(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】制御装置、および転舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230511BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230511BHJP
B60W 30/045 20120101ALI20230511BHJP
B60W 40/114 20120101ALI20230511BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230511BHJP
B62D 103/00 20060101ALN20230511BHJP
B62D 111/00 20060101ALN20230511BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20230511BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20230511BHJP
B62D 131/00 20060101ALN20230511BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B62D5/04
B60W30/045
B60W40/114
B62D101:00
B62D103:00
B62D111:00
B62D113:00
B62D117:00
B62D131:00
B62D137:00
(21)【出願番号】P 2019150397
(22)【出願日】2019-08-20
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】三浦 悠一
(72)【発明者】
【氏名】小島 崇
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-208492(JP,A)
【文献】特開2009-234306(JP,A)
【文献】特開2006-264561(JP,A)
【文献】特開2018-062209(JP,A)
【文献】特開2005-112008(JP,A)
【文献】特開2009-132204(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0106375(US,A1)
【文献】特開2006-175980(JP,A)
【文献】特開2010-083472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B60W 30/045
B60W 40/114
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向に対し左右に配置される左転舵輪、および右転舵輪のそれぞれの転舵角を独立して制御する制御装置であって、
前記車両の操向方向を示す操向指令値に基づき前記左転舵輪の転舵角を示す左転舵指令値、および前記右転舵輪の転舵角を示す右転舵指令値を決定する転舵角決定部と、
前記車両の目標経路を示す経路情報を取得する経路取得部と、
走行中の前記車両の挙動を示す複数の状態量の少なくとも1つに基づき前記車両が前記目標経路を走行するように前記操向指令値を補正する軌跡安定化部と、
前記左転舵輪、および前記右転舵輪を含む複数の車輪のうちの少なくとも1つの車輪のタイヤ横力を示す横力情報に基づき、前記左転舵輪のタイヤ横力と、前記右転舵輪のタイヤ横力との分配比率が目標分配比率となるように前記左転舵指令値、および前記右転舵指令値をそれぞれ補正する転舵角分配部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記転舵角分配部は、
摩擦円使用率が1未満となるように前記目標分配比率を決定する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記転舵角分配部は、
いずれか一つの車輪について(タイヤ前後力)^2+(タイヤ横力)^2(「^」はべき乗)の値が極小となる分配比率を含む所定の範囲内で目標分配比率を決定する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記車両の旋回時における目標分配比率は、内輪側の横力の分配より外輪側の横力の分配の方が高い
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の制御装置と、
前記左転舵輪を転舵する左アクチュエータを有する左転舵機構と、
前記右転舵輪を転舵する右アクチュエータを有する右転舵機構と、
を備える転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右に配置される転舵輪を独立して転舵する制御装置、および転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールと転舵機構とが機械的に接続されておらず、転舵輪の転舵角をそれぞれ独立に制御する車両用の転舵装置がある。例えば、特許文献1には、運転者の操舵が限界を超えている場合に、転舵輪の駆動力と転舵角を制御し、安定した姿勢で運転者の意思通りに車両を旋回させる技術が記載されている。また、特許文献2には、車両の横加速度と後輪の駆動力とに基づいて、タイヤ横力と駆動力との合力が、左右後輪についてそれぞれ設定したタイヤの摩擦円に収まるように後輪の目標トー角を設定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-208492号公報
