IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

特許7276439マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置
<>
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図1
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図2
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図3
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図4
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図5
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図6
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図7
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図8
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図9
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図10
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図11
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図12
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図13
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図14
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図15
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図16
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図17
  • 特許-マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20230511BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20230511BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
G01N27/447 331E
G01N27/447 331G
G01N35/10 F
G01N35/10 K
G01N37/00 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021520040
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2020000838
(87)【国際公開番号】W WO2020235129
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2019093668
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 英郷
(72)【発明者】
【氏名】荒井 昭博
(72)【発明者】
【氏名】原田 亨
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-047457(JP,A)
【文献】特開2012-251821(JP,A)
【文献】特開平07-181161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0238444(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
G01N 35/10
G01N 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロチップでの電気泳動分離による分析工程を繰り返すことにより、複数のサンプルを順番に分析するステップと、
前記マイクロチップの洗浄工程を実行するステップと、
複数回の前記分析工程の間の任意のタイミングに前記マイクロチップの洗浄工程のタイミングを設定するステップと、
複数回の前記分析工程の間の任意のタイミングに前記マイクロチップの電気泳動分離能力を評価するステップとを備え、
前記洗浄工程のタイミングを設定するステップは、前記マイクロチップの電気泳動分離能力を評価するタイミングを設定する入力操作を受け付けるステップを含み、前記マイクロチップの電気泳動分離能力が許容値を下回ったタイミングを、前記洗浄工程のタイミングに設定する、マイクロチップ電気泳動方法。
【請求項2】
前記洗浄工程のタイミングを設定するステップは、前記洗浄工程のタイミングを指示する入力操作を受け付けるステップを含む、請求項1に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項3】
前記複数のサンプルを順番に分析するための分析スケジュールを設定する入力操作を受け付けるステップをさらに備え、
前記分析スケジュールを設定する入力操作を受け付けるステップは、前記洗浄工程のタイミングを指示する入力操作を受け付けるステップを含む、請求項に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項4】
前記洗浄工程のタイミングを指示する入力操作を受け付けるステップは、1つの前記マイクロチップについて、前記洗浄工程の頻度、または、連続する2回の前記洗浄工程の間に実行される前記分析工程の回数を指定する入力操作を受け付けるステップを含む、請求項2または3に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項5】
前記マイクロチップの電気泳動分離能力を評価するステップは、直近の前記分析工程の分析結果に含まれる内部標準試料に由来するピークの理論段数および保持時間の少なくと
も1つを評価し、
前記洗浄工程のタイミングを設定するステップは、前記理論段数が前記許容値を下回ったとき、または、前記保持時間が前記許容値を超えたときを、前記洗浄工程のタイミングに設定する、請求項1に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項6】
前記洗浄工程のタイミングを設定するステップは、前記許容値を設定する入力操作を受け付けるステップを含む、請求項1に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項7】
電気泳動流路が形成されたマイクロチップと、
前記マイクロチップの前記電気泳動流路に分離媒体、サンプルおよび洗浄液を注入するための分注プローブと、
前記分離媒体、前記サンプルおよび前記洗浄液の吸入位置と、前記マイクロチップ上の分注位置との間で前記分注プローブを移動させる移動機構と、
前記電気泳動流路に前記分離媒体および前記洗浄液を充填し、かつ、前記電気泳動流路から前記分離媒体および前記洗浄液を排出するように構成された充填排出部と、
前記分注プローブ、前記移動機構および前記充填排出部の動作を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記マイクロチップでの電気泳動分離による分析工程を繰り返し実行するとともに、前記マイクロチップの洗浄工程を実行するように構成され、
前記コントローラはさらに、複数回の前記分析工程の間の任意のタイミングに前記マイクロチップの電気泳動分離能力を評価するように構成され、
前記コントローラは、複数回の前記分析工程の間の任意のタイミングに前記マイクロチップの洗浄工程のタイミングを設定するための入力操作を受け付ける入力部と通信接続され、
