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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】水耕栽培装置、および、水耕栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20230511BHJP
【FI】
A01G31/00 601B
A01G31/00 617
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019552369
(86)(22)【出願日】2018-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2018041447
(87)【国際公開番号】W WO2019093410
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2017218319
(32)【優先日】2017-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 亨
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-065828(JP,A)
【文献】特開2007-061002(JP,A)
【文献】特開平04-258231(JP,A)
【文献】実開平04-094960(JP,U)
【文献】特開2017-029144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00 - 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液が貯留される養液貯留部と、
前記養液貯留部内の養液が供給される養液貯留用容器と、
栽培される複数の植物を支持する蓋部材であって、前記養液貯留用容器の養液の液面に対し一定の間隔をもって向き合うように固定される蓋部材と、を備え、
前記蓋部材に支持される前記植物の苗条の長さに比して長い主根を有する該植物における主根の先端部だけが、前記養液貯留用容器内の養液に浸されるとともに、空気層が、前記蓋部材と前記養液貯留用容器との間であって前記主根の先端部以外の部分の周囲に形成されることを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項2】
前記養液貯留用容器は、パンであることを特徴とする請求項1記載の水耕栽培装置。
【請求項3】
前記養液貯留用容器は、分配路であることを特徴とする請求項1記載の水耕栽培装置。
【請求項4】
前記養液貯留用容器は、各植物に対応して設けられた個別の栽培容器であることを特徴とする請求項1記載の水耕栽培装置。
【請求項5】
前記植物の根部肥大部が、前記蓋部材と前記養液貯留用容器との間の空間内に形成される請求項1記載の水耕栽培装置。
【請求項6】
前記蓋部材と前記養液貯留用容器との間の空気層は、透明、半透明シートで囲まれていることを特徴とする請求項1記載の水耕栽培装置。
【請求項7】
前記蓋部材と前記養液貯留用容器との間の空気層が、シートで囲まれていることを特徴とする請求項1に記載の水耕栽培装置。
【請求項8】
前記蓋部材と前記養液貯留用容器における前記養液の液面との間隔は、前記主根の生育に応じて任意の長さに調整可能であることを特徴とする請求項1記載の水耕栽培装置。
【請求項9】
植物の苗条の長さに比して長い主根を有する植物を第1の養液貯留用容器内で栽培する工程と、
前記第1の養液貯留用容器内で栽培された前記植物を、空気層が該植物の前記主根の先端部以外の部分の周囲に形成される第2の養液貯留用容器内で生育させる工程とを含み、
前記植物における主根の先端部だけが、前記第1の養液貯留用容器および第2の養液貯留用容器内の養液に浸されることを特徴とする水耕栽培方法。
【請求項10】
前記植物の苗条の長さに比して長い主根を有する植物を第1の養液貯留用容器内で栽培する工程において、前記主根の成長に応じて前記植物における主根の先端部だけが、前記第1の養液貯留用容器内の養液に浸されることを特徴とする請求項9記載の水耕栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培装置、および、水耕栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
