許分類】
   H01K 1/32 20060101AFI20230511BHJP
   F26B 13/10 20060101ALI20230511BHJP
   B41F 23/04 20060101ALI20230511BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
H01K1/32 Z
F26B13/10 A
B41F23/04 Z
B41J2/01 125
B41J2/01 301
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019139351
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021022524
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 誠
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-132206(JP,A)
【文献】実開平02-024494(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0051287(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01K 1/32
B41F 23/04
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の搬送方向に搬送される媒体に対して光を照射し、前記媒体に着弾された水性インクを乾燥させるハロゲンランプを備えるインク乾燥用光源装置であって、
前記ハロゲンランプは、
内部にフィラメントが配されるとともに、当該内部にハロゲンガスが充填された発光管と、前記発光管の外壁の一部に設けられ、当該発光管から放射される光のピーク波長域を、前記フィラメントからの放射光のピーク波長域に対して長波長側にシフトさせるコーティング層と、前記発光管の外壁の一部に形成された、前記コーティング層が設けられていない開口部と、を備え、
前記開口部は、前記発光管の管軸中心に対する開口角が180度以下の範囲で形成されており、
前記媒体が搬送される搬送経路上に、前記発光管から前記コーティング層を介して放射される第一光線のみが照射される第一エリアと、前記発光管の前記開口部から放射される前記第一光線よりも短波長側にピークを持つ光である第二光線が少なくとも照射される第二エリアと、が設定されており、前記第二エリアの位置および大きさの少なくとも一方は、前記開口部の前記開口角および形成位置の少なくとも一方に基づいて設定可能であることを特徴とするインク乾燥用光源装置。
【請求項2】
前記開口部に対向して配置され、前記開口部から放射された光を前記媒体に向けて反射する反射部材をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のインク乾燥用光源装置。
【請求項3】
前記反射部材は、前記媒体上の所定エリアに前記開口部から放射された光を集光する集光反射鏡により構成されていることを特徴とする請求項2に記載のインク乾燥用光源装置。
【請求項4】
前記第一エリアは、前記搬送方向における前記第二エリアの下流側に設定されていることを特徴とする請求項に記載のインク乾燥用光源装置。
【請求項5】
前記搬送方向の上流側から順に、前記第一エリア、前記第二エリア、前記第一エリアが設定されていることを特徴とする請求項またはに記載のインク乾燥用光源装置。
【請求項6】
前記第一光線は、中赤外線から遠赤外線の光であり、
前記第二光線は、可視光および近赤外線の光であることを特徴とする請求項1または4に記載のインク乾燥用光源装置。
【請求項7】
前記第二エリアは、前記第一光線と前記第二光線とが照射されるエリアであることを特徴とする請求項1または4に記載のインク乾燥用光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外放射ランプを用いて水性インクを乾燥させるインク乾燥用光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水性インクジェットプリンタからメディア(印刷物などの記録媒体)に吐出されたインクを乾燥させるインク乾燥用熱源として、ハロゲンランプ、カーボンヒーター、シースヒーターなど可視光から遠赤外線までの光を放射する熱源や、特定波長の光を出力する半導体素子を使用した熱源が使われている。
