(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】異常検知システム、異常検知装置、異常検知方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20230511BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20230511BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B23Q17/09 C
G05B19/18 X
G05B19/4155 V
(21)【出願番号】P 2022576538
(86)(22)【出願日】2022-08-08
(86)【国際出願番号】 JP2022030298
【審査請求日】2022-12-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 類
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-020722(JP,A)
【文献】国際公開第2021/157518(WO,A1)
【文献】特許第7036292(JP,B1)
【文献】特開2018-024055(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0260777(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/09
G05B 19/18
G05B 19/4155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に取り付けられた工具の異常を検知する異常検知システムであって、
前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に前記工具に発生する歪みを計測する歪みセンサと、
前記歪みセンサの計測データに基づいて前記工具の異常を検知する異常検知装置と、
を備え、
前記異常検知装置は、
前記歪みセンサの計測データに基づく対象データを入力とし、前記対象データの分類結果を出力とする機械学習済みモデルである分類部と、
前記分類部による前記対象データの分類結果に基づいて、前記工具の異常を検知する異常検知部と、
前記異常検知部による検知結果を出力する出力部と、
を含み、
前記機械学習済みモデルは、前記工具による加工初期から異常発生点より前の学習期間における前記歪みセンサの計測データである学習データを用いて構築される、
異常検知システム。
【請求項2】
前記歪みセンサは、前記工具に取り付けられている、
請求項1に記載の異常検知システム。
【請求項3】
前記工具は、旋削工具または転削工具を含む切削工具であり、
前記切削工具は、前記歪みセンサと、前記歪みセンサの計測データを無線送信する無線通信部とを備える、
請求項2に記載の異常検知システム。
【請求項4】
前記分類部は、1クラス分類を行う1クラス分類部であり、
前記異常検知部は、前記1クラス分類において生成される異常度に基づいて、前記工具の異常を検知する、
請求項
1に記載の異常検知システム。
【請求項5】
前記異常検知部は、前記異常度を複数の閾値と比較することにより前記対象データの多クラス分類を行い、前記多クラス分類の結果に基づいて前記工具の異常を検知する、
請求項4に記載の異常検知システム。
【請求項6】
前記異常検知部は、前記異常度を第1閾値及び第2閾値と比較することにより、前記対象データを正常状態、異常直前状態、及び異常状態に分類する、
請求項5に記載の異常検知システム。
【請求項7】
前記出力部は、前記異常検知部によって前記対象データが異常状態に分類された場合に、前記工具が異常であることを通知するための情報を出力する、
請求項6に記載の異常検知システム。
【請求項8】
前記出力部は、前記異常検知部によって前記対象データが異常直前状態に分類された場合に、前記工具の異常発生が予測されることを通知するための情報を出力する、
請求項6に記載の異常検知システム。
【請求項9】
前記対象データを正常状態と異常直前状態との間で区別するための第1閾値は、前記工具が異常となる直前の前記歪みセンサによる計測データに基づく対象データに基づいて決定される、
請求項
6に記載の異常検知システム。
【請求項10】
前記異常検知装置は、前記加工対象物の切削と非切削とを繰り返す断続加工工程における前記工具の歪みの計測データに基づいて、前記工具の異常を検知する、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の異常検知システム。
【請求項11】
工作機械に取り付けられた工具の異常を検知する異常検知装置であって、
前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に前記工具に発生する歪みを計測する歪みセンサから出力された計測データに基づく対象データを取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記対象データを入力とし、前記対象データの分類結果を出力とする機械学習済みモデルである分類部と、
前記分類部による前記対象データの分類結果に基づいて、前記工具の異常を検知する異常検知部と、
前記異常検知部による検知結果を出力する出力部と、
を備え、
前記機械学習済みモデルは、前記工具による加工初期から異常発生点より前の学習期間における前記歪みセンサの計測データである学習データを用いて構築される、
異常検知装置。
【請求項12】
工作機械に取り付けられた工具の異常を検知する異常検知装置によって実行される異常検知方法であって、
前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に前記工具に発生する歪みを計測する歪みセンサから出力された計測データに基づく対象データを取得するステップと、
取得された前記対象データを入力とし、前記対象データの分類結果を出力とする機械学習済みモデルである分類部によって前記対象データを分類するステップと、
前記分類部による前記対象データの分類結果に基づいて、前記工具の異常を検知するステップと、
前記工具の異常の検知結果を出力するステップと、
を含み、
前記機械学習済みモデルは、前記工具による加工初期から異常発生点より前の学習期間における前記歪みセンサの計測データである学習データを用いて構築される、
異常検知方法。
【請求項13】