根菜類の水耕栽培においては、例えば、特許文献1にも示されるように、栽培システムが提案されている。そのような栽培システムは、メイン混合タンク内の養液、および、配管からの処理された養液を各栽培用容器に供給する分配供給路と、各栽培用容器からの廃液を回収し廃液処理装置に供給する排出路と、分配供給路からの養液を貯留するとともに、同一種類の所定の株数の植物を個別に生育させる複数の栽培用容器と、を主な要素として含んで構成される。複数の栽培用容器は、それぞれ、栽培用容器の胴の一部の全周には、植物の成長に応じた水位調節手段としての伸縮可能な蛇腹部が形成されている。これにより、各植物の成長に応じて栽培用容器の下部を下方に向けて引き下げることにより、所定量の養液が栽培用容器内に貯留されることとなる。そのような栽培用容器は、共通の1つの容器内で植物の成長を観察しながら調整することにより、根菜類の根の肥大をさせながら生育をさせることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-29144号公報
【発明の概要】
【0004】
上述の特許文献1に示されるような栽培システムの場合、各植物の成長に応じて栽培用容器の下部を下方に向けて引き下げる作業、および、水位調節手段が必要とされるので上述の栽培システムを栽培棚のように多段化することが困難となる。これにより、栽培システムにおいて、単位面積当たりの生産性を高めることが容易でない。また、1つの共通の栽培用容器内で植物の成長を観察しながら調整することにより、根菜類の根の肥大をさせながら生育をさせるので複数の栽培用容器が使用されるとき、必要とされる養液の量が大量となる。
【0005】
以上の問題点を考慮し、本発明は、水耕栽培装置、および、水耕栽培方法であって、水耕栽培における単位面積あたりの生産性を高めることができ、しかも、必要とされる養液の使用量を低減し装置のランニングコストを下げることができる水耕栽培装置、および、水耕栽培方法を提供することを目的とする。
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明に係る水耕栽培装置は、養液が貯留される養液貯留部と、養液貯留部内の養液が供給される養液貯留用容器と、栽培される複数の植物を支持する蓋部材であって、養液貯留用容器の養液の液面に対し一定の間隔をもって向き合うように固定される蓋部材と、を備え、蓋部材に支持される植物の苗条の長さに比して長い主根を有する植物における主根の先端部だけが、養液貯留用容器内の養液に浸されるとともに、空気層が、蓋部材と養液貯留用容器との間であって主根の先端部以外の部分の周囲に形成されることを特徴とする。
【0007】
また、養液貯留用容器は、パンであってもよく、あるいは、分配路であってもよい。養液貯留用容器は、各植物に対応して設けられた個別の栽培容器であってもよい。植物の根部肥大部が、蓋部材と養液貯留用容器との間の空間内に形成されてもよい。蓋部材と養液貯留容器との間の空気層は、シート、例えば、透明、半透明シートで囲まれていてもよい。蓋部材と養液貯留用容器における養液の液面との間隔は、主根の生育に応じて任意の長さに調整可能であってもよい。
【0008】
また、本発明に係る水耕栽培方法は、植物の苗条の長さに比して長い主根を有する植物を第1の養液貯留用容器内で栽培する工程と、第1の養液貯留用容器内で栽培された植物を、空気層が植物の主根の先端部以外の部分の周囲に形成される第2の養液貯留用容器内で生育させる工程とを含み、植物における主根の先端部だけが、第1の養液貯留用容器および第2の養液貯留用容器内の養液に浸されることを特徴とする。
【0009】
さらに、植物の苗条の長さに比して長い主根を有する植物を第1の養液貯留用容器内で栽培する工程において、主根の成長に応じて植物における主根の先端部だけが、第1の養液貯留用容器内の養液に浸されてもよい。
【0010】
本発明に係る水耕栽培装置、および、水耕栽培方法によれば、液貯留部内の養液が供給される養液貯留用容器と、栽培される複数の植物を支持する蓋部材であって、養液貯留用容器の養液の液面に対し一定の間隔をもって向き合うように固定される蓋部材と、を備え、蓋部材に支持される植物の苗条の長さに比して長い主根を有する植物における主根の先端部だけが、養液貯留用容器内の養液に浸されるので、根部の成長に合わせた水位調整機構も不要であり、水耕栽培における単位面積あたりの生産性を高めることができ、しかも、必要とされる養液の使用量を低減し装置のランニングコストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、本発明に係る水耕栽培装置の複数の実施例に用いられる苗としての植物の栽培の工程を示す図である。
図1B図1Bは、その植物の栽培の各工程に用いられる容器を植物とともに概略的に示す図である。
