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特許7276331水系エポキシ樹脂用硬化剤、水系エポキシ樹脂組成物及びその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】水系エポキシ樹脂用硬化剤、水系エポキシ樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20230511BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230511BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230511BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20230511BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C08G59/50
C08L63/00 Z
C09D5/02
C09D5/08
C09D163/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020521081
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2019015566
(87)【国際公開番号】W WO2019225186
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018099699
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花岡 拓磨
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/175740(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/088528(WO,A1)
【文献】特表2001-502378(JP,A)
【文献】特開平05-178967(JP,A)
【文献】特開2018-016672(JP,A)
【文献】特開2002-080564(JP,A)
【文献】特開2006-070125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
C08L 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分及び(B)成分を含有する、水系エポキシ樹脂用硬化剤であって、
(A):ポリアミドアミン系硬化剤(a1
(B):スチレンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応生成物(b1)、及び、エピクロロヒドリンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応生成物(b2)からなる群から選ばれる少なくとも1種
N-CH-A-CH-NH (1)
(式(1)中、Aは1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は1,4-フェニレン基である。)
前記(A)成分と前記(B)成分との含有量比が、質量比で99/1~70/30であり、
前記反応生成物(b1)が下記一般式(2)で示される化合物を10質量%以上含み、
前記反応生成物(b2)が下記一般式(3)で示される化合物を主成分として含み、前記反応生成物(b2)中の下記一般式(3)で示される化合物の含有量が50質量%以上である、水系エポキシ樹脂用硬化剤。
【化1】

(式(2)中、Aは前記と同じである。)
【化2】

(式(3)中、Aは前記と同じである。nは1~12の数である。)
【請求項2】
前記(A)成分と前記(B)成分との含有量比が、質量比で95/5~90/10である、請求項に記載の水系エポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水系エポキシ樹脂用硬化剤と、水系エポキシ樹脂とを含有する水系エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項に記載の水系エポキシ樹脂組成物を含む防食用塗料。
【請求項5】
請求項に記載の水系エポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系エポキシ樹脂用硬化剤、水系エポキシ樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミン、並びに、ポリアミンとアルケニル化合物やエポキシ化合物等との付加反応により得られる化合物は、エポキシ樹脂硬化剤として有用であることが知られている。これらのエポキシ樹脂硬化剤を利用したエポキシ樹脂組成物は、船舶・橋梁・陸海上鉄構築物用防食塗料等の塗料分野、コンクリート構造物のライニング・補強・クラック補修材・シーリング材・注入材・プライマー・スクリード・トップコート・FRP補強、建築物の床材、上下水道のライニング、舗装材、接着剤等の土木・建築分野、ダイアタッチ材、絶縁封止剤等の電気・電子分野、繊維強化プラスチック分野に広く利用されている。
【0003】
塗料分野においては近年、環境面、安全面から溶剤規制が強化されており、塗料の水系化の検討が進められている。エポキシ樹脂系塗料の水系化とは、例えばエポキシ樹脂に乳化剤と水を添加してエマルジョン化した水系エポキシ樹脂を主剤として使用するというものである。
【0004】
特許文献1には、実質的にメタキシリレンジアミンを含まないエピクロロヒドリン-メタキシリレンジアミン反応生成物と、可塑剤アルコール及び水性アルコール溶媒を含むグループから選択された少なくとも1つの液状水酸基-官能性融点降下剤(liquid hydroxyl-functional melting point depressant)とを含むエポキシ硬化試薬組成物、並びに、該エポキシ硬化試薬組成物をエポキシ樹脂水分散体と組み合わせて用いることが開示されている。
特許文献2には、水系エポキシ樹脂と、ポリアミドアミンであるフェナルカミン組成物とを含有するアスファルト組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2001-502378号公報
【文献】国際公開第2015/027420号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水系エポキシ樹脂組成物においては、主剤である水系エポキシ樹脂に対し、親水性の高い硬化剤を組み合わせることが一般的である。しかしながらこのような水系エポキシ樹脂組成物は硬化速度、塗膜の硬度及び耐薬品性の面で必ずしも十分な性能を有するものではなかった。耐薬品性の中でも、水系エポキシ樹脂組成物を防食用塗料に用いる場合は塩水に長時間曝されても外観変化が少なく、被塗装面の錆発生を防止できることが重要である。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、溶剤を含まず環境面や安全面においても好適であり、硬化性が良好で、塗膜の硬度及び耐薬品性、特に塩水防食性に優れる水系エポキシ樹脂組成物及びその硬化物、並びに当該水系エポキシ樹脂組成物に用いる水系エポキシ樹脂用硬化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は所定の構造を有する硬化剤成分を含有するエポキシ樹脂用硬化剤が上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、下記[1]~[8]に関する。
[1]下記(A)成分及び(B)成分を含有する、水系エポキシ樹脂用硬化剤。
(A):ポリアミドアミン系硬化剤(a1)、ポリアミン化合物とポリエポキシ化合物との反応生成物(a2)、並びに、ポリアミン化合物、フェノール化合物、及びアルデヒド化合物のマンニッヒ反応生成物(a3)からなる群から選ばれる少なくとも1種
(B):スチレンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応生成物(b1)、及び、エピクロロヒドリンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応生成物(b2)からなる群から選ばれる少なくとも1種
N-CH-A-CH-NH (1)
(式(1)中、Aは1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は1,4-フェニレン基である。)
[2]前記反応生成物(b1)が下記一般式(2)で示される化合物を10質量%以上含む、上記[1]に記載の水系エポキシ樹脂用硬化剤。
【化1】

(式(2)中、Aは前記と同じである。)
[3]前記反応生成物(b2)が下記一般式(3)で示される化合物を主成分として含む、上記[1]に記載の水系エポキシ樹脂用硬化剤。
【化2】

(式(3)中、Aは前記と同じである。nは1~12の数である。)
[4]前記(A)成分と前記(B)成分との含有量比が、質量比で99/1~70/30である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の水系エポキシ樹脂用硬化剤。
[5]前記(A)成分と前記(B)成分との含有量比が、質量比で95/5~90/10である、上記[4]に記載の水系エポキシ樹脂用硬化剤。
[6]上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の水系エポキシ樹脂用硬化剤と、水系エポキシ樹脂とを含有する水系エポキシ樹脂組成物。
