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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】植物の病害防除方法および病害防除装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20230511BHJP
   A01G 22/05 20180101ALI20230511BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
A01G22/05 A
A01G22/05 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021545630
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2020034567
(87)【国際公開番号】W WO2021049640
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2019166686
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000144991
【氏名又は名称】株式会社四国総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋三
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】石田 豊
(72)【発明者】
【氏名】垣渕 和正
(72)【発明者】
【氏名】秦 亜矢子
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-230122(JP,A)
【文献】特開2006-271374(JP,A)
【文献】特開2006-244910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 22/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、放射照度または照射時間の少なくとも一方を自動的に調節して照射することを特徴とする植物の病害防除方法。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【請求項2】
栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、照射時間の変動に対応して放射照度を自動的に調節して照射することを特徴とする植物の病害防除方法。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【請求項3】
栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式4で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射することを特徴とする植物の病害防除方法。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式4:Y=644893X -1.873
【請求項4】
栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式5で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射することを特徴とする植物の病害防除方法。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式5:Y=41491X -1.848
【請求項5】
栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式6で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射することを特徴とする植物の病害防除方法。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式6:Y=5901.9X -1.856
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の植物の病害防除方法を、1日間から14日間に1度の頻度で行うことを特徴とする植物の病害防除方法。
【請求項7】
栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、
放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を自動制御によって調節できる調節手段と、
を備えたことを特徴とする植物の病害防除装置。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【請求項8】
栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、
放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、上記光源から照射される近赤外光の照射時間の変動に対応して放射照度を自動制御によって調節できる調節手段と、
を備えたことを特徴とする植物の病害防除装置。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【請求項9】
栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、
放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式4で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段と、
を備えたことを特徴とする植物の病害防除装置。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式4:Y=644893X -1.873
【請求項10】
栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、
放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式5で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段と、
を備えたことを特徴とする植物の病害防除装置。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式5:Y=41491X -1.848
【請求項11】
栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、
放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式6で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段と、
を備えたことを特徴とする植物の病害防除装置。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式6:Y=5901.9X -1.856
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培中の病害を防除する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の病害を防除するために光を照射する方法は、農薬を用いないため、特に収穫後に食用に供される植物である場合には、安全性が高いため市場での需要が大きい。
【0003】
特許文献1(特許第6061124号公報)には、栽培中の農作物に対して、中心波長が740nm程度の近赤外光を終日連続照射することで、うどんこ病の発生を抑制する方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2(特許第5927015号公報)には、400~750nmの波長域の光を1~10時間程度植物に照射するとともに、植物の病害防除効果を有する微生物を添加した養液で栽培を行う、養液栽培植物の病害防除方法が記載されている。
【0005】
特許文献1に記載された技術は、栽培中の植物に対して、所定の波長域の近赤外光を照射するという簡単な方法によって、うどんこ病の発生を抑制できる点で優れている。また、近赤外光は、紫外光のように人体(特に目)に悪影響を及ぼすことがなく、さらに、植物の日長反応に影響を及ぼさないため植物の生育状態や生育速度を変えない点でも優れている。
しかし、特許文献1の技術は、近赤外光を植物に対して終日連続照射しなければならないため、植物の栽培面積の全体を照射できる常設の照射装置が必要であり、特に、果樹などの露地栽培する比較的に大きな植物に対して適用するには、多数の近赤外光の光源を備えた大型の照射装置が必要であり、装置の設置と維持のために多額の費用を要するという問題がある。
【0006】
また、特許文献2に記載された技術は、光の照射に加えて微生物を添加した養液で栽培する必要があるため、養液の供給装置の設置と維持のために多額の費用を要するとともに、露地栽培には適用できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6061124号公報
【文献】特許第5927015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、植物の病害の防除効果を発揮する近赤外光の波長、および、放射照度(照射光強度)と照射時間との関係を明確にすることで、栽培中の植物に照射する近赤外光の放射照度と照射時間を適正に管理することを容易にして、露地栽培する比較的大きな植物に対して、近赤外光を光源の少ない小型の照射装置によって照射する場合のように、一般的に放射照度と照射時間の管理が難しい状況でも、適正に管理して病害の防除効果を得ることができる植物の病害防除方法と病害防除装置を提供することを課題とする。
さらに、植物に対する近赤外光の過多照射および過少照射を防ぐことができ、光エネルギーを効率的に使用して低コスト(低消費電力)で病害の防除効果を得ることができる植物の病害防除方法と病害防除装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の手段により解決された。
【0010】
〔1〕 栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、放射照度または照射時間の少なくとも一方を自動的に調節して照射することを特徴とする植物の病害防除方法。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0011】
