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  • 特許-産業車両の油圧駆動装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】産業車両の油圧駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20230511BHJP
   B66F 9/22 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
F16D48/02 680
B66F9/22 X
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019206261
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021080938
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 啓介
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-25960(JP,A)
【文献】実開平5-12762(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00-39/00,48/00-48/12
B66F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記エンジンの出力をトランスミッションのギヤに伝達または遮断するクラッチと、
前記油圧ポンプからの作動油を前記クラッチへ導くクラッチ制御油路と、
前記クラッチ制御油路に設けられ、前記クラッチ制御油路の作動油を調圧して前記クラッチをインチング状態とするインチングバルブと、
前記油圧ポンプからの作動油をトルクコンバータへ導くトルコン油路と、
前記トルクコンバータを通過した作動油を冷却器へ導き、前記冷却器により冷却された作動油を前記クラッチへ導くクラッチ冷却用のクラッチ冷却油路と、を有する産業車両の油圧駆動装置において、
前記クラッチ制御油路と前記クラッチ冷却油路とは別の油路であり、
前記インチングバルブの位置で前記クラッチ制御油路から分岐して前記クラッチ冷却油路接続され、インチング時に作動油の一部を前記インチングバルブから前記クラッチ冷却油路へ導く導通油路を備え、
前記導通油路には、前記クラッチ冷却油路に対する接続前位置に、前記インチングバルブへの逆流を防止する逆止弁と、前記導通油路における前記逆止弁と前記インチングバルブとの間に接続されるドレン油路と、前記ドレン油路に設けられ、前記導通油路の残圧を開放する残圧開放器と、が設けられていることを特徴とする産業車両の油圧駆動装置。
【請求項2】
前記導通油路は、前記クラッチ冷却油路における前記冷却器の出口側に接続されることを特徴とする請求項1記載の産業車両の油圧駆動装置。
【請求項3】
前記残圧開放器はオリフィスであることを特徴とする請求項1又は2記載の産業車両の油圧駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、産業車両の油圧駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、産業車両であるエンジン式フォークリフトでは、エンジンの動力がトルクコンバータを介してトランスミッションに伝達される。そして、この種のエンジン式フォークリフトは、通常、インチングバルブを設けた油圧駆動装置を有している。インチングバルブは、クラッチに供給される作動油の圧力(流量)を制御することにより、クラッチをインチング(半クラッチ)状態とし、フォークリフトによる荷役の作業性を向上させたり、発進や停止を円滑にしたりする。この種のエンジン式フォークリフトは、トルクコンバータにおいて使用された作動油を用いてクラッチを冷却するように構成されていることがある。この場合、インチング状態ではクラッチが発熱するのでクラッチを冷却するための作動油の流量を増大させることが好ましい。
【0003】
ところで、産業車両の油圧駆動装置に関する従来の技術としては、例えば、特許文献1に開示されたクラッチ油圧制御装置が知られている。特許文献1に開示されたクラッチ油圧制御装置では、インチングバルブのインチング操作時にクラッチに供給される圧力流体の圧力を減少させるためにインチングバルブから余剰油として流出される一部の圧力流体をクラッチへ潤滑油として送油させる構成を採用している。具体的には、インチングバルブにおける流出ポート中の第3の流出ポートに接続された管路は、圧力流体を潤滑油としてクラッチに導くための副潤滑管路となっている。
