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<図1>
  • 特許-識別システム 図1
  • 特許-識別システム 図2
  • 特許-識別システム 図3
  • 特許-識別システム 図4
  • 特許-識別システム 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】識別システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20230511BHJP
   A61C 19/04 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A61B5/00 C
A61C19/04 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019000277
(22)【出願日】2019-01-04
(65)【公開番号】P2020108598
(43)【公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】514306629
【氏名又は名称】株式会社DSi
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩志
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141760(WO,A1)
【文献】特開2004-209244(JP,A)
【文献】特開2018-063707(JP,A)
【文献】特開2015-082319(JP,A)
【文献】特開2020-052489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00-1/32
A61B 5/00
A61C 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データを取得する撮影部と、
前記画像データの特徴量を抽出する特徴抽出部と、
患者情報と、前記特徴量と、を対応付けて記憶する特徴-患者情報記憶部と、
前記特徴量に対応する前記患者情報を、前記特徴-患者情報記憶部から検索する検索部と、を有し、
前記撮影部が前記患者の歯科模型の画像データを取得し、前記特徴抽出部が前記歯科模型の画像データの特徴量を抽出し、前記特徴-患者情報記憶部が前記患者情報と前記歯科模型の画像データの特徴量とを対応づけて記憶した後、
前記撮影部が歯科技工物の画像データを取得し、前記特徴抽出部が前記歯科技工物の画像データの特徴量を抽出し、前記検索部が前記歯科技工物の画像データの特徴量に対応する前記患者情報を前記特徴-患者情報記憶部から検索することを特徴とする
識別システム。
【請求項2】
前記特徴-患者情報記憶部は、前記患者情報と、前記特徴量のうち経年により変化しない特徴を前記患者ごとに学習した学習モデルと、を対応付けて記憶し、
前記検索部は、前記特徴抽出部が抽出した前記特徴量を前記学習モデルに入力することにより、前記患者情報を、前記特徴-患者情報記憶部から検索する
請求項1記載の識別システム。
【請求項3】
前記撮影部は、カメラを備えた携帯端末装置に設けられ、前記カメラにより前記画像データが取得される
請求項1記載の識別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別システムに関し、特に歯又は歯の模型等の2次元画像に基づいて個人識別を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の歯型に基づいて歯科技工物(以下、単に技工物という)を作成することが広く行われている。典型的には、歯科医院において患者の歯型が採取され、歯型に基づいて歯の石膏模型が作成される。石膏模型は、患者を識別できる情報とともに歯科技工所(以下、単に技工所という)に送られる。技工所は石膏模型上にワックスで技工物を構築し、このワックス製技工物の型をとって鋳型を作成する。この鋳型に金属等の材料を流し込むことで、技工物を得る。
【0003】
この過程で、技工所が歯科医院から受け取った石膏模型は損なわれることが少なくない。そのため、作成された技工物がどの患者のものであったのか、特に複数の患者の技工物を同時並行で作成している場合には、わからなくなってしまうことがある。このような場合、従来は勘と経験とにより、患者と技工物との対応関係を特定していた。これは非常に手間のかかる作業であり、誤りが生じる危険性もあった。技工物自体に患者個人を特定する識別情報を何らかの方法で記録できればよいが、技工物は患者の体内に装着されるものであって安全性等に関する要求も高いため、現実的な方法ではない。
