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特許7276745リンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法、ウルソール酸製造方法、およびオレアノール酸製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】リンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法、ウルソール酸製造方法、およびオレアノール酸製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/365 20060101AFI20230511BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230511BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230511BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20230511BHJP
   A61K 36/73 20060101ALI20230511BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230511BHJP
【FI】
A61K8/365
A61Q19/08
A61K31/19
A61P21/04
A61P35/00
A61Q17/00
A61K36/73
A23L33/105
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019110990
(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公開番号】P2020203837
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 恵
(72)【発明者】
【氏名】内沢 秀光
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-514727(JP,A)
【文献】特表2013-528163(JP,A)
【文献】特開2007-332066(JP,A)
【文献】特開2017-210443(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0044513(KR,A)
【文献】Food Chemistry (2008), Vol.106, pp.767-771
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry (2012), Vol.60, No.42, pp.10546-10554
【文献】Industrial Crops and Products (2013), Vol.49, pp.794-804
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 19/08
A61K 31/19
A61P 21/04
A61P 35/00
A61Q 17/00
A61K 36/73
A23L 33/105
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記<A1>、<A2>、<A3>のいずれかのリンゴ果実の果皮を用い、これを、
該果皮の脂質を抽出する脂質抽出過程に供することによりリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物を得る方法であって、
該トリテルペノイドとして下記<T>記載の少なくともいずれかを含有する組成物を得ることを特徴とする、リンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法。
<A1> 品種「千雪」、 <A2> 品種「かおり」、 <A3> 野生種「マルス・コロナリア」
<T> ウルソール酸、オレアノール酸
【請求項2】
前記リンゴが、収穫適期3ヶ月前から収穫直前までの未熟果、収穫果、または収穫後1ヶ月までの冷蔵果のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法。
【請求項3】
前記リンゴが有袋栽培の果実であることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載のリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法。
【請求項4】
原料としては下記<A1>または<A2>を用いる請求項1、2、3のいずれかに記載の製造方法によって得られるリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物を、分離精製過程に供し、ウルソール酸を得ることを特徴とする、ウルソール酸製造方法。
<A1> 品種「千雪」、 <A2> 品種「かおり」
【請求項5】