〔2〕 栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、照射時間の変動に対応して放射照度を自動的に調節して照射することを特徴とする植物の病害防除方法。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0012】
〔3〕 栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式4で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射することを特徴とする植物の病害防除方法。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式4:Y=644893X -1.873
【0013】
〔4〕 栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式5で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射することを特徴とする植物の病害防除方法。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式5:Y=41491X -1.848
【0014】
〔5〕 栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式6で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射することを特徴とする植物の病害防除方法。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式6:Y=5901.9X -1.856
【0015】
〔6〕 上記〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の植物の病害防除方法を、1日間から14日間に1度の頻度で行うことを特徴とする植物の病害防除方法。
【0016】
〔7〕 栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、
放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を自動制御によって調節できる調節手段と、
を備えたことを特徴とする植物の病害防除装置。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0017】
〔8〕 栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、
放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、上記光源から照射される近赤外光の照射時間の変動に対応して放射照度を自動制御によって調節できる調節手段と、
を備えたことを特徴とする植物の病害防除装置。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0018】
〔9〕 栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、
放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式4で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段と、
を備えたことを特徴とする植物の病害防除装置。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式4:Y=644893X -1.873
【0019】
〔10〕 栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、
放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式5で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段と、
を備えたことを特徴とする植物の病害防除装置。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式5:Y=41491X -1.848
【0020】
〔11〕 栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、
放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ式6で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段と、
を備えたことを特徴とする植物の病害防除装置。
式1:644893X -1.873 ≧Y≧5901.9X -1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
式6:Y=5901.9X -1.856
【発明の効果】
【0021】
上記〔1〕に記載の植物の病害防除方法によれば、植物の病害の防除効果を発揮する近赤外光の波長の範囲、および上記の式1,式2および式3によって表される近赤外光の放射照度と照射時間との関係が明確であるため、植物に照射する近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を自動的に調節することができる。したがって、露地栽培する比較的大きな植物に対して、近赤外光を光源の少ない小型の照射装置によって照射する場合のように、一般的に放射照度と照射時間の管理が難しい状況でも、過多照射や過少照射になることなく適量の照射を行うことができ、植物の病害を効果的に防除することができる。
【0022】
また、上記〔1〕に記載の植物の病害防除方法によれば、植物の病害の防除効果が得られる近赤外光の波長の範囲と、近赤外光の放射照度と照射時間との関係が明確であるため、植物に対する近赤外光の過多照射および過少照射を防ぐことができ、光エネルギーを効率的に使用して低コスト(低消費電力)で病害の防除効果を得ることができる。また、近赤外光の過多照射を防ぎ得ることで、光源の長寿命化を図ることができる。
【0023】
なお、上記〔1〕に記載の発明の実施による植物の病害の防除効果は、1度の実施で14日間程度継続する。
また、上記〔1〕に記載の発明における植物の病害の防除効果が得られる近赤外光の波長の範囲、および上記の式1,式2および式3によって表される近赤外光の放射照度と照射時間との関係、すなわち病害の防除処理の好適条件は、本発明によって初めて明らかにされたものであり、その詳細は後述する。
【0024】
本発明において植物に照射する近赤外光は、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含むものであればよく、1つのピーク波長を持つものであっても、異なる2つ以上のピーク波長を持つものであってもよい。また、照射する近赤外光の中心波長が800~1000nmの波長領域内に存在することが望ましい。
【0025】
上記〔2〕に記載の植物の病害防除方法によれば、近赤外光の照射時間の変動に対応して放射照度を自動的に調節するため、例えば、圃場等で栽培される植物に対して近赤外光の照射作業を行う作業者が、不慣れな者等であって、照射時間に気を配ることができないような場合でも、過多照射や過少照射になることなく適量の照射を行うことができ、植物の病害を効果的に防除することができる。
【0026】
上記〔3〕に記載の植物の病害防除方法は、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ上記の式4「Y=644893X -1.873 」で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射する植物の病害防除方法である。
係る式4「Y=644893X -1.873 」は、図1に示す回帰直線LAを表す回帰式(関数)である。
【0027】
このような上記〔3〕に記載の植物の病害防除方法によれば、上記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲内において、上記の式4で表される関数に凡そ基づいて、近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を調節する場合に、一般的な制御手段を用いることでその調節を自動化できるため便宜である。
【0028】
上記〔4〕に記載の植物の病害防除方法は、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ上記の式5「Y=41491X -1.848 」で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射する植物の病害防除方法である。
係る式5「Y=41491X -1.848 」は、図1に示す回帰直線LBを表す回帰式(関数)である。
【0029】
このような上記〔4〕に記載の植物の病害防除方法によれば、上記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲内において、上記の式5で表される関数に凡そ基づいて、近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を調節する場合に、一般的な制御手段を用いることでその調節を自動化できるため便宜である。
【0030】
上記〔5〕に記載の植物の病害防除方法は、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ上記の式6「Y=5901.9X -1.856 」で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射する植物の病害防除方法である。
係る式6「Y=5901.9X -1.856 」は、図1に示す回帰直線LCを表す回帰式(関数)である。
【0031】
このような上記〔5〕に記載の植物の病害防除方法によれば、上記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲内において、上記の式6で表される関数に凡そ基づいて、近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を調節する場合に、一般的な制御手段を用いることでその調節を自動化できるため便宜である。
【0032】