図2図2は、本発明に係る水耕栽培装置の第1実施例の構成を概略的に示す構成図である。
図3A図3Aは、植物の成長過程の説明に供される図である。
図3B図3Bは、植物の成長過程の説明に供される図である。
図4図4は、図2に示される例におけるパンが異なる種類の植物の栽培に適用された場合において、その養液の循環経路を、植物とともに示す図である。
図5図5は、本発明に係る水耕栽培装置の第2実施例の構成を概略的に示す構成図である。
図6A図6Aは、本発明に係る水耕栽培装置の第3実施例の構成を概略的に示す構成図である。
図6B図6Bは、植物の成長過程の説明に供される図である。
図6C図6Cは、植物の成長過程の説明に供される図である。
図7A図7Aは、本発明に係る水耕栽培装置の複数の実施例に用いられる苗としての植物の栽培の工程を示す図である。
図7B図7Bは、その植物の栽培の各工程に用いられる1つの容器内の複数のスポンジ(人工培地板等に保持されたウレタンスポンジ等)を植物の成育とともに概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図2は、本発明に係る水耕栽培装置の第1実施例を概略的に示す。
【0013】
水耕栽培装置は、例えば、所謂、太陽光型植物工場または人工光閉鎖型植物工場内に設けられている多段式の栽培棚(不図示)に複数個、配置されている。なお、図2においては、1つの水耕栽培装置が代表的に示されている。
【0014】
水耕栽培装置は、例えば、所定の濃度に調整された液体肥料としての培養液(以下、養液ともいう)LQ1を貯留するタンク12と、タンク12内に配され、タンク12内の養液LQ1を後述する供給路Du2に供給するポンプ12Pと、後述する栽培用プランター10の下部を形成し、所定量の養液LQ1を貯留する養液貯留用容器(以下、パンともいう)10Bと、栽培用プランター10の上部を形成する蓋部材14と、蓋部材14をその下方から支持するとともにパン10Bに取り外し可能に連結される蓋支持部材10Cと、を主な要素として含んで構成される。
【0015】
なお、図2においては、代表的に、複数の植物28P1~28Pnのうちの植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5が示されている。斯かる水耕栽培装置において栽培される植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5…は、例えば、所定の株数のにんじん、朝鮮人参(高麗人参)、カンゾウ、オウレン、トウキ(生薬類)、山芋類、かぶ、ごぼう、だいこん等の根菜類とされる。
【0016】
蓋部材14は、同一種類の所定の株数の植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5…28Pnを、それぞれ、その主根28aの先端部(根冠および根端分裂組織を含む部分)28bがパン10B内の養液LQ1に浸るように、後述する栓部材としての植物固定用ストッパ14aを介して支持する。各植物固定用ストッパ14aは、例えば、特許文献1に示されるように、蓋部材14の各開口部に対応した位置に配されている。蓋部材14の複数の開口部は、所定の間隔をもって縦横に形成されている。各植物固定用ストッパ14aは、例えば、特許文献1に示されるように、積み重ねられる複数のシール部材を収容するシール収容部を内側に有している。または、ウレタンスポンジマットの様な柔軟性と伸縮性を有する素材を用いてもよい。これにより、植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5の苗条(シュート)28cが、各植物固定用ストッパ14aにより、蓋部材14に支持される。
【0017】
蓋支持部材10Cは、図3Bに示されるように、生育した植物48P1、48P2、48P3、48P4、48P5の根部肥大部48cを収容できる生育用空間10Aを内側に有している。生育用空間(空気層)10Aは、例えば、生育した植物48P1、48P2、48P3、48P4、48P5における収穫時の根部肥大部48cの延在する方向の長さを越える高さHAを有している。高さHAは、例えば、だいこんの場合、50cm以上の値に設定されている。なお、高さHAは、斯かる例に限られることなく、例えば、生育した種類の異なる植物における収穫時の根部肥大部の延在する方向の長さに応じて50cm未満の所定の高さに設定されてもよい。にんじんの場合、高さHAは、例えば、約20cm以上30cm以下の範囲に設定される。
【0018】
