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  • 特許-永久磁石電動機の制御装置及び制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】永久磁石電動機の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/16 20160101AFI20230511BHJP
   H02P 21/06 20160101ALI20230511BHJP
【FI】
H02P21/16
H02P21/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020023283
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021129440
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】松岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】名和 政道
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-352800(JP,A)
【文献】特開2014-187864(JP,A)
【文献】特開2018-98866(JP,A)
【文献】特開2007-181334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/16
H02P 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石電動機の停止状態で、d軸電流としてd軸正弦波を与えてq軸電流をゼロとした場合のd軸電圧、d軸正弦波の振幅、d軸正弦波の周波数、d軸正弦波のオフセット電流を用いた電圧方程式からd軸インダクタンスを算出するd軸インダクタンス算出部と、
永久磁石電動機の停止状態で、q軸電流としてq軸正弦波を与えてd軸電流としてトルクゼロ電流を与えた場合のq軸電圧、q軸正弦波の振幅、q軸正弦波の周波数、d軸電流としてのトルクゼロ電流を用いた電圧方程式からq軸インダクタンスを算出するq軸インダクタンス算出部と、
を有することを特徴とする永久磁石電動機の制御装置。
【請求項2】
前記d軸電流としての前記トルクゼロ電流は、前記d軸正弦波の前記オフセット電流である、
ことを特徴とする請求項1に記載の永久磁石電動機の制御装置。
【請求項3】
前記d軸インダクタンス算出部は、前記d軸正弦波の周波数が所定閾値より大きい場合に、前記電圧方程式において、前記d軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項を無視する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の永久磁石電動機の制御装置。
【請求項4】
前記q軸インダクタンス算出部は、前記q軸正弦波の周波数が所定閾値より大きい場合に、前記電圧方程式において、前記q軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項を無視する、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の永久磁石電動機の制御装置。
【請求項5】
永久磁石電動機の停止状態で、d軸電流としてd軸正弦波を与えてq軸電流をゼロとした場合のd軸電圧、d軸正弦波の振幅、d軸正弦波の周波数、d軸正弦波のオフセット電流を用いた電圧方程式からd軸インダクタンスを算出するd軸インダクタンス算出ステップと、
永久磁石電動機の停止状態で、q軸電流としてq軸正弦波を与えてd軸電流としてトルクゼロ電流を与えた場合のq軸電圧、q軸正弦波の振幅、q軸正弦波の周波数、d軸電流としてのトルクゼロ電流を用いた電圧方程式からq軸インダクタンスを算出するq軸インダクタンス算出ステップと、
を有することを特徴とする永久磁石電動機の制御方法。
【請求項6】
前記d軸電流としての前記トルクゼロ電流は、前記d軸正弦波の前記オフセット電流である、
ことを特徴とする請求項5に記載の永久磁石電動機の制御方法。
【請求項7】
前記d軸インダクタンス算出ステップでは、前記d軸正弦波の周波数が所定閾値より大きい場合に、前記電圧方程式において、前記d軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項を無視する、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の永久磁石電動機の制御方法。
【請求項8】
前記q軸インダクタンス算出ステップでは、前記q軸正弦波の周波数が所定閾値より大きい場合に、前記電圧方程式において、前記q軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項を無視する、
ことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の永久磁石電動機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石電動機の制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、モータ定数の自動計測技術に関する同期モータの制御装置を開示している。同期モータの制御装置は、電流制御手段と、電流検出部と、2軸電流変換手段と、同定手段と、を有している。
【0003】
電流制御手段は、電流指令に検出電流が追従するように、電流指令と検出電流との偏差に対応した電圧指令を演算し、出力する。電流検出部は、電圧指令を反映した3相交流電圧が与えられる同期モータの相電流を検出する。2軸電流変換手段は、電流検出部によって検出された相電流をd-q回転座標上の検出電流id、iqに変換する。