前記入力部は、前記マイクロチップの電気泳動分離能力を評価するタイミングを設定する入力操作を受け付けるように構成され、
前記コントローラは、前記マイクロチップの電気泳動分離能力が許容値を下回ったタイミングを、前記洗浄工程のタイミングに設定する、マイクロチップ電気泳動装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気泳動装置は、マイクロチップまたはキャピラリなどのデバイスを用いて、電気泳動法により微量試料の分離を高速に行なうものである。例えば、特開2012-251821号公報(特許文献1)には、マイクロチップ電気泳動装置が開示される。マイクロチップは、電気泳動分離を行なう流路と、試料を導入する流路とが形成されたベース基板と、試料および分離媒体のリザーバとして機能する貫通孔が形成されたベース基板とを接合して構成されている。
【0003】
特許文献1に記載のマイクロチップ電気泳動装置では、マイクロチップを繰り返し使用することにより、分析コストの低減を図っている。その一方で、マイクロチップを繰り返し使用すると、前の分析のサンプルに含まれていた成分または分離媒体に含まれていた成分が流路の表面に吸着することによって、使用回数が増えるに従って分析性能が低下することが懸念される。そのため、特許文献1では、マイクロチップでの複数回の分析工程の開始前、分析工程ごとに、または複数回の分析工程の後に、マイクロチップの流路を洗浄液で洗浄する洗浄工程が行なうことによって分析性能を回復させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-251821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したマイクロチップ電気泳動装置において1稼働当たりに複数のサンプルを分析する場合、当該複数のサンプルの分析開始前に洗浄工程を行なっても、サンプルの分析が進行するのに伴って、分析性能が徐々に低下していくことが起こり得る。このような場合、分析性能が低下している状態で分析が繰り返し行なわれることで、分析性能および分析再現性が低いデータを取得してしまうことが懸念される。また、そのようなデータを取得することで、サンプルを無駄に消費してしまうことが懸念される。
【0006】
一方で、1つのサンプルの分析が終了するごとに洗浄工程を行なう構成とすると、分析性能の低下を抑制できるが、全てのサンプルの分析を終えるのに長い時間がかかってしまうことが懸念される。
【0007】
この発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、マイクロチップを繰り返し使用したときの分析性能の低下を効率的に抑制することができるマイクロチップ電気泳動方法およびマイクロチップ電気泳動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、マイクロチップ電気泳動方法であって、マイクロチップでの電気泳動分離による分析工程を繰り返すことにより、複数のサンプルを順番に分析するステップと、マイクロチップの洗浄工程を実行するステップと、複数回の分析工程の間の任意のタイミングにマイクロチップの洗浄工程のタイミングを設定するステップとを備える。
【0009】
本発明の第2の態様は、マイクロチップ電気泳動装置に関する。マイクロチップ電気泳動装置は、電気泳動流路が形成されたマイクロチップと、分注プローブと、移動機構と、充填排出部と、コントローラとを備える。分注プローブは、マイクロチップの電気泳動流路に分離媒体、サンプルおよび洗浄液を注入するように構成される。移動機構は、分離媒体、サンプルおよび洗浄液の吸入位置と、マイクロチップ上の分注位置との間で分注プローブを移動させる。充填排出部は、電気泳動流路に分離媒体および洗浄液を充填し、かつ、電気泳動流路から分離媒体および洗浄液を排出するように構成される。コントローラは、分注プローブ、移動機構および充填排出部の動作を制御する。コントローラは、マイクロチップでの電気泳動分離による分析工程を繰り返し実行するとともに、マイクロチップの洗浄工程を実行するように構成される。コントローラは、複数回の分析工程の間の任意のタイミングにマイクロチップの洗浄工程のタイミングを設定するための入力操作を受け付ける入力部と通信接続される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロチップを繰り返し使用したときの分析性能の低下を効率的に抑制することができるマイクロチップ電気泳動法およびマイクロチップ電気泳動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係るマイクロチップ電気泳動装置の全体構成を概略的に示す図である。
図2図1に示したマイクロチップ電気泳動装置の要部の構成を概略的に示す図である。
図3図1に示したコントローラの制御構成を示すブロック図である。
図4】マイクロチップの一例を示す図である。
図5】マイクロチップの一例を示す図である。
図6】分離バッファ充填・排出部の空気供給口とマイクロチップとの接続状態を概略的に示す図である。
図7】洗浄工程の工程順に示す斜視図である。
図8】分析工程を工程順に示す斜視図である。
図9】分析工程を工程順に示す斜視図である。
図10】分析工程を工程順に示す斜視図である。
図11】分析工程の処理手順を示すフローチャートである。
図12】本実施の形態に係るマイクロチップ電気泳動方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図13】分析スケジュール登録の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図14】分析スケジュールの入力画面の一例を示す図である。
図15】分析結果の一例を示す図である。
図16】自動分析の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図17図16のステップS32の処理の第1の例を説明するためのフローチャートである。
図18図16のステップS32の処理の第2の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
【0013】
[マイクロチップ電気泳動装置の構成]
図1は、本発明の実施の形態に係るマイクロチップ電気泳動装置100の全体構成を概略的に示す図である。図2は、図1に示したマイクロチップ電気泳動装置100の要部の構成を概略的に示す図である。
【0014】
図1を参照して、マイクロチップ電気泳動装置100は、分注部2と、シリンジポンプ4と、分離バッファ充填・排出部16と、吸引ポンプ部23と、高圧電源部26と、蛍光測定部31と、コントローラ38とを備える。マイクロチップ電気泳動装置100は、制御装置70と通信接続される。
【0015】
図2を参照して、マイクロチップ電気泳動装置100は、複数(例えば4個)のマイクロチップ5-1~5-4と、保持部7と、マイクロタイタプレート12とをさらに備える。
【0016】
マイクロチップ5-1~5-4の各々は、1サンプルを処理するための1つの電気泳動流路が形成されたものである。分析操作中、マイクロチップ5-1~5-4は保持部7に保持されている。以下、マイクロチップ5-1~5-4を総称してマイクロチップ5という場合がある。マイクロチップ5は繰り返し使用することができる。
【0017】
分注部2は、マイクロチップ5-1~5-4に分離バッファ液とサンプルとを分注するように構成される。分離バッファ液は「分離媒体」としても使用されるものであり、例えばpH緩衝剤および水溶性高分子(セルロース系高分子など)の少なくとも一方を含む。分注部2は、分注すべき液の吸入位置とマイクロチップ5上の分注位置との間で分注プローブ8を移動させる「移動機構」を構成する。具体的には、分注部2は、分注プローブ8と、シリンジポンプ4と、少なくとも1種類の洗浄液を保持する少なくとも1つの容器10と、三方電磁弁6とを有する。
【0018】
