(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】内燃機関の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 23/00 20060101AFI20230511BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20230511BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
F02D23/00 K
F02D29/02 331Z
F02D43/00 301B
F02D43/00 301R
(21)【出願番号】P 2022501378
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 IB2020000096
(87)【国際公開番号】W WO2021165711
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 良彦
(72)【発明者】
【氏名】吉村 太
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-188486(JP,A)
【文献】特開2017-172565(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126277(WO,A1)
【文献】特開2018-168795(JP,A)
【文献】特開2001-159363(JP,A)
【文献】特開2006-322335(JP,A)
【文献】特開2007-332938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 ー 45/00
F01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも排気弁側に可変動弁機構を有し、排気弁閉時期が上死点よりも遅くかつ吸気弁開時期に対してポジティブオーバラップとなる第1のバルブタイミングと、排気弁閉時期が上死点よりも早い第2のバルブタイミングと、に制御可能であるとともに、過給機を備えた車両用内燃機関の制御方法であって、
触媒が未暖機の触媒暖機運転中に、
過給が行われないアイドル運転を含む低負荷側の第1の運転領域では第1のバルブタイミングとし、
過給が行われる車両の発進加速状況を含む高負荷側の第2の運転領域では第2のバルブタイミングとし、
車両停止中のアイドル時
に第1のバルブタイミング
に制御されている状態から、車両の発進加速が行われ、吸気圧が大気圧近傍の所定の圧力閾値以上となるか、または、要求負荷が機関回転速度毎に予め設定された所定の負荷閾値以上となったら、第2のバルブタイミングに切り換える、
車両用内燃機関の制御方法。
【請求項2】
上記圧力閾値は、第1のバルブタイミングの下で吸気弁開時期における筒内圧と吸気圧とがバランスする圧力として予め設定されている、
請求項
1に記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項3】
固定もしくは可変制御される吸気弁開時期に対して、第2のバルブタイミングではネガティブオーバラップとなる、
請求項1
または2に記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項4】
触媒暖機運転中は、リタード燃焼を行う、
請求項1~
3のいずれかに記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項5】
第2のバルブタイミングにおける排気弁閉時期は、上死点前25°CAもしくはこれよりも進角側にある、
請求項1~
4のいずれかに記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項6】
吸気弁と、
排気弁と、
排気系に設けられた触媒と、
少なくとも排気弁側に設けられた可変動弁機構を含み、排気弁閉時期が上死点よりも遅くかつ吸気弁開時期に対してポジティブオーバラップとなる第1のバルブタイミングと、排気弁閉時期が上死点よりも早い第2のバルブタイミングと、を実現可能な動弁装置と、
