(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】海藻育成方法および海藻育成装置
(51)【国際特許分類】
A01G 33/02 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
A01G33/02 101Z
A01G33/02
(21)【出願番号】P 2019191432
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512052937
【氏名又は名称】うみの株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】高野 元志
(72)【発明者】
【氏名】弘中 諭
(72)【発明者】
【氏名】山本 智郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 聡志
(72)【発明者】
【氏名】中村 智治
(72)【発明者】
【氏名】堀田 智恵
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-254931(JP,A)
【文献】国際公開第2005/102031(WO,A1)
【文献】特開昭54-035094(JP,A)
【文献】特開2005-328810(JP,A)
【文献】特開2006-320292(JP,A)
【文献】特開2009-112249(JP,A)
【文献】特開平10-084800(JP,A)
【文献】特開2008-022740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00 - 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延伸する容器内に設けられた基質に海藻を採苗させる採苗工程と、
前記基質に着生した海藻を成長させる成長工程と、を含み、
前記成長工程では、
曝気によって、前記容器内の水に酸素および二酸化炭素を供給するとともに、
酸素および二酸化炭素が供給された前記水を前記容器内で
鉛直方向に流動させることにより、前記容器内において前記海藻の葉体を
鉛直方向になびかせた状態を維持しつつ、前記葉体に対して
鉛直方向と略垂直な方向から光を照射することを特徴とする、海藻育成方法。
【請求項2】
前記海藻は、アマノリ属であることを特徴とする、請求項1に記載の海藻育成方法。
【請求項3】
鉛直方向に延伸する容器内の水を曝気することにより、前記水に酸素および二酸化炭素を供給する、気体吐出部と、
前記容器内に設けられる、海藻が採苗される基質と、
前記気体吐出部によって酸素および二酸化炭素が供給された前記水を
鉛直方向に流動させることにより、前記海藻の葉体を
鉛直方向になびかせる流動部と、
前記流動部によって
鉛直方向になびかせられた状態の前記葉体に対して、
鉛直方向と略垂直な方向から光を照射する光照射部と、を備えることを特徴とする海藻育成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻育成方法および海藻育成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻類は、藻類の中でも目視により確認可能な大きさに成長する生物である。海藻類は、日本国内の海域において、コンブ、ワカメ、ヒジキ、テングサ、アマノリ、またはモズクなど様々な種類が大量に収穫されている。しかし、近年の温暖化による海水温の上昇または沿岸部近傍における栄養塩の偏在などによる、海藻類の育成環境の悪化により、海藻類の収穫量が低下している。
【0003】
沿岸部における海藻類の育成環境を改善するためには、海藻類の育成試験を通じ、海藻の育成に及ぼす水環境の影響を基礎的に調査することが重要である。また、海藻類を安定的に収穫するためには、人工的に制御された水槽内で海藻類を養殖する事業も重要となっている。
【0004】
そのため、水産資源として重要な海藻類を対象に、育成試験および調査を行ない、問題解決のための基礎データを構築するとともに、海藻類の水槽養殖事業への展開の可能性を模索していくことが重要であり、海藻類を陸上で安定的且つ効率よく育成する方法が求められている。
【0005】
