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特許7276417液晶デバイス用透明基材、調光シート、及び調光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】液晶デバイス用透明基材、調光シート、及び調光装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20230511BHJP
   G02F 1/1337 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1337
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021207130
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2023-01-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】森永 かおり
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-090508(JP,A)
【文献】特開2012-155308(JP,A)
【文献】特開2008-225136(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112684640(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13,1/137-1/141
G02F 1/133,1/1333,1/1334
G02F 1/1339-1/1341
G02F 1/1347
G02F 1/1337
G02F 1/15-1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶デバイスが備える調光層が含む液晶分子の配向方向を規制する配向層と、
前記配向層が形成される可撓性を有した下地層と、を含む液晶デバイス用透明基材であって、
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを備え、
前記第1面は、前記配向層が備える面であり、
前記第2面は、前記下地層が備える面であり、
前記配向層は、ポリイミドを含み、
前記下地層は、前記第2面を備える透明支持層と、前記配向層と前記透明支持層との間に位置する透明電極層とを備え、
前記第1面に対してISO 14577-1:2015に準拠するナノインデンテーション法で測定された押し込み硬度が0.25GPa以上であり、
前記第1面と前記第2面とが接するように捲回されている
液晶デバイス用透明基材。
【請求項2】
前記第1面に対してISO 14577-1:2015に準拠するナノインデンテーション法で測定された押し込み硬度が1.00GPa未満である
請求項1に記載の液晶デバイス用透明基材。
【請求項3】
前記第1面の表面粗さRaが10nm以下であり、
前記第2面の表面粗さRaが20nm以下である
請求項1または2に記載の液晶デバイス用透明基材。
【請求項4】
液晶組成物を含む調光層と、
前記調光層を挟む一対の液晶デバイス用透明基材と、を備え、
各液晶デバイス用透明基材は、
前記調光層が含む液晶組成物の配向方向を規制する配向層と、
前記配向層が形成される可撓性を有した下地層と、を含み、
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを備え、
前記第1面は、前記配向層が備える面であり、
前記第2面は、前記下地層が備える面であり、
前記配向層は、ポリイミドを含み、
前記第1面に対してISO 14577-1:2015に準拠するナノインデンテーション法で測定された押し込み硬度が0.25GPa以上であり、
前記調光層は、各液晶デバイス用透明基材が備える前記第1面のそれぞれと接する
調光シート。
【請求項5】
請求項4に記載の調光シートと、
前記調光シートが備える一対の前記下地層の各々が備える透明電極層の間に電位差を生じさせて前記液晶組成物の配向を制御することで、前記調光シートの透明状態と不透明状態とを切り替える駆動部と、を備える
調光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向層を備える液晶デバイス用透明基材、液晶デバイス用透明基材を備える調光シート、及び、調光シートを備える調光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リバース型の調光シートの一例は、液晶組成物を含む調光層と、調光層を挟む一対の透明基材とを備える。各透明基材は、透明支持層と、透明支持層によって支持される透明電極層と、配向層とがこの順に積層されて構成される。調光シートは、調光層が一対の透明基材の各々が備える配向層の間に位置するように積層される。リバース型の調光シートの一例は、一対の透明電極層間に電圧が印加されていない状態において、配向層が液晶分子を垂直配向させることで、相対的に低いヘイズを示す。リバース型の調光シートは、一対の透明電極層間に電圧が印加されている状態において、液晶分子がランダムに配向することで、入射光が高分子と液晶の界面で散乱し、これによって相対的に高いヘイズを示す。