[7]上記[6]に記載の水系エポキシ樹脂組成物を含む防食用塗料。
[8]上記[6]に記載の水系エポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水系エポキシ樹脂用硬化剤を用いることにより、溶剤を含まず環境面や安全面においても好適であり、硬化性が良好で、塗膜の硬度及び耐薬品性、特に塩水防食性に優れる水系エポキシ樹脂組成物を提供することができる。該水系エポキシ樹脂組成物は防食用塗料等の各種塗料、接着剤、床材、封止剤、ポリマーセメントモルタル、ガスバリアコーティング、プライマー、スクリード、トップコート、シーリング材、クラック補修材、コンクリート材等にも好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[水系エポキシ樹脂用硬化剤]
本発明の水系エポキシ樹脂用硬化剤(以下、単に「本発明の硬化剤」ともいう)は、下記(A)成分及び(B)成分を含有することを特徴とする。
(A):ポリアミドアミン系硬化剤(a1)、ポリアミン化合物とポリエポキシ化合物との反応生成物(a2)、並びに、ポリアミン化合物、フェノール化合物、及びアルデヒド化合物のマンニッヒ反応生成物(a3)からなる群から選ばれる少なくとも1種
(B):スチレンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応生成物(b1)、及び、エピクロロヒドリンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応生成物(b2)からなる群から選ばれる少なくとも1種
N-CH-A-CH-NH (1)
(式(1)中、Aは1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は1,4-フェニレン基である。)
本発明の硬化剤は上記(A)成分及び(B)成分を含有することにより、これを配合して得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化性が良好になり、塗膜の硬度及び耐薬品性、特に塩水防食性に優れるものとなる。また、硬化剤として(A)成分を単独で使用した場合と比較して、得られる塗膜の耐水性、耐衝撃性、及び外観も維持されるか又は向上する。硬化剤として(B)成分を単独で使用した場合と比較すると経済性の点で有利である。
本明細書において「水系エポキシ樹脂」とは、水溶性エポキシ樹脂、又は、水分散液(エマルジョン)の状態で用いられるエポキシ樹脂をいう。水系エポキシ樹脂については後述するが、本発明に用いられる水系エポキシ樹脂としてはエポキシ樹脂エマルジョンが好ましい。
以下、本発明の硬化剤を構成する各成分について説明する。
【0011】
<(A)成分>
本発明の硬化剤は、(A)成分としてポリアミドアミン系硬化剤(a1)、ポリアミン化合物とポリエポキシ化合物との反応生成物(a2)、並びに、ポリアミン化合物、フェノール化合物、及びアルデヒド化合物のマンニッヒ反応生成物(a3)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。本発明の硬化剤は(A)成分としてこれらの硬化剤又は反応生成物を含有することにより、経済性に優れ、汎用性の高い水系エポキシ樹脂用硬化剤となる。
【0012】
(ポリアミドアミン系硬化剤(a1))
本発明に用いられるポリアミドアミン系硬化剤(a1)としては、分子中にポリアミド構造を有し、かつ少なくとも2つの活性水素を有する化合物(ポリアミドアミン化合物)を含有する硬化剤であれば特に制限されない。本明細書において活性水素とは、ポリアミドアミン化合物及びポリアミン化合物中の、アミノ基の窒素原子に結合した水素をいう。
ポリアミドアミン系硬化剤に用いられるポリアミドアミン化合物の製造方法としては一般的な方法を用いることができ、例えばポリアミン化合物とポリカルボン酸化合物との縮合反応により得ることができる。この際、反応に用いるポリアミン化合物とポリカルボン酸化合物の比率を調整することにより、得られるポリアミドアミン化合物の活性水素量を調整することができる。
ポリアミドアミン化合物の製造に用いるポリアミン化合物としては、分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物であれば特に制限されず、脂肪族鎖状ポリアミン、脂肪族環状ポリアミン、及び芳香族ポリアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。脂肪族鎖状ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキレンポリアミンも好適に用いられる。
ポリアミドアミン化合物の製造に用いるポリカルボン酸化合物としては分子中に少なくとも2つのカルボキシ基を有する化合物であれば特に制限されないが、脂肪族ジカルボン酸、ダイマー酸等のジカルボン酸であることが好ましい。
ポリアミドアミン化合物の製造において、ポリアミン化合物とポリカルボン酸化合物の他に、アミノカルボン酸化合物、ポリオール化合物、ラクタム化合物等を適宜反応させて変性ポリアミドアミン化合物としてもよい。
【0013】
ポリアミドアミン系硬化剤(a1)は、ポリアミドアミン化合物の他、水又は水性溶剤を含有していてもよい。当該水性溶剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノール等のプロトン性極性溶剤、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶剤等が挙げられ、これらを1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記の中でも、ポリアミドアミン系硬化剤(a1)は水を含有していることが好ましい。
ポリアミドアミン系硬化剤(a1)の固形分濃度は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0014】
ポリアミドアミン系硬化剤(a1)として、市販のポリアミドアミン系硬化剤を使用することもできる。当該ポリアミドアミン系硬化剤としては、HUNTSMAN Advanced Materials社製「Aradur 3986」、三菱ケミカル(株)製「WD11M60」、(株)T&K TOKA製「TXS-53-C」、「TXH-674-B」、「TXH-685-A」等が挙げられ、これらを1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
(反応生成物(a2))
本発明に用いられる反応生成物(a2)は、ポリアミン化合物とポリエポキシ化合物との反応生成物である。
反応生成物(a2)の製造に用いるポリアミン化合物としては、分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物であれば特に制限されない。例えば、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン(PXDA)、メンセンジアミン、イソホロンジアミン(IPDA)、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、N-アミノメチルピペラジン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリオキシアルキレンジアミン、ポリオキシアルキレントリアミン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記の中でも、水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の指触乾燥速度や耐水性、耐薬品性を向上させる観点から、反応生成物(a2)の製造に用いるポリアミン化合物としては1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン(PXDA)、メンセンジアミン、及びイソホロンジアミン(IPDA)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0016】
反応生成物(a2)の製造に用いるポリエポキシ化合物としては、分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物であれば特に制限されない。
ポリエポキシ化合物の具体例としては、1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシアントラセンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルグリコールウリル、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基及びグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお「多官能エポキシ樹脂」とは、分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ樹脂をいう。
得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の指触乾燥速度、耐水性及び耐薬品性の点からは、ポリエポキシ化合物としては分子中に芳香環又は脂環式構造を含む化合物がより好ましく、分子中に芳香環を含む化合物がさらに好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂がよりさらに好ましい。
