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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】有機物の可溶化促進装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/00 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
C02F11/00 A ZAB
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019205125
(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公開番号】P2021074695
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁則
(72)【発明者】
【氏名】金 志勲
(72)【発明者】
【氏名】冨田 洋平
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-098249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/00-34、11/00-20
B09B1/00-5/00
B09C1/00-10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状物質中に含まれる有機物の可溶化を促進する有機物の可溶化促進装置であって、
前記液状物質を加温する加温装置と、該加温装置で加温された液状物質を流通させて該液状物質にキャビテーションを発生させるのど部を有する流体ノズルと、該流体ノズルにおけるキャビテーション発生領域である前記のど部及び/又はその近傍において流路断面の接線方向または半径方向に噴射するように設けられた蒸気を音速以上の速度で注入する蒸気注入ノズルと、を備えたことを特徴とする有機物の可溶化促進装置。
【請求項2】
前記流体ノズルは、のど部を有するベンチュリ管型ノズルであり、前記蒸気注入ノズルは、前記のど部及び/又は下式(1)で規定される前記流体ノズルにおけるキャビテーション発生領域である流路断面積Aの位置に設けられていることを特徴とする請求項1記載の有機物の可溶化促進装置。
Ath≦A≦Q×(0.5×ρ÷ΔP) 0.5 ・・・(1)
但し、Ath:のど部の流路断面積
A :キャビテーション発生領域の流路断面積
Q :液状物質の流量
ρ :液状物質の密度
ΔP:ベンチュリ管型ノズル出口圧力と液状物質の飽和蒸気圧との圧力差
【請求項3】
前記蒸気注入ノズルは、先細部から末広部までノズル内部が連続した一体型のラバール型ノズルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機物の可溶化促進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥等に含まれる微生物等の有機物の可溶化を促進する有機物の可溶化促進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥中の微生物の細胞壁を破壊して可溶化を促進する技術として、例えば特許文献1には、処理対象である汚泥を60~95℃に加熱し、さらに汚泥にキャビテーションを発生させることが開示されている。
また、特許文献2には、加熱された有機残渣にCO2など不凝縮性ガスからなるマイクロバブルを接触させ、マイクロバブルの圧壊で有機残渣の可溶化を促進することが開示されている。
【0003】
また、有機物の可溶化を促進する装置ではないが、特許文献3には、ベンチュリ管型ノズルに半径方向かつ下流側方向の複数位置に蒸気孔を多数設け、ベンチュリ管型ノズルにLNGを流通させ、かつ前記蒸気孔からLNGの蒸発ガスを注入して蒸発ガスをLNGに接触させることで効率的に再液化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-195421号公報
【文献】特開2017-121603号公報
【文献】特開2016-183781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたように液状物質を加温すると共にキャビテーションを発生させることや、これに加えて特許文献2に開示されたように不凝縮性ガス注入によるマイクロバブルを発生させる処理を行うようにすれば、各処理を単独もしくはいずれか2種類の処理を施す場合に比べてより大きな可溶化効果が期待できる。
そして、流路を縮小させた後に拡大させるベンチュリ管型の流体ノズルは、上記のような加温、キャビテーション発生、不凝縮性ガス注入によるマイクロバブル発生の全ての処理を同時に組み込む装置として適用できる。
【0006】
しかしながら、処理対象となる液状物質にキャビテーションを発生させ、これに加えて不凝縮性ガス注入によるマイクロバブル処理を行うものでは、液状物質が気液二層流となって流れることなる。このような気液二相流が生じる流れ場にベンチュリ管型の流体ノズルを適用した場合、その圧力損失は同一流速の液単相流の場合よりも大きくなり、ベンチュリ管型の流体ノズルを流通させるための装置(電力駆動のポンプや蒸気駆動のインジェクタなど)の消費エネルギーが増大してしまうという問題が生じる。
【0007】
この点、不凝縮性ガスに代えて凝縮性ガスでマイクロバブルを発生させることが考えられる。凝縮性ガスをベンチュリ管型の流体ノズルに吹き込むようにしたものとして、前述の特許文献3が挙げられる。特許文献3のベンチュリ管型の流体ノズルは、多数分散配置した蒸気孔から凝縮性の蒸発ガスを吸引し、ベンチュリ管型の流体ノズル内を流れる低温液体と混合する装置である。
