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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】表示部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
G02B27/01
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022091544
(22)【出願日】2022-06-06
(62)【分割の表示】P 2017253427の分割
【原出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2022113756
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛山 章伸
(72)【発明者】
【氏名】黒田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】中村 典永
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-076044(JP,A)
【文献】特開2005-321544(JP,A)
【文献】特開2017-068008(JP,A)
【文献】特開2015-034918(JP,A)
【文献】特開2017-125882(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0023315(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-30/60
B60K 35/00-37/06
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有し、かつ、反射層を有する表示部材であり、
該表示部材は、投射された画像を反射させて視認させ、
該反射層の投射画像の入射光側に、リタデーション値が7,000nm以上である複屈折率層が設けられてなり、
前記複屈折率層は、複屈折率層の遅相軸が水平方向になるように設けられてなることを特徴とする
表示部材。
【請求項2】
前記表示部材が、車載用ヘッドアップディスプレイの投影用表示部材である、請求項1に記載の表示部材。
【請求項3】
前記表示部材が、車載用ヘッドアップディスプレイのコンバイナーである、請求項1又は2に記載の表示部材。
【請求項4】
前記表示部材に、携帯型情報端末の画像が投射される、請求項1~3のいずれかに記載表示部材。
【請求項5】
前記複屈折率層が、ポリエステルからなる、請求項1~4のいずれかに記載の表示部材。
【請求項6】
前記複屈折率層が、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートからなる、請求項1~5のいずれかに記載の表示部材。
【請求項7】
前記複屈折率層の厚みが、20μm以上150μm以下である、請求項1~のいずれかに記載の表示部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両の運転者に情報を表示する方法として、ヘッドアップディスプレイ(以下、「HUD」ともいう。)などの情報表示装置が用いられている。これは、携帯型情報端末等の情報投射手段から投射された光学的情報を、自動車のフロントガラスやコンバイナーに映し、情報を前景に重畳して表示するものである。
このような情報表示装置によって、運転者は殆んど視点を動かすことなく情報を読みとることが可能となった。そのため、運転状態のままで素早く情報を獲得できるようになった。
特許文献1には、携帯型情報端末の表示窓で表示された画像のうち少なくとも着信元情報を撮像する撮像手段と、この撮像手段で撮像された着信元情報を表示する車内表示部とを備え、この車内表示部は前記車両の運転者の前方視野内に配置されるヘッドアップディスプレイである、ことを特徴とする車両用表示装置が記載されている。
また、特許文献2には、裸眼状態での視認性と、偏光サングラスを装用した状態での視認性とを両立するヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的として、偏光板の投射偏光方位角と透過軸方位角とを異ならせることにより、投影部材に反射された画像の光の偏光方向が画像縦方向及び画像横方向の両方に対して傾くように調整するヘッドアップディスプレイ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-264410号公報
【文献】特開2017-102347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
観察者が偏光サングラスを装用した場合に、虹ムラによる視認性の低下が生じるという問題があった。