【0017】
反応生成物(a2)はポリアミン化合物とポリエポキシ化合物とを反応させることにより得られる。当該反応は公知の方法で行うことができ、その方法は特に制限されないが、例えば、反応器内にポリアミン化合物を仕込み、ここに、ポリエポキシ化合物を一括添加、又は滴下等により分割添加して加熱し、反応させる方法が挙げられる。該付加反応は窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0018】
反応生成物(a2)がエポキシ樹脂用硬化剤としての作用を発現する観点から、当該反応においては、ポリエポキシ化合物のエポキシ当量に対して過剰量のポリアミン化合物を用いることが好ましい。具体的には、ポリアミン化合物の活性水素数を[D]とし、ポリエポキシ化合物のエポキシ基数を[G]とした場合に、[D]/[G]=50~4、より好ましくは[D]/[G]=20~8となるようにポリアミン化合物とポリエポキシ化合物とを使用する。上記範囲であれば、反応生成物(a2)の粘度が高くなりすぎずハンドリング性に優れ、かつ、得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化性及び塗膜の硬度、耐薬品性、耐衝撃性等も良好になる。
【0019】
反応時の温度及び反応時間は、使用するポリアミン化合物及びポリエポキシ化合物の種類等に応じて適宜選択することができる。反応速度及び生産性、並びに原料の分解等を防止する観点からは、反応時の温度は好ましくは50~150℃、より好ましくは70~120℃である。また反応時間は、ポリエポキシ化合物の添加が終了してから、好ましくは0.5~12時間、より好ましくは1~6時間である。
【0020】
反応生成物(a2)には、未反応原料であるポリアミン化合物やポリエポキシ化合物が含まれていてもよい。得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の耐水性の観点からは未反応原料の含有量は少ない方が好ましく、例えば30質量%以下である。
なお本明細書において、各反応生成物中の未反応原料の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析により求めることができる。
【0021】
(反応生成物(a3))
本発明に用いられる反応生成物(a3)は、ポリアミン化合物、フェノール化合物、及びアルデヒド化合物のマンニッヒ反応生成物である。
反応生成物(a3)の製造に用いるポリアミン化合物としては、分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物であれば特に制限されず、当該ポリアミン化合物及びその好ましい態様は反応生成物(a2)の製造に用いるポリアミン化合物と同じである。
【0022】
反応生成物(a3)の製造に用いるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、クレゾール、p-エチルフェノール、o-イソプロピルフェノール、p-イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-sec-ブチルフェノール、o-tert-ブチルフェノール、o-sec-ブチルフェノール、p-tert-アミルフェノール、o-tert-アミルフェノール、p-オクチルフェノール、ノニルフェノール、p-クミルフェノール、デシルフェノール、ウンデシルフェノール、p-ドデシルフェノール、トリデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ペンタデシルフェノール、ペンタデセニルフェノール、ペンタデカジエニルフェノール、ペンタデカトリエニルフェノール、ヘキサデシルフェノール、ヘプタデシルフェノール、オクタデシルフェノール、オクタデセニルフェノール、テルペンフェノール、さらにはカルダノール等の天然に産出されるフェノール化合物が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記の中でも、反応生成物(a3)の製造に用いるフェノール系化合物としてはフェノール、クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、ノニルフェノール、及びカルダノールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0023】
反応生成物(a3)の製造に用いるアルデヒド化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド;トリオキサン、パラホルムアルデヒド等のホルムアルデヒド放出性化合物;ベンズアルデヒド等のその他のアルデヒド類;が挙げられる。これらの中でも、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド放出性化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。中でも、マンニッヒ反応における作業性の観点からは、ホルムアルデヒド水溶液を用いることがより好ましい。
【0024】
反応生成物(a3)としては、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、メンセンジアミン、及びイソホロンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン化合物、フェノール、クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、ノニルフェノール、及びカルダノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のフェノール系化合物、並びに、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド放出性化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルデヒド化合物をマンニッヒ反応させて得られる反応生成物であることが好ましく、メタキシリレンジアミン、フェノール及びp-tert-ブチルフェノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のフェノール系化合物、並びにホルムアルデヒドをマンニッヒ反応させて得られる反応生成物であることがより好ましい。
【0025】
反応生成物(a3)の製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミン化合物とフェノール系化合物との混合物に、アルデヒド化合物又はその溶液を、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下で滴下等により添加し、添加終了後、好ましくは80~180℃、より好ましくは90~150℃に昇温して、留出物を反応系から除去しながら1~10時間反応させる方法が挙げられる。
マンニッヒ反応におけるポリアミン化合物、フェノール系化合物、及びアルデヒド化合物の使用量は、得られる反応生成物(a3)に活性水素が残存するような比率であれば特に制限されないが、好ましくは以下の範囲である。
アルデヒド化合物は、ポリアミン化合物1モルに対し、好ましくは0.3~2モル、より好ましくは0.5~1.5モルの範囲で使用される。ポリアミン化合物1モルに対するアルデヒド化合物の使用量が0.3モル以上であれば付加反応が充分進行し、2モル以下であれば、得られる反応生成物の粘度が過度に上がりすぎず、作業性が良好になる。またフェノール系化合物は、ポリアミン化合物1モルに対し、好ましくは0.3~2モル、より好ましくは0.5~1.5モルの範囲で使用される。ポリアミン化合物1モルに対するフェノール系化合物の使用量が0.3モル以上であれば得られる塗膜の外観が良好になり、2モル以下であれば、エポキシ樹脂硬化剤としての硬化性が良好である。
【0026】
反応生成物(a3)には、未反応原料であるポリアミン化合物、フェノール化合物、及びアルデヒド化合物が含まれていてもよい。得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の耐水性の観点からは未反応原料の含有量は少ない方が好ましく、例えば30質量%以下である。
【0027】
(A)成分として、上記(a1)~(a3)のいずれか1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(A)成分の活性水素当量は、好ましくは800以下であり、より好ましくは500以下である。活性水素当量(以下「AHEW」ともいう)とは、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と反応し得る、硬化剤中の活性水素1当量あたりの分子量である。(A)成分の活性水素当量が低い方が、水系エポキシ樹脂組成物への配合量が少なくても高い硬化性を発現する。
(A)成分のAHEWは、製造容易性などの観点から、好ましくは50以上であり、より好ましくは100以上である。(A)成分のAHEWは、例えば滴定法で求められる。
本明細書において「(A)成分の活性水素当量」とは、(A)成分として2種以上の成分を用いる場合は、2種以上の成分からなる(A)成分全体の活性水素当量である。また(A)成分を溶液又は分散液の状態で用いる場合は、有姿としての活性水素当量が上記範囲であることが好ましい。
【0028】
<(B)成分>