上記〔6〕に記載の植物の病害防除方法によれば、上記〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の植物の病害防除方法を、1日間から14日間に1度の頻度で行うので、上記のとおり、1度の実施で14日間程度継続する上記〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の発明による植物の病害の防除効果を、途切らすことなく維持することができる。
【0033】
上記〔7〕に記載の植物の病害防除装置によれば、植物の病害の防除効果を発揮する近赤外光の波長の範囲、および上記の式1,式2および式3によって表される近赤外光の放射照度と照射時間との関係が明確であるため、植物に照射する近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を自動制御によって調節して、植物の病害を効果的に防除することができる。
【0034】
また、かかる植物の病害防除装置によれば、植物に照射する近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を自動制御によって調節することで、過多照射を防いで、低コスト(低消費電力)化を図ることができるとともに、光源の長寿命化を図ることができる。
【0035】
上記〔8〕に記載の植物の病害防除装置によれば、光源から照射される近赤外光の照射時間の変動に対応して、放射照度を自動制御によって調節できるため、例えば、圃場等で栽培される植物に対して近赤外光の照射作業を行う作業者が、不慣れな者等であって、照射時間に気を配ることができないような状況でも、過多照射や過少照射になることなく適量の照射を行うことができ、植物の病害を効果的に防除することができる。
【0036】
上記〔9〕に記載の植物の病害防除装置は、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ上記の式4「Y=644893X -1.873 」で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段と、を備えた植物の病害防除装置である。
係る式4「Y=644893X -1.873 」は、図1に示す回帰直線LAを表す回帰式(関数)である。
【0037】
このような上記〔9〕に記載の植物の病害防除装置によれば、上記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲内において、上記の式4で表される関数に凡そ基づいて、近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を調節する場合に、一般的な制御手段を用いることでその調節を自動化できるため便宜である。
【0038】
上記〔10〕に記載の植物の病害防除装置は、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ上記の式5「Y=41491X -1.848 」で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段と、を備えた植物の病害防除装置である。
係る式5「Y=41491X -1.848 」は、図1に示す回帰直線LBを表す回帰式(関数)である。
【0039】
このような上記〔10〕に記載の植物の病害防除装置によれば、上記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲内において、上記の式5で表される関数に凡そ基づいて、近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を調節する場合に、一般的な制御手段を用いることでその調節を自動化できるため便宜である。
【0040】
上記〔11〕に記載の植物の病害防除方法は、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、放射照度(W/m )をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ上記の式6「Y=5901.9X -1.856 」で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段と、を備えた植物の病害防除装置である。
係る式6「Y=5901.9X -1.856 」は、図1に示す回帰直線LCを表す回帰式(関数)である。
【0041】
このような上記〔11〕に記載の植物の病害防除方法によれば、上記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲内において、上記の式6で表される関数に凡そ基づいて、近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を調節する場合に、一般的な制御手段を用いることでその調節を自動化できるため便宜である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】近赤外光の放射照度と照射時間との関係が、トマト灰色かび病の防除効果に与える影響を示すグラフである。
図2】近赤外光の放射照度と照射時間との関係が、イチゴうどんこ病の防除効果に与える影響を示すグラフである。
図3】近赤外光の放射照度と照射時間との関係が、イチゴうどんこ病の防除効果に与える影響を示すグラフである。
図4】近赤外光の放射照度と照射時間との関係が、トマトうどんこ病の防除効果に与える影響を示すグラフである。
図5】近赤外光の放射照度と照射時間との関係が、トマト灰色かび病の防除効果に与える影響を示すグラフである。
図6】近赤外光の放射照度と照射時間との関係が、トマト灰色かび病の防除効果に与える影響を示すグラフである。
図7】近赤外光の放射照度と照射時間との関係が、トマト葉かび病の防除効果に与える影響を示すグラフである。
図8】近赤外光の放射照度と照射時間との関係が、キュウリべと病の防除効果に与える影響を示すグラフである。
図9】本発明の第1の実施形態に係る植物の病害防除装置の説明側面図である。
図10】本発明の第1の実施形態に係る植物の病害防除装置の使用状態を示す説明図である。
図11】本発明の第2の実施形態に係る植物の病害防除装置の使用状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の植物の病害防除方法および病害防除装置の実施形態を説明する。なお、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
また、本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0044】
本発明の植物の病害防除方法および病害防除装置は、本発明者らが、植物の病害の防除効果を発揮する近赤外光の波長、および放射照度と照射時間との関係を解明したことにより完成したものである。
【0045】
本発明の適用対象となる植物は、農業的手法によって栽培される植物全般を含む。
また、本発明における植物の病害は、主に菌類によって引き起こされるものであり、このような病原菌類としては、子のう菌類、担子菌類、鞭毛菌類、卵菌類および不完全菌類が挙げられる。例えば、子のう菌類であるイチゴうどんこ病菌(Sphaerotheca aphanis)およびトマトうどんこ病菌(Oidium属菌およびOidiopsis属菌)、卵菌類であるキュウリべと病菌(Pseudoperonospora cubensis)、不完全菌類であるトマト葉かび病菌(Fulvia fulva)およびトマト灰色かび病菌(Botrytis cinerea)などである。ただし、これらは例示にすぎず、本発明においてはこれらに限定されない。
【0046】
本発明において栽培中の植物に対し照射する近赤外光は、800~1000nmの波長領域内で任意に設定された波長を含む近赤外光であり、レーザーのような単波長のものでもよいし、蛍光灯やLED等のような波長分布を有するものでもよい。また、1つのピーク波長を持つものであっても、異なる2つ以上のピーク波長を持つものであってもよいが、照射する近赤外光の中心波長が800~1000nmの波長領域内に存在することが望ましい。中心波長が800nm未満の近赤外光と、中心波長が1000nmを超える近赤外光は、いずれも植物の病害防除効果を十分に発揮しない場合があるからである。
【0047】
かかる近赤外光を照射できる照射器具としては、例えば、発光ダイオード(LED)、蛍光管、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、ネオン管、無機エレクトロルミネッセンス、有機エレクトロルミネッセンス、ケミルミネッセンス(化学発光)、レーザーなどが使用できる。また、800~1000nmの波長領域内で任意に設定された波長のみを透過する分光フィルターを透過させた光源から発せられる光または太陽光でもよい。
【0048】
[1.植物の病害防除方法]
本発明の植物の病害防除方法では、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、次の式1,式2および式3の全てを満たすように照射する必要がある。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0049】
かかる式1,式2および式3は、多種類の植物において病害防除効果を発揮し得る近赤外光の放射照度Xと照射時間Yとの関係を表しており、本発明の発明者らが、多種類の植物を用いた多数の試験の結果に基づき、本発明によって初めて明らかにしたものである。
【0050】
上記の式1に含まれる回帰式「Y=644893X-1.873」は、図1の両対数グラフにおいて回帰直線LAで表される。ここで、放射照度Xおよび照射時間Yで示される座標が、回帰直線LAよりも上方に存在する場合は、植物に対する近赤外光の過多照射に該当する。
近赤外光の過多照射の場合、放射照度または照射時間が必要量を超えており、十分な病害の防除効果が得られない。また、必要量を超えた分の近赤外光を作るために要した電力が無駄になり、さらに、光源の寿命が短くなるため好ましくない。
【0051】
また、上記の式1に含まれる回帰式「Y=5901.9X-1.856」は、図1の両対数グラフにおいて回帰直線LCで表される。ここで、放射照度Xおよび照射時間Yで示される座標が、回帰直線LCよりも下方に存在する場合は、植物に対する近赤外光の過少照射に該当する。近赤外光の過少照射の場合、十分な病害防除効果が得られない。
なお、図1に示す回帰直線LBは、回帰式「Y=41491X-1.848」を表しており、植物の病害防除効果が最も高い放射照度と照射時間の関係を示すものである。
【0052】
さらに、植物への近赤外光の照射において、放射照度が1W/m未満の場合には、照射時間を相当に長くしなければ十分な病害防除効果が得られない。そのため、植物を栽培する圃場などにおいて、放射照度を1W/m未満にして照射処理を行うことは実際的ではない。