分注プローブ8は、分注ノズルを有する。シリンジポンプ4は、分離バッファ液、サンプルまたは洗浄液の吸引と吐出とを行なう。分注プローブ8と少なくとも1つの容器10とは三方電磁弁6を介してシリンジポンプ4に接続されている。
【0019】
サンプルは、マイクロタイタプレート12上のウェル12Wに収容されて、分注部2によりマイクロチップ5-1~5-4に分注される。分離バッファ液は図示しない容器に収容され、分注部2によりマイクロチップ5-1~5-4に分注される。
【0020】
分離バッファ充填・排出部16および吸引ポンプ部23は、マイクロチップ5の電気泳動流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構を構成する。分離バッファ充填・排出部16は、電気泳動流路の1つのリザーバに一定量の分離バッファ液を注入し、その注入された分離バッファ液をそのリザーバから空気圧により電気泳動流路に充填する。分離バッファ充填・排出部16は、空気供給口18および吸引ノズル22を有する。吸引ポンプ部23は、他のリザーバに溢れた不用な分離バッファ液を排出する。分離バッファ充填・排出部16および吸引ポンプ部23は、4つのマイクロチップ5-1~5-4について共通に備えられる。
【0021】
分注部2は、三方電磁弁6を分注プローブ8とシリンジポンプ4とが接続される方向に接続することにより、分離バッファ液またはサンプルを分注プローブ8に吸引する。分注部2は、分注プローブ8をマイクロチップ5-1~5-4上へ移動させると、シリンジポンプ4によりマイクロチップ5-1~5-4のいずれかの電気泳動流路のリザーバに吐出する。
【0022】
洗浄部14は、分注プローブ8を洗浄するためのものであり、洗浄液が充填されている。
【0023】
分注部2は、分注プローブ8を洗浄する際、三方電磁弁6をシリンジポンプ4と洗浄液用の容器10とを接続する方向に切り替え、シリンジポンプ4に洗浄液を吸引する。次に、分注部2は、分注プローブ8を洗浄部14の洗浄液に浸し、三方電磁弁6をシリンジポンプ4と分注プローブ8とを接続する側に切り替えて分注プローブ8の内部から洗浄液を吐出することにより、分注プローブ8を洗浄する。
【0024】
マイクロチップ5-1~5-4の電気泳動流路を洗浄するときには、分注部2は、三方電磁弁6およびシリンジポンプ4と容器10とを接続する方向に切り替え、シリンジポンプ4に洗浄液を吸引する。分注部2は、分注プローブ8をマイクロチップ5-1~5-4のリザーバへ移動させ、所定量の洗浄液をそのリザーバへ分注する。リザーバに分注された洗浄液は、毛細管現象により電気泳動流路に入っていく。
【0025】
分離バッファ充填・排出部16は、電気泳動流路に洗浄液が入った状態で所定時間保持した後、その洗浄液を排出する際にも使用される。
【0026】
電気泳動流路に分離バッファ液を充填するとき、分離バッファ充填・排出部16は、マイクロチップ5-1~5-4上へ移動し、マイクロチップ5-1~5-4の電気泳動流路の一端のリザーバ(分離バッファ液が分注されたリザーバ)上に空気供給口18を気密に保って押し付けるとともに、他のリザーバに吸引ノズル22を挿入する。この状態で、空気供給口18から空気を吹き込んで分離バッファ液を電気泳動流路に押し込むとともに、他のリザーバから溢れた分離バッファ液を吸引ノズル22から吸引ポンプ部23により吸引して外部へ排出する。電気流動流路内の洗浄液を排出するときも同様であり、マイクロチップ5-1~5-4の一端のリザーバ上に空気供給口18を気密に保って押し付けるとともに、他のリザーバに吸引ノズル22を挿入する。この状態で、空気供給口18から空気を吹き込んで洗浄液を電気泳動流路に押し込むとともに、他のリザーバから溢れた洗浄液を吸引ノズル22から吸引ポンプ部23により吸引して外部へ排出する。
【0027】
高圧電源部26は、マイクロチップ5-1~5-4の電気泳動流路に独立して電気泳動用の電圧を印加するために、マイクロチップ5ごとに独立した複数(例えば4個)の高圧電源26-1~26-4を有する。
【0028】
蛍光測定部31は、マイクロチップ5-1~5-4の各々の分離流路55で電気泳動分離されたサンプル成分を検出するように構成される。具体的には、蛍光測定部31は、複数(例えば4個)のLED(Liquid Emitting Diode)30-1~30-4と、複数(例えば4個)の光ファイバ32-1~32-4と、複数(例えば4個)のフィルタ34-1~34-4と、光電子倍増管36とを有する。
【0029】
LED30-1~30-4は、それぞれ、マイクロチップ5-1~5-4の電気泳動流路の一部に励起光を照射する。光ファイバ32-1~32-4は、電気泳動流路を移動するサンプル成分がLED30-1~30-4からの励起光によりそれぞれ励起されて発生した蛍光を受光する。フィルタ34-1~34-4は、光ファイバ32-1~32-4からの蛍光から励起光成分を除去し、蛍光成分のみを透過させる。光電子倍増管36は、フィルタ34-1~34-4を透過した蛍光成分を受光する。
【0030】
本実施の形態では、フィルタ34-1~34-4は互いに異なる蛍光を透過させる。したがって、マイクロチップ5-1,5-2,5-3,5-4間で互いに異なる蛍光を検出することができる。
【0031】
ただし、マイクロチップ5-1~5-4で同じ蛍光を検出する場合には1つのフィルタを共通に使用することができる。LED30-1~30-4を互いに時間をずらして発光させることにより、1つの光電子倍増管36で複数のマイクロチップ5-1~5-4からの蛍光を識別して検出することができる。なお、励起光の光源としては、LEDに限定されず、LD(Laser Diode)を用いてもよい。
【0032】
コントローラ38は、1つの電気泳動流路への分離バッファ液充填およびサンプル注入が終了すると、次の電気泳動流路への分離バッファ液充填およびサンプル注入に移行するように、分注部2の動作を制御する。コントローラ38は、サンプル注入が終了した電気泳動流路で泳動電圧を印加して電気泳動を起こさせるように高圧電源部26(高圧電源26-1~26-4)の動作を制御する。コントローラ38は、蛍光測定部31による検出動作を制御する。コントローラ38はさらに、マイクロチップ5を繰り返して使用するために、前のサンプルの分析が終了した電気泳動流路への分離バッファ液を充填する前にその電気泳動流路の洗浄動作を制御する。
【0033】
コントローラ38は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)60と、プログラムおよびデータを格納する記憶部と、通信I/F(Interface)68とを有する。各構成要素はデータバスによって相互に接続されている。
【0034】
記憶部は、ROM(Read Only Memory)62、RAM(Random Access Memory)64およびHDD(Hard Disk Drive)66を含む。ROM62は、CPU60にて実行されるプログラムを格納することができる。RAM64は、CPU60におけるプログラムの実行により生成されるデータ、および通信I/F68を経由して入力されたデータを一時的に格納することができ、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能することができる。HDD66は、不揮発性の記憶装置であり、蛍光測定部31による検出結果などマイクロチップ電気泳動装置100で生成された情報を格納することができる。あるいは、HDD66に代えて、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置を採用してもよい。
【0035】
通信I/F68は、制御装置70を含む外部機器と通信するためのインターフェイスである。通信I/Fは、アダプタまたはコネクタなどによって実現される。なお、通信方式としては、例えば、Bluetooth(登録商標)または無線LAN(Local Area Network)などの無線通信であってもよいし、USB(Universal Serial Bus)などを利用した有線通信であってもよい。
【0036】