人工的に制御された水槽内などで海藻類を養殖する方法として、例えば、特許文献1では、海藻の胞子同士を互いに付着させた集塊を水槽内に浮遊させることにより、網または糸などの基質に海藻を付着させることなく海藻を育成させる方法が開示されている。また、特許文献2では、水槽に浮遊した海藻の育成方法として、エアレーション(曝気)により水槽内の水を循環させ、海藻の成長効率を高めて育成させる方法が開示されている。さらに、特許文献3では、浮遊した海藻を低コストで循環させる方法として、壁面が湾曲した水槽を用い、湾曲部に沿うように養殖用海水を旋回させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-176866号公報
【文献】特開2002-320426号公報
【文献】特開2012-213351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来文献1から3に開示された海藻の育成方法のように、海藻を浮遊させて育成する方法では、高度な技術が必要であり、作業工程も多く、人手を要するという問題がある。
【0008】
また、育成する海藻の種類によっては、珪藻類が海藻に付着することによって、海藻の成長速度が低下する場合がある。そのような場合には、海藻の乾燥あるいは水槽に薬液を添加することにより珪藻類を除去するため、海藻を一旦回収する必要がある。しかし、浮遊する海藻では、水槽内の液体(海水など)と海藻とを分離するために多大な時間を要するという問題がある。
【0009】
本発明の一態様は、海藻の成長速度を速め、かつ、高い作業効率で海藻を育成することができる海藻育成方法および海藻育成装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る海藻育成方法は、容器内に設けられた基質に海藻を採苗させる採苗工程と、前記基質に着生した海藻を成長させる成長工程と、を含み、前記成長工程では、曝気によって、前記容器内の水に酸素および二酸化炭素を供給するとともに、酸素および二酸化炭素が供給された前記水を前記容器内で一方向に流動させることにより、前記容器内において前記海藻の葉体を前記一方向になびかせた状態を維持しつつ、前記葉体に対して前記一方向と略垂直な方向から光を照射する。
【0011】
上記構成によれば、海藻がなびいた方向に対して略垂直な方向から光を照射するため、海藻に吸収される光の量が増加する。よって、海藻において活発に光合成が行われるため、海藻の成長速度を速めることができる。
【0012】
また、基質に着生した海藻を成長させるため、排水時に水の流動により海藻が容器から流出することを抑制できる。さらに、水に酸素および二酸化炭素を供給するため、海藻の呼吸による酸素不足、および光合成による二酸化炭素不足を抑制できる。よって、高い作業効率で海藻を育成することができる。
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る海藻育成装置は、容器内の水を曝気することにより、前記水に酸素および二酸化炭素を供給する、気体吐出部と、前記容器内に設けられる、海藻が採苗される基質と、前記気体吐出部によって前記酸素および二酸化炭素が供給された前記水を一方向に流動させることにより、前記海藻の葉体を前記一方向になびかせる流動部と、前記流動部によって前記一方向になびかせられた状態の前記葉体に対して、前記一方向と略垂直な方向から光を照射する光照射部と、を備える。上記構成によれば、本発明の一態様に係る海藻育成方法が奏する効果と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、海藻の成長速度を速め、かつ、高い作業効率で海藻を育成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態1に係る海藻育成装置の模式図である。
【
図2】上記海藻育成装置を用いた海藻育成方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態2に係る海藻育成装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態1]
以下、本発明の一実施形態に係る海藻育成装置および海藻育成方法について、
図1および
図2を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態における海藻育成装置1の模式図である。
図2は、本実施形態における海藻育成方法の一例を示すフローチャートである。
【0017】
<海藻育成装置>
海藻育成装置1は、
図1に示すように、気送管10(気体吐出部、流動部)と、基質20と、容器30と、光照射部60とを備える。
【0018】
(容器)
