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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】リスク推定装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
G08G1/16 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018225677
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020087339
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】大濱 吉紘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 新
(72)【発明者】
【氏名】大門 真
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-253302(JP,A)
【文献】特開2006-219119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象領域に存在する移動物を検出する検出部と、
定位置を基準とした相対位置毎の前記移動物の存在可能性を示す値の分布として予め定めた単位分布であって、前記対象領域において、前記移動物の移動に関する複数の仮説の各々に応じた位置に配置される複数の前記単位分布の各々を予測し、予測した前記単位分布の各々を混合した混合分布により、前記検出部により検出された前記移動物の移動の予測を表す予測部と、
所定の単位格子で構成された所定サイズの辞書格子に前記単位分布を対応させたパターンであって、前記単位分布の前記所定位置を前記単位格子内の異なる複数の位置に対応させた複数の前記パターンを保持する単位分布辞書を参照し、前記予測部により予測された複数の前記単位分布の各々の前記所定位置に対応する前記パターンの各々を、前記対象領域に対応する占有格子地図であって、前記辞書格子の単位格子に対応する単位格子で構成された前記占有格子地図に重ね合わせてリスク推定地図を生成するリスク推定地図生成部と、
を含むリスク推定装置。
【請求項2】
前記パターンは、前記辞書格子に前記単位分布を対応させた場合における、前記単位格子の各々に対応する前記単位分布の値を前記単位格子に保持させたパターンである請求項1に記載のリスク推定装置。
【請求項3】
前記リスク推定地図生成部は、前記予測部により予測された複数の前記単位分布の各々の前記所定位置が属する前記占有格子地図上の単位格子、及び該単位格子内での前記所定位置を特定し、特定した前記単位格子内での前記所定位置に応じた前記パターンを前記単位分布辞書から選択し、特定した前記単位格子と、前記単位分布辞書から選択した前記パターンにおいて前記単位分布の前記所定位置に相当する単位格子とを対応させて、選択した前記パターンを前記占有格子地図に重ね合わせた場合に、選択した前記パターンの各単位格子が保持する値を、対応する前記占有格子地図の単位格子に反映する請求項1又は請求項2に記載のリスク推定装置。
【請求項4】
前記単位分布辞書に保持される複数の前記パターンの各々は、前記辞書格子の中央の単位格子を複数に分割した副単位格子の各々に、前記単位分布の前記所定位置を対応させた場合の前記パターンの各々である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリスク推定装置。
【請求項5】
前記リスク推定地図生成部は、前記予測部により予測された複数の前記単位分布の各々の前記所定位置が属する前記副単位格子に対応する前記パターンが保持する値と、該副単位格子の周辺の副単位格子に対応する前記パターンが保持する値とを重み付け加算して、前記占有格子地図の単位格子に反映する請求項4に記載のリスク推定装置。
【請求項6】
前記検出部は、対象領域に存在する静止物を検出し、
前記リスク推定地図生成部により生成された前記リスク推定地図に基づいて、前記移動物同士の衝突可能性、及び前記移動物と前記静止物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定部をさらに含む、
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のリスク推定装置。
【請求項7】
前記検出部は、対象領域に存在する静止物を検出し、
前記検出部により検出された前記静止物の位置を反映した前記占有格子地図を生成する占有格子地図生成部をさらに含み、
前記予測部は、前記静止物の位置を回避するように前記移動物の移動を予測する
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリスク推定装置。
【請求項8】
前記占有格子地図生成部は、前記対象領域に関する地図データを重畳した前記占有格子地図を生成し、
前記予測部は、前記占有格子地図に重畳された前記地図データが示す要因を反映して、前記単位分布の各々を予測する
請求項7項に記載のリスク推定装置。
【請求項9】
前記対象領域に対応すると共に、所定の前記単位格子で構成された前記占有格子地図と同じ解像度の所定サイズの前記辞書格子に、前記単位分布の前記所定位置を前記辞書格子の前記所定の単位格子内の異なる複数の位置に対応させた複数の前記パターンを生成する単位分布辞書生成部をさらに含む請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のリスク推定装置。
【請求項10】
前記リスク推定地図生成部により生成された前記リスク推定地図、及び前記リスク推定地図に基づく情報の少なくとも一方を表示装置に表示するように制御する表示制御部をさらに含む請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のリスク推定装置。
【請求項11】
