(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】一方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/07 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
F16D41/07 D
(21)【出願番号】P 2019141890
(22)【出願日】2019-08-01
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮地 武志
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 肇
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-130089(JP,A)
【文献】特開2006-083951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪部材と内輪部材との間に設けられる複数のスプラグと、複数の前記スプラグを周方向に間隔をあけて保持するための環状の保持器と、前記保持器の径方向内方に設けられ前記スプラグを弾性的に押すための環状のスプリングと、備え、
前記スプリングは、環状である一対のリブ部と、当該一対のリブ部を繋ぐ複数の柱部と、当該柱部から周方向に延び前記スプラグに接触して当該スプラグを弾性的に押す薄板状の舌片部と、を有し、
前記舌片部は、前記柱部から径方向外方に向かって凸状となって湾曲している湾曲部と、当該湾曲部から前記スプラグ側に延び当該スプラグに接触する先部と、を有し、
前記舌片部が弾性域にある状態で、前記湾曲部の凸面側の頂点は、前記保持器の外周面よりも径方向外方に位置し、当該湾曲部の凹面側の頂点は、前記保持器の外周面から径方向内方に位置し、
前記舌片部が塑性域にあると、前記湾曲部の凹面側の頂点は、前記保持器の外周面よりも径方向外方に位置する、
一方向クラッチ。
【請求項2】
前記舌片部が弾性域にある状態で、前記先部の径方向位置は、前記保持器の外周面と前記保持器の内周面との間の範囲にあり、
前記舌片部が塑性域にあると、前記先部は、前記保持器の内周面よりも径方向内方に位置する、請求項1に記載の一方向クラッチ。
【請求項3】
外輪部材と内輪部材との間に設けられる複数のスプラグと、複数の前記スプラグを周方向に間隔をあけて保持するための環状の保持器と、前記保持器の径方向内方に設けられ前記スプラグを弾性的に押すための環状のスプリングと、備え、
前記スプリングは、環状である一対のリブ部と、当該一対のリブ部を繋ぐ複数の柱部と、当該柱部から周方向に延び前記スプラグに接触して当該スプラグを弾性的に押す舌片部と、を有し、
前記舌片部は、前記柱部から径方向外方に向かって凸状となって湾曲している湾曲部と、当該湾曲部から前記スプラグ側に延び当該スプラグに接触する先部と、を有し、
前記湾曲部の凸面側の頂点は、前記舌片部が弾性域にある状態で、前記保持器の外周面から径方向内方に位置し、前記舌片部が塑性域にあると、前記保持器の外周面よりも径方向外方に位置する、
一方向クラッチ。
【請求項4】
前記舌片部が弾性域にある状態で、前記先部の径方向位置は、前記保持器の外周面と前記保持器の内周面との間の範囲にあり、
前記舌片部が塑性域にあると、前記先部は、前記保持器の内周面よりも径方向内方に位置する、請求項3に記載の一方向クラッチ。
【請求項5】
外輪部材と内輪部材との間に設けられる複数のスプラグと、複数の前記スプラグを周方向に間隔をあけて保持するための環状の保持器と、前記保持器の径方向内方に設けられ前記スプラグを弾性的に押すための環状のスプリングと、備え、
前記スプリングは、環状である一対のリブ部と、当該一対のリブ部を繋ぐ複数の柱部と、当該柱部から周方向に延び前記スプラグに接触して当該スプラグを弾性的に押す舌片部と、を有し、
前記舌片部は、前記柱部から径方向外方に向かって凸状となって湾曲している湾曲部と、当該湾曲部から前記スプラグ側に延び当該スプラグに接触する先部と、を有し、
前記舌片部が弾性域にある状態で、前記先部の径方向位置は、前記保持器の外周面と前記保持器の内周面との間の範囲にあり、
