(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】光ファイバ母材の製造方法、及び、光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/018 20060101AFI20230511BHJP
C03B 37/027 20060101ALI20230511BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20230511BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C03B37/018 B
C03B37/027 Z
G02B6/036 301
G02B6/02 376A
G02B6/02 356A
(21)【出願番号】P 2019539532
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031770
(87)【国際公開番号】W WO2019044833
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2017167406
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 佐賢
(72)【発明者】
【氏名】春名 徹也
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/118389(WO,A1)
【文献】特開2012-006779(JP,A)
【文献】特表2007-504080(JP,A)
【文献】特表2009-541796(JP,A)
【文献】特開平07-196326(JP,A)
【文献】特開2006-124240(JP,A)
【文献】特開2015-105199(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111470(WO,A1)
【文献】特開2002-365469(JP,A)
【文献】特開2004-295010(JP,A)
【文献】特開2016-037412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B
G02B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部及びクラッド部を含む光ファイバ母材を製造する方法であって、
塩素及びフッ素を含む石英系ガラスパイプの内表面にアルカリ金属を添加する工程と、
前記アルカリ金属が添加された前記石英系ガラスパイプの内表面をエッチングする工程と、
前記エッチングする工程の後に前記石英系ガラスパイプを中実化してガラスロッドを作製する工程と、
前記ガラスロッドを用いて光ファイバ母材を作製する工程と、を備え、
前記添加する工程では、前記石英系ガラスパイプの表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内になるように前記石英系ガラスパイプを酸水素バーナにて加熱し、前記酸水素バーナの加熱温度プロファイルにおける1500℃以上の温度帯域となる幅が前記石英系ガラスパイプの直径の6倍以下に抑えられており、
前記添加する工程では、前記石英系ガラスパイプの所定の領域の表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内となる1回トラバースあたりの加熱時間が0.5分以上40分未満であり、前記加熱時間は、前記石英系ガラスパイプにおけるある1点が1500℃以上に加熱されている時間であ
り、
前記添加する工程では、前記石英系ガラスパイプの内部が陽圧に維持されており、当該内部における内圧が0Paより大きく20Pa以下である、
光ファイバ母材の製造方法。
【請求項2】
前記添加する工程では、前記石英系ガラスパイプの所定の領域の表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内となる1回トラバースあたりの前記加熱時間が1分以上である、
請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項3】
前記添加する工程では、前記石英系ガラスパイプの所定の領域の表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内となる1回トラバースあたりの前記加熱時間が20分未満である、
請求項1又は請求項2に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項4】
前記添加する工程では、前記石英系ガラスパイプの表面温度が1500℃以上1800℃未満の温度範囲内になるように前記石英系ガラスパイプを加熱する、
請求項1~請求項
3の何れか1項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項5】
前記添加する工程において添加される前記アルカリ金属がカリウムであり、前記光ファイバ母材における前記カリウム濃度が50[atomic ppm]以上である領域の直径をd1とし、前記光ファイバ母材における前記カリウム濃度が50[atomic ppm]以下で且つ塩素濃度が1000[atomic ppm]以下である領域の直径をd2とした場合に、前記光ファイバ母材におけるd2/d1が1.5以上3.0未満となるように、前記添加する工程では、前記石英系ガラスパイプを