前記表示制御部は、前記リスク推定地図を表示する場合に、前記リスク推定地図が示すリスクの高さに応じて、表示の輝度又は色を制御する請求項10に記載のリスク推定装置。
【請求項12】
コンピュータを、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載のリスク推定装置の各部として機能させるためのリスク推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リスク推定装置及びリスク推定プログラムに係り、特に、移動物の移動を予測したリスク推定地図を生成するリスク推定装置及びリスク推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の周辺環境の時間的な変化を考慮して、車両の走行危険度を評価する技術が提案されている(特許文献1参照)。この技術では、周辺環境認識装置は、車両に搭載され、車両の周辺環境を認識する。周辺環境認識装置は、車両の動きに関する自車情報を取得する自車情報取得部と、車両の周辺の環境要素に対する周辺環境要素情報を取得する周辺環境要素取得部と、自車情報に基づいて、車両の周辺の各位置に対する車両の存在時間範囲を表す自車存在時間範囲を決定する存在時間範囲決定部と、自車存在時間範囲および周辺環境要素情報に基づいて、車両の周辺の走行危険度を決定する走行危険度決定部と、を備える。
【0003】
また、Hybrid-Sampling Bayesian Occupancy Filterと呼ばれるグリッドマップ上で、グリッドの各々のセルの衝突時間(TTC:Time To Collision)を算出して、リスクを推定する技術が提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-224237号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Probabilistic Grid-based Collision Risk Prediction for Driving Application, Inria, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術では、グリッドマップ上のセル(座標値)に対して、存在時間範囲を割り付けるため、高速道路上の車両の動きのような単調な状況しか記述できない。例えば、複数の歩行者が自由に歩行しているような状況において、特許文献1に記載の技術で、車両の走行危険度を推定することは困難である。
【0007】
また、非特許文献1に記載の技術において、グリッド分解能は750×300セル、セル内に設定するパーティクルは262144個(0.86パーティクル/セル)である。したがって、数十万個のパーティクルについて計算を行う必要があるため、計算コストが膨大になるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みて成されたものであり、歩行者のような複雑な移動が想定される移動物が存在する環境における、占有格子表現のリスク推定地図を生成するための計算量を削減することができるリスク推定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るリスク推定装置は、対象領域に存在する移動物を検出する検出部と、所定位置を基準とした相対位置毎の前記移動物の存在可能性を示す値の分布として予め定めた単位分布であって、前記対象領域において、前記移動物の移動に関する複数の仮説の各々に応じた位置に配置される複数の前記単位分布の各々を予測し、予測した前記単位分布の各々を混合した混合分布により、前記検出部により検出された前記移動物の移動の予測を表す予測部と、所定の単位格子で構成された所定サイズの辞書格子に前記単位分布を対応させたパターンであって、前記単位分布の前記所定位置を前記単位格子内の異なる複数の位置に対応させた複数の前記パターンを保持する単位分布辞書を参照し、前記予測部により予測された複数の前記単位分布の各々の前記所定位置に対応する前記パターンの各々を、前記対象領域に対応する占有格子地図であって、前記辞書格子の単位格子に対応する単位格子で構成された前記占有格子地図に重ね合わせてリスク推定地図を生成するリスク推定地図生成部と、を含んで構成されている。
【0010】
本発明に係るリスク推定装置によれば、検出部が、対象領域に存在する移動物を検出すし、予測部が、所定位置を基準とした相対位置毎の移動物の存在可能性を示す値の分布として予め定めた単位分布であって、対象領域において、移動物の移動に関する複数の仮説の各々に応じた位置に配置される複数の単位分布の各々を予測し、予測した単位分布の各々を混合した混合分布により、検出部により検出された移動物の移動の予測を表す
【0011】
そして、リスク推定地図生成部が、所定の単位格子で構成された所定サイズの辞書格子に単位分布を対応させたパターンであって、単位分布の所定位置を単位格子内の異なる複数の位置に対応させた複数のパターンを保持する単位分布辞書を参照し、予測部により予測された複数の単位分布の各々の所定位置に対応するパターンの各々を、対象領域に対応する占有格子地図であって、辞書格子の単位格子に対応する単位格子で構成された占有格子地図に重ね合わせてリスク推定地図を生成する。
【0012】
これにより、歩行者のような複雑な移動が想定される移動物が存在する環境における、占有格子表現のリスク推定地図を生成するための計算量を削減することができる。また、生成するリスク推定地図の解像度が粗い場合でも、その解像度よりも細かい位置の刻みで単位分布をリスク推定地図に反映させることができる。
【0013】
また、前記パターンは、前記辞書格子に前記単位分布を対応させた場合における、前記単位格子の各々に対応する前記単位分布の値を前記単位格子に保持させたパターンとすることができる。これにより、簡易な形式で複数のパターンを保持しておくことができる。
【0014】