また、植物への近赤外光の照射時間が0.01秒未満の場合には、放射照度を相当に大きくしなければ十分な病害防除効果が得られない。そのため、照射時間を0.01秒未満にして照射処理を行うことは実際的ではない。
【0053】
そうすると、図1において、回帰直線LA,回帰直線LC,X=1およびY=0.01の4本の直線に囲まれた範囲内に座標が存在するような放射照度および照射時間で植物に対して近赤外光を照射すれば、病害防除効果が得られるといえる。
かかる照射条件を式で表すと、上記の式1,式2および式3の全てを満たす場合であり、このように植物に対して近赤外光を照射すれば、病害防除効果が得られるといえる。
【0054】
上記の植物の病害防除効果が得られる近赤外光の波長の領域(800~1000nm)、および上記の式1、式2および式3によって表される近赤外光の放射照度と照射時間との関係、すなわち病害防除処理の好適条件は、多くの植物に共通している。
本発明による植物の病害防除効果を得るためには、かかる病害防除処理の好適条件を、植物体の表面の病害が発生し易い部分において満たすように近赤外光を照射する必要がある。
【0055】
本発明の植物の病害防除方法において、近赤外光の照射は、連続照射であっても、間欠照射であってもよい。連続照射とは、例えば、近赤外光を連続して所定時間(例えば、5分間)照射することである。間欠照射とは、例えば、10秒間の照射と10秒間の非照射を、照射時間が合計5分間になるよう30回繰り返すことである。
【0056】
また、本発明の植物の病害防除方法において、近赤外光の植物への照射処理を行う際に、周囲の光環境が暗黒である必要はなく、例えば、蛍光灯やLED等の人工的な照明下でもよいし、太陽光下でもよい。但し、800~1000nmの波長領域内の近赤外光の放射照度よりも、他の波長領域の光の放射照度が強くなるような光環境下において照射処理を行うことは好ましくない。
【0057】
本発明の植物の病害防除方法の実施によって得られる病害の防除効果は、1度の実施で14日間程度継続する。したがって、本発明の植物の病害防除方法を、1日間から14日間に1度の頻度で繰り返し行えば、病害を防除する効果を途切らすことなく維持することができる。
【0058】
本発明における近赤外光の照射方法としては、例えば、植物を栽培場所が温室や水耕栽培室のような建屋の中であれば、建屋の天井や壁に設置した照射装置から近赤外光を植物に対して照射すればよい。また、植物の栽培場所が露地である場合は、近赤外光の光源を備える移動式の照射装置を使用すればよい。例えば、自動または手動で動く台車上に光源を設けた移動式照射装置や、ドローンに光源を設けて植物の上方から照射する照射装置や、懐中電灯のように人が光源を手に持って照射する小型の照射装置などを使用することができる。
【0059】
本発明の植物の病害防除方法は、植物の病害の防除効果を発揮する近赤外光の波長の範囲、および上記の式1,式2および式3によって表される近赤外光の放射照度と照射時間との関係が明確であるため、植物に照射する近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を適切に調節することで、植物の病害を効果的に防除することができる。
例えば、近赤外光の光源と照射対象の植物体との距離が離れていて、植物体表面における放射照度が低くなるような場合には、その低い放射照度でも病害防除効果が得られる程度に、照射時間を長くするよう調節することができる。
また、光源を移動させながら植物体に近赤外光を照射する際に、光源が照射対象の植物体の近傍を短時間で通過することで、その植物体表面における照射時間が短くなるような場合には、その短い照射時間でも病害防除効果が得られる程度に、放射照度を高くするように調節することができる。
【0060】
このように、放射照度と照射時間を適切に調節できる植物の病害防除方法の実施形態としては、例えば、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ「Y=41491X-1.848」で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射する植物の病害防除方法を挙げることができる。
係る式「Y=41491X-1.848」は、上述のとおり、図1に示す回帰直線LBを表す回帰式(関数)である。
【0061】
また、他の実施形態としては、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ「Y=644893X-1.873」で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射する植物の病害防除方法を挙げることができる。
係る式「Y=644893X-1.873」は、上述のとおり、図1に示す回帰直線LAを表す回帰式(関数)である。
【0062】
さらに、他の実施形態として、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を、放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ「Y=5901.9X-1.856」で表される関数に凡そ基づいて、放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節して照射する植物の病害防除方法を挙げることができる。
係る式「Y=5901.9X-1.856」は、上述のとおり、図1に示す回帰直線LCを表す回帰式(関数)である。
【0063】
以上のように、上記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲内において、上記の回帰直線LB、LAまたはLCを表す関数やその他の関数に基づいて、近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を調節する場合には、一般的な制御手段を用いることで、その調節を自動化することができる。
特に、近赤外光の照射時間の変動に対応して放射照度を自動的に調節する場合には、例えば、圃場等で栽培される植物に対して近赤外光の照射処理を行う作業者が、照射処理に不慣れな者等であって、照射時間に気を配ることができないような状況でも、過多照射や過少照射になることなく適量の照射を行うことができるため望ましい。
【0064】
[2.植物の病害防除装置]
次に、本発明の植物の病害防除装置について説明する。
本発明の植物の病害防除装置は、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、下記の式1,式2および式3の全てを満たすように、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段と、を備えたことを特徴とする。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0065】
本発明において、上記光源は、近赤外光のみを照射する光源であってもよいし、可視光とともに近赤外光を照射する光源であってもよい。可視光とともに近赤外光を照射する光源としては、例えば、白色光照射光源と近赤外光照射光源とを組み合わせた光源が挙げられ、その他、単一の光源で白色光と近赤外光とを一緒に照射可能な光源等が挙げられる。具体的には、例えば、白色LEDと近赤外LEDとを組み合わせて構成された光源を用いることにより、近赤外光の照射領域を可視化することができる。
【0066】
上記の植物の病害防除装置によれば、植物の病害の防除効果を発揮する近赤外光の波長の範囲、および上記の式1,式2および式3によって表される近赤外光の放射照度と照射時間との関係が明確であるため、上記調節手段によって、植物に照射する近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を適切に調節して、植物の病害を効果的に防除することができる。
【0067】
このように、放射照度と照射時間の一方または両方を適切に調節できる植物の病害防除装置の実施形態としては、例えば、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ「Y=41491X-1.848」で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段とを備えた植物の病害防除装置を挙げることができる。
係る式「Y=41491X-1.848」は、上述のとおり、図1に示す回帰直線LBを表す回帰式(関数)である。
【0068】
また、他の実施形態としては、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ「Y=644893X-1.873」で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段を備えた植物の病害防除装置を挙げることができる。
係る式「Y=644893X-1.873」は、上述のとおり、図1に示す回帰直線LAを表す回帰式(関数)である。
【0069】
さらに、他の実施形態として、栽培中の植物に対して、800~1000nmの波長領域内で設定された波長を含む近赤外光を照射する光源と、放射照度(W/m)をXとして照射時間(秒)をYとした場合に、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように、かつ「Y=5901.9X-1.856」で表される関数に凡そ基づいて、上記光源から照射される近赤外光の放射照度または照射時間の少なくとも一方を調節できる調節手段を備えた植物の病害防除装置を挙げることができる。
係る式「Y=5901.9X-1.856」は、上述のとおり、図1に示す回帰直線LCを表す回帰式(関数)である。
【0070】
以上のような、上記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲内において、上記の回帰直線LB、LAまたはLCを表す関数やその他の関数に基づいて、近赤外光の放射照度と照射時間の一方または両方を調節できる調節手段は、一般的な制御手段を組み入れることで、その調節手段を、自動制御によって放射照度と照射時間の一方または両方を調節できるものとすることができる。
特に、調節手段を、近赤外光の照射時間の変動に対応して放射照度を自動制御によって調節できるように構成した場合には、植物の病害防除装置を、例えば、圃場等で栽培される植物に対して近赤外光の照射処理を行う作業者が、照射処理に不慣れな者等であって照射時間に気を配ることができないような状況でも、過多照射や過少照射になることなく適量の照射を行うことができる装置とすることができるため望ましい。
