(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】ガラス微粒子堆積体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 8/04 20060101AFI20230511BHJP
C03B 37/018 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C03B8/04 D
C03B8/04 C
C03B8/04 Q
C03B37/018 C
(21)【出願番号】P 2020525662
(86)(22)【出願日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2019023554
(87)【国際公開番号】W WO2019240232
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2018114363
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 正敏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真澄
(72)【発明者】
【氏名】守屋 知巳
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-212554(JP,A)
【文献】特開2014-125359(JP,A)
【文献】特開2000-264648(JP,A)
【文献】特開2009-102207(JP,A)
【文献】特開2012-232875(JP,A)
【文献】特表2014-520747(JP,A)
【文献】特表2014-517801(JP,A)
【文献】特開2014-043360(JP,A)
【文献】特開2019-137602(JP,A)
【文献】特開2003-267744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0055339(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0244428(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0338400(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04
C03B 37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料としてシロキサンを用い、気化装置でガス状にしたシロキサンガスと燃焼ガスをバーナから放出して燃焼させて、反応容器内でガラス微粒子堆積体を形成するガラス微粒子堆積体の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体の良好部を製造した後に、前記バーナヘの前記燃焼ガスの供給を続けながら、前記ガラス原料である前記シロキサンの前記バーナヘの供給を停止し、
前記ガラス微粒子堆積体を前記反応容器から取出し、
前記気化装置から前記バーナにかけての原料ガスポートには、不活性ガスを流してパージし、
前記バーナからの火炎に前記シロキサンガスの燃焼に由来する色が認められなくなったら前記燃焼ガスの供給を停止する、ガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項2】
ガラス原料としてシロキサンを用い、気化装置でガス状にしたシロキサンガスと燃焼ガスをバーナから放出して燃焼させて、反応容器内でガラス微粒子堆積体を形成するガラス微粒子堆積体の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体の良好部を製造した後に、前記バーナへの前記燃焼ガスの供給を続けながら、前記ガラス原料である前記シロキサンの前記バーナへの供給を停止し、
前記気化装置から前記バーナにかけての原料ガスポートには、不活性ガスを流してパージし、
前記燃焼ガスで形成される火炎で前記ガラス微粒子堆積体を前記バーナに対して相対的にトラバースさせながら一定時間加熱したのち、前記燃焼ガスの供給を停止する、
ガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス微粒子堆積体の製造後から新たに次のガラス微粒子堆積体の製造を開始するまでの間も、前記気化装置から前記バーナにかけての原料ガスポートには前記パージを続ける、請求項1または請求項2に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス微粒子堆積体の良好部を製造する際、前記気化装置で前記シロキサンをガス状にするために不活性ガスであるキャリアガスを用い、前記シロキサンガスの前記バーナヘの供給を停止した後も、前記キャリアガスを流し続けることにより前記原料ガスポートへの前記パージを行う、請求項1または請求項2に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項5】