【0003】
調光シートに期待される用途の拡張は、調光シートの大面積化を強く要求する。調光シートの大面積化は、透明体と調光シートとの間に介在する粘着層に新たな耐性の向上を要求する。例えば、大面積の調光シートを窓ガラスや展示ウインドウに適用することは、高温高湿度下の使用に対する耐性、すなわち透明体から生じるアウトガスに対する耐性を広い範囲で要求する。こうした耐性を向上する技術として、粘着層に所定値以上の剥離強度を備えることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-140027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、大面積の調光シートは、調光シートの量産化を可能にする観点から、ロールツーロール方式による製造を新たに要求する。そして、ロールツーロール方式を用いる調光シートの製造は、ロール状に捲回された透明基材の配向層と透明支持層とが貼り付いて剥離し難くなるという課題、すなわちブロッキングを新たに招来させる。
【0006】
なお、ブロッキングを抑制するための技術の一例としては、フィルムの一面に凹凸を形成するナール処理が知られている。仮に、透明基材が備える配向層及び透明支持層の少なくとも一方にナール処理を施すとすれば、ロール状に捲回された透明基材において、配向層と透明支持層との密着性を低めて透明基材同士を剥離し易くなる。
【0007】
ただし、ナール処理によって形成される凹凸は、調光シートの見栄えそのものを少なからず変える。また、ナール処理のようなブロッキングを抑制するための前処理は、透明基材の製造工程、及び、透明基材を含む調光シートの製造における工数を増加させる。こうしたナール処理とは異なるブロッキングの抑制技術が提供されるとなれば、調光シートの見栄えに関わる選択の範囲、あるいは調光シートの製造に関わる選択の範囲を広げ、これによって調光シートに関わる産業を発展させ得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための液晶デバイス用透明基材は、液晶デバイスが備える調光層が含む液晶分子の配向方向を規制する配向層と、前記配向層が形成される可撓性を有した下地層と、を含む液晶デバイス用透明基材であって、第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを備え、前記第1面は、前記配向層が備える面であり、前記第2面は、前記下地層が備える面であり、前記配向層は、ポリイミドを含み、前記第1面に対してISO 14577-1:2015に準拠するナノインデンテーション法で測定された押し込み硬度が0.25GPa以上である。
【0009】
上記構成によれば、配向層が備える第1面の押し込み硬度が0.25GPa以上であることで、液晶デバイス用透明基材をロール状に捲回した際に、第1面が第2面の微細な凹凸形状に追従しにくくなる。これにより、第1面と第2面との密着性が低下することで、第1面と第2面とが貼り付くブロッキングを抑制できる。このような構成であれば、液晶デバイス用透明基材をロール状に捲回する前にブロッキングを抑制するための前処理を施す場合と比較して、液晶デバイス用透明基材、液晶デバイス用透明基材を含む調光シート、及び、調光シートを備える調光装置の製造工程の簡略化が可能となる。
【0010】
上記液晶デバイス用透明基材において、前記第1面に対してISO 14577-1:2015に準拠するナノインデンテーション法で測定された押し込み硬度が1.00GPa未満であることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、配向層が備える第1面の押し込み硬度が1.00GPa未満であることで、配向層の脆化を抑制できる。これにより、液晶デバイス用透明基材をロール状に捲回した際に、配向層におけるクラックの発生を抑制できる。
【0012】
上記液晶デバイス用透明基材において、前記第1面の表面粗さRaが10nm以下であり、前記第2面の表面粗さRaが20nm以下であることが好ましい。
上記構成によれば、第1面及び第2面の何れもが、ナール処理がされず平滑な面である場合であっても、液晶デバイス用透明基材をロール状に捲回した際に、第1面と第2面とが貼り付くブロッキングを抑制できる。
【0013】
上記課題を解決するための調光シートは、液晶組成物を含む調光層と、前記調光層を挟む一対の上記何れかの液晶デバイス用透明基材と、を備え、前記調光層は、各液晶デバイス用透明基材が備える前記第1面のそれぞれと接する。
【0014】
上記課題を解決するための調光装置は、上記の調光シートと、前記調光シートが備える一対の前記下地層の各々が備える透明電極層の間に電位差を生じさせて前記液晶組成物の配向を制御することで、前記調光シートの透明状態と不透明状態とを切り替える駆動部と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ブロッキングを抑制しつつ、液晶デバイス用透明基材、調光シート、及び、調光装置の製造工程を簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、調光装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、液晶デバイス用透明基材の層構成を示す模式図である。
