(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】絶縁劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/34 20200101AFI20230511BHJP
G01R 31/56 20200101ALI20230511BHJP
G01R 31/12 20200101ALI20230511BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
G01R31/34 D
G01R31/56
G01R31/12 A
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2019172027
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】大石 和城
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-130544(JP,A)
【文献】特開2006-138687(JP,A)
【文献】特開2018-200179(JP,A)
【文献】特開2006-180685(JP,A)
【文献】特開昭62-075361(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0030742(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0356945(US,A1)
【文献】特開2009-011054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/327-31/34、
31/12-31/20、
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧回転機の絶縁劣化診断装置であって、
前記高圧回転機の冷媒温度を検出する冷媒温度測定部と、
前記高圧回転機の内部環境を検出する回転機内環境測定部と、
前記高圧回転機の部分放電を検出する部分放電測定部と、
前記高圧回転機内の腐食性ガス濃度を検出する回転機内ガス濃度測定部と、
前記高圧回転機内の結露により生じた水分の硝酸イオン濃度を検出するイオン濃度測定部と、
前記冷媒温度、前記内部環境、前記部分放電の発生パターン、前記腐食性ガス濃度、前記硝酸イオン濃度のいずれかに基づき前記高圧回転機内の絶縁劣化を診断する診断部と
を備え、
前記診断部は、前記冷媒温度と前記内部環境とに基づき前記高圧回転機内の結露リスクを判定することを特徴とする絶縁劣化診断装置。
【請求項2】
前記診断部は、前記内部環境に基づき補正した前記部分放電の発生パターンに基づき当該部分放電に伴う異常な事象の特徴量を抽出することを特徴とする請求項1に記載の絶縁劣化診断装置。
【請求項3】
前記診断部は、前記特徴量のパターン形状、位相、大きさに基づき異常放電の発生を判定することを特徴とする請求項2に記載の絶縁劣化診断装置。
【請求項4】
前記診断部は、前記結露リスクがあると判定された場合、腐食性ガスとして検出されたアンモニア及びオゾンの生成量と結露水への吸収速度から推定した硝酸生成量の経時的な増加量に基づき前記高圧回転機の腐食リスクを警告することを特徴とする請求項
1に記載の絶縁劣化診断装置。
【請求項5】
前記診断部は、
前記高圧回転機が密閉型であれば、当該高圧回転機内にアンモニアが充満すると判断し、前記結露リスクがあると判定することを特徴とする請求項
1に記載の絶縁劣化診断装置。
【請求項6】
前記診断部は、前記結露リスクがなしであり且つ前記高圧回転機が開放型である場合、前記腐食性ガス濃度として検出されたオゾンガス濃度が規定値以上であると当該オゾンガス濃度に関するリスクを警告することを特徴とする請求項
1に記載の絶縁劣化診断装置。
【請求項7】
前記冷媒温度、前記内部環境、前記部分放電の発生パターン、前記腐食性ガス濃度、前記硝酸イオン濃度及び前記警告の履歴データを保存するデータ蓄積部を備えたことを特徴とする請求項
4または6に記載の絶縁劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧回転機の絶縁劣化を診断するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば高圧回転機の固定子コイルから発生する部分放電と、その部分放電に起因して発生するガスを検出し、固定子コイルの絶縁劣化の兆候を診断するための技術が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-267712号公報