【0004】
したがって、インチング操作時において、インチングバルブから副潤滑管路へ流出された一部の圧力流体は、前後進クラッチへ潤滑油として送り込まれる。そのため、前後進クラッチにはトルクコンバータから潤滑管路を介して送り込まれる本来の潤滑油のほか、余剰油としての圧力流体が流入されることになり、発熱量の最も多い半クラッチ状態の前後進クラッチの潤滑及び冷却が効果的に行われる。つまり、特許文献1に開示されたクラッチ油圧制御装置によれば、半クラッチ状態のときに限りクラッチに供給する潤滑油量を増量できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実願平03-67715号(実開平05-12762号)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたクラッチ油圧制御装置では、インチング操作時において、圧力流体がインチングバルブから副潤滑管路を通じて前後進クラッチへ送り込まれるが、その後にも副潤滑管路に圧力流体が残存する。圧力流体が副潤滑管路に残存したままであると、インチングバルブをクラッチから圧力流体を戻す位置に操作しても、副潤滑管路に残存した圧力流体の残圧は、クラッチの圧力流体がインチングバルブへ戻ることを妨げる。このため、インチングバルブの操作に対するクラッチの応答性を低下するという問題がある。また、前後進クラッチにはトルクコンバータから潤滑管路を介して送り込まれる本来の潤滑油が副潤滑管路を逆流するおそれがあり、副潤滑管路における圧力流体は逆流インチングバルブの操作に対するクラッチの応答性を低下させる。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、作動油によるクラッチの冷却性向上とインチングバルブの操作に対するクラッチの優れた応答性とを両立させることが可能な産業車両の油圧駆動装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、エンジンにより駆動される油圧ポンプと、前記エンジンの出力をトランスミッションのギヤに伝達または遮断するクラッチと、前記油圧ポンプからの作動油を前記クラッチへ導くクラッチ制御油路と、前記クラッチ制御油路に設けられ、前記クラッチ制御油路の作動油を調圧して前記クラッチをインチング状態とするインチングバルブと、前記油圧ポンプからの作動油をトルクコンバータへ導くトルコン油路と、前記トルクコンバータを通過した作動油を冷却器へ導き、前記冷却器により冷却された作動油を前記クラッチへ導くクラッチ冷却用のクラッチ冷却油路と、を有する産業車両の油圧駆動装置において、前記クラッチ制御油路と前記クラッチ冷却油路とは別の油路であり、前記インチングバルブの位置で前記クラッチ制御油路から分岐して前記クラッチ冷却油路接続され、インチング時に作動油の一部を前記インチングバルブから前記クラッチ冷却油路へ導く導通油路を備え、前記導通油路には、前記クラッチ冷却油路に対する接続前位置に、前記インチングバルブへの逆流を防止する逆止弁と、前記導通油路における前記逆止弁と前記インチングバルブとの間に接続されるドレン油路と、前記ドレン油路に設けられ、前記導通油路の残圧を開放する残圧開放器と、が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、インチング時には、油圧ポンプからインチングバルブに供給される作動油の一部は、導通油路を通じてインチングバルブからクラッチ冷却油路へ導かれ、クラッチ冷却油路の作動油と合流してクラッチを冷却する。このため、エンジンが低回転であって油圧ポンプが供給する作動油が少ない場合であっても、クラッチを冷却するための作動油量を確保することができる。また、導通油路における逆止弁とインチングバルブとの間に接続されるドレン油路と残圧開放器は、インチング時以外の状態では、導通油路の作動油を排出することができる。このため、インチングバルブの操作に対するクラッチの優れた応答性を保つことができる。
【0010】
また、上記の産業車両の油圧駆動装置において、前記導通油路は、前記クラッチ冷却油路における前記冷却器の出口側に接続される構成としてもよい。
この場合、インチング時に導通油路を通る作動油は、クラッチ冷却油路における冷却の作動油と合流されてからクラッチを冷却することができる。
【0011】
また、上記の産業車両の油圧駆動装置において、前記残圧開放器はオリフィスである構成としてもよい。