前記不活性ガスとして窒素を用いる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項6】
前記気化装置と前記バーナとの間の配管が金属を含む材料で形成されている、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項7】
前記気化装置と前記バーナとの間の配管をシロキサンの沸点以上の温度で加熱する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス微粒子堆積体の製造方法に関する。
本出願は、2018年6月15日出願の日本国特許出願2018-114363号に基づく優先権を主張し、当該出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガラス合成用原料としてシロキサンを用いてガラス微粒子堆積体を製造する方法が記載されている。
また、特許文献2には、ガラス微粒子を堆積させないモードに移行する場合、シールガス噴出ノズルにシールガスに替えて燃焼ガスを流し、燃焼ガスポートにおいて、前記燃焼ガスポートの燃焼ガスをパージガスに切り替えることが記載されている。
さらに、特許文献3には、バーナへのガラス原料ガスの供給をゼロにする時点等で、前記原料ガスと不活性ガスAをMFC(Mass Flow Controller)の上流で切替え、MFCからのガスをバーナ側から排気側に切替え、バーナに不活性ガスBを供給して、前記原料ガス供給路を不活性ガスAおよびBでパージすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2015-113259号公報
【文献】日本国特開2012-232875号公報
【文献】日本国特開2003-212554号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示のガラス微粒子堆積体の製造方法は、
ガラス原料としてシロキサンを用い、気化装置でガス状にしたシロキサンガスと燃焼ガスをバーナから放出して燃焼させて、反応容器内でガラス微粒子堆積体を形成するガラス微粒子堆積体の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体の良好部を製造した後に、前記バーナヘの前記燃焼ガスの供給を続けながら、前記ガラス原料である前記シロキサンの前記バーナヘの供給を停止し、
前記ガラス微粒子堆積体を前記反応容器から取出し、
前記気化装置から前記バーナにかけての原料ガスポートには、不活性ガスを流してパージし、
前記バーナからの火炎にシロキサンガスの燃焼に由来する色が認められなくなったら燃焼ガスの供給を停止する。
【0005】
また、本開示のガラス微粒子堆積体の製造方法は、
ガラス原料としてシロキサンを用い、気化装置でガス状にしたシロキサンガスと燃焼ガスをバーナから放出して燃焼させて、反応容器内でガラス微粒子堆積体を形成するガラス微粒子堆積体の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体の良好部を製造した後に、前記バーナへの前記燃焼ガスの供給を続けながら、前記ガラス原料である前記シロキサンの前記バーナへの供給を停止し、
前記気化装置から前記バーナにかけての原料ガスポートには、不活性ガスを流してパージし、
前記燃焼ガスで形成される火炎で前記ガラス微粒子堆積体を前記バーナに対して相対的にトラバースさせながら一定時間加熱したのち、前記燃焼ガスの供給を停止する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一態様に係るガラス微粒子堆積体を製造する装置の一形態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に記載の方法によりガラス微粒子堆積体を製造する場合には、液体のシロキサンを気化装置でガス状にしてバーナから放出し、酸化反応によりガラス微粒子を形成、堆積させている。そして、ガラス微粒子堆積体の良好部を製造した後は、バーナヘのシロキサンガスの供給を停止し、製造装置の反応容器からガラス微粒子堆積体を取り出し、新たに別のターゲット部材(出発ロッド)を前記反応容器内に取付け、新たなガラス微粒子堆積体の製造を行う。