【0071】
[2-1.植物の病害防除装置の実施例1]
図9および図10に示すのは、手押し車式の植物の病害防除装置(以下、「手押し車式装置」と称する。)1である。図9は手押し車式装置1の右側面図であり、図10は背面図である。
手押し車式装置1は、その装置の背面側から人が手で押し進めながら、列状に並べて植えられた多数の植物体に対し、順次に近赤外光を照射する手押し車式の植物の病害防除装置であり、基台13と、基台13の上面に立設され照射部11を右側方向に向けて支持する支持ボード12と、基台13の後部に設置されたハンドル16と、車軸19を介して基台13下部の四隅に取り付けられた4個の車輪17とからなる外観を有する。
【0072】
基台13の内部には、照射部11から照射する近赤外光の放射照度の自動制御等を行う制御部14と、車軸19の回転速度に基づいて手押し式装置1の移動速度を計測する車速センサー18と、照射部11、制御部14、および車速センサー18に電気を供給するリチウムイオン二次電池からなる電源部15とが設けてある。
【0073】
照射部11の表面には多数の近赤外LEDが列設されており、中心波長850nmの近赤外光を右側方向に照射できるようにしてある。
また、照射部11は、近赤外光を、放射照度(W/m)が植物体T1全体の略中心の位置において、放射照度をXとして照射時間(秒)をYとした場合に下記の式1,式2および式3の全てを満たすような強さで照射する。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0074】
照射部11に上記の強さで近赤外光を照射させるために、制御部14は、車速センサー18によって計測された手押し車式装置1の移動速度の変動に対応して、関数「Y=41491X-1.848」に基づいて、照射部11から照射する近赤外光の放射照度を自動的に調節するように制御する。
【0075】
手押し車式装置1によって、列状に並べて植えられた多数の植物体T1に近赤外光を照射する方法は次のとおりである。
まず初めに、列状に並べて植えられた多数の植物体T1の中から、照射作業を開始する場所に置いた手押し車式装置1に最も近い1本の植物体T1を選び、その1本の植物体T1全体の略中心位置と、手押し車式装置1の照射部11の略中心位置との距離D1を計測する。
【0076】
次に、計測した距離D1の値を制御部14に入力する。そうすると、制御部14によって、照射部11から照射する近赤外光の強さを、その放射照度(W/m)が、植物体T1全体の略中心位置において、放射照度をXとして照射時間(秒)をYとした場合に上記の式1,式2および式3の全てを満たすような強さとして算出され設定される。
【0077】
その後、照射部11を点灯するスイッチをONにして近赤外光の照射を開始し、上記の距離D1をなるべく保ちつつ、植物体T1の列に沿って、手押し車式装置1を、その背面側からハンドル16を持って、前方向Fに押し、あるいは後ろ方向Bに引いて手押し車式装置1を移動させることで、複数の植物体T1に対して順々に連続して照射作業を行う。
すると、車速センサー18が手押し車式装置1の移動速度を計測し、その計測値に基づいて、制御部14が関数「Y=41491X-1.848」によって照射部11から照射する近赤外光の強さを自動的に決定する。手押し車式装置1の移動速度が変動した場合には、即座に照射する近赤外光の強さも変更される。一般に、手押し車装置1の移動速度が低下した場合は照射する近赤外光を弱くし、逆に、移動速度が上昇した場合は照射する近赤外光を強くする。
最後に、列状に並んだ複数の植物体T1に対する近赤外光の照射作業が完了したら、照射部11を消灯する。
【0078】
かかる手押し車式装置1によれば、手押し車式装置1の移動速度の変動、すなわち照射部11から照射される近赤外光の照射時間の変動に対応して、放射照度を自動制御によって調節できるため、例えば、植物体T1に対して近赤外光の照射処理を行う作業者が、照射作業に不慣れな者等であって、照射時間に気を配ることができないような状況でも、過多照射や過少照射になることなく適量の照射を行うことができ、植物の病害を効果的に防除することができる。
【0079】
[2-2.植物の病害防除装置の実施例2]
図11に示すのは、手持ち式の植物の病害防除装置(以下、「手持ち式装置」と称する。)2である。
手持ち式装置2は、人が光源を手に持って植物体に照射することができる小型の植物の病害防除装置であり、多数の近赤外LEDが列設された照射部21、照射部21を前方向に向けて支持する支持バー22、支持バー22から下方に延設された把持部23、および支持バー22に付設され支持バーが左右方向に移動する速度を計測する加速度センサー28を備える照射ユニットUと、コード25を介して照射ユニットUと接続され、取手29を備える筐体24とからなる外観を有する。
【0080】
筐体24の内部には、照射部21から照射する近赤外光の放射照度の自動制御等を行う制御部26と、照射部21、加速度センサー28、および制御部26に電気を供給するリチウムイオン二次電池からなる電源部27とが設けてある。
【0081】
照射部21の表面に列設された多数の近赤外LEDは、中心波長850nmの近赤外光を発し、照射ユニットUの前方向に照射できるようにしてある。
また、照射部21は、近赤外光を、放射照度(W/m)が植物体T2全体の略中心の位置において、放射照度をXとして照射時間(秒)をYとした場合に下記の式1,式2および式3の全てを満たすような強さで照射する。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0082】
照射部21に上記の強さで近赤外光を照射させるために、制御部26は、加速度センサー28によって計測された支持バー22の移動速度の変動に対応して、関数「Y=41491X-1.848」に基づいて、照射部21から照射する近赤外光の放射照度を自動的に調節するように制御する。
【0083】
手持ち式装置2によって、複数の植物体T2に近赤外光を照射する方法は次のとおりである。
まず初めに、照射ユニットUを、その把持部23を手に持って、最初に照射作業を行う1本の植物体T2にかざし、その植物体T2全体の略中心位置と、照射作業が行い易い位置における照射ユニットUの照射部21の略中心位置との距離D2を計測する。
【0084】
次に、計測した距離D2の値を制御部26に入力する。そうすると、制御部26によって、照射部21から照射する近赤外光の強さを、その放射照度(W/m)が、植物体T2全体の略中心位置において、放射照度をXとして照射時間(秒)をYとした場合に上記の式1,式2および式3の全てを満たすような強さとして算出され設定される。
【0085】
その後、照射部21を点灯するスイッチをONにして近赤外光の照射を開始し、上記の距離D2をなるべく保ちつつ、照射ユニットUの支持バー22を右側または左側方向に移動させて、複数の植物体T2に対して順々に連続して照射作業を行う。
すると、加速度センサー28が支持バー22の移動速度を計測し、その計測値に基づいて、制御部26が関数「Y=41491X-1.848」によって照射部21から照射する近赤外光の強さを自動的に決定する。支持バー22の移動速度が変動した場合には、即座に照射する近赤外光の強さも変更される。一般に、支持バー22の移動速度が低下した場合は照射する近赤外光を弱くし、逆に、移動速度が上昇した場合は照射する近赤外光を強くする。
最後に、複数の植物体T2に対する近赤外光の照射作業が完了したら、照射部21を消灯する。
【0086】
かかる手持ち式装置2によれば、照射ユニットUの支持バー22の移動速度の変動、つまり照射部21から照射される近赤外光の照射時間の変動に対応して、放射照度を自動制御によって調節できるため、例えば、植物体T2に対して近赤外光の照射処理を行う作業者が、照射作業に不慣れな者等であって、照射時間に気を配ることができないような状況でも、過多照射や過少照射になることなく適量の照射を行うことができ、植物の病害を効果的に防除することができる。
【0087】
[試験例]
[試験1:トマトの葉への近赤外光の照射によるトマト灰色かび病の防除効果(1)]
高さ8cmの小型ポットで育成し、第4葉で摘心した健康なトマト(品種:ハウス桃太郎)の複数の苗から、計243枚の葉を葉柄部で切断して採取し、それぞれシャーレ内の吸水させた脱脂綿上に置き、9枚ずつ「試験区1」~「試験区26」の26の試験区と「対照区」に分けた。
次に、各試験区の各切断葉9枚には、光源(LED)から発せられる中心波長850nmの近赤外光を、切断葉の葉身部の表面において、下記表1に示す各試験区の照射条件(放射照度および照射時間)となるように照射した。その際の放射照度の測定は、放射照度計(デルタオーム社製,DO9721)により行った。また、対照区の切断葉9枚には近赤外光を照射しなかった。
その後、試験区1~26と対照区の全ての切断葉の葉身部の表面に、ポテトデキストロース寒天培地上で増殖させた灰色かび病菌(Botrytis cinerea NBRC9397)の胞子を、筆によって塗布して接種した。接種後、全ての切断葉のシャーレに蓋を被せて、試験区1~26のサンプル各9個と対照区のサンプル9個を作成した。
【0088】
作成した全てのサンプルを、25℃の暗所で3日間保管した後、各サンプルの切断葉の葉身部におけるトマト灰色かび病の発病状態を目視で確認して、下記の「発病の程度」のa~eのいずれかに分類し、下記の「発病度の計算式」によって各試験区における「発病度」を算出した。そして、さらに下記の「防除価の計算式」によって各試験区における「防除価」を算出した。防除価の算出結果は表1に示すとおりである。
【0089】
なお、防除価とは、農薬等の防除資材の防除効果を表す指標であり、一般的に10以上の値を示す場合に防除効果があるとされ、さらに、50以上の値を示す場合には、化学農薬相当の強い防除効果があるとされている。
【0090】
〔発病の程度〕
a.葉身部の表面に病斑が認められない・・発病指数0
b.葉身部の表面の全体における病斑面積率が5%未満・・発病指数1
c.葉身部の表面の全体における病斑面積率が5%以上かつ25%未満・・発病指数2
d.葉身部の表面の全体における病斑面積率が25%以上かつ50%未満・・発病指数3
e.葉身部の表面の全体における病斑面積率が50%以上・・発病指数4
【0091】
〔発病度の計算式〕
発病度=〔Σ(発病の程度別サンプル数×発病指数)÷(サンプル数×4)〕×100
【0092】
〔防除価の計算式〕
防除価=100-(試験区における発病度/対照区における発病度)×100
【0093】
【表1】
【0094】
上記表1の試験区1~26の照射条件を、横軸(X軸)を放射照度(W/m)とし、縦軸(Y軸)を照射時間(秒)とする両対数グラフに配置すると、図1に示すとおりになる。なお、図1の各試験区の照射条件の座標位置に付記した番号は、表1に記載した試験区番号である。