【0004】
同定手段は、同期モータのモータ定数を同定するものであり、次の(A)~(C)の各手段を有している。
(A)モータ定数を同定する処理の開始に応じて、同期モータの回転子を所定位置に引き込むとともに、d軸に所定の直流電流指令id*を設定し、q軸の電流指令iq*をゼロに設定し、処理の実行期間中はそれらの電流指令id*、iq*を保持する手段。
(B)直流電流指令id*または直流電流指令id*と検出電流idとの偏差にモータ定数を同定するためのd軸同定信号idM*を重畳し、電流指令iq*または電流指令iq*と検出電流iqとの偏差にq軸同定信号iqM*を重畳するとともに、それら同定信号idM*、iqM*が重畳された電流指令を電流制御手段に与える手段。
(C)電流制御手段の出力である電圧指令Vd*、Vq*に基づく電圧情報と、検出電流id、iqに基づく電流情報と、回転子の静止位置に基づく位置情報とを用いて、同期モータと当該制御装置を含む系のモデルに含まれるパラメータを逐次推定し、推定されたパラメータからd軸およびq軸に関するモータ定数を求める手段。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-182881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の同期モータの制御装置は、同定手段がモータ定数を求めるのに際し、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqの逐次同定が必須であるため、当該逐次同定ひいてはモータ定数の算出の煩雑化と精度悪化と長時間化を招くおそれがある。また、特許文献1の同期モータの制御装置は、モータ定数を同定するためのd軸同定信号idM*とq軸同定信号iqM*として、例えば、定格電流の1%程度の大きさ(振幅)を持つM系列信号(2値信号)を用いているため、やはり、モータ定数の算出の煩雑化と精度悪化と長時間化を招くおそれがある。
【0007】
本発明は、以上の問題意識に基づいてなされたものであり、d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスを好適に算出することができる永久磁石電動機の制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態の永久磁石電動機の制御装置は、永久磁石電動機の停止状態で、d軸電流としてd軸正弦波を与えてq軸電流をゼロとした場合のd軸電圧、d軸正弦波の振幅、d軸正弦波の周波数、d軸正弦波のオフセット電流を用いた電圧方程式からd軸インダクタンスを算出するd軸インダクタンス算出部と、永久磁石電動機の停止状態で、q軸電流としてq軸正弦波を与えてd軸電流としてトルクゼロ電流を与えた場合のq軸電圧、q軸正弦波の振幅、q軸正弦波の周波数、d軸電流としてのトルクゼロ電流を用いた電圧方程式からq軸インダクタンスを算出するq軸インダクタンス算出部と、を有することを特徴とする。
【0009】
本実施形態の永久磁石電動機の制御方法は、永久磁石電動機の停止状態で、d軸電流としてd軸正弦波を与えてq軸電流をゼロとした場合のd軸電圧、d軸正弦波の振幅、d軸正弦波の周波数、d軸正弦波のオフセット電流を用いた電圧方程式からd軸インダクタンスを算出するd軸インダクタンス算出ステップと、永久磁石電動機の停止状態で、q軸電流としてq軸正弦波を与えてd軸電流としてトルクゼロ電流を与えた場合のq軸電圧、q軸正弦波の振幅、q軸正弦波の周波数、d軸電流としてのトルクゼロ電流を用いた電圧方程式からq軸インダクタンスを算出するq軸インダクタンス算出ステップと、を有することを特徴とする。
【0010】
これにより、永久磁石電動機の停止状態でd軸電流とq軸電流(d軸正弦波、q軸正弦波、トルクゼロ電流、オフセット電流)を与えたときの各種パラメータに基づいて、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスを好適に算出することができる。
【0011】
前記d軸電流としての前記トルクゼロ電流は、前記d軸正弦波の前記オフセット電流であってもよい。
【0012】
これにより、トルクゼロ電流とオフセット電流を別々に設定することなく共通化できるので、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスの算出を容易化することができる。
【0013】
前記d軸インダクタンス算出部は(前記d軸インダクタンス算出ステップでは)、前記d軸正弦波の周波数が所定閾値より大きい場合に、前記電圧方程式において、前記d軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項を無視してもよい。
【0014】
これにより、電圧方程式において、極めて小さいd軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項を無視することで、d軸インダクタンスの算出を容易化することができる。
【0015】
前記q軸インダクタンス算出部は(前記q軸インダクタンス算出ステップでは)、前記q軸正弦波の周波数が所定閾値より大きい場合に、前記電圧方程式において、前記q軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項を無視してもよい。
【0016】