その中で、特に熱源としては、高出力かつ高速立ち上がり/立下りを実現できるハロゲンランプが使われるケースが多い。通常、ハロゲンランプから発せられる光の分光波長特性は、1μm付近の近赤外波長にピーク波長をもつものが多い。
【0003】
例えば特許文献1には、搬送されるシート紙を、複数本の赤外放射ランプで放射加熱することによって乾燥させる乾燥装置が開示されている。この技術は、インクが吸収しやすい波長を有する近赤外線放射ランプと、水性ニスが吸収しやすい波長を有する遠赤外線放射ランプとを用いて、シート紙状のインクとニスとを同時に乾燥させる技術である。
このように、近赤外域(0.7μm~2.5μm)の光は、インクの乾燥に適した波長域とされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-106843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インクの色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)によって、可視~近赤外域での吸収波長特性は異なる。そのため、可視~近赤外域の強い光を照射した場合、インクの色によって温度上昇に顕著に差が出て、乾燥されている色、乾燥されていない色が発生し、乾燥ムラが生じてしまう。そして、この乾燥ムラは、印刷物の品質低下につながってしまう。
そこで、本発明は、水性インクの乾燥ムラを抑制することが可能なインク乾燥用光源装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るインク乾燥用光源装置の一態様は、所定の搬送方向に搬送される媒体に対して光を照射し、前記媒体に着弾された水性インクを乾燥させるハロゲンランプを備えるインク乾燥用光源装置であって、前記ハロゲンランプは、内部にフィラメントが配されるとともに、当該内部にハロゲンガスが充填された発光管と、前記発光管の外壁の一部に設けられ、当該発光管から放射される光のピーク波長域を、前記フィラメントからの放射光のピーク波長域に対して長波長側にシフトさせるコーティング層と、前記発光管の外壁の一部に形成された、前記コーティング層が設けられていない開口部と、を備え、前記開口部は、前記発光管の管軸中心に対する開口角が180度以下の範囲で形成されており、前記媒体が搬送される搬送経路上に、前記発光管から前記コーティング層を介して放射される第一光線のみが照射される第一エリアと、前記発光管の前記開口部から放射される前記第一光線よりも短波長側にピークを持つ光である第二光線が少なくとも照射される第二エリアと、が設定されており、前記第二エリアの位置および大きさの少なくとも一方は、前記開口部の前記開口角および形成位置の少なくとも一方に基づいて設定可能である。
【0007】
これにより、単一のハロゲンランプの開口部から放射される光と、コーティング層を介して放射される長波長側にシフトされた光とを、媒体に照射することができる。つまり、水性インクに含まれる顔料の吸収帯に近い分光分布を有する光と、水性インクに含まれる水(溶媒)の吸収帯に近い分光分布を有する光とのバランスを取って放射することができる。したがって、インク顔料だけでなくインク溶媒にも作用して一様に乾燥を進めることができ、インクの色による乾燥ムラを抑制することができる。
また、インク溶媒に作用して一様にインクの乾燥を進める第一エリアと、インク顔料に作用してインクの乾燥速度を上げる第二エリアとを分けて設定することができる。したがって、適切に第一光線と第二光線との照射エネルギー量のバランスをとることができる。
また、第二エリアの位置および大きさの少なくとも一方を設定可能とするので、媒体に対する第二光線の照射タイミングや照射エネルギー量を調整可能である。例えば、開口部の開口角を小さくするほど第二光線の照射エネルギー量を少なくする(第一光線の照射エネルギー量の割合を大きくする)ことができ、媒体に照射される光のピーク波長を長波長側にシフトすることができる。つまり、インク溶媒の吸収波長帯の出力と、インク顔料の吸収波長帯の出力とのバランスを適切に調整することができる。