工作機械に取り付けられた工具の異常を検知するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に前記工具に発生する歪みを計測する歪みセンサから出力された計測データに基づく対象データを取得するステップと、
取得された前記対象データを入力とし、前記対象データの分類結果を出力とする機械学習済みモデルである分類部を用いて前記対象データを分類するステップと、
前記分類部による前記対象データの分類結果に基づいて、前記工具の異常を検知するステップと、
前記工具の異常の検知結果を出力するステップと、
を実行させ、
前記機械学習済みモデルは、前記工具による加工初期から異常発生点より前の学習期間における前記歪みセンサの計測データである学習データを用いて構築される、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常検知システム、異常検知装置、異常検知方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作機械に取り付けられた工具の異常を検知する異常検知装置が開示されている。特許文献1に開示された異常検知装置は、工具の振動情報、切削力情報、音情報、主軸負荷、モータ電流、電力値の各測定データを1クラスSVM法で学習して、正常モデルを作成し、正常モデル作成後の加工時に測定データを取得しながら、正常モデルに基づいて、測定データが正常か異常かを診断する。異常検知装置はさらに、異常と診断された測定データについて、インバリアント解析などの1クラスSVM法とは異なる方法で再診断を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る異常検知システムは、工作機械に取り付けられた工具の異常を検知する異常検知システムであって、前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に前記工具に発生する歪みを計測する歪みセンサと、前記歪みセンサの計測データに基づいて前記工具の異常を検知する異常検知装置と、を備え、前記異常検知装置は、前記歪みセンサの計測データに基づく対象データを入力とし、前記対象データの分類結果を出力とする機械学習済みモデルである分類部と、前記分類部による前記対象データの分類結果に基づいて、前記工具の異常を検知する異常検知部と、前記異常検知部による検知結果を出力する出力部と、を含む。
【0005】
本開示は、上記のような特徴的な構成を備える異常検知システムとして実現することができるだけでなく、異常検知システムに含まれる異常検知装置として実現したり、異常検知システムにおける特徴的な処理をステップとする異常検知方法として実現したりすることができる。本開示は、コンピュータを異常検知装置として機能させるコンピュータプログラムとして実現したり、異常検知装置の一部又は全部を半導体集積回路として実現したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態に係る異常検知システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、実施形態に係る切削工具の構成の一例を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
【
図2C】
図2Cは、実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
【
図2D】
図2Dは、実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るセンサモジュールの構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る異常検知装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る異常検知装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。
【
図6】
図6は、切削工具の歪みの時系列の波形の一例を示すグラフである。
【
図7】
図7は、断続加工工程に用いられる加工対象物の一例を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、断続加工工程における切削工具の歪みの時系列の波形の一例を示すグラフである。
【
図8B】
図8Bは、断続加工工程における切削工具の歪みの時系列の波形の他の例を示すグラフである。
【
図9】
図9は、1クラス分類器の学習期間の一例を説明するためのグラフである。
【
図10】
図10は、局所外れ値因子の概要を模式的に示した図である。
【
図13】
図13は、実施形態に係る異常検知装置による異常検知処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、対象データの分類処理の一例を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、多クラス分類器の学習期間の一例を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<本開示が解決しようとする課題>
特許文献1に開示された異常検知装置では、工具の振動を測定する振動センサを用いているが、振動センサは工具から離れた主軸の振動を計測するため、工具の異常を検知するために有用な振動情報を正確に得ることが難しい。
【0008】
<本開示の効果>
本開示によれば、工作機械に取り付けられた工具の状態を正確に反映した情報を用いて工具の異常を検知することができる。
【0009】
<本開示の実施形態の概要>
以下、本開示の実施形態の概要を列記して説明する。
【0010】
(1) 本実施形態に係る異常検知システムは、工作機械に取り付けられた工具の異常を検知する異常検知システムであって、前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に前記工具に発生する歪みを計測する歪みセンサと、前記歪みセンサの計測データに基づいて前記工具の異常を検知する異常検知装置と、を備え、前記異常検知装置は、前記歪みセンサの計測データに基づく対象データを入力とし、前記対象データの分類結果を出力とする機械学習済みモデルである分類部と、前記分類部による前記対象データの分類結果に基づいて、前記工具の異常を検知する異常検知部と、前記異常検知部による検知結果を出力する出力部と、を含む。これにより、工具の状態を正確に反映した情報である工具の歪みを用いて工具の異常を検知することができる。