前記酸水素バーナによって繰り返し加熱する、
請求項1~請求項
4の何れか一項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項
5の何れか一項に記載の光ファイバ母材の製造方法によって製造される光ファイバ母材を用いて光ファイバを製造する製造方法であって、
前記光ファイバ母材を線引きして光ファイバを製造する線引き工程を更に備える、光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバ母材の製造方法、及び、光ファイバの製造方法に関する。
本出願は、2017年8月31日出願の日本出願第2017-167406号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2は、光ファイバ母材にアルカリ金属を添加することによりその母材から作製される光ファイバの伝送損失を低減させることができる光ファイバ母材の製造方法を開示する。特許文献1に記載の光ファイバ母材の製造方法では、石英系のガラスパイプの内表面にカリウムなどのアルカリ金属を添加し、その後、内表面のエッチングや中実化処理を行って、光ファイバ母材を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-214079号公報
【文献】特表2005-537210号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示は、コア部及びクラッド部を含む光ファイバ母材を製造する方法を提供する。この製造方法は、石英系ガラスパイプの内表面にアルカリ金属を添加する工程と、アルカリ金属が添加された石英系ガラスパイプの内表面をエッチングする工程と、エッチングする工程の後に石英系ガラスパイプを中実化してガラスロッドを作製する工程と、ガラスロッドを用いて光ファイバ母材を作製する工程と、を備える。アルカリ金属を添加する工程では、石英系ガラスパイプの表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内になるように石英系ガラスパイプを加熱する。
【0005】
本開示は、光ファイバの製造方法を提供する。この製造方法は、上記の光ファイバ母材の製造方法によって製造される光ファイバ母材を用いて光ファイバを製造する方法である。この光ファイバの製造方法は、該光ファイバ母材を線引きして光ファイバを製造する線引き工程を更に備えている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る光ファイバ母材の断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る光ファイバ母材を製造する方法のフローチャートである。
【
図3】
図3は、光ファイバ母材を製造する方法における添加工程S2の概要を示す概要図である。
【
図4】
図4は、光ファイバ母材を製造する方法における添加工程S2で用いられる加熱バーナの温度プロファイルの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す光ファイバ母材における径方向のK濃度分布及びCl濃度分布を示すグラフである。
【
図6A】
図6Aは、光ファイバ母材を製造する方法における添加工程S2で用いられる支持部材を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、
図6Aに示す支持部材のVI(b)―VI(b)線に沿った一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
光ファイバ母材用の石英系ガラスパイプにアルカリ金属を添加した場合、添加されるアルカリ金属によってガラスの結晶構造への転移が生じることがある。特許文献1に記載の光ファイバ母材の製造方法では、石英系ガラスパイプにアルカリ金属を添加する際、石英系ガラスパイプの外表面が2000℃以上になるように酸水素バーナによって加熱する。これにより、ガラスの結晶構造による失透を防止する。一方、石英系ガラスパイプの加熱温度を高温にすると、ガラスの結晶化を抑制することはできるものの、石英系ガラスパイプが軟化して変形や非円化してしまう可能性がある。このため、光ファイバ母材用のガラスパイプの失透を抑制しつつその変形も抑制することが望まれている。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、光ファイバ母材に用いられるガラスパイプの失透を抑制しつつ、ガラスパイプの変形も抑制することができる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。本開示の一実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法は、コア部及びクラッド部を含む光ファイバ母材を製造する方法である。この製造方法は、石英系ガラスパイプの内表面にアルカリ金属を添加する工程と、アルカリ金属が添加された石英系ガラスパイプの内表面をエッチングする工程と、エッチングする工程の後に石英系ガラスパイプを中実化してガラスロッドを作製する工程と、ガラスロッドを用いて光ファイバ母材を作製する工程と、を備える。添加する工程では、石英系ガラスパイプの表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内になるように石英系ガラスパイプを加熱する。
