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特許7276776非ヒト動物用抗原表面結合型リポソームワクチン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】非ヒト動物用抗原表面結合型リポソームワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/215 20060101AFI20230511BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20230511BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230511BHJP
   C07K 14/165 20060101ALN20230511BHJP
   C07K 14/08 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
A61K39/215 ZNA
A61K9/127 ZMD
A61K9/12
A61P31/14
A61P37/04
C07K14/165
C07K14/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019567160
(86)(22)【出願日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2019002339
(87)【国際公開番号】W WO2019146716
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-08-11
(31)【優先権主張番号】P 2018011939
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(73)【特許権者】
【識別番号】518030184
【氏名又は名称】内田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 誠
(72)【発明者】
【氏名】嶋 亮一
(72)【発明者】
【氏名】並松 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 哲也
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-126853(JP,A)
【文献】特開2014-005205(JP,A)
【文献】特開2008-231123(JP,A)
【文献】特開2013-166699(JP,A)
【文献】特開平09-012480(JP,A)
【文献】特開平08-183742(JP,A)
【文献】内田哲也,リポソームを用いた感染症ワクチンの開発,Drug Delivery System,2010年,Vol.25,No.1,pp.29-36
【文献】SEO,H.S. et al.,The Carboxyl-Terminal 120-Residue Polypeptide of Infectious Bronchitis Virus Nucleocapsid Induces Cy,Journal of Virology,1997年,Vol.71,No.10,pp.7889-7894
【文献】SHIEH,K.H. et al.,Complete Nucleotide Sequences of S1 and N Genes of Infectious Bronchitis Virus Isolated in Japan and,J.Vet.Med.Sci.,2004年,Vol.66,No.5,pp.555-558.
【文献】YOON,S.H. et al.,Genetic characterization of the Korean procine reproductive and respiratory syndrome viruses based o,Arch Virol,2008年,Vol.153,No.4,pp.627-635.
【文献】Frontiers in Microbiology,2016年,Vol.7, Article 740
【文献】Vaccine,2007年,Vol.25, pp.4914-4921
【文献】Jpn. J. Infect. Dis.,2014年,Vol.67, pp.235-244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝染性気管支炎ウイルスの全長ヌクレオカプシドタンパク質がスベリン酸架橋により表面に結合されたリポソームを含む、家禽に対し1週間以上の間隔をあけて2回以上投与するための家禽用ワクチンであって、前記全長ヌクレオカプシドタンパク質のアミノ酸配列が、配列番号2に示すアミノ酸配列と98%以上の同一性を有するアミノ酸配列であり、前記2回以上の投与が、
(i) 液滴粒子径120μm以下での噴霧投与であり、1回目の投与が0日齢~14日齢の期間内に行なわれるか、又は
(ii) 1回の卵内接種及び孵化後の1回以上の接種により行なわれ、卵内接種は、孵卵日齢で17~20日齢の期間内に行なわれ、孵化後の1回以上の接種は、液滴粒子径120μm以下での噴霧投与により行なわれる、前記ワクチン。
【請求項2】
10日以上の間隔をあけて2回以上投与するためのワクチンである、請求項1記載のワクチン。
【請求項3】
噴霧投与が100 ng/dose以上の抗原量で行なわれる、請求項1又は2記載のワクチン。
【請求項4】
前記2回以上の投与が、液滴粒子径120μm以下での噴霧投与であり、1回目の投与が0日齢~14日齢の期間内に行なわれる、請求項1~3のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項5】
1回目の投与が0日齢時に行なわれる、請求項4記載のワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原体由来の抗原分子が表面に結合されたリポソームを含む非ヒト動物用ワクチン、特にIBVに対する家禽用ワクチン及びPRRSVに対する豚用ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
鶏の伝染性気管支炎(IB)は、コロナウイルス属の伝染性気管支炎ウイルス(IBV)を原因とする疾病であり、呼吸器症状の他に産卵異常や腎炎なども引き起こす。養鶏業界で最も対策が切迫している疾病のひとつである。IB予防のために様々な生ワクチン及び不活化ワクチンが開発され使用されている。しかしながら、IBVの抗原性が多様かつ複雑であることに加え、変異が頻繁に起こることから、ワクチンを使用しても農場でのコントロールが困難である。
【0003】
豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)は、PRRSウイルスの感染によって引き起こされる疾病であり、雌豚の繁殖障害と幼豚の呼吸器病を特徴とする。1987年に米国で、次いで1990年に欧州で発生が確認された後、現在では世界的に蔓延し、流産・死産や幼豚の死亡を招いて養豚業界に甚大な経済的損失を与えている。現在、日本で流行しているPRRSウイルスはほぼ北米型であり、国内では北米型PRRSウイルス2型をもとにしたワクチンが市販されている。北米型PRRSウイルスにもORF5の多様性により多数の遺伝子型(少なくとも5つのグループ)が存在し、ワクチン株と異なる遺伝子型のウイルスの場合、ワクチン効果は減弱すると報告されているため、遺伝子型の違いによらず有効なワクチンが依然として求められている。
【0004】
ヒトや動物の各種感染症の予防のためのワクチンとして、リポソームを抗原分子の担体としたリポソームワクチンが知られている。従来より行われていたリポソームワクチンの臨床研究では、いずれも抗原がリポソームに内包される構造であった。その後、抗原をリポソームの表面に結合する技術が開発され、さらなる免疫原性向上が達成されるに至った(非特許文献1~4)。一般に不活化抗原は液性免疫しか誘導しないが、抗原をリポソーム表面に結合することで液性免疫と細胞性免疫の両方が誘導され、ワクチンの効果が高まることが知られている。抗原表面結合型のリポソームワクチンは、ヒトのウイルス(インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、エボラウイルスなど)に対するワクチンや癌ワクチンなどで研究が進んでいる(特許文献1~3等)。
【0005】
一方、動物用のリポソームワクチンは、依然として抗原内包型のものが主流であり、市販されている動物用リポソームワクチンも抗原内包型である。IBVやPRRSVに対するリポソームワクチンは未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-043332号公報
【文献】国際公開第2012/033142号公報
【文献】特開2014-005205号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】次世代ワクチンの産業応用技術、監修:神谷齊、シーエムシー出版、2010発行
【文献】Nakano et al., Int Arch Allergy Immunol. 1999, vol.120, p.199-208
【文献】Naito et al., Int Arch Allergy Immunol. 1996, vol.109, p.223-228
【文献】Tanaka et al., Bioconjugate Chem. 2004, vol.15, p.35-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、家畜や家禽などの非ヒト動物に対して効果的に免疫誘導できる非ヒト動物用ワクチンを提供すること、特に、種々の抗原性のIBVに対して有効なIBVワクチン、及び種々の遺伝子型のPRRSVに対して有効なPRRSVワクチンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、IBVの各種分離株でウイルスタンパク質の配列を鋭意解析し、多様な変異株を網羅し得る抗原領域として、公知の株間で保存性が高いヌクレオカプシドタンパク質(Nタンパク質)に着目し、抗原を表面に結合したリポソームワクチンを作製した。次いで、Nタンパク質の抗原領域、投与経路、投与回数等を鋭意に検討し、種々の強毒IBV株に対しても有効で且つ免疫系の発達が未成熟な孵化早期の雛に対しても有効なIBVリポソームワクチンの開発に成功し、さらに、同様の技術を適用して各種の非ヒト動物に対するワクチン、例えばPRRSVリポソームワクチンを開発できることを見出し、本願発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、伝染性気管支炎ウイルスの全長ヌクレオカプシドタンパク質がスベリン酸架橋により表面に結合されたリポソームを含む、家禽に対し1週間以上の間隔をあけて2回以上投与するための家禽用ワクチンであって、前記全長ヌクレオカプシドタンパク質のアミノ酸配列が、配列番号2に示すアミノ酸配列と98%以上の同一性を有するアミノ酸配列であり、前記2回以上の投与が、
(i) 液滴粒子径120μm以下での噴霧投与であり、1回目の投与が0日齢~14日齢の期間内に行なわれるか、又は
(ii) 1回の卵内接種及び孵化後の1回以上の接種により行なわれ、卵内接種は、孵卵日齢で17~20日齢の期間内に行なわれ、孵化後の1回以上の接種は、液滴粒子径120μm以下での噴霧投与により行なわれる、前記ワクチンを提供する。

【発明の効果】
【0011】
本発明により、家畜や家禽をはじめとする非ヒト動物の感染症の予防に効果的な非ヒト動物用ワクチンが提供される。本発明によるワクチンの最も好ましい一例であるIBVワクチンは、種々のIBV分離株に対して有効であり、変異株が発生した場合にも十分に対応可能と期待される。本発明のIBVワクチンは、免疫系の発達が未成熟な孵化早期の雛、特に初生雛に対しても有効であることが確認されており、実用性は非常に高い。また、本発明によるワクチンの好ましい他の一例であるPRRSVワクチンは、感染による発熱や肺の病変形成等を軽減することが確認されている。同技術を適用すれば、IBVのみならずPRRSV等の様々な非ヒト動物病原体を対象として、感染症予防に有効なリポソームワクチンを開発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】組換えIBV Nタンパク質(IBV-rNp)の発現誘導と精製を確認したSDS-PAGEの結果である。
図2】組換えIBV Mタンパク質(IBV-rMp)の発現誘導と精製を確認したSDS-PAGEの結果である。
図3-1】試験ワクチン(IBV-rNp-DSSおよびIBV-rNp-GA)を投与した試験鶏の脾臓よりリンパ球を採取し、ニワトリIFN-γ検出ELISPOTにより抗原特異的なIFN-γの産生誘導能を測定した結果である。
図3-2】試験ワクチン(IBV-rMp-DSSおよびIBV-rMp-GA)を投与した試験鶏の脾臓よりリンパ球を採取し、ニワトリIFN-γ検出ELISPOTにより抗原特異的なIFN-γの産生誘導能を測定した結果である。
図3-3】IBV-rNpを抗原とするELISAにより、試験ワクチンを接種した試験鶏の免疫前後の血中抗体価を測定した結果である。
図3-4】IBV-rMpを抗原とするELISAにより、試験ワクチンを接種した試験鶏の免疫前後の血中抗体価を測定した結果である。
図4-1】表4-1及び表4-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、気管線毛運動スコアによりワクチン投与の効果を評価した結果である。
図4-2】表4-1及び表4-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図4-3】表4-1及び表4-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器からのウイルス分離率および分離陽性サンプル中のウイルス力価を調べた結果である。
図4-4】表4-1及び表4-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、攻撃時及び剖検時の中和抗体価を測定した結果である。
図5-1】表5-1及び表5-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、気管線毛運動スコアによりワクチン投与の効果を評価した結果である。
図5-2】表5-1及び表5-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図5-3】表5-1及び表5-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器からのウイルス分離率を調べた結果である。
図5-4】表5-1及び表5-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス力価を調べた結果である。
図6-1】表6-1及び表6-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、気管線毛運動スコアによりワクチン投与の効果を評価した結果である。
図6-2】表6-1及び表6-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図6-3】表6-1及び表6-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器からのウイルス分離率を調べた結果である。
図6-4】表6-1及び表6-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス力価を調べた結果である。
図7-1】表7-1及び表7-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、気管線毛運動スコアによりワクチン投与の効果を評価した結果である。
図7-2】表7-1及び表7-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図7-3】表7-1及び表7-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器からのウイルス分離率を調べた結果である。
図7-4】表7-1及び表7-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス力価を調べた結果である。
図8-1】実施例で調製した組換えIBV Nタンパク質断片を説明する模式図である。
図8-2】実施例で調製したIBV Nタンパク質及びIBV Mタンパク質のキメラタンパク質を説明する模式図である。
図8-3】表8-1及び表8-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、気管線毛運動スコアによりワクチン投与の効果を評価した結果である。
図8-4】表8-1及び表8-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図9-1】表9-1及び表9-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、気管線毛運動スコアによりワクチン投与の効果を評価した結果である。