図3図3は、液晶デバイス用透明基材を捲回した状態を示す斜視図である。
図4図4は、実施例、比較例、及び、参考例の評価結果を示す表である。
図5図5は、架橋剤の添加量と、配向層の押し込み硬度との関係を示すグラフである。
図6図6は、配向層の押し込み硬度と、ブロッキングが発生した部分の面積の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1図3を参照して、液晶デバイス用透明基材、調光シート、及び、調光装置の一実施形態を説明する。
[調光装置及び調光シート]
図1を参照して調光装置、及び調光シートについて説明する。
【0018】
図1が示すように、液晶デバイスの一例である調光装置10は、調光ユニット11と、駆動部12とを備える。調光ユニット11は、リバース型の調光シート21を含む。調光シート21は、調光層31と、第1透明基材32と、第2透明基材33とを備える。第1透明基材32及び第2透明基材33は、それぞれ液晶デバイス用透明基材の一例である。
【0019】
第1透明基材32は、第1配向層41Aと、第1下地層42Aとを備える。第2透明基材33は、第2配向層41Bと、第2下地層42Bとを備える。調光シート21は、各層が積層される厚さ方向において、第1配向層41Aと第2配向層41Bとが調光層31を挟み込む。
【0020】
第1下地層42A及び第2下地層42Bは、ロール状に捲回可能な可撓性を有する。第1下地層42Aは、第1透明電極層43Aと、第1透明支持層44Aとを備える。第1透明電極層43Aは、第1透明基材32において、第1配向層41Aと第1透明支持層44Aとの間に位置する。第2下地層42Bは、第2透明電極層43Bと、第2透明支持層44Bとを備える。第2透明電極層43Bは、第2透明基材33において、第2配向層41Bと第2透明支持層44Bとの間に位置する。
【0021】
調光ユニット11は、第1透明電極層43Aに取り付けられた第1電極22Aと、第2透明電極層43Bに取り付けられた第2電極22Bとを備える。さらに、調光ユニット11は、第1電極22Aに接続された第1配線23Aと、第2電極22Bに接続された第2配線23Bとを備える。第1電極22Aは、第1配線23Aを介して駆動部12に接続される。第2電極22Bは、第2配線23Bを介して駆動部12に接続される。
【0022】
第1電極22A及び第2電極22Bの各々は、例えばフレキシブルプリント基板(FPC : Flexible Printed Circuits)である。FPCは、支持層、保護層、及び、支持層と保護層とに挟まれた導体部を備える。支持層及び保護層は、絶縁性の合成樹脂によって構成される。支持層及び保護層は、例えばポリイミドによって形成される。導体部は、例えば金属薄膜によって構成される。金属薄膜を形成する材料は、一例として銅である。第1電極22A及び第2電極22Bの各々は、FPCに限らず、例えば金属製のテープであってもよい。
【0023】
なお、第1電極22A及び第2電極22Bの各々は、図示されない導電性接着層によって、第1透明電極層43A、第2透明電極層43Bの各々に取り付けられる。第1電極22A及び第2電極22Bの各々のうち、導電性接着層に接続される部分では、導体部が保護層または支持層から露出している。導電性接着層は、例えば、異方性導電フィルム(ACF : Anisotropic Conductive Film)、異方性導電ペースト(ACP : Anisotropic Conductive Paste)、等方性導電フィルム(ICF : Isotropic Conductive Film)、及び、等方性導電ペースト(ICP : Isotropic Conductive Paste)などによって構成される。調光装置10の製造工程における取り扱い性の観点から、導電性接着層は、異方性導電フィルムであることが好ましい。
【0024】
第1配線23A、及び第2配線23Bは、例えば、金属製のワイヤーと、金属製のワイヤーを覆う絶縁層とによって構成される。ワイヤーは、一例として銅によって構成される。絶縁層は、一例として樹脂によって構成される。
【0025】
駆動部12は、第1透明電極層43Aと第2透明電極層43Bとの間に交流電圧を印加して電位差を生じさせることで、液晶組成物の配向を制御する。駆動部12が印加する交流電圧は、矩形波状を有することが好ましい。なお、駆動部12が印加する交流電圧は、矩形波状以外の形状でもよく、例えば、正弦波状を有した交流電圧を第1透明電極層43Aと第2透明電極層43Bとの間に印加してもよい。
【0026】
調光層31は、透明な樹脂層と液晶組成物とを備える。樹脂層は、液晶組成物が充填される空隙を有する。液晶組成物は、樹脂層が有する空隙に充填されている。液晶組成物は液晶分子を含む。液晶分子の一例は、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、及び、ジオキサン系から構成される群から選択される少なくともいずれか一種である。
【0027】