【0011】
(2) 上記(1)において、前記歪みセンサは、前記工具に取り付けられていてもよい。これにより、歪みセンサによって工具の歪みを直接計測することができる。
【0012】
(3) 上記(2)において、前記工具は、旋削工具または転削工具を含む切削工具であり、前記歪みセンサと、前記歪みセンサの計測データを無線送信する無線通信部とが前記切削工具に取り付けられていてもよい。これにより、工具自体が回転しない旋削工具または工具自体が回転する転削工具に歪みセンサが取り付けられ、無線によって計測データを送信することができる。
【0013】
(4) 上記(1)から(3)のいずれか1つにおいて、前記分類部は、1クラス分類を行う1クラス分類部であり、前記異常検知部は、前記1クラス分類において生成される異常度に基づいて、前記工具の異常を検知してもよい。これにより、教師なし学習によって構築される1クラス分類部を用いて、工具の異常を検知することができる。
【0014】
(5) 上記(4)において、前記異常検知部は、前記異常度を複数の閾値と比較することにより前記対象データの多クラス分類を行い、前記多クラス分類の結果に基づいて前記工具の異常を検知してもよい。これにより、対象データの多クラス分類の結果を用いて、工具の異常を正確に検知することができる。
【0015】
(6) 上記(5)において、前記異常検知部は、前記異常度を第1閾値及び第2閾値と比較することにより、前記対象データを正常状態、異常直前状態、及び異常状態に分類してもよい。これにより、異常度を用いて対象データを細かく分類することができる。
【0016】
(7) 上記(6)において、前記出力部は、前記異常検知部によって前記対象データが異常状態に分類された場合に、前記工具が異常であることを通知するための情報を出力してもよい。これにより、ユーザに工具の異常を通知することができる。
【0017】
(8) 上記(6)において、前記出力部は、前記異常検知部によって前記対象データが異常直前状態に分類された場合に、前記工具の異常発生が予測されることを通知するための情報を出力してもよい。これにより、ユーザに工具の異常発生が予測されることを通知することができる。
【0018】
(9) 上記(6)から(8)のいずれか1つにおいて、前記対象データを正常状態と異常直前状態との間で区別するための第1閾値は、前記工具が異常となる直前の前記歪みセンサによる計測データに基づく対象データに基づいて決定されてもよい。これにより、実測されたデータに基づいて決定された第1閾値によって、工具が正常状態であるか異常直前の状態であるかを正確に区別することができる。
【0019】
(10) 上記(1)から(9)のいずれか1つにおいて、前記異常検知装置は、前記加工対象物の切削と非切削とを繰り返す断続加工工程における前記工具の歪みの計測データに基づいて、前記工具の異常を検知してもよい。断続加工工程では、加工対象物の切削が連続して行われる連続加工工程に比べて工具の状態が歪みに表れやすい。したがって、工具の異常を正確に検知することができる。
【0020】
(11) 本実施形態に係る異常検知装置は、工作機械に取り付けられた工具の異常を検知する異常検知装置であって、前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に前記工具に発生する歪みを計測する歪みセンサから出力された計測データに基づく対象データを取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記対象データを入力とし、前記対象データの分類結果を出力とする機械学習済みモデルである分類部と、前記分類部による前記対象データの分類結果に基づいて、前記工具の異常を検知する異常検知部と、前記異常検知部による検知結果を出力する出力部と、を備える。これにより、工具の状態を正確に反映した情報である工具の歪みを用いて工具の異常を検知することができる。
【0021】
(12) 本実施形態に係る異常検知方法は、工作機械に取り付けられた工具の異常を検知する異常検知装置によって実行される異常検知方法であって、前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に前記工具に発生する歪みを計測する歪みセンサから出力された計測データに基づく対象データを取得するステップと、取得された前記対象データを入力とし、前記対象データの分類結果を出力とする機械学習済みモデルである分類部によって前記対象データを分類するステップと、前記分類部による前記対象データの分類結果に基づいて、前記工具の異常を検知するステップと、前記工具の異常の検知結果を出力するステップと、を含む。これにより、工具の状態を正確に反映した情報である工具の歪みを用いて工具の異常を検知することができる。
【0022】
(13) 本実施形態に係るコンピュータプログラムは、工作機械に取り付けられた工具の異常を検知するためのコンピュータプログラムであって、コンピュータに、前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に前記工具に発生する歪みを計測する歪みセンサから出力された計測データに基づく対象データを取得するステップと、取得された前記対象データを入力とし、前記対象データの分類結果を出力とする機械学習済みモデルである分類部を用いて前記対象データを分類するステップと、前記分類部による前記対象データの分類結果に基づいて、前記工具の異常を検知するステップと、前記工具の異常の検知結果を出力するステップと、を実行させる。これにより、工具の状態を正確に反映した情報である工具の歪みを用いて工具の異常を検知することができる。
【0023】
<本開示の実施形態の詳細>
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態の詳細を説明する。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0024】
[1.異常検知システム]
図1は、本実施形態に係る異常検知システムの全体構成の一例を示す図である。異常検知システム10は、工作機械20の切削工具30の異常を検知する。切削工具30は、工作機械20に取り付けられる。工作機械20は、切削工具30を用いて加工対象物を切削加工する。ここでいう「切削加工」は、回転する加工対象物を切削工具30によって切削する「旋削加工」、及び、固定された加工対象物を、回転する切削工具30によって切削する「転削加工」を含む。工作機械20は、旋盤等の旋削機械であってもよく、フライス盤等の転削機械であってもよい。