本発明の硬化剤は、(B)成分としてスチレンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応生成物(b1)、及び、エピクロロヒドリンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応生成物(b2)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。
N-CH-A-CH-NH (1)
(式(1)中、Aは1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は1,4-フェニレン基である。)
本発明の硬化剤は(B)成分として上記反応生成物を含有することにより、得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化性が良好になり、塗膜の硬度及び耐薬品性、特に塩水防食性に優れるものとなる。また硬化剤として(A)成分を単独で使用した場合と比較して、得られる塗膜の耐水性、耐衝撃性、及び外観は維持されるか又は向上する。
【0029】
(反応生成物(b1))
反応生成物(b1)は、スチレンと前記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応生成物である。
前記式(1)中、Aは1,3-フェニレン基又は1,4-フェニレン基であることが好ましく、1,3-フェニレン基であることがより好ましい。すなわち、前記一般式(1)で示されるアミン化合物は、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、及びパラキシリレンジアミン(PXDA)からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、メタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、メタキシリレンジアミンがより好ましい。
【0030】
得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化性、塗膜の硬度及び耐薬品性を良好にする観点から、反応生成物(b1)は、下記一般式(2)で示される化合物を10質量%以上含むことが好ましい。
【化3】

(式(2)中、Aは前記と同じである。)
上記一般式(2)で示される化合物は、スチレンと前記一般式(1)で示されるアミン化合物(以下「原料ジアミン」ともいう)との反応生成物のうち、スチレン1モルと原料ジアミン1モルとが付加した反応物(以下「1:1付加体」ともいう)である。
反応生成物(b1)は、スチレンと原料ジアミンとの1:1付加体のほかに、スチレンと原料ジアミンとの2:1付加体、3:1付加体、4:1付加体などの多付加体を含有していてもよいが、上記付加体の中ではスチレンと原料ジアミンとの1:1付加体が最も活性水素当量が低い。そのため、1:1付加体を多く含む反応生成物(b1)を用いた水系エポキシ樹脂用硬化剤は、水系エポキシ樹脂組成物への配合量が少なくても良好な硬化性能を発現できる。
【0031】
上記効果を得る観点から、反応生成物(b1)中の上記一般式(2)で示される化合物の含有量は、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは45質量%以上である。また、上限は100質量%である。
反応生成物(b1)中の上記一般式(2)で示される化合物の含有量は、GC分析により求めることができる。
【0032】
反応生成物(b1)の活性水素当量(AHEW)は、好ましくは130以下であり、より好ましくは120以下、さらに好ましくは110以下である。反応生成物(b1)のAHEWが130以下であると、水系エポキシ樹脂用硬化剤に使用した際に、水系エポキシ樹脂組成物への配合量が少なくても良好な硬化性能を発現する。反応生成物(b1)のAHEWは、製造容易性などの観点から、好ましくは80以上であり、より好ましくは90以上である。
反応生成物(b1)のAHEWは、前記と同様の方法で求めることができる。
【0033】
また、反応生成物(b1)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物の含有量は5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。反応生成物(b1)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物(原料ジアミン)の含有量が少ない方が、当該反応生成物(b1)を含有する硬化剤を用いて得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の耐水性が良好になる。
【0034】
反応生成物(b1)はスチレンと前記一般式(1)で示されるアミン化合物とを付加反応させることにより得られる。
スチレンと原料ジアミンとの付加反応は公知の方法で行うことができ、その方法は特に制限されないが、反応効率の観点から、塩基性触媒の存在下で行われることが好ましい。塩基性触媒としては、例えばアルカリ金属、アルカリ金属アミド(一般式MNRR’で表され、Mはアルカリ金属、Nは窒素、R及びR’はそれぞれ独立に水素又はアルキル基である。)、アルキル化アルカリ金属等が挙げられ、好ましくはアルカリ金属アミドである。中でも、塩基性触媒としてはリチウムアミド(LiNH)が好ましい。
【0035】
スチレンと原料ジアミンとの付加反応において、塩基性触媒の使用量は、使用する原料ジアミンとスチレンとの合計量を100モル%とした場合、好ましくは0.1~20モル%、より好ましくは0.5~15モル%、さらに好ましくは1.0~12モル%、よりさらに好ましくは1.5~10モル%である。塩基性触媒の使用量が0.1モル%以上であれば付加反応速度が良好であり、20モル%以下であれば経済的に有利である。
【0036】
付加反応におけるスチレンと原料ジアミンの使用量は、前記一般式(2)で示される化合物を高選択率で得る観点から、原料ジアミン1モルに対するスチレンのモル比が、好ましくは0.1~5.0モル、より好ましくは0.4~3.0モル、さらに好ましくは0.5~1.5モル、よりさらに好ましくは0.8~1.2モルとなる範囲である。
【0037】
スチレンと原料ジアミンとの付加反応は、あらかじめ原料ジアミンと塩基性触媒とを接触させて予備反応を行ってから、スチレンを添加して反応させることが好ましい。予備反応を行うことにより、原料ジアミンの活性が高くなり、スチレンとの付加反応が効率よく進行する。原料ジアミンと塩基性触媒との予備反応は、例えば反応器内に原料ジアミンと塩基性触媒とを仕込み、窒素ガス等の不活性雰囲気下で、攪拌しながら加熱することにより行うことができる。
【0038】
原料ジアミンと塩基性触媒との予備反応時の温度は、好ましくは50~140℃であり、より好ましくは70~100℃である。予備反応時の温度が50℃以上であれば、原料ジアミンが十分に活性化され、その後の付加反応が効率よく進行する。また予備反応時温度が140℃以下であれば、原料ジアミンの熱劣化等を回避できる。
予備反応時間は、好ましくは20~360分、より好ましくは30~120分である。予備反応時間が20分以上であれば、原料ジアミンが十分に活性化され、その後の付加反応が効率よく進行する。また360分以下であれば、生産性の点で有利である。
【0039】
原料ジアミンと塩基性触媒との予備反応を行った後、ここにスチレンを添加して原料ジアミンとの付加反応を行う。スチレンの添加方法には特に制限はないが、スチレンの重合物の生成を抑制する観点からは分割添加することが好ましい。分割添加方法としては、例えば、反応器内に滴下漏斗や送液ポンプを使用してスチレンを添加する方法等が挙げられる。
スチレンの添加時、及び付加反応時の温度は、好ましくは50~120℃、より好ましくは70~100℃である。反応温度が50℃以上であれば、スチレンと原料ジアミンとの付加反応が効率よく進行する。また120℃以下であれば、副生成物であるスチレンの重合物の生成を抑制することができる。
また、付加反応時間には特に制限はなく、使用する触媒の種類や反応条件等に応じて適宜選択できる。例えば、付加反応中に反応液のサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等で未反応スチレンの定量を行い、未反応スチレンが1質量%以下になるまでの時間とすることができる。付加反応時間は、通常、スチレンの添加が終了してから、好ましくは10~180分、より好ましくは20~120分である。上記付加反応時間が10分以上であれば未反応原料の残存が少なく、180分以下であれば生産性の点で有利である。
【0040】
得られた反応液中には、スチレンと原料ジアミンとの反応生成物と塩基性触媒が含まれる。また、未反応の原料ジアミン、未反応スチレンがさらに含まれることがある。
塩基性触媒は、その種類に応じて、濾過、水洗、吸着等により除去することができる。例えば塩基性触媒がアルカリ金属アミドである場合は、塩酸、塩化水素ガス、酢酸などの酸、メタノール、エタノール等のアルコール、あるいは水等を加えてアルカリ金属アミドを除去容易な塩等に変えてから濾過することが可能である。例えば水を用いた場合には、アルカリ金属アミドが水酸化物となり、濾過が容易になる。
【0041】
上記のようにして反応液から塩基性触媒を除去した後、未反応の原料ジアミン及び未反応スチレンを蒸留により除去して、反応生成物(b1)が得られる。この操作により、反応生成物(b1)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物(原料ジアミン)の含有量を好ましくは1質量%以下とすることができる。