また、前記リスク推定地図生成部は、前記予測部により予測された複数の前記単位分布の各々の前記所定位置が属する前記占有格子地図上の単位格子、及び該単位格子内での前記所定位置を特定し、特定した前記単位格子内での前記所定位置に応じた前記パターンを前記単位分布辞書から選択し、特定した前記単位格子と、前記単位分布辞書から選択した前記パターンにおいて前記単位分布の前記所定位置に相当する単位格子とを対応させて、選択した前記パターンを前記占有格子地図に重ね合わせた場合に、選択した前記パターンの各単位格子が保持する値を、対応する前記占有格子地図の単位格子に反映することができる。これにより、簡易な処理で、混合分布を占有格子表現にすることができる。
【0015】
また、前記単位分布辞書に保持される複数の前記パターンの各々は、前記辞書格子の中央の単位格子を複数に分割した副単位格子の各々に、前記単位分布の前記所定位置を対応させた場合の前記パターンの各々とすることができる。これにより、簡易な形式で複数のパターンを保持しておくことができる。
【0016】
また、前記リスク推定地図生成部は、前記予測部により予測された複数の前記単位分布の各々の前記所定位置が属する前記副単位格子に対応する前記パターンが保持する値と、該副単位格子の周辺の副単位格子に対応する前記パターンが保持する値とを重み付け加算して、前記占有格子地図の単位格子に反映することができる。これにより、単位分布辞書として保持するパターン数を増やすことなく、より細かい位置の刻みで単位分布をリスク推定地図に反映させることができる。
【0017】
また、前記検出部は、対象領域に存在する静止物を検出し、本発明に係るリスク推定装置は、前記リスク推定地図生成部により生成された前記リスク推定地図に基づいて、前記移動物同士の衝突可能性、及び前記移動物と前記静止物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定部をさらに含んで構成することができる。これにより、衝突の可能性を把握することができる。
【0018】
また、前記検出部は、対象領域に存在する静止物を検出し、本発明に係るリスク推定装置は、前記検出部により検出された前記静止物の位置を反映した前記占有格子地図を生成する占有格子地図生成部をさらに含んで構成することができ、前記予測部は、前記静止物の位置を回避するように前記移動物の移動を予測することができる。これにより、移動物の移動を実際の状況に合わせて予測することができる。
【0019】
また、前記占有格子地図生成部は、前記対象領域に関する地図データを重畳した前記占有格子地図を生成し、前記予測部は、前記占有格子地図に重畳された前記地図データが示す要因を反映して、前記単位分布の各々を予測することができる。これにより、移動物の移動の予測精度が向上する。
【0020】
また、本発明に係るリスク推定装置は、前記対象領域に対応すると共に、所定の前記単位格子で構成された前記占有格子地図と同じ解像度の所定サイズの前記辞書格子に、前記単位分布の前記所定位置を前記辞書格子の前記所定の単位格子内の異なる複数の位置に対応させた複数の前記パターンを生成する単位分布辞書生成部をさらに含んで構成することができる。
【0021】
また、本発明に係るリスク推定装置は、前記リスク推定地図生成部により生成された前記リスク推定地図、及び前記リスク推定地図に基づく情報の少なくとも一方を表示装置に表示するように制御する表示制御部をさらに含んで構成することができる。これにより、移動物の移動の予測結果を占有格子表現したリスク推定地図及びそれに基づく情報の少なくとも一方を可視化することができる。
【0022】
また、前記表示制御部は、前記リスク推定地図を表示する場合に、前記リスク推定地図が示すリスクの高さに応じて、表示の輝度又は色を制御することができる。これにより、リスクが高い状況を把握し易くなる。
【0023】
また、本発明に係るリスク推定プログラムは、コンピュータを、上記のリスク推定装置の各部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明のリスク推定装置及びプログラムによれば、混合分布を構成する単位分布の所定位置を単位格子内の異なる複数の位置に対応させて占有格子表現にした複数のパターンを単位分布辞書として保持しておき、移動物の移動に関して予測された混合分布を構成する複数の単位分布に対応するパターンを、単位分布辞書から選択して占有格子地図に重ね合わせてリスク推定地図を生成することにより、歩行者のような複雑な移動が想定される移動物が存在する環境における、占有格子表現のリスク推定地図を生成するための計算量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態の概要を説明するための図である。
図2】本実施形態に係るリスク推定システムの概略構成を示すブロック図である。
図3】センシング装置の設置の一例を説明するための図である。
図4】センシング装置の設置の他の例を説明するための図である。
図5】辞書格子の一例を示す図である。
図6】パターンの生成を説明するための図である。
図7】単位分布辞書のデータ構造の一例を示す図である。
図8】占有格子地図の生成を説明するための図である。
図9】予測された混合分布を占有格子地図上に表した場合を示す図である。
図10】副単位格子の特定を説明するための図である。
図11】リスク推定地図の生成を説明するための図である。
図12】リスク推定地図の一例を示す図である。
図13】単位分布辞書生成処理の一例を示すフローチャートである。
図14】リスク推定地図生成処理の一例を示すフローチャートである。
図15】単位分布辞書引処理の一例を示すフローチャートである。
図16】単位分布の期待値が属する副単位格子以外の副単位格子に対応するパターンも用いて各単位格子の値を算出する場合を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0027】
<本実施形態の概要>