制御装置70は、マイクロチップ電気泳動装置100と通信接続され、マイクロチップ電気泳動装置100との間でデータを遣り取りする。制御装置70は、マイクロチップ電気泳動装置100の動作を制御するとともに、蛍光測定部31が取得したデータを取り込んで処理するように構成される。
【0037】
具体的には、制御装置70は、演算処理部であるCPU72を主体として構成される。制御装置70には、例えばパーソナルコンピュータなどを利用することができる。制御装置70は、CPU72と、記憶部(ROM76、RAM74およびHDD78)と、通信I/F84と、入力部82と、ディスプレイ80とを有する。
【0038】
ROM76は、CPU72にて実行されるプログラムを格納することができる。RAM74は、CPU72におけるプログラムの実行により生成されるデータおよび、通信I/F84または入力部82を介して入力されたデータを一時的に格納することができ、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能することができる。HDD78は、不揮発性の記憶装置であり、制御装置70で生成された情報を格納することができる。あるいは、HDD78に代えて、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置を採用してもよい。
【0039】
通信I/F84は、制御装置70がマイクロチップ電気泳動装置100を含む外部機器と通信するためのインターフェイスである。入力部82は、測定者からのマイクロチップ電気泳動装置100に対する指示を含む入力操作を受け付ける。入力部82は、キーボード、マウスおよびディスプレイ80の表示画面と一体的に構成されるタッチパネルなどを含む。入力部82は、後述するように、複数のサンプルを順番に分析するための分析スケジュールの登録を受け付けるとともに、マイクロチップ5の洗浄工程のタイミングについての指示を受け付ける。
【0040】
ディスプレイ80は、分析スケジュールを登録する際に、分析スケジュールの入力画面を表示することができる(図14参照)。ディスプレイ80は、マイクロチップ5の洗浄工程のタイミングを指示する際に、洗浄工程のタイミングの入力画面を表示することができる(図14参照)。分析測定中または測定後において、ディスプレイ80は、蛍光測定部31による検出データおよびサンプルごとの分析結果などを表示することができる。
【0041】
図3は、図1に示したコントローラ38の制御構成を示すブロック図である。
図3を参照して、コントローラ38は、泳動制御部92と、洗浄制御部94と、分析スケジューラ96とを有する。これらの機能構成は、図1に示すマイクロチップ電気泳動装置100において、CPU60が所定のプログラムを実行することで実現される。
【0042】
泳動制御部92は、各マイクロチップ5について、電気泳動による分析工程を繰り返し実行する。分析工程は、(1)空の電気泳動流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填工程、(2)サンプル供給用のリザーバにサンプルを分注するサンプル分注工程、(3)複数のリザーバ間に泳動電圧を印加することにより、分離流路でのサンプルの電気泳動分離を行なう泳動分離工程、および(4)1つのリザーバから加圧気体を供給し、他のリザーバから分離バッファ液を吸引することにより電気泳動流路およびリザーバ内の分離バッファ液を除去するバッファ液除去工程を有する。
【0043】
洗浄制御部94は、各マイクロチップ5について、少なくとも1回の洗浄工程を実行する。洗浄工程は、少なくとも1つの容器10に保持されている少なくとも1種類の洗浄液を用いて、(1)電気泳動流路およびリザーバが空の状態で1つのリザーバに一定量の洗浄液を供給する工程、(2)一定時間保持して電気泳動流路内に洗浄液を毛細管現象により導入させる工程、および(3)1つのリザーバから加圧気体を供給し、他のリザーバから洗浄液を吸引することにより電気泳動流路およびリザーバ内の洗浄液を除去する工程を有する。少なくとも1種類の洗浄液は、水もしくは水以外の洗浄液(有機溶剤または界面活性剤を含有した洗浄液など)を含む。
【0044】
分析スケジューラ96は、各マイクロチップ5について、複数回の分析工程および、少なくとも1回の洗浄工程の実行順序を決定する。分析スケジューラ96は、泳動制御部92および洗浄制御部94に対して、予め登録された分析スケジュールおよび洗浄工程のタイミングに従って、処理リソース(プログラム時間およびメモリなど)を割り当てる。
【0045】
制御装置70は、データ処理部86を有する。データ処理部86は、入力部82から指示を受け付けると、その指示内容を示すデータをコントローラ38へ伝送する。データ処理部86は、コントローラ38から蛍光測定部31による検出データを受信すると、受信した検出データを処理して処理結果をディスプレイ80に表示する。
【0046】
[マイクロチップ5の構成例]
図4および図5は、マイクロチップ5の一例を示す図である。本願明細書において、「マイクロチップ」は基板内に電気泳動流路が形成された電気泳動用のデバイスを意味しており、必ずしもサイズの小さいものに限定されるものではない。
【0047】
図4(A)はマイクロチップ5が有する透明基板51の平面図であり、図4(B)はマイクロチップ5が有する透明基板52の平面図であり、図4(C)はマイクロチップ5の正面図である。
【0048】
図4(C)を参照して、マイクロチップ5は、一対の透明基板51,52を有する。透明基板51,52は、例えば石英ガラスその他のガラス基板または樹脂基板である。透明基板51と透明基板52とは重ねられて接合されている。
【0049】
図4(B)に示すように、透明基板52の表面には、互いに交差する泳動用キャピラリ溝54,55が形成されている。キャピラリ溝55は、サンプルの電気泳動分離用の分離流路55を構成する。キャピラリ溝54は、分離流路55にサンプルを導入するためのサンプル導入流路54を構成する。サンプル導入流路54および分離流路55は「電気泳動流路」を構成する。サンプル導入流路54および分離流路55は交差位置56で交差する。
【0050】
図4(A)に示すように、透明基板51には、キャピラリ溝54,55の端部に対応する位置に4つの貫通孔が形成されている。4つの貫通孔はリザーバ53-1~54-4をそれぞれ構成する。以下、リザーバ53-1~53-4を総称してリザーバ53という場合がある。
【0051】
マイクロチップ5は基本的には図4に示した構成を有するが、取り扱いを容易にするために、図5に示すように、マイクロチップ5上には、泳動電圧を印加するための電極端子を形成することができる。図5は、マイクロチップ5の平面図である。
【0052】
図5を参照して、4つのリザーバ53-1~53-4は電気泳動流路54,55に電圧を印加するためのポートを構成する。ポート#1(リザーバ53-1)とポート#2(リザーバ53-2)とはサンプル導入流路54の両端に位置する。ポート#3(リザーバ53-3)とポート#4(リザーバ53-4)とは分離流路55の両端に位置する。ポート#1~#4のそれぞれに電圧を印加するために、マイクロチップ5(透明基板51)の表面に4つの電極パターン61~64が形成されている。電極パターン61~64は、対応するポートからマイクロチップ5の測端部に延びるように形成されており、高圧電源26-1~26-4(図2参照)にそれぞれ接続される。
【0053】
図6は、分離バッファ充填・排出部16の空気供給口18とマイクロチップ5との接続状態を概略的に示す図である。
【0054】
図6を参照して、空気供給口18の先端にはOリング20が設けられている。空気供給口18をマイクロチップ5の1つのリザーバ53上に押し当てることにより、気密を保ちながら、マイクロチップ5の電気泳動流路54,55に対して空気供給口18を取り付けることができる。これにより、空気供給口18から空気を加圧して電気泳動流路54,55内に送り出すことができる。他のリザーバ53には吸引ノズル22が挿入され、電気泳動流路54,55から溢れだした不用な分離バッファ液または洗浄液を吸入して排出する。
【0055】
[マイクロチップ電気泳動方法]
