(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂基材
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20230511BHJP
C08L 81/06 20060101ALI20230511BHJP
C08L 71/12 20060101ALI20230511BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20230511BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20230511BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
C08L81/06
C08L71/12
C08K7/02
C08L79/08 B
C08L81/02
(21)【出願番号】P 2021509132
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011802
(87)【国際公開番号】W WO2020196109
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2019058157
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大内山 直也
(72)【発明者】
【氏名】越 政之
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 恵寛
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/051404(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/107022(WO,A1)
【文献】特開平08-183867(JP,A)
【文献】特開平07-041577(JP,A)
【文献】特開2003-231813(JP,A)
【文献】特開昭61-126172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04-5/10
C08J 5/24
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08K 7/02
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した強化繊維に、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含浸させてなる繊維強化樹脂基材であって、DMA法(曲げモード)で測定したガラス転移温度が115℃以上を示す繊維強化樹脂基材。
【請求項2】
ASTM D790による成形片の曲げひずみ(恒温槽付きインストロン5565引張試験機を用いて、110℃で測定)が、1.1%以上であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂基材。
【請求項3】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度(オリフィス長さ5mm、オリフィス径0.5mm、温度320℃、剪断速度9,728sec
-1で測定)が120Pa・s以下である請求項1または2に記載の繊維強化樹脂基材。
【請求項4】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂からなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物である請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化樹脂基材。
【請求項5】
前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂の合計を100重量%として、前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が99~60重量%、前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂が1~40重量%からなり、前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂が島相を形成しており、前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂の数平均粒子径が10μm以下である請求項4に記載の繊維強化樹脂基材。
【請求項6】
前記島相を形成する(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂の数平均粒子径が、下記式で表される強化繊維間距離zより小さい請求項5に記載の繊維強化樹脂基材。
z=y-2r
(z:強化繊維間距離、y:強化繊維の中心間距離、r:繊維半径)
【請求項7】
前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂がポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂である請求項4~6のいずれかに記載の繊維強化樹脂基材。
【請求項8】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、さらに(C)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選ばれる1種以上の基を有する化合物を、前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂と前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂の合計100重量部に対し、0.1~10重量部配合してなる請求項4~7のいずれかに記載の繊維強化樹脂基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続した強化繊維に、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸させてなる繊維強化樹脂基材は、軽量効果に優れるだけでなく、熱硬化性樹脂を用いた繊維強化樹脂基材よりも靭性、溶着加工性およびリサイクル性に優れるため航空機や自動車などの輸送機器や、スポーツ・電気・電子部品などの各種用途へ幅広く展開されている。近年、従来CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)中間基材の付加価値であった機械強度、軽量化以外に高耐熱、低吸水、高靭性および成形加工性などの高付加価値も要求されるようになり、航空機、自動車用途を中心に高機能CFRTP中間基材の技術開発が強く求められている。
【0003】
例えば、機械強度、耐熱性、成形加工性に優れた構造用複合材料として、下記の特許文献1~3記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグが知られている。
【0004】
特許文献1には、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すことがある)とポリフェニレンスルフィドスルホン(以下、PPSSと略すことがある)との共重合体とPPSおよびPPSSの少なくとも1種の混合物を炭素繊維に含浸してなる炭素繊維強化樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載されている技術では、ポリフェニレンスルフィドスルホンは耐熱性に優れる一方で、溶融滞留安定性に劣り低靭性ポリマーであるため、炭素繊維への含浸不良が発生し、機械強度が大幅に低下する課題があった。また、本願のPPS樹脂組成物を炭素繊維束へ含浸させた繊維強化樹脂基材のDMA法で測定したガラス転移温度115℃以上を示し、耐熱性、機械強度が大幅に改善されることについて何ら記載されていない。
【0007】
そこで、本発明は含浸性と熱安定性に優れた、ボイドが少なく表面品位、高耐熱性、の繊維強化樹脂基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の繊維強化樹脂基材は次の構成を有する、すなわち、
連続した強化繊維に、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含浸させてなる繊維強化樹脂基材であって、DMA法(曲げモード)で測定したガラス転移温度が115℃以上を示す繊維強化樹脂基材、である。
【0009】
本発明の繊維強化樹脂基材は、ASTM D790による成形片の曲げひずみ(恒温槽付きインストロン5565引張試験機を用いて、110℃で測定)が、1.1%以上であることが好ましい。
【0010】
本発明の繊維強化樹脂基材は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度(オリフィス長さ5mm、オリフィス径0.5mm、温度320℃、剪断速度9,728sec-1)が120Pa・s以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の繊維強化樹脂基材は、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂からなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であることが好ましい。
【0012】
本発明の繊維強化樹脂基材は、前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂と前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂の合計を100重量%として前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が99~60重量%、前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂が1~40重量%からなり、前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂が島相を形成しており、前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂の数平均粒子径が10μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の繊維強化樹脂基材は、前記島相を形成する(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂の数平均粒子径が、下記式で表される強化繊維間距離zより小さいことが好ましい。