【文献】特開2009-234306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで車両の旋回限界を、定常状態で、車両がスピンすることなく設定した車速で走行できる最大のヨーレート、もしくは最小の旋回半径と定義する。この場合、旋回限界が低い車両の場合、緊急操舵時に迅速な進路変更ができず、安全な走行が確保できない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、目標径路に合致するように車両の左右の転舵輪の転舵角を個別に決定し、かつ左右の転舵輪の転舵角を個別に修正することにより車両の旋回限界を向上させる制御装置、および転舵装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の1つである制御装置は、車両の進行方向に対し左右に配置される左転舵輪、および右転舵輪のそれぞれの転舵角を独立して制御する制御装置であって、前記車両の操向方向を示す操向指令値に基づき前記左転舵輪の転舵角を示す左転舵指令値、および前記右転舵輪の転舵角を示す右転舵指令値を決定する転舵角決定部と、前記車両の目標経路を示す経路情報を取得する経路取得部と、走行中の前記車両の挙動を示す複数の状態量の少なくとも1つに基づき前記車両が前記目標経路を走行するように前記操向指令値を補正する軌跡安定化部と、前記左転舵輪、および前記右転舵輪を含む複数の車輪のうちの少なくとも1つの車輪のタイヤ横力を示す横力情報に基づき、前記左転舵輪のタイヤ横力と、前記右転舵輪のタイヤ横力との分配比率が目標分配比率となるように前記左転舵指令値、および前記右転舵指令値をそれぞれ補正する転舵角分配部と、を備える。
【0007】
また、本発明の他の1つである転舵装置は、上記制御装置と、前記左転舵輪を転舵する左アクチュエータを有する左転舵機構と、前記右転舵輪を転舵する右アクチュエータを有する右転舵機構と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、目標径路に合致するように車両を操向し、かつ左右の転舵角を所定の比率で個別に修正することにより車両の旋回限界を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る転舵装置の全体的な構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る制御装置の機能的な構成を車両の各構成とともに示すブロック図である。
【
図3】
図3は、横力生成部の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、別例1に係る制御装置の機能的な構成を車両の各構成とともに示すブロック図である。
【
図5】
図5は、別例2に係る制御装置の機能的な構成を車両の各構成とともに示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る制御装置、および転舵装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の位置関係、および接続状態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として説明する場合があるが、請求項に記載されていない構成要素については、その請求項に係る発明に関しては任意の構成要素であるとして説明している。また、図面は、本発明を説明するために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0011】
まず、本発明の実施の形態に係る車両101用の転舵装置100の全体的な構成を説明する。
図1は、実施の形態に係る転舵装置の全体的な構成を示すブロック図である。転舵装置100は、乗用車などの車両101に搭載される左転舵輪110、および右転舵輪120がリンクなどの機械要素により連結されず、左転舵輪110、および右転舵輪120を独立して転舵することができる装置である。本実施の形態の場合、転舵装置100は、操舵部材103の操舵により出力される信号に基づき左右の転舵輪を転舵することができるリンクレス・ステア・バイ・ワイヤシステムを構成している。転舵装置100は、運転者が操向のために操作する操舵部材としての操舵部材103と、走行方向において車両101の前方側に配置された左転舵輪110、および右転舵輪120と、左転舵輪110を個別に転舵する左転舵機構111と、右転舵輪120を個別に転舵するための右転舵機構121とを備える。
【0012】
左転舵機構111、および右転舵機構121はそれぞれ、操舵部材103の回転操作に応じて制御される左アクチュエータ112、および右アクチュエータ122を備える。本実施の形態の場合、左アクチュエータ112、および右アクチュエータ122は、電動モータである。
【0013】