前記舌片部が塑性域にあると、前記先部は、前記保持器の内周面よりも径方向内方に位置する、
一方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
一方向クラッチは、外輪部材と内輪部材との間に設けられる複数のスプラグと、これら複数のスプラグを周方向に間隔をあけて保持するための環状の保持器と、保持器に保持されている各スプラグを弾性的に押すための環状のスプリングとを備える。
【0003】
例えば、内輪部材に対して外輪部材が一方向に回転すると、スプラグが外輪部材と内輪部材とに噛み込んで両部材間で動力伝達可能となり、外輪部材と内輪部材とは一体回転する(これを「ロック状態」という。)。これに対して、内輪部材に対して外輪部材が他方向に回転すると、前記噛み込みが解除されて動力伝達が遮断され、内輪部材に対して外輪部材は空転する(これを「フリー状態」という。)。スプリングは、前記噛み込みが実現される方向にスプラグを押している。特許文献1に、一方向クラッチが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9は、従来の一方向クラッチが有するスプリング90の一部を示す斜視図である。スプリング90は、環状である一対のリブ部91,91、これらリブ部91,91を繋ぐ複数の柱部92、及び、柱部92から周方向に延びている舌片部94を有する。一対のリブ部91,91の間であって周方向で隣り合う柱部92,92の間に形成される領域が、ポケット95となる。
【0006】
図10に示すように、保持器99にも、スプラグ93を収容するポケット96が形成されている。スプリング90の舌片部94は、ポケット95,96に収容されているスプラグ93に接触し、そのスプラグ93を弾性的に押す。
【0007】
このようなスプリング90を備える一方向クラッチでは、組み立ての際、保持器99の内周側にスプリング90が設けられて、これら保持器99とスプリング90とがセット(組)とされる。そのセットの状態で、スプラグ93がポケット95,96に押し入れられる。その際、スプラグ93は、スプリング90の舌片部94を変形させながら、ポケット95,96に押し入れられる。このため、舌片部94が弾性域を越えて塑性変形してしまう場合がある。
【0008】
舌片部94が塑性変形してしまうと、その一方向クラッチでは、その舌片部94によってスプラグ93が適切に押されない。このため、そのスプラグ93が内輪部材98と外輪部材97との間に噛み込まなかったり、噛み込むタイミングが遅れたりする。この場合、一方向クラッチによるトルク伝達の容量が低下したり、一方向クラッチの部分的な摩耗が進んで寿命が低下したりする。
【0009】
前記のような一方向クラッチでは、
図10に示すように、舌片部94は、保持器99及びスプリング90のリブ部91によって隠れてしまう。そのため、舌片部94が塑性変形していても、それを見つけることが困難である。
【0010】
そこで、本開示は、舌片部が塑性変形している場合に、それを容易に見つけることが可能となる一方向クラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一方向クラッチは、外輪部材と内輪部材との間に設けられる複数のスプラグと、複数の前記スプラグを周方向に間隔をあけて保持するための環状の保持器と、前記保持器の径方向内方に設けられ前記スプラグを弾性的に押すための環状のスプリングと、備え、
前記スプリングは、環状である一対のリブ部と、当該一対のリブ部を繋ぐ複数の柱部と、当該柱部から周方向に延び前記スプラグに接触して当該スプラグを弾性的に押す薄板状の舌片部と、を有し、
前記舌片部は、前記柱部から径方向外方に向かって凸状となって湾曲している湾曲部と、当該湾曲部から前記スプラグ側に延び当該スプラグに接触する先部と、を有し、
前記舌片部が弾性域にある状態で、前記湾曲部の凸面側の頂点は、前記保持器の外周面よりも径方向外方に位置し、当該湾曲部の凹面側の頂点は、前記保持器の外周面から径方向内方に位置し、
前記舌片部が塑性域にあると、前記湾曲部の凹面側の頂点は、前記保持器の外周面よりも径方向外方に位置する。
【0012】