図9-2】表9-1及び表9-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図10-1】表10-1及び表10-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、気管線毛運動スコアによりワクチン投与の効果を評価した結果である。
図10-2】表10-1及び表10-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図11-1】表11-1及び表11-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、気管線毛運動スコアによりワクチン投与の効果を評価した結果である。
図11-2】表11-1及び表11-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図12-1】表12-1及び表12-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、気管線毛運動スコアによりワクチン投与の効果を評価した結果である。
図12-2】表12-1及び表12-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図13-1】表13-1及び表13-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏の、試験区別の産卵率の推移である。
図13-2】表13-1及び表13-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏の、期間別の産卵率の推移である。
図13-3】表13-1及び表13-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、口腔/クロアカスワブ中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図13-4】表13-1及び表13-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図13-5】表13-1及び表13-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、気管線毛運動スコアによりワクチン投与の効果を評価した結果である。
図13-6】表13-1及び表13-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与とウイルス攻撃を行なった鶏について、血清中ELISA抗体価を測定した結果である。
図14-1】表14-1及び表14-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与と各種ウイルス株による攻撃を行なった鶏について、気管線毛運動スコアによりワクチン投与の効果を評価した結果である。
図14-2】表14-1及び表14-2に示した試験区設定及びスケジュールにより試験ワクチンの投与と各種ウイルス株による攻撃を行なった鶏について、臓器中のウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図15-1】組換えPRRSV Nタンパク質(PRRSV-rNp)の発現誘導と精製を確認したSDS-PAGEの結果である。
図16-1】「16.マウスを用いたPRRSリポソームワクチンの免疫原性の評価」における動物試験の試験スケジュールである。
図16-2】各免疫材料を投与したマウスの脾臓よりリンパ球を採取し、マウスIFN-γ検出ELISPOTにより抗原特異的なIFN-γの産生誘導能を測定した結果である。
図16-3】PRRSV-rNpを抗原とするELISAにより、各免疫材料を接種したマウスの血中IgG抗体価を測定した結果である。
図16-4】PRRSV-rNpを抗原とするELISAにより、各免疫材料を接種したマウスの血中IgG1抗体価を測定した結果である。
図16-5】PRRSV-rNpを抗原とするELISAにより、各免疫材料を接種したマウスの血中IgG2a抗体価を測定した結果である。
図17-1】「17.豚を用いたPRRSリポソームワクチンの有効性の評価」における動物試験の試験スケジュールである。
図17-2】試験ワクチン(PRRSV-rNp-DSS)を投与した免疫区の豚及びワクチン投与なしの対照区の豚の体温スコアの推移である。
図17-3】試験ワクチン(PRRSV-rNp-DSS)を投与した免疫区の豚及びワクチン投与なしの対照区の豚について、血中ウイルス遺伝子量を測定した結果である。
図17-4】試験ワクチン(PRRSV-rNp-DSS)を投与した免疫区の豚及びワクチン投与なしの対照区の豚の血液から末梢血単核球(PBMC)を調製して抗原刺激を行ない、Porcine IFN-γ検出ELISPOTにより抗原特異的なIFN-γの産生誘導能を測定した結果である。
図17-5】試験ワクチン(PRRSV-rNp-DSS)を投与した免疫区の豚及びワクチン投与なしの対照区の豚の血液からPBMCを調製して抗原刺激を行ない、Porcine IFN-γに対するモノクローナル抗体を用いたELISAによりPorcine IFN-γを検出した結果である。
図17-6】試験ワクチン(PRRSV-rNp-DSS)を投与した免疫区の豚及びワクチン投与なしの対照区の豚の肺病変スコアである。20dPCに採材した肺について病理組織学的検査を行ない、病変の程度をスコア化した。
図17-7】試験ワクチン(PRRSV-rNp-DSS)を投与した免疫区の豚及びワクチン投与なしの対照区の豚より血清を採取し、PRRSV-rNpを抗原とするELISAにより血中抗体価を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、非ヒト動物とは、ヒト以外の各種の動物をいい、家畜(ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウサギ等)、家禽(ニワトリ、アヒル、ウズラ、シチメンチョウ、ダチョウ、キジ、ホロホロチョウ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ、ハムスター、モルモット、ウサギ、フェレット、インコ、オウム等)などが包含される。また、鳥類という語には、家禽の他、法律上の「家禽」の分類には包含されない各種の鳥類(カモ、ペンギン、ハト、ウ、及びタカ、ワシ、ハヤブサ、フクロウ等の各種猛禽類)が包含される。また、家禽及び鳥類という語には、孵化後の生体のほか、発育卵も包含される。家畜や家禽は集団飼育されることから、感染症が発生した場合被害が拡大しやすいため、感染症の予防が特に重要な非ヒト動物として挙げることができる。
【0014】
病原体は特に限定されず、真菌、細菌、ウイルス、マイコプラズマ等の種々の病原体が包含される。
【0015】
家畜・家禽に感染する病原体の具体例としては、例えば以下のものを挙げることができる。いずれもゲノム配列等の情報が公知であるか、又は分離株の入手が可能であるので、リポソーム表面に結合する組換え抗原タンパク質等の抗原分子は常法により適宜調製することができる。
【0016】
<鶏に感染するウイルス>
伝染性気管支炎ウイルス(IBV)
鳥インフルエンザウイルス(AIV)
ニューカッスル病ウイルス(NDV)
伝染性喉頭気管炎ウイルス(ILTV)
マレック病ウイルス(MDV)
鶏白血病ウイルス(ALV)
伝染性ファブリキウス嚢ウイルス(IBDV)
鶏痘ウイルス(FPV)
鶏脳脊髄炎ウイルス(AEV)
鶏アデノウイルス(FAV)
産卵低下症候群-1976ウイルス(EDS)
トリレオウイルス(ARV)
鶏貧血ウイルス(CAV)
鶏腎炎ウイルス(ANV)
細網内皮症ウイルス(REV)
トリメタニューモウイルス(AMPV)
【0017】
<鶏に感染する細菌・マイコプラズマ>
マイコプラズマ・ガリセプティカム(MG)
マイコプラズマ・シノビエ(MS)
サルモネラ・プローラム(SP)
サルモネラ・ガリナーラム(SG)
サルモネラ・エンテリティディス(SE)
サルモネラ・ティフィムリウム(ST)
サルモネラ・インファンティス(SI)
大腸菌(E.coli)
アビバクテリウム・パラガリナルム(H.pg)
アイメリア属原虫
ロイコチトゾーン・カウレリー
【0018】
<豚に感染するウイルス>
オーエスキー病ウイルス(ADV)
伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV)
豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)
豚流行性下痢ウイルス(PEDV)
豚インフルエンザウイルス(SIV)
豚サーコウイルス2型(PCV2)
豚パルボウイルス(PPV)
日本脳炎ウイルス(JEV)
豚ロタウイルス(PRV)
【0019】
<豚に感染する細菌・マイコプラズマ>
マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mhp)
マイコプラズマ・ハイオライニス(Mhr)
サルモネラ・コレラスイス(SC)
アクチノバチラス・プルロニューモニエ(App)
豚丹毒(Ery)
ボルデテラ・ブロンキセプティカ(Bb)
パスツレラ・マルトシダ(Pm)
ブラキスピラ・ハイオディセンテリアエ(Bra-hyo)
ヘモフィルス・パラスイス(Hps)
ローソニア・イントラセルラリス(Li)
【0020】
<牛に感染するウイルス>
アカバネ病ウイルス(AKAV)
チュウザン病ウイルス(KASV)
アイノウイルス(AINOV)
イバラキ病ウイルス(IBAV)
牛ウイルス性下痢・粘膜病ウイルス(BVDV)
牛伝染性鼻気管炎ウイルス(IBRV)
牛流行熱ウイルス(BEFV)
牛白血病ウイルス(BLV)
牛RSウイルス(BRSV)
牛パラインフルエンザウイルス3型(BPIV3)
牛アデノウイルス7型(BAV3)
【0021】
<牛に感染する細菌・マイコプラズマ>
マイコプラズマ・ボビス(M.bovis)
マイコプラズマ・ボビライニス(M.bovirhinis)
マイコプラズマ・ボビジェニタリウム(M.bovigenitalium)
マイコプラズマ・ディスパー(M.disper)
マイコバクテリウム・アビウム亜種パラツベルクローシス(MAP)
ヒストフィルス・ソムニ(Hs)
マンヘミア・ヘモリチカ(Mh)
【0022】
病原体に由来する抗原分子の典型例として、病原体ゲノムにコードされるタンパク質及びその断片を挙げることができる。本発明における抗原分子は、好ましくはポリペプチドである。ポリペプチドという語には、病原体ゲノムにコードされるタンパク質、及び該タンパク質の一部領域からなるタンパク質断片が包含される。種々の抗原性ないしは遺伝子型の病原体に対して有効なワクチンを製造するためには、病原体の株間で変異の少ない(配列保存性の高い)構造タンパク質ないしはその一部領域を抗原分子として採用することが重要である。そのような保存性の高い領域が免疫原性を有するかどうかは、マウス等の動物を用いて免疫試験を行なえば容易に確認できる。免疫試験の方法としては、ELISPOTアッセイ等のアッセイによりリンパ球のIFN-γ産生誘導能を調べる方法(細胞性免疫の誘導能の評価)、ELISA等のアッセイにより抗体誘導能を調べる方法(液性免疫の誘導能の評価)などが挙げられる。
【0023】
病原体がウイルスの場合、エンベロープを有するウイルスと有しないウイルスが存在する。エンベロープを有するウイルスの場合、ウイルス粒子の最外面にエンベロープが存在するため、ヌクレオカプシドタンパク質が宿主体内の免疫機能による攻撃等の選択圧を受ける頻度が極めて低い。そのため、エンベロープを有するウイルスの場合、ヌクレオカプシドタンパク質のウイルス株間の配列保存性は他の構造タンパク質と比べて高い。従って、エンベロープを有するウイルスに対して本発明のワクチンを作製する際には、抗原分子としてヌクレオカプシドタンパク質を好ましく採用することができる。上記に例示した病原体の中では、IBV、PRRSV、AIV、NDV、ILTV、MDV、ALV、FPV、REV、AMPV、ADV、TGEV、PEDV、SIV、JEV、AKAV、AINOV、BVDV、IBRV、BEFV、BLV、BRSV、BPIV3がエンベロープを有するウイルスに該当する。
【0024】
ポリペプチドは、遺伝子組換え技術により調製された組換えポリペプチドでもよいし、化学合成により調製されたポリペプチドでもよい。数十残基程度以内の短いポリペプチドの場合には、化学合成による調製も容易である。遺伝子組換え技術もポリペプチドの化学合成も周知の常法である。
【0025】
遺伝子組み換え技術による組換えポリペプチドの調製では、所望の抗原ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを調製し、該ポリヌクレオチドを適当なベクターにクローニングした後、適当な宿主細胞に導入し、該宿主細胞内でポリペプチドを発現させ、これを回収・精製すればよい。病原体が細菌やマイコプラズマの場合、病原体細胞から抽出した全RNAを鋳型とし、適当なプライマーを用いてRT-PCRを行ない、所望の抗原ポリペプチド領域をコードするcDNAを調製することができる。病原体がウイルスの場合は、ウイルス感染細胞から全RNAを抽出し、これを鋳型としてRT-PCRを行なえばよい。クローニングベクターや宿主細胞は各種のものが知られており、市販品も存在するので、調製したい抗原ポリペプチドの性質等に応じて適したベクターや宿主細胞を選択すればよい。宿主細胞内で発現させたポリペプチドの回収・精製の便宜のため、Hisタグ等の適当なタグを付加して抗原ポリペプチドを発現させてもよい。
【0026】
化学合成法の具体例としては、例えばFmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等を挙げることができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して常法により合成することもできる。化学合成の場合は、アミノ酸配列のみに基づいて所望のポリペプチドを合成できる。
【0027】
下記実施例には、本発明による最も好ましいワクチンの一例である、IBVに対する家禽用の抗原表面結合型リポソームワクチンの具体例が記載されている。本発明によるIBVリポソームワクチンでは、ヌクレオカプシドタンパク質(Nタンパク質)を抗原分子として好ましく用いることができる。IBVのNタンパク質は、断片ではなく全長Nタンパク質を用いることが好ましい。Nタンパク質はIBVの各種分離株間で変異が少ない領域であるが、特に配列番号2に示したアミノ酸配列のNタンパク質をIBVリポソームワクチンの抗原分子として最も好ましく用いることができる。また、配列番号2に示すアミノ酸配列において、1~数個程度のごく少数のアミノ酸、例えば1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、又は1個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列のポリペプチド(配列同一性で表現すると、配列番号2のアミノ酸配列と98%以上の同一性を有するアミノ酸配列のポリペプチド)も、配列番号2に示すアミノ酸配列のNタンパク質と同様に高い免疫原性が期待でき、同様に好ましく用いることができる。この際の置換の好ましい一態様として、保存的置換を挙げることができる。化学的性質が類似するアミノ酸への置換を保存的置換といい、タンパク質の性質を損なわない置換である。側鎖が類似するアミノ酸は、化学的性質が類似する。側鎖の類似性でアミノ酸をグループ分けすると、例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン)、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の群(セリン、トレオニン)、アミド含有側鎖を有するアミノ酸の群(アスパラギン、グルタミン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸の群(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)、塩基性側鎖を有するアミノ酸の群(アルギニン、リジン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸の群(アスパラギン酸、グルタミン酸)、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の群(システイン、メチオニン)、などに分類することができる。これらの各群内での置換を保存的置換の例として挙げることができる。
【0028】