本実施形態では、図1に示すように、例えば、駐車場内での歩行者のような複雑な移動が想定される移動物の移動の予測を、複数の単位分布60を混合した混合分布により表す。混合分布62を構成する各単位分布60は、所定位置を基準とした相対位置毎の移動物の存在可能性を示す値の分布として予め定めた分布であって、対象領域において、移動物の移動に関する複数の仮説(図1の例では、仮説1、仮説2、及び仮説3)の各々に応じた位置に配置される分布である。単位分布60は、例えば、正規分布とすることができ、所定位置を基準とした相対位置毎の移動物の存在可能性を示す値は、確率密度値である。
【0028】
さらに、本実施形態では、上記の混合分布62を、占有格子表現としたリスク推定地図64を生成する。
【0029】
ここで、混合分布62を占有格子表現する場合に、逐一各格子に占める混合分布62の確率密度値を計算すると、計算量が膨大になってしまう。
【0030】
そこで、本実施形態では、混合分布62を構成する個別の単位分布60を表す占有格子表現を予め単位分布辞書として保持しておき、占有格子表現の地図上で時間軸に沿って重み付き加算によって混合することで、リスク推定地図64を生成する。
【0031】
<本実施形態に係るリスク推定システムの構成>
図2に示すように、本実施形態に係るリスク推定システム100は、リスク推定装置10と、センシング装置12と、ディスプレイ等の表示装置16とを備えて構成される。本実施形態では、リスク推定を行う対象領域が駐車場であり、移動物として車両及び歩行者が想定される場合を例に説明する。
【0032】
センシング装置12は、例えば、カメラ、レーザーレーダ、電波受信機等のセンサであり、静止物の位置、並びに移動物の位置及び速度の推定に必要な情報を計測し、計測したセンサデータを出力する。センシング装置12は、静止物及び移動物を計測可能な位置及び角度で設置される。対象領域に設置されるセンシング装置12は、多数台、及び多数の種類が混在してもよい。
【0033】
例えば、図3に示すように、センシング装置12は、天井や壁等に固定して設置することができる。この場合、センシング装置12は、設置位置を適切に選定することで、カメラの撮影範囲やレーザーレーダの検出範囲等が遮蔽される領域を少なくすることができる。また、例えば、図4に示すように、センシング装置12は、移動物、例えば車両上に設置してもよい。
【0034】
センシング装置12から出力されたセンサデータは、リスク推定装置10へ入力される。ここで、センシング装置12は、リスク推定装置10と直接接続されていることを要せず、リスク推定装置10に、インターネット等の通信網を介して接続されていてもよい。
【0035】
リスク推定装置10は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、後述する単位分布辞書生成処理及びリスク推定地図生成処理を含むリスク推定処理を実行するためのリスク推定プログラムを記憶したROM(Read Only Memory)とを備えたコンピュータにより実現することができる。CPUがリスク推定プログラムを実行することにより、コンピュータがリスク推定装置10として機能することになる。
【0036】
図2に示すように、リスク推定装置10は、機能的には、単位分布辞書生成部22と、単位分布辞書24と、静止物検出部26と、占有格子地図生成部28と、地図データベース(DB:database)30と、移動物検出追跡部32と、移動予測部34と、単位分布辞書引部36と、リスク推定地図生成部38と、衝突可能性判定部40と、表示制御部42とを含んで構成される。
【0037】
単位分布辞書生成部22は、所定の単位格子で構成された所定サイズの辞書格子に単位分布60を対応させたパターンであって、単位分布60の所定位置を単位格子内の異なる複数の位置に対応させた複数のパターンを保持する単位分布辞書24を生成する。以下では、単位分布60が正規分布である場合を例に、具体的に説明する。
【0038】
単位分布辞書生成部22は、リスク推定装置10において最終的に生成するリスク推定地図64と同じ解像度、すなわち、同一サイズの単位格子により構成された空の辞書格子を用意する。辞書格子のサイズ(縦及び横の単位格子数)は、単独の単位分布60が一定閾値以上の確率密度値を取る範囲に限定した範囲が収まるサイズとする。図5に、空の辞書格子66の一例を示す。図5の例において、1マスが1つの単位格子68に相当する。辞書格子66は、格子数がいずれの軸(縦及び横)も奇数になるものとし、中央の単位格子68が唯一に定まるようにする。なお、図5では、9×9マスの辞書格子66を示している。単位分布辞書生成部22は、単位分布辞書24に含めるパターン数分の空の辞書格子66を用意する。
【0039】
また、単位分布辞書生成部22は、中央の単位格子68を複数に分割(本実施形態では、4分割)した副単位格子70を設定し、各副単位格子70に副単位格子番号D(i=1,2,3,4)を割り当てる。図5では、副単位格子70内に、その副単位格子70の副単位格子番号Dの添え字iを示している。なお、副単位格子70の分割数や幾何学的な形状は、図5に示す例に限定されるものではない。
【0040】
単位分布辞書生成部22は、図6に示すように、空の辞書格子66の副単位格子70の各々の中心位置に、単位分布60の所定位置(本実施形態では、期待値)が位置するように対応させ、辞書格子66内の各単位格子68の中心位置に対応する単位分布60の値(確率密度値)を、各単位格子68に保持させたパターンを生成する。図6の例では、各単位格子68に保持された値が高い程、単位格子68内の色を濃くして表している。
【0041】
単位分布辞書生成部22は、副単位格子70毎にパターンを生成し、生成した複数のパターンを、単位分布辞書24として、リスク推定装置10の所定の記憶領域に記憶する。図7に単位分布辞書24のデータ構造の一例を示す。図7の例では、辞書格子66に含まれる各単位格子68に単位格子番号を1から順に付与し(図5の例では1~81)、副単位格子番号Dに対応付けて、各単位格子68が保持する値を記憶している。なお、図7中のN(x;xDi,Σ)において、xは単位格子番号jの単位格子68の中心位置、xDiは副単位格子番号Dの副単位格子70の中心位置である。すなわち、N(x;xDi,Σ)は、期待値がxDi、分散がΣの正規分布のxにおける確率密度値である。