前記一方向クラッチによれば、保持器の外周面は、舌片部が塑性変形していないかの検査を行う基準面となる。つまり、一方向クラッチの組み立て後であって、外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態において、舌片部が弾性変形していて塑性変形していない場合、その湾曲部の凸面側の頂点は、保持器の外周面よりも径方向外方に位置し、その湾曲部の凹面側の頂点は、保持器の外周面から径方向内方に位置する。よって、外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態において、一方向クラッチを軸方向から見た場合に、湾曲部の凹面側の頂点と保持器の外周面との間に隙間は生じず、その隙間は見えない。
これに対して、舌片部が塑性変形していると、その湾曲部の凹面側の頂点が保持器の外周面よりも径方向外方に位置する。このため、外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態において、一方向クラッチを軸方向から見た場合に、湾曲部の凹面側の頂点と保持器の外周面との間に隙間が生じていて、その隙間が見える。
以上より、軸方向から目視することで、舌片部が塑性変形していないかの検査が可能となり、その検査は容易である。
【0013】
また、保持器とその径方向内側のスプリングとに対して、径方向外方からスプラグを取り付ける場合、スプラグが舌片部を径方向内方に押して、舌片部を塑性変形させてしまう可能性がある。そこで、好ましくは、前記舌片部が弾性域にある状態で、前記先部の径方向位置は、前記保持器の外周面と前記保持器の内周面との間の範囲にあり、前記舌片部が塑性域にあると、前記先部は、前記保持器の内周面よりも径方向内方に位置するようにスプリングは構成されている。
この場合、保持器の内周面は、舌片部が塑性変形していないかの検査を行う基準面となる。
【0014】
また、本開示の別の一方向クラッチは、外輪部材と内輪部材との間に設けられる複数のスプラグと、複数の前記スプラグを周方向に間隔をあけて保持するための環状の保持器と、前記保持器の径方向内方に設けられ前記スプラグを弾性的に押すための環状のスプリングと、備え、
前記スプリングは、環状である一対のリブ部と、当該一対のリブ部を繋ぐ複数の柱部と、当該柱部から周方向に延び前記スプラグに接触して当該スプラグを弾性的に押す舌片部と、を有し、
前記舌片部は、前記柱部から径方向外方に向かって凸状となって湾曲している湾曲部と、当該湾曲部から前記スプラグ側に延び当該スプラグに接触する先部と、を有し、
前記湾曲部の凸面側の頂点は、前記舌片部が弾性域にある状態で、前記保持器の外周面から径方向内方に位置し、前記舌片部が塑性域にあると、前記保持器の外周面よりも径方向外方に位置する。
【0015】
前記一方向クラッチによれば、保持器の外周面は、舌片部が塑性変形していないかの検査を行う基準面となる。つまり、一方向クラッチの組み立て後であって、外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態において、舌片部が弾性変形していて塑性変形していない場合、その湾曲部の凸面側の頂点は、保持器の外周面から径方向内方に位置する。よって、外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態において、一方向クラッチを軸方向から見た場合に、湾曲部の凸面側の頂点は、保持器の外周面から径方向外方にはみ出さず、見えない。
これに対して、舌片部が塑性変形していると、その湾曲部の凸面側の頂点が保持器の外周面よりも径方向外方に位置する。このため、外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態において、一方向クラッチを軸方向から見た場合に、湾曲部の凸面側の頂点は、保持器の外周面から径方向外方にはみ出して、見える。
以上より、軸方向から目視することで、舌片部が塑性変形していないかの検査が可能となり、その検査は容易である。
【0016】