また、下記実施例には、本発明による最も好ましいワクチンの他の一例である、PRRSVに対する豚用の抗原表面結合型リポソームワクチンの具体例も記載されている。PRRSVリポソームワクチンでも、ヌクレオチドカプシドタンパク質(Nタンパク質)を抗原分子として好ましく用いることができる。PRRSVのNタンパク質も、全長Nタンパク質を好ましく用いることができるが、免疫原性の高い1又は複数の部分領域の断片を抗原分子として用いても差し支えない。PRRSVのNタンパク質のアミノ酸配列及びこれをコードするORF7領域の塩基配列は、NCBIのGenBank等のデータベースより入手できる。配列番号28に示したアミノ酸配列は、PRRSVのNタンパク質のアミノ酸配列の一例である。このアミノ酸配列のタンパク質の他、配列番号28に示すアミノ酸配列において、1~数個程度のごく少数のアミノ酸、例えば1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、又は1個のアミノ酸が置換(例えば、上記した保存的置換)、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列のポリペプチド(配列同一性で表現すると、配列番号28のアミノ酸配列と93%以上、例えば95%以上、又は98%以上の同一性を有するアミノ酸配列のポリペプチド)も、配列番号28に示すアミノ酸配列のNタンパク質と同様に高い免疫原性が期待でき、同様に好ましく用いることができる。
【0029】
なお、「配列同一性」とは、比較すべき2つのアミノ酸配列のアミノ酸残基ができるだけ多く一致するように両アミノ酸配列を整列させ、一致したアミノ酸残基数を、全アミノ酸残基数で除したものを百分率で表したものである。上記整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方又は双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化は、例えばBLAST、FASTA、CLUSTAL W等の周知のプログラムを用いて行なうことができる。ギャップが挿入される場合、上記全アミノ酸残基数は、1つのギャップを1つのアミノ酸残基として数えた残基数となる。このようにして数えた全アミノ酸残基数が、比較する2つの配列間で異なる場合には、配列同一性(%)は、長い方の配列の全アミノ酸残基数で、一致したアミノ酸残基数を除して算出される。
【0030】
以下、本発明による最も好ましいワクチンの一例であるIBVリポソームワクチンを例として、本発明のリポソームワクチンの構成及び調製方法を具体的に説明する。もっとも、下記の構成及び方法はIBVに対するワクチンに限定されるものではなく、例えば上記に例示したような各種の家畜・家禽の病原体に対するリポソームワクチンも、下記に準じて適宜に調製することができる。下記実施例には、IBVリポソームワクチンと同様の方法でPRRSVリポソームワクチンを調製したことが記載されている。
【0031】
本発明によるワクチンのリポソーム部分を構成するリン脂質膜は、下記の成分(A)及び(B)を含む。なお、本明細書において、リン脂質膜の各成分のモル%とは、リポソーム部分を構成するリン脂質膜の全構成成分に対するモル%である。
(A) 不飽和結合を1個有する炭素数14~24のアシル基、又は不飽和結合を1個有する炭素数14~24の炭化水素基を有するリン脂質(以下、上記アシル基を「不飽和アシル基」、上記炭化水素基を「不飽和炭化水素基」と呼ぶことがある。)
(B) リポソームの安定化剤
【0032】
成分(A)の含有量は1~99.8モル%であり、リポソームの安定性の観点から、好ましくは10~90モル%、より好ましくは30~80モル%、更に好ましくは50~70モル%である。アシル基及び炭化水素基の炭素数は、好ましくは16~22であり、より好ましくは18~22、あるいは16~20であり、最も好ましくは18である。
【0033】
リン脂質は、グリセリン骨格を有するグリセロリン脂質でも、スフィンゴシン骨格を有するスフィンゴリン脂質でもよい。本発明ではグリセロリン脂質をより好ましく用いることができる。
【0034】
リン脂質がグリセロリン脂質の場合、グリセリン骨格の1位及び2位に結合する不飽和のアシル基又は不飽和炭化水素基は、同一でも異なっていてもよい。工業的な生産性の観点から、1位及び2位の基が同一であることが好ましい。
【0035】
上記した不飽和アシル基の具体例としては、パルミトオレオイル基、オレオイル基、エルコイル基等が挙げられる。また、上記した不飽和炭化水素基の具体例としては、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、C20モノエン基、C22モノエン基、C24モノエン基等が挙げられる。
【0036】
成分(A)のリン脂質としては、不飽和アシル基を有するものが好ましい。とりわけ好ましい成分(A)のリン脂質は、不飽和結合を1個有する炭素数18のアシル基、すなわちオレオイル基を有するリン脂質である。
【0037】
成分(A)は、上記した(A)のリン脂質の定義に従う複数の異なるリン脂質を含んでいてよい。具体的には、酸性リン脂質、中性リン脂質、抗原分子を結合することのできる官能基を有する反応性リン脂質などが挙げられ、これらのうちの2種以上、又は3種以上を含んでいてよい。複数の異なるリン脂質を含む場合、それらリン脂質が有する不飽和のアシル基又は不飽和炭化水素基は、全て同一でもよいし、リン脂質間で異なっていてもよいが、通常は複数の異なるリン脂質が同一の不飽和アシル基ないし不飽和炭化水素基を有することが好ましい。
【0038】
また、本発明のリポソームワクチンのリポソーム部分は、(A)に定義した通りのリン脂質に加え、この定義に包含されない他のリン脂質及びリン脂質以外の脂質を含んでいても差し支えない。(A)のリン脂質は、リポソーム部分のリン脂質膜成分のうちの50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上、例えば97%以上であればよい。(A)の定義に包含されない他の脂質の含有量は、通常は40モル%以下であり、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下である。
【0039】
成分(A)として用いるリン脂質の種類、割合は、種々の要求、目的に応じて適宜に選択することができるが、一般には以下の通りの含有量で用いられる。
【0040】
中性リン脂質の含有量は、通常0.01~80モル%、好ましくは0.1~70モル%、より好ましくは0.1~60モル%、更に好ましくは0.1~50モル%である。
酸性リン脂質の含有量は、通常質1~85モル%、好ましくは2~80モル%、より好ましくは4~60モル%、更に好ましくは5~40モル%である。
反応性リン脂質の含有量は、通常0.2~80モル%、好ましくは0.3~60モル%、より好ましくは0.4~50モル%、更に好ましくは0.5~25モル%である。
【0041】
酸性リン脂質としては、(A)に定義した通りのアシル基を有するジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジン酸、及びジアシルホスファチジルイノシトール等を好ましく用いることができる。酸性リン脂質は、リポソームの表面にアニオン性電離基を与えるので、リポソーム表面にマイナスのゼータ電位を付与する。このためリポソームは、電荷的な反発力を得、水性溶媒中で安定な製剤として存在できる。このように、酸性リン脂質は、水性溶媒中での抗原結合リポソームの安定性を確保する点で重要な役割を担う成分である。
【0042】
中性リン脂質としては、(A)に定義した通りのアシル基を有するホスファチジルコリン等を好ましく用いることができる。中性リン脂質は、酸性リン脂質及び抗原分子を結合した反応性リン脂質に比べ、リポソームを安定化する機能が高く、膜の安定性を向上させ得る。かかる観点から、本発明のリポソームワクチンのリポソーム部分を構成するリン脂質膜は、中性リン脂質を含有することが好ましい。
【0043】
反応性リン脂質は、上記した通り、抗原分子を結合できる官能基を有するリン脂質である。官能基の代表的な例として、アミノ基を挙げることができる。また、反応性リン脂質は、リン脂質に架橋剤などを結合させることにより、抗原分子を結合できる末端構造(反応性末端構造)を導入したものであってもよい。官能基という語には、そのような、リン脂質分子に導入された末端構造も包含され、例えば下記に例示している2価反応性化合物が有するアルデヒド基、スクシンイミド基、マレイミド基等もここでいう官能基に包含される。
【0044】
反応性リン脂質の具体例としては、(A)に定義した通りのアシル基を有するホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジルエタノールアミンに反応性末端構造を導入したホスファチジルエタノールアミン修飾体を好ましく用いることができる。
【0045】
ホスファチジルエタノールアミン修飾体としては、ジアシルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に2価反応性化合物の一方の末端を結合させたジアシルホスファチジルエタノールアミン修飾体が挙げられる。2価反応性化合物としては、架橋剤として知られる各種の化合物を用いることができ、例えば、ジアシルホスファチジルエタノールアミンに対しては、アミノ基と反応することができるアルデヒド基又はスクシンイミド基を少なくとも片方の末端に有する化合物が利用できる。
【0046】
アルデヒド基を有する2価反応性化合物としては、グリオキサール、グルタルアルデヒド、スクシンジアルデヒド、テレフタルアルデヒド等が挙げられ、中でもグルタルアルデヒドを好ましく用いることができる。なお、後述する通り、反応性リン脂質の官能基(アミノ基)へのグルタルアルデヒド等によるアルデヒド基の導入は、通常、リポソーム調製後に行われる。
【0047】
スクシンイミド基を有する2価反応性化合物としては、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、エチレングリコール-ビス(スクシンイミジルスクシネート)、ジスクシンイミジルスクシネート、ジスクシンイミジルスベレート、又はジスクシンイミジルグルタレート等が挙げられ、中でもジスクシンイミジルスベレートを好ましく用いることができる。
【0048】
また、一方の末端にスクシンイミド基、他方の片末端にマレイミド基を有する2価反応性化合物として、N-スクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、スルホスクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、N-スクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)アセテート、N-スクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)プロピオネート、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドエチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スルホスクシンイミジル-4-(N-マレイミドエチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミド、N-(ε-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド等が挙げられる。このような2価反応性化合物を用いると、官能基としてマレイミド基を有するジアシルホスファチジルエタノールアミン修飾体が得られる。
【0049】
2価反応性化合物が結合したジアシルホスファチジルエタノールアミン修飾体の具体例としては、スクシンイミジル-ジアシルホスファチジルエタノールアミン、マレイミド-ジアシルホスファチジルエタノールアミン等を挙げることができる。
【0050】
成分(B)の含有量は0.2~75モル%であり、リポソームの安定性の観点から、好ましくは5~70モル%、より好ましくは10~60モル%、更に好ましくは20~50モル%である。安定化剤の含有量が75モル%を超えるとリポソームの安定性が損なわれるため、好ましくない。
【0051】
リポソームの安定化剤としては、ステロール類やトコフェロール類を用いることができる。ステロール類は、一般にステロール類として知られるものであればよく、例えば、コレステロール、シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール等が挙げられる。入手性等の点から、コレステロールを特に好ましく用いることができる。また、トコフェロール類は、一般にトコフェロールとして知られるものであればよく、例えば、入手性等の点から、市販のα-トコフェロールを好ましく用いることができる。
【0052】
抗原ポリペプチド分子として用いるNタンパク質等のIBV由来ポリペプチドは、リポソーム中の反応性リン脂質の官能基を利用して結合させればよい。リン脂質膜の一成分である反応性リン脂質の官能基に抗原ポリペプチド分子を共有結合させることで、リポソーム表面に抗原ポリペプチド分子を安定的に結合させることができる。このような技術自体は公知であり、非特許文献1、特許文献1~3等にも記載されている。特許文献2、3に記載されるように、イオン結合や疎水結合によって抗原ポリペプチド分子をリポソーム表面に結合させることも可能であるが、本発明によるIBVリポソームワクチンでは、保存中及び生体内での結合安定性の観点から、共有結合によりIBV由来ポリペプチドをリポソーム表面に結合させることがより好ましい。
【0053】
IBVリポソームワクチンの調製においては、反応性リン脂質を含むリポソームを調製した後、リポソームとIBV由来ポリペプチドとの結合反応を行えばよい。
【0054】
リポソームの調製自体は常法通りに行なうことができる。例えば、エクスツルージョン法、ボルテックスミキサー法、超音波法、界面活性剤除去法、逆相蒸発法、エタノール注入法、プレベシクル法、フレンチプレス法、W/O/Wエマルジョン法、アニーリング法、凍結融解法等の製造方法が挙げられる。リポソームの形態は特に限定されず、上記した公知のリポソーム製造方法を適宜選択することにより、多重層リポソーム、小さな一枚膜リポソーム、大きな一枚膜リポソーム等、種々の大きさや形態を有するリポソームを製造することができる。
【0055】
リポソームの粒径は特に限定されないが、保存安定性等の点から、平均粒径20~600nmが好ましく、例えば30~500nm、40~400nm、50~300nm、又は70~230nmとすることがより好ましい。リポソームの平均粒径は、周知の動的光散乱法により測定できる。
【0056】
本発明においては、リポソーム調製過程又は調製後に、リポソームの内水相及び外水相の少なくともいずれかに糖類又は多価アルコール類を添加しても良い。これにより、リポソームの物理化学的安定性をさらに高めることができる。例えば、糖類又は多価アルコール類を含む緩衝液中で反応性リン脂質及びリポソーム安定化剤を含むリポソームの懸濁液を調製するか、あるいは、反応性リン脂質及びリポソーム安定化剤を含むリポソームの懸濁液を調製した後その外水相にサッカロース等の糖類又は多価アルコール類を加えて溶解させ、次いで、糖類又は多価アルコール類を含有するリポソーム懸濁液を10mLガラス製バイアルに移して凍結乾燥させることにより、抗原ポリペプチド分子を表面に結合させるための官能基を有するリポソームの凍結乾燥物を得ることができる。リポソームを凍結乾燥物とすることで、本発明のリポソームワクチンを調製するための中間材料として長期間安定に保存可能となる。
【0057】
糖類としては、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース等の単糖類;サッカロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、マルトース等の二糖類;ラフィノース、メレジトース等の三糖類;シクロデキストリン等のオリゴ糖;デキストリン等の多糖類;キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコール等が挙げられる。これらの糖類の中では単糖類又は二糖類が好ましく、中でも入手性等の点からグルコース又はサッカロースを特に好ましく用いることができる。
【0058】
前記多価アルコール類としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン系化合物;ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール系化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘプタエチレングリコール、オクタエチレングリコール、ノナエチレングリコール等が挙げられる。これらのうち、入手性の点からグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ソルビトール、マンニトール、分子量400~10,000のポリエチレングリコールを特に好ましく用いることができる。
【0059】
リポソームの内水相及び外水相の少なくともいずれかに含ませる、糖類又は多価アルコール類の濃度は、リポソーム液に対する重量濃度で1~20重量%程度、例えば2~10重量%程度であればよい。
【0060】
リポソーム表面への共有結合に利用できる抗原ポリペプチド分子側の官能基としては、アミノ基、チオール基、カルボキシ基、水酸基及びジスルフィド基を挙げることができる。共有結合に好ましい官能基の組み合わせとしては、アミノ基とアルデヒド基又はカルボキシ基、アミノ基とアミノ基、アミノ基とサクシンイミド基、チオール基とマレイミド基等を挙げることができる。また、反応性リン脂質の官能基と抗原ポリペプチド分子の官能基との共有結合の具体例としては、シッフ塩基結合、アミド結合、チオエーテル結合、エステル結合等を挙げることができる。
【0061】