また、外部から水面反射した光などの偏向光が画面内に局所的に入射した際に、映像に局所的なムラが生じるという問題があった。
本発明は、このような問題を解決するものであり、上述のような場合であっても、視認性の向上した表示部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、表示部材の反射層の投影画像の入射光側に、リタデーション値が3,000nm以上である複屈折率層を設けることによって、上記の課題が解決しうることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0006】
本発明は、以下の[1]~[7]に関する。
[1] 透光性を有し、かつ、反射層を有する表示部材であり、該表示部材は、投射された画像を反射させて視認させ、該反射層の投射画像の入射光側に、リタデーション値が3,000nm以上である複屈折率層が設けられてなることを特徴とする表示部材。
[2] 前記表示部材が、車載用ヘッドアップディスプレイの投影用表示部材である、[1]に記載の表示部材。
[3] 前記表示部材が、車載用ヘッドアップディスプレイのコンバイナーである、[1]又は[2]に記載の表示部材。
[4] 前記表示部材に、携帯型情報端末の画像が投射される、[1]~[3]のいずれかに記載表示部材。
[5] 前記複屈折率層が、ポリエステルからなる、[1]~[4]のいずれかに記載の表示部材。
[6] 前記複屈折率層が、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートからなる、[1]~[5]のいずれかに記載の表示部材。
[7] 前記複屈折率層は、複屈折率層の遅相軸が水平方向になるように設けられてなる、[1]~[6]のいずれかに記載の表示部材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、観察者が偏光サングラスを装用した場合であっても虹ムラによる視認性の低下が抑制され、更に、外部から水面反射した光などの偏向光が画面内に局所的に入射した場合であっても、映像に生じる局所的なムラが抑制され、視認性の向上した表示部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の表示部材を有する表示装置の一例を模式的に示す断面図である。
図2】複屈折率層と二重像の発生の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明において、数値範囲を表す「A~B」の記載は、端点を含む数値範囲を表す。すなわち、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は、「A以下B以上」(A>Bの場合)を表す。また、以下の説明において、好ましい態様の組合せは、より好ましい態様である。
以下、本発明の実施形態を説明する。
[表示部材]
本発明の表示部材は、透光性を有し、かつ、反射層を有する表示部材であり、該表示部材は、投射された画像を反射させて視認させ、該反射層の投射画像の入射光側に、リタデーション値が3,000nm以上である複屈折率層が設けられてなることを特徴とする。
本発明の表示部材は、反射層の投影画像の入射光側に、リタデーション値が3,000nm以上である複屈折率層を設けることにより、観察者が偏光サングラスを装用した場合であっても虹ムラによる視認性の低下が抑制され、更に、外部から水面反射した光などの偏向光が画面内に局所的に入射した場合であっても、映像に生じる局所的なムラが抑制され、視認性の向上した表示部材が提供される。
なお、虹ムラとは、偏光した光が配向フィルムに入射し、出射する際に観察される縞状に発生するレインボー色のムラであり、裸眼でも視認される場合があるが、偏光サングラスを介して観察した際に明りょうに視認されるものである。
【0010】
本発明において、表示部材は、透光性を有すると共に、投射された画像を反射させて視認させるものであれば特に限定されず、ヘッドマウントディスプレイの表示部材、ヘッドアップディスプレイの表示部材、銃器のダットサイトの表示部材等に使用される。
これらの中でも、車載用ヘッドアップディスプレイの投影用表示部材であることが好ましい。車載用ヘッドアップディスプレイの投影用表示部材は、コンバイナーであってもよく、フロントウィンドウの全体又は一部を表示部材としてもよい。
本発明の表示部材は、加工の容易性等の観点から、車載用ヘッドアップディスプレイのコンバイナーであることが特に好ましい。
【0011】
図1は、本発明の表示部材を有する表示装置の一例を模式的に示す断面図である。図1は、本発明の表示部材がコンバイナーである場合の一例である。
図1に示す表示装置10において、本発明の表示部材12は、保持部材20を介して、本体部22に回動自在に軸支されている。本体部22の底面には、調節可能な脚部24が必要に応じて設けられ、この脚部24が表示装置の設置場所(例えば、車両のダッシュボード上)に保持される。脚部24は、本体部22から脱着可能であり、必要に応じて使用される。本体部22内には、携帯型情報端末等の情報表示源26が備えられている。