また、この一方向クラッチに関して、保持器とその径方向内側のスプリングとに対して、径方向外方からスプラグを取り付ける場合、スプラグが舌片部を径方向内方に押して、舌片部を塑性変形させてしまう可能性がある。そこで、好ましくは、前記舌片部が弾性域にある状態で、前記先部の径方向位置は、前記保持器の外周面と前記保持器の内周面との間の範囲にあり、前記舌片部が塑性域にあると、前記先部は、前記保持器の内周面よりも径方向内方に位置するようにスプリングは構成されている。
この場合、保持器の内周面は、舌片部が塑性変形していないかの検査を行う基準面となる。
【0017】
また、本開示の更に別の一方向クラッチは、外輪部材と内輪部材との間に設けられる複数のスプラグと、複数の前記スプラグを周方向に間隔をあけて保持するための環状の保持器と、前記保持器の径方向内方に設けられ前記スプラグを弾性的に押すための環状のスプリングと、備え、
前記スプリングは、環状である一対のリブ部と、当該一対のリブ部を繋ぐ複数の柱部と、当該柱部から周方向に延び前記スプラグに接触して当該スプラグを弾性的に押す舌片部と、を有し、
前記舌片部は、前記柱部から径方向外方に向かって凸状となって湾曲している湾曲部と、当該湾曲部から前記スプラグ側に延び当該スプラグに接触する先部と、を有し、
前記舌片部が弾性域にある状態で、前記先部の径方向位置は、前記保持器の外周面と前記保持器の内周面との間の範囲にあり、
前記舌片部が塑性域にあると、前記先部は、前記保持器の内周面よりも径方向内方に位置する。
【0018】
前記一方向クラッチによれば、保持器の内周面は、舌片部が塑性変形していないかの検査を行う基準面となる。つまり、一方向クラッチの組み立て後であって、外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態において、舌片部が弾性変形していて塑性変形していない場合、その先部の径方向位置は、保持器の外周面と保持器の内周面との間の範囲にある。よって、外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態において、一方向クラッチを軸方向から見た場合に、舌片部の先部は、保持器に隠れて見えない。
これに対して、舌片部が塑性変形していると、舌片部の先部は、保持器の内周面よりも径方向内方に位置する。このため、外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態において、一方向クラッチを軸方向から見た場合に、舌片部の先部は、保持器の内周面から径方向内方に突出していて、見える。
以上より、軸方向から目視することで、舌片部が塑性変形していないかの検査が可能となり、その検査は容易である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一方向クラッチによれば、舌片部が塑性変形している場合に、それを容易に見つけることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】一方向クラッチの一部を拡大して示す説明図である。
【
図4】外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態にある一方向クラッチを軸方向から見た図である。
【
図5】外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態にある一方向クラッチを軸方向から見た図である。
【
図6】外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態にある一方向クラッチを軸方向から見た図である。
【
図7】外輪部材と内輪部材との間に設けられる前の状態にある一方向クラッチを軸方向から見た図である。
【
図9】従来の一方向クラッチが有するスプリングの一部を示す斜視図である。
【
図10】従来の一方向クラッチの一部を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔一方向クラッチの構成について〕
図1は、一方向クラッチの一例を示す側面図である。
図2は、一方向クラッチの一部を拡大して示す説明図である。本開示の一方向クラッチ1は、複数のスプラグ2と、環状の保持器3と、環状のスプリング4とを備える。本開示の一方向クラッチ1では、一方向クラッチ1の中心線Cに平行な方向が「軸方向」と称される。この中心線C周りの方向が「周方向」と称され、一方向クラッチ1の半径方向が「径方向」と称される。