過給機と、
を備えた車両用内燃機関の制御装置であって、
触媒が未暖機の触媒暖機運転中に、上記動弁装置を、
過給が行われないアイドル運転を含む低負荷側の第1の運転領域では第1のバルブタイミングとし、
過給が行われる車両の発進加速状況を含む高負荷側の第2の運転領域では第2のバルブタイミングとし、
車両停止中のアイドル時
に第1のバルブタイミングに制御
されている状態から、車両の発進加速が行われ、吸気圧が大気圧近傍の所定の圧力閾値以上となるか、または、要求負荷が機関回転速度毎に予め設定された所定の負荷閾値以上となったら、第2のバルブタイミングに切り換える、
車両用内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用内燃機関において、排気系に設けられた触媒の暖機が完了する前の未燃HCの排出を低減する技術に関し、特に、過給機を備えた内燃機関においてバルブタイミングを適切なものとする制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンのバルブタイミング制御装置として、暖機運転中の極低温時にはバルブオーバラップをポジティブオーバラップ(プラスオーバラップとも呼ばれる)とし、極低温でないときにはネガティブオーバラップ(マイナスオーバラップとも呼ばれる)とするようにした構成が開示されている。また、始動時に排出される未燃HCを低減するために、点火時期をリタードしていわゆるリタード燃焼を行うことが開示されている。
【0003】
この特許文献1は、排気弁側は開時期および閉時期が変化しない固定のバルブタイミングであり、吸気弁側の開時期および閉時期を可変バルブタイミング機構により進角・遅角させることでオーバラップ量を変化させている。
【0004】
機関始動後、アイドル状態でリタード燃焼を行っている状態から車両の発進要求があると、要求負荷の上昇に伴って燃料量が増加する一方、触媒暖機が未完了であっても、出力確保のために、一般にリタード燃焼の終了もしくはリタード量の縮小がなされる。このような場合に、シリンダ壁面に付着した液膜に起因する未燃HCが排気弁を通して排気弁閉時期直前に押し出されてしまう(いわゆるHCの二次ピーク)ことにより、エンジンアウトHCの値が高くなる。特許文献1は、このようなHCの二次ピークに対処したものではない。
【0005】
この発明は、車両が触媒暖機完了前にアイドル状態から発進加速へと移行した場合にも二次ピークによるHC排出の悪化を最小限とし得る内燃機関の制御を提供することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
この発明は、少なくとも排気弁側に可変動弁機構を有し、排気弁閉時期が上死点よりも遅くかつ吸気弁開時期に対してポジティブオーバラップとなる第1のバルブタイミングと、排気弁閉時期が上死点よりも早い第2のバルブタイミングと、に制御可能であるとともに、過給機を備えた車両用内燃機関の制御方法であって、
触媒が未暖機の触媒暖機運転中に、
過給が行われない低負荷側の第1の運転領域では第1のバルブタイミングとし、
過給が行われる高負荷側の第2の運転領域では第2のバルブタイミングとする。
好ましくは、車両停止中のアイドル時には第1のバルブタイミングとし、
車両の発進加速が行われ、吸気圧が大気圧近傍の所定の圧力閾値以上となるか、または、要求負荷が機関回転速度毎に予め設定された所定の負荷閾値以上となったら、第2のバルブタイミングに切り換える。
【0008】
過給が行われない第1の運転領域では、吸気圧つまり吸気弁上流の吸気通路内の圧力がいわゆる負圧であり、従って、第1のバルブタイミングの下での吸気弁開時期における筒内圧は吸気圧よりも高く、吸気弁が開いたときに筒内圧が急激に低下する。そのため、上死点直前付近でいわゆる二次ピークとして開弁中の排気弁を通して排気ポートへ押し出されていたHCの少なくとも一部が、吸気弁が開いたときに燃焼室内へ引き戻され、さらにその一部は吸気ポートへと吸い出される。これらの燃焼室内あるいは吸気ポートへ戻ったHCは、以後の燃焼サイクルで燃焼される。このような吸入負圧による引き戻し作用により、第1の運転領域例えばアイドル時におけるHCの二次ピークが抑制される。