【0095】
防除価が50以上と極めて高い値を示した試験区8~12の照射条件の座標位置は、図1において右下がりの略直線状に並んでいることから、それらの回帰式を最小二乗法で求めたところ、下記の回帰式Bが得られた。回帰式Bを図1の両対数グラフに表したものが回帰直線LBである。
回帰式B:Y=41491X-1.848 (決定係数R=0.9993)
【0096】
図1において、座標位置が回帰直線LBよりも上方にある試験区の照射条件のうち、防除価が10以上で且つ50未満を示したものは、試験区1~7の照射条件である。それらの回帰式を最小二乗法で求めたところ、下記の回帰式Aが得られた。回帰式Aを図1の両対数グラフに表したものが回帰直線LAである。
回帰式A:Y=644893X-1.873 (決定係数R=0.9966)
【0097】
また、図1において、座標位置が回帰直線LBよりも下方にある試験区の照射条件のうち、防除価が10以上で且つ50未満を示したものは、試験区13~16の照射条件である。それらの回帰式を最小二乗法で求めたところ、下記の回帰式Cが得られた。回帰式Cを図1の両対数グラフに表したものが回帰直線LCである。
回帰式C:Y=5901.9X-1.856 (決定係数R=0.9927)
【0098】
以上のとおり、図1において、座標位置が回帰直線LAと回帰直線LCの間にある試験区の照射条件は、全て防除価が10以上であり、トマト灰色かび病の防除効果が認められるといえる。
他方、図1において、座標位置が回帰直線LAよりも上方にある試験区21~26と、座標位置が回帰直線LCよりも下方にある試験区17~20は、いずれも防除価が10未満であり、トマト灰色かび病の防除効果が認められなかった。
【0099】
さらに、一般に、トマト等の植物への近赤外光の照射において、放射照度が1W/m未満の場合には、照射時間を相当に長くしなければ十分なトマト灰色かび病等の病害防除効果が得られない。そのため、トマト等の植物を栽培する圃場などにおいて、放射照度を1W/m未満にして照射処理を行うことは実際的ではない。
また、トマト等の植物への近赤外光の照射時間が0.01秒未満の場合には、放射照度を相当に大きくしなければ十分なトマト灰色かび病等の病害防除効果が得られない。そのため、照射時間を0.01秒未満にして照射処理を行うことは実際的ではない。
【0100】
そうすると、図1において、回帰直線LA、回帰直線LC、X=1およびY=0.01の4本の直線に囲まれた「略台形」の各辺上または内側に座標が存在するような放射照度および照射時間でトマトに対して近赤外光を照射すれば、トマト灰色かび病の防除効果が確実に得られるといえる。
係る条件を式で表すと、下記の式1、式2および式3の全てを満たす場合であり、このようにトマトに対して近赤外光を照射すれば、トマト灰色かび病の防除効果が確実に得られるといえる。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0101】
[試験2:イチゴの葉への近赤外光の照射によるイチゴうどんこ病の防除効果]
イチゴ(品種:さちのか)の健康な新葉10枚を葉柄部で切断して採取し、それぞれシャーレ内の吸水させた脱脂綿上に置き、5枚ずつ「試験区」と「対照区」に分けた。
試験区の切断葉5枚には、光源(LED)から発せられる中心波長850nmの近赤外光を、切断葉の葉身部の表面において14W/mの放射照度となるようにして、300秒間照射した。その際の放射照度の測定は、放射照度計(デルタオーム社製,DO9721)により行った。また、対照区の切断葉5枚には近赤外光を照射しなかった。
その後、試験区と対照区の全ての切断葉の葉身部の表面に、イチゴうどんこ病に感染したイチゴの葉から採取したイチゴうどんこ病菌(Sphaerotheca aphanis)を、筆によって塗布して接種した。接種後、全ての切断葉のシャーレに蓋を被せて、試験区のサンプル5個と対照区のサンプル5個を作成した。
【0102】
作成した全てのサンプルを、23℃の暗所で9日間保管した後、各サンプルの切断葉の葉身部におけるイチゴうどんこ病の発病状態を目視で確認して、下記の「発病の程度」のa~eのいずれかに分類し、下記の「発病度の計算式」によって、試験区サンプルと対照区サンプルの「発病度」を算出した。そして、さらに下記の「防除価の計算式」によって試験区における「防除価」を算出した。
【0103】
〔発病の程度〕
a.葉身部の表面に病斑が認められない・・発病指数0
b.葉身部の表面全体における1/3未満の面積部分に病斑が認められる・・発病指数1
c.葉身部の表面全体における1/3以上で2/3未満の面積部分に病斑が認められる・・発病指数2
d.葉身部の表面全体における2/3以上の面積部分に病斑が認められる・・発病指数3
e.葉身部の表面全体に病斑が認められる・・発病指数4
【0104】
〔発病度の計算式〕
発病度=〔Σ(発病の程度別サンプル数×発病指数)÷(サンプル数×4)〕×100
【0105】
〔防除価の計算式〕
防除価=100-(試験区における発病度/対照区における発病度)×100
【0106】
算出の結果、近赤外光を照射した試験区サンプルの発病度は15であったのに対し、近赤外光を照射しなかった対照区サンプルの発病度は40であった。したがって、試験区における防除価は62.5であり、本発明に基づく近赤外光の照射処理によって、イチゴうどんこ病を有効に防除できることが分かった。
【0107】
上記の試験区の切断葉に対して照射した中心波長850nmの近赤外光の、照射条件である放射照度(14W/m)と照射時間(300秒)を、横軸(X軸)を放射照度(W/m)、縦軸(Y軸)を照射時間(秒)とする両対数グラフに座標「●」として配置すると、図2に示すとおりになる。
【0108】
なお、図2のグラフの略中央部に表された「略台形」の範囲は、回帰直線LA、回帰直線LC、X=1およびY=0.01の4本の直線に囲まれた範囲であり、式で表すと、下記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲である。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0109】
図2に示すとおり、イチゴうどんこ病を有効に防除できる照射条件である座標「●」は、上記「略台形」の内側に配置されている。つまり、上記「略台形」の内側に座標が存在するような放射照度および照射時間でイチゴに対して近赤外光を照射すれば、イチゴうどんこ病の防除効果が得られるといえる。すなわち、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように近赤外光を照射することによって、防除効果が得られるといえる。
【0110】
[試験3:イチゴの苗への近赤外光の照射によるイチゴうどんこ病の防除効果]
高さ8cmの小型ポットで育成した健康なイチゴ(品種:さちのか)の苗20個を、5個ずつ「試験区1」、「試験区2」、「試験区3」および「対照区」に分けた。
次に、試験区1の苗5個には、光源(LED)から発せられる中心波長850nmの近赤外光を、苗の地上部全体の略中心の位置において7W/mの放射照度となるようにして600秒間照射して、試験区1のサンプルを作成した。なお、その際の放射照度の測定は、放射照度計(デルタオーム社製,DO9721)により行った。
試験区2の苗5個には、上記の中心波長850nmの近赤外光を、苗全体の略中心の位置において14W/mの放射照度となるようにして300秒間照射して、試験区2のサンプルを作成した。
試験区3の苗5個には、上記の中心波長850nmの近赤外光を、苗全体の略中心の位置において28W/mの放射照度となるようにして150秒間照射して、試験区3のサンプルを作成した。
また、対照区の苗5個には近赤外光を照射せずに、そのまま対照区のサンプルとした。
【0111】
その後、試験区1~3と対照区の全てのサンプルを、20℃の温室に搬入し、イチゴうどんこ病に感染した苗の周囲に配置して14日間保管した。
次に、保管後の全てのサンプルについて、イチゴうどんこ病の発病状態を目視で確認して、試験区1~3と対照区ごとの感染率を算出した。結果は下記のとおりである。
【0112】
〔感染率〕
試験区1(7W/m・600秒)・・感染率25%
試験区2(14W/m・300秒)・・感染率12.5%
試験区3(28W/m・150秒)・・感染率0%
対照区 (照射せず)・・感染率50%
【0113】
上記の感染率の結果より、本発明に基づく近赤外光の照射処理によって、14日間にわたってイチゴうどんこ病を有効に防除できることが分かった。
【0114】
上記の試験区1~3の苗に対して照射した、中心波長850nmの近赤外光の各照射条件(放射照度と照射時間)を、横軸(X軸)を放射照度(W/m)、縦軸(Y軸)を照射時間(秒)とする両対数グラフに座標「●」として配置すると、図3に示すとおりになる。
【0115】
なお、図3のグラフの略中央部に表された「略台形」の範囲は、図1と同様に、回帰直線LA、回帰直線LC、X=1およびY=0.01の4本の直線に囲まれた範囲であり、式で表すと、下記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲である。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0116】
図3に示すとおり、イチゴうどんこ病を有効に防除できる照射条件である3つの座標「●」は、上記「略台形」の内側に配置されている。つまり、上記「略台形」の内側に座標が存在するような放射照度および照射時間でイチゴに対して近赤外光を照射すれば、イチゴうどんこ病の防除効果が得られるといえる。すなわち、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように近赤外光を照射することによって、防除効果が得られるといえる。
【0117】
[試験4:トマトの苗への近赤外光の照射によるトマトうどんこ病の防除効果]
高さ8cmの小型ポットで育成し、第4葉で摘心した健康なトマト(品種:桃太郎8)の苗15個を、5個ずつ「試験区1」、「試験区2」および「対照区」に分けた。
次に、試験区1と試験区2の計10個の苗には、光源(LED)から発せられる中心波長850nmの近赤外光を、苗の地上部全体の略中心の位置において14W/mの放射照度となるようにして300秒間照射した。なお、その際の放射照度の測定は、放射照度計(デルタオーム社製,DO9721)により行った。また、対照区の苗5個には近赤外光を照射しなかった。
【0118】
そして、対照区の5個の苗の葉の葉身部表面に、トマトうどんこ病に感染したトマトの葉から採取したトマトうどんこ病菌(Oidium属菌)を、筆によって塗布して接種した。また、試験区1および試験区2の苗には、トマトうどんこ病菌を接種しなかった。その後、試験区1および試験区2と対照区の全ての苗15個を、20℃の温室に搬入して保管した。
