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特許7276671水素供給装置およびこれを備えたイオンビーム照射装置
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  • 特許-水素供給装置およびこれを備えたイオンビーム照射装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】水素供給装置およびこれを備えたイオンビーム照射装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 27/02 20060101AFI20230511BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20230511BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
H01J27/02
H01J37/08
H01J37/317 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021114967
(22)【出願日】2021-07-12
(65)【公開番号】P2023011234
(43)【公開日】2023-01-24
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 裕也
(72)【発明者】
【氏名】趙 維江
(72)【発明者】
【氏名】糸井 駿
(72)【発明者】
【氏名】岩波 悠太
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-172862(JP,A)
【文献】特開昭63-248039(JP,A)
【文献】国際公開第2011/096227(WO,A1)
【文献】特開2010-236084(JP,A)
【文献】特開2007-330877(JP,A)
【文献】特開2005-105350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J37/00-37/36
F17C11/00
H01L21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電位に配置される水素供給装置であって、
内部に水素吸蔵合金を有するボトルと、
前記ボトルを冷却することにより、前記ボトルの温度上昇を防止し、前記水素吸蔵合金から放出される水素ガスの供給圧力を調整する温度上昇防止部材を備た水素供給装置。
【請求項2】
前記温度上昇防止部材は前記ボトルに冷気を供給する請求項記載の水素供給装置。
【請求項3】
前記ボトルの周囲に断熱部材が配置されている請求項記載の水素供給装置。
【請求項4】
前記ボトルから供給される水素ガスの圧力や前記ボトルの温度に応じて、前記温度上昇防止部材で前記ボトルの温度を制御する制御装置を備えた請求項又は記載の水素供給装置。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の水素供給装置と、
前記水素供給装置から水素ガスが供給されるイオン源を有している、イオンビーム照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水素ガスを供給する装置と当該装置が搭載されたイオンビーム照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
BFやPFといったハロゲン成分を含有するドーパントガスをイオン注入装置で使用する場合、ドーパントガスが導入されるイオン源の構成部品とハロゲン成分とが反応して、ハロゲン化合物が生成される。
このハロゲン化合物は、温度が比較的低温の場所に堆積して、部材の絶縁化や放電等の不具合を引き起こす。
【0003】
上述した不具合への対応としてドーパントガスと一緒に水素ガスをイオン源に導入することが行われている。こうすることで、ドーパントガスがプラズマ化された際に生じるハロゲン成分のイオンとイオン源に導入された水素ガスとが結合し、気体として装置外部に排出される。これより、不具合の原因であるハロゲン化合物の堆積が低減される。
【0004】
水素ガスの供給方法については、様々な構成が採用されている。例えば、特許文献1では、ガスボックスに配置された水素発生装置からイオン源に水素ガスの供給が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2021-511623
