(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】電力変換装置、圧送装置、電力変換方法、プログラム、診断装置及び診断方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230511BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20230511BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20230511BHJP
H02P 29/024 20160101ALI20230511BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M1/00 C
H02P27/06
H02P29/024
(21)【出願番号】P 2021530499
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2020018340
(87)【国際公開番号】W WO2021005873
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019127534
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 諒
(72)【発明者】
【氏名】池 英昭
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-81693(JP,A)
【文献】特開平9-100901(JP,A)
【文献】特開2019-28765(JP,A)
【文献】特開2018-148669(JP,A)
【文献】特開2013-106377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00 - 7/98
H02P 21/00 -27/18
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側電力を二次側電力に変換して駆動対象に供給する電力変換回路と、
前記電力変換回路により前記二次側電力を制御指令に追従させる制御回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記二次側電力に基づいて前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記振幅の評価結果に基づく振幅閾値の算出基準を、ユーザ設定に基づいて前記
駆動対象の駆動速度ごとに設定することと、
前記駆動対象の駆動速度ごとの前記振幅の評価結果と、前記駆動速度ごとの前記算出基準とに基づいて、前記振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を更に実行するように構成されている、電力変換装置。
【請求項2】
一次側電力を二次側電力に変換して駆動対象に供給する電力変換回路と、
前記電力変換回路により前記二次側電力を制御指令に追従させる制御回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記二次側電力に基づいて前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わるマージンを前記振幅の評価結果に加算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を更に実行するように構成されている、電力変換装置。
【請求項3】
一次側電力を二次側電力に変換して駆動対象に供給する電力変換回路と、
前記電力変換回路により前記二次側電力を制御指令に追従させる制御回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記二次側電力に基づいて前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わる倍率を前記振幅の評価結果に乗算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を更に実行するように構成されている、電力変換装置。
【請求項4】
前記制御回路は、前記振幅閾値プロファイルとして、複数の基準速度にそれぞれ対応する複数の振幅閾値を設定し、前記駆動速度が2つの前記基準速度の間に位置する場合には、当該2つの前記基準速度にそれぞれ対応する2つの前記振幅閾値の補間により当該駆動速度に対応する振幅閾値を算出する、請求項1~3のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御回路は、前記駆動速度を増加させながら前記駆動力の振幅を評価し、前記駆動速度の増加に応じた前記振幅の評価結果の増減傾向が逆転する際の前記駆動速度を基準速度とすることで前記複数の基準速度の少なくとも1つを設定する、請求項4記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御回路は、前記駆動力を示す力データを前記二次側電力に基づいて取得し、前記力データの振幅に基づいて前記駆動力の振幅を評価する、請求項1~5のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御回路は、前記駆動力を示す力データを前記二次側電力に基づいて取得し、当該力データと、当該力データの取得時よりも所定期間前から当該取得時までの間に取得した複数の前記力データのトレンド値との差に基づいて前記駆動力の振幅を評価する、請求項1~5のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項記載の電力変換装置と、
前記駆動対象としての電動式のポンプと、を備える圧送装置。
【請求項9】
前記ポンプに固定され、前記電力変換装置を保持する電装保持部を更に備える、請求項8記載の圧送装置。
【請求項10】
一次側電力を二次側電力に変換して駆動対象に供給する電力変換回路により前記二次側電力を制御指令に追従させることと、
前記二次側電力に基づいて前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記振幅の評価結果に基づく振幅閾値の算出基準を、ユーザ設定に基づいて前記
駆動対象の駆動速度ごとに設定することと、