【0010】
この光ファイバ母材の製造方法では、ガラスパイプにアルカリ金属を添加する際、石英系ガラスパイプの表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲となるように調整して石英系ガラスパイプを加熱する。この場合、本発明者の検討によれば、アルカリ金属が添加されたガラスパイプが失透することなく、且つ、ガラスパイプの変形が抑制されることが確認できた。よって、アルカリ金属を添加する際のガラスパイプの表面温度を1500℃以上2000℃未満の温度範囲内に調整することで、光ファイバ母材に用いられるガラスパイプの失透を抑制しつつその変形も抑制でき、これにより、伝送損失の低い光ファイバを製造するための光ファイバ母材を得ることができる。
【0011】
本実施形態の一態様として、添加する工程では、石英系ガラスパイプの所定の領域の表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内となる1回トラバースあたりの加熱時間が0.5分以上40分未満であってもよい。また、添加する工程では、石英系ガラスパイプの所定の領域の表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内となる1回トラバースあたりの加熱時間が1分以上であってもよいし、40分未満であってもよい。この場合、光ファイバ母材に用いられるガラスパイプの失透を抑制しつつ、ガラスパイプの変形又は非円化をより一層抑制することができる。なお、ここでいう「1回トラバース」とは、一方向(片道)における1つのトラバース移動を示す。
【0012】
本実施形態の一態様として、添加する工程では、石英系ガラスパイプの表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内になるように石英系ガラスパイプを加熱バーナにて加熱し、当該加熱バーナの加熱温度プロファイルにおける1500℃以上の温度帯域となる幅が石英系ガラスパイプの外径の6倍以下に抑えられていてもよい。この場合、石英系ガラスパイプがより局所的に加熱されることになるため、加熱領域の広がりによるガラスパイプの変形をより一層抑制しながら、アルカリ金属のガラスパイプへの添加を実行することができる。
【0013】
本実施形態の一態様として、添加する工程では、石英系ガラスパイプの表面温度が1500℃以上1800℃未満の温度範囲内になるように石英系ガラスパイプを加熱してもよい。
【0014】
本実施形態の一態様として、添加する工程では、石英系ガラスパイプが保持される領域が陽圧に維持されており、当該領域における内圧が0Paより大きく20Pa以下であってもよい。この場合、加熱によるガラスパイプの変形を更に抑制することができる。
【0015】
本実施形態の一態様として、添加する工程において添加されるアルカリ金属がカリウムであり、光ファイバ母材におけるカリウム濃度が50[atomic ppm]以上である領域の直径をd1とし、光ファイバ母材におけるカリウム濃度が50[atomic ppm]以下で且つ塩素濃度が1000[atomic ppm]以下である領域の直径をd2とした場合に、光ファイバ母材における比d2/d1が1.5以上3.0未満となるように、添加する工程では、石英系ガラスパイプを加熱バーナによって繰り返し加熱してもよい。この場合、光ファイバの伝送損失を低減できるカリウムの添加領域を拡大しつつガラスの結晶化を抑制することができる。
【0016】
本実施形態は、別態様として、光ファイバの製造方法に関し、当該製造方法は、上記の何れかの態様又はその組合せに係る光ファイバ母材の製造方法によって製造される光ファイバ母材を用いて光ファイバを製造する製造方法である。この製造方法は、該光ファイバ母材を線引きして光ファイバを製造する線引き工程を更に備えている。この場合、失透及び変形が抑制されたガラスパイプから作製されたガラスロッドを用いて光ファイバを製造するため、より低損失の光ファイバを得ることができる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法、及び、当該製造方法による光ファイバ母材を用いて光ファイバを製造する光ファイバの製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法によって製造される光ファイバ母材の断面図である。光ファイバ母材1は、石英系ガラスからなり、コア部10と、コア部10を取り囲むクラッド部20と、を備えている。コア部10の屈折率は、クラッド部20の屈折率よりも高い。コア部10は、第1コア部11と、第1コア部11を取り囲む第2コア部12と、を有している。クラッド部20は、コア部10を取り囲む第1クラッド部21と、第1クラッド部21を取り囲む第2クラッド部22と、を有している。第1コア部11には、後述する製造方法によりアルカリ金属(例えばカリウム)が添加されている。
【0019】
図2は、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法を説明するためのフローチャートである。この光ファイバ母材の製造方法では、
図2に示すように、準備工程S1、添加工程S2、縮径工程S3、エッチング工程S4、中実化工程S5、第1延伸研削工程S6、第1ロッドインコラプス工程S7、第2延伸研削工程S8、第2ロッドインコラプス工程S9、及び、OVD工程S10を順に行って、