情報表示源26からの光3は、反射鏡28及び反射層を有する表示部材12で反射され、観察者1(例えば自動車の運転者)に運転情報などの表示像2として視認される。
なお、使用時における表示部材12の水平方向に対する角度はθwであり、表示部材12に対する光3の入射角及び出射角はθiである。図1中、rは、表示部材12から表示像2までの距離を示す。
【0012】
図1中、情報表示源26は特に限定されず、表示装置に備え付けられた測位システムにより地図情報を表示するものであってもよく、速度計等の車両情報を表示するものであってもよい。また、情報表示源26として携帯型情報端末を使用してもよく、その場合には、情報表示源26を保持する固定部材を備えることが好ましい。
情報表示源26として、携帯型情報端末を使用する場合、該携帯型情報端末の表面に、保護フィルム等として、面内に複屈折を有するフィルムやシートが貼付されている場合がある。このような場合に、反射鏡28により表示部材12に投影された画像に虹ムラが発生するという問題があった。本発明では、表示部材12の投射画像の入射光側に、リタデーション値が3,000nm以上である複屈折率層が設けられており、このような虹ムラの発生が抑制されるため、情報表示源26として携帯型情報端末を好適に使用できる。なお、後述するように、投射画像は、複屈折率層を2回通過して視認されるため、実際にはリタデーション値が6,000nmのフィルムとして機能する。従って、面内に複屈折を有するフィルムやシートのリタデーション値を、複屈折率層のリタデーション値を2倍した値から差し引いても、3,000nm以上となり、虹ムラの発生が十分に抑制される。
一方、外部より偏向光が入射した場合には、外部偏向光によるムラが映像に重畳され、視認性が低下するが、この場合には、外部光は、表示部材を一度のみ通過するため、リタデーション値が3,000nm以上である複屈折率層を設ける必要がある。
【0013】
<複屈折率層>
本発明の表示部材の投射画像の入射側に設けられる複屈折率層について、以下に説明する。
複屈折率層は、高い透光であることが好ましく、可視光領域における透過率が80%以上であることが好ましく、84%以上であるものがより好ましい。なお、上記透過率は、JIS K7361-1:1997(プラスチック-透明材料の全光透過率の試験方法)により測定することができる。
【0014】
複屈折率層の材料としては特に限定されず、例えば、ポリカーボネート、オレフィンポリマー、アクリル、ポリエステル等が挙げられるが、これに限定されるものではない。これらの中でも、コスト、機械的強度、及び後述するように大きなリタデーションが得られる等の観点から、複屈折率層は、ポリエステルからなることが好ましい。
【0015】
上記ポリエステルを構成する材料としては、特に限定されないが、所望のリタデーションを得る観点から、芳香族二塩基酸又はそのエステル形成性誘導体とジオール又はそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルが好ましい。かかるポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン-2,6-ナフタレートを例示することができる。
また、ポリエステル基材に用いられるポリエステルは、これらのポリエステルの共重合体であってもよく、上記ポリエステルを主体(例えば80モル%以上の成分)とし、少割合(例えば20モル%以下)の他の種類の樹脂とブレンドしたものであってもよい。
上記ポリエステルとして、力学的物性や光学物性等のバランスに優れる点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)が特に好ましい。ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレン-2,6-ナフタレートは汎用性が高く、入手が容易である。本発明においてはPET及びPENのような、汎用性が極めて高いフィルムであっても、複屈折率層として使用できる。
更に、PET及びPENは、透明性、熱又は機械的特性に優れ、延伸加工によりリタデーションの制御が可能であり、固有複屈折が大きく、膜厚が薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得られる。
【0016】
上記複屈折率層は、リタデーションが3,000nm以上である。リタデーションが3,000nm未満であると、高い視認性を得ることが困難である。上記基材のリタデーションの上限としては特に限定されないが、薄膜化の観点や、取扱い性やコストの観点から、30,000nm以下であることが好ましい。上記基材のリタデーションは、より好ましくは5,000~25,000nm、更に好ましくは、7,000~20,000nmである。
【0017】