【0004】
同様に、歯科医院においても、完成した技工物と患者との対応関係がわからなくなるという問題が生じうる。これは診療時間のロスを生じさせる。そのため、技工物自体に情報を記録することなく、技工物と患者自身とを紐付ける手法の開発が待望されている。
【0005】
また、技工物の特徴は、歯型、石膏模型、及び患者の歯の特徴とも共通するものと考えられる。よって、上述の手法は、歯型や石膏模型と患者との対応付けや、歯の特徴を用いた身元不明者の同定などにも有用となる。
【0006】
関連する技術として、特許文献1及び特許文献2がある。特許文献1には、身元不明者をX線撮影して得た歯の画像と、生前の前記身元不明者をX線撮影して得た歯の画像と、を比較して本人同定を行うシステムが記載されている。特許文献2には、歯型スキャンデータ(3次元ポリゴンデータ)の特徴量データベースを作成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5125324号
【文献】国際公開第2016/143022号
【文献】特許第6216024号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されているX線画像や歯型スキャンデータ等は、歯科医院において専用の設備を使用しなければ取得することが困難なものである。また、データの取得にコストや時間がかかること、X線撮影による被爆リスクがあることも問題である。
【0009】
また、X線画像や歯型スキャンデータ等が、石膏模型とは別に技工所に提供されることは稀である。したがって、これらの従来技術を、技工所における問題の解決に適用することは適切ではない。
【0010】
したがって、歯科医院及び技工所等において誰でも取得が容易な情報を使用して、簡便に患者情報との対応づけを行うことができるシステムの提供が望まれる。本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、歯又は歯の模型等の2次元画像に基づいて容易に個人識別を行うことができる識別システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る識別システムは、歯、歯型、歯科模型、歯科技工物又は歯に基づいて生成される派生物の画像データを取得する撮影部と、前記画像データの特徴量を抽出する特徴抽出部と、患者情報と、前記患者にかかる前記特徴量と、を対応付けて記憶する特徴-患者情報記憶部と、前記特徴抽出部が抽出した前記特徴量に対応する前記患者情報を、前記特徴-患者情報記憶部から検索する検索部と、を有する。
本発明の一実施の形態に係る識別システムは、前記特徴-患者情報記憶部は、前記患者情報と、前記特徴量のうち経年により変化しない特徴を前記患者ごとに学習した学習モデルと、を対応付けて記憶し、前記検索部は、前記特徴抽出部が抽出した前記特徴量を前記学習モデルに入力することにより、前記患者情報を、前記特徴-患者情報記憶部から検索する。
本発明の一実施の形態に係る識別システムは、前記撮影部は、カメラを備えた携帯端末装置に設けられ、前記カメラにより前記画像データが取得される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、歯又は歯の模型等の2次元画像に基づいて容易に個人識別を行うことができる識別システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】識別システム100の機能構成を示すブロック図である。
図2】識別システム100のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】特徴-患者情報記憶部103の一例を示す図である。
図4】識別システム100の動作例を示す図である。
図5】識別システム100の動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。まず、図1及び図2のブロック図を用いて、本発明の実施の形態にかかる識別システム100の構成について説明する。
【0015】
図1は、識別システム100の機能構成を示す図である。識別システム100は、撮影部101、特徴抽出部102、特徴-患者情報記憶部103、検索部104、出力部105、登録部106有する。
【0016】