【0014】
z=y-2r
(z:強化繊維間距離、y:強化繊維の中心間距離、r:繊維半径)
本発明の繊維強化樹脂基材は、前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂がポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂であることが好ましい。
【0015】
本発明の繊維強化樹脂基材は、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、さらに(C)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選ばれる1種以上の基を有する化合物を、前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂と前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂の合計100重量部に対し、0.1~10重量部配合してなることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、含浸性、熱安定に優れ、ボイドが少なく表面品位が向上し、且つ高耐熱性の繊維強化樹脂基材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1および比較例5の動的粘弾性測定チャート図である。
【
図2】実施例1および比較例5の測定温度と曲げひずみの関係のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明の実施形態の繊維強化樹脂基材は、以下2つの形態のいずれかを得る。第一の形態は、連続した強化繊維に後述のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含浸させてなる繊維強化樹脂基材であり、第二の形態は不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に、後述のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含浸させてなる繊維強化樹脂基材である。
【0019】
本発明の実施形態において、第一の形態における連続した強化繊維とは、繊維強化樹脂基材で当該強化繊維が途切れのないものをいう。本発明の実施形態における強化繊維の形態および配列としては、例えば、一方向に引き揃えられたもの、織物(クロス)、編み物、組み紐、トウ等が挙げられる。中でも特定方向の機械特性を効率よく高められることから、強化繊維が一方向に配列してなることが好ましい。
【0020】
第二の形態における不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材とは、繊維強化樹脂基材中で当該強化繊維が切断され分散されたマット状のものをいう。本発明の実施形態における強化繊維基材は、強化繊維を溶液に分散させた後、シート状に製造する湿式法や、カーディング装置やエアレイド装置を用いた乾式法などの任意の方法により得ることができる。生産性の観点から、カーディング装置やエアレイド装置を用いた乾式法が好ましい。
【0021】
本発明の第二の実施形態において、強化繊維基材中に分散させる不連続の強化繊維の数平均繊維長は、3~100mmが好ましい。不連続の強化繊維の数平均繊維長が3mm以上であれば、不連続の強化繊維による補強効果が十分に奏され、得られる繊維強化樹脂基材の機械強度をより向上させることができる。5mm以上が好ましい。一方、不連続の強化繊維の数平均繊維長が100mm以下であれば、成形時の流動性をより向上させることができる。不連続の強化繊維の数平均繊維長は50mm以下がより好ましく、30mm以下がさらに好ましい。
【0022】
本発明の第二の実施形態において、上記不連続の強化繊維の数平均繊維長は、以下の方法により求めることができる。まず、繊維強化樹脂基材から100mm×100mmのサンプルを切り出し、切り出したサンプルを600℃の電気炉中で1.5時間加熱し、マトリックス樹脂を焼き飛ばす。こうして得られた繊維強化樹脂基材中から、不連続の強化繊維束を無作為に400本採取する。取り出した不連続の強化繊維束について、ノギスを用いて1mm単位で繊維長を測定し、次式により数平均繊維長(Ln)を算出することができる。
【0023】
Ln=ΣLi/400
(Li:測定した繊維長(i=1,2,3,・・・400)(単位:mm))。
【0024】
不連続の強化繊維の数平均繊維長は、強化繊維基材製造時に強化繊維を所望の長さに切断することにより、上記範囲に調整することができる。不連続の強化繊維マットの配向性については特に制限は無いが、成形性の観点からは等方的に分散されている方が好ましい。
【0025】
第一および第二の形態における強化繊維の種類としては特に限定されず、炭素繊維、金属繊維、有機繊維、無機繊維が例示される。これらを2種以上用いてもよい。
【0026】
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、ビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とするセルロース系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられる。これら炭素繊維のうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0027】
金属繊維としては、例えば、鉄、金、銀、銅、アルミニウム、黄銅、ステンレスなどの金属からなる繊維が挙げられる。
【0028】
有機繊維としては、例えば、アラミド、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンなどの有機材料からなる繊維が挙げられる。アラミド繊維としては、例えば、強度や弾性率に優れるパラ系アラミド繊維と、難燃性、長期耐熱性に優れるメタ系アラミド繊維が挙げられる。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維などが挙げられ、メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維などが挙げられる。アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維に比べて弾性率の高いパラ系アラミド繊維が好ましく用いられる。
【0029】
無機繊維としては、例えば、ガラス、バサルト、シリコンカーバイト、シリコンナイトライドなどの無機材料からなる繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス繊維(電気用)、Cガラス繊維(耐食用)、Sガラス繊維、Tガラス繊維(高強度、高弾性率)などが挙げられる。バサルト繊維は、鉱物である玄武岩を繊維化した物で、耐熱性の非常に高い繊維である。玄武岩は、一般的に、鉄の化合物であるFeOまたはFeO2を9~25重量%、チタンの化合物であるTiOまたはTiO2を1~6重量%含有するが、溶融状態でこれらの成分を増量して繊維化することも可能である。
【0030】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化樹脂基材は、補強材としての役目を期待されることが多いため、高い機械特性を発現することが望ましく、高い機械特性を発現するためには、強化繊維が炭素繊維を含むことが好ましい。
【0031】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化樹脂基材において、強化繊維は、通常、多数本の単繊維を束ねた強化繊維束を1本または複数本並べて構成される。1本または複数本の強化繊維束を並べたときの強化繊維の総フィラメント数(単繊維の本数)は、1,000~2,000,000本が好ましい。
【0032】
生産性の観点からは、強化繊維の総フィラメント数は、1,000~1,000,000本がより好ましく、1,000~600,000本がさらに好ましく、1,000~300,000本が特に好ましい。強化繊維の総フィラメント数の上限は、分散性や取り扱い性とのバランスも考慮して、生産性と分散性、取り扱い性を良好に保てるようであれば良い。
【0033】
本発明の第一および第二の形態における1本の強化繊維束は、好ましくは平均直径5~10μmである強化繊維の単繊維を1,000~50,000本束ねて構成される。
【0034】
本発明の第一の形態における繊維強化樹脂基材は、連続した強化繊維に含浸させる熱可塑性樹脂が後述するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であることを特徴とする。また、本発明の第二の形態における繊維強化樹脂基材は、不連続繊維の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸させる熱可塑性樹脂が、後述するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であることを特徴とする。
【0035】
本発明の繊維強化樹脂基材のDMA法(曲げモード)で測定したガラス転移温度は115℃以上であり、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上である。繊維強化樹脂基材のDMA法(曲げモード)で測定したガラス転移温度の好ましい上限としては、240℃であり、より好ましくは230℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。繊維強化樹脂基材のDMA法(曲げモード)で測定したガラス転移温度が115℃未満である場合は、繊維強化基材の高温時の機械物性が低下する傾向があり、また、より優れた耐熱性を有した繊維強化基材が得られない。繊維強化樹脂基材のDMA法(曲げモード)で測定したガラス転移温度上限が上記好ましい範囲の場合には、本発明に用いるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度が適度であるため、強化繊維との含浸性に優れ、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が良好に含浸した繊維強化基材が得られる。
