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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】加工システム、及び加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/12 20060101AFI20230511BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B23Q15/12 Z
G05B19/404 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022547801
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2022009058
(87)【国際公開番号】W WO2022186321
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2021033931
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】運天 政貴
(72)【発明者】
【氏名】寺井 寛明
(72)【発明者】
【氏名】角 仙一
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-38945(JP,A)
【文献】特開平4-176541(JP,A)
【文献】特開2021-58966(JP,A)
【文献】国際公開第2021/045014(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q;
G05B 19/00-19/46;
B23B;
B23C;
B23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースを加工する工具と、
前記工具又は前記ワークピースを回転させるモータと、
前記モータを制御する制御器と、
前記モータの負荷電流を取得する測定器とを備え、
前記制御器は、マハラノビスの距離が閾値超である場合、前記モータの回転数を変え、
前記マハラノビスの距離は、前記ワークピースにおける特定の加工範囲にて前記測定器で取得された前記負荷電流に基づくパラメータを用いて求められた値であり、
前記負荷電流に基づくパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータと前記負荷電流の測定値とを含む、
加工システム。
【請求項2】
前記負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータは、
前記負荷電流をフーリエ変換した値の実効値と、
前記負荷電流をフーリエ変換したフーリエスペクトルにおけるピークの振幅値と、
前記ピークの振幅の重心と、
前記フーリエスペクトルの特定の周波数範囲におけるピークの振幅の重心と、を含む、請求項1に記載の加工システム。
【請求項3】
前記負荷電流の測定値は、
前記負荷電流の最大値と、
前記負荷電流の実効値と、を含む、請求項1又は請求項2に記載の加工システム。
【請求項4】
前記負荷電流に基づくパラメータの数は、第一のパラメータから第七のパラメータの7個であり、
前記第一のパラメータから前記第五のパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータであり、
前記第六のパラメータ及び前記第七のパラメータは、前記負荷電流の測定値である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の加工システム。
【請求項5】
前記第一のパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換した値の実効値であり、
前記第二のパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換したフーリエスペクトルにおけるピークの振幅値であり、
前記第三のパラメータは、前記ピークの振幅の重心であり、
前記第四のパラメータは、前記フーリエスペクトルの28Hz以上30Hz以下におけるピークの振幅の重心であり、
前記第五のパラメータは、前記フーリエスペクトルの31Hz以上33Hz以下におけるピークの振幅の重心であり、
前記第六のパラメータは、前記負荷電流の最大値であり、
前記第七のパラメータは、前記負荷電流の実効値である、請求項4に記載の加工システム。
【請求項6】
前記特定の加工範囲は、前記工具による加工条件が変化する箇所を含む範囲である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の加工システム。
【請求項7】
前記加工システムは、多軸旋盤を有し、
前記工具は、前記多軸旋盤に備わる旋削工具である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の加工システム。
【請求項8】
工具又はワークピースをモータで回転させ、かつ前記モータの負荷電流を測定器で測定しながら、前記工具で前記ワークピースを加工する工程を備え、
前記加工する工程は、マハラノビスの距離が閾値超である場合、前記モータの回転数を変え、
前記マハラノビスの距離は、前記ワークピースにおける特定の加工範囲にて前記測定器で取得された前記負荷電流に基づくパラメータを用いて求められた値であり、
前記負荷電流に基づくパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータと前記負荷電流の測定値とを含む、
加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工システム、及び加工物の製造方法に関する。
本出願は、2021年03月03日付の日本国出願の特願2021-033931に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、焼結部品を機械加工することを開示している。機械加工には、切削工具や研削工具が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-336078号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の加工システムは、
ワークピースを加工する工具と、
前記工具又は前記ワークピースを回転させるモータと、
前記モータを制御する制御器と、
前記モータの負荷電流を取得する測定器とを備え、
前記制御器は、マハラノビスの距離が閾値超である場合、前記モータの回転数を変え、