前記駆動速度ごとの前記振幅の評価結果と、前記駆動速度ごとの前記算出基準とに基づいて、前記振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を電力変換装置に実行させるためのプログラム。
【請求項11】
一次側電力を二次側電力に変換して駆動対象に供給する電力変換回路により前記二次側電力を制御指令に追従させることと、
前記二次側電力に基づいて前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わるマージンを前記振幅の評価結果に加算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を電力変換装置に実行させるためのプログラム。
【請求項12】
一次側電力を二次側電力に変換して駆動対象に供給する電力変換回路により前記二次側電力を制御指令に追従させることと、
前記二次側電力に基づいて前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わる倍率を前記振幅の評価結果に乗算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を電力変換装置に実行させるためのプログラム。
【請求項13】
電力変換回路が駆動対象に供給する電力に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記振幅の評価結果に基づく振幅閾値の算出基準を、ユーザ設定に基づいて前記
駆動対象の駆動速度ごとに設定することと、
前記駆動速度ごとの前記振幅の評価結果と、前記駆動速度ごとの前記算出基準とに基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を実行する診断装置。
【請求項14】
電力変換回路が駆動対象に供給する電力に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わるマージンを前記振幅の評価結果に加算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を実行する診断装置。
【請求項15】
電力変換回路が駆動対象に供給する電力に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わる倍率を前記振幅の評価結果に乗算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を実行する診断装置。
【請求項16】
制御回路が駆動対象を制御するために生成する指令値に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記振幅の評価結果に基づく振幅閾値の算出基準を、ユーザ設定に基づいて前記
駆動対象の駆動速度ごとに設定することと、
前記駆動速度ごとの前記振幅の評価結果と、前記駆動速度ごとの前記算出基準とに基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を実行する診断装置。
【請求項17】
制御回路が駆動対象を制御するために生成する指令値に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わるマージンを前記振幅の評価結果に加算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を実行する診断装置。
【請求項18】
制御回路が駆動対象を制御するために生成する指令値に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わる倍率を前記振幅の評価結果に乗算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を実行する診断装置。
【請求項19】
電力変換回路が駆動対象に供給する電力に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記振幅の評価結果に基づく振幅閾値の算出基準を、ユーザ設定に基づいて前記
駆動対象の駆動速度ごとに設定することと、
前記駆動速度ごとの前記振幅の評価結果と、前記駆動速度ごとの前記算出基準とに基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を含む診断方法。
【請求項20】
電力変換回路が駆動対象に供給する電力に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わるマージンを前記振幅の評価結果に加算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を含む診断方法。
【請求項21】
電力変換回路が駆動対象に供給する電力に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わる倍率を前記振幅の評価結果に乗算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を含む診断方法。
【請求項22】
制御回路が駆動対象を制御するために生成する指令値に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記振幅の評価結果に基づく振幅閾値の算出基準を、ユーザ設定に基づいて前記
駆動対象の駆動速度ごとに設定することと、
前記駆動速度ごとの前記振幅の評価結果と、前記駆動速度ごとの前記算出基準とに基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を含む診断方法。
【請求項23】
制御回路が駆動対象を制御するために生成する指令値に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わるマージンを前記振幅の評価結果に加算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を含む診断方法。
【請求項24】
制御回路が駆動対象を制御するために生成する指令値に基づいて、前記駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、
前記駆動対象の駆動速度に応じて変わる倍率を前記振幅の評価結果に乗算した結果と、前記駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と前記駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、