【0025】
異常検知システム10は、切削工具30と、無線機200と、異常検知装置300とを含む。無線機200は、異常検知装置300に例えば有線で接続されている。無線機200は、たとえばアクセスポイントである。
【0026】
切削工具30は、センサモジュール100を備える。後述するように、センサモジュール100は、センサを含む。
【0027】
なお、異常検知システム10は、1つの切削工具30を備える構成に限らず、複数の切削工具30を備えてもよい。
【0028】
切削工具30は、センサモジュール100におけるセンサの計測結果を時系列で異常検知装置300へ送信する。
【0029】
より詳細には、切削工具30は、計測値を格納したパケットを含む無線信号を無線機200へ無線送信する。
【0030】
無線機200は、切削工具30から受信した無線信号に含まれるパケットを取得して異常検知装置300へ中継する。
【0031】
異常検知装置300は、無線機200経由で切削工具30からセンサパケットを受信すると、受信したセンサパケットから計測情報を取得し、取得した計測情報を処理する。
【0032】
切削工具30及び無線機200は、例えば、IEEE 802.15.4に準拠したZigBee(登録商標)、IEEE 802.15.1に準拠したBluetooth(登録商標)及びIEEE802.15.3aに準拠したUWB(Ultra Wide Band)等の通信プロトコルを用いた無線による通信を行う。なお、切削工具30及び無線機200間において、上記以外の通信プロトコルが用いられてもよい。
【0033】
[2.切削工具の具体例]
図2Aは、本実施形態に係る切削工具の構成の一例を示す図である。
【0034】
切削工具30の一例である旋削工具30Aは、回転する加工対象物の加工に用いられる旋削加工用の工具であり、旋盤等の工作機械に取り付けられる。旋削工具30Aは、切削部31Aと、切削部31Aに設けられたセンサモジュール100とを含む。
【0035】
例えば、切削部31Aは、切刃を有する切削インサート32を取り付け可能である。具体的には、切削部31Aは、切削インサート32を保持するシャンクである。すなわち、旋削工具30Aは、いわゆるスローアウェイバイトである。
【0036】
より詳細には、切削部31Aは、固定用部材33A,33Bを含む。固定用部材33A,33Bは、切削インサート32を保持する。
【0037】
切削インサート32は、例えば、上面視で三角形、正方形、ひし形、及び五角形等の多角形状である。切削インサート32は、例えば、上面の中央において貫通孔が形成され、固定用部材33A,33Bにより切削部31Aに固定される。
【0038】
図2Bは、本実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
【0039】
切削工具30の一例である旋削工具30Bは、旋削加工用の工具であり、旋盤等の工作機械に取り付けられる。旋削工具30Bは、切削部31Bと、切削部31Bに設けられたセンサモジュール100とを含む。
【0040】
例えば、切削部31Bは、切刃34を有する。すなわち、旋削工具30Bは、むくバイトまたはろう付けバイトである。
【0041】
図2Cは、本実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
図2Cは、切削工具の断面図を示している。
【0042】
切削工具30の一例である転削工具30Cは、固定された加工対象物の加工に用いられる転削加工用の工具であり、フライス盤等の工作機械に取り付けられる。転削工具30Cは、切削部31Cと、切削部31Cに設けられたセンサモジュール100とを含む。
【0043】
例えば、切削部31Cは、切刃を有する切削インサート32を取り付け可能である。具体的には、切削部31Cは、切削インサート32を保持するホルダである。すなわち、転削工具30Cは、いわゆるフライスである。
【0044】
より詳細には、切削部31Cは、複数の固定用部材33Cを含む。固定用部材33Cは、切削インサート32を保持する。
【0045】
切削インサート32は、固定用部材33Cにより切削部31Cに固定される。
【0046】
図2Dは、本実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
【0047】
切削工具30の一例である転削工具30Dは、転削加工用の工具であり、フライス盤等の工作機械に取り付けられる。転削工具30Dは、切削部31Dと、切削部31Dに設けられたセンサモジュール100とを含む。
【0048】
例えば、切削部31Dは、切刃35を有する。すなわち、転削工具30Dは、エンドミルである。
【0049】
[3.センサモジュール]
図3は、本実施形態に係るセンサモジュールの構成の一例を示す図である。
【0050】
センサモジュール100は、プロセッサ101と、不揮発性メモリ102と、揮発性メモリ103と、通信インタフェース(I/F)104と、歪みセンサ110A,110Bとを含む。
【0051】
揮発性メモリ103は、例えばSRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性メモリである。不揮発性メモリ102は、例えばフラッシュメモリ、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリである。不揮発性メモリ102には、例えば図示しないコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に使用されるデータが格納される。コンピュータプログラムは、歪みセンサ110A,110Bの計測値を時系列で送信するためのプログラムである。
【0052】
プロセッサ101は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。ただし、プロセッサ101は、CPUに限られない。プロセッサ101は、GPU(Graphics Processing Unit)であってもよい。具体的な一例では、プロセッサ101は、マルチコアGPUである。プロセッサ101は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)であってもよいし、ゲートアレイ、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスであってもよい。