【0042】
(反応生成物(b2))
反応生成物(b2)は、エピクロロヒドリンと前記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応生成物である。
反応生成物(b2)における前記一般式(1)で示されるアミン化合物、及びその好ましい態様は前記反応生成物(b1)の製造に用いるアミン化合物と同じである。
【0043】
反応生成物(b2)は、下記一般式(3)で示される化合物を主成分として含むことが好ましい。ここでいう「主成分」とは、反応生成物(b2)中の全構成成分を100質量%とした場合、その含有量が50質量%以上である成分をいう。
【化4】

(式(3)中、Aは前記と同じである。nは1~12の数である。)
反応生成物(b2)中の上記一般式(3)で示される化合物の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。また、上限は100質量%である。
また、硬化剤としての良好な硬化性能を得る観点からは、上記一般式(3)で示される化合物の中でも、n=1の化合物が占める割合が高いことが好ましい。反応生成物(b2)中の、上記一般式(3)で示されるn=1の化合物の含有量としては、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
反応生成物(b2)中の上記一般式(3)で示される化合物の含有量、及び上記一般式(3)で示される化合物の組成は、GC分析及びゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)分析により求めることができる。
【0044】
反応生成物(b2)の活性水素当量(AHEW)は、好ましくは100以下であり、より好ましくは90以下、さらに好ましくは80以下である。反応生成物(b2)のAHEWが100以下であると、水系エポキシ樹脂組成物への配合量が少なくても高い硬化性を発現する。反応生成物(b2)のAHEWは、製造容易性などの観点から、好ましくは45以上であり、より好ましくは50以上である。反応生成物(b2)のAHEWは前記と同様の方法で求められる。
【0045】
また、反応生成物(b2)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物の含有量は35質量%以下であることが好ましい。反応生成物(b2)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物(原料ジアミン)の含有量が少ない方が、当該反応生成物(b2)を含有する硬化剤を用いて得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の耐水性が良好になる。
【0046】
反応生成物(b2)はエピクロロヒドリンと前記一般式(1)で示されるジアミン(原料ジアミン)とを反応させることにより得られる。
エピクロロヒドリンと原料ジアミンとの反応は公知の方法で行うことができ、その方法は特に制限されないが、反応効率の観点から、塩基性触媒の存在下で行われることが好ましい。塩基性触媒としてはアルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、水酸化ナトリウムがさらに好ましい。アルカリ金属水酸化物は固体状態で用いても、水溶液の状態で用いてもよいが、水溶液の状態で用いることがより好ましい。アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度は、好ましくは30~55質量%の範囲である。
【0047】
エピクロロヒドリンと原料ジアミンとの反応において、塩基性触媒の使用量はエピクロロヒドリンと等モル程度であることが好ましく、使用するエピクロロヒドリン1モルに対し好ましくは0.7~2.0モル、より好ましくは0.8~1.5モル、さらに好ましくは0.9~1.2モルである。
【0048】
エピクロロヒドリンと原料ジアミンの使用量は、前記一般式(3)で示される化合物のうちn=1の化合物を高選択率で得る観点から、エピクロロヒドリン1モルに対する原料ジアミンのモル比が、好ましくは1.5~12モル、より好ましくは1.5~6.0モル、さらに好ましくは1.8~3.0モルとなる範囲である。
【0049】
エピクロロヒドリンと原料ジアミンとの反応は、あらかじめ原料ジアミンと塩基性触媒とを混合し、次いでエピクロロヒドリンを添加して反応させることが好ましい。例えば反応器内に原料ジアミンと塩基性触媒とを仕込み、窒素ガス等の不活性雰囲気下で攪拌しながら加熱して、ここにエピクロロヒドリンを添加して反応させる。エピクロロヒドリンの添加方法には特に制限はないが、例えば、反応器内に滴下漏斗や送液ポンプを使用してエピクロロヒドリンを添加する方法等が挙げられる。
エピクロロヒドリンの添加時の温度は、好ましくは40~100℃、より好ましくは50~80℃である。エピクロロヒドリンの添加終了後、反応効率向上のために反応温度を上げてもよく、反応時の温度は、好ましくは55~120℃である。反応温度が55℃以上であれば、エピクロロヒドリンと原料ジアミンとの付加反応が効率よく進行する。
反応時間には特に制限はなく、通常、エピクロロヒドリンの添加が終了してから、好ましくは10分~6時間、より好ましくは20分~4時間である。上記反応時間が10分以上であれば未反応原料の残存が少なく、6時間以下であれば生産性の点で有利である。
【0050】
反応終了後、得られた反応液中には、エピクロロヒドリンと原料ジアミンとの反応生成物、未反応の原料ジアミン、塩基性触媒、並びに、上記反応により生成した水と塩とが含まれる。当該塩は、例えば塩基性触媒としてアルカリ金属水酸化物を用いた場合にはアルカリ金属塩化物が生成する。
塩基性触媒は、その種類に応じて、濾過、水洗、吸着等により除去することができる。上記反応により生成した水の除去は、例えば100℃以下の温度において減圧条件下で行うことができる。また、上記反応により生成した塩は濾過等により除去することができる。
【0051】
上記のようにして反応液から塩基性触媒、水及び塩を除去し、反応生成物(b2)が得られる。さらに、必要に応じ未反応の原料ジアミンを除去する操作を行ってもよい。この操作により、反応生成物(b2)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物(原料ジアミン)の含有量を低減することができる。
【0052】
(B)成分として、反応生成物(b1)、反応生成物(b2)、及びこれらの混合物のいずれも用いることができる。得られるエポキシ樹脂組成物の塗膜の防食性向上の観点からは、(B)成分としては反応生成物(b1)がより好ましく、硬化性、得られるエポキシ樹脂組成物の塗膜の硬度及び耐衝撃性を向上させる観点からは反応生成物(b2)がより好ましい。
【0053】
(含有量)
本発明の硬化剤において、前記(A)成分と前記(B)成分との含有量比は、質量比で99/1~70/30であることが好ましく、95/5~80/20であることがより好ましく、95/5~90/10であることがさらに好ましい。硬化剤中の(A)成分と(B)成分との質量比が上記範囲であると、得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化性が良好で、塗膜の硬度及び耐薬品性、特に塩水防食性に優れるものとなる。また硬化剤として(A)成分を単独で使用した場合と比較して、得られるエポキシ樹脂組成物の塗膜の耐水性、耐衝撃性、及び外観は維持されるか又は向上する。
本発明の硬化剤は、(A)成分に少量の(B)成分を配合した場合、特に(A)成分と(B)成分との質量比を95/5~90/10の範囲とした場合でも、硬化剤として(A)成分を単独で使用した場合と比較して硬化性及び塗膜の耐薬品性が飛躍的に向上する。
【0054】
本発明の硬化剤は、さらに、前記(A)成分及び(B)成分以外の他の硬化剤成分を含有してもよい。当該「他の硬化剤成分」としては、前記(A)成分及び(B)成分以外のポリアミン化合物又はその変性体が挙げられる。
また本発明の硬化剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに公知の硬化促進剤、非反応性希釈剤等を配合してもよい。硬化促進剤としては、例えばトリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルアルコール、サリチル酸、亜リン酸トリフェニル、スチレン化フェノール、ビスフェノールA、N,N’-ビス(3-(ジメチルアミノ)プロピル)ウレア、及び、「チオコールLP-3」(東レ・ファインケミカル(株)製)等のメルカプタン末端ポリサルファイド化合物が挙げられる。
但し、本発明の硬化剤中の(A)成分及び(B)成分の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0055】
本発明の硬化剤の活性水素当量(AHEW)は、好ましくは800以下であり、より好ましくは500以下、さらに好ましくは400以下である。当該硬化剤のAHEWが低い方が、水系エポキシ樹脂組成物への配合量が少なくても高い硬化性を発現する。一方で得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜において優れた硬度及び耐薬品性を得る観点からは、当該硬化剤のAHEWは、好ましくは45以上、より好ましくは70以上である。なお、硬化剤が溶液又は分散液である場合は、有姿としての活性水素当量が上記範囲であることが好ましい。
【0056】
[水系エポキシ樹脂組成物]