上記の場合、バーナヘのシロキサンガスの供給を停止してから、新たなガラス微粒子堆積体の製造までに、気化装置からバーナのガス放出口の間に、シロキサンが残存することがある。残存したシロキサンは、同位置間でガス放出口から逆流した酸素と反応し、酸化不足の酸化ケイ素(SiOx(X<2))粒子を形成したり、開環したシロキサン同士が重合してゲル状物を形成することがある。上記の酸化ケイ素(SiOx(X<2))粒子や、ゲル状物は、気化装置からバーナのガス放出口の間を閉塞させたり、新たに製造するガラス微粒子堆積層内に混入したりして、製品の不良化の原因となる。
【0008】
そこで、本開示は、ガラス合成用原料としてシロキサンを用いた場合において、高品質のガラス微粒子堆積体を製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、ガラス合成用原料としてシロキサンを用いた場合において、高品質のガラス微粒子堆積体を製造することができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
本開示の一態様に係るガラス微粒子堆積体の製造方法は、
(1)ガラス原料としてシロキサンを用い、気化装置でガス状にしたシロキサンガスと燃焼ガスをバーナから放出して燃焼させて、反応容器内でガラス微粒子堆積体を形成するガラス微粒子堆積体の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体の良好部を製造した後に、前記バーナヘの前記燃焼ガスの供給を続けながら、前記ガラス原料である前記シロキサンの前記バーナヘの供給を停止し、
前記ガラス微粒子堆積体を前記反応容器から取出し、
前記気化装置から前記バーナにかけての原料ガスポートには、不活性ガスを流してパージし、
前記バーナからの火炎にシロキサンガスの燃焼に由来する色が認められなくなったら前記燃焼ガスの供給を停止する。
この構成によれば、シロキサンの供給を停止してから後、気化装置からバーナにかけての原料ガスポート中に、ガス状のシロキサンが残存することを防止することができる。その結果、高品質のガラス微粒子堆積体を製造することができる。
【0011】
本開示の一態様に係るガラス微粒子堆積体の製造方法は、
(2)ガラス原料としてシロキサンを用い、気化装置でガス状にしたシロキサンガスと燃焼ガスをバーナから放出して燃焼させて、反応容器内でガラス微粒子堆積体を形成するガラス微粒子堆積体の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体の良好部を製造した後に、前記バーナへの前記燃焼ガスの供給を続けながら、前記ガラス原料である前記シロキサンの前記バーナへの供給を停止し、
前記気化装置から前記バーナにかけての原料ガスポートには、不活性ガスを流してパージし、
前記燃焼ガスで形成される火炎で前記ガラス微粒子堆積体を前記バーナに対して相対的にトラバースさせながら一定時間加熱したのち、前記燃焼ガスの供給を停止する。
この構成によれば、シロキサンの供給を停止してから後、気化装置からバーナにかけての原料ガスポート中に、ガス状のシロキサンが残存することを防止することができる。その結果、高品質のガラス微粒子堆積体を製造することができる。
【0012】
前記(1)または前記(2)に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法は、
(3)前記ガラス微粒子堆積体の製造後から新たに次のガラス微粒子堆積体の製造を開始するまでの間も、前記気化装置から前記バーナにかけての原料ガスポートには前記パージを続けることが好ましい。
この構成によれば、シロキサンの供給を停止してから、新たなガラス微粒子堆積体の製造まで、逆流によるバーナのガス放出口から原料ガスポートへの酸素の混入を防止し、酸化不足の酸化ケイ素(SiOx(X<2))粒子を形成したり、開環したシロキサン同士が重合してゲル状物を形成したりするのを防ぐことができる。
【0013】
前記(1)または前記(2)に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法は、
(4)前記ガラス微粒子堆積体の良好部を製造する際、前記気化装置で前記シロキサンをガス状にするために不活性ガスであるキャリアガスを用い、前記シロキサンガスの前記バーナヘの供給を停止した後も、前記キャリアガスを流し続けることにより前記原料ガスポートへの前記パージを行うことが好ましい。
この構成によれば、前記パージに用いる不活性ガスの供給機構をさらに設ける必要がなく、既に備えているキャリアガスの供給機構をそのまま用いることができることにより、装置構成を簡易化することができる。
【0014】
前記(1)から前記(4)のいずれかに記載のガラス微粒子堆積体の製造方法は、
(5)前記不活性ガスとして窒素を用いることが好ましい。
この構成によれば、前記不活性ガスとして安価な窒素を用いることにより、低コストでガラス微粒子堆積体を製造することができる。
【0015】
前記(1)から前記(5)のいずれかに記載のガラス微粒子堆積体の製造方法は、