次に、本実施の形態に係るマイクロチップ電気泳動装置100において実行される電気泳動方法について説明する。
【0056】
マイクロチップ電気泳動装置100において、マイクロチップ5は保持部7に固定された状態で繰り返し使用される。マイクロチップ電気泳動装置100のコントローラ38は、ROM62に格納されているプログラムを実行することにより、本実施の形態に係るマイクロチップ電気泳動方法を実行する。
【0057】
本実施の形態に係るマイクロチップ電気泳動方法は、マイクロチップ5を洗浄する洗浄工程と、マイクロチップ5での電気泳動分離による分析工程とを含んでいる。分析工程は、各マイクロチップ5について繰り返し実行される。洗浄工程は、各マイクロチップ5について、複数回の分析工程における任意のタイミングに、少なくとも1回実行される。
【0058】
(1)洗浄工程
最初に、図7を用いて洗浄工程の処理手順について説明する。図7は、洗浄工程の工程順に示す斜視図である。
【0059】
図7(A)を参照して、洗浄は、電気泳動流路54,55およびリザーバ53が空の状態のマイクロチップ5について行なわれる。分注プローブ8がリザーバ53-4上に移動され、洗浄液が分注される。洗浄液としては、水もしくは水以外の洗浄液(有機溶剤または界面活性剤を含有した洗浄液など)、種々のものを使用することができる。洗浄液の分注量は、洗浄条件として制御装置70またはコントローラ38において予め設定しておくことができる。
【0060】
図7(B)を参照して、マイクロチップ5は、リザーバ53-4に洗浄液が分注された状態で所定時間保持される。この状態で、リザーバ53-4に分注された洗浄液は、毛細管現象により電気泳動流路54,55内に導入される。所定時間は、洗浄条件として制御装置70またはコントローラ38において予め設定しておくことができる。
【0061】
図7(C)を参照して、所定時間の経過後、リザーバ53-4上に分離バッファ充填・排出部16の空気供給口18が気密を保った状態で押し付けられ、加圧された空気がリザーバ53-4から電気泳動流路54,55に供給される。他のリザーバ53-1~53-3にはそれぞれ吸引ノズル22-1~22-3が挿入され、電気泳動流路54,55からリザーバ53-1~53-3に押し出された洗浄液が吸引されて除去される。
【0062】
洗浄工程では、図7(A)~(C)に示す一連の工程を1サイクルとして、この1サイクルが所定回数繰り返し実行される。繰り返し回数は、洗浄条件として制御装置70またはコントローラ38において予め設定しておくことができる。
【0063】
(2)分析工程
次に、図8から図11を用いて、マイクロチップ5での電気泳動分離による分析工程について説明する。図8から図10は、分析工程を工程順に示す斜視図である。図11は、分析工程の処理手順を示すフローチャートである。図11のフローチャート中での符号A~Pは、図8から図10に示す工程の符号A~Pにそれぞれ対応する。
【0064】
各マイクロチップ5について、分析工程は繰り返し実行される。以下に示す処理では、1回目の分析工程のためのマイクロチップ5、または前回の分析工程で使用されたマイクロチップ5から分離バッファ液が排出された状態のマイクロチップ5が使用される。
【0065】
図8(A)を参照して、分注プローブ8がリザーバ53-4上に移動され、分離バッファ液が分注される。
【0066】
図8(B)を参照して、リザーバ53-4上に空気供給口18が気密を保った状態で押し付けられ、他のリザーバ53-1~53-3にはそれぞれ吸引ノズル22-1~22-3が挿入される。加圧された空気が空気供給口18からリザーバ53-4を経て電気泳動流路54,55に供給され、電気泳動流路54,55からリザーバ53-1~53-3に溢れ出した分離バッファ液が吸引ノズル22-1~22-3により吸引されて除去される。
【0067】
図8(C)を参照して、リザーバ53-4に吸引ノズル22-4が挿入され、リザーバ53-4内の分離バッファ液が吸引されて除去される。これにより、電気泳動流路54,55内にのみ分離バッファ液が残る状態となる。
【0068】
図8(D)および図9(E)~(G)を参照して、リザーバ53-1~53-4に対し、分注プローブ8により分離バッファ液が順次分注される。
【0069】
図9(H)を参照して、リザーバ53-1~53-4の各々に電極が挿入され、泳動テストが行なわれる。泳動テストでは、電極間の電流値を検出することにより、電気泳動流路内にゴミまたは気泡が混入していないかどうかを確認する。なお、電気泳動流路に印加される電圧は、サンプルを電気泳動分離するための泳動電圧と同じであってもよいし、泳動電圧よりも低い電圧であってもよい。
【0070】
分離バッファ液を分注した分注プローブ8はリンスポート110に導入され、分注プローブ8内の分離バッファ液が全量吐出されるとともに、分注プローブ8の内外が洗浄される。
【0071】
図9(H)の泳動テストにて電気泳動流路へ分離バッファ液が正常に充填されたと判定された場合、サンプルを注入して分析するために図9(I)の工程へ進む。これに対して、泳動テストにて分離バッファ液が正常に充填されていないと判定された場合には、電気泳動流路に分離バッファ液を充填し直しするために、図8(A)の工程に戻る。
【0072】
電気泳動流路へ分離バッファ液の充填し直しを許容する回数nは予め設定されている。回数nだけ分離バッファ液を充填し直しても電気泳動流路へ分離バッファ液が正常に充填されたと判定されなかった場合、マイクロチップ5を保持部7から取り外し、別のマイクロチップ5に交換した後、図8(A)の工程から開始する。回数nは特に限定されるものではないが、例えばn=2または3に設定される。
【0073】
図9(I)を参照して、サンプル供給用のリザーバ53-1にのみ吸引ノズル22-1が挿入され、リザーバ53-1内の分離バッファ液が吸入されて除去される。
【0074】
図9(J)を参照して、分注プローブ8によりサンプル供給用のリザーバ53-1に洗浄液が供給される。
【0075】
図9(K)を参照して、サンプル供給用のリザーバ53-1に吸引ノズル22-1が挿入され、洗浄液が吸引されて除去される。
【0076】
図9(J),(K)の工程は、試料供給用のリザーバ53-1内に残留する分離バッファ液を除去するための洗浄工程である。この洗浄工程は必要に応じて複数回繰り返し行なわれるようにしてもよい。
【0077】
図10(L)を参照して、サンプル供給用のリザーバ53-1に分注プローブ8からサンプルが注入される。必須ではないが、サンプル注入に続いてリザーバ53-1に分注プローブ8から内部標準物質が分注されることがある。内部標準物質は、例えば低分子マーカ(LM)および高分子マーカ(UM)を含む。
【0078】
図10(M)を参照して、リザーバ53-1~53-4の各々に電極が挿入されてサンプル導入用の電圧が印加される。これにより、サンプルがサンプル導入流路54と分離流路55との交差位置56に導かれる。
【0079】
図10(N)を参照して、電極への印加電圧が泳動分離用の電圧に切り替えられる。サンプルが分離流路55でリザーバ53-4の方向に電気泳動分離され、蛍光測定部31により検出される。
【0080】
図10(O)を参照して、分析終了後、リザーバ53-4上に空気供給口18が気密を保った状態で押し付けられ、他のリザーバ53-1~53-3にはそれぞれ吸引ノズル22-1~22-3が挿入される。加圧された空気が空気供給口18からリザーバ53-4を経て電気泳動流路54,55に供給され、電気泳動流路54,55からリザーバ53-1~53-3に溢れ出した分離バッファ液が吸引ノズル22-1~22-3により吸引されて除去される。
【0081】
図10(P)を参照して、吸引ノズル22-1~22-4の各々はリンスプール102に挿入されて洗浄液が吸引され、ノズル内外が洗浄されるとともに、分注プローブ8がリンスポート110に挿入されて内外が洗浄される。
【0082】
工程(A)から工程(P)を実行することにより1つのマイクロチップ5における1つのサンプルの電気泳動分析サイクルが終了する。そのマイクロチップ5について新たなサンプルの電気泳動分析サイクルが実行されるときには、工程(A)に戻って操作が繰り返される。
【0083】