本発明の水系エポキシ樹脂組成物は、前述した本発明の水系エポキシ樹脂用硬化剤と、水系エポキシ樹脂とを含有するものである。前述したように、水系エポキシ樹脂としてはエポキシ樹脂エマルジョンを用いることが好ましい。エポキシ樹脂エマルジョンは、例えば、エポキシ樹脂を水中に乳化分散したものが挙げられる。
【0057】
本発明に用いる水系エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂、乳化剤、及び水を含有するエポキシ樹脂エマルジョンであることがより好ましい。
エポキシ樹脂エマルジョンに用いられるエポキシ樹脂は、本発明の硬化剤中の活性水素と反応するグリシジル基を有し、かつ水中に乳化分散することが可能なエポキシ樹脂であればよい。得られる塗膜の硬度、耐水性及び耐薬品性の観点からは、分子内に芳香環又は脂環式構造を含むエポキシ樹脂であることが好ましい。
エポキシ樹脂エマルジョンに用いられるエポキシ樹脂の具体例としては、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基及びグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。
【0058】
この中でも、得られる塗膜の硬度、耐水性及び耐薬品性の観点から、エポキシ樹脂エマルジョンに用いられるエポキシ樹脂は、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするものがより好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするものがさらに好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を主成分とするものがよりさらに好ましい。ここでいう「主成分」とは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含みうることを意味し、好ましくは全体の50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは90~100質量%を意味する。
【0059】
エポキシ樹脂エマルジョンに用いるエポキシ樹脂は、固体エポキシ樹脂、液状エポキシ樹脂のいずれでもよい。本発明において「固体エポキシ樹脂」とは、室温(25℃)で固体のエポキシ樹脂を意味し、「液状エポキシ樹脂」とは、室温(25℃)で液状のエポキシ樹脂を意味する。
【0060】
エポキシ樹脂エマルジョンに用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の硬度、耐水性及び耐薬品性の観点から、好ましくは150g/当量以上であり、水系エポキシ樹脂組成物の低粘度性や硬化性の観点から、好ましくは1000g/当量以下、より好ましくは800g/当量以下である。
エポキシ樹脂を乳化剤の存在下で分散媒中に分散させたエポキシ樹脂エマルジョンの場合、当該エマルジョンから分散媒を除いた成分(すなわち、エポキシ樹脂及び乳化剤を含む固形分)のエポキシ当量も上記範囲であることが好ましい。
エポキシ樹脂エマルジョンに用いるエポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
エポキシ樹脂エマルジョンにおけるエポキシ樹脂の濃度は特に制限されないが、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、通常、80質量%以下である。
【0062】
エポキシ樹脂エマルジョンに用いられる乳化剤は、グリフィン法で定義されるHLBが、好ましくは8.0~20.0、より好ましくは10.0~20.0、さらに好ましくは12.0~20.0である。乳化剤のHLBが上記範囲であると、水中でエポキシ樹脂をエマルジョン化しやすく、かつ、得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜が硬度、耐水性及び耐薬品性に優れるものとなる。
ここでHLB(親水性親油性バランス;Hydrophile-Lypophile Balance)は、乳化剤の水及び油への親和性を示す値であり、グリフィン法により次式から求めることができる。
HLB=20×[(乳化剤中に含まれる親水基の分子量)/(乳化剤の分子量)]
【0063】
エポキシ樹脂エマルジョンに用いられる乳化剤は、ノニオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、及び反応性基を有する反応性基含有乳化剤のいずれも用いることができる。硬化剤の選択幅が広いという点からはノニオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、及び反応性基含有乳化剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ノニオン性乳化剤がより好ましい。
ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリエーテル系化合物、エステル系化合物、アルカノールアミド系化合物等を挙げることができる。これらの中でもポリエーテル系化合物が好ましく、ポリオキシアルキレン構造を有するノニオン性化合物がより好ましい。
ポリオキシアルキレン構造を有するノニオン性化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコール共重合体;ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(ポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル等の各種ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを含む)、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールFエーテル等のポリオキシアルキレンアリールエーテル;ポリオキシエチレンベンジルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル;等が挙げられる。
上記の中でも、水中でエポキシ樹脂をエマルジョン化しやすく、かつ、得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の硬度、耐水性及び耐薬品性を良好にする観点から、ポリオキシアルキレンアリールエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、ポリオキシエチレンアリールエーテル及びポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、ポリオキシエチレンアリールエーテルがさらに好ましく、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルがよりさらに好ましく、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルがよりさらに好ましい。
【0064】
エポキシ樹脂エマルジョンに用いることができる好ましいノニオン性乳化剤として、第一工業製薬(株)製のノイゲンシリーズ、エパンシリーズ、青木油脂工業(株)製のBLAUNONシリーズ等の市販品を挙げることができる。
【0065】
アニオン性乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアルキルアリールスルホン酸塩;アルカンスルホン酸塩;ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩等のポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のスルホコハク酸塩;等が挙げられる。
カチオン性乳化剤としては、例えば、アルキルアミン塩、アルキル第4級アンモニウム塩等が挙げられる。また、両性乳化剤としては、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等のアルキルベタイン系化合物等が挙げられる。
【0066】
反応性基含有乳化剤における反応性基としては、例えば、エポキシ基、ビニル基等が挙げられる。得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の硬度、耐水性、耐薬品性及び外観を良好にする観点からは、反応性基含有乳化剤としてはエポキシ基含有乳化剤が好ましい。
エポキシ基含有乳化剤としては、例えば、エポキシ基を有するアクリル系ポリマー、エポキシ基を有するアクリル-スチレン系ポリマー等のエポキシ基含有ポリマーが好ましいものとして挙げられる。
エポキシ基含有乳化剤のエポキシ当量は、好ましくは150~4,000g/当量、より好ましくは300~2,000g/当量、さらに好ましくは300~1,500g/当量である。
エポキシ樹脂エマルジョンに用いることができる好ましいエポキシ基含有乳化剤として、日油(株)製のマープルーフシリーズ、アルファ化研(株)製のアルファレジンシリーズ「W-10」、「W-12」等の市販品を挙げることができる。
乳化剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