左転舵機構111、および右転舵機構121はそれぞれ、左転舵輪110、および右転舵輪120を転舵させるための機構部である左転舵構造113、および右転舵構造123を有している。左転舵構造113、および右転舵構造123は、車体に対しサスペンションによって支持されている。左転舵構造113は、左アクチュエータ112から受ける回転駆動力により左転舵輪110を転舵させる。右転舵構造123は、右アクチュエータ122から受ける回転駆動力により右転舵輪120を転舵させる。
【0014】
さらに、転舵装置100は、操舵部材103の操舵角を検出する操舵角センサ131を備える。ここでは、操舵角センサ131は、操舵部材103の回転シャフトの回転角、および角速度を検出して操向指令値として出力する。また、転舵装置100は、左転舵輪110の転舵角を検出する左センサ114と、右転舵輪120の転舵角を検出する右センサ124とを備える。
【0015】
また、車両101には、車両101の速度Vを検出する車速センサ132、および慣性計測装置133が設けられている。慣性計測装置133は、例えばジャイロセンサ、加速度センサ、地磁気センサ等を備えている。慣性計測装置133は、車両101の3軸方向の加速度、および角速度等を検出する。角速度の3軸方向の例は、ヨーイング、ピッチング、およびローリング方向である。慣性計測装置133は、例えばヨーイング方向の角速度(以下「ヨーレート」と記載する)を検出する。さらに、慣性計測装置133は、ピッチング、およびローリング方向の角速度を検出してもよい。
【0016】
また、車速センサ132、慣性計測装置133などは、状態量処理部130に接続されている。状態量処理部130は、各種センサからの情報をそれぞれ状態量として制御装置140に出力する。また、状態量処理部130は、各種センサからの情報を演算することにより、車両101の挙動を示す状態量を生成し制御装置140に出力する場合もある。
【0017】
また、転舵装置100は、制御装置140、および記憶装置105を備える。記憶装置105は、制御装置140と別に配置され、制御装置140と電気的に接続されていてもよく、制御装置140に含まれていてもよい。左転舵機構111は、左ECU115(ECU:Electronic Control Unit)を備え、右転舵機構121は、右ECU125を備える。制御装置140は、左ECU115、右ECU125、操舵角センサ131、車速センサ132、および慣性計測装置133と電気的に接続されている。左ECU115は、制御装置140、左センサ114、左アクチュエータ112、および右ECU125と電気的に接続されている。右ECU125は、制御装置140、右センサ124、右アクチュエータ122、および左ECU115と電気的に接続されている。制御装置140、左ECU115、右ECU125、左アクチュエータ112、右アクチュエータ122、状態量処理部130、および各センサ間の通信は、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを介した通信であってもよい。
【0018】
制御装置140は、操舵角センサ131、車速センサ132、慣性計測装置133、左ECU115、右ECU125から取得する情報などに基づき、フィードバック制御を行い、適切な左転舵指令値、および右転舵指令値を左ECU115、および右ECU125にそれぞれ出力する。制御装置140の詳細については後述する。
【0019】
記憶装置105は、種々の情報を格納することができ、また格納した情報を取り出して出力することができる。記憶装置105は、例えば、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの半導体メモリ、ハードディスクドライブ、又はSSD等の記憶装置によって実現される。
【0020】
次いで、制御装置140の詳細を説明する。制御装置140、左ECU115、および右ECU125は、CPU(Central Processing Unit)又はDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ、およびメモリを備えるマイクロコンピュータにより構成されてもよい。メモリは、RAM等の揮発性メモリ、およびROM等の不揮発性メモリであってもよく、記憶装置105であってもよい。制御装置140、状態量処理部130、左ECU115、および右ECU125の一部又は全部の機能は、CPUがRAMを作業用のメモリとして用いてROMに記録されたプログラムを実行することによって達成されてもよい。
【0021】
図2は、制御装置140の機能的な構成を示すブロック図である。制御装置140は、車両101の進行方向に対し左右に配置される左転舵輪110、および右転舵輪120のそれぞれの転舵角を独立して制御する装置であって、転舵角決定部141と、経路取得部142と、転舵角分配部143と、軌跡安定化部144と、を備えている。本実施の形態の場合、制御装置140は、横力生成部146と、垂直荷重演算部147と、前後力生成部149と、を備えている。車両101の車速制御は、アクセルペダルなどに取り付けられたペダルの踏み込み量を検出する踏込センサ134からの情報に基づき駆動制御部135がエンジン、モータ等を制御することにより実行される。
【0022】