この場合、残圧開放器がオリフィスであるから、ドレン油路の開閉制御も不要であり、しかも製作コストを抑制できる残圧開放器を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、作動油によるクラッチの冷却性向上とインチングバルブの操作に対するクラッチの優れた応答性とを両立させることが可能な産業車両の油圧駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係るフォークリフトの油圧駆動装置の油圧回路図である。
図2】(a)はエンジン回転数と主圧との関係を示すグラフ図であり、(b)はエンジン回転数と冷却器に導かれる作動油量との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、第1の実施形態に係る産業車両の油圧駆動装置について図面を参照して説明する。本実施形態の産業車両は、内燃機関を走行駆動源とするエンジン式フォークリフトである。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のエンジン式フォークリフト(以下、単に「フォークリフト」と表記する)は、エンジン10と、トルクコンバータ11と、トランスミッション12と、を有する。エンジン10は、トルクコンバータ11と接続される出力軸13を備えている。
【0016】
トルクコンバータ11は、ポンプ(図示せず)とタービン(図示せず)を備えている。トルクコンバータ11のポンプはトルクコンバータ11に封入されている作動油をタービンに送り込むための要素であり、出力軸13と連結されている。トルクコンバータ11のタービンはポンプから送り込まれた流体の運動エネルギーを回転運動に変換し、回転動力を得るための要素である。トルクコンバータ11は、作動油の入口11Aおよび作動油の出口11Bを有する。トランスミッション12は、トルクコンバータ11と連結された入力軸14のほか、車軸(図示せず)と連結される出力軸15を備えている。
【0017】
入力軸14には前進クラッチ16および後進クラッチ17が設けられている。前進クラッチ16と出力軸15の間にはギヤ列18が設けられ、後進クラッチ17と出力軸15との間にはギヤ列19が設けられている。前進クラッチ16は、入力軸14とギヤ列18とを接続したり解除したりする。後進クラッチ17は、入力軸14とギヤ列19とを接続したり解除したりする。つまり、前進クラッチ16および後進クラッチ17は、エンジン10の出力をトランスミッション12のギヤ列18、19に伝達または遮断する。入力軸14の回転は前進クラッチ16のギヤ列18又は後進クラッチ17のギヤ列19を介して出力軸15に伝達される。フォークリフトの前後進の切り替えは、ディレクションレバー(図示せず)の操作により操作される前後進切替バルブ26により行われる。
【0018】
図1に示すエンジン式フォークリフトの油圧駆動装置(以下、単に「油圧駆動装置」と表記する)20は、エンジン10により駆動される油圧ポンプ21を備えている。油圧ポンプ21は、一方向に回転可能であり、作動油を吸い込むための吸込口21Aと、作動油を吐出するための吐出口21Bと、を有している。油圧ポンプ21の吸込口21Aには、作動油を貯留するタンク24が作動油流路25を介して接続されている。
【0019】
油圧ポンプ21の吐出口21Bと前後進切替バルブ26とは、作動油流路27を介して接続されている。前後進切替バルブ26と前進クラッチ16とは、作動油流路28を介して接続され、前後進切替バルブ26と後進クラッチ17とは、作動油流路29を介して接続されている。作動油流路27における油圧ポンプ21と前後進切替バルブ26との間には、インチングバルブ30が設けられている。作動油流路27における油圧ポンプ21とインチングバルブ30との間に、アキュムレータ31が接続されている。アキュムレータ31は、前後進切替バルブ26の切り替え時に作動油流路27に生じるショックを緩和する。
【0020】
前後進切替バルブ26は、運転席に備えられるディレクションレバー(図示せず)の操作により3位置に切換え操作される4ポート3位置切換弁である。前後進切替バルブ26は、インチングバルブ30と接続されるポートと、前進クラッチ16と接続されるポートと、後進クラッチ17と接続されるポートと、作動油流路32を介してタンク24と接続されるポートと、を有する。
【0021】
ディレクションレバーが前進側に傾動されるとき、前後進切替バルブ26は第1位置となり、前後進切替バルブ26は前進クラッチ16に作動油を供給するほか、後進クラッチ17の作動油をタンク24へ戻す。従って、前後進切替バルブ26が第1位置のとき、前進クラッチ16はギヤ列18と完全に接続し、後進クラッチ17はギヤ列19との接続を解除する。
【0022】