容器30は、海藻40を育成させるために用いる。容器30には、水(海水)が入れられる。容器30の形状および大きさは特に限定されず、費用、設置場所および育成する海藻40の大きさなどに応じてどのようなものを用いてもよい。例えば
図1では、鉛直方向に延伸した容器30を一例として示している。なお、後述するように、海藻育成装置1では、海藻40の葉体を容器30の鉛直方向に延伸させて育成するため、容器30を小型化できる。
【0019】
(水)
水は、海水または人工的に海水に含まれる成分を模した液体(以降、「人工海水」と称する)であってよく、海藻40を育成できる水であれば特に限定されない。水に含まれる成分は、特に限定されず育成する海藻40の種類に応じて変更してよい。具体的には、水は、海藻40の種類に応じて水温、栄養塩を含む成分、溶存酸素、電気伝導率(EC)、水素イオン指数(pH)および酸化還元電位(ORP)を適宜調整してよい。
【0020】
海藻40を効率よく成長させるには、容器30内の水を、育成する海藻40が本来生息する海域と同様の水質に調整することが好ましい。また、海藻40が特に吸収する栄養塩(PおよびN)の濃度を適切な濃度に保つため、液肥、または実海域から採取した海水を濾過した水を用いてもよい。
【0021】
(基質)
基質20は、海藻40を採苗することにより着生させ、育成させるために用いる。基質20は、糸、ロープ、網またはブロックなどであってよく、網またはロープであることがより好ましい。基質20として網またはロープを用いることにより、基質20の回収および入手が容易となる。さらに、基質20として網またはロープを用いることにより、基質20を軽量化することができる。
【0022】
基質20に用いる材質は、プラスチック、金属、セラミックス、または天然繊維など、どのような素材を使用してもよいが、軽量化の観点からプラスチックまたは天然繊維であることが好ましい。以上のことから、基質20は、プラスチックまたは天然繊維で形成される網またはロープであることが最も好ましい。
【0023】
海藻育成装置1において育成する海藻40は、コンブ、ワカメ、ヒジキ、テングサ、アマノリ、モズクなど様々な海藻類であってよく、アマノリ属の海藻であることが好ましい。アマノリ属の海藻は、アマノリ、スサビノリ、アサクサノリ、ウップルイノリおよびマルバアサクサノリなどを含み、海苔として広く養殖されており、水槽養殖事業へ展開できる。
【0024】
(気送管)
気送管10は、容器30内の水に空気を供給する管である。気送管10の下端部は、容器30の下方であって基質20の近傍に位置しており、下端部から容器30内の水に空気を供給する。気送管10から供給された空気により、容器30内の水に酸素および二酸化炭素が供給される。すなわち、気送管10は、気体吐出部として機能する。酸素および二酸化炭素を水に供給することにより、海藻40が呼吸または光合成することで水中に含まれる酸素または二酸化炭素が減少した場合であっても、海藻40の育成を促進させることができる。
【0025】
気送管10から供給された空気は、容器30の下方から上方へ向けて移動する。これに伴い、容器30内の水のうち気送管10の近傍の領域の水(換言すれば、基質20に着生された海藻40がある領域の水)を下から上へ向かう方向に流動する。その結果、海藻40の葉体は、下から上へ向かう方向になびく。すなわち、気送管10は、水を下から上へ向かう方向(一方向)に流動させ、海藻40の葉体を下から上へ向かう方向になびかせる流動部としての機能を有する。
【0026】
なお、水の流動は、上述のように容器30の内部にて水を循環させてよく、容器30の外部にポンプなどを設置し、容器30とポンプとの間を含めて水を循環させてもよい。さらに、水を容器30に連続的に供給し、容器30から余剰の水を排水し、水を循環させずに水を流動させてよい。
【0027】
(光照射部)
光照射部60は、海藻40の葉体に対して光を照射する。光照射部60は、海藻40に光を照射できれば光源は特に限定されるものではなく、蛍光灯、LED、または太陽からの自然光の何れを選択してもよい。例えば、屋外にて海藻育成装置1を用いる場合では、光照射部60に要する費用および海藻の成長効率の観点から、光照射部60の光源として太陽からの自然光を用いることが好ましい。
【0028】
また、光照射部60から放射される光は、一方向になびいた状態の海藻40の葉体を、前記の一方向と略垂直な方向から照射する。ここで、「略垂直な方向」とは、海藻40の葉体がなびいた一方向に対して垂直な方向の他、前記の垂直な方向を0°として誤差の範囲内で角度がついた方向のことを指す。前記の誤差が生まれる要因としては、水の流れの変化により、海藻40の葉体がなびく方向が変化する場合、および、光照射部60の放射方向の設定に誤差がある場合などが想定される。