【0008】
しかし、特許文献3のベンチュリ管型の流体ノズルは、蒸気孔が多数あるため各蒸気孔から吸引される蒸発ガスの流速は小さく、噴出した蒸発ガスは低温流体に接して直ちに凝縮する。
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、消費エネルギーを増大させることなく、汚泥等に含まれる有機物の可溶化を効率的に促進できる有機物の可溶化促進装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る有機物の可溶化促進装置は、液状物質中に含まれる有機物の可溶化を促進するものであって、
前記液状物質を加温する加温装置と、該加温装置で加温された液状物質を流通させて該液状物質にキャビテーションを発生させる流体ノズルと、該流体ノズルにおけるキャビテーション発生領域に蒸気を音速以上の速度で注入する蒸気注入ノズルと、を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記流体ノズルは、のど部を有するベンチュリ管型ノズルであり、前記蒸気注入ノズルは、前記のど部及び/又はその近傍に設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記流体ノズルは、のど部を有するベンチュリ管型ノズルであり、前記蒸気注入ノズルは、前記のど部及び/又は下式(1)で規定される流路断面積Aの位置に設けられていることを特徴とするものである。
Ath≦A≦Q×(0.5×ρ÷ΔP) 0.5 ・・・(1)
但し、Ath:のど部の流路断面積
A :キャビテーション発生領域の流路断面積
Q :液状物質の流量
ρ :液状物質の密度
ΔP:ベンチュリ管型ノズル出口圧力と液状物質の飽和蒸気圧との圧力差
【0013】
(4)また、上記(1)乃至(3)に記載のものにおいて、前記蒸気注入ノズルは、ラバール型ノズルであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、液状物質を加温する加温装置と、該加温装置で加温された液状物質を流通させて該液状物質にキャビテーションを発生させる流体ノズルと、該流体ノズルにおけるキャビテーション発生領域に蒸気を音速以上の速度で注入する蒸気注入ノズルを備えたことにより、キャビテーションと蒸気により発生するマイクロバブルによって液状物質中の有機物の可溶化が促進される。また、残留したマイクロバブルは凝縮により消失するので、液状物質はほぼ液単層流となり、圧力損失が大きくなることがないので、消費エネルギーを増大させることなく、汚泥等に含まれる有機物の可溶化を効率的に促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る有機物の可溶化促進装置の説明図である。
図2図1に示した可溶化促進装置における蒸気注入ノズルの取付態様の説明図である。
図3図1に示した可溶化促進装置における蒸気注入ノズルの他の態様の説明図である。
図4】本実施の形態の可溶化促進装置における蒸気注入ノズルの他の取付態様の説明図である。
図5】本実施の形態の可溶化促進装置における流体ノズルの他の態様の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施の形態に係る有機物の可溶化促進装置1は、液状物質中に含まれる有機物の可溶化を促進する装置であって、図1に示すように、液状物質を加温する加温装置3と、加温装置3で加温された液状物質を流通させて該液状物質にキャビテーションを発生させる流体ノズル5と、流体ノズル5におけるキャビテーション発生領域7に蒸気を音速以上の速度で注入する蒸気注入ノズル9を備えたことを特徴とするものである。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0017】
<有機物>
有機物は、例えば排水処理施設等で発生する余剰汚泥、濃縮汚泥等の液状物質に含まれる微生物やその他の有機物である。
【0018】
<加温装置>
加温装置3は、液状物質を例えば60~95℃に加温するための装置であり、温水との熱交換によって加温するものなどが挙げられる。
【0019】
<流体ノズル>
流体ノズル5は、有機物を含む液状物質を流通させてキャビテーションを発生させる装置である。キャビテーションは流体が持つ静圧がその流体の飽和蒸気圧より低い時に発生する。また、流体が水の場合は液温が高いほど飽和蒸気圧は高い。本実施の形態では、口径を絞って静圧を動圧に変換する圧力降下を利用してキャビテーションを発生できる流体ノズル5として、図1に示すようなベンチュリ型ノズルを用いている。
【0020】
ベンチュリ型ノズルにおけるキャビテーションの発生原理からすると、液温が低ければ飽和蒸気圧が低いため、キャビテーションを発生させるためには流速を速くする必要がある。しかし、流速が速くなると圧力損失も大きくなるため、必要なノズル流入圧も大きくなる。
そこで、本実施の形態では、図1に示すように、加温装置3で液状物質を加温して流体ノズル5に供給することにより、流速を速くすることなく、換言すればノズル流入圧を大きくすることなくキャビテーションを容易に発生させることができる。
【0021】
<蒸気注入ノズル>
蒸気注入ノズル9は、流体ノズル5におけるキャビテーション発生領域7に蒸気を音速以上の速度で注入するノズルであり、本実施の形態では、図1の拡大図に示すように、先端側が細くなった先細形ノズルを用いている。