【0042】
なお、正規分布などのように、形状が上下及び左右などで対象の場合には、全てのパターンを単位分布辞書24として記憶しておく必要はない。例えば、図6の例の場合、副単位格子番号Dのパターンだけ記憶しておけば、そのパターンを上下反転及び左右反転操作することにより、副単位格子番号D、D、及びDのパターンを生成することができる。これにより、単位分布辞書24を記憶する記憶容量を低減することができる。
【0043】
静止物検出部26は、センシング装置12から入力されたセンサデータを取得し、センサデータに基づいて、対象領域内に存在する静止物を検出する。例えば、静止物検出部26は、レーザーレーダにより計測されたセンサデータが示す3次元点群データにより、対象領域の点群地図を生成し、異なる時刻間の点群地図において差が生じていない部分を、静止物として検出する。静止物検出部26は、検出した静止物を示す3次元点群データを占有格子地図生成部28へ受け渡す。
【0044】
占有格子地図生成部28は、対象領域の適切な位置を原点とする座標系において、上記の辞書格子66と同一の解像度、すなわち同一サイズの単位格子68で構成される空の占有格子地図を用意する。占有格子地図生成部28は、図8に示すように、静止物検出部26から受け渡された静止物の3次元点群データが示す位置に対応する占有格子地図72の単位格子68に投票することで、静止物の位置を反映した占有格子地図72を生成する。図8の例では、斜線で示す単位格子群74が、静止物を示す領域であることを表している。
【0045】
また、占有格子地図生成部28は、地図DB30の情報も占有格子地図72に反映する。例えば、地図DB30には、対象領域である駐車場の車両出入口、歩行者出入口、障害物、標識等の位置及び寸法が格納されている。これらの情報は、移動物の移動に影響を与える要因となり得る情報である。例えば、占有格子地図生成部28は、図8の破線部76に示すように、出入口等に相当する単位格子68に、その単位格子68に対応する位置に存在する物体の物体名、形状、寸法等の情報を保持させる。図8の例では、地図DB30の情報が反映された単位格子68を「X」で表している。
【0046】
図DB30の情報も占有格子地図72に反映することで、センシング装置12による未計測領域についても、占有格子地図72に静止物の情報を反映させることができる。
【0047】
移動物検出追跡部32は、対象領域に存在する移動物を検出する。例えば、移動物検出追跡部32は、カメラ画像を用いた物体認識技術により画像中の人の矩形位置を検出すると共に、車両の矩形位置を検出する。そして、移動物検出追跡部32は、レーザーレーダにより計測された点群をカメラ画像に投影して、矩形内の点群から距離を推定することで、移動物の位置を検出する。移動物検出追跡部32は、移動物の位置及び矩形のサイズなどに基づいて、前時刻において検出された移動物と、現時刻において検出された移動物との対応付けを行うことにより、移動物を追跡する。また、移動物検出追跡部32は、前時刻における矩形内の点群と、現時刻における矩形内の点群との比較により、移動物の速度も推定する。
【0048】
移動物検出追跡部32は、検出した全ての移動物の状態(位置、速度、観測時刻)を移動予測部34に受け渡す。なお、本実施形態において検出する「移動物」は、静止している場合の移動物も含む。
【0049】
移動予測部34は、移動物検出追跡部32により検出された移動物の移動を、上述した混合分布62を用いて予測する。例えば、移動予測部34は、混合分布62を構成する単位分布60の各々に対応する各仮説について、カルマンフィルタの予測ステップ(線形予測及び共分散拡大)を設定されたステップ数だけ繰り返すことにより、将来の移動物の移動可能範囲を示す仮説を予測する。
【0050】
ここでは、混合分布62で表される状態(x0a,v0a)が、下記(1)式に示す仮説(x0ak,v0ak)(k=1,2,・・・)群の重み付和により生成されるものとする。
【0051】
(x0a,v0a
={(x0a1,v0a1),(x0a2,v0a2),・・・}
・・・(1)
【0052】
移動予測部34は、状態(x0a,v0a)について、下記(2)式に示す次の時刻の状態を示す仮説(xak,vak)群を予測することで、次の時刻の状態(x,v)を予測する。
【0053】
(x,v
={(xa1,va1),(xa2,va2),・・・}
・・・(2)
【0054】
なお、k番目の仮説(x0ak,v0ak)は、下記(3)式のように表すことができる。
【0055】
(x0ak,v0ak)={(x0pk,(x0pk,(x0vk,(x0vk
・・・(3)
【0056】
ここで、(x0pk及び(x0pkは、それぞれ仮説(xak,vak)のx方向の位置及びy方向の位置を表し、(x0vk及び(x0vkは、それぞれ仮説(x0ak,v0ak)のx方向の速度及びy方向の速度を表す。
【0057】
そして、移動予測部34は、下記(4)式及び(5)式を用いて、次の時刻の状態を予測する。
【0058】
【数1】
【0059】
ここで、Δtは、次の時刻への時間幅であり、σpx、σpy、σvx、σvyは共分散である。
【0060】
状態(x,v)は、各仮説(xak,vak)と、各仮説についての重みwとを用いて、下記(6)式で表すことができる。なお、重みwは、共分散の値などに基づいて設定することができる。
【0061】
(x,v
=w×(xa1,va1)+w×(xa2,va2)+... ・・・(6)
【0062】
移動予測部34は、仮説(xak,vak)を示す単位分布60として、期待値μ((xpk,(xpk,(xvk,(xvk)と、分散値Σとで表される正規分布を予測する。したがって、次時刻の移動物の状態(x,v)は、下記(7)式に示す混合分布p(x)として予測される。
【0063】
【数2】
【0064】