図1に示す光ファイバ母材1を製造する。
図3は、光ファイバ母材の製造方法における添加工程S2での処理を示す概要図である。
【0020】
準備工程S1では、アルカリ金属元素を拡散させるべき石英系ガラスパイプ31(
図3参照)をまずは準備する。石英系ガラスパイプ31は、例えば所定量の塩素(Cl)及びフッ素(F)を含み、その他のドーパント及び不純物の濃度を所定値以下に抑えたパイプである。石英系ガラスパイプ31は、例えばその外径が35mmであり、その内径が20mmである。
【0021】
続いて、添加工程S2では、石英系ガラスパイプ31の内周面にアルカリ金属を添加する。添加工程で添加するアルカリ金属としては、例えば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、ルビジウム(Rb)又はセシウム(Cs)を用いることができる。例えばアルカリ金属原料33として臭化カリウム(KBr)を用いる場合、
図3に示されるように、臭化カリウムを外部熱源32により加熱してKBr蒸気を発生させる。そして、供給されたキャリアガスと共にKBr蒸気を石英系ガラスパイプ31の内周側に導入しながら、加熱バーナ34によって石英系ガラスパイプ31の外表面を加熱する。この加熱処理の際、加熱バーナ34を所定の速度(例えば40mm/分)で図示矢印の方向に複数回(例えば10ターン)往復トラバースさせ、カリウム金属元素を石英系ガラスパイプ31の内表面31aに拡散添加させる。この場合において、例えば酸素を1SLM(標準状態に換算して1リットル/分)の流量で導入したキャリアガスと共にKBr蒸気を石英系ガラスパイプ31の内部に導入すると、アルカリ金属が添加された石英系ガラスパイプ31のカリウム濃度の最大値を1000[atomic ppm]にすることができる。
【0022】
本実施形態の添加工程での加熱バーナ34による加熱処理では、ガラスパイプ31の表面温度が1500℃以上2000℃未満になるように、好ましくは1500℃以上1800℃以下となるように、加熱バーナ34を調整して加熱を行う。言い換えると、ガラスパイプ31の表面温度が2000℃を超えないように加熱処理を行う。加熱バーナ34は、予め設定された所定の温度プロファイル(
図4参照)を持っており、加熱温度が1500℃以上となる幅Dが大きくならないように調整されている。加熱バーナ34では、例えば、温度プロファイルにおける幅Dが、加熱するガラスパイプ31の直径の6倍以下に抑えられている。また、添加工程では、加熱温度の範囲を制限することに加え、加熱バーナ34によるガラスパイプ31の各領域の加熱時間(バーナ加熱時間)が所定の範囲内である0.5分~40分となるように、好ましくは1分以上20分未満となるように加熱バーナ34のトラバース速度を調整して加熱を行う。つまり、石英系ガラスパイプ31のある領域の表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内となる1回トラバースあたりの加熱時間が0.5分~40分となるように、好ましくは1分以上20分未満となるように調整している。ここでいう「1回トラバース」とは、一方向(片道)における1つのトラバース移動を示す。
【0023】
本実施形態における添加工程では、加熱バーナ34による加熱温度と加熱時間とが所定の範囲となるように調整した上で、石英系ガラスパイプ31の内表面31aにアルカリ金属を拡散添加させている。このような加熱の調整を行うことで、ガラスパイプ31の結晶化による失透及び熱変形を抑制する。加熱バーナ34としては、例えば酸水素バーナを用いることができる。石英系ガラスパイプ31が保持される領域が陽圧に維持され、当該領域の内圧が0Paより大きく20Pa以下となる環境で添加工程が実行されてもよい。
【0024】
続いて、縮径工程S3では、添加工程S2で用いられたKBr蒸気などのアルカリ金属の供給を停止した後、アルカリ金属が添加された石英系ガラスパイプ31を縮径する。この際、石英系ガラスパイプ31の内部に酸素(例えば流量0.5SLM)を導入しながら、外部熱源によって石英系ガラスパイプ31の外表面が1600℃~2100℃となるように石英系ガラスパイプ31を加熱する。加熱バーナ34を例えば6ターンほどトラバースさせて加熱を行い、アルカリ金属が添加された石英系ガラスパイプ31をその内径が5mmになるまで縮径する。
【0025】
続いて、エッチング工程S4では、縮径された石英系ガラスパイプの内周面をエッチングする。エッチング工程では、SF6(例えば流量0.2SLM)及び塩素(例えば流量0.5SLM)の混合ガスを、縮径された石英系ガラスパイプの内部に導入しながら、外部熱源で石英系ガラスパイプを加熱して内周面の気相エッチングを行う。この処理は、ガラスパイプの内周面を400~800μm程度の厚みでエッチングし、添加工程でアルカリ金属と共に添加された不純物を高濃度に含むパイプ内面を削る。これにより、ガラスパイプから不純物を除去する。
【0026】
続いて、中実化工程S5では、縮径され且つ内周面がエッチング処理された石英系ガラスパイプを中実化する。中実化工程では、酸素(例えば流量0.1SLM)及びヘリウム(例えば流量1SLM)の混合ガスを、石英系ガラスパイプの内部に導入しながら、石英系ガラスパイプ内の絶対圧を97kPa以下に減圧し、外部熱源によって石英系ガラスパイプの表面温度を1600℃~2100℃として、石英系ガラスパイプを中実化する。この中実化工程により、アルカリ金属を含む透明な石英系ガラスからなる第1ガラスロッド(例えば外径25mm)を得る。第1ガラスロッドにはアルカリ金属が添加拡散されていることになる。