【0053】
通信I/F104は、例えば、IEEE 802.15.4に準拠したZigBee、IEEE 802.15.1に準拠したBluetooth及びIEEE802.15.3aに準拠したUWB等の通信プロトコル用の通信インタフェースである。通信I/F104は、例えば、通信用IC(Integrated Circuit)等の通信回路により実現される。
【0054】
センサモジュール100は、電池105を含む。電池105は、プロセッサ101、不揮発性メモリ102、揮発性メモリ103、通信I/F104、及び歪みセンサ110A,110Bに電力を供給する。
【0055】
歪みセンサ110A,110Bは、例えば、切削工具30における切刃の近傍に設けられる。歪みセンサ110A及び110Bは、互いに異なる方向の歪みを計測するように切削工具30に取り付けられる。例えば、歪みセンサ110Aは、切削工具30の長手方向の歪みを計測し、歪みセンサ110Bは、切削工具30の幅方向の歪みを計測する。以下、歪みセンサ110A,110Bを総称して歪みセンサ110ともいう。歪みセンサ110は、センサの一例である。センサは、電池105から供給される電力により駆動される。
【0056】
なお、センサモジュール100は、2つの歪みセンサ110を含む構成に限らず、1つまたは3つ以上の歪みセンサ110を含んでもよい。また、センサモジュール100は、歪みセンサ110の代わりに、又は、歪みセンサ110に加えて、加速度センサ、圧力センサ、音センサ及び温度センサ等の他のセンサを含んでもよい。
【0057】
[4.異常検知装置のハードウェア構成]
図4は、本実施形態に係る異常検知装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0058】
異常検知装置300は、プロセッサ301と、不揮発性メモリ302と、揮発性メモリ303と、入出力インタフェース(I/O)304と、グラフィックコントローラ305と、表示装置306とを含む。
【0059】
揮発性メモリ303は、例えばSRAM、DRAM等の揮発性メモリである。不揮発性メモリ302は、例えばフラッシュメモリ、ハードディスク、ROM等の不揮発性メモリである。不揮発性メモリ302には、コンピュータプログラムである異常検知プログラム307及び異常検知プログラム307の実行に使用されるデータが格納される。異常検知装置300の各機能は、異常検知プログラム307がプロセッサ301によって実行されることで実現される。異常検知プログラム307は、フラッシュメモリ、ROM、CD-ROMなどの記録媒体に記憶させることができる。
【0060】
不揮発性メモリ302には、計測結果データベース(DB)309が設けられている。計測結果DB309は、歪みセンサ110による計測結果を格納する。さらに具体的には、計測結果DB309には、一定のサンプリング周期毎に歪みセンサ110から出力された歪みの計測値が時系列で蓄積される。
【0061】
不揮発性メモリ302には、分類器310が格納されている。分類器310は、機械学習済みモデルであり、分類部の一例である。分類器310については後述する。
【0062】
プロセッサ301は、例えばCPUである。プロセッサ301は、1又は複数のCPUであってもよい。ただし、プロセッサ301は、CPUに限られない。プロセッサ301は、GPUであってもよい。具体的な一例では、プロセッサ301は、マルチコアGPUである。プロセッサ301は、例えば、ASICであってもよいし、ゲートアレイ、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスであってもよい。この場合、ASIC又はプログラマブルロジックデバイスは、異常検知プログラム307と同様の処理を実行可能に構成される。
【0063】
I/O304は、無線機200に接続されている。I/O304は、例えば、通信I/Fであり、特定の通信プロトコルによる通信を行うことが可能である。I/O304は、例えばイーサネットインタフェース(「イーサネット」は登録商標)を含む。I/O304は、無線機200を介して、切削工具30から歪みセンサ110の計測結果を受信することができる。
【0064】
グラフィックコントローラ305は、表示装置306に接続されており、表示装置306における表示を制御する。グラフィックコントローラ305は、例えば、GPU及びVRAM(Video RAM)を含み、表示装置306に表示するデータをVRAMに保持し、VRAMから1フレーム分の映像データを定期的に読み出し、映像信号を生成する。生成された映像信号は表示装置306に出力され、表示装置306に映像が表示される。グラフィックコントローラ305の機能は、プロセッサ301に含まれてもよい。揮発性メモリ303の一部の領域を、VRAMとして利用してもよい。
【0065】
表示装置306は、例えば液晶パネル又はOEL(有機エレクトロルミネッセンス)パネルを含む。表示装置306は、文字又は図形の情報を表示することができる。
【0066】
[5.異常検知装置の機能]
図5は、実施形態に係る異常検知装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。異常検知装置300は、分類器310と、入力部311と、異常検知部313と、出力部314との各機能を有する。
【0067】
入力部311は、工作機械20が切削工具30によって加工対象物を加工している間に切削工具30に発生する歪みの計測データを取得する。入力部311は、計測結果DB309から歪みの計測データを受け付ける。計測データは、歪みセンサ110の計測値のデータであり、例えば、歪みの計測値の時系列データである。
【0068】
分類器310は、機械学習済みモデルである。分類器310は、工作機械20が切削工具30によって加工対象物を加工している間の切削工具30の歪みの計測データに基づく対象データを入力とし、対象データの分類結果を出力とする。
【0069】
図6は、切削工具の歪みの時系列の波形の一例を示すグラフである。
図6において、縦軸は歪みを示し、横軸は時間を示す。加工対象物の切削加工には、加工条件が異なる複数の工程が含まれる。例えば、1つの加工対象物に対する旋盤による旋削加工には、複数の外径の外径加工工程、及び複数の内径の内径加工工程が含まれる。一連の切削加工において、工程毎に切削工具30の歪みの計測値の波形パターンは変化する。
