(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】プラズマ装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20230511BHJP
C23C 16/50 20060101ALI20230511BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
H05H1/24
C23C16/50
B01J19/08 E
(21)【出願番号】P 2021025974
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 康弘
(72)【発明者】
【氏名】中西 和之
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-263181(JP,A)
【文献】特開2013-258137(JP,A)
【文献】特開2020-136112(JP,A)
【文献】特開2019-021708(JP,A)
【文献】国際公開第2013/085045(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/24
H05H 1/30
H01J 37/32
B01J 19/08
C23C 16/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスが供給される導入部と、
該導入部の下流側に配設され、上流側から順に積層された第1電極、中間絶縁体および第2電極を有する生成部とを備え、
該生成部は、該該第1電極、該中間絶縁体および該第2電極を上流側から下流側に貫通する多孔状またはスリット状の連通穴を有し、
該連通穴は、該中間絶縁体の内壁面が、該第1電極の内壁面および該第2電極の内壁面よりも外周側に偏位してできる環状の凹部を有し、
さらに、該第1電極と該第2電極の外周側に配設されると共に、該外周側における該第1電極と該第2電極の沿面距離を、該連通穴の内周側における該第1電極と該第2電極の沿面距離よりも長くする外装絶縁体を備えるプラズマ装置。
【請求項2】
前記中間絶縁体の外周面と前記外装絶縁体の内周面とは、密接または一体化している請求項1に記載のプラズマ装置。
【請求項3】
前記凹部は、前記中間絶縁体の内壁面が、前記第1電極の内壁面および/または前記第2電極の内壁面から、少なくとも該中間絶縁体の厚さ以上偏位してなる請求項1または2に記載のプラズマ装置。
【請求項4】
前記外装絶縁体は、前記第1電極の外周端面と前記第2電極の外周端面を被包している請求項1~3のいずれかに記載のプラズマ装置。
【請求項5】
さらに、前記連通穴の下流側に載置されるワークを該連通穴に対して相対移動させる移動手段を備え、
前記第1電極と前記第2電極の間に電圧を印加したときに該連通穴内で生成したプラズマを該連通穴の下端開口から相対移動する該ワークに向けて噴出し得る請求項1~4のいずれかに記載のプラズマ装置。
【請求項6】
前記生成部と前記移動手段は、プラズマ処理の雰囲気を調整するチャンバ内に格納されている請求項5に記載のプラズマ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを発生させ得るプラズマ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体の分子(原子)が主に陽イオンと電子(両者を併せて「荷電粒子」という。)に電離した状態となるプラズマは、様々な分野で、種々の処理(加工を含む)に利用される。例えば、グロー放電等により形成される低温プラズマは、制御性に優れ、半導体層や絶縁層等の形成、DLC等の薄膜形成(特にCVD)、表面処理(表面改質)、エッチング等、広く各種処理に利用されている。
【0003】
プラズマを用いた各種の処理(単に「プラズマ処理」という。)は、主に、数百Pa以下の低圧雰囲気中でなされていた。しかし最近では、処理効率や処理自由度の向上等を図るため、大気圧付近の雰囲気中でもプラズマ処理がなされる。このようなプラズマ処理を行う装置等に関する記載が、例えば、下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-216318
【文献】特開2013-120633
【文献】特開2004-353066