ディレクションレバーが後進側に傾動されるとき、前後進切替バルブ26は第2位置となり、前後進切替バルブ26は後進クラッチ17に作動油を供給するほか、前進クラッチ16の作動油をタンク24へ戻す。従って、前後進切替バルブ26が第2位置のとき、前進クラッチ16はギヤ列18との接続を解除し、後進クラッチ17はギヤ列19と完全に接続する。
【0023】
ディレクションレバーが中立位置のとき、前後進切替バルブ26は第3位置となり、前後進切替バルブ26は前進クラッチ16および後進クラッチ17への作動油の供給を遮断し、前進クラッチ16および後進クラッチ17の作動油をタンク24へ戻す。従って、前後進切替バルブ26が第3位置のとき、前進クラッチ16はギヤ列18との接続を解除し、後進クラッチ17はギヤ列19との接続を解除する。
【0024】
インチングバルブ30は、フォークリフトの運転席に備えられるインチングペダル33の操作により3位置に切換え操作される4ポート3位置切換弁である。インチングバルブ30は、油圧ポンプ21と接続されるポートと、前後進切替バルブ26と接続されるポートと、導通油路としての作動油流路34を介して作動油流路38と接続されるポートと、作動油流路27における前後進切替バルブ26とインチングバルブ30との間に接続されるポートと、を有する。
【0025】
インチングペダル33が踏み込まれないとき、インチングバルブ30は第1位置となり、インチングバルブ30は前後進切替バルブ26へ作動油を供給可能な状態に保持する。従って、インチングバルブ30が第1位置にあり、前後進切替バルブ26が前進側のとき、前進クラッチ16がギヤ列18に完全に接続する。また、インチングバルブ30が第1位置にあり、前後進切替バルブ26が後進側のとき後進クラッチ17がギヤ列19に完全に接続する。
【0026】
インチングペダル33が最大量踏み込まれるとき、インチングバルブ30は第2位置となり、インチングバルブ30は、前後進切替バルブ26へ供給される作動油を完全に遮断する状態に保持する。従って、インチングバルブ30が第2位置のとき、前後進切替バルブ26の位置に関わらず、前進クラッチ16および後進クラッチ17の少なくとも一方が対応するギヤ列18、19と解除される状態になる。
【0027】
また、インチングペダル33が中間位置まで踏み込まれるとき、インチングバルブ30は第3位置となり、インチングバルブ30は、インチングバルブ30が備えるオリフィスを介して前進クラッチ16又は後進クラッチ17に作動油を供給する。従って、インチングバルブ30が第3位置では、前後進切替バルブ26が第1位置又は第2位置であれば、前進クラッチ16又は後進クラッチ17が半クラッチ状態となる。
【0028】
このように、本実施形態の油圧駆動装置20では、作動油を前進クラッチ16および後進クラッチ17へ導くクラッチ制御油路は、作動油流路27、28、29により構成されている。
【0029】
ところで、油圧ポンプ21の吐出口21Bとトルクコンバータ11の入口11Aとは、作動油流路27から分岐された作動油流路35を介して接続されている。トルクコンバータ11の出口11Bと冷却器36の入口36Aとを接続する作動油流路37が接続されている。冷却器36はトルクコンバータ11を通過した作動油を冷却する。冷却器36の出口36Bと前進クラッチ16および後進クラッチ17とは、作動油流路38を介して接続されている。作動油流路38を通る作動油は、前進クラッチ16および後進クラッチ17を冷却してタンク24へ回収される。
【0030】
作動油流路35には、第1オリフィス40が設けられている。第1オリフィス40は、油路圧力調整器に相当し、エンジン10の回転数が低いときでも、トルクコンバータ11に作動油を導くとともに前進クラッチ16および後進クラッチ17を作動させる作動油を作動油流路27に導くために設けられている。作動油流路35および作動油流路27の一部(作動油流路27における油圧ポンプ21と作動油流路35の起点との間)は、作動油をトルクコンバータ11へ導くトルコン油路に相当する。作動油流路37、38は、トルクコンバータ11を通過した作動油を冷却器36へ導き、冷却器36により冷却された作動油を前進クラッチ16および後進クラッチ17へ導くクラッチ冷却用のクラッチ冷却油路に相当する。前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却した作動油は、図示されない作動油流路を介してタンク24へ戻る。
【0031】