なお、高さHAは、必ずしも、植物の生育中、所定の値に固定される必要はなく、例えば、長根の主根長さの成長に合わせて、養液LQ1の水面と苗の根元を保持する空間の長さを有段式または無段式に調整できる機構が、栽培用プランター10にあれば問題ない。
【0019】
また、水槽中や付近の湿り気のあるところが緑色の藻が発生する場合がある。養液中に藻が発生した場合、その除去に苦労し、養液の栄養を消費してしまうだけでなく、衛生面でも雑菌の発生源になる可能性がある。このような場合、蓋部材14と養液貯留容器10Bとの間の空気層10Aは、シート、例えば、透明、半透明シート、遮光シートなどで囲まれていてもよい。これにより、水と栄養は、養液中にあるので、シートにより、外部からの藻の侵入を防止するか、光を遮断できれば藻は発生しない。また、シートで囲むことにより、安定した環境が得られるので空気層内の温度変動や湿度の変動を少なくする効果があり、栽培環境を安定させることができる。
【0020】
養液貯留部としてのタンク12内には、養液LQ1が、所定の水位で貯留されている。また、タンク12内には、供給路Du2の一端に接続される吐出口を有するポンプ12Pが設けられている。ポンプ12Pは、図示が省略される制御部により駆動制御される。これにより、ポンプ12Pが作動状態とされる場合、タンク12内の養液LQ1が供給路Du2を通じて後述するパン10Bの貯留部内に供給される。従って、ポンプ12Pが作動状態とされる場合、タンク12内の養液LQ1が供給路Du2、リターン用排出路Du1を介して循環される。
【0021】
パン10Bは、図2に示されるように、タンク12から供給路Du2を介して供給された養液LQ1が所定量、貯留される貯留部を内側に有している。貯留部の上方は、上述の生育用空間10Aに向けて開口されている。供給路Du2の他端の開口端は、貯留部における養液LQ1の液面に向けて開口している。また、パン10Bの貯留部の養液LQ1内には、排出管16の一方の開口端が所定の長さだけ突出している。水位調節手段としての排出管16の一方の開口端の突出長さは、例えば、約3cmに設定されている。仮に養液LQ1の水位が上昇した場合、養液LQ1が排出管16を介してタンク12内に連通するリターン用排出路Du1に排出されるので養液LQ1の水位が、植物の主根28aの所定の長さに対応した所定の水位LHに制御されることとなる。
【0022】
予め、比較的長い主根を有する苗としての植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5…28Pnを準備するにあたっては、図1Aに示されるように、播種工程S1,発芽工程S2、苗育成工程S3を順次、経て植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5…28Pnが得られる。図1Bに示されるように、播種工程S1において、複数個の種24が、例えば、養液LQAが満たされた容器20内の水面に浮かされたスポンジ(人工培地板等に保持されたウレタンスポンジ等)22に、蒔かれる。次に、発芽工程S2において、種24が発芽した後、苗26の主根26aが所定の長さまで延びたとき、発芽した苗26が養液LQBが所定量、満たされた容器30に移される。容器30の深さは、容器20の深さよりも大に設定されている。その際、発芽した苗26の主根26の先端部26bと養液LQBの水面との相対位置は、発芽した苗26の主根26の先端部26bだけが養液LQBに浸される程度に設定される。即ち、苗26の主根26aの先端部26bと養液LQBの水面との相対位置は、主根26aが、養液LQBを十分吸収できる状態で保持されるように設定されている。養液LQBの水面の上方には、空気層30Aが形成される。
【0023】
続いて、苗育成工程S3において、容器30においてスポンジ22(または、発泡スチロール板)に生育した苗26が、主根26aの長さよりも長い所定の長さの主根28aを有する苗(以下、植物ともいう)28P1、28P2となるとき、主根28aを有する苗28P1、28P2が、スポンジ22を伴って容器30の深さよりも深い大きな容器40に移し替えられる。その際、苗28の主根28aの先端部28bと養液LQCの水面との相対位置は、苗28の主根28aの先端部28bだけが養液LQCに浸される程度に設定される。即ち、苗28の主根28aの先端部28bと養液LQCの水面との相対位置は、主根28aが、養液LQCを十分吸収できる状態で保持されるように設定されている。なお、図1Bにおいて、複数の苗のうちの苗28P1、28P2を代表的に示す。
【0024】