液晶組成物の保持型式は、高分子ネットワーク型、高分子分散型、及び、カプセル型から構成される群から選択されるいずれか1つである。高分子ネットワーク型は、3次元の網目状を有した透明な高分子ネットワークを備え、相互に連通した網目状の空隙のなかに液晶組成物を保持する。高分子ネットワークは、樹脂層の一例である。高分子分散型は、孤立した多数の空隙を樹脂層のなかに備え、高分子層に分散した空隙のなかに液晶組成物を保持する。カプセル型は、カプセル状を有した液晶組成物を樹脂層のなかに保持する。なお、液晶組成物は、上述した液晶分子以外に、樹脂層を形成するためのモノマー、及び、二色性色素などを含んでもよい。
【0028】
調光層31は、第1透明電極層43Aと第2透明電極層43Bとの間において生じる電圧の変化を受けて液晶分子の配向を変える。液晶分子における配向の変化は、調光層31に入る可視光の散乱度合い、吸収度合い、及び、透過度合いを変える。リバース型の調光シート21は、調光シート21の通電時に、すなわち、第1透明電極層43Aと第2透明電極層43Bとの間に電位差が生じているときに、相対的に高いヘイズを有する。リバース型の調光シート21は、調光シート21の非通電時に、すなわち、第1透明電極層43Aと第2透明電極層43Bとの間に電位差が生じていないときに、相対的に低いヘイズを有する。例えば、リバース型の調光シート21は、調光シート21の通電時に不透明状態を有し、調光シート21の非通電時に透明状態を有する。
【0029】
調光シート21は、例えば、車両及び航空機などの移動体が備える窓に取り付けられる。また、調光シート21は、例えば、住宅、駅、空港などの各種の建物が備える窓、オフィスに設置されたパーティション、店舗に設置されたショーウインドウ、及び、映像を投影するスクリーンなどに取り付けられる。調光シート21の形状は、平面状であってもよいし、曲面状であってもよい。
【0030】
[液晶デバイス用透明基材]
図2は、液晶デバイス用透明基材の一例である第1透明基材32の断面構造を示す。なお、第2透明基材33は、第1透明基材32と同一の層構成を有する。そのため、以下では、第1透明基材32の構造を説明する一方で、第2透明基材33の構造の説明を割愛する。なお、図2では、図示の便宜上、第1透明基材32を構成する各層の厚さを模式的に示す。
【0031】
図2に示すように、第1透明基材32は、第1面32S1と、第1面32S1とは反対側の第2面32S2とを備える。第1面32S1は、第1配向層41Aが備える面である。第1面32S1は、調光シート21の状態で、調光層31と接する。第2面32S2は、第1下地層42Aのうち第1透明支持層44Aが備える面である。
【0032】
第1配向層41Aは、垂直配向膜である。第1配向層41Aは、第1配向層41Aが広がる平面に対して液晶分子の長軸が直交するように液晶分子の配向方向を規制する。なお、第1配向層41Aと液晶分子の長軸とが形成する角度は、実質的に直角であると見なせる範囲において直角に対するずれを有してもよい。第1配向層41Aは、ポリイミド系樹脂で構成される。第1配向層41Aをポリイミド系樹脂で構成することで第1配向層41Aの熱的安定性及び化学的安定性を高めることができる。
【0033】
第1配向層41Aは、ポリイミドを含む。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸から形成される。第1配向層41Aの表面には、ラビング処理が施されてもよい。第1配向層41Aの厚さは、例えば20nm以上500nm以下であってよい。第1配向層41Aは、可視光に対する透過性を有する。
【0034】
第1配向層41Aが備える第1面32S1は、液晶デバイス用透明基材の表面に凹凸を設けるナール処理が施されていない平滑な面である。第1面32S1は、JIS B 0601:2013に準じた方法によって測定される算術平均粗さを表面粗さRaとしたときに、例えば、表面粗さRaが10nm以下である。
【0035】
第1配向層41Aが備える第1面32S1は、ナノインデンテーション法で測定された押し込み硬度が0.25GPa以上である。第1面32S1の押し込み硬度が0.25GPa以上であることで、第1透明基材32をロール状に捲回した際に、第1面32S1が第2面32S2の微細な凹凸形状に追従しにくくなる。これにより、第1面32S1と第2面32S2との密着性が低下することで、第1面32S1と第2面32S2とが貼り付くブロッキングを抑制できる。
【0036】
第1配向層41Aが備える第1面32S1は、ナノインデンテーション法で測定された押し込み硬度が1.00GPa未満であることが好ましい。第1面32S1の押し込み硬度が1.00GPa未満であることで、第1配向層41Aの脆化を抑制できる。これにより、第1透明基材32をロール状に捲回した際に、第1配向層41Aにおけるクラックの発生を抑制できる。
【0037】
なお、本実施形態において、「ナノインデンテーション法で測定された押し込み硬度」は、ISO 14577-1:2015に準拠する測定方法によって測定される。押し込み硬度は、所定の条件にて三角錐形状のバーコビッチ圧子を測定試料に押し込むことで測定される。押し込み硬度は、例えば、測定試料に所定の押し込み深さでバーコビッチ圧子を押し込んだ際の最大押し込み荷重を、測定試料に形成された圧子痕から得られるの接触投影面積で除することにより求めることができる。
【0038】
第1配向層41Aが備える第1面32S1の押し込み硬度は、第1透明基材32の製造過程において、第1配向層41Aを形成する際に、ポリアミック酸に作用する架橋剤の添加量を変えることによって制御できる。架橋剤の添加量が増えると、ポリアミック酸の架橋が促進されて第1配向層41Aの押し込み硬度が増加する。架橋剤の添加量が減ると、ポリアミック酸の架橋が促進されないため、第1配向層41Aの押し込み硬度が相対的に低下する。