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水素発生装置は、水の電気分解によって水素を発生する装置であるため、装置構成が複雑で、比較的大型の装置になる。
また、ガスボックスが配置される場所は高電圧(数百KV)が印加される場所であり、この場所に電気的に水素を発生させる装置を配置すると、漏電や漏水による大事故の危険性がある。
さらに、水素発生装置は、水素の発生時、微量ではあるが水素以外の成分(例えば、大気中の成分や水分)が発生する。
【0007】
そこで、本発明では、簡素な構成で安定した水素供給が実現可能な水素供給装置と当該装置を備えたイオンビーム照射装置を提供することを期初の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
水素供給装置は、
高電位に配置される水素供給装置であって、
内部に水素吸蔵合金を有するボトルを備えている。
【0009】
ボトルの開閉により水素供給が可能となるため、装置構成が単純になる。
また、水素発生装置のように水素の発生に電気や水を必要としないため、高電位の場所に配置しても漏電や漏水による事故の危険性がない。さらに、水素吸蔵合金であれば、純度の高い水素ガスを継続して供給することが可能である。これより、簡素な構成で安定した水素供給が実現できる。
【0010】
水素供給をより安定に行うには、
前記ボトルの温度上昇を防止する温度上昇防止部材をさらに備えていることが望ましい。
【0011】
水素吸蔵合金を用いた水素供給量は温度依存性があるため、ボトルの温度上昇を防止する温度上昇防止部材を備えていれば、安定した水素供給を実施することが可能となる。
【0012】
前記温度上昇防止部材は前記ボトルに冷気を供給するものであることが望ましい。
【0013】
ボトルに冷気を供給する空冷式の部材であれば、ボトル周りの構成を簡素にすることができる。
【0014】
ボトルの温度上昇をより効果的に防止するには、
前記ボトルの周囲に断熱部材が配置されていることが望ましい。
【0015】
ボトルからの水素供給量をより正確に制御するには、
前記ボトルから供給される水素ガスの圧力や前記ボトルの温度に応じて、前記温度上昇防止部材で前記ボトルの温度を制御することが望ましい。
【0016】
イオンビーム照射装置の構成は、
上述した水素供給装置と、
前記水素供給装置から水素ガスが供給されるイオン源を有している、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
ボトルの開閉により水素供給が可能となるため、装置構成が単純になる。
また、水素発生装置のように水素の発生に電気や水を必要としないため、高電位の場所に配置しても漏電や漏水による事故の危険性がない。さらに、水素吸蔵合金であれば、純度の高い水素ガスを継続して供給することが可能である。これより、簡素な構成で安定した水素供給が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】イオン注入装置の構成例を示す模式的平面図
図2】高電圧部の要部を示す模式的平面図
図3】供給される水素ガスの圧力と温度との関係を表すグラフ
図4図2で別の水素供給装置を用いた模式的平面図
図5図4の水素供給装置の変形例についての説明図
図6図2でさらに別の水素供給装置を用いた模式的平面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、イオン注入装置IMの構成例を示す模式的平面図である。イオン注入装置IMは、大別してイオン源部、ビームライン部、エンドステーション部の3つの部位に分かれている。
【0020】
イオン源部は、イオンビームIBを生成する部位で、内部にプラズマが生成されるプラズマ生成容器11とプラズマ生成容器11からイオンビームIBの引出しを行う引出電極12を含むイオン源1を備えている。プラズマ生成容器11には、プラズマの元になるガスを供給するための1または複数のボトルが接続されている。図1の構成例では、第1のボトル7と第2のボトル8の2つのボトルがプラズマ生成容器11に接続されている。
【0021】
第1のボトル7は水素ガスをプラズマ生成容器11に供給するためのもので、内部に水素吸蔵合金(マグネシウム、チタン、バナジウム、ランタン等の水素を吸蔵、放出することのできる合金)を有している。この第1のボトル7が、後述する本発明の水素供給装置Hを構成している。
第2のボトル8は、例えば、ウエハに注入するイオン種を含んだドーパントガスやプラズマ生成容器11内に設けられたスパッタターゲットからのイオン生成に用いられるガス(BFやPF等のガス)を、プラズマ生成容器11に供給するボトルである。