前記振幅閾値プロファイルの生成後に前記振幅を再評価することと、
前記振幅を再評価する際における、前記
振幅閾値プロファイルに基づく前記振幅閾値を、前記振幅の再評価結果が超えるのに応じて前記駆動対象の異常を検出することと、を含む診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置、圧送装置、電力変換方法、プログラム、診断装置及び診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポンプの駆動用の電動機に出力する電動機電流が、あらかじめ設定した電動機無負荷電流値に低下して到達し、かつ、あらかじめ設定した時間が経過しても電動機電流が増加しない場合には、速やかにインバータ装置を停止させると共に、警報を出力する手段を備えるインバータ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、駆動対象の異常を検出する構成の簡素化に有効な電力変換装置、圧送装置、電力変換方法、プログラム、診断装置及び診断方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る電力変換装置は、一次側電力を二次側電力に変換して駆動対象に供給する電力変換回路と、電力変換回路により二次側電力を制御指令に追従させる制御回路と、を備え、制御回路は、二次側電力に基づいて駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、振幅の評価結果と、駆動対象の駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じて駆動対象の異常を検出することと、を更に実行するように構成されている。
【0006】
本開示の他の側面に係る圧送装置は、上記の電力変換装置と、駆動対象としての電動式のポンプと、を備える。
【0007】
本開示の更に他の側面に係る電力変換方法は、一次側電力を二次側電力に変換して駆動対象に供給する電力変換回路により二次側電力を制御指令に追従させることと、振幅の評価結果と、駆動対象の駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じて駆動対象の異常を検出することと、を含む。
【0008】
本開示の更に他の側面に係るプログラムは、一次側電力を二次側電力に変換して駆動対象に供給する電力変換回路により二次側電力を制御指令に追従させることと、二次側電力に基づいて駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、振幅の評価結果と、駆動対象の駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じて駆動対象の異常を検出することと、を電力変換装置に実行させるためのプログラムである。
【0009】
本開示の更に他の側面に係る診断装置は、電力変換回路が駆動対象に供給する電力に基づいて、駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、振幅の評価結果と、駆動対象の駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じて駆動対象の異常を検出することと、を実行する。
【0010】
本開示の更に他の側面に係る診断方法は、電力変換回路が駆動対象に供給する電力に基づいて、駆動対象の駆動力の振幅を評価することと、振幅の評価結果と、駆動対象の駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じて駆動対象の異常を検出することと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、駆動対象の異常を検出する構成の簡素化に有効な電力変換装置、圧送装置、電力変換方法、プログラム、診断装置及び診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】閾値の設定条件の取得手順を例示するフローチャートである。
【
図6】閾値プロファイルの設定手順を例示するフローチャートである。
【
図7】ポンプの運転手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
〔圧送装置〕
(全体構成)
図1に示す圧送装置1は、液体を圧送する電動式のポンプ20(駆動対象)と、電力変換装置30と、電装保持部13と、これらを保持するユニットベース2とを備える。
【0015】
ポンプ20は、ポンプ本体21と、ポンプ本体21を駆動するモータ22とを有する。ポンプ本体21は、非容積型の回転式ポンプである。例えばポンプ本体21は、渦巻ポンプ等の遠心ポンプであり、遠心力により液体を圧送するインペラ23を有する。なお、ポンプ本体21は、容積型のポンプであってもよいし、ダイヤフラム式又はベローズ式等の往復式ポンプであってもよい。ポンプ本体21は、定常運転時における駆動速度と駆動力との関係が定まるものであればいかなるポンプであってもよい。モータ22の具体例としては、回転型の同期電動機又は誘導電動機等が挙げられる。
【0016】
電力変換装置30は、電源91の電力(一次側電力)を駆動電力(二次側電力)に変換してモータ22に供給する。一次側電力及び二次側電力の形態に特に制限はない。一次側電力及び二次側電力は直流であってもよいし、交流であってもよい。一例として、一次側電力及び二次側電力はいずれも三相交流である。
【0017】
電装保持部13は、モータ22に固定され、電力変換装置30を保持する。例えば電装保持部13は、モータ22のフレーム外周に固定されたケースであり、その内部に電力変換装置30を保持する。
【0018】
(電力変換装置)
図2に示すように、電力変換装置30は、電力変換回路40と、制御回路100とを有する。電力変換回路40は、一次側電力を二次側電力に変換してモータ22に供給する。例えば電力変換回路40は、整流回路41と、コンデンサ43と、インバータ回路44と電流センサ45U,45V,45Wとを有する。
【0019】