【文献】特開2012-007924号公報
【文献】特開2019-032184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タービン用、水車用などの高圧回転機の絶縁劣化診断はオフライン(停止中)で行ってきたが、容易に停止できないインフラ設備のため、運転中でも回転機の異常を検知できる手段の実現が望まれている。
【0005】
また、高圧回転機は部分放電を許容する絶縁システムのため、部分放電による直接的な地絡や短絡事故以外にも部分放電に起因して発生する腐食性ガスが原因となる回転機内構造物損傷に伴う事故も存在する。したがって、部分放電の発生状況がどのように推移しているかを診断する技術と、部分放電によって発生した腐食性ガスの発生状況がどのように推移していくかを診断する技術が同時に必要となる。
【0006】
特許文献1~3に例示される従来の診断技術は、オンラインでも部分放電に因る絶縁劣化の診断が行えるが、部分放電に伴う異常の事象の診断がなされてない。
【0007】
本発明は、以上の事情を鑑み、高圧回転機の部分放電による絶縁劣化とこれに伴う異常な事象をオンライン診断できることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明の一態様は、高圧回転機の絶縁劣化診断装置であって、前記高圧回転機の冷媒温度を検出する冷媒温度測定部と、前記高圧回転機の内部環境を検出する回転機内環境測定部と、前記高圧回転機の部分放電を検出する部分放電測定部と、前記高圧回転機内の腐食性ガス濃度を検出する回転機内ガス濃度測定部と、前記高圧回転機内の結露により生じた水分の硝酸イオン濃度を検出するイオン濃度測定部と、前記冷媒温度、前記内部環境、前記部分放電の発生パターン、前記腐食性ガス濃度、前記硝酸イオン濃度のいずれかに基づき前記高圧回転機内の絶縁劣化を診断する診断部とを備える。
【0009】
本発明の一態様は、前記絶縁劣化診断装置において、前記診断部は、前記内部環境に基づき補正した前記部分放電の発生パターンに基づき当該部分放電に伴う異常な事象の特徴量を抽出する。
【0010】
本発明の一態様は、前記絶縁劣化診断装置において、前記診断部は、前記特徴量のパターン形状、位相、大きさに基づき異常放電の発生を判定する。
【0011】
本発明の一態様は、前記絶縁劣化診断装置において、前記診断部は、前記冷媒温度と前記内部環境とに基づき前記高圧回転機内の結露リスクを判定する。
【0012】
本発明の一態様は、前記絶縁劣化診断装置において、前記診断部は、前記結露リスクがあると判定された場合、腐食性ガスとして検出されたアンモニア及びオゾンの生成量と結露水への吸収速度から推定した硝酸生成量の経時的な増加量に基づき前記高圧回転機の腐食リスクを警告する。
【0013】
本発明の一態様は、前記絶縁劣化診断装置において、前記診断部は、前記結露リスクがなしであり且つ前記高圧回転機が密閉型である場合、前記結露リスクがあると判定する。
【0014】
本発明の一態様は、前記絶縁劣化診断装置において、前記診断部は、前記結露リスクがなしであり且つ前記高圧回転機が開放型である場合、前記腐食性ガス濃度として検出されたオゾンガス濃度が規定値以上であると当該オゾンガス濃度に関するリスクを警告する。
【0015】
本発明の一態様は、前記絶縁劣化診断装置において、前記冷媒温度、前記内部環境、前記部分放電の発生パターン、前記腐食性ガス濃度、前記硝酸イオン濃度及び前記警告の履歴データを保存するデータ蓄積部を備える。
【0016】
本発明の一態様は、高圧回転機の絶縁劣化診断方法であって、前記高圧回転機の冷媒温度、内部環境、部分放電の発生パターン、当該高圧回転機内の腐食性ガス濃度、当該高圧回転機内の硝酸イオン濃度のいずれかに基づき当該高圧回転機内の絶縁劣化を診断する。
【発明の効果】
【0017】
以上の本発明によれば、高圧回転機の部分放電による絶縁劣化とこれに伴う異常な事象もオンライン診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一態様である絶縁劣化診断装置のブロック構成図。
【
図2】前記絶縁劣化診断装置により検出される部分放電の発生パターンの一例。
【