(6)前記気化装置と前記バーナとの間の配管が金属を含む材料で形成されていることが好ましい。
気化装置とバーナとの間が金属を含む材料で配管されている場合は、配管内に残存するガス状のシロキサンの酸化、ゲル化がより生じ易くなるが、本実施形態においては、このような不具合が生じ易い金属を含む材料で配管されている装置においても、当該不具合を効果的に防止することができる。なお、配管が金属を含む材料で形成されていれば、高温で加熱することもできる。
【0016】
前記(1)から前記(6)のいずれかに記載のガラス微粒子堆積体の製造方法は、
(7)前記気化装置と前記バーナとの間の配管をシロキサンの沸点以上の温度で加熱することが好ましい。
この構成によれば、残存したシロキサンガスが冷えて液化することを防止することができる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
〔使用装置の概要等〕
以下、本開示の実施形態に係るガラス微粒子堆積体の製造方法の実施形態の例を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本実施形態のガラス微粒子堆積体を製造する装置(以下、「ガラス微粒子堆積体製造装置」または「堆積体製造装置」とも称する)1の構成図である。堆積体製造装置1は、反応容器2と、昇降回転装置3と、シロキサン供給タンク21と、キャリアガス供給装置31と、燃焼ガス供給装置32と、ガラス微粒子生成用のバーナ22と、各部の動作を制御する制御部5とを備えている。
【0019】
反応容器2は、ガラス微粒子堆積体Mが形成される容器であり、容器の側面に取り付けられた排気管12を備えている。
【0020】
昇降回転装置3は、支持棒10および出発ロッド11を介してガラス微粒子堆積体Mを昇降動作、および回転動作させる装置である。昇降回転装置3は、制御部5から送信されてくる制御信号に基づいてガラス微粒子堆積体Mを昇降及び回転させる。
【0021】
支持棒10は、反応容器2の上壁に形成された貫通穴を挿通して配置されており、反応容器2内に配置される一方の端部(
図1において下端部)には出発ロッド11が取り付けられている。支持棒10は、他方の端部(
図1において上端部)が昇降回転装置3により把持されている。
【0022】
出発ロッド11は、ガラス微粒子30が堆積されるロッドであり、支持棒10に取り付けられている。
【0023】
排気管12は、出発ロッド11およびガラス微粒子堆積体Mに付着しなかったガラス微粒子30を反応容器2の外部に排出する管である。
【0024】
バーナ22には、シロキサンガスと、シールガス(図示せず)と、燃焼ガスとが供給される。
シロキサンガスは、シロキサン供給タンク21からMFC25を経て送液された液体シロキサン23を、気化装置24においてキャリアガスと混合することにより得られる。具体的には、気化装置24中で、高速で噴射されるキャリアガスに液体シロキサン23を滴下することにより、シロキサンガスが生成される。キャリアガスはキャリアガス供給装置31から気化装置24に供給される。
燃焼ガスは燃焼ガス供給装置32からバーナ22に供給される。
【0025】
MFC25は、シロキサン供給タンク21から送液される液体のシロキサン23の供給量を制御し、供給配管26を介して気化装置24へ供給する装置である。MFC25は、制御部5から送信されてくる制御信号に基づいて気化装置24へ供給する液体シロキサン23の供給量の制御を行なっている。
シロキサン供給タンク21からMFC25への液体シロキサン23の供給は、不活性ガスによる圧送またはポンプにより行われる。圧送に使用される不活性ガスとしてはヘリウムを用いることが好ましい。ヘリウムは液体シロキサンに溶け込みにくいので、溶け込んだ気体成分が気化すること(気泡発生)による供給量の変動誤差を防止することができる。
【0026】
供給配管26は、MFC25で供給量が制御された液体シロキサン23を気化装置24へ導く配管である。気化装置24において液体シロキサン23が気化し易くなるように、供給配管26は液体シロキサン23を加熱する機能を備えていることが好ましい。供給配管26における液体シロキサン23を加熱する機能としては、例えば、供給配管26の外周に発熱体であるテープヒータ28を巻き付けることにより付与できる。このテープヒータ28が通電されることで供給配管26が加熱され、気化装置24に供給される液体シロキサン23の温度を予め気化に適した温度に近づけることができる。例えば液体シロキサン23がオクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)であれば、OMCTSの標準沸点175℃より若干低い、150~170℃の温度に上昇させることが好ましい。
【0027】