前記マハラノビスの距離は、前記ワークピースにおける特定の加工範囲にて前記測定器で取得された前記負荷電流に基づくパラメータを用いて求められた値であり、
前記負荷電流に基づくパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータと前記負荷電流の測定値とを含む。
【0005】
本開示の加工物の製造方法は、
工具又はワークピースをモータで回転させ、かつ前記モータの負荷電流を測定器で測定しながら、前記工具で前記ワークピースを加工する工程を備え、
前記加工する工程は、マハラノビスの距離が閾値超である場合、前記モータの回転数を変え、
前記マハラノビスの距離は、前記ワークピースにおける特定の加工範囲にて前記測定器で取得された前記負荷電流に基づくパラメータを用いて求められた値であり、
前記負荷電流に基づくパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータと前記負荷電流の測定値とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態の加工システムを示す説明図である。
図2図2は、実施形態の加工システムに備わる工具と工具で加工されるワークピースを示す説明図である。
図3図3は、実施形態の加工システムによって取得したモータの負荷電流の波形のグラフを示す図である。
図4図4は、実施形態の加工システムによって取得したモータの負荷電流をフーリエ変換したフーリエスペクトルの波形のグラフを示す図である。
図5図5は、実施形態の加工システムにおける制御器の処理手順を示すフローチャートである。
図6図6は、変形例1の加工システムに備わる工具と工具で加工されるワークピースを示す説明図である。
図7図7は、変形例2の加工システムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
工具は、ワークピースを加工する過程で損傷することがある。工具が損傷すると、次のワークピースに所定の加工が施せなくなり、工具によって所定の加工が施されていない不良品が生産される。
【0008】
本開示は、不良品の生産を抑制できる加工システム及び加工物の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の加工システム及び本開示の加工物の製造方法は、不良品の生産を抑制できる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0011】
(1)本開示の一態様の加工システムは、
ワークピースを加工する工具と、
前記工具又は前記ワークピースを回転させるモータと、
前記モータを制御する制御器と、
前記モータの負荷電流を取得する測定器とを備え、
前記制御器は、マハラノビスの距離が閾値超である場合、前記モータの回転数を変え、
前記マハラノビスの距離は、前記ワークピースにおける特定の加工範囲にて前記測定器で取得された前記負荷電流に基づくパラメータを用いて求められた値であり、
前記負荷電流に基づくパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータと前記負荷電流の測定値とを含む。
【0012】
上記加工システムは、工具によって所定の加工が施されていない不良品の生産を抑制できる。上記加工システムは、マハラノビスの距離が閾値超である場合、直ちにモータの回転数を変えられる。本明細書において、マハラノビスの距離をMD値ということがある。MD値が閾値超である場合とは、詳しくは後述するように、不良品が生産された場合をいう。即ち、上記加工システムは、不良品が生産されたら、直ちにモータの回転数を変えられる。
【0013】
(2)上記加工システムにおいて、
前記負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータは、
前記負荷電流をフーリエ変換した値の実効値と、
前記負荷電流をフーリエ変換したフーリエスペクトルにおけるピークの振幅値と、
前記ピークの振幅の重心と、
前記フーリエスペクトルの特定の周波数範囲におけるピークの振幅の重心と、を含んでいてもよい。
【0014】
上記形態は、不良品の生産を抑制できる。
【0015】
(3)上記加工システムにおいて、
前記負荷電流の測定値は、
前記負荷電流の最大値と、
前記負荷電流の実効値と、を含んでいてもよい。
【0016】
上記形態は、不良品の生産を抑制できる。
【0017】
(4)上記加工システムにおいて、
前記負荷電流に基づくパラメータの数は、第一のパラメータから第七のパラメータの7個であり、
前記第一のパラメータから前記第五のパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータであり、
前記第六のパラメータ及び前記第七のパラメータは、前記負荷電流の測定値であってもよい。
【0018】
上記形態は、不良品の生産を抑制できる。
【0019】
(5)上記(4)の加工システムにおいて、
前記第一のパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換した値の実効値であり、
前記第二のパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換したフーリエスペクトルにおけるピークの振幅値であり、
前記第三のパラメータは、前記ピークの振幅の重心であり、
前記第四のパラメータは、前記フーリエスペクトルの28Hz以上30Hz以下におけるピークの振幅の重心であり、
前記第五のパラメータは、前記フーリエスペクトルの31Hz以上33Hz以下におけるピークの振幅の重心であり、
前記第六のパラメータは、前記負荷電流の最大値であり、
前記第七のパラメータは、前記負荷電流の実効値であってもよい。
【0020】
上記形態は、不良品の生産を抑制できる。
【0021】
(6)上記加工システムにおいて、
前記特定の加工範囲は、前記工具による加工条件が変化する箇所を含む範囲であってもよい。
【0022】
一つのワークピースの加工過程において、工具による加工条件が変化する箇所では、測定器で取得される負荷電流に特異な変化が生じる。この特異な変化に着目することで、MD値が閾値超か否かを判定し易い。よって、特異な変化に着目することで、不良品が生産されたことを精度良く検出できる。工具による加工条件が変化する箇所については、後述する。
【0023】
(7)上記加工システムにおいて、
前記加工システムは、多軸旋盤を有し、
前記工具は、前記多軸旋盤に備わる旋削工具であってもよい。
【0024】