(3)マイクロチップ電気泳動方法
図12は、本実施の形態に係るマイクロチップ電気泳動方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【0084】
(3-1)分析スケジュール登録(S10)
図12を参照して、まず、電気泳動分析を実行するために、ステップS10により、複数のサンプルを順番に分析するための分析スケジュールが登録される。
【0085】
図13は、分析スケジュール登録(S10)の処理の流れを説明するためのフローチャートである。図13を参照して、分析スケジュールを登録する工程では、最初に、マイクロチップ電気泳動装置100の1稼働当たりの分析対象となる複数のサンプルが登録される(S11)。次に、マイクロチップ5の洗浄工程のタイミングが登録される(S12)。分析スケジュールの登録は、例えば、ディスプレイ80に表示された分析スケジュールの入力画面を用いて行なうことができる。
【0086】
図14は、分析スケジュールの入力画面の一例を示す図である。図14を参照して、分析スケジュールの入力画面には、サンプルの選択画面200として、マイクロタイタプレート12の平面図が模式的に示される。マイクロタイタプレート12は、マトリクス状に配置された複数のウェル12Wを有する。測定者は、複数のウェル12Wの中からサンプルが収容されたウェル12Wを選択することができる。例えば、測定者は、選択画面200上で該当するウェル12Wをマウスでクリックすることにより、サンプルを選択することができる。複数のサンプルが選択された場合、後述する自動分析工程(S30)において、分析工程が繰り返し実行されることになる。なお、マイクロチップ電気泳動装置100は複数のマイクロチップ5を有するため、複数のマイクロチップ5を並列して処理することで、分析工程を並行して実行することができる。
【0087】
測定者は、各マイクロチップ5の洗浄工程のタイミングを、複数回の分析工程の間の任意のタイミングに設定することができる。図14の例では、分析スケジュールの入力画面には、洗浄工程における洗浄条件を設定するための操作ボタン210が表示される。測定者が操作ボタン210をマウスでクリックすると、洗浄工程のタイミングを設定するための操作画面212が表示される。測定者は、操作画面212を用いて、洗浄工程のタイミングを設定することができる。
【0088】
本実施の形態では、測定者は、1つのマイクロチップ5について、(a)洗浄工程を実行する頻度、(b)洗浄工程を実行する間隔、(c)マイクロチップ5の電気泳動分離能力の許容値のうちの1つを選択して設定することができる。
【0089】
(a)洗浄工程を実行する頻度
洗浄工程を実行する頻度として、測定者は、1つのマイクロチップ5について分析工程を複数回繰り返し実行する間に、何回洗浄工程を実行するかを設定することができる。この場合、測定者が洗浄工程の回数を設定すると、分析工程の繰り返し回数を、設定された洗浄工程の回数で除算することにより、連続する2回の洗浄工程の間で実行される分析回数の回数が決定される。これによると、後述する自動分析の工程(S30)において、前回の洗浄工程の後、決定された回数だけ分析工程が繰り返されると、自動的に洗浄工程が実行されることになる。
【0090】
測定者は、1つのマイクロチップ5の使用回数、1稼働当たりに分析するサンプルの成分、サンプル数および分析条件などに応じて、洗浄工程を実行する頻度を設定することができる。例えば、マイクロチップ5の使用回数が増えるに従って、1稼働当たりの洗浄工程の頻度を高めることができる。あるいは、サンプルがマイクロチップ5の電気泳動流路表面に吸着しやすい成分を有する場合には、1稼働当たりの洗浄工程の頻度を高めることができる。このように洗浄工程のタイミングを適切に設定することで、マイクロチップ5を繰り返し使用したときの分析性能の低下を効果的かつ効率的に抑制することができる。
【0091】
(b)洗浄工程を実行する間隔
洗浄工程を実行する間隔として、測定者は、連続する2回の洗浄工程の間に実行される分析工程の回数を設定することができる。上記(a)とは、1稼働中に洗浄工程を実行する間隔を異ならせることができる点が異なる。
【0092】
例えば、マイクロチップ5の使用回数が増えるに従って、連続する2回の洗浄工程の間に実行される分析工程の回数を減らすことができる。具体的には、マイクロチップ5の使用回数が閾値未満のときには、連続する2回の洗浄工程の間に実行される分析工程の回数を第1の値に設定する一方で、マイクロチップ5の使用回数が閾値を超えると、連続する2回の洗浄工程の間に実行される分析工程の回数を第1の値よりも小さい第2の値に設定することができる。このようにすると、マイクロチップ5の使用回数が増えるに従って洗浄工程の頻度が増えることになり、マイクロチップ5を繰り返し使用したときの分析性能の低下を抑制することができる。
【0093】
あるいは、サンプルの分析が進行するに伴って、連続する2回の洗浄工程の間に実行される分析工程の回数を減らすことができる。サンプルがマイクロチップ5の電気泳動流路の表面に吸着しやすい成分を有する場合、分析工程の繰り返し回数が増えるに従って洗浄工程の頻度を高めることができる。このように洗浄工程のタイミングを適切に設定することで、マイクロチップ5を繰り返し使用したときの分析性能の低下を効率的かつ効果的に抑制することができる。
【0094】
(c)マイクロチップ5の電気泳動分離能力の許容値
測定者は、マイクロチップ5の電気泳動分離能力を基準として、洗浄工程のタイミングを設定することができる。この場合、測定者は、1つのマイクロチップ5について、電気泳動分離能力を評価するタイミング、および電気泳動分離能力を判定するための許容値を設定することができる。
【0095】
マイクロチップ5の電気泳動分離能力は、内部標準試料(高分子マーカ(UM)および低分子マーカ(LM))が混合されたサンプルの分析結果に基づいて評価することができる。図15は、分析結果の一例を示す図である。図15の縦軸は信号強度(単位はmV)を示し、横軸は移動時間(単位はsec)を示す。図中に黒三角マークで示された2つのピークは、低分子マーカ(LM)に由来するピークと、高分子マーカ(UM)に由来するピークとを示している。
【0096】
マイクロチップ5の電気泳動分離能力は、これら2つのピークの理論段数および保持時間に基づいて評価することができる。理論段数Nは、次式により定義される半値幅法により算出することができる。
【0097】
N=5.54(tr/W0.5h
trは電気泳動分析で得られるピークの保持時間であり、W0.5hはピークの半値幅である。保持時間は、サンプルを注入してからピークが検出されるまでの時間である。
【0098】
本実施の形態では、高分子マーカ(UM)の理論段数および保持時間に基づいて、マイクロチップ5の電気泳動分離能力を評価するものとする。測定者は、入力部82を用いて、理論段数および保持時間の各々について許容値を設定することができる。これによると、高分子マーカ(UM)の理論段数が許容値を下回ったタイミング、または、高分子マーカ(UM)の保持時間が許容値を超えたタイミングを、洗浄工程のタイミングとすることができる。
【0099】
測定者はまた、マイクロチップ5の電気泳動分離能力を評価するタイミングとして、1つのマイクロチップ5にて処理される複数のサンプルのうちのどのサンプルの分析結果に基づいて、電気泳動分離能力を評価するかを設定することができる。なお、選択されたサンプルの分析工程では、マイクロチップ5のサンプル供給用のリザーバ53-1にサンプルが分注されると、続いて内部標準物質である高分子マーカ(UM)が分注されることになる。
【0100】
マイクロチップ5の電気泳動分離能力を評価するタイミングは、評価する頻度または、評価する間隔により設定することができる。具体的には、電気泳動分離能力を評価する頻度として、測定者は、1つのマイクロチップ5について分析工程を複数回繰り返し実行する間に、何回電気泳動分離能力を評価するかを設定することができる。この場合、測定者が評価の回数を設定すると、分析工程の繰り返し回数を、設定された評価の回数で除算することにより、連続する2回の評価の間で実行される分析回数の回数が決定される。これによると、前回の評価の後、決定された回数だけ分析工程が繰り返されると、次回の評価が実行されることになる。