バーナ22は、気化装置24で得られたシロキサンガスを火炎中において酸化反応させることでガラス微粒子30を生成し、生成されたガラス微粒子30を出発ロッド11に噴きつけて堆積させる。
気化装置24とバーナ22との間にはシロキサンがガス状で存在することになるが、この際、シロキサンガスが冷えて液化しないように、気化装置24とバーナ22との間を加熱する機能を備えていることが好ましい。すなわち、供給配管26と同様に、気化装置24とバーナ22との間の配管の外周およびバーナ22の外周の一部には、発熱体であるテープヒータ28が巻き付けられることが好ましい。このテープヒータ28が通電されることで気化装置24とバーナ22との間の配管とバーナ22が加熱され、シロキサンガスの液化を防止することができる。例えば液体シロキサン23がOMCTSであれば、OMCTSの標準沸点175℃より高い、175~200℃の温度に上昇させればよい。
シロキサンガスや燃焼ガスを噴出するためのバーナ22として、例えば、円筒形のマルチノズル(出射口)構造のものやあるいは線状のマルチノズル構造のものが用いられる。
【0028】
制御部5は、昇降回転装置3、MFC25等の各動作を制御している。制御部5は、昇降回転装置3に対して、ガラス微粒子堆積体Mの昇降速度および回転速度を制御する制御信号を送信している。また、制御部5は、MFC25に対して、気化装置24へ供給する液体シロキサン23の供給量を制御する制御信号を送信している。
【0029】
[堆積工程]
OVD法(外付け法)によってガラス微粒子の堆積を行い、ガラス微粒子堆積体Mを製造する。先ず、
図1に示すように、昇降回転装置3に支持棒10を取り付け、さらに支持棒10の下端部に出発ロッド11を取り付けた状態で、出発ロッド11および支持棒10の一部を反応容器2内に納める。
【0030】
続いて、MFC25は、制御部5から送信されてくる制御信号に基づき、供給量を制御しながら原料である液体シロキサン23を気化装置24に供給する。
【0031】
シロキサンガスを燃焼ガス火炎内で酸化反応させることでガラス微粒子30を生成する。
そして、バーナ22は、火炎内で生成したガラス微粒子30を、回転および昇降する出発ロッド11に継続的に堆積させていく。
【0032】
昇降回転装置3は、制御部5からの制御信号に基づいて、出発ロッド11および出発ロッド11に堆積されたガラス微粒子堆積体Mを昇降及び回転させる。
【0033】
本実施形態においてガラス原料として使用するシロキサンとしては、特に限定されないが、工業的に容易に入手でき、保管や取扱いも容易である点で、環状のものが好ましく、そのなかでもOMCTSがより好ましい。
本実施形態において使用するキャリアガス及びシールガスとしては、不活性ガスであれば特に限定されないが、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等が挙げられ、安価であるという点等で窒素ガスが好ましい。
本実施形態において使用する燃焼ガスとしては、火炎形成が可能で、シロキサンを酸化するための酸素を含むものであれば、特に限定されないが、酸水素ガスが好ましい。酸水素ガスとは、水素(可燃性ガス)と酸素(支燃性ガス)とを混合したものである。なお、水素と酸素を別々にバーナ22に供給する場合は、水素と酸素の両方を本開示の燃焼ガスに含めるものとする。
【0034】
なお、上記に示す堆積工程としては、OVD(Outside Vapor Deposition)法を例に説明したが、本発明はOVD法に限定されるものではない。OVD法と同様にガラス原料から酸化反応を利用してガラスを堆積させる方法、例えば、VAD法(Vapor-phase Axial Deposition)、MMD(Multiburner Multilayer Deposition)法等に本発明を適用することも可能である。
【0035】
[堆積工程の終了後の工程]
上記の堆積工程でガラス微粒子堆積体Mの良好部を製造した後は、バーナ22ヘのシロキサンガスの供給を停止し、堆積体製造装置1の反応容器2からガラス微粒子堆積体Mを取り出す。そして、新たに別のターゲット部材(出発ロッド11)を前記反応容器2内に取付け、新たなガラス微粒子堆積体Mの製造を行う。
しかしながら、前述の通り、前記原料ガスポートにシロキサンガスが残存すると、製品の不良化の原因となる。
そこで、本実施形態においては、気化装置24からバーナ22にかけての原料ガスポートにおいて、シロキサンガスを残存させないようにしている。
なお、本明細書において、良好部とは、ガラス微粒子堆積体のうち、光ファイバ等の製品として使用できる部分である。
【0036】
具体的には、以下の手順の工程を行う。
A1)ガラス微粒子堆積体Mの良好部を製造した後に、バーナ22ヘの燃焼ガスの供給を続けながら、ガラス原料であるシロキサンのバーナ22ヘの供給を停止する。
A2)ガラス微粒子堆積体Mを反応容器2から取出す。