多軸旋盤では、複数のワークピースが実質的に同時に加工されるため、他のワークピースの加工に伴う振動が外乱として振動計に伝搬する。そのため、振動に基づくMD値では、不良品の生産の有無を適切に判別できないことがある。これに対し、ワークピースごとの加工に伴うモータの負荷電流は、それぞれ異なる測定器より取得される。更に、振動とは異なってモータごとの負荷電流は互いに影響を受けない。そのため、上記加工システムは、負荷電流に基づく第一のパラメータから第七のパラメータを用いて求められたMD値を不良品の生産の有無の判定に用いるため、多軸旋盤であっても不良品の生産の有無を適切に判別できる。
【0025】
(8)本開示の加工物の製造方法は、
工具又はワークピースをモータで回転させ、かつ前記モータの負荷電流を測定器で測定しながら、前記工具で前記ワークピースを加工する工程を備え、
前記加工する工程は、マハラノビスの距離が閾値超である場合、前記モータの回転数を変え、
前記マハラノビスの距離は、前記ワークピースにおける特定の加工範囲にて前記測定器で取得された前記負荷電流に基づくパラメータを用いて求められた値であり、
前記負荷電流に基づくパラメータは、前記負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータと前記負荷電流の測定値とを含む。
【0026】
上記加工物の製造方法は、不良品の生産を抑制できる。上記加工物の製造方法は、上述の加工システムと同様、不良品が生産された場合、直ちにモータの回転数を変えられるからである。
【0027】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0028】
《実施形態》
〔加工システム〕
図1から図5を参照して、実施形態の加工システム1を説明する。本実施形態の加工システム1は、図1に示すように、工具2と、モータ3と、測定器4と、制御器5とを備える。工具2は、ワークピース10を加工する。モータ3は、工具2又はワークピース10を回転させる。測定器4は、モータ3の負荷電流を取得する。制御器5は、モータ3を制御する。本実施形態の加工システム1の特徴の一つは、現在加工中のワークピース10のMD値が閾値超である場合、制御器5がモータ3の回転数を変える点にある。本実施形態の加工システム1は、複数のワークピース10を順に加工する。すなわち、本実施形態の加工システム1は、複数のワークピース10のそれぞれを一つ一つ順番に加工する。
【0029】
[ワークピース]
ワークピース10は、工具2によって加工される加工対象である。図1のワークピース10は、簡略化して示されている。ワークピース10の材質、種類、及び形状は、特に限定されず、適宜選択できる。ワークピース10の材質は、代表的には、金属、樹脂、又はセラミックスである。金属の一例は、純鉄、鉄合金、又は非鉄金属である。非鉄金属の一例は、銅、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金である。ワークピース10の種類は、例えば、圧粉成形体、焼結体、溶製材、又は樹脂成形体である。圧粉成形体は、原料粉末を加圧成形したものである。焼結体は、圧粉成形体を焼結したものである。溶製材は、原料溶湯を凝固させたものである。樹脂成形体は、溶かした樹脂を固めたものである。ワークピース10の形状は、例えば、単一の板状体又は柱状体のような単純形状であってもよいし、板状体及び柱状体を複数組み合わせたような複雑形状であってもよい。
【0030】
本実施形態のワークピース10は、金属製の焼結体である。本実施形態のワークピース10は、凹部10aを有する。凹部10aは、図2に示すように、壁面11と底面12と角部13で構成されている。角部13は、壁面11と底面12とをつないでいる。本実施形態では、凹部10a内の壁面11及び底面12を工具2で仕上げ加工する。本実施形態とは異なり、凹部10a内は粗加工されてもよい。
【0031】
[工具]
工具2は、ワークピース10を加工する。工具2の種類は、加工の種類に応じて適宜選択できる。加工の種類は、例えば、旋削加工や転削加工である。旋削加工の場合、工具2の種類は旋削工具である。旋削工具は、例えば、バイトである。転削加工の場合、工具2の種類は回転工具である。回転工具は、例えば、ドリル、リーマ、タップ、エンドミル、サイドカッター、Tスロットカッター、ホブカッターである。
【0032】
工具2は、工作機械に取り付けられる。工作機械は、旋削加工の場合、例えば、多軸旋盤である。多軸旋盤は、例えば、平行2軸旋盤又は対向2軸旋盤である。転削加工の場合、工作機械は、例えば、マシニングセンタである。工作機械は、旋削加工と転削加工の両方を行える複合加工機でもよい。多軸旋盤やマシニングセンタには、公知の多軸旋盤やマシニングセンタが利用できる。
【0033】
本実施形態の工作機械は、図1に示すように、平行2軸旋盤である。平行2軸旋盤は、第一の主軸101と第二の主軸102とが平行な旋盤である。平行2軸旋盤は、第一の主軸101及び第二の主軸102と、第一のチャック111及び第二のチャック112と、第一の刃物台及び第二の刃物台と、移送機と、を備える。第一の刃物台及び第二の刃物台と移送機の図示は、省略する。
【0034】
第一の主軸101の先端には、第一のチャック111が取り付けられている。第二の主軸102の先端には、第二のチャック112が取り付けられている。第一のチャック111及び第二のチャック112は、ワークピース10を保持する。第一の刃物台は、第一の工具21が取り付けられている。第二の刃物台は、第二の工具22が取り付けられている。第一の工具21は、第一のチャック111に保持されたワークピース10を加工する。第二の工具22は、第二のチャック112に保持されたワークピース10を加工する。第一の工具21と第二の工具22とは、上述したように加工の種類に応じて適宜選択できる。第一の工具21と第二の工具22とは、同じでも異なっていてもよい。本実施形態では、第一の工具21及び第二の工具22は、図1に示すように、互いに同じ刃先交換型のバイトである。第一の工具21及び第二の工具22は、異なるワークピース10の互いに対応する範囲に同じ加工条件で仕上げ加工する。第一の主軸101と第二の主軸102、第一のチャック111と第二のチャック112、第一の刃物台と第二の刃物台は、互いに同じ構成である。以下の説明は、代表して、第一の主軸101と第一のチャック111と第一の刃物台について行う。
【0035】