図4】前記絶縁劣化診断装置による絶縁劣化診断の過程を説明したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0020】
図1に例示された本発明の一態様としての絶縁劣化診断装置1は、高圧回転機2の絶縁劣化を診断する。絶縁劣化診断装置1は、冷媒温度測定部11、回転機内環境測定部12、部分放電測定部13、回転機内ガス濃度測定部14、回転機内イオン濃度測定部15、診断部16及びデータ蓄積部17を備える。
【0021】
冷媒温度測定部11は、高圧回転機2の冷媒温度を検出する。
【0022】
回転機内環境測定部12は、高圧回転機2の内部環境(例えば、温度、湿度、気圧)を検出する。
【0023】
部分放電測定部13は、高圧回転機2の部分放電を検出する。
【0024】
回転機内ガス濃度測定部14は、高圧回転機2内の腐食性ガス(例えば、オゾン、アンモニア)の濃度を検出する。
【0025】
回転機内イオン濃度測定部15は、高圧回転機2内の結露により生じた水分(例えば、結露水)の硝酸イオン濃度を検出する。
【0026】
診断部16は、前記冷媒温度、前記内部環境、前記発生パターン、前記腐食性ガス濃度及び前記硝酸イオン濃度に基づき前記高圧回転機の絶縁劣化とこれに伴う異常な事象を診断し、これに基づく警告を行う。
【0027】
データ蓄積部17は、前記冷媒温度、前記内部環境、前記発生パターン、前記腐食性ガス濃度及び前記硝酸イオン濃度並びに前記診断の結果の履歴データを保存する。
【0028】
以下に具体的な診断例について説明する。
【0029】
1.高圧回転機2内の結露状況の監視
開放型/密閉型の違いによらず、高圧回転機2内では固定子及び回転子を冷却するために運転中は常に冷媒(水または空気)が高圧回転機2内に供給される。特に、夏場では空気中の水分が非常に多く、過剰に冷却することにより熱交換部位で結露する場合が多い。この現象は密閉型でも起こりえる(完全密閉ではないため呼吸作用により各部品の隙間から高湿度の空気が混入する)。
【0030】
結露した水滴は空気の流れにのり高圧回転機2内を巡り、空気の流れがよどんだ部分や温度の低い部品表面に付着する。そして、水滴中に放電起因のガス(アンモニア、オゾン)が溶解し硝酸が発生することで結露した部位が腐食する。このことから高圧回転機2内で結露が生じているかどうかを判断することは非常に重要である。
【0031】
絶縁劣化診断装置1は以下の過程により高圧回転機2内の結露状況を診断する。
【0032】
S101:回転機内環境測定部12は、高圧回転機2内の温度、湿度及び気圧の測定値に基づき露点温度を算出する。
【0033】
S102:冷媒温度測定部11は、高圧回転機2の冷媒温度を検出する。
【0034】
S103:診断部16は、前記冷媒温度が前記露点温度を下回る場合、高圧回転機2内で結露が生じていると判断し、その警告を発する。
【0035】
2.高圧回転機2内の部分放電発生状況の監視
図2は高圧回転機2の固定子コイルの対地絶縁部位で生じる部分放電の発生パターンを示す。U,V,Wの3相のうち、U相の部分放電(PD)の発生パターンを示す。このパターンを得ることにより、以下の(1)~(4)の絶縁状態を判断できる。
【0036】
(1)主絶縁層内のボイド放電
通常、固定子コイルは電線の周囲に主絶縁層を設け、レジン含浸して形成される。レジン含浸時に極小のボイドが形成され、このボイド内で部分放電が発生する。通常、このボイドは非常に小さく(空間ギャップの目安:数μm~数十μm)、放電量もわずかであることからすぐに絶縁破壊するまでには至らない。しかし、長期間放電が継続すると以下の「層間剥離」に進行する。
【0037】
(2)層間剥離(電線側)
長期的なボイド放電や絶縁層の機械的/熱的な損傷により絶縁層内部で剥離が生じると、比較的大きな空間ギャップ(空間ギャップの目安:数十μm~数百μm)が生じ、ボイド放電よりも大きな放電が発生する。
【0038】
(3)スロット放電
絶縁層の外側にある電界緩和層(低抵抗層)の消失やレジンの枯れが進行するとスロット内に隙間が生じ、負極性(0~180°)よりも正極性(180~360°)のタイミングで非常に大きな放電が生じる。特に、180~240°の範囲に急峻な放電パターンが得られることが多い。
【0039】
(4)高抵抗層異常(コイルエンド、溝外直線部)
スロットから出たコイルは電界緩和のために、スロット出口からある一定距離まで高抵抗層を形成し、スロット出口付近での異常放電を低減する。この高抵抗層の形成方法が不十分な状況、特にスロット内の低抵抗層と高抵抗層が接触不良になるとこの放電が発生する。この放電は電線/スロットの電位と高抵抗層端部の電位に位相差が生じることによりボイド放電などとは逆極性の放電となる。