作動油流路27における油圧ポンプ21と作動油流路35の起点との間には、作動油流路42が接続されている。作動油流路42には、圧力制御バルブ41が設けられている。圧力制御バルブ41は、油圧ポンプ21からの作動油の圧力(主圧)Pmを第1設定圧P1以下に調圧する。また、第1設定圧P1は、所定の設定圧に相当する。圧力制御バルブ41は、作動油の主圧Pmが第1設定圧P1以下では閉じ、作動油の主圧Pmが第1設定圧P1を超えると開く主圧設定用のリリーフバルブである。圧力制御バルブ41が開き、圧力制御バルブ41を通過する作動油は、タンク24へ戻る。
【0032】
また、作動油流路35の起点と作動油流路35における第1オリフィス40との間から分岐され、作動油流路37と接続するバイパス油路としての作動油流路43が設けられている。作動油流路43には、第2オリフィス44が設けられている。第2オリフィス44は、トルコン油路における作動油の圧力を確保するトルコン圧制御器に相当する。第2オリフィス44は、トルクコンバータ11の入口11A側の作動油の圧力(トルコン圧)をトルコン設定圧としての第2設定圧P2(図示せず)以下に調圧する。第2設定圧P2は第1設定圧P1よりも小さい(P1>P2)。作動油流路43および第2オリフィス44が設けられることにより、トルクコンバータ11へ供給する作動油を増やさずに、冷却器36に供給する作動油を増やすことが可能である。
【0033】
ところで、本実施形態の油圧駆動装置20は、インチングバルブ30と作動油流路38とを接続する作動油流路34が設けられている。作動油流路34は、作動油流路38における冷却器36の出口36B側に接続されている。導通油路としての作動油流路34はインチングバルブ30を通過する作動油の一部を前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)の冷却に利用するために設けられる作動油流路である。特に、油圧ポンプ21からの作動油の圧力(主圧)Pmが第1設定圧P1に達しないエンジン10の低回転時には、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却する作動油流路38の作動油が少ない。作動油流路34の作動油は、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却する作動油として作動油流路38の作動油を補う。
【0034】
作動油流路34には、作動油流路38から作動油流路34への作動油の逆流を防止する逆止弁45が設けられている。インチングバルブ30と逆止弁45との間には、ドレン油路としての作動油流路46が接続されている。作動油流路46には残圧開放器としての第3オリフィス47が設けられている。したがって、作動油流路34の作動油の圧力が所定圧以上の場合には、逆止弁45が開き、作動油流路34の作動油は作動油流路38の作動油と合流する。そして、作動油流路34の作動油の一部は第3オリフィス47を通じてタンク24へ戻る。具体的には、インチングペダル33が中間位置まで踏み込まれるインチング時にはインチングバルブ30から逆止弁45を開く所定圧以上の作動油が作動油流路34に導かれる。
【0035】
一方、作動油流路34の作動油の圧力が所定圧未満の場合には、逆止弁45は開かず、作動油流路34の作動油は第3オリフィス47を通じてタンク24に戻る。具体的には、インチングペダル33が踏み込まれず、作動油が作動油流路34に供給されない場合のほか、インチングペダル33が完全に踏み込まれて、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)の作動油が作動油流路34に導入される場合である。これらの場合、作動油流路34の作動油が第3オリフィス47を通じてタンク24へ回収されることで、作動油流路34における残圧は0となる。
【0036】
このように、本実施形態の産業車両の油圧駆動装置20では、作動油流路34、逆止弁45、作動油流路46および第3オリフィス47が設けられる。このため、作動油流路34を通る作動油を用いた前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)の冷却と、作動油流路38から作動油流路34への作動油の逆流防止と、インチング時以外の作動油流路34の残圧開放とが可能となる。
【0037】
次に、本実施形態に係る油圧駆動装置20の作用について説明する。エンジン10が駆動されるとエンジン10の回転数は上昇し、エンジン10により駆動される油圧ポンプ21は、タンク24から作動油を汲み上げる。図2(a)に示すように、油圧ポンプ21により汲み上げられた作動油の圧力(主圧Pm)は、圧力制御バルブ41によって第1設定圧P1以下に設定される。
【0038】