【0027】
続いて、第1延伸研削工程S6では、中実化により得られた第1ガラスロッドを延伸して例えば直径20mmとし、更に外周部を研削して直径12mmとして、第1コア部11を得る。この際、
図5に示すように、K濃度が50[atomic ppm]
以上である直径をd1とし、K濃度が50[atomic ppm]以下且つCl濃度が1000[atomic ppm]以下である領域の外直径をd2としたとき、第1コア部11におけるd2/d1の比を1.5以上3.0未満の間とすることが可能である。
【0028】
続いて、第1ロッドインコラプス工程S7では、第1コア部11の外側に第2コア部12を設けて第2ガラスロッドを得る。工程S7では、所定量の塩素原子が添加された外径55mmの石英系ガラスパイプ(第2コア部12)の内部に第1コア部11を挿入して、外部熱源によって両者を加熱一体化するロッドインコラプス法により第2ガラスロッドを作成する。
【0029】
続いて、第2延伸研削工程S8では、第2ガラスロッドを延伸して直径24mmとし、更に外周部を研削して直径17mmとする。第1コア部11と第2コア部12とを併せたものがコア部10となる。コア部10の直径をd3としたとき、コア部10におけるd3/d1の比は4~8の間とすることが可能である。
【0030】
続いて、第2ロッドインコラプス工程S9では、コア部10の外側に第1クラッド部21を設ける。この工程では、フッ素が添加された石英系ガラスパイプ(第1クラッド部21に対応)の内部にコア部10を挿入して、外部熱源によって両者を加熱し一体化するロッドインコラプス法を用いる。第2コア部12と第1クラッド部21との相対比屈折率差は、例えば最大で0.34%程度である。このロッドインコラプス法による合成の結果、コア部10及びその近傍の第1クラッド部21の水分量は十分に低く抑制することが可能である。
【0031】
続いて、OVD工程S10では、コア部10及び第1クラッド部21が一体化されてなるガラスロッドを延伸して所定径とした後、そのガラスロッドの外側にフッ素を含む第2クラッド部22をOVD法により合成して、光ファイバ母材1を製造する。得られた光ファイバ母材1では、例えば、第1クラッド部21の外径は36mmであり、第2クラッド部22の外径は140mmである。第2コア部12と第2クラッド部22との相対比屈折率差は最大で0.32%程度である。第1クラッド部21の外部のOH基の濃度は、赤外吸収分光を用いて測定することができ、400[mol ppm]程度である。
【0032】
続く線引き工程では、上述した製造方法で製造された光ファイバ母材1を線引きすることで光ファイバを得ることができる。線引き速度は、例えば2300m/分であり、線引き張力は0.5Nとすることができる。以上により、アルカリ金属が添加されて低伝送損失の光ファイバ及び当該光ファイバのための光ファイバ母材を製造することができる。
【0033】
ここで、上述した製造方法によって製造された光ファイバ母材の結晶化の度合い(失透)及び変形(又は非円化)について、説明する。上述したように、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法では、アルカリ金属を添加する添加工程S2においてカリウム元素などのアルカリ金属を石英系ガラスパイプ31に添加する際の加熱温度を1500℃以上2000℃未満の範囲内になるように調整している。つまり、石英系ガラスパイプ31の表面温度を早期に1500℃となるようにしつつ2000℃を超えないように、加熱処理を調整している。このように石英系ガラスパイプの表面のガラス温度を低温(1200℃以上1500℃未満)ではなく、高温(1500℃以上)に調整していることで、ガラスパイプを構成する石英(SiO2)の結晶核の形成や成長を促進させずに、結晶構造を維持できないようにすることができる。このような調整により、光ファイバの伝送損失を低減するために添加されるアルカリ金属によりガラスが結晶化しやすくなった場合であっても、光ファイバ母材の製造に用いられる石英系ガラスパイプの失透を抑制することができる。
【0034】
また、アルカリ金属が添加されるガラスパイプの表面温度を高く維持することでアルカリ金属のガラス内での拡散・浸透が進むものの、ガラスの加熱温度を更に高温(2000℃以上)とすると、ファイバ母材自体が熱により変形してしまったり、非円化してしまったりすることが分かってきた。そこで、本実施形態では、添加工程での加熱温度の上限値について2000℃未満と規定している。このため、石英系のガラスパイプにアルカリ金属を添加する際にガラスパイプの加熱をある程度に抑えることができ、光ファイバ母材の変形や非円化を抑制することも可能となる。本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法のようにガラスの加熱温度を2000℃未満に調整することで、光ファイバ母材の変形や非円化を抑制でき、このような光ファイバ母材を用いて光ファイバを製造した際、低接続損失の光ファイバとすることができる。
【0035】