【0022】
複数のスプラグ2は、外輪部材5と内輪部材6との間に設けられていて、全てのスプラグ2は同じ形状である。外輪部材5及び内輪部材6は環状の部材である。外輪部材5は図外の外側部材と一体となっていて、内輪部材6は図外の軸部材と一体となっている。前記外側部材と前記軸部材とは相対的に回転し、これにより、外輪部材5と内輪部材6とは相対的に回転可能である。なお、外輪部材5は前記外側部材の一部であってもよく、また、内輪部材6は前記軸部材の一部であってもよい。
【0023】
図1及び
図2は、一方向クラッチ1が、外輪部材5と内輪部材6との間に設けられている状態を示している。しかし、後に説明するが、一方向クラッチ1の構成部材であるスプリング4の一部(舌片部43)が塑性変形していないかの検査は、その一方向クラッチ1が、外輪部材5と内輪部材6との間に設けられる前の状態で行われる(
図4参照)。
【0024】
保持器3は、複数のスプラグ2を周方向に間隔をあけて保持する。
図2において、保持器3は、スプラグ2を挟んで軸方向両側に位置する環状部31と、これら環状部31を繋ぐ複数の柱部32とを有する。軸方向両側の環状部31の間であって周方向で隣り合う柱部32の間に形成される領域が、スプラグ2を収容するポケット33となる。保持器3は、環状部31と一体となっているフランジ部34を有する。フランジ部34(
図1参照)は、円環形状であり、外輪部材5の内周面に嵌合し、これにより、保持器3は外輪部材5に取り付けられた状態となる。
【0025】
スプリング4は、環状であり、保持器3の径方向内方に設けられている。本開示では、スプリング4は、保持器3の内周面12に沿って設けられている。
図3に示すように、スプリング4は、金属製である薄い帯状部材40を環状にすることで構成される。帯状部材40の一端部50及び他端部60が重ね合わされて、帯状部材40は環状となる。
【0026】
スプリング4は、環状となる一対のリブ部41,41、これら一対のリブ部41,41を繋ぐ複数の柱部42、及び各柱部42から周方向に延びている舌片部43を有する。リブ部41、柱部42、及び舌片部43それぞれは、薄板状である。一対のリブ部41,41は、スプラグ2を挟んで軸方向両側に位置する。一対のリブ部41,41の間であって周方向で隣り合う柱部42,42の間に形成される領域が、スプラグ2を収容するポケット49となる。
図2に示すように、スプラグ2のポケット49、及び保持器3のポケット33に収容したスプラグ2の一部に、舌片部43は接触し、舌片部43はスプラグ2を弾性的に押す。
【0027】
以上の構成を備える一方向クラッチ1(
図1参照)では、内輪部材6に対して外輪部材5が一方向(
図1において、反時計回り方向)に回転すると、スプラグ2が外輪部材5と内輪部材6とに噛み込む。すると、外輪部材5と内輪部材6との間で動力伝達可能となり、外輪部材5と内輪部材6とは一体回転する(これを「ロック状態」という)。これに対して、内輪部材6に対して外輪部材5が他方向(
図1において、時計回り方向)に回転すると、前記噛み込みが解除される。すると、外輪部材5と内輪部材6との間で動力伝達が遮断され、内輪部材6に対して外輪部材5は空転する(これを「フリー状態」という)。
【0028】
スプリング4の舌片部43は、スプラグ2の前記噛み込みが実現される方向にスプラグ2を弾性的に押している(付勢している)。
図2及び
図3に示すように、舌片部43は、湾曲部21と先部22とを有する。湾曲部21は、柱部32から径方向外方に向かって凸状となって湾曲している部分である。先部22は、湾曲部21からスプラグ2側に延びスプラグ2に接触する部分である。
【0029】
図4は、外輪部材5と内輪部材6との間に設けられる前の状態にある一方向クラッチ1を軸方向から見た図である。スプリング4は、保持器3の内周面12に沿って設けられている。保持器3のポケット33及びスプリング4のポケット49にスプラグ2が取り付けられている。スプラグ2の一部に、スプリング4の舌片部43が接触可能である。
図2に示すように、一方向クラッチ1が外輪部材5と内輪部材6との間に設けられた状態では、舌片部43はスプラグ2に接触して弾性変形する。
【0030】