請求項1、2、3のいずれかに記載の製造方法によって得られるリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物を、分離精製過程に供し、オレアノール酸を得ることを特徴とする、オレアノール酸製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法、ウルソール酸製造方法、およびオレアノール酸製造方法に係り、特に、付加価値が高く競争力のある美容・健康製品へのリンゴ素材利用促進に資する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
青森県の主要な農産物であるリンゴの品種改良は、古くから実施されてきた。従来の品種改良は、食味、貯蔵性、病害抵抗性などの形質に着目して行われてきたが、近年は消費者ニーズの多様化等に伴ってその着眼点にも変化が生じてきている。
【0003】
後掲特許文献1には、リンゴのすり下ろし・カット・冷凍後の解凍時に生じる褐変を根本的に防止するための対策として 抗褐変リンゴの作出を課題とし、リンゴ果肉からメタノールを用いて抽出しFolin-Denis法で測定される場合の総ポリフェノール含量がカテキン換算で新鮮重あたり40mg/100g以下であるリンゴを両交配親として、果肉の褐変程度の低さを指標とし、該指標に基づいて選抜する育種方法が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、強い抗酸化作用を有する果皮成分(アントシアニン)を果肉にもつものの、酸味が強くて生食に適さないという欠点がある赤果肉のリンゴ・ピンクパールを基にして、生食に適する赤果肉リンゴを提供することを目的に、ピンクパール由来の赤果肉形質原因遺伝子と自家・交雑不和合性に関わるS遺伝子の連鎖を利用する育種技術が開示されている。これによって、赤果肉であって、かつ糖度12°Brix以上を有するリンゴを作出できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】アメリカ合衆国特許第8704050号公報「Non-Browning Apple, Method for Producing the Same, and Drink and Food Using the Same(抗褐変リンゴ、その作出方法、およびこれを用いた飲料ならびに食品)」
【文献】特開2012-44935号公報「赤果肉リンゴ及びその育種方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、リンゴ育種もさまざまな観点から取り組まれているが、特に近年の消費動向等を踏まえると、リンゴの新たな需要喚起・消費拡大の点からは、化粧品を始めとした美容製品や、健康増進機能を促進あるいは補助する食品・医薬品の原料としての可能性探索は重要である。しかしながら従来、かかる観点からの研究開発が十分になされているとは言えない。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の状況を踏まえ、リンゴの新たな利用可能性を開く有用な含有成分を特定し、特にそのような成分を高濃度に有する品種を特定し、それによって、美容製品や健康増進用製品の原料となり得る組成物の製造方法等を提供することである。
【0008】
また本発明が解決しようとする課題は、かかる組成物等および機能性成分を、効率的に抽出できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題をもって本願発明者は、出願人・地方独立行政法人青森県産業技術センターのりんご研究所における育成品種を中心とした国内19品種および野生種のリンゴについて、抗腫瘍活性、筋萎縮軽減作用、抗シワ作用等、多くの機能性が報告されているウルソール酸およびオレアノール酸に着目し、果皮における含有量の品種間差を明らかにした。それにより、これらの機能性成分の効率的な抽出材料を特定することができ、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0010】
〔1〕 下記<A1>、<A2>、<A3>のいずれかのリンゴ果実の果皮を用い、これを、該果皮の脂質を抽出する脂質抽出過程に供することによりリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物を得る方法であって、該トリテルペノイドとして下記<T>記載の少なくともいずれかを含有する組成物を得ることを特徴とする、リンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法。
<A1> 品種「千雪」、 <A2> 品種「かおり」、 <A3> 野生種「マルス・コロナリア」
<T> ウルソール酸、オレアノール酸
〔2〕 前記リンゴが、収穫適期3ヶ月前から収穫直前までの未熟果、収穫果、または収穫後1ヶ月までの冷蔵果のいずれかであることを特徴とする、〔1〕に記載のリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法。
〔3〕 前記リンゴが有袋栽培の果実であることを特徴とする、〔1〕、{2〕のいずれかに記載のリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法。
【0011】