そして、苗28P1、28P2の主根28aの生育に応じて苗28P1、28P2の主根28aの先端部28bと養液LQCの水面との相対位置が調整される。これにより、苗条(シュート)28cが、生育した苗28P1、28P2におけるスポンジ22で支持される部分に形成される。また、苗28P1、28P2の主根28aの平均直径は、例えば、約2mm以上10mm以下の範囲とされる。上述の異なるサイズ(深さ)の容器を経て、長根苗を育成する工程に於いて、異なるサイズの栽培容器の数、大きさは、栽培する品種に応じて適正な組み合わせで実施する。図2に示される栽培用プランター10において、上述の苗28P1、28P2を使用することによって、後述するように、収穫時、約50cmの根部肥大部を有する植物が収穫されることとなる。
【0025】
なお、予め、比較的長い主根を有する苗としての植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5…28Pnを準備するにあたって、上述の例においては、異なるサイズの容器を使用して比較的長い主根を有する苗を育成したが、斯かる例に限られることなく、例えば、大きさの同一の1つの栽培容器を使って、養液の水位を一定に保った状態で主根の成長に合わせて、複数の人工培地(スポンジまたは発泡スチロール板)を、その栽培容器の上部へ引き上げて、主根の先端部だけが養液に浸るようにして長主根苗を栽培してもよい。このような場合、例えば、図7Aに示されるように、播種工程S1,発芽工程S2、苗育成工程S3を順次、経て植物28P1、28P2等が得られる。なお、図7Bにおいて、複数の苗のうちの苗28´P1、28´P2、28P1、28P2を代表的に示す。
【0026】
播種工程S1において、複数個の種24が、例えば、所定の濃度を有する養液LQDが満たされた容器60内の水面における左端に浮かされた第1のスポンジ22に、蒔かれる。次に、発芽工程S2において、種24が発芽した後、苗26の主根26aが所定の長さまで延びたとき、発芽した苗26だけが、図7Bにおいて右側に隣接した水面に配される第2のスポンジ22に移植される。なお、図7Bに示される各スポンジ22の4隅には、昇降機構(不図示)に巻き掛けられたワイヤ62がそれぞれ、連結されている。これにより、その昇降機構を作動させることにより、スポンジ22と養液LQDの水面との間の距離が調整可能とされる。
【0027】
その際、発芽した苗26の主根26の先端部26bと養液LQDの水面との相対位置は、発芽した苗26の主根26の先端部26bだけが養液LQDに浸される程度に設定される。即ち、苗26の主根26aの先端部26bと養液LQDの水面との相対位置は、主根26aが、養液LQDを十分吸収できる状態で保持されるように設定されている。養液LQDの水面の上方には、空気層60Aが形成される。
【0028】
続いて、苗育成工程S3において、第2のスポンジ22(または、発泡スチロール板)に生育した苗26が、主根26aの長さよりも長い所定の長さの主根28´aを有する苗(以下、植物ともいう)28´P1、28´P2となるとき、主根28´aの生育に応じて主根28´aを有する苗28´P1、28´P2を伴って第2のスポンジ22が昇降機構により所定の位置まで上昇される。その際、主根28´aの先端部28´bと養液LQDの水面との相対位置は、主根28´aの先端部28´bだけが養液LQDに浸される程度に設定される。即ち、主根28´aの先端部28´bと養液LQDの水面との相対位置は、主根28´aが、養液LQCを十分吸収できる状態で保持されるように設定されている。そして、苗28´P1、28´P2よりもさらに生育した苗28P1、28P2の主根28aの生育に応じて第2のスポンジ22が昇降機構により最大限まで上昇されて所定のストッパにより保持される。その際、苗28P1、28P2の主根28aの先端部28bと養液LQDの水面との相対位置は、主根28aの先端部28bだけが養液LQDに浸される程度に設定される。これにより、上述の例と同様に、苗条(シュート)28cが、生育した苗28P1、28P2における第2のスポンジ22で支持される部分に形成される。
【0029】
斯かる構成において、栽培用プランター10に配置された植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5…28Pnは、徐々に生育するにつれて図3Aに示されるように、根部肥大部38cが、上述の苗条(シュート)28cよりもより大きくなっている。これは、生育用空間(空気層)10A内の乾燥ストレスによるものとされる。
【0030】
なお、図3Aおよび図3Bにおいて、図2に示される栽培用プランター10の構成要素と同一の構成要素について同一の符合を付して示し、その重複説明を省略する。
【0031】