第一の主軸101は、後述する第一のモータ31によって回転する。第一の主軸101が回転することによって、第一のチャック111に保持されているワークピース10が回転する。第一の主軸101は、図示を省略する駆動機構によって、図1に上下方向の矢印で示すように前進及び後退する。この駆動機構によって、第一の主軸101は、更に図1に左右方向の矢印で示すように水平移動してもよい。第一の刃物台は、図示を省略している駆動機構によって、図1に上下方向の矢印で示すように前進及び後退する。この駆動機構によって、第一の刃物台は、更に図1に左右方向の矢印で示すように水平移動してもよい。前進とは、ワークピース10と工具2とを近づけることをいう。後退とは、ワークピース10と工具2とを遠ざけることをいう。水平移動とは、前進方向及び後退方向とは直交する方向に移動することをいう。
【0036】
移送機は、ワークピース10を平行2軸旋盤の外部から第一のチャック111及び第二のチャック112の各々への移送と、第一のチャック111及び第二のチャック112の各々から平行2軸旋盤の外部への移送とを行う。移送機の数は、複数でもよい。移送機の数は、例えば、第一移送機と第二移送機の2つでもよい。第一移送機は、ワークピース10を平行2軸旋盤の外部から第一のチャック111への移送と、第一のチャック111から平行2軸旋盤の外部への移送とを行う。第二移送機は、ワークピース10を平行2軸旋盤の外部から第二のチャック112への移送と、第二のチャック112から平行2軸旋盤の外部への移送とを行う。
【0037】
第一の工具21によるワークピース10の加工の流れは、次の通りである。ワークピース10は、移送機によって平行2軸旋盤の外部から第一のチャック111に移送されて保持される。第一のチャック111にワークピース10が保持されると、第一の主軸101がモータ3によって回転する。この回転によって、第一のチャック111に保持されたワークピース10は回転する。回転するワークピース10と第一の工具21とが近づき、そのワークピース10の凹部10aが第一の工具21によって加工される。第一の工具21によって加工されたワークピース10は、移送機によって第一のチャック111から取り外される。取り外されたワークピース10は、移送機によって平行2軸旋盤の外部へ移送される。第二の工具22によるワークピース10の加工の流れは、上述した第一の工具21によるワークピース10の加工の流れと同様である。第一のチャック111に保持されたワークピース10の加工と第二のチャック112に保持されたワークピース10の加工とが、実質的に同時に行われる。第一の工具21によるワークピース10の加工及び第二の工具22によるワークピース10の加工の各々が繰り返される。よって、第一の工具21及び第二の工具22の各々で複数のワークピース10が順次加工される。
【0038】
[モータ]
モータ3は、ワークピース10又は工具2を回転させる主軸モータである。本実施形態のように旋削加工の場合、上述したようにモータ3は、主軸100を回転させることでチャック110を介してワークピース10を回転させる。本実施形態のように工作機械が平行2軸旋盤である場合、モータ3の数は、第一のモータ31と第二のモータ32の2つである。第一のモータ31は、第一の主軸101を回転させる。第二のモータ32は、第二の主軸102を回転させる。図1において、第一のモータ31と第一の主軸101をつなぐ二点鎖線、及び第二のモータ32と第二の主軸102をつなぐ二点鎖線は、各モータ3によって回転される各主軸100の回転軸を仮想的に示している。この回転軸を中心にワークピース10が自転する。本実施形態とは異なり、転削加工の場合、モータ3は工具2を自転させる。
【0039】
[測定器]
測定器4は、モータ3の負荷電流を取得する。測定器4は、例えば、電流センサである。本実施形態のように工作機械が平行2軸旋盤である場合、測定器4の数は、第一の測定器41と第二の測定器42の2つである。第一の測定器41は、第一のモータ31の負荷電流を取得する。第二の測定器42は、第二のモータ32の負荷電流を取得する。即ち、第一の測定器41と第二の測定器42とで測定される負荷電流は、互いに影響を受けず独立している。
【0040】
[制御器]
制御器5は、モータ3を制御する。制御器5は、モータ3の回転数を変える。モータ3の回転数は、ワークピース10の加工に先立って、加工条件に応じた回転数に設定される。モータ3の回転数の変更は、代表的には、現在加工中のワークピース10のMD値が閾値超か否かに基づいて行われる。現在加工中のワークピース10のMD値は後述する。本実施形態のように工作機械が平行2軸旋盤である場合、制御器5は、第一のモータ31と第二のモータ32とを個々に制御する。ここでは、第一の工具21と第二の工具22とは、異なるワークピース10の互いに対応する範囲に同じ加工条件で仕上げ加工する。即ち、制御器5による第一のモータ31の制御と制御器5による第二のモータ32の制御とは、基本的な制御手順が共通する。よって、以下の説明は、代表して制御器5が第一のモータ31を制御する場合について行う。制御器5は、更に、第一の主軸101の上記駆動機構、第二の主軸102の上記駆動機構、第一の刃物台の上記駆動機構、第二の刃物台の上記駆動機構、及び移送機の動作を制御する。
【0041】
制御器5は、代表的には、コンピュータにより構成される。コンピュータは、例えばプロセッサとメモリとを備える。メモリには、後述する制御手順をプロセッサに実行させるためのプログラムが格納されている。プロセッサは、メモリに格納されたプログラムを読み出して実行する。プログラムは、演算部52の演算結果が閾値超を満たすか否かを判定する処理、判定に基づいてモータ3の回転数を変える処理、に関するプログラムコードを含む。制御器5は、記憶部51と演算部52とを有する。
【0042】
(記憶部)
記憶部51は、閾値を記憶する。閾値は、例えば、次のようにして予め設定した値である。
【0043】
損傷していない正常な工具2でワークピース10を加工して複数の良品を作製する。良品の数は多いほど閾値の信頼性が高くなり易い。良品の数は、加工物の種類によるものの、例えば、500個以上、更に650個以上、特に800個以上であってもよい。各良品の作製時にモータ3の負荷電流を取得しておく。
【0044】
MT(マハラノビス・タグチ)法における単位空間を作成する。単位空間の作成には、複数の良品の作製時に取得したモータ3の負荷電流に基づくパラメータを用いる。パラメータは、MT法では、監視対象又は特徴量と呼ばれることもある。この負荷電流は、ワークピース10の特定の加工範囲を加工中に取得されたものを利用する。
【0045】
上記特定の加工範囲は、ワークピース10において、第一の工具21によって連続的に加工される所定の範囲である。例えば、図2に示す凹部10aを有するワークピース10では、第一の工具21の刃部は、壁面11のみに作用する場合、底面12のみに作用する場合、及び壁面11及び底面12の双方に同時に作用する場合がある。壁面11及び底面12の双方に同時に工具2の刃部が作用するのは、壁面11と底面12とで構成される角部13を加工するからである。上記特定の加工範囲は、壁面11を構成する範囲、底面12を構成する範囲、又は角部13を構成する範囲などであってもよい。