転舵角決定部141は、車両101の操向方向を示す操向指令値に基づき左転舵輪110の転舵角を示す左転舵指令値、および右転舵輪120の転舵角を示す右転舵指令値を決定する。本実施の形態の場合、転舵角決定部141は、操舵部材103の回転シャフトの回転角を操向指令値として操舵角センサ131から取得し、所定の比率であるいわゆるオーバーオール・ステアリングギヤ比、およびアッカーマン・ジャントー理論による内輪転舵角と外輪転舵角に基づいて演算を行い左転舵指令値、および右転舵指令値を出力する。
【0023】
左ECU115は、取得した左転舵指令値に応じて左アクチュエータ112を駆動し左転舵輪110を転舵する。右ECU125は、取得した右転舵指令値に応じて右アクチュエータ122を駆動し右転舵輪120を転舵する。
【0024】
経路取得部142は、車両101の目標経路を示す経路情報を取得する。本実施の形態の場合、車両101は、操舵部材103の運転者による操舵のみに基づき操向するものであるため、経路取得部142は、操舵角センサ131からの情報を経路情報として取得する。なお、経路取得部142は、操舵角センサ131からの情報、例えば操舵部材103の回転角、角速度などに基づき演算を行って経路情報を生成してもよく、この場合も経路情報の取得に含まれる。さらに、車速を加えて経路情報を取得してもかまわない。
【0025】
軌跡安定化部144は、走行中の車両101の挙動を示す複数の状態量の少なくとも1つに基づき経路取得部142が取得した目標経路を車両101が走行するように操向指令値を補正する。転舵角分配部143により左右の転舵指令値が補正されると、左右の転舵輪の転舵角が個別に変化する。この変化に基づき発生するタイヤ横力の総和が変化し、カーブにおける車両101の走行軌跡(旋回軌跡)に変動が生じるため、軌跡安定化部144は、操向指令値を補正する。例えば軌跡安定化部144は、目標経路と状態量処理部130から得られる状態量とから、目標となるヨーレートを導出し目標ヨーレートを維持するように操向指令値を補正する。また、軌跡安定化部144は、目標経路と状態量から、目標となる旋回時の曲率(旋回半径の逆数)を導出し目標曲率を維持するように操向指令値を補正する。
【0026】
転舵角分配部143は、左転舵輪110、および右転舵輪120のタイヤ横力を示す横力情報を走行中の車両101の挙動を示す状態量としてそれぞれ取得し、取得した横力情報に基づき、左転舵輪110の横力と、右転舵輪120の横力との分配比率が目標分配比率となるように左転舵指令値、および右転舵指令値をそれぞれ補正し、車両の挙動を最適化する。
【0027】
転舵角分配部143が採用する目標分配比率の決定方法は特に限定されるものではなく、実験、シミュレーションなどに基づき予め設定された値から決定してもかまわない。例えば、車両101の旋回時における目標分配比率は、内輪側の横力の分配量より外輪側の横力の分配量の方が高くなるように決定してもよい。旋回による遠心力で荷重移動が発生すると、内輪より外輪の摩擦円が大きくなり、外輪の方がより大きなタイヤ横力を発生させられるため、内輪側より外輪側の横力の分配量を高くした方が、旋回限界を高めることができる。
【0028】
本実施の形態の場合、転舵角分配部143は、車両101の挙動を示す状態量を取得し、下記の式1に示す摩擦円使用率が1未満になるように目標分配比率を決定する。なお、摩擦円使用率は、転舵輪を含む複数の車輪のうちの最も摩擦円使用率が大きいものを採用してもかまわない。複数の車輪のうち1輪でも摩擦円を使い切ると、他の車輪の摩擦円に余裕があっても旋回限界となるため、最も摩擦円使用率が大きい車輪のタイヤ横力、タイヤ前後力を、摩擦円に余裕がある車輪に配分するように目標分配比率を設定することで、摩擦円使用率を小さくすることができ、旋回限界を向上させることができる。
【0029】
また、摩擦円使用率は、転舵輪を含む複数の車輪のうち、駆動輪の内輪側を採用してもかまわない。旋回による遠心力で荷重移動が発生すると、外輪より内輪の摩擦円が小さくなる。さらに、旋回半径が小さくなると、旋回による走行抵抗の増加により車速維持に必要な駆動力に伴うタイヤ前後力が増加する。駆動によるタイヤ前後力は、転舵によるタイヤ横力よりも摩擦円使用率への寄与が大きい。よって、複数の車輪のうち、内輪の駆動輪が、最も摩擦円使用率が大きくなる
摩擦円使用率=((タイヤ前後力)^2+(タイヤ横力)^2)/垂直荷重^2…式1(「^」はべき乗を表している)
(タイヤ前後力)^2+(タイヤ横力)^2は分配比率を変数とする関数で表され、例えば転舵角分配部143は、関数の値が極小となる分配比率を含む所定の範囲内で目標分配比率を決定してもよい。
【0030】
タイヤ前後力、タイヤ横力、および垂直荷重の少なくとも1つは、車両101に搭載されるセンサに基づき直接的に取得してもかまわない。また、タイヤ前後力、タイヤ横力、および垂直荷重の少なくとも1つは、状態量処理部130から取得した状態量から演算により間接的に取得してもかまわない。タイヤ前後力、およびタイヤ横力は、回転方向の車両の運動方程式、前後方向の車両の運動方程式、横方向の車両の運動方程式、タイヤモデルの式、転舵角とタイヤ横力の関係式、転舵角とタイヤ前後力の関係式などに基づき算出することができる。
【0031】
本実施の形態の場合、転舵角分配部143は、垂直荷重演算部147が演算した複数車輪の垂直荷重と、横力生成部146が生成した複数車輪の横力と、前後力生成部149が生成した複数車輪の前後力から複数車輪の摩擦円使用率を算出し、最も摩擦円使用率が大きい車輪に対して摩擦円使用率を下げるよう、左転舵輪110の横力と、右転舵輪120の横力との目標分配比率を決定し、その比率となるよう左転舵指令値、および右転舵指令値をそれぞれ補正している。