保管開始後3日目において、試験区1の5個の苗の葉の葉身部表面に、トマトうどんこ病に感染したトマトの葉から採取したトマトうどんこ病菌を、筆によって塗布して接種し、さらに、20℃の温室内で15日間保管した。
また、保管開始後7日目において、試験区2の5個の苗の葉の葉身部表面に、トマトうどんこ病に感染したトマトの葉から採取したトマトうどんこ病菌を、筆によって塗布して接種し、さらに、20℃の温室内で15日間保管した。
対照区の5個の苗については、保管開始からそのままの状態で、20℃の温室内で15日間保管した。
【0119】
次に、保管後の試験区1、試験区2および対照区の計15個の各苗から、葉を1枚ずつ任意に選んで、その葉柄部で切断して、試験区1、試験区2および対照区の各5枚の切断葉のサンプルを得た。
そして、各サンプルの葉身部におけるトマトうどんこ病の発病状態を目視で確認して、下記の「発病の程度」のa~eのいずれかに分類し、下記の「発病度の計算式」によって、試験区1のサンプル、試験区2のサンプルおよび対照区のサンプルについて「発病度」を算出した。そして、さらに下記の「防除価の計算式」によって各試験区における「防除価」を算出した。
【0120】
〔発病の程度〕
a.葉身部の表面に病斑が認められない・・発病指数0
b.葉身部の表面全体における1/3未満の面積部分に病斑が認められる・・発病指数1
c.葉身部の表面全体における1/3以上で2/3未満の面積部分に病斑が認められる・・発病指数2
d.葉身部の表面全体における2/3以上の面積部分に病斑が認められる・・発病指数3
e.葉身部の表面全体に病斑が認められる・・発病指数4
【0121】
〔発病度の計算式〕
発病度=〔Σ(発病の程度別サンプル数×発病指数)÷(サンプル数×4)〕×100
【0122】
〔防除価の計算式〕
防除価=100-(試験区における発病度/対照区における発病度)×100
【0123】
算出の結果、近赤外光の照射後3日目にトマトうどんこ病菌を接種した試験区1のサンプルの発病度は25であった。また、近赤外光の照射後7日目にトマトうどんこ病菌を接種した試験区2のサンプルの発病度は40であった。これらに対し、近赤外光を照射することなくトマトうどんこ病菌を接種した対照区サンプルの発病度は55であった。
したがって、試験区1および2における防除価は、それぞれ54.5および27.3であり、本発明に基づく近赤外光の照射処理によって、照射処理後の少なくとも7日間は、トマトうどんこ病を有効に防除できることが分かった。
【0124】
上記の試験区1および試験区2の切断葉に対して照射した中心波長850nmの近赤外光の、照射条件である放射照度(14W/m)と照射時間(300秒)を、横軸(X軸)を放射照度(W/m)、縦軸(Y軸)を照射時間(秒)とする両対数グラフに座標「●」として配置すると、図4に示すとおりになる。
【0125】
なお、図4のグラフの略中央部に表された「略台形」の範囲は、図1と同様に、回帰直線LA、回帰直線LC、X=1およびY=0.01の4本の直線に囲まれた範囲であり、式で表すと、下記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲である。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0126】
図4に示すとおり、トマトうどんこ病を有効に防除できる照射条件である座標「●」は、上記「略台形」の内側に配置されている。つまり、上記「略台形」の内側に座標が存在するような放射照度および照射時間でトマトに対して近赤外光を照射すれば、トマトうどんこ病の防除効果が得られるといえる。すなわち、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように近赤外光を照射することによって、防除効果が得られるといえる。
【0127】
[試験5:トマトの葉への近赤外光の照射によるトマト灰色かび病の防除効果(2)]
高さ8cmの小型ポットで育成し、第4葉で摘心した健康なトマト(品種:ハウス桃太郎)の複数の苗から、計54枚の葉を葉柄部で切断して採取し、それぞれシャーレ内の吸水させた脱脂綿上に置き、9枚ずつ「試験区1」~「試験区5」の5つの試験区と「対照区」に分けた。
次に、試験区1の切断葉9枚には、光源(LED)から発せられる中心波長850nmの近赤外光を、切断葉の葉身部の表面において14W/mの放射照度となるようにして、10秒間照射した。その際の放射照度の測定は、放射照度計(デルタオーム社製,DO9721)により行った。
試験区2の切断葉9枚には、試験区1と同様の中心波長850nmの近赤外光を、切断葉の葉身部の表面において14W/mの放射照度となるようにして、300秒間照射した。
試験区3の切断葉9枚には、試験区1と同様の中心波長850nmの近赤外光を、切断葉の葉身部の表面において300W/mの放射照度となるようにして、0.1秒間照射した。
試験区4の切断葉9枚には、試験区1と同様の中心波長850nmの近赤外光を、切断葉の葉身部の表面において300W/mの放射照度となるようにして、1秒間照射した。
試験区5の切断葉9枚には、試験区1と同様の中心波長850nmの近赤外光を、切断葉の葉身部の表面において300W/mの放射照度となるようにして、60秒間照射した。
また、対照区の切断葉9枚には近赤外光を照射しなかった。
【0128】
その後、試験区1~5と対照区の全ての切断葉の葉身部の表面に、ポテトデキストロース寒天培地上で増殖させた灰色かび病菌(Botrytis cinerea NBRC9397)の胞子を、筆によって塗布して接種した。接種後、全ての切断葉のシャーレに蓋を被せて、試験区1~5のサンプル各9個と対照区のサンプル9個を作成した。
【0129】
作成した全てのサンプルを、23℃の暗所で3日間保管した後、各サンプルの切断葉の葉身部におけるトマト灰色かび病の発病状態を目視で確認して、下記の「発病の程度」のa~eのいずれかに分類し、下記の「発病度の計算式」によって、各試験区のサンプルと対照区のサンプルの「発病度」を算出した。そして、さらに下記の「防除価の計算式」によって各試験区における「防除価」を算出した。算出の結果は下記の表2に示すとおりである。
【0130】
〔発病の程度〕
a.葉身部の表面に病斑が認められない・・発病指数0
b.葉身部の表面の全体における病斑面積率が5%未満・・発病指数1
c.葉身部の表面の全体における病斑面積率が5%以上かつ25%未満・・発病指数2
d.葉身部の表面の全体における病斑面積率が25%以上かつ50%未満・・発病指数3
e.葉身部の表面の全体における病斑面積率が50%以上・・発病指数4
【0131】
〔発病度の計算式〕
発病度=〔Σ(発病の程度別サンプル数×発病指数)÷(サンプル数×4)〕×100
【0132】
〔防除価の計算式〕
防除価=100-(試験区における発病度/対照区における発病度)×100
【0133】
【表2】
【0134】
表2から、試験区2と4の各サンプルでは、対照区のサンプルと比較して、トマト灰色かび病の発病度が十分に抑制されたことが分かるが、試験区1と3と5の各サンプルでは、発病度が抑制されなかったことが分かる。
【0135】
図5において、発病度が十分に抑制された試験区2と4の各サンプルの照射条件について、病害の防除効果が認められるものとして座標「●」で表して配置し、発病度が抑制されなかった試験区1と3と5の各サンプルの照射条件について、病害の防除効果が認められないものとして座標「○」で表して配置した。
【0136】
なお、図5は、図1と同じく横軸(X軸)を放射照度(W/m)、縦軸(Y軸)を照射時間(秒)とする両対数グラフであり、その略中央部に表された「略台形」の範囲は、図1と同様に、回帰直線LA、回帰直線LC、X=1およびY=0.01の4本の直線に囲まれた範囲であり、式で表すと、下記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲である。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0137】
図5に示すとおり、トマト灰色かび病の防除効果が認められたサンプルの座標「●」は、全て上記「略台形」の内側に配置されており、他方、防除効果が認められなかったサンプルの座標「○」は、全て上記「略台形」の外側に配置されている。つまり、上記「略台形」の内側に座標が存在するような放射照度および照射時間で近赤外光を照射すれば、トマト灰色カビ病の防除効果が得られるといえる。
すなわち、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように近赤外光を照射することによって、防除効果が得られるといえる。
【0138】
[試験6:トマトの苗への近赤外光の照射によるトマト灰色かび病の防除効果]
高さ8cmの小型ポットで育成した健康なトマト(品種:ハウス桃太郎)の苗6個を、3個ずつ「試験区」および「対照区」に分けた。
そして、試験区の3個の苗には、光源(LED)から発せられる中心波長850nmの近赤外光を、苗の地上部全体の略中心の位置において300W/mの放射照度となるようにして1秒間照射した。なお、その際の放射照度の測定は、放射照度計(デルタオーム社製,DO9721)により行った。また、対照区の苗3個には近赤外光を照射しなかった。
次いで、試験区と対照区の全ての苗6個の地上部全体に対して、ポテトデキストロース寒天培地上で増殖させたトマト灰色かび病菌(Botrytis cinerea NBRC9397)の胞子を、その懸濁液を噴霧することにより接種した。接種後、各苗の地上部全体をポリ袋で覆うことにより保湿した状態にして、25℃の温室内で14日間保管した。
【0139】
次に、保管後の試験区と対照区の計6個の各苗から、葉を1枚ずつ任意に選んで、その葉柄部で切断して、試験区の3枚の切断葉のサンプルと、対照区の3枚の切断葉のサンプルを得た。
そして、各サンプルの葉身部におけるトマト灰色かび病の発病状態を目視で確認して、下記の「発病の程度」のa~eのいずれかに分類し、下記の「発病度の計算式」によって、試験区のサンプルおよび対照区のサンプルについて「発病度」を算出した。また、さらに下記の「防除価の計算式によって試験区における「防除価」を算出した。
【0140】
〔発病の程度〕
a.葉身部の表面に病斑が認められない・・発病指数0
b.葉身部の表面全体における1/3未満の面積部分に病斑が認められる・・発病指数1
c.葉身部の表面全体における1/3以上で2/3未満の面積部分に病斑が認められる・・発病指数2
d.葉身部の表面全体における2/3以上の面積部分に病斑が認められる・・発病指数3
e.葉身部の表面全体に病斑が認められる・・発病指数4
【0141】
〔発病度の計算式〕