【0036】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含浸してなる繊維強化樹脂基材のガラス転移温度を測定するために、動的粘弾性測定、具体的にはDMA法(曲げモード)を用いることができる。DMA法(曲げモード)は、繊維強化樹脂基材を長さ20mm×幅12mm×厚さ2mmの角柱状に切削加工を行い、測定温度30℃~250℃、昇温速度2℃/分、測定周波数1Hz(正弦波モード)、歪振幅10μm、曲げ試験モードにてセイコーインスツルメント社製DMS6100にて測定可能であり、DMA法(曲げモード)におけるガラス転移温度は、損失正接(tanδ)(=貯蔵弾性率G’/損失弾性率G”)のピーク温度を示す。
【0037】
繊維強化樹脂基材のガラス転移温度を示す一例として、後述する実施例1の(A-1)PPS樹脂90重量%、(B)ポリエーテルイミド樹脂10重量%、(C-1)イソシアネートシラン化合物1.0重量部を含む樹脂組成物および炭素繊維の体積含有率が60%の繊維強化樹脂基材の動的粘弾性測定チャートと、比較例3の(A-1)PPS樹脂100重量%および炭素繊維の体積含有率が60%の繊維強化樹脂基材の動的粘弾性測定チャートとを
図1に併せて示す。
【0038】
図1より、PPS樹脂に由来するガラス転移温度Tg1は、実施例1においては125℃、比較例5においては110℃を示し、また、ポリエーテルイミド樹脂に由来するガラス転移温度Tg2は、実施例1においては190℃を示すことがわかる。
【0039】
本発明の強化繊維束に含浸させるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度の測定装置として、キャピラリーフローメーター((株)東洋精機製作所製、キャピログラフ1C型)を用いて、径0.5mm、長さ5mmのオリフィスにて、温度320℃、せん断速度9,728sec-1の条件で溶融粘度を測定することが可能である。尚、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度は120Pa・s以下であることが好ましく、100Pa・s以下がより好ましく、70Pa・s以下がさらに好ましい。溶融粘度が120Pa・s以下であると、強化繊維束への樹脂含浸に優れ、ボイド率増加に伴う機械強度低下や表面品位低下を有効に防止できる。
【0040】
本発明の繊維強化樹脂基材は高温曲げひずみ特性に優れた繊維強化基材であり、その目安として、ASTM D790による成形片の曲げひずみ(恒温槽付きインストロン5565引張試験機を用いて、110℃で測定)が、1.1%以上であることが好ましく、1.2%以上がより好ましい。上記曲げひずみが上記好ましい範囲の場合、繊維強化基材の耐熱性に優れる。
【0041】
ここで本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂の合計を100重量%として、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が99~60重量%、ならびに(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂が1~40%からなり、(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂成分が島相を形成しており、(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂成分の数平均粒子径が10μm以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であることが好ましい。
【0042】
本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のDMA法(引張モード)で測定したガラス転移温度は110℃以下であるが、本発明の実施形態の繊維強化基材と組合せることで、繊維強化樹脂基材のDMA法(曲げモード)で測定したガラス転移温度が115℃以上となり、高耐熱化を発現することができる。そのため、ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPSと略すことがある)の基本特性(耐薬品性、難燃性、絶縁性)を損なうことなく、耐熱性を大幅に改良した繊維強化樹脂基材を提供することが可能である。理由は現時点で定かではないが、強化繊維束の一定の繊維間距離にPPS樹脂組成物が含浸し、海相を(A)PPS樹脂、島相を(B)ガラス転移温度100℃以上の熱可塑性樹脂とする緻密な海島構造が各繊維間に存在し、かつ樹脂と繊維の界面密着性が大幅に改善したことで、連続繊維強化樹脂基材としての耐熱性が飛躍的に向上したものと考えられる。
【0043】
本発明の実施形態における(A)PPS樹脂は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、耐熱性の観点からは下記構造式(I)で示される繰り返し単位を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。
【0044】
【0045】
また、(A)PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0046】
【0047】
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形性の点で有利となる。
【0048】
本発明で用いられる(A)PPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、より優れた靭性を得る意味からその溶融粘度は高い方が好ましい。例えば80Pa・s(310℃、剪断速度1,000sec-1)を越える範囲が好ましく、100Pa・s以上がさらに好ましく、150Pa・s以上がさらに好ましい。上限については溶融流動性保持の点から600Pa・s以下であることが好ましい。
【0049】
なお、本発明における(A)PPS樹脂の溶融粘度は、310℃、剪断速度1,000sec-1の条件下、東洋精機社製キャピログラフを用いて測定した値である。
【0050】
以下に、本発明に用いる(A)PPS樹脂の製造方法の例について説明するが、上記構造の(A)PPS樹脂が得られる限りにおいて下記方法に限定されることを意図するものではない。
【0051】
まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0052】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp-ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p-ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0053】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度の(A)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0054】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0055】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0056】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0057】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0058】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0059】
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0060】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0061】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0062】
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記することがある)が好ましく用いられる。
【0063】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選ばれる。
【0064】
[分子量調節剤]
生成する(A)PPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0065】
[重合助剤]
比較的高重合度の(A)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい形態の一つである。ここで重合助剤とは得られる(A)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
【0066】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1~20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0067】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0068】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル~2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1~0.6モルの範囲が好ましく、0.2~0.5モルの範囲がより好ましい。
【0069】
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル~15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6~10モルの範囲が好ましく、1~5モルの範囲がより好ましい。