また、移動予測部34は、占有格子地図生成部28により生成された占有格子地図72を参照して、静止物が存在する位置や出入口等の情報に基づいて、次の時刻における位置の予測の範囲を制限したり、移動し易い位置を設定したりしてもよい。例えば、移動予測部34は、静止物の位置を回避するように移動物の移動を予測してもよい。また、各単位分布60と、静止物や出入口等との距離に応じて、上記の重みwを設定するようにしてもよい。
【0065】
なお、移動予測部34による移動物の移動の予測は、上記方法に限定されるものではなく、図1に示すような混合分布62を予測結果として得られる方法であればよい。
【0066】
移動予測部34は、予測結果を単位分布辞書引部36へ受け渡す。
【0067】
単位分布辞書引部36は、単位分布辞書24を参照し、移動予測部34から受け渡され予測結果が示す複数の単位分布60の各々の位置に対応するパターンの各々を選択する。具体的には、単位分布辞書引部36は、移動予測部34により予測された複数の単位分布60の各々の位置に対応する占有格子地図72上の単位格子68、及びその単位格子68内での位置を特定する。そして、単位分布辞書引部36は、特定した単位格子68内での位置に応じたパターンを、単位分布辞書24から選択する。
【0068】
例えば、予測された混合分布62が図9に示すように占有格子地図72上に表される場合を例に、より具体的に説明する。図9の例では、混合分布62は、単位分布L(k=1,2,3)により構成されている。
【0069】
単位分布辞書引部36は、各単位分布Lの期待値が、単位分布辞書24で規定されている副単位格子70のいずれに属するかを特定し、その副単位格子70の副単位格子番号D(L)を特定する。図10に示すように、単位分布Lの期待値は、副単位格子番号Dの副単位格子70に属するため、単位分布Lについて、D(L)=Dが特定される。同様に、単位分布Lについて、D(L)=D、単位分布Lについて、D(L)=Dが特定される。
【0070】
単位分布辞書引部36は、単位分布辞書24において、各単位分布Lについて特定したD(L)に対応付けられた各単位格子68の確率密度値を、その単位分布Lに対応するパターンとして選択する。例えば、上記の例では、単位分布Lについては、D(L)=Dであるため、図7に示す単位分布辞書24の4行目のパターンが選択される。
【0071】
単位分布辞書引部36は、各単位分布Lについて選択したパターンを、リスク推定地図生成部38へ受け渡す。
【0072】
リスク推定地図生成部38は、単位分布辞書引部36から受け渡されたパターンを、占有格子地図生成部28により生成された占有格子地図72に重ね合わせて、リスク推定地図を生成する。具体的には、リスク推定地図生成部38は、単位分布辞書引部36により特定された、単位分布60の期待値を含む単位格子68と、選択されたパターンが示す単位分布60の期待値に相当する単位格子68とを対応させて、選択されたパターンを占有格子地図72に重ね合わせた場合に、選択したパターンの各単位格子68が保持する値を、対応する占有格子地図72の単位格子68に反映する。
【0073】
上記の単位分布L(k=1,2,3)について選択されたパターンを重ね合わせる場合における、図9に示す占有格子地図72の一部を、図11に示す。まず、例えば、単位分布Lについて選択された、副単位格子番号Dに対応するパターンに、重みwを乗算した各単位格子68の値を、占有格子地図72上の単位分布Lに対応する位置の単位格子68に加算する。次に、単位分布Lについて選択された、副単位格子番号Dに対応するパターンに、重みwを乗算した各単位格子68の値を、占有格子地図72上の単位分布Lに対応する位置の単位格子68に加算する。さらに、単位分布Lについて選択された、副単位格子番号Dに対応するパターンに、重みwを乗算した各単位格子68の値を、占有格子地図72上の単位分布Lに対応する位置の単位格子68に加算する。
【0074】
これにより、図12の破線部78に示すように、移動物の移動を予測した混合分布62が占有格子表現で占有格子地図72に反映されたリスク推定地図64が生成される。なお、図12の例では、移動物が1つのみ含まれる場合を例示しているが、移動物が複数検出されている場合には、リスク推定地図64には、複数の移動物の各々を占有格子表現下表示が含まれることになる。
【0075】
リスク推定地図生成部38は、生成したリスク推定地図64を、衝突可能性判定部40及び表示制御部42の各々へ受け渡す。
【0076】
衝突可能性判定部40は、リスク推定地図生成部38により生成されたリスク推定地図64に基づいて、移動物同士の衝突可能性、及び移動物と静止物との衝突可能性を判定する。例えば、衝突可能性判定部40は、リスク推定地図64において、予測された移動物の位置を示す単位格子群(図12の78)同士の重なり度合いや、静止物を示す単位格子群74との重なり度合いに基づいて、衝突可能性を判定する。
【0077】
衝突可能性判定部40は、判定結果を表示制御部42へ受け渡す。
【0078】
表示制御部42は、リスク推定地図生成部38から受け渡されたリスク推定地図64に、衝突可能性判定部40の判定結果を重畳して表示するように、表示装置16を制御する。衝突可能性の判定結果のリスク推定地図64への重畳方法としては、例えば、衝突可能性がある領域にマークを表示したり、衝突可能性があることをメッセージで表示したりすることができる。
【0079】
なお、表示制御部42は、衝突可能性の判定結果以外にも、例えば、移動物が存在する旨のメッセージなどのリスク推定地図64に基づく情報を重畳して表示装置16に表示したり、リスク推定地図64に基づく情報のみを表示装置16に表示したりするようにしてもよい。さらに、表示制御部42は、リスク推定地図64を表示する場合に、リスク推定地図64が示すリスクの高さに応じて、表示の輝度又は色を制御してもよい。リスクの高さは、例えば、衝突可能性の高さや、移動物が存在する確率の高さなどとすることができる。表示の輝度又は色を制御する部分は、対象領域内でリスクの高い箇所に相当するリスク推定地図64の部分のみでもよいし、リスク推定地図64全体でもよい。