図6の例では、1つの加工対象物の切削加工において、工程A、工程B、工程C、工程D、工程E、及び工程Fが含まれる。期間P1に工程Aが実行され、期間P2に工程Bが実行され、期間P3に工程Cが実行され、期間P4に工程Dが実行され、期間P5に工程Eが実行され、期間P6に工程Fが実行される。工程A、工程B、工程C、工程D、工程E、及び工程Fのそれぞれの加工条件は互いに異なっている。このため、工程A、工程B、工程C、工程D、工程E、及び工程Fのそれぞれにおける歪みの波形パターンは互いに異なっている。
【0070】
異常検知装置300は、上記のような複数の工程から選択された1つの工程(以下、「対象工程」ともいう)の計測データを解析し、切削工具30の異常を検知する。具体的な一例では、対象工程は、加工対象物の切削と非切削とを繰り返す断続加工工程である。
【0071】
図7は、断続加工工程に用いられる加工対象物の一例を示す図である。加工対象物400は、円柱の外周に、軸方向に延びる複数の溝401を有する。つまり、加工対象物400において、周方向に、円弧面402と溝401とが交互に並ぶ。このような加工対象物400の外径加工工程では、加工対象物400が周方向(矢印方向)に回転し、切削工具30が加工対象物400の外周面を加工する。切削工具30の切刃は、円弧面402への接触(切削)と、溝401への通過(非切削)とを繰り返す。
【0072】
図8Aは、断続加工工程における切削工具の歪みの時系列の波形の一例を示すグラフであり、
図8Bは、断続加工工程における切削工具の歪みの時系列の波形の他の例を示すグラフである。
図8Aは、計測時間が14秒のグラフであり、
図8Bは、計測時間が1.5秒のグラフである。
図8A及び
図8Bにおいて、縦軸は歪みを示し、横軸は時間を示す。
図8Bの時間軸のスケール(単位時間に対応する長さ)は、
図8Aの時間軸のスケールよりも大きい。加工対象物の切削が連続する連続加工工程では、切削工具30に異常が発生していても、切削工具30に安定して一定の歪みが生じる。これに対して、断続加工工程では、非切削時には切削工具30に歪みが生じず、切削時には切削工具30に歪みが生じる。すなわち、切削工具30に歪みが生じる状態と生じない状態とが繰り返される。特に
図8Bに示されるように、断続加工工程における切削工具の歪みの計測結果では、高値(切削)と低値(非切削)とが交互に繰り返される。このため、切削工具30に生じた異常は、例えば、切削工具30における歪みの変動として表れる。したがって、断続加工工程における歪みの計測結果を用いて、切削工具30の異常を正確に検知することができる。
【0073】
図5に戻り、対象データは、例えば切削工具30の歪みの計測値の特徴量を含む特徴データである。異常検知装置300は、変換部312の機能をさらに有する。変換部312は、歪みの計測値を特徴量に変換し、対象データを生成する。
【0074】
歪みの特徴量は、例えば、歪みの計測値の移動平均値である。歪みの特徴量の他の例は、歪みの計測値の移動標準偏差である。歪みの特徴量のさらに他の例は、歪みの計測値のパーセンタイルの差であり、具体的な一例では、95パーセンタイルと5パーセンタイルとの差である。歪みの特徴量のさらに他の例は、歪みの計測値をバンドパスフィルターでフィルタリングした後の値のRMS(二乗平均平方根)である。
【0075】
対象データは、切削工具30の歪みの計測データ(いわゆる生データ)であってもよい。この場合、変換部312は省略されてもよい。
【0076】
分類器310は、1クラス分類器(1クラス分類部)である。1クラス分類器である分類器310は、教師なし学習によって構築される。
【0077】
図9は、1クラス分類器の学習期間の一例を説明するためのグラフである。
図9において、縦軸は歪みを示し、横軸は時間を示す。
図9において、「異常」と示した時点(以下、「異常発生点」という)で切削工具30の異常が発生している。
図9のグラフでは、加工初期から異常発生点より前では切削工具30が正常である。学習期間は、切削工具30が正常な期間に設定される。すなわち、分類器310の学習では、計測結果DB309に格納された計測データのうち、学習期間における計測データが学習データとして用いられる。これにより、分類器310は、切削工具30が正常な場合の計測データ(以下、「正常時データ」ともいう)の特徴を捉え、正常時データの特徴とは異なる特徴を有する、切削工具30が異常な場合の計測データ(以下、「異常時データ」ともいう)を、正常時データと区別することができる。
【0078】
例えば、分類器310は、局所外れ値因子(LOF)である。以下、局所外れ値因子の分類器310を説明する。
【0079】
図10は、局所外れ値因子の概要を模式的に示した図である。LOFは、データの集合から外れ値を検知する外れ値検知アルゴリズムの1つである。LOFでは、各点についてk個の近傍点との距離から局所密度(図中破線の円で示す)を算出し、注目点Aと近傍群との局所密度を比較して、注目点の局所密度が低い場合は注目点が異常値(外れ値)であると判断する。
【0080】
LOFを具体的に説明する。k-distance(A)を、点Aからk番目の近傍点までの距離とし、N
k(A)を、k最近傍点の集合とする。点Aの点Bからの到達可能性距離reachability-distance
k(A,B)は式(1)によって定義される。
【数1】
【0081】
点Aの局所到達可能性密度lrd
k(A)は式(2)によって定義される。
【数2】
【0082】
さらに点AのLOFは式(3)によって定義される。
【数3】
【0083】
算出されたLOFは、注目点Aの局所密度と、近傍点の局所密度との等しさの程度を示している。LOFが低いほど注目点Aの局所密度は高く、注目点Aは正常データである可能性が高い。LOFが高いほど注目度Aの局所密度は低く、注目点Aは異常データである可能性が高い。つまり、LOFは外れ値スコアであり、異常度の一例である。
【0084】
分類器310は、LOFに限られない。分類器310は、LOF以外の1クラス分類器であってもよい。例えば、分類器310は、Isolation Forestであってもよい。分類器310のさらに他の例は、1クラスSVMである。
【0085】
図5に戻り、異常検知部313は、分類器310による対象データの分類結果に基づいて、切削工具30の異常を検知する。具体的には、異常検知部313は、分類器310による1クラス分類において生成される異常度に基づいて、切削工具30の異常を検知する。
【0086】