図3は、横力生成部の機能構成を示すブロック図である。同図に示すように、横力生成部146は、車体滑り角演算部152とタイヤ滑り角演算部153と、横力演算部154とを備えている。
【0032】
垂直荷重演算部147は、状態量処理部130から取得したヨーレート、車両101の速度、および車両101の重量、車両101の重心から前後左右輪の距離などに基づき、4輪の垂直荷重をそれぞれ算出する。
【0033】
車体滑り角演算部152は、状態量処理部130から取得したヨーレート、車両101の速度、車両101の加速度(横方向、および前後方向)に基づき車両101全体の滑り角を演算する。
【0034】
タイヤ滑り角演算部153は、車体滑り角演算部152から取得した車体滑り角、状態量処理部130から取得したヨーレート、状態量処理部130から取得した各輪の実転舵角に基づき、各輪のタイヤ滑り角をそれぞれ算出する。
【0035】
横力演算部154は、垂直荷重演算部147が算出した各輪の垂直荷重、タイヤ滑り角演算部153が算出した各輪のタイヤ滑り角に基づき、各輪のタイヤ横力を算出し、横力情報として転舵角分配部143、前後力生成部149に出力する。
【0036】
前後力生成部149では、横力生成部146が生成した各輪の横力、回転方向の車両の運動方程式、前後方向の車両の運動方程式、横方向の車両の運動方程式、転舵角とタイヤ横力の関係式、転舵角とタイヤ前後力の関係式を解くことで、各輪のタイヤ前後力を演算し、前後力情報として転舵角分配部143に出力する。
【0037】
本実施の形態によれば、車両101の左右に配置される車輪のタイヤ横力が目標分配比率になるように左転舵輪110の転舵角、および右転舵輪120の転舵角に対しそれぞれフィードバック制御を行うことで、車両101の旋回限界を向上させることが可能となる。具体的には、車両101の走行状態に応じて変化するタイヤ横力、タイヤ前後力の合力が摩擦円の範囲に収まる様に、転舵角分配部143が左転舵指令値、および右転舵指令値をそれぞれ補正することにより、車両101がスピンすることなく安定した走行を確保することが可能となり、また緊急操舵時の安全性を向上させることが可能となる。
【0038】
また、左右の転舵指令値を決定するための操向指令値も状態量に基づき補正するという2つのフィードバック制御を独立して実行している。従って、例えば車両101の旋回限界を向上させつつ、操舵部材103の操舵に対応して走行経路に沿って操向するいわゆるオンザレール感覚で車両101を操舵することが可能となる。
【0039】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0040】
例えば、制御装置140は、
図4に示すように優先度調整部145を備えていてもかまわない。優先度調整部145は、走行中の車両101の挙動を示す複数の状態量の少なくとも1つに基づき車両101が所定状態にあると判断した場合に、転舵角分配部143の制御優先度に対する軌跡安定化部144の制御優先度を車両101が所定状態にない場合から変化させる。これにより、状態量処理部130から得られる状態量に基づき左転舵指令値、および右転舵指令値に対し個別にフィードバック補正を行う転舵角分配部143と、同じ状態量処理部130から得られる状態量に基づき左転舵指令値、および右転舵指令値を生成するための操向指令値に対しフィードバック補正を行う軌跡安定化部144との各制御の優先度を調整し、振動等のない滑らかな制御を実現することができる。
【0041】
優先度調整部145による優先度の調整は、例えば転舵角分配部143、および軌跡安定化部144の各時定数を変更することにより行う。具体的に例えば、優先度調整部145は、転舵角分配部143、および軌跡安定化部144の制御周期、および制御ゲインの少なくとも一方を調整することにより時定数に違いを持たせることができる。
【0042】
具体的には、所定状態とは、車両101の限界状態時を想定している。優先度調整部145は、ヨーレートや車速などに基づき車両101が限界状態にあると判断した場合、転舵角分配部143の制御周期を通常走行時よりも短くして制御優先度を高め、軌跡安定化部144の制御周期を通常走行時よりも長くして制御優先度を低める。具体的に例えば、通常走行時における転舵角分配部143の制御周期に対する軌跡安定化部144の制御周期の比を限界状態時には逆転させるように、転舵角分配部143および軌跡安定化部144の制御周期の長さを変更する。あるいは、通常走行時における転舵角分配部143の制御周期に対する軌跡安定化部144の制御周期の比が限界状態時においても逆転しない範囲内で、転舵角分配部143の制御周期を通常走行時よりも短くし、軌跡安定化部144の制御周期を通常走行時よりも長くしてもよい。なお、制御周期ではなく制御ゲイン(例えばPID制御における各ゲインの少なくとも1つ)を調整してもよい。
【0043】
また、車両101は、操舵部材103による車両101の操向をアシストするアシストモード、操舵部材103によらない自動運転を行う自動運転モードなどを備えていてもかまわない。この場合、車両101は、
図5に示すように、自動運転などを可能とする走行用センサ162と、走行用センサ162からの情報に基づき車両101の走行を制御、またはアシストする走行制御装置106を備えている。