整流回路41は、例えばダイオードブリッジ回路又はPWMコンバータ回路であり、一次側電力を直流電力に変換して直流母線42P,42Nに出力する。コンデンサ43は、直流母線42P,42N間の直流電圧を平滑化する。インバータ回路44は、直流母線42P,42Nの直流電力を二次側電力に変換してモータ22に供給する。例えばインバータ回路44は、複数のスイッチング素子46を有し、複数のスイッチング素子46のオン・オフを切り替えることにより直流電力を二次側電力に変換する。スイッチング素子46は、例えばパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等であり、ゲート駆動信号に応じてオン・オフを切り替える。
【0020】
電流センサ45U,45V,45Wは、電力変換回路40とモータ22との間に流れる電流を検出する。例えば電流センサ45U,45V,45Wは、U相、V相及びW相の交流電流をそれぞれ検出する。
【0021】
なお、電力変換回路40の構成はあくまで一例である。電力変換回路40は、一次側電力を二次側電力に変換し得る限りいかようにも構成可能である。例えば電力変換回路40は、電力の直流化を経ることなく一次側電力を二次側電力に変換するマトリクスコンバータであってもよい。また、一次側電力が直流電力であり、二次側電力が交流電力である場合、電力変換回路40は整流回路41を有しなくてもよい。一次側電力が交流電力であり、二次側電力が直流電力である場合、電力変換回路40はインバータ回路44を有しなくてもよい。
【0022】
制御回路100は、電力変換回路40により二次側電力を制御指令に追従させる。二次側電力を制御指令に追従させることは、二次側電力に相関する値を制御指令に追従させることを含む。例えば制御回路100は、速度指令(制御指令)にモータ22の回転速度を追従させるように、電力変換回路40に二次側電力を生成させる。一例として、制御回路100は、速度指令にモータ22の回転速度を追従させるための駆動力指令値を生成し、駆動力指令値に応じた駆動力をモータ22に発生させるように、電力変換回路40に二次側電力を生成させる。なお、制御回路100は、速度指令を上位コントローラ300から取得してもよいし、予め設定された速度指令を内部に保持していてもよい。上位コントローラ300の具体例としては、プログラマブルロジックコントローラ等が挙げられる。
【0023】
制御回路100は、二次側電力に基づいてポンプ20の駆動力の振幅を評価することと、振幅の評価結果と、ポンプ20の駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じてポンプ20の異常を検出することと、を更に実行するように構成されている。
【0024】
例えば制御回路100は、ポンプ20に異常が生じていない状態における振幅の評価結果(以下、「正常振幅」という。)と、ポンプ20の駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値プロファイルを設定するポンプ20の駆動力は、例えばモータ22がポンプ本体21に付与する駆動力である。ポンプ20の駆動速度は、モータ22によるポンプ本体21の駆動速度である。
【0025】
制御回路100は、駆動速度に応じて変わるマージンを正常振幅に加算して振幅閾値プロファイルを設定してもよいし、駆動速度に応じて変わる倍率を正常振幅に乗算して振幅閾値プロファイルを設定してもよい。
【0026】
制御回路100は、振幅閾値プロファイルを離散型データとして設定してもよい。例えば制御回路100は、振幅閾値プロファイルとして、複数の基準速度にそれぞれ対応する複数の振幅閾値を設定してもよい。駆動速度が2つの基準速度の間に位置する場合、制御回路100は、当該2つの基準速度にそれぞれ対応する2つの振幅閾値の補間により当該駆動速度に対応する振幅閾値を算出してもよい。
【0027】
制御回路100は、駆動速度を増加させながら駆動力の振幅を評価し、駆動速度の増加に応じた振幅の評価結果の増減傾向が逆転する際の駆動速度を基準速度とすることで複数の基準速度を設定し、複数の基準速度にそれぞれ対応する複数の振幅閾値を設定してもよい。
【0028】
制御回路100は、駆動力を示す力データを二次側電力に基づいて取得し、力データの振幅に基づいて駆動力の振幅を評価するように構成されていてもよい。例えば力データは、駆動力を一義的に特定するデータである。力データの具体例としては、電力変換回路40とモータ22との間に流れる電流値の指令値又は検出値(例えば電流センサ45U,45V,45Wによる検出値)が挙げられる。力データは、制御回路100がポンプ20を制御するために生成する指令値(例えば上記駆動力指令値)であってもよい。
【0029】
制御回路100は、駆動力を示す力データを二次側電力に基づいて取得し、当該力データと、当該力データの取得時よりも所定期間前から当該取得時までの間に取得した複数の力データのトレンド値との差に基づいて駆動力の振幅を評価してもよい。
【0030】
一例として、制御回路100は、機能上の構成(以下、「機能ブロック」という。)として、電力変換制御部111と、データ取得部113と、運転データ記憶部114と、振幅算出部115(振幅評価部)と、閾値算出部116と、閾値記憶部117と、異常検出部118とを有する。
【0031】
電力変換制御部111は、電流センサ45U,45V,45Wの検出値に基づいて、二次側電力を制御指令に追従させるように電力変換回路40を制御する。例えば電力変換制御部111は、上位コントローラ300から取得した速度指令、又は予め設定された速度指令等にモータ22の回転速度を追従させるように、電力変換回路40に二次側電力を生成させる。一例として、制御回路100は、速度指令にモータ22の回転速度を追従させるための駆動力指令を生成し、駆動力指令に応じた駆動力をモータ22に発生させるように、電力変換回路40に二次側電力を生成させる。
【0032】
電力変換制御部111は、上記振幅閾値を設定するためのスキャンモードの電力変換制御と、液体の圧送を目的としてポンプ20を運転するための通常モードの電力変換制御とを実行してもよい。スキャンモードの電力変換制御において、電力変換制御部111は、徐々に増加する速度指令にモータ22の回転速度を追従させるように、電力変換回路40に二次側電力を生成させる。徐々に増加することは、段階的に増加することを含む。通常モードの電力変換制御において、電力変換制御部111は、通常運転用の速度指令にモータ22の回転速度を追従させるように、電力変換回路40に二次側電力を生成させる。
【0033】