【0040】
部分放電のパターンは、例えば
図3に示された以下の過程により作成されて経時的にデータ蓄積部17に保存される。
【0041】
S201:1サイクル目、2サイクル目、・・・、Nサイクル目の電位変化と部分放電の測定値を得る。
【0042】
S202:1秒ごとまたは任意の秒数毎にS201のデータを重ね合わせ、位相パターンと頻度のパターンを計算する。
【0043】
S203:さらに、N秒又はN分毎に重ね合わせて代表的な位相パターンと頻度のパターンを作成し保存する。
【0044】
S204:以上の操作を繰り返し、数年間の部分放電のパターンがデータ蓄積部17に保存される。
【0045】
S205:前記蓄積された部分放電のパターンから、
図2に示される特徴量を抽出し、(2)~(4)のいずれかに該当する異常放電を検出して警告を発する。
【0046】
3.高圧回転機2内のガス発生状況の監視
固定子コイルの絶縁が健全である場合、コイル絶縁部(スロット内外)に部分放電が発生するとNOX及びアンモニアが発生する。前記絶縁部の劣化が進み、オゾンが発生しだすとオゾンによりNOX及びアンモニアが酸化されるが、湿度が高いとアンモニアの発生量が多くなり、常時アンモニアが残存する。表1はこの状態を経日的に示すもので、露点温度が10℃を超えるとオゾンとアンモニアとが共存することとなる。同表に示された温度、湿度は加温しているコイル周辺の環境における測定値である。
【0047】
【0048】
また、オゾン、アンモニアは部分放電の電荷量として1万pC以上であれば常時観測される。オゾンは劣化初期の段階では主絶縁層の表面を覆っている電界緩和層(低抵抗層:スロット内、高抵抗層:スロット外の溝外直線部)が部分放電や熱劣化により剥離及び消失することにより発生し始める。そのオゾン発生量は電界緩和層の剥離面積(または剥離部分の縁部の長さ)に依存して多くなる。
【0049】
さらに、劣化が進むと部分放電や熱劣化により主絶縁層の厚みが減少するので、より局所的に大きな部分放電が発生し始め、これに伴い、オゾンやアンモニアの発生量が増えていく。
【0050】
したがって、高圧回転機2の絶縁劣化の状況を判断するためには高圧回転機2内のオゾンとアンモニアの発生量を把握すればよい。
【0051】
4.高圧回転機2内の硝酸の発生状況の監視
高圧回転機2内の結露により結露水が発生し、さらに、オゾン及びアンモニアの発生が長期間継続すると、結露水にオゾン及びアンモニアが溶解し、亜硝酸イオンの生成を経て硝酸イオンが生成される。以下に硝酸が生成されるプロセスについて説明する。
(1)アンモニアの溶解
結露水の水滴付近に滞留するアンモニア(NH3)のガスが水滴に溶けると、以下の反応により、当該水滴のアンモニウムイオン濃度が増加する。このとき前記水滴はアルカリ性(例えば、pH8.0)となる。
【0052】
NH3+H2O→NH4
++OH-
(2)オゾンの溶解
オゾン(O3)は、水滴表面付近に溶解しているアンモニアとの以下の反応により、亜硝酸イオン(NO2
-)を生成させる。亜硝酸は弱酸性であるので、水滴は酸性(pH6.0~6.5)となる。
【0053】
NH3+O3→NO2
-+H++H2O
また、水滴表面においてアンモニア分子(NH3)とアンモニウムイオン(NH4
+)とが一定比率で存在する場合、以下の平衡反応により、消費したアンモニアを補給するようにアンモニウムイオンからアンモニアに変化する。
【0054】
NH4
++OH-→NH3+H2O
放電によりオゾン及びアンモニアが連続的に供給されると、上述のオゾン及びアンモニアの溶解が常に起こり、時間の経過と共にpHの変化(6~8)や亜硝酸イオンの濃度が高くなっていく現象が生じる。
(3)オゾンの供給量が増加
オゾンの供給量が増加すると、アンモニウムイオンとの反応以外にも、亜硝酸イオンとの以下の反応が起こり、硝酸イオンが生成される。
【0055】
NH3+O3→NO2
-+H++H2O
NO2
-+O3→NO3
-+O2
硝酸生成反応とは直接関係ないが、結露水の水質を変化させる以下の現象も生じる。
(4)二酸化炭素(CO2)の溶解
二酸化炭素は水滴に溶けると当該水滴は弱酸性(pH6.5)となる。
【0056】
5.絶縁劣化診断
高圧回転機2の運転が開始されると診断部16は以下の絶縁劣化診断過程を実行する。
【0057】
S1:部分放電測定部13から部分放電の発生パターンを取得する。