【0039】
ポリアミック酸に作用する架橋剤としては、エポキシ基、オキセタン基、シクロカーボネート基、ヒドロキシル基、またはアルコキシアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を2個以上有する架橋性化合物、または重合性不飽和結合を有する架橋性化合物などを挙げることができる。架橋剤は1種類であってもよく、2種類以上組み合わせてもよい。以下に架橋剤の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
エポキシ基を有する架橋性化合物は、例えば、ビスフェノールアセトングリシジルエーテル、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等である。オキセタン基を有する架橋性化合物は、例えば、3-エチル-3-{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタンである。シクロカーボネート基を有する架橋性化合物は、例えば、1,3-ビス[(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メトキシ]ベンゼン、1,3-ビス[(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メトキシ]2-プロパノール等である。ヒドロキシル基を有する架橋性化合物は、例えば、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミド、1,3,5-トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼン等である。アルコキシル基を有する架橋性化合物は、例えば、1,2,4,5-テトラメトキシベンゼン等である。重合性不飽和結合を有する架橋性化合物は、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等である。
【0041】
第1透明電極層43Aを構成する材料は、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、及び、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)から構成される群から選択される何れか1つであってよい。第1透明電極層43Aは、可視光に対する透過性を有する。
【0042】
第1透明支持層44Aを構成する材料は、例えば、合成樹脂、または、無機化合物であってよい。合成樹脂は、例えば、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、及び、ポリオレフィンなどである。ポリエステルは、例えば、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートなどである。ポリアクリレートは、例えばポリメチルメタクリレートである。無機化合物は、例えば、二酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、及び、窒化ケイ素などである。第1透明支持層44Aは、可視光に対する透過性を有する。なお、第1透明支持層44Aは、単層構造に限らず、多層構造を有してもよい。
【0043】
第1透明支持層44Aが備える第2面32S2は、液晶デバイス用透明基材の表面に凹凸を設けるナール処理が施されていない平滑な面である。第2面32S2は、JIS B 0601:2013に準じた方法によって測定される算術平均粗さを表面粗さRaとしたときに、例えば、表面粗さRaが20nm以下である。
【0044】
[捲回体]
図3は、第1透明基材32が捲回された捲回体の状態を図示している。なお、第2透明基材33は、第1透明基材32と同様に捲回可能である。そのため、以下では、第1透明基材32の捲回体について説明する一方で、第2透明基材33の捲回体についての説明を割愛する。
【0045】
図3が示すように、第1透明基材32は、ロールツーロール方式によって製造される。詳述すると、第1透明基材32は、捲回された第1下地層42A(非図示)を引き出した状態で、第1透明電極層43A上に第1配向層41Aを形成した後、芯材であるコアCに巻き付けることでロール状の捲回体とされる。例えば、第1面32S1は、捲回体の中心軸となるコアCの側に面する。この場合、第2面32S2は、捲回体の状態で外方の側に面する。第1面32S1は、内周に位置する第2面32S2に巻き付けられる。
【0046】
ロールツーロール方式によって調光シート21を製造する際には、第1透明基材32は、捲回体の状態で製造装置に設置された後、第1透明基材32の長手方向に沿って引き出される。このとき、第1面32S1と第2面32S2との密着力が過剰に強い場合では、第1面32S1と第2面32S2とが貼り付いて剥離し難くなるブロッキングが生じる。ブロッキングが生じた部分の面積が大きい場合、第1面32S1と第2面32S2とを剥離するために必要な力が大きくなる。第1面32S1と第2面32S2とを剥離するために必要な力が第1配向層41Aと第1透明電極層43Aとの剥離強度よりも大きくなると、第1配向層41Aが第1透明電極層43Aから剥離する。もしくは、第1面32S1と第2面32S2とを剥離するために必要な力が第1配向層41Aの層内の機械的強度よりも大きくなると、第1配向層41Aにおける第1面32S1の近傍の部分が、第1配向層41Aの層内で剥離する。