また、蒸気注入ノズル9は、図2に示すように、キャビテーション発生領域7において、当該領域の流路断面の接線方向に噴射するように設置している。
流体ノズル5におけるキャビテーション発生領域7は、流体ノズル5がベンチュリ型ノズルの場合、のど部11及びその近傍であり、近傍とは例えばベンチュリ型ノズルの流路断面積が液状物質の流量と密度と圧力の関係で式(1)で表される範囲であり、より好ましくはキャビテーションが強力に生じる式(2)で表される範囲である。
Ath≦A≦Q×(0.5×ρ÷ΔP) 0.5 ・・・(1)
Ath≦A≦Q×(0.4×ρ÷ΔP) 0.5 ・・・(2)
ここで、Athはのど部の流路断面積、Aはキャビテーション発生領域の流路断面積、Qは液状物質の流量、ρは液状物質の密度、ΔPはベンチュリ管型ノズル出口圧力と液状物質の飽和蒸気圧との圧力差、である。
【0022】
蒸気は、図1に示すように、例えばボイラー13で発生したものを用いる。蒸気注入ノズル9から、キャビテーション発生領域7に蒸気を音速以上の速度で注入することで、マイクロバブルが発生する。この原理を以下に説明する。
なお、蒸気は処理流体中に全量凝縮もしくは全量溶解する気体であれば、水蒸気以外のものでもよい。
【0023】
一般に、液体中に気体を噴出させると、液体と気体の間の流体力の作用で気泡が発生し分裂する。液体と気体の流速差が大きいほど液体と気体の間で作用する流体力は大きくなり、気泡は分裂しやすく小径化する。
【0024】
一方、常温常圧の水にボイラーなどで発生させた蒸気を噴出させた場合、蒸気は凝縮して水となりやすく、十分な気泡の発生と分裂は難しい。
しかし、例えば60~95℃に加温された処理流体を、流体ノズル5に流通させてキャビテーションを発生させる場合、その領域は処理流体の飽和蒸気圧以下の低圧で沸騰状態にあることから、その領域に蒸気を噴出させても蒸気は凝縮しない。
【0025】
また、キャビテーション発生領域7の圧力は、ボイラー13などで発生させた蒸気との圧力差が大きく、この圧力差を利用して蒸気を音速以上に膨張加速させて、キャビテーションが発生している処理流体中に蒸気を高速で吹き込むことができる。
キャビテーション発生領域7に吹き込まれた蒸気は処理流体中で凝縮せず、また高速であるため処理流体との間の流体力の作用で気泡となって分裂し、マイクロバブルとなる。
【0026】
吹き込まれた蒸気から発生したマイクロバブルは、ベンチュリ管型ノズルの流路が拡大し圧力が回復する過程で圧壊し、有機物の可溶化作用を発揮する。このため、蒸気を注入せずに液体のキャビテーションのみの場合と比べて気泡の圧壊頻度は多くなるため、有機物の可溶化が促進される。
【0027】
また、蒸気は処理流体に対して凝縮性があるので、圧壊せずに残留したマイクロバブルは凝縮により消失する。このため、液状物質はほぼ液単層流となり、圧力損失が大きくなることがないので、消費エネルギーを増大させることがない。
なお、処理流体および注入した蒸気中に含まれるガス(主には空気)の一部は気泡のまま残るがその量は僅かであり、またいずれ溶解して消滅する。
【0028】
以上のように構成された有機物の可溶化促進装置1においては、例えば排水処理施設等で発生する余剰汚泥等の液状物質を、加温装置3で60~95℃に加温して、例えば、流速5~30m/sで流体ノズル5に供給する。供給された、液状物質は、のど部11において飽和蒸気圧となる。一方、蒸気注入ノズル9から蒸気圧力がのど部11の飽和蒸気圧の約2倍以上の圧力で蒸気を注入する。
注入された蒸気は、マイクロバブルとなり、流体ノズル5で発生したキャビテーションと共にその圧壊により有機物を可溶化する。
もっとも、マイクロバブルは、凝縮性の蒸気によって発生したものであり、その気泡はベンチュリ型ノズルの拡大流路の領域で圧壊し、処理流体は概ね液単相流となり、大きな圧力損失を生ずることなく、下流側に流通する。
【0029】
以上のように本発明においては、流体ノズル5のキャビテーション発生領域7に蒸気を高速で吹き込むことで、マイクロバブルを追加的に発生させて圧壊させ、後流で蒸気が凝縮して液単相流になることから、可溶化の促進を比較的低エネルギー消費で実現できる。
【0030】
なお、蒸気注入ノズル9の形状は、図1に示した先細型に限られず、図3(a)に示すようなストレート型や、図3(b)に示す先細末広型(ラバール型)などが適用できる。ラバール型ノズルの場合には、蒸気を超音速で噴出させやすことからより好ましい。
また、蒸気注入ノズル9から蒸気を噴出する方向は、図2に示した流体ノズル断面の接線方向に限られず、図4に示すように、流体ノズル断面の半径方向であってもよい。
また、蒸気注入ノズル9の数は、音速以上で噴出できる条件においては単数でも複数でもよい(1~4個程度が望ましい)。蒸気注入ノズル9を複数設ける場合には、流体ノズル5における同一断面に設けてもよく、流路方向にずれた異なる断面に設けてもよい。
【0031】
また、流体ノズル5としてベンチュリ型ノズルを用いた場合において、ベンチュリ型ノズルにおけるのど部11の下流側の流路が拡大する領域の内面形状は、図1に示すような、平坦な形状であってもよいが、図5に示すように、流路がステップ状に拡径するような形状であってもよい。
流路がステップ状に拡径する場合、段部において蒸気が分裂してより微細なマイクロバブルとなり、気泡の数が増すことから気泡の圧壊による可溶化促進効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 可溶化促進装置
3 加温装置
5 流体ノズル
7 キャビテーション発生領域
9 蒸気注入ノズル
11 のど部
13 ボイラー
図1
図2
図3
図4
図5