【0009】
一方、高負荷側の第2の運転領域では、過給により吸気圧が高くなるので、上述した排気ポートから燃焼室内あるいは吸気ポートへの引き戻し作用が得られない。この第2の運転領域では、第2のバルブタイミングとなり、排気弁が上死点よりも早期に閉じることで、二次ピークによるHCの排出が抑制される。従って、例えば触媒暖機中にアイドル状態からアクセルを踏み込んで発進加速したようなときのHCの増加が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明の一実施例の車両用内燃機関の構成を示す説明図。
【
図2】(a)第1のバルブタイミングと(b)第2のバルブタイミングを示す特性図。
【
図3】第1のバルブタイミングと第2のバルブタイミングによる負荷とHCとの関係を示す特性図。
【
図4】二次ピークとなるHCに対する第1のバルブタイミングによる引き戻し作用の説明図。
【
図5】二次ピークとなるHCに対する第2のバルブタイミングによるトラップ作用の説明図。
【
図7】過給が行われていない第1の運転領域での筒内圧と吸気圧との関係を示した特性図。
【
図8】過給が行われている第2の運転領域での筒内圧と吸気圧との関係を示した特性図。
【
図9】触媒暖機運転制御の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施例の制御が適用される車両用内燃機関1の概略的な構成を示す説明図である。内燃機関1は、図示せぬトルクコンバータおよび有段もしくは無段の自動変速機と組み合わされて車両に搭載されており、図示せぬ終減速装置を介して車両の駆動輪を駆動している。
【0012】
内燃機関1は、例えばガソリンを燃料とする4ストロークサイクルの火花点火式内燃機関であって、ピストン2によって形成される燃焼室3の天井壁面に、一対の吸気弁4および一対の排気弁5が配置されているとともに、これらの吸気弁4および排気弁5に囲まれた中央部に点火プラグ6および燃料噴射弁7が配置されている。
【0013】
上記燃料噴射弁7は、駆動パルス信号が印加されることによって開弁する電磁式ないし圧電式の噴射弁であって、駆動パルス信号のパルス幅に実質的に比例した量の燃料を筒内へ噴射する。なお、本発明においては、吸気弁4上流側の吸気ポート8内に燃料を噴射するポート噴射式機関として構成したものであってもよい。
【0014】
上記吸気ポート8に接続された吸気通路9のコレクタ部9a上流側には、エンジンコントローラ10からの制御信号によって開度が制御される電子制御型スロットルバルブ11が介装されており、さらにその上流側に、ターボ過給機12のコンプレッサ12Aが配設されている。このコンプレッサ12Aの上流側に、吸入空気量を検出するエアフロメータ13ならびにエアクリーナ14が配設されている。なお、コンプレッサ12Aとスロットルバルブ11との間には、インタークーラ16が設けられている。コレクタ部9aには、吸気圧(換言すれば過給圧)を検出する吸気圧センサ17が配置されている。
【0015】
上記吸気弁4は、該吸気弁4の開閉時期を可変制御できる吸気側可変動弁機構18を備えている。この吸気側可変動弁機構18は、吸気弁開時期(IVO)および吸気弁閉時期(IVC)を個々に独立して変更できるものであってもよく、吸気弁開時期および吸気弁閉時期が一定の作動角でもって同時に遅進する構成のものであってもよい。本実施例では、吸気側カムシャフト(図示せず)のクランクシャフト(図示せず)に対する位相を遅進させる後者の形式のものが用いられている。なお、本発明においては、吸気弁4が可変動弁機構を具備することは必須ではなく、吸気弁開時期および吸気弁閉時期が変化し得ない構成であってもよい。
【0016】