【0058】
S2:回転機内環境測定部12から環境パラメータを取得する。前記環境パラメータとしては、例えば、高圧回転機2内温度、湿度、気圧、露点温度が取得される。
【0059】
S3:前記取得された環境パラメータに基づき前記発生パターンの補正を行う。前記発生パターンは、
図3の通りに行えば得られるが、部分放電の発生パターンは、環境パラメータ(温度、湿度、気圧)により変わるので、補正が必要となる。そして、この補正された部分放電の発生パターンに基づき例えば
図2に示した4つの特徴量((1)主絶縁層内のボイド放電、(2)層間剥離、(3)スロット放電、(4)高抵抗層異常)が抽出される。
【0060】
S4:前記特徴量のパターン形状、位相、大きさを計算して異常放電の発生を判定する。
【0061】
S5:前記異常放電の発生が判断されると、絶縁異常を警告する信号を出力する。例えば、前記形状及び位相のずれ、放電量の増加(例えば、推定放電電荷量1万pC以上)が生じると、異常放電と判定される。
【0062】
S6:回転機内ガス濃度測定部14からアンモニアガス及びオゾンガスの濃度の測定値を取得する。
【0063】
S7:冷媒温度測定部11から取得された冷媒温度から結露リスクを判定する。結露リスクは上述のS103により判定される。
【0064】
S8:前記結露リスクがないと判定された場合、高圧回転機2の構造が開放型であれば、アンモニア及びオゾンは外部へ排気されるので、硝酸生成のリスクは非常に小さく、硝酸発生に関する項目を除外できる。一方、結露リスクなしであっても、前記構造が密閉型であれば、高圧回転機2内にアンモニアが充満し、結露が発生した瞬間に大量のアンモニアが結露水に吸収されて硝酸に変わるので、結露リスクありと判定する。
【0065】
S9:前記結露リスクがあると判定された場合、結露水に溶け込むアンモニア量を推定するために、アンモニア生成量を積算する。
【0066】
S10:前記取得されたオゾン濃度の測定値が規定値以上(0.1ppm)以上であれば高濃度の硝酸が生成されるリスクが非常に大きいと判断する。
【0067】
S11:回転機内イオン濃度測定部15から高圧回転機2内の結露水の硝酸イオン濃度を取得して硝酸生成量を推定する。前記結露水は高圧回転機2内で結露しやすい個所に予め設置されたパイプや吸引手段から回転機内イオン濃度測定部15に供される。尚、結露水を直接採取できない場合、下記のS12と同様にアンモニア及びオゾンの発生量と結露水への吸収速度から硝酸生成量が推定される。
【0068】
S12:前記オゾン濃度の測定値が規定値未満である場合、アンモニア及びオゾンの発生量と結露水への吸収速度から硝酸生成量を推定する。
【0069】
S13:前記推定された硝酸生成量の時間的増大(増加量)に応じて腐食リスクの警告を出力する。
【0070】
S14:高圧回転機2が結露リスクなし及び開放型の構造であっても、オゾン濃度が管理基準を超えると人体的に大きな影響を与える。そこで、高圧回転機2内のオゾンガス濃度が回転機内ガス濃度測定部14により監視される。
【0071】
S15:前記監視されたオゾン濃度の測定値が管理基準以上であると判定されると、オゾン濃度に関する警告を出力する。
【0072】
S16:前記監視されたオゾン濃度の測定値が管理基準未満であると判定されると、高圧回転機2は正常であるとみなされる。
【0073】
S17:以上のS1~S16により得られた結果及び警告の履歴はデータ蓄積部17に保存される。その後、S1に戻る。尚、測定及び推定されたデータは長期間(数年~数十年)保存され、過去データの比較用として適宜に利用される。
【0074】
以上の絶縁劣化診断装置1によれば、高圧回転機2の部分放電の発生パターンにより固定子コイルの様々な絶縁劣化(例えば、
図2で示す異常な部分放電に基づく劣化)を高圧回転機2が稼動中のオンラインで把握できる。さらには、部分放電に起因する高圧回転機2内におけるオゾン発生状況(電界緩和層の異常、主絶縁層の劣化)や硝酸生成による回転機の構成部材の腐食や脱落等へのリスク(結露状況やアンモニア発生量からの硝酸生成量)等のその他の異常な事象を推定できる。また、高圧回転機2の仕様(例えば、密閉型,開放型)に応じた異常な事象の診断も行える。
【符号の説明】
【0075】
1…絶縁劣化診断装置、11…冷媒温度測定部、12…回転機内環境測定部、13…部分放電測定部、14…回転機内ガス濃度測定部、15…回転機内イオン濃度測定部、16…診断部、17…データ蓄積部
2…高圧回転機