反応性リン脂質に2価反応性化合物を結合させて官能基を持たせる場合、2価反応性化合物の種類に応じて、リポソーム調製前に反応性リン脂質のアミノ基等と2価反応性化合物を結合させ、2価反応性化合物を導入した反応性リン脂質を用いてリポソームを調製するか(方法1)、あるいは、反応性リン脂質を含むリポソームを調製した後、リン脂質膜中の反応性リン脂質のアミノ基等に2価反応性化合物を導入するか(方法2)、いずれかを選択すればよい。方法1を採用する2価反応性化合物の代表例としてジスクシンイミジルスベレートを挙げることができ、方法2を採用する2価反応性化合物の代表例としてグルタルアルデヒドを挙げることができる。いずれの方法もそれ自体は公知であり、特許文献2~3、非特許文献2~3等に記載されている。
【0062】
以下、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)及びグルタルアルデヒドを例に、各方法の工程を説明する。
【0063】
方法1では、まず、反応性リン脂質の官能基にジスクシンイミジルスベレートを結合させる。反応性リン脂質としては、上記(A)の定義通りのリン脂質のうち、ジアシルホスファチジルエタノールアミンのような、官能基としてアミノ基を有するリン脂質を好ましく用いることができる。アミノ基とジスクシンイミジルスベレートとの結合は、特許文献2~3、非特許文献2等に記載される公知の方法で行なうことができ、下記実施例にも具体的に記載されている。かかる方法により、アミノ基にスベリン酸スクシンイミド基(-CO-(CH2)6-COO-C4H4NO2)が導入された反応性リン脂質が得られる。スクシンイミド基を官能基として有する反応性リン脂質には、このようなスベリン酸スクシンイミド基が導入された反応性リン脂質が包含される。本明細書において、「ジスクシンイミジルスベレート(DSS)結合ジアシルホスファチジルエタノールアミン」といった場合には、アミノ基にスベリン酸スクシンイミド基が導入されたジアシルホスファチジルエタノールアミンを意味する。
【0064】
次いで、スベリン酸スクシンイミド基が導入された反応性リン脂質と、他のリポソーム構成成分(すなわち、成分(A)に該当する他のリン脂質、例えば酸性リン脂質及び中性リン脂質、成分(B)のリポソーム安定化剤、及び、使用する場合にはその他の脂質等)とを、公知の方法で混合し、リポソームを調製する。常法通りに調製すれば、反応性リン脂質に導入された官能基であるサクシンイミド基が表面に存在するリポソームが得られる。
【0065】
調製したリポソームの懸濁液に、IBV由来ポリペプチドを加え、該ポリペプチド中のアミノ基とリポソーム表面のスクシンイミド基を反応させる。
【0066】
未反応のIBV由来ポリペプチド、及び反応副生成物等を、ゲル濾過、透析、限外濾過、遠心分離等の公知の方法により除去する。これにより、IBV由来ポリペプチドがスベリン酸架橋を介して表面に共有結合したリポソームを得ることができる。
【0067】
方法2では、グルタルアルデヒドのアルデヒド基の結合相手となるアミノ基を表面に有するリポソームを調製する。反応性リン脂質として、ジアシルホスファチジルエタノールアミンのような、官能基としてアミノ基を有するリン脂質を用いればよい。アミノ基を有する反応性リン脂質と、他のリポソーム構成成分(すなわち、成分(A)に該当する他のリン脂質、例えば酸性リン脂質及び中性リン脂質、成分(B)のリポソーム安定化剤、及び、使用する場合にはその他の脂質等)とを、公知の方法で混合し、リポソームを調製する。常法通りに調製すれば、反応性リン脂質が有するアミノ基が表面に存在するリポソームが得られる。
【0068】
次いで、リポソーム懸濁液とIBV由来ポリペプチドを混合した後、グルタルアルデヒドを添加し、所定の時間反応させてリポソームとポリペプチドとの間にシッフ塩基結合を形成させる。
【0069】
次いで、グリシン等のアミノ酸基含有水溶性化合物をリポソーム懸濁液に添加し、余剰のグルタルアルデヒドの反応性を失活させる。
【0070】
未反応のIBV由来ポリペプチド、グルタルアルデヒドとグリシンとの反応産物、余剰のグリシン等の不要な成分を、ゲルろ過、透析、限外ろ過、遠心分離等の方法により除去しする。これにより、IBV由来ポリペプチドがグルタルアルデヒド架橋を介して表面に共有結合したリポソームを得ることができる。
【0071】
本発明によるIBVリポソームワクチンにおいて、IBV由来ポリペプチドとリポソームとの間の共有結合の態様は特に限定されないが、グルタルアルデヒド架橋により結合されたリポソームワクチンよりもスベリン酸架橋により結合されたリポソームワクチンの方がワクチン効果が高い傾向が確認されている(下記実施例参照)。
【0072】
方法1(予め反応性リン脂質に2価反応性化合物を導入してから他の脂質と混合してリポソームを調製する方法)でIBVリポソームワクチンを調製する場合、リポソーム部分の成分の特に好ましい組成(モル比)は、反応性リン脂質1に対し、中性リン脂質が2~12程度、好ましくは4~8程度、酸性リン脂質が0.5~4程度、好ましくは1~3程度、安定化剤が2~14程度、好ましくは5~10程度の組成が好ましい。ここでいう反応性リン脂質とは、抗原分子が結合した反応性リン脂質、および抗原分子が結合していない反応性リン脂質の合計である。
【0073】
方法2(リポソームを調製してから2価反応性化合物を導入する方法)でIBVリポソームワクチンを調製する場合、リポソーム部分の成分の特に好ましい組成(モル比)は、反応性リン脂質1に対し、中性リン脂質が0.5~3程度、好ましくは1~2程度、酸性リン脂質が0.1~2程度、好ましくは0.3~1程度、安定化剤が1~4程度、好ましくは1.5~3程度の組成が好ましい。ここでいう反応性リン脂質も、抗原分子が結合した反応性リン脂質、および抗原分子が結合していない反応性リン脂質の合計である。
【0074】
とりわけ好ましいIBVリポソームワクチンのリポソーム部分の組成として、下記の反応性リン脂質、中性リン脂質、酸性リン脂質、及びリポソーム安定化剤を上記したいずれかのモル比で含むリポソームを挙げることができる。
反応性リン脂質:ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)
中性リン脂質:ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)
酸性リン脂質:ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)
リポソーム安定化剤:コレステロール
【0075】
IBV由来抗原分子が表面に結合したリポソームは、採用する投与経路に適した、薬剤的に許容される担体、希釈剤、賦形剤等の添加剤と適宜混合してワクチンとして製剤することができる。例えば、リポソームが懸濁された液体の製剤として、病原体感染による症状を低減すべき非ヒト動物、例えば、IBV感染によるIBの症状を低減すべき鳥類(特にニワトリ)や、PRRSV感染によるPRRSの症状を低減すべき家畜(具体的には豚)に、経口的又は非経口的に投与することができる。抗原分子の免疫誘導性が損なわれない限り、抗原結合リポソームを凍結乾燥や真空乾燥に付してリポソーム粉末製剤として調製してもよい。
【0076】
非経口投与の投与経路の具体例として、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、経鼻投与、経皮投与、経直腸投与、経気道投与、点眼投与等の他、投与対象が鳥類の場合には卵内投与を挙げることができる。剤形の具体例として、経口投与剤の場合は液剤、カプセル剤など、非経口投与剤の場合は注射剤(筋注剤、卵内投与剤など)、噴霧剤、散霧剤、点鼻剤、点眼剤、坐剤などを挙げることができる。本発明によるリポソームワクチンの好ましい投与方法ないしは剤形としては、噴霧投与(剤)、散霧投与(剤)、点鼻投与(剤)、点眼投与(剤)、筋注投与(剤)、皮下投与(剤)、皮内投与(剤)及び吸入投与(剤)を挙げることができ、他の好ましい例として、投与対象が鳥類の場合は卵内投与(剤)を挙げることができる。本発明のIBVリポソームワクチンは免疫系の発達が未成熟な0日齢の初生雛に対しても有効であることが確認されていることから、卵内投与でもIBVに対する免疫を十分に誘導できると考えられる。本発明において、噴霧投与剤とは、液滴粒子径150μm以下でスプレー投与される剤であり、散霧投与剤とは、液滴粒子径200μm以上でスプレー投与される剤である。吸入投与剤とは、一般に液滴粒子径100μmないし数十μm程度以下で(ただし液滴粒子径はこれに限定されず、適宜設定可能である)吸入投与される剤である。本発明において、スプレー投与とは、主として複数の動物個体をまとめて薬剤処理する方法であって、霧状の薬液を複数個体の頭部又は全身に向けて吹き付けて吸入させる投与法であり、吸入投与とは、霧状の薬液を1個体の呼吸器(鼻又は口)に集中的に吹き付けて吸入させる投与法である。スプレー投与は、鶏等の家禽ないし家禽雛のように比較的小型の動物に適した投与法であり、吸入投与は、豚や牛などの比較的大型の動物に適した投与法である。
【0077】
上記のうちでも、本発明によるIBVリポソームワクチンの好ましい剤形ないしは投与方法としては、噴霧剤(噴霧投与)が特に好ましく、投与経路としては経鼻投与ないしは経気道投与が特に好ましい。下記実施例に記載される通り、IBVリポソームワクチンは、液滴の粒子径を小さくしてスプレー投与(噴霧投与)することでワクチンの効果を高めることができる。そのため、本発明のIBVリポソームワクチンの投与方法としては噴霧投与が特に好ましく、液滴粒子径を好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下、例えば50μm~100μmで噴霧投与することが望ましい。液滴粒子径は、公知の噴霧投与器を用いて容易に調整できる。また、本発明によるPRRSVリポソームワクチンの剤形及び投与経路としては、筋注投与剤及び筋肉内投与が特に好ましい。
【0078】
本発明のIBVリポソームワクチンの投与量は、IBV感染の防止ないしはIBV感染によるIBの症状の低減に有効な量であればよい。有効量は、投与対象の非ヒト動物(具体的には家禽、特にニワトリ)の体重や齢等に応じて適宜選択される。特に限定されないが、IBV由来ポリペプチドの量として、1回の投与単位当たり0.03125~2μg程度、例えば0.25~1μg程度のワクチンを投与すればよい。IBの症状という語には、主徴である呼吸器症状のほか、腎炎、産卵障害(産卵率の低下、奇形卵の産出等)、下痢等の、IBの症状として知られる各種の症状が包含される。
【0079】
IBV以外の病原体に対するワクチンの投与量についても同様のことがいえる。例えば、PRRSVリポソームワクチンの投与量は、PRRSV感染の防止ないしはPRRSV感染によるPRRSの症状の低減に有効な量であればよい。有効量は、投与対象である豚の体重や齢等に応じて適宜選択され、特に限定されないが、PRRSV由来ポリペプチドの量として、1回の投与単位当たり0.1~500μg程度、例えば10~200μg程度のワクチンを投与すればよい。PRRSの症状という語には、咳・呼吸困難などの呼吸器症状、母豚の流死産などの繁殖障害、虚弱、食欲不振、眼瞼浮腫、増体率の減少等の、PRRSの症状として知られる各種の症状が包含される。
【0080】
なお、リポソーム表面に結合した抗原ポリペプチド分子の量は、BCA法を利用して常法により測定することができる。具体的には、Pierce(商品名) BCA Protein Assay Kit - Reducing Agent Compatible(Thermo Fisher Scientific社)を使用し、調製後の抗原ポリペプチド結合リポソームを測定試料として、キットの使用説明書に従いリポソーム表面の抗原ポリペプチド量を測定することができる。
【0081】
IBVリポソームワクチンの投与回数は特に限定されず、1回の投与でもある程度の効果は得られるが、IBVに対して高い発症低減効果を得るためには2回以上の投与が望ましく、例えば2~5回、2~4回、又は2~3回投与してよい。もっとも、投与回数の上限は特に限定されるものではなく、必要に応じて同一個体に対し6回以上の投与を行なっても差し支えない。効率よく免疫誘導するためのワクチンの投与間隔としては、少なくとも1週間以上の間隔をあけることが望ましく、例えば10日以上、好ましくは2週間以上の投与間隔で複数回投与することが望ましい。
【0082】
PRRSVリポソームワクチンの投与回数も特に限定されず、1回以上投与すればよいが、PRRSVに対して高い効果を得るためには2回以上の投与が望ましく、例えば2~5回、2~4回、又は2~3回投与してよい。もっとも、投与回数の上限は特に限定されるものではなく、必要に応じて同一個体に対し6回以上の投与を行なっても差し支えない。効率よく免疫誘導するためのワクチンの投与間隔としては、少なくとも1週間以上の間隔をあけることが望ましく、例えば10日以上、好ましくは2週間以上の投与間隔で複数回投与することが望ましい。
【0083】
IBVリポソームワクチンの投与時期は特に制限されるものではなく、いかなる日齢で投与してもよい。例えば、集団内でのIBの蔓延を効果的に防止する観点では、本発明のIBVリポソームワクチンは、孵化後早期(0日齢~21日齢程度)の期間に少なくとも1回投与することが望ましく、例えば0日齢~14日齢の期間内(特に0日齢時)に1回投与し、その後上記した適当な投与間隔をあけて2回目、さらに必要に応じて3回目ないしはそれ以上の投与を行なってよい。卵内接種する場合には、特に限定されないが、孵卵日齢で17~20日齢程度、例えば18~19日齢の期間内に少なくとも1回接種すればよく、通常は卵内接種1回の後、孵化後に1回以上の接種を行なうことが好ましい。また、例えば、IBV感染を原因とするIBによる産卵障害を抑制する目的で、成熟雌鳥(ニワトリの場合は120日齢以上の採卵鶏)に少なくとも1回、好ましくは上記した適当な投与間隔で2回以上投与することができる。
【0084】
PRRSVリポソームワクチンの投与時期も特に制限されるものではなく、いかなる日齢ないし週齢で投与してもよい。例えば、2週齢~10週齢の間に少なくとも1回投与することができる。幼齢豚への投与の他、雌豚の繁殖障害の軽減・繁殖成績の改善のため、交配の数週間前(例えば3~4週間前)に雌豚に少なくとも1回投与してもよい。
【0085】
IBV、PRRSV以外の病原体に対するリポソームワクチンの投与回数及び投与時期も特に制限されるものではなく、病原体の種類、対象動物の種類や齢などに応じて適宜に設定できる。
【実施例
【0086】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0087】
1.遺伝子組換え抗原の作製
<目的>
伝染性気管支炎ウイルス(以下、IBV)リポソームワクチンを作製するため、その抗原としてIBV株間で比較的保存性の高いヌクレオカプシド(N)タンパク質およびメンブレン(M)タンパク質の全長を遺伝子組換え大腸菌を用いて作製した。
【0088】
<材料と方法>
(1)抗原領域の探索
比較的保存性が高いことが報告されているIBVのNタンパク質およびMタンパク質を抗原候補領域とした。近年のIBV国内分離株11株について、シークエンス解析によって相同性を評価して、抗原のテンプレートとするIBVを決定した。
抗原領域の探索で使用したプライマーは下記の通りである。
Nタンパク質Fw: GCGTGTACCTCTCTAGTAT(配列番号15)
Nタンパク質Rv: GCTACATGCCTATCTBCCTTA(B=G/T/C)(配列番号16)
Mタンパク質Fw: GGTAGAAAACTTAACAATCC(配列番号17)
Mタンパク質Rv: AAGACTACTTCCTCCTGTTG(配列番号18)
【0089】
(2)大腸菌発現系による組換えタンパク質の作製
上記(1)で決定した抗原領域の全長をRT-PCR法で増幅させた後、ベクター(N末端Hisタグ標識プラスミド)に挿入した。このプラスミドをクローニング用大腸菌に導入して形質転換させた。ついで、PCRで目的遺伝子の挿入を確認できた大腸菌からプラスミドを抽出し、これをタンパク質発現用大腸菌に導入して形質転換させた。ついで、培養した発現用大腸菌に対しIPTG添加による発現誘導を行い、組換えタンパク質を発現させた。超音波処理で菌体を破壊した後、Hisタグによるアフィニティー精製を行った。精製後の溶液について総タンパク質の濃度を測定した。SDS-PAGEを行い、想定される分子量の位置にタンパク質が発現していることを確認した。
RT-PCR及び目的遺伝子挿入の確認のPCRに使用したプライマーは下記の通りである。
[RT-PCR]
Nタンパク質Fw: AAGGCCTCTGTCGACATGGCAAGCGGTAAGG(配列番号19、下線はSalI認識部位)
Nタンパク質Rv: AGAATTCGCAAGCTTTCAAAGTTCATTTTCACCAA(配列番号20、下線はHindIII認識部位)
Mタンパク質Fw: AAGGCCTCTGTCGACATGGAAAATTGCACACTTAAC(配列番号21、下線はSalI認識部位)
Mタンパク質Rv: AGAATTCGCAAGCTTTTATGTGTAAAGACTACCCCC(配列番号22、下線はHindIII認識部位)
[目的遺伝子挿入の確認]
Nタンパク質Fw: TAATACGACTCACTATAGGG(配列番号23)
Nタンパク質Rv: ATGCTAGTTATTGCTCAGCGG(配列番号24)
Mタンパク質Fw: CCCGAAAAGTGCCACCTG(配列番号25)