【0044】
走行用センサ162は、車両101の自動走行に必要な情報を取得するセンサである。走行用センサ162は、特に限定されるものではなく、複数種類のセンサを含んでもかまわない。例えば、走行用センサ162としては、路面に設けられた白線などの目印の位置など走行経路を生成するための情報を取得するカメラ、地図情報における車両101の位置を取得するセンサ、前方の障害物を検知するレーダーなどを例示することができる。
【0045】
走行制御装置106は、走行用センサ162からの情報などに基づき車両101の走行を制御する。走行制御装置106は、車両101の目標車速を決定し目標車速に応じた車速指令値を駆動制御部135に出力する。また、走行制御装置106は、経路生成部161を備えている。経路生成部161は、地図情報や走行用センサ162からの情報に基づき車両101が走行するべき経路を生成し、経路情報として出力する。また、走行制御装置106は、車両101の現在位置、経路生成部161によって生成された経路情報などに基づき操向指令値を出力する。
【0046】
アシストモードや自動運転モードなどの場合、制御装置140の転舵角決定部141は、走行制御装置106が出力した操向指令値に基づき左転舵指令値、および右転舵指令値を生成する。転舵角分配部143は、アシストモードや自動運転モードなどに関わりなく、状態量に基づいて左転舵指令値、および右転舵指令値を補正する。経路取得部142は、経路生成部161から取得した経路情報に、走行制御装置106から出力される車速指令値を加えて経路情報を出力する。軌跡安定化部144は、取得した経路情報に基づき操向指令値を補正する。
【0047】
また、
図5には、軌跡安定化部144と転舵角分配部143の優先度を相対的に調整する優先度調整部145は存在していない。このような場合、軌跡安定化部144、および転舵角分配部143の少なくとも一方が状態量に基づき優先度を調整してもかまわない。
【0048】
また、本発明の技術は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読取可能な記録ディスク等の記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、および記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0049】
例えば、上記実施の形態に含まれる各処理部は典型的には集積回路であるLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)として実現される。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全てを含むように1チップ化されてもよい。
【0050】
また、集積回路化はLSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後にプログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、又はLSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。
【0051】
なお、上記実施の形態において、各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUなどのプロセッサ等のプログラム実行部が、ハードディスク又は半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0052】
また、上記構成要素の一部又は全部は、脱着可能なIC(Integrated Circuit)カード又は単体のモジュールから構成されてもよい。ICカード又はモジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAM等から構成されるコンピュータシステムである。ICカード又はモジュールは、上記のLSI又はシステムLSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、ICカード又はモジュールは、その機能を達成する。これらICカード、およびモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る技術は、各転舵輪を転舵させる機構が独立している転舵装置に有用である。
【符号の説明】
【0054】
100…転舵装置、101…車両、103…操舵部材、105…記憶装置、106…走行制御装置、110…左転舵輪、111…左転舵機構、112…左アクチュエータ、113…左転舵構造、114…左センサ、120…右転舵輪、121…右転舵機構、122…右アクチュエータ、123…右転舵構造、124…右センサ、130…状態量処理部、131…操舵角センサ、132…車速センサ、133…慣性計測装置、134…踏込センサ、135…駆動制御部、140…制御装置、141…転舵角決定部、142…経路取得部、143…転舵角分配部、144…軌跡安定化部、145…優先度調整部、146…横力生成部、147…垂直荷重演算部、149…前後力生成部、152…車体滑り角演算部、153…タイヤ滑り角演算部、154…横力演算部、161…経路生成部、162…走行用センサ