【0008】
また、上記のインク乾燥用光源装置は、前記開口部に対向して配置され、前記開口部から放射された光を前記媒体に向けて反射する反射部材をさらに備えていてもよい。
この場合、開口部から放射される光を媒体に対して間接的に照射することができる。また、開口部から媒体に照射されるまでの光路長を長くとることができる。そのため、インク顔料に作用する光を減光して照射することができ、乾燥ムラを適切に抑制することができる。
さらに、上記のインク乾燥用光源装置において、前記反射部材は、前記媒体上の所定エリアに前記開口部から放射された光を集光する集光反射鏡により構成されていてもよい。この場合、インク顔料に作用する光の照射エリアを適切に設定することができる。
【0010】
さらに、上記のインク乾燥用光源装置において、前記第一エリアは、前記搬送方向における前記第二エリアの下流側に設定されていてもよい。この場合、下流側に設定された第一エリアにおいて、媒体に残った乾燥していないインクの水分を適切に蒸発させることができる。
また、上記のインク乾燥用光源装置において、前記搬送方向の上流側から順に、前記第一エリア、前記第二エリア、前記第一エリアが設定されていてもよい。この場合、まずインクの水分を蒸発させ、次にインク顔料の吸熱によりインクの乾燥を速め、最後に、残った水分を蒸発させることができる。したがって、より適切に乾燥ムラを抑制することができる。
【0011】
また、上記のインク乾燥用光源装置において、前記第一光線は、中赤外線から遠赤外線の光であり、前記第二光線は、可視光および近赤外線の光であってもよい。この場合、単一のランプで可視光から遠赤外線までの分光波長分布をコントロールすることができるので、インク溶媒とインク顔料とに対してそれぞれ適切に作用させてインクの乾燥を進めることができる。
さらにまた、上記のインク乾燥用光源装置において、前記第二エリアは、前記第一光線と前記第二光線とが照射されるエリアであってもよい。この場合、第二エリアにおいて、第一光線と第二光線との合成光を照射することができるので、インク顔料とインク溶媒の両方に作用してインクの乾燥を進めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一つの態様によれば、単一のランプからインクの色によらずに同等の光吸収特性を示す光を放射することができ、インクの乾燥ムラを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態におけるインク乾燥用光源装置の概略構成図である。
図2】クリア管から放射される光とブラック管から放射される光との分光分布を示す図である。
図3】インクの吸収波長特性を示す図である。
図4】水の吸収波長特性を説明するための図である。
図5】クリア管とブラック管とからそれぞれ照射される光の分光分布を示す図である。
図6】本実施形態のインク乾燥用光源装置から照射される光の分光分布を示す図である。
図7】インク乾燥用光源装置の別の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるインク乾燥用光源装置100の概略構成図である。
このインク乾燥用光源装置100は、水性インクジェットプリンタによりメディア(印刷物)200に着弾された水性インク(以下、単に「インク」ともいう。)を乾燥するための光源装置である。インク乾燥用光源装置100は、ローラ300等を含む搬送機構により所定の搬送方向に搬送されるインク着弾後のメディア200に対して光を照射し、メディア200に着弾されたインクを乾燥させる。
【0016】
図1に示すように、インク乾燥用光源装置100は、ハロゲンランプ10と、リフレクタ(反射部材)20と、を備える。
ハロゲンランプは、石英ガラスなどにより構成される発光管内に発光体としてタングステンのフィラメントが配され、当該発光管内に不活性ガスと微量のハロゲン元素またはハロゲン化合物を含むハロゲンガスが充填されてなるランプである。上記フィラメントに電圧を印加し、電流を通電することで発熱させ、熱源とすることができる。