A3)気化装置24からバーナ22にかけての原料ガスポートに、不活性ガスを流してパージする。
A4)バーナ22からの火炎にシロキサンガスの燃焼に由来する色が認められなくなったら燃焼ガスの供給を停止する。
【0037】
上記工程A1)における、シロキサンのバーナ22ヘの供給を停止する方法としては、MFC25から気化装置24への液体シロキサンの供給の停止であっても、シロキサン供給タンク21からMFC25への液体シロキサンの供給の停止であっても構わない。しかし、シロキサン供給タンク21からMFC25への液体シロキサンの供給の停止であることが好ましい。
上記工程A1)においては、ガラス微粒子堆積体Mの良好部を製造した後でも、バーナ22ヘの燃焼ガスの供給は継続する。
【0038】
上記工程A2)においては、反応容器2からガラス微粒子堆積体Mを取出すが、この際もバーナ22ヘの燃焼ガスの供給は継続する。この際、上記工程A1)においてシロキサンのバーナ22ヘの供給を停止しても、残存しているシロキサンがあるため、シロキサンは、バーナ22から放出される。
【0039】
上記工程A3)における、不活性ガスを流してパージする具体的な手法としては、特に限定されないが、キャリアガス供給装置31から気化装置24への、キャリアガス(不活性ガス)の供給を継続することが好ましい。この態様によれば、パージに用いる不活性ガスの供給機構をさらに設ける必要がなく、既に備えているキャリアガスの供給機構をそのまま用いることができることにより、装置構成を簡易化することができる。
【0040】
上記工程A4)においては、バーナ22からの火炎における、シロキサンガスの燃焼に由来する色の有無を確認する。シロキサンが燃焼する際には、その火炎は白色かオレンジ色を呈する。これに対して、燃焼ガスとして酸水素ガスを用い、酸水素ガスのみが燃焼している場合は、その火炎は淡青色を呈する。したがって、バーナ22からの火炎が白色またはオレンジ色を呈さなくなり、淡青色のみを呈するようになったら、配管内に残存するシロキサンガスが無くなったものと判断できる。その後、燃焼ガスの供給を停止する。
【0041】
前記ガラス微粒子堆積体Mの製造後、新たに次のガラス微粒子堆積体Mの製造を開始するまでの間も、気化装置24からバーナ22にかけての原料ガスポートには前記パージを続けることが好ましい。この態様により、シロキサンの供給を停止してから、新たなガラス微粒子堆積体の製造まで、バーナ22のガス放出口から原料ガスポートへ、酸素が逆流してくることを防止することができる。
【0042】
また、本実施形態において使用する装置においては、気化装置24とバーナ22との間の配管が金属を含む材料で形成されていても良い。一般的に、シロキサンは、金属と接触する環境下にある場合は、金属の触媒作用により酸化、ゲル化が生じ易くなる。しかし、本実施形態においては、気化装置とバーナとの間の配管から、シロキサンが効果的に排出されるため、前記配管が金属を含む材料で形成されていても、前記の不都合は生じない。また、配管が金属を含む材料で形成されていれば、高温で加熱することもできる。
【0043】
また、本実施形態において使用する装置においては、バーナ22はガラス微粒子堆積体Mの成長に応じて、ガラス微粒子堆積体Mの径方向に後退させる機構としても良い。気化装置24とMFC25のとの間の供給配管26の少なくとも一部は、フッ素樹脂等の可撓性のある材料で構成しても良い。
【0044】
本実施形態において製造されたガラス微粒子堆積体Mは、その後、脱水、焼結されてガラスが透明化され、ガラス母材が得られる。得られたガラス母材は気泡が極めて少ない等の高品質なものとなる。
【0045】
[堆積工程の終了後の工程の変形例]
堆積工程の終了後の工程は、上記の工程A1)から工程A4)を含む工程(以下、「工程A」とも称する)に限定されない。以下では、工程Aの変形例であって、工程Aに代わって実施できる工程Bについて説明をする。
【0046】
工程Aでは、堆積工程でガラス微粒子堆積体Mの良好部を製造した後、バーナ22へのシロキサンガスの供給を停止し、堆積体製造装置1の反応容器2からガラス微粒子堆積体Mを取り出し、原料ガスポート内に残ったシロキサンを出し切るまで燃焼ガスを流して燃焼させていたが、ガラス微粒子堆積体Mを反応容器2から取り出すタイミングは、特に限定されない。工程Bは、バーナ22への燃焼ガスの供給を停止するまで、ガラス微粒子堆積体Mを反応容器2から取り出さずに進める工程である。但し、原料ガスポートにシロキサンガスが残存していると、製造したガラス微粒子堆積体Mにゲル状物が付着し、製品の不良化の原因となるため、工程Bでは、残ったシロキサンを出し切った後も、一定時間燃焼ガスを流し、堆積したガラス微粒子堆積体の表面を炙るようにする。
【0047】
工程Bでは、具体的には、以下の手順の工程を行う。