【0022】
上述したイオン源部は、後述するビームライン部やエンドステーション部に比べて、数百KV電位の高い高電位部HVに配置されている。本例では、イオン源部は高電位部HVと同等と考えてもよい。
【0023】
イオン源1から引き出されたイオンビームIBは、ビームライン部に輸送される。ここでは、分析電磁石2と分析スリット3を通してウエハに注入されるイオンの選別が行われている。ビームライン部を通過したイオンビームIBはエンドステーション部に輸送される。
【0024】
エンドステーション部では、処理室4内のウエハ5に対してイオン注入処理が実施される。処理室4にはホルダ6に保持されたウエハ5(例えば、シリコンウエハ等の半導体ウエハ)が不図示の駆動機構によって図の矢印方向へ、処理室4に導入されたイオンビームIBを横切るようにして、1又は複数回往復搬送されている。このウエハ5の往復搬送によって、ウエハ全面にイオンビームIBが照射されて、イオンビームIBによるウエハ5へのイオン注入処理が実現される。
なお、図1において、イオン源1から引き出されたイオンビームIBの紙面奥手前方向の寸法は、同方向におけるウエハ5の寸法よりも大きいものとする。
【0025】
図2は、高電位部HVの要部拡大図である。この図をもとに、高電位部HVの構成について説明する。
筐体24には、数百KVの高い電圧が印加されていて、装置外壁を成す筐体26から絶縁碍子21で支持されている。
ガスボックスGとイオン源1は、筐体24の中に配置され、絶縁碍子21で個別に支持されている。ガスボックスG(第1のボトル7)とイオン源1は導電性の配管で接続されていて、各部の電位は筐体24の電位と数十KV異なっている。
イオン源1から引き出されたイオンビーム(不図示)は、エンドステーション部まで続く真空容器25を通して輸送される。
【0026】
ガスボックスGは、その内部に第1のボトル7や不図示の第2のボトル8を有している。ガスボックスGには、例えば工場内の排気ダクトDが取り付けられていて、ガスボックスG内でガス漏れが生じた場合、当該排気ダクトDを通じて装置外部にガスの排出が行われる。
【0027】
第1のボトル7は水素吸蔵合金を有している。第1のボトル7のバルブ(不図示)を開けることで導電性の配管23を通じてプラズマ生成容器11への水素供給が行われる。図2の構成例では、内部に水素吸蔵合金を有する第1のボトル7が水素供給装置Hに相当する。
【0028】
ボトルの開閉により水素供給が可能となるため、装置構成が単純になる。また、水素吸蔵合金を用いた水素供給では、従来の水素発生装置のように水素の発生に電気や水を必要としないため、高電位の場所に配置しても漏電や漏水による事故の危険性がない。
さらに、水の電気分解を利用した水素発生装置であれば、水素供給時に微量の大気成分や水分が発生する。水素吸蔵合金を用いた水素供給装置では、吸蔵時に水素以外のガスを吸い込んだ場合、ボトルの開封後に水素以外の成分が放出されるが、当該ガスが放出された後に引き続いて水素ガスが放出される。つまり、不所望なガスと水素ガスとを分離した状態で供給することができるので、純度の高い水素ガスを継続して供給することが可能となる。
結果として、簡素な構成で安定した水素供給が実現できる。
【0029】
イオン源1の運転に伴って、イオン源1の温度は上昇する。イオン源1の温度上昇に伴い、その周囲に配置されるガスボックスGの温度も上昇する。水素吸蔵合金から放出される水素ガスの圧力は、図3にみられるように温度依存性を有している。図中、破線は0℃、一点鎖線は20℃、二点鎖線は50℃の温度に対応している。図のように、温度が大きく異なると水素吸蔵合金から放出される水素ガスの圧力も大きく変動する。
【0030】
プラズマ生成容器11への水素供給量を安定させるには、上述した温度上昇に伴う圧力変動を抑制することが望まれる。
また、水素ガスの供給圧力が高ければ、装置の仕向け地によっては法規制の対象になることから、規制範囲内の所定圧力を維持するように温度上昇を抑制することが要求されることもある。
【0031】
そこで、上述した温度上昇や圧力上昇を抑制するために、図4記載の構成を用いることが考えられる。図4は、図2の構成に比べて、水素供給装置Hが温度上昇防止部材22を備えている点が相違している。
【0032】
具体例として、図4の構成例では、エアジェットクーラを温度上昇防止部材22として用いている。エアジェットクーラは、内部に圧縮空気を送り込むことで一端から温風を放出し、他端から冷風を放出する筒状の部材として知られている。動力に電気が不要で水冷のように水を利用しないことから、高電位部HVでの漏電や漏水による事故のリスクがない点で優れている。