【文献】特開2020-136112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、誘電体バリア放電装置(DBD:Dielectric Barrier Discharge)を提案している。このような装置では、放電電流が抑制されるため、十分なプラズマ密度が得られない。
【0006】
特許文献2は、誘導結合プラズマ装置(ICP:Inductively Coupled Plasma)を提案している。このような装置では、高いプラズマ密度が得られるが、熱平衡プラズマであるため、電極の冷却が不可欠となり、装置の複雑化や大型化が避けられない。
【0007】
特許文献3、4は、一対のホロー電極間でプラズマを発生させる装置を提案している。このような装置によれば、高密度なプラズマにより効率的な処理が可能となる。しかし、従来の装置は、電極間に高電圧を印加してプラズマ処理することが想定されていなかった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、電極間に高電圧を印加しても、プラズマ処理を安定して行える新たなプラズマ装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、ホロー(hollow)電極の内周側における絶縁性と、その電極外における絶縁性とを十分に確保できる構造を新たに着想し具現化した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0010】
《プラズマ装置》
(1)本発明は、ガスが供給される導入部と、該導入部の下流側に配設され、上流側から順に積層された第1電極、中間絶縁体および第2電極を有する生成部とを備え、該生成部は、該該第1電極、該中間絶縁体および該第2電極を上流側から下流側に貫通する多孔状またはスリット状の連通穴を有し、該連通穴は、該中間絶縁体の内壁面が、該第1電極の内壁面および該第2電極の内壁面よりも外周側に偏位してできる環状の凹部を有し、さらに、該第1電極と該第2電極の外周側に配設されると共に、該外周側における該第1電極と該第2電極の沿面距離を、該連通穴の内周側における該第1電極と該第2電極の沿面距離よりも長くする外装絶縁体を備えるプラズマ装置である。
【0011】
(2)本発明のプラズマ装置(単に「装置」ともいう。)によれば、連通穴内に露出した第1電極の内壁面と第2電極の内壁面との間で、放電(通常、グロー放電またはアーク放電)を生じる。そして、連通穴内に生じたプラズマ(電子、ラジカル、イオン等)は、連通穴の上流から下流に至るガス流(気流)に押し出されて、連通穴の下流側にある下端開口から流出(噴出)する。このプラズマをワークの被処理面へ照射することにより、ワーク表面をプラズマ処理できる。なお、このようなプラズマ処理は、大気圧付近の雰囲気下にあるワークに対しても可能である。
【0012】
ところで、本発明の装置によれば、第1電極と第2電極の間に高電圧を印加した場合でも、上述したようなプラズマ処理を安定して行える。その理由は次のように考えられる。先ず、本発明の装置は、中間絶縁体の内壁面が各電極の内壁面よりも外周側へ偏位して環状の凹部を形成している。これにより、強いプラズマを生じる各電極の角部が中間絶縁体の沿面(内壁面)から遠ざかり、中間絶縁体と各電極と空間との接触点(三重点)における電界が緩和される。また、プラズマ処理により中間絶縁体の内壁面が導電性物質(例えば炭素等)で汚染されるような場合でも、各電極間の短絡が生じ難くなる。こうして、各電極の内壁面間における所望の抵抗(絶縁性)が確保され、電極の内壁面間の絶縁破壊により生じる部分的で不安定なアーク放電が抑止され、安定したプラズマ処理が可能となる。
【0013】
次に、本発明の装置は、各電極の外周側に外装絶縁体を備える。これにより、各電極の外周側において、電極間の沿面距離を十分に確保することができる。例えば、その外周側における沿面距離は、各電極間の内周側における沿面距離(連通穴の内壁面に沿った沿面距離)よりも長い。その結果、電極間に高電圧が印加される場合でも、連通穴の外部における放電等が抑止され、連通穴内におけるプラズマ生成が安定し、ひいては安定したプラズマ処理が可能となる。
【0014】
本発明の装置は、プラズマを発生させ得る限り、各電極へ印加する電圧は問わない。仮に、各電極へ高電圧(例えば1000V以上)を印加する場合でも、上述したように安定してプラズマを発生させ得る。このため、本発明の装置を用いれば、プラズマ源として多種多様な原料ガスの選択も可能となり、種々のプラズマ処理を安定して効率的に行うことが可能となる。
【0015】
《プラズマ処理方法/被処理物》