以上の乳化剤の中でも、グリフィン法で定義されるHLBが12.0~20.0のポリオキシアルキレンアリールエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、HLBが12.0~20.0のポリオキシエチレンアリールエーテル及びポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、HLBが12.0~20.0のポリオキシエチレンアリールエーテルがさらに好ましく、HLBが12.0~20.0のポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルがよりさらに好ましく、HLBが12.0~20.0のポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルがよりさらに好ましい。
【0067】
エポキシ樹脂エマルジョン中の乳化剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは0.1~40質量部、より好ましくは0.5~30質量部、さらに好ましくは1~20質量部である。エポキシ樹脂100質量部に対し、乳化剤が0.1質量部以上であればエポキシ樹脂の乳化安定性が良好であり、40質量部以下であれば、得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の硬度、耐水性、耐薬品性、外観等を良好に維持することができる。
【0068】
水系エポキシ樹脂であるエポキシ樹脂エマルジョンはエポキシ樹脂、乳化剤、及び水以外の成分を含有していてもよいが、エポキシ樹脂、乳化剤、及び水の合計含有量が好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、上限は100質量%である。
なお、エポキシ樹脂、乳化剤、及び水以外の成分としては、ポリアミドアミン系硬化剤(a1)において例示した水性溶剤が挙げられる。
【0069】
水系エポキシ樹脂として用いることができる市販のエポキシ樹脂エマルジョンとして、三菱ケミカル(株)製のjERシリーズ「W2801」、「W2821R70」、「W3435R67」、「W8735R70」、「W1155R55」、「W5654R45」、(株)ADEKA製の「EM-101-50」、DIC(株)製の「EPICLON EXA-8610」、Huntsman Advanced Materials製のAralditeシリーズ「PZ 3901」「PZ 3921」「PZ 3961-1」、Olin製の「DER 915」、「DER917」、Hexion製のEPIREZシリーズ「Resin 3520-WY-55」「Resin 6520-WH-53」等の市販品を挙げることができる。
【0070】
本発明の水系エポキシ樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、該硬化剤中の活性水素数と、水系エポキシ樹脂中のエポキシ基の数との比率が、好ましくは1/0.5~1/2、より好ましくは1/0.7~1/2、さらに好ましくは1/0.8~1/1.5、よりさらに好ましくは1/0.8~1/1.2、よりさらに好ましくは1/0.9~1/1.1、さらに好ましくは1/1となる量である。
【0071】
本発明の水系エポキシ樹脂組成物には、さらに、充填材、可塑剤などの改質成分、揺変剤などの流動調整成分、顔料、レベリング剤、粘着付与剤などのその他の成分を用途に応じて含有させてもよい。
本発明の水系エポキシ樹脂組成物の製造方法には特に制限はなく、前記硬化剤、水系エポキシ樹脂、及び必要に応じ他の成分を公知の方法及び装置を用いて混合し、製造することができる。
水系エポキシ樹脂としてエポキシ樹脂、乳化剤、及び水を含有するエポキシ樹脂エマルジョンを用いる場合、まず、エポキシ樹脂エマルジョンの原料となるエポキシ樹脂及び乳化剤と前記硬化剤とを配合して混合し、次いで、水を分割添加して混合することにより水系エポキシ樹脂組成物を調製してもよい。この操作により、エポキシ樹脂を水中に乳化分散するのと同時に水系エポキシ樹脂組成物を調製することができ、エポキシ樹脂の分散状態が良好な組成物を得ることができる。
【0072】
本発明の水系エポキシ樹脂組成物中の水の含有量は10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。水の含有量の上限値は水系エポキシ樹脂組成物の濃度により適宜調整できるが、通常は80質量%以下であり、好ましくは70質量%以下である。
また、本発明の水系エポキシ樹脂組成物は有機溶剤を含まないことが好ましく、その含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。特に、前述した水性溶剤以外の有機溶剤の含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0073】
<用途>
本発明の水系エポキシ樹脂組成物は硬化性が良好で、得られる塗膜は硬度及び耐薬品性、特に塩水防食性に優れることから、防食用塗料等の各種塗料、接着剤、床材、封止剤、ポリマーセメントモルタル、ガスバリアコーティング、プライマー、スクリード、トップコート、シーリング材、クラック補修材、コンクリート材等に好適に用いられる。防食用塗料は、例えば船舶、橋梁、工場等の建築物、その他陸海上鉄構築物の塗装に用いられる。
【0074】
[硬化物]
本発明の水系エポキシ樹脂組成物の硬化物(以下、単に「本発明の硬化物」ともいう)は、上述した本発明の水系エポキシ樹脂組成物を公知の方法で硬化させたものである。水系エポキシ樹脂組成物の硬化条件は用途、形態に応じて適宜選択され、特に限定されない。
本発明の硬化物の形態も特に限定されず、用途に応じて選択することができる。例えば水系エポキシ樹脂組成物が防食用塗料である場合、当該水系エポキシ樹脂組成物の硬化物は通常、膜状の硬化物である。本発明の硬化物が膜状の硬化物であると、優れた硬度及び耐薬品性、特に塩水防食性を発揮できる点で好ましい。
【実施例
【0075】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、水系エポキシ樹脂用硬化剤及び水系エポキシ樹脂組成物の評価は以下の方法により行った。
【0076】
(活性水素当量(AHEW)の算出)
各例の水系エポキシ樹脂用硬化剤のうち、2種の硬化剤成分からなる硬化剤の活性水素当量(AHEW)は、以下に記載する計算式により算出した。
AHEWがXである硬化剤又は反応生成物と、AHEWがYである硬化剤又は反応生成物を質量比A:Bで混合して得られる硬化剤のAHEWをZとすると、
Z=[(A+B)XY]/(AY+BX)である。
【0077】
(指触乾燥)
基材としてリン酸亜鉛処理鉄板(パルテック(株)製;SPCC-SD PB-N144 0.8×70×150mm)を用いた。基材上に各例の水系エポキシ樹脂組成物をアプリケーターを用いて塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の塗膜厚み:200μm)。この塗膜を23℃、50%R.H.条件下で保存し、1、2、7日経過後に指触により以下の基準で評価した。
Ex:優秀(約50Nの力で親指を押し付けた際も塗膜のべたつきがなく、指紋の残存もなし)
G:良好(約50Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきはないが、指触後の指紋の残存あり)
F:可(約50Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきあり)
P:不良(約5Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきあり)
【0078】
(鉛筆硬度)
前記と同様の方法で基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に各例の水系エポキシ樹脂組成物を塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の厚み:200μm)。この塗膜を23℃、50%R.H.条件下で保存し、1、2、7日経過後にJIS K5600-5-4:1999に準拠して鉛筆硬度を測定した。
【0079】
(耐水スポット試験)
前記と同様の方法で基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に各例の水系エポキシ樹脂組成物を塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の厚み:200μm)。この塗膜を23℃、50%R.H.条件下で保存し、1、2、7日経過後に塗膜表面にスポイトで純水を2~3滴滴下し、その箇所を50mLスクリュー管瓶で蓋をした。24時間経過後に水を拭き取り、外観を目視観察して、以下の基準で評価した。
Ex:優秀(全く変化なし)
G:良好(わずかに変化はあるが、使用上問題なし)
F:可(やや白化あり)
P:不良(白化)
【0080】
(硬化速度)
ガラス板(太佑機材(株)製 25×348×2.0mm)上に、23℃、50%R.H.条件下、各例の水系エポキシ樹脂組成物を76μmのアプリケーターを用いて塗布し、塗膜を形成した。塗膜を形成したガラス板を塗料乾燥時間測定器(太佑機材(株)製)にセットし、測定器の針が塗膜表面を引っかいた際の条痕を観察して、各乾燥段階(Set to Touch、Dust Free、Dry Through)への到達時間を以下の基準で測定した。時間が短い方が、硬化速度が速いことを示す。
Set to Touch:ガラス板上に針の跡が残り始める時間
Dust Free:針が塗膜の中から塗膜表面上に浮き出てくる時間
Dry Through:塗膜上の針の跡が残らなくなる時間
【0081】
(塗膜外観)