【0070】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
【0071】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0072】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0073】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02~0.2モル、より好ましくは0.03~0.1モル、さらに好ましくは0.04~0.09モルの割合で使用することが好ましい。この好ましい割合であると安定化効果が十分であり、ポリマー収率が低下することもない。
【0074】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
【0075】
次に、本発明に用いる(A)PPS樹脂の製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明する。
【0076】
[前工程]
(A)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0077】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180~260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0078】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3~10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0079】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(A)PPS樹脂を製造する。
【0080】
重合反応工程を開始するに際しては、好ましくは不活性ガス雰囲気下で、好ましくは常温~240℃、より好ましくは100~230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0081】
かかる混合物を通常200℃~290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01~5℃/分の速度が選択され、0.1~3℃/分の範囲がより好ましい。
【0082】
一般に、最終的には250~290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25~50時間、好ましくは0.5~20時間反応させる。
【0083】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃~260℃で一定時間反応させた後、270~290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃~260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25~10時間の範囲が選ばれる。
【0084】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0085】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(以下、PHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)-PHA過剰量(モル)〕
(b)上記(a)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕
[回収工程]
(A)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。(A)PPS樹脂は、公知の如何なる回収方法を採用しても良い。
【0086】
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いても良い。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1~1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
【0087】
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm2以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃~250℃の範囲が選ばれる。
【0088】
[後処理工程]
(A)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄を施されたものであってもよい。
【0089】
酸処理を行う場合の好ましい条件は次のとおりである。(A)PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、(A)PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられる。硝酸のような(A)PPS樹脂を分解、劣化させるものは避けるべきである。
【0090】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に(A)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、PH4の水溶液を80~200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のPHは4以上例えばPH4~8程度となっても良い。酸処理を施された(A)PPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理による(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0091】
熱水処理を行う場合の好ましい条件は次のとおりである。(A)PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。上記好ましい熱水の温度とすると(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の十分な効果が得られる。
【0092】
熱水洗浄による(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量の(A)PPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。(A)PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、(A)PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
【0093】
また、処理の雰囲気は、末端基の分解を回避するため不活性雰囲気下とすることが好ましい。さらに、この熱水処理操作を終えた(A)PPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0094】
有機溶媒で洗浄する場合の好ましい条件は次のとおりである。(A)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、(A)PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0095】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中に(A)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒で(A)PPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温~300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温~150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0096】
(A)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0097】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160~260℃が好ましく、170~250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5~100時間が好ましく、1~50時間がより好ましく、2~25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0098】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことが可能である。その温度は130~250℃が好ましく、160~250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが好ましい。処理時間は、0.5~50時間が好ましく、1~20時間がより好ましく、1~10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0099】
但し、(A)PPS樹脂は、靭性の目標を達成するために、熱酸化架橋処理による高分子量化を行わないこと、すなわち、実質的に直鎖状のPPSであることが好ましい。
【0100】
本発明の実施形態における(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂は、特に種類に制限はないが、ポリイミド、ポリアリールケトン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリスルフォン、ポリアミドイミド、液晶ポリマーが好ましく用いられ、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテルといった非晶性樹脂がさらに好ましく用いられ、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンが特に好ましく用いられる。