【0080】
次に、本実施形態に係るリスク推定システム100の作用について説明する。
【0081】
まず、事前に、リスク推定装置10が、図13に示す単位分布辞書生成処理を実行することにより、単位分布辞書24を生成する。そして、センシング装置12によるセンシングが開始されると、リスク推定システム100において、図14に示すリスク推定地図生成処理が実行される。以下、単位分布辞書生成処理及びリスク推定地図生成処理の各々について説明する。
【0082】
まず、図13に示す単位分布辞書生成処理について説明する。
【0083】
ステップS12で、単位分布辞書生成部22が、空の単位分布辞書Mdictを用意する。例えば、用意する単位分布辞書Mdictは、副単位格子70の数をimax図5及び図6に示すような辞書格子66に含まれる単位格子68の数をjmaxとすると、imax行×jmax列のテーブルとすることができる。
【0084】
次に、ステップS14で、単位分布辞書生成部22が、副単位格子番号Dの添え字を示す変数iを1に設定する。
【0085】
次に、ステップS16で、単位分布辞書生成部22が、単位格子番号を示す変数jを1に設定する。
【0086】
次に、ステップS18で、単位分布辞書生成部22が、辞書格子66の副単位格子番号Dの副単位格子70の中心位置xDiに、単位分布60の期待値が位置するように対応させ、辞書格子66内の単位格子番号jの単位格子68の中心位置xに対応する単位分布60の値(確率密度値:N(x;xDi,Σ))を求める。単位分布辞書生成部22は、求めたN(x;xDi,Σ)を、単位分布辞書Mdictのi行j列のマス(Mdict[i,j])に格納する。
【0087】
次に、ステップS20で、単位分布辞書生成部22が、j=jmaxか否かを判定することにより、副単位格子番号Dについてのパターンの生成が終了したか否かを判定する。j<jmaxの場合には、辞書格子66に含まれる全ての単位格子68について上記ステップS18の処理が終了していないため、ステップS22で、jを1インクリメントして、ステップS18に戻る。j=jmaxの場合には、ステップS24へ移行する。
【0088】
ステップS24では、単位分布辞書生成部22が、i=imaxか否かを判定することにより、単位分布辞書Mdictの生成が終了したか否かを判定する。i<imaxの場合には、パターンを生成していない副単位格子70が存在するため、ステップS26で、iを1インクリメントして、ステップS16に戻る。i=imaxの場合には、単位分布辞書生成処理は終了する。
【0089】
次に、図14に示すリスク推定地図生成処理について説明する。
【0090】
ステップS32で、占有格子地図生成部28は、対象領域の適切な位置を原点とする座標系において、上記の辞書格子66と同一の解像度、すなわち同一サイズの単位格子68で構成される空の占有格子地図を用意する。
【0091】
次に、ステップS34で、静止物検出部26及び移動物検出追跡部32が、センシング装置12から入力されたセンサデータを取得する。
【0092】
次に、ステップS36で、静止物検出部26が、取得したセンサデータに基づいて、対象領域内に存在する静止物を検出する。静止物検出部26は、検出した静止物を示す情報を占有格子地図生成部28へ受け渡す。
【0093】
次に、ステップS38で、占有格子地図生成部28は、地図DB30から、対象領域である駐車場の車両出入口、歩行者出入口、障害物、標識等の位置及び寸法等の情報を取得する。
【0094】
次に、ステップS40で、占有格子地図生成部28が、上記ステップS36で静止物検出部26から受け渡された静止物の情報と、上記ステップS38で取得した地図DB30の情報とを反映した占有格子地図72を生成する。
【0095】
次に、ステップS42で、移動物検出追跡部32が、上記ステップS34で取得したセンサデータに基づいて、対象領域に存在する移動物を検出すると共に、前時刻において検出された移動物と対応付けることにより、移動物を追跡する。また、移動物検出追跡部32は、前時刻の検出結果と、現時刻の検出結果との比較により、移動物の速度も推定する。移動物検出追跡部32は、検出した全ての移動物の状態(位置、速度、観測時刻)を移動予測部34に受け渡す。
【0096】
次に、ステップS44で、移動予測部34が、移動物検出追跡部32から受け渡された移動物の状態に基づいて、移動物の移動に関する複数の仮説に対応する複数の単位分布60を混合した混合分布62を、移動物の移動の予測結果として導出する。移動予測部34は、予測結果を単位分布辞書引部36へ受け渡す。
【0097】
次に、ステップS46で、単位分布辞書引部36が、単位分布辞書引処理を実行する。
【0098】
ここで、図15に示す単位分布辞書引処理について説明する。
【0099】
ステップS462で、単位分布辞書引部36が、予測結果である混合分布62を構成する単位分布60を識別するための変数kに1を設定する。
【0100】
次に、ステップS464で、単位分布辞書引部36が、空の辞書引結果格納用リストC[k]を用意する。辞書引結果格納用リストC[k]のサイズは、パターン1つ分のサイズ、すなわち、図7に示すような単位分布辞書Mdictの1行分のサイズである。
【0101】
次に、ステップS468で、単位分布辞書引部36が、単位分布Lの期待値μが、占有格子地図72のいずれの単位格子68に属するかを特定する。
【0102】
次に、ステップS470で、単位分布辞書引部36が、単位分布Lの期待値μが副単位格子70のいずれに属するかを特定し、その副単位格子70の副単位格子番号D(L)を特定する。
【0103】
次に、ステップS472で、単位分布辞書引部36が、単位分布辞書24において、単位分布Lについて特定したD(L)に対応付けられた各単位格子68の確率密度値(Mdict[D(L),・])を、その単位分布Lに対応するパターンとして選択する。単位分布辞書引部36は、選択したパターンを辞書引結果格納用リストC[k]に格納し、リスク推定地図生成部38へ受け渡す。