〔4〕 原料としては下記<A1>または<A2>を用いる 〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載の製造方法によって得られるリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物を、分離精製過程に供し、ウルソール酸を得ることを特徴とする、ウルソール酸製造方法。
<A1> 品種「千雪」、 <A2> 品種「かおり」
〔5〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載の製造方法によって得られるリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物を、分離精製過程に供し、オレアノール酸を得ることを特徴とする、オレアノール酸製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法、ウルソール酸製造方法、およびオレアノール酸製造方法は上述のように構成されるため、これらによれば、リンゴの新たな利用可能性を開く有用な含有成分を高濃度に有する品種を特定できたことに基づき、美容製品や健康増進用製品の原料となり得る組成物等を提供することができる。そして、これら機能性成分(ウルソール酸、オレアノール酸)の効率的な抽出原料とすべきリンゴ品種を特定できたことにより、当該組成物等を効率的に提供することができる。
【0013】
すなわち本発明により、リンゴ由来機能性成分のウルソール酸およびオレアノール酸を効率的に抽出するために有用なリンゴ品種を、青森県育成品種を中心とした国内19品種および野生種の中から、千雪、かおり、およびマルス・コロナリアに特定することができた。さらに、無袋栽培と有袋栽培を比較したところ、有袋栽培においてよりウルソール酸およびオレアノール酸含量が多く、かつ安定的に抽出可能であることを明らかにできた。一方、無袋栽培果を用いる場合における原料リンゴ採取適期をも明らかにでき、ウルソール酸等原料としてのリンゴの栽培方法を特定することができた。
【0014】
本発明は、機能性成分というこれまでにないリンゴの価値を訴求するものであり、リンゴの新たな価値を見出したものである。つまり本発明によれば、美容製品や健康増進用製品といった従来のリンゴ用途とは異なる需要が喚起され、美容・健康産業で上記機能性成分を利用した商品化の促進が期待される。
【0015】
また、ウルソール酸およびオレアノール酸は果皮に多く含まれることから、カットリンゴに加工して残った皮や、リンゴ搾汁残渣などリンゴ加工により生じる廃棄物を抽出の原料とすることが可能であり、資源の有効利用および環境保護にも繋がる。
【0016】
なお、野生種であるマルス・コロナリアのオレアノール酸含量については特に、他の品種の3倍以上ものレベルであり、高効率のオレアノール酸抽出原料として利用効果が高いことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】リンゴ品種ごとの果皮ウルソール酸量測定結果を示すグラフである(平成27年収穫果)。
図2】リンゴ品種ごとの果皮オレアノール酸量測定結果を示すグラフである(平成27年収穫果)。
図3】リンゴ品種・野生種ごとの果皮ウルソール酸量測定結果を示すグラフである(平成28年収穫果、使用果実数は3果)。
図4】リンゴ品種・野生種ごとの果皮オレアノール酸量測定結果を示すグラフである(平成28年収穫果、使用果実数は3果)。
図5】平成27年収穫果と平成28年収穫果における各品種の果皮ウルソール酸量を年次間比較したグラフである。
図6】収穫時期および貯蔵管理による千雪の果皮ウルソール酸含量を示すグラフである。
図7】袋かけの有無による各品種の果皮ウルソール酸含量を示すグラフである。
図8】袋かけの有無による各品種の果皮オレアノール酸含量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明のリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法は、下記<A1>、<A2>、<A3>のいずれかのリンゴ果実の果皮を用い、これを、該果皮の脂質を抽出する脂質抽出過程に供することによりリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物を得る方法であって、該トリテルペノイドとして下記<T>記載の少なくともいずれかを含有する組成物を得ることを、主たる構成とする。
<A1> 品種「千雪」、 <A2> 品種「かおり」、 <A3> 野生種「マルス・コロナリア」
<T> ウルソール酸、オレアノール酸
つまり、千雪、かおり、またはマルス・コロナリアのいずれか一つ以上を原料とし、ウルソール酸またはオレアノール酸の一方または双方を含有する組成物を得る製造方法である。
【0019】
本発明のリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法において原料とするリンゴ、千雪、かおり、またはマルス・コロナリアは、その栽培方法が無袋栽培であるか有袋栽培であるか、あるいは袋付き栽培であるかに関わらず、収穫適期3ヶ月前から収穫直前までの未熟果、収穫果、または収穫後1ヶ月までの冷蔵果のいずれかとする。かかる期間において、果皮におけるトリテルペノイド含量が高いからである。未熟果ではトリテルペノイド含量が特に高い結果が得られており、殊に無袋栽培の場合には収穫適期の成熟果よりも未熟果を用いる方がより好ましい。なお、マルス・コロナリアは上述の通り野生種ではあるが、栽培方法や収穫後の取扱い方法等は千雪およびかおり同様に適用することができる(以下も同様)。
