(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】セメント組成物及びセメント組成物の施工方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20230511BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20230511BHJP
E04B 1/92 20060101ALI20230511BHJP
E04G 23/02 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B22/08 A
E04B1/92
E04G23/02 A
(21)【出願番号】P 2019147796
(22)【出願日】2019-08-09
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 智貴
(72)【発明者】
【氏名】植松 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 利充
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6485666(JP,B2)
【文献】特開2010-163360(JP,A)
【文献】特開2003-137674(JP,A)
【文献】特表2001-522395(JP,A)
【文献】特開昭63-023960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
E04B 1/92
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、セメントと、骨材と、を含有するセメント組成物であって、
一般式aNa
2O・bSiO
2・Al
2O
3・nH
2Oで表される非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末をさらに含有し、
前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、
BET比表面積が650~900m
2/gであ
り、
前記aは0.05~0.29のmol範囲であり、
前記bは1.40~2.60のmol範囲であり、
前記nは0.50~1.25のmol範囲であり、
前記セメントに対する前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の重量割合が0.1以上0.3以下である、
ことを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載のセメント組成物であって、
前記水の前記セメントに対する重量割合が0.6であり、前記骨材の前記セメントに対する重量割合が3.0である、
ことを特徴とするセメント組成物。
【請求項3】
請求項
1又は請求項
2に記載のセメント組成物であって、
促進中性化試験による28日中性化深さが3.5~5.0mmである、
ことを特徴とするセメント組成物。
【請求項4】
請求項
1乃至請求項
3の何れかに記載のセメント組成物であって、
促進中性化試験による28日中性化速度係数が1.8~2.5mm/√週である、
ことを特徴とするセメント組成物。
【請求項5】
請求項
1乃至請求項
4の何れかに記載のセメント組成物であって、
28日圧縮強さが41.75~53.45N/mm2である、
ことを特徴とするセメント組成物。
【請求項6】
請求項
1乃至請求項
5の何れかに記載のセメント組成物であって、
28日曲げ強さが6.91~10.24N/mm2である、
ことを特徴とするセメント組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項
6の何れかに記載のセメント組成物の施工方法であって、
前記水と、前記セメントと、前記骨材と、前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を混合して打設する、
ことを特徴と
するセメント組成物の施工方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項
6の何れかに記載のセメント組成物の施工方法であって、
コンクリートを打設する工程と、
打設後の前記コンクリートの表面に、前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末入りのモルタルを塗布する工程と、
を有することを特徴とするセメント組成物の施工方法。
【請求項9】
請求項1に記載のセメント組成物の施工方法であって、
コンクリートを打設する工程と、
打設後の前記コンクリートの表面に、前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末入りの仕上げ材を塗布する工程と、
を有することを特徴と
するセメント組成物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物及びセメント組成物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート(セメント組成物の一例)に含まれる水酸化カルシウム水和物は、二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムとなる。そうすると、コンクリートのアルカリ量が低下して中性化する。中性化はコンクリートの表面から進行し、鉄筋等の鋼材位置に達すると鋼材が腐食しやすくなる。これにより、構造物の耐荷性や耐久性が損なわれるおそれがある。そこで、コンクリートの表面にバリア性のある塗膜を形成して、コンクリートの表層部を改質することでコンクリートの中性化の進行を遅らせる方法が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような方法では、日光の紫外線や雨水等、気象環境の影響により表層部の成分が劣化し、長期的な耐久性が確保されない(中性化を抑制できなくなる)おそれがあった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、中性化の抑制を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、