【0104】
次に、ステップS474で、単位分布辞書引部36が、kが、混合分布62を構成する単位分布60の数kmaxとなったか否かを判定することにより、全ての単位分布60について対応するパターンを選択したか否かを判定する。k<kmaxの場合には、未処理の単位分布60が存在するため、ステップS476で、kを1インクリメントして、ステップS464に戻る。k=kmaxの場合には、単位分布辞書引処理を終了して、リスク推定地図生成処理(図14)へ戻る。
【0105】
次に、図14に示すリスク推定地図生成処理のステップS48で、リスク推定地図生成部38が、単位分布辞書引部36から受け渡された辞書引結果格納用リストC[k]に格納されたパターンを、上記ステップS40で生成された占有格子地図72に重み付け加算して、リスク推定地図64を生成する。リスク推定地図生成部38は、生成したリスク推定地図64を、衝突可能性判定部40及び表示制御部42の各々へ受け渡す。
【0106】
次に、ステップS50で、衝突可能性判定部40が、リスク推定地図生成部38により生成されたリスク推定地図64に基づいて、移動物同士の衝突可能性、及び移動物と静止物との衝突可能性を判定する。衝突可能性判定部40は、判定結果を表示制御部42へ受け渡す。
【0107】
次に、ステップS52で、表示制御部42が、リスク推定地図生成部38から受け渡されたリスク推定地図64に、衝突可能性判定部40の判定結果を重畳して表示するように、表示装置16を制御し、ステップS34へ戻る。
【0108】
以上説明したように、本実施形態に係るリスク推定システムによれば、混合分布を構成する単位分布の占有格子表現であるパターンを単位分布辞書として予め保持しておく。そして、リスク推定時には、移動物の移動予測を示す混合分布を構成する単位分布に対応するパターンを単位分布辞書から選択して、占有格子地図に重み付け加算することにより、リスク推定地図を生成する。これにより、歩行者のような複雑な移動が想定される移動物が存在する環境における、占有格子表現のリスク推定地図を生成するための計算量を削減することができる。その結果、リスク推定のリアルタイム処理を実現することができる。
【0109】
また、単位分布辞書として、単位格子内の複数の位置に単位分布の所定位置を対応させた場合の複数のパターンを保持しておくことで、生成するリスク推定地図の解像度が粗い場合でも、その解像度よりも細かい位置の刻みで単位分布をリスク推定地図に反映させることができる。
【0110】
なお、上記実施形態では、単位分布の所定位置(期待値)が属する副単位格子に対応するパターンのみをリスク推定地図に加算する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、単位分布の期待値が属する副単位格子に対応するパターンが保持する値と、その副単位格子の周辺の副単位格子に対応するパターンが保持する値とを重み付け加算してもよい。
【0111】
例えば、図16に示すように、各副単位格子の中心位置(黒丸)から単位分布の期待値(白丸)の位置へのベクトル成分を適切に設定された定数で正規化した係数により重み付けて、各副単位格子に対応するパターンが保持する値を加算するようにしてもよい。例えば、図16の例では、以下のように、単位格子番号jの単位格子の値Jを算出することができる。
【0112】
J=(1/d)×N(x;xD1,Σ)+(1/d)×N(x;xD2,Σ)
+(1/d)×N(x;xD3,Σ)+(1/d)×N(x;xD4,Σ)
【0113】
これにより、単位分布辞書に保持するパターン数を増やすことなく、より細かい位置の刻みで単位分布をリスク推定地図に反映させることができる。
【0114】
また、上記実施形態では、単位分布の一例として、正規分布を用いる場合について説明したが、これに限定されない。また、単位分布辞書を生成する際、及びリスク推定地図に反映する際の基準位置として、正規分布の期待値を用いる場合について説明したが、他の値を用いてもよい。
【0115】
また、上記実施形態では、混合分布を構成する単位分布が1種類の場合について説明したが、これに限定されず、複数種類の単位分布により構成されてもよい。この場合、単位分布の種類毎に、単位分布辞書を用意しておけばよい。
【0116】
また、上記実施形態では、静止物の位置や地図DBの情報を反映した占有格子地図に、移動物の移動を予測した混合分布を反映させてリスク推定地図を生成する場合について説明したが、これに限定されない。占有格子地図とリスク推定地図とは別個に生成してもよい。
【0117】
また、上記実施形態では、単位分布辞書生成部がリスク推定装置に含まれる構成について説明したが、単位分布辞書生成部は、他の機能部とは別のコンピュータで構成してもよい。また、単位分布辞書も、リスク推定装置の所定の記憶領域に記憶する場合に限定されず、外部の記憶装置や記憶媒体に記憶しておき、リスク推定地図を生成する際に、読み込んで利用するようにしてもよい。
【0118】
また、上記実施形態では、辞書格子と、占有格子地図と、リスク推定地図とが、それぞれ同一の解像度、すなわち同一サイズの単位格子で構成される場合について説明したが、これに限定されない。それぞれを対応させる際に、拡大又は縮小などにより、お互いの単位格子の大きさを合わせることができるものであればよい。
【0119】
また、本発明のプログラムを記憶媒体に格納して提供してもよい。
【符号の説明】
【0120】
10 リスク推定装置
12 センシング装置
16 表示装置
22 単位分布辞書生成部
24 単位分布辞書
26 静止物検出部
28 占有格子地図生成部
30 地図DB
32 移動物検出追跡部
34 移動予測部
36 単位分布辞書引部
38 リスク推定地図生成部
40 衝突可能性判定部
42 表示制御部
60 単位分布
62 混合分布
64 リスク推定地図
66 辞書格子
68 単位格子
70 副単位格子
72 占有格子地図
100 リスク推定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16