【0020】
本発明のリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法において原料とするリンゴ・千雪、かおり、またはマルス・コロナリアは、その栽培方法が有袋栽培の場合には、時期によるトリテルペノイド含量の大きな変化が見られない。したがって、無袋栽培ほどには期間を限定する必要はない。また、有袋栽培と無袋栽培を比較すると、有袋果の果皮においてよりトリテルペノイド(ウルソール酸およびオレアノール酸)含量が高い。したがって、有袋果の利用がより望ましい。
【0021】
なお、無袋栽培はリンゴ果実に袋をかけずに行う栽培方法であり、有袋栽培は収穫前の一定時期まで袋をかけ、その後袋を除去する(除袋)栽培方法である。一方、収穫まで除袋しない場合は「袋付き」という。また、無袋、有袋、袋付きの各栽培方法による果実をそれぞれ、無袋果、有袋果、暗所果という。
【0022】
以上説明した本発明製造方法により得られるリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物は、ウルソール酸またはオレアノール酸の少なくともいずれかが含有された組成物である。たとえば、千雪、かおり、またはマルス・コロナリアの果皮からの抽出物であってウルソール酸やオレアノール酸を含有するものは、本発明の組成物に該当する。ここで、抽出物の抽出程度は問われない。すなわち粗抽出物でも、あるいは相当程度抽出度の高い物でも該当する。
【0023】
また、このような抽出物に、たとえばトリテルペノイドを安定化させるような物質など、何らかの他の物質や組成物が添加された形態のものも、本発明製造方法により得られる組成物に該当する。
【0024】
さらには、かかる組成物レベルを超えて物質として分離精製してなるウルソール酸やオレアノール酸の製造方法も、本発明の範囲内である。すなわち、千雪、かおり、またはマルス・コロナリアの少なくともいずれかのリンゴ果皮由来であるウルソール酸、またはオレアノール酸の製造方法である。
【0025】
また、以上説明したリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物、ウルソール酸、またはオレアノール酸の少なくともいずれかを含有させて化粧品、食品、医薬品、またはその他の加工品を製造する方法本願では開示される。
【実施例
【0026】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。なお、本発明完成に至る研究経過の概説をもって実施例説明とする。
【0027】
研究テーマ:リンゴの美容・健康向け形質の評価および品種・系統の探索

<1> 美容・健康向け形質の品種間差の検討
美容・健康向け形質として果皮におけるウルソール酸およびオレアノール酸含量に着目し、複数年次に亘って品種間差を検討した。
<1-1> 平成27年収穫果における品種間差
(1)試験用果実サンプル
平成27年に地方独立行政法人青森県産業技術センターりんご研究所において収穫され、冷蔵保存された果実19品種について、各3果を用いた。試験した品種は下記の通りである。
つがる、さんさ、金星、シナノスィート、星の金貨、シナノゴールド、東光、デリシャス、あおり24、紅玉、あおり25、ジョナゴールド、千雪(あおり27)、王林、印度、春明21(あおり21)、かおり、グラニースミス、国光
【0028】
(2)果皮サンプリング
No.6のコルクボーラー(半径6mm)で1果から20枚(5枚/1方向×4方向)サンプリング(総面積:0.6×0.6×3.14×20=22.6cm)して、チャック付袋に入れて-80℃で保存した。
(3)果皮脂質抽出
抽出液として100%エタノールを使用した。抽出方法は次の通りである。
60ml抽出液に果皮ディスク20枚を浸漬し、室温で一晩静置した。ガラスろ過器を用いてろ液を回収し、エバポレーターで溶媒除去し、最終的にメタノール10mlに溶解した。
【0029】
(4)HPLC分析
サンプル1ml分を14,000rpm×10分間遠心分離し、上清300μlにメタノール600μlを加えて、HPLC分析に供した。装置および条件は下記の通りである。
高速液体クロマトグラフィー:Waters, ACQUITY UPLC H-Class System
カラム:BEH130C18, 2.1x100mm,1.7μm
検出器:PDA 210nm(ウルソール酸、オレアノール酸)
移動相:MeOH(95):Water(5),分析時間5min
流速:0.12ml/min
カラム温度:35℃
検量線:調製した混合液(UA(ウルソール酸):50-400 OA(オレアノール酸):25-200(ng/μl))
【0030】
(5)解析結果