これにより、電圧方程式において、極めて小さいq軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項を無視することで、q軸インダクタンスの算出を容易化することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスを好適に算出することができる永久磁石電動機の制御装置及び制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態の永久磁石電動機の制御装置の一例を示す図である。
図2】電流制御部のd軸インダクタンス算出部とq軸インダクタンス算出部の構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0020】
図1は、実施形態の永久磁石電動機の制御装置の一例を示す図である。永久磁石電動機としては、例えば、PM(Permanent Magnet)モータとしての埋込永久磁石型同期モータ(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)を用いることができる。
【0021】
図1に示す制御装置1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される永久磁石電動機(以下、単に「電動機」と呼ぶことがある)Mを駆動するための制御装置であって、インバータ回路2と、制御回路3とを備える。なお、電動機Mは、回転子の位相θ(電気角)を検出し、その検出した位相θを制御回路3に出力する電気角検出部Sp(レゾルバなど)を備えているものとする。
【0022】
インバータ回路2は、電源Pから供給される直流電力を交流電力に変換して電動機Mを駆動するものであって、電圧センサSvと、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など)と、電流センサSi1、Si2とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端が電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端が電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSi1を介して電動機MのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSi2を介して電動機MのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電動機MのW相の入力端子に接続されている。なお、スイッチング素子SW1~SW6を特に区別しない場合、単に、スイッチング素子SWとする。
【0023】
電圧センサSvは、電源Pの電圧Vinを検出し、その検出した電圧Vinを制御回路3に送る。
【0024】
コンデンサCは、電圧Vinを平滑する。
【0025】
スイッチング素子SW1は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S1がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S1がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW2は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S2がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S2がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW3は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S3がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S3がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW4は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S4がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S4がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW5は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S5がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S5がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW6は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S6がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S6がローレベルであるときオフする。なお、搬送波は、三角波、ノコギリ波(鋸歯状波)、逆ノコギリ波などとする。また、パルス幅変調信号S1~S6を特に区別しない場合、単に、パルス幅変調信号Sとする。
【0026】
スイッチング素子Sw1~SW6がそれぞれオン、オフすることで、電源Pから出力される直流の電圧Vinが、互いに位相が120度ずつ異なる交流電圧Vu、Vv、Vwに変換される。そして、交流電圧Vuが電動機MのU相の入力端子に印加され、交流電圧Vvが電動機MのV相の入力端子に印加され、交流電圧Vwが電動機MのW相の入力端子に印加されることで、電動機Mに互いに位相が120度ずつ異なる交流電流Iu、Iv、Iwが流れ、電動機Mの回転子が回転する。
【0027】