植物38P1、38P2、38P3、38P4、38P5…38Pnは、根部肥大部38cの上部に成長した葉38dと、根部肥大部38cの下部に主根38aとが延びている。主根38aの先端部38bは、養液LQ1に浸されている。即ち、苗38の主根38aの先端部38bと養液LQ1の水面との相対位置は、主根38aが、養液LQ1を十分吸収できる状態で保持されるように設定されている。
【0032】
そして、植物38P1、38P2、38P3、38P4、38P5…38Pnがさらに生育した後、植物の収穫時、図3Bに示されるように、根部肥大部48cの直径および長さは、上述の根部肥大部38cの直径および長さも大となる。植物48P1、48P2、48P3、48P4、48P5…48Pnは、根部肥大部38cの上部に成長した葉48dと、根部肥大部48cの下部に主根48aとが延びている。主根48aの先端部48bは、養液LQ1に浸されている。即ち、苗48の主根48aの先端部48bと養液LQ1の水面との相対位置は、主根48aが、養液LQ1を十分吸収できる状態で保持されるように設定されている。
【0033】
従来、根菜植物を水耕栽培で生育させる場合には、大きな栽培水槽で根部の長さ(ダイコンの場合50cm)以上の水深が必要と考えられていた。また、根部の一部を肥大化させたり、変形した肥大根部を作ることが限界であり、根部を長く、太く安定的に栽培することは不可能と考えられていた。根部の成長は、土耕栽培では、根が伸長しながら肥大化して長く太い根部を形成することが出来ている。伸長と肥大の両機能の微妙なバランスを取りながら成長することができる。
【0034】
しかし、本願発明者は、上述のような水耕栽培では、伸長と肥大の微妙な成長バランスは、許容範囲が狭いため維持することが困難であることを発見した。
【0035】
そこで、本願発明者は、伸長と肥大の成長バランスが取れないのであれば、2つの成長機能を別々に分けて栽培すればバランスを取る必要が無くなり正常な根部生育ができるのではないかと考えた。本発明に係る水耕栽培方法の一例は、具体的には、先に根部を細く長くさせる栽培を行い、その後、長く伸びた根部を肥大化させる栽培方法である。2つの成長機能を時間的にずらす栽培工程を経ることにより、伸長と肥大の機能分離を行った。本発明に係る水耕栽培方法の一例に従い実際に栽培実験を行ったところ、根部が長く、太く肥大化したダイコン(根菜植物)を安定した品質で大量に栽培することに成功した。
【0036】
上述の栽培用プランター10において栽培される植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5…は、例えば、根菜類とされるが、斯かる例に限られることなく、例えば、図4に示されるように、栽培される複数の植物32ai(i=1~n,nは正の整数)が、所定の株数のレタス等の葉菜類とされてもよい。図4において、図2に示される栽培用プランター10の構成要素と同一の構成要素について同一の符合を付して示し、その重複説明を省略する。
【0037】
葉菜類が栽培される場合、蓋部材14および蓋支持部材10Cが、養液LQ1の濃度と同一、もしくは、異なる濃度を有する養液LQ2が満たされたパン10Bから取り外される。複数の植物32aiの茎は、パン10B内の養液LQ2の水面に浮かされた発泡スチロール製の支持板34ai(i=1~n,nは正の整数)に植えつけられている。従って、共通の栽培用プランター10を使用することによって、根菜類および葉菜類を栽培することができる。
【0038】
図5は、本発明に係る水耕栽培装置の第2実施例を概略的に示す。
【0039】
図2に示される例においては、所定量の養液LQ1がパン10Bに満たされているのに対し、その代わりに、図5に示される例においては、水耕栽培装置が一群の植物28P1、28P2、28P3、28P4の主根28aに対応して設けられ所定量の養液LQ1を貯留させる分配路42と、一群の植物28P5、28P6、28P7、28P8の主根28aに対応して設けられ所定量の養液LQ1を貯留させる分配路44とを備えるものとされる。
【0040】
なお、図5において、図2に示される例における構成要素と同一の構成要素について同一の符合を付して示し、その重複説明を省略する。また、図5に示される水耕栽培装置は、図示が省略されるが、図2に示される例において備えられる蓋支持部材10C、タンク12、および、ポンプ12Pを備えている。
【0041】
水耕栽培装置は、例えば、所謂、太陽光型植物工場または人工光閉鎖型植物工場内に設けられている多段式の栽培棚(不図示)に複数個、配置されている。なお、図5においては、1つの水耕栽培装置が代表的に示されている。
【0042】