エアジェットクーラを温度上昇防止部材22として利用し、第1のボトル7を冷却することにより、第1のボトル7の温度上昇を抑え、水素ガスの供給量を安定させることができる。
なお、ここで述べた温度上昇防止部材22とは、外部の熱源による第1のボトル7の温度上昇を防止する部材である。なお、エアジェットクーラへの圧縮空気の供給は、排気ダクトD内に樹脂製のチューブを設け、このチューブを通じて行うようにしてもよい。
【0033】
図5には、図4の水素供給装置Hについての変形例が挙げられている。図4で説明したエアジェットクーラで第1のボトル7を冷却する構成に加えて、あるいはその代わりに図5に示す構成を採用してもよい。
【0034】
図5(A)では、断熱部材31を第1のボトル7の周囲に設けている。このような断熱部材31があれば、イオン源1側から第1のボトル7への熱伝達を防止することができる。
ただし、断熱部材31で第1のボトル7の周囲を完全に防ぐことが難しいことや後述する第1のボトル7の温度制御を行うのであれば、エアジェットクーラと断熱部材31とを併用してもよい。この場合、断熱部材31は、エアジェットクーラで冷却された第1のボトル7の温度を低温に保つ役割を果たしている。
【0035】
例えば、図5(B)に図示されているように、断熱部材31で第1のボトル7の周囲を覆っておき、断熱部材31で覆われていない第1のボトル7の上方から温度上昇防止部材22(エアジェットクーラ)で冷気を供給してもよい。一方、断熱部材31の一部に穴をあけておき、この穴から温度上昇防止部材22(エアジェットクーラ)で冷気を供給するようにしてもよい。
【0036】
図5(C)では、水冷ジャケット32を第1のボトル7の周囲に設けている。また、図5(D)では、第1のボトル7を間接的に冷却するために、第1のボトル7から水素ガスを供給するための配管23に冷媒が流れているチューブ34を巻き付けている。
図5(B)や図5(C)のように、第1のボトル7の昇温を直接的あるいは間接的に冷却するようにしてもよい。
【0037】
図4図5で述べた温度上昇防止部材22による第1のボトル7を冷却する構成では、第1のボトル7を過度に冷却してしまうことが懸念される。この懸念から、図6に示す構成を採用してもよい。
図6では、温度上昇防止部材22の出力を制御している。具体的には、第1のボトル7から配管23に供給される水素ガスの圧力を圧力計Pで測定し、測定結果に基づいて制御装置Cで温度上昇防止部材22の出力を制御している。このようなフィードバック制御を行うことにより、ボトルの過冷却を防ぎ、水素供給量をより正確に制御することが可能となる。
【0038】
図3で述べたように、水素吸蔵合金を用いた水素供給装置Hの場合、供給される水素ガスの圧力(流量)は、水素吸蔵合金を備えたボトルの温度に応じて変動する。図6では配管23を通過する水素ガスの圧力を測定していたが、水素吸蔵合金を備えたボトルの温度を測定し、これが所定温度になるように温度上昇防止部材22の出力を制御してもよい。
なお、温度上昇防止部材22の出力制御は、出力を連続的に変更する制御であってもいいが、出力の入り切りを適宜切り替える制御であってもよい。
【0039】
図1では、イオン注入装置IMの高電位部HVに本発明の水素供給装置Hが搭載される例について述べたが、イオン注入装置IM以外の他の装置に、本発明の水素供給装置Hを搭載してもよい。例えば、イオンビームを用いてウエハを処理する装置であって、本発明の水素供給装置Hから水素ガスが供給されるイオン源を備えている装置であればよい。イオン注入装置を含め、上述したイオンビームによりウエハを処理する装置をイオンビーム照射装置と呼ぶ。
イオンビーム照射装置において、ビームライン部の構成はウエハの処理内容に応じて適宜変更されてもよく、ビームライン部そのものを有していない構成であってもよい。
【0040】
また、特許文献1と同様に、ハロゲン含有のドーパントガスの混合ガスとして本発明の水素供給装置Hから供給される水素ガスを利用してもよいが、水素ガスの用途はこのような混合ガスに限定されるものではない。
例えば、本発明の水素供給装置Hから供給される水素ガスから水素イオンを生成し、水素イオンビームとして引出す場合には、他のガスは不要となる。
【0041】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
1 イオン源
7 第1のボトル
8 第2のボトル
22 温度上昇防止部材
31 断熱部材
H 水供給装置
HV 高電位部
IM イオン注入装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6