通常、ハロゲンランプは、可視光から近中赤外線までの光を放射する。ハロゲンランプのフィラメントは、1μm付近の近赤外波長をピークとして、タングステンの分光波長特性に従って光を放射するが、発光管として使用される素材の吸収波長特性によって、特に、遠赤外線側の光は吸収され、発光管外部には放射されない。したがって、通常のハロゲンランプの分光分布は、図2の点線Cに示すように、1μm付近にピーク波長を持ち、遠赤外線側の光の放射強度が著しく低いものとなる。
なお、可視光は0.4μm以上0.7μ未満の光、近赤外線は0.7μm以上2.5μm未満の光、中赤外線は2.5μm以上4.0μm未満の光、遠赤外線は4μm以上の光をいう。
【0017】
一方で、ハロゲンランプは、遠赤外線までの光を放射させることも可能である。その場合、ハロゲンランプの発光管(ガラス)の外壁に色のついた耐熱コーティング(特に黒コーティング)を施す。これにより、発光管内部から発せられた放射エネルギーが外壁に形成されたコーティング層に吸収され、コーティング層からの再放射により遠赤外線の光が放射される。このように、コーティング層を施したハロゲンランプの分光分布は、図2の実線Bに示すように、点線Cで示す通常のハロゲンランプよりも発光ピーク波長域を長波長側にシフトさせたものとなる。
ただし、この場合の放射強度は、点線Cで示す通常のハロゲンランプよりも低下したものとなる。コーティング層を介して放射される光は、発光管内部から発せられた放射エネルギーがコーティング層に吸収され、そのエネルギーの一部が再放射されたものであるためである。図2の実線Bに示すように、放射強度のピークは、点線Cに示す放射強度のピークの10分の1程度まで低下する。
なお、以下の説明において、上記通常のハロゲンランプを「クリア管」、上記コーティング層を施したハロゲンランプを「ブラック管」と称す。
【0018】
本実施形態におけるハロゲンランプ10は、図1に示すように、発光管11と、発光管11の外壁の一部に設けられたコーティング層12と、発光管11の外壁の一部に形成された、コーティング層12が設けられていない開口部13と、を備える。ここで、開口部13は、発光管11の管軸中心に対する開口角θが180度以下(0度を含まず)の範囲で形成されている。つまり、ハロゲンランプ10は、クリア管の発光管外壁の一部にコーティング層12が施された構成を有する。言い換えると、ハロゲンランプ10は、ブラック管の発光管外壁の一部に開口部13が形成された構成を有する。
ここで、コーティング層12は、例えばセラミック材料に黒色の顔料を含有させたセラミックコーティング膜とすることができる。このような黒色のセラミックコーティング膜は、光を効率良く吸収して十分に高い温度に上昇し、フィラメントから放射される可視光および近赤外線の光を遠赤外線の光に変換し放射(再放射)することができる。
【0019】
ハロゲンランプ10は、搬送されるメディア200に対向する位置に配置されている。具体的には、ハロゲンランプ10は、コーティング層12が施された面がメディア200に対向し、開口部13がメディア200に相反する側に位置するように配置されている。
そして、リフレクタ20は、ハロゲンランプ10の開口部13に対向する位置に配置され、開口部13から放射された光をメディア200に向けて反射する。このリフレクタ20は、ハロゲンランプ10の開口部13から放射された光を反射させメディア200上の所定エリアに集光させる集光反射鏡である。
【0020】
なお、本実施形態では、リフレクタ20は、ハロゲンランプ10の開口部13から放射された光が、当該リフレクタ20に反射されて再びハロゲンランプ10の発光管11内に戻らないように、即ち、ハロゲンランプ10の開口部13から放射された光が、当該リフレクタ20に反射されてメディア200に誘導されるように、形状や姿勢が定められている。ただし、リフレクタ20の形状および姿勢は、図1に示す形状および姿勢に限定されない。
【0021】
このように、インク乾燥用光源装置100は、ハロゲンランプ10のコーティング層12を介して照射される第一光線Laと、ハロゲンランプ10の開口部13を透過して照射される第二光線Lbとを、メディア200に照射する。ここで、第一光線Laの発光ピーク波長域は、遠赤外域であり、第二光線Lbの発光ピーク波長域は、可視~近赤外域である。つまり、第一光線Laの発光ピーク波長域と第二光線Lbの発光ピーク波長域とは異なり、第一光線Laの発光ピーク波長域は、第二光線Lbの発光ピーク波長域よりも長波長側に形成されている。