分配路42および44は、互いに同一の構造を備えているので分配路42について説明し、分配路44の説明は省略される。
【0043】
樋のような分配路42は、タンク12から供給路Du2を介して供給された養液LQ1が所定量、貯留される貯留部を内側に有している。貯留部の上方は、上述の生育用空間10Aに向けて開口されている。供給路Du2の他端の開口端は、貯留部における養液LQ1の液面に向けて開口している。また、分配路42の貯留部の養液LQ1内には、排出管(不図示)の一方の開口端が所定の長さだけ突出している。水位調節手段としての排出管の一方の開口端の突出長さは、例えば、約3cmに設定されている。仮に養液LQ1の水位が上昇した場合、養液LQ1が排出管を介してタンク12内に連通するリターン用排出路Du1に排出されるので養液LQ1の水位が、植物の主根28aの所定の長さに対応した所定の水位LHに制御されることとなる。
【0044】
斯かる構成においても、植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5…28Pnを生育させることができ、しかも、分配路42および44内に循環される養液LQ1の量が、図2に示されるパン10B内に循環される養液LQ1の量に比して少なくできるので養液LQ1の使用量を節約できる。
【0045】
図6A図6B、および、図6Cは、それぞれ、本発明に係る水耕栽培装置の第3実施例を概略的に示す。
【0046】
図2に示される例においては、所定量の養液LQ1がパン10Bに満たされているのに対し、その代わりに、図6Aに示される例においては、所定量の養液LQ1が、植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P4、28P5の主根28aにそれぞれ対応して設けられた栽培容器50B1、50B2、50B3、50B4,および、50B5に満たされるものとされる。
【0047】
なお、図6Aにおいて、図2に示される例における構成要素と同一の構成要素について同一の符合を付して示し、その重複説明を省略する。
【0048】
水耕栽培装置は、例えば、所謂、太陽光型植物工場または人工光閉鎖型植物工場内に設けられている多段式の栽培棚(不図示)に複数個、配置されている。なお、図6Aにおいては、1つの水耕栽培装置が代表的に示されている。
【0049】
水耕栽培装置は、例えば、所定の濃度に調整された液体肥料としての養液LQ1を貯留するタンク12と、タンク12内に配され、タンク12内の養液LQ1を後述する供給路Du2に供給するポンプ12Pと、栽培用プランター50の下部を形成する支持台50Dと、支持台50Dに支持され、所定量の養液LQ1を貯留する栽培容器50B1、50B2、50B3、50B4,および、50B5と、栽培用プランター50の上部を形成する蓋部材54と、蓋部材54をその下方から支持する蓋支持部材50Cと、を主な要素として含んで構成される。
【0050】
蓋部材54は、同一種類の所定の株数の植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5…28Pnを、それぞれ、その主根28aの先端部28bが栽培容器50B1、50B2、50B3、50B4,および、50B5内の養液LQ1に浸るように、後述する栓部材としての植物固定用ストッパ54aを介して支持する。各植物固定用ストッパ54aは、例えば、特許文献1に示されるように、蓋部材54の各開口部に対応した位置に配されている。蓋部材54の複数の開口部は、所定の間隔をもって縦横に形成されている。各植物固定用ストッパ54aは、例えば、特許文献1に示されるように、積み重ねられる複数のシール部材を収容するシール収容部を内側に有している。または、ウレタンスポンジマットの様な柔軟性と伸縮性を有する素材を用いてもよい。これにより、植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5の苗条(シュート)28cが、各植物固定用ストッパ54aにより、蓋部材54に支持される。
【0051】
蓋支持部材50Cは、図6Cに示されるように、生育した植物48P1、48P2、48P3、48P4、48P5の根部肥大部48cを収容できる生育用空間50Aを内側に有している。生育用空間(空気層)50Aは、例えば、生育した植物48P1、48P2、48P3、48P4、48P5における収穫時の根部肥大部48cの延在する方向の長さを越える高さHAを有している。高さHAは、例えば、だいこんの場合、50cm以上の値に設定されている。なお、高さHAは、斯かる例に限られることなく、例えば、生育した種類の異なる植物における収穫時の根部肥大部の延在する方向の長さに応じて50cm未満の所定の高さに設定されてもよい。にんじんの場合、高さHAは、例えば、約20cm以上30cm以下の範囲に設定される。