図4において、保持器3とその径方向内側のスプリング4とに対して、径方向外方からスプラグ2が取り付けられる。この際、スプラグ2が舌片部43を径方向内方に押して、
図8における矢印F1で示すように、舌片部43は全体として径方向内方に変形する。更に、保持器3とその径方向内側のスプリング4とに対して、径方向外方からスプラグ2が取り付けられる際、スプラグ2の幅が広い部分によって、舌片部43は周方向にも押される。これにより、
図8における矢印F2で示すように、舌片部43は周方向に沿って圧縮されるように変形する。舌片部43が周方向に沿って圧縮されるように変形すると、湾曲部21が径方向外方に高くなるように変形する場合がある。なお、
図8は、舌片部43の説明図であり、変形前の舌片部43が二点鎖線で示されていて、変形後の舌片部43が実線で示されている。
【0031】
図4において、一方向クラッチ1では、組み立ての際、保持器3の内周側にスプリング4が設けられて、これら保持器3とスプリング4とがセット(組)とされる。そのセットの状態で、スプラグ2がポケット33,49に押し入れられる。その際、スプラグ2は、スプリング4の舌片部43を変形させながら、ポケット33,49に押し入れられる。このため、舌片部43が弾性域を越えて塑性変形してしまう場合がある。
【0032】
スプラグ2の取り付けの際、
図4における舌片部43は、弾性変形していて、塑性変形していない。これに対して、
図5及び
図6それぞれにおける舌片部43は、スプラグ2の取り付けの際に、無理な荷重が作用して、弾性域を越えて塑性変形してしまっている。
図5の舌片部43は、スプラグ2の取り付けの際に、そのスプラグ2によって、
図8における矢印F2で示すように周方向に強く押されることで、湾曲部21が径方向外方に高くなるように塑性変形している。また、
図6の舌片部43は、スプラグ2の取り付けの際に、そのスプラグ2によって、
図8における矢印F1で示すように径方向内方に強く押されることで、径方向内方に塑性変形している。
【0033】
なお、本開示の各一方向クラッチ1において、舌片部43が弾性変形している状態、つまり、舌片部43が弾性域にある状態とは、スプラグ2をポケット49から取り外した場合に、舌片部43の形状が、スプラグ2をポケット49に取り付ける前と、同じ形状となっている状態である。言い換えると、舌片部43が弾性変形している状態、つまり、舌片部43が弾性域にある状態とは、スプラグ2をポケット49から取り外した場合に、舌片部43の形状が、設計とおりの基の形状である場合をいう。
【0034】
これに対して、舌片部43が塑性変形している状態、つまり、舌片部43が塑性域にある状態とは、スプラグ2をポケット49から取り外した場合に、舌片部43の形状が、スプラグ2をポケット49に取り付ける前と、異なる形状となっている状態である。言い換えると、舌片部43が塑性変形している状態、つまり、舌片部43が塑性域にある状態とは、スプラグ2をポケット49から取り外した場合に、舌片部43の形状が、設計とおりの基の形状と異なっている場合をいう。
【0035】
〔舌片部43の検査のための構成について〕
図4において、舌片部43が有する湾曲部21は、柱部42から径方向外方に向かって延び、径方向外側に凸状となって湾曲し、更に径方向内方に向かって延びている部分である。湾曲部21は、薄板状であり、凸面側の頂点21aと、凹面側の頂点21bとを有する。凸面側の頂点21aは、湾曲部21の頂部の径方向外側の面における頂点である。凹面側の頂点21bは、湾曲部21の頂部の径方向内側の面における頂点である。
【0036】
以下に説明する湾曲部21の頂点21a,21bと保持器3(外周面11及び内周面12)との位置関係は、スプラグ2がポケット33,49に収容されている状態での関係である。この状態を、以下において「組み立て状態」と称する。前記組み立て状態は、スプラグ2、保持器3、及びスプリング4が一体となって、外輪部材5と内輪部材6との間に取り付ける前の状態である。
【0037】
〔第一の形態〕