Mタンパク質Rv: GTTCTGAGGTCATTACTGG(配列番号26)
使用した試薬・機器類は下記の通りである。
核酸抽出: QIAamp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN社)
PCR装置: PCR Thermal Cycler Dice(登録商標) Gradient(TP600) (TaKaRa社)
DNAのゲル精製: QIAquick Gel Extraction Kit (QIAGEN)
ベクタープラスミド: Nタンパク質にはpET-6xHN-N(Clontech社)を、Mタンパク質にはpQE-31(Qiagen社)を使用した。
コンピテントセル: Nタンパク質にはBL21(DE3)pLySs株(Invitrogen社)を、Mタンパク質にはXL1-Blue株(ニッポン・ジーン社)を使用した。
ライゲーション: Nタンパク質にはIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(Clontech社)を、Mタンパク質にはDNA Ligation Kit (TaKaRa社)を使用した。
タンパク質発現誘導: IPTG(TaKaRa社)
シークエンス解析: 株式会社ファスマック又は株式会社バイオマトリックス研究所に外注依頼
Hisタグによるアフィニティー精製: Profiniaタンパク質精製システム(バイオ・ラッド社)
【0090】
<結果>
(1)抗原領域の探索
近年の国内分離株11株(Mタンパク質は10株)について、株間におけるNおよびMタンパク質領域全長のアミノ酸相同性を比較した結果、Nタンパク質は93~99%、Mタンパク質は90~99%の一致率であり、いずれも株間で高度に保存されていることが確認された(表1-1、表1-2)。このことから、いずれのIBV由来のNあるいはMタンパク質をリポソームワクチンの抗原としても有効性を認めることが期待できたが、既に当所での感染試験系が確立しているIBV Chiba(2004)をテンプレートに決定した。発現領域の塩基配列は配列番号1(Nタンパク質)及び配列番号3(Mタンパク質)のとおりであり、コードされるNタンパク質及びMタンパク質のアミノ酸配列はそれぞれ配列番号2及び配列番号4のとおりである。
【0091】
【表1-1】
【0092】
【表1-2】
【0093】
(2)大腸菌発現系による組換えタンパク質の作製
ア.遺伝子組換え大腸菌の作製
IBV Chiba(2004)から抽出したtotal RNAを鋳型としてRT-PCRを行い、目的とする遺伝子断片の増幅を確認した。組換えNタンパク質(IBV-rNp)については、アンプリコンとプラスミドベクター(pET6xHN-N)をそれぞれ同じ2種類の制限酵素領域(SalIおよびHindIII)でライゲーションした後、シークエンス解析で正常に挿入されていることを確認した。このプラスミドベクターをクローニング用大腸菌(DH5α)に形質転換した後、培養して増幅したプラスミドを回収した。これを発現用大腸菌BL21(DE3)pLySs株に形質転換して、IBV-rNp発現用組換え大腸菌を作製した。組換えMタンパク質(IBV-rMp)については、上記のプラスミドベクターと発現用大腸菌の組み合わせでは発現しなかったため、プラスミドベクターにpQE-31、発現用大腸菌にXL1-BLUEの組み合わせとすることでrMpの発現を確認した。
【0094】
イ.組換えタンパク質の発現誘導および精製
アンピシリン添加液体LB培地で前培養した菌液をTB培地に1/100量添加し、37℃で3時間振盪培養した。培養スケールは、IBV-rNpは3L、IBV-rMpは300mlで実施した。培養開始後O.D.600が0.5に達した時点で、終濃度1mM IPTG(final 1mM)を添加して発現誘導を行い、さらに3時間振盪培養した。3000rpm,30min,4℃で遠心後、菌体ペレットを回収し、ソニケーションバッファーを添加した。これを超音波処理して菌体を破砕して回収した組換えタンパク質を含むクルードなタンパク質溶液についてアフィニティー精製を行い、目的とする組換えタンパク質を回収した。タンパク質濃度測定の結果、今回作製した組換えタンパク質の総量は、少なくともIBV-rNpは300mg以上、IBV-rMpは40mg以上であることが推測された。IBV-rNpとIBV-rMpの推定分子量はそれぞれ約49kDa、29kDaであり、抗原へのタグ修飾(His-tag)の影響から、SDS-PAGEにおける見かけの分子量は数kDa大きくなることが知られているが、SDS-PAGEの結果、いずれも推定分子量に近い位置に明瞭なバンドが確認できた(図1-1、図1-2)。
【0095】
<結論>
遺伝子組換え大腸菌を用いて、IBV Chiba(2004)を鋳型とするIBV-rNpおよびIBV-rMpを作製した。これらの組換えタンパク質のIBVに対する免疫原性については以降の動物試験で評価する。
【0096】
2.リポソームワクチンの作製
<目的>
上記1.で作製したIBV由来の組換え抗原2種(IBV-rNpおよびIBV-rMp)についてリポソーム化処理を行いリポソームワクチンを作製した。
【0097】
<材料と方法>
(1)組換え抗原のリポソーム化
ジスクシンイミジルスベレート(DSS)法あるいはグルタルアルデヒド(GA)法によって抗原とリポソームを結合した。下記のプロトコルにより試験ワクチン(IBV-rNp-GAおよびIBV-rMp-GA)を作製した。
【0098】
(1-1)DSS法による抗原のリポソーム化
ア.材料
(a) 抗原:IBV-rNpおよびIBV-rMp。1coupling反応あたり5mg(10mg/ml×0.5ml)使用。
(b) リポソーム:DSS結合オレイン酸リポソーム。1 coupling反応あたり90mg lipid使用。
(c) Sepharose TM CL-4B(4%架橋アガロース)
(d) リポソームバッファー:8%ショ糖加PBS、pH7.2
【0099】
イ.方法(1 Coupling反応):各抗原につき3 coupling反応を行った。
(a) 凍結乾燥されたDSS結合オレイン酸リポソームを2mlのリポソームバッファーで溶解した。
(b) 2mlのリポソーム懸濁液と0.5mlの抗原溶液を混合した。
(c) スターラーを用いて室温で48時間連続撹拌した。
(d) CL-4Bカラムに通して、分子ふるい効果で抗原結合済みリポソームを回収した。
(e) リポソームバッファーで総容量を9mlに調整した。
(f) 0.45μmのフィルターでろ過した。
(g) 使用時まで冷蔵で保管した。
【0100】
DSS結合オレイン酸リポソームは、特許文献2、3に記載の通りに調製した。具体的な手順は以下の通りである。
【0101】
ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)2g及びトリエチルアミン180μlをクロロホルム50mlと混合し、300ml容の4つ口フラスコに入れ、室温にてスターラーで撹拌下、DSS 3gをクロロホルム80mlに溶解した溶液を4時間かけて滴下することにより、DOPEのアミノ基にDSSの片末端を反応させた。この粗反応溶液をナス型フラスコに移し、エバポレータによって溶媒を留去した。次に、このフラスコに粗反応物を溶解できるだけの少量のクロロホルムを加えて高濃度粗反応物溶液を得、クロロホルム/メタノール/水(65/25/1、体積比)で平衡化したシリカゲルを用いて常法に従いカラムクロマトグラフィーを行い、目的とするDOPEのアミノ基にDSSの片末端が結合した画分のみを回収し、溶媒を留去して目的の反応性リン脂質であるDSS(スベリン酸スクシンイミド基)結合DOPEを得た。
【0102】
上記で得たDSS結合DOPE 0.2886g(0.2831mmol)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)1.3354g(1.6987mmol)、コレステロール0.7663g(1.9818mmol)及びジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)Na塩0.4513g(0.5662mmol)をナス型フラスコに取り、クロロホルム/メタノール/水(65/25/4、体積比)混合溶剤50mlを入れ、40℃にて溶解した。次にロータリーエバポレーターを使用して減圧下で溶剤を留去し、脂質の薄膜を作った。更に注射用蒸留水を30ml添加し、撹拌して均一のスラリーを得た。このスラリーを凍結させ、凍結乾燥機にて24時間乾燥させ、脂質混合粉末を得た。
【0103】
次に、別途作製した緩衝液(1.0mM Na2HPO4/KH2PO4、0.25Mサッカロース、pH7.4)60mlを上記脂質混合粉末の入ったナス型フラスコ内に入れ、40℃にて撹拌しながら脂質を水和させ、リポソームを得た。次にエクストルーダーを用いてリポソームの粒径を調整した。まず8μmのポリカーボネートフィルターを通過させ、続いて5μm、3μm、1μm、0.65μm、0.4μm及び0.2μmの順にフィルターを通過させた。これにより、平均粒径206nm(動的光散乱法による測定)のリポソーム粒子(DOPE:DOPC:コレステロール:DOPG=1:6:7:2(モル比))が得られた。このリポソーム粒子の懸濁液を凍結乾燥させ、DSS結合オレイン酸リポソームとして上記のDSS法による抗原のリポソーム化に用いた。
【0104】
(1-2)GA法による抗原のリポソーム化
ア.材料
(a) 抗原:IBV-rNpおよびIBV-rMp。1coupling反応あたり5ml(2mg/ml×2.5ml)使用。
(b) リポソーム:オレイン酸リポソーム。1coupling反応あたり90mg lipid使用。
(c) 2.5%グルタルアルデヒド溶液
(d) 飽和グリシン-NaOH溶液(pH7.2)
(e) Sepharose TM CL-4B(4%架橋アガロース)
(f) リポソームバッファー:8%ショ糖加PBS、pH7.2
【0105】
イ.方法(1 Coupling反応):各抗原につき3 coupling反応を行った。
(a) 2mlのリポソーム懸濁液と2.5mlの抗原溶液を混合した。
(b) 2.5%グルタルアルデヒド溶液を0.5ml添加した。
(c) ウォータバスで37℃、1時間緩やかに撹拌した。
(d) 飽和グリシン-NaOH溶液を0.5ml添加し、余剰のGAを失活させた。
(e) 4℃、オーバーナイトで静置した。
(f) CL-4Bカラムに通して、抗原結合済みリポソームを回収した。
(g) リポソームバッファーで総容量を9mlに調整した。
(h) 0.45μmのフィルターでろ過した。
(i) 使用時まで冷蔵で保管した。
【0106】
GA法で用いたオレイン酸リポソームは、上記したDSS結合オレイン酸リポソームの調製方法に準じて、DOPE:DOPC:コレステロール:DOPG=3:4:7:2のモル比で用いて調製した。ポリカーボネートフィルターでリポソームを整粒し、リポソーム懸濁液を凍結乾燥させた後、90 mg/2mlの濃度となるように緩衝液(1.0mM Na2HPO4/KH2PO4、0.25Mサッカロース、pH7.4)中に溶解させ、オレイン酸リポソーム懸濁液として上記のGA法による抗原のリポソーム化に用いた。
【0107】
(2)抗原タンパク質の定量
BCA法を利用した市販キット(Pierce(商品名) BCA Protein Assay Kit - Reducing Agent Compatible(Thermo Fisher Scientific社))を使用して、リポソーム表面に結合している抗原タンパク質を定量した。
【0108】
<結果>
(1)DSS法による抗原のリポソーム化
1 coupling反応あたり、凍結乾燥されたDSS結合オレイン酸リポソーム粉末(90 mg lipid/vial)を 蒸留水で復水して総量2 mlとし、これに10 mg/mlに調整した抗原を0.5 ml加えた後、スターラーで室温にて48時間撹拌した。各抗原につき3 coupling反応を実施した。CL-4B(4%架橋アガロースゲル)を充填したカラムをPBSで平衡化した後に、抗原-リポソーム混合液を加えて、分子ふるい効果により抗原結合済みリポソーム画分を回収した(9 ml/coupling)。これをフィルター濾過(0.45μm)したものを試験ワクチン(IBV-rNp-DSSおよびIBV-rMp-DSS)とした。最終的に回収された試験ワクチンの液量はいずれも25 ml程度であった。
【0109】
(2)GA法による抗原のリポソーム化
1 coupling反応あたり、オレイン酸リポソーム懸濁液(90 mg lipid/vial/2ml)に、2 mg/mlに調整した抗原を2.5 ml加えた。ついで、2.5%グルタルアルデヒド溶液を0.5 ml加え、直後に37℃のウォーターバスで1時間振盪させた。0.5 mlの飽和グリシン-NaOH溶液(pH7.0)を添加して残余のアルデヒド基を中和した後、4℃オーバーナイトで静置した。精製およびフィルター濾過の過程は上記DSS法と同じである。最終的に回収された試験ワクチン(IBV-rNp-GAおよびIBV-rMp-GA)の液量はいずれも25 ml程度であった。
【0110】
(3)抗原タンパク質の定量
定量結果を下記表2-1に示す。
【0111】
【表2-1】
【0112】
<結論>
IBV-rNpまたはIBV-rMpを抗原として、これをDSS法またはGA法でリポソーム化することで、計4種類の試験ワクチンを作製した。これらの試験ワクチンの性能は以降の動物試験で評価する。
【0113】
3.試験ワクチンの免疫原性の評価
<目的>
上記2.で作製した試験ワクチン4種をそれぞれSPF鶏に免疫して、抗原特異的なIFN-γ産生誘導能および抗体産生誘導能を評価して、以降の攻撃試験に用いる試験ワクチンを選抜した。
【0114】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定および動物試験スケジュールは下記表3-1及び表3-2の通りとした。
【0115】
【表3-1】
【0116】
【表3-2】
【0117】
(2)IFN-γ産生誘導能の評価
試験鶏の脾臓から採取したリンパ球を使用して、ニワトリIFN-γ検出ELISPOTにより抗原特異的なIFN-γの産生誘導能を測定した。
【0118】
(3)抗体誘導能の評価
試験鶏の血清を使用して、ELISAにより抗原特異的な血中抗体価を測定した。
【0119】
<結果>
(1)動物試験
6週齢SPF鶏の脚部筋肉内に試験ワクチンを2週間間隔で計3回(1mL/回)注射して免疫した。免疫後、注射部位に腫脹や硬結などの副反応は認めなかった。最終免疫から1週間後に解剖して脾臓を採材した。また、試験開始時と解剖時にELISA用の血清を採材した。
【0120】
(2)IFN-γ産生誘導能の評価
供試鶏の脾臓から調製した単個細胞浮遊液に、刺激抗原として試験ワクチン抗原(IBV-rNpまたはIBV-rMp)を5~40μg/mL添加して、41℃の5%CO2インキュベータで20時間培養した。刺激抗原に反応して活性化したリンパ球はIFN-γを産生し、その部位はwell上にスポットとして認められた。このスポット数を計測して抗原特異的IFN-γ産生誘導能を評価した。その結果、すべての試験ワクチンで、5μg/mL以上の抗原刺激に対して有意にリンパ球の活性を認め、スポット数と刺激抗原濃度には正の相関があった(図3-1, 図3-2)。いずれの抗原も、結合方法別のスポット数には大きな違いは認めなかった。また、同一刺激抗原濃度では、IBV-rNpの方がIBV-rMpと比較して、スポット数が多い傾向がみられた。同一試験区の供試鶏の間には大きな違いは認めなかった。
【0121】
(3)抗体誘導能の評価
3μg/wellのIBV-rNpまたはIBV-rMpを抗原とするELISAで、免疫前後の血中抗体価を測定した。その結果、試験ワクチンの免疫により特異抗体の誘導を認めた(図3-3, 図3-4)。
【0122】
<結論>
いずれの試験ワクチンも、6週齢SPF鶏の脚部筋肉内に複数回注射する免疫方法では、IFN-γ産生リンパ球の活性化と抗体誘導を認めた。抗原の種類およびリポソームへの結合方法によるIFN-γ産生リンパ球の活性化には大きな違いは認めなかったことから、以降の強毒ホモ株を用いた攻撃試験には4種すべての試験ワクチンについて防御効果を比較する。
【0123】
4.試験ワクチンの有効性の評価(1)
<目的>
上記2.で作製した試験ワクチン4種について、それぞれSPF鶏に免疫した後、抗原タンパク質の由来であるIBV Chiba(2002)株(強毒ホモ株)で攻撃を行い、試験ワクチンの有効性を評価した。
【0124】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定および動物試験スケジュールは表4-1、表4-2のとおり。試験ワクチンの有効性(防御効果)を評価するにあたり、IBV Chiba(2002)株を弱毒化して作出したIBV 千葉株MSVを生ワクチンとして使用する試験区を設定し、これを陽性対照区(明瞭な防御効果を認める試験区)とした。その他、攻撃のみを行う試験区を設定し、これを攻撃対照区とした。
【0125】
【表4-1】
【0126】
【表4-2】
【0127】
(2)評価項目
ア.気管線毛運動スコアによる評価
IBV感染後の呼吸器症状の評価方法として一般的である気管線毛運動の活性をスコア化した。具体的には、剖検時の供試鶏から採材した気管について、実験室内において1 羽につき5 ヶ所の気管リングを作製し、それぞれ顕微鏡下で気管線毛運動の活性を観察して、以下の判定基準に基づきスコア化した。