なお、第一光線Laには、ハロゲンランプ10から直接コーティング層12を介して放射される遠赤外域の光と、ハロゲンランプ10の開口部13から放射され、リフレクタ20によって反射されてハロゲンランプ10に戻り、コーティング層12を介して放射される遠赤外域の光と、が含まれていてもよい。
【0022】
メディア200が搬送される搬送経路上において、第一光線Laの光照射範囲は、第二光線Lbの光照射範囲よりも広範囲に設定されている。また、第二光線Lbの光照射範囲は、第一光線Laの光照射範囲の一部に設定されている。つまり、リフレクタ20は、第一光線Laの光照射範囲内に第二光線Lbを集光させるように、その形状および姿勢が定められている。
このように、メディア200が搬送される搬送経路上には、第一光線Laのみが照射されるエリアと、第一光線Laと第二光線Lbとが照射されるエリアと、が設定されている。具体的には、図1に示すように、メディア200の搬送方向の上流側から順に、第一光線Laのみが照射される第一エリアA1、第一光線Laと第二光線Lbとが照射される第二エリアA2、第一光線Laのみが照射される第一エリアA1が設定されている。
【0023】
このような構成により、本実施形態におけるインク乾燥用光源装置100は、可視光から遠赤外線までの波長域の光を、インクが着弾されたメディア200に対して照射することができる。そして、本実施形態におけるインク乾燥用光源装置100は、その可視光から遠赤外線までの波長域の光を用いて、メディア200に着弾された色の異なる複数のインクを乾燥させる。
【0024】
ところで、印刷物におけるインクの乾燥状態は、熱源から照射される光の波長と、当該光の照射エネルギー量と、メディア側でのエネルギー吸収量とによって決まり、印刷物の品質は、インクの乾燥状態によって決まる。
従来、インクの乾燥には、可視光から近赤外線領域の光が適しているとされ、熱源としては、高出力かつ高速立ち上がり/立下りを実現できるハロゲンランプ(クリア管)が広く用いられてきた。しかしながら、可視光から近赤外線領域では、インクの色毎に光の吸収波長特性が異なる。ハロゲンランプ(クリア管)から放射される可視光から近赤外線領域の光の強度は強く、当該ハロゲンランプをインク乾燥用の光源として用いた場合、特に色の薄いイエローインクと色の濃いブラックインクとの吸収波長特性の違いにより、ブラックインクは乾燥されているがイエローインクは乾燥されていないといった現象が生じ、乾燥ムラにつながってしまう。
【0025】
図3は、インクの吸収波長特性を示す図である。この図3では、水性インクの顔料であるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のうち、イエロー(Y)とブラック(K)、さらには水性インクの溶媒である水(W)の吸収波長特性を示している。
図3の破線Yに示すように、イエローインクは、550nm付近までは光が吸収するが、550nm付近を境に1400nm付近までの光が透過されやすい。一方、図3の実線Kに示すように、ブラックインクは、800nm付近まで光の吸収帯が存在し、近赤外域では光が透過する。また、図3の点線Wに示すように、水は、1400nm付近まで光が透過する。
【0026】
このように、可視光~近赤外域では、インクの色の違いによって光吸収の度合いが大幅に異なる。そのため、可視光~近赤外光の強い光が照射された場合、インクの色による光の吸収帯の差により、インクに含まれる顔料の温度上昇に顕著に差が出て、結果乾燥ムラという現象が生じてしまう。
そこで、本実施形態では、水性インクの乾燥に際し、インク顔料の吸収波長帯である可視~近赤外域の光照射を少なくし、水性インクの成分の大半を占めるインク溶媒(水)の吸収波長帯の光のみを照射する領域を設ける。そして、そのインク溶媒(水)の吸収波長帯の光のみを照射する領域においてインクに含まれる水を昇温し、インクの色にかかわらず一様にインクを乾燥させるようにする。
【0027】
このように、溶媒である水にターゲットを置くことで、インクの色による温度差を低減することができ、光の吸収波長特性が異なる複数の色のインクが着弾されている場合であっても、乾燥ムラを低減することができる。