本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法では、添加工程において、石英系ガラスパイプ31の所定の領域の表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内となる1回トラバースあたりの加熱時間を1分以上20分未満とすることができる。この場合、光ファイバ母材に用いられるガラスパイプの失透を抑制しつつ、ガラスパイプの変形又は非円化をより一層抑制することができる。
【0036】
本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法では、添加工程において、石英系ガラスパイプ31の表面温度が1500℃以上2000℃未満の温度範囲内になるように石英系ガラスパイプ31を加熱バーナ34にて加熱し、加熱バーナ34の加熱温度プロファイル(
図4参照)における1500℃以上の温度帯域となる幅Dが石英系ガラスパイプ31の直径の6倍以下に抑えられていてもよい。この場合、石英系ガラスパイプ31がより局所的に加熱されることになるため、加熱の広がりによるガラスパイプの変形をより一層抑制しながら、アルカリ金属のガラスパイプへの添加を実行することができる。
【0037】
本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法では、添加工程において、石英系ガラスパイプ31が保持される領域が陽圧に維持されており、当該領域の内圧が0Paより大きく20Pa以下であってもよい。このような圧力状態とした場合、加熱によるガラスパイプの変形を更に抑制することができる。
【0038】
次に、上述した製造方法に基づいて光ファイバ母材を製造し、ガラスパイプの失透の有無とガラスパイプの変形の有無について評価を行った。準備した石英系ガラスパイプは外径が35mmであり、内径が20mmであった。ガラスパイプに添加するアルカリ金属として臭化カリウム(KBr)を外部熱源で840℃に加熱してKBr蒸気を発生させた。そして、酸素を1SLMの流量で導入したキャリアガスと共にKBr蒸気を石英系ガラスパイプ31に導入しながら、外部から酸水素バーナ(加熱バーナ34)によって石英系ガラスパイプ31の表面が1500℃以上1800℃以下の範囲となるようにトラバースしながら加熱した。酸水素バーナによる加熱時間(バーナ加熱時間)は、バーナ加熱範囲をトラバース速度で除した値であり、ガラスパイプにおけるある1点(領域)が1500℃以上に加熱されている加熱時間を意味している。酸水素バーナによる加熱範囲(
図4に示す幅D)が165mm(1500℃以上の温度となる範囲)となるようにバーナの温度プロファイル(
図4参照)を設定した。酸水素バーナによるトラバースのターン数(往復数)は10回とした。
【0039】
そして、以下に示すように、酸水素バーナのトラバース速度を調整して、バーナ加熱時間を0.5分~40分の間で段階的に変更して、ガラスパイプの失透の有無と変形の有無とを評価した。評価結果を以下の表1に示す。
【0040】
【表1】
表1における失透の有無の「A」は、失透がまったく発生していない状態を示し、「B」は、一部に失透が発生している状態を示す。変形の有無の「A」は、ガラスパイプ(有効長さ100mm)の変形が2mm以下である状態を示し、変形の有無の「B」は、ガラスパイプの変形が2mm以上5mm以下である状態を示す。
【0041】
上述した実施例から明らかなように、アルカリ金属をガラスパイプに添加する際にガラスパイプの表面温度を1500℃以上2000℃未満とすることにより、ガラスパイプの結晶化による失透を抑制し、且つ、ガラスパイプの加熱による変形を抑制することが出来ることが確認できた。しかも、アルカリ金属をガラスパイプに添加する際にガラスパイプの表面温度が1500℃以上2000℃未満とする時間を0.5分以上40分以下、より好ましくは1分以上20分未満となるようにすることにより、光ファイバ母材の熱変形をより一層抑制することができることが確認できた。
【0042】
以上、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法及び当該製造方法によって製造された光ファイバ母材を用いて光ファイバを製造する製造方法について説明してきたが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の変形を適用することができる。例えば、上記の光ファイバ母材の製造方法での添加工程S2では、ガラスパイプ31はその両端のみが支持される状態で加熱バーナ34による加熱が行われているが、ガラスパイプ31の変形をより一層抑制するには、例えば
図6A及び
図6Bに示すように、ガラスパイプ31の下に、ガラスパイプ31の軸と平行な軸を有する2つの回転支持ローラ35を設けてガラスパイプ31を支持する構成とすることもできる。この場合には、ガラスパイプ31の熱による変形をより一層抑制することができる。この場合には、回転支持ローラ35を加熱バーナがトラバースする範囲のすぐ外側に配置するようにしてもよいし、回転支持ローラ35を加熱バーナと一定の間隔をあけて配置し、回転支持ローラ35と加熱バーナとを同時にトラバースするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…光ファイバ母材、10…コア部、11…第1コア部、12…第2コア部、20…クラッド部、21…第1クラッド部、22…第2クラッド部、31…ガラスパイプ、32…外部熱源、33…アルカリ金属原料、34…加熱バーナ、35…回転支持ローラ、D…幅。