【0029】
室内で海藻を育成させ、海藻の育成におよぼす育成環境の調査などを実施する場合では、再現性の観点から、光照射部60の光源として高輝度蛍光灯を用いることが望ましい。なお、室内で海藻を育成させる場合、当該海藻に光を照射する条件は、育成する海藻の種類、海藻の成長段階、および育成後に評価する品質など、に応じて適宜変更してもよい。
【0030】
光を照射する条件として、例えば、アマノリの葉体が1cm以上の葉長に成長したアマノリの葉体を更に大きく育成する場合では、葉体において100μmol/m2/s以上の光合成光量子束密度で光を照射し、1日(24時間)において、14時間海藻に光を照射しない期間(暗期)を設けてよい。それにより、アマノリの葉体が十分に光合成でき、アマノリの葉体の成長を速くできる。また、葉体が1cm以上に成長したアマノリを用いて光を照射する条件以外の影響因子の調査を行う場合では、上述の光を照射する条件(アマノリの葉体において100μmol/m2/s以上の光合成光量子束密度で光を照射し、1日において14時間暗期を設ける条件)にてアマノリの葉体に光を照射する。これにより、アマノリの成長を早めることができるので効率よく、光を照射する条件以外の影響因子の調査を行うことができる。
【0031】
以上のように、本実施形態における海藻育成装置1は、気体吐出部および流動部としての機能を有する気送管10と、海藻40が採苗される基質20と、海藻40の葉体に対して海藻40の葉体がなびく方向に略垂直な方向から光を照射する光照射部60とを備える。
【0032】
上記の構成によれば、海藻40の葉体に対して海藻40の葉体がなびく方向に略垂直な方向から光を照射することができるので、海藻の成長速度を速めることができる。
【0033】
また、海藻育成装置1では、海藻40を基質20に採苗することにより着生させているため、容器30内の水を排水する際に、海藻40の容器30からの流出を抑制することができる。また、育成する海藻40への珪藻類の付着が問題となる場合においても、海藻40を基質20に着生させることにより、海藻40を流出させることなく、容易に容器30内の水を抜き取ることができる。それにより、水が抜き取られた容器30内で、海藻40を自然乾燥処理することができるので、珪藻類の低減処理が可能となり、珪藻類の付着の問題を容易に解消できる。すなわち、作業効率よく海藻40を育成することができる。
【0034】
なお、
図1に示すように、海藻育成装置1では、容器30内に、海藻40の設置位置の近傍において、水を一方向に流動させるために仕切板50を備えてもよい。仕切板50を備えることにより、容器30内にて水を循環させることができる。なお、仕切板50の形状および素材は限定されないが、水を一方向に流動させるために、開口部51が形成されていることが好ましい。
【0035】
なお、海藻育成装置1では、海藻40の葉体を容器30の鉛直方向に延伸させて育成する。すなわち、海藻40が育成するにしたがい、海藻40の育成に要する、水平方向の面積が変化しない。これにより、海藻育成装置1を小型化することができ、海藻40を育成する水平方向の面積当たりに回収できる海藻40の量を増加させることができる。
【0036】
また、海藻40から離脱した葉体および気送管10から発生する気泡は、上昇した後、水面で停滞する。そのため、海藻40の葉体を容器30の鉛直方向に延伸させて育成することにより、海藻40から離脱した葉体および気送管10から発生する気泡による、光照射部60から海藻40への光の照射を遮蔽する量が少なくでき、海藻に照射される光の量を高く維持できる。すなわち、作業効率よく海藻を育成することができる。
【0037】
また、海藻育成装置1では、気送管10による曝気によって水を流動させることにより、水を流動させるとともに、酸素および二酸化炭素などを水に供給でき、海藻の育成を促進することができる。すなわち、海藻育成装置1では、気体吐出部と流動部とを気送管10によって実現することができる。これにより、海藻育成装置1の構成を簡素化することができ、製造コストを削減することができる。なお、曝気により容器30内部で気泡が発生する場合では、発生する気泡が海藻40への光の照射を遮蔽しないよう、海藻40の設置位置、曝気条件または曝気位置などを調整することが好ましい。
【0038】