電流センサSi1は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのU相に流れる交流電流Iuを検出して制御回路3に出力する。また、電流センサSi2は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのV相に流れる交流電流Ivを検出して制御回路3に出力する。
【0028】
制御回路3は、ドライブ回路4と、演算部5と、記憶部6とを備える。なお、記憶部6は、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)などにより構成され、後述する、電動機Mの回転数ωと電動機Mのトルクとが互いに対応付けられている情報D1、電動機Mのトルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが互いに対応付けられている情報D2などを記憶しているものとする。
【0029】
ドライブ回路4は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、演算部5から出力されるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*と搬送波の周波数fとを比較し、その比較結果に応じたパルス幅変調信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。なお、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*を特に区別しない場合、単に、電圧指令値V*とする。
【0030】
演算部5は、マイクロコンピュータなどにより構成され、回転数演算部7と、減算部8と、トルク制御部9と、トルク/電流指令値変換部10と、座標変換部11と、減算部12と、減算部13と、電流制御部14と、座標変換部15とを備える。例えば、マイクロコンピュータが記憶部6に記憶されているプログラムを実行することにより、回転数演算部7、減算部8、トルク制御部9、トルク/電流指令値変換部10、座標変換部11、減算部12、減算部13、電流制御部14、及び座標変換部15が実現される。
【0031】
回転数演算部7は、電気角検出部Spにより検出される位相θを用いて、電動機Mの回転数ωを演算する。例えば、回転数演算部7は、位相θを所定時間(演算部5の動作クロックなど)で除算することにより回転数ωを求める。
【0032】
減算部8は、外部から入力される回転数指令値ω*と回転数演算部7から出力される回転数ωとの差Δωを算出する。
【0033】
トルク制御部9は、減算部8から出力される差Δωを用いて、トルク指令値T*を求める。例えば、トルク制御部9は、記憶部6に記憶されている、電動機Mの回転数ωと電動機Mのトルクとが互いに対応付けられている情報D1を参照して、差Δωに相当する回転数ωに対応するトルクを、トルク指令値T*として求める。
【0034】
トルク/電流指令値変換部10は、トルク制御部9から出力されるトルク指令値T*を、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に変換する。例えば、トルク/電流指令値変換部10は、記憶部6に記憶されている、電動機Mのトルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが互いに対応付けられている情報D2を参照して、トルク指令値T*に相当するトルクに対応するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を求める。
【0035】
座標変換部11は、電流センサSi1により検出される交流電流Iu及び電流センサSi2により検出される交流電流Ivを用いて、電動機MのW相に流れる交流電流Iwを求める。なお、電流センサSi1、Si2により検出される電流は、交流電流Iu、Ivの組み合わせに限定されず、交流電流Iv、Iwの組み合わせ、または、交流電流Iu、Iwの組み合わせでもよい。電流センサSi1、Si2により交流電流Iv、Iwが検出される場合、座標変換部11は、交流電流Iv、Iwを用いて、交流電流Iuを求める。また、電流センサSi1、Si2により交流電流Iu、Iwが検出される場合、座標変換部11は、交流電流Iu、Iwを用いて、交流電流Ivを求める。
【0036】
また、座標変換部11は、電気角検出部Spにより検出される位相θを用いて、交流電流Iu、Iv、Iwをd軸電流Id(弱め界磁を発生させるための電流成分)及びq軸電流Iq(トルクを発生させるための電流成分)に変換する。例えば、座標変換部11は、下記式1に示す変換行列C1を用いて、交流電流Iu、Iv、Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0037】
【数1】
【0038】
なお、インバータ回路2において、電流センサSi1、Si2の他に、電動機MのW相に流れる交流電流Iwを検出する電流センサSi3をさらに備える場合、座標変換部11は、電気角検出部Spにより検出される位相θを用いて、電流センサSi1~Si3により検出される交流電流Iu、Iv、Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換するように構成してもよい。
【0039】
減算部12は、トルク/電流指令値変換部10から出力されるd軸電流指令値Id*と、座標変換部11から出力されるd軸電流Idとの差ΔIdを算出する。
【0040】
減算部13は、トルク/電流指令値変換部10から出力されるq軸電流指令値Iq*と、座標変換部11から出力されるq軸電流Iqとの差ΔIqを算出する。
【0041】