図4は、水の吸収波長特性(透過波長特性)を示したグラフである(「食品工業における電磁波の知用(1)」,化学技術誌MOL,pp.120-128, 昭和63年2月)。この図4に示すように、インク溶媒である水の吸収波長特性は、主に3μm付近や6μm付近にピークを持つブロードな吸収波長特性であることが知られている。そのため、本実施形態では、インク溶媒(水)の吸収波長帯の光として、中赤外線から遠赤外線の光を用いる。
なお図4では、溶媒となる水の大きさ(水層厚み)が1μm~1mmの間で異なる場合のそれぞれの吸収波長特性(透過波長特性)が示されている。インク溶媒を対象とした場合は水の大きさが5μm以下のグラフが参考になる。
【0028】
本実施形態では、上述した図1に示すように、メディア200の搬送方向の上流側から順に、第一光線Laのみが照射される第一エリアA1、第一光線Laと第二光線Lbとが照射される第二エリアA2、第一光線Laのみが照射される第一エリアA1が設定されている。
したがって、メディア200が搬送されると、まず、第一エリアA1で第一光線Laのみが照射される。中赤外線+遠赤外線の光である第一光線Laは、インクに含まれる水に光吸収され、水を昇温する。つまり、第一エリアA1では、メディア200(主に、紙)の吸熱と、インクに含まれる水分の吸熱とが行われ、インクに含まれる水分の乾燥を進める。
【0029】
次に、第二エリアA2で第一光線Laと第二光線Lbとが照射される。可視光+近赤外線の光である第二光線Lbは、インク顔料に光吸収され、インク顔料を昇温する。つまり、この第二エリアA2では、インクに含まれる水分の吸熱に加えてインク顔料の吸熱も行われる。このように、インク溶媒とインク顔料の両方に作用することでインクの乾燥を速める。
最後に、再び第一エリアA1で第一光線Laのみが照射される。この最後の第一エリアA1では、第二エリアA2までに乾燥していないインクが存在していたとしても、乾燥していないインクに含まれる水分の吸熱が行われ、乾燥される。
以上のステップにより、メディア200に着弾された色の異なる複数のインクをムラなく乾燥させることができる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態におけるインク乾燥用光源装置100は、所定の搬送方向に搬送されるメディア(媒体)200に対して光を照射し、メディア200に着弾された水性インクを乾燥させるハロゲンランプ10を備える。ここで、ハロゲンランプ10は、発光管11と、発光管11の外壁の一部に設けられたコーティング層12と、発光管11の外壁の一部に形成された開口部13と、を備える。また、開口部13は、発光管11の管軸中心に対する開口角が180度以下の範囲で形成されている。
【0031】
このような構成により、ハロゲンランプ10は、コーティング層12を介して中赤外線から遠赤外線の光を、開口部13から可視光および近赤外線の光を、それぞれ放射することができる。このように、単一のハロゲンランプ10から、インク顔料の吸収帯に近い分光分布を有する光と、インク溶媒(水)の吸収帯に近い分光分布を有する光とを放射させることができる。したがって、このハロゲンランプ10からメディア200に光を照射することで、インク顔料とインク溶媒との両方に作用させてインクの乾燥を進めることができる。その結果、インクの色による乾燥ムラを抑制することができる。
また、中赤外線および遠赤外線の光を放射するランプと可視光および近赤外線の光を放射するランプとを別々に用意する必要がなく、装置の小型化、省スペース化を実現することができるとともに、複数のランプが不要となることによる省エネルギー化を実現することができる。
【0032】
さらに、インク乾燥用光源装置100は、ハロゲンランプ10の開口部13に対向する位置に配置されたリフレクタ(反射部材)20を備えることができる。リフレクタ20は、開口部13から放射された光をメディア200に向けて反射する。この場合、コーティング層12をメディア200に対向させてコーティング層12を介して放射される中赤外線から遠赤外線の光をメディア200に直接照射し、一方で、開口部13から放射される可視光から近赤外線の光を、リフレクタ20を介してメディア200に対して間接的に照射することができる。
このように、開口部13から放射される光をメディア200に対して間接的に照射するので、開口部13からメディア200までの光路長を長くとることができ、インク顔料に作用する光のエネルギー量を低減させてメディア200に照射することができる。そのため、インクの色による乾燥ムラを適切に抑制することができる。