一方、排気弁5が開閉する排気ポート21に接続された排気通路22には、ターボ過給機12のタービン12Bが配置されており、このタービン12Bの下流側に三元触媒からなる触媒23が介装されている。上記タービン12Bの入口部には、過給圧制御のために、排気の一部をタービン12Bをバイパスして案内するウェストゲートバルブ24が設けられている。このウェストゲートバルブ24は、電動アクチュエータ24aによって開度が制御される電子制御型の構成である。
【0017】
触媒23には、当該触媒23の温度(例えば担体の温度)を検出する触媒温度センサ25が設けられている。さらに、触媒23の入口側には、いわゆる排気空燃比を検出するための空燃比センサ26が設けられている。なお、触媒23は、1つの触媒として図示されているが、一般に、車両のエンジンルーム内に位置するプリ触媒と車両床下に位置するメイン触媒とから構成されている。
【0018】
上記排気弁5は、該排気弁5の開閉時期を可変制御できる排気側可変動弁機構19を備えている。この可変動弁機構19は、排気弁開時期(EVO)および排気弁閉時期(EVC)を個々に独立して変更できるものであってもよく、排気弁開時期および排気弁閉時期が一定の作動角でもって同時に遅進する構成のものであってもよい。本実施例では、吸気側可変動弁機構18と同様に、排気側カムシャフト(図示せず)のクランクシャフト(図示せず)に対する位相を遅進させる後者の形式のものが用いられている。
【0019】
燃料噴射弁7による燃料噴射量や噴射時期等は、エンジンコントローラ10によって制御される。点火プラグ6による点火時期は、同様にエンジンコントローラ10によって制御される。触媒暖機促進の上で重要な燃焼時期は、主に点火時期によって制御される。つまり、内燃機関1の始動直後など触媒23の暖機完了前は、点火時期を遅角させたいわゆるリタード燃焼が行われる。空燃比センサ26を用いた空燃比制御や吸気圧センサ17および電動ウェストゲートバルブ24による過給圧制御もエンジンコントローラ10によって行われる。
【0020】
エンジンコントローラ10は、このほか、排気側可変動弁機構19および吸気側可変動弁機構18を介して、排気弁5の開時期(EVO)ならびに閉時期(EVC)および吸気弁4の開時期(IVO)ならびに閉時期(IVC)を制御する。
【0021】
エンジンコントローラ10には、入力信号として、上述した触媒温度センサ25や空燃比センサ26、エアフロメータ13、吸気圧センサ17、の検出信号が入力されているほか、クランク角センサ31、冷却水温センサ32、アクセルペダル開度センサ33等の検出信号が入力されている。アクセルペダル開度センサ33は、運転者によるアクセルペダルの踏込に応じたアクセルペダル開度を検出しており、アクセルペダル開度が0近傍の所定値以下であるときにアイドル状態であると判定することで、いわゆるアイドルスイッチを兼ねている。
【0022】
本実施例の触媒暖機運転中のHCの抑制は、ターボ過給機12による過給圧(吸気圧)に対応した形のバルブタイミングの可変制御によって達成される。
【0023】
図2は、排気側可変動弁機構19と吸気側可変動弁機構18とによって実現されるバルブタイミングの特性を示している。
【0024】
図2の(a)の制御状態においては、180°CAを越える作動角を有する排気弁5の開閉時期が排気側可変動弁機構19によって相対的に遅角側に制御されており、排気弁閉時期(EVC)が上死点(TDC)後にあり、排気弁開時期(EVO)は下死点(BDC)よりも多少進角側にある。吸気弁4の作動角は、例えば180°CAを越える比較的大きなものとなっており、吸気側可変動弁機構18によって相対的に進角側に制御されている。これにより、吸気弁開時期(IVO)が上死点(TDC)よりも僅かに進角側にあり、吸気弁閉時期(IVC)が下死点(BDC)よりも遅角側にある。以下では、この
図2(a)のようなバルブタイミングを、排気弁5および吸気弁4の双方の特性を含めて、「第1のバルブタイミング」と呼ぶ。この第1のバルブタイミングでは、排気弁閉時期と吸気弁開時期とがいわゆるポジティブオーバラップの関係にある。一例では、排気弁閉時期が上死点後(ATDC)5°CA、吸気弁開時期が上死点前(BTDC)17°CAであり、従って、オーバラップ量が+22°CAである。
【0025】