図2は、識別システム100のハードウェア構成の一例を示す図である。識別システム100は、CPU11、ROM12、RAM13、不揮発性メモリ14、バス10、入出力装置60を有する。
【0017】
CPU11は、識別システム100を全体的に制御するプロセッサである。CPU11は、ROM12に格納されたシステム・プログラムをバス10を介して読み出し、システム・プログラムに従って識別システム100全体を制御する。
【0018】
ROM12は、各種処理を実行するためのシステム・プログラムを予め格納している。RAM13は、一時的な計算データや表示データ、入出力装置60を介してユーザが入力したデータやプログラム等を一時的に格納する。
【0019】
不揮発性メモリ14は、例えば図示しないバッテリでバックアップされており、識別システム100の電源が遮断されても記憶状態を保持する。不揮発性メモリ14は、入出力装置60から入力されるデータやプログラム等を格納する。不揮発性メモリ14に記憶されたプログラムやデータは、実行時及び利用時にはRAM13に展開されても良い。
【0020】
入出力装置60は、ディスプレイやキー入力インタフェース等を備えたデータ入出力装置である。入出力装置60は、インタフェース18を介してCPU11から受けた情報をディスプレイに表示する。入出力装置60は、キー入力インタフェース等から入力された指令やデータ等をインタフェース18を介してCPU11に渡す。
【0021】
図1に示した各処理部は、これらのハードウェアがソフトウェアを実行することにより論理的に実現されるものである。なお、識別システム100は、単一の情報処理装置により構成されても良く、複数の情報処理装置が連携することにより構成されても良い。例えば、撮影部101、特徴抽出部102をカメラを備えたスマートフォンなどの携帯端末装置に実装し、特徴-患者情報記憶部103、検索部104、出力部105をスマートフォンからアクセス可能なサーバコンピュータに別に実装することとしても良い。サーバコンピュータは、例えばクラウドコンピューティング、フォグコンピューティング、エッジコンピューティング等の公知の技術により提供されるものであって良い。
【0022】
撮影部101は、患者の歯の模型を撮影して画像データを得る。あるいは、歯型、技工物又は患者の歯そのものを撮影して画像データを得ても良い。画像データは、静止画、動画のいずれであっても良い。また、画像データには色情報、深度情報等が含まれていても良い。
【0023】
特徴抽出部102は、撮影部101が得た画像データの特徴量を抽出する。好ましくは、画像に含まれる歯の模型、歯型、技工物又は患者の歯にかかる特徴量のみを選択的に抽出する。加えて、歯茎に関する特徴量を抽出しても良い。歯や歯茎の形状や色などに関する特徴量は、例えば歯の摩耗状態、歯肉の状態(歯槽膿漏など)といった個人ごとに異なる指紋のような情報を反映するため、高精度な個人識別に利用することが可能である。特に、臼歯の小窩裂溝における各溝の位置関係は、歯がすり減ったとしても変化が少ないため、個人同定に好適である。なお、2次元画像からの特徴量の抽出処理については公知であるため、本稿では詳細な説明を省略する。
【0024】
特徴-患者情報記憶部103は、特徴抽出部102が抽出した特徴量と、患者情報とを対応付けて記憶するデータベースである(図3参照)。患者情報は、少なくとも患者を一意に識別可能な識別情報、当該患者のプロフィール、治療記録、技工物の発注情報(指示書)及び納品情報(納品書)等を含みうる。あるいは、識別システム100は図示しないカルテシステム、指示書発行システム等の外部システムと通信可能に接続され、識別情報を介して、カルテシステムが管理する治療記録、指示書発行システムが管理する指示書及び納品書等の情報と関連付けられても良い。
【0025】
検索部104は、所与の検索条件を用いて特徴-患者情報記憶部103を検索する。例えば、検索部104は、ある技工物の画像データから特徴抽出部102が抽出した特徴量を検索キーとして、特徴-患者情報記憶部103を検索し、類似度が所定の類似度を超える特徴量に紐付けられた患者を抽出する。すなわち、検索キーとして入力された特徴量と、特徴-患者情報記憶部103に登録済みの特徴量との類似度を計算し、両者の類似度が予め定められたしきい値を超えた場合に、登録済みの特徴量に紐付けられた患者の識別情報等を出力する。なお、特徴量の類似度の計算処理については公知であるため、本稿では詳細な説明を省略する。これにより、当該技工物に対応する患者の識別情報やプロフィール等を取得することができる。識別システム100が外部システムと連携している場合には、取得した患者の識別情報等を利用して外部システムが管理する情報を検索、取得しても良い。例えば、識別情報を検索キーとして、カルテシステムが管理する治療記録、指示書発行システムが管理する指示書及び納品書等を取得できる。