本発明は、上述した装置により発生されたプラズマを用いた処理(表面改質、成膜、洗浄等)の方法、または、その処理方法により得られた結果物(被処理物)としても把握され得る。
【0016】
《その他》
(1)本明細書でいう上流と下流は、導入部または生成部(特に連通穴)において、ガスまたはプラズマが流れる方向に沿う。鉛直方向(実際の配置)とは関係なく、適宜、その流れる方向を上下方向ともいう。例えば、上流側にある面や端等を上面や上端等といい、その反対側である下流側にある面や端等を下面や下端等という。
【0017】
また、本明細書でいう内周(側)、内周面、内壁面等と、外周(側)、外周面、外周端面等は、特に断らない限り、(各)連通穴を基準にして定める。
【0018】
(2)本明細書でいう「大気圧付近」は、敢えていうと、大気圧(P0)に対して、0.01P0≦P≦1.1P0を満たす気圧(P)の範囲である。通常、大気圧(P0)または準大気圧(0.01P0≦P<P0)であればよい。標準気圧(P0=1.01325×105Pa≒1×105Pa)に基づいて、例えば、1×104Pa≦P≦1×105Paを大気圧付近としてもよい。
【0019】
(3)本明細書でいう「x~y」は、特に断らない限り、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。本明細書でいう「x~ymm」は、特に断らない限り、xmm~ymmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】プラズマ装置(一例)の概要を示す斜視図である。
【
図3】プラズマ装置により実際に発生させたプラズマを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、装置のみならず処理方法やその結果物にも適宜該当する。方法的な構成要素であっても物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0022】
《生成部》
(1)電極と絶縁体
生成部は、少なくとも上流側から順に、第1電極、中間絶縁体、第2電極が積層されてなる。第1電極と第2電極は、それらの外周側に外装絶縁体を備えるため、他の金属体(例えばチャンバの内壁面)との間で放電を生じ難い。さらに、各電極は、連通穴を除く外表面全体が絶縁体(材)で覆われていてもよい。
【0023】
第1電極への通電(電源への配線)は、例えば、導入部を経由してなされてもよい。このとき、導入部と第1電極は略同電位となり、導入部内で放電等は生じない。このような導入部の外表面も、絶縁体(材)で覆われていてもよい。
【0024】
第2電極も、下面や外周面が絶縁体(材)で覆われていてもよい。また、第2電極とワークや他部材(ステージ、チャンバ等)との電位差が小さくなるように電源回路が構成されてもよい。第2電極の下面(連通穴の下端開口)をワーク(ステージ)へ近接させる場合、第2電極は、例えば、ワーク、(またはそれを載置するステージ)やそれらを囲う筐体(チャンバ)等と共に接地されているとよい。なお、ワーク等には、バイアス電位が付与されてもよい。
【0025】
各電極は、例えば、ステンレス鋼、鉄、銅、チタン、タングステン、アルミニウム等の金属材からなる。中間絶縁体や外装絶縁体は、例えば、セラミックス、石英、ガラス、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド(例えばカプトン)等からなる。セラミックスには、例えば、耐熱性にも優れたアルミナ(Al2O3)窒化アルミニウム(AlN)、窒化ボロン(BN)等がある。
【0026】
各電極の厚さは、例えば、0.5~30mmさらには1~15mmである。各絶縁体の厚さは、例えば、0.1~20mmさらには1~10mmである。特に中間絶縁体の厚さ(第1電極と第2電極の間隔)は、例えば、0.2~5mmさらには0.5~3mmとするとよい。この厚さが過小では、各電極間で生じる放電が不安定となる。この厚さが過大では、放電電圧が大きくなり、電源の装置コストが高くなる。
【0027】
中間絶縁体の外周面と外装絶縁体の内周面とは、密接または一体化しているとよい。また外装絶縁体は、第1電極の外周端面と第2電極の外周端面を全面的に覆って被包しているとよい。これらにより、外周側における第1電極と第2電極の沿面距離がより十分に確保され、連通穴以外で生じ得る各電極間の放電や絶縁破壊が回避される。
【0028】
(2)連通穴