【0101】
本発明において前記(A)、(B)成分におけるガラス転移温度は、融解温度擬似等温法にて求めることができる。融解温度擬似等温法では温度変調DSC(TA:インスツールメント社製)を用いて、JIS K 7121に準拠してガラス転移温度を下記式により算出した。
【0102】
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)
[ポリエーテルイミド樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂]
本発明において用いるポリエーテルイミド樹脂とは、繰り返し骨格中に、イミド結合とエーテル結合を有する樹脂である。代表的な構造として下記を例示できる。
【0103】
【0104】
一般に“ウルテム”(登録商標)の商標でゼネラル・エレクトリック社から市販されている。
【0105】
本発明において用いるポリエーテルスルホン樹脂とは、繰り返し骨格中に、スルホン結合とエーテル結合を有する樹脂である。代表的な構造として下記を例示できる。
【0106】
【0107】
一般に“ビクトレックス”(登録商標)PES、“スミカエクセル”(登録商標)の商標で市販されている。
【0108】
ポリエーテルイミド樹脂とポリエーテルスルホン樹脂を比較すると、ポリエーテルイミド樹脂の方が、より少量で高い靱性を発現させ得るため好ましい。
【0109】
本発明における(A)PPS樹脂と(B)ガラス転移温度100℃以上の熱可塑性樹脂の配合割合は、(A)/(B)=99~60重量%/1~40重量%の範囲が好ましく、(A)/(B)=97~70重量%/3~30重量%の範囲がより好ましく、(A)/(B)=95~80重量%/5~20重量%の範囲がさらに好ましい。(A)/(B)が上記好ましい範囲であると、靱性向上効果に優れ、一方、溶融流動性にも優れる。
【0110】
本発明において用いるPPS樹脂組成物は、(A)PPS樹脂が本来有する優れた耐熱性、耐薬品性、バリア性とともに、優れた靭性を有するものである。かかる特性を発現させるためには、(A)PPS樹脂が海相(連続相あるいはマトリックス)を形成し、(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂が島相(分散相)を形成することが好ましい。さらに、(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂成分の数平均分散粒子径が10μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以下、更には500nm以下が好ましい。(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂成分の数平均分散粒子径の下限としては生産性の点から1nm以上であることが好ましい。(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂成分の数平均分散粒子径が10μmを越える範囲であると、靱性向上効果が著しく損なわれるため好ましくない。(A)PPS樹脂が連続相を形成することにより(A)PPS樹脂の耐薬品性、難燃性の優れた特性を得られる組成物の特性に大きく反映させることができる。
【0111】
なおここでいう平均分散径は、(A)PPS樹脂の融解ピーク温度+20℃の成形温度でASTM4号試験片を成形し、その中心部から-20℃にて0.1μm以下の薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、日立製作所製H-7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50~60万倍)にて、1万~2万倍に拡大して観察した際の任意の100個の、(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂の分散部分について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値をその分散粒子径とし、その後それらの平均値を求めた数平均分散粒子径である。
【0112】
(C)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選ばれる一種以上の基を有する化合物
本発明では樹脂と強化繊維との界面接着性をさらに向上させることを目的として、(C)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選ばれる一種以上の基を有する化合物を、相溶化剤として添加することが好ましい。
【0113】
エポキシ基含有化合物としてはビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ-ジフェニルジメチルメタン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、1,5-ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5,-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビスフェノール類のグリシジルエーテル、ビスフェノールの替わりにハロゲン化ビスフェノールを用いたもの、ブタンジオールのジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系化合物、N-グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系化合物等々のグリシジルエポキシ樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、エポキシ化大豆油等の線状エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の環状系の非グリシジルエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0114】
またその他ノボラック型エポキシ樹脂も挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂はエポキシ基を2個以上有し、通常ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて得られるものである。また、ノボラック型フェノール樹脂はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる。原料のフェノール類としては特に制限はないがフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、ビスフェノールA、レゾルシノール、p-ターシャリーブチルフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールSおよびこれらの縮合物が挙げられる。
【0115】
アミノ基含有化合物としてはアミノ基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0116】
イソシアネート基を1個以上含む化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,5-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートなどのイソシアネート化合物やγ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物を例示することができる。
【0117】
中でも樹脂と強化繊維との界面接着性を飛躍的に向上させるために、イソシアネート基を1個以上含む化合物またはエポキシ基を2個以上含む化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましく、さらにイソシアネート基を1個以上含む化合物であることがより好ましい。
【0118】
これら(C)成分の配合量は、(A)PPS樹脂と前記(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂の合計100重量部に対し、0.05~10重量部の範囲であり、0.1~5重量部の範囲が好ましく、0.2~3重量部の範囲がより好ましい。
【0119】
本発明の繊維強化樹脂基材において、前記の海島構造を形成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中の島相を形成する(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂成分の数平均分散粒子径が下記式で表される強化繊維間距離より小さくすることで、本発明の繊維強化樹脂基材の耐熱性を飛躍的に向上させることが可能である。
【0120】
z=y-2r
(z:強化繊維間距離、y:強化繊維の中心間距離、r:繊維半径)
本発明で強化繊維束に含浸するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は通常溶融混練によって得られる。溶融混練機は、単軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に供給して樹脂組成物の融解ピーク温度+5~100℃の加工温度の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。この際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、単軸押出機あるいは2軸押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形することも勿論可能である。
【0121】
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、(3,9-ビス[2-(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)などの様なフェノール系酸化防止剤、(ビス(2,4-ジ-クミルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト)などのようなリン系酸化防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の20重量%を越えると、樹脂本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、更に好ましくは1重量%以下の添加がよい。