【0101】
測定者は、1つのマイクロチップ5の使用回数、1稼働当たりに分析するサンプルの成分、サンプル数および分析条件などに応じて、1稼働当たりの評価の頻度を設定することができる。これによると、分析性能の低下が検出されると、速やかに洗浄工程を実行することができるため、マイクロチップ5の電気泳動分離能力を早急に回復させることができる。
【0102】
電気泳動分離能力を評価する間隔として、測定者は、連続する2回の評価の間に実行される分析工程の回数を設定することができる。この場合、1稼働中に評価を実行する間隔を異ならせることができる。例えば、測定者は、マイクロチップ5の使用回数が増えるに従って、連続する2回の評価の間に実行される分析工程の回数を減らすことができる。具体的には、マイクロチップ5の使用回数が閾値未満のときには、連続する2回の評価の間に実行される分析工程の回数を第1の値に設定する一方で、マイクロチップ5の使用回数が閾値を超えると、連続する2回の評価の間に実行される分析工程の回数を第1の値よりも小さい第2の値に設定することができる。このようにすると、マイクロチップ5の使用回数が増えるに従って評価の頻度が増えることになるため、分析性能の低下を検出して速やかに洗浄工程を実行することができる。
【0103】
あるいは、サンプルの分析が進行するに伴って、連続する2回の評価の間に実行される分析工程の回数を減らすことができる。サンプルがマイクロチップ5の電気泳動流路の表面に吸着しやすい成分を有する場合、分析工程の繰り返し回数が増えるに従って評価の頻度を増やすことで、分析性能の低下を検出して速やかに洗浄工程を実行することができ、結果的に分析性能の低下を早急に回復させることができる。
【0104】
このようにマイクロチップ5の電気泳動分離能力を基準として洗浄工程のタイミングを適切に設定することで、マイクロチップ5を繰り返し使用したときの分析性能の低下を効率的かつ効果的に抑制することができる。
【0105】
(3-2)サンプルおよび試薬のセット(S20)
分析スケジュールの登録が完了すると(S10)、ステップS20により、マイクロチップ電気泳動装置100にサンプルおよび試薬がセットされる。試薬は、分離バッファ液および内部標準試料(高分子マーカUM、低分子マーカLM)を含む。サンプルが収容されたマイクロタイタプレート12がマイクロチップ電気泳動装置100にセットされるとともに、マイクロチップ電気泳動装置100の試薬ホルダに試薬がセットされる。
【0106】
(3-3)自動分析(S30)
測定者によって、ディスプレイ80の表示画面に表示された開始ボタン220(図14参照)が操作されると、複数のサンプルの電気泳動分析が自動的に実行される。本工程では、コントローラ38は、予め登録された分析スケジュールに従って、各マイクロチップ5において上記(2)で説明した分析工程を繰り返し実行する。
【0107】
コントローラ38はさらに、各マイクロチップ5において、複数の分析工程の間の予め設定されたタイミングに上記(1)で説明した洗浄工程を実行する。
【0108】
図16は、自動分析(S30)の処理の流れを説明するためのフローチャートである。図16を参照して、ステップS31にて、コントローラ38(泳動制御部92)は、1つのサンプルについて分析工程を実行する。ステップS31では、図8から図10に示した電気泳動分析サイクルが実行される。
【0109】
次に、1つのサンプルについて電気泳動分析サイクルが終了すると、ステップS32により、コントローラ38(分析スケジューラ96)は、洗浄工程のタイミングであるか否かを判定する。洗浄工程のタイミングであると判定された場合(S32にてYES)、ステップS33に進み、コントローラ38(洗浄制御部94)は洗浄工程を実行する。
【0110】
一方、洗浄工程のタイミングでなければ(S32にてNO)、ステップS34に進み、コントローラ38(分析スケジューラ96)は、全てのサンプルについて分析工程が終了したか否かを判定する。
【0111】
全てのサンプルについて分析工程が終了していない場合(S34にてNO)、ステップS31の分析工程に戻る。コントローラ38(泳動制御部92)は次のサンプルについて分析工程を実行する。全てのサンプルについて分析工程が終了していれば(S34にてYES)、コントローラ38(分析スケジューラ96)は自動分析工程(S30)を終了する。
【0112】
図17は、図16のステップS32の処理の第1の例を説明するためのフローチャートである。図17を参照して、コントローラ38(分析スケジューラ96)は、1つのマイクロチップ5において分析工程が終了すると、ステップS321により、前回の洗浄工程の後に分析工程を行なった回数の実績値(実績回数)をインクリメントする。コントローラ38(分析スケジューラ96)は、ステップS322により、分析工程の実績回数が設定値以上であるか否かを判定する。ステップS322における「設定値」は、分析スケジュールの登録(図12の工程S10)で設定された洗浄工程の頻度または洗浄工程の間隔に基づいている。
【0113】
分析工程の実績回数が設定値以上である場合(S322にてYES)、コントローラ38(分析スケジューラ96)は、洗浄工程のタイミングであると判定し、ステップS33の洗浄工程を実行する。一方、分析工程の実績回数が設定値未満である場合(S322にてNO)、コントローラ38(分析スケジューラ96)は洗浄工程のタイミングでないと判定し、ステップS34にて、全てのサンプルについて分析工程が終了したか否かを判定する。
【0114】
図18は、図16のステップS32の処理の第2の例を説明するためのフローチャートである。図18を参照して、コントローラ38(分析スケジューラ96)は、1つのマイクロチップ5において分析工程が終了すると、ステップS323により、マイクロチップ5の電気泳動分離能力を評価するタイミングであるか否かを判定する。ステップS323の判定は、分析スケジュールの登録(図12の工程S10)で設定された、電気泳動分離能力の評価の頻度または評価の間隔に基づいている。
【0115】
マイクロチップ5の電気泳動分離能力を評価するタイミングであると判定された場合(S323にてYES)、コントローラ38(分析スケジューラ96)は、ステップS324にて、マイクロチップ5の電気泳動分離能力を評価する。具体的には、制御装置70(データ処理部86)と協働して、サンプルの分析結果から内部標準物質である高分子マーカ(UM)の理論段数および保持時間を算出する。
【0116】
コントローラ38は、ステップS325により、マイクロチップ5の電気泳動分離能力が許容値を下回っているか否かを判定する。具体的には、コントローラ38は、高分子マーカ(UM)の理論段数および保持時間の少なくとも一方が許容値を下回っているか否かを判定する。コントローラ38は、高分子マーカ(UM)の理論段数および保持時間の少なくとも一方が許容値を下回っている場合、マイクロチップ5の電気泳動分離能力が許容値を下回っていると判定し、高分子マーカ(UM)の理論段数および保持時間がともに許容値以上である場合、マイクロチップ5の電気泳動分離能力が許容値以上であると判定する。
【0117】
マイクロチップ5の電気泳動分離能力が許容値を下回っていると判定された場合(S325にてYES)、コントローラ38(分析スケジューラ96)は、洗浄工程のタイミングであると判定し、ステップS33の洗浄工程を実行する。一方、マイクロチップ5の電気泳動分離能力が許容値以上であると判定された場合(S325にてNO)、コントローラ38(分析スケジューラ96)は洗浄工程のタイミングでないと判定し、ステップS34にて、全てのサンプルについて分析工程が終了したか否かを判定する。
【0118】
(4)分析結果を表示(S40)
図12に戻って、複数のサンプルの自動分析(S30)が終了すると、制御装置70は、分析結果をディスプレイ80の表示画面に表示する。なお、分析結果を表示する工程(S40)は、全てのサンプルの分析が終了したときに分析結果を表示させる構成に限定されず、分析が終了したサンプルからその分析結果を順に表示させる構成とすることもできる。