図1は、リンゴ品種ごとの果皮ウルソール酸量測定結果を示すグラフである。また、図2は、リンゴ品種ごとの果皮オレアノール酸量測定結果を示すグラフである。各図に示すように、果皮におけるウルソール酸およびオレアノール酸含有量は、品種によって相違することが明らかとなった。この中で、千雪、かおりはともに、ウルソール酸およびオレアノール酸の含有量が高い結果であった。
【0031】
<1-2> 平成28年収穫果における品種間差
品種数を増やし、また果皮脂質抽出方法を変えて試験した。
(1)試験用果実サンプル
平成28年収穫果36品種、および2野生種について、各3果を用いた。試験した品種および野生種は下記の通りである。
品種:つがる、さんさ、花祝、あかね、ウースターペアメン、夏緑、恋空(あおり16)、北の幸、夏の紅、シナノレッド、あおり26、トキ、彩香(あおり9)、紅将軍(早生ふじ)、星の金貨、シナノゴールド、東光、デリシャス、ニュージョナゴールド、あおり24、ジョナゴレッド、紅玉、あおり25、ジョナゴールド、ゴールデンデリシャス、千雪(あおり27)、王林、メロー、ふじ、印度、春明21(あおり21)、かおり、グラニースミス、国光、マヘ7、ゴールドファーム
野生種:マルス・コロナリア、マルス・プラテカルパ
なお、千雪(あおり27)は収穫時期の異なる果実も使用した。また、収穫後に軟性やけ防止処理(10℃の短期保管後、冷蔵)したものも加えた。
【0032】
(2)果皮サンプリング
上記<1-1>と同様に行った。
(3)果皮脂質抽出
抽出液として、下記各試薬により、CM混合溶媒(クロロホルム2:メタノール1(v/v))を使用した。
メタノール(Wako 137-01823, JIS K8891)
クロロホルム(ナカライ, 08402-13)
抽出方法は次の通りである。
2mlのグリチルリチン酸(0.5mg/ml)を内部標準として添加した40ml抽出液に、果皮ディスク20枚を浸漬し、50回振り混ぜた後、100rpmで10分間旋回振とうし、室温で一晩静置した。ガラスろ過器を用いてろ液を回収(CM抽出液で容器壁等の洗浄した分も加えて、トータル60ml相当)し、エバポレーターで溶媒除去し、最終的にメタノールに溶解して20mlに定容した。
【0033】
(4)HPLC分析
サンプル1ml分を15,000rpm×10分遠心分離し、上清800~900μlを液クロバイアルに回収して解析した。UA量が検量線の範囲を超えたサンプルについては1/2希釈して再分析した。装置および条件は下記の通りである。
高速液体クロマトグラフィー:Waters, ACQUITY UPLC H-Class System
カラム:BEH130C18,2.1x100mm,1.7μm
検出器:PDA 210nm(ウルソール酸、オレアノール酸),250nm(グリチルリチン酸)
移動相:MeOH(95):Water(5),分析時間5min
流速:0.12ml/min
カラム温度:35℃
検量線:調製した混合液(UA:50-400 OA:25-200, GA:12.5-100(ng/μl))
【0034】
(5)解析結果
図3は、リンゴ品種・野生種ごとの果皮ウルソール酸量測定結果を示すグラフである(使用果実数は3果)。また、図4は、リンゴ品種・野生種ごとの果皮オレアノール酸量測定結果を示すグラフである(使用果実数は3果)。各図に示すように本試験でも、果皮におけるウルソール酸およびオレアノール酸含有量は、品種によって相違した。そして、千雪、かおりはともに、ウルソール酸およびオレアノール酸の含有量が高い結果であった。このように、2ヶ年に亘る試験において、同様の結果が得られた。
【0035】
図5は、平成27年収穫果と平成28年収穫果における各品種の果皮ウルソール酸量を年次間比較したグラフである。図示するように各年のウルソール酸量は高い相関を示した。すなわち、果皮ウルソール酸量の品種間差は安定した品種特性であると考えられ、千雪とかおりはともにウルソール酸高含有品種であることが確認できた。また、オレアノール酸量についても同様に、安定した品種特性であると考えられる。
【0036】
ところで、図4に示すように野生種マルス・コロナリアは果皮に、オレアノール酸を極めて多く含有することが明らかとなった。ウルソール酸含量はさほど高くはなかったが、オレアノール酸は調査した他の品種等の3倍以上もの含量を示した。つまり野生種マルス・コロナリアは、オレアノール酸原料、トリテルペノイド原料として極めて有望であることが明らかとなった。マルス・コロナリア果皮を用いたリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物、マルス・コロナリア果皮を用いたオレアノール酸、マルス・コロナリア果皮を用いたトリテルペノイド含有組成物、さらにこれらのいずれかを用いた化粧品・食品・医薬品・もしくはその他の加工品もまた産業上利用性が高く、かつ新規性を有する発明である。
【0037】
<2> 収穫時期および貯蔵管理による影響
上述の平成28年収穫の千雪について、収穫時期および貯蔵管理による果皮ウルソール酸含量変化の有無について調べた。
図6は、収穫時期および貯蔵管理による千雪の果皮ウルソール酸含量を示すグラフである。なお図では、品種ふじ、および品種さんさの各ウルソール酸含量を参考に併記する。図示するように、千雪の収穫時期10月26日(10/26)の収穫果に対し、未熟果である8月1日(8/1)、10月6日(10/6)、10月17日(10/17)の各収穫果、および、収穫後の軟性やけ防止処理果、ならびに冷蔵1ヶ月の貯蔵果のいずれも、ウルソール酸含量に大きな差は認められなかった。