また、本実施形態における海藻育成装置1では、気体吐出部として気送管10を備える構成であったが、本発明はこれに限られず、水中へ酸素および二酸化炭素を供給する方法はどのような方法であってもよい。水中へ酸素および二酸化炭素を供給する方法として、例えば、供給水を空気へ噴霧させた吸収塔などを設けてよく、撹拌機を用いて水と空気とを撹拌させてよい。さらに、酸素および二酸化炭素の供給源として、空気以外の気体を用いてもよく、例えば酸素および二酸化炭素を高濃度に含む排ガスまたは精製ガスを用いてもよい。
【0039】
<海藻育成方法>
次に、海藻育成装置1を用いた海藻育成方法について
図2を用いて説明する。本実施形態における海藻育成方法は、まず、網などの基質20に海藻を採苗する(採苗工程)。本発明に係る海藻育成方法における採苗工程では、基質20に海藻40を採苗できれば採苗方法は特に限定されない。
【0040】
次に、基質20に採苗した海藻が所望の大きさに成長するまで育苗する(S102、育苗工程)。育苗工程における海藻の育苗方法は、特に限定されず、実海域において干出などを行うことにより育苗してよく、人工的に干出などを行うことにより育苗してよい。育苗した海藻の大きさは、海藻の葉体がおよそ1~2cmになるまで育苗を行なうことが好ましく、育苗する期間は約1か月であってよい。育苗した海藻は、そのまま育成してよく、育苗した海藻を半乾燥させ、-20℃程度で冷凍保管した後、育成してもよい。海藻の育苗を行う時期は特に限定されないが、実海域において育苗する場合では、10月に採苗を行なってよい。そして、育苗した海藻を冷凍保管することにより、通年において育成する海藻を一度にまとめて用意できる。
【0041】
次に、所望の大きさに成長した海藻を基質20ごと冷凍保管する(S103)。そして、冷凍保管した基質20を、所望の大きさに分割する(S104)。
【0042】
次に、分割した基質20に着生した海藻を成長させる(S105、成長工程)。成長工程では、容器30内に、気送管10による曝気により、水に対して酸素および二酸化炭素を供給するとともに、水を一方向に流動させる。これにより、海藻40の葉体を一方向になびかせた状態を維持する。そして、一方向になびいた海藻40の葉体に対して一方向に略垂直な方向から光を照射する。
【0043】
以上のように、本実施形態における海藻育成方法は、容器30内に設けられた基質20に海藻40を採苗させる採苗工程と、基質20の着生した海藻40を成長させる成長工程と、を含む。そして、成長工程では、曝気によって、容器30内の水に酸素および二酸化炭素を供給するとともに、酸素および二酸化炭素が供給された水を容器30内で一方向に流動させることにより、容器30内において海藻40の葉体を一方向になびかせた状態を維持しつつ、葉体に対して一方向に略垂直な方向から光を照射する。
【0044】
これにより、海藻40の葉体に対して、葉体がなびく方向に略垂直な方向から光を照射することができるので、海藻40の成長速度を速めることができる。また、海藻40を基質20に採苗することにより着生させているため、容器30内の水を排水する際に海藻40の容器30からの流出を抑制できる。そのため、栄養塩補給または温度調整などのための水交換および/または海藻40の回収作業において、海藻40が容器30から流出することなく排水でき、作業効率よく海藻40を育成できる。
【0045】
[実施形態2]
以下、本発明の一実施形態に係る海藻育成装置2について、
図3を用いて海藻育成装置1との違いを主に説明する。
【0046】
図3は、海藻育成装置2の模式図である。
図3は、流動部として気送管10を使用せず、注水管70から水を供給し排水管71から水を排水することにより水を流動させる。そのため、海藻育成装置2では注水管70および排水管71を流動部として実現し、気送管10を気体吐出部として実現する点で海藻育成装置1と異なる。さらに、容器31の鉛直方向に対して略垂直な方向(水平方向)に仕切板52を設置し、基質21に着生した海藻41の葉体を水平方向になびかせた状態にて海藻41を育成する点でも海藻育成装置1と異なる。また、海藻育成装置2は、海藻41の葉体がなびく方向に略垂直な方向(具体的には、上方)から海藻41の葉体に対して光を照射する光照射部60を備えている。
【0047】
以上のように、本実施形態における海藻育成装置2は、気体吐出部としての機能を有する気送管10と、流動部としての機能を有する注水管70および排水管71と、海藻41が採苗される基質21と、海藻41の葉体に対して海藻41の葉体がなびく方向に略垂直な方向から光を照射する光照射部60とを備える。
【0048】