【0119】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0120】
(第1項)一態様に係るマイクロチップ電気泳動方法は、マイクロチップ(5)での電気泳動分離による分析工程を繰り返すことにより、複数のサンプルを順番に分析するステップ(S31)と、マイクロチップ(5)の洗浄工程を実行するステップ(S33)と、複数回の分析工程の間の任意のタイミングにマイクロチップ(5)の洗浄工程のタイミングを設定するステップ(S12)とを備える。
【0121】
第1項に記載のマイクロチップ電気泳動方法によれば、マイクロチップの洗浄工程のタイミングを任意に設定することができるため、測定者は、マイクロチップの使用回数、1稼働当たりに分析するサンプルの成分、サンプル数および分析条件などに応じて、洗浄工程のタイミングを適切に設定することができる。これによると、分析性能の低下を抑制しながら、分析作業の効率を向上させることができる。
【0122】
(第2項)第1項に記載のマイクロチップ電気泳動方法において、洗浄工程のタイミングを設定するステップ(S12)は、洗浄工程のタイミングを指示する入力操作を受け付けるステップを含む。
【0123】
第2項に記載のマイクロチップ電気泳動方法によれば、入力操作によって洗浄工程のタイミングを任意に設定することができるため、測定者の利便性を向上させることができる。
【0124】
(第3項)第2項に記載のマイクロチップ電気泳動方法は、複数のサンプルを順番に分析するための分析スケジュールを設定する入力操作を受け付けるステップ(S10)をさらに備える。分析スケジュールを設定する入力操作を受け付けるステップは(S10)、洗浄工程のタイミングを指示する入力操作を受け付けるステップ(S12)を含む。
【0125】
第3項に記載のマイクロチップ電気泳動方法によれば、複数のサンプルの分析スケジュールを設定する際に、洗浄工程のタイミングも設定することができるため、測定者は、分析性能および分析作業の効率を考慮して、洗浄工程のタイミングを適切に設定することができる。
【0126】
(第4項)第2項または第3項に記載のマイクロチップ電気泳動方法において、洗浄工程のタイミングを指示する入力操作を受け付けるステップ(S12)は、1つのマイクロチップ(5)について、洗浄工程の頻度、または、連続する2回の洗浄工程の間に実行される分析工程の回数を指定する入力操作を受け付けるステップを含む。
【0127】
第4項に記載のマイクロチップ電気泳動方法によれば、入力操作によって洗浄工程のタイミングを任意に設定することができるため、測定者の利便性を向上させることができる。また、マイクロチップの使用回数、1稼働当たりに分析するサンプルの成分、サンプル数および分析条件などに応じて、洗浄工程の頻度を調整することができるため、分析性能の低下を効率的に抑制することができる。
【0128】
(第5項)第1項に記載のマイクロチップ電気泳動方法は、複数回の分析工程の間の任意のタイミングにマイクロチップ(5)の電気泳動分離能力を評価するステップ(S324)をさらに備える。洗浄工程のタイミングを設定するステップ(S12)は、マイクロチップ(5)の電気泳動分離能力が許容値を下回ったタイミングを、洗浄工程のタイミングに設定する。
【0129】
第5項に記載のマイクロチップ電気泳動方法によれば、マイクロチップの電気泳動分離能力の低下に合わせて洗浄工程を行なうことができるため、効率的かつ効果的に分析性能の低下を抑制することができる。
【0130】
(第6項)第5項に記載のマイクロチップ電気泳動方法において、マイクロチップ(5)の電気泳動分離能力を評価するステップ(S324)は、直近の分析工程の分析結果に含まれる内部標準試料に由来するピークの理論段数および保持時間の少なくとも1つを評価する。洗浄工程のタイミングを設定するステップ(S12)は、理論段数が許容値を下回ったとき、または保持時間が許容値を超えたときを、洗浄工程のタイミングに設定する。
【0131】
第6項に記載のマイクロチップ電気泳動方法によれば、マイクロチップの電気泳動分離能力の低下に合わせて洗浄工程を行なうことができるため、効率的かつ効果的に分析性能の低下を抑制することができる。
【0132】
(第7項)第5項または第6項に記載のマイクロチップ電気泳動方法において、洗浄工程のタイミングを設定するステップ(S12)は、マイクロチップの電気泳動分離能力を評価するタイミングおよび許容値を設定する入力操作を受け付けるステップを含む。
【0133】
第7項に記載のマイクロチップ電気泳動方法によれば、マイクロチップの電気泳動分離能力を評価するタイミングおよび評価基準を任意に設定することができるため、測定者の利便性を向上させることができる。
【0134】
(第8項)一態様に係るマイクロチップ電気泳動装置(100)は、電気泳動流路(54,55)が形成されたマイクロチップ(5)と、分注プローブ(8)と、移動機構(2)と、充填排出部(16)と、コントローラ(38)とを備える。分注プローブ(8)は、マイクロチップ(5)の電気泳動流路(54,55)に分離媒体、サンプルおよび洗浄液を注入するように構成される。移動機構(2)は、分離媒体、サンプルおよび洗浄液の吸入位置と、マイクロチップ(5)上の分注位置との間で分注プローブ(8)を移動させる。充填排出部(16)は、電気泳動流路(54,55)に分離媒体および洗浄液を充填し、かつ、電気泳動流路(54,55)から分離媒体および洗浄液を排出するように構成される。コントローラ(38)は、分注プローブ(8)、移動機構(2)および充填排出部(16)の動作を制御する。コントローラ(38)は、マイクロチップ(5)での電気泳動分離による分析工程(S31)を繰り返し実行するとともに、マイクロチップ(5)の洗浄工程(S33)を実行するように構成される。コントローラ(38)は、複数回の分析工程(S31)の間の任意のタイミングにマイクロチップ(5)の洗浄工程(S33)のタイミングを設定するための入力操作を受け付ける入力部(82)と通信接続される。
【0135】
第8項に記載のマイクロチップ電気泳動装置によれば、入力部を介してマイクロチップの洗浄工程のタイミングを任意に設定することができるため、測定者は、マイクロチップの使用回数、1稼働当たりに分析するサンプルの成分、サンプル数および分析条件などに応じて、洗浄工程のタイミングを適切に設定することができる。これによると、分析性能の低下を抑制しながら、分析作業の効率を向上させることができる。
【0136】
なお、上述した実施の形態について、明細書内で言及されていない組み合わせを含めて、不都合または矛盾が生じない範囲内で、実施の形態で説明された構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。
【0137】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0138】
2 分注部(移動機構)、4 シリンジポンプ、5,5-1~5-4 マイクロチップ、6 三方電磁弁、7 保持部、8 分注プローブ、10 容器、12 マイクロタイタプレート、12W ウェル、14 洗浄部、16 分離バッファ充填・排出部、18 空気供給口、20 Oリング、22 吸引ノズル、23 吸引ポンプ部、26 高圧電源部、30-1~30-4 LED、31 蛍光測定部、32-1~32-4 光ファイバ、34-1,34-2 フィルタ、36 光電子倍増管、38 コントローラ、51,52 透明基板、54 電気泳動流路(サンプル導入流路)、55 電気泳動流路(分離流路)、56 交差位置、60,72 CPU、61~64 電極パターン、62,76 ROM、64,74 RAM、70 制御装置、80 ディスプレイ、82 入力部、86 データ処理部、92 泳動制御部、94 洗浄制御部、96 分析スケジューラ、100 マイクロチップ電気泳動装置、102 リンスプール、110 リンスポート、200 選択画面、210 操作ボタン、220 操作画面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18