B1)ガラス微粒子堆積体Mの良好部を製造した後に、バーナ22への燃焼ガスの供給を続けながら、ガラス原料であるシロキサンのバーナ22への供給を停止する。
B2)気化装置24からバーナ22にかけての原料ガスポートに、不活性ガスを流してパージする。
B3)燃焼ガスの供給を一定時間続けたら、燃焼ガスの供給を停止する。
B4)ガラス微粒子堆積体Mを反応容器2から取出す。
【0048】
上記工程B1)における、シロキサンのバーナ22への供給を停止する方法としては、上記工程A1)と同じく、MFC25から気化装置24への液体シロキサンの供給の停止であっても、シロキサン供給タンク21からMFC25への液体シロキサンの供給の停止であっても構わないが、シロキサン供給タンク21からMFCへの液体シロキサンの供給の停止であることが好ましい。
上記工程B1)においては、上記工程A1)と同じく、ガラス微粒子堆積体Mの良好部を製造した後でも、バーナ22への燃焼ガスの供給は継続する。
【0049】
上記工程B1)の後も、反応容器2からガラス微粒子堆積体Mを取出さず、バーナ22への燃焼ガスの供給は継続する。この際、上記工程B1)においてシロキサンのバーナ22への供給を停止しても、残存しているシロキサンがあるため、シロキサンは、バーナ22から放出される。
【0050】
上記工程B2)における、不活性ガスを流してパージする具体的な手法としては、上記工程A3)と同じく、特に限定されないが、キャリアガス供給装置31から気化装置24への、キャリアガス(不活性ガス)の供給を継続することが好ましい。この態様によれば、パージに用いる不活性ガスの供給機構をさらに設ける必要がなく、既に備えているキャリアガスの供給機構をそのまま用いることができることにより、装置構成を簡易化することができる。
【0051】
上記工程B3)においては、燃焼ガスの供給を一定時間続け、燃焼ガスで形成される火炎でガラス微粒子堆積体をバーナに対して相対的にトラバースさせながら一定時間加熱したのち、燃焼ガスの供給を停止する。この一定時間には、原料ポート内に残ったシロキサンガスを出し切る時間と、その後、堆積したガラス微粒子堆積体の表面を炙る時間を含む。シロキサンガスを出し切る時間は、上記のように、シロキサンガスの燃焼に由来する色の有無を確認しても良いし、試行結果などから分かる、シロキサンガスを出し切るのに十分な時間を保つこととしても良い。
【0052】
また、上記の一定時間は、3分以上1時間以内であることが好ましい。3分未満であると、シロキサンガスを出し切れなかったり、表面に付着したゲル状成分などを吹き飛ばすのに十分でなかったりする場合がある。また、1時間も流せば、十分シロキサンガスを出し切ることができ、表面に付着したゲル状成分などを吹き飛ばすのにも十分なので、これより長くしても、使用する酸水素ガスが無駄であり、作業効率も悪化する。
【0053】
また、工程B3)におけるガラス微粒子堆積体の温度は、700℃以上、1200℃以下となるように、燃焼ガスの流量などを調整することが好ましい。700℃以上であれば、表面に付着したゲル状成分などを吹き飛ばすことができる。1200℃より温度を高くすると、ガラス微粒子堆積体が収縮したり、焼結したりする可能性がある。
【0054】
上記工程B3)の終了後、上記工程B4)を行う。その後は、上記工程Aと同じく、新たに次のガラス微粒子堆積体Mの製造を開始するまでの間も、気化装置24からバーナ22にかけての原料ガスポートにはパージを続けることが好ましい。この態様により、シロキサンの供給を停止してから、新たなガラス微粒子堆積体の製造まで、バーナ22のガス放出口から原料ガスポートへ、酸素が逆流してくるのを防止することができる。
【0055】
また、この場合において使用する装置においても、気化装置24とバーナ22との間の配管が金属を含む材料で形成されていても良い。
【0056】
また、この場合において使用する装置においても、バーナ22はガラス微粒子堆積体Mの成長に応じて、ガラス微粒子堆積体Mの径方向に後退させる機構としても良く、気化装置24とMFC25のとの間の供給配管26の少なくとも一部は、フッ素樹脂等の可撓性のある材料で構成しても良い。
【0057】
工程Aの代わりに工程Bを実施して製造されたガラス微粒子堆積体Mも、その後、工程Aと同じく、脱水、焼結されてガラスが透明化され、ガラス母材が得られる。得られたガラス母材は気泡が極めて少ない等の高品質なものとなる。
【0058】
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1:堆積体製造装置
2:反応容器
3:昇降回転装置
5:制御部
10:支持棒
11:出発ロッド
12:排気管
21:シロキサン供給装置
22:バーナ
23:液体シロキサン
24:気化装置
25:MFC
26:供給配管
28:テープヒータ
30:ガラス微粒子
31:キャリアガス供給装置
32:燃焼ガス供給装置
M:ガラス微粒子堆積体