0=活発に動く、1=やや弱い、2=非常に弱い/部分的に動く、3=停止
個体別の平均スコアを算出した後、試験区別のスコアを算出した。
※スコアが大きいほどIBVによる呼吸器傷害が強い(ワクチンによる防御効果が低い)と判定する。
【0128】
イ.臓器中のウイルス遺伝子の定量
剖検時に採材した気管および腎臓の10 % (w/v)臓器乳剤を作製し、3000rpm、4℃、20minの条件で遠心した後、上清を回収した。
【0129】
ウ.臓器からのウイルス分離
剖検時に採材した気管および腎臓の10 % (w/v)臓器乳剤を作製し、3000rpm、4℃、20minの条件で遠心した後、上清を回収した。PBSで10倍段階希釈した乳剤上清をSPF鶏由来初代腎臓細胞(以下、CK細胞)に接種し、接種後4 日目にIBVに特徴的な細胞変性効果の有無を観察して、ウイルス分離の確認およびウイルス力価測定を行った。
【0130】
エ.中和抗体価の測定
攻撃時および剖検時の個体別の血清について、SPF鶏由来のCK細胞を用いて、IBV Chiba(2002)株に対する中和抗体価を測定した。
【0131】
<結果>
(1)動物試験
試験区を計6 区設定し、各試験区につき5 羽を供試した。4 種の試験ワクチン区では、5週齢時、7週齢時および9週齢時に各試験ワクチンを0.5 mLずつ脚部筋肉内に注射した。生ワクチン区では8 週齢時に1ドーズ(3.5 logEID50/羽)のIBV 千葉株MSVを30 μずつ点眼接種した。攻撃対照区を含むすべての試験区において、10 週齢時に3.5 logEID50/羽のChiba(2002)株を50 μLずつ気管内接種して攻撃した。臨床症状を観察しつつ、攻撃後1 週間目に剖検した。攻撃時あるいは剖検時に採材した臓器及び血清について、気管線毛運動の観察、ウイルス分離、ウイルス遺伝子定量および中和抗体価測定を行った。
【0132】
(2)気管線毛運動スコアによる評価
攻撃対照区と比較して、IBV-rNp-DSS区およびIBV-rNp-GA区の気管線毛運動の抑制は低減した(図4-1)。一方、IBV-rMp-DSS区およびIBV-rMp-GA区は攻撃対照区と同等であった。
【0133】
(3)臓器中のウイルス遺伝子の定量
すべての試験区において、剖検時の気管および腎臓からウイルス遺伝子が検出された(図4-2)。攻撃対照区と比較して、IBV-rNp-DSS区およびIBV-rNp-GA区では、臓器中のウイルス遺伝子量が低減する傾向を認めた。
【0134】
(4)ウイルス分離およびウイルス力価測定
攻撃対照区と比較して、IBV-rNp-DSS区およびIBV-rNp-GA区において、臓器からのウイルス分離率および分離陽性サンプル中の平均ウイルス力価は低減した(図4-3)。一方、IBV-rMp-DSS区およびIBV-rMp-GA区は、攻撃対照区と同等であった。
【0135】
(5)中和抗体価の測定
攻撃時の中和抗体価は、生ワクチン区は23倍であったのに対し、すべての試験ワクチン区では4倍未満であった。攻撃後1週間目では、いずれの試験ワクチン区も16倍前後にまで上昇したが、これは攻撃対照区と同等であった(図4-4)。
【0136】
<結論>
4種類の試験ワクチンについて、抗原ホモ株にあたるIBV Chiba(2002)株に対する有効性を評価した結果、IBV-rNpを抗原とする2種類の試験ワクチンで発症低減効果を認めた。一方、IBV-rMpを抗原とする試験ワクチンでは発症低減効果を認めなかった。
【0137】
5.試験ワクチンの有効性の評価(2)
<目的>
上記2.で作製した試験ワクチン4 種のうち、上記4.において一定の有効性(発症低減効果)を認めたIBV-rNp-DSSおよびIBV-rNp-GAを用いて免疫したSPF鶏に対して、抗原タンパク質の由来であるIBV Chiba(2002)株と同一あるいは異なる遺伝子型の強毒ヘテロ株で攻撃を行い、IBV-rNp-DSSおよびIBV-rNp-GAの有効性を評価した。
【0138】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定および試験スケジュールは表5-1、表5-2のとおり。試験ワクチンの有効性(防御効果)を評価するため、3種の野外強毒ヘテロ株でそれぞれ攻撃した。その他、攻撃のみを行う試験区を設定し、これを攻撃対照区とした。
【0139】
【表5-1】
【0140】
【表5-2】
【0141】
(2)評価項目
上記4.と同様にして下記の項目を評価した。
ア.気管線毛運動スコアによる評価
イ.臓器中のウイルス遺伝子の定量
ウ.臓器からのウイルス分離
【0142】
<結果>
(1)動物試験
試験区を計12 区設定し、各試験区につき5 羽を供試した。筋注免疫区では、5週齢時、7週齢時および9週齢時に試験ワクチンを0.5 mLずつ脚部筋肉内に注射した。点眼免疫区では、5週齢時、7週齢時および9週齢時に試験ワクチンを0.1 mLずつ点眼した。攻撃対照区を含むすべての試験区において、10 週齢時に3.5 logEID50/羽の攻撃用ウイルスを気管内接種(50μL/羽)して攻撃した。臨床症状を観察しつつ、攻撃後1週間目に剖検して、気管と腎臓を採材した。また、攻撃時および剖検時に採血を行った。
【0143】
(2)気管線毛運動スコアによる評価
攻撃対照区と比較して、すべての免疫区で気管線毛運動の抑制は一定程度低減され、攻撃株による明らかな有効性の違いは認めなかった(図5-1)。また、投与経路で比較した場合、筋注の方が点眼よりも抑制低減効果が高い傾向であった。しかし、同一試験区内でも抑制低減効果にばらつきを認めた(表5-3)。
【0144】
【表5-3】
【0145】
(3)臓器中のウイルス遺伝子の定量
すべての試験区において、剖検時の気管および腎臓からウイルス遺伝子が検出された(表5-4)。攻撃対照区と比較して、免疫区における臓器中のウイルス遺伝子量は有意に低下した(図5-2)。
【0146】
【表5-4】
【0147】
(4)ウイルス分離およびウイルス力価測定
攻撃対照区と比較して、すべての免疫区で剖検時の気管および腎臓からのウイルス分離率および平均ウイルス力価は低下する傾向であった(図5-3, 図5-4)。いずれの攻撃株あるいは投与経路でも、ウイルス分離率およびウイルス力価は同程度であった。気管線毛運動スコアが高い(平均2.0 以上)個体とウイルス分離陽性個体は一致する傾向であった。
【0148】
<結論>
IBV-rNpを抗原とする試験リポソームワクチンは、3株の強毒ヘテロ株に対して、一定程度の発症低減効果を認めた。点眼区は筋注区の5分の1量の抗原量であったが、その発症低減効果は筋注経路よりもやや低い程度にとどまった。IBV-rNp-DSSとIBV-rNp-GAを同条件で使用した場合、IBV-rNp-DSSの有効性が比較的高い傾向であったことから、以降の検討ではIBV-rNp-DSSを使用することとした。
【0149】
6.試験ワクチンの有効性の評価(3)
<目的>
IBVは環境中に広く浸潤していることから、初生時(0日齢)からワクチン接種を実施することが一般的である。これまでの本研究の動物試験は5週齢雛を使用しており、免疫系の発達がより未成熟である初生雛における有効性は不明であった。そこで試験ワクチンとしてIBV-rNp-DSSを使用して、投与経路、抗原濃度および投与回数の条件を設定して、初生雛における有効性を評価した。
【0150】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定および試験スケジュールは表6-1, 表6-2のとおり。IBV-rNp-DSSの有効性(防御効果)を評価するため、3種の投与経路についてそれぞれ抗原濃度および免疫回数の条件を設定して免疫を行った後、強毒ヘテロ株で攻撃した。その他、攻撃のみを行う試験区を設定し、これを攻撃対照区とした。
【0151】
【表6-1】
【0152】
【表6-2】
【0153】
(2)評価項目
上記4.と同様にして下記の項目を評価した。
ア.気管線毛運動スコアによる評価
イ.臓器中のウイルス遺伝子の定量
ウ.臓器からのウイルス分離
【0154】
<結果>
(1)動物試験
試験区を計13区設定して各試験区につき4 羽を供試した。投与経路として点眼、点鼻、筋注を設定した。免疫材料としてIBV-rNp-DSSの原液あるいは、原液を凍結乾燥した後に1/4量のPBSで復水した4倍濃縮液を使用した。1回免疫区では初生時のみ、3回免疫区では初生時、7日齢時および14日齢時に試験ワクチンを50μLずつ投与した。攻撃対照区を含むすべての試験区で21日齢時に3.5 logEID50/羽の攻撃株を点鼻接種(50μL/羽)して攻撃した。臨床症状を観察しつつ、攻撃後1週間目に剖検して、気管と腎臓を採材した。
【0155】
(2)気管線毛運動スコアによる評価
4倍濃縮および原液のIBV-rNp-DSSを点鼻経路で3回免疫した試験区(6区および8区)と、4倍濃縮のIBV-rNp-DSSを筋肉内経路で3回免疫した試験区(10区)において気管線毛運動の抑制が低減される傾向であった(図6-1)。しかし、同一試験区内でも個体間でスコアにばらつきを認めた(表6-3)
【0156】
【表6-3】
【0157】
(3)臓器中のウイルス遺伝子の定量
すべての免疫区の気管および腎臓からウイルス遺伝子が検出されたが、いずれの投与経路においても、3回免疫した試験区では気管あるいは腎臓のウイルス遺伝子量は有意に低下した(図6-2, 表6-4)。
【0158】
【表6-4】
【0159】
(4)ウイルス分離およびウイルス力価測定
点鼻経路で3回免疫した試験区(6区および8区)で臓器からのウイルス分離率が低下した(図6-3)。また、点鼻経路では1回免疫でも臓器中のウイルス力価は有意に低下したが、3回免疫の方がさらにウイルス力価が低下した(図6-4)。
【0160】
<結論>
IBV-rNp-DSSは初生雛に対しても一定の発症低減効果を認めた。今回検討した免疫方法の中では、点鼻経路での3回投与が最も有効であった。また、点鼻経路では抗原濃度による有効性に大きな違いは認めなかった。
【0161】
7.試験ワクチンの投与方法の検討(1)
<目的>
上記6.において、IBV-Np-DSSは点鼻経路で高い有効性を認めたことから、現場応用を想定してスプレー投与(散霧あるいは噴霧)の有効性を検討した。
【0162】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定および試験スケジュールは表7-1, 表7-2のとおり。3種の投与経路について、それぞれ抗原濃度および免疫回数の条件を設定して免疫を行った後、強毒ヘテロ株で攻撃した。その他、攻撃のみを行う試験区を設定し、これを攻撃対照区とした。なお、液滴の粒子径は生ワクチン用動力噴霧器(ニューコン607、木村農産)を用いて調整し、散霧投与250~300μm、噴霧投与50~100μmに設定した。
【0163】
【表7-1】
【0164】
【表7-2】
【0165】
(2)評価項目
上記4.と同様にして下記の項目を評価した。
ア.気管線毛運動スコアによる評価
イ.臓器中のウイルス遺伝子の定量
ウ.臓器からのウイルス分離
【0166】
<結果>
(1)動物試験
試験区を計13 区設定して各試験区につき4 羽を供試した。試験ワクチンは点鼻経路では最大100倍、散霧および噴霧経路では最大1000倍までPBSで希釈して投与した。1回免疫区では7 日齢時のみ、2 回免疫区では7 日齢時および14 日齢時に試験ワクチンを投与した。点鼻経路では1羽あたり50 μL/回投与した。散霧および噴霧経路ではロス分を加味して、1羽あたり100μL/回投与した。さらに、散霧および噴霧経路での投与時は、供試鶏を大型のビニール袋に入れ、供試鶏の上空50cm程度から顔面にめがけて試験ワクチンを規定量投与し、その後1分程度ビニール袋の口を結び静置することで、空気中に浮遊した試験ワクチンの粒子が供試鶏に効率的に吸引される環境を設定した。攻撃対照区を含むすべての試験区で21日齢時に3.5 logEID50/羽の攻撃株を気管内接種(50μL/羽)して攻撃した。臨床症状を観察しつつ、攻撃後1週間目に剖検して、気管と腎臓を採材した。
【0167】
(2)気管線毛運動スコアによる評価
点鼻経路の2回免疫区では、抗原濃度依存性に抑制低減を認めたが、1回免疫区では抑制効果を認めなかった(図7-1)。散霧経路の2回免疫区では、100倍希釈までは一定の抑制低減を認めたが、1000倍希釈では攻撃対照区と同等であった。噴霧経路の2回免疫区では、1000倍希釈までの平均スコアは同程度であり、1000倍希釈でも4羽中2羽で平均スコア1未満であった(表7-3)。また、同一試験区内で個体間にスコアにばらつきを認めた。
【0168】
【表7-3】
【0169】
(3)臓器中のウイルス遺伝子の定量
すべての免疫区の臓器からウイルス遺伝子が検出された(表7-4)。2回免疫区において、点鼻経路では10倍希釈まで、散霧経路では100倍希釈まで、噴霧経路では1000倍希釈まで気管および/あるいは腎臓のウイルス遺伝子量が有意に低下した(図7-2)。
【0170】
【表7-4】
【0171】
(4)ウイルス分離およびウイルス力価測定
噴霧経路の2回免疫区では、1000倍希釈においても臓器からのウイルス分離陽性率は低下した(図7-3)。気管のウイルス力価で有意差を認めた最大希釈倍数は、点鼻経路では10倍、噴霧経路では1000倍であったが、同一試験区内での個体間のばらつきは大きかった(図7-4)。
【0172】
<結論>
スプレー投与でも一定の有効性を示し、粒子径のより細かい噴霧投与の方が希釈倍率を高くしても有効性が維持されることが確認された。しかし、スプレー投与では個体間のばらつきが大きくなる傾向であったことから、免疫方法の改良を試みる。
【0173】
8.試験ワクチンの抗原領域の検討
<目的>
表面結合型リポソームワクチンは細胞傷害性Tリンパ球(CTL)反応を強力に誘導することが特徴であるが、これまでIBVのCTLエピトープ領域は明らかとなっていない。現在検討をすすめているIBV-rNp-DSSは抗原領域としてIBVヌクレオカプシド(N)タンパク質の全長を使用しているが、Nタンパク質の一部の領域にエピトープが局在すると仮定すると、このエピトープ局在領域を特定することで、リポソームワクチンの有効性が向上することが期待できる。そこで断片化したNタンパク質やNタンパク質とメンブレン(M)タンパク質とを結合したキメラタンパク質を抗原とするリポソームワクチンを作製し、動物試験でそれらの有効性を比較した。
【0174】
<材料と方法>
(1)断片化/キメラ化タンパク質の作製およびリポソーム化
遺伝子組換え大腸菌を用いて、IBV Chiba(2002)株のNタンパク遺伝子(1230bp、配列番号1)を、前後に一部領域が重なった状態で4分割した組換えタンパク質を作製した(図8-1)。N1~N4の塩基配列及びコードされるアミノ酸配列を配列番号5~12に示す。
その他、IBVのNおよびMタンパク質において、IBV株間でとくに保存性の高い領域を結合したキメラタンパク質:Ch(N+M)を作製した(図8-2)。Ch(N+M)の塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号13、14に示す。配列番号13の塩基配列中、1~450位までがNタンパク質領域:241-690(450bp)であり、451~657位までがMタンパク質領域:454-660(207bp)である。
これらをDSS法でリポソーム表面に結合させてリポソームワクチンを作製した。
【0175】
(2)動物試験
試験区の設定および試験スケジュールは表8-1, 表8-2のとおり。7日齢時と14日齢時に、PBSで10倍希釈した試験ワクチンをスプレー投与(噴霧)した後、強毒ヘテロ株で攻撃した。その他、攻撃のみを行う試験区を設定し、これを攻撃対照区とした。なお、液滴の粒子径は生ワクチン用動力噴霧器(ニューコン607、木村農産)を用いて噴霧投与50~100μmに設定した。さらに、個体間のバラツキを低減する目的で、上記7.で実施した方法と試験ワクチンの投与量を同一として投与時間を1試験区あたり4秒から6秒に延長した。
【0176】
【表8-1】
【0177】
【表8-2】
【0178】
(3)評価項目
上記4.と同様にして下記の項目を評価した。
ア.気管線毛運動スコアによる評価
イ.臓器中のウイルス遺伝子の定量
【0179】
<結果>
(1)断片化/キメラ化タンパク質の作製およびリポソーム化
遺伝子組換え大腸菌を用いて、IBV Chiba(2002)株由来のNタンパク質遺伝子(1230bp)を、前後に一部領域が重なった状態で4分割した組換えタンパク質を作製し、5'末端側からN1、N2、N3、N4とした。その他、IBVのNおよびMタンパク質において、ウイルス株間でとくに保存性の高い領域を結合したキメラタンパク質(N+M)を作製した。これらをDSS法でリポソーム表面に結合させて計5種類のリポソームワクチンを作製した。
【0180】
(2)動物試験
試験区を計7 区設定して、リポソームワクチンで免疫を行う1~6区は各区8 羽、攻撃対照区の7区は6羽を供試した。1~6区では、上記(1)で作製したリポソームワクチンをPBSで10倍希釈した後、生ワクチン用動力噴霧器を用いて、7日齢時および21日齢時に1羽あたり100μLを噴霧投与(液滴粒子径50~100μm)した。攻撃対照区を含むすべての試験区で28日齢時に3.5 logEID50/羽の強毒ヘテロ株を気管内接種(50μL/羽)して攻撃した。臨床症状を観察しつつ、攻撃後1 週間目に剖検して、気管と腎臓を採材した。
【0181】
(3)気管線毛運動スコアによる評価