【0046】
上記特定の加工範囲は、第一の工具21による加工条件が変化する箇所を含む範囲であってもよい。工具2による加工条件とは、例えば、第一の工具21の刃部の送り量、切り込み量、第一の工具21又はワークピース10の回転数、送り方向、加工時間である。例えば、凹部10aを有するワークピース10では、上記特定の加工範囲は、角部13を構成する範囲である。角部13を構成する範囲とは、角部13と角部13の近傍とを含む範囲である。近傍とは、壁面11と底面12の両方を含む。角部13を加工する場合、第一の工具21の刃部は、壁面11から底面12に向かって送り方向が変化する。このように送り方向が変化すると、第一の工具21の刃部におけるワークピース10との接触箇所が変化する。具体的には、角部13を加工する場合、第一の工具21の刃部は、壁面11及び底面12の双方に同時に作用する。角部13を構成する範囲では、第一の工具21の加工抵抗が増加する。壁面11、角部13、及び底面12を順に加工した際に測定器4で取得されたモータ3の負荷電流の波形を示すグラフが図3に示されている。このグラフの横軸は時間を示し、縦軸は負荷電流を示す。壁面11を加工する領域を示す太矢印と底面12を加工する領域を示す太矢印とが横軸に沿って付されている。両太矢印は部分的に重なっている。両太矢印の重なる領域には、角部13を加工する領域を示す細矢印が付されている。このグラフの縦軸の+(プラス)は正を示し、-(マイナス)は負を示す。角部13を加工する第一の工具21の加工抵抗が増加することによって、図3に示すように、角部13での負荷電流は、壁面11及び底面12での負荷電流に比較して大きくなるような波形を有する。
【0047】
負荷電流に基づくパラメータは、負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータと負荷電流の測定値とを含む。負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータは、例えば加工の種類及び加工条件によって適宜選択できる。負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータが、例えば、フーリエスペクトルのある周波数帯域に着目したパラメータである場合、その周波数帯域はモータ3の回転速度によって適宜選択できる。
【0048】
負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータは、例えば、負荷電流をフーリエ変換した値の実効値と、負荷電流をフーリエ変換したフーリエスペクトルにおけるピークの振幅値と、そのピークの振幅の重心と、上記フーリエスペクトルの特定の周波数範囲におけるピークの振幅の重心とを含む。フーリエ変換した値の実効値とは、フーリエ変換した値の二乗平均平方根である。フーリエスペクトルのピークとは最大の振幅値を含む山型の曲線の全体をいう。フーリエスペクトルにおけるピークの振幅値とは、上記曲線における最大の振幅値である。フーリエスペクトルにおけるピークの振幅の重心とは、上記曲線の下部の重心の振幅値である。特定の周波数範囲におけるピークの振幅の重心とは、特定の周波数範囲の曲線の下部の重心の振幅値である。
【0049】
負荷電流をフーリエ変換したフーリエスペクトルの波形を示すグラフが図4に示されている。図4のフーリエスペクトルのグラフは、図3の負荷電流をフーリエ変換したグラフである。図4のグラフの横軸は周波数を示し、縦軸は振幅を示す。図4のグラフにおけるピークとは、変曲点x1から変曲点x2までの範囲の山型の曲線の全体をいう。図4において、ピークの振幅値は変曲点x1から変曲点x2までの範囲の振幅値の最大値である振幅値y1である。図4において、ピークの振幅の重心は、変曲点x1から変曲点x2の範囲における曲線の下部の重心の振幅値g1である。つまり、ピークの振幅の重心は、横軸と変曲点x1から縦軸に沿った直線と変曲点x2から縦軸に沿った直線と変曲点x1から変曲点x2の範囲における曲線とで囲まれる面積の重心の振幅値g1である。図4において、例えば特定の周波数範囲がx3以上x4以下の範囲におけるピークの振幅の重心は、x3以上x4以下の範囲における曲線の下部の重心の振幅値g2である。つまり、x3以上x4以下の範囲におけるピークの振幅の重心は、横軸と変曲点x1から縦軸に沿った直線と変曲点x2から縦軸に沿った直線とx3以上x4以下の範囲における曲線とで囲まれる面積の重心の振幅値g2である。
【0050】
負荷電流の測定値は、例えば、負荷電流の最大値と負荷電流の実効値とを含む。負荷電流の最大値とは、負荷電流の絶対値が最も大きい値である。負荷電流の実効値とは、上記最大値を2の平方根で除した値である。図3において、負荷電流の最大値は電流値a1である。図3において、負荷電流の実効値は電流値a2である。
【0051】
パラメータの数は、検知精度の高低、具体的には後述するカイ二乗分布の確率に応じて適宜選択できる。本実施形態では、パラメータの数は、第一のパラメータから第七のパラメータの7個である。第一のパラメータから第五のパラメータは、負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータである。第六のパラメータ及び第七のパラメータは、負荷電流の測定値である。
【0052】
具体的には、第一のパラメータは、上記負荷電流をフーリエ変換した値の実効値である。第二のパラメータは、上記負荷電流をフーリエ変換したフーリエスペクトルにおけるピークの振幅である。第三のパラメータは、上記フーリエスペクトルにおけるピークの振幅の重心である。第四のパラメータは、上記フーリエスペクトルの28Hz以上30Hz以下におけるピークの振幅の重心である。第五のパラメータは、上記フーリエスペクトルの31Hz以上33Hz以下におけるピークの振幅の重心である。第六のパラメータは、負荷電流の最大値である。第七のパラメータは、負荷電流の実効値である。上記フーリエ変換は、高速フーリエ変換を用いることができる。高速フーリエ変換は、離散フーリエ変換を高速で計算するアルゴリズムである。即ち、高速フーリエ変換は、計算時間が短い。
【0053】