発病度=〔Σ(発病の程度別サンプル数×発病指数)÷(サンプル数×4)〕×100
【0142】
〔防除価の計算式〕
防除価=100-(試験区における発病度/対照区における発病度)×100
【0143】
算出の結果、近赤外光を照射した試験区サンプルの発病度は42であったのに対し、近赤外光を照射しなかった対照区サンプルの発病度は67であった。したがって、試験区における防除価は37.3であり、本発明に基づく近赤外光の照射処理によって、トマト灰色かび病を有効に防除できることが分かった。
【0144】
上記の試験区の苗に対して照射した中心波長850nmの近赤外光の、照射条件である放射照度(300W/m)と照射時間(1秒)を、横軸(X軸)を放射照度(W/m)、縦軸(Y軸)を照射時間(秒)とする両対数グラフに座標「●」として配置すると、図6に示すとおりになる。
【0145】
なお、図6のグラフの略中央部に表された「略台形」の範囲は、図1と同様に、回帰直線LA、回帰直線LC、X=1およびY=0.01の4本の直線に囲まれた範囲であり、式で表すと、下記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲である。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0146】
図6に示すとおり、トマト灰色かび病を有効に防除できる照射条件である座標「●」は、上記「略台形」の内側に配置されている。つまり、上記「略台形」の内側に座標が存在するような放射照度および照射時間でトマトに対して近赤外光を照射すれば、トマト灰色かび病の防除効果が得られるといえる。すなわち、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように近赤外光を照射することによって、防除効果が得られるといえる。
【0147】
[試験7:トマトの葉への近赤外光の照射によるトマト葉かび病の防除効果]
高さ8cmの小型ポットで育成し、第4葉で摘心した健康なトマト(品種:ハウス桃太郎)の複数の苗から、計24枚の葉を葉柄部で切断して採取し、それぞれシャーレ内の吸水させた脱脂綿上に置き、12枚ずつ「試験区」と「対照区」に分けた。
次に、試験区の切断葉12枚には、光源(LED)から発せられる中心波長850nmの近赤外光を、切断葉の葉身部の表面において300W/mの放射照度となるようにして、1秒間照射した。その際の放射照度の測定は、放射照度計(デルタオーム社製,DO9721)により行った。また、対照区の切断葉12枚には近赤外光を照射しなかった。
【0148】
その後、試験区と対照区の全ての切断葉の葉身部の表面に、ポテトデキストロース寒天培地上で増殖させたトマト葉かび病菌(Fulvia fulva NBRC31254)の胞子を、筆によって塗布して接種した。接種後、全ての切断葉のシャーレに蓋を被せて、試験区のサンプル12個と対照区のサンプル12個を作成した。
【0149】
作成した全てのサンプルを、25℃の暗所で3日間保管した後、各サンプルの切断葉の葉身部におけるトマト葉かび病の発病状態を目視で確認して、下記の「発病の程度」のa~eのいずれかに分類し、下記の「発病度の計算式」によって、試験区のサンプルと対照区のサンプルの「発病度」を算出した。そして、さらに下記の「防除価の計算式」によって試験区における「防除価」を算出した。
【0150】
〔発病の程度〕
a.葉身部の表面に病斑が認められない・・発病指数0
b.葉身部の表面の全体における病斑面積率が5%未満・・発病指数1
c.葉身部の表面の全体における病斑面積率が5%以上かつ25%未満・・発病指数2
d.葉身部の表面の全体における病斑面積率が25%以上かつ50%未満・・発病指数3
e.葉身部の表面の全体における病斑面積率が50%以上・・発病指数4
【0151】
〔発病度の計算式〕
発病度=〔Σ(発病の程度別サンプル数×発病指数)÷(サンプル数×4)〕×100
【0152】
〔防除価の計算式〕
防除価=100-(試験区における発病度/対照区における発病度)×100
【0153】
算出の結果、近赤外光を照射した試験区サンプルの発病度は42であったのに対し、近赤外光を照射しなかった対照区サンプルの発病度は77であった。したがって、試験区における防除価は45.5であり、本発明に基づく近赤外光の照射処理によって、トマト葉かび病を有効に防除できることが分かった。
【0154】
上記の試験区の切断葉に対して照射した中心波長850nmの近赤外光の、照射条件である放射照度(300W/m)と照射時間(1秒)を、横軸(X軸)を放射照度(W/m)、縦軸(Y軸)を照射時間(秒)とする両対数グラフに座標「●」として配置すると、図7に示すとおりになる。
【0155】
なお、図7のグラフの略中央部に表された「略台形」の範囲は、図1と同様に、回帰直線LA、回帰直線LC、X=1およびY=0.01の4本の直線に囲まれた範囲であり、式で表すと、下記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲である。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0156】
図7に示すとおり、トマト葉かび病を有効に防除できる照射条件である座標「●」は、上記「略台形」の内側に配置されている。つまり、上記「略台形」の内側に座標が存在するような放射照度および照射時間でトマトに対して近赤外光を照射すれば、トマト葉かび病の防除効果が得られるといえる。すなわち、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように近赤外光を照射することによって、防除効果が得られるといえる。
【0157】
[試験8:キュウリの苗への近赤外光の照射によるキュウリべと病の防除効果]
高さ8cmの小型ポットで育成した健康なキュウリ(白イボ系キュウリ)の苗20個を、5個ずつ「試験区1」、「試験区2」、「試験区3」および「対照区」に分けた。
次に、試験区1の苗5個には、光源(LED)から発せられる中心波長850nmの近赤外光を、苗の地上部全体の略中心の位置において14W/mの放射照度となるようにして300秒間照射した。なお、その際の放射照度の測定は、放射照度計(デルタオーム社製,DO9721)により行った。
試験区2の苗5個には、上記の中心波長850nmの近赤外光を、苗全体の略中心の位置において100W/mの放射照度となるようにして10秒間照射した。
試験区3の苗5個には、上記の中心波長850nmの近赤外光を、苗全体の略中心の位置において300W/mの放射照度となるようにして1秒間照射した。
また、対照区の苗5個には近赤外光を照射しなかった。
【0158】
次いで、試験区1~3と対照区の全ての苗20個の葉の葉身部表面に、キュウリべと病に感染したキュウリの葉から採取したキュウリべと病菌(Pseudoperonospora cubensis)を筆によって塗布して接種し、その後、25℃の温室内で10日間保管した。
【0159】
次に、保管後の試験区1~3、および対照区の計20個の各苗の、下から3枚目の葉を、その葉柄部で切断して、試験区1~3および対照区の各5枚の切断葉のサンプルを得た。
そして、各サンプルの葉身部におけるキュウリべと病の発病状態を目視で確認して、下記の「発病の程度」のa~eのいずれかに分類し、下記の「発病度の計算式」によって、試験区1~3の各サンプル、および対照区のサンプルについて「発病度」を算出した。また、さらに下記の「防除価の計算式」によって、試験区1~3における「防除価」を算出した。
【0160】
〔発病の程度〕
a.葉身部の表面に病斑が認められない・・発病指数0
b.葉身部の表面の全体における病斑面積率が5%未満・・発病指数1
c.葉身部の表面の全体における病斑面積率が5%以上かつ25%未満・・発病指数2
d.葉身部の表面の全体における病斑面積率が25%以上かつ50%未満・・発病指数3
e.葉身部の表面の全体における病斑面積率が50%以上・・発病指数4
【0161】
〔発病度の計算式〕
発病度=〔Σ(発病の程度別サンプル数×発病指数)÷(サンプル数×4)〕×100
【0162】
〔防除価の計算式〕
防除価=100-(試験区における発病度/対照区における発病度)×100
【0163】
算出の結果、試験区1のサンプル(放射照度14W/m、照射時間300秒)の発病度は45、試験区2のサンプル(放射照度100W/m、照射時間10秒)の発病度は40、試験区3のサンプル(放射照度300W/m、照射時間1秒)の発病度は40であった。これらに対し、対照区のサンプル(無照射)の発病度は85であった。
したがって、試験区1~3における防除価は、それぞれ45、40、40であり、本発明に基づく近赤外光の照射処理によって、キュウリべと病を有効に防除できることが分かった。
【0164】
上記の試験区1~3の苗に対して照射した、中心波長850nmの近赤外光の各照射条件(放射照度と照射時間)を、横軸(X軸)を放射照度(W/m)、縦軸(Y軸)を照射時間(秒)とする両対数グラフに座標「●」として配置すると、図8に示すとおりになる。
【0165】
なお、図8のグラフの略中央部に表された「略台形」の範囲は、図1と同様に、回帰直線LA、回帰直線LC、X=1およびY=0.01の4本の直線に囲まれた範囲であり、式で表すと、下記の式1,式2および式3の全てを満たす範囲である。
式1:644893X-1.873≧Y≧5901.9X-1.856
式2:X≧1
式3:Y≧0.01
【0166】
図8に示すとおり、キュウリべと病を有効に防除できる照射条件である3つの座標「●」は、上記「略台形」の内側に配置されている。つまり、上記「略台形」の内側に座標が存在するような放射照度および照射時間でキュウリに対して近赤外光を照射すれば、キュウリべと病の防除効果が得られるといえる。すなわち、上記の式1,式2および式3の全てを満たすように近赤外光を照射することによって、防除効果が得られるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明の植物の病害防除方法および病害防除装置によれば、農薬を使用せずに植物の病害を防除できるため、農業分野において広範に利用できるものである。
【符号の説明】
【0168】
LA,LB,LC ・・回帰直線
1・・ 手押し車式装置
11・・ 照射部
12・・ 支持ボード
13・・ 基台
14・・ 制御部
15・・ 電源部
16・・ ハンドル
17・・ 車輪
18・・ 車速センサー
19・・ 車軸
2・・ 手持ち式装置
21・・ 照射部
22・・ 支持バー
23・・ 把持部
24・・ 筐体
25・・ コード
26・・ 制御部
27・・ 電源部
28・・ 加速度センサー
29・・ 取手
U・・ 照射ユニット
T1,T2・・ 植物体(トマト)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11