電流制御部14は、減算部12から出力される差ΔId及び減算部13から出力される差ΔIqを用いたPI(Proportional Integral)制御により、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。例えば、電流制御部14は、下記式2を用いてd軸電圧指令値Vd*を算出するとともに、下記式3を用いてq軸電圧指令値Vq*を算出する。なお、KpはPI制御の比例項の定数とし、KiはPI制御の積分項の定数とし、Lqは電動機Mを構成するコイルのq軸インダクタンスとし、Ldは電動機Mを構成するコイルのd軸インダクタンスとし、ωは電動機Mの回転子の回転数とし、Keは誘起電圧定数とする。
【0042】
d軸電圧指令値Vd*=Kp×差ΔId+Ki×∫(差ΔId)-ωLqIq…式2
q軸電圧指令値Vq*=Kp×差ΔIq+Ki×∫(差ΔIq)+ωLdId+ωKe…式3
【0043】
座標変換部15は、電圧センサSvにより検出される電圧Vin及び電気角検出部Spにより検出される位相θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。例えば、座標変換部15は、下記式4に示す変換行列C2を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。
【0044】
【数2】
【0045】
このように、電流制御部14は、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*を算出するためのパラメータとして、電動機Mを構成するコイルのd軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとを使用する。このため、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqの精度が低いと、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*の精度も低下してしまう。
【0046】
本実施形態では、上記問題を重要な技術課題として捉えて、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqを好適に(高精度に)算出するための構成要素として、図2に示すように、電流制御部14に、d軸インダクタンス算出部14dと、q軸インダクタンス算出部14qとを設けている。
【0047】
より具体的に、永久磁石電動機Mの停止時に、d軸電流及びq軸電流として交流(正弦波)を与えた場合のd軸及びq軸の各種パラメータと電圧方程式から、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqを算出する。d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqは、d軸インダクタンス算出部14dとq軸インダクタンス算出部14qによって別々に算出される。
【0048】
d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqを算出するためのdq座標系の電圧方程式は、下記式5で表される。
【0049】
【数3】
【0050】
<d軸インダクタンス算出部14dによるd軸インダクタンスLdの算出>
上記式5の電圧方程式において、d軸電流idとしてd軸正弦波を与えてq軸電流iqをゼロとした場合、トルクがゼロとなるため永久磁石電動機Mが回転しない(停止状態となる)。すなわち、下記式6、7、8が成立する。このとき、上記式5の電圧方程式の一行目(d軸電圧の式)は、下記式9のように書き下される。下記式6-9において、idhはd軸正弦波の振幅を示しており、ωhはd軸正弦波の周波数(角周波数)を示しており、tは時間を示しており、Raは永久磁石電動機Mの抵抗値を示している。また、id0は、永久磁石電動機Mの停止状態において弱め界磁によって永久磁石電動機Mを回転方向に位置決めするのに十分な値に設定されたオフセット電流である。
【0051】
id=id0+idh×sin(ωh×t)…式6
iq=0…式7
ω=0…式8
Vd=Ra×id+Ld×pid
=Ra×(id0+idh×sin(ωh×t))+Ld×ωh×idh×cos(ωh×t)…式9
【0052】
ここで、d軸正弦波の周波数ωhを十分に早くすると、上記式9の右辺第一項の「sin(ωh×t)」が右辺第二項の「cos(ωh×t)」に比べて無視できる(sin(ωh×t)<<cos(ωh×t))。このため、上記式9を下記式10に簡略化できる。下記式10を変形することにより、d軸インダクタンスLdを算出することができる。
【0053】
Vd=Ra×id0+Ld×ωh×idh×cos(ωh×t)…式10
【0054】
このように、d軸インダクタンス算出部14dは、永久磁石電動機Mの停止状態で、d軸電流idとしてd軸正弦波を与えてq軸電流iqをゼロとした場合のd軸電圧Vd、d軸正弦波の振幅idh、d軸正弦波の周波数ωh、d軸正弦波のオフセット電流id0を用いた電圧方程式からd軸インダクタンスLdを算出する。
【0055】
d軸インダクタンス算出部14dは、d軸正弦波の周波数ωhが所定閾値より大きい場合に、電圧方程式において、d軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項(idh×sin(ωh×t))を無視する(ゼロとみなす)。別言すると、電圧方程式におけるd軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項(idh×sin(ωh×t))を無視できるように十分に大きなd軸正弦波の周波数ωhを設定する。なお、所定閾値の設定方法や具体値には自由度があり、種々の設計変更が可能であるが、例えば、永久磁石電動機Mの抵抗値Raとd軸インダクタンスLdを基準として、Ra/Ldの数倍、数十倍、数百倍に設定することができる。
【0056】
<q軸インダクタンス算出部14qによるq軸インダクタンスLqの算出>