【0122】
本発明の実施形態の繊維強化樹脂基材は、連続した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させることにより得ることができる(第一の形態)。または不連続繊維の強化繊維が分散した強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸させることにより得ることができる(第二の形態)。
【0123】
第一の形態における、連続した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させる方法としては、例えば、フィルム状の熱可塑性樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させるフィルム法、繊維状の熱可塑性樹脂と強化繊維束とを混紡した後、繊維状の熱可塑性樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させるコミングル法、粉末状の熱可塑性樹脂を強化繊維束における繊維の隙間に分散させた後、粉末状の熱可塑性樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させる粉末法、溶融した熱可塑性樹脂中に強化繊維束を浸し、加圧することで強化繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させる引き抜き法が挙げられる。様々な厚み、繊維体積含有率など多品種の繊維強化樹脂基材を作製できることから、引き抜き法が好ましい。
【0124】
本発明の第一の形態における繊維強化樹脂基材の厚さは、0.1~10mmが好ましい。厚さが0.1mm以上であれば、繊維強化樹脂基材を用いて得られる成形品の強度を向上させることができる。0.2mm以上がより好ましい。一方、厚さが1.5mm以下であれば、強化繊維に熱可塑性樹脂をより含浸させやすい。1mm以下がより好ましく、0.7mm以下がさらに好ましく、0.6mm以下がさらに好ましい。
【0125】
また、本発明の第一の形態における、繊維強化樹脂基材の体積含有率は20~70体積%が好ましい。言い換えると、繊維強化樹脂基材全体(100体積%)に対して、強化繊維を20~70体積%(20体積%以上70体積%以下)含有することが好ましい。強化繊維を20体積%以上含有することにより、繊維強化樹脂基材を用いて得られる成形品の強度をより向上させることができる。30体積%以上がより好ましく、40体積%以上がさらに好ましい。一方、強化繊維を70体積%以下含有することにより、強化繊維に熱可塑性樹脂をより含浸させやすい。60体積%以下がより好ましく、55体積%以下がさらに好ましい。体積含有率は強化繊維と熱可塑性樹脂の投入量を調整することにより、所望の範囲に調整することが可能である。
【0126】
繊維強化樹脂基材における強化繊維の体積含有率(Vf)は、繊維強化樹脂基材の質量W0を測定したのち、該繊維強化樹脂基材を空気中50℃で240分間加熱して熱可塑樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量W1を測定し、次式(i)により算出することができる。
【0127】
Vf(体積%)=(W1/ρf)/{W1/ρf+(W0-W1)/ρr}×100 (i)
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:熱可塑性樹脂の密度(g/cm3)
また、本発明の実施形態の繊維強化樹脂基材は、その用法や目的に応じて、所望の含浸性を選択することができる。例えば、より含浸性を高めたプリプレグや、半含浸のセミプレグ、含浸性の低いファブリックなどが挙げられる。一般的に、含浸性の高い成形材料ほど、短時間の成形で力学特性に優れる成形品が得られるため好ましい。
【0128】
本発明の第二の形態における、不連続繊維が分散した強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸させる方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を押出機により供給して強化繊維基材に含浸させる方法、粉末の熱可塑性樹脂を強化繊維基材の繊維層に分散し溶融させる方法、熱可塑性樹脂をフィルム化して強化繊維基材とラミネートする方法、熱可塑性樹脂を溶剤に溶かし溶液の状態で強化繊維基材に含浸させた後に溶剤を揮発させる方法、熱可塑性樹脂を繊維化して不連続繊維との混合糸にする方法、熱可塑性樹脂の前駆体を強化繊維基材に含浸させた後に重合させて熱可塑性樹脂にする方法、メルトブロー不織布を用いてラミネートする方法などが挙げられる。いずれの方法を用いてもよいが、熱可塑性樹脂を押出機により供給して強化繊維基材に含浸させる方法は、熱可塑性樹脂を2次加工する必要がないという利点があり、粉末の熱可塑性樹脂を強化繊維基材の繊維層に分散し溶融させる方法は、含浸がしやすいという利点があり、熱可塑性樹脂をフィルム化して強化繊維基材とラミネートする方法は、比較的品質の良いものが得られるという利点がある。
【0129】
本発明の第二の形態における繊維強化樹脂基材の厚さは、0.1~10mmが好ましい。厚さが0.1mm以上であれば、繊維強化樹脂基材を用いて得られる成形品の強度を向上させることができる。1mm以上がより好ましい。一方、厚さが10mm以下であれば、強化繊維に熱可塑性樹脂をより含浸させやすい。7mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましい。
【0130】
また、本発明の第二の形態における繊維強化樹脂基材の体積含有率は20~70体積%が好ましい。言い換えると、繊維強化樹脂基材全体(100体積%)中、不連続繊維を20体積%以上70体積%以下含有することが好ましい。不連続繊維を20体積%以上含有することにより、繊維強化樹脂基材を用いて得られる成形品の強度をより向上させることができる。30体積%以上がより好ましい。一方、不連続繊維を70体積%以下含有することにより、不連続繊維に熱可塑性樹脂をより含浸させやすい。60体積%以下がより好ましく、50体積%以下がさらに好ましい。前記体積含有率(Vf)は、前記した式(i)により算出することができる。
【0131】
また、本発明の第二の形態における繊維強化樹脂基材は、その用法や目的に応じて、所望の含浸性を選択することができる。一般的に、含浸性の高い成形材料ほど、短時間の成形で力学特性に優れる成形品が得られるため好ましい。
【0132】
本発明の第二の形態における繊維強化樹脂基材を製造するに際し、前記繊維強化樹脂基材を所望の厚みや体積含有率に調整する方法としてはプレス機を用いて加熱加圧する方法が挙げられる。プレス機としては、熱可塑性樹脂の含浸に必要な温度、圧力を実現できるものであれば特に制限はなく、上下する平面状のプラテンを有する通常のプレス機や、1対のエンドレススチールベルトが走行する機構を有するいわゆるダブルベルトプレス機を用いることができる。
【0133】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化樹脂基材を、任意の構成で1枚以上積層後、必要に応じて熱および/または圧力を付与しながら成形することにより成形品が得られる。
【0134】
熱および/または圧力を付与する方法としては、例えば、任意の構成で積層した繊維強化樹脂基材を型内もしくはプレス板上に設置した後、型もしくはプレス板を閉じて加圧するプレス成形法、任意の構成で積層した成形材料をオートクレーブ内に投入して加圧・加熱するオートクレーブ成形法、任意の構成で積層した繊維強化樹脂基材をフィルムなどで包み込み、内部を減圧にして大気圧で加圧しながらオーブン中で加熱するバッギング成形法、任意の構成で積層した繊維強化樹脂基材に張力をかけながらテープを巻き付け、オーブン内で加熱するラッピングテープ法、任意の構成で積層した繊維強化末端変性ポリアミド樹脂を型内に設置し、同じく型内に設置した中子内に気体や液体などを注入して加圧する内圧成形法等が挙げられる。とりわけ、得られる成形品内のボイドが少なく、外観品位にも優れる成形品が得られることから、金型を用いてプレスする成形方法が好ましく用いられる。
【0135】
プレス成形法としては、繊維強化樹脂基材を型内に予め配置しておき、型締めとともに加圧、加熱を行い、次いで型締めを行ったまま、金型の冷却により繊維強化樹脂基材の冷却を行って成形品を得るホットプレス法や、予め繊維強化樹脂基材を熱可塑性樹脂の溶融温度以上に、遠赤外線ヒーター、加熱板、高温オーブン、誘電加熱などの加熱装置で加熱し、熱可塑性樹脂を溶融・軟化させた状態で、前記成形型の下面となる型の上に配置し、次いで型を閉じて型締めを行い、その後に加圧冷却する方法であるスタンピング成形を採用することができる。プレス成形方法については特に制限はないが、成形サイクルを早めて生産性を高める観点からは、スタンピング成形であることが好ましい。
【0136】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化樹脂基材および成形品は、インサート成形、アウトサート成形などの一体化成形や、加熱による矯正処置、熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの生産性に優れた接着工法や接着剤を用いた一体化を行うことができ、複合体を得ることができる。
【0137】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化樹脂基材と、熱可塑性樹脂を含む成形品とが少なくとも一部で接合された複合成形品が好ましい。
【0138】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化樹脂基材と一体化される熱可塑性樹脂を含む成形品(成形用基材および成形品)には特に制限はなく、例えば、樹脂材料および成形品、金属材料および成形品、無機材料および成形品などが挙げられる。なかでも、樹脂材料および成形品が、本発明における繊維強化熱可塑性樹脂との接着強度の点で好ましい。