水と、セメントと、骨材と、を含有するセメント組成物であって、
一般式aNa2O・bSiO2・Al2O3・nH2Oで表される非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末をさらに含有し、
前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、BET比表面積が650~900m2/gであり、
前記aは0.05~0.29のmol範囲であり、
前記bは1.40~2.60のmol範囲であり、
前記nは0.50~1.25のmol範囲であり、
前記セメントに対する前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の重量割合が0.1以上0.3以下である、
ことを特徴とするセメント組成物である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、中性化の抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】コンクリートの中性化について示す概略説明図である。
【
図2】本実施形態のコンクリート10の概略説明図である。
【
図3】
図3Aは、材齢と曲げ強さの関係を示す図であり、
図3Bは、材齢と圧縮強さの関係を示す図である。また、
図3Cは、材齢28日に対する材齢7日の強度発現率を示す図である。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、AAS-700の添加率と曲げ強さの関係を示す図である。
【
図5】
図5A及び
図5Bは、AAS-700の添加率と圧縮強さの関係を示す図である。
【
図6】中性化促進材齢と中性化深さの関係を示す図である。
【
図7】中性化促進材齢と中性化速度係数の関係を示す図である。
【
図8】AAS-700の添加率と促進中性化試験による中性化深さの関係を示す図である。
【
図9】AAS-700の添加率と促進中性化試験による中性化速度係数の関係を示す図である。
【
図10】第2実施形態のコンクリート10を示す概略説明図である。
【
図11】第3実施形態のコンクリート10を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0010】
水と、セメントと、骨材と、を含有するセメント組成物であって、一般式aNa2O・bSiO2・Al2O3・nH2Oで表される非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末をさらに含有し、前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、比表面積が650~900m2/gであることを特徴とするセメント組成物が明らかとなる。
このようなセメント組成物によれば、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末が二酸化炭素を吸収することにより中性化の抑制を図ることができる。
【0011】
かかるセメント組成物であって、前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の前記セメントに対する重量割合が0.3以下であることが望ましい。
このようなセメント組成物によれば、セメント組成物を良好に成型でき、また強度や耐久性の低下を防止できる。
【0012】
かかるセメント組成物であって、前記水の前記セメントに対する重量割合が0.6であり、前記骨材の前記セメントに対する重量割合が3.0であることが望ましい。
【0013】
かかるセメント組成物であって、促進中性化試験による28日中性化深さが3.5~5.0mmであることが望ましい。
このようなセメント組成物によれば、中性化を抑制できる。
【0014】
かかるセメント組成物であって、促進中性化試験による28日中性化速度係数が1.8~2.5mm/√週であることが望ましい。
このようなセメント組成物によれば、中性化を抑制できる。
【0015】
かかるセメント組成物であって、28日圧縮強さが41.75~53.45N/mm2であることが望ましい。
【0016】
かかるセメント組成物であって、28日曲げ強さが6.91~10.24N/mm2であることが望ましい。
【0017】
また、上記に記載のセメント組成物の施工方法であって、前記水と、前記セメントと、前記骨材と、前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を混合して打設することを特徴とするセメント組成物の施工方法が明らかとなる。
このようなセメント組成物の施工方法によれば、中性化の抑制を図ることができる。
【0018】
また、上記に記載のセメント組成物の施工方法であって、コンクリートを打設する工程と、打設後の前記コンクリートの表面に、前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末入りのモルタルを塗布する工程とを有することを特徴とするセメント組成物の施工方法が明らかとなる。