作成した単位空間を用いて各良品のMD値を求める。そして、良品のMD値のカイ二乗分布の平方根を求める。MD値の二乗はカイ二乗分布に従うからである。カイ二乗分布の確率は、例えば、1ヶ月当たりの加工物の生産数に応じて適宜選択できる。この確率は、1ヶ月当たりの加工物の生産数がN個の場合、例えば、{1-(1/N)}超である。確率は、例えば、{1-(1/1.5N)}以上、更に{1-(1/2N)}以上、特に{1-(1/2.5N)}以上である。この確率は、例えば、{1-(1/1000000)}、即ち0.999999とする。カイ二乗分布の自由度は、「n-1」とする。nは、パラメータの数である。本実施形態におけるパラメータの数は7個であるので、自由度は6である。確率が0.999999であり、自由度が6である場合、カイ二乗分布の平方根は6.2である。この値は、小数点第2位を四捨五入した値である。求めたカイ二乗分布の平方根の値を閾値とする。この場合、統計学上、良品のMD値の99.9999%は、閾値以下であることを意味する。即ち、MD値が閾値超である場合、そのMD値を有する加工物は不良品であることがわかる。
【0054】
(演算部)
演算部52は、現在加工中のワークピース10のMD値を演算する。このMD値は、現在加工中のワークピース10における特定の加工範囲を加工中に第一の測定器41で取得された負荷電流に基づくパラメータを用いて求められた値である。特定の加工範囲は、上述の通りである。上述のように第一の工具21による加工条件が変化する箇所では、第一の測定器41で取得される負荷電流に特異な変化が生じる。その特異な変化に着目することで、MD値が閾値超か否かを判定し易い。負荷電流に基づくパラメータは、上述の閾値を設定する際に用いたパラメータと同じである。即ち、負荷電流に基づくパラメータは、上述した負荷電流をフーリエ変換して得られたパラメータと負荷電流の測定値とを含む。本実施形態では、MD値は、上述の第一のパラメータから第七のパラメータを用いて求められた値である。MD値を演算する際のフーリエ変換は、高速フーリエ変換を用いることができる。上述したように、高速フーリエ変換は、計算時間が短い。そのため、ワークピース10の加工中にほぼリアルタイムに良品が生産されるか不良品が生産されるかが判定できる。演算結果は、記憶部51に記憶されてもよい。
【0055】
制御器5は、演算されたMD値が閾値超の場合、第一のモータ31の回転数をゼロとする。第一のモータ31の回転数がゼロになると、本実施形態ではワークピース10の回転が停止する。演算されたMD値が閾値超の場合、不良品が生産されている。即ち、損傷した第一の工具21でワークピース10が加工されている。制御器5が第一のモータ31の回転数をゼロにすることで、ワークピース10の回転が停止される。そのため、回転が停止された以降、損傷した第一の工具21によってワークピース10が加工されない。よって、所定の加工が施されていない不良品が生産され続けることが防止される。
【0056】
制御器5は、演算されたMD値が閾値以下の場合、第一のモータ31の回転数を変えない。その場合、次のワークピース10は、その直前のワークピース10と同じ回転数で第一のモータ31が回転した状態で、その直前のワークピース10を加工した第一の工具21によって加工される。
【0057】
[制御手順]
図5を参照して、制御器5による制御手順を説明する。
【0058】
モータ3によってワークピース10が回転し、第一の工具21によってワークピース10が加工される。
【0059】
ステップS1では、第一の測定器41が第一のモータ31の負荷電流を取得する。
【0060】
ステップS2では、演算部52が現在加工中のワークピース10のMD値を演算する。このMD値は、取得された負荷電流に基づく第一のパラメータから第七のパラメータを用いて求められる。ここでは、現在加工中のワークピース10の特定の加工範囲を加工中に取得した負荷電流を用いる。特定の加工範囲とは、本実施形態では上述した工具2による加工条件が変化する箇所を含む範囲、即ち角部13を構成する範囲である。
【0061】
ステップS3では、演算されたMD値が閾値超を満たすか否かを判定する。本実施形態では、MD値を演算する際のフーリエ変換は、高速フーリエ変換である。
【0062】
ステップS3が閾値超を満たす場合、ステップS4では、制御器5が第一のモータ31の回転数をゼロとする。そして、制御が終了する。ステップS3が閾値超を満たす場合とは、不良品が生産された場合をいう。即ち、閾値超を満たす場合とは、損傷した第一の工具21によってワークピース10が加工された場合をいう。
【0063】
ステップS3の判定が否の場合、制御器5は第一のモータ31の回転数を変えない。ステップS3の判定が否の場合とは、良品が生産された場合である。即ち、損傷していない正常な第一の工具21によってワークピース10が加工された場合をいう。そのため、次のワークピースは、その直前のワークピース10と同じ第一のモータ31の回転数にて、直前のワークピース10を加工した第一の工具21によって加工が行われる。そして、MD値が閾値超と判定されるまで、次のワークピース10の加工と、ステップS1からステップS3と、が繰り返される。
【0064】
本実施形態の加工システム1は、MD値が閾値超である場合、即ち不良品が生産された場合、直ちにモータ3の回転数をゼロにすることができるため、不良品の生産を抑制できる。特に、本実施形態の加工システム1は、モータ3の負荷電流に基づく第一のパラメータから第七のパラメータを用いて演算されたMD値を不良品の生産の有無の判定に用いるため、多軸旋盤であっても不良品の生産の有無を適切に判別できる。
【0065】
〔加工物の製造方法〕
実施形態の加工物の製造方法は、複数のワークピースを工具で順に加工する。本実施形態の加工は、仕上げ加工である。本実施形態とは異なり、加工は粗加工であってもよい。以下、加工する工程を詳細に説明する。
【0066】
[加工する工程]
加工する工程は、工具又はワークピースを回転させるモータの負荷電流を測定器で測定しながら行う。この加工する工程では、MD値が閾値超の場合、モータの回転数を変える。具体的には、MD値が閾値超の場合、モータの回転数をゼロとする。MD値は、上述した通り、現在加工中のワークピースにおいて特定の加工範囲を加工中に測定器で取得された負荷電流に基づく第一のパラメータから第七のパラメータを用いて求められる。
【0067】
モータの回転が停止したら、損傷した工具が新しい工具に交換される。新しい工具に交換されたら、MD値が閾値超となるまで、次のワークピースの加工が繰り返される。一方、MD値が閾値以下の場合、モータの回転数は変えない。その場合、次のワークピースは、その直前のワークピースの回転数と同じ回転数にした状態で、直前のワークピースを加工した工具によって加工される。そして、MD値が閾値超となるまで、次のワークピースの加工が繰り返される。
【0068】
本実施形態の加工物の製造方法は、加工システム1と同様、MD値が閾値超である場合、即ち不良品が生産された場合、直ちにモータの回転数をゼロにすることができるため、不良品の生産を抑制できる。