上記の構成によれば、海藻41の葉体に対して海藻41の葉体がなびく方向に略垂直な方向から光を照射することができるので、海藻の成長速度を速めることができる。また、海藻育成装置2では、光照射部60の光源として太陽からの自然光を利用することができ、海藻41の育成に要するコストを低減できる。
【0049】
また、排水管71から排出した水を注水管70から供給する(換言すれば水を循環させて用いる)ことにより、使用する水の量を低減でき、水に含まれる成分の調整に要するコストを低減できる。
【0050】
また、注水管70から容器31への注水を停止し、容器31に存在する水を排水管71から排水し続けることにより水位を低下させることによって、海藻41を空気に曝し乾燥処理を行うことができる。これにより、海藻41への珪藻類の付着を容易に抑制できる。そのため、アマノリ属の海藻など珪藻類の付着防止が必要な海藻の育成において、薬液による珪藻類の処理を省略でき、珪藻類の処理に要するコストを低減できる。
【0051】
また、海藻育成装置2では、気送管10が海藻41から離れた位置に配置されているので、気送管10から発生した気泡は、海藻41から離れた位置に発生する。その結果、光照射部60から海藻41へ照射される光が気泡によって遮断されることがなく、また、当該気泡が海藻41に衝突し、海藻41を基質21から離脱させることも抑制できる。さらに、海藻41は、気送管10から発生した気泡から十分離れているため、海藻41近傍の水の流動は、気泡の複雑な動きによる乱流の影響が少なく直線性を持つ。そのため、海藻41は水平方向になびいた状態が乱れることなく、より均一に広がることができる。その結果、海藻41の光照射部60から照射される光を吸収する面積を増加させることができるので、海藻41が光を効率的に吸収でき、海藻41を効率よく育成することができる。
【0052】
また、注水管70から供給される水は、海から汲み上げた海水へ適宜切り替えることにより、水温および水中の栄養塩濃度を調整でき、効率的に海藻41を育成できる。
【0053】
[付記事項]
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【実施例】
【0054】
本発明の一実施例に係る海藻の育成方法について以下の海藻の育成試験を通じて説明する。
【0055】
[実施例1]
〔海藻の用意〕
海藻はアマノリ属のアマノリ(Pyropia SP.)を用い、高さ約40cmの円柱状のガラス製容器を用いて海藻を育成した。アマノリは、母藻から放出された胞子を水槽内で網に付着させることにより採苗した。網に採苗したアマノリを、10月中旬に兵庫県沿岸近傍の海面(実海域)で約1か月間育苗することにより、葉体が1~2cm程度に成長させた。アマノリを育苗した網を回収して、アマノリを網ごと冷凍保管した。冷凍保管した、アマノリを育苗した網から、アマノリの葉体が均一に成長した箇所を約50mmの長さの糸状に切出すことにより、海藻を用意した。
【0056】
〔育成試験〕
(試験液の調製)
海藻の育成試験では、試験液として、国立研究開発法人国立環境研究所微生物系統保存施設推奨培地であるmSWM-3を用いた。なお、mSWM-3の作製では、Red Sea Salt(Red Sea製)を用いて作製した人工海水にて定容した。
【0057】
(育成試験)
育成試験では、円柱状のガラス容器に試験液を2L注水した。試験液を注水したガラス容器は、循環水の水温が14℃以下になるように設定したウォーターバスを用いて、ガラス容器内の試験液を約14℃に冷却した。
【0058】
約50mmの長さに切出した糸を、プラスチック製の板状の基質の端部に貼り付けた。そして、アマノリがガラス容器最下部に位置するよう当該基質を水没させた。なお、ガラス容器には、予め当該ガラス容器内部の空間を2つに仕切るように寸法を調製した仕切板を設置した。当該仕切板のガラス容器の最下部側に位置する部分には試験液が循環するための開口部を設けた。
【0059】
そして、水没させた基質の近傍であって、ガラス容器の最下部にポンプを連結したガラス製の気送管を挿入した。また、気送管と連結したポンプとは異なる、循環ポンプを連結した排水管の先端を、当該基質の略鉛直上方であって水面直下に設置した。さらに、上述した循環ポンプを連結した注水管の先端を、当該基質近傍の最下部へ設置した。換言すれば、当該基質の近傍に気送管および注水管を設置し、当該基質の略鉛直上方の水面直下に排水管を設置し、排水管から排水した試験液を注水管から供給する。それにより、試験液がアマノリの近傍において、ガラス容器の鉛直下方から鉛直上方に向けて流れる、鉛直上方に向けての水流が生じ、アマノリの葉体がガラス容器の鉛直上方向になびくことを確認できた。
【0060】