【0047】
この点、本実施形態のように、第1配向層41Aが備える第1面32S1の押し込み硬度が0.25GPa以上であることで、第1面32S1が第2面32S2の微細な凹凸形状に追従しにくくなる。これにより、第1面32S1と第2面32S2との密着性が相対的に低下するため、第1面32S1と第2面32S2とが貼り付くブロッキングを抑制できる。
【0048】
従来では、第1透明基材32をロール状に捲回する前に、ブロッキングの抑制を目的とした前処理を行う必要があった。ブロッキングの抑制を目的とした前処理の一例は、第1面32S1及び第2面32S2の少なくとも一方に凹凸を形成するナール処理である。ブロッキングの抑制を目的とした前処理の一例は、第1透明基材32をロール状に捲回する際に第1面32S1と第2面32S2との間に剥離可能なテープのようなスペーサを挟み込むことである。本実施形態の構成であれば、第1透明基材32にブロッキングを抑制するための前処理を施す場合と比較して、第1透明基材32の製造工程、ひいては、第1透明基材32を備える調光シート21及び調光装置10の製造工程の簡略化が可能となる。
【0049】
[実施形態の効果]
本実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)第1面32S1のナノインデンテーション法による押し込み硬度が0.25GPa以上であることで、第1透明基材32をロール状に捲回した際に、第1面32S1が第2面32S2の微細な凹凸形状に追従しにくくなる。これにより、第1面32S1と第2面32S2との密着性が低下することで、捲回体の状態で第1面32S1と第2面32S2とが貼り付くブロッキングを抑制できる。また、第1透明基材32にブロッキングを抑制するための前処理を施す場合と比較して、第1透明基材32の製造工程、ひいては、第1透明基材32を備える調光シート21及び調光装置10の製造工程の簡略化が可能となる。
【0050】
(2)第1面32S1のナノインデンテーション法による押し込み硬度が1.00GPa未満であることで、第1配向層41Aの脆化を抑制できる。これにより、捲回体の状態において、第1配向層41Aにおけるクラックの発生を抑制できる。
【0051】
(3)第1面32S1及び第2面32S2の何れもが、ナール処理がされず平滑な面である場合であっても、第1透明基材32をロール状に捲回した際に、第1面32S1と第2面32S2とが貼り付くブロッキングを抑制できる。
【0052】
[実施例]
図4図6を参照して実施例、比較例、及び参考例について説明する。なお、以下の実施例は、上記実施形態の効果を説明するための一例であって、本発明を限定するものではない。
【0053】
(実施例1)
<液晶デバイス用透明基材の作製>
酸化インジウムスズからなる透明電極層と、合成樹脂からなる透明支持層とを備えた下地層を準備した。マイクログラビアコーターを用いて、下地層が備える透明電極層上に、配向層を形成するための塗液を塗工した後、塗液を硬化させることで、配向層と下地層とを備えた透明基材を得た。このとき、配向層は、厚さが150nmとなるように形成された。そして、透明基材をインラインで巻き取ることで、ロール状に捲回した透明基材の捲回体を得た。
【0054】
なお、配向層を形成するための塗液は、ポリアミック酸と、架橋剤と、希釈用溶媒とを含む。ポリアミック酸は、「ユピア-ST 1001」(宇部興産株式会社製、ユピアは登録商標)を用いた。「ユピア-ST 1001」は、溶媒としてのNMP(N-メチル-2-ピロリドン)中に18質量%の固形分を含む。架橋剤は、N,N,N‘,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミド(CAS登録番号:6334-25-4、東京化成工業株式会社製)を用いた。希釈用溶媒は、NMPと、BCS(ブチルセロソルブ)とを用いた。
【0055】
ポリアミック酸及び架橋剤の添加量は、ポリアミック酸の固形分と架橋剤との質量の和を100重量部としたときに、ポリアミック酸の固形分が97重量部、かつ架橋剤が3重量部となるように決定した。この場合、配向層を形成するための塗液は、97重量部の固形分と442重量部のNMPとを含む539重量部の「ユピア-ST 1001」、及び、3重量部のN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミドを含む。配向層を形成するための塗液は、さらに、希釈用溶媒として、758重量部のNMPと、1200重量部のBCSとを含む。したがって、配向層を形成するための塗液は、97重量部のポリアミック酸の固形分と、3重量部の架橋剤と、1200重量部のNMPと、1200重量部のBCSとを含む。
【0056】
<調光装置の作製>