【0069】
《変形例1》
変形例1の加工システムは、図6に示すように、加工の種類が転削加工である点が、上述した実施形態の加工システム1と相違する。その他の構成は、実施形態の加工システム1と同様である。以下の説明は相違点を中心に行う。同様の構成に説明は省略する。この点は、後述する変形例2でも同様である。転削加工は、例えば、ミーリング加工である。第一の工具21は、図示を省略する第一のモータによって自転させられる。本例の第一の工具21は、エンドミルである。第一の工具21は、駆動機構によって、図6に上下方向及び左右方向の矢印で示すように、前進、後退、及び水平移動する。この加工システムにおいても、第一の工具21を回転させる第一のモータの負荷電流に基づくMD値が閾値超である場合に第一のモータの回転を停止させればよい。
【0070】
《変形例2》
変形例2の加工システム1は、図7に示すように、工作機械が対向2軸旋盤である点が、上述した実施形態の加工システム1と相違する。
【0071】
対向2軸旋盤は、第一の主軸101と第二の主軸102とが互いに向き合っている旋盤である。本例では、第一の主軸101の回転軸と第二の主軸102の回転軸とが互いにずれている。本例では、第一の工具21及び第二の工具22は、ワークピース10の異なる範囲に互い同じ仕上げ加工する。
【0072】
本例では、移送機は、ワークピース10を対向2軸旋盤の外部から第一のチャック111への移送と、第一のチャック111から第二のチャック112への移送と、第二のチャック112から対向2軸旋盤の外部への移送とを行う。
【0073】
ワークピース10の加工の流れは、次の通りである。ワークピース10は、移送機によって対向2軸旋盤の外部から第一のチャック111に移送されて保持される。第一のチャック111にワークピース10が保持されると、第一の主軸101がモータ3によって回転する。この回転によって、第一のチャック111に保持されたワークピース10は回転する。回転するワークピース10と第一の工具21とが近づき、そのワークピース10の第一凹部10bが第一の工具21によって加工される。第一凹部10bは、実施形態1で説明した凹部10aと同じである。
【0074】
第一の工具21によって加工されたワークピース10は、移送機によって第一のチャック111から取り外される。取り外されたワークピース10は、移送機によって第二のチャック112に移送されて保持される。その後、上述したワークピース10の第一凹部10bの加工と同様にして、第二のチャック112に保持されたワークピース10の第二凹部10cが第二の工具22によって加工される。第二凹部10cは、ワークピース10における第一凹部10bとは反対にある凹部である。第二凹部10cは、第一凹部10bと同じである。第二の工具22によって加工されたワークピース10は、移送機によって第二のチャック112から取り外されて対向2軸旋盤の外部へ移送される。
【0075】
第一の工具21によって加工されたワークピース10が移送機によって第一のチャック111から取り外されてから第二の工具22によって加工されるまでの間に、次のワークピース10が移送機によって第一のチャック111に移送されて保持される。そして、第一のチャック111に保持されたワークピース10の加工と第二のチャック112に保持されたワークピース10の加工とが、実質的に同時に行われる。これらを繰り返すことで、複数のワークピース10を順次加工する。
【0076】
この加工システム1においても、第一の工具21を回転させる第一のモータ31の負荷電流に基づくMD値が閾値超である場合に第一のモータ31の回転を停止させればよい。
【0077】
《試作例》
次のようにして閾値を求めた。損傷していない正常な工具でワークピースを加工して複数の良品を作製した。ここでは、良品の数は800個以上850個未満とした。各ワークピースの特定の加工範囲を加工中にモータの負荷電流を測定器で取得した。特定の加工範囲は、上述した角部を構成する範囲とした。単位空間を作成するに当たって、上記負荷電流に基づく31個のパラメータを選択した。
【0078】
第一のパラメータは、上記負荷電流を高速フーリエ変換した値の実効値である。
第二のパラメータは、上記負荷電流を高速フーリエ変換したフーリエスペクトルにおけるピークの振幅値である。
第三のパラメータは、上記フーリエスペクトルにおける波高率である。波高率とは、上記ピークの振幅値と上記実効値との比(上記ピークの振幅値/上記実効値)である。
【0079】
第四のパラメータは、上記フーリエスペクトルにおけるピークの振幅の重心である。
第五のパラメータは、上記フーリエスペクトルの10Hz以上15Hz以下におけるピークの振幅の重心である。
第六のパラメータは、上記フーリエスペクトルの15Hz以上20Hz以下におけるピークの振幅の重心である。
第七のパラメータは、上記フーリエスペクトルの22Hz以上24Hz以下におけるピークの振幅の重心である。
第八のパラメータは、上記フーリエスペクトルの25Hz以上27Hz以下におけるピークの振幅の重心である。
第九のパラメータは、上記フーリエスペクトルの28Hz以上30Hz以下におけるピークの振幅の重心である。
第十のパラメータは、上記フーリエスペクトルの31Hz以上33Hz以下におけるピークの振幅の重心である。
第十一のパラメータは、上記フーリエスペクトルの34Hz以上36Hz以下におけるピークの振幅の重心である。
第十二のパラメータは、上記フーリエスペクトルの37Hz以上39Hz以下におけるピークの振幅の重心である。
第十三のパラメータは、上記フーリエスペクトルの40Hz以上42Hz以下におけるピークの振幅の重心である。
第十四のパラメータは、上記フーリエスペクトルの79Hz以上93Hz以下におけるピークの振幅の重心である。
【0080】
第十五のパラメータは、上記負荷電流の最大値である。
第十六のパラメータは、上記負荷電流の最小値である。
第十七のパラメータは、上記負荷電流の実効値である。
第十八のパラメータは、上記負荷電流の歪度である。歪度とは、負荷電流のヒストグラムの左右対称性を示す指標であり、負荷電流のヒストグラムが正規分布に対してどの程度偏っているかを示す値である。
第十九のパラメータは、上記負荷電流の尖度である。尖度とは、負荷電流のヒストグラムの山の尖り度合い、裾の広がり度合いを示す指標であり、負荷電流のヒストグラムが正規分布に対してどの程度尖っているか示す値である。
【0081】
第二十のパラメータは、上記負荷電流の存在量1である。
第二十一のパラメータは、上記負荷電流の存在量2である。
第二十二のパラメータは、上記負荷電流の存在量3である。
第二十三のパラメータは、上記負荷電流の存在量4である。
第二十四のパラメータは、上記負荷電流の存在量5である。