さらに具体的には、異常検知部313は、異常度を複数の閾値と比較することにより対象データの多クラス分類を行い、多クラス分類の結果に基づいて切削工具30の異常を検知する。
【0087】
具体的な一例では、異常検知部313は、異常度を第1閾値及び第2閾値と比較することにより、対象データを正常状態、異常直前状態、及び異常状態に分類する。第1閾値は、正常クラスと、異常直前クラス及び異常クラスの集合とに対象データを区別するために用いられる。正常クラスは、切削工具30が正常である対象データのクラスであり、異常クラスは、切削工具30が異常である対象データのクラスであり、異常直前クラスは、切削工具30が異常直前である対象データのクラスである。ここでいう正常状態とは、切削工具30によって正常に加工対象物を加工することができる状態であり、このまま切削工具30を使用し続けてもしばらく異常にはならない状態である。異常状態とは、切削工具30によって正常に加工対象物を加工することができない状態である。異常直前状態とは、切削工具30の正常状態と異常状態との間の中間状態であり、切削工具30によって正常に加工対象物を加工することができるが、このまま切削工具30を使用し続ければまもなく異常になる状態である。
【0088】
第1閾値は、第2閾値よりも小さい値である。異常度(LOF)が第1閾値以下である場合、対象データは正常クラスに属する。異常度が第1閾値より大きい場合、対象データは異常直前クラス又は異常クラスに属する。異常度が第2閾値以下である場合、対象データは正常クラス又は異常直前クラスに属する。異常度が第2閾値より大きい場合、対象データは異常クラスに属する。すなわち、異常度が第1閾値より大きく第2閾値以下である場合、対象データは異常直前クラスに属する。
【0089】
分類器310がLOFである場合、例えば第1閾値は1であり、第2閾値は1より大きい値、例えば1.25である。
【0090】
異常検知部313は、異常度が第2閾値より大きい場合、切削工具30の異常を検知する。異常検知部313は、異常度が第1閾値より大きく第2閾値以下である場合、切削工具30が異常直前状態であると判断することができる。すなわち、異常検知部313は、切削工具30の異常発生を予測することができる。
【0091】
出力部314は、異常検知部313による切削工具30の異常の検知結果を出力する。具体的な一例では、異常検知部313が切削工具30の異常を検知した場合、出力部314は異常の発生をユーザに通知するための情報を出力する。例えば、出力部314は、切削工具30の異常の発生を通知するための画面(以下、「異常通知画面」ともいう)を、表示装置306に表示させる。
図11は、異常通知画面の一例を示す図である。異常通知画面500は、切削工具30の異常の発生を通知するための文字、図形、色彩又はこれらの組み合わせを含む。
図11の例では、異常通知画面500は、「工具に異常が発生しました。」の文字を含む。これにより、ユーザに切削工具30の異常を通知することができる。
【0092】
他の例では、異常検知部313が切削工具30の異常発生を予測した場合、出力部314は、異常発生が予測されることをユーザに通知するための情報を出力する。例えば、出力部314は、切削工具30の異常発生が予測されることを通知するための画面を、表示装置306に表示させる。
図12は、異常予測画面の一例を示す図である。異常予測画面510は、切削工具30の異常発生が予測されることを通知するための文字、図形、色彩又はこれらの組み合わせを含む。
図12の例では、異常予測画面510は、「まもなく工具に異常が発生します。」の文字を含む。これにより、ユーザに切削工具30の異常発生が予測されることを通知することができる。
【0093】
[6.異常検知装置の動作]
異常検知装置300のプロセッサ301が異常検知プログラム307を実行することにより、プロセッサ301は、以下に説明する異常検知処理を実行する。
図13は、実施形態に係る異常検知装置による異常検知処理の一例を示すフローチャートである。
【0094】
切削工具30が使用され、工作機械20によって加工対象物が切削加工されている間、歪みセンサ110が切削工具30の歪みを計測する。センサモジュール100は、歪みセンサ110による計測結果を無線によって異常検知装置300へ送信する。異常検知装置300は、歪みの計測結果を受信し、計測結果DB309に計測結果を格納する。このようにして、計測データが計測結果DB309に蓄積される。
【0095】
プロセッサ301は、計測結果DBから、切削工具30の歪みの計測データを取得する(ステップS101)。
【0096】
対象データが特徴データである場合、プロセッサ301は、取得された計測データの計測値から特徴量を算出し、特徴データを生成する(ステップS102)。ただし、対象データが計測データである場合、ステップS102は省略することができる。
【0097】
次にプロセッサ301は、分類器310による対象データの分類処理(1クラス分類)を実行する(ステップS103)。
【0098】
図14は、対象データの分類処理の一例を示すフローチャートである。
図14では、LOFによる分類処理が示される。
【0099】
プロセッサ301は、上述した式(1)によって、到達可能性距離を算出する(ステップS201)。
【0100】
プロセッサ301は、上述した式(2)によって、局所到達可能性密度を算出する(ステップS202)。
【0101】
プロセッサ301は、上述した式(3)によって、LOF(異常度)を算出する(ステップS203)。
【0102】
プロセッサ301は、LOFによって対象データを分類する(ステップS203)。つまり、対象データが外れ値(異常値)であるか否かを判定する。ただし、異常度に基づく多クラス分類を行う場合、ステップS204の結果は使用されない。この場合、ステップS204は省略してもよい。以上で、分類処理が終了する。
【0103】
図13に戻り、プロセッサ301は、分類器310により算出された異常度を用いて、対象データを多クラス分類する(ステップS104)。つまり、プロセッサ301は、異常度を第1閾値及び第2期視位置と比較し、対象データを正常クラス、異常直前クラス、及び異常クラスに分類する。
【0104】
プロセッサ301は、分類結果が異常クラスであるか否かを判定する(ステップS105)。分類結果が異常クラスである場合(ステップS105においてYES)、つまり、切削工具30の異常が検知された場合、プロセッサ301は異常通知画面500を表示装置306に表示させる(ステップS107)。
【0105】