【0033】
図5は、クリア管とブラック管とからそれぞれメディアに照射される光の分光分布、図6は、本実施形態のインク乾燥用光源装置100からメディアに照射される光の分光分布を示す図である。図5において、点線Cはクリア管から照射される光の分光分布、実線Bはブラック管から照射される光の分光分布、破線Xは、点線Cと実線Bとの合算光量である。同様に、図6において、点線C´はハロゲンランプ10の開口部13(開口角60度)から放射されリフレクタ20を介して照射される光の分光分布、実線B´はコーティング層12を介して照射される光の分光分布、破線X´は、点線C´と実線B´との合算光量である。
【0034】
本実施形態のように、コーティング層12を介して放射される中赤外線~遠赤外線の光(第一光線La)と、開口部13から放射されリフレクタ20により反射された可視~近赤外線の光(第二光線Lb)との合成光をメディアへ照射した場合、クリア管とブラック管のそれぞれを用いる場合と比較して、メディアに照射される光のピーク波長を長波長側へシフトすることができる。例えば、開口部13の開口角が60度である場合、図5の破線Xと図6の破線X´とに示すように、ピーク波長を1μm付近から3μm付近へシフトすることができる。
【0035】
つまり、インク顔料の吸収波長帯である可視から近赤外域の光(第二光線Lb)の照射エネルギー量を、インク溶媒(水)の吸収波長帯である中赤外域から遠赤外域の光(第一光線La)の照射エネルギー量に対して相対的に下げることができる。そして、第一光線Laと第二光線Lbとの照射エネルギー量の割合は、開口部13の開口角や、開口部13から放射された第二光線Lbのメディア200までの光路長などによって調整可能である。このように、単一のハロゲンランプで、可視光から遠赤外線までの分光波長分布をある程度コントロールすることができ、バランスよくメディア200上のインクを乾燥させることができる。
【0036】
ところで、遠赤外線の光であれば、インク溶媒である水に光吸収させてインクの乾燥を進めることが可能であるため、遠赤外線の光のみを照射させることでもインクの乾燥ムラを抑える効果が期待できると予想される。そのため、乾燥ムラの解消のみを考えれば、ブラック管のみを熱源として使用することも考えられる。しかしながら、この場合、メディアの種類やメディアの搬送速度等によっては、インクを十分に乾燥できないおそれがある。
なぜなら、ブラック管では、発光管の外壁に塗布されたコーティング材に光が吸収され、その光エネルギーの一部が再放射されて遠赤外線の光として放出されるため、メディア200に照射される遠赤外線の光エネルギーは相対的に少なくなるためである。ブラック管のみを熱源として使用した場合、比較的長い乾燥時間が必要となり、所望の時間で乾燥させることが難しい。
【0037】
これに対して、本実施形態におけるハロゲンランプ10は、中赤外線~遠赤外線の光(第一光線La)だけでなく可視光~近赤外線の光(第二光線Lb)を放射する機能を有するので、インク溶媒に作用させて一様に乾燥を進めつつ、インク顔料に作用させて乾燥を速めることができる。また、このとき、メディア200の総受熱エネルギー量における中赤外線および遠赤外線の光と可視光および近赤外線の光との割合が所望の割合となるようにバランスを取ることができるので、乾燥ムラを抑制しつつ所望の乾燥時間内で適切にインクを乾燥させることができる。
なお、第一光線Laと第二光線Lbとの分光分布のバランスは、インクの種類、メディア200の種類、メディア200の搬送速度などによって適宜設定するものとする。
【0038】
さらに、本実施形態におけるインク乾燥用光源装置100は、メディア200が搬送される搬送系路上に、第一光線Laのみが照射される第一エリアA1と、第一光線Laと第二光線Lbとが照射される第二エリアA2と、を設定することができる。このように、インク溶媒に作用して一様にインクの乾燥を進めるエリアと、インク顔料にも作用してインクの乾燥速度を上げるエリアとを分けて設定し、エリアに応じて異なる特性を有する光を照射することができる。
【0039】