【0026】
出力部105は、検索部104が取得した情報を出力する。例えば、特徴-患者情報記憶部103又は外部システムから取得された患者の識別情報、プロフィール、治療記録、指示書及び納品書等を、携帯端末装置等のディスプレイに表示する。又は、印刷や音声等により結果を出力しても良い。
【0027】
登録部106は、特徴抽出部102が抽出した特徴量と、患者情報とを対応付けて特徴-患者情報記憶部103に記憶させる処理を行う。患者情報は、図示しない手段により登録部106に与えられる。典型的には、キーボード等の入力手段により患者情報が入力される。また、例えば、患者の識別情報が記載された指示書(印刷物や表示画面)等が画像データに同時に写し込まれている場合、特徴抽出部102は、当該識別情報を認識して登録部106に与えることができる。識別情報は文字であっても良いし、それをエンコードした情報(バーコードや2次元コード等)であっても良い。識別情報を認識する技術は公知であるため、本稿では詳細な説明を省略する。また、登録部106は、与えられた識別情報等を利用して外部システムが管理する情報を検索、取得し、特徴-患者情報記憶部103に記憶させても良い。例えば、識別情報を検索キーとして、カルテシステムが管理する治療記録、指示書発行システムが管理する指示書及び納品書等を取得できる。
【0028】
<実施例1>
実施例1として、歯科医院の依頼に応じて技工所が技工物を作成する業務に識別システム100を適用した例について説明する。この例では、歯科医院向け及び技工所向けの携帯端末装置用のアプリケーションに、撮影部101、特徴抽出部102及び出力部105がそれぞれ実装されているものとする。また、サーバコンピュータに特徴-患者情報記憶部103、検索部104及び登録部106が実装されているものとする。
【0029】
(1)歯科医院は、患者の歯の模型を作成する。また、図示しない指示書発行システムを利用して技工所向けの指示書を作成する。指示書には患者の識別情報が記載される。歯科医院は、携帯端末装置用アプリケーションの撮影部101により模型及び印刷された指示書を写し込んだ画像データを撮影する。
【0030】
(2)特徴抽出部102は、(1)で取得された画像データから歯の模型の特徴量を抽出する。また、指示書に記載された患者の識別情報を認識する。特徴抽出部102は、特徴量および識別情報を組として、サーバコンピュータの登録部106に送信する。
【0031】
(3)登録部106は、受信した特徴量および識別情報を対応付けて特徴-患者情報記憶部103に登録する。
【0032】
(4)歯科医院は、歯の模型と印刷された指示書とを技工所に送付する。技工所は、受領した歯の模型を、携帯端末用アプリケーションの撮影部101により撮影する。
【0033】
(5)特徴抽出部102は、(4)で取得された画像データから歯の模型の特徴量を抽出し、サーバコンピュータの検索部104に送信する。
【0034】
(6)検索部104は、特徴-患者情報記憶部103を検索し、受信した特徴量に対応する識別情報を取得する(図4参照)。また、検索部104は図示しない指示書発行システムを検索し、識別情報に対応する指示書を取得する。
【0035】
(7)出力部105は、取得された指示書を携帯端末用アプリケーション上に表示する。技工所は、(4)で受領した印刷された指示書の記載内容と、携帯端末用アプリケーション上に表示された指示書の記載内容とを比較して、両者が一致していることを確認する。また、出力部105は、撮影部101により撮影された画像を、指示書と同一画面上に表示したり、指示書に関連付けて保存したりすることができる。これにより、模型や指示書を受領したことのエビデンスを残すことができる。
【0036】
(8)技工所は、技工物を作成する。作成途中において、例えば歯の模型と印刷された指示書との対応関係がわからなくなったり、歯の模型が破損するなどして失われると、ワックス製技工物や、最終製品である技工物がどの患者のものであるかがわからなくなることがある。この場合、技工所は、技工物を、携帯端末用アプリケーションの撮影部101により撮影する。
【0037】
(9)特徴抽出部102は、(8)で取得された画像データから技工物の特徴量を抽出し、サーバコンピュータの検索部104に送信する。
【0038】