【0038】
この結果より、千雪からウルソール酸をより効率的に得るための期間は、収穫適期の約3ヶ月前~収穫期、および収穫後~冷蔵貯蔵1ヶ月と規定できることが示された。
【0039】
なお、これらの期間中においてウルソール酸含量に大差は無いとは言え、図示するように未熟果の中でも、10月6日(10/6)収穫果、10月17日(10/17)収穫果ではより含量が高い傾向を示した。すなわち、収穫適期の3週間前~1週間前程度の未熟果の利用が、トリテルペノイド原料、あるいはウルソール酸抽出原料としてより望ましい可能性のあることが示唆された。
【0040】
<3> 栽培における有袋無袋の比較
平成29年収穫果を用いて、栽培における袋かけの有無がウルソール酸含量およびオレアノール酸含量に影響するか否かについて試験した。
(1)試験用果実サンプル
平成29年収穫果、具体的には下記の4品種を用いた。
千雪、ふじ、陸奥、王林
【0041】
また、袋かけは次のようにして行った。
袋かけ日:6月19-20日
袋剥ぎ(除袋)と未熟果のサンプリング:10月4日
収穫適期果のサンプリング:
千雪、陸奥:10月24日(除袋を第0日とした時の、除袋からの期間:21日間)
ふじ、王林:10月31日(同上期間:28日間)
【0042】
結局、各品種について下記の通り5点測定した。
<1> 10月4日の無袋果
<2> 10月4日の有袋果(ここで除袋したもの いわゆる「有袋」)
<3> 収穫適期の無袋果(成熟果)
<4> 収穫適期の除袋果(10月4日に除袋したもの いわゆる「有袋」)
<5> 収穫適期の有袋果(最後まで有袋のもの 暗所果)
なお、「収穫適期」は2日以上の期間に亘るものであり、またその年の気象によりずれが生じるが、本試験を行った平成29年は、千雪と陸奥は10月24日頃、ふじと王林は11月1日頃であり、上述の通り前者2品種は10月24日に、後者2品種は10月31日に収穫した。
【0043】
(2)果皮サンプリング
上記<1-1>と同様に行った。
(3)果皮脂質抽出
上記<1-2>と同様に行った。
(4)HPLC分析)
上記<1-2>と同様に行った。
【0044】
(5)解析結果
図7は、袋かけの有無による各品種の果皮ウルソール酸含量を示すグラフである。また図8は、袋かけの有無による各品種の果皮オレアノール酸含量を示すグラフである。各図中の略語等の意味は次の通りである。
10/4のsun:無袋果(未熟果)
10/4のdrk:有袋果(未熟果)
10/24(または31)の途中除袋:10/4に除袋したものの収穫適期果(成熟果)
10/24(または31)のsun:無袋果(成熟果)
10/24(または31)のdrk:除袋せず収穫適期まで袋のかかった状態の袋付き果(成熟果)
【0045】
図7に示すように、赤色の品種である千雪とふじでは袋剥ぎ(除袋)日(10/4)に比べて収穫期の果皮ウルソール酸量はやや低下しているが、有袋果および暗所果ではそのような低下は見られなかった。一方、黄色の品種である陸奥、王林では、収穫時期におけるウルソール酸含量の低下は認められなかった。暗所果と有袋果の傾向に、特段の違いは見られなかった。
【0046】
図8に示すように、果皮オレアノール酸含量においてもウルソール酸含量と同様の傾向が見られた。すなわち、赤色の品種である千雪とふじでは袋剥ぎ(除袋)日(10/4)に比べて収穫期の果皮オレアノール酸量がやや低下しているが、有袋果および暗所果ではそのような低下は見られなかった。一方、黄色の品種である陸奥、王林では、収穫時期におけるオレアノール酸含量の低下は認められなかった。暗所果と有袋果の傾向に、特段の違いは見られなかった。
【0047】
以上のことから、特にトリテルペノイド含量の高い千雪に関して言えば、無袋栽培の場合には収穫適期の成熟果よりも未熟果においてよりトリテルペノイド含量が高く、抽出原料としてより好ましいことが示された。また、有袋栽培の場合には未熟果と成熟果とで特段の相違のないことが示された。
【0048】
<4> まとめ
本研究により、下記の成果が得られた。
(1)リンゴ果皮におけるウルソール酸およびオレアノール酸含有量は、品種によって異なること。
(2)ウルソール酸含有量は約170~400μg/cmであり、最も少ない品種と最も多い品種の差が2倍以上であること。
(3)青森県育成品種の中で、特に千雪とかおりにおいてウルソール酸およびオレアノール酸含量が高いこと。
(4)千雪など赤色の品種の果皮ウルソール酸含量は、無袋より有袋果で多いこと。
(5)野生種リンゴ(マルス・コロナリア)において、通常栽培されている各リンゴとは異なりオレアノール酸を極めて多く含むこと。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のリンゴ由来トリテルペノイド含有組成物製造方法等によれば、美容製品や健康増進用製品の原料となり得る組成物等を、効率よく提供することができる。また、カットリンゴに加工して残った皮などリンゴ加工による廃棄物を抽出原料にでき、資源の有効利用および環境保護にも繋がる。したがって、農産加工分野、食品・医薬品製造分野、およびこれらに関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8