データ取得部113は、上記力データと、駆動速度を示す速度データとを取得する。速度データは、駆動速度を一義的に特定するデータであればいかなるデータであってもよい。例えばデータ取得部113は、力データとして、電流センサ45U,45V,45Wによる検出値を電力変換制御部111から取得する。また、データ取得部113は、速度データとして、速度指令の値を電力変換制御部111から取得する。運転データ記憶部114は、データ取得部113が取得したデータを時系列で記憶する。
【0034】
振幅算出部115は、力データに基づいて駆動力を評価する。例えば振幅算出部115は、運転データ記憶部114が記憶するデータに基づいて、力データの振動成分の振幅を駆動力の振幅の評価結果として算出する。例えば振幅算出部115は、力データの取得時よりも所定期間前から当該取得時までの間に取得された複数の力データに基づき力データの振動成分の振幅を算出する。
【0035】
振幅は、負側のピークから正側のピークまでの幅であってもよいし、負側のピークから正側のピークまでの幅の半分であってもよい。振動成分は、圧送装置1の定常運転における力データの振動成分である。定常運転とは、圧送対象の液体(以下、単に「液体」という。)がポンプ本体21内に充填され、ポンプ20の駆動速度が目標速度に実質的に一致した運転状態を意味する。実質的に一致とは、駆動速度と目標速度との差異が無視可能な誤差範囲内であることを意味する。振幅は、例えば所定時間内の最大値と最小値の差から求めてもよいし、高速フーリエ変換(FFT)等でも導出可能である。例えば振幅算出部115は、FFTにより所定の周波数成分の振幅を導出してもよいし、所定帯域の周波数成分における振幅の平均値又は最大値等を導出してもよい。
【0036】
振幅算出部115は、力データと、当該力データの取得時よりも所定期間前から当該取得時までの間に取得された複数の力データのトレンド値との差を駆動力の振幅の評価結果として算出してもよい。例えば振幅算出部115は、運転データ記憶部114内の最新の力データに対して、過去の力データを用いたローパス型のフィルタリングを施してトレンド値を算出する。
【0037】
ローパス型のフィルタリングの具体例としては、有限インパルス応答方式のフィルタリングが挙げられる。有限インパルス応答方式の一次フィルタリングを用いる場合、トレンド値は次式により導出される。
Y=A・X[k]+(1-A)・X[k-1]・・・(1)
Y:トレンド値
X[k]:最新の力データ
X[k-1]:一つ前に取得された力データ
A:フィルタ係数
【0038】
有限インパルス応答方式の二次フィルタリングを用いる場合、トレンド値は次式により導出される。
Y=A・X[k]+B・X[k-1]+(1-A-B)・X[k-2]・・・(2)
Y:トレンド値
X[k]:最新の力データ
X[k-1]:一つ前に取得された力データ
X[k-2]:二つ前に取得された力データ
A,B:フィルタ係数
【0039】
なお、振幅算出部115は、必ずしも最新の力データをトレンド値の算出に用いなくてもよく、過去の力データのみに基づいてトレンド値を算出してもよい。例えば、上記X[k]が、最新に対していくつか(例えば一つ)前に取得された力データであってもよい。
【0040】
閾値算出部116は、ポンプ20に異常が生じていない状態における振幅の評価結果(上記「正常振幅」)と、ポンプ20の駆動速度との関係(以下、「正常振幅プロファイル」という。)に基づいて、上記振幅閾値プロファイルを設定する。閾値記憶部117は、閾値算出部116により設定された振幅閾値プロファイルを記憶する。なお、振幅閾値プロファイルをいったん記憶させた後は、同一機種である他の電力変換装置30で、これと同一のプロファイルを流用してもよい。例えば、閾値記憶部117に記憶させた振幅閾値プロファイルを他の電力変換装置30の閾値記憶部117にコピーしてもよい。
【0041】
例えば閾値算出部116は、上記正常振幅プロファイルに所定のマージンを加算して上記振幅閾値プロファイルを設定する。閾値算出部116は、駆動速度に応じて変わるマージンを正常振幅プロファイルに加算して振幅閾値プロファイルを設定してもよい。これにより、振幅閾値と正常振幅との差が、駆動速度に応じて変わるように振幅閾値プロファイルが設定される。例えば上記マージンは、駆動速度が大きくなるのに応じて振幅閾値と正常振幅との差が大きくなるように設定されていてもよいし、正常振幅が大きくなるのに応じて振幅閾値と正常振幅との差が大きくなるように設定されていてもよい。
【0042】
閾値算出部116は、上記正常振幅プロファイルに所定の倍率を乗算して上記振幅閾値プロファイルを設定してもよい。閾値算出部116は、駆動速度に応じて変わる倍率を正常振幅プロファイルに乗算して振幅閾値プロファイルを設定してもよい。これにより、正常振幅に対する振幅閾値の倍率が、駆動速度に応じて変わるように振幅閾値プロファイルが設定される。例えば上記倍率は、駆動速度が大きくなるのに応じて大きくなるように設定されていてもよいし、正常振幅が大きくなるのに応じて大きくなるように設定されていてもよい。閾値算出部116は、振幅閾値プロファイルとして、複数の基準速度にそれぞれ対応する複数の振幅閾値を設定してもよい。
【0043】
図3は、振幅閾値プロファイルの設定例を示すグラフである。ラインL01は正常振幅プロファイルである。ラインL01に例示されるように、正常振幅プロファイルが振幅の負方向に凸となっている場合、閾値算出部116は、振幅の負方向に凸となるように振幅閾値プロファイルを設定してもよい。
【0044】
例えば閾値算出部116は、複数の基準速度V01,V02,V03のそれぞれに対応する振幅閾値に所定のマージンを加算して、振幅閾値P01,P02,P03を算出する。
図3の(a)は、上記マージンが一定である場合を例示しており、
図3の(b)は、駆動速度が大きくなるのに応じて大きくなるようにマージンが設定されている場合を例示している。
【0045】
例えば閾値算出部116は、複数の基準速度V01,V02,V03のそれぞれに対応する振幅閾値に所定の倍率を乗算して、振幅閾値P01,P02,P03を算出してもよい。
図3の(c)は、駆動速度が大きくなるのに応じて大きくなるように上記倍率が設定されている場合を例示している。
【0046】
後述するように、駆動速度が2つの基準速度の間に位置する場合、当該2つの基準速度にそれぞれ対応する2つの振幅閾値の線形補間により当該駆動速度に対応する振幅閾値が設定される。振幅閾値P01,P02,P03がこのように用いられる場合、振幅閾値P01,P02,P03を設定することは、これらを直線又は近似曲線で結んだラインL02の振幅閾値プロファイルを設定することに相当する。
【0047】