第二十五のパラメータは、上記負荷電流の存在量6である。
【0082】
第二十六のパラメータは、上記負荷電流の変化量1である。
第二十七のパラメータは、上記負荷電流の変化量2である。
第二十八のパラメータは、上記負荷電流の変化量3である。
第二十九のパラメータは、上記負荷電流の変化量4である。
第三十のパラメータは、上記負荷電流の変化量5である。
第三十一のパラメータは、上記負荷電流の変化量6である。
【0083】
上記存在量とは、特定の加工範囲を加工している時間内に負荷電流がある値を上回るデータ点数である。例えば、負荷電流が7.2A、7.4A、7.6A、7.4A、7.2A、のように推移し、ある値が7.5Aである場合、データ点数は1点である。データ点数とは、1ワークピース当たりのデータの総数である。例えば図3において、仮に特定の加工範囲を加工している時間がグラフの左端から右端までの時間であるとする。ある値が電流値a3である場合、データ点数は15点である。ある値が電流値a4である場合、データ点数は4点である。上記存在量1とは、負荷電流が7.5Aを上回ったデータ点数である。上記存在量2とは、負荷電流が8Aを上回ったデータ点数である。上記存在量3とは、負荷電流が8.5Aを上回ったデータ点数である。上記存在量4とは、負荷電流が9.0Aを上回ったデータ点数である。上記存在量5とは、負荷電流が9.5Aを上回ったデータ点数である。上記存在量6とは、負荷電流が10Aを上回ったワークピースの数である。即ち、上記存在量1には、上記存在量2から上記存在量6が含まれる。同様に、上記存在量2には、上記存在量3から上記存在量6が含まれる。上記存在量3には、上記存在量4から上記存在量6が含まれる。上記存在量5には、上記存在量6が含まれる。
【0084】
上記変化量とは、特定の加工範囲を加工している時間内に負荷電流がある値を跨いだ回数である。例えば、負荷電流が7.5A未満から7.5A超へ推移した回数、及び7.5A超から7.5A未満へ推移した回数をそれぞれ1回と数える。即ち、上述のように負荷電流が7.2A、7.4A、7.6A、7.4A、7.2A、のように推移して負荷電流が7.5Aを上回ったデータ点数が1点の場合、負荷電流7.5Aを跨いだ回数は2回である。例えば図3において、仮に特定の加工範囲を加工している時間がグラフの左端から右端までの時間であるとする。ある値が電流値a3である場合、跨いだ回数は30回である。ある値が電流値a4である場合、跨いだ回数は8回である。上記変化量1とは、負荷電流が7.5Aを跨いだ回数である。上記変化量2とは、負荷電流が8Aを跨いだ回数である。上記変化量3とは、負荷電流が8.5Aを跨いだ回数である。上記変化量4とは、負荷電流が9Aを跨いだ回数である。上記変化量5とは、負荷電流が9.5Aを跨いだ回数である。上記変化量6とは、負荷電流が10Aを跨いだ回数である。
【0085】
31個のパラメータを用いてMT法における単位空間を作成した。作成した単位空間を用いて、各良品のMD値を求めた。そして、良品のMD値のカイ二乗分布の平方根を求めた。カイ二乗分布の確率は、0.999999とした。カイ二乗分布の自由度は、30である。この確率及び自由度から求めたカイ二乗分布の平方根は、9.1であった。この値は、小数点第2位を四捨五入した値である。この値を閾値とした。
【0086】
1つの工具で850個以上900個未満のワークピースを順に加工して加工物を作製した。これらの加工物には、良品と不良品とが含まれる。上記31個のパラメータを用いて各加工物のMD値を求めた。MD値が閾値以下を満たす加工物と閾値超を満たす加工物とに分けた。その結果、MD値が閾値以下を満たす加工物の中に不良品が見つかった。その上、MD値が閾値超を満たす加工物の中に良品が見つかった。
【0087】
そこで、31個のパラメータからパラメータの選定、単位空間の作成、閾値の設定、選定されたパラメータを用いたMD値の再計算、閾値を基準に加工物の層別、を繰り返した。
【0088】
具体的には、パラメータの数を14個とした。14個のパラメータは、上記第一のパラメータ、上記第二のパラメータ、上記第四のパラメータ、上記第五のパラメータ、上記第七のパラメータ、上記第九のパラメータ、上記第十のパラメータ、上記第十五のパラメータ、上記第十七のパラメータ、上記第二十のパラメータ、上記第二十一のパラメータ、上記第二十二のパラメータ、上記第二十五のパラメータ、及び上記第三十のパラメータである。14個のパラメータを用い、単位空間の作成、閾値の設定、閾値を基準に加工物を層別した。カイ二乗分布の確率は、0.999999とした。カイ二乗分布の自由度は、13である。この確率及び自由度から求めたカイ二乗分布の平方根は、7.3であった。この値は、小数点第2位を四捨五入した値である。この値を閾値とした。この閾値を基準に層別しても、31個のパラメータを用いた場合と同様、閾値で良品と不良品とを正確に層別できなかった。
【0089】
更に、パラメータの数を7個とした。7個のパラメータは、上記第一のパラメータ、上記第二のパラメータ、上記第四のパラメータ、上記第九のパラメータ、上記第十のパラメータ、上記第十五のパラメータ、及び上記第十七のパラメータとした。7個のパラメータを用い、単位空間の作成、閾値の設定、閾値を基準に加工物を層別した。カイ二乗分布の確率は、0.999999とした。カイ二乗分布の自由度は、6である。この確率及び自由度から求めたカイ二乗分布の平方根は、6.2であった。この値は、小数点第2位を四捨五入した値である。この値を閾値とした。この閾値を基準に層別したところ、MD値が閾値以下を満たす加工物は全て良品であり、MD値が閾値超を満たす加工物は全て不良品であることがわかった。即ち、MD値が閾値以下を満たす不良品も、MD値が閾値超を満たす良品も見つからなかった。
【0090】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、上記加工システム及び加工物の製造方法は、溝入れ加工を行う場合にも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0091】
1 加工システム
2 工具、21 第一の工具、22 第二の工具
3 モータ、31 第一のモータ、32 第二のモータ
4 測定器、41 第一の測定器、42 第二の測定器
5 制御器、51 記憶部、52 演算部
10 ワークピース
10a 凹部、10b 第一凹部、10c 第二凹部
11 壁面、12 底面、13 角部
100 主軸、101 第一の主軸、102 第二の主軸
110 チャック、111 第一のチャック、112 第二のチャック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7