(10)検索部104は、特徴-患者情報記憶部103を検索し、受信した特徴量に対応する識別情報を取得する。また、検索部104は図示しない指示書発行システムを検索し、識別情報に対応する指示書を取得する。
【0039】
(11)出力部105は、取得された指示書を携帯端末用アプリケーション上に表示する。
技工所は、この指示書を確認することにより、技工物に対応する患者を特定することができる。
【0040】
<実施例2>
実施例2として、身元不明者の同定業務に識別システム100を適用した例について説明する。この例では、司法職員などのユーザの携帯端末用のアプリケーションに、撮影部101、特徴抽出部102及び出力部105がそれぞれ実装されているものとする。また、サーバコンピュータに特徴-患者情報記憶部103、検索部104及び登録部106が実装されているものとする。また、実施例1に示したような業務によって、特徴-患者情報記憶部103には多数の患者の識別情報と特徴量との対応データベースが既に構築されているものとする。
【0041】
(1)ユーザは、身元不明者の歯を、携帯端末用アプリケーションの撮影部101により撮影する。
【0042】
(2)特徴抽出部102は、(1)で取得された画像データから歯の特徴量を抽出し、サーバコンピュータの検索部104に送信する。
【0043】
(3)検索部104は、特徴-患者情報記憶部103を検索し、受信した特徴量に対応する識別情報を取得する。また、検索部104は図示しない指示書発行システムやカルテシステム等を検索し、識別情報に対応する指示書やカルテ等を取得する。
【0044】
(4)出力部105は、取得された指示書やカルテ等を携帯端末用アプリケーション上に表示する。ユーザは、この指示書やカルテ等を確認することにより、技工物に対応する患者、すなわち身元不明者を特定することができる。
【0045】
<実施例3>
実施例3として、歯科医院における診療業務の品質向上のために識別システム100を適用した例について説明する。この例では、歯科医師などのユーザの携帯端末用のアプリケーションに、撮影部101、特徴抽出部102及び出力部105がそれぞれ実装されているものとする。また、サーバコンピュータに特徴-患者情報記憶部103、検索部104及び登録部106が実装されているものとする。また、識別システム100は、図示しないカルテシステムと、患者の識別情報を介して連携しているものとする。カルテシステムは、複数の歯科医院のカルテを管理でき、患者が過去に複数の歯科医院に通っている場合、それぞれの歯科医院において作成されたカルテが保管されているものとする。
【0046】
(1)歯科医師は、患者の歯、歯の模型又は歯型等を、携帯端末用アプリケーションの撮影部101により撮影する。
【0047】
(2)特徴抽出部102は、(1)で取得された画像データから歯、歯の模型又は歯型等の特徴量を抽出し、サーバコンピュータの検索部104に送信する。
【0048】
(3)検索部104は、特徴-患者情報記憶部103を検索し、受信した特徴量に対応する識別情報を取得する。また、検索部104はカルテシステムを検索し、識別情報に対応するカルテを取得する。患者が過去に複数の歯科医院に通っている場合、それぞれの歯科医院において作成されたカルテが取得される。
【0049】
(4)出力部105は、取得されたカルテを携帯端末用アプリケーション上に表示する。歯科医師は、これらのカルテに記載された患者の過去の治療記録を参照することにより、治療経過を踏まえた最適な治療方針を策定することができる。特に、本実施例では当該歯科医院以外の歯科医院で作成されたカルテ情報も参照できるため、歯科医院は、長期の治療経過を参酌した高品質な治療を提供することが可能となる。
【0050】
<実施例4>
実施例4として、検索部104が特徴量を検索キーとして特徴-患者情報記憶部103を検索する処理の精度を向上させるための一手法について説明する。この検索処理においては、検索部104は、検索キーとして与えられる特徴量と、特徴-患者情報記憶部103に記憶されている特徴量とが一致する(すなわち、類似度が所定のしきい値を超える)か否かを判定する必要がある。しかしながら、人の歯や歯茎の状態は経年やコンディションにより変化するため、特徴量もそれに応じ変化し得る。本実施例では、この変化の傾向を機械学習させた学習済みモデルを利用することにより、より高精度な検索処理を可能とする。この機械学習処理を実施するため、識別システム100は機械学習部107を有する。
【0051】
(1)学習段階