【0139】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化樹脂基材と一体化される成形材料および成形品のマトリックス樹脂は、繊維強化樹脂基材およびその成形品と同種の樹脂であってもよいし、異種の樹脂であってもよい。接着強度をより高めるためには、同種の樹脂であることが好ましい。異種の樹脂である場合は、界面に樹脂層を設けるとより好適である。
【実施例】
【0140】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。各実施例および比較例における物性評価は下記の方法により実施した。
【0141】
[体積含有率(Vf)]
各実施例および比較例により得られた繊維強化樹脂基材の質量W0を測定したのち、該繊維強化樹脂基材を空気中550℃で240分加熱して、樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量W1を測定し、下記式(i)により繊維強化樹脂基材の体積含有率(Vf)を算出した。
【0142】
Vf(体積%)=(W1/ρf)/{W1/ρf+(W0-W1)/ρr}×100 (i)
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:樹脂組成物の密度(g/cm3)
[ポリマー分子量測定]
本発明に用いる(A)PPS樹脂の分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
・装置:(株)センシュー科学製超高温GPC装置SSC-7100
・カラム名:(株)センシュー科学製カラムGPC3506
・溶離液:1-クロロナフタレン
・検出器:示差屈折率検出器
・カラム温度:210℃
・プレ恒温槽温度:250℃
・ポンプ恒温槽温度:50℃
・検出器温度:210℃
・流量:1.0mL/min
・試料注入量:300μL (サンプル濃度:約0.2重量%)
[ポリマー流動性(溶融粘度)]
各実施例および比較例により得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を、100℃真空乾燥器中で12時間以上乾燥した。溶融粘度の測定装置として、キャピラリーフローメーター((株)東洋精機製作所製、キャピログラフ1C型)を用いて、径0.5mm、長さ5mmのオリフィスにて、320℃、せん断速度9,728sec-1の条件で溶融粘度(滞留前溶融粘度)を測定した。ただし、該樹脂組成物を溶融させるため、5分間滞留させた後に測定を行った。この溶融粘度の値が小さいほど、高い流動性を有することを示す。
【0143】
[ポリマー耐熱性:DMA法(引張モード)]
各実施例および比較例より得られた樹脂組成物ペレットを融点+60℃の加工温度にて幅8mm×長さ40mm×厚み0.1mmのプレスフィルム試料を作成し、セイコーインスツルメンツ(株)製動的粘弾性測定装置(DMS6100)を用いて、下記測定条件にて貯蔵弾性率と損失弾性率を測定した後、損失正接(tanδ)(=損失弾性率/貯蔵弾性率)を求めた。次いで、各測定温度と損失正接のグラフを作成し、このグラフにおいてピークを示す温度をガラス転移温度とした。尚、このガラス転移温度が高いほどポリマー耐熱性に優れるといえる。
・測定モード:引張モード
・温度条件:第1ステップ50℃×2分保持、第2ステップ30℃→250℃まで昇温
・昇温速度:2℃/min
・測定周波数:1Hz
・最小張力:200mN
・歪振幅:10μm
・張力ゲイン:1.5
・力振幅初期値:2,000mN
[コンポジット品耐熱性:DMA法(曲げモード)]
各実施例および比較例より得られた繊維強化樹脂基材(幅50mm×厚み0.08mm、一方向基材)を厚み2mmになるように0°方向に積層・プレス成形することで繊維強化樹脂成形品を得た。この成形品から幅12mm×長さ20mm×厚み2mmの角柱形状に切削加工して試料とし、セイコーインスツルメンツ(株)製動的粘弾性測定装置(DMS6100)を用いて、下記測定条件にて貯蔵弾性率と損失弾性率を測定した後、損失正接(tanδ)(=損失弾性率/貯蔵弾性率)を求めた。次いで、各測定温度と損失正接のグラフを作成し、このグラフにおいてピークを示す温度をガラス転移温度とした。尚、このガラス転移温度が高いほどコンポジット品が耐熱性に優れるといえる。
・測定モード:曲げモード
・温度条件:第1ステップ50℃×2分保持、第2ステップ30℃→250℃まで昇温
・昇温速度:2℃/min
・測定周波数:1Hz
・最小張力:200mN
・歪振幅:10μm
・張力/圧縮力ゲイン:1.5
・力振幅初期値:2,000mN
[コンポジット品力学特性(引張試験)]
各実施例および比較例より得られた繊維強化樹脂基材(幅50mm×厚み0.08mm、一方向基材)を厚み1.0mm×幅100mm×長さ250mmになるよう0°方向に積層・プレス成形して繊維強化樹脂成形品を得た。この成形品から引張試験測定用に幅15mm×長さ125mm×厚み1.0mmの長方形状に切削加工して試料とし、ASTM D3039により引張試験(各n=5)を実施した。尚、この引張強度、引張伸びの数値が大きいほど力学特性に優れたコンポジット材料といえる。
【0144】
[コンポジット品力学特性(曲げ試験)]
各実施例および比較例より得られた繊維強化樹脂基材(幅50mm×厚み0.08mm、一方向基材)を厚み2.0mm×幅100mm×長さ250mmになるよう0°方向に積層・プレス成形して繊維強化樹脂成形品を得た。この成形品から曲げ試験測定用に幅15mm×長さ125mm×厚み2.0mmの長方形状に切削加工して試料とし、ASTM D790により曲げ試験(各n=5)を実施した。尚、この曲げ強度、曲げ弾性率の数値が大きいほど力学特性に優れたコンポジット材料といえる。
【0145】
[コンポジット品耐熱性(高温曲げ試験)]
各実施例および比較例より得られた繊維強化樹脂基材(幅50mm×厚み0.08mm、一方向基材)を厚み2.0mm×幅100mm×長さ250mmになるよう0°方向に積層・プレス成形して繊維強化樹脂成形品を得た。この成形品から曲げ試験測定用に幅15mm×長さ125mm×厚み2.0mmの長方形状に切削加工して試料とし、恒温槽付きインストロン5565にて、ASTM D790により温度23℃、90℃、110℃、120℃の曲げ試験(各n=5)を実施した。尚、この曲げ弾性率の数値が大きいほど高温時剛性に優れたコンポジット材料といえる。
【0146】
[含浸性および熱安定性]
各実施例および比較例により得られた繊維強化樹脂基材の厚み方向断面を以下のように観察した。繊維強化樹脂基材をエポキシ樹脂で包埋したサンプルを用意し、繊維強化樹脂基材の厚み方向断面が良好に観察できるようになるまで、前記サンプルを研磨した。研磨した試料を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VHX-9500(コントローラー部)/VHZ-100R(測定部)((株)キーエンス製)を使用して、拡大倍率400倍で撮影した。撮影範囲は、繊維強化樹脂基材の厚み×幅500μmの範囲とした。撮影画像において、樹脂が占める部位の面積および空隙(ボイド)となっている部位の面積を求め、次式により含浸率を算出した。
【0147】
含浸率(%)=100×(樹脂が占める部位の総面積)/{(樹脂が占める部位の総面積)+(空隙となっている部位の総面積)}
含浸性および熱安定性が高い場合はボイドが低減され、含浸性または熱安定性の少なくとも一方が低い場合はボイドが増加することから、繊維強化樹脂基材の含浸性および熱安定性は、この含浸率を判断基準とし、以下の2段階で評価し、良を合格とした。第一の形態における繊維強化樹脂基材は、融点+60℃、100℃の加工温度にて製造した。第二の形態における繊維強化樹脂基材は、融点+60℃、100℃の加工温度にて製造した。
【0148】
良:含浸率が98%以上である。
【0149】
不良:含浸率が98%未満である。
【0150】
[表面品位]
各実施例および比較例により得られた繊維強化樹脂基材の表面品位を目視により観察した。表面品位は、以下の2段階で評価し、良を合格とした。
【0151】
良:表面にわれ、マトリックス樹脂の変色、強化繊維の露出なし
不良:表面にわれ、マトリックス樹脂の変色、強化繊維の露出有り
第一の形態における繊維強化樹脂基材は、融点+60℃、100℃の加工温度にて製造した。第二の形態における繊維強化樹脂基材は、融点+60℃、100℃の加工温度にて製造した。
【0152】
〔原料〕
実施例及び比較例において、原料は以下に示すものを用いた。
【0153】
<参考例1>(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂
<ポリフェニレンスルフィド(A-1)製造>
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8,267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2,957.21g(70.97モル)、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMP)11,434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2,583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10,500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14,780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0154】
次に、p-ジクロロベンゼン10,235.46g(69.63モル)、NMP9,009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0155】
内容物を取り出し、26,300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80メッシュ)で濾別し、得られた粒子を31,900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56,000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70,000gで洗浄、濾別した。70,000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPSのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は73,000であり分散度は2.80であった。