連通穴は、単穴、多孔状、スリット状(長穴状)等のいずれでもよい。連通穴が特定方向に沿って配列された多孔状またはスリット状であると、連通穴の下端開口に対してワークが相対移動することにより、被処理面が略線状のプラズマによって均一的に走査される。これにより、被処理面全体の均質的なプラズマ処理を効率的に行うことができる。
【0029】
本明細書でいう「スリット状」とは、連通穴の横断面(ガス等の流れに対する直交断面)が、短手方向に対して長手方向に十分に長い形状である。その具体的な形状は、例えば、長方形状、楕円状、長穴状等である。
【0030】
連通穴(下端開口)の横断面は、短手方向の最大長(a:横幅という。)に対する長手方向の最大長(b:縦幅という。)の比である縦横比(b/a)が、例えば、10~10000、50~5000さらには100~1000である。具体的な寸法は、装置の用途や仕様等に応じて調整される。敢えていうと、例えば、横幅(a)は0.1~20mmさらには0.5~10mm、縦幅(b)は20~2000mmさらには40~1000mmとしてもよい。
【0031】
横幅が過小であると、長時間の成膜により、汚染や詰まりを生じ得る。縦幅が過小であると、一走査あたりの処理領域が狭くなる。横幅が過大であると、短手方向にプラズマ密度の分布が生じ得る。縦幅が過大であると、長手方向にプラズマ密度の分布を生じ得る。
【0032】
なお、特定方向に延在する連通穴は、単列(一筋、一連、一条)でも複列でもよい。複列の連通穴は、例えば、それぞれが平行に配設されるとよい。なお、連通穴の横断面は、ワークの形態に応じて、直線状に延在していても、左右方向、前後方向または上下方向に関して曲線状に延在していてもよい。
【0033】
(3)凹部
凹部は、中間絶縁体の内壁面が各電極の内壁面よりも外周側に偏位してできる環状の窪みである。凹部が形成されることにより、上述したように、各電極とそれらの周辺空間との間(三重点)における電界が緩和され、中間絶縁体の内壁面(沿面)に沿った絶縁破壊(短絡)が抑止される。また、中間絶縁体の内壁面が、放電の集中し易い各電極の内周縁(縦断面の角部)から遠ざかり、プラズマ処理時に汚染され難くもなる。こうして、中間絶縁体の内壁面に沿った電極間の短絡(絶縁破壊)や連通穴内で生じ得る不安定なアーク放電等が抑止される。
【0034】
中間絶縁体の内壁面の偏位量(Δr)は、例えば、中間絶縁体の厚さ(t)を用いて、Δr≧t、Δr≧2tさらにはΔr≧3tとするとよい。つまり、凹部は、例えば、中間絶縁体の内壁面が、第1電極の内壁面および/または第2電極の内壁面から、少なくとも中間絶縁体の厚さ以上偏位しているとよい。
【0035】
中間絶縁体の内壁面が対称的に偏位している(凹んでいる)場合、第1電極または第2電極の対向する内壁面間距離:d、中間絶縁体の対向する内壁面間距離:Dとすると、D=d+2ΔrまたはΔr=(D-d)/2となる。
【0036】
なお、連通穴がスリット状であるとき、偏位量(Δr)は一定でなくてもよい。例えば、短手方向の凹部の偏位量は、長手方向に沿って延在する凹部の偏位量よりも小さくてもよい。短手方向の凹部の内壁面は、長手方向の凹部の内壁面よりも、プラズマ処理に伴う汚染が少ないこともある。
【0037】
なお、第1電極と第2電極の間で内壁面間距離が異なるとき(つまり、各電極の内壁面に段差があるとき)、またはそれら内壁面が傾斜等しているとき、偏位量は次のように考えるとよい。第1電極の下端内周縁または第2電極の上端内周縁のうちで外周側にある方から、中間絶縁体の内周面(最内周位置)までの最短距離を偏位量(Δr)とする。
【0038】
《移動手段/ステージ》
連通穴の下流側に載置されるワークを連通穴に対して相対移動させる移動手段を備えとよい。これにより、連通穴の下端開口から噴出するプラズマで、ワークの被処理面を走査させつつ処理できる。連通穴側(生成部側)が移動しても、ワークを載置するステージが移動してもよい。
【0039】
ステージは、ワークの加熱手段(ヒータ)、冷却手段(クーラ)または温度調整手段を備えてもよい。温度調整手段は、加熱手段および/または冷却手段に加えて、それらの制御手段を有する。
【0040】
連通穴の下端開口からワークの被処理面までの距離(間隔)は、例えば、0.1~20mmさらには0.5~10mmとするとよい。その間隔が過大では効率的な処理ができず、その間隔が過小では連通穴内の気流やプラズマの噴出が不安定になり得る。
【0041】
《電源》
電源から各電極間に、プラズマ発生に必要な電圧が印加される。電源は、直流電源でも、交流電源でも、パルス電源でもよい。交流電源またはパルス電源は、例えば、周波数を1k~100kHzさらには10k~75kHzとするとよい。
【0042】