なお、上記リタデーションとは、複屈折率層の面内において遅相軸方向の屈折率(nx)と、進相軸方向の屈折率(ny)と、複屈折率層の厚み(d)とにより、以下の式によって表わされる。
リタデーション(Re)=(nx-ny)×d
上記リタデーションは、例えば、王子計測機器株式会社製、PAM‐UHR100(測定角0°、測定波長590nm)、KOBRA‐HBPR/SPC(測定角0°、測定波長590nm)、KOBRA-WR(測定角0°、測定波長589.3nm)によって測定することができる。
また、二枚の偏光板を用いて、複屈折率層の配向軸方向(主軸の方向)を求め、配向軸方向に対して直交する二つの軸の屈折率(nx、ny)を、アッベ屈折率計(株式会社アタゴ製、NAR-4T)によって求めてもよい。ここで、より大きい屈折率を示す軸を遅相軸と定義する。複屈折率層の厚みd(nm)は、電気マイクロメータ(アンリツ株式会社製)を用いて測定し、単位をnmに換算する。屈折率差(nx-ny)と、複屈折率層の厚みd(nm)との積より、リタデーションを計算することもできる。
上記リタデーションの測定は、複屈折率層の中央で行い、温度25±5℃、湿度50±10℃の条件で行う。
【0018】
以下、複屈折率層がポリエステル、特に、PETである場合を中心に記載する。
本発明では、上記複屈折率層がPETを原料とするPET層である場合、上記屈折率差(nx-ny)(以下、Δnとも表記する)は、好ましくは0.05以上である。上記Δnが0.05以上であると、上述したリタデーション値を得るために必要な膜厚を薄くすることができるので好ましい。一方、上記Δnは、好ましくは0.25以下である。0.25以下であると、PET層を過度に延伸する必要がなく、PET層の裂け、破れ等が抑制され、工業材料としての実用性に優れるので好ましい。
以上の観点から、上記Δnは、より好ましくは0.07以上であり、また、耐久性の観点から、より好ましくは0.20以下である。
上記遅相軸方向の屈折率(nx)は、好ましくは1.66以上、より好ましくは1.68以上であり、また、好ましくは1.78以下、より好ましくは1.73以下である。進相軸方向の屈折率(ny)は、好ましくは1.55以上、より好ましくは1.57以上であり、また、好ましくは1.65以下、より好ましくは1.62以下である。
【0019】
また、上記複屈折率層がポリエチレンナフタレート(PEN)を原料とするPEN層である場合、上記Δnは、好ましくは0.05以上である。上記Δnが0.05以上であると、上述したリタデーション値を得るために必要な膜厚を薄くすることができるので好ましい。一方、上記Δnは、好ましくは0.30以下である。上記Δnが0.30以下である、PEN層の裂け、破れ等が抑制され、工業材料としての実用性に優れるので好ましい。上記PEN層である場合のΔnは、より好ましくは0.07以上であり、また、より好ましくは0.27以下、更に好ましくは0.25以下である。
なお、上記PEN層である場合の遅相軸方向の屈折率(nx)は、好ましくは1.70以上、より好ましくは1.72以上であり、また、好ましくは1.95以下、より好ましくは1.90以下である。また、上記PEN層である場合の進相軸方向の屈折率(ny)は、好ましくは1.55以上、より好ましくは1.57以上であり、また、好ましくは1.87以下、より好ましくは1.73以下である。
【0020】
上記ポリエステル層を得る方法としては、上述したリタデーションを充足する方法であれば特に限定されないが、例えば、材料の上記PET等のポリエステルを溶融し、シート状に押出し成形された未延伸ポリエステルをガラス転移温度以上の温度においてテンター等を用いて横延伸後、熱処理を施す方法が挙げられる。
上記横延伸温度としては、好ましくは80~130℃、より好ましくは90~120℃である。また、横延伸倍率は、好ましくは2.5~6.0倍、より好ましくは3.0~5.5倍である。上記横延伸倍率が6.0倍以下であると、得られるポリエステル層の透明性に優れ、延伸倍率が2.5倍以上であると、必要な延伸張力が得られ、得られるポリエステル層の複屈折が大きくなり、所望のリタデーションが得られるので好ましい。
上記ポリエステル層は、二軸延伸試験装置を用いて、上記未延伸ポリエステルの横延伸を上記条件で行った後、該横延伸に対する流れ方向の延伸(以下、縦延伸ともいう)を行ってもよい。この場合、上記縦延伸は、延伸倍率が好ましくは2倍以下である。上記縦延伸の延伸倍率が2倍以下であると、所望のΔnを達成しやすいので好ましい。
また、上記熱処理時の処理温度としては、好ましくは80~250℃、より好ましくは100~220℃である。
【0021】
上述した方法で作製したポリエステル層のリタデーションを3,000nm以上に制御する方法としては、延伸倍率や延伸温度、作製するポリエステル層の膜厚を適宜設定する方法が挙げられる。具体的には、例えば、延伸倍率が高いほど、延伸温度が低いほど、また、膜厚が厚いほど、高いリタデーションを得やすくなり、延伸倍率が低いほど、延伸温度が高いほど、また、膜厚が薄いほど、低いリタデーションを得やすくなる。