次に、上記の方法で製造した1対の透明基材の間に調光層を含む調光シートを作製した。まず、第1の透明基材の捲回体から引き出した透明基材の配向層上に、調光層を形成するための塗液を塗工した。調光層を形成するための塗液は、50重量部の樹脂成分と、3重量部の重合開始剤と、47重量部の液晶成分とを含む。その後、調光層を形成するための塗液に第2の透明基材の捲回体から引き出した透明基材を重ねた状態で圧力を加えてラミネートした。そして、紫外線を照射して塗液を硬化させることで、1対の透明基材の間に調光層を含む調光シートを得た。さらに、調光シートに対して電極と駆動部とを取り付けることで調光装置を得た。
【0057】
(実施例2)
配向層を形成するための塗液を構成する成分の割合が異なる点を除き、実施例1と同様に透明基材と、調光装置とを作製した。実施例2で用いた配向層を形成するための塗液は、94重量部のポリアミック酸の固形分と、6重量部の架橋剤と、1200重量部のNMPと、1200重量部のBCSとを含む。
【0058】
(実施例3)
配向層を形成するための塗液を構成する成分の割合が異なる点を除き、実施例1と同様に透明基材と、調光装置とを作製した。実施例3で用いた配向層を形成するための塗液は、90重量部のポリアミック酸の固形分と、10重量部の架橋剤と、1200重量部のNMPと、1200重量部のBCSとを含む。
【0059】
(実施例4)
配向層を形成するための塗液を構成する成分の割合が異なる点を除き、実施例1と同様に透明基材と、調光装置とを作製した。実施例4で用いた配向層を形成するための塗液は、85重量部のポリアミック酸の固形分と、15重量部の架橋剤と、1200重量部のNMPと、1200重量部のBCSとを含む。
【0060】
(実施例5)
配向層を形成するための塗液を構成する成分の割合が異なる点を除き、実施例1と同様に透明基材と、調光装置とを作製した。実施例5で用いた配向層を形成するための塗液は、80重量部のポリアミック酸の固形分と、20重量部の架橋剤と、1200重量部のNMPと、1200重量部のBCSとを含む。
【0061】
(実施例6)
配向層を形成するための塗液において、ポリアミック酸として「ユピア-AT 1001」(宇部興産株式会社製、ユピアは登録商標)を用いた点を除き、実施例1と同様に透明基材と、調光装置とを作製した。「ユピア-AT 1001」は、溶媒としてのNMP(N-メチル-2-ピロリドン)中に18質量%の固形分を含む。実施例6で用いた配向層を形成するための塗液は、94重量部のポリアミック酸の固形分と、6重量部の架橋剤と、1200重量部のNMPと、1200重量部のBCSとを含む。
【0062】
(比較例1)
配向層を形成するための塗液が架橋剤を含まない点を除き、実施例1と同様に透明基材と、調光装置とを作製した。比較例1で用いた配向層を形成するための塗液は、100重量部のポリアミック酸の固形分と、1200重量部のNMPと、1200重量部のBCSとを含む。
【0063】
(比較例2)
配向層を形成するための塗液が架橋剤を含まない点を除き、実施例6と同様に透明基材と、調光装置とを作製した。比較例2で用いた配向層を形成するための塗液は、100重量部のポリアミック酸の固形分と、1200重量部のNMPと、1200重量部のBCSとを含む。
【0064】
(参考例1)
比較例1と同様に透明基材を作製した後、透明基材をロール状に捲回する前に配向層の表面に凹凸を形成するナール処理を施した。その後、透明基材をロール状に捲回した後、実施例1と同様に調光装置を作製した。参考例1において、ナール処理によって配向層の表面に形成された凹凸は、ナール処理がされていない配向層の表面が備える凹凸よりも十分に大きい。なお、実施例1~6及び比較例1,2の透明基材において、配向層の表面粗さRaは10nm以下であり、透明支持層の表面粗さRaは20nm以下であった。
【0065】
<試験>
実施例1~6、比較例1,2、及び参考例1の透明基材、及び調光装置について、以下の試験1~3を行った。各試験の評価結果は、図4の表に示す。
【0066】
(試験1)
透明基材が備える配向層の表面について、ISO 14577-1:2015に準拠するナノインデンテーション法による押し込み硬度を測定した。試験機は、微小硬さ試験機ナノインデンター「TI Premier」(ブルカージャパン株式会社製)を用いた。試験条件は、押し込み深さを10nmとして、配向層の表面から垂直にバーコビッチ圧子を押し込んだ。そして、最大押し込み荷重及び接触投影面積から押し込み硬度を算出した。
【0067】
(試験2)
透明基材を7cm角に切断したものを5枚重ねた状態で、ブロッキングテスター(テスター産業株式会社製)を用いて5kg/cmの圧力を付与して2時間静置した。その後、試料中に占めるブロッキングが生じた部分の面積を観察した。ブロッキングが生じた部分の面積が10%未満のものを「〇」とし、10%以上のものを「×」とした。なお、参考例1の場合は、ナール処理によって形成された凹凸形状の少なくとも一部が含まれるように、透明基材を切断した。
【0068】
(試験3)
調光装置に電圧が印加されない透明状態、及び40Vの電圧が印加された不透明状態のそれぞれにおいて、1mあたりの調光シートに含まれる外観上の欠陥の数を目視にて計測した。なお、調光装置における外観上の欠陥とは、例えば、ブロッキングに伴う配向層の剥離に起因する外観不良や、配向層の脆化に伴って透明基材を捲回した際に生じる配向層のクラックに起因する外観不良を含む。1mあたりの調光シートに含まれる外観上の欠陥の数が1個未満のものを「〇」とし、1個以上5個未満のものを「△」とし、5個以上のものを「×」とした。