【0156】
<ポリフェニレンスルフィド(A-2)製造>
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、NMP11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.1モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.77kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0157】
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン10.42kg(70.86モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.40kg(133モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
【0158】
内容物を約35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。得られた乾燥PPS樹脂は1-クロロナフタレンに210℃で全溶であり、GPC測定を行った結果、重量平均分子量は48,600であり、分散度は2.66であった。
【0159】
<参考例2>(B)ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂
ポリエーテルイミド(以下、PEI):“ウルテム”(登録商標)1000、GE社製、ガラス転移温度220℃
ポリエーテルスルホン(PES):“スミカエクセル”(登録商標)3600G、住友化学(株)製、ガラス転移温度225℃
変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE):“ユピエース”(登録商標)YPX100L、三菱ケミカル(株)製、ガラス転移温度211℃
<参考例3>(C)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選ばれる1種以上の基を有する化合物
(C-1)3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン:KBE9007、信越化学工業(株)製
(C-2)2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン:KBM303、信越化学工業(株)製
(C-3)3-アミノプロピルトリエトキシシラン:KBE-903、信越化学工業(株)製
<参考例4>炭素繊維束
(CF-1):炭素繊維束(東レ(株)製、品名T700S-12K)
〔実施例1~7、比較例1~6(樹脂組成物ペレット製造方法)〕
表1に示す炭素繊維束以外の各原料を、表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した(株)日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(スクリュー径30mm、L/D=45、ニーディング部5箇所、同方向回転完全噛み合い型スクリュー)を用い、スクリュー回転数300rpm、吐出量20Kg/hrにて、ダイス出樹脂温度が300℃となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化し、前記評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0160】
〔実施例1~7、比較例4~6(繊維強化樹脂基材製造方法)〕
炭素繊維束が巻かれたボビンを16本準備し、それぞれボビンから連続的に糸道ガイドを通じて炭素繊維束を送り出した。連続的に送り出された炭素繊維束に、含浸ダイ内において、充填したフィーダーから定量供給された、前述の方法により得られた樹脂組成物を含浸させた。含浸ダイ内で樹脂組成物を含浸した炭素繊維を、引取ロールを用いて含浸ダイのノズルから1m/minの引き抜き速度で連続的に引き抜いた。炭素繊維を引き抜く際の温度を加工温度という。引き抜かれた炭素繊維束は、冷却ロールを通過して樹脂組成物が冷却固化され、連続した繊維強化樹脂基材として巻取機に巻き取られた。得られた繊維強化樹脂基材の厚さは0.08mm、幅は50mmであり、強化繊維方向は一方向に配列し、体積含有率が60%の繊維強化樹脂基材を得た。得られた繊維強化樹脂基材を前記評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0161】
【0162】
実施例1~7と比較例1~6の結果を比較して説明する。
【0163】
実施例1は(CF-1)を含有しない比較例1に対して、ポリマー耐熱性は同等レベルガラス転移温度Tg1=110℃であったが、コンポジット品ではTg1=125℃まで大幅に向上し、耐熱性が顕著に改良される結果となった。また、
図1および2より、(B)成分のPEIを含まない比較例5は、コンポジット品のTg1が125℃から110℃まで低下し、110℃の曲げひずみが1.1%から0.7%に低下し、耐熱性が損なわれる結果となった。また、実施例1に対して(C-1)成分を含まない比較例6は、実施例1と比較してコンポジット品のTg1が125℃から110℃に低下し、含浸不良や表面品位が低下することから、本発明のPPS樹脂組成物を含浸してなる繊維強化樹脂基材には(B)成分、(C)成分が含有されないと改良効果が十分に発現しないことがわかる。
【0164】
さらに、実施例1に対して、(B)成分をPEI以外に変更した実施例3,4および(C)成分を(C-1)以外に変更した実施例5,6は、いずれも実施例1同様に優れた耐熱性、機械強度を有するコンポジット材料であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化樹脂基材およびその成形品は、その優れた特性を活かし、航空機部品、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。本発明の実施形態の繊維強化樹脂基材およびその成形品は、とりわけ、含浸性、耐熱老化性、表面外観が要求される航空機エンジン周辺部品、航空機用部品外装部品、自動車ボディー部品車両骨格、自動車エンジン周辺部品、自動車アンダーフード部品、自動車ギア部品、自動車内装部品、自動車外装部品、吸排気系部品、エンジン冷却水系部品や、自動車電装部品、電気・電子部品用途に特に好ましく用いられる。具体的には、本発明の実施形態の繊維強化樹脂およびその成形品は、ファンブレードなどの航空機エンジン周辺部品、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、各種シート、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジなどの自動車ボディー部品、エンジンカバー、エアインテークパイプ、タイミングベルトカバー、インテークマニホールド、フィラーキャップ、スロットルボディ、クーリングファンなどの自動車エンジン周辺部品、クーリングファン、ラジエータータンクのトップおよびベース、シリンダーヘッドカバー、オイルパン、ブレーキ配管、燃料配管用チューブ、廃ガス系統部品などの自動車アンダーフード部品、ギア、アクチュエーター、ベアリングリテーナー、ベアリングケージ、チェーンガイド、チェーンテンショナなどの自動車ギア部品、シフトレバーブラケット、ステアリングロックブラケット、キーシリンダー、ドアインナーハンドル、ドアハンドルカウル、室内ミラーブラケット、エアコンスイッチ、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、グローブボックス、ステアリングホイール、トリムなどの自動車内装部品、フロントフェンダー、リアフェンダー、フューエルリッド、ドアパネル、シリンダーヘッドカバー、ドアミラーステイ、テールゲートパネル、ライセンスガーニッシュ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、リアガーニッシュ、リアスポイラー、トランクリッド、ロッカーモール、モール、ランプハウジング、フロントグリル、マッドガード、サイドバンパーなどの自動車外装部品、エアインテークマニホールド、インタークーラーインレット、ターボチャージャ、エキゾーストパイプカバー、インナーブッシュ、ベアリングリテーナー、エンジンマウント、エンジンヘッドカバー、リゾネーター、及びスロットルボディなどの吸排気系部品、チェーンカバー、サーモスタットハウジング、アウトレットパイプ、ラジエータータンク、オイルネーター、及びデリバリーパイプなどのエンジン冷却水系部品、コネクタやワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、ランプソケット、センサー車載スイッチ、コンビネーションスイッチなどの自動車電装部品、電気・電子部品としては、例えば、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、抵抗器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、スイッチ、ナイフスイッチ、他極ロッド、モーターケース、テレビハウジング、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジングおよび内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、ICやLED対応ハウジング、コンデンサー座板、ヒューズホルダー、各種ギヤー、各種ケース、キャビネットなどの電気部品、コネクタ、SMT対応のコネクタ、カードコネクタ、ジャック、コイル、コイルボビン、センサー、LEDランプ、ソケット、抵抗器、リレー、リレーケース、リフレクタ、小型スイッチ、電源部品、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップシャーシ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、SiパワーモジュールやSiCパワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などの電子部品などに好ましく用いられる。