【0022】
上記ポリエステル層の厚みとしては、好ましくは20μm以上、より好ましくは50μm以上であり、また、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは150μm以下である。ポリエステル層の厚みが20μm以上であると、所望のリタデーションの達成が容易となり、また、力学特性の異方性に由来する、裂け、破れ等が抑制され、工業材料としての実用性に優れるので好ましい。また、500μm以下であると、ポリエステル層がしなやかさを有し、工業材料としての実用性に優れるので好ましい。
【0023】
なお、本発明において、複屈折率層の厚みを薄くすると、多重像(特に二重像)の発生による視認される画像の滲みが抑制されるので好ましい。
図2を参照して説明する。図2に示すように、投射された画像(映像光)の一部は、複屈折率層表面で反射し、一方、複屈折率層に入射した映像光は、反射層で反射される。ここで、像のずれ幅を小さくするか、又は複屈折率層表面での反射を小さくすれば、二重像を抑制することができる。
像のずれ幅を小さくするためには、複屈折率層の層厚を薄くするか、又は図2中のθi’を小さくすることが有効である。θi’を小さくするためには、スネルの法則より、複屈折率層の屈折率を大きくすればよい。また、複屈折率層の屈折率を大きくすることにより、結果として上述したΔnを大きくすることができ、同じリタデーション値を得るための膜厚を薄くすることが可能である。従って、像のずれ幅を小さくするためには、屈折率が大きく、層厚の薄い複屈折率層とすることが有効である。
一方、複屈折率表面での反射率を小さくするためには、複屈折率層の屈折率を小さくすることが有効であるが、複屈折率層の屈折率を小さくすると、像のずれ幅は大きくなってしまう。複屈折率層の表面に、反射防止層を設けることによって、複屈折率層表面の反射率を低下させることができる。
以上より、像のずれ幅及び複屈折率層表面での反射率を小さくすることに関し、複屈折率層の屈折率を選択することだけでは、両者を十分に満足することができない。従って、複屈折率層の屈折率を大きくし、かつ、複屈折率層の厚みを薄くすることで、像のずれ幅を小さくすることが重要であり、更に、反射防止層を設けて二重像濃度を下げることより好ましい。殊に、車載ではθiが大きく反射強度もずれ幅も大きくなり二重像が目立ちやすいのでより有効となる。複屈折率層の屈折率を大きくし、かつ、複屈折率層の厚みを薄くすることで、像のずれ幅を小さくすることが重要であり、更に、反射防止層を設けて二重像濃度を下げることがより好ましい。殊に、車載用のコンバイナーでは、θiが大きく反射強度もずれ幅も大きくなり二重像が目立ちやすいので、より有効となる。
【0024】
なお、本発明において、観察者に視認される光(図1中の3)は、図2により明らかなように、複屈折率層を二回通過している。具体的には、複屈折率層に入射した光は、反射層で反射し、出射する際にもう一度複屈折率層を通過する。
従って、例えば、情報表示源と反射鏡との間や、反射鏡と表示部材との間にリタデーション値が3,000nm以上であるフィルムやシート等を配置した場合に比して、2倍のリタデーション値が得られる。その結果、同じリタデーションのフィルムやシートを使用した場合に、より視認性を向上させることができる。また、複屈折率層の層厚が半分で同様の視認性が得られると共に、多重像の滲みを抑制することができる。
【0025】
また、本発明において、上記複屈折率層には本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、プライマー塗布、けん化処理、グロー放電処理、コロナ放電処理、紫外線(UV)処理、及び火炎処理等の表面処理を行ってもよい。
【0026】
本発明において、複屈折率層は、複屈折率層の遅相軸が、水平方向になるように設けられていることが好ましい。
本発明の表示部材を車載用ヘッドアップディスプレイの投影用表示部材として使用する場合、外部から水面反射光が入射する場合がある。このような場合に、複屈折率層の遅相軸が水平方向になるように複屈折率層を設けることで、視認性の低下を抑制することができる。
【0027】
<反射層>
本発明の表示部材は、反射層を有する。
反射層は、少なくとも表示部材の複屈折率層よりも表示像側(入射光側と反対側)に設けられており、反射層と複屈折率層との間に、他の層を有していてもよく、特に限定されない。
反射層は、透光性及び反射性を有するハーフミラーであり、ヘッドアップディスプレイ、ヘッドマウントディスプレイ等の表示部材の反射層として知られている、公知の反射層を適宜採用すればよい。
具体的には、特開2012-123393号公報等に記載された、フレネルレンズを応用した反射層;蒸着等により形成した、錫や銀の薄膜;反射型ホログラムを用いた反射層;国際公開2015/050203号等に記載された、コレステリック液晶層を固定した層を有するハーフミラー等が例示される。