閾値算出部116は、上述したスキャンモードの制御指令設定により駆動速度が徐々に増加する過程で、駆動速度の増加に応じた正常振幅の増減傾向が逆転する際の駆動速度(以下、「逆転速度」という。)を基準速度とすることで複数の基準速度の少なくとも1つを設定してもよい。
【0048】
一例として、
図3においては、閾値算出部116が、所定の速度レンジの最小速度を基準速度V01とし、当該速度レンジの最大速度を基準速度V03とし、上記逆転速度を基準速度V02としている。なお、速度レンジは、上記通常モードの制御指令設定における速度指令の範囲等に基づいて予め設定されている。
【0049】
逆転速度は、上記増減傾向が逆転する瞬間の速度であってもよいし、当該瞬間の直前又は直後の速度であってもよい。例えば閾値算出部116は、上記増減傾向の逆転を検知した瞬間の速度を逆転速度としてもよい。増減傾向の逆転が検知されるのは、増減傾向の逆転が生じる瞬間よりも遅れる。そこで閾値算出部116は、上記増減傾向の逆転を検知した瞬間より所定時間前の速度を逆転速度としてもよい。
【0050】
異常検出部118は、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じてポンプ20の異常を検出する。例えば異常検出部118は、データ取得部113が取得した速度データと、閾値記憶部117が記憶する振幅閾値プロファイルとに基づいて振幅閾値(以下、「現在の振幅閾値」という。)を設定する。異常検出部118は、振幅算出部115が算出した振幅の評価結果(以下、「現在の振幅」という。)と、現在の振幅閾値とを比較し、現在の振幅が現在の振幅閾値を超えている場合にポンプ20の異常を検出する。異常検出部118は、異常検出の結果を上位コントローラ300又は表示デバイス等に出力してもよい。
【0051】
制御回路100は、正常振幅に基づく振幅閾値の算出基準を、ユーザ設定に基づいて駆動速度ごとに設定することを更に実行するように構成され、駆動速度ごとの正常振幅と、駆動速度ごとの算出基準とに基づいて、振幅閾値プロファイルを設定するように構成されていてもよい。例えば制御回路100は、設定条件取得部121と、設定条件記憶部122とを更に有する。
【0052】
設定条件取得部121は、上記算出基準を含む振幅閾値プロファイルの設定条件を取得する。例えば設定条件は、上記速度レンジの最小速度及び最大速度と、当該速度レンジ内における上記算出基準とを含む。算出基準の具体例としては、上記マージン又は上記倍率等が挙げられる。
【0053】
例えば設定条件取得部121は、設定条件の入力画面を設定用コンピュータ200に表示させ、ユーザにより当該入力画面に入力された設定条件を取得する。設定条件記憶部122は、設定条件取得部121が取得した設定条件を記憶する。設定用コンピュータ200の具体例としては、制御回路100との通信機能を有するパーソナルコンピュータが挙げられる。
【0054】
図4は、制御回路100のハードウェア構成を例示するブロック図である。
図4に示すように、制御回路100は、一つ又は複数のプロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、入出力ポート194と、通信ポート195とを含む。ストレージ193は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ193は、一次側電力を二次側電力に変換してポンプ20に供給する電力変換回路40により二次側電力を制御指令に追従させることと、二次側電力に基づいてポンプ20の駆動力の振幅を評価することと、振幅の評価結果と、ポンプ20の駆動速度との関係に基づいて振幅閾値プロファイルを設定することと、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じてポンプ20の異常を検出することと、を電力変換装置30に実行させるためのプログラムを記憶している。
【0055】
メモリ192は、ストレージ193の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ191による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192と協働して上記プログラムを実行することで、制御回路100の各機能ブロックを構成する。入出力ポート194は、入力電源の端子台があるほか、プロセッサ191からの指令に従って、インバータ回路44及び電流センサ45U,45V,45Wとの間で電気信号の入出力を行う。通信ポート195は、プロセッサ191からの指令に従って、設定用コンピュータ200及び上位コントローラ300との間で情報通信を行う。
【0056】
なお、制御回路100は、必ずしもプログラムにより各機能を構成するものに限られない。例えば制御回路100は、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により少なくとも一部の機能を構成してもよい。
【0057】
〔電力変換手順〕
続いて、電力変換方法の一例として、制御回路100が実行する制御手順を例示する。この制御手順は、一次側電力を二次側電力に変換してポンプ20に供給する電力変換回路40により二次側電力を制御指令に追従させることと、二次側電力に基づいてポンプ20の駆動力の振幅を評価することと、振幅の評価結果と、ポンプ20の駆動速度との関係に基づいて振幅閾値プロファイルを設定することと、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じてポンプ20の異常を検出することと、を含む。以下、この手順を、振幅閾値プロファイルの設定条件の取得手順と、振幅閾値プロファイルの設定手順と、ポンプ20の運転手順とに分けて詳細に例示する。
【0058】
(設定条件の取得手順)
図5に示すように、制御回路100は、ステップS01,S02,S03を実行する。ステップS01では、設定条件取得部121が、設定条件の入力画面を設定用コンピュータ200に表示させる。ステップS02では、設定条件の入力画面において、登録指示入力(例えば登録ボタンのクリック)がなされるのを設定条件取得部121が待機する。ステップS03では、設定条件取得部121が、設定条件の入力画面に入力された内容に基づく設定条件を取得し、設定条件記憶部122に保存する。以上で振幅閾値の設定条件の取得手順が完了する。
【0059】
(振幅閾値プロファイルの設定手順)