このようなセメント組成物の施工方法によれば、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の使用量を減らすことができ、効率的に中性化を抑制できる。
【0019】
また、上記に記載のセメント組成物の施工方法であって、コンクリートを打設する工程と、打設後の前記コンクリートの表面に、前記非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末入りの仕上げ材を塗布する工程とを有することを特徴とするセメント組成物の施工方法が明らかとなる。
このようなセメント組成物の施工方法によれば、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の使用量を減らすことができ、効率的に中性化を抑制できる。
【0020】
===第1実施形態===
まず、セメント組成物の中性化のメカニズムについて説明する。ここではセメント組成物としてコンクリートを例に挙げて説明する。
【0021】
<中性化のメカニズムについて>
図1は、コンクリートの中性化について示す概略説明図である。
【0022】
図1に示すコンクリート100は、一般的なコンクリートであり、セメント、水、骨材(細骨材、粗骨材)等を混ぜ合わせて硬化してなるものである(換言すると、セメント、水、骨材を含有している)。
【0023】
セメントの種類は、水硬性のセメントであれば特に制限はない。例えば、ポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等)や混合セメント(高炉セメント、フライアッシュセメント等)が挙げられる。
【0024】
水は、例えば、上水道水やJIS A 5308に示される「上水道水以外の水」である。
【0025】
骨材(細骨材、粗骨材)は、通常のモルタルまたはコンクリートに使用できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、砂や砂利が挙げられ、陸、山、海、川で適宜採集されたものを用いてよいし、人工のものでもよい。
【0026】
図1において、コンクリート100の細孔溶液L中には、セメントの主成分である水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)からカルシウムが溶解している。
【0027】
また、大気中の二酸化炭素(CO2)がコンクリート100の細孔溶液L中に溶解して炭酸イオンとなる。
【0028】
そして、細孔溶液L中で、カルシウムと炭酸イオンが反応して、炭酸カルシウム(CaCO3)となる。
【0029】
上記の反応が繰り返され、コンクリート100の表面には炭酸カルシウムが沈積する。炭酸カルシウムはpHが9以下であるので、コンクリート100のpHが低下して中性化する(図中に示す中性化部Mとなる)。このようにセメント組成物(ここではコンクリート100)が中性化すると、例えば、鉄筋等の鋼材が腐食しやすくなる等のおそれがある。そこで本実施形態では中性化の抑制を図っている。
【0030】
<本実施形態のコンクリート>
図2は、本実施形態のコンクリート10の概略説明図である。
【0031】
本実施形態のコンクリート10は、セメント、水、骨材(細骨材、粗骨材等)に加え、
図2に示すように、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末20(以下、単に非晶質アルミノケイ酸塩20ともいう)をさらに含有している。
【0032】
非晶質アルミノケイ酸塩20は、その名の通り非晶質であり、元素の並びにほとんど周期性はない。化学構造は一般式aNa2O・bSiO2・Al2O3・nH2Oで表わされる。ここで、一般式のAl2O3を1molとしており、bの値はケイバン比(SiO2/Al2O3のmol比)とも呼ばれており、また、一般式中のH2Oは結晶水を表している。
【0033】
非晶質アルミノケイ酸塩20の比表面積は650~900m2/gである。ここで、比表面積とはBET法で測定された値(BET比表面積)である。比表面積が650m2/g未満の場合には、水蒸気吸着量が低下するため好ましくない。比表面積が900m2/gを越えるとガス吸着性能は問題ないが、粉末状にした時の粉塵が多くなりハンドリング性が悪くなるため好ましくない。より好ましい比表面積は700~850m2/gである。
【0034】
また、上記一般式において、aは0.05~0.29のmol範囲である。0.05未満の場合、構造中にOH基の存在量が増え、粒子粉末の表面の細孔を塞いでしまい、比表面積が低下する傾向にあるため好ましくない。0.29を超える場合、吸着性能に大きな影響は及ぼさないが、粉体pHが高くなり、粒子粉末の加工面で問題が生じやすくなるため好ましくない。より好ましくは、0.07~0.27のmol範囲がよく、更により好ましくは、0.08~0.25のmol範囲がよい。
【0035】
また、上記一般式において、bは1.40~2.60のmol範囲である。1.40mol未満の場合、得られる粒子粉末において、非晶質アルミノケイ酸塩20より寧ろ規則的なギブサイト結晶構造を有するγ-Al(OH)3粒子が主体的になる。そのため、非晶質アルミノケイ酸塩20の非晶質構造に由来していた細孔が少なくなり、比表面積が下がってしまうため好ましくない。2.60molを超える場合、得られる粒子粉末において、非晶質シリカが主体的となり、吸着性能が下がってしまう。即ち、非晶質シリカと水蒸気等の吸着性能の差がなくなってしまうため好ましくない。また、bが1.40mol未満の場合や2.60molを超える場合、得られた粒子粉末の300℃-1時間焼成によって、試料の比表面積が著しく低下してしまうため好ましくない。より好ましくは、1.50~2.50のmol範囲がよく、更により好ましくは、1.60~2.40のmol範囲がよい。