例えば、フォークリフトが前進(又は後進)するとき、オペレータは、ディレクションレバーを前進側(又は後進側)へ傾動する。ディレクションレバーが前進側(又は後進側)へ傾動されると、前後進切替バルブ26は第1位置(又は第2位置)となる。フォークリフトの通常の走行時において、インチングペダル33は踏み込まれないのでインチングバルブ30は第1位置である。このため、第1設定圧以下に設定された作動油は、作動油流路27、インチングバルブ30および前後進切替バルブ26を通り、作動油流路28を通じて前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を作動させる。前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)は入力軸14とギヤ列18(又はギヤ列19)とを接続する。
【0039】
一方、第1設定圧P1以下に設定された作動油は、作動油流路35を通過してトルクコンバータ11に導かれる。トルクコンバータ11に導かれた作動油はトルクコンバータ11を作動させる。トルクコンバータ11の入口11A側の作動油の圧力(トルコン圧)は第2オリフィス44によって第2設定圧P2以下に設定される。第2設定圧P2以下に設定されたトルクコンバータ11を通過したのち冷却器36に導かれる。冷却器36は導かれた作動油を冷却する。冷却器36において冷却された作動油は、作動油流路38を通り、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)に導かれ、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却する。前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却した作動油はタンク24へ戻る。フォークリフトは、オペレータのアクセルペダルの操作に応じて前方(又は後方)へ走行する。
【0040】
第2オリフィス44を通過する作動油は、作動油流路43を通じて作動油流路37に導かれる。因みに、エンジン10の高回転時の冷却流量を増やすために第2オリフィス44の径を大きくすればよいが、エンジン10の低回転時の主圧Pmの立ち上がりが遅くなり、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)の係合力が小さくなるという現象が生じる。
【0041】
ところで、フォークリフトが荷役作業を行うとき、オペレータはインチングペダル33を踏み込んで前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を半クラッチ状態とする場合がある。このとき、インチングバルブ30は、第3位置となり、前後進切替バルブ26への作動油は絞られる。インチングバルブ30によって絞られた作動油はクラッチへ導かれるほか一部の作動油は作動油流路34へ導かれる。
【0042】
図2(b)にて一点鎖線により示す比較例は、インチングバルブ30から作動油をタンク24に戻すようにした例である。図2(b)に示す比較例では、半クラッチ状態では、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)が発熱するが、特に、エンジン10の回転数が低いと、エンジン10の回転数が高いときと比較して、作動油流路35に導かれる作動油量は少ない。比較例の場合、作動油流路38を通る前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却する作動油が不足するおそれがある。
【0043】
本実施形態では、インチングバルブ30によって絞られた作動油は前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)へ導かれるほか一部の作動油はさらに絞られて作動油流路34へ導かれる。作動油流路34に導かれる作動油は、逆止弁45を開く所定圧(逆止弁開弁圧)以上であるため、逆止弁45を開き、作動油流路38を通る作動油と合流して前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却する。したがって、エンジン10の回転数が低いときのインチング時に前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)の冷却不足は生じない。図2(b)にて実線により示す本実施形態は、作動油流路34の作動油が作動油流路38を通る作動油と合流するので、冷却に使用される作動油量は、図2(b)に破線により示す通常走行時の作動油量に近い量となる。
【0044】