上記式5の電圧方程式において、q軸電流iqとしてq軸正弦波を与えてd軸電流idとして永久磁石電動機Mが回転しない程度のトルクゼロ電流を与えた場合、トルクがゼロとなるため永久磁石電動機Mが回転しない(停止状態となる)。本実施形態では、d軸電流idとしてのトルクゼロ電流を、上述したd軸正弦波のオフセット電流id0と同一にしている(id=id0)。しかし、永久磁石電動機Mの停止状態において弱め界磁によって永久磁石電動機Mを回転方向に位置決めできる限りにおいて、d軸電流idとしてのトルクゼロ電流を、上述したd軸正弦波のオフセット電流id0と異ならせてもよい(id≠id0)。
【0057】
上記の場合、下記式11、12、13が成立する。このとき、上記式5の電圧方程式の二行目(q軸電圧の式)は、下記式14のように書き下される。下記式11-14において、iqhはq軸正弦波の振幅を示しており、ωhはq軸正弦波の周波数(角周波数)を示しており、tは時間を示しており、Raは永久磁石電動機Mの抵抗値を示している。
【0058】
id=id0…式11
iq=iqh×sin(ωh×t)…式12
ω=0…式13
Vq=Ra×iq+Lq×piq
=Ra×iqh×sin(ωh×t)+Lq×ωh×iqh×cos(ωh×t)…式14
【0059】
ここで、q軸正弦波の周波数ωhを十分に早くすると、上記式14の右辺第一項の「sin(ωh×t)」が右辺第二項の「cos(ωh×t)」に比べて無視できる(sin(ωh×t)<<cos(ωh×t))。このため、上記式14を下記式15に簡略化できる。下記式15を変形することにより、q軸インダクタンスLqを算出することができる。
【0060】
Vq=Lq×ωh×iqh×cos(ωh×t)…式15
【0061】
このように、q軸インダクタンス算出部14qは、永久磁石電動機Mの停止状態で、q軸電流iqとしてq軸正弦波を与えてd軸電流idとしてトルクゼロ電流(例えばオフセット電流id0)を与えた場合のq軸電圧Vq、q軸正弦波の振幅iqh、q軸正弦波の周波数ωh、d軸電流idとしてのトルクゼロ電流(例えばオフセット電流id0)を用いた電圧方程式からq軸インダクタンスLqを算出する。
【0062】
q軸インダクタンス算出部14qは、q軸正弦波の周波数ωhが所定閾値より大きい場合に、電圧方程式において、q軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項(iqh×sin(ωh×t))を無視する(ゼロとみなす)。別言すると、電圧方程式におけるq軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項(iqh×sin(ωh×t))を無視できるように十分に大きなq軸正弦波の周波数ωhを設定する。なお、所定閾値の設定方法や具体値には自由度があり、種々の設計変更が可能であるが、例えば、永久磁石電動機Mの抵抗値Raとq軸インダクタンスLqを基準として、Ra/Lqの数倍、数十倍、数百倍に設定することができる。
【0063】
このように、本実施形態の永久磁石電動機Mの制御装置1によれば、d軸インダクタンス算出部14dが、永久磁石電動機Mの停止状態で、d軸電流idとしてd軸正弦波を与えてq軸電流iqをゼロとした場合のd軸電圧Vd、d軸正弦波の振幅idh、d軸正弦波の周波数ωh、d軸正弦波のオフセット電流id0を用いた電圧方程式からd軸インダクタンスLdを算出し、q軸インダクタンス算出部14qが、永久磁石電動機Mの停止状態で、q軸電流iqとしてq軸正弦波を与えてd軸電流idとしてトルクゼロ電流(例えばオフセット電流id0)を与えた場合のq軸電圧Vq、q軸正弦波の振幅iqh、q軸正弦波の周波数ωh、d軸電流idとしてのトルクゼロ電流(例えばオフセット電流id0)を用いた電圧方程式からq軸インダクタンスLqを算出する。これにより、永久磁石電動機Mの停止状態でd軸電流とq軸電流(d軸正弦波、q軸正弦波、トルクゼロ電流、オフセット電流)を与えたときの各種パラメータに基づいて、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqを好適に(高精度に)算出することができる。すなわち、上述した特許文献1のように、d軸インダクタンスLdやq軸インダクタンスLqの逐次同定が不要であり、d軸正弦波やq軸正弦波と比べて演算が複雑となるM系列信号(2値信号)を使用しなくて済む。
【0064】
なお、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0065】
実施形態では、d軸インダクタンス算出部及びq軸インダクタンス算出部は、d軸正弦波の周波数又はq軸正弦波の周波数が所定閾値より大きい場合に、電圧方程式において、d軸正弦波又はq軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項(iqh×sin(ωh×t))を無視してd軸インダクタンスやq軸インダクタンスを算出しているが、所定閾値以下の周波数のd軸正弦波又はq軸正弦波を用いてd軸インダクタンスやq軸インダクタンスを算出してもよい。しかし、この場合、d軸正弦波又はq軸正弦波の振幅と周波数の正弦波成分の乗算項(iqh×sin(ωh×t))を無視できなくなるためd軸インダクタンスやq軸インダクタンスの算出が難しくなる。
【符号の説明】
【0066】
1 永久磁石電動機の制御装置
2 インバータ回路
3 制御回路
4 ドライブ回路
5 演算部
6 記憶部
7 回転数演算部
8 減算部
9 トルク制御部
10 トルク/電流指令値変換部
11 座標変換部
12 減算部
13 減算部
14 電流制御部
14d d軸インダクタンス算出部
14q q軸インダクタンス算出部
15 座標変換部
M 永久磁石電動機
図1
図2