【0036】
また、上記一般式において、nは0.50~1.25のmol範囲である。0.50未満の場合、結晶水が少なくなり、規則的な結晶構造を作り、該構造の周期性は高くなる。その場合、高い比表面積を維持することは困難となる。1.25を超える場合、試料中の結晶水が多すぎて所定の耐熱性を得ることが困難である。より好ましくは、0.60~1.15のmol範囲がよく、更により好ましくは、0.70~1.10のmol範囲がよい。
【0037】
また、非晶質アルミノケイ酸塩20の29Si-NMRスペクトルは、化学シフト-120~-60ppmの範囲において、-78.9~-77.0ppmに位置する単一のピークと-110~-79.0ppmに位置する2~6つの複数のピークの重ね合わせで表される。一般に、29Si-NMRスペクトルの化学シフトはSiO4四面体の重合度に起因する。例えば、-78.9~-77.0ppmに位置する単一のピークはSiO4四面体のOが隣接するSiO4四面体と共有していないことを意味する。即ち、単量体のSiO4四面体を意味し、Q0値のピークである。
【0038】
一方、-110~-79.0ppmに位置する複数のピークは、任意のSiO4四面体のOを共有しているSiO4四面体の数の違い、即ち、SiO4四面体の重合度の違いや、前記Oを共有しているSiO4四面体のSiがAlに置換されてAlO4四面体として存在していることを意味する。SiO4四面体が隣接するSiO4四面体とOを共有する数は1~3であり、各々、Q1~Q3値のピークと呼ばれる。ここで、XRDプロファイルから3つのSiO4四面体がOを共有しているSiO4四面体シートの存在が示唆されていることを考慮すると、-110~-79.0ppmに位置する複数のピークの一つはQ3値のピークの可能性が高い。また、27Al-NMRスペクトルからAlO4四面体の存在も示唆されている。従って、-110~-79.0ppmに位置するピーク2~6つの複数のピークの重ね合わせで表現できる主のピークはQ3値のピークであり、その他はQ1~Q2値のピークや、AlO4四面体が関与したQ1~Q3値のピークの可能性がある。結果として、最大6つのピークの重ね合わせで表現できる。ここで、カーブフィッティングは十分になし得るように、最低限のピーク数を利用した。一方、-110~-79.0ppmで得られたスペクトルにおいて、単一のピークでは十分なフィッティング結果が得られなかった。従って、より好ましい重ね合わせで表現できるピーク数は2~4、更により好ましくは2、3であることが好ましい。
【0039】
このような、非晶質アルミノケイ酸塩20は、二酸化炭素(CO
2)等のガス吸着能力が高い。よって、コンクリート10に含有された非晶質アルミノケイ酸塩20がCO
2を吸収するので、細孔溶液Lに溶解するCO
2量が抑制される。これにより、細孔溶液L中に供給されるCO
2量が減少するので、CaCO
3生成速度が遅くなる。すなわち、
図1(コンクリート100)の場合と比べて、中性化部Mが低減する(中性化を抑制できる)。
【0040】
なお、コンクリート10の施工方法としては、水、セメント、骨材(細骨材、粗骨材)及び非晶質アルミノケイ酸塩20等を混合(練混ぜ)した後、型枠等に打設する。これにより、非晶質アルミノケイ酸塩20を含有するコンクリート10が得られる。
【0041】
≪中性化抑制評価≫
非晶質アルミノケイ酸塩をモルタルに混入した試験体を作成し、室内試験によりセメント組成材の課題となる中性化の抑制効果について評価を行った。
【0042】
(使用材料)
試験体(モルタル)の使用材料を表1に示す。非晶質アルミノケイ酸塩としては戸田工業株式会社製AAS-700を使用した。
【0043】
【0044】
(調合)
各試験体(No1~4)の調合を表2に示す。モルタルの調合はJIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準じて、水セメント比60%、セメント:細骨材比=1:3とし、AAS-700の添加率はセメント質量に対して0%,10%,20%,30%及び50%とした。また、AAS-700添加の試験体(No.2~5)のフローは、AAS-700無混入の試験体(No.1)と同程度にするため化学混和剤を用いて調整した。空気量は、AAS-700無混入が8.2%だったため、強度が変動することを考慮して化学混和剤を用いて8±1.5%に調整した。
【0045】
【表2】
なお、表2の括弧内の数値は、C+S+Wに対するAAS-700(H)の割合(重量比)である。
【0046】
(試験体の作製)
モルタルの練混ぜは、JIS R 5201に従って、機械式練混ぜ機により行った。具体的には、練り鉢に規定量の水(化学混和剤を含む)を入れ、次に、セメント、AAS-700を入れた。その後、練混ぜ機を低速で始動させ、パドルを始動させてから30秒後に規定量の細骨材を30秒間で入れた。そして、次に高速回転にして30秒(No.4,5は60秒)練混ぜを続けた。
【0047】
次に、モルタルを40×40×160mmの型枠に2層に分けて詰め、翌日脱型を行い、その後、水中養生を行った。養生条件を表3に示す。なお、1調合あたり、2バッチ練りとして試験体を作製した。
【0048】
【0049】
(試験項目)
試験項目を表4に示す。なお、表には示していないが、フレッシュ性状として、フロー試験(JIS R 5201)、空気量試験(JIS A 1171)、コンクリート温度の測定(JIS A 1156)、単位容積質量の測定(JIS A 1171)も行った。
【0050】
【0051】
(試験結果)
・フレッシュ性状
AAS-700添加モルタルのフローは、AAS-700の添加率が増加するほど小さくなる傾向があった。したがって、AAS-700添加率20%以上では、化学混和剤を使用した。ただし、AAS-700添加率50%(No.5)では、高性能減水剤を紛体にして12%まで添加したが、パサパサな状態となり成型不可能であった。