攻撃対照区と比較して、すべての試験区で気管線毛運動の抑制が低減される傾向があった(図8-3)。最も高い抑制低減効果を認めた6区(IBV-rNp)では、個体間のバラツキが少なく、全羽スコア1以下であった(表8-3)。その他の試験区では、スコア1を超える個体を一部認め、同一試験区内でも個体間でスコアにバラつきがあった。Nタンパク質を断片化した1~4区の中では、2区と3区のスコアが低い傾向であった。
【0182】
【表8-3】
【0183】
(4)臓器中のウイルス遺伝子の定量
攻撃対照区と比較して、すべての試験区の気管と腎臓でウイルス遺伝子量が有意に低下した(図8-4)。最も高い遺伝子量の低減効果を認めたのは6区(IBV-rNp)であり、ついで5区(N+M)であった。IBV Nタンパク質を断片化した1~4区の中では、2区と3区の遺伝子量が低い傾向であった。
【0184】
<結論>
断片化あるいはキメラ化したリポソームワクチンは、強毒ヘテロ株の攻撃に対して一定の発症低減効果を認め、その有効性はN2およびN3領域で高い傾向であったが、エピトープ領域の明瞭な局在は確認できず、さらにこれまで検討してきた全長(IBV-rNp)を抗原とする試験区の方がより高い発症低減効果を認めた。
【0185】
また、噴霧投与方法を一部変更したことにより、個体間のバラつきの低下および発症低減効果の向上を認めた。
【0186】
9.試験ワクチンの投与方法の検討(2)
<目的>
噴霧投与におけるIBV-rNpの最小有効抗原量を検討した。
【0187】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定および試験スケジュールは表9-1、表9-2のとおり。IBV-rNp抗原量2μg/回/羽を起点として、PBSで2倍階段希釈したIBV-rNp-DSSを7日齢時および21日齢時に噴霧投与して免疫を行い、28日齢時に攻撃、35日齢時に剖検した。その他、攻撃のみを行う試験区を設定し、これを攻撃対照区とした。
【0188】
【表9-1】
【0189】
【表9-2】
【0190】
(2)評価項目
上記4.と同様にして下記の項目を評価した。
ア.気管線毛運動スコアによる評価
イ.臓器中のウイルス遺伝子の定量
【0191】
<結果>
(1)動物試験
試験区を計7 区設定して、リポソームワクチンで免疫を行う1~6区は各区8 羽、攻撃対照区の7区は6羽を供試した。1~6区では、上記(1)で作製したリポソームワクチンをPBSで10倍希釈した後、生ワクチン用動力噴霧器を用いて、7日齢時および21日齢時に1羽あたり100μLを噴霧投与(液滴粒子径50~100μm)した。攻撃対照区を含むすべての試験区で28日齢時に3.5 logEID50/羽の強毒ヘテロ株を気管内接種(50μL/羽)して攻撃した。臨床症状を観察しつつ、攻撃後1 週間目に剖検して、気管と腎臓を採材した。
【0192】
(2)気管線毛運動スコアによる評価
攻撃対照区と比較して、すべての試験区で気管線毛運動の抑制が低減される傾向を認めた(図9-1)。試験区間のスコア差は小さく、いずれの試験区でもスコア2以上を認める個体はなかった(表9-3)。最も抗原量の少ない試験区(7区)においても、個体間のバラつきは小さかった。
【0193】
【表9-3】
【0194】
(3)臓器中のウイルス遺伝子の定量
攻撃対照区と比較して、すべての試験区の気管と腎臓でウイルス遺伝子量は有意に低下した(図9-2)。
【0195】
<結論>
IBV-rNp-DSSの原液(20μg/mL)を最大640倍に希釈しても高い発症低減効果を認めたことから、IBV-rNp-DSSの2回噴霧投与における最小有効抗原量は、原液を640倍以上に希釈したところにあることが示唆された。
【0196】
10.抗原とリポソームの結合の有無とリポソームワクチンの有効性に関する検討
<目的>
既報のマウスを用いた文献(Taneichi et al., J Immunol. 2006, 177(4):2324-2330)では、表面結合型リポソームワクチンは、リポソーム表面に抗原が結合した状態となることで、はじめて有効性を示すことが示唆されている。しかし、鶏でも同様であるかについての検討はこれまで行われていない。そこで、抗原又はリポソーム単独の場合あるいは抗原とリポソームが非結合の場合と比較して、有効性を示すためには抗原とリポソームの結合が必須であることを明らかにする。
【0197】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定および試験スケジュールは表10-1, 表10-2のとおり。IBV-rNp-DSSを陽性対照として、抗原/リポソーム単独あるいは直前に混合して非結合状態のリポソーム抗原混合物をそれぞれ噴霧投与した。
【0198】
【表10-1】
【0199】
【表10-2】
【0200】
(2)評価項目
上記4.と同様にして下記の項目を評価した。
ア.気管線毛運動スコアによる評価
イ.臓器中のウイルス遺伝子の定量
【0201】
<結果>
(1)動物試験
試験区を計4区設定して各試験区につき5羽を供試した。1,2,3区においては、PBSでrNp抗原量を2μg/回/羽に調整した。4区のリポソーム量は1区と同一とした。生ワクチン用動力噴霧器を用いて、7日齢時および21日齢時に1羽あたり100μLを噴霧投与(液滴粒子径50~100μm)した。攻撃対照区を含むすべての試験区で28日齢時に3.5 logEID50/羽の香川/2012/1株(強毒ヘテロ株)を50μLずつ気管内接種して攻撃した。臨床症状を観察しつつ、攻撃後1 週間目に剖検して、気管と腎臓を採材した。
【0202】
(2)気管線毛運動スコアによる評価
攻撃対照区と比較して、1区は気管線毛運動の抑制が低減される傾向があったが、2,3,4区の気管線毛運動スコアは攻撃対照区と同程度であり発症低減効果を認めなかった(図10-1, 表10-3)。
【0203】
【表10-3】
【0204】
(3)臓器中のウイルス遺伝子の定量
攻撃対照区と比較して、1区の気管と腎臓のウイルス遺伝子量は有意に低下したが、2,3,4区は攻撃対照区と同程度であった(図10-2)。
【0205】
<結論>
鶏においても表面結合リポソームワクチンが有効性を示すためには抗原とリポソームの結合が必須であることが確認された。
【0206】
11.試験ワクチンの投与方法の検討(3)
<目的>
野外農場での使用を想定した噴霧投与条件を検討した。
【0207】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定および試験スケジュールは表11-1、表11-2のとおり。1区(閉鎖空間)は厚手のビニール袋(W900×H1000:容量90L)にSPFひな10羽を収容して、上方約50cm程度から鶏の頭部に向けてrNp-DSSを噴霧投与した。2~6区(開放空間)では、ニワトリ輸送カゴ(内径W750×D500×H280)にSPFひなを10羽収容して(収容密度0.038m2/羽)、上方約50cm程度から鶏の頭部に向けてIBV-rNp-DSSを噴霧投与した。噴霧投与には生ワクチン用動力噴霧器(ニューコン607)を用いた。噴霧投与後はニワトリ用アイソレーターに移して飼育した。その他、攻撃のみを行う試験区を設定し、これを攻撃対照区(7区)とした。
【0208】
【表11-1】
【0209】
【表11-2】
【0210】
7日齢時および21日齢時に上記の方法で免疫を行い、28日齢時に3.5 logEID50の強毒ヘテロ株を気管内接種(50 μL/羽)して攻撃した。臨床症状を観察しつつ、35日齢に剖検して気管と腎臓を採材した。
【0211】
(2)評価項目
ア.気管線毛運動スコアによる評価
上記4.を参照。有意差検定はDunnettの多重比較検定法で行った。
イ.臓器中のウイルス遺伝子の定量
上記4.を参照。有意差検定はStudent-t検定法で行った。
【0212】
<結果>
(1)気管線毛運動スコアによる評価
攻撃対照区(7区)と比較して、すべての試験区で気管線毛運動スコアが有意に低下した(P<0.01)(図11-1)。抗原濃度、投与量および投与時間の条件は同一とし、閉鎖環境(1区)と開放環境(2区)を比較した結果、平均スコアは同程度であったが、試験区間内でのバラツキは2区の方が大きかった。また、2区と比較して、投与量を増加した4区と投与時間を延長した5区では、平均スコアは同程度であったが、試験区内でのバラツキが小さくなった。すべての免疫区(1-6区)で10羽中7~9羽の個体別スコアは1未満であり、スコア2以上の個体は認めなかった(表11-3)。
【0213】
【表11-3】
【0214】
(2)臓器中のウイルス遺伝子の定量
攻撃対照区(7区)と比較して、すべての免疫区(1-6区)で気管と腎臓のウイルス遺伝子量は有意に低下し(P<0.01)、免疫区(1-6区)のウイルス遺伝子量は同程度であった(図11-2)。
【0215】
<結論>
IBV-rNp-DSSの噴霧投与は閉鎖環境と開放環境で同程度の有効性を認めた。また、1羽あたりのIBV-rNp-DSS投与量の増量と投与時間の延長は、個体間のバラツキを小さくすることに有効であることが示唆された。
【0216】
12.試験ワクチンの投与方法の検討(4)
<目的>
IBV-rNp-DSSの噴霧投与における投与時期、投与間隔および投与量の条件検討を行った。
【0217】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定および試験スケジュールは表12-1, 表12-2のとおり。免疫区では、ニワトリ輸送カゴ(内径W750×D500×H280)にSPFひなを5羽収容して(収容密度0.076m2/羽)、上方約50cm程度から鶏の頭部に向けてIBV-rNp-DSSを噴霧投与した。噴霧投与には生ワクチン用動力噴霧器(ニューコン607)を用いた。噴霧投与後はニワトリ用アイソレーターに移して飼育した。その他、攻撃のみを行う試験区を設定し、これを攻撃対照区(4,8,12区)とした。免疫区では表1の日齢で2回の免疫を行い、2回目免疫の7日後に3.5 logEID50の強毒ヘテロ株を気管内接種(50 μL/羽)して攻撃した。臨床症状を観察しつつ、攻撃7日後に剖検して気管と腎臓を採材した。
【0218】
【表12-1】
【0219】
【表12-2】
【0220】
(2)評価項目
ア.気管線毛運動スコアによる評価
上記4.を参照。有意差検定はDunnettの多重比較検定法で行った。
イ.臓器中のウイルス遺伝子の定量
上記4.を参照。有意差検定はStudent-t検定法で行った。
【0221】
<結果>
(1)気管線毛運動スコアによる評価
攻撃対照区と比較して、抗原量100ng/dose以上である0日齢-7日齢の免疫区(1-2区)、0日齢-14日齢の免疫区(5-6区)および7日齢-21日齢の免疫区(9-10区)において気管線毛運動スコアが有意に低下した(P<0.01またはP<0.05)(図12-1)。一方、抗原量25ng/dose(3,7,11区)では、投与間隔が14日間である7区と11区でのみ気管線毛運動スコアが有意に低下した(P<0.05)。同一試験区における気管線毛運動スコアのバラツキは、0日齢-7日齢の免疫区(1-3区)および投与時期に関わらず抗原量25ng/doseの免疫区(3,7,11区)において、やや大きい傾向を認めた(表12-3)。
【0222】
【表12-3】
【0223】
(2)臓器中のウイルス遺伝子の定量
結果を図12-2に示す。攻撃対照区と比較して、気管のウイルス遺伝子量は抗原量100ng/dose以上の免疫区(1-2, 5-6, 9-10区)において有意に低下した(P<0.01またはP<0.05)。一方、腎臓のウイルス遺伝子量は1区を除く抗原量100ng/dose以上の免疫区(2, 5-6, 9-10区)において有意に低下した(P<0.01またはP<0.05)。
【0224】
<結論>
IBV-rNp-DSSの噴霧投与時の最適条件として、初回投与時期は0日齢あるいは7日齢、投与間隔は14日間、抗原量が100ng/dose以上で高い発症低減効果を認めた。IBVは環境中に広く浸潤しており、鶏ひなへの早期の免疫付与が重要な疾病であることから、IBV-rNp-DSSの投与モデルとして『0日齢および14日齢の2回投与で、抗原量100ng/dose』の条件が適当であると考えられた。
【0225】
13.試験ワクチンの有効性の評価(4)
<目的>
IBV感染による産卵異常に対するIBV-rNp-DSSの有効性を評価した。
【0226】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定および試験スケジュールは表13-1, 表13-2のとおり。各区25週齢のSPF採卵鶏を12羽供試し、単飼ケージ(H965×W393×D193mm)で約11週間飼育した。ワクチン試験区では25週齢時および27週齢時にIBV-rNp-DSSを噴霧投与(0.5μg/100μL/羽)した。追加免疫から1週後の28週齢時にワクチン試験区および攻撃対照区に対して、3.5 logEID50の強毒ヘテロ株を気管内接種(50 μL/羽)して攻撃した。臨床症状および産卵成績を観察しつつ、経時的に口腔スワブおよびクロアカスワブおよび血清を採材した。また、攻撃後7日目に各区2羽、攻撃後57日目に各区10羽を剖検して臓器(気管・腎臓、卵管)を採材した。
【0227】
【表13-1】
【0228】
【表13-2】
【0229】
(2)評価項目
ア.産卵成績の評価
個体別の産卵成績を毎日記録した(-7~57dPI)。異常卵を認めた場合は、外部卵質および内部卵質の異常の有無を確認した。
【0230】
イ.ウイルス遺伝子定量
個体別に7, 14, 35, 57dPIの口腔およびクロアカスワブと、7, 57dPIの剖検時の気管、腎臓および卵管(膨大部)中について、リアルタイムPCRでIBV遺伝子定量を行った。有意差検定はStudent t-testで行った。
【0231】
ウ.気管線毛運動スコア
7dPIおよび57dPIの剖検時に、1羽につき5ヶ所の気管リングについて顕微鏡下で気管線毛運動を観察して、以下の指標に基づきスコア化した(0=活発に動く、1=やや弱い、2=非常に弱い/部分的に動く、3=停止)。
【0232】
エ.抗体検査(ELISA)
市販のIBエリーザキット(IDEXX社)を使用して、0, 7, 57dPI時の個体別血清についてELISA抗体価(S/P比)を測定し、試験区別に平均値を算出した。有意差検定はStudent t-testで行った。
【0233】
<結果>
(1)産卵成績の評価
試験区別の産卵率の推移は図13-1のとおり。約1週間間隔で区切った期間別の産卵率では、攻撃直後は2区で15%以上、3区で30%以上低下し、その後は両区とも徐々に産卵率が回復した(図13-2)。産卵率が90%以上に復帰するまでに要した期間は、2区では4週間、3区では6週間であった。攻撃後、連続して3日間以上産卵が停止した個体は、2区で12羽中3羽、3区で12羽中6羽であり、いずれの個体も産卵開始後に異常卵(小型卵・卵質の低下)を認め、その後は正常卵を産出した(表13-3)。
【0234】
【表13-3】
【0235】
(2)ウイルス遺伝子定量
ア.スワブ中のウイルス遺伝子量
2区では7~14dPI、3区では7~35dPIにかけて口腔/クロアカスワブからウイルス遺伝子が検出された(図13-3)。7~35dPIにおいて、2区の遺伝子量は3区に対して有意に低下していた(P<0.05またはP<0.01)。57dPIでは、すべての試験区でウイルス遺伝子は検出されなかった。
【0236】
イ.臓器中のウイルス遺伝子量
7dPIにおいて、2区および3区の気管、腎臓および卵管からウイルス遺伝子が検出された(図13-4)。2区のウイルス遺伝子量は3区よりも少ない傾向を示した。57dPIでは、すべての試験区でウイルス遺伝子は検出されなかった。
【0237】
(3)気管線毛運動スコア
7dPIにおいて、3区は2羽とも重度の気管線毛運動の抑制を認めたが、2区では抑制なしと軽度の抑制が各1羽であった(図13-5)。
【0238】
(4)抗体検査(ELISA)
7dPIおよび57dPIにおいて、2区のELISA抗体価は3区に対して有意に上昇した(P<0.05)(図13-6)。
【0239】
<結論>
攻撃後の産卵障害の発生頻度、発生期間およびウイルスの全身感染を示す各種検査成績から、ワクチン試験区は攻撃対照区よりも産卵障害の程度が軽度であり、IBリポソームワクチンは産卵障害に対して有効であることが示唆された。
【0240】
14.試験ワクチンの有効性の評価(5)
<目的>
上記12.で確立した免疫方法に基づいて、近年国内で分離された種々の遺伝子型のIBV野外ヘテロ株(5株)に対するIBV-rNp-DSSの有効性を評価した。
【0241】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定、試験スケジュールおよび供試した野外ヘテロ株はそれぞれ表14-1、表14-2、表14-3のとおり。免疫区では各区10羽、攻撃対照区では各区3羽を供試した。上記12.で確立した免疫方法に基づいて、免疫区では0日齢時および14日齢時にIBV-rNp-DSSを噴霧投与(100ng/dose)した。21日齢時に免疫区および攻撃対照区に対して3.0 logEID50種々の野外ヘテロ株を気管内接種(50 μL/羽)して攻撃した。臨床症状および産卵成績を観察しつつ、攻撃後7日目に剖検して臓器(気管・腎臓)を採材した。
【0242】
【表14-1】
【0243】
【表14-2】
【0244】
【表14-3】
【0245】
(2)評価項目
ア.気管線毛運動スコアによる評価
上記4.を参照。有意差検定はDunnettの多重比較検定法で行った。