図2(b)の制御状態においては、排気弁5のバルブタイミングが相対的に進角側に制御されており、排気弁閉時期(EVC)が上死点(TDC)前にあり、排気弁開時期(EVO)は下死点(BDC)よりも大きく進角した位置にある。吸気弁4のバルブタイミングは、相対的に遅角側に制御されており、吸気弁開時期(IVO)が上死点(TDC)よりも遅角側に位置し、吸気弁閉時期(IVC)が下死点(BDC)よりも大きく遅角した位置にある。以下では、この
図2の(b)のようなバルブタイミングを、便宜上、吸気弁4側の特性をも含めて、「第2のバルブタイミング」と呼ぶ。この第2のバルブタイミングでは、排気弁閉時期と吸気弁開時期とが重ならないいわゆるネガティブオーバラップの関係にある。一例では、排気弁閉時期が上死点前(BTDC)25°CA、吸気弁開時期が上死点後(ATDC)25°CAであり、従って、オーバラップ量が-50°CAである。
【0026】
内燃機関1の始動後、触媒23の暖機が完了するまでは、触媒23の暖機促進のために、触媒暖機運転がなされる。この触媒暖機運転においては、燃焼重心が触媒暖機完了後の通常燃焼運転中の燃焼重心よりも遅角側となるように点火時期を遅らせたリタード燃焼が行われる。
【0027】
そして、触媒未暖機の状態において、車両停止中のアイドル運転に代表される低負荷側の第1の運転領域では、バルブタイミングとして、ポジティブオーバラップである第1のバルブタイミングが選択される。
【0028】
他方、触媒23が未暖機であるにも拘わらず車両を発進・加速した状況に代表される高負荷側の第2の運転領域では、バルブタイミングとして、排気弁閉時期(EVC)が上死点前となる第2のバルブタイミングが選択される。
【0029】
HCの排出特性は、排気弁5が開いた瞬間の一次ピークのほかに、前述したように、シリンダ壁面に付着した液膜に起因する未燃HCが排気弁5を通して排気弁5の閉時期直前に押し出されてしまう、いわゆる二次ピークが存在する。上記実施例では、上記のようにバルブタイミングを選択することで、それぞれの状況下で、二次ピークとなるHCを適切に抑制できる。
【0030】
図3は、適当な一定の機関回転速度(例えば2000rpm)の下で、第1のバルブタイミングで運転した場合と第2のバルブタイミングで運転した場合の負荷(図示平均有効圧:IMEP)とHCとの関係を示している。図示するように、ある負荷Sまでは、第2のバルブタイミングよりも第1のバルブタイミングの方がHCの排出が少ない。そして、ある負荷Sを越えると、両者の関係が逆転し、第1のバルブタイミングよりも第2のバルブタイミングの方がHCの排出が少なくなる。従って、負荷Sよりも低負荷側の第1の運転領域で第1のバルブタイミングを選択し、負荷Sを越えた高負荷側の第2の運転領域で第2のバルブタイミングを選択することで、HCの排出が効果的に抑制される。
【0031】
ここで両者の境界となる負荷Sは、後述するように、ターボ過給機12の存在を前提として、吸気圧が大気圧近傍となる負荷に相当し、換言すれば、第1のバルブタイミングの下で吸気弁開時期における筒内圧と吸気圧とがバランスすることとなる負荷に相当する。HCの排出特性の大小関係が逆転する負荷Sは、他の要素によっても多少変動し、従って、例えば機種毎にいわゆる適合により決定する必要がある。仮に、負荷Sの吸気圧が大気圧であるとすると、負荷Sよりも低負荷側では吸気圧が負圧となり、負荷Sよりも高負荷側では吸気圧が過給により正圧となる。
【0032】
「第1の運転領域」および「第2の運転領域」としては、上記のように閾値となる負荷Sを境に低負荷側を「第1の運転領域」、高負荷側を「第2の運転領域」としてもよいが、負荷Sが変動要素を含むので、これに代えて、
図3に付記するように、負荷S1よりも低負荷側を「第1の運転領域」として第1のバルブタイミングとし、負荷S2よりも高負荷側を「第2の運転領域」として第2のバルブタイミングとするようにしてもよい。負荷S1と負荷S2との間は、いずれのバルブタイミングであってもHCの排出に顕著な差異がない中間領域であり、従って、いずれか任意のバルブタイミングとしてもよく、あるいは、第1のバルブタイミングと第2のバルブタイミングとの切換のヒステリシス領域としてもよい。
【0033】