【0052】
・強度
曲げ及び圧縮強さの試験結果を表5に示す。また、
図3Aは、材齢と曲げ強さの関係を示す図であり、
図3Bは、材齢と圧縮強さの関係を示す図である。また、
図3Cは、材齢28日に対する材齢7日の強度発現率を示す図である。
【0053】
【0054】
表5、及び、
図3A、
図3Bより、曲げ及び圧縮強さは、材齢の経過に伴って増加する傾向にある。また、
図3Cより、AAS-700添加率10%以下の条件に比べて、AAS-70020%以上の条件の方が強度発現率は高いことが確認できる。つまり、AAS-700を添加することで、初期の強度発現率が高いことを意味している。
【0055】
また、
図4A及び
図4Bは、AAS-700の添加率と曲げ強さの関係を示す図である。なお、
図4Aは材齢7日、
図4Bは材齢28日を示している。何れの材齢においても、曲げ強さは、AAS-700の添加率の増加に伴って小さくなる傾向にある。また、無添加に対するAAS-700添加率30%の強さ比(無添加の曲げ強さに対する割合)としては、材齢7日の場合が75%。材齢28日の場合が69%となった。また、図には添加率(x)と曲げ強さ(y)の関係を近似式(近似直線)で示している。例えば材齢28日の場合、y=10.24-0.111xとなっている。換言すると、材齢28日の曲げ強さは6.91~10.24N/mm
2である。
【0056】
また、
図5A及び
図5Bは、AAS-700の添加率と圧縮強さの関係を示す図である。なお、
図5Aは材齢7日、
図5Bは材齢28日を示している。材齢7日では、AAS-700の添加による明確が傾向は確認できない。一方、材齢28日では、AAS-700の添加率の増加に伴って圧縮強さは小さくなる傾向にある。このように、材齢によって圧縮強さの関係の傾向が異なっている。また、無添加に対するAAS-700添加率30%の強さ比(無添加の圧縮強さに対する割合)としては79%となった。また、図には添加率(x)と圧縮強さ(y)の関係を近似式(近似直線)で示している。例えば材齢28日の場合、y=53.45-0.39xとなっている。換言すると、材齢28日の圧縮強さは41.75~53.45N/mm
2である。
【0057】
・耐久性
促進中性化試験による中性化深さの評価結果を表6に示す。また、促進中性化試験による中性化速度係数を表7に示す。また、
図6は、中性化促進材齢と中性化深さの関係を示す図であり、
図7は、中性化促進材齢と中性化速度係数の関係を示す図である。
【0058】
【0059】
【0060】
これらの結果から、何れの調合でも、中性化材齢の経過に伴い中性化深さは大きくなり、中性化速度係数は小さくなる傾向が確認された。
【0061】
また、
図8はAAS-700の添加率と促進中性化試験による中性化深さの関係を示す図であり、
図9は、AAS-700の添加率と促進中性化試験による中性化速度係数の関係を示す図である。これらの結果から、中性化深さ及び中性化速度係数は、AAS-700の添加に比例して小さくなる傾向にあり、AAS-700(非晶質アルミケイ酸塩)がセメント組成物の中性化抑制に対して効果があることが確認された。
【0062】
===第2実施形態===
図10は第2実施形態のコンクリート10を示す概略説明図である。第2実施形態のコンクリート10は、コンクリート100(
図1)の表面に、モルタル30の層を設けて構成されている。なお、モルタル30は、水とセメントと細骨材を含有しており、さらに、非晶質アルミノケイ酸塩20を含有している。
【0063】
第2実施形態のコンクリート10の施工方法としては、コンクリート100の打設後(及び硬化後)、表面に接着プライマー(不図示)を塗布し、その上に、非晶質アルミノケイ酸塩20入りのモルタル30を塗布する。
【0064】
このように、コンクリート100の表面部分に非晶質アルミノケイ酸塩20入りのモルタル30の層を設けても良い。こうすることで、第1実施形態と比べて、非晶質アルミノケイ酸塩20の使用量を減らすことができ、効率的に中性化を抑制することができる。
【0065】
===第3実施形態===
図11は第3実施形態のコンクリート10を示す概略説明図である。この第3実施形態では、コンクリート100(
図1)の表面に、非晶質アルミノケイ酸塩20入りの仕上げ材40(塗料等)の層を設けている。
【0066】
第3実施形態のコンクリート10の施工方法としては、第2実施形態と同様に、コンクリート100の打設後(及び硬化後)、その表面に非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末20入りの仕上げ材40を塗布する。なお、仕上げ材40は、水系であってもよいし、溶剤系であってもよい。
【0067】
このように、コンクリート100の表面部分に非晶質アルミノケイ酸塩20入りの仕上げ材40の層を設けても良い。この第3実施形態においても、第1実施形態と比べて非晶質アルミノケイ酸塩20の使用量を減らすことができ、効率的に中性化を抑制することができる。
【0068】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0069】
上述の実施形態のコンクリート10の表面に、クリア剤、保護剤、改質剤等をさらに塗布しても良い。これにより、中性化をさらに抑制することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 コンクリート、
20 非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末、
30 モルタル、
40 仕上げ材、
100 コンクリート
L 細孔溶液
M 中性化部