図6に示すように、制御回路100は、まずS11,S12,S13,S14,S15を実行する。ステップS11では、電力変換制御部111が振幅閾値プロファイルの設定指令の入力を待機する。当該設定指令は、上位コントローラ300により入力されてもよいし、ユーザにより制御回路100に直接入力されてもよい。ステップS12では、電力変換制御部111が速度指令を初期速度に設定する。初期速度は、例えば設定条件記憶部122が記憶する設定条件における速度レンジの最小速度である。
【0060】
ステップS13では、電力変換制御部111が、電流センサ45U,45V,45Wの検出値に基づいて、二次側電力を制御指令に追従させるように電力変換回路40を制御することを開始する。ステップS14では、データ取得部113が、上記力データと、上記速度データとを電力変換制御部111から取得し、運転データ記憶部114に保存する。ステップS15では、運転データ記憶部114に保存された力データの数が、駆動力の振幅の評価に必要な数に達したか否かを振幅算出部115が確認する。
【0061】
ステップS15において力データの数が駆動力の振幅の評価に必要な数に達していないと判定した場合、制御回路100は処理をステップS14に戻す。以後、駆動力の振幅の評価に必要な数の力データが運転データ記憶部114に蓄積されるまで、力データ及び速度データの取得と保存とが繰り返される。
【0062】
ステップS15において力データの数が駆動力の振幅の評価に必要な数に達したと判定した場合、制御回路100はステップS16,S17を実行する。ステップS16では、運転データ記憶部114が記憶するデータに基づいて、振幅算出部115が駆動力を評価し、上記正常振幅を算出する。ステップS17では、現在の速度(直前のステップS14で取得された速度データ)が初期速度であるか最終速度であるかを閾値算出部116が確認する。最終速度は、例えば設定条件記憶部122が記憶する設定条件における速度レンジの最大速度である。
【0063】
ステップS17において現在の速度が初期速度でも最終速度でもないと判定した場合、制御回路100はステップS18を実行する。ステップS18では、現在の速度で上記増減傾向が逆転したか否かを閾値算出部116が確認する。例えば閾値算出部116は、現在の正常振幅(直前のステップS16において算出された正常振幅)と一つ前の正常振幅(前回のステップS16において算出された振幅)との差分と、一つ前の正常振幅と二つ前の正常振幅(前々回のステップS16において算出された振幅)との差分とで、正負が逆転している場合に、上記増減傾向が逆転したと判定する。
【0064】
ステップS17において現在の速度が初期速度又は最終速度であると判定した場合、制御回路100はステップS19を実行する。ステップS19では、閾値算出部116が現在の速度を上記基準速度にする。
【0065】
ステップS18において現在の速度で増減傾向が逆転したと判定した場合、制御回路100はステップS21を実行する。ステップS21では、閾値算出部116が一つ前の速度(前回のステップS14で取得された速度データ)を上記基準速度にする。
【0066】
次に、制御回路100は、ステップS22を実行する。ステップS22では、基準速度に対応する正常振幅と、設定条件記憶部122が記憶する設定条件における算出基準とに基づいて、基準速度に対応する振幅閾値を閾値算出部116が算出し、基準速度に対応付けて閾値記憶部117に保存する。なお、基準速度に対応する正常振幅とは、速度データが基準速度に一致しているときに振幅算出部115により算出された正常振幅を意味する。
【0067】
次に、制御回路100は、ステップS23を実行する。ステップS18において現在の速度で増減傾向が逆転していないと判定した場合、制御回路100はステップS19,S21,S22を実行することなくステップS23を実行する。ステップS23では、現在の速度が最終速度であるか否かを電力変換制御部111が確認する。ステップS23において現在の速度が最終速度でないと判定した場合、制御回路100はステップS24を実行する。ステップS24では、電力変換制御部111が速度指令を変更する。例えば電力変換制御部111は、現在の速度指令の所定の増速ピッチを加算する。その後、制御回路100は処理をステップS14に戻す。以後、現在の速度が最終速度に達するまで、振幅閾値プロファイルの設定処理が継続される。
【0068】
ステップS23において現在の速度が最終速度であると判定した場合、制御回路100はステップS25を実行する。ステップS25では、電力変換制御部111が、電力変換回路40により二次側電力を制御指令に追従させる制御を停止する。以上で振幅閾値プロファイルの設定手順が完了する。
【0069】
(ポンプの運転手順)
図7に示すように、制御回路100は、まずステップS31,S32,S33,S34,S35を実行する。ステップS31では、電力変換制御部111がポンプ20の運転指令の入力を待機する。当該運転指令は、上位コントローラ300により入力されてもよいし、ユーザにより制御回路100に直接入力されてもよい。ステップS32では、電力変換制御部111が速度指令を通常速度に設定する。通常速度は、通常運転用に予め設定されている。
【0070】
ステップS33では、電力変換制御部111が、電流センサ45U,45V,45Wの検出値に基づいて、二次側電力を制御指令に追従させるように電力変換回路40を制御することを開始する。ステップS34では、データ取得部113が、上記力データと、上記速度データとを電力変換制御部111から取得し、運転データ記憶部114に保存する。ステップS35では、運転データ記憶部114に保存された力データの数が、駆動力の振幅の評価に必要な数に達したか否かを振幅算出部115が確認する。
【0071】
ステップS35において力データの数が駆動力の振幅の評価に必要な数に達していないと判定した場合、制御回路100は処理をステップS14に戻す。以後、駆動力の振幅の評価に必要な数の力データが運転データ記憶部114に蓄積されるまで、力データ及び速度データの取得と保存とが繰り返される。
【0072】
ステップS35において力データの数が駆動力の振幅の評価に必要な数に達したと判定した場合、制御回路100はステップS36,S37,S38を実行する。ステップS36では、運転データ記憶部114が記憶するデータに基づいて、振幅算出部115が駆動力の振幅を評価する。以下、ステップS36における振幅の評価結果を「現在の振幅」という。
【0073】
ステップS37では、現在の速度と、閾値記憶部117が記憶する振幅閾値プロファイルとに基づいて、異常検出部118が振幅閾値(以下、「現在の振幅閾値」という。)を設定する。ステップS38では、現在の振幅が現在の振幅閾値を超えているか否かを異常検出部118が確認する。