光源として高輝度蛍光灯をガラス容器の側面に設置した。設置した高輝度蛍光灯からは、ガラス容器の中心部に対し、200μmol/m2/sの光合成光量子束密度の光を1日に10時間照射した。なお、残りの14時間は、アマノリに光を照射しない、暗期とした。なお、光は、アマノリの葉体がなびいた方向に対して略垂直な方向から照射した。
【0061】
試験液は、試験開始から4日経過毎に交換し、13日目(試験液の交換を3サイクル実施後)にアマノリの最大葉長を計測することにより、育成期間中におけるアマノリの成長量(cm/day)を求めた。
【0062】
[実施例2]
実施例2では、注水管および排水管を用いたポンプ循環を行わなかった以外は、実施例1と同様に試験を行った。なお、気送管による曝気により、アマノリの葉体はガラス容器の鉛直上方に向かってなびくことが確認できた。そのため、光はアマノリの葉体がなびいた方向に対して略垂直な方向から照射した。
【0063】
[比較例1]
比較例1では、気送管を用いた曝気を行わなかった以外は、実施例1と同様に試験を行った。なお、注水管および排水管を用いたポンプ循環により、アマノリの葉体はガラス容器の鉛直上方に向かってなびくことが確認できた。そのため、光はアマノリの葉体がなびいた方向に対して略垂直な方向から照射した。
【0064】
[比較例2]
比較例2では、気送管を用いた曝気と、注水管および排水管を用いたポンプ循環とを行わなかった以外は、実施例1と同様に試験を行った。なお、アマノリの葉体は、基質から放射状に展開した状態で静止したことが確認できた。そのため、光はアマノリの葉体が静止した方向に対して略垂直な方向から照射できなかった。
【0065】
[比較例3]
比較例3では、光源をガラス容器上部に設置し、ガラス容器上部から光を照射した以外は、実施例1と同様に試験を行った。アマノリの葉体はガラス容器の鉛直上方に向かってなびくことが確認できた。そのため、光はアマノリの葉体がなびいた方向に対して略垂直な方向から照射できなかった。
【0066】
[比較例4]
比較例4では、光源をガラス容器上部に設置し、ガラス容器上部から光を照射した以外は、実施例2と同様に試験を行った。アマノリの葉体はガラス容器の鉛直上方に向かってなびくことが確認できた。そのため、光はアマノリの葉体がなびいた方向に対して略垂直な方向から照射できなかった。
【0067】
[結果]
実施例1、2および比較例1~4の方法により育成したアマノリの葉体の成長量(cm/day)について表1に示す。
【表1】
【0068】
表1に示すように、実施例1の方法により育成したアマノリの葉体の成長量は、1.20cm/dayであり、アマノリの成長量は良好であった。また、実施例2の方法により育成したアマノリの葉体の成長量は、1.21cm/dayであり、アマノリの成長量は良好であった。
【0069】
比較例1の方法により育成したアマノリの葉体の成長量は、0.80cm/dayであり、アマノリの葉体の成長は良好ではなかった。これは、曝気をしていないため、試験液に供給される酸素および二酸化炭素の量が少なく、アマノリが十分に光合成できなかったことにより、アマノリの成長量が低くなったと考えられる。
【0070】
比較例2の方法により育成したアマノリの葉体の成長量は、0.63cm/dayであり、アマノリの葉体の成長は良好ではなかった。これは、比較例1と同様に曝気していないため、試験液に供給される酸素および二酸化炭素の量が少なかったためと考えられる。さらに、光を葉体がなびく方向に対して略垂直な方向から照射されず、光が効率よく葉体に照射されなかったことにより、アマノリが十分に光合成できず、アマノリの成長量が低くなったと考えられる。
【0071】
比較例3の方法により育成したアマノリの葉体の成長量は、0.91cm/dayであり、比較例4の方法により育成したアマノリの葉体の成長量は、0.94cm/dayであった。比較例3および4いずれの方法においても、葉体がなびく方向に対して略垂直な方向から光が照射されず、アマノリが十分に光合成できず、アマノリの成長量が低くなったと考えられる。
【0072】
以上をまとめると、アマノリの葉体を良好に成長させるために、曝気により酸素および二酸化炭素を供給しながらアマノリを育成させることが好ましい。そして、葉体に対して効率よく光を吸収させるよう、アマノリの葉体のなびいた方向に対して略垂直な方向から光を照射することが好ましい。
【符号の説明】
【0073】
10 気送管(気体吐出部、流動部)
20、21 基質
30、31 容器
40、41 海藻
60 光照射部
70 注水管(流動部)
71 排水管(流動部)