図4は、二次ピークとなるHCに対する第1のバルブタイミングによる引き戻し作用の説明図である。特に、吸気圧が負圧であることを前提とした説明図である。
図4(a)は、排気弁5が開いており、かつピストン2が下死点付近にある状態を示しており、ピストン2の冠面や燃焼室3の壁面に符号51で示す未燃燃料ないし未燃HCが付着している。この位置からピストン2が上昇していき、上死点に近付くと、
図4(b)のように、未燃HC51が排気ポート21へ押し出されていく。
図4(b)のタイミングは、バルブオーバラップ期間であり、吸気弁4が開き始めている。この吸気弁4の開弁に伴い、吸気負圧が燃焼室3内に作用する。
図4(c)は、バルブオーバラップ期間の終期つまり排気弁5の閉時期直前を示しており、排気ポート21内の排気圧よりも吸気ポート8側の吸気圧や燃焼室3内の圧力が相対的に低いことで、排気ポート21内の未燃HC51の一部が燃焼室3内に引き戻され、さらに一部は、吸気ポート8内に入る。これらの未燃HC51は、後続の燃焼サイクルにおいて燃焼される。
【0034】
図6は、このような引き戻し作用によるHCの排出特性を模式的に示した特性図であり、HCの排出量は、二次ピークとして排気上死点近傍で上昇する。しかし、図中に斜線を施して示す部分は、上述した引き戻し作用を受け、実際には排気系へ流出しない。つまり、過給が行われていない第1の運転領域では、第1のバルブタイミングとすることで、吸気ポート8ないし燃焼室3内への引き戻し作用によるHCの低減が図れる。
【0035】
図5は、二次ピークとなるHCに対する第2のバルブタイミングによるトラップ作用の説明図である。この第2のバルブタイミングが選択される第2の運転領域では、過給により吸気圧が高くなっており、上述した引き戻し作用を得ることができない。第2のバルブタイミングでは、排気弁5を早期に閉じることで二次ピークのHCがトラップされる。
図5(a)は、排気弁5が開いており、かつピストン2が下死点付近にある状態を示しており、ピストン2の冠面や燃焼室3の壁面に符号51で示す未燃燃料ないし未燃HCが付着している。この位置からピストン2が上昇していくと、未燃HC51がピストン2により掻き上げられていくが、上死点に近付く前に排気弁5が閉じられる。
図5(b)は、排気弁閉時期を示しており、上死点前に排気弁5が閉じることで二次ピークのHCの排出が制限される。このように、過給により吸気圧が高くなっていて上述した引き戻し作用が得られない第2の運転領域では、二次ピークのHCを燃焼室3内にトラップすることで、HCの低減が図れる。
【0036】
図7は、過給が行われていない第1の運転領域での筒内圧と吸気圧との関係を示した特性図であり、特に第1のバルブタイミングの下での特性を示している。図示するように、下死点前の排気弁開時期(EVO)において排気弁5が開くことで、筒内圧が急激に低下していく。排気弁5が閉じる排気弁閉時期(EVC)は上死点後であるが、この排気弁閉時期よりも前の吸気弁開時期(IVO)において吸気弁4が開くため、筒内圧は、最終的に吸気圧まで低下する。ここで、
図7では、吸気弁開時期において筒内圧は吸気圧よりも十分に高く、この両者の圧力差によって上述した引き戻し作用が得られる。なお、吸気弁開時期と排気弁閉時期との間がバルブオーバラップ期間である。
【0037】
これに対し、
図8は、過給が行われている第2の運転領域での筒内圧と吸気圧との関係を示した特性図であり、特に第1のバルブタイミングとした場合の特性を示している。この場合も同様に排気弁開時期から筒内圧が急激に低下していき、最終的に吸気圧に近付くが、過給により吸気圧が高くなっていることにより、吸気弁開時期における筒内圧と吸気圧との差は非常に小さい。従って、第2の運転領域で仮に第1のバルブタイミングとすると、上述した引き戻し作用を得ることができず、二次ピークのHCがそのまま排出されてしまう。従って、上記実施例では、このように過給により吸気圧が高くなる条件下では、第2のバルブタイミングとして排気弁5を早期に閉じることで、二次ピークのHCの排出を抑制するのである。
【0038】