イ.臓器中のウイルス遺伝子の定量
上記4.を参照。有意差検定はStudent-t検定法で行った。
【0246】
<結果>
(1)気管線毛運動スコア
すべての攻撃対照区で重度の気管線毛運動の抑制を認めたのに対して、免疫区では多くの個体で抑制を認めない、あるいは軽度の抑制に留まり、攻撃対照区に対して有意に平均スコアが低下した(P<0.05)(図14-1、表14-4)。
【0247】
【表14-4】
【0248】
(2)ウイルス遺伝子定量
攻撃対照区と比較して、すべての攻撃株において、免疫区の攻撃7日後における気管および腎臓中のウイルス遺伝子量は有意に低下した(P<0.05あるいはP<0.01)(図14-2)。
【0249】
<結論>
上記12.で確立した免疫方法に基づいてIBV-rNp-DSSを使用した結果、種々の遺伝子型の野外ヘテロ株(5株)に対して、いずれも高い発症低減効果を認めた。
【0250】
15.PRRSVリポソームワクチンの作製
<目的>
豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(以下、PRRSV)リポソームワクチンを作製するため、その抗原としてPRRSV株間で比較的保存性の高いヌクレオカプシド(N)タンパクの全長を遺伝子組換え大腸菌を用いて作製し、これを抗原とするPRRSリポソームワクチンを作製した。
【0251】
<材料と方法>
(1)抗原領域の決定
PRRSV株間で比較的保存性が高いことが報告されているNタンパク質(ORF7遺伝子領域)を抗原領域とした。
【0252】
(2)大腸菌発現系による組換えNタンパク質の作製
全農家畜衛生研究所で分離したPRRSV wt-7株からゲノム抽出を行い、Nタンパク質(配列番号28)をコードするORF7領域の全長(配列番号27)をPCR法で増幅させた後、His-tagを含むベクタープラスミドに挿入した。このプラスミドをクローニング用大腸菌に導入して形質転換させた。ついで、PCRで目的遺伝子の挿入を確認できた大腸菌からプラスミドを抽出し、これをタンパク質発現用大腸菌に導入して形質転換させた。この遺伝子組換え大腸菌をアンピシリン添加LB培地とIPTGを用いた発現誘導あるいは10mMラクトース加TB培地を用いた発現誘導を行い、組換えNタンパク質(以下、PRRSV-rNp)を発現させた。超音波処理で菌体を破壊した後、Hisタグによるアフィニティー精製を行った。SDS-PAGEを行い、想定される分子量の位置にタンパク質が発現していることを確認した。
【0253】
RT-PCR及び目的遺伝子挿入の確認のPCRに使用したプライマーは下記の通りである。
Fw: CCCCATATGGCCATGCCAAATAACAACGGCAA(配列番号29、下線はNdeI認識部位)
Rv: TTTGGATCCTCATGCTGAGGGTGATGATA(配列番号30、下線はBamHI認識部位)
【0254】
使用した試薬類等は下記の通りである。
核酸抽出: QIAamp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN社)
PCR装置: PCR Thermal Cycler Dice(登録商標) Gradient(TP600)(TaKaRa社)
DNAのゲル精製: QIAquick Gel Extraction Kit (QIAGEN)
制限酵素:NdeIおよびBamHI(Takara社)
ベクタープラスミド: pET-15b(Novagen)
コンピテントセル: クローニング用としてE.coli JM109株(TaKaRa社)、タンパク質発現用としてE.coli BL21(DE3)株(バイオダイナミクス研究所)を使用した。
ライゲーション: Ligation high (TOYOBO)
シークエンス解析: 株式会社ファスマックに外注依頼
Hisタグによるアフィニティー精製: Profiniaタンパク質精製システム(バイオ・ラッド社)
【0255】
(3)リポソーム化
上記1.(2)イ.(DSS法による抗原のリポソーム化)と同じ方法でPRRSV-rNpをリポソーム表面に結合させてPRRSリポソームワクチン(以下、PRRSV-rNp-DSS)を作製した。
【0256】
<結果>
(1)抗原領域の探索
PRRSV wt-7株のORF7領域全長の塩基配列は配列番号27のとおり。
【0257】
(2)大腸菌発現系による組換えタンパク質の作製
ア.遺伝子組換え大腸菌の作製
PRRSV wt-7株から抽出したtotal RNAを鋳型としてRT-PCRを行い、目的とする遺伝子断片の増幅を確認した。組換えNタンパク質(rNp)については、アンプリコンとプラスミドベクター(pET-15b)をそれぞれ同じ2種類の制限酵素領域(NdeIおよびBamHI)でライゲーションした後、シークエンス解析で正常に挿入されていることを確認した。このプラスミドベクターをクローニング用大腸菌(JM109)に形質転換した後、培養して増幅したプラスミドを回収した。これを発現用大腸菌BL21(DE3)株に形質転換して、PRRSV-rNp発現用組換え大腸菌を作製した。
【0258】
イ.組換えタンパク質の発現誘導および精製
アンピシリン添加液体LB培地で前培養したPRRSV-rNp発現用組換え大腸菌をアンピシリン添加LB培地に1/100量添加し、37℃で3時間振盪培養した。培養開始後O.D.600が0.5に達した時点で、IPTG(終濃度1mM)を添加して発現誘導を行い、さらに3時間振盪培養した。あるいは、アンピシリン添加液体LB培地で一晩培養したPRRSV-rNp発現用組換え大腸菌を10mMラクトース加TB培地に約1/100量加え、25℃で3日間振盪培養した。これらの培養菌液を3000rpm,40min,4℃で遠心して菌体ペレットを回収し、結合バッファー(20mMTris、500mM NaCl、20mMイミダゾール、pH7.4)で再懸濁した後、菌体を超音波破砕した。ついで、6,000rpm, 30分遠心分離をして可溶化画分(上清)を回収し、アフィニティー精製を行って目的とするPRRSV-rNp分画を回収した。抗原へのタグ修飾(His-tag)の影響から、SDS-PAGEにおける見かけの分子量は数kDa大きくなることが知られているが、SDS-PAGEおよびマウス抗PRRSV-rNp抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果、いずれも推定分子量(約14kDa)付近に明瞭なバンドが確認され、PRRSV-rNp発現量は10mMラクトース加TB培地を用いた場合の方が多かった(図15-1)。
【0259】
ウ.リポソームワクチン化(上記2.と同様)
1 coupling反応あたり、凍結乾燥されたDSS結合オレイン酸リポソーム粉末(90 mg lipid/vial)を 蒸留水で復水して総量2 mlとし、これに10 mg/mlに調整した抗原を0.5 ml加えた後、スターラーで室温にて48時間撹拌した。3 coupling反応を実施した。CL-4B(4%架橋アガロースゲル)を充填したカラムをPBSで平衡化した後に、抗原-リポソーム混合液を加えて、分子ふるい効果により抗原結合済みリポソーム画分を回収した(9 ml/coupling)。これをフィルター濾過(0.45μm)したものを試験ワクチン(PRRSV-rNp-DSS)とした。最終的に回収された試験ワクチンの液量は25 ml程度であった。
【0260】
<結論>
遺伝子組換え大腸菌を用いて、PRRSV wt-7株を鋳型とするPRRSV-rNpを作製し、これを抗原とするPRRSV-rNp-DSSを作製した。PRRSV-rNp-DSSの免疫原性については以降の動物試験で評価する。
【0261】
16.マウスを用いたPRRSリポソームワクチンの免疫原性の評価
<目的>
マウスを用いて上記15.で作製したPRRSリポソームワクチンPRRSV-rNp-DSSの免疫原性を評価した。
【0262】
<材料と方法>
(1)動物試験
試験区の設定および試験スケジュールはそれぞれ表15-1、図16-1のとおり。3週齢のBALB/cCrSlcマウス(以下、BALB/cマウス)と、C57BL/6NCrSlc(以下、B6マウス)の異なる2系統のマウスを導入して、4週齢時から免疫を開始した。各免疫材料をマウスのフットパッドに2週間間隔で計3回投与し、経時的に採血と剖検を行った。
【0263】
【表15-1】
【0264】
(2)評価項目
ア.ELISPOTによる抗原特異的リンパ球活性の評価
Mouse IFN-γ ELISPOT BASIC(MABTECH社)を使用した。3回免疫終了1週後(35dPI)に3匹を剖検して脾臓を採材し、脾細胞浮遊液(5×105cells/mL)に、刺激抗原としてPRRSV-rNpを2μg/well添加して、37℃の5%CO2インキュベータで24時間培養した。刺激抗原に反応して活性化したリンパ球はIFN-γを産生し、その部位はwell上にスポットとして認められた。このスポット数を計測して抗原特異的Mouse IFN-γ産生誘導能を評価した。
【0265】
イ.ELISAによる抗体誘導能の評価
経時的に採材したマウス血清とHRP標識ヤギ抗ニワトリIgG, IgG1およびIgG2a(BETHYL社)を用いて、PRRSV-rNpを抗原としたELISAでIgG、IgG1およびIgG2aを測定した。
【0266】
ウ.中和抗体誘導能の評価
上記のELISAでPRRSV-rNpに対する抗体価の上昇を認めた3,4,7,8区の血清について、MARC145細胞とPRRSV wt-7株を用いた中和試験により中和抗体価を測定した。
【0267】
3.結果
(1)IFN-γ産生誘導能の評価
ELISPOTアッセイで脾臓中のリンパ球におけるIFN-γ産生誘導能を評価した結果、PRRSV-rNp-DSSを投与した4区と8区において、刺激抗原(PRRSV-rNp)に反応したスポット数の増加を認めた(図16-2, 図16-3)。
【0268】
(2)抗体誘導能の評価
PRRSV-rNpを抗原としたIgG、IgG1およびIgG2a に対するELISAを行った結果、PRRSV-rNp投与区(3,7区)およびPRRSV-rNp-DSS投与区(4,8区)においてPRRSV-rNpに対する抗体上昇を確認した(図16-4, 図16-5, 図16-6)。BALB/cマウスとB6マウスで抗体価の上昇の程度に違いが見られたが、これは、BALB/cではIgG1が、B6ではIgG2aがIgGの主成分であるためと考えられた。
【0269】
(3)中和抗体誘導能の評価
ELISAでPRRSV-rNpに対する抗体価の上昇が認めた3,4,7,8区の血清サンプルについて中和抗体価の測定を実施したが、いずれのサンプルにおいても中和抗体価の上昇は認められなかった(表15-2)。これはPRRSVのNタンパク質は中和活性領域ではないためと考えられた。
【0270】
【表15-2】
【0271】
<結論>
PRRSV-rNp-DSSを投与したマウスにおいてIFN-γ産生リンパ球の活性化と抗体誘導を認めたことから、PRRSV-rNp-DSSには一定の免疫原性があることが確認された。
【0272】
17.豚を用いたPRRSリポソームワクチンの有効性の評価
<目的>
豚を用いて上記15.で作製したPRRSリポソームワクチンPRRSV-rNp-DSSの有効性を評価した。
【0273】
2.材料と方法
(1)動物試験
試験区の設定および試験スケジュールはそれぞれ表16-1、図17-1のとおり。3週齢のSPF豚を導入して、4週齢時から免疫を開始した。免疫区ではPRRSV-rNp-DSSを2週間間隔で計3回頸部筋肉内に注射した。免疫開始後から試験終了時まで経時的に採血を実施した。3回目の免疫1週間後の9週齢時(35dPI)に105.0TCID50/mLのPRRSV wt-7株を1頭あたり2mL経鼻投与(片鼻1mLずつ)して攻撃した。攻撃から20日後の12週齢時(55dPI)に剖検して肺を採材した。

【0274】
【表16-1】
【0275】
(2)評価項目
ア.体温測定
0dPCから20dPCにかけて毎日体温を測定した。
【0276】
イ.血中ウイルス遺伝子量
1dPCから12dPCにかけて経時的に採材した血液について、リアルタイムPCRでウイルス遺伝子量を測定した。
【0277】
ウ.ELISPOTによる抗原特異的リンパ球活性の評価
Porcine IFN-γ ELISpot BASIC (HRP)(MABTECH社)を使用した。0dPCから20dPCにかけて経時的に採材した血液からPBMCを調整して、PBMC浮遊液(3.0×105cell/well)に、刺激抗原としてPRRSV-rNpを2μg/well添加して、37℃の5%CO2インキュベータで24時間培養した。刺激抗原に反応して活性化したリンパ球はIFN-γを産生し、その部位はwell上にスポットとして認められた。このスポット数を計測して抗原特異的Porcine IFN-γ産生誘導能を評価した。
【0278】
エ.ELISAによる抗原特異的リンパ球活性の評価
Porcine IFNγ Mab,cloneP2F6(Thermo Scientific社)とBiotin Mouse Anti-Pig IFNγ Clone P2C11(BD Biosciences社)を用いたサンドイッチ ELISAによってPorcine IFN-γを検出した。0dPCから20dPCにかけて経時的に採材した血液からPBMCを調整して、PBMC浮遊液(2.0×106cell/well)に刺激抗原としてPRRSV-rNpを20μg/well添加して、37℃の5%CO2インキュベータで72時間培養した。その後、上清を回収してサンドイッチELISAでPorcine IFN-γを検出した。
【0279】
オ.病理組織学的検査
20dPCに採材した肺について病理組織学的検査を行い、病変の程度をスコア化した。スコア化はP. G. HALBUR,et.al. Comparison of the Pathogenicity of Two US Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome Virus Isolates with that of the Lelystad Virus.Veterynary Pathology 32:648-660(1995)に準じて実施した。
【0280】
カ.ELISAによる抗体誘導能の評価
経時的に採材した血清について、ELISAでPRRSV-rNpに対する抗体を測定した。二次抗体としてHRP標識ウサギ抗ブタIgG(MP Biomedicals社)を用いた。
【0281】
<結果>
ア.体温測定
個体間のバラツキがあるものの、攻撃後の体温は免疫区の方が低い傾向を示し、11dPCおよび12dPCでは有意に低下した(図17-2)。
【0282】
イ.血中ウイルス遺伝子量
免疫区の血中ウイルス遺伝子量は、対照区と比較して1dPCにおいて有意に低下したが、6dPC以降は同程度であった(図17-3)。
【0283】
ウ.ELISPOTによる抗原特異的リンパ球活性の評価
免疫区において、0dCPから20dPCにかけてPRRSV-rNpに特異的に反応したリンパ球の活性を認め、その程度は免疫区において高い傾向を認めた(図17-4)。
【0284】
エ.ELISAによる抗原特異的リンパ球活性の評価
免疫区において、0dCPから20dPCにかけてPRRSV-rNpに特異的に反応したリンパ球の活性を認め、その程度は免疫区において高い傾向を認めた(図17-5)。
【0285】
オ.病理組織学的検査
免疫区において肺病変スコアが低い傾向を認めた(図17-6)。
【0286】
カ.ELISAによる抗体誘導能の評価
2回目の免疫以降(28dPI)、免疫区で特異抗体の誘導を認めた(図17-7)。攻撃後は免疫区で抗体価が顕著に上昇した。
【0287】
<結論>
PRRSV-rNp-DSSで免疫した豚ではPRRSV-rNp特異的な免疫応答を認め、攻撃後の発熱、血中ウイルス遺伝子量および肺の病変が軽減する傾向を認めた。
図1
図2
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図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
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図5-3】
図5-4】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
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図7-4】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
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図13-4】
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図14-1】
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図16-3】
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図16-5】
図17-1】
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図17-3】
図17-4】
図17-5】
図17-6】
図17-7】
【配列表】
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