前記と同様の方法で基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に各例の水系エポキシ樹脂組成物を塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の厚み:200μm)。この塗膜を23℃、50%R.H.条件下で保存し、7日経過後の塗膜の外観を目視観察して、透明性、平滑性、及び光沢性を以下の基準で評価した。
<透明性>
Ex:優秀(濁りなし)
G:良好(わずかに濁りがあるが、使用上問題なし)
F:可(やや白濁あり)
P:不良(白濁)
<平滑性>
Ex:優秀(凹凸がない)
G:良好(わずかに凹凸があるが、使用上問題なし)
F:可(一部に凹凸がある)
P:不良(ハジキがある、又は全面に凹凸がある)
<光沢性>
Ex:優秀(光沢あり)
G:良好(やや光沢が劣るが、使用上問題なし)
F:可(光沢が少ない)
P:不良(光沢なし)
【0082】
(デュポン衝撃試験)
前記と同様の方法で基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に各例の水系エポキシ樹脂組成物を塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の厚み:200μm)。この塗膜を23℃、50%R.H.条件下で保存し、7日経過後の塗膜について、JIS K5600-5-3:1999に準拠してデュポン式にて衝撃試験(耐おもり落下性試験)を行った。
デュポン落下衝撃試験機(株式会社マイズ試験機製)を使用し、塗膜面に対し、それぞれ300mm、200mm、100mmの高さから500gの錘を落下させて、衝撃に耐えられた高さを表1に示した。
【0083】
(耐薬品性)
前記と同様の方法で基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に各例の水系エポキシ樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し(塗布直後の厚み:200μm)、非塗装部を錆止め塗料(関西ペイント(株)製ミリオンプライマー、ミリオンクリヤー)でシールして試験片を作製した。この試験片を23℃、50%R.H.条件下で保存し、14日経過後の試験片について耐薬品性評価を行った。
<5%塩水噴霧>
塩水噴霧試験機(スガ試験機(株)製「STP-90」、槽内温度35℃)に上記試験片を設置し、塩水(濃度5質量%)を2週間噴霧し続けた後、1、2週間経過後に外観を目視観察して、以下の基準で評価した。なお点錆の発生の有無は、塗膜と接している基材表面を目視観察することにより確認した。
Ex:基材上に点錆の発生がなく、塗膜外観も変化なし
G:基材上に少量の点錆が発生しているが、使用上問題なし
F:基材上に点錆が発生している
P:基材上に多量の点錆が発生している
<クロスカット試験>
前記と同様の方法で基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に各例の水系エポキシ樹脂組成物を塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の厚み:200μm)。この塗膜を23℃、50%R.H.条件下で保存し、14日経過後の塗膜表面に、JIS K5600-7-9:2006に準拠してカッターナイフを用いて長さ50mmの対角状に交差する2本の切り込みを入れた試験片を作製した。
塩水噴霧試験機(スガ試験機(株)製「STP-90」、槽内温度35℃)に上記試験片を設置し、塩水(濃度5質量%)を2週間噴霧し続けた後、2週間経過後に外観を目視観察して、塗膜の剥離の有無を評価した。
【0084】
実施例1(水系エポキシ樹脂組成物の製造)
主剤として、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する固体エポキシ樹脂の水系エマルジョン(HUNTSMAN Advanced Materials社製「Araldite PZ 3961-1」、エポキシ当量(固形分):503g/当量、固形分濃度:53質量%)を使用した。
水系エポキシ樹脂用硬化剤としては、(a1)成分であるポリアミドアミン系硬化剤(HUNTSMAN Advanced Materials社製「Aradur 3986」、固形分濃度:40質量%、分散媒(主成分):水、AHEW(有姿):415)、及び、(b1)成分である、スチレンとメタキシリレンジアミン(MXDA)との反応生成物(三菱瓦斯化学(株)製「Gaskamine 240」、AHEW:103)を使用した。上記(a1)成分と(b1)成分とを、有姿での質量比として(a1)/(b1)=95/5の割合で混合して水系エポキシ樹脂用硬化剤を調製した。
主剤である水系エポキシ樹脂中のエポキシ基の数と、上記硬化剤中の活性水素数とが1/1となるよう配合し、攪拌して、水系エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた水系エポキシ樹脂組成物を用いて、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
実施例2
前記(a1)成分と(b1)成分とを、有姿での質量比として90/10の割合で混合して水系エポキシ樹脂用硬化剤を調製した。この硬化剤を用いて実施例1と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
実施例3
前記(a1)成分と(b1)成分とを、有姿での質量比として80/20の割合で混合して水系エポキシ樹脂用硬化剤を調製した。この硬化剤を用いて実施例1と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
実施例4
前記(a1)成分と(b1)成分とを、有姿での質量比として70/30の割合で混合して水系エポキシ樹脂用硬化剤を調製した。この硬化剤を用いて実施例1と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
実施例5
水系エポキシ樹脂用硬化剤として、(a1)成分であるポリアミドアミン系硬化剤(HUNTSMAN Advanced Materials社製「Aradur 3986」)、及び、(b2)成分である、エピクロロヒドリンとMXDAとの反応生成物(三菱瓦斯化学(株)製「Gaskamine 328」、AHEW:55)を使用した。上記(a1)成分と(b2)成分とを、有姿での質量比として(a1)/(b2)=95/5の割合で混合して水系エポキシ樹脂用硬化剤を調製した。この硬化剤を用いて実施例1と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
実施例6~9
実施例5において、前記(a1)成分と(b2)成分との質量比を表1のとおりに変更したこと以外は、実施例5と同様の方法で水系エポキシ樹脂用硬化剤及び水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
比較例1
実施例1において、水系エポキシ樹脂用硬化剤として前記(a1)成分であるポリアミドアミン系硬化剤(HUNTSMAN Advanced Materials社製「Aradur 3986」)のみを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1において使用した成分を以下に示す。
<水系エポキシ樹脂>
Araldite PZ 3961-1:
ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する固体エポキシ樹脂の水系エマルジョン(HUNTSMAN Advanced Materials社製、エポキシ当量(固形分):503g/当量、固形分濃度:53質量%、水含有量:40質量%、メトキシプロパノール含有量:7質量%)
【0093】
<水系エポキシ樹脂用硬化剤成分>
(a1):Aradur 3986(ポリアミドアミン系硬化剤、HUNTSMAN Advanced Materials社製、固形分濃度:40質量%、分散媒(主成分):水、AHEW(有姿):415)
【0094】
(b1):Gaskamine 240(スチレンとMXDAとの反応生成物、三菱瓦斯化学(株)製、MXDA含有量:<1質量%、下記式(2-1)で示される化合物の含有量:49質量%、AHEW:103)
【化5】
【0095】
(b2):Gaskamine 328(エピクロロヒドリンとMXDAとの反応生成物、三菱瓦斯化学(株)製、MXDA含有量:26.7質量%、下記式(3-1)で示される化合物の含有量:73.3質量%(nは1~12の数であり、n=1の化合物の含有量は(b2)中の20.9質量%である)、AHEW:55)
【化6】
【0096】
表1に示すように、比較例1の水系エポキシ樹脂組成物と比較して、実施例1~9の水系エポキシ樹脂組成物は硬化速度(特にDry Through時間)及び塗膜の塩水噴霧耐性が向上し、塗膜の硬度も良好であった。また優れた塗膜外観を維持しつつ、耐水性及びデュポン衝撃強度が維持されるか又は向上した。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の水系エポキシ樹脂用硬化剤を用いることにより、溶剤を含まず環境面や安全面においても好適であり、硬化性が良好で、塗膜の硬度及び耐薬品性、特に塩水防食性に優れる水系エポキシ樹脂組成物を提供することができる。該水系エポキシ樹脂組成物は防食用塗料等の各種塗料、接着剤、床材、封止剤、ポリマーセメントモルタル、ガスバリアコーティング、プライマー、スクリード、トップコート、シーリング材、クラック補修材、コンクリート材等にも好適に用いられる。