【0028】
本発明の表示部材は、少なくとも反射層及び複屈折率層を有していればよいが、反射層から投影画像の入射光側表面までの距離は、多重像の発生を抑制する観点から、短いことが好ましい。すなわち、反射層から投影画像の入射光側表面までの厚みが薄いことが好ましい。
表示部材は、複屈折率層と反射層とが直接積層されていてもよいし、複屈折率層と反射層との間に、他の層、例えば支持体層等が設けられていてもよい。
また、複屈折率層と反射層とを直接積層し、更に、反射層の複屈折率層とは反対面に支持体層等を設けてもよい。
なお、本発明において、表示部材の複屈折率層の更に投影画像の入射側の表面に、反射防止層を設けてもよく、多重像の発生による画像の滲みを抑制する観点からは、反射防止層を設けることが好ましい。反射防止層としては、公知の反射防止層から適宜選択すればよく、特に限定されない。
【実施例
【0029】
以下、本発明について、実施例及び比較例を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
[実施例1]
<表示部材の製造方法>
複屈折率層としては、下記特性を有する二軸延伸ポリエステルフィルムを使用した。
厚み:80μm
波長589.3nmのリタデーション(Re):8,000nm
nx(598.3nm)=1.70
ny(598.3nm)=1.60
Δn(598.3nm)=0.10
上記ポリエステルフィルム(複屈折率層)に全光透過率40%のアルミのハーフ蒸着膜(反射層)を形成し、更に、アルミ蒸着膜層側に支持体層を接着剤にて貼付した。
得られた表示部材を、上記ポリエステルフィルムの遅相軸が水平方向となるように、図1の表示装置の表示部材12に組み込み、評価を行った。なお、情報表示源26としては、液晶表示装置を備えた携帯型情報端末であって、出射側画面上にリタデーション値が500nm以上の配向フィルムを備えていない、携帯型情報端末を使用した。
【0030】
[比較例1]
複屈折率層として、実施例1で使用した複屈折率層と同じ厚みを有し、リタデーション値が1,500nmである二軸延伸ポリエステルフィルムを使用した以外は、実施例1と同様にして表示装置を得た。
【0031】
[比較例2]
複屈折率層として、実施例1で使用した複屈折率層と同じ厚みを有し、リタデーション値が2,000nmである二軸延伸ポリエステルフィルムを使用した以外は、実施例1と同様にして表示装置を得た。
【0032】
[評価]
(1)視認性試験-1
偏光サングラスを装着して、コンバイナーに映し出された映像の視認性を評価した。
(2)視認性試験-2
外部の水面反射光をコンバイナーの裏面から入射させて、視認性試験-1と同様に映像の視認性を評価した。
(3)視認性試験-3
保護フィルムとして、面内に複屈折を有するリタデーション値が500nmであるPETフィルムを貼付した携帯型情報端末を使用した以外は、視認性試験-1と同様に映像の視認性を評価した。なお、前記PETフィルムの遅相軸は、垂直方向とし、複屈折率層の遅相軸と直交する方向とした。
評価基準は、以下の通りである。
A:コンバイナーの全面において、良好な視認性が得られる
B:コンバイナーの一部に虹ムラ等の若干の視認性の悪化が見られるが、実用上問題はない
C:コンバイナーに虹ムラや輝度の低下等の視認性の悪化が認められ、実用上問題である。
結果を以下の表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示すように、実施例1では、観察者がサングラスを装着していても、良好な視認性が得られ、また、表示部材の裏面(反射層側)から、偏向光が入射しても、良好な視認性が得られた。更に、携帯型情報端末に、面内に複屈折を有するフィルムが貼付されていても、良好な視認性が得られた。
一方、比較例1では、いずれの視認性試験においても、十分な視認性を得ることができなかった。
実施例1の二軸延伸ポリエステルに代えて、同じリタデーション値を有し、厚みが40μmである二軸延伸PENを使用した場合には、視認試験-1~視認試験-3で良好な結果が得られ、更に、二重像が抑制され、より映像が鮮明となった。
また、実施例1の表示部材の複屈折率層表面に、反射防止層として、フッ素材料を用いた低屈折率層からなる層を形成し、同様に視認性を評価した場合、二重像が抑制され、より映像が鮮明となった。
なお、反射鏡に複屈折率層を設けた場合には、携帯型情報端末に、面内に複屈折を有するフィルムが貼付されていた場合には、良好な視認性が得られたが、外部からの偏向光の入射や、観察者がサングラスを装着していた場合には、視認性の改善効果が認められなかった。また、二重像は実施例1に比べてはっきりと視認された。
【符号の説明】
【0035】
1 観察者
2 表示像
3 光
10 表示装置
12 表示部材
20 保持部材
22 本体部
24 脚部
26 情報表示源
28 反射鏡
図1
図2