図4に示すように、舌片部43が弾性域にある状態では、湾曲部21の凸面側の頂点21aは、保持器3の外周面11よりも径方向外方に位置する。そして、その湾曲部21の凹面側の頂点21bは、保持器3の外周面11から径方向内方に位置する。したがって、一方向クラッチ1が外輪部材5と内輪部材6との間に設けられる前の状態において、その一方向クラッチ1を軸方向から見た場合に、弾性域にある舌片部43では、湾曲部21の凹面側の頂点21bと保持器3の外周面11との間に隙間は生じず、その隙間は見えない。
【0038】
これに対して、
図5に示すように、舌片部43が塑性域にあると、つまり、舌片部43が塑性変形していると、湾曲部21の凹面側の頂点21bは、保持器3の外周面11よりも径方向外方に位置する。このため、外輪部材5と内輪部材6との間に設けられる前の状態において、一方向クラッチ1を軸方向から見た場合に、湾曲部21の凹面側の頂点21bと保持器3の外周面11との間に隙間eが生じていて、その隙間eが見える。つまり、検査員は、一方向クラッチ1を軸方向から見て、前記隙間eが見える場合、舌片部43が塑性変形していると判断することができる。
【0039】
このように、第一の形態の一方向クラッチ1によれば、保持器3の外周面11は、舌片部43が塑性変形していないかの検査を行う基準面となる。一方向クラッチ1を軸方向から目視することで、舌片部43が塑性変形していないかの検査が可能となり、その検査は容易である。
【0040】
〔第二の形態〕
舌片部43が塑性変形していないかの検査を、前記の第一の形態と異なる基準によって行うこともできる。
図7は、前記の第一の形態と異なる基準によって、舌片部43が塑性変形していないかの検査を行う場合の説明図である。
図7は、
図4と同様、外輪部材5と内輪部材6との間に設けられる前の状態にある一方向クラッチ1を軸方向から見た図である。なお、
図7に示す形態のスプリング4と、
図4に示す形態のスプリング4とは、舌片部43の形状が少し異なる。
【0041】
スプラグ2の取り付けの際、
図7に示す舌片部43は、弾性変形していて、塑性変形していない。
【0042】
図7に示すように、舌片部43が弾性域にある状態では、湾曲部21の凸面側の頂点21aは、保持器3の外周面11から径方向内方に位置する。湾曲部21の凹面側の頂点21bも、保持器3の外周面11から径方向内方に位置する。このため、一方向クラッチ1が外輪部材5と内輪部材6との間に設けられる前の状態において、その一方向クラッチ1を軸方向から見た場合に、弾性域にある舌片部43では、湾曲部21の凸面側の頂点21aは、保持器3の外周面11から径方向外方にはみ出さず、見えない。
【0043】
これに対して、
図5に示すように、舌片部43が塑性域にあると、つまり、舌片部43が塑性変形していると、湾曲部21の凸面側の頂点21aは、保持器3の外周面11よりも径方向外方に位置する。このため、外輪部材5と内輪部材6との間に設けられる前の状態において、一方向クラッチ1を軸方向から見た場合に、湾曲部21の凸面側の頂点21aは、保持器3の外周面11から径方向外方にはみ出して、見える。つまり、検査員は、一方向クラッチ1を軸方向から見て、湾曲部21の頂部が少なくとも一部であっても保持器3の外周面11側からはみ出して見える場合、舌片部43が塑性変形していると判断することができる。
【0044】
このように、第二の形態の一方向クラッチ1によれば、保持器3の外周面11は、舌片部43が塑性変形していないかの検査を行う基準面となる。一方向クラッチ1を軸方向から目視することで、舌片部43が塑性変形していないかの検査が可能となり、その検査は容易である。
【0045】
〔第一の形態及び第二の形態〕
前記第一の形態(
図4)及び前記第二の形態(
図7)それぞれにおいて、舌片部43が塑性変形していないかの検査のために、前記のとおり、舌片部43の湾曲部21に着目するのに併せて、舌片部43の先部22についても着目するのがより好ましい。
前記のとおり、保持器3とその径方向内側のスプリング4とに対して、径方向外方からスプラグ2を取り付ける場合、スプラグ2が舌片部43を径方向内方に押して、
図8の矢印F1に示すように、舌片部43を塑性変形させてしまう可能性がある。
【0046】
そこで、前記第一の形態(
図4)及び前記第二の形態(