印加電圧(ピーク・ピーク値/最大と最小の電圧差)は、例えば、200~3000Vさらには400~1500Vとするとよい。通常、第2電極に対してプラズマ発生に必要な電位が、第1電極に付与される。第2電極は、例えば、接地されているとよい。ステージは、第2電極と同電位でもよいし、バイアス電位が付与されていてもよい。バイアス電圧を印加しないとき、第2電極とステージを共に接地するとよい。金属製のチャンバを設けるとき、そのチャンバも接地してもよい。
【0043】
《雰囲気》
本発明の装置を用いたプラズマ処理は、種々の雰囲気下でなされ得る。例えば、低圧雰囲気中でプラズマ処理されてもよいし、大気圧付近の雰囲気下でプラズマ処理されてもよい。少なくともワーク周辺を準大気圧としてプラズマ処理すると、処理に用いた原料ガスやプラズマ等の外部への漏出や拡散が防止され、好適な作業環境が維持され得る。
【0044】
少なくとも生成部と移動手段は、プラズマ処理の雰囲気を調整するチャンバ内に格納されていてもよい。勿論、ワークを載置するステージを含む装置全体がチャンバ内に収容された状態でプラズマ処理されてもよい。なお、排気は、ドラフト装置や真空ポンプ等によりなされる。チャンバ内に装置を収容(格納)することにより、100kPa以下、50kPa以下、10kPa以下さらには1kPa以下等の低圧に制御された雰囲気下で、プラズマ処理が可能となる。
【0045】
《ガス》
導入部には、種々のガスを供給し得る。例えば、不活性ガス(希ガス(Ar、Ne、He等)、N2等)、炭化水素等の原料ガス、それらの混合ガス等である。なお、導入部へ供給するプラズマ源ガスとは別に、プラズマと反応させる原料ガスを、連通穴の下端開口近傍またはワークの表面近傍へ供給してもよい。
【0046】
《用途》
本発明のプラズマ装置は、種々のプラズマ処理に用いられる。プラズマ処理は、例えば、電子部品や機械部品に対する表面改質、成膜、洗浄等である。
【実施例】
【0047】
プラズマ装置の一例を示しつつ、本発明をより具体的に説明する。
【0048】
《装置構成》
本発明の一実施例であるプラズマ装置S(単に「装置S」という。)の概要を
図1に、その前後方向の断面図を
図2に、それぞれ模式的に示した。なお、説明の便宜上、前後方向、左右方向または上下方向は、図中に示した矢印方向とする。本実施例の場合、上下方向は装置S内におけるガスまたはプラズマの流れに沿い、概ね上方側が上流側、下方側が下流側となる。
【0049】
装置Sは、ガスgの導入部1と、プラズマの生成部2と、ワークwを載置するステージ3と、電源6とを備える。また導入部1、生成部2およびステージ3は、チャンバ7内に収容(格納)されている。
【0050】
(1)導入部1は、プラズマ源となるガスgを取り入れる導入口11と、左右方向に延在する略直方体状のカバー12とを有する。導入口11を通じてカバー12内へ取り込まれたガスgは、連通穴20へ均一的に導入される。なお、カバー12は、金属製(例えばステンレス鋼)であり、後述する電極板221と導電可能に連結されている。
【0051】
(2)生成部2は、上方から順に積層された電極板221(第1電極)、絶縁板212(中間絶縁体)および電極板222(第2電極)と、それらの外周側を囲繞する絶縁筒211(外装絶縁体)とを備える。絶縁筒211の内周面は、電極板221、絶縁板212、電極板222および導入部1(カバー12)の各外周(端)面に密着した状態となっている。なお、絶縁板212、電極板221および電極板222は長方形状であり、絶縁筒211は方形筒状である。
【0052】
(3)生成部2の略中央には、上下方向に貫通し、左右方向に延在するスリット状のノズル20が形成されている。ノズル20は、電極板221の孔2210、絶縁板212の孔2120、電極板222の孔2220が積層されてなる。なお、ノズル20は、図示した単列に限らず、左右方向に平行して配設された複列でもよい。
【0053】
電極板221と電極板222の間に高電圧が印加されると、孔2210の内壁面2210aと孔2220の内壁面2220aとの間で放電が生じて、ノズル20内にプラズマpが発生する。プラズマpは、上流から下流に向かうノズル20内の気流により押し出されて、ノズル20の下端開口20bから噴出する。
【0054】
孔2210の内壁面2210aと孔2220の内壁面2220aは、上下方向に全周囲で面一状である。一方、これら各内壁面に対して、孔2120の内壁面2120aは、外周側へ偏位している。つまり、内壁面2120aは、ノズル20を構成する他の内壁面に対して全周囲で窪んだ凹部20aを形成している。
【0055】