図9は、エンジンコントローラ10において実行される触媒暖機運転制御の処理の流れを示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、内燃機関1の運転中、繰り返し実行される。ステップ1では、触媒23の暖機が完了しているか否か、つまり、触媒23の温度が所定の活性温度に到達しているか否か、を判定する。触媒23の暖機が完了していれば、ステップ2へ進み、通常の燃焼モードとする。この通常燃焼モードでは、特殊な状況を除き、燃費が最適となるように燃焼時期が制御されるとともに、バルブタイミングが第1のバルブタイミングとなる。第1,第2のバルブタイミングとは異なる燃費を重視した第3のバルブタイミングとしてもよい。
【0039】
触媒23の暖機が未完了である場合は、ステップ3へ進み、吸気圧センサ17により検出された吸気圧(過給圧)が大気圧近傍にある所定の圧力閾値以上であるか否かを判定する。圧力閾値は、例えば、第1のバルブタイミングの下で吸気弁開時期における筒内圧と吸気圧とがバランスする圧力として予め設定されている。なお、「バランスする」とは両者が完全に一致する意味ではなく、
図7,
図8で説明したように、圧力差による引き戻し作用が得られない程度に両者の圧力差が小さい状態を意味している。勿論、吸気弁開時期における筒内圧と吸気圧とが完全に一致する点を圧力閾値としてもよい。圧力閾値は、例えば内燃機関1の機種毎に実験的に求めることができる。そして、圧力閾値は、内燃機関1の回転速度毎に設定することが望ましい。
【0040】
吸気圧が圧力閾値未満であれば、過給が行われていない第1の運転領域であるとみなして、ステップ4へ進んで第1のバルブタイミングを選択する。吸気圧が圧力閾値以上であれば、過給が行われている第2の運転領域であるとみなして、ステップ5へ進んで第2のバルブタイミングを選択する。このようなバルブタイミングの選択により、
図4あるいは
図5で説明したようなそれぞれの条件に適した二次ピークの未燃HCの排出抑制がなされる。
【0041】
そして、いずれの場合もステップ6へ進み、燃焼重心を比較的大きく遅角させたリタード燃焼を実行する。このように燃焼重心を遅角させることで、排気温度が高く得られ、触媒23の昇温が促進されるとともに、高い排気温度によりいわゆる後燃えが生じ、未燃HCの排出が低減する。
【0042】
前述したように、車両停止中のアイドル状態であれば、吸気圧は圧力閾値よりも低く、従って、ステップ4へ進んで第1のバルブタイミングとなる。車両の発進加速時には、吸気圧は圧力閾値よりも高く、従って、ステップ5へ進んで第2のバルブタイミングとなる。
【0043】
従って、ステップ3の圧力閾値に基づく判定に代えて、車両停止中のアイドル状態であるか否かの判定を行い、第1のバルブタイミングもしくは第2のバルブタイミングの選択を行うようにしてもよい。
【0044】
あるいは、ステップ3の吸気圧の判定に代えて内燃機関1の要求負荷を負荷閾値と比較するようにしてもよい。負荷閾値は回転速度毎に設定することが望ましい。つまり、車両停止中のアイドル時には第1のバルブタイミングとし、車両の発進加速が行われ、要求負荷が機関回転速度毎に予め設定された所定の負荷閾値以上となったら第2のバルブタイミングに切り換えるようにすることができる。
【0045】
以上、この発明の一実施例を説明したが、この発明は上記実施例にのみ限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上記実施例では、吸気弁4も可変動弁機構を備えているが、吸気弁4のバルブタイミングが固定のものであってもよい。また、排気弁5の可変動弁機構としては、カムシャフトの位相を変化させる可変バルブタイミング機構に限らず、他の形式の機構であってもよい。
【0046】
また、必ずしも第2のバルブタイミングでネガティブオーバラップとなる必要はない。また、第2のバルブタイミングにおける吸気弁開時期は上死点後に限られず、上死点前であってもよい。さらに、触媒の暖機完了は、触媒温度センサ25を用いずに他の手段ないし方法によって判定するようにしてもよい。
【0047】
過給機としては、実施例のターボ過給機12に限られず、機械式過給機であってもよい。