【0074】
ステップS38において現在の振幅が現在の振幅閾値を超えていると判定した場合、制御回路100はステップS39を実行する。ステップS39では、異常検出部118がポンプ20の異常を検出し、検出結果を上位コントローラ300又は表示デバイス等に出力する。
【0075】
次に、制御回路100はステップS41を実行する。ステップS38において現在の振幅が現在の振幅閾値を超えていないと判定した場合、制御回路100はステップS39を実行することなくステップS41を実行する。ステップS41では、ポンプ20の停止指令があるか否かを電力変換制御部111が確認する。当該停止指令は、上位コントローラ300により入力されてもよいし、ユーザにより制御回路100に直接入力されてもよい。
【0076】
ステップS41においてポンプ20の停止指令がないと判定した場合、制御回路100は処理をステップS14に戻す。以後、停止指令が入力されるまで、電力変換制御と、振幅の監視とが継続される。
【0077】
ステップS41においてポンプ20の停止指令があると判定した場合、制御回路100はステップS42を実行する。ステップS42では、電力変換制御部111が、電力変換回路40により二次側電力を制御指令に追従させる制御を停止する。以上でポンプの運転手順が完了する。
【0078】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、電力変換装置30は、一次側電力を二次側電力に変換してポンプ20に供給する電力変換回路40と、電力変換回路40により二次側電力を制御指令に追従させる制御回路100と、を備え、制御回路100は、二次側電力に基づいてポンプ20の駆動力の振幅を評価することと、振幅の評価結果と、ポンプ20の駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じてポンプ20の異常を検出することと、を更に実行するように構成されている。
【0079】
この電力変換装置30によれば、上記評価結果と駆動速度との関係に基づいて振幅閾値プロファイルが設定され、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じてポンプ20の異常が検出される。これにより、駆動力の振幅が大きい駆動速度における異常の誤検出を抑制しつつ、駆動力の振幅が小さい駆動速度における異常の検出感度を向上させることができる。このように、誤検出の抑制と検出感度の向上とを両立した異常検出を電力変換装置30が行うことによって、ポンプ20の異常を検出する構成の簡素化が可能となる。
【0080】
制御回路100は、振幅の評価結果に基づく振幅閾値の算出基準を、ユーザ設定に基づいて駆動速度ごとに設定することを更に実行するように構成され、駆動速度ごとの振幅の評価結果と、駆動速度ごとの算出基準とに基づいて、振幅閾値プロファイルを設定してもよい。この場合、振幅の評価結果と、ユーザ設定との両方に基づいて振幅閾値プロファイルが設定されるので、よりユーザニーズに合致した異常検出を行うことが可能となる。
【0081】
制御回路100は、駆動速度に応じて変わるマージンを振幅の評価結果に加算して振幅閾値プロファイルを設定してもよい。この場合、誤検出の抑制と検出感度の向上との両立をより確実に図ることができる。
【0082】
制御回路100は、駆動速度に応じて変わる倍率を振幅の評価結果に乗算して振幅閾値プロファイルを設定してもよい。この場合、誤検出の抑制と検出感度の向上との両立をより確実に図ることができる。
【0083】
制御回路100は、振幅閾値プロファイルとして、複数の基準速度にそれぞれ対応する複数の振幅閾値を設定し、駆動速度が2つの基準速度の間に位置する場合には、当該2つの基準速度にそれぞれ対応する2つの振幅閾値の補間により当該駆動速度に対応する振幅閾値を算出してもよい。この場合、振幅閾値プロファイルのデータ点数を削減することができる。
【0084】
制御回路100は、駆動速度を増加させながら駆動力の振幅を評価し、駆動速度の増加に応じた振幅の評価結果の増減傾向が逆転する際の駆動速度を基準速度とすることで複数の基準速度の少なくとも1つを設定してもよい。この場合、振幅の評価結果と駆動速度との関係に振幅閾値プロファイルを対応させることと、上記データ点数の削減との両立を図ることができる。
【0085】
制御回路100は、駆動力を示す力データを二次側電力に基づいて取得し、力データの振幅に基づいて駆動力の振幅を評価してもよい。この場合、駆動力の振幅を高い信頼性で導出することができる。
【0086】
制御回路100は、駆動力当該値の取得時よりも所定期間前から当該取得時までの間に取得された駆動力の複数の値に基づく駆動力のトレンド値との差を駆動力の振幅として算出することを更に実行するように構成されていてもよい。この場合、異常が突発した状況等においても、ポンプ20の異常を迅速に検出し得る。
【0087】
以上、実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。上述の実施形態においては、電力変換回路40がポンプ20に供給する電力に基づいて、ポンプ20の駆動力の振幅を評価することと、振幅の評価結果と、ポンプ20の駆動速度との関係に基づいて、振幅閾値と駆動速度との関係を示す振幅閾値プロファイルを設定することと、振幅閾値プロファイルに基づく振幅閾値を振幅の評価結果が超えるのに応じてポンプ20の異常を検出することと、を含む診断手順を実行する診断装置が圧送装置1の制御回路100に組み込まれた構成を例示したが、診断装置は、制御回路100の外部に設けられていてもよい。例えば、
図8に示す診断装置400は、制御回路100の外部に構成されており、データ取得部113と、運転データ記憶部114と、振幅算出部115と、閾値算出部116と、閾値記憶部117と、異常検出部118と、設定条件取得部121と、設定条件記憶部122とを有する。診断装置は上位コントローラ300に組み込まれていても良い。また、電動式の駆動対象は圧送装置1に限られない。電動式の駆動対象は、ファン及び撹拌機等、電動式のモータを動力源とするものであればよい。また、モータ自体が電動式の駆動対象であってもよい。
【符号の説明】
【0088】
1…圧送装置、13…電装保持部、20…ポンプ(駆動対象)、30…電力変換装置、40…電力変換回路、100…制御回路、400…診断装置。