例えば、メディア200の搬送方向の上流側から順に、第一エリアA1、第二エリアA2、第一エリアA1を設定した場合、まずインクの水分を蒸発させ、次にインク顔料の吸熱によりインクの乾燥を速め、最後に残った水分を完全に蒸発させることができる。このように、メディア200の搬送方向において第二エリアA2の下流側に第一エリアA1を設定すれば、下流側に設定された第一エリアA1において、メディア200に残った乾燥していないインクの水分を適切に蒸発させ、乾燥ムラを確実に抑制することができる。
【0040】
このように、メディア200の搬送経路上において、第一エリアA1と第二エリアA2とをそれぞれどのような位置関係でどのくらいの大きさに設定するかに応じて、インク顔料およびインク溶媒への光吸収させる順番や吸収エネルギー量を設定することができる。これにより、所望のバランスで第一光線Laと第二光線Lbとをメディア200に照射することができる。なお、本実施形態において、第二エリアA2の位置および大きさの少なくとも一方は、開口部13の開口角、開口部13の形成位置、リフレクタ20の形状および姿勢の少なくとも1つに基づいて設定可能である。
以上のように、本実施形態のインク乾燥用光源装置は、単一のハロゲンランプ10から放射される配熱分光分布特性をコントロールすることで、インクの色毎の乾燥ムラを適切に抑制することができ、かつ、省スペース、省エネルギーを実現することができる。
【0041】
(変形例)
上記実施形態では、図1に示すように、メディア200の搬送経路が直線状である場合について説明したが、メディア200の搬送経路は上記に限定されない。例えば、図7に示すように、メディア200の搬送経路は湾曲していてもよい。図7に示すようにハロゲンランプ10の外形に沿ってメディア200を搬送させることで、メディア200がハロゲンランプ10の光照射範囲を通過する距離を長く保つことができる。図7に示す搬送経路の場合、コーディング層12を介して放射される中赤外線から遠赤外線の光(第一光線)Laのみが照射される第一エリアA1を広く設定することができ、メディア200に照射される遠赤外線の光エネルギー量を強めることができる。
【0042】
また、図7に示すように、搬送方向の上流側から順に、第一光線Laと第二光線Lbとが照射される第二エリアA2、第一光線Laのみが照射される第一エリアA1を設定することもできる。つまり、図1に示す最初の第一エリアA1は省略することもできる。この場合にも、第二エリアA2では、インク溶媒とインク顔料の両方に作用してインクの乾燥を進め、その後、第一エリアA1では残りの水分を乾燥させることができる。
さらに、上記実施形態では、図1に示すように、一部がV字形状のリフレクタ20を用いる場合について説明したが、図7に示すように、楕円形または放物線状のリフレクタ20´を用いてもよい。ただし、図1に示すリフレクタ20の方が、開口部13から放射された光を効率的にメディア200に誘導することができるため、好ましい。
【0043】
また、上記実施形態では、開口部13から放射された可視~近赤外線の光をリフレクタ20により反射し、第一光線Laの光照射範囲内に集光させることで、第二エリアA2において第一光線Laと第二光線Lbとの合成光を照射する場合について説明した。しかしながら、第二エリアA2では、第二光線Lbのみが照射されてもよい。つまり、第二エリアA2では、少なくとも第二光線Lbが照射されればよい。
この場合、開口部13から放射された可視~近赤外線の光をリフレクタ20により反射し、第一光線Laの光照射範囲外に集光させるようにしてもよい。また、リフレクタ20を無くし、開口部13に対向する位置にメディア200を配置することで、開口部13から放射された可視~近赤外線の光を直接メディア200に照射するようにしてもよい。なお、後者の場合、開口部13の大きさ(開口角)や開口部13からメディア200までの距離などを調整することで、メディア200に照射される可視~近赤外線の光のエネルギー量を調整し、遠赤外線の光の照射エネルギー量とのバランスを取ることができる。
【符号の説明】
【0044】
100…インク乾燥用光源装置、10…ハロゲンランプ、11…発光管、12…コーティング層、13…開口部、20…反射部材(リフレクタ)、200…メディア(印刷物)、La…第一光線、Lb…第二光線
図1
図2
図3
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図5
図6
図7