図7)それぞれに示すように、舌片部43が弾性域にある場合、先部22の径方向位置は、保持器3の外周面11と保持器3の内周面12との間の範囲にある。一方向クラッチ1が外輪部材5と内輪部材6との間に設けられる前の状態において、その一方向クラッチ1を軸方向から見た場合に、弾性域にある舌片部43(
図4及び
図7参照)では、舌片部43の先部22は、保持器3に隠れて見えない。
【0047】
これに対して、
図5に示すように、舌片部43が塑性変形していると、つまり、舌片部43が塑性域にあると、先部22は、保持器3の内周面12よりも径方向内方に位置する。このため、一方向クラッチ1が外輪部材5と内輪部材6との間に設けられる前の状態において、その一方向クラッチ1を軸方向から見た場合に、舌片部43の先部22は、保持器3の内周面12から径方向内方に突出していて、見える。つまり、検査員は、一方向クラッチ1を軸方向から見て、舌片部43の先部22が保持器3の内周面12からはみ出して見える場合、舌片部43が塑性変形していると判断することができる。
【0048】
このように、舌片部43の湾曲部21を軸方向から目視するのに併せて、その舌片部43の先部22を軸方向から目視することで、舌片部43が塑性変形していないかの検査が可能となる。
【0049】
〔第三の形態〕
前記第一の形態(
図4)及び前記第二の形態(
図7)それぞれでは、舌片部43の湾曲部21に着目することで、舌片部43が塑性変形していないかの検査が行われる。これとは異なり、第三の形態では、舌片部43の湾曲部21に関係なく、舌片部43の先部22に着目することで、舌片部43が塑性変形していないかの検査が行われてもよい。
【0050】
すなわち、
図4及び
図7それぞれに示すように、舌片部43が弾性域にある場合、先部22の径方向位置は、保持器3の外周面11と保持器3の内周面12との間の範囲にある。これに対して、
図6に示すように、舌片部43が塑性変形していると、つまり、舌片部43が塑性域にあると、先部22は、保持器3の内周面12よりも径方向内方に位置する。
【0051】
なお、
図6に示すように、舌片部43が塑性変形している場合において、湾曲部21の凸面側の頂点21aは、保持器3の外周面11から径方向内方に位置するが、先部22は、保持器3の内周面12よりも径方向内方に位置する場合がある。この場合であっても、先部22が、保持器3の内周面12よりも径方向内方に位置していることが確認されると、その先部22を含む舌片部43は、塑性変形していると判断される。
【0052】
以上のように、一方向クラッチ1が外輪部材5と内輪部材6との間に設けられる前の状態において、その一方向クラッチ1を軸方向から見た場合に、弾性変形していて塑性変形していない舌片部43では、その先部22の径方向位置は、保持器3の外周面11と保持器3の内周面12との間の範囲にある。このため、一方向クラッチ1を軸方向から見た場合に、
図4及び
図7それぞれに示すように、舌片部43の先部22は、保持器3に隠れて見えない。
【0053】
しかし、
図6に示すように、舌片部43が塑性変形していると、その先部22は、保持器3の内周面12よりも径方向内方に位置する。このため、一方向クラッチ1を軸方向から見た場合に、舌片部43の先部22は、保持器3の内周面12から径方向内方に突出していて、見える。つまり、検査員は、一方向クラッチ1を軸方向から見て、舌片部43の先部22が、保持器3の内周面12からはみ出して見える場合、舌片部43が塑性変形していると判断することができる。
【0054】
このように、前記一方向クラッチ1によれば、保持器3の内周面12は、舌片部43が塑性変形していないかの検査を行う基準面となる。一方向クラッチ1を軸方向から目視することで、舌片部43が塑性変形していないかの検査が可能となり、その検査は容易である。
【0055】
〔前記各形態に関して〕
以上より、前記各形態の一方向クラッチ1によれば、舌片部43が塑性変形している場合に、それを容易に見つけることが可能となる。
【0056】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0057】
1:一方向クラッチ 2:スプラグ 3:保持器
4:スプリング 5:外輪部材 6:内輪部材
11:外周面 12:外周面 21:湾曲部
21a:凸面側の頂点 21b:凹面側の頂点 22:先部
41:リブ部 42:柱部 43:舌片部