【0052】
養液貯留部としてのタンク12内のポンプ12Pは、サブタンク50T内に設けられる液面センサLSからの検出出力信号に基づいて図示が省略される制御部により駆動制御される。液面センサLSは、例えば、長さの異なる3本の水位検出端子を備えている。これにより、サブタンク50T内の水位が、中間の長さの水位検出端子により検出され、所定の下限値以下となるとき、ポンプ12Pが作動状態とされる。ポンプ12Pが作動状態とされる場合、タンク12内の養液LQ1が供給路Du2を通じてサブタンク50Tの貯留部内に供給される。その際、サブタンク50T内の水位が、一番短い水位検出端子により検出され、所定の上限値に到達するとき、液面センサLSからの検出出力信号に基づいて制御部によりポンプ12Pが停止される。なお、一番長い水位検出端子は、コモン端子の役目を果たす。
【0053】
栽培容器50B1、50B2、50B3、50B4,および、50B5の貯留部は、連通路50Pを介して互いに連通しており、栽培容器50B5の貯留部は、連通路50Pを介してサブタンク50T内に連通している。各貯留部の上方は、上述の生育用空間50Aに向けて開口されている。供給路Du2の他端の開口端は、サブタンク50Tの貯留部における養液LQ1の液面に向けて開口している。従って、栽培容器50B1、50B2、50B3、50B4,および、50B5の貯留部内の養液LQ1の水位は、サブタンク50T内の水位に対応して制御されることとなる。
【0054】
斯かる構成において、栽培用プランター50に配置された植物28P1、28P2、28P3、28P4、28P5…28Pnは、徐々に生育するにつれて図6Bに示されるように、根部肥大部38cが、上述の苗条(シュート)28cよりもより大きくなっている。これは、生育用空間(空気層)50A内の乾燥ストレスによるものとされる。
【0055】
植物38P1、38P2、38P3、38P4、38P5…38Pnは、根部肥大部38cの上部に成長した葉38dと、根部肥大部38cの下部に主根38aとが延びている。主根38aの先端部38bは、養液LQ1に浸されている。
【0056】
そして、植物38P1、38P2、38P3、38P4、38P5…38Pnがさらに生育した後、植物の収穫時、図6Cに示されるように、根部肥大部48cの直径および長さは、上述の根部肥大部38cの直径および長さも大となる。植物48P1、48P2、48P3、48P4、48P5…48Pnは、根部肥大部48cの上部に成長した葉48dと、根部肥大部48cの下部に主根48aとが延びている。主根48aの先端部48bは、養液LQ1に浸されている。これにより、排水部が必要なく、大幅に養液の供給量を削減できる。
【0057】
従って、上述の例における水耕栽培装置おいては、植物の根部の成長と肥大化とを分離させて栽培しているので予め、軽量で、省スペースで栽培できる苗の段階では、大きな水槽を使うことなく効率的に長い苗を生育させることは容易である。植物の根部が肥大化、重量が増し、移動などの扱いが困難になる段階では、植物の根部の先端部だけに少量の養液が浸れば良く、空間の確保さえできれば根菜植物の栽培を実現することができる。大きな水槽や、大量の水を保持する手段を必要としない。さらに水位調整手段(容器移動手段)も不要であるため、また、多段栽培も容易にできるようになるため、単位面積当たりの生産性が高くなる。例えば、葉菜類(レタス)栽培で用いられている水耕栽培装置の水深約3cmの深さの水量で十分に栽培できるので新たに、根菜系植物専用の栽培装置を新たに開発する必要もない。従来、根菜系植物は、大きな水槽と大量の水が必須と考えられていたが、不要にすることができた。根菜系植物は、食用作物以外に、薬草(漢方、生薬)などの根部に貯蔵させる有効成分の生産も期待されているが、安価な栽培方法を開発することにより、無農薬で、栽培環境の制御により安定した含有量を確保することが可能になる。
【符号の説明】
【0058】
10,50 プランター
10B パン
10C 蓋支持部材
12 タンク
14 蓋部材
16 排出管
28P1、28P2、28P3、28P4、28P5 植物
38P1、38P2、38P3、38P4、38P5 植物
42,48 分配路
48P1、48P2、48P3、48P4、48P5 植物
50B1、50B2、50B3、50B4,50B5 栽培容器
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B