図2に示すように、内壁面2120aの対向面間距離:D、他の内壁面の対向面間距離:d、他の内壁面に対する内壁面2120aの偏位量:Δrとすると、D=d+2Δrとなる。但し、内壁面2120aの偏位は、前後対称または左右対称とした。絶縁板212の厚さ:tとすると、Δr≧t(D≧d+2t)とするとよい。
【0056】
(4)ステージ3は、基台31と、基台31内に内蔵されたヒータ32(加熱手段)と、基台31を面方向(X軸方向および/Y軸方向)へ移動される駆動機構(図略)と、ヒータ32と駆動機構を制御する制御装置(図略)とを備える。ヒータ32と制御装置により、基台31に載置されたワークwの温度管理がなされる(温度調整手段)。駆動機構と制御装置により、基台31に載置されたワークwの位置管理(処理範囲の調整等)がなされる(移動手段)。
【0057】
(5)電源6は、電極板221と電極板222の間に、プラズマ生成に必要な高電圧を印加する。電極板221への通電は、カバー12を介してなされる。また、電極板222およびステージ3(基台31)は共に接地されている。
【0058】
(6)チャンバ7は、真空ポンプ8により排気されると共に、流量制御されたガスgが配管(図略)から導入される。こうしてワークwは、所望の雰囲気下でプラズマ処理される。なお、真空ポンプ8は、チャンバ7内を少なくとも準大気圧を含む真空雰囲気下にできれば足る。
【0059】
《プラズマ生成》
(1)次のような装置Sを実際に試作した。電極板221、222にはステンレス鋼(SUS304)の圧延板を、絶縁筒211および絶縁板212にはアルミナ(Al2O3)の焼成体を用いた。電極板221の厚みは2mm、電極板222の厚みは1mm、絶縁板212の厚み(t)は1mmとした。絶縁筒211は、厚みを2mm、高さ(L)を25mmとした。絶縁筒211の高さ(L)は、例えば、絶縁板212の厚み(t)の20倍以上(L≧20t)さらには25倍以上(L≧25t)とするとよい。
【0060】
ノズル20の下端開口20bは1mm×25mmとした。孔2210、2220の前後方向に対向する内壁面間距離(d)は1mmとした。孔2120の内壁面2120aの偏位量(Δr)は0mmまたは1mmとした。換言すると、孔2120の前後方向に対向する内壁面間距離(D)はdmmまたは(d+2)mmとした。電源にはパルス電源を用いた。
【0061】
(2)チャンバ7内を真空ポンプ8で1.3kPa(絶対圧)まで排気した。そのチャンバ7内へN
2とCH
4 (炭化水素系ガス)を導入し、導入部1からノズル20へそのガスを供給した。電極板221と電極板222の間にパルス電圧(600V(Peak to Peak 値)、周波数50kHz、矩形波)を印加した。電極板222の下面側を観察したところ、
図3に示すように、ノズル20の下端開口20bに、紫色のグロー放電が観られ、線状のプラズマpの発生(噴出)が確認された。
【0062】
なお、絶縁板212の内壁面2120aを偏位させないとき(Δr=0mm)、絶縁板212の端部に、黒い汚染または放電集中による焼けた痕跡(放電集中痕)が観られた。一方、絶縁板212の内壁面2120aを、その板厚(t)分だけ偏位させたとき(Δr=t=1mm)、そのような放電集中痕は観られなかった。
【0063】
このような相違は、次のように推察される。絶縁板212の内壁面2120aが偏位していないとき、汚染等された内壁面2120aに沿って、内壁面2210aと内壁面2220aの間で短絡(絶縁破壊)が生じ易くなったと考えられる。
【0064】
一方、内壁面2120aの偏位量が十分な場合、内壁面2210aと内壁面2220aの間に空間が確実に形成され、内壁面2120aに沿った短絡(絶縁破壊)が生じ難くなり、ノズル20内の放電が安定したと推察される。
【0065】
また、絶縁筒211を除去して高電圧を印加したところ、電極板221や電極板222の外周端面とチャンバ7の内壁面との間で放電が発生して、ノズル20の下端開口20bにおけるプラズマpが不安定になった。一方、上述した装置Sのように、絶縁筒211を設けると、プラズマpの発生は安定していた。
【0066】
以上から、本発明のプラズマ装置を用いれば、プラズマを安定的に生成でき、そのプラズマをワークの被処理面へ噴射させつつ走査すれば、被処理面の均質的なプラズマ処理を効率的に行えることがわかった。
【符号の説明】
【0067】
S プラズマ装置
1 導入部
2 生成部
20 ノズル(連通穴)
211 絶縁筒(外装絶縁体)
212 絶縁板(中間絶縁体)
221 電極板(第1電極)
222 電極板(第2電極)
3 ステージ