機械学習部107は、複数の時期に撮影された、同一患者の歯、歯の模型、歯型又は技工物等の画像から抽出した特徴量を学習用データとして使用し、特徴量に基づいて同一人物性を推定する学習モデルを構築する。学習に際しては、例えば、差分検知法と機械学習とを融合させた、特許文献3に開示されているような手法を採用できる。
【0052】
例えば、同一患者から10代、30代、50代など様々な時期に取得された特徴量に対しては「正常」の教師信号を付与し、ランダムに選ばれた他の患者から取得された特徴量に対しては「異常」の教師信号を付与したうえで、「正常」な特徴量同士の距離値が所定のしきい値以下となるように距離マップを修正していく。これにより、入力された特徴量が同一患者のものであるか否かを、経年変化等の影響を受けずに判定できる学習モデルを生成することができる。すなわち、画像データから経年により変化しない特徴を抽出し、当該特徴に基づいて本人性を判定する学習モデルを生成できる。
【0053】
機械学習部107は、このような学習モデルを患者ごとに生成することができる。ここで、学習用データとしては、過去に電子カルテシステムや指示書発行システム等に蓄積された患者の歯、歯の模型、歯型又は技工物等の画像から抽出した特徴量を使用することとしても良い。
【0054】
(2)判定段階
検索部104は、特徴-患者情報記憶部103を検索する際、従来の公知の類似度判定処理に代えて、機械学習部107が患者ごとに生成した学習モデルに、検索キーとしての特徴量を逐次入力する(図5参照)。ここで、判定結果として「正常」を出力する学習モデルがあれば、検索部104は、当該学習モデルが紐付けられている患者を、検索結果として出力する。
この場合、特徴-患者情報記憶部103は、特徴量と患者情報との対応関係ではなく、患者にかかる学習モデルと患者情報とを対応付けて保持することにできる。
【0055】
本実施の形態によれば、歯、歯型、模型、技工物等の画像という比較的取得が容易なデータの特徴量を個人識別データとして用いることができる。これにより、歯、歯型、模型、技工物等に対応する患者を、簡便な操作により特定することが可能となる。特に、模型は歯科医院と歯科技工所との間を流通し、技工物作成の基礎となるため、模型の外観自体を個人識別データとして使用できることは便利である。
【0056】
また、本実施の形態によれば、従来個人識別に用いられてきた歯のレントゲン画像のような一般には取得困難な情報ではなく、歯、歯型、模型、技工物等の2次元画像という容易に取得可能なデータから患者個人を識別できる。これにより、従来より格段に広汎な場面において容易に患者情報にアクセスすることが可能となる。
【0057】
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の趣旨を損なわない限りにおいて任意に変更されて良い。例えば、特徴量は歯、歯型、模型、技工物等から取得されるものに限定されず、これらの複製物又は画像を含む、歯の派生物から取得されるものであっても良い。
【0058】
また、上述の実施の形態では、画像データとして2次元画像を利用する例を主に示したが、本発明はこれに限定されるものでなく、例えば3次元画像を利用しても良い。
【0059】
また、上述の実施の形態では、機械学習部107は、画像データから経年により変化しない特徴を抽出し、当該特徴に基づいて本人性を判定する学習モデルを生成した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものでなく、例えば機械学習部107は、多数の患者の様々な年代の画像データを学習用データとして使用し、ある患者の経年変化後の特徴を推定する学習モデルを生成しても良い。この場合、検索部104は、検索キーとして入力される患者の現在の歯の特徴量と、患者の過去の歯に基づいて上記学習モデルにより推定される経年変化後の特徴量と、を比較して本人性を判定することができる。あるいは、機械学習部107は、多数の患者の様々な年代の画像データを学習用データとして使用し、ある患者の経年変化前の特徴を推定する学習モデルを生成しても良い。この場合、検索部104は、検索キーとして入力される患者の現在の歯の特徴量に基づいて上記学習モデルにより推定される経年変化前の特徴量と、データベースに蓄積されている患者の過去の葉の特徴量と、を比較して本人性を判定することができる。
【符号の説明】
【0060】
100 識別システム
101 撮影部
102 特徴抽出部
103 特徴-患者情報記憶部
104 検索部
105 出力部
106 登録部
107 機械学習部
図1
図2
図3
図4
図5