分類結果が異常クラスでない場合(ステップS105においてNO)、プロセッサ301は、分類結果が異常直前クラスであるか否かを判定する(ステップS106)。分類結果が異常直前クラスである場合(ステップS106においてYES)、つまり、切削工具30の異常発生が予測された場合、プロセッサ301は異常予測画面510を表示装置306に表示させる(ステップS107)。
【0106】
表示装置306に異常通知画面500又は異常予測画面510が表示されると、異常検知処理が終了する。分類結果が正常クラスである場合(ステップS106においてNO)、プロセッサ301は異常検知処理を終了する。
【0107】
[7.変形例]
対象データは、切削工具30の歪みの計測データに基づくデータ(特徴データ又は計測データ。以下、「歪みデータ」ともいう)だけでなく、切削工具30の加速度の計測データに基づくデータ(特徴データ又は計測データ。以下、「加速度データ」ともいう)を含んでもよい。すなわち、対象データは、同時刻における歪みデータと加速度データとの組み合わせであってもよい。切削工具30の加速度は、例えば、工作機械20の主軸に取り付けられた加速度センサ(図示せず)によって計測される。
【0108】
変換部312は、歪みの特徴データだけでなく、加速度の特徴データを生成してもよい。加速度の特徴量は、例えば、加速度の計測値のRMSである。加速度の特徴量の他の例は、加速度の計測値の移動標準偏差である。加速度の特徴量のさらに他の例は、加速度の計測値のパーセンタイルであり、具体的な例では、95パーセンタイル又は5パーセンタイルである。加速度の特徴量のさらに他の例は、加速度の計測値のパーセンタイルの差であり、具体的な一例では、95パーセンタイルと5パーセンタイルとの差である。加速度の特徴量のさらに他の例は、加速度の計測値をバンドパスフィルターでフィルタリングした後の値のRMSである。加速度の特徴量のさらに他の例は、加速度の時系列計測値の尖度である。加速度の特徴量のさらに他の例は、加速度の時系列計測値の歪度である。
【0109】
上述した実施形態では、分類器310を1クラス分類器としたが、これに限定されない。分類器310は多クラス分類器であってもよい。
【0110】
多クラス分類器である分類器310は、対象データの多クラス分類を行う。具体的な一例では、分類器310は、正常クラスと、異常直前クラスと、異常クラスとに対象データを分類する。多クラス分類器である分類器310は、教師あり学習によって構築される。
【0111】
図15は、多クラス分類器の学習期間の一例を説明するためのグラフである。
図15において、縦軸は歪みを示し、横軸は時間を示す。多クラス分類器の学習には、切削工具30が正常状態であるときの計測データと、切削工具30が異常直前状態であるときの計測データと、切削工具30が異常状態であるときの計測データとが用いられる。学習期間は、切削工具30が正常状態である期間(正常期間)と、切削工具30が異常直前状態である期間(異常直前期間)と、切削工具30が異常状態である期間(異常期間)とに設定される。すなわち、分類器310の学習では、計測結果DB309に格納された計測データのうち、正常期間、異常直前期間、及び異常期間における計測データ(又は特徴データ)が学習データとして用いられる。これにより、分類器310は、切削工具30が正常状態である場合の計測データ(正常時データ)の特徴と、切削工具30が異常直前状態である場合の計測データ(以下、「異常直前データ」ともいう)の特徴と、切削工具30が異常状態である場合の計測データ(異常時データ)の特徴とをそれぞれ捉え、正常時データ、異常直前データ、及び異常データを区別することができる。
【0112】
上述した実施形態では、1クラス分類器によって算出された異常度を用いて対象データの多クラス分類を行ったが、これに限定されない。1クラス分類器である分類器310が外れ値(異常データ)を検知することで、切削工具30の異常を検知してもよい。
【0113】
上述した実施形態では、断続加工工程に切出期間を設定し、断続加工工程における切削工具の異常を検知したが、これに限定されない。連続加工工程に切出期間を設定し、連続加工工程における切削工具の異常を検知してもよい。さらに、一又は複数の断続加工工程と、一又は複数の連続加工工程とを含む期間を切出期間として設定し、切出期間における切削工具の異常を検知してもよい。
【0114】
[8.補記]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的ではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及びその範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0115】
10 異常検知システム
20 工作機械
30 切削工具
30A,30B 旋削工具
30C,30D 転削工具
31A,31B,31C,31D 切削部
32 切削インサート
33A,33B,33C 固定用部材
34,35 切刃
100 センサモジュール
101 プロセッサ
102 不揮発性メモリ
103 揮発性メモリ
104 通信インタフェース(通信I/F)
105 電池
110,110A,110B 歪みセンサ
200 無線機
300 異常検知装置
301 プロセッサ
302 不揮発性メモリ
303 揮発性メモリ
304 入出力インタフェース(I/O)
305 グラフィックコントローラ
306 表示装置
307 異常検知プログラム
308 基準データ
309 計測結果DB
310 分類器(分類部)
311 入力部
312 変換部
313 異常検知部
314 出力部
400 加工対象物
401 溝
402 円弧面
500 異常通知画面
510 異常予測画面
A,B,C,D,E,F 工程
P1,P2,P3,P4,P5,P6 期間
【要約】
異常検知システムは、工作機械に取り付けられた工具の異常を検知する異常検知システムであって、前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に前記工具に発生する歪みを計測する歪みセンサと、前記歪みセンサの計測データに基づいて前記工具の異常を検知する異常検知装置と、を備え、前記異常検知装置は、前記歪みセンサの計測データに基づく対象データを入力とし、前記対象データの分類結果を出力とする機械学習済みモデルである分類部と、前記分類部による前記対象データの分類結果に基づいて、前記工具の異常を検知する異常検知部と、前記異常検知部による検知結果を出力する出力部と、を含む。