半クラッチ状態以外のインチング状態である、インチングペダル33を最大量踏み込む状態では、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)の作動油がインチングバルブ30から作動油流路34に導かれるが、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)の残圧開放であるため逆止弁45は開かない。したがって、作動油流路34における作動油は作動油流路46および第3オリフィス47を通じてタンク24へ回収される。また、インチングペダル33が操作されない通常の走行では、作動油がインチングバルブ30から作動油流路34へ導かれることはない。このとき、作動油流路34に作動油が残存している場合であっても、作動油流路34における作動油は作動油流路46および第3オリフィス47を通じてタンク24へ回収される。
【0045】
本実施形態の油圧駆動装置20は以下の作用効果を奏する。
(1)半クラッチ状態のインチング時には、油圧ポンプ21からインチングバルブ30に供給される作動油の一部は、導通油路としての作動油流路34を通じてインチングバルブ30からクラッチ冷却油路である作動油流路38へ導かれ、作動油流路38の作動油と合流して前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却する。このため、エンジン10が低回転であって油圧ポンプ21から供給される作動油が少ない場合であっても、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却するための作動油量を確保することができる。また、作動油流路34における逆止弁45とインチングバルブ30との間に接続される作動油流路46と第3オリフィス47は、インチング時以外の状態では、作動油流路34の作動油を排出することができる。このため、インチングバルブ30の操作に対する前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)の優れた応答性を保つことができる。
【0046】
(2)作動油流路34は、作動油流路38における冷却器36の出口36B側に接続されている。このため、半クラッチ状態のインチング時に作動油流路34を通る作動油は、作動油流路38における冷却後の作動油と合流されて前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却することができる。作動油流路38における冷却器36の出口36B側に合流されるため、冷却器36の入口36A側に合流される場合と比較すると、冷却器36は作動油量の増大による負荷増大を受けることがない。
【0047】
(3)残圧開放器は、第3オリフィス47であるから、ドレン油路としての作動油流路46の開閉制御も不要であり、しかも製作コストを抑制できる残圧開放器を実現することができる。
【0048】
(4)エンジン10が低回転であって油圧ポンプ21が供給する作動油が少ない場合であっても、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却するための作動油量を確保することができるため、過剰な能力の油圧ポンプを採用することによって冷却に必要な作動油を確保する必要がない。その結果、適切な能力の油圧ポンプ21を採用することができ、油圧ポンプの小型化を図ることができるほか、油圧ポンプの動力ロスを低減することができる。
【0049】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0050】
○ 上記の実施形態では、導通油路は、クラッチ冷却油路における冷却器の出口側に接続されているとしたが、この限りではない。導通油路は、クラッチ冷却油路における冷却器の入口側に接続されてもよい。この場合、導通油路の作動油は、クラッチ冷却油路の作動油よりも温度が低いので、クラッチ冷却油路の作動油を冷却でき、冷却器による冷却と相まってクラッチをより冷却することができる。
○ 上記の実施形態では、残圧開放器をオリフィスとしたがこれに限らない。残圧開放器は、例えば、開閉弁であってもよい。残圧開放器を開閉弁とする場合、インチングバルブの操作に対応する開閉制御の可能な電磁開閉弁が好ましい。
【符号の説明】
【0051】
10 エンジン
11 トルクコンバータ
12 トランスミッション
16 前進クラッチ
17 後進クラッチ
20 油圧駆動装置
21 油圧ポンプ
24 タンク
25、27、28、29、32、35、37、38、42、43 作動油流路
26 前後進切替バルブ
30 インチングバルブ
31 アキュムレータ
33 インチングペダル
34 作動油流路(導通油路)
36 冷却器
40 第1オリフィス(トルコン圧制御器)
41 圧力制御バルブ
44 第2オリフィス
46 作動油流路(ドレン油路)
47 第3オリフィス(残圧開放器)
図1
図2