【0069】
<評価結果>
以下、図4図6を参照して、試験1~3の評価結果について説明する。
(試験1)
図4に示すように、実施例1~6は、配向層の押し込み硬度が0.25GPa以上であった。また、実施例1~4及び実施例6は、配向層の押し込み硬度が1.00GPa未満であった。これに対して、比較例1,2及び参考例1は、配向層の押し込み硬度が0.25GPa未満であった。
【0070】
図5に示すグラフは、実施例1~5、及び比較例1の評価結果であって、架橋剤の添加量(%)と配向層の押し込み硬度(GPa)との関係を示す。図5に示すように、架橋剤の添加量の増加に伴って、配向層の押し込み硬度が増加した。したがって、配向層の押し込み硬度は、架橋剤の添加量を変えることによって制御できることが確認された。
【0071】
(試験2)
図4に戻り、実施例1~6及び参考例1は、ブロッキングが生じた部分の面積が10%未満であった。参考例1では、ナール処理によって形成された配向層の表面の凹凸形状によって、ブロッキングが抑制されたものと考えられる。これに対して、比較例1,2は、ブロッキングが生じた部分の面積が10%以上であった。
【0072】
図6に示すグラフは、実施例1~5、及び比較例1の評価結果であって、配向層の押し込み硬度(GPa)とブロッキングが生じた部分の面積の割合(%)との関係を示す。図6に示すように、配向層の押し込み硬度の増加に伴って、ブロッキングが生じた部分の面積の割合が減少した。特に、配向層の押し込み硬度が0.2GPaから0.25GPaまで増加すると、ブロッキングが生じた部分の面積の割合が大幅に低減した。
【0073】
(試験3)
図4に戻り、実施例1~4,及び実施例6は、透明状態及び不透明状態の何れにおいても、1mあたりの調光シートに含まれる外観上の欠陥が1個未満であった。実施例5は、透明状態及び不透明状態の何れにおいても、1mあたりの調光シートに含まれる外観上の欠陥が1個以上5個未満であった。実施例5において確認された外観上の欠陥は、配向層のクラックに起因する外観不良であった。これは、実施例5の透明基材が備える配向層の硬度が過剰に高められて脆化したことで、透明基材をロール状に捲回した際に配向層にクラックが生じたものと考えられる。
【0074】
これに対して、比較例1,2は、透明状態及び不透明状態の何れにおいても、1mあたりの調光シートに含まれる外観上の欠陥が5個以上であった。実施例5において確認された外観上の欠陥は、配向層の剥離に起因する外観不良であった。これは、比較例1,2の透明基材が備える配向層の硬度が低いことで、ロール状に捲回した透明基材を引き出す際に配向層が透明支持層に対して過剰に密着して剥離したものと考えられる。なお、参考例1は、透明状態及び不透明状態の何れにおいても、1mあたりの調光シートに含まれる外観上の欠陥が1個未満であった。
【0075】
[変更例]
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・第1透明基材32に対してブロッキングを抑制するための前処理が施されない場合であれば、第1面32S1の表面粗さRaが10nm超であってもよいし、第2面32S2の表面粗さRaが20nm超であってもよい。なお、第2透明基材33に対しても同様の変更が可能である。
【0076】
・第1透明基材32をロール状に捲回した際に、第1配向層41Aにクラックが生じないのであれば、第1面32S1のナノインデンテーション法による押し込み硬度が1.00GPa以上であってもよい。例えば、コアCの外径を大きくして第1透明基材32をロール状に捲回する際の最小曲げ半径を大きくすることで、クラックの発生を抑制してもよい。なお、第2透明基材33に対しても同様の変更が可能である。
【0077】
・第1下地層42Aが第1透明電極層43Aと第1透明支持層44Aとを備える構成を例示したが、第1下地層42Aの層構成は、これに限定されない。例えば、第1下地層42Aは、第1透明電極層43A及び第1透明支持層44Aに加えて、さらに、別の機能を有した層を備えてもよい。
【符号の説明】
【0078】
10…調光装置
11…調光ユニット
12…駆動部
21…調光シート
22A…第1電極
22B…第2電極
23A…第1配線
23B…第2配線
31…調光層
32…第1透明基材
32S1…第1面
32S2…第2面
33…第2透明基材
41A…第1配向層
41B…第2配向層
42A…第1下地層
42B…第2下地層
43A…第1透明電極層
43B…第2透明電極層
44A…第1透明支持層
44B…第2透明支持層
【要約】
【課題】ブロッキングを抑制しつつ、製造工程の簡略化が可能な液晶デバイス用透明基材、調光シート、及び、調光装置を提供する。
【解決手段】調光装置10が備える調光層31が含む液晶分子の配向方向を規制する配向層41A,41Bと、配向層41A,41Bが形成される可撓性を有した下地層42A,42Bと、を含む透明基材32,33であって、第1面と、第1面とは反対側の第2面とを備え、第1面は、配向層41A,41Bが備える面であり、第2面は、下地層42A,42Bが備える面であり、配向層41A,41Bは、ポリイミドを含み、第1面に対してナノインデンテーション法で測定された押し込み硬度が0.25GPa以上である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6